**************** それが、週末、のこと。「手、動いてないわよ」「あ、はい」 石塚に指摘されて、美並は慌てて資料を捲った。 真崎に耳元で囁かれてぼうっとしていたのかと思われるのは恥ずか
ツンデレ姫と美貌の付き人などの恋愛ファンタジー毎日連載。『アルファポリス』『小説家になろう』参加。
男勝り姫君ユーノと美貌の付き人アシャのハーレクインロマンス的なファンジー小説『ラズーン』毎日連載。『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』は出戻り姫シャルンと腹黒王レダンのラブコメディ、時々連載。
**************** それが、週末、のこと。「手、動いてないわよ」「あ、はい」 石塚に指摘されて、美並は慌てて資料を捲った。 真崎に耳元で囁かれてぼうっとしていたのかと思われるのは恥ずか
**************** 「やあ、おはよう」「……お、はようございます」 翌朝、大あくびをしていたところをまともに大輔に見られて、美並は引きつった。 夕べの衝撃的な真崎の告白がまだ頭に残っている
**************** 旅先で、夜中に入ってきた真崎はまっすぐ美並の枕元にやってきた。「……伊吹さん」 何かをしかけてくるようなら、力の限り抵抗してやる。 布団の中でこぶしを握り締めていた
**************** 夜中にまた夢を見た。 押し倒されて首を押さえられる。息ができなくてもがいたとたん、目が覚めた。「は…っ…はっ」 喘ぎながら汗に塗れて目を開けると、見上げたすぐ目の前
**************** 意外な応えが返って目を見開くと、生真面目な顔で尋ねられた。「イブキは誰の猫なんですか?」 いぶき、は誰のものなんですか。 一瞬そう聞こえて、ことばにならなかった。
**************** 近付いてくる唇を拒めなかった。 伸び上がって吸いついてくるべったり濡れたそれは強い化粧品の匂いがして、押し倒されてのしかかられて、ぼんやり見上げていたら繰り返し吸
**************** 一瞬伊吹が来てくれたのかな、と無邪気に思って苦笑する。「京ちゃん?」 ああ、あんたか。 なるほど、そういや来てくれとか言ってたよね、すっかり忘れてたよ。 一人ごち
**************** 苦しくて、眠れない。 京介は唇をきつく噛み締めて目を閉じる。 布団に必死に潜り込んで、大丈夫だ、大輔はいない、と言い聞かせるのに、身体が納得してくれない。 ずっと
**************** 何だろう。 何だろう。 更けていく夜に美並はずっと考えている。 何かどこかが妙な感じだ。 真崎の話で行くと、真崎と前後してここから離れた孝はかなり荒れた生活をしてい
**************** 「う~」 頭、痛ー。 眉をしかめる美並の手を引いて、ゆっくり山道を降りながら、真崎は不安そうな顔で覗き込んでくる。「見えるって大変なんだね」 あんなになっちゃうなん
**************** 抱きたいな。 もう、ほんとに駄目だ、伊吹が抱きたい。 けれど。「う~……頭……いたー」 足下をふらつかせながら歩いている伊吹の手を引きながら京介は振り向く。 伊吹の顔
**************** もがいたり逃げたりするかと思っていた伊吹は、抱き竦めても動かなかった。 動けない、ということではない。余分なところに力が入っていない。自分の意志で動こうとしていな
**************** 「………だから見せに来たんですか」「え?」「大輔さんと恵子さんに」「……」 黙り込んだ真崎に、やっぱり、と思った。 ただのイブキの墓参りなら、まっすぐここへ来ればいいだ
2090000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 5.欺かれた『運命(リマイン)』(3)
**************** 残念ながら、移動先での一休みと食事にはありつけなかった。 周囲を警戒しながら進んでいたはずだが、燃え続けて収まる気配のない『氷の双宮』に皆が気を取られた一瞬、「敵
**************** 大輔は京介が『ぼけ』にかまけて自分と遊ばないとたびたび癇癪を起こしていた。そうして、ある日、『そんなにこいつが大事か』『大ちゃんっ』『こんなちっこいやつが』『やめ
2090000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 5.欺かれた『運命(リマイン)』(2)
**************** 一群れの軍を制圧した、と言えばいいのだろうか。 戦い方を変えてからは、勝敗はあっさり決した。死屍累々とはまだ早いか、大怪我をしつつ未だ死んでは居ない者も転がる広場
**************** 「ここだよ」 黙って手を繋いだまま山を登って、京介は慣れた場所に辿りつく。「綺麗なところですね」 じっと見ていた伊吹がぽつりと言って、思わず振り向いた。「綺麗? こ
2090000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 5.欺かれた『運命(リマイン)』(1)
**************** 「シートス!」「隊長!」 周囲に満ちる剣戟の隙間からも、重なり合った2つの声は届いた。その一つが、奇跡的な救いに繋がると感じてシートスは振り返る。炎に彩られた道なき
**************** 「わぁ…」「気に入った?」「いや、気に入ったというか、なんて言うか」 ゆっくり足下に気をつけながら歩いたから、結構な時間が立ったはずだ。 美並が額にうっすら汗を感じ
**************** あの日は月がなかったな、と京介は空を見上げて思った。 遮るように差し出している枝を押し退けて広げ、月があれば何か変わっていただろうかと思う。 こうして明るく照らさ
**************** 月が明るく昇っていた。 先に立つ真崎が、道の上に差し出した枝を押し退けつつ振り返る。「怒ってる?」「………」「怒ってるの?」「……」「怒ってるんだ」「……怒ってません」「
**************** あー、吐きそう。 夕食の間中、京介は緊張し続けていた。 大輔が親しそうに伊吹に話し掛けるのが気に触る。これみよがしに低い声で呟いて、え、すみません、なんて、と伊吹
**************** それから後、大輔ははしゃがなかった。ほどほどに愛想よくて、けれど微妙に警戒している。 きっと今頃どうやって伊吹の情報を得ようか、いつ京介を問い詰めようかとあれこれ
**************** バスが遠ざかっていくのを見ていた伊吹がそのままぽつりと尋ねてきた。「課長」「はい」「……動物霊園に行くって言ってませんでしたか」 伊吹は細身に珍しく紺のロングスカー
**************** お風呂は総檜、しかも風呂の蓋も手桶洗面器まで檜という豪勢さ、山の中だから自然でしょ、などと嘯く男は放っておいて、美並はひさしぶりにのんびり体を伸ばしたが、「あたた
**************** ったく。 美並は溜め息をついて、ここを使って下さい、と招き入れられた部屋に腰を降ろす。 あれこれ事情があるんなら、先に話しとけっつーの。 微妙にふて腐れた気分なのは
**************** 車が止まったのは一山上り切った平地だった。本当に小さな集落だけで、後は田んぼがぽつぽつ広がっているのどかな風景だ。 こっちです、と促されて、車を降りると、旅行誌でよ
**************** 「いや、まさかね、ほんとにこいつが女を連れてくる日が来るとは思ってなくて!」 がははは、と相手は豪快にハンドルを切りながら、切り立った崖に張り付くような山道を上って
**************** 長時間揺られたバスは土煙を立てて道を遠ざかっていく。「課長」「はい」「……動物霊園に行くって言ってませんでしたか」「近くにないって言ったよね?」「ここ、山の中じゃな
**************** 「真崎君はいるかっ」 流通管理課のドアが大きな音をたてて開き、いらいらした顔で仁王立ちしている男が細いきつい顔で怒鳴った。「はぁい」 いささか間抜けた声とともに、真
**************** 伊吹を連れて実家に行く、と京介は連絡をいれた『京介、か?』 電話の向こうで大輔は訝しそうな声を出す。そりゃ、そうだよね、もうずっと連絡を取ってなかった。こっちの連
**************** ネクタイは明るい色で。ジャケットは渋めに。シャツは少し甘い印象でいい。「ん、よし」 鏡の前で念入りに服装を改めて京介は部屋を出る。 思わず知らず零れている笑みを自
**************** 「おはよう、伊吹さん」 夕べのダ-ティさはどこへやら、翌朝真崎はにこやかにシュレッダー前の美並に声をかけてきた。「わあ、今日もいっぱいあるんだねえ」「………おはよーご
**************** 「……………悔しいんだって」 ゆっくりと目を開ける。 コーヒーカップを両手で包んで見上げてくる伊吹に微笑む。 そのカップになりたい、と一瞬願った。 本当のことはきっと言
**************** 「……………悔しいんだって」 真崎は虚ろな目で笑った。「何にも努力しないで、僕にうんと愛されるのがむかつくんだって言ってたよ。………殺すつもりじゃなくて、ただ料理していたら
**************** 「ああ、片付けるのが面倒で」「猫が死んだのはいつです?」「……一年ほど前、かな」 京介は当たりさわりのない答えを心掛ける。 本当は片付けようとしたけれど、処分するゴミ収
**************** 「はい、着きましたよ、どうぞ」「ありがとうー」「じゃあいいですね」「んー」 伊吹が手を離しかけたとたんにぱん、とドアの隣の壁を叩いてみせると、ぎょっとしたように見上
**************** 入って、と美並が招かれた部屋は驚くほど何もなかった。「さっきの玄関のところに猫があって」「説明しなくていいから」 あ、そうそう、と思い出したように振り返る真崎に顔
**************** 「ちょっと待った」「はい?」「…………あんた、酔ってんの?」「酔ってません」 ぶっきらぼうな伊吹の口調に京介への微かな心配を感じ取って、また身体が熱くなった。 それと同時
**************** 「課長?」「はい」「これのどこがカフェなんですか」 伊吹が京介のマンションのエントランスで凍りついたのを、くるりと振り返って、「カフェなんて言ってないよ?」「は?」
**************** 不愉快だ。 一瞬に自分の心を塗りつぶした真っ黒な靄を、いつものように客観視できなくて、京介はレタスに噛みついた。 不愉快だ。 全くもって不愉快だ。 なぜ、彼女は未だ
**************** 伊吹を連れていったのは近くのフレンチレストラン。 一時期ほどの熱狂的なファンもいないが、通いだした常連は離れていかず客が途切れない店で、今日も直前に入れた電話では
**************** 不安そうな顔をして横目でちらちら見てくる伊吹の隣で、アイスコーヒーを飲みながら、さてそういうことならどういう手が効果的かなあ、と考える。 男性関係はほとんど皆無、
**************** さりげなく、ごくさりげなく京介は動き方を変えた。 伊吹を一人にしないように、微妙な頃合で仕事を始めたり、電話をかけだしたりする。 気付いたのはやはり石塚だ。「課長
**************** 伊吹美並は順調に仕事を覚えていった。 いろいろなアルバイトをしていたというせいもあるのか、人慣れも早いし、応対も丁寧だ。他課での反応も客からの評判も悪くない、むし
**************** 名前を知ったのは会うよりも早かった。 京介と別れた後ぐらいから、相子は体調を崩すようになって、唐突に休むことが増えた。 流通管理課というのはそれほど仕事が多いわけ
**************** 温かな息がかかったような気がした。 目覚まし代わりの一舐めがもうすぐやってくるから阻止したい。 手を伸ばして京介はぱたぱたと枕元を探る。「イブキ……?」 無意識に口
**************** もう一軒つき合って。すぐ近くだし、おいしいコーヒー飲みたくない? そう誘われて、これが最後ですよ、と念を押したのは、プライベートなつき合いはこれっきりだと言う意味
**************** 「……本当は話したくないんです」「見えるってこと?」「課長と」「あれ?」 レストランで向かい合い、真崎はきょとんと目を見張ってから、それは困ったなあ、と苦笑いした。「
**************** 「これ、全部シュレッダーかけるの?」「あ」 ついと人影が寄ってきたかと思うと、ボックスに入った文書を取り上げた相手が呆れ声を上げた。「はい」「凄い量だね……伊吹さん一
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(4)
**************** 「シャルン!」 さすがにこれ以上の悪趣味を重ねる気になれず、レダンは声を張り上げた。「大丈夫だ。こいつら……ガーダスは、俺達に興味がないようだ!」 ことばだけでは足
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(3)
**************** 「いやああっ!」 シャルンの高い悲鳴が響いた時、レダンの胸に愛おしいとも誇らしいとも言えぬくすぐったい感情が溢れた。同時に自分の非情さに呆れもした。「男と言うのはど
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(2)
**************** 一匹ではなかった。 四方八方に散った通路、そのどれからも同じように通路を満たしながら、中には体で岩をなおも削りながら、巨大な白い虫が這い出てくる。幾つかの結節に分
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(1)
**************** 坑道に入ってどれほど経ったのかは定かではないが、水を補給した休憩よりなおしばらく奥に進んで、一行は立ち止まった。「ここに来て、これですか」 ガストが嘆息するのも無
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』24.国史(2)
**************** 「…良いんですか」 ガストの声に、レダンはちらりとバラディオスと話し込むシャルンを見遣る。「良い。あいつがあれほど派手に反応するとはな。面白いやつじゃないか」「…おか
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』24.国史(1)
**************** 薄暗い坑道の中を先に立って進みながら、先ほどから「どう言うことだあれは」とか「計算外だったな畜生」とか「誰か余計なことを吹き込んだんじゃないだろうな」とか「これが
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』23.私室(2)
**************** あなたが読んでからでいいよ。 レダンはそう囁いて、シャルンを抱きしめたまま、ソファでゆっくりすることに決めてしまったらしい。離してくれないので、仕方なしにシャルン
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』23.私室(1)
**************** 「手紙?」「はい、母から私へのものだと思います」 レダンはシャルンの元私室で質素な椅子に腰を降ろした。 玉座の広間より少し離れた場所に設えられていた部屋は、隙間風が
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』22.書庫(2)
**************** 一体何を話されているのかしら。 シャルンは背後で妙に親しげにことばを交わす父親とレダンを、そっと見遣る。 あれほど父が顔を赤らめて話す姿は見たことがないし、レダン
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』22.書庫(1)
**************** 「ここへ入るのは、これで2度目だな」 ハイオルトの居城、今は空の玉座を見上げながら、レダンは呟いた。 シャルンを奪い返しに侵略した時、何ひとつ手立てを落とさぬつもり
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』21.前夜(2)
**************** 「えーとですね」 ガストが集まった人間を見回す。「かなり珍妙な組み合わせになっていますが、大丈夫ですか?」「大丈夫も何も」 レダンは溜息をついた。「募集をかけたわけ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』21.前夜(1)
**************** アルシアからの客人と報じられて、シャルンは訝った。 サリストアは今のシャルンの現状を知っている。ましてや今は、右手首から先を失ったミラルシアの看護にもついているは
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』20.愛しさゆえの距離(2)
**************** 何かが砕ける音がした。「っ」 打ち合うことをやめて、すぐに彼の人の場所を振り向く焦がれに気づき、なのに走り寄ろうとはしない恐れに気づく。「参りましょうか?」 ガス
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』20.愛しさゆえの距離(1)
**************** 穏やかな日差しの中、テラスで1人、準備されたお茶を前に身動きせず、シャルンはじっと外を眺めている。『あなたは……人では…ないのだろうか…?』 海辺で静かに尋ねられた声
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』19.使役(3)
**************** 「あなたも柔らかな肌をこうして与えてくれるわけだし」 ちゅ、とこめかみに、それから首筋にキスを落とされる。「こうしていると、海の水ではないものに濡らされているようで
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』19.使役(2)
**************** 「…一番初めに海水は可哀想だろう」 砂浜から少し離れた場所に布を敷き、海中で見開いて痛んだ目を水で洗い流して、シャルンは唸るレダンを振り向く。「大丈夫です、陛下」
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』19.使役(1)
**************** ぱちゃぱちゃと眩い日射しの中で砂浜に波が打ち寄せている。 水は手元に掬えば透明で、濁りも澱みも見えないが、少し離れただけで青々と深みを増していく。「はい、この辺り
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』18.海辺の塔(4)
**************** 「シャルン」「…陛下…っ」 振り返らなくとも声が揺れて、一杯一杯になっていると知らせた。近づいて、真横に立ち、覗き込む。右頬に水の壁に乱反射した紫の光が、ちかちか瞬き
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』18.海辺の塔(3)
**************** 「地下通路で見られた『あれ』とルシュカの谷の糸、ハイオルトの『ガーダスの糸』はほぼ同じですね」 ガストはレダンとサリストアの前で品物を並べて見せた。「ほぼ?」「少し
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』18.海辺の塔(2)
**************** 「…っ」「シャルン?」 突然立ち止まったシャルンにミラルシアが振り返る、その表情がほのかに光って見えた。「どうしたのじゃ?」「…明るく……見えませんか?」「は?」「…ミ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』18.海辺の塔(1)
**************** 風が静かに吹いている。「これが海……ですのね」 シャルンは目の前の光景をしみじみと眺めた。「感想は?」 側に立つミラルシアは素肌にチュニックとズボンの軽装で、気持ち
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』17.無敵の侍女(2)
**************** 「で? 多少はわかったのか」 数日後、王城へ戻ったサリストアにレダンは向き合っていた。「ああ、まあ。バリスト公とラグアルス公が黒幕だったよ」 右目の眼帯を外し、髪の
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』17.無敵の侍女(1)
**************** がっ、がつっ、どががが! およそ、女性同士、しかも一方は筋肉質だが細身の若い女性、もう一方は市場で物売りを覗き込むようなエプロンをつけた年配の女が立てているとは思
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』16.2つ目の願い(3)
**************** 翌日、シャルンは1人にして欲しいと望んだ。 昨夜はレダンが混乱し不安に慄くシャルンを抱きしめ、休ませてくれた。朝になると、心配そうに振り返りながら部屋を出て、いつ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』16.2つ目の願い(2)
**************** 「お役目、お役目、かあ」 レダンは唸りながら廊下を歩く。他国の王族が供も連れずにふらふらと、と微妙な視線が纏わりつくが、そこはさすがにアルシアだ、僅かに殺気を漏れさ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』16.2つ目の願い(1)
**************** 王城に戻ったレダン一行はルッカと再会した。「まだ戻っていません」 それこそ家出娘に舌打ちするような様子で、ルッカは吐息を漏らした。「ただ」「ただ?」「街の方で眼帯
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』15.光の繭(3)
**************** 「…っ」 ぎしっ、と急に体が強く締め上げられて、シャルンは息を呑んだ。足が光の草原から浮き始める。レダンが腰を落として構え、縄をゆっくり動かして行くのに従って、シャ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』15.光の繭(2)
**************** 「……こりゃまあ…」 縄で降りてきたガストは、レダンの示したミディルン鉱石の層に思わず口を開いて見上げた。「…とんでもない量ですね」「ハイオルトとタメを張るか」「…あっ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』15.光の繭(1)
**************** 「なっ…?」 何が起こった? レダンは戸惑いながら周囲を見回す。 薄黄色の淡い光に包まれて、レダンは柔らかな草原にいる。草原と感じたのは、細く揺れる無数の草のような
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』14.薄闇の猿ども(4)
**************** 「……よし」 一瞬歯を食い縛り、レダンは立ち上がった。「それなら安心だ」「え?」「シャルンを殺すはずがない、そうだろう?」 そうであってくれと祈りながら、続ける。「そ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』14.薄闇の猿ども(3)
**************** 「!」 遠くで悲鳴が聞こえたような気がして、レダンは鋭く頭を上げた。眉をしかめて耳を澄ませる。だが、それ以上の物音は続かない。「レダン」「…先へ進む」 左手を壁に突
『 Segakiyui's World』(毎週土曜日・330円/月)『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー 3』*********************************26.星宮(1) 地下の広間からな
毎日たくさんお越し頂き、ありがとうございます。 さて、いつぞやメルマガへの新連載の移行についてお話ししていましたが、ようやく3本とも新規連載開始にこぎつけました。 TOPからも飛べますが、メルマガが現
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』14.薄闇の猿ども(2)
**************** 黒くない。 薄白い。 薄白い小さな人の姿をしたものが、真っ黒な顔に赤い目を細め、牙を剥いた口を黒い両手で覆って体を揺らせて笑っている。 私は国を守ることが出来るの
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』14.薄闇の猿ども(1)
**************** 「った、」 手探りだから用心深く足を運んだつもりだったが、また強く躓いてシャルンは立ち止まった。 足先が痛い。足首も。これで何度躓いたことだろう。真っ暗ならば注意も
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』13.襲撃(2)
**************** 「で?」「で、とは」「これからどうなさるおつもりですか」「どうなさるも何も」 腕組みをしているルッカに問いただされて、ガストは部屋の中で無言でじっと指先に摘んだもの
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』13.襲撃(1)
**************** 「地下通路は一本道なんだ」 松明を掲げて先頭を歩むミラルシアに続きながら、サリスは話す。「『海辺の塔』まで長くはあるけれど、迷いようのない一本道」「…なのに、迷宮が
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』12.迷宮の女王(2)
**************** 「私へのお話とはいかなるものでございますか?」「尋ねたかったのだ」「何を、でございましょう」「暁の后妃」 ミラルシアの声に嘲りはなかった。「私はどこで間違った?」「
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』12.迷宮の女王(1)
**************** カースウェルの王と王妃がアルシア各所を回られる。新たな女王となったサリストア様の治世の確認と両国の友好を深められるためである。 噂は諸国を駆け巡った。「…ダフラム
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』11.雷龍の剣士(2)
**************** 「……ルッカの件は、同意できません」 シャルンは答えた。「ルッカはアルシアに辛い思い出を持っています。私の侍女として十分に働いてくれていますが、今度の旅にも同行させる
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』11.雷龍の剣士(1)
**************** カースウェルに戻り、シャルンの疲れが取れた頃、王宮には訪問者があった。「サリストア様!」「お帰り、シャルン」 にこやかに微笑んで、駆け寄るシャルンに両手を広げてく
2080000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 4.白亜燃ゆ(5)
**************** 「大丈夫か!」「…ユカル……」 ユーノに覆い被さるように押さえつけて後、がばりと体を起こした顔を見上げて呟く。「…ユーノ…」 相手もユーノとは気づかず助けたのだろう、意
2080000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 4.白亜燃ゆ(4)
**************** 「く…う…くそっっ」 震えていた足がようやく治ってきて、ユーノはよろよろと立ち上がった。 異臭が酷い。上半身を吹き飛ばされ炎に焼かれた体が、今更のように絡みつくような
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』10.エリクの痕跡(2)
**************** 深い眠りの中で、シャルンは目覚めた。 頭上に幾本も青い筋が入った美しい岩が円蓋を作っている。周囲の円弧には黒い人影が灯りを掲げて立ち並ぶ。足元は青く輝く透明な円盤
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』10.エリクの痕跡(1)
**************** ルシュカの谷から戻る馬車はバラディオスが用立てた。 4人乗れる馬車を用意し、十数人の人手を連れて乗り込んできたバラディオスに、レダンは『祈りの館』の片付けと管理を
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』9.龍神祭り(5)
**************** 「シャルン、何してる、こっちへ!」「駄目です、陛下」 震える声を絞り出す。「ここに……龍神が………居ます」「は?」「どこに居るってんですか姫様、そんなものどこにも」 ぞ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』9.龍神祭り(4)
**************** 陛下はやはりリュハヤ様の方を美しいとご覧になっているのかしら。 さすがにちょっと不安になってレダンを見上げると、相手は厳しい顔でリュハヤを見つめている。いや、正確
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』9.龍神祭り(3)
**************** ドン、ドン、ドォオン。『祈りの館』の中央に引き出された大きな木板を、男達が力強く木槌で打ち鳴らす。「これより、龍神祭りを執り行う!」 真っ白の衣をつけ、頭に白い頭
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』9.龍神祭り(2)
**************** 「いよいよ明日ですね」 ベッドの側に腰を下ろしたガストが呟く。「明日だな」 ベッドに寝転びながら、レダンは強い視線を天蓋へ向ける。「『祈りの館』の中央祭壇から地下へ
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**************** それが、週末、のこと。「手、動いてないわよ」「あ、はい」 石塚に指摘されて、美並は慌てて資料を捲った。 真崎に耳元で囁かれてぼうっとしていたのかと思われるのは恥ずか
**************** 「やあ、おはよう」「……お、はようございます」 翌朝、大あくびをしていたところをまともに大輔に見られて、美並は引きつった。 夕べの衝撃的な真崎の告白がまだ頭に残っている
**************** 旅先で、夜中に入ってきた真崎はまっすぐ美並の枕元にやってきた。「……伊吹さん」 何かをしかけてくるようなら、力の限り抵抗してやる。 布団の中でこぶしを握り締めていた
**************** 夜中にまた夢を見た。 押し倒されて首を押さえられる。息ができなくてもがいたとたん、目が覚めた。「は…っ…はっ」 喘ぎながら汗に塗れて目を開けると、見上げたすぐ目の前
**************** 意外な応えが返って目を見開くと、生真面目な顔で尋ねられた。「イブキは誰の猫なんですか?」 いぶき、は誰のものなんですか。 一瞬そう聞こえて、ことばにならなかった。
**************** 近付いてくる唇を拒めなかった。 伸び上がって吸いついてくるべったり濡れたそれは強い化粧品の匂いがして、押し倒されてのしかかられて、ぼんやり見上げていたら繰り返し吸
**************** 一瞬伊吹が来てくれたのかな、と無邪気に思って苦笑する。「京ちゃん?」 ああ、あんたか。 なるほど、そういや来てくれとか言ってたよね、すっかり忘れてたよ。 一人ごち
**************** 苦しくて、眠れない。 京介は唇をきつく噛み締めて目を閉じる。 布団に必死に潜り込んで、大丈夫だ、大輔はいない、と言い聞かせるのに、身体が納得してくれない。 ずっと
**************** 何だろう。 何だろう。 更けていく夜に美並はずっと考えている。 何かどこかが妙な感じだ。 真崎の話で行くと、真崎と前後してここから離れた孝はかなり荒れた生活をしてい
**************** 「う~」 頭、痛ー。 眉をしかめる美並の手を引いて、ゆっくり山道を降りながら、真崎は不安そうな顔で覗き込んでくる。「見えるって大変なんだね」 あんなになっちゃうなん
**************** 抱きたいな。 もう、ほんとに駄目だ、伊吹が抱きたい。 けれど。「う~……頭……いたー」 足下をふらつかせながら歩いている伊吹の手を引きながら京介は振り向く。 伊吹の顔
**************** もがいたり逃げたりするかと思っていた伊吹は、抱き竦めても動かなかった。 動けない、ということではない。余分なところに力が入っていない。自分の意志で動こうとしていな
**************** 「………だから見せに来たんですか」「え?」「大輔さんと恵子さんに」「……」 黙り込んだ真崎に、やっぱり、と思った。 ただのイブキの墓参りなら、まっすぐここへ来ればいいだ
**************** 残念ながら、移動先での一休みと食事にはありつけなかった。 周囲を警戒しながら進んでいたはずだが、燃え続けて収まる気配のない『氷の双宮』に皆が気を取られた一瞬、「敵
**************** 大輔は京介が『ぼけ』にかまけて自分と遊ばないとたびたび癇癪を起こしていた。そうして、ある日、『そんなにこいつが大事か』『大ちゃんっ』『こんなちっこいやつが』『やめ
**************** 一群れの軍を制圧した、と言えばいいのだろうか。 戦い方を変えてからは、勝敗はあっさり決した。死屍累々とはまだ早いか、大怪我をしつつ未だ死んでは居ない者も転がる広場
**************** 「ここだよ」 黙って手を繋いだまま山を登って、京介は慣れた場所に辿りつく。「綺麗なところですね」 じっと見ていた伊吹がぽつりと言って、思わず振り向いた。「綺麗? こ
**************** 「シートス!」「隊長!」 周囲に満ちる剣戟の隙間からも、重なり合った2つの声は届いた。その一つが、奇跡的な救いに繋がると感じてシートスは振り返る。炎に彩られた道なき
**************** 「わぁ…」「気に入った?」「いや、気に入ったというか、なんて言うか」 ゆっくり足下に気をつけながら歩いたから、結構な時間が立ったはずだ。 美並が額にうっすら汗を感じ
**************** あの日は月がなかったな、と京介は空を見上げて思った。 遮るように差し出している枝を押し退けて広げ、月があれば何か変わっていただろうかと思う。 こうして明るく照らさ
**************** 何を考えているのか。「私が聞きたいところだ」 冷ややかに嗤いながら、リヒャルティを置き去りに、セシ公は自室から持ち出した紫の布包みを手に、パディスへ馬を走らせ