エターナル・アイズ

『闇を闇から』3.オーバーラップ(5)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「……………悔しいんだって」 ゆっくりと目を開ける。 コーヒーカップを両手で包んで見上げてくる伊吹に微笑む。 そのカップになりたい、と一瞬願った。 本当のことはきっと言

2025/04/30 00:00

『闇を闇から』3.オーバーラップ(4)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「……………悔しいんだって」 真崎は虚ろな目で笑った。「何にも努力しないで、僕にうんと愛されるのがむかつくんだって言ってたよ。………殺すつもりじゃなくて、ただ料理していたら

2025/04/29 00:00

『闇を闇から』3.オーバーラップ(3)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「ああ、片付けるのが面倒で」「猫が死んだのはいつです？」「……一年ほど前、かな」 京介は当たりさわりのない答えを心掛ける。 本当は片付けようとしたけれど、処分するゴミ収

2025/04/28 00:00

『闇を闇から』3.オーバーラップ(2)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「はい、着きましたよ、どうぞ」「ありがとうー」「じゃあいいですね」「んー」 伊吹が手を離しかけたとたんにぱん、とドアの隣の壁を叩いてみせると、ぎょっとしたように見上

2025/04/27 00:00

『闇を闇から』3.オーバーラップ(1)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 入って、と美並が招かれた部屋は驚くほど何もなかった。「さっきの玄関のところに猫があって」「説明しなくていいから」 あ、そうそう、と思い出したように振り返る真崎に顔

2025/04/26 00:00

『闇を闇から』2.闇から見る眼(9)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「ちょっと待った」「はい？」「…………あんた、酔ってんの？」「酔ってません」 ぶっきらぼうな伊吹の口調に京介への微かな心配を感じ取って、また身体が熱くなった。 それと同時

2025/04/25 00:00

『闇を闇から』2.闇から見る眼(8)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「課長？」「はい」「これのどこがカフェなんですか」 伊吹が京介のマンションのエントランスで凍りついたのを、くるりと振り返って、「カフェなんて言ってないよ？」「は？」

2025/04/24 00:00

『闇を闇から』2.闇から見る眼(7)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 不愉快だ。 一瞬に自分の心を塗りつぶした真っ黒な靄を、いつものように客観視できなくて、京介はレタスに噛みついた。 不愉快だ。 全くもって不愉快だ。 なぜ、彼女は未だ

2025/04/23 00:00

『闇を闇から』2.闇から見る眼(6)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 伊吹を連れていったのは近くのフレンチレストラン。 一時期ほどの熱狂的なファンもいないが、通いだした常連は離れていかず客が途切れない店で、今日も直前に入れた電話では

2025/04/22 00:00

『闇を闇から』2.闇から見る眼(5)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 不安そうな顔をして横目でちらちら見てくる伊吹の隣で、アイスコーヒーを飲みながら、さてそういうことならどういう手が効果的かなあ、と考える。 男性関係はほとんど皆無、

2025/04/21 00:00

『闇を闇から』2.闇から見る眼(4)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ さりげなく、ごくさりげなく京介は動き方を変えた。 伊吹を一人にしないように、微妙な頃合で仕事を始めたり、電話をかけだしたりする。 気付いたのはやはり石塚だ。「課長

2025/04/20 00:00

『闇を闇から』2.闇から見る眼(3)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 伊吹美並は順調に仕事を覚えていった。 いろいろなアルバイトをしていたというせいもあるのか、人慣れも早いし、応対も丁寧だ。他課での反応も客からの評判も悪くない、むし

2025/04/19 00:00

『闇を闇から』2.闇から見る眼(2)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 名前を知ったのは会うよりも早かった。 京介と別れた後ぐらいから、相子は体調を崩すようになって、唐突に休むことが増えた。 流通管理課というのはそれほど仕事が多いわけ

2025/04/18 00:00

『闇を闇から』2.闇から見る眼(1)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 温かな息がかかったような気がした。 目覚まし代わりの一舐めがもうすぐやってくるから阻止したい。 手を伸ばして京介はぱたぱたと枕元を探る。「イブキ……？」 無意識に口

2025/04/17 12:38

『闇を闇から』1.闇を見る眼(4)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ もう一軒つき合って。すぐ近くだし、おいしいコーヒー飲みたくない？ そう誘われて、これが最後ですよ、と念を押したのは、プライベートなつき合いはこれっきりだと言う意味

2025/04/16 00:00

『闇を闇から』1.闇を見る眼(3)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「……本当は話したくないんです」「見えるってこと？」「課長と」「あれ？」 レストランで向かい合い、真崎はきょとんと目を見張ってから、それは困ったなあ、と苦笑いした。「

2025/04/15 00:00

『闇を闇から』1.闇を見る眼(2)

2025/04/14 00:00

『闇を闇から』1.闇を見る眼(1)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「これ、全部シュレッダーかけるの？」「あ」 ついと人影が寄ってきたかと思うと、ボックスに入った文書を取り上げた相手が呆れ声を上げた。「はい」「凄い量だね……伊吹さん一

2025/04/13 00:00

『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(4)

​​＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「シャルン！」 さすがにこれ以上の悪趣味を重ねる気になれず、レダンは声を張り上げた。「大丈夫だ。こいつら……ガーダスは、俺達に興味がないようだ！」 ことばだけでは足

2025/04/12 00:00

『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(3)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「いやああっ！」 シャルンの高い悲鳴が響いた時、レダンの胸に愛おしいとも誇らしいとも言えぬくすぐったい感情が溢れた。同時に自分の非情さに呆れもした。「男と言うのはど

2025/04/11 00:00

『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(2)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 一匹ではなかった。 四方八方に散った通路、そのどれからも同じように通路を満たしながら、中には体で岩をなおも削りながら、巨大な白い虫が這い出てくる。幾つかの結節に分

2025/04/10 00:00

『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(1)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 坑道に入ってどれほど経ったのかは定かではないが、水を補給した休憩よりなおしばらく奥に進んで、一行は立ち止まった。「ここに来て、これですか」 ガストが嘆息するのも無

2025/04/09 00:00

『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』24.国史(2)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「…良いんですか」 ガストの声に、レダンはちらりとバラディオスと話し込むシャルンを見遣る。「良い。あいつがあれほど派手に反応するとはな。面白いやつじゃないか」「…おか

2025/04/08 00:00

『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』24.国史(1)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 薄暗い坑道の中を先に立って進みながら、先ほどから「どう言うことだあれは」とか「計算外だったな畜生」とか「誰か余計なことを吹き込んだんじゃないだろうな」とか「これが

2025/04/07 00:00

『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』23.私室(2)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ あなたが読んでからでいいよ。 レダンはそう囁いて、シャルンを抱きしめたまま、ソファでゆっくりすることに決めてしまったらしい。離してくれないので、仕方なしにシャルン

2025/04/06 00:00

『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』23.私室(1)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「手紙？」「はい、母から私へのものだと思います」 レダンはシャルンの元私室で質素な椅子に腰を降ろした。 玉座の広間より少し離れた場所に設えられていた部屋は、隙間風が

2025/04/05 20:05

『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』22.書庫(2)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 一体何を話されているのかしら。 シャルンは背後で妙に親しげにことばを交わす父親とレダンを、そっと見遣る。 あれほど父が顔を赤らめて話す姿は見たことがないし、レダン

2025/04/02 00:00

『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』22.書庫(1)

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「ここへ入るのは、これで2度目だな」 ハイオルトの居城、今は空の玉座を見上げながら、レダンは呟いた。 シャルンを奪い返しに侵略した時、何ひとつ手立てを落とさぬつもり

2025/04/01 00:00