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  • さみしさと手をつないで『アリゲーターガーは、月を見る』(山本 悦子)

    ガーはガーというだけで責められ、疎まれている。(本文より) 来月下旬に出る児童文学の大御所の新作。 アリゲーターガーって外来魚なんだな? 人間に捨てられ、害をなす存在と扱われ、 池や堀からも排除される異形の淡水魚に 感情移入する面々を描いたストーリーだ。 中学生2人と19歳が思わぬ縁で繋がり それぞれの苦悩と向き合っていくんだわ。 この作品は大人の役どころが良かった~。 行動も発言も魅力たっぷりで楽しいんだ。 この著者はあまり入試では見ないんだが 本作の素材文適性はかなり高かった印象。 問題に使えるかもしれない箇所の例 一章終盤△淋しい外来魚へ抱く人の想い 三章中盤△祖母の言葉に含まれた気持ち…

  • クセ強ッ、けれど病みつきに!『父の回数』(王谷 晶)

    今週発売されたばかりの異色の短編集だ。 入試では見たことがない作家ではあるが 表題作が高校生視点なんで読んでみたわ。 何にも熱くならず空気を読めない少年が 驚きの事態に巻き込まれていく短編だよ。 ま、ちょっと小学生に見せづらい部分も あるにはあるが引き込む力がみなぎる話。 読めば終盤の展開にゼッタイ驚かされる。 面白さはタイムリープ物『リワインド』。 これが抜群に感情移入できる作品だわ~。 全力で挑む人助けが激烈に刺さるからよ。 あえて物語という虚構を美しくさせずに ビターさを持たせるのが全体の作風かな。 なにもかもうまくいくなんて嘘くさいと 感じるようなタイプだとよりハマりそう。 難易度分類…

  • 奥行きのある人生論『学歴狂の詩』(佐川 恭一)

    私たちは予備校に通う中で、それまで拠って立っていた「偏差値」以外の価値観を半強制的にインストールさせられるという大きな問題に直面していた。(本文より) 先月発売され界隈でも話題を集めている 洛星高から京都大という著者のエッセイ。 名門大学受験に向けてあたふたしまくる 男子進学校の生徒たちの姿が愉快だわ~。 風変わりな京大生たちの生態も見どころ。 自虐と他虐あふれるホントの姿が最高だ。 まったくカッコつけてないのが笑いの肝。 身もふたもない学歴のメリットの話題や 学業全振りの光と影には考えさせられる。 多分入試素材になるような本じゃないが 反面教師的な意味じゃなく付加価値大だ。 難易度分類ではや…

  • 胸に嵐を抱きながら『曇りなく常に良く』(井戸川 射子)

    友だちからの評価って何て信用ならない。全部嘘でも成り立つ。(本文より) 先月発売された芥川賞作家の青春小説だ。 それぞれに重いものを抱える高校生達の ままならない日常を切り取った話だった。 噂の独特文体にきりきり舞いだったな~。 正直、俺レベルじゃ慣れるに一苦労だよ。 とはいえ会話のみずみずしさは圧倒的だ。 5人全員に共感するのは無理だったけど 何人か目が離せない子もいて読み切れた。 多彩な苦悩を振り下げるので誰かしらに 感情移入ができるんじゃないかと思うよ。 文体的に素材文適性は高くなさそうだが 強いて一つだけを挙げると中盤の机運び。 担任と生徒の会話が使えなくもないかな。 難易度は例の4段…

  • アイデア勝負はお手の物『てまりのナゾほどき帳 出島と秘密の紅い石』(荒川 衣歩)

    海へと続く地形の先端部には、扇形の島が浮かんでいる。出島だ。そこは長崎であって長崎ではない。(本文より) あと3ヶ月ほどで刊行される見込みの 講談社児童文学新人賞の大賞作品だよ。 カバーを見て判るようにこれは時代物。 実は俺、時代物は挫折しやすいんだが 今回の作品は全然オッケーだったよ~。 時代は古くても内容は新しかったから。 主人公の少女の頭の回転も見どころだ。 大人をコロッと引っかける場面とかな。 さすが受賞作、最後まで楽しいうえに 新鮮でプラスアルファの学び付きだわ。 心配性の父親のあたふたするさまとか 仲良し少年のしどろもどろにもニヤリ。 13歳前後の子どもたちがメインだが 登場する大…

  • 無垢な善意に削られて『声に出せずに叫んでる』(朝霧 咲)

    な?いいだろ?こんなバカげたことできるの高校生のうちだけだぜ。(本文より) 高3時に応募した作品で小説現代新人賞。 今は京大生という期待の星の2作目だよ。 細かなところにも若い感性がほとばしる マジで共感必至のストーリーだったわ~。 真っ白な善意を向けられて黒く染まる心。 このわかり合えない感じがリアルすぎる。 けれど重くなりすぎずラストにかけては 胸がスッとするから安心して読める感じ。 素材文適性は後半にかけて高まっていく。 繊細に描き込まれた感情の揺らぎに注目。 問題に使えるかも知れない箇所の例 三章前半△部活でのトラブルからの対話 三章後半△体の弱い少女の気持ち溢れる 四章前半〇少女が驚…

  • 語り継ぎたい創作道『日曜日の文芸クラブ』(小手鞠 るい)

    文章は人を映し出す鏡、とも言えるでしょうか。(本文より) 言葉の連なりが持つ輝きを教えてくれる アメリカ在住の作家の来月出る新作だわ。 この先生は出版のペースがチョー早いよ。 幼児向けまで含めると年十冊はありそう。 今回の紹介本は広く子どもたちに向けて 惜しみなく文章のイロハを贈ってくれる。 あぁ、こんな簡単なことなんだ!だとか こうも奥が深いのか!という気づきの嵐。 文章を書くのが苦手な子も、得意な子も そればかりか大人にとっても嬉しい本だ。 難易度は前半平易、後半普通という印象。 先行レビューはこんな感じにしてあるよ。 物語に救われた過去に共感の大嵐! 先生の創作活動は恩返しであり、この作…

  • 命、はなかくも・・『願わくば海の底で』(額賀 澪)

    みんな、教師って生き物は心の底から生徒を嫌ったり憎んだりしないって思って甘えてるんだもの。(本文より) 東日本大震災の緊迫したシーンがド迫力。 わりと入試に出る作家の2月の新作だよ。 生きづらさを抱える少年を周囲の視点で 多角的に映し出したストーリーだったな。 少年本人視点の章はないにもかかわらず、 彼の苦悩がくっきりと浮かび上がるんだ。 諦観と生きる覚悟、その果てにある宿命、 これがありえないほど全身に響いてくる。 読めば一日一日を慈しみたくなるだろう。 誰かの葛藤に敏感になれるかもしれない。 素材適性は結構あるんじゃないかと思う。 以下に並べてみたのはその一例になるよ。 問題文に使えるかも…

  • 鮮烈の桜蔭選書『イザベラ・バードと侍ボーイ』(植松 三十里)

    英語を武器にして、何か別の分野に飛躍していかなければ、夢の実現は遠い。(本文より) 今年の桜蔭で使われた物語文も凄かった。 重厚な歴史、果敢な挑戦、豊富な気づき、 こういった要素が見事に凝縮された本だ。 困難な道を突き進む主人公が感動を誘い 学びだけでなく生きる原動力をくれるよ。 よくもまぁ、こんな本見つけられたな~。 もう手放しで礼賛するしかない感じだわ。 ただ、難易度は普通の小学生には難しい。 最難関にふさわしい素材といえるだろう。 例によってマイレビューを上げといたよ。 英国から来た紀行作家イザベラと、随行する若き日本人通訳鶴吉の視点で、困難な旅路を描く実話を元にした小説。 なんたる重厚…

  • 少女は七つの誓いを立てる『コメディ・クイーン』(イェニー・ヤーゲルフェルト)

    「パパはまた幸せになるんだ。わたしが幸せにするんだ!」(本文より) なんと21カ国で翻訳されているという 世界で愛される児童文学が日本にも上陸。 母の死から1年、動揺の消えない家庭の 12歳の少女が思わぬ誓いを立てるよ~。 深いかなしみを越えて成長する主人公と それを支える人々のドラマは衝撃だった。 特に友人の振る舞いが素晴らしいんだわ。 コメディアンのアドバイスも実にいいよ。 生きていく上で役立つ言葉が溢れていて 大人にもグサグサ刺さりそうな本だった。 難易度では4段階で3番目にあたる普通。 俺のレビューをちょっとだけ置いとくよ。 主人公は母の死に囚われたスウェーデンの12歳。 全身全霊で異…

  • 守る者の気概『イズミ』(小手鞠 るい)

    私たちは、単なる白衣の天使ではなかった。戦場に咲く花ではなかった。(本文より) たまに入試にでる作家の1月発売の本だ。 第一次世界大戦の折に国の威信を賭けて 欧州へ派遣された医療チームの看護師と それを描く作家の視点で書かれているよ。 いや~、戦時は病院も戦場さながらだな。 たとえ凄惨でも目をそらしちゃいけない。 きっちり向き合う必要があると感じたわ。 もしろんそんなシーンばかりじゃないが これほど戦争の愚かしさが響く本は稀だ。 一方、現代のパートでは作家に寄り添う 編集者の仕事ぶりに引き寄せられたよ~。 いろんな意味で学べる要素の多い本だわ。 知識面では、英語で時間をつぶすことを 時間を殺す…

  • 肯定感のプチ革命『おとなになりたくないわたし』(夜野 せせり)

    人の見た目のこと、いろいろいってくんの、やめてくれない?(本文より) 女子向け作品が多数ある作家の新作だよ。 今作も表紙からわかる通りのターゲット。 けど、苦悩をかなぐり捨てるアイデアは 男子だけでなく大人にも有効な気がする。 主人公は成長するからだを嫌悪する少女。 彼女がナイトのような級友との関わりで 自分の殻をやぶっていく爽やかな物語だ。 紹介作品の中では平易なレベル感だった。 俺のレビューの一部をまた紹介しとくよ。 対照的な二人が抱える葛藤の意外性に注目! 主人公は劣等感に染まる中学一年生です。 自分自身が嫌いな彼女が、憧れのクラスメイトと関わるなかで、さまざま感情を味わい、見違えるよう…

  • 受験界を吹き抜ける『教場の風』(安孫子 正浩)

    「どちらでも参ります」といいながら願ったのは、ただ中学受験クラスを担当させてほしい、ということだけだ。(本文より) 12月に発売された中学受験小説だけど 中受界隈では話題になってないようだな。 大藪春彦新人賞作家にして現役塾講師が 描き上げたという触れ込みのストーリー。 正直な感想をいうと掴みがちょっと弱い。 が、しかし二章のトラブルで引き込んで 志望校が問題になる中盤でも魅力が増す。 最高だったのは夏合宿を描いた辺りだよ。 スロースタートな作品だけど8章は必見。 受験本番の9章も、もちろん見逃せない。 ちょっと見つけにくい作品ではあるけど 素材文適性はなきにしもあらずって印象。 全9章だがこ…

  • 探求心よ、どこまでも『アメリカから来た友情人形』(今関 信子)

    「破壊89名、焼いてしまえ133名、送り返せ44名、海へ捨てろ33名」(本文より、戦時中の毎日新聞に載ったある小学校の聞き取り調査を引用) 題材がとてもいい本として紹介するよ~。 卒業を控えた小学六年生の子どもたちが 学校で大切にする古い人形の来歴に触れ 興味を抱き深く掘り下げていく物語だわ。 知らない話ばかりでメチャ勉強になった。 物語パートより探求パートが良い印象だ。 1927年に米国からやって来た人形が たどった運命には胸を締め付けられたな。 朝礼でやり玉にあげ、竹やりで突き刺し みんなで石を投げたあと火をつけたとか 主導させられた先生たちも辛かったろう。 もしも自分がその時代の子どもだ…

  • 出題されるかもしれない新刊本(2025年4月前後)

    4月度は注目作が盛りだくさんですわ~。 ちゅうでん児童文学賞作品か瀬尾先生の 新作が月間トップ候補になりそうな予感。 宮島先生の部活青春モノも期待値は高い。 以下のリストは未読の作品が多めなんで、 たぶん問題文に向かない本もあるんだが、 年間トップになる作品も含まれていそう。 4/9発売 先行レビュー済 『もの語る一手』(青山美智子,芦沢央,綾崎隼ほか) 豪華作家陣が将棋を描いたアンソロジー。 4/14発売 ちゅうでん児童文学賞大賞 『ぶたのしっぽ』(海緒 裕) 男らしさになやむ少年を変えるものは? 4/15発売 先行レビュー済 『団地メシ!』(藤野 千夜) 16歳の少女が祖母とめぐる和やか散…

  • 気ままな散歩へGO『団地メシ!』(藤野 千夜)

    おばあちゃん、明日、お花見しない?(本文より) 来月中旬に発売予定のおいしい新作だよ。 家族愛が心の奥深くに響いてくる物語だ。 わけあってヒマを持て余す16歳少女が 食べ歩きをしつつ生きる力を蓄えていく。 そんなストーリーだとオレは受け止めた。 ゆっくりのんびりなおばあちゃんがイイ。 少女とバディのように笑い合う関係性が おどろくほど心をなごませてくれるよ~。 いとこの直球すぎる感情表現も楽しい! 微笑みながら癒される作品だと感じたわ。 難易度としてはやや難に分類されるかな。 オレのレビューの最初だけ以下に並べた。 年の離れた仲良しの二人が、昭和の香り漂う団地の名店めぐりをトコトン楽しむストー…

  • でこぼこ道の少女『わたし、わかんない』(岩瀬 成子)

    まっすぐ生きるだけが、いいことじゃないよ。(本文より) 割と入試に出る作家の来月下旬発売の本。 学校で差別や偏見にさらされる女の子が 自分の居場所を求め足掻くストーリーだ。 みんなが当たり前にできることができず 苦しむ主人公へ心の底から共鳴したわ~。 彼女の優しさは勉強や運動ができるより ずっと、ず~っと尊いとしみじみ感じた。 1コ上の男の子も別の意味でユニークで 彼らのやりとりにはほっこりできるんだ。 文章はかなり平易なんで小4で読めそう。 オレのレビューの前半パートはこんな風。 不適応ですって!? 間違っているのはどちらなのか? 共感のあまり、ひたすらそう感じました。 個性を受け容れること…

  • 洋々たる船出『僕たちは我慢している』(藤岡 陽子)

    いよいよ始まるという緊張感が、受験生たちの顔に滲んでいた。(本文より) 『金の角持つ子どもたち』の著者が贈る 普遍的に愛されそうな作品が登場するよ。 発売は約2ヶ月後の5月中旬になる模様。 開成をモデルにした名門男子校を舞台に 生徒たちがおたがいを刺激し合いながら 難関大受験に向かっていくストーリーだ。 開成は征和学院に置き換えられているが 他校や鉄緑会はすべて実名で登場するよ。 本作に名前が出てくる学校 桜蔭、雙葉、麻布、武蔵、灘、筑波大学付属駒場、慶應中等部、小石川中等、桜修館ほか 我慢にもいい我慢と悪い我慢があるな~。 自分の未来の為に進み取る我慢は美しい。 そんな心の宝石が散りばめられ…

  • 濃厚な個性に囲まれる『坂の中のまち』(中島 京子)

    昨年11月発売の書店で目立っていた本。 ガール・ミーツ・幽霊譚と宣伝してるが エンタメ寄りではなくなかなか深いよ~。 文豪たちのあゆみや名作文学に登場する ご当地の坂が登場するシーンにフムフム。 ほっこりできるエピソードが多い一方で キリシタン弾圧の過酷さにはマジ震えた。 素材文適性があるかも知れないシーンは 祖母と盟友の距離が近づく電車賃パート。 あとは大学での面白キャラとのかかわり。 このよしんばさんは本当に楽しい人だよ。 ま、たぶんほかにもあるだろうとは思う。 難易度は紹介作品の中では難しいになる。 俺のレビューの序盤だけ以下に付けたよ。 主人公は世間知らずな18歳。 大学入学を機に上京…

  • 人生のお供にしたい『もの語る一手』(青山美智子,芦沢央,綾崎隼ほか)

    誰もが認めるような新しい目標がなければ、あきらめることは許されない気がしていた。(『おまえレベルの話はしてない(大島)』の本文より) 頻出作家の短編を含む来月9日発売の本。 将棋を題材にした珠玉のアンソロジーだ。 そのラインナップは以下の通りですわ~。 『授かり物』(青山 美智子) 『マルチンゲールの罠』(葉真中 顕) 『誰も読めない』(白井 智之) 『なれなかった人』(橋本 長道) 『王手馬取り』(貴志 祐介) 『おまえレベルの話はしてない(大島)』(芦沢 央) 『女の闘い』(綾崎 隼) 『桂跳ね』(奥泉 光) 青山先生の家族愛の短編を熱烈に読んで あとは軽い気持ちでと思ってたんだけど 最後…

  • 女は度胸と才覚『真珠王の娘』(藤本 ひとみ)

    食べ物が体を養うように、美は心を養い、豊かにするのだ。(本文より) 藤本ひとみ先生というと軽妙テイストで 子供達に人気って印象だけどこれは重厚。 入試ではあまり見ない作家ではあるけど 2024年の本郷中学で出てたりはする。 本作はズシリとくる厚みに思わずゴクリ。 戦中・戦後の日本を舞台に一人の女性が 我が道を闊歩するさまを描く文芸書だよ。 民草からみた戦争の恐ろしさだけでなく 指導者視点の世界も描かれ興味深いわ~。 素材文適性は府立第二高女の学生として 主人公が勤労奉仕する周辺に少しアリ? 難易度は例の分類に当てはめると難しい。 俺のレビューからの抜粋はこんな感じだ。 狂おしいほどドラマチック…

  • その兆しが示すもの『小説』(野崎 まど)

    2025年本屋大賞のノミネート作品だ。 王道文学とはちょっと毛色が違う本だわ。 読書だけが寄る辺という少年のあゆみは エキセントリックなまでにユニークだよ。 彼の無二の親友というのもこれまた凄い。 凄すぎて危なっかしすぎて先が気になり ボリュームをものともせず読めちまった。 作戦を練り超名門高校へ挑戦する部分や 慶応の論文に挑むあたりに俺は惹かれた。 まぁ、賛否が分かれるかもしれないけど 展開にびっくりすることは保証できるわ。 素材文適性は小学生パートと難関挑戦の 中高パートにホンの僅かだがあるかな~。 文章難易度の面では敷居が高く難しいよ。 俺のレビューの断片は以下に置いておく。 小説の持つ…

  • 常識を投げ捨てる『踊れ!文芸部』(キタハラ)

    みなさん、入学おめでとうございます。みなさんは、この学校に、べつに入りたくもなかったと思います。(本文より) バカ丸出し男子の青春物語と謳う作品だ。 まぁ、表紙の感じからしてそうだよな? この本、俺は前半パートがわりと好きだ。 モチベが低い男子校に降ってわいた話に 少年達が起死回生のアイデアであらがう。 あの手この手でみんなを巻き込むなかで 絶妙に面倒くさい先生も乗りだしてくる。 とまあ、こんな感じで進むストーリーだ。 ちょっと小学生にはアレな部分はあるが 肩の凝らない楽しい読書にはよいかも? 軽妙で読みやすく難易度は普通のレベル。 以下、俺のレビューの断片になりますぜ。 主人公は崖っぷち男子…

  • ほとばしる情熱の輝き『スターゲイザー』(佐原 ひかり)

    みんなどこかしら損ないながら、傷つきながらステージに立ってる。そうじゃないと輝けないって言い聞かせてさ。(本文より) 稀に入試で見る作家の9月に出た作品だ。 これは女性レビュアーの激賞が凄いんだ。 男性アイドル物とかマジで読めるんか? な~んて思いながら読み始めてみたらよ いきなり野郎共のメイク場面でげんなり。 どっこい、読み進めるともう止まれない。 軽薄の対極にある少年たちの生き様には 俺も知らず知らずのうちに熱狂してたよ。 2024年ベストに選んだ読み友さんが やけに多かった理由を今さら思い知った。 序盤でアレレと感じても止まらぬが吉だ。 素材に使えそうな箇所は探せばあるかと。 問題文に使…

  • 多様な視点への気づき『夜更けより静かな場所』(岩井 圭也)

    ひとりで本を読むのは楽しい。でも、読んだ本について語るのもまた楽しい。(本文より) たまに入試に出る作家の10月発売の本。 謎の多い初老の男が営む古書店を舞台に 6人の男女の人生が交わるストーリーだ。 課題の図書を題材にして意見交換しあう 彼らが読者に次々と新しい視点をくれる。 こんなんよく思いつくよな~って驚いた。 作家さんの頭ん中ってどうなってんの? 興味深かったのは心から願ってたことが いざ実現できると色褪せてしまうって話。 これは心当たりがある人が多い気がする。 素材文適性って意味では野球漬けだった 青年の視点で描かれる章とかはあるかも。 終盤の監督に会いにいく場面はその一例。 もう一…

  • 色眼鏡を外すとき『Q世代塾の問題児たち』(石川 宏千花)

    本当のばかっていうのはさ、差別やいじめを平気でしたり、世の中のことに無関心な人間のことだから。(本文より) 子供受けする本を多数出している作家の 来月中旬に発売予定の作品を紹介するよ。 今作は6年生女子が珍しい塾に通う中で 新しい価値観に目覚めていくストーリー。 個性派揃いの塾は教える側も凄いキャラ。 生徒たちも危なっかしくってもう釘付け。 それでいて勉強になる場面も多いんだわ。 これは主体的な学びに導いてくれるかも。 みんなハッピーになれる人生の選択など 大人の俺にも発見のある作品だったわ~。 文体は小4ぐらいでも読めそうな易しさ。 以下、俺のレビューの一部を並べとくよ。 先入観をひっくり返…

  • 固定観念を打ち払え!『蒼天のほし』(いとう みく)

    でも、現実に、目の前に、夜間の保育を必要としている家族がいます。その親子を切り捨てていいんでしょうか。(本文より) 入試頻出作家の5月下旬発売予定の本だ。 夜間保育園が舞台という珍しい作品だよ。 おそらく中学受験するような子たちには 想像することが難しい環境が描かれてる。 生死にかかわる限界の親子も出てくるし。 こういった試される感のあるテーマって 名門校で特に好まれるような気がするな。 培った能力を自分だけでなく広く社会に 役立ててほしいって理念ならなおさらだ。 素材文適性は保育園の方針が如実に出る 前半パートの2箇所がかなり高そうかな。 それに続くのが中学受験生が関わる中盤。 少しありそう…

  • 心の栄養がズラリと並ぶ『そんなときは書店にどうぞ』(瀬尾 まいこ)

    神社に行かないと手に入らないと思っていたけど、持つ人や贈る人の気持ち次第で、なんだってお守りにできるのだ。(本文より) 入試でお馴染みの作家の昨年末に出した 本づくりの舞台裏が丸見えになる面白本。 エッセイに短編小説1本がついてるよ~。 親しい友人に語りかけるような語り口で 爆笑ものの作家人生が描かれてんだよな。 変な編集者や熱血書店員の話だけでなく 本人の惜しみないやらかしもそこかしこ。 全然カッコつけないところが滅茶クール。 素材文適性は『幸福な食卓』の続編たる 短編小説の後半パートにありそうな感じ。 書店員の青年が心の傷に向き合う話だが、 全力疾走とレモンちゃんの周辺が匂うよ。 難易度的…

  • さびしい闇を埋める『眠れない夜のために』(千早 茜)

    稀に入試で見かける作家の11月の新作。 短編集と謳ってるんだが一つ一つの話は むしろ掌編と言っていいくらいの手軽さ。 スキマ時間にさらりと読める作品だろう。 文章量は多くなくてもじんわり来る話や SF、怖くなる話もあって多彩な品揃え。 オレが気に入ったのは『水のいきもの』。 眠れない主人公が真夜中に歩き回る中で 思わぬ体験をするっていうストーリーだ。 10編には合わない話もあるがどこかに 必ずキラリと光る言葉があるんだよな~。 難易度としては、やや難にカテゴライズ。 俺のレビューの真ん中へんはこんな感じ。 個性だけでなく世界観もさまざまな舞台で、闇の時間がまたたくような輝きを魅せてくれます。 …

  • 出題されるかもしれない新刊本(2025年3月前後)

    3月は珍しく新作の情報があんまないな。 『アルプス席の母』で注目を浴びている 早見先生の中受小説はガチ推し作品だよ。 以下のリストは未読の作品が多めなんで、 たぶん問題文に向かない本も含まれてる。 2/27発売 『キャロットバトン』(こまつ あやこ) 個性がバラバラな4人の童話創作リレー。 3/3発売 『白い虹を投げる』(吉野 万理子) 小6野球少年たちは転校しても支え合う。 3/7発売 ☆先行レビュー済☆ 『問題。 以下の文章を読んで、家族の幸せの形を答えなさい』(早見 和真) 少女の中学受験を通じて変貌する家族像。 3/7発売 『あの子の隣で待つ春は』(上田 聡子) 個性を輝かせる少女達の…

  • ぼくらは考え抜いてゆく『おおなわ 跳びません』(赤羽 じゅんこ)

    「それって、偽善、じゃねぇの?」つい、強めの声が出てしまった。(本文より) 稀に入試で見る作家の昨年10月の作品。 タイトルと表紙の感じから気の強い子が 行事への参加を拒否する話かと思ったが 読んでみたら先入観とはまるで違ったわ。 足を普通に動かせない大人しめな少女と クラスメイト達が大なわ跳びの最適解を 意見を出し合いながら模索していく話だ。 子供主導で利害を調整するストーリーに ふんだんに学びの要素が盛り込まれてる。 道徳的なのにいい話を読まされるような 重さや説教臭さがないところが凄いんだ。 自然とSDGSに親しめる優良図書だよ。 これは読書感想文にも向いてそうだわ~。 かなり平易だけど…

  • たとえ茨の道だとしても『あの日の風を描く』(愛野 史香)

    新たな知識が、朝露の清冽な冷たさのように、脳に染み込んで刺激する。(本文より) 昨年10月に出た角川春樹小説賞大賞作。 美術品の模写や修復を描いた珍しい本だ。 ハンパな自分を思い知り塞いでた青年が 従兄の誘いで新しい世界に踏み込むよ~。 先輩らと難題に挑む中で関係性が深まり その過程で大切な気づきも獲得していく。 彼の熱量の変化にぜひ注目して欲しいな。 美術用語が壁になるが素材文適性もある。 特に4章と5章の人間ドラマがよいかも。 問題文に使えるかもしれないシーン 四章前半〇名前の由来を知らされるまで 四章後半△セリフに決意がにじみでる日 五章前半△様々な言葉を浴びて浮き沈み 五章後半△ピンチ…

  • 彼女は熱意で押し通る『古本食堂 新装開店』(原田 ひ香)

    本意って伝わらないものなんです。自分の気持ちなんて、相手に伝わらないのが普通って思ってたらいいんです。(本文より) 昨年6月発売で今年の修道で使われた本。 シリーズ前作も今年茗渓学園で出てたよ。 70代店主が20代女性と切り盛りする ユニークな古本屋を舞台にした物語だわ。 食べ物の描写がじれったいほど魅力的で 作中で紹介される本も気になったりする。 この本のいいところは、惹かれた何かを 実際に食べたり手にしたりできるところ。 たまにある描写ではメチャ旨そうなのに 実際には一生お預けみたいなのとは違う。 ま、お仕事小説なので敷居は高く難しめ。 以下、俺のレビューから来た4フレーズ。 本にまつわる…

  • 誰も奪えない光『星の教室』(髙田 郁)

    教育を受けることは、そのひとの人生に希望の灯を点すことだ。(本文より) 長く親しまれそうな傑作が登場したわ~。 旧作をたまに入試で見る作家の新作だよ。 深~い事情があって夜間中学に入学した 生徒や周囲の人々の生き様が感動を誘う 学ぶことの尊さが直に伝わってくる話だ。 彼らの切実な学びへの渇望は衝撃だった。 物語の舞台になった2001年ごろには 義務教育を終えていない人が170万人、 一方で、夜間中学は全国にたった35校。 存在が知られていなかった面もあるけど、 全然ニーズに追いついてなかったんだな。 この作品が何かを変える契機になるかも。 素材文適性は前半が特に高かった印象だ。 今回も少しばか…

  • イマジネーションの翼『風の港 再会の空』(村山 早紀)

    この世界を生きるに足る、優しい場所だと教えてくれたのは、あなたでした。(本文より) 『風の港』ってタイトルからして素敵だ。 たまに入試に出る作家の1月の新作だよ。 前作は複数の入試問題に採用されてたが 今日紹介するのはシリーズ2作目になる。 思わぬ邂逅で荒んだ男が心を洗われたり、 医大を目指す青年の気持ちが救われたり、 悩める女性が決意を新たにしたりと多彩。 共通するのはほんのり元気をくれるトコ。 素材文適性の面では最終話『夢路より』。 公務員の青年の話だけど、小学校時代の 二人の友人ができるまでの話はアリかも。 難易度の面ではやや難といったレベル感。 俺のレビューの冒頭部分を以下に置くよ。 …

  • 確かな架け橋『音のない理髪店』(一色 さゆり)

    自分が書いたものが人と人をつなぐきっかけになってほしい。(本文より) これも障がいを深掘りした作品になるよ。 耳が聴こえないことで身に迫る危機とか やまない差別や偏見、歪んだ制度などを これでもかとブッ込んだストーリーだわ。 日本手話と日本語対応手話が別物だとか、 東京と大阪で水をあらわす仕草が違う等 びっくりさせられることも多かったな~。 嫌になるようなエピソードがある一方で 未来に希望を持たせてくれる話もあるよ。 人を思いやることの大切さが沁みる本だ。 難易度が高いので小学生にはキツイかな。 以下の文章は俺のレビューの一部分だよ。 聞こえる者と聞こえない者の間に架け橋を! そんな願いが込め…

  • 感嘆のため息もれる『見えなくても王手』(佐川 光晴)

    できれば時間を気にせずに、きみと指したいんだ。(本文より) 入試定番作品『駒音高く』の姉妹編だよ。 盲学校の高学年男子のストーリーだけど 将棋と障がい者教育への著者の本気度が 物語の中に見事に結実されてるんだわ~。 これはそう滅多に見られない優良図書だ。 特に著書の祈りが乗り移ったかのような 熱意溢れる教師の振舞いには要注目かと。 盲学校の子どもたち同士のやり取りにも 色んな意味で目が離せないシーンが多い。 ただ、将棋の戦型のようなマニアックな 語句が当たり前に使われる点では難しい。 素材文適性は将棋用語が減り人間模様に 重点が置かれる6章から8章が高そうだ。 帰郷、回想、学校トラブルのあたり…

  • 長らえ、何を伝えるか?『窓の向こう、その先に』(田村 理江)

    強いあこがれは、裏返されて嫉妬になり、そばにいたらはじかれそうな”こわさ”に変わった。(本文より) 入試で見たことのない作家の11月の本。 窓から外を眺めるのが好きな少女の話で 彼女と老人の変わった交流を描いてるよ。 奇跡のような巡り合わせが楽し気だわ~。 この作品の珍しいところは主人公の心が 真っ黒に染まり驚きの事態を起こす部分。 王道テンプレとは違うシナリオは新鮮だ。 難易度は平易なので小5で十分読めそう。 以下、俺のレビューの最初だけ付けとく。 おじいさんと少女は心を通わせることができるのか? その答えやいかに! 主人公は小学5年生。 特別なものに憧れ、満たされない日常に流されていた彼女…

  • 歩けよ黒髪の成瀬『実家が北白川』(宮島 未奈)

    ごめんね。こいつは男子校で六年間過ごしたせいで、女子へのあこがれが妙に強いんだ。(本文より) バカ売れしてる成瀬シリーズの最新短編。 小説新潮1月号に掲載されている話だよ。 京大のおとなしめ新入生男子が流される ままに入ったヘンテコサークルの日々で 例の大物と繋がる機会を得るんですわ~。 普通じゃない初対面のシーンはもや定番。 今回はしかも出で立ちからしてユニーク。 でも、確固たる信念は変わらずで嬉しい。 難易度分類ではやや難といったレベル感。 短い話を詳しく描いちまうとアレなんで 今回は物語のさわりだけ紹介しておこう。 主人公は京大近くで育った新入生男子。 地味な彼の日常は、異質な出会いを重…

  • 人生を賭ける仕事『日比野豆腐店』(小野寺 史宜)

    謝るくらいなら離婚しないでよ、とぼくは言ったけど、どちらからも返事はなかった。(本文より) たまに入試に出る作家の11月の新作だ。 この先生が人情を描いたら当たりは必然。 期待を裏切らないばかりか越えてくるよ。 熱意が人を動かす話とかグッときたわ~。 主役は短編ごとに違っていて70代女性、 40代女性、小4男子、高校生男子、猫。 猫視点の話は短いけど重要な役割がある。 終盤の高校生パートは特に胸アツだった。 性格の良さがにじみ出てるんだもんよ~。 素材文適性の面でも終盤でグンと上がる。 高校生と小学生が心を通わせる場面など エモくって問題文にもよいかもしれない。 店番、散策、進路のパートも使え…

  • 聲なき天の『オリオンは静かに詠う』(村崎 なぎこ)

    記憶にある札の場所を渾身の力で払った。手から星が散り、彗星のように札が飛んでいく。(本文より、競技かるたの鮮烈な描写) 聖光学院で出たことがある作家の新作だ。 聴覚障害にまつわる本人や周囲の葛藤が さまざまな角度から丹念に描かれてるよ。 深刻度の違いによる友人とのすれ違いや 家族も含めた無理解による苦悩がグサリ。 これは著者の最高傑作だという気がする。 心のバリアフリーに役立つ貴重な一冊だ。 競い合い火花を散らすライバルの思わぬ ふるまいなんかもあってグッときたわ~。 かつ、百人一首絡みの知識も満たされる。 作問者が気づけるかって問題はあるけど この作品の素材文適性はかなり高い印象。 問題文に…

  • きらめきの未来『ぶたのしっぽ』(海緒 裕)

    二度とキモイなんていわれないように、自分じゃない自分になり切ろうとしたんだ。(本文より) 今回は2ヶ月以上先に発売予定の新刊本。 ちゅうでん児童文学賞の大賞作品だよ~。 受賞作品は何年も連続で入試に出ている。 秘密の趣味と人に言えない苦悩に染まる 中二男子がヤングケアラーの不登校児と 関わるなかで心を開放するヒントを得る。 ヒトコトで言っちまうとこんな筋書きだ。 出番は多くないが主人公の祖母や担任の 先生のちょっとした気遣いが沁みたわ~。 野球部女子との微笑ましい関係も面白い。 本作では不登校の少年の独特の話し方が いくぶん硬質な印象を加えているんだが 軽妙な文体よりかは素材文適性にプラス。 …

  • そのとき何ができるのか『普通の子』(朝比奈 あすか)

    いつの時代も、人をいじめるのが楽しいたちの子が、一定数いるのよ。(本文より) いじめの問題を深く深く掘り下げた大作。 割と入試に出る作家の12月の新作だよ。 これは子どもには難しいし素材文適性も あまり高いとは思わないけど親は必見か。 主人公の大きな失敗は反面教師になるし もちろんよい対応もあって役に立ちそう。 教育に関心のある層に薦めたい一冊だよ。 オレは何かあったときのために保護者の 横のつながりは疎かにできないと感じた。 被害者と加害者の境目が際どい部分には 簡単に割り切れない現実を見た気がする。 ラストが風速100M級のインパクトの この作品へのレビュー要約版は以下だよ。 いじめは心を…

  • いのちを「いただく」ことの意味『ミルキーウェイ──竹雀農業高校牛部』(堀米 薫)

    人間、何かを突破しようとしたら、それなりの覚悟を決めるのが大事なんだよ。(本文より) 決戦の朝だけど気を紛らすために三連投。 なにか書いてないと落ち着かないのだよ。 2024年12月に発売されたばかりの こんな部活ありますシリーズの第4作目。 農ガールたちに光を当てた珍しい作品だ。 引っ込み思案の高校生が学校で実習用に 飼っている牛をお世話する牛部に出会い 普通では味わえない経験を重ねていく話。 彼女たちが大変な活動を乗り越えながら 何を吸収していくのか注目して欲しいよ。 都会で暮らす人には未知の話ばかりだし 学びっていう点では収穫の多い作品だわ。 原発事故エピソードは胸に迫りまくるし 日本の…

  • 鎮魂の響き『あの空にとどけ』(熊谷 千世子)

    がんばってるのにできないからしかたないじゃん、って言いわけを探した。でもそれは、つらいことから逃げだしただけかもしれない。(本文より) 命の大切さを訴える作品って貴重だよな。 小川未明文学賞等でも実績のある作家の 課題図書にも向いてそうな良質な新作だ。 本作では小学5年生の少女が家族を喪い 後悔にとらわれ身動きが取れなくなるよ。 そんな彼女が周囲の働きかけを受けつつ 一生懸命になれる物を見つけ立ち上がる。 序盤の重さがハードルになると思うけど たぶん中盤からは止まれなくなるだろう。 素材文適性が最も高いのもおそらく中盤。 主人公の心を動かす対話に注目したいね。 あとは終わりの方も問題に使えるか…

  • 運命は交差する『モノ』(小野寺 史宜)

    朝焼けの下で今まさに様々な交通機関が 受験生やその家族を目的地へ運んでいる。 書きもの集中するのが一番落ち着く俺は こんな朝でも平常運転中だったりするよ。 読むほうは文字が滑って頭に入らなくて 正直、まるっきり平常心じゃないけどな。 かなり前に読んだけどココでは未紹介の 割と入試に出る作家の夏に発売された本。 東京モノレールに著者が密着して描いた 沿線の魅力も伝わってくるお仕事小説だ。 誇りを持つこと、知恵を働かせること等 生きていく上でこの上なく大切なことを 物語を通じて教えてくれる作品だったよ。 駅や列車内で人の運命が交差する場面や 意欲的に働く社員の姿が魅力的だったな。 ひたむきに頑張る…

  • エース達の蹉跌『危険球』(木住 鷹人)

    もっと長いスパンで考えたら、結果なんてまだどこにも出てない。(本文より) 目下『アルプス席の母』が頻出だよな? 今回の紹介本も変わった野球小説になる。 10月発売の京都文学賞の最優秀作品だ。 甲子園の一歩手前というまさに大一番で 関係者の運命を一変させる事件が起こる。 後遺症のように前に進めなくなる彼らが いかにしてそれぞれの問題に対峙するか。 これが本作品の見どころになると思うよ。 プロ野球が学生野球より下に見られてた 時代の話など興味深いネタも多かったな。 審判員に敬意が湧く舞台裏も描かれてて 野球ファンとしては嬉しくなっちまった。 文章難易度は高いので小学生には難しい。 以下はこの作品へ…

  • 積極性が開く扉『カミオカンデの神さま』(松田 悠八)

    何の混ざりけもない水、即ち純水が実は 全然おいしくないだなんて知ってたか? この作品の中にそういう話も出てくるよ。 11月に発売された科学寄り児童小説で イタイイタイ病の元になった神岡鉱山の 跡地を活用した研究施設を題材にしてる。 ニュートリノの話をかみ砕いて描写する くだりもあり宇宙線の勉強にもなるんだ。 文章の難易度は普通といったところだな。 前に書いたレビューをちょっとだけ紹介。 想像力を羽ばたかせてくれる作品ですね。 主人公はノーベル賞の受賞に貢献した観測装置「カミオカンデ」がある町の子どもたち。 親を亡くした姉妹を軸にして、少年少女が素朴な疑問から生まれた謎に近づいていきます。 妹を…

  • そびえ立つ時代の壁『マンダラチャート』(垣谷 美雨)

    自分の方が勉強ができるから、人間としても上等だと思い上がっていた。(本文より) 昨年11月に発売されたエンタメ小説は ジェンダー問題に関心が強い人によさげ。 63歳の女性が自分の中学時代に戻って 本当の生き方をやり直そうとするって話。 今にして思えば異常としか言い様のない 男女差別が当たり前だった時代を描くよ。 読めば今が令和で良かったと思うかもな。 なにしろジェンダーへの意識が違うから。 ふんぞり返る男達だって疲弊しているし。 意気揚々と生き直す主人公はどうなるか。 予想外の展開になるのでたぶん驚くよ~。 例の4段階の分類では難しいに該当する。 以下、俺のレビューのひとかけらになる。 ジェン…

  • 信じられることの幸福『さくらのまち』(三秋 縋)

    昨年の9月に発売されたミステリ作品だ。 舞台設定がユニークなこの物語の中では 過去の体験によって感情の動きを抑える 青年の周囲で驚きの出来事が続発するよ。 明暗でいえばダークサイド寄りの比重大。 幸福も不幸も要は心の持ちようなのだと 登場人物達が反面教師的に教えてくれる。 そういう意味では良いストーリーだろう。 文章難易度は4区分ではやや難のレベル。 マイレビューは一部だけ以下に付けとく。 主人公は疑心暗鬼にとらわれた男。 傷つかないために張りめぐらす予防線でがんじがらめになっていた彼が、自分を変えた過去と向き合い、こだわりの中核にあった女性の本当の姿に近づいていきます。 人生を狂わされてしま…

  • バカ男子だっていいじゃない!『あの夏のクライフ同盟』(増山 実)

    バカがバカのまま突き進んでも許される季節。それがあの頃だった。(本文より) 桜蔭中で出た重厚な作品が記憶に新しい 増山先生の先月発売されたばかりの小説。 約50年前の田舎町で、個性派ぞろいの 4人の少年たちが躍動するストーリーだ。 メチャメチャ面白いんだけど子どもには 薦めづらい要素も含んでいるんだよな~。 実際、本文中にこんな一文もあるわけで。 あの頃の話をする時、どうも性的な方向に行きがちになるのは許してほしい。(本文より) ちょっとリアルすぎるのがヤバイんだわ。 とはいえ作問ではそういう箇所を避けて 出すのはまったく珍しくないのも事実だ。 素材文適性は後半のほうが高かった印象。 終盤の自…

  • 出題されるかもしれない新刊本(2025年2月前後)

    これからも興味深い作品の発売が続くよ。 以下のリストは未読のものばかりなんで、 問題文に向かない本も多分含まれている。 1/29発売 『オリオンは静かに詠う』(村崎 なぎこ) 競技かるたに挑むろう学校の少女を描く。 2/12発売 『声に出せずに叫んでる』(朝霧 咲) 高2男子の周囲で起こる不可解な出来事。 2/15発売 『もし、自分に負けそうになったら』(令丈ヒロ子,黒川裕子,山崎ナオコーラほか) 自己肯定感のピンチによりそった短編集。 2/15発売 『もし、親友をねたんでしまったら』(山本悦子,四月猫あらし,森川成美ほか) 嫉妬の苦悩を抜け出す鍵をくれる短編集。 2/19発売 『願わくば海…

  • 轟く熱量と勇気『団長とエース』(栗山 圭介)

    自分は男を下げるために応援団に入ったわけじゃない。(本文より) 今期は野球小説が良く出ているので紹介。 かなり前に他でレビューした作品だけど こちらで書かなかったのには理由がある。 主人公は暴力団組長の息子で乱暴すぎる 言葉づかいや喫煙シーン、暴力沙汰等が 素材文適性を吹っ飛ばしていたせいだよ。 正直、俺はこういうのも好きなんだけど。 ブラスバンド部の熱量とかも刺さったし。 だがまぁ、野球部にエールを送る意味を 主人公が考える部分や援団改革パート等 上手く切り取れば問題文になるかもな? 文章難易度についてはやや難に分類した。 昭和の価値観を遠慮なくぶっこんだ本に 俺が書いたレビューを一応つけて…

  • 稲妻の青春小説『ノウイットオール あなただけが知っている』(森 バジル)

    SNSって嫉妬・妬み、そねみの略だから。(本文より) 松本清張賞を受賞したという触れ込みの 2023年7月に発売された準新作だよ。 思い切り奇をてらった5種のジャンルは 刺さるものとそうでないものの差が激烈。 『青春小説』は突き抜けて良い方だった。 丁重にお断りさせてもらうわ、に対して そのお断りをお断り、と切り返すような 会話のノリもストーリー展開も良すぎる。 後半に素材文適性を落とす要素も含むが イチオシはやっぱりこの短編になるな~。 次にいいのは短歌がきっかけの恋愛小説。 文章の難しさはやや難といったところで 以下はちょっと前に俺が書いた感想だよ。 多彩なジャンルの作品が絡まり合うように…

  • その願い、承った!『繭の中の街』(宇野 碧)

    ぐちゃぐちゃに壊れないと新しく始まらないものも、あるの。(本文より) 『レペゼン母』で時の人になった作家の 昨年3月に発売されたアンソロジーだよ。 SFからそうでないものまで多彩だけど 子どもに見せられない短編も含まれてる。 それゆえ紹介してこなかったわけだけど レビューした時の下書きを見返してたら 適性微妙にアリという掌編があったわ~。 『秋の午後、神様と』は9歳が中学生に 願い事を伝えるっていうほっこり話だよ。 ま、◎〇△の素材文適性分類にあてると △未満なので出る可能性は低いかもな? 大人が読む分には面白いだろうこの本に 俺が書いたレビューを一応紹介しとくよ。 不思議な雰囲気を纏う短編集…

  • あの名作に親しめる『文庫旅館で待つ本は』(名取 佐和子)

    自分を愛していない人間が、他人に愛を与えられるわけがないんです。(本文より) 誰もが知っている文豪の名作が出てくる 2023年12月に発売された作品だよ。 少年たちの卒塾旅行のエピソードの中に 子どもに見せたくないパートがあるので ここでは紹介してこなかったが、面白い。 何でも見通すようで抜けている若女将と、 文豪の意外なエピソードが楽しい作品だ。 例の難易度分類では難しいに入るレベル。 以下は昨年5月に書いたレビューの全文。 本当の気持ちを大事にしていい。 そう優しく語りかけてくる短編集でした。 舞台は戦前の本ばかりを収めた文庫を持つ老舗旅館。 しっとりとした若女将が、人生に迷う旅人におあつ…

  • 目指せ!最難関『今日も明日も負け犬。』(小田 実里)

    どうして、神様は自分の好きなものばかり奪ってゆくのだろうか。(本文より) 高校生が書いた作品ということもあって 文章に少しムラがあるかな~とは思った。 起立性調節障害当事者の視点は新鮮だし ズシッと胸に迫るものがあったのも事実。 塾の先生が素晴らしい高校受験パートや メディアミックスへの道は浮き立つよ~。 文章難易度はやや難といった水準だろう。 以下、夏に書いたレビューの一部になる。 学校が大好きな少女が、起立性調節障害のためにどん底に突き落とされ、苦しみもだえる日々のなかで、再起への手掛かりを掴んでいく物語です。 周囲に解ってもらえないつらさに、読んでいてしんどくなることもしばしば。 簡単に…

  • あふれる思いを詩歌に乗せて『そこに言葉も浮かんでいた 文芸部』(おおぎやなぎ ちか)

    小さい頃からピアノを習ってるあの子や、かっこよくサッカーボールを追いかけているあの子や、超がつく有名中学に合格したあの子と違って、へいへいぼんぼんなわたしは、この地面を地道に歩いていくしかない。(本文より) 創作者のこだわりの一端に触れられる本。 まれに入試で見る作家の12月の新作だ。 自身をモブキャラと思っている女の子の 着実な成長ぶりには目頭が熱くなるよ~。 個性を大事にしつつ切磋琢磨するなどの 先輩が示す表現者の心構えも素晴らしい。 戦時中、時局に逆らって創作した人々の 魂の作品にも触れられていて尊いんだ~。 著者の平和への思いが刺さりまくったよ。 あえて俳句に季語を入れない無季派など …

  • 成し遂げる力『正射必中! 弓道部』(斎藤 貴男)

    こんな部活ありますシリーズ第三弾だよ。 野球一筋だった少年が怪我をきっかけに 弓道部で心を鍛え直すように促される話。 いやいやながら弓道部に足を踏み入れて やがてその魅力に気づいていくんだわ~。 弓の所作を野球にたとえる視点が新鮮だ。 この本は前半が好きだが後半はちょっと 弓を武器にっていう部分が引っ掛かった。 別の著者の作品のときにも書いたけれど こういうの経験者は似た感情を抱きそう。 主人公がダメな自分を受け容れる部分や 誤りを素直に謝罪する部分は好きだな~。 主人公の成長ぶりにも心を動かされたよ。 難易度はかなり平易で読みやすいだろう。 以下、俺のレビューの序盤からの抜粋だ。 主人公はカ…

  • 閉塞感をぶん投げる『ハローハロー』(九津 十八)

    たぶん私達って似てるんだろうね。自分は不幸だって思ってて、だから自分より不幸な奴を探して安心したい。(本文より) ハナショウブ小説賞テーマ部門大賞作品。 あと1週間ほどで発売される新作だけど どこまで流通するかはまったくの未知数。 ヘラヘラした仮面を貼り付ける中学生が 困難に真正面から向き合う少女と関わり 堂々とした生き方に目覚めていく物語だ。 大方の予想をいい意味で裏切る展開だわ。 ちょっと仰天するようなパートもあるし。 ウジウジ少年の変りっぷりが気持いいよ。 で、ハキハキ少女の生きざまは清々しい。 難易度はやや難といったレベル感だった。 以下、オレのレビューからの抜粋になる。 主人公は吃音…

  • “魔法の音”は心地よく『ヒカリノオト』(河邉 徹)

    音楽に勇気づけられ、何もないところから力が湧き上がってくる。(本文より) 作問選書もたけなわのころに発売された 読み友さんたちの評価がもの凄い短編集。 音楽業界の片隅で足掻くアーティストが 置き土産のように残した渾身のソングが めぐりめぐって人々の運命に働きかける。 一言でいうとこんなストーリーだったわ。 とりわけ素晴らしかったのは、第一話の 恩返しを生きがいと決める青年の心意気。 動画作りにのめり込む青年の話も面白い。 彼の危うい恋路からは目が離せないよ~。 素材文適性が高いのは『マホウノオト』。 音楽センスに恵まれた高校生が合唱祭で 思わぬ経験をするっていう青春小説だよ。 クラスメイトの優…

  • 尊敬される生き方『さよなら校長先生』(瀧羽 麻子)

    時折、胸の内で燃えさかる感動を、誰かに伝えたくてたまらなくなる。(本文より) 主人公は9歳女子から60代男性までの 6人という実に色とりどりな連作短編集。 入試でおなじみの作家の12月の新作だ。 尊敬される教育者だった先生と関わった 人々の視点で故人の解像度を上げていく。 あくまで子ども第一という出発点で考え しなやかに現実に落とし込んでいこうと 考え行動する先生の姿が印象的だったよ。 素材文適性は1章、6章、5章の順かな。 問題文にしやすそうなくだり 1章◎小3男子の学校トラブルに神対応 6章〇小5男子のその後を変える出来事 5章〇小3女子の後ろめたさを受容する 6章△教育実習生の勇み足への…

  • 魂を灼かれるような『17歳のサリーダ』(実石 沙枝子)

    高校二年生になるものだと、去年の今頃は疑いもしなかった。(本文より) 今年の受験者数日本一は5千人が受けた 1/10の栄東Aの東大クラスだったな。 そこで著書が使われたことで注目される 作家の12月に出たばかりの新作だよ~。 素材文適性は出題作を100だとすると 今作は300にも400にもなるだろう。 有数の進学校にしてお嬢様学校から離れ 漠然とした不安に溺れそうだった少女が 運命の出会いを機に浮上していく物語だ。 人生で経験することはすべてが糧になる。 いま見えてる世界なんてちっぽけだから。 こんな理念がじわじわ伝わってくるよ~。 迷いを断ち切ったり、受け入れたりする きっかけをくれそうな作…

  • 誰もが持ってるオモテ裏『やなやつ改造計画』(吉野 万理子)

    悩んだときは、とにかく、自分がいいと思う方向に走りなさい、汗をかきなさい。(本文より) たまに入試に出る作家の明後日発売の本。 最近の著書の中では素材文適性が一番だ。 友だちにも微妙な評価をされる中学生が 人気者になる秘訣を探してジタバタする。 前半をまとめるとこんなストーリーだよ。 主人公への遠慮ないツッコミが笑えた~。 そこには親しみもにじみ出てていいんだ。 彼らの組織運営のための情報収集からは リーダーの仕切り術まで学べてしまうよ。 リアル政治家の助言にも金言が多かった。 感謝するネタをいつも探そうという話は たぶん自分自身の助けになる気がするな。 興味深かったのは、終盤のスマホ絡みの …

  • 紹介作品からの出題(2025年度中学入試の国語出典・随時更新)

    例によって、ほとんどだれも見ていない サイトからひっそりとお知らせするよ~。 俺なんかでは一部しか拾えないんだけど、 旧作も含めて紹介本から出た学校のうち、 現時点で判明しているものは以下の通り。 『アルプス席の母』(早見 和真) 海陽中等(Ⅰ)、愛光 『リカバリー・カバヒコ』(青山 美智子) 栄東(東大特待) 『物語を継ぐ者は』(実石 沙枝子) 栄東(A東大) 『きらいなあの人』(工藤純子, 蓼内明子, 花里真希, 黒川裕子) 栄東(A難関大) 『八秒で跳べ』(坪田 侑也) 開智(②) 『この夏の星を見る』(辻村 深月) 函館ラ・サール 『家族シアター』(辻村 深月) 佐野日大 これからまだ…

  • いまの私は上機嫌『不機嫌な青春』(壁井 ユカコ)

    おまえが今絶望しきっているほどには、世の中はそんなに酷くはないから。(本文より) 稀に入試でみる部活小説で有名な著者の 昨年10月に発売されたアンソロジーだ。 青春×SF短編集と謳ってるけど最初の話 『零れたブルースプリング』はSFナシ。 病院に入院中の6年生が飛ばした風船が 数奇な運命を手繰り寄せ未来を変えるよ。 大人になれるかわからない子どもたちの 院内学級の日々に心を奪われまくったな。 これは素材文適性がありそうな話だった。 2話目はちょっと小学生に見せられない。 あまりにも生々しい描写があったもんで。 2~3話目はSF設定が少し難しいかも。 素材向きじゃないが最終話には参ったわ。 短編…

  • 本がわたしを生かしてくれた『わだかまってばかり日記 本と共に』(岩瀬 成子)

    ずっと学校の空気になじめないままだった。どうやって折り合いをつければいいかもわからなかった。(本文より) 桜蔭中などでも出題実績のある大作家の あと半月ほどで発売される新作エッセイ。 著者の幼少時のエピソードを中心にして 折々の心情にマッチする本を紹介するよ。 単なる作品紹介より体験談を交えた方が ず~っと心の奥底に響いてくるもんだな。 面白いと思ったのは、物語に自分自身の 気持ちを教えられることがあるって部分。 確かに幼いとそういう傾向は強そうだし 大人も無自覚の感情を知る瞬間はあるな。 この作品を読むと、どれだけ本が人生を 救い、そして豊かにしてくれるかが解る。 難易度の面では、やや難にカ…

  • 命の尊さと儚さが伝わる『まさきの虎』(濱野 京子)

    正しい人が幸せになれるともかぎらない。(本文より) 児童向けでは珍しいメッセージを含んだ わりと入試に出る作家の12月の新作だ。 嫌々ながら引っ越す羽目になった少女が なじみの薄い土地で奮闘していく話だよ。 落ち度がなくても、正しく生きていても、 誰しも人生に何が起きるかはわからない。 だからこそ、大事に生きないといけない。 そんな尊い考えが物語を通じ沁みてくる。 素材文に使えるかも知れない部分として、 主人公がコンプレックスを級友に明かし 意外な反応が返ってくるあたりがよさげ。 表紙のイメージより高い年齢層向けだが 紹介してる本の中では平易な部類に入る。 以下、俺のレビューの一部を載せとくよ…

  • 栄東、開智、大宮開成などの入試結果から偏差値を割り出す【2025年版】

    成績が判る埼玉校は模試がわりになるが 点数と順位では立ち位置が判りづらいな。 となりゃ模試の結果資料の志望者分布を 準用し本番の結果に当てはめてはどうか。 そんな考えで作成したのが今回の一覧表。 1月は古い表にアクセスが集中するので データを最新にアップデートしたわけよ。 選んだのは模試の志望者登録数ベスト8、 栄東、開智などの8つの入試回になるよ。 栄東A難関大クラス志望者は対象模試で 延べ505名、うち102位で偏差値が 62となってるから本番の上位20%で 偏差値62っていう具合に推定していく。 大宮開成1回は上位20%で偏差値57、 上位30%なら偏差値55って感じだな。 この方法で推…

  • 時をこえる祈り『二十四五』(乗代 雄介)

    小さいな塾だったからか、そこで一緒に中学受験をした友達数人との関係は十年以上経った今も続いている。(本文より、弟エピソード) たまに入試で見る作家の芥川賞候補作だ。 発売日まであと半月という最新作になる。 かなしみで心が曇り切っていた主人公が、 晴れわたる人に出会い変化の糸口を掴む。 ヒトコトで言っちまうとこんな物語だよ。 偏屈に見られてる女性の内面のゆらぎが 深いところまで描かれてるところがイイ。 腫れ物に触るような周囲の扱いの行方も 物語に引っ張り込む絶妙なスパイスだよ。 文章難易度は難しいゆえ正直敷居は高め。 以下はオレの先行レビューの全文になる。 自分を変えたい人や、誰かに変わってほし…

  • 自己ベストを塗りかえろ『キャプテンマークと銭湯と』(佐藤 いつ子)

    ポジティブな言葉で考えたり言ったりする癖をつけると、必ず物事がポジティブに回りだすんだよ。(本文より) 言わずと知れた頻出作家の頻出作品だよ。 2019年発売ながら前期も使われてた。 独善的なプレーを見とがめられた少年が ライバル登場で変わっていくサッカー物。 尖りまくっていた心が変わるきっかけが ユニークで面白いストーリーだったな~。 特にいいのは左官の兄ちゃんのセリフ群。 性格の良さがにじみ出るような言葉には 生き方の参考になる要素がたっぷりある。 難易度は普通でどの学校でも使える感じ。 俺のレビューは久々に少しリライトした。 主人公は小学校の頃からいつでもキャプテンを任されてきたサッカー…

  • 親の大変さを知る意味で『クリームイエローの海と春キャベツのある家』(せやま 南天)

    4月に発売された朝日新聞出版賞受賞作。 一流企業を退職した主人公が再就職先に あえて家事代行を選んで奮闘する話だよ。 子供5人のシングルファーザーの家庭で 失敗を重ねながら成長していく主人公に 共感が止まらないって声が続出しそうだ。 掃除機のかけ方へのひと工夫等のように ハッと気づかされるテクニックがあって さらに気の持ちようへのヒントもくれる。 プラスアルファの魅力がある作品だよ~。 文章難易度は難しいんだけど家事をする 大変さが直に伝わるので薦めたいところ。 俺のレビューの一部だけ以下に付けとく。 完璧なんか目指さなくていい。悪いこだわりは捨て去ろう。スモールステップで大丈夫。 そんなメッ…

  • 正しさいっぱいの『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』(椰月 美智子)

    うそみたいだ。この街でそんなことがあったなんて・・・(本文より) かつての小学館児童出版文化賞の受賞作。 今年の入試でもよく使われていた旧作だ。 夏にはNHKでドラマ化されてもいたよ。 スケボー大好きな少年が神社の管理人の おじいさんと交流を深めるという筋書き。 やり取りを重ねていくなかで街を襲った 戦禍の悲惨さに触れ衝撃を受けるんだな。 平和の尊さは入試でよく見るテーマだが そういうの関係なく読んで欲しいところ。 例の難易度では平易に該当して読み易い。 以下は4年も前に書いたレビューの欠片。 主人公は中学受験断念で抜け殻のようになっていた小6男子。 彼は友人とともに、目の前でケガをしたおじい…

  • 普通って何だろう『世界のすべて』(畑野 智美)

    命をかけて産んでもらい、人生をかけて育ててもらった。それなのに、申し訳ないと考えてしまうことは、よくある。(本文より) 入試で見たことのない作家の9月の新作。 LGBTQだけじゃない多様性の裾野を 悩める青年の視点で描くストーリーだよ。 すこし子どもに見せづらい箇所もあるが 主人公のみならず周囲で苦悩する人々の 吐き出す激情に学びがありまくりだった。 特性に名前を付けることで見えなくなる こともあるって俺は思い知らされたな~。 例えばL要素とて0か100かじゃない。 20や30という人だっているだろうし それは時間の経過によって変化もしうる。 同じ人が複数の要素を持つ可能性もあり 多様性のパタ…

  • ゆるぎない信念と箴言『生きるぼくら』(原田 マハ)

    これも今年の入試で出た定番の旧作だよ。 やはり定番作品は選ばれる理由があると 読み返してしみじみ感じる物語だったわ。 学生時代のいじめで引きこもりになった 主人公が人生で最大の危機に見舞われて すがった相手は意外な人物だったんだな。 傷つき固まっていた心が優しさに包まれ 動き出すさまにすっかり酔いしれたわ~。 以下は5年前に書いたレビューの断片だ。 この本の影響で、私も手作りのおにぎりはしっかり味わって食べるようになりました。 カッコ悪い大人の見本のようだった主人公が、おばあちゃんのお世話と米づくりを通して一皮も二皮もむけるというストーリーです。 24歳の引きこもり青年の変わりようが凄い! 仲…

  • 例の事故を想起させる『海のなかの観覧車』(菅野 雪虫)

    いつも大人の甘い見込みで、酷い目にあうのは子どもだ。(本文より) ミステリ要素を含んだドキドキできる本。 YAの有力作家が4月に出した作品だよ。 企業の社会的責任を扱う珍しい児童書だ。 サラッと読んでおしまい、とはならない 考えさせられる部分があるのがいいよ~。 現実にも起こっている様々な企業不祥事。 そして問題はお金では解決できない苦痛。 しゃあ、一体どうすればよかったのか? 作中でも関係者たちが狂わされるように、 これはなかなか答えの出ない課題だろう。 例の難易度分類では普通にカテゴライズ。 俺のレビューの一部を以下に紹介しとく。 故郷を奪われ、生活の場を失う災害がもしも人災だったら、怒り…

  • 何度でも読み返したい『よろこびの歌』(宮下 奈都)

    これも名作中の名作で2009年発売だ。 旧作なのに今年少なくとも3校で出てる。 マイナー新作より優先度は高いだろうな。 今この学校にいる私は仮の姿。誰にどう思われようと構わない。(本文より) こんな風に雑に高校生活を過ごしていた 少女が合唱をきっかけに変わっていくよ。 音を合わせることで心がつながるさまが 繊細な文章でつまびらかに描かれるんだ。 大人向け小説なのでちょっと敷居が高く 例の分類では文章難易度は難しいに区分。 以下は5年前に書いたレビューの一部だ。 音楽科への進学の道が絶たれた主人公は高校に馴染めず、教室の片隅でひっそりと過ごしています。 転機は高2の秋。 突然、合唱祭の指揮者に選…

  • 百番のかつてない破壊力『ダキョウソウ』(洛田 二十日)

    口車は時に、どんな車よりも遠い美しい場所まで運んでくれる。(本文より) 年の瀬なので、今年最も笑った本を紹介。 放送作家兼作家という著者の短編集だが20編の過半数はSFテイストが濃いぃ。 想像力の暴走っぷりがものすごくってよ、 入試に出るかと言われればほぼNOだが 『私は万年筆になりたい』はアリかも? 戦争のどうしようもなさを味わえる話だ。 俺が苦境に立たされたのは『百番』だよ。 児童文学作家が右往左往するって話だが 読書でこんな目に遭ったのははじめてだ。 何があったのかはレビューで自白したよ。 え? のっけから唖然。 口に合わなそうと思いつつ読んでいるうちに、止まれなくなっている自分に愕然。…

  • 色褪せない青さ『ぼくのとなりにきみ』(小嶋 陽太郎)

    2017年2月発売の元・頻出作品だよ。 とはいえ、今年の入試でも俺が知る限り 2校で使われているので引き続き要注目。 作問のための選書って大変な手間だから 複数回入試がある学校は旧作も出やすい。 あと地方校も旧・定番作品がよく出てる。 新作を追う意識が薄いのかもしれないな。 本作は個性がバラバラな中学生の青春に 光を当てる楽しさいっぱいの名作だよ~。 青々とした彼らのためらいや、あるいは 勢いが読者に元気をくれるストーリーだ。 難度分類は中学入試標準といったレベル。 以下は5年前に書いたレビューになるよ。 出来ないことは頑張っても仕方ないと冷めている中1男子が主人公。 穏やかでやさしい反面、コ…

  • ダークホースはエース級『新しい春』(藤岡 陽子)

    私立の中高一貫校に通うことができるのも弦太が一人っ子だからで、ぎりぎりの経済状況であることは知っている。(本文より) たま~に出典予想ランキング出した後に もの凄い優良素材を見つけることがある。 今回紹介する藤岡陽子先生の短編小説は 素材文適性◎、テーマ注目度◎のレア物。 小説宝石の2024年5月号掲載作品で 単行本としてはまだ発売されていないよ。 未刊行作品は作問者が気づきにくいので、 もし今期の表に入れると40位ぐらいだ。 ただ、気づけば多分使いたくなるだろう。 短編小説を詳しく紹介するとネタばれが 過ぎるのでさらりとストーリーに触れる。 主人公は学年の2割が東大や京大に進むという中高一貫…

  • 堂々と生きるために『ドヴォルザークに染まるころ』(町田 その子)

    知ってる?シンデレラは王子様と結婚した後に姑の王妃様からいびられるし、眠り姫は姑が人食い魔で王子との間に授かった子どもたちが食べられそうになるんだよ。(本文より) たまに入試に出る作家の11月の新作だ。 一行目でもう子供に見せられないと確信。 こんな書き出しアリかよ~って思ったわ。 担任の先生のセックスを見たことがある。(第一話本文の一行目をそのまま引用) だがしかーし、本質は奔放な話じゃない。 大人女性の内面をえぐるように掘り下げ 少女の葛藤も掬い取る妙技が凄いんだ~。 田舎の町の廃校を控えた小学校を舞台に さまざまな人間模様が交差する物語だよ。 著者の伝えたい極めて真っ当な価値観が ストー…

  • 真摯に人と向き合う『あたたかな手 なのはな整骨院物語』(濱野 京子)

    器用じゃないから、よけいに努力するってこと、なにごとにもあるでしょう?(本文より) 割と入試に出る作家の1月に出る新作だ。 医者や看護師以外にも人々を健康にする 仕事があるってのは子どもには新鮮かも。 柔道整復術は柔術が起源で、殺法が柔道、 活法が柔道整復術になったんだってな? そういう国家資格を持つ主人公の話だよ。 いろんなエピソードに子どもたちが深く 関わって来るのがこの作品の特徴ですわ。 肘を痛めた野球少年や、中学受験生の話、 姉が重病という少女の話などさまざまだ。 特に最終話のエモさが半端じゃなかった。 友情の眩しさにもあって後味がいいよ~。 例の分類では平易相当なので読みやすい。 俺…

  • 出題されるかもしれない新刊本(2025年1月前後)

    年明けにも面白そうな新作がてんこ盛り。 特に入試頻出作『駒音高く』の姉妹編の 『見えなくても王手』は期待値が高いよ。 1月末には豪華作家陣の作品集もあるし。 以下の新刊リストは未読の本が多いんで たぶん出題向きじゃないのも混じってる。 1/6発売 ☆先行レビュー予定☆ 『あたたかな手 なのはな整骨院物語』(濱野 京子) 駆け出しの柔道整復師が弱さと向き合う。 1/18発売 『やなやつ改造計画』(吉野 万理子) 気ままな少年が生徒会長になって騒動に。 1/21発売 『若松一中グリークラブ 気になるあの子はトップテノール』(神戸 遥真) 合唱サークルを作ることになった相棒は。 1/23発売 『見え…

  • 美しい心をはぐくむ『銀樹』(森埜 こみち)

    生きものはな、おそらくみんな、もちつもたれつじゃ。(本文より) 阿部暁子先生、川上弘美先生らとともに 今年度の入試で脚光を浴びそうな作家の 新境地となる10月に発売された作品だ。 辛酸をなめ続けてきた少年が目標を定め 一所懸命に努力して夢に近づいていくよ。 やさしさがあふれる環境で成長する彼が やがてとんでもないことに巻き込まれる。 時代物っぽいんだが物語に引き込む力は ハンパじゃなくて気づけば夢中だったよ。 とくに助けたくない人物を無理してまで 助けるのか問うシーンが印象に残ったな。 この伏線があったから終盤の彼の判断が びっくりするほど尊いと感じられたわ~。 師匠が大事にしている理念にも要…

  • いつか、誰かの方舟に『ショコラ・アソート あの子からの贈りもの』(村上 雅郁)

    いつまでもいっしょにいられるわけじゃない。手を伸ばせるなら、伸ばせるときにちゃんと伸ばせ。(本文より) 『きみの話を聞かせてくれよ』によって 2024年中学入試で一躍注目を集めた 村上雅郁先生が今月6日に出した短編集。 過去作品の登場人物たちに別の角度から 光を当てるというユニークな企画だよ~。 21校出題の『きみ話』のスピンオフも いいけど最初の話がイチバンだった印象。 冒頭のフレーズでグイッと引っ張り込み さらなるビックリ展開に連れていくから。 それでいて多様性が胸に刻まれる短編だ。 素材文適性って点でも恐らく一話目が○。 ま、そういうの関係なしに3人組の話は もっと読みたいと思わされちま…

  • 健やかに、爽やかに『きさらぎさんちは今日もお天気』(古都 こいと)

    戦争って同じ世界で起きていることなんだ。戦地にいなくても、戦争でつらい思いをする人はいるんだ。(本文より) 世界保健機関(WHO)って国連組織が 身体の361のツボを認定してるそうだ。 このネタは来月出る濱野京子先生の本に 書いてあるんだが今回の紹介する作品は まさにそのツボが重要な役割を果たすよ。 11月に出た小川未明文学賞大賞作品だ。 鍼灸師一家のほのぼのとした日常の中に 時折ドキリとすることが起こるんだわ~。 これ程いい子が出てくる本ってないかも。 たぶん誰かに見習って欲しいって思うよ。 親目線では安心して与えるられる作品だ。 ま、大人も見習うべき部分が多いけどな。 特に主人公の父親の生…

  • キングの帰還『夜と跳ぶ Re:東京ゴールデン・エイジ』(額賀 澪)

    子どもに親のメンタルケアさせるな。(本文より) わりと入試に出る作家の明日発売の新作。 未知の世界に近づけるストーリーだった。 前作も躍動感がハンパじゃなかったけど この続編はさらなる盛り上がりを見せる。 ピンチの連続や想像を超えるライバルに ぶっ通しでかじりつくしかなかったわ~。 今作ではオトナ女性の活躍も見どころだ。 主役すら食いそうな存在感に圧倒される。 難易度は難しいに分類されるこの作品に 俺が書いたレビューをちょっとだけ紹介。 夜闇を切り裂く歳の差バディが帰ってきた! 熱涙必至のスケートボード小説。 絶対王者として君臨したストリートのカリスマが、相棒のスポーツカメラマンと共に縦横無尽…

  • 意欲と努力で突き進め『11ミリのふたつ星 ~視能訓練士 野宮恭一~』(砥上 裕將)

    次の一手が見当たらないなら、あらゆることを試さないと。(本文より) たまに入試に出る作家の本日発売の新作。 このシリーズは前作も入試に出ているよ。 視能訓練士ってSF物か何かに出てくる 架空の職業と思ってたが大間違いだった。 眼科の検査技師になった不器用な青年が 一生懸命に突き進む中で周囲を巻き込む。 そんな医療系のリアルなストーリーだよ。 努力の積み重ねの大切さを実感できるし、 道に迷ったときに読むとよさそうだわ~。 視覚障碍者って全盲の人を想像するけど 部分的に見えている人の方が多いんだな。 スマホ使い過ぎ少年の悲劇にもビックリ。 文章レベルは難しいのでハードルは高め。 俺のレビューの一部…

  • 桜蔭の出題者に選んで欲しい名作たち【2025年入試版】

    桜蔭は他校が選べない出たばかりの本を 素材に使うことがあるとは前にも書いた。 実際、11月発売の本なんかも出ている。 作問とチェックには時間を要するゆえに これはよそではできない芸当なんだな~。 2020年出題 前年の7月25日発売 『思いはいのり、言葉はつばさ』(まはら 三桃) 2021年出題 前年の11月14日発売 『あしたのことば』(森 絵都) 2022年出題 前年の9月8日発売 『そらのことばが降ってくる: 保健室の俳句会』(高柳 克弘) 2023年出題 前年の10月12日発売 『ひみつの犬』(岩瀬 成子) 2024年出題 前年の6月28日発売 『百年の藍』(増山 実) 再び神速を見せ…

  • やんごとなき世界へ『あなたを待ついくつもの部屋』(角田 光代)

    どうして人は、きれいなもの、おいしいもの、おもしろいもの、心をきらめかせる何かに触れると、誰かと共有したくなるのだろう。(本文より) 帝国ホテルの会報誌に連載された42編。 わりと入試に出る作家の7月に出た本だ。 味わい深いショートショート集だったわ。 読めば絶対に帝国ホテルに行きたくなる。 ブランディング戦略を反映させてるから 変な話はなく安心してほっこりできるよ。 父の尾行をする話とか写真室エピソード、 音大志望の粋な恩返しなどに癒された~。 大人向けが多く素材適性は高くないけど 恩師のお別れ会に赴く女性を描いた掌編 『あなたはあなたの色で』がアリかも? 先生の生き方のすばらしさを感じる話…

  • 殻を破って歩み寄れ!『15歳の昆虫図鑑』(五十嵐 美怜)

    小学校中学年くらいまでは、理科の授業でわたしはヒーローだった。(本文より) これも講談社児童文学新人賞の佳作だよ。 児童文庫で実績のある作家による新境地。 空気を読めない虫好きな少女を柱にして 悩める子供達の胸の内を掘り下げていく。 人気者の意外な葛藤、控え目少女の覚悟、 女王キャラの苦悩など見どころたっぷり。 不器用女子の伝わりにくい優しさもイイ。 素材文適性って面では1章がベストかな。 空気を読めない子と読みすぎる子の話で、 複数ある二人の対話シーンに注目だろう。 他の章は綺麗に話を締める後半パートに 注目シーンがあるが特に最終章がよさげ。 盛り上がりという観点でも美しい情景が 目に浮かぶ…

  • 心に届く爽快さ『ピーチとチョコレート』(福木 はる)

    軽々しく本音を見せないのは、自分の心を守るための戦略だ。(本文より) 講談社児童文学新人賞の佳作だった作品。 この年の新人賞は明らかに当たり年だわ。 大賞が凄かったのはもちろんのことだが 今回の紹介本も次に紹介する予定の本も クオリティーがハンパじゃないんだもん。 親しみやすい文体に乗せて語られるのは 自分を偽って暮らしてた少女の変化だよ。 卑屈さを脱ぎ捨てた彼女に圧倒されたわ。 ちょっとしたきっかけでも人生は変わる。 そう教えてくれるこの本は年代を問わず 変わりたい気持ちを持つ人に刺さりそう。 俺なんかもその気にさせられちまったよ。 意識改革に導いてくれる稀有な物語だな。 素材文によさそうな…

  • その明暗はくっきりと『わたしたちは、海』(カツセ マサヒコ)

    きっと全ての親はさ、純度百パーセントで目の前の子供を想うことなんかできなくて、どこかに過去の自分を、投影しちゃってるんだろうね。(本文より) これも入試で見たことのない著者の新作。 書店で目立ってたのでピックアップした。 大人向けの作品で子どもに見せられない 短編『渦』を含むが一つ注目作があるよ。 『海の街の十二歳』は地味な少年たちが クラスメイトの少女たちの秘密に近づく 心惹かれるショートストーリーなんだな。 誰にも言えない話を共有した後の彼らの 振舞いには想像力を搔き立てられまくり。 特に問題文にしやすそうだったくだりは 父のいない少年への雑過ぎる決めつけに 同じく父のいない子が助け舟を出…

  • 受け継がれる想い『いのちのつぼみ』(志津谷 元子)

    好きな人の好きなものを、自分も好きになる。それが恋というものなのだろうか。(本文より) 入試では見たことがない著者の新作だよ。 作品数が少ない先生だが小川未明文学賞 大賞を受賞した実績もある作家だからな。 これといって熱くなれる物がない少女が、 憧れのお姉さんと出会い、揺さぶられる。 命の大切さを嫌ってほど実感できる話だ。 主人公の悲嘆はたやすく癒えたりしない。 放心のまま過ぎゆく時間に真実味がある。 素材文適性っていう点では友人と一緒に はじめて悲しみに向き合う場面がよさげ。 小6から中3までのあゆみを描いてるが 平易なので小4でも読めそうなレベル感。 以下は俺のレビューの感想パートになる。…

  • 喝采の起業計画『アーセナルにおいでよ』(あさの あつこ)

    ”アーセナル”はまだ小さいけれど、必要なんだ。今、生きている人たちに絶対に必要な場所だ。そう信じて創ったんだ。(本文より) わりと入試に出る作家の9月の新作だよ。 高3女子のもとに初恋の君から届く連絡。 それは思わぬ計画への誘いだったんだな。 アーセナルは武器庫って意味なんだって。 メンバーたちは得意なことをフル活用し 苦手なことにも挑戦して乗り越えていく。 困っている人に現実に向き合える武器を、 という理念で事業化に向け邁進していく。 そんな魅力たっぷりのストーリーだった。 起業がテーマのYA小説って珍しいから 子供には得るものが多いんじゃないか? 終盤には手に汗握る展開もあって面白い。 難…

  • 【番外編】2025年高校入試 国語出典予想20選(2024年1月~2024年10月発売)

    今度は高校入試版の予想を作ってみたよ。 去年作ったリストでは、中学でも出てた 『この夏の星を見る』が最頻出だったな。 中・高入試ともに選書の傾向は似てるが、 高校は秋発売の作品も割と出ているから、 中学入試版とは少し違う顔ぶれになるわ。 高校入試の国語出典予想20選(タイトルによるアイウエオ順) 『藍を継ぐ海』(伊与原 新) 『灯』(乾 ルカ) 『明日、晴れますように 続七夜物語』(川上 弘美) 『いつか、あの博物館で。: アンドロイドと不気味の谷』(朝比奈 あすか) 『うたう』(小野寺 史宜) 『小田くん家は南部せんべい店』(髙森 美由紀) 『俺たちの箱根駅伝』(池井戸 潤) 『風に立つ』(…

  • 文学×科学の醍醐味『藍を継ぐ海』(伊与原 新)

    人類が最初に手にした鉄は、鉄隕石だと言われているんですよ。(本文より) 地学小説という新しいジャンルの開拓者、 聖光学院でも出題実績がある著者の新作。 今作でも科学の知識がごく自然な感じで ストーリーに絡んでくる仕上がりだよ~。 しかも北海道開拓史や大戦史も関わって 一石二鳥どころか三鳥な優れモノですわ。 これはたぶん著者にしかできない芸当だ。 超ユニークだったのはアイヌ流の熊退治。 人に遭遇すると立ち上がる習性を利用し、 出刃包丁で喉を突いて仕留めるって話だ。 これを知っとけばいつ遭遇してもOK? 何より持ってかれたのは戦争被害の話だ。 これは前情報なしに読んでみて欲しいな。 素材文適性アリ…

  • 例のリストを完成させた

    2025年入試版出典予想ランキングに 15作品を追加してベスト100にした。 【2025年入試版】国語出典予想ランキング(2023年9月~2024年8月発売) 周りにやさしく。結局それが一番自分を救う。(本文より) 今回の追加作品リスト 26位『銀河の図書室』(名取 佐和子)28位『東京ハイダウェイ』(古内 一絵)46位『未来地図』(小手鞠 るい)50位『われは熊楠』(岩井 圭也)55位『常夏荘物語』(伊吹 有喜)60位『ちゃっけがいる移動図書館』(髙森 美由紀) 63位『春のほとりで』(君嶋 彼方)82位『グリフィスの傷』(千早 茜)94位『ジンが願いをかなえてくれない』(行成 薫)95位『…

  • 唯一無二のリアリティ『僕たちの青春はちょっとだけ特別』(雨井 湖音)

    この学校に来てから架月はいきなりクラスのうちの一人として学級の当事者になった。お客みたいな特別扱いが終わったんだ。(本文より) あと2週間ほどで書店に並ぶ作品ですわ。 学園ミステリ大賞の受賞作ってことだが そこから想像する内容とは別物なんだな。 これは選考委員達をざわつかせただろう。 とはいえ読んじまえば選ばざるを得ない。 そんだけ新しさと熱量の高さがあったよ。 中学では問題児でしかなかった子たちの 特別支援学校の中での青春を描いた話だ。 いままで想像できなかった世界を近くに 感じられるようになるストーリーだった。 子ども視点の話プラス教師視点のパート、 さらに出身校からの引継書まであるので …

  • 支持率は限界突破『ジンが願いをかなえてくれない』(行成 薫)

    知ってます?動物園の動物って、野生動物よりも寿命が短いらしいすよ。(本文より) 中受界隈では手垢のついていない著者の ぶっ刺さる短編がギュッと詰まった本だ。 この作品は季刊飛ぶ教室紹介本でもある。 SFチックなのは2編であとは現実路線。 心の底から楽しめるアンソロジーだった。 出典予想ランキングでは96位にするが 負い目や引け目、後悔に苦しむ主人公に 共感できすぎて俺の支持率は限界突破だ。 特に『妻への言葉が見つからない』は神。 難易度分類はやや難だけど最初と最後の 短編は子どもの視点が入って読みやすい。 推し素材は『パパは野球が下手すぎる』。 エースで4番の小5男子と不器用な父の 想像を超え…

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