流転川の水は同じ水ではない川面の泡は消滅生成を繰り返すけれども川は川そして川もまた姿を変える個々の仮象を貫いて流れているものは何かそれは固定せず変化しているそれでも何かが貫いている固定した実体ではない変化しつつ同一であるものそれを固定化なく認知せなばならない流転するから何もないのではない流転するからこそ何かが創られる流転するからこそ存在は存在たり得る第973日流転
殺生殺して食べる残酷だがそれが生存の基本われらは植物ではないだから殺して食べるのはいいことなのだ殺され食べられることもまたジャイナ教徒は根菜も食べない土中の虫を殺さないようにとそれは慈悲というより生存への忌避ではないかどちらを選ぶのも自由だけれど私は殺して食べることを忌避しないそこに少しばかりの悲しみが伴うことも第972日殺生
聖なる感情聖なる感情というものがある私の感情でありながら私のものではない感情真実を探り当てた時善きことをなし得た時美に出会った時激しい震えとなって身を貫く遠い峰々を眺める時海を前に佇む時深い森に溶け込む時甘やかな哀しみとなって心を溶かす喜怒哀楽とは違う恋情や勝利の高揚とも違う安楽の幸福とも違うもっと高みにある感情ある種の音楽絵画や彫刻や詩や小説時には祈りの言葉そこにも聖なる感情は刻まれるその感情だけで生きたい疲れさせる世の感情は捨ててそうすれば私は幸せになれるだろうそれは強欲というものだろうか第971日聖なる感情
色光は色風も色せせらぎの音も色香りも肌触りも色思いも色感情も色人も色いのちも色われらが見る色を超えて形態の万華鏡を超えて色が宇宙を織りなす色に染まり色を織りなしわれらは宇宙に色を添える第970日色
未来子供たちはどんな文明を生きるのだろうわれらが生きた文明とは違うものだろうか学生運動やカウンターカルチャーやニューエイジやポストモダンその高揚と幻滅はそれ自体一つの文明としてわれらの心に刻まれた子供たちはこれから何に高揚し何に幻滅するのか何かに操られたりしないかわれらは彼らの風景を見られないただその底にわれらを駆り立てた情熱と同じものがあることを願う第969日未来
人工の操りこんなに人工の物ばかりなのにさらに人工の世界に踏み入ろうとするそれが本当に面白いことなのか人の操りに身を任せているだけではないか操作された安楽の中で束の間の歓喜を味わい過ぎゆく時をやり過ごしその先には空虚がある嵐よ起これ山よ火を噴け操りではなく激しい打撃をもたらせ設定された快楽を味わうのではなく未知の苦楽と闘うその戦場が生命には必要なのだ第968日人工の操り
存在美美は芸術の中にだけあるのではない一つの態度一つの仕草一つの表情の中に美はある富がなくとも地位がなくとも技能や才能がなくとも美は実現できる生きる姿として美は存在の根源醜悪は存在の否定存在はすべて美をなし得る美を知らねばならない美を求めねばならないそれは存在の責務第967日存在美
後生一遍さんは山道で盗賊に出会った時にわんわん泣いたお前たちの後生が悲しいと私も泣かねばならない私の後生が悲しいと後生をよくする力もないと実際泣いている仏様にすがるしかないかけれどすがってよくしてもらうなんてズルではないか仕方ないね悪い後生を受け入れることだそこで少し利口になることを願うことだ第966日後生
不遇の名作あまり知られていない名作というものは少しくやしくもどかしいあの超有名な弥勒坐像の反対側に佇む不空羂索観音像もそんな不遇の名作だほとんどの人は弥勒像だけ見て立ち去る単独で伽藍に鎮座していたらと思うこちらのそんな思いなど気に掛けず観音像は静かに微笑み光を発しているまあそれでいいのだよと言うように第965日不遇の名作
混沌混沌を見るのは楽しい毎朝ニュースの見出しを眺めて世にはこんなことが起こっているのかと頭をくらくらさせるのは楽しい混沌万歳混沌は偉大だ世も混沌私自身も混沌単純な原理を立てたところで混沌が捉えられるわけでもない模擬予測をしても混沌はせせら笑う原理法則とそれを逸脱し壊すものその不滅の葛藤をそのまま味わうのが楽しい第964日混沌
流刑ここは流刑の地思いは形をなさず心と心は不和に騒ぐ安らぎをもたらす歌もなく苦役に肉と骨は軋み蓄えは砂となって崩れるわずかに舌を潤すのは壊れた希望の残骸何万の苦役の日々を過ごし刑期満了となるのかそれともまた流刑の身となるのかわずかな休息日に丘に登り重くたれ込めた空の向こうを眺めるそれだけが流刑の目的なのか第963日流刑
風は神風は人を殺すこともできる山の嵐も竜巻も風が吹き続けていると何も考えることができない物陰に入ってようやく心は戻る風は人の心の敵けれど風がないと地球は死滅する海流すらも消滅する風は巨大な生命活動小さな命を育みもし殺しもするわれらが愛そうと憎もうと気にも留めない風もまた大いなる神第962日風は神
自由な体体を自由にできたら何をしたい?食わなくても済むようにするかどれだけ食っても平気なようにするか性欲をなくするか毎日セックスしても平気なようにするか眠らなくて済むようにするかきっちり快適に眠れるようにするか無病で長生きというのがほとんどの人の望むことだろうけどどれだけ生きたら気が済むのかしら私が願っているのはその時が来たらぽっくりと死ぬことかなついでに屍も消し去れたらいいね第961日自由な体
マウント合戦そんなに人を見下したいなら善性で秀でればいいのに人はなかなかそうしようとしない詰まらぬもので武装してばかりいや善性の人は人を見下したりしないか憐れむことはあるかもしれない私は知らない人を見下したいのは傷つけられるのを恐れて怯えている子供が内にいるからかそれを救うすべはなかなかない傷だらけになってもへらへらしている聖なる愚直を身につけろということか第960日マウント合戦
その道だから面白い人生だったらそれで手一杯だったろう安楽な人生だったらそれに浸り切っただろう苦しいことがそこそこあり悲しいことがそこそこあり間違ったことがたくさんあり罪を犯したこともたくさんありそうして私が獲得してきたものそれは私ならではのものほかの道では得られなかったもの私の手にある真理を大切に思うなら私の人生はよかったのだ第959日その道だから
永遠と精神宗教の教義やビッグバン仮説はまやかしの永遠真の永遠を隠す永遠は時間の観念ではない始まりがあって終わりがある直線的な時間ではない様々な時間軸の交錯その彼方にその奥に永遠は存在する今ここの場と遠い光が一つになるそこに永遠は存在する第958日永遠と精神
聖なる詩宗教の語彙は結局のところ詩だ啓示や直観の生み出す表現だ公共の議論に乗るものではないその詩に陶酔していくばくかの人は生活を変える詩のフィルターを通して世を見るそれが正しいかどうかの答えもない世を超えたもの形象の奥にあるものそれは詩によってしか捉えられない曖昧や可謬性は宿命われらはあがくしかないただより純粋な詩を求めて第957日聖なる詩
外部外のものとつながろうとするその情熱がなければ精神は腐敗する異国の文物未知の知識宇宙の彼方そこにいる愛しい人の心の営み老いていくと外とつながろうとする意欲はなくなるそれは確かに死への歩みけれども魂は外を求めるこの世のすべてを超えた外を確かなことは何も現れることはなくとも第956日外部
刑事ドラマ刑事ドラマはマンネリでもそれなりに楽しめる小さな何でもない事物が真実へと導くところがそれは知の愉しみ小さな事物が大きな真実を開く科学でも哲学でもそれは同じだろう小さな事物と大きな真実それがあれば世は幸せけれどそれは滅多にないそれでもわれらは刑事になって小さな事物から真実を探らねばならぬ身の回りにある凡庸な事物から第955日刑事ドラマ
新たな悪魔麻薬よりも恐ろしい新たな悪魔が世にはびこりつつあるとりわけ若い人々に新しい雑草が古い雑草を放逐していくだけならいいがこの雑草の繁殖力は桁違いどこにでも入り込むが派手な災厄は起こさないそれが逆に不気味この悪魔を人類は押さえ込めるのか破壊されるのは一部なのか世はもっと恐れなくていいのか第954日新たな悪魔
泣く子何もできないと泣く三歳の子供に私は戻る言われたことがうまくできない人に何かをしてあげられない生きてきた間何度もそうだった老いてきてますますそうなっているそれなりに必死で生きているのに何もできない悲しさに泣くいっそ自由で気ままで身勝手な子供に戻ろう何ができなくても構うものか毒にも薬にもならず世の片隅で独り遊んでいる幸せな子供になろう第953日泣く子
腸重悪いものを食うと重力が三倍になったように体が重くなる『綿の国星』にもそんな場面があった乳糖不耐性の日本人のせいか牛乳やバターは好きだけと体が嫌う西洋料理屋で食べた後動けなくなったこともある重力を感じているのは胃腸ではないかなどと妙な考えが浮かぶ腸内細菌が人間を支配しているという説も最近は出ている美や善も腸が判断していたりして第952日腸重
残響無数の人々が永遠の美を求めて格闘してきたどんな文明においても永遠を奪われた現代人はどんな美を追求しているのか人間の知や情が相手なのか永遠の不在という永遠に向かうのか永遠は幻ではない手に入れることはできぬが求めるその先に逃げ水のように現れるその永遠への格闘の残響が芸術としてわれらの前にあるわれらはそれを聞けるのだろうか第951日残響
*千日詩集も950日になりました。何とかたどり着けるかな。もう終わりだからコメントOKにしました。ないとは思うけど。帰郷私は故郷を見出したこうやって詩(のようなもの)を書いている時それが私の故郷なのだ回想し夢想し思索しかすかな光と美を探って言葉と格闘する楽しくはないがずっとしていたい日光の僻村でもなく信州の山麓でもなくどこでもが故郷なのだたとえ監獄の中にいても紙と鉛筆さえあればそこが私の故郷になるだろう第950日帰郷
夭折ちゃっちゃっとやることやってさっさと向こうへ帰るという人生だったらよかったと思ったりもするけれどやることがひとつかふたつというようなことがあるのかどうかおおかたの人生はもっと複雑でカオスのような気もするけれどわが人生を顧みるにあまりにカオスすぎてやることなどあったのか怪しくなるそんな乱雑に呆れ果て一つでも秀作を遺して夭折する天才の人生につい憧れてしまう第949日夭折
弾創強くなるため懸命に空手を習ったのに相手は機関銃を持った軍団だった実際の武闘の話ではなく心の戦闘の話人生そんなことばかりいくら防弾服で身を固めても弾はしょっちゅう通過する時には思わぬ方向から飛んでくる満身創痍で生きながらえるそう腹をくくるしかない誰もがみんな傷だらけなのだと心の心臓は奥の方にしまっておくことだ撃たれて大怪我をしても死ななければまし第948日弾創
掃除した家家の中をきれいにしたら悪霊が入り込んでくるそうイエスさんは言った空っぽじゃだめなんだよといくら外との行き来を断っても窓や戸口はある電子機器の画面を通しても変なものは入り込む家の中には主が必要悪霊が入って来ないよう追い出せるようその主とは何かね教条的な宗教ではないだろうよそれはむしろ悪霊かもしれないし第947日掃除した家
体体を持っていることがつくづく嫌になってきたジジイになったせいでもあるが人生を総観すれば体は重荷だ若い頃はセックスやスポーツがこの上ない悦びだった生命力に溢れた自分の体も嫌いではなかった体を悦び体を厭うその経験は何になるのかそのうち体は反逆するだろう私を苛め悲鳴を上げさせるだろうそれもまた必要なことなのか第946日体
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