chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
oogyorutako
フォロー
住所
未設定
出身
未設定
ブログ村参加

2005/10/29

arrow_drop_down
  • シュレディンガーの子猫~ジョージ・アレック・エフィンジャー②

    19世紀末のイスラム世界にあるまち、ブーダインのラマダン明けの祭礼の夜、貧民街の暗がりの薄汚れた路地に、12歳の少女ジハーンが誰かを待っています。この夜からのジハーンの運命は、どのように展開していくのか、彼女にもわかりません。一つの物語は、ジハーンがレイプされてしまい、婚資を当てにしていた父親や男兄弟から家を追い出され、街の女となり、次第に色香も失せて、ついには、この路地で野垂れ死んでしまうというもの。もう一つの物語は、ジハーンは隠し持っていたナイフで、レイプするであろう男を刺し殺し、イスラムの掟にしたがい斬首されてしまうもの。また一方の物語は、たまたま当地を旅行していた物理学者ハイゼンベルグが、ジハーンの命をお金で贖って救い、ジハーンは彼の庇護のもと、物理の才能を開花させ、有能な助手となり、さらにナチス...シュレディンガーの子猫~ジョージ・アレック・エフィンジャー②

  • 男たちの知らない女~ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア⑨

    マングローブに一面覆われたユカタン半島の未開の地。観光旅行の途中、小型飛行機の相席となったドンと、ルース、アリシアの母・娘、そしてパイロットのエステバンは、エンジン不調により、周囲から途絶したこの地に不時着する羽目となります。しばらくは、救助が期待できない中で、飲料水の確保のため、怪我をしたエステバンと、アリシアを残して、ドンとルーシーはマングローブの奥地へと探査を試みますが、ドンが、柔らかい砂地に隠れた枝で膝を負傷して動けなくなってしまいます。やむなく野営した彼らは、異星人の一団と遭遇するのですが、異星人からルースを守り逃げようとするドンに対して、ルースは意思疎通を図ろうとし、異星人が紛失した機器を見つけて、これを返すことと引き換えに、アリシアとエステバンの待つ場所へと運んでくれるよう頼みます。異星人の...男たちの知らない女~ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア⑨

  • 死者の国へ~ウィリアム・テン④

    人類は、太陽系を手中にしようという昆虫型宇宙人との闘いを続けており、木星から土星にかけての防衛線で、熾烈な攻防を繰り広げています。総力戦、消耗戦のなかで勝利をつかむために、人員の確保は必須となっており、「繁殖法」が制定され、「産めよ増やせよ」政策が強力に推進されていますが、なお人員は不足しています。そこで、兵士供給の方法として、戦死者を材料とする「再生人間」の製造が、国家プロジェクトとして進められ、格段に技術がレベルアップした今、彼らは重要な戦力として前線に配置されています。主人公は、最前線で砲撃を担当する小型艇の指揮官であり、歴戦のつわものですが、今回の出航の乗組員が、彼にとって初めて、「再生」された者たちとなります。彼らは、「質」の担保と、生産の効率化の観点から、戦死したかつての英雄たちを「再生」して...死者の国へ~ウィリアム・テン④

  • ファン・ゴッホによる<苦痛の王>の未完の肖像~イアン・マクドナルド②

    「<苦痛の王>は、喜びと悲しみの両方を、涙と笑いの両方を、成功と失敗の両方を、正気と狂気の両方を知っている者でなくてはならない。人間であるということがどういうものなのかを正確に知っている人物でなければならない。どんなに恐ろしくてどんなにすばらしいものであるかを知っている人物でなければならない。きみのような人物だよ、フィンセント」未来の人類は、知恵と技術の発展による恵みを享受していましたが、一方で、自らを滅亡させてしまえるものも生み出すこととなり、心に巣くう恐れ、苦悩に苛まれ、犯罪、暴動、虐待等々、社会不安が極度に深刻化していました。そこから逃避するかのように、人々の間に、機能停止の休眠状態に陥る病が拡大し、残る人々は、その解決をAIに託します。AIは、その分身をすべての人の脳内に送り込み、その心を探り、あ...ファン・ゴッホによる<苦痛の王>の未完の肖像~イアン・マクドナルド②

  • 薄明の朝食~フィリップ・K・デイック⑨

    何でもない、いつもどおりの朝の食卓を囲んでいたティム一家。その場へ、ドアを蹴破り、ものものしい雰囲気の兵士たちが踏み込んできます。驚くティムですが、兵士たちは、家族が平穏にいっしょに暮らしていること、コーヒーを飲み、豊かな食事をし、冷蔵庫やバンケットには食材がたっぷりと詰まっていること、兵士たちが生きる荒廃した世界からは考えられないティムたちの姿に仰天します。尋問を受けたティムは、ここは8年後の1980年であることを知ります。核戦争勃発後も、米ソ間の戦争は止むことなく、生き残った人々は地下に潜り、厳しい国家統制のもと、家族は解体され、大人と子供、性別ごとに峻別された各センターに収容され、すべてが戦時体制を維持することを目的にした「総動員」体制が強制されています。ソ連はアメリカ本土に、高性能爆弾の製造から攻...薄明の朝食~フィリップ・K・デイック⑨

  • 進化~ナンシー・クレス②

    あらゆる抗生物質に耐性ができた細菌が蔓延。唯一、「エンドジン」だけが、かろうじてまだ効果があるものの、細菌が耐性を獲得することを防止するために、「エンドジン」による治療をさせまいと、過激な集団が、病院の爆破を繰り返し実行するという、暗澹とした物騒な社会が物語の舞台です。主人公のエリザベスは、ブルーカラー・ワーカーである夫のジャックと、息子のショーン、娘のジャッキーの4人家族で暮らしています。ショーンは、エリザベスの連れ子で、実は、その父親は、町のエマートン記念病院の診療部長で、耐性菌の研究を行っているランドルフ・サトラーなのですが、エリザベスは10代でショーンを身ごもり、ランドルフにあっさりと捨てられてしまい、発砲事件を起こして収監されたという運命をたどって、いわゆる上流階級とは距離を置いた生活をしている...進化~ナンシー・クレス②

  • 「壊れやすいもの」~ニール・ゲイマン

    ニール・ゲイマンの短篇集「壊れやすいもの」は、ゲイマンの多才さ、多彩さを味わえ、また、ヒューゴー賞、ローカス賞を受賞した作品が多く含まれる高品質の作品集です。いくつかの作品をご紹介します。「翠色の習作」(2004年ヒューゴー賞、ローカス賞受賞)シャーロック・ホームズの「クトゥルー」ものという、下手するとせっかくのキャラクターを台無しにしてしまいそうな、リスキーな企画ものですが、稀代のストーリーテラーであるゲイマンは、意表を突く設定を生み出し、チープな展開に陥ることを巧みにクリアしています。ホームズもののパスティーシュとしても面白いし、「太古の存在」が「真っ当に」君臨する世界の不気味さを垣間見せてくれ、職人芸とでもいうべき、話の上手さを堪能することができます。ホームズ・シリーズの長編「緋色の研究」と、とりわ...「壊れやすいもの」~ニール・ゲイマン

  • ローグ・ファーム~チャールズ・ストロス

    宇宙への植民による人口減少や、バイオテクノロジーの進展によって「光合成」で自足できる人々の出現などにより、農業経営が成り立たなくなり、農村が徐々に崩壊していく中で、放棄された農地と取り残された廃屋に、いつしか、過剰なテクノロジーとストレスやトラウマに苛まれ、逃れてきた人々が住み着くようになっていました。そんな一人であるジョーは、パートナーのマディ、知能増進犬のボブとともに、何とか、農畜により、日々の暮らしを立てています。そこに現れたのが、複数の人間が群体となって巨大化した「ファーム」。この「ファーム」は、地球からの脱出を目指しており、ジョーの了解も得ず、農園の樹々をハックし、セルロースを硝化させて、木星への旅行の燃料に使おうと勝手なことを始めます。あまつさえ、マディがジョーの知らないうちに、このファームと...ローグ・ファーム~チャールズ・ストロス

  • 「時の娘」~ロマンティック時間SF傑作選

    「時間」を超える物語は、SFの定番・鉄板の分野で、膨大な作品とともに、数多のアンソロジーが編まれています。その一つが、中村融氏編集の「時の娘」(創元SF文庫、2009年)です。SFマガジンなどに掲載されたきりで埋もれていた佳作に今一度スポットが当たるのは、オールドファンにとって、嬉しくもあり、また、今の読者がどう評価するのだろうなあというのも興味がありますね。冒頭の作品は、ウィリアム・M・リーの「チャリティのことづて」(1967年)。熱病にかかったことをきっかけに、1965年の現代に生きるピーターと、1700年に生きるチャリティとが、相手の声を聞くことができ、相手の目を通じて、互いの世界を見ることができるようになります。二人が親密になっていく中、未来の世界を知ることになったチャリティは、不注意な発言により...「時の娘」~ロマンティック時間SF傑作選

  • 「宇宙飛行士ピルクス物語」~「審問」「運命の女神」~スタニスワフ・レム①

    「要約:レムの小説観は非常に狭苦しくとんちんかんであり、おそらくそれはかれの社会性の欠如からきている。レムの作品に一貫するのは人間嫌いと社会の不在であり、それはかれのぶっとんだ小説のおもしろさの源泉であると同時に一つの限界でもある。感情なき宇宙的必然の中で:スタニスワフ・レムを読む(季刊『InterCommunication』2006年夏号)山形浩生」スタニスワフ・レムは、知能指数がえらく高く(180をたたき出したらしい!)、理屈好きで、気難しい、皮肉屋のおじさんでありながら、密度の高い知的、独創的な作品を生み出してきた、自他ともに認めるSF界における孤峰の一人であります。私は、「ソラリス」はもちろん、目についたレムの作品は、それなりに購入してきたのですが、面白くないことはないものの、難しそうだなと敬遠し...「宇宙飛行士ピルクス物語」~「審問」「運命の女神」~スタニスワフ・レム①

  • ペトラ~グレッグ・ベア②

    「わたしは醜い石と肉の子であり、それを否定することはできない。母のことは覚えていない。わたしが生まれてすぐに蒸発したのかもしれない。どうせ死んでいるのだろう。わたしは父の姿も―息子と似ているとすれば、くちばしがあり、翼もどきのものがついた醜い代物のはずだ―見たことがない。」77年前にモルデュー(神死)が起こり、あらゆる存在がぐらつき、世界は、混沌に飲み込まれてしまいます。妄想が実体あるものの如く現実化し、これまでの安定した世界は崩壊し、物語の舞台となる聖堂だけは、かろうじて残っています。素性のよくわからない司教の下で、中世のような、退化した小世界ではあるものの、何とか一定の秩序を維持しています。ただ隠されていることは、石像が命をもつようになることを信じた者たちによって、石像が「肉体」を持つようになり、人間...ペトラ~グレッグ・ベア②

  • 「中国・アメリカ 謎SF」~王諾諾の二題

    『改良人類』「「どのぐらい寝てたんだい?」「六一七年と三か月になります」「は?600年?なんで起こしてくれなかったんだよ!」ALSを患っていた主人公の劉海南は、治療法が確立されているであろう未来に希望を託して冷凍睡眠に入っていました。彼が、600年後に目覚めたとき、遺伝子改変の技術が極度に進み、遺伝子に関わる病気はもちろんのこと、性格や容姿に至るまでコントロールできるようになり、まさに「理想的」な人々からなる社会が実現しているように見えました。ところが、行き過ぎた弊害として、遺伝子の多様性が失われてしまい、再度取り戻すには、配列を固定している「ロック機能」を解除する必要がありますが、これができなくなってしまっていました。このため,ひとたび悪質なウィルスがはやると、人類全滅となるリスクが極めて高くなっている...「中国・アメリカ謎SF」~王諾諾の二題

  • 分離~サム・J・ミラー

    「(おれの息子を返してくれ。)と叫びたかった。(おれを愛してくれる息子を。あの子はどこにいるんだ。あの子になにをした。この不機嫌そうな生き物は、どこのどいつだ。)眼下に張りめぐらされた、クアナークの二百万におよぶ命をささえている鋼鉄の格子を通して、黒いグリーンランドの水が、われらが洋上都市の水門に打ち寄せていた。」環境破壊と地球温暖化が進み、居住できる土地、工作できる土地が水没し、激減した近未来の世界では、限られたエリアの洋上都市クアナークの高層階に住む、まさに開創の高い人々と、土地を追われ、難民として、仮想の苛烈な労働に従事する人々とに分断され、乏しい資源と食料のもとで、格差が強烈な社会となっていました。主人公は、海に沈んだ北アメリカから、スウェーデンに逃れてきたものの、よい仕事は見つからず、氷河から割...分離~サム・J・ミラー

  • エンパイア・スター~サミュエル・R・ディレイニー②

    「わたしは"宝石"。わたしは多観(マルチプレックス)な意識を持つ。これはつまり、さまざまな視点からものごとを見られるということである。わたしの内部構造における振動パターンの倍音列。それが持つ働きのひとつこそは、この多観性にほかならない。ゆえに、これよりわたしは、文学の世界でいうところの<全知の観察者>の視点から、この物語をじっくりと語っていくことにしたい。」植民惑星テュロスの農夫、コメット・ジョーは、その名のとおり、星々を眺めるのが好きな青年でしたが、ある日、八本脚の仔悪魔猫ディクにより、墜落した宇宙船の衝突現場に導かれます。そこで、ジョーは、いまわの際の乗組員のノルンから、エンパイア・スターへと行き、メッセージを伝えてほしいと託されますが、ノルンは、それだけを伝えると「宝石」と化してしまいます。いったい...エンパイア・スター~サミュエル・R・ディレイニー②

  • 限りなき夏~クリストファー・プリースト①

    「目の前にセイラがいた。自分のほうに手を伸ばしている。強調された明るい色彩のけばけばしさを目にした。凍りついたあの日が動かぬままでいることを見て取った。セイラの笑み、幸せそうな顔、プロポーズの受諾—それらはほんの一瞬まえのことだった。だが、それらは見ているまに色あせ、トマスは彼女の名を大声で呼んだ。セイラはなんの動きも返事もせず、静止したままで、そのまわりの光が暗くなった。トマスはまえにつんのめった。全身をどうしようもない無力感に襲われ、地面に倒れた。」いずこからともなく現れる「凍結者」。彼らは、過去を訪れ、その時代の人々の貴重な一瞬を凍結し、その部分の時の経過を止めます。切り取られたシーンは「活人画」(タブロー)として、そこに閉じ込められた人々は、その時点から、忽然とこの世から消え失せた存在となってしま...限りなき夏~クリストファー・プリースト①

  • 久しぶりに、百万編知恩寺の古本まつりに行きました。

    今年の秋の百万編知恩寺の古本まつりは、10月29日から11月3日まで開催されました。久しぶりにのぞいてみることにしました。前のブログ記事から見ると、8年ぶりということですね。SFや怪奇幻想系がとんとなくなってしまったこともあり、今回は、雰囲気を楽しみに来たという感じでしたが、いや、やはり、私にとっての掘り出し物は残念ながらありませんでした。ちょっと「におい」がした棚は、唯一、これだったかな。買うには至りませんでしたが。この古本市は、京大の近くでもあり、学術的な品ぞろえもあるイメージがあり、少しマニアックなところもあると思っているのですが、SF系は、購買層が減ってしまっているのか、先細りなのですかね。結局は、SFとは無縁の図鑑系を2冊購入し、後にしましたが、いい日和だったので、気分転換にはなりました。知恩寺...久しぶりに、百万編知恩寺の古本まつりに行きました。

  • 死者登録~ジョー・ホールドマン②

    「わたしにはしつっこい睡眠障害があり、生きていくにはなかなか辛いが、これは大事に持っていたいと思う。そりゃあ、大事にしたいとも。もとをただせば二十年も昔、ヴェトナムへとさかのぼるものだ。グレイヴズへと。」ヴェトナム戦争時、米軍の戦死者の、なかにはバラバラとなった遺体は、それなりに縫い合わせ、遺品を整理して、棺に封印し、一定数たまると、飛行場へトラック輸送するという業務を担当する「死者登録所」にいた「わたし」。あるとき、現場死体を見に来てほしいという要請に、ヘリコプターで現地に向かう、わたしと上官のフレンチ大尉。そこには、乾いた皮膚が骨格に張り付き、歯をやすりで削られた、現地の山岳民族とおぼしき奇妙な遺体があり、ヴェトコンによる拷問によるものではないかとの疑念があるとのこと。死体を検分している最中、敵襲があ...死者登録~ジョー・ホールドマン②

  • 征たれざる国~ジェフ・ライマン②

    「みんな<死者>なんだ、と彼女は思った。みんな彼岸へわたろうとしているのよ。そう思うと、平和でくつろいだ気分になった。彼女の親しい人はみんな<死者>だった。背後の街では、茶色い煙がもくもくと立ちのぼっていた。上空では、鳥たちがあいかわらず気流に乗って輪を描き、空はあいかわらず微妙に形を変え、光を散らして、それを通して巨大な影を落としている。空では、昼間の星のように、ちっぽけな白い光が動いていた。天空のどこかに、<大国人>が機械のひとつを据えていたのだ。空の高みには、冷たい金属と安全がある。<大国人>は、蜘蛛の巣のような網を星々にかけわたしてすべるという。そんなそばまで天に迫ろうというのだ。すべりなさい、と三女は<大国人>に告げた。すべって、立ち去りなさい、世界を私たちのもとに返して。」大国の思惑に翻弄され...征たれざる国~ジェフ・ライマン②

  • 26モンキーズ、そして時の裂け目~キジ・ジョンスン①

    「この一団を手に入れて三年になる。エイミーはかつて、ソルトレイク・シティ空港の離発着機の空路下にある月極めの家具付きアパートメントで暮らしていた。うつろだった。何かに身体を噛まれて穴が空き、その穴が感染してしまったかのようだった。ユタ州特産市で猿の出し物があった。まったく彼女らしからぬことだったが、エイミーはふいにどうしても見たいと感じた。ショーが終わると、理由もわからぬままにオーナーに近づいてこう言った。「どうしてもこれを買わなければならないの」」エイミーは、連れ合いに捨てられ、仕事はクビになり、妹は癌に侵され、アパートに一人取り残され、何ともうまくいかない、喪失の日々になかば呆然としていたところ、26匹の猿のサーカス団に出会います。この団が欲しくなったエミリーの願いは、意外にも聞き入れられ、わずか1ド...26モンキーズ、そして時の裂け目~キジ・ジョンスン①

  • 初めはうまくいかなくても、何度でも挑戦すればいい〜ゼン・チョー

    「ひとりになると、バイアムは服を脱ぎ、きちんとたたんで岩の上に置いた。そして何年も自分自身にかけていた術を解いた。地下鉄から地上に出て新鮮な空気を深々と吸い込んだときのようだ。バイアムは初めて、不完全な自分に対する愛情がこみ上げてくるのを感じたー脚がなく、角もなく、如意宝珠も持っていない、ありのままの自分。自分はできるかぎりのことをした。」龍になる一歩手前の大蛇(イムギ)であるバイアムは、準備怠りなく、龍となって昇天するべく、奮闘します。大空に上っているときに、その姿を見た人間から、龍だと認められることが、大きな条件となっているのですが、バイアムは、千年に一度のチャンスを、三回続けて失敗してしまいます。自らの運命を受け入れ、龍になることを諦めたバイアムは、腹いせのため、三度目のしくじりの原因となった、天体...初めはうまくいかなくても、何度でも挑戦すればいい〜ゼン・チョー

  • ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル〜テッド・チャン⑤

    短編作家であるチャンにとって、短い長編並みのボリュームのある本編は、最長の作品となります。仮想環境で生きているディジタル生物〜ディジエントを養育するという、ブルー・ガンマ社のプロジェクトの試みから物語は始まり、ディジエントが様々な人間と関わりながら、「人間」らしく育てられ、経験を積み、自ら選択を行っていく過程を描きます。プロジェクトメンバーのアンとデレクは、ディジエントの進化、成長にむけて、試行錯誤を繰り返しますが、「人格」を持った個性ある存在として接するという一貫した姿勢を貫きます。でも、お察しのとおり、儲かるかどうかの厳然たる企業論理による淘汰により、「人間的」なディジエントよりも、役に立つ機能に特化したものへとニーズがシフトしていく中で、ブルー・ガンマ社のニューロブラスト系のディジエントは、次第に取...ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル〜テッド・チャン⑤

  • 郷村教師~劉慈欣①

    「きみたちがわかっていないことはわかっている。でも暗記しなさい。いずれわかってくるから。ある物体に生じる加速度は、加えられた力に比例し、その物体の質量に反比例する」「先生、ほんとにわかったから。お願い、休んで!」最後の力で彼は叫んだ。「暗記しなさい!」子供たちは泣きながら暗唱しはじめた。「ある物体に生じる加速度は、加えられた力に比例し、その物体の質量に反比例する。・・・」中国の僻地、貧困と無知の中で、先の見えない暮らしを余儀なくされている村で、寄宿舎の付設された学校を、献身的に守っている教師の話から、物語は始まります。村人は、子供に対する教育の必要性への理解すらほとんどなく、廟の社殿の修理のために、寄宿舎の垂木を取り外すような振る舞いにさえ出る始末です。それでも、この先生は、教育こそが未来の希望であると、...郷村教師~劉慈欣①

  • 時間飛行士へのささやかな贈物~フィリップ・K・ディック⑧

    「アディスン・ダグは、プラスチックのまがいアカスギの小枝を滑りどめにはめこんだ長い小道を、大儀そうにとぼとぼと登っていた。やや首をうなだれ、肉体の激しい苦痛に耐えているかのような足どりだった。ひとりの若い娘がそれを見まもっていた。彼女はとんでいって彼を支えてやりたかった。あまりにも疲れきったみじめなようすに胸が痛んだが、それと同時に、彼が生きてそこにいるという事実で心がはずみもした。一歩一歩と彼は近づいてくる。顔を上げようともせず、勘だけで歩いているように・・・まるでいままでにも何度かここにきたことがあるみたい、とだしぬけに彼女は思った。ばかに道順にくわしいなあ。なぜかしら?」時間飛行から帰還する際の事故にあってしまった、ダグたち3人の「時間飛行士」たち。既に死んでいるはずにもかかかわらず、いったんは未来...時間飛行士へのささやかな贈物~フィリップ・K・ディック⑧

  • 黄金律~デーモン・ナイト③

    「黄金律」とは、「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」との道徳の根本則であるが、本物語は、「黄金律」の否定型(silverrule)である「他の人からしてもらいたくないことは他の人に対してするな」がしっくりきます。ミズーリ州チリコシ界隈のあるエリアで、他者に対する行動がそのまま自分に跳ね返るような奇妙な事件が続発します。このことに、政府に関わるきな臭いものを感じた新聞記者のダールは独自に取材を行ううちに、当局から秘密裡に接触を受け、軍の研究施設において、真実を知ることと引き換えに、その機密をしばらくの間、隠匿することが人類にとって必要なことを理解し、公表しないことを求められます。ダールは、完全に承諾したわけではありませんが、事実を見て、判断することを前提に、軍の研究施設へと向か...黄金律~デーモン・ナイト③

  • 雨にうたれて~タニス・リー①

    「まだ幼かったころ、あの、いつ果てるともしれずつづいた<警報>の日々のことを、わたしはぼんやりとながら憶えている。母もまた、家の中に囚われたわたしの仲間だった。幼な心に理由もわからぬながら、邪悪な恐怖の奔流となって降りしきった雨。毒という毒と放射能が、あらゆるものの上に、目に見えぬきらめきを放ちながら積もりつづけ、空にもまたいつのまにか蓄積していたそれらを豪雨が一気にあらいながしてよこすのだった。」町に警報が鳴り響き、放射能やあらゆる毒素を含んだ鉛色の雨が降り注いでくる危険を知らせます。人々は,戸外に出るのを可能な限り避け、放射能を遮蔽し、ダメージの蓄積から逃れる暮らしを余儀なくされています。それでも,放射能の影響を完全に防ぐことはできず、癌による早死は,避けがたいことと受け止められています。一方、町には...雨にうたれて~タニス・リー①

  • 変革のとき~ジョアンナ・ラス

    あのメッセージが送られてきたときユキは車の中にひとりでいて、ツー・トン式の信号を一生懸命解読したのだった。ノッポで派手なわが娘は車からとびだしてありったけの声で叫んだのだった。だからむろん彼女もいっしょに来なければならなかった。このコロニーが築かれてから、このコロニーが打ち捨てられてから、その覚悟は理屈の上ではできていたが、現実となるとちがってくる。実に怖ろしいことだ。「男よ!」ユキは車のドアをとびこえながら、叫んだのだった。「戻ってきたのよ!本物の地球人の男が!」植民惑星「ホワイルアウェイ」では、600年前に、疫病により「男性」が死に絶え、残された「女性」たちは、生き抜くための苦難を何とか乗り越え、新しい、社会・経済システムを築こうとしていました。卵子同士を合体させるという手法によって、子孫を残すことが...変革のとき~ジョアンナ・ラス

  • 雪~ジョン・クロウリー

    「それまでに、少なくとも八千時間分のジョージーを伝達済みだった。彼女の一日一日、一時間一時間、出かけたり帰ってきたりする姿、言葉や動き、生きた彼女そのもの—そのすべてが、ほとんど場所も取らずに「パーク」にファイルされている。やがて時が来たら、「パーク」に行けばいいのだ。たとえば日曜の午後、(「パーク」の売り口上によれば)静寂に包まれ、美しく造園された環境で、彼女専用の個人安息室を訪れる。そして、最先端の情報保存と検索システムの奇跡を通して、一人きりで彼女にアクセスできるのだ。生きている彼女に、どこから見ても生前の彼女そのものの姿にアクセスする。いつまでも変わりも老いもせず、(「パーク」のパンフレット曰く)永久に色あせぬ記憶よりなおいっそうみずみずしい姿に。」ジョージーの、亡き資産家の前夫は、大枚をはたいて...雪~ジョン・クロウリー

  • ジャガンナート―世界の主~カリン・ティドベック

    「偉大なるマザーの中で新しい子供が生まれ、<育児嚢>の天井に突き出したチューブから吐き出された。子供はビシャッという音を立てて生きた肉の寝床に落ちた。パパが足を引きずりながら分娩チューブに近づき、しなびた手に赤ん坊を抱きあげた。」パパ曰く、「世界が駄目になったとき、マザーが我らを受け入れてくれた。マザーは守り手、ふるさとである。我らなくしてはマザーは生きられず、また、マザーなくしては我らも生きることはできない。」マザーと呼ばれる巨大な生物?の体内で一生を過ごす人間?たち。女性は、腸の蠕動を司る機関や、脚を動かし移動させる機関に配属され、男性は、受精や脳内において、マザーの案内者としての役目を担っています。<育児嚢>でパパの世話を受けながら育った子供は、「欠員」状況に応じて、大きくなった順に、各部署へと送り...ジャガンナート―世界の主~カリン・ティドベック

  • 失われた時間の守護者~ハーラン・エリスン⑦

    「もしもグレゴリウス教皇が、人々の心の中の時間を調整しなくてはならないという知識を啓示で受けていたならどうじゃ?もしも一五八二年の余計な時間が十一日と一時間だったらどうじゃ?もしその十一日は対処してきちんと消し去ったが、残った一時間がすべりぬけて解き放たれ、永遠にはねまわり続けていたらどうじゃ?ごく特別な一時間・・・決して使ってはならぬ一時間・・・決して過ぎてはならぬ一時間。もしもそうならどうじゃ?」亡妻の墓を訪れ、語りかける、ガスパールという名の老人。この老人を襲おうとしたチンピラ連中を蹴散らした、ベトナム帰りの黒人のビリー。ガスパールは、ビリーの家に身を寄せ、二人は共同生活を始めます。常に愛妻のことを忘れないガスパールは、老い先短い中で、自分が死ぬことで、この世界から妻の記憶が消え去ることを恐れています。一...失われた時間の守護者~ハーラン・エリスン⑦

  • システムの危殆~マーダーボット・ダイアリー~マーサ・ウェルズ

    「統制モジュールをハッキングしたことで、大量殺人ボットになる可能性もありました。しかし直後に、弊社の衛星から流れる娯楽チャンネルの全フィードにアクセスできることに気づきました。以来、三万五千時間あまりが経過しましたが、殺人は犯さず、かわりに映画や連続ドラマや本や演劇や音楽に、たぶん三万五千時間近く耽溺してきました。冷徹な殺人機械のはずなのに、弊機はひどい欠陥品です。」この出だしの一段落は、「主人公」である警備ユニットが、どのように生まれたのか、どんな風変わりな嗜好を持っているかを簡潔に示してくれます。とある惑星の本格開発に当たって、事前調査として派遣された調査隊。探査に要する宇宙船から居住基地まで一式を請け負う企業との契約上、用心棒としての警備ユニットが同行しています。この調査隊は、その調査を妨害するかのような...システムの危殆~マーダーボット・ダイアリー~マーサ・ウェルズ

  • オクテイヴィア・E・バトラーの短編集「血を分けた子ども」が刊行される!

    高い評価を受けている作家でありながら、いくつかの作品がSFマガジン等に掲載されたきりで、だんだんと忘れられていくのも「もったいないなあ」ということで、このブログでも、作品の紹介を行ってきた作家の一人が、オクテイヴィア・E・バトラーです。・・・と思っていたところに、昨年、「キンドレッド」が河出文庫で突如出版され、「何で今頃」と思っていましたが(米FXでテレビシリーズ化の準備が進められ、「ParableoftheSower」も映画化されるようですね。本国での評価は高く、人気は根強いのでしょう。)、今度は短編集が出ると聞き、二度びっくりというところです。掲載作品は、今時点では、出版元の河出書房新社のホームページにもまだ載っていませんが、表題作の「血を分けたこども」を筆頭に、「夕べと朝と夜と」、「ことばのひびき」のライ...オクテイヴィア・E・バトラーの短編集「血を分けた子ども」が刊行される!

  • 性器および/またはミスター・モリスン~キャロル・エムシュウィラー②

    創造してもみてよ、あのとんでもなく太い脚がズボンにすべりこむところを。あの神さまみたいに太い(だって、ただの人間の脚が、あんなに太いわけないでしょう?)、トール神の脚かと思うほど太い脚が、ほら穴みたいに大きなズボンの穴にすべりこむところを。想像してもみて、薄い小麦色の毛がまばらにはえたゾウの脚みたいな極太の脚が、きのうからずっとしけったままの、腰ほども太い茶色のウールの筒にすべりこんでいくところを。うんとこしょ。どっこいしょ。主人公である中高年の女性は、同じアパートメントに住む、超肥大漢のモリスン氏に興味を抱き、あろうことか、モリソン氏の部屋に忍び込み、彼がいったい何者であるかを確かめようとします。設定からして、異様であるうえに、モリスン氏の肥大した体から、そして彼が身に着けていた衣類や靴下などから発散される「...性器および/またはミスター・モリスン~キャロル・エムシュウィラー②

  • ミイラ~アンドレイ・ラザルチューク

    「なぜならば、もし得られたあらゆる知識をその創造のために消化、吸収できないのならば、共産主義は空虚なもの、空しい看板となり、共産主義者はただのほらふきになってしまうからだ。それゆえに、われわれは容赦ないのであり、だからこそ、われわれはどのような和解や妥協主義の道へも足を踏み入れることができないのだ。」ルーシカのクラスは、今日は授業のかわりに、「劇場」に行くということで、みんなはバスに乗り込んだところ、行先は、クレムリン。ようよう、クレムリンの城壁の中に入れてもらえると、子供たちは、お守りや護符をことごとく召し上げられ、念のためと称して、猿を肩に乗せたせむし男の探索に、ルーシカは、母親が持たせてくれた、おまじないのひもを取り上げられてしまいます。奇妙な番人たちの案内を受けながら、子供たちは、とある著名な人物への謁...ミイラ~アンドレイ・ラザルチューク

  • シヴァの舞~江波

    「いいえ、かれらはきっと何かしているんです。」わたしはバロシディニアを見つめた。「連中が人類を南極に隔離し、その他の動物と平和共存しているってことは、きっと何か目的があるんです。連中は何かしているに違いないんです。」バロシディニアは微笑を浮かべてわたしを見た。「それこそまさに、われわれが志願者を募った理由なんだよ。」突如出現した「アイボ肉球菌」通称"アイボウィルス”は、生物の体を食い尽くす恐るべきもので、あっという間に全世界を席巻します。唯一の弱点は寒さに弱いことで、最後の人類34万人は南極に追い込まれ、なんとか細々と暮らしています。一方で、アイボウィルスは、無差別的な攻撃が一段落すると、人間以外の生物への攻撃はストップし、ターゲットは人間のみとなり、南極を除く世界は、それなりに何事もなかったかのような様相です...シヴァの舞~江波

  • 目覚めの前に~キム・スタンリー・ロビンスン③

    おれたちは夢を見ることの意味を理解していないし、眠りが何なのかもわかっちゃいない。意識そのもの、つまり目が覚めてる状態すら少しも理解していなかったということを認めた上で、よく考えてみるんだ。本当にわかっていたのか、ってね。地球が突入してしまった強力な電磁場の作用により、人類が「レム睡眠」の状態に陥ってしまい、脳は、何とか覚醒しようとするものの、力場はそれに反発するため、人は、夢と現実を行きつ戻りつ、境目のわからない世界を生きているというお話です。アバナシーは、ラボの研究員で、何とか、覚醒状態を少しでも長く維持できるための研究を続けています。しかし、ラボにいるにもかかわらず、ふと気づくと、いつの間にやら、山中の湖に臨む窪地、妻のジルと子供たちと暮らしていた街へと迷い込みます。夢が現実に侵入し、目覚めたところが、ど...目覚めの前に~キム・スタンリー・ロビンスン③

  • たとえ世界を失っても~シオドア・スタージョン⑥

    心のことばが言った。われわれはなぜ、自分で選んだ相手ではなく、稲妻に打たれた相手を愛さなければならないのか?そしてことばは言った。でも、その相手がきみでよかったよ。チビの王子さま。きみでよかった。惑星「ダーバヌー」から、突然、二人の異星人が地球に亡命してきます。彼らは「ラヴァーバード」と呼ばれ、はかなく美しい姿とふるまいは、あらゆる人が魅了されるほどでした。実は、ダーバヌーは、地球からの再三の呼びかけにも応えず、交流を断固として拒否しており、ダーバヌーは、この二人の送還を要求します。その護送の仕事を請け負ったのが、ルーティーズ船長と、その相棒のグランティ。粗雑な小男ルーティーズとは対照的に、寡黙で、内省的な大男グランティは、宇宙での仕事こそ、唯一安らげる、かけがえのないものでしたが、「ラヴァーバード」たちは、テ...たとえ世界を失っても~シオドア・スタージョン⑥

  • 顔の美醜について~テッド・チャン④

    その根深い社会問題とは、ルッキズム、すなわち容貌差別です。ここ数十年で、人種差別や性差別に関する議論は活発になりましたが、容貌差別についてはまだ遠慮があるようです。けれども、恵まれない顔立ちの人びとに対する偏見は、信じられないほど広まっています。人間はだれに教えられるともなくそんな差別をします。それだけでも困ったことなのに、現代社会はこの傾向に抵抗するというよりも、むしろ積極的にそれを助長しているのです。「ニューロスタット」というプログラム可能な薬剤を、脳組織の特定部位で活性化することで、その部位の神経インパルスを一定値以下に引き下げることが可能となったところで、顔の美醜を感知する神経回路を特定できたことから、「美醜失認処置」が発明されました。この処置を受けると、人の顔を見ても、美しいか、醜いか、わからなくなり...顔の美醜について~テッド・チャン④

  • カロリーマン~パオロ・バチカルビ①

    「考えてみるがいい。ケチんぼの亭主が女房を寝取られたことに気づかないまま、世界中にその実を配る。ところがその実は、受粉したい、健康な子をつくりたいとうずうずしているわけだ。その子孫も同じ花粉を宿し、それがさらにカロリー会社の収益源を汚染する。」世界の覇権を握るのは、遺伝子組み換えされた穀物の種子の権利を独占するバイオ企業。産出される農産物は、食料だけでなく、枯渇した化石燃料の代わりの主要なエネルギー源となり、バイオ企業は、この絶大な力を揮える地位を維持するため、違法栽培や闇取引を厳しく監視する警察組織を世界中に張り巡らせているのであったが、何よりも、種子の権利を守ることに神経をとがらせているのである。主人公のラルジは、一獲千金の話を持ち掛けられ、ミシシッピ川の上流に隠れ住むという「遺伝子学者」を連れてくるという...カロリーマン~パオロ・バチカルビ①

  • 死の船~バリントン・J・ベイリー④

    彼はジョイスティックに手をのばした。まず右へ、ついで上へスティックを動かすと、未来飛行船がガクンとかたむき、急角度で上昇した。つぎの瞬間、デ・クルイフがシートベルトを外しにかかった。立ち上がると同時にアンビリカルコードを引き抜く。それから船室の後部にのしのしと歩いていった。ティーシュンは彼を目で追った。デ・クルイフは動くにつれ、背後に自分自身を残していく。デ・クルイフの連続したかたまりが背後に列をなし、ゆっくりと消えていった。ティーシュンはカルコフ要塞都市に勤める技術者。世界は、ヨーロッパ極とアジア極との限定核戦争も辞さない戦闘状況が続いており、確実な勝利をつかむ方法の一つとして、ティーシュンの属する陣営のリーダーは、タイムマシンにより、未来を変えることに期待を寄せている。ティーシュンは、未来飛行船に搭乗するこ...死の船~バリントン・J・ベイリー④

  • 永夏の夢~夏笳①

    「おまえはかつてこう言った。あなたの時間は長すぎる。わたしの時間は短すぎる。だからわたしはあなたのそばに長くはいられない。わたしはいつか死ぬだろう。あなたはまだ生きていて、永遠に生き続ける。最後にはわたしを忘れてしまう。忘れられるのは死よりもなお恐ろしい、と。さらにこうも言った。わたしがタイムラインでジャンプし続ければ、時代ごとにわたしはあなたに会うことができる。わたしの生命がある限り、この歳月の一つひとつ、できるだけあなたに合おう、とも」時を自在に移ることのできる「旅行者」である夏萩。そして、永遠にも生きることのできる「永生者」である姜烈山。「旅行者」たる存在も、「永生者」たる存在も、人知れず、人の世に溶け込みながら、「旅行者」は気に入った時代にひととき住み着き、あるとき突如消息を絶ち、「永生者」は世の進歩に...永夏の夢~夏笳①

  • ロンドンにおける"ある出来事"の報告~チャイナ・ミエヴィル①

    一九八八年二月十一日木曜日、可能な限り正確な時間として午前三時から午前五時十七分のあいだ、ロンドン南東局十八区のプラムステッド・ハイストリートを南にやや行ったあたりで、"ヴァーマン通り"が出現した。空間的制約のためか、今回のヴァーマン通りは確認されている最後の出現時(一九八三年、バターシー-----VF索引を参照)よりもいくぶん短く、ゆがんだ形態である。作家チャイナ・ミエヴィル氏のもとへと誤配された大ぶりの封筒。中には、ロンドンに出没する、怪しげな「通り」に関わる、秘密結社的研究者の会からの、雑多な書簡、資料、報告書の類が、断片的に入っていたのである。宛先は、チャールズ・メルヴィル。摩訶不思議な怪現象に興味をそそられたミエヴィル氏は、"ヴァーマン通り"、また、メルヴィル氏の消息をつかもうとするのだが・・・。ロン...ロンドンにおける"ある出来事"の報告~チャイナ・ミエヴィル①

  • ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?~ジェイムス・ティプトリー・ジュニア⑧

    「ぼくは男だ。そうだ、怒ってる。ぼくには権利がある。きみたちにこのすべてを与えたのは、ぼくらなんだ。ぼくらが創りだしたのだ。かけがえのないきみらの文明を建設し、知識と慰めと薬と、そして夢を与えた。何もかもを。きみらを保護し、家族にすこしでも楽をさせようと骨身を削ってきた。辛い仕事だ。闘いだ、どこまでも続く血まみれの闘いだったのだ。ぼくらはタフさ。そうでなければならなかったんだ、わからないか?それをわかろうとする気はないのか?太陽フレアに巻き込まれてしまった「サンバード号」。太陽系を漂流しつつあった彼らに、地球からの救助が何とか間に合うものの、「サンバード号」は、時間の歪みに入り込み、3名の乗組員は、300年先の世界へと送り込まれてしまった。彼らが地球を出発してから、軍事研究所から漏れたウィルスの蔓延により、全「...ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?~ジェイムス・ティプトリー・ジュニア⑧

  • 不可視配給株式会社~ブライアン・w・オールディス⑤

    「で、このひとの目的というのは?」ドアに向かいながら、皺だらけの男は軽い笑い声をあげた。必ずしも愉快そうではない、かといって、必ずしも非情とは言えぬ笑い声だった。「わかりきってるじゃないですか、そのポット二つを護ることですよ。おやすみ、ご両人」ハプスヴィルなる町に住む、アーサー、メイベルの若夫婦。とある日に、皺だらけの面長の男が現れ、スープと軽食のお礼に、彼の商売品であるという、「無形物」intangibleを提供しようと言う。ただし、それは、意志力をもってコントロールできるなら、人生の目的を達成することができるであろう。ただ、残念なことに、誰もがそんなことはできないのだと彼は言う。こう言われ、意固地になってしまったアーサーは、卓上の陶磁器の「塩入れ」と「胡椒入れ」を、そのままの位置で死ぬまで動かすことはないと...不可視配給株式会社~ブライアン・w・オールディス⑤

  • ポータルズ・ノンストップ~コニー・ウィリス④

    「フォート・サムナーにビリー・ザ・キッドのお墓がありますよ。ここからだいたい七十マイルですね」ぼくはといえば、はるばるアリゾナ州ビスビーから車を運転してきたばかり。いま一番やりたくないのは、また車にもどって百四十マイルの距離を往復し、名前の消えかけている歪んだ板切れの墓標を見物することだ。カーター・スチュアートは、ぱっとしない発明品のセールスに、田舎のどさまわりを続けている。太陽熱発電灌漑装置、水質保全装置になんぞ、ここらの農家はてんで興味を示さない。今日は、ニューメキシコ州のポータルズまでやってきたが、唯一の顧客が明日まで会えないということで、丸一日空きの時間をどうつぶそうかと思案していたところ、こんな何もなさげな町に、バスツアーの一行が。ひょんなことから、そのツアーに参加したカーターは、当地に住まうジャック...ポータルズ・ノンストップ~コニー・ウィリス④

  • いっしょに生きよう

    翻訳もののSF短編を主に,ランダムにぼちぼちと書き連ねていきたいと思います。 <br>

  • 第30回下鴨納涼古本まつり

    翻訳もののSF短編を主に,ランダムにぼちぼちと書き連ねていきたいと思います。 <br>

  • SFマガジン 2016.8「ハヤカワSFシリーズ」総解説

    翻訳もののSF短編を主に,ランダムにぼちぼちと書き連ねていきたいと思います。 <br>

  • 下鴨納涼古本まつり

    翻訳もののSF短編を主に,ランダムにぼちぼちと書き連ねていきたいと思います。 <br>

  • SFマガジン4月号~ハヤカワ文庫SF総解説PART1

    翻訳もののSF短編を主に,ランダムにぼちぼちと書き連ねていきたいと思います。 <br>

  • 秋の古本まつり

    翻訳もののSF短編を主に,ランダムにぼちぼちと書き連ねていきたいと思います。 <br>

  • エウロパのスパイ

    翻訳もののSF短編を主に,ランダムにぼちぼちと書き連ねていきたいと思います。 <br>

  • リプレイ~ケン・グリムウッド

    翻訳もののSF短編を主に,ランダムにぼちぼちと書き連ねていきたいと思います。 <br>

  • 最後の城~ジャック・ヴァンス④

    翻訳もののSF短編を主に,ランダムにぼちぼちと書き連ねていきたいと思います。 <br>

  • シェイヨルという名の星~コードウェイナー・スミス④

    翻訳もののSF短編を主に,ランダムにぼちぼちと書き連ねていきたいと思います。 <br>

  • ポル・ポトの美しい娘(ファンタジイ)~ジェフ・ライマン①

    翻訳もののSF短編を主に,ランダムにぼちぼちと書き連ねていきたいと思います。 <br>

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、oogyorutakoさんをフォローしませんか?

ハンドル名
oogyorutakoさん
ブログタイトル
わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?
フォロー
わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用