**************** 「ちょっと待った」「はい?」「…………あんた、酔ってんの?」「酔ってません」 ぶっきらぼうな伊吹の口調に京介への微かな心配を感じ取って、また身体が熱くなった。 それと同時
ツンデレ姫と美貌の付き人などの恋愛ファンタジー毎日連載。『アルファポリス』『小説家になろう』参加。
男勝り姫君ユーノと美貌の付き人アシャのハーレクインロマンス的なファンジー小説『ラズーン』毎日連載。『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』は出戻り姫シャルンと腹黒王レダンのラブコメディ、時々連載。
**************** 「ちょっと待った」「はい?」「…………あんた、酔ってんの?」「酔ってません」 ぶっきらぼうな伊吹の口調に京介への微かな心配を感じ取って、また身体が熱くなった。 それと同時
**************** 「課長?」「はい」「これのどこがカフェなんですか」 伊吹が京介のマンションのエントランスで凍りついたのを、くるりと振り返って、「カフェなんて言ってないよ?」「は?」
**************** 不愉快だ。 一瞬に自分の心を塗りつぶした真っ黒な靄を、いつものように客観視できなくて、京介はレタスに噛みついた。 不愉快だ。 全くもって不愉快だ。 なぜ、彼女は未だ
**************** 伊吹を連れていったのは近くのフレンチレストラン。 一時期ほどの熱狂的なファンもいないが、通いだした常連は離れていかず客が途切れない店で、今日も直前に入れた電話では
**************** 不安そうな顔をして横目でちらちら見てくる伊吹の隣で、アイスコーヒーを飲みながら、さてそういうことならどういう手が効果的かなあ、と考える。 男性関係はほとんど皆無、
**************** さりげなく、ごくさりげなく京介は動き方を変えた。 伊吹を一人にしないように、微妙な頃合で仕事を始めたり、電話をかけだしたりする。 気付いたのはやはり石塚だ。「課長
**************** 伊吹美並は順調に仕事を覚えていった。 いろいろなアルバイトをしていたというせいもあるのか、人慣れも早いし、応対も丁寧だ。他課での反応も客からの評判も悪くない、むし
**************** 名前を知ったのは会うよりも早かった。 京介と別れた後ぐらいから、相子は体調を崩すようになって、唐突に休むことが増えた。 流通管理課というのはそれほど仕事が多いわけ
**************** 温かな息がかかったような気がした。 目覚まし代わりの一舐めがもうすぐやってくるから阻止したい。 手を伸ばして京介はぱたぱたと枕元を探る。「イブキ……?」 無意識に口
**************** もう一軒つき合って。すぐ近くだし、おいしいコーヒー飲みたくない? そう誘われて、これが最後ですよ、と念を押したのは、プライベートなつき合いはこれっきりだと言う意味
**************** 「……本当は話したくないんです」「見えるってこと?」「課長と」「あれ?」 レストランで向かい合い、真崎はきょとんと目を見張ってから、それは困ったなあ、と苦笑いした。「
**************** 「これ、全部シュレッダーかけるの?」「あ」 ついと人影が寄ってきたかと思うと、ボックスに入った文書を取り上げた相手が呆れ声を上げた。「はい」「凄い量だね……伊吹さん一
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(4)
**************** 「シャルン!」 さすがにこれ以上の悪趣味を重ねる気になれず、レダンは声を張り上げた。「大丈夫だ。こいつら……ガーダスは、俺達に興味がないようだ!」 ことばだけでは足
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(3)
**************** 「いやああっ!」 シャルンの高い悲鳴が響いた時、レダンの胸に愛おしいとも誇らしいとも言えぬくすぐったい感情が溢れた。同時に自分の非情さに呆れもした。「男と言うのはど
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(2)
**************** 一匹ではなかった。 四方八方に散った通路、そのどれからも同じように通路を満たしながら、中には体で岩をなおも削りながら、巨大な白い虫が這い出てくる。幾つかの結節に分
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(1)
**************** 坑道に入ってどれほど経ったのかは定かではないが、水を補給した休憩よりなおしばらく奥に進んで、一行は立ち止まった。「ここに来て、これですか」 ガストが嘆息するのも無
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』24.国史(2)
**************** 「…良いんですか」 ガストの声に、レダンはちらりとバラディオスと話し込むシャルンを見遣る。「良い。あいつがあれほど派手に反応するとはな。面白いやつじゃないか」「…おか
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』24.国史(1)
**************** 薄暗い坑道の中を先に立って進みながら、先ほどから「どう言うことだあれは」とか「計算外だったな畜生」とか「誰か余計なことを吹き込んだんじゃないだろうな」とか「これが
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』23.私室(2)
**************** あなたが読んでからでいいよ。 レダンはそう囁いて、シャルンを抱きしめたまま、ソファでゆっくりすることに決めてしまったらしい。離してくれないので、仕方なしにシャルン
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』23.私室(1)
**************** 「手紙?」「はい、母から私へのものだと思います」 レダンはシャルンの元私室で質素な椅子に腰を降ろした。 玉座の広間より少し離れた場所に設えられていた部屋は、隙間風が
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』22.書庫(2)
**************** 一体何を話されているのかしら。 シャルンは背後で妙に親しげにことばを交わす父親とレダンを、そっと見遣る。 あれほど父が顔を赤らめて話す姿は見たことがないし、レダン
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』22.書庫(1)
**************** 「ここへ入るのは、これで2度目だな」 ハイオルトの居城、今は空の玉座を見上げながら、レダンは呟いた。 シャルンを奪い返しに侵略した時、何ひとつ手立てを落とさぬつもり
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』21.前夜(2)
**************** 「えーとですね」 ガストが集まった人間を見回す。「かなり珍妙な組み合わせになっていますが、大丈夫ですか?」「大丈夫も何も」 レダンは溜息をついた。「募集をかけたわけ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』21.前夜(1)
**************** アルシアからの客人と報じられて、シャルンは訝った。 サリストアは今のシャルンの現状を知っている。ましてや今は、右手首から先を失ったミラルシアの看護にもついているは
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』20.愛しさゆえの距離(2)
**************** 何かが砕ける音がした。「っ」 打ち合うことをやめて、すぐに彼の人の場所を振り向く焦がれに気づき、なのに走り寄ろうとはしない恐れに気づく。「参りましょうか?」 ガス
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』20.愛しさゆえの距離(1)
**************** 穏やかな日差しの中、テラスで1人、準備されたお茶を前に身動きせず、シャルンはじっと外を眺めている。『あなたは……人では…ないのだろうか…?』 海辺で静かに尋ねられた声
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』19.使役(3)
**************** 「あなたも柔らかな肌をこうして与えてくれるわけだし」 ちゅ、とこめかみに、それから首筋にキスを落とされる。「こうしていると、海の水ではないものに濡らされているようで
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』19.使役(2)
**************** 「…一番初めに海水は可哀想だろう」 砂浜から少し離れた場所に布を敷き、海中で見開いて痛んだ目を水で洗い流して、シャルンは唸るレダンを振り向く。「大丈夫です、陛下」
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』19.使役(1)
**************** ぱちゃぱちゃと眩い日射しの中で砂浜に波が打ち寄せている。 水は手元に掬えば透明で、濁りも澱みも見えないが、少し離れただけで青々と深みを増していく。「はい、この辺り
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』18.海辺の塔(4)
**************** 「シャルン」「…陛下…っ」 振り返らなくとも声が揺れて、一杯一杯になっていると知らせた。近づいて、真横に立ち、覗き込む。右頬に水の壁に乱反射した紫の光が、ちかちか瞬き
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』18.海辺の塔(3)
**************** 「地下通路で見られた『あれ』とルシュカの谷の糸、ハイオルトの『ガーダスの糸』はほぼ同じですね」 ガストはレダンとサリストアの前で品物を並べて見せた。「ほぼ?」「少し
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』18.海辺の塔(2)
**************** 「…っ」「シャルン?」 突然立ち止まったシャルンにミラルシアが振り返る、その表情がほのかに光って見えた。「どうしたのじゃ?」「…明るく……見えませんか?」「は?」「…ミ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』18.海辺の塔(1)
**************** 風が静かに吹いている。「これが海……ですのね」 シャルンは目の前の光景をしみじみと眺めた。「感想は?」 側に立つミラルシアは素肌にチュニックとズボンの軽装で、気持ち
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』17.無敵の侍女(2)
**************** 「で? 多少はわかったのか」 数日後、王城へ戻ったサリストアにレダンは向き合っていた。「ああ、まあ。バリスト公とラグアルス公が黒幕だったよ」 右目の眼帯を外し、髪の
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』17.無敵の侍女(1)
**************** がっ、がつっ、どががが! およそ、女性同士、しかも一方は筋肉質だが細身の若い女性、もう一方は市場で物売りを覗き込むようなエプロンをつけた年配の女が立てているとは思
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』16.2つ目の願い(3)
**************** 翌日、シャルンは1人にして欲しいと望んだ。 昨夜はレダンが混乱し不安に慄くシャルンを抱きしめ、休ませてくれた。朝になると、心配そうに振り返りながら部屋を出て、いつ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』16.2つ目の願い(2)
**************** 「お役目、お役目、かあ」 レダンは唸りながら廊下を歩く。他国の王族が供も連れずにふらふらと、と微妙な視線が纏わりつくが、そこはさすがにアルシアだ、僅かに殺気を漏れさ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』16.2つ目の願い(1)
**************** 王城に戻ったレダン一行はルッカと再会した。「まだ戻っていません」 それこそ家出娘に舌打ちするような様子で、ルッカは吐息を漏らした。「ただ」「ただ?」「街の方で眼帯
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』15.光の繭(3)
**************** 「…っ」 ぎしっ、と急に体が強く締め上げられて、シャルンは息を呑んだ。足が光の草原から浮き始める。レダンが腰を落として構え、縄をゆっくり動かして行くのに従って、シャ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』15.光の繭(2)
**************** 「……こりゃまあ…」 縄で降りてきたガストは、レダンの示したミディルン鉱石の層に思わず口を開いて見上げた。「…とんでもない量ですね」「ハイオルトとタメを張るか」「…あっ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』15.光の繭(1)
**************** 「なっ…?」 何が起こった? レダンは戸惑いながら周囲を見回す。 薄黄色の淡い光に包まれて、レダンは柔らかな草原にいる。草原と感じたのは、細く揺れる無数の草のような
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』14.薄闇の猿ども(4)
**************** 「……よし」 一瞬歯を食い縛り、レダンは立ち上がった。「それなら安心だ」「え?」「シャルンを殺すはずがない、そうだろう?」 そうであってくれと祈りながら、続ける。「そ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』14.薄闇の猿ども(3)
**************** 「!」 遠くで悲鳴が聞こえたような気がして、レダンは鋭く頭を上げた。眉をしかめて耳を澄ませる。だが、それ以上の物音は続かない。「レダン」「…先へ進む」 左手を壁に突
『 Segakiyui's World』(毎週土曜日・330円/月)『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー 3』*********************************26.星宮(1) 地下の広間からな
毎日たくさんお越し頂き、ありがとうございます。 さて、いつぞやメルマガへの新連載の移行についてお話ししていましたが、ようやく3本とも新規連載開始にこぎつけました。 TOPからも飛べますが、メルマガが現
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』14.薄闇の猿ども(2)
**************** 黒くない。 薄白い。 薄白い小さな人の姿をしたものが、真っ黒な顔に赤い目を細め、牙を剥いた口を黒い両手で覆って体を揺らせて笑っている。 私は国を守ることが出来るの
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』14.薄闇の猿ども(1)
**************** 「った、」 手探りだから用心深く足を運んだつもりだったが、また強く躓いてシャルンは立ち止まった。 足先が痛い。足首も。これで何度躓いたことだろう。真っ暗ならば注意も
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』13.襲撃(2)
**************** 「で?」「で、とは」「これからどうなさるおつもりですか」「どうなさるも何も」 腕組みをしているルッカに問いただされて、ガストは部屋の中で無言でじっと指先に摘んだもの
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』13.襲撃(1)
**************** 「地下通路は一本道なんだ」 松明を掲げて先頭を歩むミラルシアに続きながら、サリスは話す。「『海辺の塔』まで長くはあるけれど、迷いようのない一本道」「…なのに、迷宮が
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』12.迷宮の女王(2)
**************** 「私へのお話とはいかなるものでございますか?」「尋ねたかったのだ」「何を、でございましょう」「暁の后妃」 ミラルシアの声に嘲りはなかった。「私はどこで間違った?」「
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』12.迷宮の女王(1)
**************** カースウェルの王と王妃がアルシア各所を回られる。新たな女王となったサリストア様の治世の確認と両国の友好を深められるためである。 噂は諸国を駆け巡った。「…ダフラム
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』11.雷龍の剣士(2)
**************** 「……ルッカの件は、同意できません」 シャルンは答えた。「ルッカはアルシアに辛い思い出を持っています。私の侍女として十分に働いてくれていますが、今度の旅にも同行させる
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』11.雷龍の剣士(1)
**************** カースウェルに戻り、シャルンの疲れが取れた頃、王宮には訪問者があった。「サリストア様!」「お帰り、シャルン」 にこやかに微笑んで、駆け寄るシャルンに両手を広げてく
2080000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 4.白亜燃ゆ(5)
**************** 「大丈夫か!」「…ユカル……」 ユーノに覆い被さるように押さえつけて後、がばりと体を起こした顔を見上げて呟く。「…ユーノ…」 相手もユーノとは気づかず助けたのだろう、意
2080000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 4.白亜燃ゆ(4)
**************** 「く…う…くそっっ」 震えていた足がようやく治ってきて、ユーノはよろよろと立ち上がった。 異臭が酷い。上半身を吹き飛ばされ炎に焼かれた体が、今更のように絡みつくような
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』10.エリクの痕跡(2)
**************** 深い眠りの中で、シャルンは目覚めた。 頭上に幾本も青い筋が入った美しい岩が円蓋を作っている。周囲の円弧には黒い人影が灯りを掲げて立ち並ぶ。足元は青く輝く透明な円盤
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』10.エリクの痕跡(1)
**************** ルシュカの谷から戻る馬車はバラディオスが用立てた。 4人乗れる馬車を用意し、十数人の人手を連れて乗り込んできたバラディオスに、レダンは『祈りの館』の片付けと管理を
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』9.龍神祭り(5)
**************** 「シャルン、何してる、こっちへ!」「駄目です、陛下」 震える声を絞り出す。「ここに……龍神が………居ます」「は?」「どこに居るってんですか姫様、そんなものどこにも」 ぞ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』9.龍神祭り(4)
**************** 陛下はやはりリュハヤ様の方を美しいとご覧になっているのかしら。 さすがにちょっと不安になってレダンを見上げると、相手は厳しい顔でリュハヤを見つめている。いや、正確
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』9.龍神祭り(3)
**************** ドン、ドン、ドォオン。『祈りの館』の中央に引き出された大きな木板を、男達が力強く木槌で打ち鳴らす。「これより、龍神祭りを執り行う!」 真っ白の衣をつけ、頭に白い頭
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』9.龍神祭り(2)
**************** 「いよいよ明日ですね」 ベッドの側に腰を下ろしたガストが呟く。「明日だな」 ベッドに寝転びながら、レダンは強い視線を天蓋へ向ける。「『祈りの館』の中央祭壇から地下へ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』9.龍神祭り(1)
**************** 「…」 その夜、シャルンはリュハヤに借りた針の手をふと止めた。「姫様? お疲れでしょう、もう残りは私が」 同じように針を動かしていたルッカが気づいて労ってくれる。「
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』8.竃のダイシャ(4)
**************** 「…ガスト」 ぼそりとレダンが唸った。「………いや、止めた方が」「まだ何も言ってねえぞ」「続くことばが予想できるからですよ、短い付き合いじゃないですし」「なら、話が早い
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』8.竃のダイシャ(3)
**************** ようやく少し落ち着いたレダンは、それでもシャルンを側に、昨日の話を聞き取った。「小屋に行く前に細い小道が湖に降りていましてね」 ガストが考え考え続ける。「周囲に特
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』8.竃のダイシャ(2)
**************** 「どういうことですか!」 レダンの部屋に入ると、ルッカはいきなり大声で詰った。「何をなさってるんですか!」「ああ、すまん、けれど俺も我慢の限界でな」「にしても一応私
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』8.竃のダイシャ(1)
**************** 翌日の昼過ぎ、シャルンの部屋の扉を小さく叩く音がした。「はい」 腰を浮かしかけたシャルンを制して、ルッカが扉へ近づく。「…シャルン様はおいでかしら」 生き生きと楽
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』7.花石(5)
**************** ダイシャが案内してくれたのは、幾つもあった鍵のかかった扉の1つだった。「こちらへどうぞ」 腰から下げていた鍵を使って扉を開ける。「まあ…」「足元が危ういので…お気を
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』7.花石(4)
**************** 「……陛下はどうして倒れられたのでしょう」 呟くように尋ねてみる。「…御公務のお疲れでしょう」 リュハヤはさらりと答えた。「王たる務めを理解している者がお仕えしてこそ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』7.花石(3)
**************** 「……ほう」 シャルンはレダンの部屋を出て、大きく息をついた。 体が暑くて苦しい。まるでレダンの熱を移されたようだ。脳裏に今まで唇を合わせていたレダンの表情が過ぎる。
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』7.花石(2)
**************** 「シャル…」 そんなことはない、と強がろうとした唇に、小さくキスされて顔を歪めた。息苦しさと鼓動に叩きのめされながら、息を喘がせる。「…陛下、もう少し、私にお任せ下さ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』7.花石(1)
**************** 「…言ってくれるね」 殺しても死なないとは。 レダンはシャルンの話に嘆息する。「まあ、その通りだったが」「…陛下は」 話し終わったシャルンは、少し首を傾げた。「まだお
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』6.糸繰り場(8)
**************** 「世話をかけます」「はっ」 庶民風の身なりに騎士風の礼を返しては仕方がないだろうに、バラディオスはいささかうろたえているようだ。少し頬の辺りが赤いが、部屋の暑さのせ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』6.糸繰り場(7)
**************** レース工房では、また別の発見があった。「あら…」 壁際で見慣れぬ庶民の格好で腕組みをして立っている、辺境伯、バラディオス・クレラント。「商人でございますよ、…奥方様
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』6.糸繰り場(6)
**************** 「……まあ…」 こちらです、と案内された糸繰り場は、薄暗い部屋に熱気が満ちていた。「お暑うございますよ、ご不快であれば、すぐにお外へお連れします」「大丈夫です。…あれは
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』6.糸繰り場(5)
**************** オルガが戻って渡したのは、確かに粗末な衣類だった。「懐かしいわね」「懐かしゅうございますね」 ルッカと2人、手にした服と頭を包む三角形の布を眺める。「カースウェル
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』6.糸繰り場(4)
**************** 「……お薬のせいですか?」「ん?」「私が来た時、リュハヤ様が添い寝してらっしゃいました……私はもう要らないと……陛下がリュハヤ様に命じられたと…」「……うん」 そんなことを
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』6.糸繰り場(3)
**************** 「…か……陛下!」 耳元で悲痛な声で呼ばれたから、ゆっくり瞬いて目を開けた。「…シャルン…」「……陛下……」 目元を真っ赤にし、今の今まで泣き崩れていたのではないかと思うよ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』6.糸繰り場(2)
**************** エイリカ湖は周囲の山から流れ落ちてきた水と、恐らくは湖の底から染み出すように噴き出している地下水が合わさってできていると思われている。かつてレダンは一度ここへ潜っ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』6.糸繰り場(1)
**************** 不愉快な朝食の席が終わって部屋を移動し、ようやく交渉の場を持てたと思えば。「美しい音色でしょう」「……」「これは特別な楽器でね、わざわざリュハヤのために作らせたので
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』5.レース工房(7)
**************** 今度の焼き菓子は日持ちがするように固めに焼いたもので、お茶に含ませつつ食べるのだと教え、オルガはこれも1つ、じっくり楽しみながら食べた。「お話とはなんでしょう」「
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』5.レース工房(6)
**************** 「さあ、どうぞ」「え……あの…」 ただでさえ豪華な部屋に引き入れられて、びくびくしていたオルガは、目の前にお茶とお菓子を出されて目を白黒させた。「あたし、あの」 リュ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』5.レース工房(5)
**************** 「皆様……そしてリュハヤ様」 静まり返った部屋にシャルンの声が響く。「私の至らなさより、不快な思いをさせ、すまなく思います」 顔を上げ、イルデハヤを、続いてリュハヤを
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』5.レース工房(4)
**************** 「…リュハヤ、遠慮はわかるが、もう少しはっきりと話しなさい」 司祭が重々しく続けた。「働く者を悲しませるような振る舞いだと教えて差し上げねば……我らは臣下であるのだか
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』5.レース工房(3)
**************** 食事は和やかに進んだ。 温かいスープに味わいのある干し肉、多種類のパンに豊富な果物。 部屋と同じく、粗末で質素な暮らしぶりとは程遠い、豊かで傲慢な食卓。 周囲に立
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』5.レース工房(2)
**************** 「…まあ」 朝食の席で薄紅のドレスを着たリュハヤが目を丸くした。「シャルン様、また………あっ」 何か言いたげに呟き、慌てて口を手で押さえる。「ごめんなさい」「…何か?」
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』5.レース工房(1)
**************** 翌日の朝、支度を手伝ってくれながら、ルッカは深く溜め息をついた。「私、マーベルやイルラに叱られるでしょうね」「え?」 鏡の中からシャルンが相手を見つめると、またも
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』4.祈りの館(7)
**************** 「あんの、くそ親父が!」 私室に案内されてソファに腰を下ろした途端、レダンは吠えた。「人の馬車をなんだと思ってやがる!」 そんなに豪勢ではないにしても、王の乗り物だ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』4.祈りの館(6)
**************** シャルンの困惑は長くは続かなかった。 もう一度、窓を振り返り、ゆっくりと歩み寄って行く。「…美しいわ」 庭園の緑と鮮やかな色の花々を眺め、開いた窓から吹き込む風に髪
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』4.祈りの館(5)
**************** 前庭を通って緩やかな勾配の階段を登り、館の入り口を潜って、シャルンは思わず感嘆の溜め息を漏らした。 外側から見ると地味で堅固なばかりの館だが、潜った入り口は外側を
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』4.祈りの館(4)
**************** 「着きました」 御者の声が響いて、レダンは顔を上げる。シャルンも抱擁から解放されて小さく息をつき、手早く全身を改めて確認する。さすがに慣れていると言うか、そう言うこ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』4.祈りの館(3)
**************** 「む…む…」 レダンが瞬きを繰り返して唸る。名残惜しげに、両腕はしっかりシャルンの体を掴んだままだ。「私が参ってから、レダン王は暗愚となられたと聞いては、私は国に戻る
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』4.祈りの館(2)
**************** 「では、ガストは…」「両親が亡くなったのが10歳、叔父に引き取られて、俺の側に来たのが12歳、だから色々捻くれているわけだ。腹に据えかねても許してやってくれ」「…はい、陛
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』4.祈りの館(1)
**************** 馬車はルシュカの谷を行く。前に滞在の間の荷物を乗せた馬車、後ろにルッカとガストの乗った馬車を従えての、のんびりした道行、いささかのんびり過ぎるほどの速度だ。王宮を
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』3.龍と花咲(6)
**************** ルッカがゆっくり話し出す。「姫様は、お小さい頃、ミディルン鉱石の中に『かげ』を見つけられたそうです」「…え?」 シャルンは瞬きする。そんな話は知らない。「…で、でも
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』3.龍と花咲(5)
**************** 「……勝敗は」「私が勝ちました」 淡々とした返答にシャルンは息を呑む。「腹を切らせて、気持ちが緩んだ先に腕を落とし、それが元で母は亡くなりました。私は国を出、諸国を流
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』3.龍と花咲(4)
**************** その夜。 レダンは出立前に片付ける仕事があるので先に休むようにと言い渡され、シャルンはルッカとともに寝支度をしていた。「…ねえ、ルッカ」「はい、なんでございましょ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』3.龍と花咲(3)
**************** 「リュハヤ様とはどなたでしょうか」「今夜にでもお話しする予定でしたが」 ルッカはもう一度溜め息を重ねた。「エイリカ湖の湖畔に『祈りの館』と言う建物があり、そこで龍神
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』3.龍と花咲(2)
**************** 「まず、龍神とは何か、からお話ししますね」 シャルンの私室に円を描くように集まった女官達の中、カトリシアが口を開いた。彼女の祖母は古い民話をたくさん知っている。テー
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』3.龍と花咲(1)
**************** 「いや、もう、胸が痛くなるようなイチャイチャっぷりでしたね!」「…悪かった」「『奔流王』改め『溺愛王』あたりはいかがですかね!」「…もう言うな」「ったく、いい加減にし
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**************** 「ちょっと待った」「はい?」「…………あんた、酔ってんの?」「酔ってません」 ぶっきらぼうな伊吹の口調に京介への微かな心配を感じ取って、また身体が熱くなった。 それと同時
**************** 「課長?」「はい」「これのどこがカフェなんですか」 伊吹が京介のマンションのエントランスで凍りついたのを、くるりと振り返って、「カフェなんて言ってないよ?」「は?」
**************** 不愉快だ。 一瞬に自分の心を塗りつぶした真っ黒な靄を、いつものように客観視できなくて、京介はレタスに噛みついた。 不愉快だ。 全くもって不愉快だ。 なぜ、彼女は未だ
**************** 伊吹を連れていったのは近くのフレンチレストラン。 一時期ほどの熱狂的なファンもいないが、通いだした常連は離れていかず客が途切れない店で、今日も直前に入れた電話では
**************** 不安そうな顔をして横目でちらちら見てくる伊吹の隣で、アイスコーヒーを飲みながら、さてそういうことならどういう手が効果的かなあ、と考える。 男性関係はほとんど皆無、
**************** さりげなく、ごくさりげなく京介は動き方を変えた。 伊吹を一人にしないように、微妙な頃合で仕事を始めたり、電話をかけだしたりする。 気付いたのはやはり石塚だ。「課長
**************** 伊吹美並は順調に仕事を覚えていった。 いろいろなアルバイトをしていたというせいもあるのか、人慣れも早いし、応対も丁寧だ。他課での反応も客からの評判も悪くない、むし
**************** 名前を知ったのは会うよりも早かった。 京介と別れた後ぐらいから、相子は体調を崩すようになって、唐突に休むことが増えた。 流通管理課というのはそれほど仕事が多いわけ
**************** 温かな息がかかったような気がした。 目覚まし代わりの一舐めがもうすぐやってくるから阻止したい。 手を伸ばして京介はぱたぱたと枕元を探る。「イブキ……?」 無意識に口
**************** もう一軒つき合って。すぐ近くだし、おいしいコーヒー飲みたくない? そう誘われて、これが最後ですよ、と念を押したのは、プライベートなつき合いはこれっきりだと言う意味
**************** 「……本当は話したくないんです」「見えるってこと?」「課長と」「あれ?」 レストランで向かい合い、真崎はきょとんと目を見張ってから、それは困ったなあ、と苦笑いした。「
**************** 「これ、全部シュレッダーかけるの?」「あ」 ついと人影が寄ってきたかと思うと、ボックスに入った文書を取り上げた相手が呆れ声を上げた。「はい」「凄い量だね……伊吹さん一
**************** 「シャルン!」 さすがにこれ以上の悪趣味を重ねる気になれず、レダンは声を張り上げた。「大丈夫だ。こいつら……ガーダスは、俺達に興味がないようだ!」 ことばだけでは足
**************** 「いやああっ!」 シャルンの高い悲鳴が響いた時、レダンの胸に愛おしいとも誇らしいとも言えぬくすぐったい感情が溢れた。同時に自分の非情さに呆れもした。「男と言うのはど
**************** 一匹ではなかった。 四方八方に散った通路、そのどれからも同じように通路を満たしながら、中には体で岩をなおも削りながら、巨大な白い虫が這い出てくる。幾つかの結節に分
**************** 坑道に入ってどれほど経ったのかは定かではないが、水を補給した休憩よりなおしばらく奥に進んで、一行は立ち止まった。「ここに来て、これですか」 ガストが嘆息するのも無
**************** 「…良いんですか」 ガストの声に、レダンはちらりとバラディオスと話し込むシャルンを見遣る。「良い。あいつがあれほど派手に反応するとはな。面白いやつじゃないか」「…おか
**************** 薄暗い坑道の中を先に立って進みながら、先ほどから「どう言うことだあれは」とか「計算外だったな畜生」とか「誰か余計なことを吹き込んだんじゃないだろうな」とか「これが
**************** あなたが読んでからでいいよ。 レダンはそう囁いて、シャルンを抱きしめたまま、ソファでゆっくりすることに決めてしまったらしい。離してくれないので、仕方なしにシャルン
**************** 何を考えているのか。「私が聞きたいところだ」 冷ややかに嗤いながら、リヒャルティを置き去りに、セシ公は自室から持ち出した紫の布包みを手に、パディスへ馬を走らせ
え、あれあれあれ? 正直なところ、そんな気持ちです。 先日でしたよね、2030000ヒットにお礼申し上げたの。 お約束の『ラズーン』が一章分もかけていなくて、一節だけ上げさせて頂いて。 このペースでは次の204
**************** 「走れ走れ走れえっっ!!」 シートスの命令が響く。「1人でも多く少しでも早く門に滑り込めっ!」 テッツェの伝令は必死に辿り着いた。 だが、南門が解放され、アリオを放