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  • 世のため人のため?

    「人の不幸につけ込んで金儲けをしているような気がする」昔、後輩スタッフからこう相談されたことがある。「警察だって、消防だって、医者だって、宗教家だってタダで働いている訳じゃない」「何でも無償でやることが正しいことか?」「死体業に先入観を持つのは世間に任せておけばいい」と、私は彼の悩みを掃いのけた。「この仕事って、値段があってないようなものでしょ」ある依頼者から皮肉られたことがある。「どんな商品やサービスの価格も、コスト+利益で構成されていることに変わりはないですよ」「○○さん(依頼者の名前)の仕事は利益を取らないでやっているのですか?」「申し訳ありませんが、ボランティアでやってる訳ではありませんので」と、私は依頼者の皮肉を一蹴した。私の仕事は人の死に直接関わるものなので、それを知った人からは良くも悪くも一...世のため人のため?

  • 探し物(後編)

    何日か後、依頼者の女性と現場で待ち合わせた。女性が、現場となった故人(母親)の家を訪れるのは初めてとのこと。女性には敷居が高過ぎて、今までずっと来ることができなかったらしい。女性と故人は、それだけ疎遠な関係だった。初めて顔を合わせた我々だったが、初対面のよそよそしさはなかった。共に戦う同士みたいな感覚。骨を見つけられなかったことをあらためて詫び、毛髪を取っておいたことを初めて知らせた。私が好意でやったことでも、女性の気分を害してしまうことも有り得るので、慎重に話した。幸いなことに、女性は喜んでくれた。そして、また泣き始めた。白い綿に包まれた毛髪を握り締めて、絞り出すような声で「お母さん、お母さん・・・」と。女性には、それなりの過去があった。親の言うことにも耳をかさず、若い頃には放蕩の限りを尽くしたらしい。...探し物(後編)

  • 探し物(中編)

    依頼者の女性は、母親の遺骨探索を私に頼んだことを他の親族には知られたくないようだった。どんな事情があるのか分からなかったけど、他の親族の手前、何かと神経を使う仕事になった。作業は、覚悟していた通り過酷なものとなった。「ビーフシチュー」を彷彿とさせるレベル。腐敗粘土をすくっては解して骨を探す。ひたすらそれの繰り返し。腐敗粘土は軟らかいモノから硬いモノまである。それらを一切合切すくっては中を探ったのである。腐敗粘土をほぐすのは手作業。小骨を探す細かい作業に道具は使えない。自分の視覚と手の感覚だけが頼りだった。もちろん、便器の中にも手を突っ込んだ。「ウ○コor腐敗粘土、どっちがマシかなぁ」等とくだらないことを考えながら(過酷な現場には、くだらない思考が必要)。そんな私の手(もちろん手袋装着)は汚物でヒドイことに...探し物(中編)

  • 探し物(前編)

    特掃現場では、何らかの探し物を依頼されることが多い。私は片付屋・始末屋であっても探し屋ではないのだが、依頼者は他に頼める人がいないから私に頼んでくる。「自分で探せばいいのに」と思うのは腐乱死体現場を知らない第三者。故人の身内とはいえ、一般の人には腐乱現場での探し物などとてもできない。視覚と嗅覚が瞬時やられてしまい、ほとんどの人はわずかな時間でも現場に滞まることはできない。依頼品で多いのは預金通帳・印鑑・権利書・株券・保険証券・年金手帳・貴金属、やはり金目のモノである。残された人は故人の死を想ってばかりはいられない。死後の後始末をきれいに済ませる、社会的責任がある。特に、腐乱現場・自殺現場の始末には重い責任がのしかかってくる。それには、まずはお金が必要ということ。たまに、変わった探し物を頼まれることがある。...探し物(前編)

  • ロールケーキorサンドイッチ

    腐乱死体が布団を汚していることは多い。言い換えると、布団に入ったまま亡くなる人が多いということ。そんな場合は、ほとんどの依頼者が「布団だけでも先に持って行ってくれ!」と依頼してくる。腐敗液をタップリ吸った布団は、見た目も臭いもとてもヒドイから。できる限り依頼者の要望には応えるようにしているが、見積と作業は別物。作業を小刻みに分けると、効率も悪くコストも上がる。何よりも、汚物処理作業は一発で済ませたい。でも、困りきった様子で依頼してくる依頼者も無視できない。昔は、そんな現場は仕方なく作業をしていた。依頼者には悪いが、嫌々やっていた。普通の布団をたたむのは誰でもわけないことだが、汚腐団(お布団)はそういう訳にはいかない。できるけ小さくたたんで専用袋に入れるだけ作業なのに、ちょっと油断すると腐敗液が身体に着いて...ロールケーキorサンドイッチ

  • 命の選択

    今年の夏は短いように感じる。長かった梅雨が明けてからも、グズついた天気が多かった。日照不足のせいで野菜や果物も作柄がよくないらしく高値が続いている。普段は食べたくない野菜でも、高値がつくと急に食べたくなる。不思議だ。本当に食べたいのは野菜ではなくて、金銭価値なんだろう。例によって、今年も全国各地で水の事故が多発している。命の洗濯のつもりで出掛けたレジャーが一変するときだ。ある中年男性が溺死した。家族で海水浴に出掛けた先で。検死から帰宅した遺体は全裸でビーチの砂にまみれていた。遺体を前に妻子は呆然、泣くに泣けない様子だった。ここでも、楽しいはずの夏休みが一変していた。体格のいい故人は、泳ぎには自信があったのだろうか。それとも、気をつけていたのに波に流されてしまったのだろうか。ふざけて遊び過ぎたのかもしれない...命の選択

  • ロンリーミッドナイト

    私の仕事は、365日24時間の電話受付と見積を行っている。昼間ほどの数はないながらも夜間に電話が鳴ることもある。そして、「今すぐ来て」という要望も。夜中の出動は独特の辛さがある。それは、暗闇の怖さではなく眠気の辛さ。昼間の仕事と夜の出動が続くと本当にツライ!そんな日が続くと、仕事があることに感謝するどころか「今夜はゆっくり寝ていたい(仕事が入るな!)」と願ってしまうこともある。かなり前の話になるが、自殺遺体の処置業務で夜中に出向いたことがある。遺体処置業務での夜中出動は珍しいことなので、「何か、特別な状況なのかな?」「なんでこんな夜中にやる必要があるんだろう」と少々不思議に思いながら緊張して現場に向かった。現場に到着した私は、目当ての部屋を訪問。現場はアパートの二階、首吊自殺だった。警察の検死は終わってい...ロンリーミッドナイト

  • 飼猫とサラリーマン

    初老女性の孤独死。検死結果は「死後二週間」とのこと。部屋の中はにはいつもの悪習が充満、汚染された布団にはウジが這い回り、ハエが所狭しと飛び回っていた。ま、これくらいは当たり前の状況。言葉的におかしな表現になるが、この現場は「きれいな汚染」だった。故人も、そう苦しまなかったであろうことが伺えた。汚染は深かったものの、横への広がりが極めて少なく、汚染箇所の撤去はかなり楽にできた。この要因は二つ考えられた。一つは、就寝したまま横になった状態で息絶えたこと。もう一つは、使っていた布団が厚手で吸湿性の高いもの(高級布団?)だったこと。就寝中に死ぬ人は少なくない。しかし、コト切れる間際は苦しいのだろうか、布団に納まってきれいに横になっている状態は少ない。布団から上半身だけでも這い出した状態だと、その後の腐敗汚染度がか...飼猫とサラリーマン

  • ルービックキューブ

    今の若い人達は知らないだろうか、ルービックキューブを。流行ったのはいつ頃だったか・・・ハッキリは憶えてないけど、私と同世代、またはそれ以上の年代の人には知っている人が多いと思う。私の友達には、短時間で6面を合わせる頭脳派もいれば、時間はかかるが諦めないでやる努力家もいた。ちなみ、私は頭脳派でもなければ努力家でもないので、恥をかくだけの無用なチャレンジはしなかった(こういうとこがダメなんだよね)。故人は初老の男性。脳神経系の病気を長く患っていたらしい。故人は、病気の進行具合を自分で把握するために、ルービックキューブを解くことを日課にしていた。家族や看護師に適当にシャッフルしてもらい、6面合わせられるまでの時間を毎日測っていた。次第に時間はかかるようになってきたものの意識はハッキリしており、最期の方は「解けな...ルービックキューブ

  • 冷たいヤツ

    人の身体は死んだ瞬間から腐敗を始める。死後1~2時間程度でも既に腐敗臭がするようなケースも珍しくない。その腐敗開始の早さは驚きものだ。一般的に、遺体は腹(内蔵)から腐り始めると言われている。私の実体験でもそれに違いはない。一見、何ともなさそうな遺体でも、着衣を取ったら腹部か濃緑色に変色していることがよくある。そして、それが次第に広がってくる。もちろん、遺体が置かれる環境・施される処置によって腐敗スピードは異なるため、その腐敗速度を少しでも遅くさせるために手を尽くすことも、我々の仕事の大きな役目である。遺体は火葬まで冷蔵されるのが一般的。霊安室の冷蔵庫で保管されることもあるが、それよりドライアイスを当てられて冷やされることの方が多い。冬場だとドライアイスは10kgもあれば充分、しかし、今のような夏場は10k...冷たいヤツ

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芳田一弥さん
ブログタイトル
特殊清掃「戦う男たち」
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