**************** 新年一週間たって、ようやく美並の気持ちが決まった。 大石となら頑張っていけるかもしれない、温かな笑顔を思い出しながら、そう思った。 年末から連絡はずっとなかったけれ
ツンデレ姫と美貌の付き人などの恋愛ファンタジー毎日連載。『アルファポリス』『小説家になろう』参加。
男勝り姫君ユーノと美貌の付き人アシャのハーレクインロマンス的なファンジー小説『ラズーン』毎日連載。『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』は出戻り姫シャルンと腹黒王レダンのラブコメディ、時々連載。
**************** 「……………悔しいんだって」 ゆっくりと目を開ける。 コーヒーカップを両手で包んで見上げてくる伊吹に微笑む。 そのカップになりたい、と一瞬願った。 本当のことはきっと言
**************** 「……………悔しいんだって」 真崎は虚ろな目で笑った。「何にも努力しないで、僕にうんと愛されるのがむかつくんだって言ってたよ。………殺すつもりじゃなくて、ただ料理していたら
**************** 「ああ、片付けるのが面倒で」「猫が死んだのはいつです?」「……一年ほど前、かな」 京介は当たりさわりのない答えを心掛ける。 本当は片付けようとしたけれど、処分するゴミ収
**************** 「はい、着きましたよ、どうぞ」「ありがとうー」「じゃあいいですね」「んー」 伊吹が手を離しかけたとたんにぱん、とドアの隣の壁を叩いてみせると、ぎょっとしたように見上
**************** 入って、と美並が招かれた部屋は驚くほど何もなかった。「さっきの玄関のところに猫があって」「説明しなくていいから」 あ、そうそう、と思い出したように振り返る真崎に顔
**************** 「ちょっと待った」「はい?」「…………あんた、酔ってんの?」「酔ってません」 ぶっきらぼうな伊吹の口調に京介への微かな心配を感じ取って、また身体が熱くなった。 それと同時
**************** 「課長?」「はい」「これのどこがカフェなんですか」 伊吹が京介のマンションのエントランスで凍りついたのを、くるりと振り返って、「カフェなんて言ってないよ?」「は?」
**************** 不愉快だ。 一瞬に自分の心を塗りつぶした真っ黒な靄を、いつものように客観視できなくて、京介はレタスに噛みついた。 不愉快だ。 全くもって不愉快だ。 なぜ、彼女は未だ
**************** 伊吹を連れていったのは近くのフレンチレストラン。 一時期ほどの熱狂的なファンもいないが、通いだした常連は離れていかず客が途切れない店で、今日も直前に入れた電話では
**************** 不安そうな顔をして横目でちらちら見てくる伊吹の隣で、アイスコーヒーを飲みながら、さてそういうことならどういう手が効果的かなあ、と考える。 男性関係はほとんど皆無、
**************** さりげなく、ごくさりげなく京介は動き方を変えた。 伊吹を一人にしないように、微妙な頃合で仕事を始めたり、電話をかけだしたりする。 気付いたのはやはり石塚だ。「課長
**************** 伊吹美並は順調に仕事を覚えていった。 いろいろなアルバイトをしていたというせいもあるのか、人慣れも早いし、応対も丁寧だ。他課での反応も客からの評判も悪くない、むし
**************** 名前を知ったのは会うよりも早かった。 京介と別れた後ぐらいから、相子は体調を崩すようになって、唐突に休むことが増えた。 流通管理課というのはそれほど仕事が多いわけ
**************** 温かな息がかかったような気がした。 目覚まし代わりの一舐めがもうすぐやってくるから阻止したい。 手を伸ばして京介はぱたぱたと枕元を探る。「イブキ……?」 無意識に口
**************** もう一軒つき合って。すぐ近くだし、おいしいコーヒー飲みたくない? そう誘われて、これが最後ですよ、と念を押したのは、プライベートなつき合いはこれっきりだと言う意味
**************** 「……本当は話したくないんです」「見えるってこと?」「課長と」「あれ?」 レストランで向かい合い、真崎はきょとんと目を見張ってから、それは困ったなあ、と苦笑いした。「
**************** 「これ、全部シュレッダーかけるの?」「あ」 ついと人影が寄ってきたかと思うと、ボックスに入った文書を取り上げた相手が呆れ声を上げた。「はい」「凄い量だね……伊吹さん一
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(4)
**************** 「シャルン!」 さすがにこれ以上の悪趣味を重ねる気になれず、レダンは声を張り上げた。「大丈夫だ。こいつら……ガーダスは、俺達に興味がないようだ!」 ことばだけでは足
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(3)
**************** 「いやああっ!」 シャルンの高い悲鳴が響いた時、レダンの胸に愛おしいとも誇らしいとも言えぬくすぐったい感情が溢れた。同時に自分の非情さに呆れもした。「男と言うのはど
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(2)
**************** 一匹ではなかった。 四方八方に散った通路、そのどれからも同じように通路を満たしながら、中には体で岩をなおも削りながら、巨大な白い虫が這い出てくる。幾つかの結節に分
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』25.鉱虫(1)
**************** 坑道に入ってどれほど経ったのかは定かではないが、水を補給した休憩よりなおしばらく奥に進んで、一行は立ち止まった。「ここに来て、これですか」 ガストが嘆息するのも無
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』24.国史(2)
**************** 「…良いんですか」 ガストの声に、レダンはちらりとバラディオスと話し込むシャルンを見遣る。「良い。あいつがあれほど派手に反応するとはな。面白いやつじゃないか」「…おか
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』24.国史(1)
**************** 薄暗い坑道の中を先に立って進みながら、先ほどから「どう言うことだあれは」とか「計算外だったな畜生」とか「誰か余計なことを吹き込んだんじゃないだろうな」とか「これが
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』23.私室(2)
**************** あなたが読んでからでいいよ。 レダンはそう囁いて、シャルンを抱きしめたまま、ソファでゆっくりすることに決めてしまったらしい。離してくれないので、仕方なしにシャルン
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』23.私室(1)
**************** 「手紙?」「はい、母から私へのものだと思います」 レダンはシャルンの元私室で質素な椅子に腰を降ろした。 玉座の広間より少し離れた場所に設えられていた部屋は、隙間風が
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』22.書庫(2)
**************** 一体何を話されているのかしら。 シャルンは背後で妙に親しげにことばを交わす父親とレダンを、そっと見遣る。 あれほど父が顔を赤らめて話す姿は見たことがないし、レダン
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』22.書庫(1)
**************** 「ここへ入るのは、これで2度目だな」 ハイオルトの居城、今は空の玉座を見上げながら、レダンは呟いた。 シャルンを奪い返しに侵略した時、何ひとつ手立てを落とさぬつもり
「ブログリーダー」を活用して、segakiyuiさんをフォローしませんか?
指定した記事をブログ村の中で非表示にしたり、削除したりできます。非表示の場合は、再度表示に戻せます。
画像が取得されていないときは、ブログ側にOGP(メタタグ)の設置が必要になる場合があります。
**************** 新年一週間たって、ようやく美並の気持ちが決まった。 大石となら頑張っていけるかもしれない、温かな笑顔を思い出しながら、そう思った。 年末から連絡はずっとなかったけれ
**************** それが、週末、のこと。「手、動いてないわよ」「あ、はい」 石塚に指摘されて、美並は慌てて資料を捲った。 真崎に耳元で囁かれてぼうっとしていたのかと思われるのは恥ずか
**************** 「やあ、おはよう」「……お、はようございます」 翌朝、大あくびをしていたところをまともに大輔に見られて、美並は引きつった。 夕べの衝撃的な真崎の告白がまだ頭に残っている
**************** 旅先で、夜中に入ってきた真崎はまっすぐ美並の枕元にやってきた。「……伊吹さん」 何かをしかけてくるようなら、力の限り抵抗してやる。 布団の中でこぶしを握り締めていた
**************** 夜中にまた夢を見た。 押し倒されて首を押さえられる。息ができなくてもがいたとたん、目が覚めた。「は…っ…はっ」 喘ぎながら汗に塗れて目を開けると、見上げたすぐ目の前
**************** 意外な応えが返って目を見開くと、生真面目な顔で尋ねられた。「イブキは誰の猫なんですか?」 いぶき、は誰のものなんですか。 一瞬そう聞こえて、ことばにならなかった。
**************** 近付いてくる唇を拒めなかった。 伸び上がって吸いついてくるべったり濡れたそれは強い化粧品の匂いがして、押し倒されてのしかかられて、ぼんやり見上げていたら繰り返し吸
**************** 一瞬伊吹が来てくれたのかな、と無邪気に思って苦笑する。「京ちゃん?」 ああ、あんたか。 なるほど、そういや来てくれとか言ってたよね、すっかり忘れてたよ。 一人ごち
**************** 苦しくて、眠れない。 京介は唇をきつく噛み締めて目を閉じる。 布団に必死に潜り込んで、大丈夫だ、大輔はいない、と言い聞かせるのに、身体が納得してくれない。 ずっと
**************** 何だろう。 何だろう。 更けていく夜に美並はずっと考えている。 何かどこかが妙な感じだ。 真崎の話で行くと、真崎と前後してここから離れた孝はかなり荒れた生活をしてい
**************** 「う~」 頭、痛ー。 眉をしかめる美並の手を引いて、ゆっくり山道を降りながら、真崎は不安そうな顔で覗き込んでくる。「見えるって大変なんだね」 あんなになっちゃうなん
**************** 抱きたいな。 もう、ほんとに駄目だ、伊吹が抱きたい。 けれど。「う~……頭……いたー」 足下をふらつかせながら歩いている伊吹の手を引きながら京介は振り向く。 伊吹の顔
**************** もがいたり逃げたりするかと思っていた伊吹は、抱き竦めても動かなかった。 動けない、ということではない。余分なところに力が入っていない。自分の意志で動こうとしていな
**************** 「………だから見せに来たんですか」「え?」「大輔さんと恵子さんに」「……」 黙り込んだ真崎に、やっぱり、と思った。 ただのイブキの墓参りなら、まっすぐここへ来ればいいだ
**************** 残念ながら、移動先での一休みと食事にはありつけなかった。 周囲を警戒しながら進んでいたはずだが、燃え続けて収まる気配のない『氷の双宮』に皆が気を取られた一瞬、「敵
**************** 大輔は京介が『ぼけ』にかまけて自分と遊ばないとたびたび癇癪を起こしていた。そうして、ある日、『そんなにこいつが大事か』『大ちゃんっ』『こんなちっこいやつが』『やめ
**************** 一群れの軍を制圧した、と言えばいいのだろうか。 戦い方を変えてからは、勝敗はあっさり決した。死屍累々とはまだ早いか、大怪我をしつつ未だ死んでは居ない者も転がる広場
**************** 「ここだよ」 黙って手を繋いだまま山を登って、京介は慣れた場所に辿りつく。「綺麗なところですね」 じっと見ていた伊吹がぽつりと言って、思わず振り向いた。「綺麗? こ
**************** 「シートス!」「隊長!」 周囲に満ちる剣戟の隙間からも、重なり合った2つの声は届いた。その一つが、奇跡的な救いに繋がると感じてシートスは振り返る。炎に彩られた道なき
**************** 「わぁ…」「気に入った?」「いや、気に入ったというか、なんて言うか」 ゆっくり足下に気をつけながら歩いたから、結構な時間が立ったはずだ。 美並が額にうっすら汗を感じ
**************** 何を考えているのか。「私が聞きたいところだ」 冷ややかに嗤いながら、リヒャルティを置き去りに、セシ公は自室から持ち出した紫の布包みを手に、パディスへ馬を走らせ