ある日の夜、電話が鳴った。遅い時間帯だったので、「仕事か?」と思ってドキッとした。(夜に電話が鳴ると、色んな意味でドキッとする。電話だけならまだしも、現場出動になると気分はブルー。)電話のディスプレーには友人の名前が見え、ホッとして電話にでた。電話の主は学生時代の友人だった。某大手企業勤務であることと、そこでの肩書が彼の自慢。仕事関係の飲みから帰宅したばかりらしく、酔っているようだった。私も酒は好む。ただ、仕事として飲むのはかなり苦手。幸い、この仕事では、仕事上で酒を飲む機会は少ない。特掃に「接待」なんてあり得ない。当たり前のことだが、接待することもなければ接待を受けることもない。死体を接待?死体から接待される?→ジョークにもならないね。そんな私に比べて、友人を含めた一般のビジネスマンは楽じゃなさそう。自...歯車
つい先日、特掃用に履いていた靴を捨てた。9月10日のブログに登場させたアノ靴だ。なかなか捨てることができなかった靴を、やっと捨てたわけだ。ブログに登場させたアノ時点でも既に末期状態だったんだけど、あれから二ヶ月余も健闘してくれた・・・て言うか、強引に履き続けた。思えば、約半年の付き合いだった。「半年」と言っても、夏場の半年と冬場の半年では、その中身は全然違う。夏場の半年は、ハンパな汚れ方では済まない。この半年の間、この靴は何十人もの人間の腐敗液と、何百(千?万?)匹ものウジを踏んできた。汚れは靴底には限らない。上にも側にも、何十人もの腐敗液がタップリ浸み込んでいる。そんなことを考えると、「我ながら、よくもまぁ・・・」という気分になって苦笑した。靴に情みたいなものが芽生えてきて、何となく神妙な気持ちになった...さらば
時々、思うことがある。生きていることの不思議さ。生きていることの意味。自分とは何か。私が、「生は夢幻」「人生は夢幻の想い出」だと捉らえていることは、たまにブログでも取り上げている。ただ、私の中でもこれは一側面でしかない。あくまで私の中だけの話だが、矛盾しないかたちで違う捕らえ方もしている。モヤモヤして収拾がつかない話になりそうなので、今回は取り上げない。人間(死体)は、放っておくと腐り溶けていくことは過去ブログの通り。自然現象とは言え、そのグロテスクさは凄まじい。私は、そのイメージだけで「溶ける」と表記しているが、正しくは「解ける」か?、はたまた「熔ける」か?・・・流行りの平仮名表記で「とける」がマッチするのか、ちょっと迷うところだ。でも、間違っても「とろける」って書かないように気をつけなきゃね。現場はマ...愛の痕
「故郷」は、人によって違う。物理的に異なるのは当然として、その定義(概念)も違うのではないだろうか。生まれた所、育った所、長く暮らした所etc。場所に限らず、人や想い出が故郷になるこもあるだろう。特掃の依頼が入った。故人は老人(男性)、依頼者はその姉。現場は老朽一戸建。平屋・狭小、プレハブ造りの粗末な家だった。腐乱場所はその台所、板の間。古びた室内は、かなり汚れてホコリっぽかった。その中央に腐敗痕が残っていた。死後、かなりの時間が経っているらしく、腐敗粘土は乾き気味だった。依頼者の話によると、現場の周辺は故人・依頼者達にとって故郷らしかった。幼少期を家族で楽しく過ごした場所。戦火が激しくなった頃、田舎に疎開し、終戦を迎えて戻って来たら一面が焼野原になっていた。それで、一家は仕方なく外の地に移り住んだとのこ...故郷
別れの言葉、故人(遺体)に声をかける遺族は多い。それぞれの人がそれぞれの気持ちで言葉を発する。生前は照れ臭くて言えなかった言葉もあるだろう。嘘に対する真実の告白もあるだろう。それがどんな言葉でも、最期の場面においてはその真実性・純粋性が澄んでいると感じる。経験上の独断だが、遺族が遺体に掛ける言葉で多いと思われるものを挙げてみる。「お疲れ様」「ごめんね」「さようなら」「天国に行ってね」「ありがとう」etc先に死んでいった人への想いは、これらの言葉に凝縮されているものと思う。そして、これらの言葉の中でも、「ありがとう」が断トツで多いように思う。「ありがとう」人によって、この言葉が意味するところに若干の温度差があるかもしれないが、とりあえずは感謝の気持ちがベースのはず。故人に対しては最終的には感謝の気持ちが残る...ありがとう
特掃現場では、死体の頭髪が残っていることはザラにある。と言うより、大量の毛髪が残っている現場の方が、そうでない現場より多いと思う。骨や歯は警察がきれいに回収していくが、毛髪にまではいちいち手が回らないのだろう。腐敗液の中にポツンと残された毛髪には、不気味なものを感じる。首吊自殺によくある、座位のまま腐乱していったケースでは、頭皮・毛髪が床ではなく壁にくっついていることも珍しくない。腐敗液が乾いていく段階で、接着剤みたいに作用するのだ。なかなか想像し難いかもしれないが、この光景はかなり不気味。想像しやすいように、具体的に説明すると、壁にベッタリと部分カツラがくっついているようなもの。そして、当然のごとくその下は凄惨な状態。赤茶黒の腐敗液・腐敗脂・腐敗粘土が広がっている。ある現場。故人は和室、畳の上で腐乱して...ヅラ?ツラい!
私は、オニギリをよく食べる。「好物」と言う訳ではないのだが、その手軽さや携行の利便性から重宝している。緊急性を要さない特掃のときは、一日の作業開始時刻は10:00~11:00頃。身体には汚れや悪臭が着くので、昼食休憩をとらないで作業を進めることが多い。だから、昼食が夕方近くになることも日常茶飯事。そんな時にオニギリはいい。作業前の腹ごしらえに、作業途中のおやつ代わりに、作業後の食事に、車の中でいつでも食べられる。カレーライスは、幼少の頃からの好物。「大好物」と言うほどではないのだか、たまに食べる。カレーって、いくら安物でもどこで食べても、それなりに美味しい。まずいカレーって、当たったことがない(ふざけ半分の激辛カレーは例外)。いい食べ物だ。食べ物を表題にするときは、ロクな話じゃなくて恐縮だ。・・・と思いな...カレーライス
20代前半の頃、私が精神科に通っていたことは以前にも書いた。そして、死体業を始めて間もなく、通院をやめたことも。もともとの私は、神経質なマイナス思考者。不安神経症的な性格でもある。ある局面において、人は二つのタイプに分かれるらしい。何かの障害に遭遇したとき、「克服できない理由ばかりを並べ立てる人」と「克服できる術だけを考える人」に。後者のタイプに憧れ続けているけど、私は明らかに前者のタイプ。強い自分に、ポジティブな自分になりたいのに、現実にはいつまでも弱い自分がいて、自分で自分が嫌になることも多い。正直言うと、今でも生きることが虚しくなったり、疲れることがある。何もかもがやたらと虚しく思えたり、生きることは疲れることばかりのように思えたりすることがあるのだ。夜の就寝中、「このまま朝が来なきゃいいのに・・・...ドボン!
そもそもこのブログは、管理人に促されて書き始めたものであり、自発的に始めたものではなかった。そして、もともとインターネット関係のことはかなり疎い私なので、書き始める前は「ブログって何?」って言うレベルで、興味もなかった。そのレベルは、今でもほとんど変わりない。したがって、私はインターネットを直接的に利用することもほとんどない。たまに開くのも、余程の調べ物がある時くらいだ。そんな私は、当然、ネットサーフィンなんてやったこともないし、その面白さも知らない。インターネットって、使いこなすと便利で面白いものなのだろうが、一度ハマってしまうとそれに費やす時間の収拾がつかなそうだ。だから、私は深入りしないでいる。ちなみに、私はテレビもほとんど見ない。だから、流行りのテレビ番組やCM、売れてるタレントもほとんど知らない...愚か者
季節は初冬、現場は老朽一戸建。閑静な住宅街に、その家だけが異様な雰囲気を醸し出してした。「近所付き合いなし!」「発見が遅れてもやむなし!」と、家が語っていた。腐乱場所は奥の洋間。死亡推定日が間違いじゃないかと思うくらいに酷い状況だった。「真夏ならいざ知らず、この季節でこの汚染とは・・・」私は、ガッカリしながら作業手順を頭の中で組み立てた。本来なら、汚染部を先に片付けたいところだったが、家財(ゴミ)が多すぎてそれができなかった。猛烈な悪臭に閉口しながら、まずは家財を梱包して搬出。私がいつも使っているマスクは、安物の簡易マスク。防臭より防塵優先。悪臭は、余裕でマスクを通り抜け、鼻から肺に入ってくる。ん!?ちょっと待てよ。これを書いていて気付いたが、ひょっとすると、大量の腐敗臭を吸ってきている私の肺は、腐敗臭に...深刻な深呼吸
腐乱死体現場には色々な生き物がいる。ウジ・ハエはもちろん、ゴキブリ・蚊・ダニ・謎の虫、そして私。この括り方でいうと、「俺って一体・・・」と思ってしまう。ここで取り上げるのはネズミ。特掃に入る家には、たくさんのネズミがいることも珍しくない。押入の衣類等を片付けていると、その中からポトポトと子ネズミが落ちてくることがある。ネズミ達の安住地をいきなり奪うのは申し訳ないような気もするが、こっちも仕事なんで仕方がない。行き場を失った子ネズミは、とりあえず物陰に隠れようとする。子ネズミって、丸くて小さくて可愛いいもんだ。そんなのが、小刻みに震えたりなんかしていると、不憫に思えて大きな同情心がでてくる。仕事を忘れて、代わりの住家を造ってやりたくなる。捕まえて始末することは容易なこと。しかし、そうしようと思ったことはない...感情の味
人間であるかぎり、気分・感情に波があるのは自然なことだろう、ただ、私においては、その波の高低差が激しいのが難点。特に、30歳を過ぎてからは、全体的に低い位置で上下している。歳のせいかメンタルな問題か分からないが、若い頃に比べて、気分がスカーッと晴れることが少ない。そうは言いながらも、特掃業務においては、年々パワーが上がっている。特掃業務に対しては、体力は落ちても、精神力は上がっているのだ。単に、経験を重ねているがゆえの「慣れ」かもしれないけど、我ながら、「たくましくなったなぁ」と思うことが増えてきた。そんな今では、どんな現場でも臆することなくズカズカと入り込む。そして、「こりゃヒドイ!」等と、時には無神経な言葉を吐いてしまう。そんな私でも、特掃を始めた頃はいつもビビりながら現場に入っていたものだ。あまりの...ビッグウェーブ
人は誰しも好奇心を持っていると思う。特に理由もないのに「知りたい」と思う気持ちだ。それは、有意義に働くこともあれば無意味な行動をとらせることもある。その両者は五分五分ではない。自分の経験で言うと、残念ながらそのほとんどは無意味な方に働いている。自分にとって関わりのない知識や、自分に影響を及ぼさない(自分が影響を及ぼせない)情報を得るために、いかに多くの時間を費やし、多くの手間をかけているか。好奇心を持ち見識を広げることは大事だが、無闇やたらの好奇心や度を越した好奇心は、時間(人生)を無駄にするだけではないかと、自分の中で危機感を持っている。有名人のゴシップを笑うヒマがあったら、自分を省みた方がいい。大企業の株価を気にするヒマがあったら、秋刀魚の値段でも観察した方がいい。政府の政策を憂うくらいなら、自分がで...野次馬
11月に入り、随分と秋も深まってきた。春夏秋冬、それぞれの季節にそれぞれの趣があって楽しいものだ。秋は、食欲の秋・行楽の秋・芸術の秋、そして感傷の秋でもある。私にとっては疲れがドッときている秋だ。疲れの原因は色々あるが、歳のせいでもあり、ブログを書いているせいでもある。猛烈に戦った熱い夏が終わり、心身ともに一段落がついた。例年は、多少の感傷に苦悶しつつも、疲れた身体と心を休ませながら落ち着きを取り戻す時季なのだが、今年の秋は違う。多くの「死ぬのはやめた」コメントの陰に隠れるように、相変わらず「死にたい」コメントが少なからず入ってくる。そんなコメントに私の気持ちがつまづくようになってきたのである。「俺は人の生死を軽々しく扱い過ぎ?」「自殺願望者を放っておくことは、人殺し・殺人と大差ない?」こんなことを考え始...男心と秋の空
現場に行ってから、「こんなのありかよぉ」と思うことは多い。床を埋め尽くすウジの集団、壁を黒く染めるハエの大群、飛び散る血、正体不明の肉塊etc。私が現場に到着するのは、腐乱死体の本体は警察が回収した遺体の後。死体本体が残っていることは稀である。まぁ、「死体本体」と言っても、その溶け具合いによって、指すモノが変わってくるのだが。溶けた人間が相手じゃ、何が「死体本体」なのか不明確だ。とりあえずは、骨は本体にあたる。では、「死体本体」に含まれないものは?お馴染みの、腐敗液・腐敗粘土・毛髪などの小物(?)がそう。現場によっては、残された汚物から遺体があった状況がリアルに想像できるところがある。手足や頭があった位置がハッキリ分かると、結構不気味なものである。人間の痕を残す汚物が、私の想像力をバーチャルな世界に引き込...リアル
故人は老いた男性。遺族とは遺体処置の業務で、一時間余り時間を共にした。私が尋ねた訳でもないのに、遺族は息つく間もなく私に話し掛けてきた。話の中身は故人の自慢話。どうも、故人はそれなりの社会的地位だったらしい。それが遺族にとっては自慢に思えて仕方がないようだった。家柄・学歴から始まり、勤めていた企業、そこでの肩書、やってきた仕事などを誇らしげに喋っていた。まるで、「故人は、この社会になくてはならない価値ある人」と言わんばかりの勢いだった。ただ、私には、生前の故人を偲び、讃えて(労って)いるようには聞こえず、ただ優越感を楽しんでいるようにしか思えなかった。だから、私には耳触りのいい話ではなかった。私は、特に反応することもなく黙って聞き流していた。しかし、遺族はそんな冷淡な態度に不満を覚えたのか、どんどんと自慢...人間の価値
当たり前の話だが、人間は、一人一人が違う。身体の造り(外見)はもちろん、内面まで含めるとその違いは明らかだ。そして、異質の者同士が寄り集まって、この社会やコミュニティーを形成している。金銭的な利害関係の集まりだったり、趣味思考が同種の集団だったり、血のつながりだったり、その形成要因は様々だ。世の中には、ホントに色んな人がいて色んな集団がある。私のような珍者もいれば、特掃隊みたいな珍集団もある。人の多種多様性は面白い。そんな世の中だから、合う人・合わない人、好きな人・嫌いな人がいても仕方がない。個性と個性の融合やぶつかり合いがある。そんな人間関係にもまれながら、人は成長するのだろうか。ま、個性を持っていられるのも形がある死体まで。腐乱死体になってしまえば、個性はなくなる。そして、「腐乱死体」というカテゴリー...うんこのにおい
この仕事をやっていると、「大変な仕事ですね」と言われることが多い。その言葉が意味するところは、労い・励まし・感謝であり、嫌悪・蔑み・同情である。同じセリフでも、声のトーン・顔の表情から、その人が何を思ってそんなセリフを発するのかが、だいたい分かる。今更、奇異の目で見られたところで気にするまでもないが、時々、「俺って、しょうがないヤツだなぁ」と思うことがある。ある日の夕方、マンションの一室に出向いた。依頼者はマンションのオーナー。現場マンションの駐車場で待ち合わせすることになっていたのだが、約束の時間になってもなかなか現れなかった。時間を持て余した私は、現場の部屋の前に行き、玄関ドアの隙間から腐敗臭を嗅いだりしながら待っていた。(※腐敗臭フェチではないので、くれぐれも誤解のないように。中の状況を想定するため...笑いのツボ
旅行って、いいもんだ。脱日常、いい気分転換になる。ここ数年は旅行らしい旅行に行っていない私。行きたいんだけれど、お金と時間の都合がなかなかつかない。毎日飲む酒の量を減らせば、塵積で旅費くらいは貯められそうだが、なんだかんだと酒はやめられない!所詮は、安酒ばかり飲んでるに過ぎないのだか。自分ではアル中ではないと思っていても、とっくにアル中になっているのかもしれないね。私が美味しいウニ丼を食べたがっていたことは、以前のブログに書いた。それは実現したのでいいとして、他にも同様のことがある。温泉!それも広い露天風呂!海に接していれば尚Good!贅沢言うなら冬で雪が積もっていたら最高だ。熱い湯に雪を入れて温度調節したり、熱くなった身体で雪の中にダイブしたり・・・TVの見過ぎの感もあるが、そんな風呂に入ることにずっと...旅路の果て
「しょうがない!やるしかない!」私はまず、道具を揃えることを考えた。代用できる物は、だいたいどこの家にもある。男性の許可をもらって、あちこちを物色した。そして、手袋・マスク以外は、台所・風呂・洗面所にある一般の生活用品を使わせてもらうことにした。一通りの代替道具を揃えてから、私は腐敗液の除去に取り掛かった。男性は、部屋を出たり入ったりして落ち着かない様子だった。手始めに固形物の除去。頭皮付の毛髪(毛髪付の頭皮?)を持ち上げた。長い髪の毛に腐敗液がベットリの光っており、それが手に絡んでくる様が髪が生きているようで不気味だった。多少のウジはいたものの、無視できるレベルだった。次に、腐敗液を拭き取る作業。厚い部分や乾いた部分は、「拭く」と言うより「削る」と言った方が適切。私は、床にしゃがみこんで、ひたすら腐敗液...汗と涙(後編)
夜の出動は身体にこたえる。特に、家でくつろいでいる時に出動要請が入ってくると、かなり気落ちする。その重さは想像してもらえると思う。普通の仕事でもかなり面倒だろうに、私の場合は行き先にあるものがアレだからなおさらだ。そんなある日、一本の電話が入った。ぶっきらぼうな男性が一方的に特掃を指示してきた。ハイテンションで私の言うことを最後まで聞かない男性は、なんだか怒っているようでもあった。私の質問にも最後まで答えず、とにかく一方的に、命令口調に近い話し方だった。私としては、見ず知らずの男性に横柄な態度をとられる筋合いはない。見積りだけだったら翌日にしてもらおうかと交渉したが、男性は聞く耳を持たず「とにかく、今すぐ来い!」と言わんばかりの勢いだった。寛容さがない私は、男性の無礼な態度に不満を覚え、見積依頼を断ってし...汗と涙(前編)
「顔は見れないのですか?」「ご覧になりたいですか?」「ええ、できたら・・・」「個人的には、あまりお勧めできませんが・・・」「状態がよくないと言うことですか?」「ええ、私の臭いでお分かりになりませんか?」「確かに・・・」「ただ、私が責任を持てるものでもありませんので、ご家族で決めて下さい」「どうしようかなぁ・・・」すると、親戚らしき中年女性が口を挟んできた。「最期のお別れなんだから、顔ぐらい見ておきなさいよ!私も一緒に見てあげるから!」躊躇う娘を無視して、その中年女性は、私に柩の蓋を取るように指示してきた。「本当に開けてよろしいんですね?」と、私は念を押した。「構いませんから、早く遺体を見せて下さいよ!」と、中年女性は不機嫌そうに返事。「では、早速!」と、私は事務的にテープを剥がし一気に柩の蓋を取った。する...まりも(後編)
「緑の怪物」は、沼から引き上げられたものだった。事故なのか自殺なのか、私には関係ないので尋ねたりはしなかった。どちらにしろ、遺族も立ち会っていなかったし、ここまで腐ってしまっていては死因なんて関係なかった。その沼は、普段は子供達大人達が釣りや水遊びを楽しんでいるような所。まさか、そんな沼にドザエモンが浮いているなんて誰も思っていなかっただろう。魚を釣り上げて喜んでいる人もいる訳で・・・そんな魚を食べている人もいるかも?私は、手や腕をベタベタに汚しながら、何とか遺体を防水シーツに包んだ。それから、納体袋に入れようとしたのだが、これが重くて持ち上がらない。もう1~2名の男手が必要だった。助っ人の男性は、更なる助っ人を呼びに出て行った。遺体と二人きりになった私は、「なんで沼なんかで死ぬかなぁ・・・」とボヤいた。...まりも(中編)
「毬藻」を知っているだろうか。子供の頃、私の家には毬藻がいた。祖父が買ってきたものらしかった。小さな容器の水の中、いつまでもジッとしている緑の球体が不思議に思えた。実際にも摩訶不思議な生物らしい。「毬藻」は知っていても、「毬藻人間」を知っている人はいないだろう。私は、不本意にも毬藻人間と遭遇してしまったことがある(本件に限らず何度も)。ある日の午後、遺体搬送の依頼が入った。遺体搬送業務の制服はスーツなので、私はスーツに着替えて出発した。到着した現場は、警察の霊安室。何人かの人が入口の前で右往左往しており、中には誰も入れない様子。どことなく、ザワついた雰囲気だった。「ヒドイよー!」「クサイよー!」と嫌悪する誰かの声が聞こえた。正直言うと、私も中に入るのはかなりの抵抗があったのだが、仕事の責任があるので仕方な...まりも(前編)
小さい頃の私は、モノが捨てられない子供だった。何を見ても、いつか必要な時が来るような気がしていた。そんな訳だから、私の机の引き出しや収納箱には不要な物がたくさん納まっていた。何事にも「もったいない精神」は大事だと思うが、度が過ぎると問題がでる。ある腐乱死体現場。年配の女性が依頼者で、依頼者と共に現場に入った。「かなり臭いですよ」と、申し訳なさそうに言いながら、女性は玄関ドアを開けた。そして、あちこちの窓を急いで開けて回った。少しでも悪臭を緩和させようと、私に気を使ってくれたみたいだった。「大丈夫ですよ、慣れてますから」と、言いながら私は汚染部屋に入った。汚染は、ベッドだけに見えた。やはり、他の部屋に増して濃い腐乱臭がこもり、ハエが飛んでウジが這っていた。「ヒドイでしょ?」「スイマセンねぇ」と、女性は私に優...もったいない
ある日、女性の声で電話が入った。タドタドしい喋り方と、的を射ない内容に、始めは間違い電話?イタズラ電話?と思ってしまった。しかし、話を聞いているうちに、この電話が間違いでもイタズラでもないことが分かった。話の内容はこうだった。「自分はかなりの高齢者」「自宅で独り暮しをしている」「難病にかかり、歩行も困難」「週一回、ホームヘルパーが来る」「子供はいるが、離れて暮らしている」「死期が近いものと覚悟している」「愛着のある、この家で死にたい」「孤独死したときのために備えておきたい」私は話の内容を聞いて、この女性が独り暮しを続けていることが信じらなかった。ただ、家と家族への愛着が並大抵ではないということが、すぐに理解できた。私が言うまでもなく、女性は遺言を残しており、残された人が困らないような配慮をしていた。残され...勇気
私は、仏壇の中身を丁寧に取り出しては、遺族に手渡していった。布の隙間から見えてきたものは、仏像ではなく何やら妙なモノだった。布の上から見える形は、完全に仏像。なのに、実際に見える一部は、木でも金属でもなさそう。妙な勘が働いた私は、モノが遺族から見えない死角に移動し、布を開けてみた。でてきたモノを見て、驚+笑。モノの正体はバイブ、いわゆる大人のオモチャの一種(経験不足のため、私は正式名称を知らない)。若い頃、エロ本の裏表紙とかに載っていたのは何度か(何度も?)見たことはあったが、実物を見たのは初めてだった。しかも、手に取って。私にとってはかなり珍しいモノで、ちょっと新鮮な気分だった。「結構、デカいな」「このかたちはイケてる」「意外に重いモノなんだなぁ」「この質感はヤバイそう!」「スイッチはどこだ?」「どうい...女心Ⅱ(後編)~独居女の悲哀~
統計によると、自殺者数の性別比は、だいたい男7:女3らしい。私の経験からもそれは実証されている。また、孤独死の数も男性の方が多いと思う。自殺をする人間を一概に「弱い」とするのは軽率かとも思うが、生きることの本質においては男性より女性の方が強いのだろう。平均寿命が男性より女性の方が長いこともしかり。ちなみに、街で見かける浮浪者は、圧倒的に男性が多いことにも何か共通するものがあるような気がする。中年の女性が孤独死した。離婚経験のある故人は、子供もいなかったらしかった。「オシャレな人だった」「上品な人だった」遺族の言葉通り、部屋はきれいに整理整頓されており、インテリアもオシャレにコーディネイトされていた。ただ、どんなにオシャレできれいな部屋でも、腐乱死体がだいなしにしてしまう。腐乱の程度は酷かったが、汚染状態は...女心Ⅱ(前編)~独居女の悲哀~
30代の男性。軽自動車で出勤途中だった故人は、生きて帰宅することはなかった。残された妻子の悲しみは、いかばかりか・・・。警察の霊安室。納体袋を開けると、プ~ンと血生臭い臭気があがってきた。そして、目に飛び込んできた遺体を見て、私は絶句した。遺体は損傷が激しく、死後処置をどうこうできるレベルではなかった。腕や脚は不自然な向きに曲がり、何本かの指も引きちぎれていた。胴体は押し潰され、大きく口を開けた各所のキズから得体のしれない何かがハミ出ていた。頭も潰れ、顔も既に人間ではなくなっていた。飛び出した眼球に寒気を覚えた。言葉は悪いが、ミンチ状態。「血だらけ」と言うか「肉だらけ」と言うか、それは酷い有様だった。「せめて、顔だけでも見えるようにできないか」そう思って納体袋を開けた私だったが、手の施しようもなく黙って再...一期一会
子供の頃、私の回りには多くの変身ヒーローがいた。ウルトラマン・仮面ライダー・ゴレンジャー・キカイダーetcちょっとマイナーな者を含めると、もっとある。ちなみに、私はそっち系のマニアではない。彼等は、何故か窮地に陥るまでは変身しないで戦う。そして、やっと変身したかと思うと、いきなりパワーアップ。必殺技を繰り出して大逆転。悪者を倒して一件落着。毎回、「もっと早く変身すればいいのに」と思いながらも、お決まりのストーリーにのめり込む幼い私だった。その他にも変身が得意(好き)な人達がいる。「女性」だ。女性は、持ち物や服装等によって見事に変身する。その最たるものは化粧だろう。全ての女性に当てはまる訳ではないだろうが、before.afterでは、とても同一人物とは思えないくらいの変身を遂げる人がいる。自分の顔に化粧を...変身
遺体処置と遺品処理の作業で、ある家に訪問した。亡くなったのは高齢の女性。行年は、平均寿命を越えていた。安らかな表情、身体は小さくとても痩せていた。遺族は、故人の着衣を着替えさせてほしいと要望してきた。ちょっとしたコツはいるが、作業的には簡単なもの。だだ・・・私は、死んでいようが高齢だろうが女性は女性として尊重する主義。故人の羞恥心に配慮したい旨を伝えた上で、遺族の指示を仰いだ。遺族は私の気持ちを理解してくれたものの、困った表情を見せた。そして、「これが着せ替えてほしい着物なんですけど」と言って、古ぼけた箱を私に手渡した。それを受け取った私は、神妙な気持ちになった。箱の蓋に「死んだら着せて下さい」と書いたメモが貼ってあったのだ。何かのチラシの裏に書かれた文字は、生前の故人が書いたものだった。女性の気丈さに感...遺志
「デストロイヤー」と聞いて何を思い浮かべるだろう。私は、プロレスラー。白いマスクをした謎の覆面レスラーだった。・・・もう30年も前、懐かしい昔のことだ。世の中には、今でも色々なデストロイヤーがいる。特掃の依頼が入った。現場はマンションのベランダ。ベランダと言うより、ルーフバルコニーと言った感じの、広めのスペースだった。そこには、大量の血痕が広がっており、茶色く乾いていた。屋上から人が転落してきたらしい。血痕の広さから、転落した本人は死んだものと思ったが、重傷は負ったものの一命は取り留めていた。自殺を図って屋上から飛び降りたのだが、高幸か不幸か、その家のベランダに引っ掛かったらしい。驚いたのは家の人(依頼者一家)。ベランダから大きな衝撃音が聞こえたかと思ったら、人間が倒れていた・・・しかも、周囲は血まみれで...デストロイヤー
我々は多くの糧を得て命を保っている。そして、糧を失った時に、または失いそうになった時に不安に襲われ、落ち込む。糧には色んなものがある。何も、お金や食べ物だけではない。人と人との繋がりや関わり、人間関係も大事な糧の一つ。あと・・・夢や希望もね。「人間は社会的動物」と言われるように、人は一人では生きていけないのだろう。生まれた時から回りに人がいる私は、厳密に一人きりになったことがない。ま、この社会にいる限りは一人きりになるなんて不可能だろう。しかし、妙な孤独感に苛まれている人や、「自分は孤独だ」と思っている人は多いのではないだろうか。以前にも書いたように、私は死体業に就く前の半年間を実家の一室に引きこもって過ごした。半年という時間は、引きこもりとしては短い方だったのだろうが、当時の私は完全に世間と人を嫌悪して...昨日は夢、明日は希望、
小さな雑居ビルに行った。「ビル」と言っても低層で、かなりの老朽ぶり。昭和30年代の建物らしく、かなりレトロな雰囲気だった。依頼者はその建物のオーナー、中年の男性。そのビルは、先代の父親から引き継いで所有・管理しているとのこと。その父親は高齢・病弱で入院中。「多分、生きては退院できないだろう」とのことだった。私が依頼されたことは、臭いを嗅ぐことだった。他の入居者から「変な臭いがする」と、大家である男性にクレームが入ったらしい。私は、人に比べて格段に嗅覚が優れているわけではないと思う。ただ、違うことと言えば、一般の人が知らない臭いを知っていることくらい。「一般の人が知らない臭い」とは、死体の悪臭と私の足の刺激臭のこと。話が脱線するが、五本指ソックスをこの前初めて買って履いてみた。足ムレ対策には効果がありそうな...父と息子と老朽ビル
「お金で買えないものはない」少し前、こんな言葉が物議をかもしたことがあった。発言の主は、世間から異論や非難を受けることも承知したうえで、そういった言葉を吐いたのだろうと思う。発言者の真意は計りかねるが、私は、この言葉に何か深い意味を感じる。そして、否定したくても、否定できない自分がいる。私は、お金で買えないものはたくさんあると思っている。ただ、それらのほとんどは目に見えないもの。人の心であり、身体の健康であり、時間でもある。そう言いながら、目に見えないモノに対しても、金が何らかのかたちで影響を及ぼすことがあることも認めざるを得ない。私も、目に見えるモノのほとんどは金で買えると思う。そして、目に見えないモノに対しても影響する・・・お金って、それだけの力を持つものだ。「いい給料もらってるんでしょ?」色々な人と...Howmuch?Ⅱ
世の中には、好きなだけ飲み食いしても体重が変化しない、羨ましい体質を持った人がいる。私も、若い頃はそうだった。二十歳前後の頃は、一食の御飯の量が二合位、多いときは三合の御飯をペロリとたいらげていた。それでも、体重は増えることなく、わりとスリムな体型を維持できていた。標準体重を少し下回るくらいで。ところがである。20代後半から、少しずつ何かが狂い始めた。飲み食いした分が、体重に乗ってしまうようになったのだ。みるみるうちに標準体重を突破したかと思うと、あれよあれよと言う間に「やや肥満」に。気がついた時には、「肥満!」と太鼓判を押されるような始末になっていた。私にとって、飲み食いは大事な楽しみの一つ。大袈裟なようだが、生きる喜びの一つなのである。特に、酒・肉料理・甘味には目がない。焼肉+ビール、食後にアイスクリ...脂肪で死亡
東京で最も有名な市場は、築地の魚市場だろう。テレビの食べ物番組でも、よく放映されている。私は、中には入ったことはないけど、たまに市場前の通りを車で走る。朝早くから、たくさんの人が働き、たくさんの車が出入りしている。そして、場外には、おいしそうな店が軒を連ねている。機会があったら立ち寄って、食してみたいものだ・・・あ!ここに行けば、美味しいウニ丼があるかもね。食べ物を扱っているせいもあるのだろうが、活気あふれる魚市場からは人が生きるエネルギーを感じる。身内や知人の葬式で、一度くらいは火葬場に行ったことがある人は多いと思う。仕事柄、私は首都圏の火葬場は一通り行っている。火葬場には色々な施設がある中で、私が縁のある部屋はやはり霊安室。霊安室には、柩に納まった状態の遺体が、保管されている。また、納棺作業をその場で...死体市場
猫という動物は、好む人と嫌う人がわりとハッキリ分かれる動物ではないだろうか。私は、猫より犬の方が好きだ。もっとも、犬猫より牛(Beef)・豚(Pork)・鶏(Chicken)の方が好きだけど。8月21日「飼猫とサラリーマン」の続編。私は猫の死骸を片付けるため、再び現場に行った。依頼者は、「気持ち悪くて、とてもネコの死骸を見ることができなかった」と言う。ただ、私が伝えたその場所に近づくと異臭がするので、死骸の存在を感じたらしかった。家の裏、陽当たりの悪い狭いスペースにネコの死骸はあった。私が初めに発見したままの状態で残っていた。そして、その腐乱臭は人のそれと酷似していた。ただ、それが屋外だったことと、ネコの身体は小さいことが幸いして、そんなにキツい臭いではなかった。ネコは、骨だけ残して完全に溶けていた。これ...寝込んだネコ!!
「赤信号、みんなで渡れば恐くない」「青信号、誰も渡らず渡れない」個性より協調性、単独行動より団体行動が重んじられる世の中。「出る杭は打たれる」「郷に入らば郷に従え」言うまでもなく、日本は議会制民主主義の国。何事も多数決で決まる。多少のストレスがかかっても、大多数の意見や考え方に埋もれていた方が安全である。学校教育も、通り一辺倒の人間を作ることを最優先しているようにしか思えない。そして、よくも悪くも、大多数に合わせられない人間は、つまハジキにされる。小さな老朽一戸建。狭い間取りの奥の部屋に腐乱痕があった。部屋の戸を開けると、もぁ~っといつもの腐乱臭が覆ってきた。「まったく、この臭いはいつ嗅いでもかなわねぇなぁ」マスクをしていなかった私は、服の袖口で鼻と口を押さえた。通常は、最もヒドイ汚染物を先に撤去するのだ...社会的動物
この表題と前編からの流れで、後編の話がだいたい想像できると思う。わざわざ書くまでもないような展開だが、秋らしい話題?として書き残しておこうか。数日後、現場を確認した依頼者から電話が入った。契約に沿った仕事をしたので、依頼者からは「問題なし」「ありがとう」の声が聞けるものとばかり思っていた。しかし、依頼者は私の思いとは逆に、「部屋に何かがいる!」と興奮状態。ちょっとパニックっていた。それを聞いた私は、「何言ってんだ?」と、依頼者の言っていることが理解できなかった。「何かがいる!」と言われても、私は何も心当たりがない。「作業を終えて退室したときは、間違いなく部屋は空っぽになっていたはず・・・なのに、何かがいる・・・?「野良犬が野良猫が入り込んだか?」「それとも、虫の類か?」とりあえず、その正体を知りたくて、依...きのこ狩り(後編)
秋がやってきた。食欲の秋、行楽の秋、勉強の秋、人によって色んな秋があるだろう。私にとっては、やっぱ「食欲の秋」かな。・・・食欲については一年中だが。意地汚い私は、年柄年中、食い物のことばかり考えている。若い頃はいくら飲み食いしても体重に響かなかったのに、歳を重ねると少しの飲み食いでも体重が増える。身体の基礎代謝が落ちているからしい。んー、悩ましい。でも、食欲と食物があることだけでも感謝した方がよさそうだな。老朽アパートの特掃依頼が入った。木造1R、かなり古いアパートだった。長い間、掃除や片付けをしていなかったらしく、中はゴミだらけ。そして、この部屋の主は病院で亡くなって間もなかった。玄関から中に入り、目に飛び込んできた部屋の光景に溜息がでた。例によって、「こりゃヒドイなぁ」暗~い部屋には家財道具・生活用品...きのこ狩り(前編)
自分が死んだ後、その骨をどうしてほしいか、考えたことがあるだろうか。火葬された後に残される自分の骨の行く末をだ。私なりの自論なのだが・・・骨になった状態は既に自分であって自分でないようなもの。したがって、骨がどこでどうなろうと、知ったことではない・・・と思う。しかし現実には、そう思いながら、なかなかそう割り切れないものがある。やはり、遺骨の状態でも、自分の肉体であることの感覚は捨てにくいものだ。生きている今は、自分の身体を自分そのものとしている訳なので、なかなか自分と別物とは考えにくい。アノ世というものがあるなら、そこはコノ世の理解を超越した異次元の世界なのだろう。それを考えると、「自分の骨をどうするか」なんてたいして大事なこととは思えなくなる。集合墓地の「永代供養」だって「永久に面倒みます」ということで...遺骨と自分
どんな仕事にも共通することだろうが、私は仕事を通じて色んな人と出会う。そして、出会う人(正確に言うと死人)の一人一人にドラマがある。言うまでもなく、腐乱した本人は独居者であることがほとんど。独り暮しをしていた理由も色々ある。連れ合いと死別・離婚、生涯独身etcある腐乱現場。狭い路地を入った古いマンションの一室。電話をしてきたのは年配の男性だった。そして、現場に現れたのは初老の男女だった。てっきり夫婦だと思ったが、そんなことは私には関係ないので、あえて尋ねたりもしなかった。汚染現場はトイレから脱衣場へまたがった入り組んだスペース。床はビニールクロス。半分乾きかけたチョコレート色の腐敗液の回りに、透明の脂が広がっていた。そして、腐敗液に混ざった頭髪にウジが這い回っていた。ウジって、身体を波うたせながら前に進む...ダメ男
よく、死がやって来ることを「お迎えが来る」とか、死を覚悟することを「お迎えを待つ」等と言う。その「お迎え」とは、一体何を指しているのだろう。もともとの語源は、何かの宗教や思想にありそうだが、私は、たまに耳にするこの言葉に苦笑いすることが多い。ちなみに・・・業界では(首都圏だけかもしれないが)、亡くなった人を病院から搬出することを、「病院下げ」「遺体下げ」「下げに行く」等と、「下げる」という言葉で表す。「運ぶ」とか「引き取る」等とは言わない。何故か、「下げる」と言う。その言葉からは、「いならくなったモノを片付ける」といったような意味を感じるが、正確な語意は分からない。多分、これにも語源があり、何らかの意味があるのだろう。遺体搬送で病院に行くと、ほとんど決まったパターンで作業は進む。作業的には難しい仕事ではな...死者への使者
「死んだ方がマシだ」「死んでもいい」「もう死にたい」「死んでしまえ」「死ぬー」etc自分の伝えたいことを強調するために、こんなセリフを使うことはないだろうか。「死」と言う言葉を織り交ぜて、感嘆詞として無意識に使っている人は案外多いと思う。そんな日常に心当たりはない?私は、この仕事を始めてから「死語」(死という言葉を混ぜた感嘆句)を軽はずみに使わなく、イヤ、使えなくなった。本当の死が、多くの死があまりに身近になったから。誰しも本当の死を考えて吐いているセリフではなく、特に深い意味もないのだろうが、私の場合は、本来そう簡単に使えるような言葉ではないことに気づかされている。以前にも書いたが、この仕事を始めて最初に出会った遺体は、おじいさんの亡骸だった(遺体処置作業)。まるで生きている人が眠っているだけのような遺...戦う日々
空は夏から秋へと変わりつつある。少しずつ過ごしやすい季節になってきた。こんな時季は大気も不安定。夏と秋が押相撲をしているようなものか。あちこちで落雷が発生している。雷にあたって亡くなる人もいるくらい。特に、朝の雷は要注意らしい。秋が夏を寄り切るまでは、しばらくこんな空模様が続くのだろう。ある家で遺体処置をしていたときのこと。遺族の中に二十歳前後の男性が二人いた。二人は私の作業を遠巻きに、もの珍しそうに眺めながら話していた。回りが静かな分、二人の話し声は誰にも聞こえるものだった。「お前、仕事を探してんだろ?この仕事やったら?」「ふざけんなよぉ、やれる訳ねぇだろ!」「それにしても、よくやるよなぁ」「だよなぁ」私の仕事を奇異に思い、嫌悪した会話であることは誰にも明らかだった。そして、私の耳にも、他の遺族にもハッ...雷
写真を撮る時の決まり文句、「ハイ、チーズ」。ひょっとして、今は死語?とにかく、写真は笑顔がいい。葬式の時に遺影(写真)を掲げる家は多い。今や、葬式に遺影を用意するのは常識みたいになっている。ある程度の年配者になると、自分の葬式を考える人も多く、遺影にも使えるようなきれいな顔写真を撮っておく人も少なくないように思う。私が知る老人の一人は、毎年の正月に撮る写真を遺影にも使えるように撮影して家族に残している。正月は毎年キチンと和装をするから、ついでに遺影用の写真も撮っておくのだ。新年に希望を持ちながらも、自分の寿命を考えて、近いうちに来るであろう死の準備を粛々と整えておく。こういった心構えを私も見習いたいと思う。一般的に、遺影の写真は行楽などで普通に撮ったスナップ写真を使うことが多いようだ。フィルム(ネガ)がな...ハイ、チーズ!
身の回りには色々な靴がある。色んな仕事に、色んな靴がある。私は、仕事用に三種類の靴を使っている。一つは遺体処置と遺体搬送用で、黒い革靴。ホワイトカラーのビジネスマンが履いているような、一般的な靴だ。もう二つは特掃用の靴だ。安全靴タイプ(紺)とスニーカータイプ(黒)の二つ。手袋と違って、靴は使い捨てにはしない。たまに消臭剤やエタノールをかけたり、そして、すご~くたまに洗ったりしながら使っている。そんな特掃靴を、私は時々可哀相に思うことがある。察してもらえる通り、特掃靴を履いて行く先は、並の場所ではないからね。見積の時も作業の時も、容赦なく腐敗液の上を歩く。ウジも潰すし、ハエも踏む。靴が腐敗粘土に埋もれてしまうことも日常茶飯事。私は、現場に行く度に思う。「うわぁ・・・靴がヤバイことになっちゃったなぁ」「この現...俺の靴、世の靴
最近でもたまに遭遇するが、私が死体業を始めた頃は口や鼻から腹水がでている遺体が多かった。私が「腹水」と呼んでいるものを分かり易く説明すると、「胃に溜まった腐敗体液」、あるいは「胃の内容物が腐敗したもの」。色は、黄色っぽいものから茶色っぽいものまである。どれも臭いのだが、色が濃いほどその臭さもキツい。特掃現場の腐乱臭とはまた違った臭さだ。腹水が溜まっている遺体は、だいたい腹部が張って口腔から異臭がしている。腐敗ガスが腹を膨脹させ、それが少しずつ口から漏れているのだ。経験を積めば、すぐにそれと分かる。そして、それが分かると未然に腹水トラブルを防ぐ死後処置が施せる。遺体と対面する時には既に口や鼻から流れ出してていることもある。または、流れ出てはいなくても、今にも吹き出そうな遺体もある。腹水トラブルの一つ。まだ経...目・鼻・口
汚染部分の解体撤去から出た廃材を片付ける私に、依頼者の男性は意外なことを質問と依頼をしてきた。「そのゴミはどうするのですか?」「可燃ゴミですから、焼却処分します」「もっと別な処分方法はありませんか?」「?・・・リサイクルはできませんし・・・廃棄物ですからねぇ・・・」「この廃材も、○○さん(故人の名前)の身体の一部のような気がして、ゴミとして捨てるのは偲びなくて・・・」「んー・・・あとは、遺品の類でしたら、供養処分することがありますが・・・」「そうですか!でしたら、その供養処分をお願いします」「え!?費用が余分にかかりますよ」「大丈夫ですから、供養して下さい」故人の愛用品や人形・布団、仏壇などの供養処分を依頼されることは多いが、廃材のそれを頼まれるのは極めて珍しい。さすがに不思議に思って、そこまでやる理由を...真友(後編)
初老の男性から特掃の依頼が入った。現場は古いマンション、トイレで腐乱していたらしい。故人は年配の女性で身寄りがないらしく、依頼者の男性は「生前の故人に世話になった者」ということだった。腐乱場所が風呂やトイレの場合、かなり酷い状態になっていることがほとんど。私は、今までの経験から、相応の覚悟を持って現場に向かった。依頼者の男性は、その息子と現場に現れた。息子は、そこに連れて来られた意味が分からなそうにして戸惑いの表情を浮かべていた。そして、腐乱現場にはビビっているようだった。臆せず部屋に入る私と男性、息子はその後ろを恐る恐るついて来た。男性との世間話から、故人は生涯独身・子供もなく、今で言う「キャリアウーマン」だったことが伺えた。故人が女性と分かり、急に男性との関係が気になり始めた下衆な私だった。さて、汚染...真友(前編)
遺体処置業務で、ある家に訪問した。一般的な先入観を持って行くと悲しみに包まれているはずの家だった。しかし、その家は違った。無邪気な子供達が、場もわきまえずに走り回ったりして大騒ぎ。大人達は、久し振りに会った人達とのお喋りに夢中になり、誰も子供達を制止する人はいない。葬式につきものの辛気臭い雰囲気はどこにもなかった。ま、その方が仕事をしやすい。故人は年配の男性。どことなく笑っているような、安らかな死顔だった。一人の孫と故人の奥さんが遺体の傍についていた。小学校高学年くらいのその孫が奥さん(祖母)に色々と質問をしていた。そのやりとりを、私は作業をしながら黙って聞いていた。Q:「死ぬ時は苦しいの?」A:「苦しくないよ」「お祖父ちゃんだって笑ってるでしょ」Q:「死んだらどうなるの?」A:「みんな好きな場所に行くん...年輪
この季節、朝夕には鈴虫の声が聞かれるようになってきた。昼間は、まだ蝉が威勢よく鳴いている。蝉は数年間、陽のあたらない地下生活をした後、最後の一週間だけ明るい地上にでて最期の時を燃焼・満喫するらしい。蝉の一生には自分と重なる部分がある。今は陽のあたらない生き方をしている私だが、いつかは陽のあたる明るい日が来るもしれない?でも、仮にそんな日が来ても「長続きはしない」と思った方がいいかもね。特掃の依頼が入った。現場は古い一戸建、埃をかぶった生活用品(ゴミ?)が山積み状態。昼間なのに家の中は薄暗く湿っぽい感じで、どことなく不気味な雰囲気だった。いつもの様に私は、誰にでもなく「失礼しま~す」と言いながら奥へ進んだ。汚染場所は奥の和室だった。汚腐団は、例の木屑のような茶色の粉(以降、腐敗屑と呼ぶ)に覆われ、所々に小さ...人間のクズ
うちは死体業が本業なのだが、たまに死体に関係ない仕事も入ってくる。ゴミの片付け、消臭・消毒、害虫駆除etc。今回のハウスクリーニング業者が依頼してきたのは消臭。消臭は成果が目に見えないので、簡単にはできない仕事である。特掃とは違った難しさとプレッシャーがある。現場は今風のアパート。築年数も浅く、見た目にもきれいな建物だった。相談してきたハウスクリーニング業者とは、建物の前で待ち合わせて一緒に部屋に入った。私とは違って、腐乱死体のことは夢にも考えていないようだった。部屋の中も見た目にはきれいだったが、確かに異臭がした。軽い異臭なのだが、その臭いを嗅いだ途端にピン!ときた。予想していた通り、腐乱死体臭と酷似していたのだ。そして、部屋の細部を観察すると、更にピン!ときた。極めて目につきにくい所々に、妙な汚れ痕が...残り香(後編)
死体業をやるうえで臭覚は大事。ある程度は臭いを嗅ぎ分けられないと仕事にならない。基本的な部分は臭気測定機でもクリアできるが、やはり最終的には自分の臭覚が頼りになる。また、臭覚には大きな個人差があることを理解しておくこともポイント。ちなみに、私は自分の臭覚は標準レベルだと思っている。あまり鋭い臭覚を持っているど、かえって仕事の障害になるかもしれない。なにせ、いつも私が嗅いでいる腐敗臭はハンパじゃなく臭い!ので、鋭い臭覚を持っていたらそれだけでダウンしてしまうかもしれないから。ホント、希望する読者がいたら一度は嗅がせてあげたいくらいだ。惰性の(退屈な)生活には、抜群のカンフル剤になるかもよ!私の仕事には、悪臭とウジは当然のつきものである。いちいち言うまでもないことなので、最近は記述することを省略しているが、ほ...残り香(前編)
人生は色んな人との出会いと別れの繰り返しである。私が書く「別れ」だからといって、なにも死別とは限らない。別れの中の死別はごく一部。学校・仕事・生活etcを通じて色んな人との出会いと別れがある。考えてみると、私のような者でも、数えきれない人達との出会いと別れを経ている。その中でも、一生を通じて付き合える人とはなかなか出会えないでいる。「この人は一生の友だ!」「ずっと仲良くしていたい!」と、熱くなっていてもそれは一過性のもの。一時期、どんなに仲良くしていても、学校・会社・住居などの所属コミュニティーを異にすると、またそれぞれに新しい出会いがあって、旧来の人間関係は次第に希薄になっていくパターンが多い。特に、それ自体が淋しい訳ではないが、人との出会いに早々と別れ想像してしまう自分にどこか淋しさを覚える時がある。...出会いと別れ
暦はもう秋、朝晩は涼しさを感じるようになってきた(気持ちいい)。今日から9月である。毎年のことだが、夏は特掃業務が更に過酷になる季節。現場も凄惨を極める。そんな現場で汗と脂にまみれて働く。腐敗液に自分の汗が滴り落ちるのを見ながら、神妙なことを考えたり、自分を励ましたり、くだらない事を考えたりする。。やけに哲学的になってみたり、センチになってみたり、バカになってみたり。どうしようもない時は外に出て小休止。荒くなった呼吸と心臓の鼓動、脳ミソを落ち着ける。そんな夏も終わろうとしている。今年の夏もいい?思い出がたくさんできたが、リアルタイム過ぎて紹介できないのが残念。私は、今までに何体もの死体に会ってきた。何件もの腐乱現場に遭遇してきた。病死・事故死・自殺・自然死etc・・・。死に方にも色々ある中で、そんな私が今...夏の終わりに
自分の死については、色々と興味がある。その中で最も気になるは、やはりその時期。今の私は、「元気で長生きしたい」と思っている。過去には、そう思わなかったこともある。勝手なものだ。次に気になるのは、その場所。可能性として高いのは、やはり病院。健康を取り戻し、生命を永らえることが本来の目的(役割)である病院が、皮肉なことに、多くの人の死に場所となる。死を前にすると、いかに人が無力であるかを物語っている。まぁ、仕方のないことだろうが、病院を自分の死に場所とするのは、何となくさえない感じがする。「だったら、どこがいいのか?」ときかれても答えに困るし、残念ながら答を用意しておいたところでそれは何の役にも立たないだろう。特掃現場には、風呂・トイレ・寝室が多い。その場所でコト切れる人が多ということ。風呂で死ぬ場合、浴槽の...死に場所
「食欲増進の巻」私が初めてウニを食べたのは大人になってからである。「美味!」と聞いていたウニは、私にとっては生臭くて食感も悪く、とても美味とは言えなかった。美味しく感じなかった一番は原因は、食べ慣れていなかったせいかもしれない。でも、何度か食べているうちに少しづつ味が分かってきて、だんだん好きになってきた。今は、「大好物」とまではいかないけど好物の一つになっている。そんな私は長い間ウニ丼に憧れを持っていた。それまで、私の口に入るウニは回転寿司の軍艦巻程度。多分、安物。「テレビのグルメ番組にでてくるようなウニ丼を一度は食べてみたいなぁ」と、ずっと思っていた。東京でも数千円だせば食べられるのだろうが、馴染みの寿司屋なんかない私には、美味しいウニ丼がありそうな寿司屋に飛び込む度胸もなく、結局いつまで経っても食べ...うにどん!
「人の不幸につけ込んで金儲けをしているような気がする」昔、後輩スタッフからこう相談されたことがある。「警察だって、消防だって、医者だって、宗教家だってタダで働いている訳じゃない」「何でも無償でやることが正しいことか?」「死体業に先入観を持つのは世間に任せておけばいい」と、私は彼の悩みを掃いのけた。「この仕事って、値段があってないようなものでしょ」ある依頼者から皮肉られたことがある。「どんな商品やサービスの価格も、コスト+利益で構成されていることに変わりはないですよ」「○○さん(依頼者の名前)の仕事は利益を取らないでやっているのですか?」「申し訳ありませんが、ボランティアでやってる訳ではありませんので」と、私は依頼者の皮肉を一蹴した。私の仕事は人の死に直接関わるものなので、それを知った人からは良くも悪くも一...世のため人のため?
何日か後、依頼者の女性と現場で待ち合わせた。女性が、現場となった故人(母親)の家を訪れるのは初めてとのこと。女性には敷居が高過ぎて、今までずっと来ることができなかったらしい。女性と故人は、それだけ疎遠な関係だった。初めて顔を合わせた我々だったが、初対面のよそよそしさはなかった。共に戦う同士みたいな感覚。骨を見つけられなかったことをあらためて詫び、毛髪を取っておいたことを初めて知らせた。私が好意でやったことでも、女性の気分を害してしまうことも有り得るので、慎重に話した。幸いなことに、女性は喜んでくれた。そして、また泣き始めた。白い綿に包まれた毛髪を握り締めて、絞り出すような声で「お母さん、お母さん・・・」と。女性には、それなりの過去があった。親の言うことにも耳をかさず、若い頃には放蕩の限りを尽くしたらしい。...探し物(後編)
依頼者の女性は、母親の遺骨探索を私に頼んだことを他の親族には知られたくないようだった。どんな事情があるのか分からなかったけど、他の親族の手前、何かと神経を使う仕事になった。作業は、覚悟していた通り過酷なものとなった。「ビーフシチュー」を彷彿とさせるレベル。腐敗粘土をすくっては解して骨を探す。ひたすらそれの繰り返し。腐敗粘土は軟らかいモノから硬いモノまである。それらを一切合切すくっては中を探ったのである。腐敗粘土をほぐすのは手作業。小骨を探す細かい作業に道具は使えない。自分の視覚と手の感覚だけが頼りだった。もちろん、便器の中にも手を突っ込んだ。「ウ○コor腐敗粘土、どっちがマシかなぁ」等とくだらないことを考えながら(過酷な現場には、くだらない思考が必要)。そんな私の手(もちろん手袋装着)は汚物でヒドイことに...探し物(中編)
特掃現場では、何らかの探し物を依頼されることが多い。私は片付屋・始末屋であっても探し屋ではないのだが、依頼者は他に頼める人がいないから私に頼んでくる。「自分で探せばいいのに」と思うのは腐乱死体現場を知らない第三者。故人の身内とはいえ、一般の人には腐乱現場での探し物などとてもできない。視覚と嗅覚が瞬時やられてしまい、ほとんどの人はわずかな時間でも現場に滞まることはできない。依頼品で多いのは預金通帳・印鑑・権利書・株券・保険証券・年金手帳・貴金属、やはり金目のモノである。残された人は故人の死を想ってばかりはいられない。死後の後始末をきれいに済ませる、社会的責任がある。特に、腐乱現場・自殺現場の始末には重い責任がのしかかってくる。それには、まずはお金が必要ということ。たまに、変わった探し物を頼まれることがある。...探し物(前編)
腐乱死体が布団を汚していることは多い。言い換えると、布団に入ったまま亡くなる人が多いということ。そんな場合は、ほとんどの依頼者が「布団だけでも先に持って行ってくれ!」と依頼してくる。腐敗液をタップリ吸った布団は、見た目も臭いもとてもヒドイから。できる限り依頼者の要望には応えるようにしているが、見積と作業は別物。作業を小刻みに分けると、効率も悪くコストも上がる。何よりも、汚物処理作業は一発で済ませたい。でも、困りきった様子で依頼してくる依頼者も無視できない。昔は、そんな現場は仕方なく作業をしていた。依頼者には悪いが、嫌々やっていた。普通の布団をたたむのは誰でもわけないことだが、汚腐団(お布団)はそういう訳にはいかない。できるけ小さくたたんで専用袋に入れるだけ作業なのに、ちょっと油断すると腐敗液が身体に着いて...ロールケーキorサンドイッチ
今年の夏は短いように感じる。長かった梅雨が明けてからも、グズついた天気が多かった。日照不足のせいで野菜や果物も作柄がよくないらしく高値が続いている。普段は食べたくない野菜でも、高値がつくと急に食べたくなる。不思議だ。本当に食べたいのは野菜ではなくて、金銭価値なんだろう。例によって、今年も全国各地で水の事故が多発している。命の洗濯のつもりで出掛けたレジャーが一変するときだ。ある中年男性が溺死した。家族で海水浴に出掛けた先で。検死から帰宅した遺体は全裸でビーチの砂にまみれていた。遺体を前に妻子は呆然、泣くに泣けない様子だった。ここでも、楽しいはずの夏休みが一変していた。体格のいい故人は、泳ぎには自信があったのだろうか。それとも、気をつけていたのに波に流されてしまったのだろうか。ふざけて遊び過ぎたのかもしれない...命の選択
私の仕事は、365日24時間の電話受付と見積を行っている。昼間ほどの数はないながらも夜間に電話が鳴ることもある。そして、「今すぐ来て」という要望も。夜中の出動は独特の辛さがある。それは、暗闇の怖さではなく眠気の辛さ。昼間の仕事と夜の出動が続くと本当にツライ!そんな日が続くと、仕事があることに感謝するどころか「今夜はゆっくり寝ていたい(仕事が入るな!)」と願ってしまうこともある。かなり前の話になるが、自殺遺体の処置業務で夜中に出向いたことがある。遺体処置業務での夜中出動は珍しいことなので、「何か、特別な状況なのかな?」「なんでこんな夜中にやる必要があるんだろう」と少々不思議に思いながら緊張して現場に向かった。現場に到着した私は、目当ての部屋を訪問。現場はアパートの二階、首吊自殺だった。警察の検死は終わってい...ロンリーミッドナイト
初老女性の孤独死。検死結果は「死後二週間」とのこと。部屋の中はにはいつもの悪習が充満、汚染された布団にはウジが這い回り、ハエが所狭しと飛び回っていた。ま、これくらいは当たり前の状況。言葉的におかしな表現になるが、この現場は「きれいな汚染」だった。故人も、そう苦しまなかったであろうことが伺えた。汚染は深かったものの、横への広がりが極めて少なく、汚染箇所の撤去はかなり楽にできた。この要因は二つ考えられた。一つは、就寝したまま横になった状態で息絶えたこと。もう一つは、使っていた布団が厚手で吸湿性の高いもの(高級布団?)だったこと。就寝中に死ぬ人は少なくない。しかし、コト切れる間際は苦しいのだろうか、布団に納まってきれいに横になっている状態は少ない。布団から上半身だけでも這い出した状態だと、その後の腐敗汚染度がか...飼猫とサラリーマン
今の若い人達は知らないだろうか、ルービックキューブを。流行ったのはいつ頃だったか・・・ハッキリは憶えてないけど、私と同世代、またはそれ以上の年代の人には知っている人が多いと思う。私の友達には、短時間で6面を合わせる頭脳派もいれば、時間はかかるが諦めないでやる努力家もいた。ちなみ、私は頭脳派でもなければ努力家でもないので、恥をかくだけの無用なチャレンジはしなかった(こういうとこがダメなんだよね)。故人は初老の男性。脳神経系の病気を長く患っていたらしい。故人は、病気の進行具合を自分で把握するために、ルービックキューブを解くことを日課にしていた。家族や看護師に適当にシャッフルしてもらい、6面合わせられるまでの時間を毎日測っていた。次第に時間はかかるようになってきたものの意識はハッキリしており、最期の方は「解けな...ルービックキューブ
人の身体は死んだ瞬間から腐敗を始める。死後1~2時間程度でも既に腐敗臭がするようなケースも珍しくない。その腐敗開始の早さは驚きものだ。一般的に、遺体は腹(内蔵)から腐り始めると言われている。私の実体験でもそれに違いはない。一見、何ともなさそうな遺体でも、着衣を取ったら腹部か濃緑色に変色していることがよくある。そして、それが次第に広がってくる。もちろん、遺体が置かれる環境・施される処置によって腐敗スピードは異なるため、その腐敗速度を少しでも遅くさせるために手を尽くすことも、我々の仕事の大きな役目である。遺体は火葬まで冷蔵されるのが一般的。霊安室の冷蔵庫で保管されることもあるが、それよりドライアイスを当てられて冷やされることの方が多い。冬場だとドライアイスは10kgもあれば充分、しかし、今のような夏場は10k...冷たいヤツ
自分が死んだら、柩の中に何を入れて欲しいだろうか。若い頃は、結構真剣に考えて耳かき棒と酒をリクエストしていたが、今はどうでもよくなっている。浮世の金品も、アノ世には関わりのない物と思うから。どんなに高価な物でも、灰になってしまえば同じこと。どんなに偉い人でも灰になってしまえば同じこと。人は何も持たずに生まれてくる。そして、何も持てないまま死んでいく。現金も、株券も、豪邸も、高級車も、ブランド品も(私の場合はコノ世でも持ってない物ばかりだけど)。私を含めて、どうして人はこうまで物を欲しがるのだろうか。生活がある程度便利で快適であれば、それでいいような気もするのに。命は有限なのに欲は無限と言うことか・・・何となくバランスが悪いような気がする。では、目に見えないものはどうなのだろうか。例えば、愛・名誉・徳・善行...夢のあと
日本人の死亡原因の一位は悪性新生物(癌)。癌を煩ったことがある人、煩っている人、そして癌で亡くなった人を知人に持つ人はかなり多いと思う。「自分自身がそう」という人もいるだろう。数えてみると、私の身の回りにも、そんな人がたくさんいる。世の中は今、空気も水も食べ物も、発癌性物質を避けては生活できないような残念な状況にある。癌は人類の自業自得か?それとも宿命か?人の力では癌細胞の発生を防ぐことはできないのだろうか。私が扱ってきた遺体にも癌で死んだ人がかなりの人数いる。科学的なデータとは異なるかもしれないが、それらの遺体は痩せ細っている上、腐敗速度が速いように思える。余命宣告を受けた上での闘病生活は、どんなものなのだろうか。一件一件の遺族と一人一人の遺体からは、それぞれの闘病生活が垣間見える。故人は30代前半の男...タイムリミット
別れの柩に手紙を入れる人は多い。故人に宛てたものがほとんどだろうが、アノ世に先立った人へ言葉を託けたものもあるかもしれない。生前は照れ臭かったり、日々の生活で見過ごされたりしてきた当人(故人)への想いが、純粋なかたちでてくる場面でもある。「できることなら、生きているうちにそういう想いを伝えられればよかったのに・・・」そう感じることが多い。共に生きていられる時間は限られている。照れている場合じゃないと思う。日本人にとっては「臭い」と思われるセリフを平気で吐けるアメリカ人が羨ましい。私は、葬式にはイヤというほど関わっているが、結婚式には縁がない。何年かに一度、誰かの結婚式に招かれることがあるくらい。葬式ばかり経験していると、結婚式がとても新鮮だ。他人の幸せを嫉みがちな私でも、結婚式の幸せに満ち溢れた雰囲気は好...ラブレター
この記事を載せるか否か、迷いは残る。無責任な思いであることも承知している。薄っぺらい自論しか吐けない私には、他人の人生相談に乗れるほどの人格もなければ度量もない。自分の人生に対する答も見つけられない私だし。しかし、スルーできない性格の私は深く考えるのはやめて載せることにした。世の中には、何故にここまで鬱の人や自殺を志願する人が多いのだろうか。鬱病を明かす書き込み、自殺願望を示す書き込みが絶えない現実を見て、そう思う。それでも、書き込んでくれるだけマシなのかもしれない。私ごときでも、わずかながら反応できるから。生命(寿命)に対しては誰だって無力。自分の力で生命(寿命)を伸ばすことはできない。人が自分の力でできることと言えば、せいぜい日常の健康管理をシッカリやっておくことくらい。悲しいかな、人の力って所詮はそ...ちょっと待った!
自殺した女性が腐乱死体で発見された。もちろん、私には自殺の動機は不明。独り暮しだった故人の自宅は賃貸マンション、その玄関で首を吊ったらしい。身寄りはないらしく、賃貸契約の保証人も有料の保証会社が請け負っていた。依頼者である大家は、保証会社の対応に不満を漏らしていた。このままだと、大家と保証会社の間でトラブルが発生するのは明白だった。汚染は玄関と外の共有部分のみ。ウジ・ハエも玄関フロアのみ。女性らしい雰囲気の部屋はきれいに片付いており、独身女性の部屋に免疫のない私は勝手に入ることに気が引けるくらいだった。しかし、片付けるうちに故人が私と同年であること分かって、急に気持ち悪くなってきた。我ながら勝手なものだ。女性には失礼な偏見になるかもしれないけど、男性の自殺より女性の自殺の方が何だか気持ち悪い。私が遭遇して...善と悪の間で
「なんだか臭い」「でも、何の匂いだか分からない」「見に来てほしい」そんな電話が入った。依頼者は中年女性。その口調から、死体がらみの案件ではないことがすぐ分かった。話を聞くと、ただの消臭依頼だった。特掃部には、たまにこんな依頼や相談も入ってくる。どんな問い合わせにもキチンと応対するが、電話だけで片付くケースも当たり前のようにある。できるだけ詳細な状況を聞き、できるだけ適切なアドバイスをするように心掛けている。お金にはならないけど、これも大事な仕事だ。それでもラチがあかない場合は出動となる。この案件も電話アドバイスだけでは片付かなかったので、現場まで出向いた。豪邸とまではいかなかったけど、そこそこ大きな家で築年数も浅かった。依頼者一家は、主の仕事の都合で二年間海外に行っていたらしい。社会的地位が高いことを自負...忠犬
昨日までグズついていた東京の空は、今日は快晴!また夏の猛暑が戻ってきた。夏は特掃業務にとっては過酷な季節だが、青い空を見上げると気持ちに涼風が通る。読者からの書き込みを非公開にしてから一ヶ月余りが経った。それ以前に比べれば書き込み件数が明らかに減っているが、私の気分に余計な波風が立つこともなくなり、ブログも落ち着いて書けるようになっている。そして、書き込んでくれる人自体も変わってきているように思う。今でも色んな意見や感想があるものの、冷静に読むことができている。あの当時は、「スルーすればいい」という類のアドバイスをたくさんもらったが、私の性格ではアレが限界だった。我ながら、器量不足も感じているが、どうにもならない。私はこの性格で三十数年生きてきたので、今更、大きなモデルチェンジもできないのだろう。「人間っ...同じ空の下で
特掃業務の自殺現場には、事前に自殺と知らされる現場と知らされない現場とがある。どんな現場に対しても一定のスタンスで臨む私だが、自殺と自然死とでは若干その気持ちが違うかもしれない。しかし、どんな現場でも気持ちがほぼ一定に保てる自分が頼もしくも思え、かつ冷酷にも思えてしまい複雑な心境がする。また、私は現場の第一印象を率直にコメントすることが多い。失礼な発言に聞こえるかもしれないけど、特掃現場ではだいだい「これはヒドイですねぇ」が第一声となる。だって、本当にそうだから。何年やっても何件やっても、「ヒドイなぁ」と腐乱現場に抱く感情は変わらない。自殺と知らされないで出向いた現場。新聞紙で覆われた汚染箇所がやけに狭いうえ、それに面した壁が縦長に汚れていた。「妙な汚れ方だなぁ・・首吊りか?」と思いながら汚染箇所の真上を...思いやり
この仕事は、夜中に電話が鳴ることもある。寝ていても、まるでずっと起きていたかのように電話に出ることができる特技が身についた。一年を通じても夜中の出動は少ないのだが、何故だか続くときは続いてしまう。昼間は昼間で仕事があり寝ていられる訳じゃないので、あまり続くとキツイ!そんな日々が続く中で夜中に電話が鳴ると「冗談?」と思ってしまう。正直なところ、ありがた迷惑に思ってしまう時もある。遺体搬送業務の服装は、特掃業務とは違ってスーツ姿(喪服ではない)。したがって、身だしなみを整えるのに少々の時間を要する。しかし、病院へのお迎えは一分一秒を争うことが多いので、モタモタしてはいられない。「だったら、スーツを着たまま寝てりゃいいだろ」と思わないでもらいたい。それじゃ眠れないから。電話を切ったらテキパキと身支度を整えて出発...ホスピタル
休暇をとった管理人は、身内の法事に行ってきたらしい。その割には赤く日焼けした顔が、どことなく気まずそうにも見える。人手が足りない時は特掃隊に編入しなければならない哀れな?身の上だから、まぁ、黙認した方が親切というものか。管理人を労う書き込みも多かったし。前編から話を続ける。そして、その顔が私に近づいて来るような気配を感じた私は、声にならない悲鳴をあげて家から飛び出した!全身に悪寒が走り、息を吸うことができなくなった私。霊感がないのが少ない取り柄のひとつだったのに・・・とうとう見てしまったのか!?そして、私が見てしまったモノの正体は!?さすがに気持ち悪くなった私は、再び家の中に入ることはできなくなった。本当は二階の状況も確認しなければらなかったのだか、結局、二階は想像見積。間取りと遺族の話と一階の状況を考え...お化け屋敷(後編)
人それぞれに怖いもの(苦手なもの)を持っていると思う。私の場合は、高所・蛇・歯医者・お金・心霊写真・暗闇etc。当然、この中に死体は入らない。気持ち悪いことはあるけど、恐くはない。どちらかと言うと、道端に転がっている動物の轢死体の方が苦手。いつも目を背けて通り過ぎてしまう。逆に、一般の人にとって人間の死体は上位にランキングされるものらしい。その理由の中核を探ってみると面白いことが発見できるかもしれない。やはり人は、死をイメージさせたり感じさせたりするものを根本的に嫌うのである。葬儀習慣に限らず一般世間の習俗や慣習にも、それを感じさせるものが多い。その延長線上には死からの逃避願望があり、やはり死ぬことは恐くて考えたくないものなのだろう。ある日の夕方、特掃の依頼が入った。「できるかぎり早く現場を見てほしい」と...お化け屋敷(前編)
私は夏の夜の花火が好きだ。夜空に舞う打ち上げ花火は特に。時間が合わなくて、ここ何年も花火大会には行っていないけど、綺麗な花火を思い浮かべるだけでワクワクする。ドン!と上がったかと思ったら、パッと開き、サラッと消えていく。音に迫力、火花に華、去り際に潔さ、その華麗さに魅了される。同じ一つの花火なのに、光速と音速の差から視覚と聴覚に時を異にして届いてくるのも絶妙。そんな花火には、人の生き死にが重なって見える。日本文化においては、日本男児的な「男らしさ」に通じる部分もあるのかもしれない。玉の大小、上がる高さに違いはあれど、誰の人生にも華があると思う。そういう私は、いつ頃が華だったのだろうか。それとも、華はこれから来るのだろうか。生きていること自体が華だったりして・・・ね。壮年の男性が死んだ。死因は糖尿病。どんな...線香花火
ある若者が、あるマンションから飛び降り自殺をした。高層階から3階天井のでっぱりに激突、その血しぶきと肉片は4階のベランダにまで飛び散っていた。乾いた血痕と肉片は落とし難い。しかも、汚染個所が高い壁だと作業もしづらい。私は仕事だから仕方ないけど、何の関係もないのに、いきなり見ず知らずの人間の血肉で自宅が汚された方は、本当に気の毒だった。こんな現場に遭遇すると、「汚すのはせめて自宅だけにして欲しいもんだな」と思ってしまう。死人を貶めるようなことを言ってしまうようだけど。その遺体の損傷も激しかった。例の納体袋に入っていたその遺体は、頭が割れ、脳がハミ出ていた。ちょうど、焼けて膨らんで破れたパンのように。髪は血のりでベッタリ、血生臭さがプ~ンと漂っていた。私が自殺の理由を知るはずもない。ただただ遺体を処置するのみ...苦々しい
便所の話。そこは「お手洗い」とか「トイレ」という呼称は似合わない、いかにも「便所!」という感じの現場だった。発見が早かったためか、汚染は軽いもの済んでいた。悪臭も腐乱臭なのか便所臭なのか分からないくらい。それよりも、私はその便所の形態に驚いた!水洗式ではなく、いわゆるボットン便所。しかも、私が知るボットン便所よりはるかにハイグレードで古風なモノだった。ほとんどの人が「ん?どんな便所だろう?」と、その便所の形態を理解できないと思うので、詳しく説明しておこう。地面に深さ1.5~2.0m、直径1.5~2.0mくらいの穴を掘る。その上に床板を敷き、屋根と囲いをつける。床板に直径20~30cmの穴を開ける。床板に和式便器をくっつけて完成。あまりにシンプル過ぎて、これ以上詳しく説明できない。大きな口を開けた和式便器を...ブラックホール
「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」「またヨロシクお願いします」etc、何気ないこのセリフは、色々な店や仕事で当り前に使われている言葉。しかし、私の仕事にこのセリフはない。「ご愁傷様です」に始まり「お疲れ様でした」で終わる。何かを得ようと、何年か前、知人に頼んで飲食店で働かせてもらったことがある。夜の時間だけ、無償で。誰にも遠慮しないで済む笑顔と、「いらっしゃいませ!」「ありがとうございます!」「またヨロシクお願いします!」と堂々と言える仕事が新鮮だった。新しい自分を発見できて爽快感みたいなものを覚えた。かったるそうに働いているバイト学生に反して、私は楽しさすら覚えた。そのバイト学生に私の本職を話したら、「ウェーッ!その手で食い物を触って大丈夫ですか?」とストレートに嫌悪された。私とは随分と年下の...毎度ありー!
今日で7月も終わり、今年の夏も後半に入る。今年の梅雨は、前半が空梅雨で後半は長雨。東京では、昨日やっと梅雨明けしたらしい。毎月末には過ぎたカレンダーを破り捨てるのが私の習慣。このひと月を思い返してみると、特掃業務に追われる毎日だった。しかも、インパクトのある内容のものが多かった(だいたい、いつもインパクトはあるけど)。早速にでもブログに書きたい案件もあったが、現場が特定されないような配慮が必要なため、ネタとしてはしばらく寝かせておかざるを得ない。と言う訳で、私の書く現場ネタは、しばらく寝かせておいたものがほとんど。鮮度は落ちているかもしれないけど、腐敗ネタには鮮度も何も関係ないか(笑)。きっちりと自分の中で線を引いている訳ではないけど、死人は人間の形をとどめているモノとそうでないモノでは気持ちが全く違う。...カレンダー
死ぬ瞬間って、どういう感覚を憶えるものなのだろうか。「脳内アドレナリンが大量に発生して、快感の絶頂に到る」と説いた本を読んだことがあるが、誰もその実態を知ることはできない。私は、三十数年間の人生で一度だけ人が死ぬ瞬間を目の当たりにしたことがある。時は幼少の頃、祖父が死んだときのことだ。内臓疾患で闘病生活を送っていた祖父は、しばらくの闘病生活の後、意識不明の危篤に陥った。急いで病院に駆けつけたときは、意識不明で荒い息をしていた。皆が見守る中、最期の息をゆっくり吐いたかと思うと、もう次の息を吸うことはなくそのまま臨終した。何分にも幼かったため、人が死ぬということがよく理解できなかったけど、祖父の最期の様子は今でも鮮明に記憶している。黄疸で黄色く変色した身体、腕には無数の内出血の痕、柩に入った祖父の身体の冷たさ...苦悶
夏は怪談話のシーズンあちらこちらで恐ろしいとされる話が湧いてくる。でも、所詮はフィクションがほとんど。本当に怖いのはこの世の現実かもしれない。世間にとって腐乱死体は、突然現れるやっかい者。本人はしばらく前から時間をかけて腐っているのに、発見されるのが急なものだから、世間的には降って湧いたような印象を受けるのだろう。キチンとしたデータをとっている訳ではないが、腐乱死体がでる住宅は、自己所有より賃貸の方が多いように思う。そして、経済力も低レベル。そんな腐乱死体は、残された人々に多大な迷惑を掛けることになる。その中でも絶大な損害を被るのは、家族(保証人)、大家、近隣住民。家族、特に賃貸契約の保証人になっている人は、社会的にはもちろん法的にも責任が発生する。部屋の清掃費用からリフォーム費用、ヒドイ現場になると上下...怪談
書いているうちに気持ち悪くなってきたので、前編と後編に分けさせてもらった。今回はその後編。しかし、現場の悲惨さを読者に伝えきれないのが非常に残念!でも、臨場感があり過ぎると誰も読んでくれなくなるかもね(笑)。さて、本題のつづき。思わず悲鳴を上げた私。なんと、腐敗した肉塊の中に体調10cm・直径3cmくらいの巨ウジがいたのである!私は悲鳴を上げながら浴室を飛び出した!全身に鳥肌が立ちまくり、しばらくの間、全身が痒くなるような悪寒が続いた。「ウジってあんなに大きくなるものか?」「その前にハエになるはずじゃないのか?」「仮にウジじゃないとしたら何?」もう、頭はパニック状態、仕事なんか放り投げてとっとと帰りたくなった。しばらくブツブツと独り言をいいながら、「これからどうしようか・・・」と考えた。引き受けた仕事は途...ビーフシチュー(後編)
嫌いな訳ではないけど、ビーフシチューなんて滅多に食べない。しかも、この暑い季節には。そんな私は、ビーフシチューを目にすると思い出すことがある。自分の中では伝説になっている現場のことを。現場はマンションのユニットバス。狭いスペースに風呂とトイレが一体型で設置されている密閉された空間。その光景は、「なんでここまでになるまで発見されなかったんだ?」と場慣れしている私でも驚嘆するくらいに衝撃を受けるものだった。溶けかかった人肉が床一面に広がり、5cmくらいの厚みがある腐敗粘土層を形成していた。それ自体が床のようにも見えるくらいに、床一面がきれいに腐敗粘土に覆われていたのだ。そして、その粘土層の数箇所にこんもりと盛り上がった部分があった。そう、解けるスピードが遅い部位が半固体のまま残っていたのである。熟成された腐敗...ビーフシチュー(前編)
夏の風物詩のひとつに土用の丑の日がある。その日に鰻を食べる風習は、全国的なものだと思う。先日も、スーパーの屋外で鰻を焼く煙が香ばしく、食欲をそそられた。焼肉屋や焼鳥屋の前を通りかかっても、同じように香ばしいニオイがして、空腹時にはたまらなくいいニオイに感じるものである。肉を焼くニオイって、どうしてこうも食欲をそそるのだろうか、不思議である。野菜を焼いたって、こうまでは魅了されないのに。焼身自殺で人が死んだ。自殺体は珍しくない中でも、焼身自殺体は少ない。「何とかなるものなら何とかしてほしい」と依頼され、とりあえず現場へ。警察の検死が終わって、遺体は納体袋に入れられていた。この納体袋というヤツは通常の遺体が納められることはほとんどなく、変死体専用の寝袋と言ってもいいほどの不気味な代物である。したがって、何の説...身を焦がして
日本人の平均寿命は男性が77.64歳、女性が84.62歳らしい。世界的にも長寿国。現実を見ても、80歳を越えても元気なお年寄りが多く、そんなに長寿というイメージはない。90歳を越えると長寿という印象がでてきて、100歳を越えると「長生き!」になるのではないだろうか。実際にも、100歳を超えた故人に合うことはあまり多くない。葬式というものは普段は顔を合わさない遠い親戚や、疎遠になっていた友人・知人と再会する社交場としての役割もある。そして、多くの人達が故人の死を忘れて久し振りに会う人との交流に没頭したりするのである。そんな光景は、故人にとっても不快なものでもないと思うし、私的には悪くないことだと思っている。葬式だからと言って意識して辛気臭くしているよりも、自然体で人と関わり、時には笑顔を浮かべたり笑い声を上...犬と柿と別れの宴
ある老年男性。妻の葬儀のため一時退院してきた夫は、何も言われなくても病弱ということが明らかだった。痩せ細った身体は、誰かの介助がないと部屋を移動することもままならない様子。本来なら、一時退院できるような身体ではなかったのに、無理を言って一時帰宅したとのこと。「長年連れ添った妻の葬儀」と言えば病院側も承諾せざるを得なかったのだろう。夫は弱々しい中にも力のこもった言葉で、妻の亡骸に向かって何度も「ありがとう」「ありがとう」と声を掛けていた。そして、「もうじきそっちに行くから待っていてくれ」とも。作為的な脚色だけど、その別れのひと時は、老夫婦が最期の輝きをみせた瞬間に見えて神妙な気分になった。その一週間後、私は同じ家に行くことになった。現場に到着するまで同じ家だとは気づかないでいた。その家の玄関に到着して、「ん...パートナー
「皮」と言えば何を想像するだろう。値段は高いけど、皮製品には味わいがある。身体には悪いらしいけど、焼き鳥の皮は美味い。面倒臭いけど、果物は皮を剥いた方が甘露。前フリはこのくらいにしておいて、そろそろ本題。私が何の皮について書こうとしているのか・・・そう、既にお見通しの人間の皮。人の皮は薄いけど意外に丈夫。梅雨が明けたら海水浴に逝く・・・もとい、海水浴に行く人が多いと思う。本題が始まったばかりなのに早速脱線。私のwordは「いく」と打てば「行く」じゃなく「逝く」が、「いたい」と打てば「痛い」じゃなく「遺体」が一番に出る。そんな語句ばかりを毎日当り前のように打っている自分自身が笑える(笑)。本題に戻る。日光に弱い人は日焼けの後に水膨れができ、そのうち痒くなってきて皮が破れ剥がれる。死体が残す皮は、その皮をもっ...皮の流れのように
「悪夢にうなされるようなことはないのか?」という類の質問が読者から寄せられることがチラホラある。そういう質問を受けてあらためて思い出してみると、私は仕事がらみの夢はあまり・・・と言うかほとんど見ていないことに気づいた。ただ、そんな夢も皆無ではない。かなり前にみた夢だが、覚醒してからもしばらく後味の悪い思いをした夢を紹介したいと思う。遺体処置業務のこと。古めの一戸建、私は死んだ老婆に死後処置を施していた。遺族も一緒に立ち会い、ほとんどの遺族に共通して見られるように、その雰囲気と振舞いは悲しみに包まれていた。昨日のブログ記事にも通じる部分がある、何となく身体の温かさが残っている、まだ生死の間にいるのではないかと思えるような遺体だった。作業を進めているうちに、何となく遺体が動いたように感じた。「気のせいか?」と...夢
遺体の眼がパッチリ開いていたとき。薄目を開けている遺体は珍しくはないし、完全に目蓋を開けている遺体も少なくない。その多くは、筋肉の緊張がなくなったり、腐敗が進行することが原因で眼球が下がることによって起こる現象。この状態の目蓋を閉じるにはちょっとした技術が必要。薄目ならともかく、パッチリと眼が開いた状態はさすがの遺族も気味悪がる人が多い。そう言う私も面布(遺体の顔に掛ける白い布)を取った瞬間、ちょっとドキッ!とする。そして、私の経験では100%の遺族が「閉じてくれ」と依頼してくる。やはり、「遺体は眼を閉じているべき」という先入観があるのかな?ロープがぶら下がっていたとき。遺族もなかなか言い出せないのだろう、自殺現場だと知らされずに現場に出向くことがある。床などの汚染部分に目を奪われていて、突然、ぶら下がっ...ちょっとドキッ!
私の仕事においては、自殺遺体や自殺現場に遭遇することは珍しいことではない。昔は、自殺には通常死とは違った感覚を覚えていた。変な言い方になるかもしれないが、時に新鮮だったり、時に不気味だったり、時に憤ったり、時に同情したり、時に緊張したり、時に興奮したり。いいのか悪いのか分からないが、今は、自殺遺体や自殺現場に慣れてしまった自分がいる。自殺現場となると遺族からの依存度も高いので、それに応えようと妙に張り切ってテンションを上げてしまう自分がいる。職業柄から仕方のないことかもしれないけど、明らかに一般の人と比べ死に対する感覚が異なっている自分がいる。自殺を大きく分類すると、衝動的なものと計画的なもの、そしてその両方を兼ね備えたものに分かれると思う。衝動的な自殺と計画的な自殺を判別する材料は色々あるだろうが、身辺...酒と遺書
自殺者数に比べれば少ないものの、交通事故で死ぬ人も決して少なくはない。私の知り合いでも、過去に交通事故死した人が何人かいる。交通事故死にも色々なドラマがある。私が初めて遭遇した交通事故死は20歳前の女性だった。まだ、死体業を始めて間もない頃で、見習として先輩スタッフに着いて回っていた頃だ。何もかもが初めてのこと、雰囲気的に自分の居場所さえ自分で確保できないような有り様だったので細かいことはよく覚えていないが、遺族が号泣していたことと、成人式に着る予定だったという振袖の着物を着せていたことを憶えている。そして、何故か、その女性の姓名も今も憶えてしまっている(別に憶えておきたくないのに、忘れることができない)。そして、この仕事をしばらく続けていると、若くして事故死する人にはある共通点があることを偶然に発見して...ある日突然
容易に想像してもらえると思うが、夏場の特掃業務は過酷さを極める。更に、夏場は特掃依頼の数でいうと、一年を通した山場でもある。その理由も想像は説明するまでもなく、気温・湿度の高い夏は遺体の腐敗スピードも早いからである。しかも、一件の現場のみならず、そんな現場を複数抱えなければならないことも、過酷さを増す要因になる。逆に、気温・湿度の低い冬場は遺体の腐敗スピードもかなり遅く、不幸中の幸いに、ある程度の腐敗が進行する前に家族や関係者に発見されるケースが多い。「無断欠勤が続いている」「ここ何日か電話にでない」「新聞がたまっている」等の生活異変で。もちろん、真冬でも遺体は少しづつ腐っていくが、ミイラ化現象も並行していくので絵に描いたような腐乱死体になるには、結構な時間を要するのである。(「絵に描いたような腐乱死体」...ウ○コ男
ある不動産管理会社から自殺腐乱現場の見積依頼がきた。場所は、一般には高級住宅街と言われる地域。中年男性の首吊り自殺だった。自殺の理由は借金苦。管理会社の担当者に聞くまでもなく、部屋に散乱していたクレジット会社や消費者金融からの請求書で、それは容易に察することができた。マンションの築年数はそれなりに経過しているものの、その立地もよく高級感のあるたたずまいで、いかにも「買うと高そうだな」と思われるような建物だった。管理会社立ち会いのもと、いつもの調子で現場の部屋へ。管理会社の担当者は玄関の外で待っていた。腐乱痕と腐敗臭以外は、特に変わった雰囲気もなく、多少散らかっている程度の部屋だった。もちろん、毎度のウジ・ハエもたくさんいた(彼等の存在は当り前過ぎて、いちいち書くのも面倒になってきた)。見積作業では、色々な...愕然!
私のブログも何のお陰か二ヶ月続けることができた。訳あって現在は非公開にしている読者からの書き込みは、それがどんなに短い文章でも、学ぶこと、感じることがある。精神的にも支えられている部分がある。感謝である。過ぎていく時間のスピード感は、その時々によって違う。辛く苦しい時は長く感じ、楽しく幸せな時は短く感じる・・・そう感じる人も少なくないのではないだろうか。かく言う私もその一人。特に、最近は時間の経過を早く感じる。・・・と言う事は、今の私は幸せなのだろうか(?)。時に、「長生きしたい」と思ったり「長生きしたくない」と思ったり、また、「死にたくない」と思ったり「死にたい」と思ったり。少しでも命を永らえようと重い病気と必死に闘っている人もいれば、自ら死を選ぶ人もいる。こんな仕事をやっていると、いやでも自分なりの死...暑中お見舞い申し上げます
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