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  • 年輪

    遺体処置業務で、ある家に訪問した。一般的な先入観を持って行くと悲しみに包まれているはずの家だった。しかし、その家は違った。無邪気な子供達が、場もわきまえずに走り回ったりして大騒ぎ。大人達は、久し振りに会った人達とのお喋りに夢中になり、誰も子供達を制止する人はいない。葬式につきものの辛気臭い雰囲気はどこにもなかった。ま、その方が仕事をしやすい。故人は年配の男性。どことなく笑っているような、安らかな死顔だった。一人の孫と故人の奥さんが遺体の傍についていた。小学校高学年くらいのその孫が奥さん(祖母)に色々と質問をしていた。そのやりとりを、私は作業をしながら黙って聞いていた。Q:「死ぬ時は苦しいの?」A:「苦しくないよ」「お祖父ちゃんだって笑ってるでしょ」Q:「死んだらどうなるの?」A:「みんな好きな場所に行くん...年輪

  • 人間のクズ

    この季節、朝夕には鈴虫の声が聞かれるようになってきた。昼間は、まだ蝉が威勢よく鳴いている。蝉は数年間、陽のあたらない地下生活をした後、最後の一週間だけ明るい地上にでて最期の時を燃焼・満喫するらしい。蝉の一生には自分と重なる部分がある。今は陽のあたらない生き方をしている私だが、いつかは陽のあたる明るい日が来るもしれない?でも、仮にそんな日が来ても「長続きはしない」と思った方がいいかもね。特掃の依頼が入った。現場は古い一戸建、埃をかぶった生活用品(ゴミ?)が山積み状態。昼間なのに家の中は薄暗く湿っぽい感じで、どことなく不気味な雰囲気だった。いつもの様に私は、誰にでもなく「失礼しま~す」と言いながら奥へ進んだ。汚染場所は奥の和室だった。汚腐団は、例の木屑のような茶色の粉(以降、腐敗屑と呼ぶ)に覆われ、所々に小さ...人間のクズ

  • 残り香(後編)

    うちは死体業が本業なのだが、たまに死体に関係ない仕事も入ってくる。ゴミの片付け、消臭・消毒、害虫駆除etc。今回のハウスクリーニング業者が依頼してきたのは消臭。消臭は成果が目に見えないので、簡単にはできない仕事である。特掃とは違った難しさとプレッシャーがある。現場は今風のアパート。築年数も浅く、見た目にもきれいな建物だった。相談してきたハウスクリーニング業者とは、建物の前で待ち合わせて一緒に部屋に入った。私とは違って、腐乱死体のことは夢にも考えていないようだった。部屋の中も見た目にはきれいだったが、確かに異臭がした。軽い異臭なのだが、その臭いを嗅いだ途端にピン!ときた。予想していた通り、腐乱死体臭と酷似していたのだ。そして、部屋の細部を観察すると、更にピン!ときた。極めて目につきにくい所々に、妙な汚れ痕が...残り香(後編)

  • 残り香(前編)

    死体業をやるうえで臭覚は大事。ある程度は臭いを嗅ぎ分けられないと仕事にならない。基本的な部分は臭気測定機でもクリアできるが、やはり最終的には自分の臭覚が頼りになる。また、臭覚には大きな個人差があることを理解しておくこともポイント。ちなみに、私は自分の臭覚は標準レベルだと思っている。あまり鋭い臭覚を持っているど、かえって仕事の障害になるかもしれない。なにせ、いつも私が嗅いでいる腐敗臭はハンパじゃなく臭い!ので、鋭い臭覚を持っていたらそれだけでダウンしてしまうかもしれないから。ホント、希望する読者がいたら一度は嗅がせてあげたいくらいだ。惰性の(退屈な)生活には、抜群のカンフル剤になるかもよ!私の仕事には、悪臭とウジは当然のつきものである。いちいち言うまでもないことなので、最近は記述することを省略しているが、ほ...残り香(前編)

  • 出会いと別れ

    人生は色んな人との出会いと別れの繰り返しである。私が書く「別れ」だからといって、なにも死別とは限らない。別れの中の死別はごく一部。学校・仕事・生活etcを通じて色んな人との出会いと別れがある。考えてみると、私のような者でも、数えきれない人達との出会いと別れを経ている。その中でも、一生を通じて付き合える人とはなかなか出会えないでいる。「この人は一生の友だ!」「ずっと仲良くしていたい!」と、熱くなっていてもそれは一過性のもの。一時期、どんなに仲良くしていても、学校・会社・住居などの所属コミュニティーを異にすると、またそれぞれに新しい出会いがあって、旧来の人間関係は次第に希薄になっていくパターンが多い。特に、それ自体が淋しい訳ではないが、人との出会いに早々と別れ想像してしまう自分にどこか淋しさを覚える時がある。...出会いと別れ

  • 夏の終わりに

    暦はもう秋、朝晩は涼しさを感じるようになってきた(気持ちいい)。今日から9月である。毎年のことだが、夏は特掃業務が更に過酷になる季節。現場も凄惨を極める。そんな現場で汗と脂にまみれて働く。腐敗液に自分の汗が滴り落ちるのを見ながら、神妙なことを考えたり、自分を励ましたり、くだらない事を考えたりする。。やけに哲学的になってみたり、センチになってみたり、バカになってみたり。どうしようもない時は外に出て小休止。荒くなった呼吸と心臓の鼓動、脳ミソを落ち着ける。そんな夏も終わろうとしている。今年の夏もいい?思い出がたくさんできたが、リアルタイム過ぎて紹介できないのが残念。私は、今までに何体もの死体に会ってきた。何件もの腐乱現場に遭遇してきた。病死・事故死・自殺・自然死etc・・・。死に方にも色々ある中で、そんな私が今...夏の終わりに

  • 死に場所

    自分の死については、色々と興味がある。その中で最も気になるは、やはりその時期。今の私は、「元気で長生きしたい」と思っている。過去には、そう思わなかったこともある。勝手なものだ。次に気になるのは、その場所。可能性として高いのは、やはり病院。健康を取り戻し、生命を永らえることが本来の目的(役割)である病院が、皮肉なことに、多くの人の死に場所となる。死を前にすると、いかに人が無力であるかを物語っている。まぁ、仕方のないことだろうが、病院を自分の死に場所とするのは、何となくさえない感じがする。「だったら、どこがいいのか?」ときかれても答えに困るし、残念ながら答を用意しておいたところでそれは何の役にも立たないだろう。特掃現場には、風呂・トイレ・寝室が多い。その場所でコト切れる人が多ということ。風呂で死ぬ場合、浴槽の...死に場所

  • うにどん!

    「食欲増進の巻」私が初めてウニを食べたのは大人になってからである。「美味!」と聞いていたウニは、私にとっては生臭くて食感も悪く、とても美味とは言えなかった。美味しく感じなかった一番は原因は、食べ慣れていなかったせいかもしれない。でも、何度か食べているうちに少しづつ味が分かってきて、だんだん好きになってきた。今は、「大好物」とまではいかないけど好物の一つになっている。そんな私は長い間ウニ丼に憧れを持っていた。それまで、私の口に入るウニは回転寿司の軍艦巻程度。多分、安物。「テレビのグルメ番組にでてくるようなウニ丼を一度は食べてみたいなぁ」と、ずっと思っていた。東京でも数千円だせば食べられるのだろうが、馴染みの寿司屋なんかない私には、美味しいウニ丼がありそうな寿司屋に飛び込む度胸もなく、結局いつまで経っても食べ...うにどん!

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芳田一弥さん
ブログタイトル
特殊清掃「戦う男たち」
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