**************** 突然真崎が閉じていた目を開いて見下ろしてきた。 (中略)「……そ……っか………これ……ちがう…んだ…」 真崎が囁き、瞬きして美並に焦点を合わせてきた。 軽く震えが走る。一瞬、離
ツンデレ姫と美貌の付き人などの恋愛ファンタジー毎日連載。『アルファポリス』『小説家になろう』参加。
男勝り姫君ユーノと美貌の付き人アシャのハーレクインロマンス的なファンジー小説『ラズーン』毎日連載。『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』は出戻り姫シャルンと腹黒王レダンのラブコメディ、時々連載。
**************** 突然真崎が閉じていた目を開いて見下ろしてきた。 (中略)「……そ……っか………これ……ちがう…んだ…」 真崎が囁き、瞬きして美並に焦点を合わせてきた。 軽く震えが走る。一瞬、離
**************** わたしのいみはなんですか。「美並?」 真崎が先に立ってマンションに入り、外の廊下に立ったままの美並を振り向く。「美並」 手を握り、動かない美並を部屋の中へ引き入れて
**************** 京介は、その過敏で脆い部分へ加えられる力にいつも翻弄されてきた。そこへの攻撃に身を竦めて、源内の言い方で言えば、逆に好きなように扱われてきていた。 けれど今、源内の
**************** 深い海の底から緩やかに立ち上る白い泡になって、長い旅を続けて海面へ辿りつき、ようやくぽかりと弾けた、そんな気分で京介は目を覚ました。「……」 しばらくぼんやりと天井を
**************** 「僕は渡来さんのことをあまりよく知りませんが」 自分の気持ちをごまかさない人でしょう、自分に対しても他人に大しても。「ああ」「伊吹さんも同じ」 だから僕は彼女が僕を要
**************** 「さっきさ」 ふうふう、と息を吹きかけながら、源内は熱いチャーシューを啜り込む。「あんたのことを聞いてたつもりだったんだが」「はい」 京介は五目蕎麦を持ち上げた箸を止
**************** 「戻ってきてくれると言ったから」 京介は雑巾を絞って跪いて畳を拭き始める。「僕は伊吹さんを待つ」「……もし」「はい?」「戻ってこなかったら」 源内が箒を止めて背中を向け
**************** 「ここだ」 先に立っていた源内がかなり年期の入った錆の浮いた金属製のドアを開けた。 向田駅の横の道を入っていった路地の奥、ビルの間をすり抜けるように数メートル入ったそ
**************** (中略) まるで中身全てをひっ攫うように遠ざかるその波に引きずられ運ばれて、やがて放り投げられるようにとてつもなく広い空間に落ちていく。 僕が、消える。 恐怖と快楽の
**************** 仕切り直ししましょうね。 伊吹の提案に頷いて、二人交互にシャワーを浴びた。 暖めた部屋で,丁寧にコーヒーを淹れて飲んで。「もう、いい?」「ん」 顔を見合わせて小さく
**************** 夢中になって片手で崩れそうな体を支え、もう片方の手で首のネクタイを緩めた。きつく引っ張って解いて、きっと次締めるときにはひどい状態になっていそうだけど、引き抜くよう
**************** 京介が部屋に戻った時には、もう体が熱くてたまらなかった。「美並?」「……」 ドアの外に立って何事か考えていた伊吹が、顔を上げて頷く。 食事の時もそうだった。穏やかで静か
**************** ハルと見た時の映画は、主人公を守るために暴走するロボットばかりに目が行った。 今度もまた、その展開が胸に刺さる。ついさっき有沢に、能力を使うことは義務だと詰られた後
**************** 脳裏に掠めたトイレでの声、確かにそうだ、もう美並は『羽鳥』の姿を捉え始めている。飯島が何を考えて自分に不利になるかもしれない画像をパソコンに残していたのかわからな
**************** 一瞬、『村野』を出た直後にかかってきた真崎の連絡が実はフェイクで、真崎本人が間近まできていた、『村野』から密かに自分の後をつけていたのかと思った。 だが、腕を掴んだ
**************** ありえないだろう。 世界が揺れ動くような感覚に襲われながら、美並は元子と別れた。 真崎が次期社長? それこそ無理だありえない、だって。『彼の弟です』『ええそうね、そ
**************** 「早かったわね。しかも可愛いわ」 『村野』の奥まった席は予約したのだろう、元子は珍しく黒のパンツスーツ、指にいつものダイヤもない。それでも晴れ晴れとした笑顔はそのまま
**************** ありがとうございます、と石塚には伝えた。 未来の夫の職が失われるかも知れないのよ、それどころか、警察沙汰になって、ほんと大変な思いするかも知れないのよ。 案じる石塚
**************** 真崎が弾むような足取りで出かけた後、美並は元子に呼び出された。『ちょっと席を離れられる?』「ええ、はい?」『できれば、早退する形で』「…」 思わず石塚を見やると、相
すみません。遅れました(汗) **************** 「う、課長……何ですかいきなり、聞いてたんですか? 人が悪いなあ」「そりゃこういう部署の課長をやってれば、多少人も悪くなるよ」 真崎が冷や
**************** 何だろうな、この展開は。 溜め息混じりに美並は印刷機の前で書類を手に取る。 あれだけ気負って出てきて、今朝『羽鳥』を間近に捉えて、自分の中の猛々しいものを全開にして
**************** 「どうしたの?」 さっき、そんなにトイレ、行きたかったの? 隣を歩きながら、高崎が尋ねてくる。「……」「朝寝坊したの? 凄い形相だったよ」 無神経、いや天然か。「女の人
2140000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 7.新たなる国(3)
**************** 「……状況を教えて頂きたい」 セシ公は静かに応じた。シートスの猛々しい視線に貫かれながら、1つでも多く、より有効な手を打てる情報を引き出そうとする。「ご覧になれば良い」
**************** 「……よし」 いいや、と思い切って水を止めた。濡れた雑巾を絞り切る。同時に体の中で疼いた甘い波も一気に絞って外し、バケツと雑巾を外のテラスに干した。窓一つ向こう、中でそ
2140000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 7.新たなる国(2)
**************** 『氷の双宮』の扉が、ゆっくりと開かれていく。 リヒャルティや『金羽根』、イルファだけでなく、噂を聞きつけたのだろう、避難していた民衆が不安げに集まり始めていた。 レ
2140000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 7.新たなる国(1)
**************** 「セシ公!」 『太皇(スーグ)』と別れて外に出ると、慌てたようにレアナが駆け寄ってきた。「どうされましたか」 自身の動揺を押し殺して階段を降り、背後に消えていく気配を
**************** 石のついている婚約指輪は雑巾掛けには不向きだ。石も傷むし、雑巾掛けする時も余分な気を使わなくてはならない。 それはどこか、いつも頭の隅で京介と一緒に暮らしていきたい
**************** 少し早すぎたかも。 美並は自分の気負いに赤面しつつ、開発管理課のデスクを雑巾掛けする。 窓から差し込むきららかな朝日、配湯室の湯もまだ湧いていなかったから、まあいい
あああああああ。 いや、済みません、ありがとうございます。 うれしいです、うん、本当に。 けれど、それとは別に。 ああああああああああ。 『ラズーン』が。 いや、下地はあります、今回は。 まだ書けてないだけ
**************** 自分には人にはない特殊な感覚がある。 それは苦痛をもたらしてきたけれど、どこかでそれでも自負があったのかもしれない、能力を使うことによる優越感。 けれど真崎はどれほ
**************** 泣き寝入りなんかしたのは、何年ぶりだろう。 目が覚めると頭が痛くて、瞼が腫れぼったかった。「…ひどい顔だなあ」 鏡に向かって呟く。 泣いて泣いて泣いて。 気づいたか
2130000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 6.ハテノトショカン(5)
**************** アシャは満足していた。 もたらされる結果も、それによって噛み締める後悔も、考えることなく、初めて自分の全ての力を解き放った。 世界を破滅させるための兵器と化した
2130000ヒット、ありがとうございました!『ラズーン』第七部 6.ハテノトショカン(4)
**************** セシ公を送り出してから、『太皇(スーグ)』は再び『ハテノトショカン』に戻った。 久しぶりに取り出して眺めた映像は、懐かしいものもあれば、記憶にないものもある……もっと
**************** 電話を切って、風呂に入って、ことさらごしごしと体を洗って、上がった時は2時を回っていた。 身動き出来ない社会の裏側を、今美並は有沢と覗き込んでいる。不安定な足下に手
**************** 『あなたからのラインは期待できそうにないから、こちらもそれなりに動いてみていますよ』 有沢は皮肉な響きを効かせて笑い、すぐに真面目な声になった。『飯島は最近では仕事も
**************** 恵子が居た、京介のマンションを出て、冷えたアスファルトを靴の踵で叩きつけるように歩いて、大通りでタクシーを拾った。「お仕事?」「残業で遅くなって」「ふうん?」 運転
**************** 「……」 ことばが、でなかった。 伊吹がどれほど守ろうとしても、京介が大輔に抵抗しない限り、恵子を受け入れる限り、京介は繰り返し傷つく。 今まではそれでも京介一人のこと
**************** 『BLUES RAIN』は思っていたよりずっとシビアな物語だった。 主人公の女性刑事に、戸惑いつつ気持ちを募らせていく護衛ロボット、そしてその存在に嫉妬する犯人が容赦なく主人
**************** 映画。 映画。 伊吹と映画に出かける。「考えない」 それが京介そっくりの人間が破滅していくものであっても。「考えない」 なぜ急に美並が一緒に見に行こうとしているのか
**************** 「商談出てきます」「はい、いつ頃戻られますか」 問いかけてきたのは石塚、伊吹は高崎に何か頼まれたらしく、書類の束を抱えて高崎の後について部屋を出ていく。「そう、だな」
**************** 伊吹に嫌われたんだ。 一晩中考えて、京介はそう結論した。「伊吹さんに、嫌われたんだ」 部屋に差し込むまばゆい朝の光に、夜中繰り返したことばをもう一度呟く。「どこでへ
**************** 「み、なみ…」 伊吹が怒っているのは確かで、それは京介が恵子を家に上げたからだ。けれど、それだけではなくて、伊吹は京介にも怒っている、それもかなり深いレベルで。「……マ
**************** 確信があった。「は、いっ」 恵子の前をがくがくする脚で飛ぶように抜けて、ドアに辿り着く。防犯スコープをのぞくまでもなく、すぐに開いた扉に、何事か考え込む顔をしながら
**************** 投げたバスタオルは頭から被っていて、ボタンを外したブラウスの胸元から押さえつけられた白いふくらみが見える。膝を曲げる、濡れてはりついたストッキングの脚が、いつの間に
**************** **** 美並との夕食の機会を失い、そのままあれこれと残り仕事を片付けて、京介は遅くに会社を出た。「ふ、ぅ」 やってきた電車は通勤ラッシュの時間帯を越えているせいで
**************** 「違います」 真崎がすっと顔色をなくした。「京介は、私のものじゃありません」「っ、違っ」 はっきりと顔を強張らせて迫ろうとする相手に指を伸ばして、シャツの下で膨らみか
**************** 「……あの…」 玄関の扉が閉まって部屋に引き返してきた美並に、真崎がおどおどと声をかけてくる。「ごめんね、シャツとジーパン…」「今度、一緒に買いにいきますから」 不安そう
急に暖かくなったり、気温の割には冷え冷えしたり、ややこしい気候になっております。 みなさま、体調崩されていませんか。いつもと違ってだるいな、と思ったら、少しだけ早めに休養取ってくださいね。 色々なこと
**************** 恵子には美並のジーパンとシャツを与えて、タクシーで放り出した。「いやよ、こんな夜にどうやって帰れっていうの」「警察の方が安心ですか」「……いやだわ、こんなの、趣味も違
**************** 中に居たのはやっぱり恵子だった。 濡れた白い肌、ふっくらと柔らかな曲線は豊かな胸元だけではなく、滑らかな下腹にもむっちりとした腰にもあって、俯いた肩の丸みや、少し曲
**************** ばたばたっ、と現実ではない音をたてて、けれど見えない美並の心を裂いて、紅蓮の赤が散ったのが見える。 これが嫉妬の報い。これが支配の代償。「どうして?」 もう尋ねなく
**************** エレベーターが開いて、まっすぐに真崎の部屋へ向かう。廊下に濡れた足跡がある。渇き始めていて、それでも寄り添うように繋がっていく濡れた跡、気がついて前を見やるとそれは
**************** 「これが最後でしょ」「ううん、もう一台あるわよ、でも」 美並が電車を降りて改札を通り過ぎるとき、入れ違いに入ってきた女性達がくすくすと笑いながら背後を振り返る。「恵子
**************** 「……支配」 ハルに見えていたのは、この深い所の赤だろうか、それともこのやや桃色がかって見える赤だっただろうか。「腐った血の色…」 それは、あの雪の上に落ちた椿の色だろ
**************** 『村野』での食事を済ませて、送ろうというハルを断って、美並は一人部屋に帰った。「ふう」 バスン、と両手を広げて仰向きにベッドに倒れ込む。 頭の中で交錯する二つの声。
**************** のろのろと携帯に手を伸ばす。 まだ番号は入っているはずだ。電話を待っている相手はすぐに出るだろう。京介の連絡を喜び、場所を決め、京介と会うために子供も夫も放ってやっ
**************** 「ただいま戻りました」「おかえりなさい」 京介が開発管理課に戻ると、待ちかねていたように石塚が席を立った。 伊吹はもう席にいない。時間は7時を回っている。 今頃は。
**************** 「いえ、面白いなと思ってお聞きしてました」「ほう、何が」 大石がちらりと視線を送ってくる。「企画提案についてはもう説明させて頂いたので、僕達と大石さん達の扱うものの違
**************** 休憩を挟んで戻った後は、一転してブレーンストーミング状態になった。「服装というのは、その人間の内面の表現だと思います」 高校教師らしい意見を小杉が述べると、「内面即
**************** 「人の色って変わるの?」「変わる」 環境や生き方や、いろいろなことで。変わらないほうがおかしい。 苦笑したハルがふいとぼんやりした瞳になった。「変わる……」「ハルくん?
**************** 「これ」 食事が終わってコーヒーを頼んだ後で、ハルはスラックスのポケットに入れていたらしい一枚のタイルを取り出した。「これ……オープン・イベントのタイル?」「美並」「私
**************** 「いただきます」 とりあえずこちらはマカロニグラタンを頂こう、そう思い直して、フォークで熱々の中身を掬う。ゆらりと上がった湯気がさっき濡れた頬を撫でて、ハルの静かな指
**************** 「ごめんね」「いい」 映画の後半が楽しめなかっただけではなく、見終わった美並は無性に京介の声を聞きたくなって、しかめ面のハルに無理を通して、京介も一緒に食事をしたい、
**************** 映画はよくできていた。 近未来。 人と寸分変わらぬロボットが闊歩する世界で、犯罪もまた様変わりしている。 主人公の女性刑事はかつて恋人を犯罪がらみで失っている。その
**************** 目立つ、ということにかけては京介も似たようなものだけど、ハルの目立ち方はかなり違う。 映画館に向かっていきながら、美並は入り口近くで立っているハルにそう思った。 ど
**************** 「すみません、何度か呼ばれてました?」「ううん、初めてだけど」 石塚は首を振り、これ、どう思う、とパソコン画面を指差した。「? ウェイターの制服……?」 白シャツ、黒ス
**************** 『飯島』が死体で見つかった。 最後に有沢が伝えたことばは、美並の中で二つの意味を持った。 一つはこれでまた、難波孝に辿り着く道筋が細くなったということ。 そしてもう
**************** 「手?」「て…?」 大輔がぎくりとしたように力を緩めて、腕に力が戻り、指先に洗面台が触れた。 手を突く。 捉えた平面に掌を付ける。「そのまま一気に突き放す! 後ろに頭
**************** ホールでの流れをだいたい確認し終わって、一度休憩が入った。 葉延七海の小曲で会場開け、全ての部門担当が一度集まってのセレモニーで開会宣言と挨拶、ソーシャル・イベント
**************** 動きで空間を区切っていくという雰囲気というか、一場面一場面が絵画的におさまる鮮やかさとか。 京介の頭の中で蘇ったのは、シュレッダーの前で紙を処理していく伊吹の立ち姿
**************** 時間だ、行くか。 先に立って小会議室の一室へ進む源内に、一緒に行くとまずいんじゃないかと考えたが、噂を気にして振る舞うのが一層まずいのは明白、ドアを開けた相手の後か
**************** 「ただ」 ふいに源内は悪戯っぽい笑みに唇を綻ばせた。 美並を連れてく、ハルはそう言ってるけど? 覗き込まれて微笑を返す。「宣戦布告はされてますよ」 それぐらいは言うだ
**************** おおまかなスケジュールが確認され、各部門ごとに小会議室へ移動することになって席から立ち上がると、背中に視線を感じた。「…ま…き…きょう…」 自分の名前が微かに聞こえた気
**************** 「本日はお忙しいところをお集り頂き、ありがとうございます」 部屋の中は場所の狭さだけでなく、正面のホワイトボードの前に立っている源内を見定めようとでもするように、人が
**************** 一体何を考えてるの、伊吹さん。 ともすれば、疑問がぐるぐるしそうになるのを堪えつつ、京介は市役所の会議室へ向かっている。 今日は参加企業と支援団体、教育関係者や地域
**************** 「私は、あなたを」 もっと知りたい。「残り三ヶ月もない時間だ」 彼に『ニット・キャンパス』に集中させてあげて、あなたが難波孝と私の相手をする。「ちょうどいい取引だと思
**************** 派手な物音に警戒していたらしい部屋の外の仲間達をさりげなく逸らせ、有沢は美並を送っていくと言い出した。「え、そんなこと俺がやりますよ」 不服そうに檜垣が唇を尖らせる
**************** 「なぜ、有沢さんのところに居るんですか?」 ちら、と檜垣は有沢の方を横目で見たが、相手が身動きしないのに溜め息をついて自嘲した。「組織ってやつです。あれこれ言っても安
**************** 「……」 檜垣が緩やかに目を伏せ、腕を組み、そろそろと背後にもたれた。「檜垣…」「教えてもらえませんか、檜垣さん」 美並は相手の周囲に揺らめく黄色の炎を見つめた。「なぜ
**************** 「有沢さん、そうやって自分責めても」「自分を責めてるんじゃない」 ふいに有沢はきつい声で遮った。「違うんだ、檜垣」 俺は何かを見落としている。 厳しい顔で言い放ち、有
**************** 「…なんか予感があったとか」 檜垣が溜め息まじりに呟く。「覚悟があったとか。勘のいい人だったんでしょ?」「覚悟?」 有沢が訝しげに檜垣を振り向く。「何の覚悟だ?」 不
**************** 「さすがに当日身につけてたものはベルトだけ、ですが」 上着とライターは形見分けで私がもらいました。 有沢のことばに机に広げられたそれらを眺める。 人間ではなくて、物か
**************** 一瞬、美並は迷った。 手に入れた画像は明が処理してくれたはずだ。だが、ひょっとしたら万が一を考えて、まだ消さずに持っているかもしれない。 それを探し出して、有沢に提
**************** 「だから私に近づいた? 私の近くに居る人なんですか?」「へえ…」 壁際からぎしりとパイプ椅子の鳴る音と同時に檜垣が身を乗り出した。「あんた、オカルト巫女だけってわけじ
**************** 戻った向田署に受付の女性はもういなかった。 案内されているというよりは、有沢檜垣に護送されているような状況で二階に上がっていく美並を、物問いたげな視線で追う職員は居
**************** 美並の視線に有沢がのろのろと背後を振り返る。それに気づいたのだろう、檜垣が改札から問いかけるように体を乗り出した。呼ばれるのか、そういう顔で待機する、その姿に有沢も
**************** 「あー、疲れた」 美並は深く溜め息をついて駅のホームにへたり込む。「慣れないことはするもんじゃないって?」 ずっと避けてきた、人目につくこと、目立つこと、興味を引くこ
**************** 「…満足なんですか」 美並はゆっくり目を開いて相手を見た。「は?」「あれで、満足なんですか?」 目を細めて繰り返す。「満足?」 有沢の顔がうっすらと赤くなった。「私が
**************** その日、仕事を手早く済ませて、美並は真崎が課室に戻ってこないうちに会社を出た。 今朝の甘いキスの後のやりとりを思い出すだけで、胸の中に強くて温かな光が灯る。その光を
**************** そして、朝。「ん、まだ繋がってる」 美並は携帯を充電器から外して確かめ、急いで身支度をした。 まだまだ時間は早かったけれど、とりあえず携帯を切りたくなかったから、繋
**************** 昨日の夜のことが蘇る。「は…ふ…」 どれほどそうやって美並は泣いていただろう。 こんなに泣いたのはひさしぶりだ、そう思いながら顔を上げた。 駅前にはもうタクシーの影も
**************** 「はい、スープ」「ありがとうございます」 乗り込んできて朝御飯頂いてるなんて非道ですね。 苦笑する伊吹にいいでしょ、と今度は自分のカップスープを作る。「きゅうりとトマ
**************** 「…あれ?」 何かが目元を掠めた気がして、京介は目を開けた。視界に被さっていた髪の毛に、これか、とぼんやり掻き上げながら瞬きして腕の中を覗き込む。「……美並?」 てっき
**************** 「行きましょうか?」 ここからならタクシーを飛ばせる。『今……夜中だよ? ……終電、終わったよ?』 声がしっとりと艶を帯びた。 甘える頼りない声、鼻を鳴らしてすり寄る怯え
**************** 『一人にしてもらえませんか』 有沢はそう言った。 自販機の前で俯いて、やがて送りましょう、と美並を署から連れ出して、駅まで無言で送り届けてくれた。 太田の遺品のことに
**************** 姫野の周囲には今何も漂ってはいない。重いを隠す鈍色の靄も、真実を侵す黒い影も。その柔らかく細められた瞳にはただただ善意と好意に満ちた光が溢れるだけだ。「警察のために
**************** 有沢はおそらく警察内部に、それも向田署の中に『羽鳥』に繋がる内通者がいると考えているのだ。 だからこその単独行動、そして美並を引き入れざるをえないと判断したのも、自
**************** 「はい?」 姫野は訝しそうに振り返り、美並を見つめ、有沢を見上げた。「有沢さん…」「はい」「私、ほっといたしました」「は?」「こんないい方がいらしたなんて」「…は?」「
**************** 向田署の玄関は静まり返っていた。「静かですね」「今夜は別です」 有沢が微笑む。「さっきかなりの数が出払ったはずなんで」「ああ」 出掛けの連絡というのを思い出した。そ
**************** ずるずる。「おいしいですね」 ずるずるずるずる。「スープにちょっととろみがあるのかな」「……冷えた体に、いいからって」「ああ、なるほど」「……………久しぶりに、食べました
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**************** 突然真崎が閉じていた目を開いて見下ろしてきた。 (中略)「……そ……っか………これ……ちがう…んだ…」 真崎が囁き、瞬きして美並に焦点を合わせてきた。 軽く震えが走る。一瞬、離
**************** わたしのいみはなんですか。「美並?」 真崎が先に立ってマンションに入り、外の廊下に立ったままの美並を振り向く。「美並」 手を握り、動かない美並を部屋の中へ引き入れて
**************** 京介は、その過敏で脆い部分へ加えられる力にいつも翻弄されてきた。そこへの攻撃に身を竦めて、源内の言い方で言えば、逆に好きなように扱われてきていた。 けれど今、源内の
**************** 深い海の底から緩やかに立ち上る白い泡になって、長い旅を続けて海面へ辿りつき、ようやくぽかりと弾けた、そんな気分で京介は目を覚ました。「……」 しばらくぼんやりと天井を
**************** 「僕は渡来さんのことをあまりよく知りませんが」 自分の気持ちをごまかさない人でしょう、自分に対しても他人に大しても。「ああ」「伊吹さんも同じ」 だから僕は彼女が僕を要
**************** 「さっきさ」 ふうふう、と息を吹きかけながら、源内は熱いチャーシューを啜り込む。「あんたのことを聞いてたつもりだったんだが」「はい」 京介は五目蕎麦を持ち上げた箸を止
**************** 「戻ってきてくれると言ったから」 京介は雑巾を絞って跪いて畳を拭き始める。「僕は伊吹さんを待つ」「……もし」「はい?」「戻ってこなかったら」 源内が箒を止めて背中を向け
**************** 「ここだ」 先に立っていた源内がかなり年期の入った錆の浮いた金属製のドアを開けた。 向田駅の横の道を入っていった路地の奥、ビルの間をすり抜けるように数メートル入ったそ
**************** (中略) まるで中身全てをひっ攫うように遠ざかるその波に引きずられ運ばれて、やがて放り投げられるようにとてつもなく広い空間に落ちていく。 僕が、消える。 恐怖と快楽の
**************** 仕切り直ししましょうね。 伊吹の提案に頷いて、二人交互にシャワーを浴びた。 暖めた部屋で,丁寧にコーヒーを淹れて飲んで。「もう、いい?」「ん」 顔を見合わせて小さく
**************** 夢中になって片手で崩れそうな体を支え、もう片方の手で首のネクタイを緩めた。きつく引っ張って解いて、きっと次締めるときにはひどい状態になっていそうだけど、引き抜くよう
**************** 京介が部屋に戻った時には、もう体が熱くてたまらなかった。「美並?」「……」 ドアの外に立って何事か考えていた伊吹が、顔を上げて頷く。 食事の時もそうだった。穏やかで静か
**************** ハルと見た時の映画は、主人公を守るために暴走するロボットばかりに目が行った。 今度もまた、その展開が胸に刺さる。ついさっき有沢に、能力を使うことは義務だと詰られた後
**************** 脳裏に掠めたトイレでの声、確かにそうだ、もう美並は『羽鳥』の姿を捉え始めている。飯島が何を考えて自分に不利になるかもしれない画像をパソコンに残していたのかわからな
**************** 一瞬、『村野』を出た直後にかかってきた真崎の連絡が実はフェイクで、真崎本人が間近まできていた、『村野』から密かに自分の後をつけていたのかと思った。 だが、腕を掴んだ
**************** ありえないだろう。 世界が揺れ動くような感覚に襲われながら、美並は元子と別れた。 真崎が次期社長? それこそ無理だありえない、だって。『彼の弟です』『ええそうね、そ
**************** 「早かったわね。しかも可愛いわ」 『村野』の奥まった席は予約したのだろう、元子は珍しく黒のパンツスーツ、指にいつものダイヤもない。それでも晴れ晴れとした笑顔はそのまま
**************** ありがとうございます、と石塚には伝えた。 未来の夫の職が失われるかも知れないのよ、それどころか、警察沙汰になって、ほんと大変な思いするかも知れないのよ。 案じる石塚
**************** 真崎が弾むような足取りで出かけた後、美並は元子に呼び出された。『ちょっと席を離れられる?』「ええ、はい?」『できれば、早退する形で』「…」 思わず石塚を見やると、相
すみません。遅れました(汗) **************** 「う、課長……何ですかいきなり、聞いてたんですか? 人が悪いなあ」「そりゃこういう部署の課長をやってれば、多少人も悪くなるよ」 真崎が冷や
**************** それが、週末、のこと。「手、動いてないわよ」「あ、はい」 石塚に指摘されて、美並は慌てて資料を捲った。 真崎に耳元で囁かれてぼうっとしていたのかと思われるのは恥ずか
**************** 「やあ、おはよう」「……お、はようございます」 翌朝、大あくびをしていたところをまともに大輔に見られて、美並は引きつった。 夕べの衝撃的な真崎の告白がまだ頭に残っている
**************** 旅先で、夜中に入ってきた真崎はまっすぐ美並の枕元にやってきた。「……伊吹さん」 何かをしかけてくるようなら、力の限り抵抗してやる。 布団の中でこぶしを握り締めていた
**************** 夜中にまた夢を見た。 押し倒されて首を押さえられる。息ができなくてもがいたとたん、目が覚めた。「は…っ…はっ」 喘ぎながら汗に塗れて目を開けると、見上げたすぐ目の前
**************** 意外な応えが返って目を見開くと、生真面目な顔で尋ねられた。「イブキは誰の猫なんですか?」 いぶき、は誰のものなんですか。 一瞬そう聞こえて、ことばにならなかった。
**************** 近付いてくる唇を拒めなかった。 伸び上がって吸いついてくるべったり濡れたそれは強い化粧品の匂いがして、押し倒されてのしかかられて、ぼんやり見上げていたら繰り返し吸
**************** 一瞬伊吹が来てくれたのかな、と無邪気に思って苦笑する。「京ちゃん?」 ああ、あんたか。 なるほど、そういや来てくれとか言ってたよね、すっかり忘れてたよ。 一人ごち
**************** 苦しくて、眠れない。 京介は唇をきつく噛み締めて目を閉じる。 布団に必死に潜り込んで、大丈夫だ、大輔はいない、と言い聞かせるのに、身体が納得してくれない。 ずっと
**************** 何だろう。 何だろう。 更けていく夜に美並はずっと考えている。 何かどこかが妙な感じだ。 真崎の話で行くと、真崎と前後してここから離れた孝はかなり荒れた生活をしてい
**************** 「う~」 頭、痛ー。 眉をしかめる美並の手を引いて、ゆっくり山道を降りながら、真崎は不安そうな顔で覗き込んでくる。「見えるって大変なんだね」 あんなになっちゃうなん
**************** 抱きたいな。 もう、ほんとに駄目だ、伊吹が抱きたい。 けれど。「う~……頭……いたー」 足下をふらつかせながら歩いている伊吹の手を引きながら京介は振り向く。 伊吹の顔
**************** もがいたり逃げたりするかと思っていた伊吹は、抱き竦めても動かなかった。 動けない、ということではない。余分なところに力が入っていない。自分の意志で動こうとしていな
**************** 「………だから見せに来たんですか」「え?」「大輔さんと恵子さんに」「……」 黙り込んだ真崎に、やっぱり、と思った。 ただのイブキの墓参りなら、まっすぐここへ来ればいいだ
**************** 残念ながら、移動先での一休みと食事にはありつけなかった。 周囲を警戒しながら進んでいたはずだが、燃え続けて収まる気配のない『氷の双宮』に皆が気を取られた一瞬、「敵
**************** 大輔は京介が『ぼけ』にかまけて自分と遊ばないとたびたび癇癪を起こしていた。そうして、ある日、『そんなにこいつが大事か』『大ちゃんっ』『こんなちっこいやつが』『やめ
**************** 一群れの軍を制圧した、と言えばいいのだろうか。 戦い方を変えてからは、勝敗はあっさり決した。死屍累々とはまだ早いか、大怪我をしつつ未だ死んでは居ない者も転がる広場
**************** 「ここだよ」 黙って手を繋いだまま山を登って、京介は慣れた場所に辿りつく。「綺麗なところですね」 じっと見ていた伊吹がぽつりと言って、思わず振り向いた。「綺麗? こ
**************** 「シートス!」「隊長!」 周囲に満ちる剣戟の隙間からも、重なり合った2つの声は届いた。その一つが、奇跡的な救いに繋がると感じてシートスは振り返る。炎に彩られた道なき
**************** 「わぁ…」「気に入った?」「いや、気に入ったというか、なんて言うか」 ゆっくり足下に気をつけながら歩いたから、結構な時間が立ったはずだ。 美並が額にうっすら汗を感じ
**************** あの日は月がなかったな、と京介は空を見上げて思った。 遮るように差し出している枝を押し退けて広げ、月があれば何か変わっていただろうかと思う。 こうして明るく照らさ