**************** 何を考えているのか。「私が聞きたいところだ」 冷ややかに嗤いながら、リヒャルティを置き去りに、セシ公は自室から持ち出した紫の布包みを手に、パディスへ馬を走らせ
ツンデレ姫と美貌の付き人などの恋愛ファンタジー毎日連載。『アルファポリス』『小説家になろう』参加。
男勝り姫君ユーノと美貌の付き人アシャのハーレクインロマンス的なファンジー小説『ラズーン』毎日連載。『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』は出戻り姫シャルンと腹黒王レダンのラブコメディ、時々連載。
2040000ヒット、2050000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 3.武君散る(2)
**************** 何を考えているのか。「私が聞きたいところだ」 冷ややかに嗤いながら、リヒャルティを置き去りに、セシ公は自室から持ち出した紫の布包みを手に、パディスへ馬を走らせ
2040000ヒット、ありがとうございます!でもごめんなさい。
え、あれあれあれ? 正直なところ、そんな気持ちです。 先日でしたよね、2030000ヒットにお礼申し上げたの。 お約束の『ラズーン』が一章分もかけていなくて、一節だけ上げさせて頂いて。 このペースでは次の204
2030000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 3.武君散る(1)
**************** 「走れ走れ走れえっっ!!」 シートスの命令が響く。「1人でも多く少しでも早く門に滑り込めっ!」 テッツェの伝令は必死に辿り着いた。 だが、南門が解放され、アリオを放
2020000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 2.『羽根』の誇り(3)
**************** 「互角だな」 厳しく断じてテッツェは剣を振る。目の前に押し寄せて来る兵はクェトロムトの王シーラ、カザドのカザディノ率いる混合軍だが、両者とも主人は後方に控えたままな
**************** 小さな用水路と目を射るほどの鮮やかな緑を窓枠の中に閉じ込めた部屋は、外から入ると静かで冷たくてひんやりとしていた。 部屋の隅に積まれている木の机を一つずつ並べてい
**************** 書く意欲を失い気力を失い、けれど発表する手段は失うことなく日々が過ぎる。いや、捨てようと思えば、手段だっていつでも手放せる。止めてしまえばいい、きっと過去の栄光に
**************** ある夜、神がやってきた。「いや、ここのところ、忙しゅうてな、済まなんだ。え、何、書くのを止める? 今更何言うてんのや、アホくさい。自分の力不足を痛感した? ああ、
ずいぶんご無沙汰しています。 なのに、いつもご訪問ありがとうございます。 短い作品・童話・SS・BL新ネタ・猫たちの時間シリーズはメルマガ展開し、『ラズーン』はこちらで10000ごとの展開、あと動かせていない
**************** 「あれ?」 本屋から帰って机の上にポートレートと読みかけの本がないのに気づく。「あいつが持ってったのかな」 とりあえず、周一郎の部屋を訪ねる。ノックに応じて返答があ
**************** 「サンティアゴへ行こう…」 開いた本の詩は繰り返す。水の馬車に乗って、椰子の天井が歌う、バナナがくらげになる、ロミオとジュリエットのバラを持ち、と続けながら。「結局
**************** 「お前、勘違いするなよな。俺が厄介ごとに突っ込むのは『習性』なんだからな」「…」「今度だって、断ろうと思えば断れたんだ。それをいつものお節介で、俺が勝手に飛び込んでき
**************** コンコン。「…」 コン…コン。「ん……」 夢の中で響いたノックがまだ聞こえてやがる、と思いながら寝返りを打つ。 昼間見た光景のせいか訳のわからない夢で、あの礼拝堂の扉
**************** 「滝さん!」 苛立たしげな声に、我に返る。 バルセローナ、ゴシック地区の一角、大悟の知り合いの家とかを、周一郎は探し当てたらしい。「何をぼうっとしてるんですか」 は
**************** そうやって、過去の傷は時折深く、周一郎の心に口を開けていく。 再会したイレーネは、RETA(ロッホ・エタ)と組んで、周一郎の口からなんとか『青の光景』の行方を引き出そう
**************** バルセローナ。 スベイン北東、カタルーニャ地方の都会。ピカソが育ち、天才建築家ガウディが育んだ街。新しい思想と芸術、植民地戦争の敗北、政治の激動、20世紀末のこの都
**************** 汚れた床の上、倒れたイレーネの側に上尾が膝をついている。左腕に巻いたハンカチを右手で解き、片手で不器用に広げ、無言のままイレーネの顔にかけた。ステンドグラスの破れ目
2010000ヒット、御礼!『ラズーン7』2.羽根の誇り(2)
**************** 「南で『鉄羽根』と『運命(リマイン)』が再びぶつかり出したそうだぞ」「大丈夫なのか、『鉄羽根』は」 与えられた私室の扉の外で、声高に話す者がいる。 アリオは臥せって
**************** 改めて見れば、本当にとびきりの美人、どうしてこんな『忙しい』ときにしか美人と関わらんのだろーか。俺は平時にこそお付き合いしたいと切に切に願っているんだが。まあ、カッ
**************** 仰け反って頭を打ち、泡立った脳味噌の整理にうろたえる俺の耳に、聞き慣れたハスキーヴォイスが届く。(上尾?) どうしてここに、と思うまもなく、上尾は振り返ったイレーネ
**************** それほど大きな丘でなかったにせよ、俺がそこへ辿り着くまでには、数回ルトに指を齧られていた。「ぎゃわ!」 指先に激痛が走って、思わず跳ね上がり立ち止まる。はあはあと
**************** 「けれど、わからないのは」 お由宇の声に我に返る。「どうして、イレーネはあの2人を殺したのかってことね」 俺は、再び、お由宇から丘の上の十字架に目をやった。 俺達がイ
**************** きっ、と軽い音とともに車が止まる。ドアを開けて足を下ろすと、靴の裏で乾いた土が音を立てた。「志郎」「ああ…」 助手席から先に降りたお由宇の白く細い指がさす先、いじ
**************** 回教徒のモスク跡に1402年から100年ほどかかって建てられた116m×76mの規模はスペイン最大のカテドラル、入り口のパロスの門を足元に、『ヒラルダの塔』はある。 高さは97.5m
**************** 「由宇子さん」 唐突に『ランティエ』の声が響いて、俺は我に返った。「『ヒラルダの塔』と言うのは当たってたみたいですよ。残念ながら、すぐには行けそうにないが」「え?」
**************** 「くっ……はっはははは…」「?!」 唐突に『ランティエ』が大笑いを始めてぎょっとした。反対に、高野が苦り切った顔で黙り込む。ただ一人、お由宇が肩越しに視線を投げ、歌うよう
**************** 夜を衝いて走る車の中には、外の闇よりも重苦しい沈黙が満ちていた。ハンドルを握る『ランティエ』、助手席で前方を見つめているお由宇、後ろで暗い表情で体を強張らせて座っ
**************** 「話してもらおうか」 コルドバでも指折りの4ツ星のホテルの最上階の一室で、俺は上尾を睨めつけた。もっとも、俺1人ではたいした凄みはなかっただろうが、手持ち無沙汰な様子
**************** 夜は深々と、家々の壁に、黒い鉄の茎で支えられた8本のカンテラの真下に、その明かりに浮かび上がった十字架のキリスト像の、削げたような頬に、あばらの浮いた体に、その身
**************** 「知り合い?」「知り合いと言うか……確か、上尾旅人とか言う奴だよ」 大学に居たろ、と振ってみたが、お由宇は覚えがなさそうに首を傾げる。「気のせいか、俺達の行く所行く所に
**************** ぽつりぽつりと建つ黄色の塔で弔いの鐘が鳴っている。一本の道を萎れたオレンジの花を頭に乗せた『死』が歌いながら通っていく……不吉でやり切れない、乾いた光景。(読まなき
**************** 「だから、『ランティエ』に贋作を依頼して、それを渡した、と」 考えはお由宇の声に遮られた。「パブロは最後まで気づかなかったでしょう。彼にとって、必要なのは『あの絵』で
**************** 「何?」「その様子じゃ」 お由宇はほ、と軽い溜息をついた。「今度も、訳が分からずに飛び込んで来たみたいね」「今度も、とは何だよ」 むくれて言い返した。「言っとくが、
**************** 彼に続いて恐る恐る小さな暗い間口を潜って入ると、中は小舞台風に中央を空けた、居酒屋のような店だった。まだ時間が早いせいだろう、人影は少なく、外国人の俺達を舐め回す
**************** 「おっ…おいっ…」 俺ははあはあ言いながら、前を歩くアルベーロと高野に呼びかけた。緩やかになったり急になったり曲がりくねる坂道を登り、入り組んだ街並みを通り抜けはじめ
**************** 「ふ…う…っと」 ソファから反動をつけて立ち上がる。スペインに来て、2日目の夜が来ようとしていたが、周一郎の行方は相変わらずわからないまま、最後の頼みの綱と掛けたお由
**************** (人が必死に探していたのに、心配するなとは) 高野もさすがにムッとして周一郎の側に立つと、少年はついと河の方を指差した。「高野」「はい」「もし、ぼくがここに落ちたら
**************** 「…象牙の…歯を……」「滝様!」 高野の声に本を閉じる。 タホ河河畔、乾いたスペインの中で豊かに水をたたえる沃野、アランフェス。そこには、河の蛇行に沿って緑溢れる庭園と
**************** ガタッと音を立てて急に車が止まり、高野は話を止めた。運転手に札を渡す。ちらりとこちらを見た相手は、にっ、と唇の端で笑って見せた。「¡Buen viaje!」「Gracias. どうぞ
**************** 今から約10年前の夏。「その頃、南欧、特にスペインを中心として手を広げている貿易商で、パブロ・レオニと言う者がおりました。もっとも、それは表向きのこと、裏では『青(
**************** 「ぐ、ぐわ…っ」 空港に降りて、寒さに思わず呻く。「だ…誰がスペインを南国だと言った……っ」 周囲の注視を避けて小さくなりながらぼやく。 とにかく冷え込む。日本の冬とと
**************** 「ったく…何だ?」 俺はぼやきながら、受話器を置いた。「お由宇もどっか行ってんのか?」 どうも周一郎のことが気になって(第一、今までの商用旅行に高野が付いて行ったこ
**************** 「ん…うにゃ」 身動きして、部屋の眩さに開きかけた目を閉じる。手探りで探した目覚まし時計はどこにもない。仕方なしに体を起こして、寝ぼけ眼で見渡すと、どうしてそこまで
**************** ……にしても。 俺は溜息をつきながら、『たこ焼き』を食べている周一郎を見やった。 にしても、だ。一体、たこ焼き食って、様になる男がどこにいるんだ、どこに! ああここ
2010000ヒット、ありがとうございます!『青の恋歌(マドリガル)』連載開始。1.覚え書き(1)
**************** 「えーっ…と…」 学園祭で賑わう人混みを掻き分けながら、俺は周囲をキョロキョロ見回した。「…っかしいな……この辺にいるって…」 別名2月祭とも言われる学園祭には、毎年多く
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(4)
**************** 「シャルン!」 さすがにこれ以上の悪趣味を重ねる気になれず、レダンは声を張り上げた。「大丈夫だ。こいつら……ガーダスは、俺達に興味がないようだ!」 ことばだけでは足
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(3)
**************** 「いやああっ!」 シャルンの高い悲鳴が響いた時、レダンの胸に愛おしいとも誇らしいとも言えぬくすぐったい感情が溢れた。同時に自分の非情さに呆れもした。「男と言うのはど
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(2)
**************** 一匹ではなかった。 四方八方に散った通路、そのどれからも同じように通路を満たしながら、中には体で岩をなおも削りながら、巨大な白い虫が這い出てくる。幾つかの結節に分
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(1)
**************** 坑道に入ってどれほど経ったのかは定かではないが、水を補給した休憩よりなおしばらく奥に進んで、一行は立ち止まった。「ここに来て、これですか」 ガストが嘆息するのも無
2000000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第7部 2.『羽根』の誇り(1)
**************** 『…ラズーンを…亡ぼそう…』 確かにそう聞こえた、あの夜、ユーノを抱きしめたアシャの唇から。 病床から蘇ったアシャは、あまりにも人離れしていて『魔』の匂いが濃く、なの
1990000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン7』1.開門(4)
**************** 「降ってきたな」 プラチナブロンドが流れ落ちる奥でいつも艶やかに光るセシ公の眼は、今日は珍しく重苦しく見える。「一時休戦、ってとこだな」 リヒャルティは濡れた衣服を
1990000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン7』1.開門(3)
**************** ゆっくりと空が雲に覆われていく。「嫌な雲行きになってきたな」 落ち着かぬふうで首を上げ下げする平原竜(タロ)の首を叩きながら呟いたユカルは空を見上げ、溜め息をつき
1990000ヒットありがとうございました!『ラズーン 7』1.開門(2)
**************** 「もう、避難が始まったようですね」 人気のなくなったミダス公宮の一室で、ジノは窓の外を伺いながら呟いた。 レスファートはジノの向かい側でクッションに体を埋めるよ
**************** 「かわい、そう?」 俺の頓狂な返答に、由美は笑いを響かせた。『だってね、高多君、和枝を殺してなんかいないんです』「へ?」『和枝が一人で落ちちゃっただけ。私、見てたんだ
1980000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン7』1.開門(1)
**************** 「扉が開くぞ!」「おお、『氷の双宮』の扉が!」 人々の間から静かな囁きが広がり、やがて大きなどよめきとなっていった。『氷の双宮』 二百年以上の長きに渡って四大公し
****************「そうですか……」 見舞いに来た俺と周一郎(もっとも周一郎は俺が無理に引っ張って来たのだが)に、るりは儚げな微笑を見せた。 謎解きが終わったことを告げられると、一層淡い笑
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 7.時には愛が(3)
**************** 「…俺は河本の言う通りにするしかなかった」 高多は噛み切るような激しさで言い切り、がぶりとコーヒーを飲んだ。味も何もわかっていないのだろう。口の中に残った苦さに、初めて
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 7.時には愛が(2)
**************** 赤い夕陽の中、不安そうに待っていた和枝は、高多の足音にぱっと振り返った。頬を染め、俯く。それから、蚊が鳴くように小さく、「あの……高多さん…お話がある……んです」「だっ
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 7.時には愛が(1)
**************** 窓の外は曇って来ていた。さっきまで、近頃には珍しい晴天で、いやに冷え込むと思ってはいたが、この様子じゃ雪になるかも知れない。昼過ぎだというのに、薄暗い陽が弱々し
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 6.パズルな夜(2)
**************** リッ……リリリリ…。「!」 鳴り出した電話にぎくりとして我に返る。受話器を取り上げたお由宇が、二言三言話して、俺を振り向いた。瞳が打って変わって、どこか優しい、どこか
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 6.パズルな夜(1)
**************** 「あら…」 お由宇は玄関で俺を迎え、しばらく感心したように、腰に手を当て、俺を見ていた。「わ…わるいけど……え…っくしょいっ!!」「…」「ちょっと、ふ…服を…ひえっくしょん!
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 5.空を飛べたら(3)
**************** (本当に、この娘が人を殺したのか?) 心の中に、またもや何度も繰り返した問いが膨れ上がる。 るりの笑顔には、そういったものを思わせる翳りはどこにも見当たらない。それ
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 5.空を飛べたら(2)
**************** 「それより…」「うん?」「麻薬の方はどうなってるんですか?」「あんまりおおっぴらにできんのだが…」 ことばを切り、俺がその意味を『きちんと』理解しているのかどうかを疑う
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 5.空を飛べたら(1)
****************「きゃっ…」「あ、悪い…」 高多の後を追って店を出かけた俺は、ちょうど入って来ようとした娘とぶつかりそうになって慌てて避けた。不安定な姿勢を、浮かせた片足と広げた両手で
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 4.卒業写真のその先で(2)
**************** 「いや、今の子、これを忘れてったぞ」「会った時に返しとくよ。何だ、高校の時の卒業写真じゃないか」 懐かしそうに呟いて、今まで典代が座っていた所に腰を下ろす。「ずっと前
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 4.卒業写真のその先で(1)
**************** 店で流れていたのは昔懐かしい歌だった。革表紙の卒業写真なんて、今も渡されているんだろうか。「で?」 しばらく黙ったまま聴いていた俺は、業を煮やして目の前でアイステ
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 3.裏切りの街(3)
****************「可哀想に」「だろ! 何も今更、高多を見捨てろなんて言わなくても…」「馬鹿ね」 お由宇はいつもの決まり文句を少々冷たく口にした。「私が言ってるのは、周一郎の方よ」「周一
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 3.裏切りの街(2)
****************「ん?」 俺は高多が調べて来た情報に目を通すのを中止して、周一郎の方を振り向いた。 俺の部屋のソファに、細身の体を気持ち良さそうに納めた周一郎は、既にその資料を読み終
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 3.裏切りの街(1)
**************** 「そうねえ…そう言えば、最近、高多君、るりちゃんに冷たかったわよね」 平田奈子はもう一人の娘に同意を求めた。「うん、そうね、そう言えば…」 ショートカットの実尾典代が
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 2.積み重ねた日記帳(3)
**************** 「坊っちゃま」「ん?」 ドアの外から高野の声が響いて、俺と周一郎はそちらを見た。「いらっしゃいましたが」「入ってもらってくれ」「誰だ?」「厚木警部です」「なにい?」
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 2.積み重ねた日記帳(2)
**************** 「どう思う?」 高多が一通りのことを話し終わって帰って行った後、俺は周一郎に問いかけた。「そうですね」 相手はゆっくりとコーヒーを口に含んだ。「彼が謎解きをしたがっ
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 2.積み重ねた日記帳(1)
**************** 「……」 ふと、膝の上のルトを撫でていた周一郎が手を止めた。ちらりと玄関の方へ目を遣る。「ん?」「いらっしゃったようですね」 言いながら、外していたサングラスを掛け
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 1.雨の日の物語(2)
**************** 3日後。「あつっ…つっ…」 ノックが響く。「開いてるよ……うあっち!」 答えてドアを振り向き、拍子に傷口に貼ったカットバンを思い切り引っ剥がして声を上げた。「く…ああ
『夢を抱いた男』〜『猫たちの時間』10〜 1.雨の日の物語(1)
**************** それは初冬と言うのも遅すぎた、ある雨の日のことだった。「ひええええぃ」 俺は学校帰りに雨に降られ、ようよう軒先きの一つに飛び込み、バタバタ雨粒を払い落としながら周
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第3話 花咲姫と奔流王 24.国史(2)
**************** 「…良いんですか」 ガストの声に、レダンはちらりとバラディオスと話し込むシャルンを見遣る。「良い。あいつがあれほど派手に反応するとはな。面白いやつじゃないか」「…お
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第3話 花咲姫と奔流王 24.国史(1)
**************** 薄暗い坑道の中を先に立って進みながら、先ほどから「どう言うことだあれは」とか「計算外だったな畜生」とか「誰か余計なことを吹き込んだんじゃないだろうな」とか「これ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第3話 花咲姫と奔流王 23.私室(2)
**************** あなたが読んでからでいいよ。 レダンはそう囁いて、シャルンを抱きしめたまま、ソファでゆっくりすることに決めてしまったらしい。離してくれないので、仕方なしにシャル
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第3話 花咲姫と奔流王 23.私室(1)
**************** 「手紙?」「はい、母から私へのものだと思います」 レダンはシャルンの元私室で質素な椅子に腰を降ろした。 玉座の広間より少し離れた場所に設えられていた部屋は、隙間風
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第3話 花咲姫と奔流王 22.書庫(2)
**************** 一体何を話されているのかしら。 シャルンは背後で妙に親しげにことばを交わす父親とレダンを、そっと見遣る。 あれほど父が顔を赤らめて話す姿は見たことがないし、レダ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第3話 花咲姫と奔流王 22.書庫(1)
**************** 「ここへ入るのは、これで2度目だな」 ハイオルトの居城、今は空の玉座を見上げながら、レダンは呟いた。 シャルンを奪い返しに侵略した時、何ひとつ手立てを落とさぬつもり
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第3話 花咲姫と奔流王 21.前夜(2)
**************** 「えーとですね」 ガストが集まった人間を見回す。「かなり珍妙な組み合わせになっていますが、大丈夫ですか?」「大丈夫も何も」 レダンは溜息をついた。「募集をかけたわ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第3話 花咲姫と奔流王 21.前夜(1)
**************** アルシアからの客人と報じられて、シャルンは訝った。 サリストアは今のシャルンの現状を知っている。ましてや今は、右手首から先を失ったミラルシアの看護にもついている
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第3話 花咲姫と奔流王 20.愛しさゆえの距離(2)
**************** 何かが砕ける音がした。「っ」 打ち合うことをやめて、すぐに彼の人の場所を振り向く焦がれに気づき、なのに走り寄ろうとはしない恐れに気づく。「参りましょうか?」 ガ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第3話 花咲姫と奔流王 20.愛しさゆえの距離(1)
**************** 穏やかな日差しの中、テラスで1人、準備されたお茶を前に身動きせず、シャルンはじっと外を眺めている。『あなたは……人では…ないのだろうか…?』 海辺で静かに尋ねられた声
1970000ヒット御礼!『猫たちの時間+(プラス)』最終話 15.空に還る
**************** 同じ光景を昔に見た。 空へと還る人を見送る瞳、遠く彼方に投げられて動かない。 朝倉家のそこここで、密かに行われた告別式に参加した者もできなかった者も、高野を惜しむ顔
**************** 俺は滝という男が嫌いだ。 孤児だかなんだか知らないが、明るく正しく生きてるんだという顔をして、へらへら笑っていやがるあの能天気さが嫌いだ。 ドジで頭も切れねえく
**************** 「坊っちゃま…」「何?」 打てば響くように返ってくる答えに、高野はことばに詰まった。 周一郎は知っていたのかもしれない、大悟が決して自分を大切に思って保護してくれた
**************** 「坊っちゃま…」「何?」 打てば響くように返ってくる答えに、高野はことばに詰まった。 周一郎は知っていたのかもしれない、大悟が決して自分を大切に思って保護してくれた
**************** 朝倉家ほどの邸を管理し、動かし、整えるのは並大抵のことではない。邸そのものや広大な庭、数々の防災設備(もちろん、それには『人災』も入る)などの物質的なものは無論
**************** 高野は5時30分に起きる。 かけておいた目覚ましは大抵5分前に止め、ベッドから起き上がって着替えを済ませ、まだ火の入っていない食堂で自分で淹れた紅茶とビスケット数枚
**************** 解剖室に戻る前に、ここだけ見ておいて下さい。 そう頼まれて、森田とともに実験室に入る。「へえ…」 シャーレに液を落としながら、森田は感嘆したような声を上げた。「出会っ
**************** 解剖室には静けさが漂っている。 今しも目の前で、同期の田畑が遺体の右脇にメスを入れている。 人の腰ぐらいの高さの台に横たえられた遺体はホルマリン漬けになっていて
**************** 「ほ…ほほ…」 話を聞き終わった『寿星老(ショウチンラオ)』は微かに笑った。「そのタキ、とか言う男……なかなかどうして……大した男じゃないか…」「でしょう? 何か……呆けて
**************** 飛行機は今、再び由宇子を香港へ、あの夜の都へ運びつつあった。痛みに似た優しさとひとりぼっちの心細さが交互に由宇子の心を揺らせる。 あの2日後、由宇子は陵から資料を
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』4.闇の中の野花儿(イェーファール)(3)
**************** 大学を出て、由宇子は近くの喫茶店に向かった。今朝家を出る前に、唐突に厚木から電話があって話したいと言って来たのだ。「いらっしゃいませ」 ウェイトレスの声に迎えら
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』4.闇の中の野花儿(イェーファール)(2)
**************** コーヒーの香りが満ちて、由宇子は立ち上がった。カップに移し、口元へ持って行こうとした矢先に電話のベルが鳴る。こんな時間にかかって来る相手は相場が決まっている。「
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』4.闇の中の野花儿(イェーファール)(1)
**************** 薄い夕闇だった。 目の前を男が1人、背を丸めるようにして急ぎ足に歩いて行く。 右へ曲がる。立ち止まる。目の前に工事中の札。引き返す。左へ曲がってしばらくまっすぐ、
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』3.十字路口(シーチールーコウ)(2)
**************** 「質問って、どんな質問?」「よく覚えていないんだが…」 滝は子どもっぽい悩みの表情を浮かべて見せた。「テストの闇市…だとか……『つなぎ』がどうとか」「ふ…うん…」 由宇
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』3.十字路口(シーチールーコウ)(1)
**************** 告示が出たのは、それから1週間も立たない日のことだった。『滝 志郎 右、一ヶ月の停学処分とする』「あら…」「へえ…」「どうしたんだろうねえ…」「あいつのことだから、
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』2.一人ぼっちの小姑娘(シャオクーニャン)(2)
**************** あの時。 滝が階段を転げ落ちた時、並の人間なら気づかなかっただろうが、あの八木、と言う男がとっさに紙を滝のポケットに滑り込ませるのを、由宇子は見ていた。 街中、
『猫たちの時間』番外編『香港小夜曲』2.一人ぼっちの小姑娘(シャオクーニャン)(1)
**************** 桜の蕾はまだ固い。頑なに内にこもった淡色の丸みは、目を閉じ耳を塞ぎ、ただひたすら自分の中の何かが熟すのを待っている、幼い少女のように見える。「……」 見るともなし
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**************** 何を考えているのか。「私が聞きたいところだ」 冷ややかに嗤いながら、リヒャルティを置き去りに、セシ公は自室から持ち出した紫の布包みを手に、パディスへ馬を走らせ
え、あれあれあれ? 正直なところ、そんな気持ちです。 先日でしたよね、2030000ヒットにお礼申し上げたの。 お約束の『ラズーン』が一章分もかけていなくて、一節だけ上げさせて頂いて。 このペースでは次の204
**************** 「走れ走れ走れえっっ!!」 シートスの命令が響く。「1人でも多く少しでも早く門に滑り込めっ!」 テッツェの伝令は必死に辿り着いた。 だが、南門が解放され、アリオを放
**************** 「互角だな」 厳しく断じてテッツェは剣を振る。目の前に押し寄せて来る兵はクェトロムトの王シーラ、カザドのカザディノ率いる混合軍だが、両者とも主人は後方に控えたままな
**************** 小さな用水路と目を射るほどの鮮やかな緑を窓枠の中に閉じ込めた部屋は、外から入ると静かで冷たくてひんやりとしていた。 部屋の隅に積まれている木の机を一つずつ並べてい
**************** 書く意欲を失い気力を失い、けれど発表する手段は失うことなく日々が過ぎる。いや、捨てようと思えば、手段だっていつでも手放せる。止めてしまえばいい、きっと過去の栄光に
**************** ある夜、神がやってきた。「いや、ここのところ、忙しゅうてな、済まなんだ。え、何、書くのを止める? 今更何言うてんのや、アホくさい。自分の力不足を痛感した? ああ、
ずいぶんご無沙汰しています。 なのに、いつもご訪問ありがとうございます。 短い作品・童話・SS・BL新ネタ・猫たちの時間シリーズはメルマガ展開し、『ラズーン』はこちらで10000ごとの展開、あと動かせていない
**************** 「あれ?」 本屋から帰って机の上にポートレートと読みかけの本がないのに気づく。「あいつが持ってったのかな」 とりあえず、周一郎の部屋を訪ねる。ノックに応じて返答があ
**************** 「サンティアゴへ行こう…」 開いた本の詩は繰り返す。水の馬車に乗って、椰子の天井が歌う、バナナがくらげになる、ロミオとジュリエットのバラを持ち、と続けながら。「結局
**************** 「お前、勘違いするなよな。俺が厄介ごとに突っ込むのは『習性』なんだからな」「…」「今度だって、断ろうと思えば断れたんだ。それをいつものお節介で、俺が勝手に飛び込んでき
**************** コンコン。「…」 コン…コン。「ん……」 夢の中で響いたノックがまだ聞こえてやがる、と思いながら寝返りを打つ。 昼間見た光景のせいか訳のわからない夢で、あの礼拝堂の扉
**************** 「滝さん!」 苛立たしげな声に、我に返る。 バルセローナ、ゴシック地区の一角、大悟の知り合いの家とかを、周一郎は探し当てたらしい。「何をぼうっとしてるんですか」 は
**************** そうやって、過去の傷は時折深く、周一郎の心に口を開けていく。 再会したイレーネは、RETA(ロッホ・エタ)と組んで、周一郎の口からなんとか『青の光景』の行方を引き出そう
**************** バルセローナ。 スベイン北東、カタルーニャ地方の都会。ピカソが育ち、天才建築家ガウディが育んだ街。新しい思想と芸術、植民地戦争の敗北、政治の激動、20世紀末のこの都
**************** 汚れた床の上、倒れたイレーネの側に上尾が膝をついている。左腕に巻いたハンカチを右手で解き、片手で不器用に広げ、無言のままイレーネの顔にかけた。ステンドグラスの破れ目
**************** 「南で『鉄羽根』と『運命(リマイン)』が再びぶつかり出したそうだぞ」「大丈夫なのか、『鉄羽根』は」 与えられた私室の扉の外で、声高に話す者がいる。 アリオは臥せって
**************** 改めて見れば、本当にとびきりの美人、どうしてこんな『忙しい』ときにしか美人と関わらんのだろーか。俺は平時にこそお付き合いしたいと切に切に願っているんだが。まあ、カッ
**************** 仰け反って頭を打ち、泡立った脳味噌の整理にうろたえる俺の耳に、聞き慣れたハスキーヴォイスが届く。(上尾?) どうしてここに、と思うまもなく、上尾は振り返ったイレーネ
**************** それほど大きな丘でなかったにせよ、俺がそこへ辿り着くまでには、数回ルトに指を齧られていた。「ぎゃわ!」 指先に激痛が走って、思わず跳ね上がり立ち止まる。はあはあと
**************** 小さな用水路と目を射るほどの鮮やかな緑を窓枠の中に閉じ込めた部屋は、外から入ると静かで冷たくてひんやりとしていた。 部屋の隅に積まれている木の机を一つずつ並べてい
**************** 書く意欲を失い気力を失い、けれど発表する手段は失うことなく日々が過ぎる。いや、捨てようと思えば、手段だっていつでも手放せる。止めてしまえばいい、きっと過去の栄光に
**************** ある夜、神がやってきた。「いや、ここのところ、忙しゅうてな、済まなんだ。え、何、書くのを止める? 今更何言うてんのや、アホくさい。自分の力不足を痛感した? ああ、
ずいぶんご無沙汰しています。 なのに、いつもご訪問ありがとうございます。 短い作品・童話・SS・BL新ネタ・猫たちの時間シリーズはメルマガ展開し、『ラズーン』はこちらで10000ごとの展開、あと動かせていない
**************** 「あれ?」 本屋から帰って机の上にポートレートと読みかけの本がないのに気づく。「あいつが持ってったのかな」 とりあえず、周一郎の部屋を訪ねる。ノックに応じて返答があ
**************** 「サンティアゴへ行こう…」 開いた本の詩は繰り返す。水の馬車に乗って、椰子の天井が歌う、バナナがくらげになる、ロミオとジュリエットのバラを持ち、と続けながら。「結局
**************** 「お前、勘違いするなよな。俺が厄介ごとに突っ込むのは『習性』なんだからな」「…」「今度だって、断ろうと思えば断れたんだ。それをいつものお節介で、俺が勝手に飛び込んでき
**************** コンコン。「…」 コン…コン。「ん……」 夢の中で響いたノックがまだ聞こえてやがる、と思いながら寝返りを打つ。 昼間見た光景のせいか訳のわからない夢で、あの礼拝堂の扉
**************** 「滝さん!」 苛立たしげな声に、我に返る。 バルセローナ、ゴシック地区の一角、大悟の知り合いの家とかを、周一郎は探し当てたらしい。「何をぼうっとしてるんですか」 は
**************** そうやって、過去の傷は時折深く、周一郎の心に口を開けていく。 再会したイレーネは、RETA(ロッホ・エタ)と組んで、周一郎の口からなんとか『青の光景』の行方を引き出そう
**************** バルセローナ。 スベイン北東、カタルーニャ地方の都会。ピカソが育ち、天才建築家ガウディが育んだ街。新しい思想と芸術、植民地戦争の敗北、政治の激動、20世紀末のこの都
**************** 汚れた床の上、倒れたイレーネの側に上尾が膝をついている。左腕に巻いたハンカチを右手で解き、片手で不器用に広げ、無言のままイレーネの顔にかけた。ステンドグラスの破れ目
**************** 「南で『鉄羽根』と『運命(リマイン)』が再びぶつかり出したそうだぞ」「大丈夫なのか、『鉄羽根』は」 与えられた私室の扉の外で、声高に話す者がいる。 アリオは臥せって
**************** 改めて見れば、本当にとびきりの美人、どうしてこんな『忙しい』ときにしか美人と関わらんのだろーか。俺は平時にこそお付き合いしたいと切に切に願っているんだが。まあ、カッ
**************** 仰け反って頭を打ち、泡立った脳味噌の整理にうろたえる俺の耳に、聞き慣れたハスキーヴォイスが届く。(上尾?) どうしてここに、と思うまもなく、上尾は振り返ったイレーネ
**************** それほど大きな丘でなかったにせよ、俺がそこへ辿り着くまでには、数回ルトに指を齧られていた。「ぎゃわ!」 指先に激痛が走って、思わず跳ね上がり立ち止まる。はあはあと
**************** 「けれど、わからないのは」 お由宇の声に我に返る。「どうして、イレーネはあの2人を殺したのかってことね」 俺は、再び、お由宇から丘の上の十字架に目をやった。 俺達がイ
**************** きっ、と軽い音とともに車が止まる。ドアを開けて足を下ろすと、靴の裏で乾いた土が音を立てた。「志郎」「ああ…」 助手席から先に降りたお由宇の白く細い指がさす先、いじ
**************** 回教徒のモスク跡に1402年から100年ほどかかって建てられた116m×76mの規模はスペイン最大のカテドラル、入り口のパロスの門を足元に、『ヒラルダの塔』はある。 高さは97.5m
**************** 「由宇子さん」 唐突に『ランティエ』の声が響いて、俺は我に返った。「『ヒラルダの塔』と言うのは当たってたみたいですよ。残念ながら、すぐには行けそうにないが」「え?」