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  • 遺したい記憶『少年が見た戦争』(宮川健郎・編)

    もうすぐ新しい戦争文学の発売日が来る。 複数の受賞歴がある林けんじろう先生の 新作『君のせいだ、涙がでるのは。』は、 戦禍の記憶が物語の重要なカギを握るよ。 6/17に出るんで来週中に紹介予定だ。 さてと、今日紹介するのは古い戦争文学。 発売は今年の1月だが戦争を知る世代が 残した名作たちを選びぬいて掲載してる。 『夜』(三木 卓) 『わたしが一番きれいだったとき』(茨木 のり子) 『春さきのひょう』(杉 みき子) 『そして、トンキーもしんだ』(たなべ まもる) 『大もりいっちょう』(長崎 源之助) 『ブッとなる閣へひり大臣』(古田 足日) 『烏の北斗七星』(宮沢 賢治) 『赤牛』(古井 由吉…

  • エールを背に受けて『カーテンコールはきみと 幽霊部長の銀河鉄道』(神戸 遥真)

    むずかしい。どんな勉強より登場人物の役作りより、よっぽどむずかしい。(本文より、志望校を決めかねる心情を引用) たまに入試で見る作家の2月の新作だよ。 絶対SFと間違うタイトルだが現実路線。 ユーレイなんて一度だって出てこないし 銀河鉄道は宮沢賢治の作品をモチーフに 舞台を作り上げるところからきているよ。 シリーズ物だけど先にこちらを読んでも 大丈夫なよう描かれてる親切な仕上がり。 因みに前作は本好きでない子に推せる本 リストに挙げていた経緯があったりする。 今作は主人公が変わるけど面白さは不変。 キャラが増え物語の幅が広がった印象だ。 例によって読み易く難易度分類では平易。 以下、マイレビュ…

  • 気分まで晴れわたる『雨上がりのスカイツリー』(高森 千穂)

    どうせ、いろいろ変わったんだ。中学受験もしてみるかな。(本文より) 入試では見たことのない作家の1月の本。 かなり平易なので小4でも読めそうだよ。 両親が離婚してしまい父と暮らす少女が つらい時期を乗り越え変わっていく話だ。 勇気が伝染する流れが心地よかったわ~。 思わぬ展開から中学受験も関わってくる。 踏んだり蹴ったりのようなはじまりから 何もかもが上向いていく部分が楽しいな。 以下はマイレビューの前半フェーズっス。 主人公は父子家庭の小学六年生。 ものまね芸人兼バイトという父のことが大好きな彼女が、ギリギリの生活を助けながら健気に歩んでいく物語です。 素敵な親子関係だったな~。 父のカッコ…

  • 彩りあふれる人生観『月収』(原田 ひ香)

    月収三十万には二十万の三倍の価値がある。(本文より) たまに入試で見る作家の2月に出た本だ。 年齢も収入も様ざまな女性6人の人生が 思わぬ場面で交差する連作短編集ですわ。 カッコよかったのは、ゆとりある生活を 手に入れた女性の賢さあふれる生きざま。 これはマネー教育にも良さそうな本かと。 お金の話題は品がないとされる世の中で 得がたい考え方に触れられるのが嬉しい。 積みあがる貯金がくれるこころの安寧や お金に囚われることで失うものも描かれ 拝金主義に偏らないバランス感覚がイイ。 難易度の面ではやや難といった水準かな。 以下はレビューの前半パートからの抜粋。 なんて身もふたもないタイトル!って思…

  • よどみをキレイに流し去る『もし、自分がブサイクだと思ったら』(日本児童文学者協会・編)

    あのさ、ダサくてなにがあかんの。(『もし、親と好みが合わなかったら』の本文より) タイトルに惑わされるんだが外見の話は 全五話のなかの一つに過ぎないからな~。 人とのつながりこんなときはシリーズは 様々な子どものお悩みに寄り添う短編集。 実力派と公募勢の作品は彩りもカラフル。 5作品の内訳は以下の通りになりまっせ。 『もし、自分がブサイクだと思ったら』(尾関 忍) 『もし、友だちの推しを好きになってしまったら』(長江 優子) 『もし、俺がホームランボールを取っていたら』(佐藤 いつ子) 『もし、親と好みが合わなかったら』(宮下 恵茉) 『もし、学校生活が砂漠化してしまったら』(石井 睦美) 面…

  • うれし楽しい共学生活『それいけ! 平安部』(宮島 未奈)

    今までの人生、こんなに強く求められたことなんてなかった。(本文より) 米のとぎ汁が化粧品だったってご存じ? 難しいことを考えずに純粋に没頭できる 4月に発売された爽やか青春ストーリー。 この先生、運命的出会いのインパクトは 本作も成瀬シリーズ同様に凄いんですわ。 それぞれに抱えるものがある少女たちが 新しい挑戦のなかで解き放たれていくよ。 この本、魅力的なキャラだらけなんだが、 オレの推しは頼りなげな顧問の先生だな。 みんなを落ち着かせるべき大事な場面で アワアワして生徒に宥められたりと愉快。 ま、先生らしいところも見せるけどな? 素材文適性はいくばくかありそうな印象。 書店で目立ってるし多分…

  • 立ち向かう知恵『もし、自分の居場所がない気がしたら』(日本児童文学者協会・編)

    今回、ほんと怖くて。世界が敵になったみたいな。(『もし、インターネットでいやな思いをしたら』の本文より) 人とのつながりこんなときはシリーズは 有名作家と新人の作品が詰まった短編集。 タイトルは最終話から来ていて寂しさが テーマの作品集っていうわけじゃないよ。 所収の5篇は以下のラインナップですわ。 『もし、二次元の彼に恋をしてしまったら』(いとう みく) 『もし、インターネットでいやな思いをしたら』(吉野 万理子) 『もし、大切な人との別れが怖くなったら』(如月 かずさ) 『もし、黒い心をもてあましたら』(当原 珠樹) 『もし、自分の居場所がない気がしたら』(土野 寧々) ベテランが凄いのは…

  • 弱さと向き合えたなら『この手はいつか』(中山 聖子)

    いやちがう。たぶんぼくは、本当のことを聞くのがこわかったのだ。(本文より) 昔クラスに一人はこういう子がいたな~。 普段大人しいのに突如キレる少年の話で まれに入試で見る作家の3月の作品だわ。 見えない内面がきっちりと描かれていて 彼が暴れる理由が明確に伝わってきたよ。 事情がわかると見え方が変わるもんだな。 彼の置かれた状況ってのがまた苦しくて 心をまるごと持っていかれるんですわ~。 ま、前半につらい場面が多めなんだけど だんだんちがった展開になっていくから 終盤の見事なシーンまで突っ走るといい。 素材文適性は後半偏重という印象かな? 文句なしで良素材になる場面が複数ある。 問題に使えそうな…

  • 心のビタミンになる『もし、自分が平凡だと感じたら』(日本児童文学者協会編)

    学校ではリラックスしてすごしている。うん、女子だけって、ゆるくて心地いい。家のリビングがつづいてるって感じだよ。(『もし、緊張感のない女子校に入ったら』の本文より) 人とのつながりこんなときはシリーズは 今年1~2月にかけて発売された作品集。 本のタイトルは所収の一篇から来ていて 本全体のテーマを示している訳じゃない。 つまり、色んな話が楽しめるってことよ。 今作のラインナップは以下の通りですわ。 『もし、ぽつんとしてしまったら』(石川 宏千花) 『もし、緊張感のない女子校に入ったら』(おおぎやなぎ ちか) 『もし、伴奏を断ったなら』(杉成 恵佳) 『もし、自分が平凡だと感じたら』(イノウエ …

  • 心と心をつなぐもの『サヨナラは言わない』(アントニオ・カルモナ)

    パパはママが死んでから、ママを憎んでるような気がするの・・・。(本文より) 海外の名作ってのもたまには紹介するよ。 フランスの文学賞を獲った作品なんだが 主人公の母が日本人で日本ネタが多めだ。 日本も舞台になるんで親しみやすいよ~。 ストーリーの序盤はなかなか重いけどな。 大切な人を失い混乱を極める心の闇から 少女が解き放たれていくっていう物語だ。 変わるきっかけユニークかつ超パワフル。 読めばバイタリティが伝染しそうなほど。 難易度は普通なので小6で読めるだろう。 以下、俺のレビューから少し持ってきた。 日本文化へのレスペクトが凄い! 主人公は12歳の日仏ハーフ。 理由がわからないまま母が消…

  • 会計畑の成瀬『ぼきののか』(宮島 未奈)

    いつかあたしの面白さに気付いてくれる人が現れるんじゃないかって心のどこかで夢見ていた。(本文より) 『成瀬は信じた道をいく』の続編3作目。 小説新潮2025年5月号掲載の短編だ。 1作目と2作目のレビューは以下の通り。 続編1作目『やすらぎハムエッグ』 続編2作目『実家が北白川』 このシリーズは中毒性があるもんだから 俺なんかは単行本を待てないんだよな~。 なんでもない会話のセリフがシュールで おかしみが詰まりに詰まってるんだもん。 今作では立命館大生のユーチューバーが あざとさから成瀬嬢に目を付けるんだわ。 こいつは数字を取れそうなキャラだ、と。 そこから強烈キャラが想像を軽々超える 働きを…

  • その気骨、比類なし『ミナミの春』(遠田 潤子)

    勇気という言葉は美しく尊い。しかし、勇気のない人、勇気が足りなかった人は責められても仕方がないのだろうか?(本文より) 中学入試ではほとんど見ない作家の新作。 もう、最初から最後まで素晴らしくって 自分でも笑っちまうほど揺さぶられたわ。 ここぞって場面での登場人物の意志力が まばゆいまでに輝いてたもんだからよ~、 最高の終幕なのに名残惜しくなったほど。 とくに響いたのは女の強さであり逞しさ。 心の傷やいくつもの困難を抱えながらも 人のために動ける気概に魅了されっ放し。 初読みの作家さんだけどマジ驚かされた。 素材文適性は、読み始めて10分ほどで 高い場面にぶち当たることになるだろう。 問題素材…

  • 執着心の断捨離『スノードームの捨てかた』(くどう れいん)

    蜘蛛の目って八個あるって知ってます?(本文より) 割と入試に出る作家の本日発売の短編集。 主人公は20代から30代が中心という オトナの恋愛話が多めの楽しい本だった。 女の友情を描きあげた表題作も面白いが 俺の推しは『川はおぼえている』だな~。 唐突な出会いから膨らむ予感が良いのよ。 まぁ、道ならぬ恋の話なども含まれるし 小学生を読者に想定していなさそうだな。 ヤバい描写があるわけでもなかったけど ちょっとマセた子でないと厳しいかもね。 以下はマイレビューからの抜粋になるよ。 捨てたい何かにまつわる短編集。 粒ぞろいだったな~。 捨てる対象は物だけでなく、人との関係や過去など実に多様でストーリ…

  • 出題されるかもしれない新刊本(2025年6月前後)

    6月は稀にみる大豊作になりそうだな~。 最注目は中学受験の女王青山先生の作品。 工藤先生の描く中受のアナザーサイドは ユニークで驚きが詰まってるストーリー。 久々に登場するまはら先生は期待度大だ。 ほかにも王女、王子達がズラリと並ぶよ。 新人では橋長先生の受験モノが面白そう。 以下のリストは未読の作品が多めなんで 問題文に向かない本も含まれてそうだが。 6/4発売 先行レビュー済 『この世は生きる価値がある』(長谷川 まりる) SF要素を織り交ぜた子供達へのエール。 6/4発売 先行レビュー済 『読書感想文が終わらない!』(額賀 澪) 小学生たちが感想文の救世主に出会う夏。 6/5発売 『さく…

  • 波風の教室『ぼくに友だちがいない理由』(小林 史人)

    ぼくはこの一週間、五年二組を引っかきまわした嵐の中で、おぼれないようにするだけで精一杯だった。(本文より) 今月発売された新人作家のデビュー作だ。 少年に芽生える仄かな恋愛感情や嫉妬心、 そして自己嫌悪などが繊細に描かれてる。 な~んかこの優柔不断さは自分に重ねた。 だから共感しまくりで彼が前に出る瞬間、 思わず読む手にギューッと力が入ったよ。 で、男子らしさの暴走にはビックリした。 尻上がりに面白くなるストーリーだな~。 問題文には、4章後半から11章前半に 意外なほどたくさん使えそうな場面アリ。 とくに6章のグループ作業、8章の聴取、 10章のウサギ小屋、11章の起立場面。 このあたりに素…

  • 断ち切れ!哀しき連鎖『あんずとぞんび』(坂城 良樹)

    何かを目指してがんばることも、がんばったことで結果がついてくることも、初めての経験だった。(本文より) ポプラ社小説新人賞の奨励賞受賞作品だ。 エモさが超ド級でぶったまげちまったよ。 え、ぞんび?ナニ?SFのパニック系? とか思うかも知れないが、そうじゃない。 世間からなくならない争いごとに対して 小学生が疑問を持ち行動するストーリー。 幼いころに魔法使いにあこがれた少女が どんな方法で訴えかけようとするのか? ぜひとも作品に手を触れて感じて欲しい。 そして胸に手をあてこれからの生き方を、 言葉の使い方を、いま一度考えて欲しい。 素材文適性は序盤の老婦部屋、傘パート、 中盤の家の修羅場が微妙に…

  • やすらげる優しさの『ありか』(瀬尾 まいこ)

    自分が幸せになるより、誰かを幸せにできるってすごいことだよ。(本文より) 頻出作家がベストの時期に発売した新刊。 作問選書の佳境に書店で平積みなわけで 多くの先生方が手にしていることだろう。 今作もメチャメチャ心温まる路線だわ~。 母親に愛された記憶がないって主人公が 思わぬ人の助けを受けながら子育てする。 ワンフレーズで言うとこんな話なんだが そのなかに揺さぶられる要素がたっぷり。 ピンチを越え強くなるさまは素晴らしく 血のつながりを超える愛も心に沁みるよ。 終盤で露わになる主人公の信念には万感。 こんな人になれたらって思わされたな~。 脇役陣にもそういう魅惑のキャラが多め。 素材文適性はそ…

  • 自走に向けた仕込みにも『超伴走! 中学受験合格へ導く読書法』(akira)

    今日読む一冊が、国語力だけでなく、未来を切り拓く力を育てていきます。(本文より) 本日発売の読書推し全開のキンドル本だ。 著者は日能研の旗艦校舎の教室長だよ~。 ボリューミーではないがエッセンス濃厚。 親子にたくさんの気づきをくれるだろう、 いかに点を取るか?みたいな話とは違い もっと長い目で人生を豊かにするための ヒントが詰まっていてかな~り良い感じ。 手っ取り早くないけど実は近道みたいな 勉強に役立つアイデアも含まれていたよ。 俺がいちばん感動したのは推薦図書の章。 作品たちに詩歌のようにピリッと効いた 推奨理由が付いてて頷け過ぎるんだもの。 読んでて鳥肌がきて思わず笑っちまった。 推薦図…

  • 新感覚の恋愛アンソロ『流星と吐き気』(金子 玲介)

    男のほうが元カノのことを引きずって、女のほうが元カレのことを引きずらない、って言いますよね。男は『名前をつけて保存』で、女は『上書き保存』みたいな。(本文より) 『死んだ山田と教室』で注目を集めてる 若手作家のちょっと変わった恋愛小説集。 先行禁止だったので発売日に紹介するよ。 この先生はSFのイメージがあるんだが 本作の短編は全て現実路線になっている。 現実だけど現実だと思いたくないような ビックリ展開があったりで楽しいんだわ。 一番笑えたのは職員室の先生同士の軽口。 試験問題でまさかそれをやる?っていう。 一方で背筋が寒くなる話もすこぶるある。 読めば感情がグワングワンになるだろう。 難易…

  • そう、何度でも言おう『この世は生きる価値がある』(長谷川 まりる)

    スマホも、自分にとっては興味のない道具だ。小さな機械をじいっとながめているだけなんて、せっかく生きてる時間を無駄にしているみたいに感じる。(本文より) 精力的に作品を発表し続けている作家の あと二週間ほどで発売される新作ですわ。 意外な存在が主人公になって生を謳歌し 周囲を巻き込んで影響を及ぼしていくよ。 自分でもビックリするほど引き込まれた。 いまこの世で生きている奇跡に感謝して 何でもやりつくしたいって気になったわ。 マンガ的設定だがそんなことに関係なく 子どもも大人も心を動かされそうだよ~。 これはSFが好きじゃない人にも推せる。 素材文適性って点では、不登校の少女に 手を差し伸べるかを…

  • この地から巻き返す!『ディア・オールド・ニュータウン』(小野寺 史宜)

    高校生のうちから妥協する癖をつけんな。妥協は何も生まねえぞ!(本文より) わりと入試に出る作家の3月の新刊本だ。 会社をやめ父のそば屋を復活させた男が さびれそうな町で再起をはかる物語だよ。 この主人公、人がよすぎて最高なんだわ。 お店の経営だって楽じゃないのに周囲に 気を配って手助けに余念がないんだもん。 まぁ、そういう人柄だと人の縁ってのが なにかのときに救いになったりするよな。 カネ、カネ、カネと心が汚れまくってる オレみたいな大人にはいい薬になったわ。 人情であったまりたい人に薦めたい本だ。 素材文適性は、くすぶっていた幼馴染に 働きかける場面や、問題少年にこれまた 働きかける場面にち…

  • 何もかもが美しい『遊園地ぐるぐるめ』(青山 美智子)

    思いっきり騒いで、あとは受験勉強に身を入れようって、4人で話した。(本文より) 頻出作家がミニチュアの魔術師とコラボ。 今年3月に発売された連作短編集ですわ。 青山先生は6月にも注目作が控えてるよ。 例によって美しく組み立てられた物語は 安定感抜群で感嘆につぐ感嘆なんだな~。 老若男女の視点で描かれた8篇の中では 特に素材文適性が高いと見込まれるのは バスケ女子を描く『スイングマシン』か。 引退試合の打ち上げで訪れた遊園地での チームメイトの交流に心が温まる話だが 技あり選書になりそうな部分があるから。 ま、頻出作『リカバリー・カバヒコ』を 適性100とすると今作は60程度かな。 面白さでは『…

  • 出会い花咲く『思いがけず、朝子ちゃん』(高村 有)

    先月発売された魅力あふれる短編集だよ。 小6の3人と中2の2人の視点がメイン。 これがデビュー作ということなんだけど まったくそんな感じがしない物語だった。 パワハラがもとで退職した25歳女性が 親族の計らいで手伝う店で活躍するんだ。 複雑な家族関係など、少年少女の多様な 葛藤が描き込まれていて飽きさせないよ。 子供たちの悩みに朝子がゆる~く関わる。 導くんじゃなくてあくまで自然な感じで。 この空気感こそが本作の魅力だと思うな。 素材文適性はいじめっ子への少女からの 決意のメッセージシーンなどにありそう。 難易度は紹介作品では標準的な水準かな。 以下、いつものマイレビューというやつ。 花屋さん…

  • ド直球な信念『白い虹を投げる』(吉野 万理子)

    たまに入試に出る作家の3月の新作だわ。 熱い友情で結ばれた野球チームの二人が 引っ越しで引き裂かれても励まし合うよ。 身体の弱い弟を全身全霊で心配する少年、 新天地での苦悩を打ち明けられない少女、 彼らの生き様が瑞々しく描かれてるんだ。 俺野球好きだし変なこと書いてあったら 突っ込む気まんまんだったんだが超OK。 ま、著者が筋金入りの野球ファンゆえに 安心してストーリーの世界に没頭できた。 人を悪く言わない少年チームの監督とか 元プロ選手の優しさも心に沁みまくるよ。 素材文適性は序盤の兄弟の会話のなかで 弟の感情がこぼれるシーンとか、中盤の これも弟の気持ちへの理解が転機になる シーンなどにち…

  • 自我の芽吹きを目撃する『ものごころ』(小山田 浩子)

    自分が受験することを、果たして自分は話し合ったり考えたりするタイミングがあったんだろうかと思う。(本文より) 2014年芥川賞作家の2月に出た本だ。 子どもの世界が描く短編集とあったので 手にしてみたが子ども視点の話は少な目。 全9篇のうち最初の2つと最後の短編が 小・中学生の目線で描かれた話だったよ。 エリート塾に通う少年を描いた『心臓』、 受験期の少年を描いた『ものごころ』が この作品集で楽しめたツートップになる。 改行の少ない文体が嫌気されるかもだが これらの短編の母親と子の意識のズレや 中学生活の中には素材文適性がほんのり。 取っつきづらさは否めず難易度は難しい。 以下には俺のレビュー…

  • 介護の未来への光明『森にあかりが灯るとき』(藤岡 陽子)

    未来を変えたいと思うなら動くしかありません。動けばなにかが変わります。(本文より、普遍的なメッセージを引用) 今期の超有力作品が出たばかりの著者の 前作にあたる昨年9月に発売された本だ。 特別養護老人ホームを舞台にそこで働く さまざまな職種の人々を描いてゆくよ~。 命の現場の緊迫感がマジで伝わってくる 得るもののメチャメチャ多い一冊だった。 理不尽な要求には、こっちまで怒り心頭。 そんだけ没入させられてたってことだな。 暗い現場に指す光明ってのも素晴らしい。 サプライズからのさらなる一手も凄いよ。 ただ、小学生にはなかなか難しいかな? 中学に入ったらぜひとも挑戦して欲しい。 これを問題文にする…

  • 本は師であり、友であり『さみしい夜のページをめくれ』(古賀 史健)

    ぼくはみんな、ただ偏差値で学校を選んでいると思ってたんだ。(本文より) 『さみしい夜にはペンを持て』の姉妹本。 3月に発売され評判を呼んでいる作品だ。 傷つき、あるいは疲弊した心に寄り添う 人生の案内人になってくれる物語ですわ。 抽象的だが一言で紹介するとこんな感じ。 本がどんな救いになるか訴えまくるよ~。 著者のオリジナルだけでなく紹介される 名作からの一文も魅力いっぱいだったわ。 最も心に刻まれたのはこんなフレーズだ。 身体を動かすことが身体と精神の健康にいいように、心を動かすことも、身体と精神に良いのです。(『演劇入門 生きることは演じること』より) 物語と説明文の読み方の違いには納得感…

  • 心惑わす洗足選書『うそコンシェルジュ』(津村 記久子)

    林本君はね、本当にうそに勤勉だから、大船に乗った気持ちでいていいと思うよ!(本文より) 今年の洗足学園の入試で使われた作品だ。 発売は昨年10月なので随分と早い採用。 月刊誌に該当の短編が掲載されたときに ビビッと来て素材文に選んだんだろうな。 本作は来年のほうが出る可能性が高そう。 基本的に大人の生きづらさを掬い上げる ような話が多めでエモ要素がふんだんだ。 思考がぐるぐる巡るさまは悪魔的楽しさ。 面白さでは表題作つながりの話が抜群で 洗足学園で使われたのもこの短編だった。 ただし、素材文適性って点ではおそらく 小4女子視点の最終話がベターだろうな。 『居残りの彼女』は毅然とありたい子が 堂…

  • 図書室の才女『読書感想文が終わらない!』(額賀 澪)

    「きみ、中学受験するんだ。それも、けっこう難しい学校目指してるでしょ」(本文より) 割と入試に出る作家の約一ヶ月後の新作。 読書感想文に一家言のある中三の少女が 夏休みに小学校の図書室に入りびたって 訪れる高学年の子たちと関わっていくよ。 感想文にまつわるさまざまなアイデアが ストーリーの中に幾層も織り込まれてる。 これほど夏休みの宿題の助けになる本は そうそうないんじゃないかと俺は思うな。 この作品の効用はそんなもんじゃなくて 世間の荒波を生き抜く知恵も得られるよ。 気持ちを文章化するメリットの話とかな。 だからタイトルから自分には関係ないと 思わないほうがいいのがこの本の特色だ。 色んな子…

  • 希望の種を育ててくれる『地図にないお店 純喫茶クライ』(吉田 桃子)

    その日から、教室で、わたしと口を聞いてくれる子はいなくなった。(本文より) まれに入試で見る作家の2月に出た本だ。 生き方に迷う子どもたちがちょっとした 謎めいた体験の末に出口を見つけていく。 ひと言で言っちまうとこんな短編集だよ。 両親のけんかを止めようとする子だとか 空気を読めない子のせつない胸の内など いま何かを抱え込んでる人に刺さりそう。 各章末尾に濃いぃアドバイスがあるので 刺さるだけでなく救ってくれる作品かな。 例の4段階基準で語ると難易度は易しい。 以下、俺のレビューの書き出しになるよ。 昭和の香り漂うカフェが登場するちょっと不思議な短編集。 悩める子どもたちを引き寄せるお店との…

  • 淀む空気を切り裂いて『嵐をこえて会いに行く』(彩瀬 まる)

    探しているのは活路だ。星を失った後の世界で、それでも生きていくために必要な。(本文より) まれに入試で見る作家の1月に出た作品。 言ってみれば大人の短編集って趣ですわ。 食べ物やコーヒーの魅力やばかったよ~。 卵スープなんかもメチャメチャうまそう。 北の大地を巡る旅ってのがまたいいんだ。 主人公たちが非日常の時間に浸ることで、 こんがらがった日常がほどけていくんよ。 ま、難しいんでちょっと敷居は高いかな。 マイレビューの一部だけ以下に付けとく。 北の旅情あふれる5編。 青春が薫る一冊ですね。 年代も性別も様々な悩める大人たちが、魅力あふれる旅路とその中での出会いで大切なことに気づき、人生の再出…

  • 勇気、燃ゆる日『あの子の隣で待つ春は』(上田 聡子)

    自分の一挙手一投足を笑おうと待ち構えている子が、いつも周りにいたら。想像するだけでも、喉がつかえたような気になる。(本文より) 入試で見たことのない作家の3月の新作。 だがしかし素材文適性は高かったりする。 未知の先生によるYA作品っていう訳で 俺の期待値は高くなかったんだけどな~。 真っ正直に言っちまうとあれだ、泣いた。 葛藤に苦悩する2人の中学生たちの姿に すっかり心を持ってかれ、ボロ泣きだわ。 自信のない子が頑張っちゃうと来るね~。 まさかの勇気なんか見せられた日にゃあ クソエモくって感情ダダ漏れになるのよ。 これは子どもたちの感想も聞いてみたい。 問題文に良さそうな部分は不登校少女が …

  • きっと、誰もが輝ける『TRUE Colors 境界線の上で』(神戸遥真,蒼沼洋人,いとうみく,鳥美山貴子,ひこ・田中)

    それでも今までのぼくは、ぼくの世界が充分大きいと思っていた。とんだ誤解だった。(『ぼくと体と、』の本文より) こういう本に学生のころ出会いたかった。 文学賞作家がズラリと並ぶ企画の第二弾。 約3ヶ月後の7月末頃刊行予定の作品だ。 掴んで盛り上げて鮮やかに締める連携を 十二分に見せつけるアンソロジーだわ~。 男女とも知っておきたい心情がメガ盛り。 女だから、男だから、という固定観念に ズバズバ切り込むストーリーが美味ナリ。 押し付けがましくはないナチュラルさで 楽しく物語を噛みしめつつ味わえるのは 家でも学校でも教えてくれない学びだよ。 難易度分類は例の4段階だと普通あたり。 例によってレビュー…

  • 楽しくってメンタルにも効く『希呼の実験』(長谷川 まりる)

    まさか自分が、自分から日記を書こうと思う日が来るなんて。(本文より) 今週発売された季刊児童文芸誌に載った 長谷川まりる先生の短編を紹介しまっせ。 この先生の新作については設定や文体が 弾けていたので受験向けって観点からは ほぼスルーしてきたけど今作はアリかも。 現実路線で文体もわりと教科書的だから。 短編を詳述すると酷いネタバレになる故、 今回はサラリと紹介させてもらいますわ。 広く読まれるべき作品ですね。 主人公は中学に入学したばかりの少女。 いきなり深刻な悩みを抱えることになった彼女が、思いもよらぬ場所で、手段で、活路を切り開いていきます。 この”作戦”は本当に使えそうですね。 小説とい…

  • 出題されるかもしれない新刊本(2025年5月前後)

    今こそ作問向け選書のシーズン真っ盛り。 5月は藤岡先生の新作がメチャ強いよ~。 『金角』に劣らず長年愛されそうな一冊。 著者の受験小説はコレも含め外れがない。 さらに児童文学の大御所の作品が居並ぶ。 いとう先生は今年の駒場東邦で出た本の 続編だが新作の方から読んでも大丈夫だ。 山本先生の作品も入試にピッタリな感じ。 くどう先生初の短編集もそそられまっせ。 以下のリストは未読の作品が多めなんで、 たぶん問題文に向かない本もあるだろう。 4/30発売 『日下部くんには日傘が似合う』(神戸 遥真) 人気者の6年生男子が波乱を巻き起こす。 5/13発売 先行レビュー済 『僕たちは我慢している』(藤岡 …

  • さみしさと手をつないで『アリゲーターガーは、月を見る』(山本 悦子)

    ガーはガーというだけで責められ、疎まれている。(本文より) 来月下旬に出る児童文学の大御所の新作。 アリゲーターガーって外来魚なんだな? 人間に捨てられ、害をなす存在と扱われ、 池や堀からも排除される異形の淡水魚に 感情移入する面々を描いたストーリーだ。 中学生2人と19歳が思わぬ縁で繋がり それぞれの苦悩と向き合っていくんだわ。 この作品は大人の役どころが良かった~。 行動も発言も魅力たっぷりで楽しいんだ。 この著者はあまり入試では見ないんだが 本作の素材文適性はかなり高かった印象。 問題に使えるかもしれない箇所の例 一章終盤△淋しい外来魚へ抱く人の想い 三章中盤△祖母の言葉に含まれた気持ち…

  • クセ強ッ、けれど病みつきに!『父の回数』(王谷 晶)

    今週発売されたばかりの異色の短編集だ。 入試では見たことがない作家ではあるが 表題作が高校生視点なんで読んでみたわ。 何にも熱くならず空気を読めない少年が 驚きの事態に巻き込まれていく短編だよ。 ま、ちょっと小学生に見せづらい部分も あるにはあるが引き込む力がみなぎる話。 読めば終盤の展開にゼッタイ驚かされる。 面白さはタイムリープ物『リワインド』。 これが抜群に感情移入できる作品だわ~。 全力で挑む人助けが激烈に刺さるからよ。 あえて物語という虚構を美しくさせずに ビターさを持たせるのが全体の作風かな。 なにもかもうまくいくなんて嘘くさいと 感じるようなタイプだとよりハマりそう。 難易度分類…

  • 奥行きのある人生論『学歴狂の詩』(佐川 恭一)

    私たちは予備校に通う中で、それまで拠って立っていた「偏差値」以外の価値観を半強制的にインストールさせられるという大きな問題に直面していた。(本文より) 先月発売され界隈でも話題を集めている 洛星高から京都大という著者のエッセイ。 名門大学受験に向けてあたふたしまくる 男子進学校の生徒たちの姿が愉快だわ~。 風変わりな京大生たちの生態も見どころ。 自虐と他虐あふれるホントの姿が最高だ。 まったくカッコつけてないのが笑いの肝。 身もふたもない学歴のメリットの話題や 学業全振りの光と影には考えさせられる。 多分入試素材になるような本じゃないが 反面教師的な意味じゃなく付加価値大だ。 難易度分類ではや…

  • 胸に嵐を抱きながら『曇りなく常に良く』(井戸川 射子)

    友だちからの評価って何て信用ならない。全部嘘でも成り立つ。(本文より) 先月発売された芥川賞作家の青春小説だ。 それぞれに重いものを抱える高校生達の ままならない日常を切り取った話だった。 噂の独特文体にきりきり舞いだったな~。 正直、俺レベルじゃ慣れるに一苦労だよ。 とはいえ会話のみずみずしさは圧倒的だ。 5人全員に共感するのは無理だったけど 何人か目が離せない子もいて読み切れた。 多彩な苦悩を振り下げるので誰かしらに 感情移入ができるんじゃないかと思うよ。 文体的に素材文適性は高くなさそうだが 強いて一つだけを挙げると中盤の机運び。 担任と生徒の会話が使えなくもないかな。 難易度は例の4段…

  • アイデア勝負はお手の物『てまりのナゾほどき帳 出島と秘密の紅い石』(荒川 衣歩)

    海へと続く地形の先端部には、扇形の島が浮かんでいる。出島だ。そこは長崎であって長崎ではない。(本文より) あと3ヶ月ほどで刊行される見込みの 講談社児童文学新人賞の大賞作品だよ。 カバーを見て判るようにこれは時代物。 実は俺、時代物は挫折しやすいんだが 今回の作品は全然オッケーだったよ~。 時代は古くても内容は新しかったから。 主人公の少女の頭の回転も見どころだ。 大人をコロッと引っかける場面とかな。 さすが受賞作、最後まで楽しいうえに 新鮮でプラスアルファの学び付きだわ。 心配性の父親のあたふたするさまとか 仲良し少年のしどろもどろにもニヤリ。 13歳前後の子どもたちがメインだが 登場する大…

  • 無垢な善意に削られて『声に出せずに叫んでる』(朝霧 咲)

    な?いいだろ?こんなバカげたことできるの高校生のうちだけだぜ。(本文より) 高3時に応募した作品で小説現代新人賞。 今は京大生という期待の星の2作目だよ。 細かなところにも若い感性がほとばしる マジで共感必至のストーリーだったわ~。 真っ白な善意を向けられて黒く染まる心。 このわかり合えない感じがリアルすぎる。 けれど重くなりすぎずラストにかけては 胸がスッとするから安心して読める感じ。 素材文適性は後半にかけて高まっていく。 繊細に描き込まれた感情の揺らぎに注目。 問題に使えるかも知れない箇所の例 三章前半△部活でのトラブルからの対話 三章後半△体の弱い少女の気持ち溢れる 四章前半〇少女が驚…

  • 語り継ぎたい創作道『日曜日の文芸クラブ』(小手鞠 るい)

    文章は人を映し出す鏡、とも言えるでしょうか。(本文より) 言葉の連なりが持つ輝きを教えてくれる アメリカ在住の作家の来月出る新作だわ。 この先生は出版のペースがチョー早いよ。 幼児向けまで含めると年十冊はありそう。 今回の紹介本は広く子どもたちに向けて 惜しみなく文章のイロハを贈ってくれる。 あぁ、こんな簡単なことなんだ!だとか こうも奥が深いのか!という気づきの嵐。 文章を書くのが苦手な子も、得意な子も そればかりか大人にとっても嬉しい本だ。 難易度は前半平易、後半普通という印象。 先行レビューはこんな感じにしてあるよ。 物語に救われた過去に共感の大嵐! 先生の創作活動は恩返しであり、この作…

  • 命、はなかくも・・『願わくば海の底で』(額賀 澪)

    みんな、教師って生き物は心の底から生徒を嫌ったり憎んだりしないって思って甘えてるんだもの。(本文より) 東日本大震災の緊迫したシーンがド迫力。 わりと入試に出る作家の2月の新作だよ。 生きづらさを抱える少年を周囲の視点で 多角的に映し出したストーリーだったな。 少年本人視点の章はないにもかかわらず、 彼の苦悩がくっきりと浮かび上がるんだ。 諦観と生きる覚悟、その果てにある宿命、 これがありえないほど全身に響いてくる。 読めば一日一日を慈しみたくなるだろう。 誰かの葛藤に敏感になれるかもしれない。 素材適性は結構あるんじゃないかと思う。 以下に並べてみたのはその一例になるよ。 問題文に使えるかも…

  • 鮮烈の桜蔭選書『イザベラ・バードと侍ボーイ』(植松 三十里)

    英語を武器にして、何か別の分野に飛躍していかなければ、夢の実現は遠い。(本文より) 今年の桜蔭で使われた物語文も凄かった。 重厚な歴史、果敢な挑戦、豊富な気づき、 こういった要素が見事に凝縮された本だ。 困難な道を突き進む主人公が感動を誘い 学びだけでなく生きる原動力をくれるよ。 よくもまぁ、こんな本見つけられたな~。 もう手放しで礼賛するしかない感じだわ。 ただ、難易度は普通の小学生には難しい。 最難関にふさわしい素材といえるだろう。 例によってマイレビューを上げといたよ。 英国から来た紀行作家イザベラと、随行する若き日本人通訳鶴吉の視点で、困難な旅路を描く実話を元にした小説。 なんたる重厚…

  • 少女は七つの誓いを立てる『コメディ・クイーン』(イェニー・ヤーゲルフェルト)

    「パパはまた幸せになるんだ。わたしが幸せにするんだ!」(本文より) なんと21カ国で翻訳されているという 世界で愛される児童文学が日本にも上陸。 母の死から1年、動揺の消えない家庭の 12歳の少女が思わぬ誓いを立てるよ~。 深いかなしみを越えて成長する主人公と それを支える人々のドラマは衝撃だった。 特に友人の振る舞いが素晴らしいんだわ。 コメディアンのアドバイスも実にいいよ。 生きていく上で役立つ言葉が溢れていて 大人にもグサグサ刺さりそうな本だった。 難易度では4段階で3番目にあたる普通。 俺のレビューをちょっとだけ置いとくよ。 主人公は母の死に囚われたスウェーデンの12歳。 全身全霊で異…

  • 守る者の気概『イズミ』(小手鞠 るい)

    私たちは、単なる白衣の天使ではなかった。戦場に咲く花ではなかった。(本文より) たまに入試にでる作家の1月発売の本だ。 第一次世界大戦の折に国の威信を賭けて 欧州へ派遣された医療チームの看護師と それを描く作家の視点で書かれているよ。 いや~、戦時は病院も戦場さながらだな。 たとえ凄惨でも目をそらしちゃいけない。 きっちり向き合う必要があると感じたわ。 もしろんそんなシーンばかりじゃないが これほど戦争の愚かしさが響く本は稀だ。 一方、現代のパートでは作家に寄り添う 編集者の仕事ぶりに引き寄せられたよ~。 いろんな意味で学べる要素の多い本だわ。 知識面では、英語で時間をつぶすことを 時間を殺す…

  • 肯定感のプチ革命『おとなになりたくないわたし』(夜野 せせり)

    人の見た目のこと、いろいろいってくんの、やめてくれない?(本文より) 女子向け作品が多数ある作家の新作だよ。 今作も表紙からわかる通りのターゲット。 けど、苦悩をかなぐり捨てるアイデアは 男子だけでなく大人にも有効な気がする。 主人公は成長するからだを嫌悪する少女。 彼女がナイトのような級友との関わりで 自分の殻をやぶっていく爽やかな物語だ。 紹介作品の中では平易なレベル感だった。 俺のレビューの一部をまた紹介しとくよ。 対照的な二人が抱える葛藤の意外性に注目! 主人公は劣等感に染まる中学一年生です。 自分自身が嫌いな彼女が、憧れのクラスメイトと関わるなかで、さまざま感情を味わい、見違えるよう…

  • 受験界を吹き抜ける『教場の風』(安孫子 正浩)

    「どちらでも参ります」といいながら願ったのは、ただ中学受験クラスを担当させてほしい、ということだけだ。(本文より) 12月に発売された中学受験小説だけど 中受界隈では話題になってないようだな。 大藪春彦新人賞作家にして現役塾講師が 描き上げたという触れ込みのストーリー。 正直な感想をいうと掴みがちょっと弱い。 が、しかし二章のトラブルで引き込んで 志望校が問題になる中盤でも魅力が増す。 最高だったのは夏合宿を描いた辺りだよ。 スロースタートな作品だけど8章は必見。 受験本番の9章も、もちろん見逃せない。 ちょっと見つけにくい作品ではあるけど 素材文適性はなきにしもあらずって印象。 全9章だがこ…

  • 探求心よ、どこまでも『アメリカから来た友情人形』(今関 信子)

    「破壊89名、焼いてしまえ133名、送り返せ44名、海へ捨てろ33名」(本文より、戦時中の毎日新聞に載ったある小学校の聞き取り調査を引用) 題材がとてもいい本として紹介するよ~。 卒業を控えた小学六年生の子どもたちが 学校で大切にする古い人形の来歴に触れ 興味を抱き深く掘り下げていく物語だわ。 知らない話ばかりでメチャ勉強になった。 物語パートより探求パートが良い印象だ。 1927年に米国からやって来た人形が たどった運命には胸を締め付けられたな。 朝礼でやり玉にあげ、竹やりで突き刺し みんなで石を投げたあと火をつけたとか 主導させられた先生たちも辛かったろう。 もしも自分がその時代の子どもだ…

  • 出題されるかもしれない新刊本(2025年4月前後)

    4月度は注目作が盛りだくさんですわ~。 ちゅうでん児童文学賞作品か瀬尾先生の 新作が月間トップ候補になりそうな予感。 宮島先生の部活青春モノも期待値は高い。 以下のリストは未読の作品が多めなんで、 たぶん問題文に向かない本もあるんだが、 年間トップになる作品も含まれていそう。 4/9発売 先行レビュー済 『もの語る一手』(青山美智子,芦沢央,綾崎隼ほか) 豪華作家陣が将棋を描いたアンソロジー。 4/14発売 ちゅうでん児童文学賞大賞 『ぶたのしっぽ』(海緒 裕) 男らしさになやむ少年を変えるものは? 4/15発売 先行レビュー済 『団地メシ!』(藤野 千夜) 16歳の少女が祖母とめぐる和やか散…

  • 気ままな散歩へGO『団地メシ!』(藤野 千夜)

    おばあちゃん、明日、お花見しない?(本文より) 来月中旬に発売予定のおいしい新作だよ。 家族愛が心の奥深くに響いてくる物語だ。 わけあってヒマを持て余す16歳少女が 食べ歩きをしつつ生きる力を蓄えていく。 そんなストーリーだとオレは受け止めた。 ゆっくりのんびりなおばあちゃんがイイ。 少女とバディのように笑い合う関係性が おどろくほど心をなごませてくれるよ~。 いとこの直球すぎる感情表現も楽しい! 微笑みながら癒される作品だと感じたわ。 難易度としてはやや難に分類されるかな。 オレのレビューの最初だけ以下に並べた。 年の離れた仲良しの二人が、昭和の香り漂う団地の名店めぐりをトコトン楽しむストー…

  • でこぼこ道の少女『わたし、わかんない』(岩瀬 成子)

    まっすぐ生きるだけが、いいことじゃないよ。(本文より) 割と入試に出る作家の来月下旬発売の本。 学校で差別や偏見にさらされる女の子が 自分の居場所を求め足掻くストーリーだ。 みんなが当たり前にできることができず 苦しむ主人公へ心の底から共鳴したわ~。 彼女の優しさは勉強や運動ができるより ずっと、ず~っと尊いとしみじみ感じた。 1コ上の男の子も別の意味でユニークで 彼らのやりとりにはほっこりできるんだ。 文章はかなり平易なんで小4で読めそう。 オレのレビューの前半パートはこんな風。 不適応ですって!? 間違っているのはどちらなのか? 共感のあまり、ひたすらそう感じました。 個性を受け容れること…

  • 洋々たる船出『僕たちは我慢している』(藤岡 陽子)

    いよいよ始まるという緊張感が、受験生たちの顔に滲んでいた。(本文より) 『金の角持つ子どもたち』の著者が贈る 普遍的に愛されそうな作品が登場するよ。 発売は約2ヶ月後の5月中旬になる模様。 開成をモデルにした名門男子校を舞台に 生徒たちがおたがいを刺激し合いながら 難関大受験に向かっていくストーリーだ。 開成は征和学院に置き換えられているが 他校や鉄緑会はすべて実名で登場するよ。 本作に名前が出てくる学校 桜蔭、雙葉、麻布、武蔵、灘、筑波大学付属駒場、慶應中等部、小石川中等、桜修館ほか 我慢にもいい我慢と悪い我慢があるな~。 自分の未来の為に進み取る我慢は美しい。 そんな心の宝石が散りばめられ…

  • 濃厚な個性に囲まれる『坂の中のまち』(中島 京子)

    昨年11月発売の書店で目立っていた本。 ガール・ミーツ・幽霊譚と宣伝してるが エンタメ寄りではなくなかなか深いよ~。 文豪たちのあゆみや名作文学に登場する ご当地の坂が登場するシーンにフムフム。 ほっこりできるエピソードが多い一方で キリシタン弾圧の過酷さにはマジ震えた。 素材文適性があるかも知れないシーンは 祖母と盟友の距離が近づく電車賃パート。 あとは大学での面白キャラとのかかわり。 このよしんばさんは本当に楽しい人だよ。 ま、たぶんほかにもあるだろうとは思う。 難易度は紹介作品の中では難しいになる。 俺のレビューの序盤だけ以下に付けたよ。 主人公は世間知らずな18歳。 大学入学を機に上京…

  • 人生のお供にしたい『もの語る一手』(青山美智子,芦沢央,綾崎隼ほか)

    誰もが認めるような新しい目標がなければ、あきらめることは許されない気がしていた。(『おまえレベルの話はしてない(大島)』の本文より) 頻出作家の短編を含む来月9日発売の本。 将棋を題材にした珠玉のアンソロジーだ。 そのラインナップは以下の通りですわ~。 『授かり物』(青山 美智子) 『マルチンゲールの罠』(葉真中 顕) 『誰も読めない』(白井 智之) 『なれなかった人』(橋本 長道) 『王手馬取り』(貴志 祐介) 『おまえレベルの話はしてない(大島)』(芦沢 央) 『女の闘い』(綾崎 隼) 『桂跳ね』(奥泉 光) 青山先生の家族愛の短編を熱烈に読んで あとは軽い気持ちでと思ってたんだけど 最後…

  • 女は度胸と才覚『真珠王の娘』(藤本 ひとみ)

    食べ物が体を養うように、美は心を養い、豊かにするのだ。(本文より) 藤本ひとみ先生というと軽妙テイストで 子供達に人気って印象だけどこれは重厚。 入試ではあまり見ない作家ではあるけど 2024年の本郷中学で出てたりはする。 本作はズシリとくる厚みに思わずゴクリ。 戦中・戦後の日本を舞台に一人の女性が 我が道を闊歩するさまを描く文芸書だよ。 民草からみた戦争の恐ろしさだけでなく 指導者視点の世界も描かれ興味深いわ~。 素材文適性は府立第二高女の学生として 主人公が勤労奉仕する周辺に少しアリ? 難易度は例の分類に当てはめると難しい。 俺のレビューからの抜粋はこんな感じだ。 狂おしいほどドラマチック…

  • その兆しが示すもの『小説』(野崎 まど)

    2025年本屋大賞のノミネート作品だ。 王道文学とはちょっと毛色が違う本だわ。 読書だけが寄る辺という少年のあゆみは エキセントリックなまでにユニークだよ。 彼の無二の親友というのもこれまた凄い。 凄すぎて危なっかしすぎて先が気になり ボリュームをものともせず読めちまった。 作戦を練り超名門高校へ挑戦する部分や 慶応の論文に挑むあたりに俺は惹かれた。 まぁ、賛否が分かれるかもしれないけど 展開にびっくりすることは保証できるわ。 素材文適性は小学生パートと難関挑戦の 中高パートにホンの僅かだがあるかな~。 文章難易度の面では敷居が高く難しいよ。 俺のレビューの断片は以下に置いておく。 小説の持つ…

  • 常識を投げ捨てる『踊れ!文芸部』(キタハラ)

    みなさん、入学おめでとうございます。みなさんは、この学校に、べつに入りたくもなかったと思います。(本文より) バカ丸出し男子の青春物語と謳う作品だ。 まぁ、表紙の感じからしてそうだよな? この本、俺は前半パートがわりと好きだ。 モチベが低い男子校に降ってわいた話に 少年達が起死回生のアイデアであらがう。 あの手この手でみんなを巻き込むなかで 絶妙に面倒くさい先生も乗りだしてくる。 とまあ、こんな感じで進むストーリーだ。 ちょっと小学生にはアレな部分はあるが 肩の凝らない楽しい読書にはよいかも? 軽妙で読みやすく難易度は普通のレベル。 以下、俺のレビューの断片になりますぜ。 主人公は崖っぷち男子…

  • ほとばしる情熱の輝き『スターゲイザー』(佐原 ひかり)

    みんなどこかしら損ないながら、傷つきながらステージに立ってる。そうじゃないと輝けないって言い聞かせてさ。(本文より) 稀に入試で見る作家の9月に出た作品だ。 これは女性レビュアーの激賞が凄いんだ。 男性アイドル物とかマジで読めるんか? な~んて思いながら読み始めてみたらよ いきなり野郎共のメイク場面でげんなり。 どっこい、読み進めるともう止まれない。 軽薄の対極にある少年たちの生き様には 俺も知らず知らずのうちに熱狂してたよ。 2024年ベストに選んだ読み友さんが やけに多かった理由を今さら思い知った。 序盤でアレレと感じても止まらぬが吉だ。 素材に使えそうな箇所は探せばあるかと。 問題文に使…

  • 多様な視点への気づき『夜更けより静かな場所』(岩井 圭也)

    ひとりで本を読むのは楽しい。でも、読んだ本について語るのもまた楽しい。(本文より) たまに入試に出る作家の10月発売の本。 謎の多い初老の男が営む古書店を舞台に 6人の男女の人生が交わるストーリーだ。 課題の図書を題材にして意見交換しあう 彼らが読者に次々と新しい視点をくれる。 こんなんよく思いつくよな~って驚いた。 作家さんの頭ん中ってどうなってんの? 興味深かったのは心から願ってたことが いざ実現できると色褪せてしまうって話。 これは心当たりがある人が多い気がする。 素材文適性って意味では野球漬けだった 青年の視点で描かれる章とかはあるかも。 終盤の監督に会いにいく場面はその一例。 もう一…

  • 色眼鏡を外すとき『Q世代塾の問題児たち』(石川 宏千花)

    本当のばかっていうのはさ、差別やいじめを平気でしたり、世の中のことに無関心な人間のことだから。(本文より) 子供受けする本を多数出している作家の 来月中旬に発売予定の作品を紹介するよ。 今作は6年生女子が珍しい塾に通う中で 新しい価値観に目覚めていくストーリー。 個性派揃いの塾は教える側も凄いキャラ。 生徒たちも危なっかしくってもう釘付け。 それでいて勉強になる場面も多いんだわ。 これは主体的な学びに導いてくれるかも。 みんなハッピーになれる人生の選択など 大人の俺にも発見のある作品だったわ~。 文体は小4ぐらいでも読めそうな易しさ。 以下、俺のレビューの一部を並べとくよ。 先入観をひっくり返…

  • 固定観念を打ち払え!『蒼天のほし』(いとう みく)

    でも、現実に、目の前に、夜間の保育を必要としている家族がいます。その親子を切り捨てていいんでしょうか。(本文より) 入試頻出作家の5月下旬発売予定の本だ。 夜間保育園が舞台という珍しい作品だよ。 おそらく中学受験するような子たちには 想像することが難しい環境が描かれてる。 生死にかかわる限界の親子も出てくるし。 こういった試される感のあるテーマって 名門校で特に好まれるような気がするな。 培った能力を自分だけでなく広く社会に 役立ててほしいって理念ならなおさらだ。 素材文適性は保育園の方針が如実に出る 前半パートの2箇所がかなり高そうかな。 それに続くのが中学受験生が関わる中盤。 少しありそう…

  • 心の栄養がズラリと並ぶ『そんなときは書店にどうぞ』(瀬尾 まいこ)

    神社に行かないと手に入らないと思っていたけど、持つ人や贈る人の気持ち次第で、なんだってお守りにできるのだ。(本文より) 入試でお馴染みの作家の昨年末に出した 本づくりの舞台裏が丸見えになる面白本。 エッセイに短編小説1本がついてるよ~。 親しい友人に語りかけるような語り口で 爆笑ものの作家人生が描かれてんだよな。 変な編集者や熱血書店員の話だけでなく 本人の惜しみないやらかしもそこかしこ。 全然カッコつけないところが滅茶クール。 素材文適性は『幸福な食卓』の続編たる 短編小説の後半パートにありそうな感じ。 書店員の青年が心の傷に向き合う話だが、 全力疾走とレモンちゃんの周辺が匂うよ。 難易度的…

  • さびしい闇を埋める『眠れない夜のために』(千早 茜)

    稀に入試で見かける作家の11月の新作。 短編集と謳ってるんだが一つ一つの話は むしろ掌編と言っていいくらいの手軽さ。 スキマ時間にさらりと読める作品だろう。 文章量は多くなくてもじんわり来る話や SF、怖くなる話もあって多彩な品揃え。 オレが気に入ったのは『水のいきもの』。 眠れない主人公が真夜中に歩き回る中で 思わぬ体験をするっていうストーリーだ。 10編には合わない話もあるがどこかに 必ずキラリと光る言葉があるんだよな~。 難易度としては、やや難にカテゴライズ。 俺のレビューの真ん中へんはこんな感じ。 個性だけでなく世界観もさまざまな舞台で、闇の時間がまたたくような輝きを魅せてくれます。 …

  • 出題されるかもしれない新刊本(2025年3月前後)

    3月は珍しく新作の情報があんまないな。 『アルプス席の母』で注目を浴びている 早見先生の中受小説はガチ推し作品だよ。 以下のリストは未読の作品が多めなんで、 たぶん問題文に向かない本も含まれてる。 2/27発売 『キャロットバトン』(こまつ あやこ) 個性がバラバラな4人の童話創作リレー。 3/3発売 『白い虹を投げる』(吉野 万理子) 小6野球少年たちは転校しても支え合う。 3/7発売 ☆先行レビュー済☆ 『問題。 以下の文章を読んで、家族の幸せの形を答えなさい』(早見 和真) 少女の中学受験を通じて変貌する家族像。 3/7発売 『あの子の隣で待つ春は』(上田 聡子) 個性を輝かせる少女達の…

  • ぼくらは考え抜いてゆく『おおなわ 跳びません』(赤羽 じゅんこ)

    「それって、偽善、じゃねぇの?」つい、強めの声が出てしまった。(本文より) 稀に入試で見る作家の昨年10月の作品。 タイトルと表紙の感じから気の強い子が 行事への参加を拒否する話かと思ったが 読んでみたら先入観とはまるで違ったわ。 足を普通に動かせない大人しめな少女と クラスメイト達が大なわ跳びの最適解を 意見を出し合いながら模索していく話だ。 子供主導で利害を調整するストーリーに ふんだんに学びの要素が盛り込まれてる。 道徳的なのにいい話を読まされるような 重さや説教臭さがないところが凄いんだ。 自然とSDGSに親しめる優良図書だよ。 これは読書感想文にも向いてそうだわ~。 かなり平易だけど…

  • たとえ茨の道だとしても『あの日の風を描く』(愛野 史香)

    新たな知識が、朝露の清冽な冷たさのように、脳に染み込んで刺激する。(本文より) 昨年10月に出た角川春樹小説賞大賞作。 美術品の模写や修復を描いた珍しい本だ。 ハンパな自分を思い知り塞いでた青年が 従兄の誘いで新しい世界に踏み込むよ~。 先輩らと難題に挑む中で関係性が深まり その過程で大切な気づきも獲得していく。 彼の熱量の変化にぜひ注目して欲しいな。 美術用語が壁になるが素材文適性もある。 特に4章と5章の人間ドラマがよいかも。 問題文に使えるかもしれないシーン 四章前半〇名前の由来を知らされるまで 四章後半△セリフに決意がにじみでる日 五章前半△様々な言葉を浴びて浮き沈み 五章後半△ピンチ…

  • 彼女は熱意で押し通る『古本食堂 新装開店』(原田 ひ香)

    本意って伝わらないものなんです。自分の気持ちなんて、相手に伝わらないのが普通って思ってたらいいんです。(本文より) 昨年6月発売で今年の修道で使われた本。 シリーズ前作も今年茗渓学園で出てたよ。 70代店主が20代女性と切り盛りする ユニークな古本屋を舞台にした物語だわ。 食べ物の描写がじれったいほど魅力的で 作中で紹介される本も気になったりする。 この本のいいところは、惹かれた何かを 実際に食べたり手にしたりできるところ。 たまにある描写ではメチャ旨そうなのに 実際には一生お預けみたいなのとは違う。 ま、お仕事小説なので敷居は高く難しめ。 以下、俺のレビューから来た4フレーズ。 本にまつわる…

  • 誰も奪えない光『星の教室』(髙田 郁)

    教育を受けることは、そのひとの人生に希望の灯を点すことだ。(本文より) 長く親しまれそうな傑作が登場したわ~。 旧作をたまに入試で見る作家の新作だよ。 深~い事情があって夜間中学に入学した 生徒や周囲の人々の生き様が感動を誘う 学ぶことの尊さが直に伝わってくる話だ。 彼らの切実な学びへの渇望は衝撃だった。 物語の舞台になった2001年ごろには 義務教育を終えていない人が170万人、 一方で、夜間中学は全国にたった35校。 存在が知られていなかった面もあるけど、 全然ニーズに追いついてなかったんだな。 この作品が何かを変える契機になるかも。 素材文適性は前半が特に高かった印象だ。 今回も少しばか…

  • イマジネーションの翼『風の港 再会の空』(村山 早紀)

    この世界を生きるに足る、優しい場所だと教えてくれたのは、あなたでした。(本文より) 『風の港』ってタイトルからして素敵だ。 たまに入試に出る作家の1月の新作だよ。 前作は複数の入試問題に採用されてたが 今日紹介するのはシリーズ2作目になる。 思わぬ邂逅で荒んだ男が心を洗われたり、 医大を目指す青年の気持ちが救われたり、 悩める女性が決意を新たにしたりと多彩。 共通するのはほんのり元気をくれるトコ。 素材文適性の面では最終話『夢路より』。 公務員の青年の話だけど、小学校時代の 二人の友人ができるまでの話はアリかも。 難易度の面ではやや難といったレベル感。 俺のレビューの冒頭部分を以下に置くよ。 …

  • 確かな架け橋『音のない理髪店』(一色 さゆり)

    自分が書いたものが人と人をつなぐきっかけになってほしい。(本文より) これも障がいを深掘りした作品になるよ。 耳が聴こえないことで身に迫る危機とか やまない差別や偏見、歪んだ制度などを これでもかとブッ込んだストーリーだわ。 日本手話と日本語対応手話が別物だとか、 東京と大阪で水をあらわす仕草が違う等 びっくりさせられることも多かったな~。 嫌になるようなエピソードがある一方で 未来に希望を持たせてくれる話もあるよ。 人を思いやることの大切さが沁みる本だ。 難易度が高いので小学生にはキツイかな。 以下の文章は俺のレビューの一部分だよ。 聞こえる者と聞こえない者の間に架け橋を! そんな願いが込め…

  • 感嘆のため息もれる『見えなくても王手』(佐川 光晴)

    できれば時間を気にせずに、きみと指したいんだ。(本文より) 入試定番作品『駒音高く』の姉妹編だよ。 盲学校の高学年男子のストーリーだけど 将棋と障がい者教育への著者の本気度が 物語の中に見事に結実されてるんだわ~。 これはそう滅多に見られない優良図書だ。 特に著書の祈りが乗り移ったかのような 熱意溢れる教師の振舞いには要注目かと。 盲学校の子どもたち同士のやり取りにも 色んな意味で目が離せないシーンが多い。 ただ、将棋の戦型のようなマニアックな 語句が当たり前に使われる点では難しい。 素材文適性は将棋用語が減り人間模様に 重点が置かれる6章から8章が高そうだ。 帰郷、回想、学校トラブルのあたり…

  • 長らえ、何を伝えるか?『窓の向こう、その先に』(田村 理江)

    強いあこがれは、裏返されて嫉妬になり、そばにいたらはじかれそうな”こわさ”に変わった。(本文より) 入試で見たことのない作家の11月の本。 窓から外を眺めるのが好きな少女の話で 彼女と老人の変わった交流を描いてるよ。 奇跡のような巡り合わせが楽し気だわ~。 この作品の珍しいところは主人公の心が 真っ黒に染まり驚きの事態を起こす部分。 王道テンプレとは違うシナリオは新鮮だ。 難易度は平易なので小5で十分読めそう。 以下、俺のレビューの最初だけ付けとく。 おじいさんと少女は心を通わせることができるのか? その答えやいかに! 主人公は小学5年生。 特別なものに憧れ、満たされない日常に流されていた彼女…

  • 歩けよ黒髪の成瀬『実家が北白川』(宮島 未奈)

    ごめんね。こいつは男子校で六年間過ごしたせいで、女子へのあこがれが妙に強いんだ。(本文より) バカ売れしてる成瀬シリーズの最新短編。 小説新潮1月号に掲載されている話だよ。 京大のおとなしめ新入生男子が流される ままに入ったヘンテコサークルの日々で 例の大物と繋がる機会を得るんですわ~。 普通じゃない初対面のシーンはもや定番。 今回はしかも出で立ちからしてユニーク。 でも、確固たる信念は変わらずで嬉しい。 難易度分類ではやや難といったレベル感。 短い話を詳しく描いちまうとアレなんで 今回は物語のさわりだけ紹介しておこう。 主人公は京大近くで育った新入生男子。 地味な彼の日常は、異質な出会いを重…

  • 人生を賭ける仕事『日比野豆腐店』(小野寺 史宜)

    謝るくらいなら離婚しないでよ、とぼくは言ったけど、どちらからも返事はなかった。(本文より) たまに入試に出る作家の11月の新作だ。 この先生が人情を描いたら当たりは必然。 期待を裏切らないばかりか越えてくるよ。 熱意が人を動かす話とかグッときたわ~。 主役は短編ごとに違っていて70代女性、 40代女性、小4男子、高校生男子、猫。 猫視点の話は短いけど重要な役割がある。 終盤の高校生パートは特に胸アツだった。 性格の良さがにじみ出てるんだもんよ~。 素材文適性の面でも終盤でグンと上がる。 高校生と小学生が心を通わせる場面など エモくって問題文にもよいかもしれない。 店番、散策、進路のパートも使え…

  • 聲なき天の『オリオンは静かに詠う』(村崎 なぎこ)

    記憶にある札の場所を渾身の力で払った。手から星が散り、彗星のように札が飛んでいく。(本文より、競技かるたの鮮烈な描写) 聖光学院で出たことがある作家の新作だ。 聴覚障害にまつわる本人や周囲の葛藤が さまざまな角度から丹念に描かれてるよ。 深刻度の違いによる友人とのすれ違いや 家族も含めた無理解による苦悩がグサリ。 これは著者の最高傑作だという気がする。 心のバリアフリーに役立つ貴重な一冊だ。 競い合い火花を散らすライバルの思わぬ ふるまいなんかもあってグッときたわ~。 かつ、百人一首絡みの知識も満たされる。 作問者が気づけるかって問題はあるけど この作品の素材文適性はかなり高い印象。 問題文に…

  • きらめきの未来『ぶたのしっぽ』(海緒 裕)

    二度とキモイなんていわれないように、自分じゃない自分になり切ろうとしたんだ。(本文より) 今回は2ヶ月以上先に発売予定の新刊本。 ちゅうでん児童文学賞の大賞作品だよ~。 受賞作品は何年も連続で入試に出ている。 秘密の趣味と人に言えない苦悩に染まる 中二男子がヤングケアラーの不登校児と 関わるなかで心を開放するヒントを得る。 ヒトコトで言っちまうとこんな筋書きだ。 出番は多くないが主人公の祖母や担任の 先生のちょっとした気遣いが沁みたわ~。 野球部女子との微笑ましい関係も面白い。 本作では不登校の少年の独特の話し方が いくぶん硬質な印象を加えているんだが 軽妙な文体よりかは素材文適性にプラス。 …

  • そのとき何ができるのか『普通の子』(朝比奈 あすか)

    いつの時代も、人をいじめるのが楽しいたちの子が、一定数いるのよ。(本文より) いじめの問題を深く深く掘り下げた大作。 割と入試に出る作家の12月の新作だよ。 これは子どもには難しいし素材文適性も あまり高いとは思わないけど親は必見か。 主人公の大きな失敗は反面教師になるし もちろんよい対応もあって役に立ちそう。 教育に関心のある層に薦めたい一冊だよ。 オレは何かあったときのために保護者の 横のつながりは疎かにできないと感じた。 被害者と加害者の境目が際どい部分には 簡単に割り切れない現実を見た気がする。 ラストが風速100M級のインパクトの この作品へのレビュー要約版は以下だよ。 いじめは心を…

  • いのちを「いただく」ことの意味『ミルキーウェイ──竹雀農業高校牛部』(堀米 薫)

    人間、何かを突破しようとしたら、それなりの覚悟を決めるのが大事なんだよ。(本文より) 決戦の朝だけど気を紛らすために三連投。 なにか書いてないと落ち着かないのだよ。 2024年12月に発売されたばかりの こんな部活ありますシリーズの第4作目。 農ガールたちに光を当てた珍しい作品だ。 引っ込み思案の高校生が学校で実習用に 飼っている牛をお世話する牛部に出会い 普通では味わえない経験を重ねていく話。 彼女たちが大変な活動を乗り越えながら 何を吸収していくのか注目して欲しいよ。 都会で暮らす人には未知の話ばかりだし 学びっていう点では収穫の多い作品だわ。 原発事故エピソードは胸に迫りまくるし 日本の…

  • 鎮魂の響き『あの空にとどけ』(熊谷 千世子)

    がんばってるのにできないからしかたないじゃん、って言いわけを探した。でもそれは、つらいことから逃げだしただけかもしれない。(本文より) 命の大切さを訴える作品って貴重だよな。 小川未明文学賞等でも実績のある作家の 課題図書にも向いてそうな良質な新作だ。 本作では小学5年生の少女が家族を喪い 後悔にとらわれ身動きが取れなくなるよ。 そんな彼女が周囲の働きかけを受けつつ 一生懸命になれる物を見つけ立ち上がる。 序盤の重さがハードルになると思うけど たぶん中盤からは止まれなくなるだろう。 素材文適性が最も高いのもおそらく中盤。 主人公の心を動かす対話に注目したいね。 あとは終わりの方も問題に使えるか…

  • 運命は交差する『モノ』(小野寺 史宜)

    朝焼けの下で今まさに様々な交通機関が 受験生やその家族を目的地へ運んでいる。 書きもの集中するのが一番落ち着く俺は こんな朝でも平常運転中だったりするよ。 読むほうは文字が滑って頭に入らなくて 正直、まるっきり平常心じゃないけどな。 かなり前に読んだけどココでは未紹介の 割と入試に出る作家の夏に発売された本。 東京モノレールに著者が密着して描いた 沿線の魅力も伝わってくるお仕事小説だ。 誇りを持つこと、知恵を働かせること等 生きていく上でこの上なく大切なことを 物語を通じて教えてくれる作品だったよ。 駅や列車内で人の運命が交差する場面や 意欲的に働く社員の姿が魅力的だったな。 ひたむきに頑張る…

  • エース達の蹉跌『危険球』(木住 鷹人)

    もっと長いスパンで考えたら、結果なんてまだどこにも出てない。(本文より) 目下『アルプス席の母』が頻出だよな? 今回の紹介本も変わった野球小説になる。 10月発売の京都文学賞の最優秀作品だ。 甲子園の一歩手前というまさに大一番で 関係者の運命を一変させる事件が起こる。 後遺症のように前に進めなくなる彼らが いかにしてそれぞれの問題に対峙するか。 これが本作品の見どころになると思うよ。 プロ野球が学生野球より下に見られてた 時代の話など興味深いネタも多かったな。 審判員に敬意が湧く舞台裏も描かれてて 野球ファンとしては嬉しくなっちまった。 文章難易度は高いので小学生には難しい。 以下はこの作品へ…

  • 積極性が開く扉『カミオカンデの神さま』(松田 悠八)

    何の混ざりけもない水、即ち純水が実は 全然おいしくないだなんて知ってたか? この作品の中にそういう話も出てくるよ。 11月に発売された科学寄り児童小説で イタイイタイ病の元になった神岡鉱山の 跡地を活用した研究施設を題材にしてる。 ニュートリノの話をかみ砕いて描写する くだりもあり宇宙線の勉強にもなるんだ。 文章の難易度は普通といったところだな。 前に書いたレビューをちょっとだけ紹介。 想像力を羽ばたかせてくれる作品ですね。 主人公はノーベル賞の受賞に貢献した観測装置「カミオカンデ」がある町の子どもたち。 親を亡くした姉妹を軸にして、少年少女が素朴な疑問から生まれた謎に近づいていきます。 妹を…

  • そびえ立つ時代の壁『マンダラチャート』(垣谷 美雨)

    自分の方が勉強ができるから、人間としても上等だと思い上がっていた。(本文より) 昨年11月に発売されたエンタメ小説は ジェンダー問題に関心が強い人によさげ。 63歳の女性が自分の中学時代に戻って 本当の生き方をやり直そうとするって話。 今にして思えば異常としか言い様のない 男女差別が当たり前だった時代を描くよ。 読めば今が令和で良かったと思うかもな。 なにしろジェンダーへの意識が違うから。 ふんぞり返る男達だって疲弊しているし。 意気揚々と生き直す主人公はどうなるか。 予想外の展開になるのでたぶん驚くよ~。 例の4段階の分類では難しいに該当する。 以下、俺のレビューのひとかけらになる。 ジェン…

  • 信じられることの幸福『さくらのまち』(三秋 縋)

    昨年の9月に発売されたミステリ作品だ。 舞台設定がユニークなこの物語の中では 過去の体験によって感情の動きを抑える 青年の周囲で驚きの出来事が続発するよ。 明暗でいえばダークサイド寄りの比重大。 幸福も不幸も要は心の持ちようなのだと 登場人物達が反面教師的に教えてくれる。 そういう意味では良いストーリーだろう。 文章難易度は4区分ではやや難のレベル。 マイレビューは一部だけ以下に付けとく。 主人公は疑心暗鬼にとらわれた男。 傷つかないために張りめぐらす予防線でがんじがらめになっていた彼が、自分を変えた過去と向き合い、こだわりの中核にあった女性の本当の姿に近づいていきます。 人生を狂わされてしま…

  • バカ男子だっていいじゃない!『あの夏のクライフ同盟』(増山 実)

    バカがバカのまま突き進んでも許される季節。それがあの頃だった。(本文より) 桜蔭中で出た重厚な作品が記憶に新しい 増山先生の先月発売されたばかりの小説。 約50年前の田舎町で、個性派ぞろいの 4人の少年たちが躍動するストーリーだ。 メチャメチャ面白いんだけど子どもには 薦めづらい要素も含んでいるんだよな~。 実際、本文中にこんな一文もあるわけで。 あの頃の話をする時、どうも性的な方向に行きがちになるのは許してほしい。(本文より) ちょっとリアルすぎるのがヤバイんだわ。 とはいえ作問ではそういう箇所を避けて 出すのはまったく珍しくないのも事実だ。 素材文適性は後半のほうが高かった印象。 終盤の自…

  • 出題されるかもしれない新刊本(2025年2月前後)

    これからも興味深い作品の発売が続くよ。 以下のリストは未読のものばかりなんで、 問題文に向かない本も多分含まれている。 1/29発売 『オリオンは静かに詠う』(村崎 なぎこ) 競技かるたに挑むろう学校の少女を描く。 2/12発売 『声に出せずに叫んでる』(朝霧 咲) 高2男子の周囲で起こる不可解な出来事。 2/15発売 『もし、自分に負けそうになったら』(令丈ヒロ子,黒川裕子,山崎ナオコーラほか) 自己肯定感のピンチによりそった短編集。 2/15発売 『もし、親友をねたんでしまったら』(山本悦子,四月猫あらし,森川成美ほか) 嫉妬の苦悩を抜け出す鍵をくれる短編集。 2/19発売 『願わくば海…

  • 轟く熱量と勇気『団長とエース』(栗山 圭介)

    自分は男を下げるために応援団に入ったわけじゃない。(本文より) 今期は野球小説が良く出ているので紹介。 かなり前に他でレビューした作品だけど こちらで書かなかったのには理由がある。 主人公は暴力団組長の息子で乱暴すぎる 言葉づかいや喫煙シーン、暴力沙汰等が 素材文適性を吹っ飛ばしていたせいだよ。 正直、俺はこういうのも好きなんだけど。 ブラスバンド部の熱量とかも刺さったし。 だがまぁ、野球部にエールを送る意味を 主人公が考える部分や援団改革パート等 上手く切り取れば問題文になるかもな? 文章難易度についてはやや難に分類した。 昭和の価値観を遠慮なくぶっこんだ本に 俺が書いたレビューを一応つけて…

  • 稲妻の青春小説『ノウイットオール あなただけが知っている』(森 バジル)

    SNSって嫉妬・妬み、そねみの略だから。(本文より) 松本清張賞を受賞したという触れ込みの 2023年7月に発売された準新作だよ。 思い切り奇をてらった5種のジャンルは 刺さるものとそうでないものの差が激烈。 『青春小説』は突き抜けて良い方だった。 丁重にお断りさせてもらうわ、に対して そのお断りをお断り、と切り返すような 会話のノリもストーリー展開も良すぎる。 後半に素材文適性を落とす要素も含むが イチオシはやっぱりこの短編になるな~。 次にいいのは短歌がきっかけの恋愛小説。 文章の難しさはやや難といったところで 以下はちょっと前に俺が書いた感想だよ。 多彩なジャンルの作品が絡まり合うように…

  • その願い、承った!『繭の中の街』(宇野 碧)

    ぐちゃぐちゃに壊れないと新しく始まらないものも、あるの。(本文より) 『レペゼン母』で時の人になった作家の 昨年3月に発売されたアンソロジーだよ。 SFからそうでないものまで多彩だけど 子どもに見せられない短編も含まれてる。 それゆえ紹介してこなかったわけだけど レビューした時の下書きを見返してたら 適性微妙にアリという掌編があったわ~。 『秋の午後、神様と』は9歳が中学生に 願い事を伝えるっていうほっこり話だよ。 ま、◎〇△の素材文適性分類にあてると △未満なので出る可能性は低いかもな? 大人が読む分には面白いだろうこの本に 俺が書いたレビューを一応紹介しとくよ。 不思議な雰囲気を纏う短編集…

  • あの名作に親しめる『文庫旅館で待つ本は』(名取 佐和子)

    自分を愛していない人間が、他人に愛を与えられるわけがないんです。(本文より) 誰もが知っている文豪の名作が出てくる 2023年12月に発売された作品だよ。 少年たちの卒塾旅行のエピソードの中に 子どもに見せたくないパートがあるので ここでは紹介してこなかったが、面白い。 何でも見通すようで抜けている若女将と、 文豪の意外なエピソードが楽しい作品だ。 例の難易度分類では難しいに入るレベル。 以下は昨年5月に書いたレビューの全文。 本当の気持ちを大事にしていい。 そう優しく語りかけてくる短編集でした。 舞台は戦前の本ばかりを収めた文庫を持つ老舗旅館。 しっとりとした若女将が、人生に迷う旅人におあつ…

  • 目指せ!最難関『今日も明日も負け犬。』(小田 実里)

    どうして、神様は自分の好きなものばかり奪ってゆくのだろうか。(本文より) 高校生が書いた作品ということもあって 文章に少しムラがあるかな~とは思った。 起立性調節障害当事者の視点は新鮮だし ズシッと胸に迫るものがあったのも事実。 塾の先生が素晴らしい高校受験パートや メディアミックスへの道は浮き立つよ~。 文章難易度はやや難といった水準だろう。 以下、夏に書いたレビューの一部になる。 学校が大好きな少女が、起立性調節障害のためにどん底に突き落とされ、苦しみもだえる日々のなかで、再起への手掛かりを掴んでいく物語です。 周囲に解ってもらえないつらさに、読んでいてしんどくなることもしばしば。 簡単に…

  • あふれる思いを詩歌に乗せて『そこに言葉も浮かんでいた 文芸部』(おおぎやなぎ ちか)

    小さい頃からピアノを習ってるあの子や、かっこよくサッカーボールを追いかけているあの子や、超がつく有名中学に合格したあの子と違って、へいへいぼんぼんなわたしは、この地面を地道に歩いていくしかない。(本文より) 創作者のこだわりの一端に触れられる本。 まれに入試で見る作家の12月の新作だ。 自身をモブキャラと思っている女の子の 着実な成長ぶりには目頭が熱くなるよ~。 個性を大事にしつつ切磋琢磨するなどの 先輩が示す表現者の心構えも素晴らしい。 戦時中、時局に逆らって創作した人々の 魂の作品にも触れられていて尊いんだ~。 著者の平和への思いが刺さりまくったよ。 あえて俳句に季語を入れない無季派など …

  • 成し遂げる力『正射必中! 弓道部』(斎藤 貴男)

    こんな部活ありますシリーズ第三弾だよ。 野球一筋だった少年が怪我をきっかけに 弓道部で心を鍛え直すように促される話。 いやいやながら弓道部に足を踏み入れて やがてその魅力に気づいていくんだわ~。 弓の所作を野球にたとえる視点が新鮮だ。 この本は前半が好きだが後半はちょっと 弓を武器にっていう部分が引っ掛かった。 別の著者の作品のときにも書いたけれど こういうの経験者は似た感情を抱きそう。 主人公がダメな自分を受け容れる部分や 誤りを素直に謝罪する部分は好きだな~。 主人公の成長ぶりにも心を動かされたよ。 難易度はかなり平易で読みやすいだろう。 以下、俺のレビューの序盤からの抜粋だ。 主人公はカ…

  • 閉塞感をぶん投げる『ハローハロー』(九津 十八)

    たぶん私達って似てるんだろうね。自分は不幸だって思ってて、だから自分より不幸な奴を探して安心したい。(本文より) ハナショウブ小説賞テーマ部門大賞作品。 あと1週間ほどで発売される新作だけど どこまで流通するかはまったくの未知数。 ヘラヘラした仮面を貼り付ける中学生が 困難に真正面から向き合う少女と関わり 堂々とした生き方に目覚めていく物語だ。 大方の予想をいい意味で裏切る展開だわ。 ちょっと仰天するようなパートもあるし。 ウジウジ少年の変りっぷりが気持いいよ。 で、ハキハキ少女の生きざまは清々しい。 難易度はやや難といったレベル感だった。 以下、オレのレビューからの抜粋になる。 主人公は吃音…

  • “魔法の音”は心地よく『ヒカリノオト』(河邉 徹)

    音楽に勇気づけられ、何もないところから力が湧き上がってくる。(本文より) 作問選書もたけなわのころに発売された 読み友さんたちの評価がもの凄い短編集。 音楽業界の片隅で足掻くアーティストが 置き土産のように残した渾身のソングが めぐりめぐって人々の運命に働きかける。 一言でいうとこんなストーリーだったわ。 とりわけ素晴らしかったのは、第一話の 恩返しを生きがいと決める青年の心意気。 動画作りにのめり込む青年の話も面白い。 彼の危うい恋路からは目が離せないよ~。 素材文適性が高いのは『マホウノオト』。 音楽センスに恵まれた高校生が合唱祭で 思わぬ経験をするっていう青春小説だよ。 クラスメイトの優…

  • 尊敬される生き方『さよなら校長先生』(瀧羽 麻子)

    時折、胸の内で燃えさかる感動を、誰かに伝えたくてたまらなくなる。(本文より) 主人公は9歳女子から60代男性までの 6人という実に色とりどりな連作短編集。 入試でおなじみの作家の12月の新作だ。 尊敬される教育者だった先生と関わった 人々の視点で故人の解像度を上げていく。 あくまで子ども第一という出発点で考え しなやかに現実に落とし込んでいこうと 考え行動する先生の姿が印象的だったよ。 素材文適性は1章、6章、5章の順かな。 問題文にしやすそうなくだり 1章◎小3男子の学校トラブルに神対応 6章〇小5男子のその後を変える出来事 5章〇小3女子の後ろめたさを受容する 6章△教育実習生の勇み足への…

  • 魂を灼かれるような『17歳のサリーダ』(実石 沙枝子)

    高校二年生になるものだと、去年の今頃は疑いもしなかった。(本文より) 今年の受験者数日本一は5千人が受けた 1/10の栄東Aの東大クラスだったな。 そこで著書が使われたことで注目される 作家の12月に出たばかりの新作だよ~。 素材文適性は出題作を100だとすると 今作は300にも400にもなるだろう。 有数の進学校にしてお嬢様学校から離れ 漠然とした不安に溺れそうだった少女が 運命の出会いを機に浮上していく物語だ。 人生で経験することはすべてが糧になる。 いま見えてる世界なんてちっぽけだから。 こんな理念がじわじわ伝わってくるよ~。 迷いを断ち切ったり、受け入れたりする きっかけをくれそうな作…

  • 誰もが持ってるオモテ裏『やなやつ改造計画』(吉野 万理子)

    悩んだときは、とにかく、自分がいいと思う方向に走りなさい、汗をかきなさい。(本文より) たまに入試に出る作家の明後日発売の本。 最近の著書の中では素材文適性が一番だ。 友だちにも微妙な評価をされる中学生が 人気者になる秘訣を探してジタバタする。 前半をまとめるとこんなストーリーだよ。 主人公への遠慮ないツッコミが笑えた~。 そこには親しみもにじみ出てていいんだ。 彼らの組織運営のための情報収集からは リーダーの仕切り術まで学べてしまうよ。 リアル政治家の助言にも金言が多かった。 感謝するネタをいつも探そうという話は たぶん自分自身の助けになる気がするな。 興味深かったのは、終盤のスマホ絡みの …

  • 紹介作品からの出題(2025年度中学入試の国語出典・随時更新)

    例によって、ほとんどだれも見ていない サイトからひっそりとお知らせするよ~。 俺なんかでは一部しか拾えないんだけど、 旧作も含めて紹介本から出た学校のうち、 現時点で判明しているものは以下の通り。 『アルプス席の母』(早見 和真) 海陽中等(Ⅰ)、愛光 『リカバリー・カバヒコ』(青山 美智子) 栄東(東大特待) 『物語を継ぐ者は』(実石 沙枝子) 栄東(A東大) 『きらいなあの人』(工藤純子, 蓼内明子, 花里真希, 黒川裕子) 栄東(A難関大) 『八秒で跳べ』(坪田 侑也) 開智(②) 『この夏の星を見る』(辻村 深月) 函館ラ・サール 『家族シアター』(辻村 深月) 佐野日大 これからまだ…

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