山山に入ると死が魅力的になるすぐ傍らに優しくそれはある大きないのちの中に呑まれていきたいゆっくりと満ちてくる海に砂の城が呑まれていくようにそれを味わいに人は山へ入る死を取り戻すためにそれでも人は山から帰る小さく研がれた自分を持って大きないのちの余光と共に第761日山
魅了魅了してくれるものが少なくなっていくそれが老いるということかああもっと魅了されたい育ってしまった我が邪魔をしているのか知や理が幕を掛けているのかそれともただ飽きたのか得体の知れないものとてつもなく美しいもの恐ろしく清らかなものいやそうではなくそこらにある木っ端や土くれにもう一度魅了されたい第760日魅了
和漢和歌と漢詩とその二つを並行させて日本人は歌を詠んできた和歌は情深く漢詩は凛々しく近代の詩の中では和語と漢語はぶつかり合う漢語を使えば冷たく固くなり和語を使えばたおやかになり日本語は分断を抱えているどれを使うかで人格まで変わる日本人は多重人格なのだろうかおまけに外来語まで加わって混乱が増す叶うならば和語だけで生きたいけれどもそれではどうにも間延びする第759日和漢
集散集結し拡散するその拍動が存在の基盤かすかに引き合う力によって粒子は集まり姿を作る力がさらに強まると熱を帯びて爆発するわれらもまた何かを引き寄せ集め何かを生み出し拡散するエントロピー増大の法則は間違っているのだのっぺらに均衡した状態などどこにもないそれが創造された宇宙ということだ第758日集散
逃避何かを考えたり書いたりするのは一種の逃避かもしれないそこでは何も私を襲いはしない反駁するのは自分自身だけ思いを拡げ言葉を探り静謐な庭の中に一つの像が結ばれるしかし私は生きるために帰っていく荒く凶暴な世にそしてまた傷を負って戻るやがて私の庭は像に溢れ世より大きくなるだろう世に戻る必要はなくなるだろう第757日逃避
幼稚園――天使のつぶやきこの世っつうのはさ幼稚園なんだからよくも悪くもならないんだよ幼稚園は幼稚園のままでいいのさ幼稚園が中学や高校になったら幼稚園生の行き場がなくなるでしょ幼稚園を卒業できたらもっと上の世界に行くのさこの世は幼稚園で君らは皆幼稚園生愚劣でもしかたないんだよそう思えば気も楽になるでしょ自身と世の幼稚さに本当に気づけばもう幼稚園は卒業になるでしょうよ簡単な話じゃないけど第756日幼稚園
語り得ぬもの語り得ぬものには沈黙しろと言ったのは誰だったか余計なお世話だ語れるものを語っても面白くなかろう語り得ぬものを語るのが詩人や哲人の役割だろう間違った夢想であったところで誰も聞かないというだけの話だ夢想や空想が世界を豊かにしてきた混乱や過誤も含めて理性の眠りに沈むくらいなら夢想を撒き散らしたほうがましだたとえそれで人生を荒らしてしまっても第755日語り得ぬもの
信仰信仰というものがそのまま善ではないことをむしろ悪でありうることをカルトは見せつけてしまったそれは大打撃だった人の魂が持つよきものへの信仰も破壊されかかっている唯一をめぐる覇権争いも衆生を敵視する選民思想も信仰が生み出す信仰を全面的に捨てるのか保ち続ける道を探るのかわれらは壁にぶつかっている第754日信仰
コントロールエリートたちは世界をコントロールしたがる知恵なき者もまた世界がコントロールされていることを望むとてつもない災厄がそうやって起こるそのことを知っている者はわずかしかいない遺伝子編集も情報統制も根は同じその中で死んでいくのは実は人間自身だコントロールされた世界からはじき出されて第753日コントロール
ふてぶてと愚行や破廉恥をたくさんしてきたけれど手や足をもがれたわけではない幸いなことに心の中はじくじく痛んでも飯が食えないというわけでもなく眠れないということもない図々しくもいいじゃないかそれも勉強のうちさ無明の苦しみが無明を破るのだまあふてぶてと生きましょうやわれらは生きることを許されている愚行や破廉恥を犯すことも第752日ふてぶてと
鉛筆鉛筆が懐かしいものになってしまったかつてあれほど親しみ使いこなしていたのに高級品の滑らかさは心地よく安物の引っかかりも楽しかった2Hの冷たい線は緊張感4Bの粘る黒は力動感ボールペンになりキーボードになり指と物の細かな睦み合いは消えた思い出すと少し淋しい鉛筆を買ってきて何を書くでもなく楽しもうか第751日鉛筆
叫び叫びは私のものではなく存在そのものの叫びにならなくてはならない出来事の苦さ辛さの叫びではなく満たされぬ思いの叫びではなく救いを求める叫びですらなく存在そのものの叫びを存在は恩寵であり同時に悲劇だ孤絶と合一に引き裂かれるその絶対的な矛盾の叫びを叫びは何もならないだがその純粋な振動がすべての存在をかすかに振るわせるだろう第750日叫び
追従者追従者や信奉者であり続けるなどどうしてできるのか学び終わったらその先へと進むそれが生の運動だ留まることは死だ誰かの思想を実現するなどということをしてはいけないそもそもできない思想も作品もその中で一度死にそして突き破って戻ってくるものだそれが生の豊かさであり宿業だ第749日追従者
濫用薬物の濫用正義の濫用人生の濫用人は濫用が好きだ私もかつて情熱を濫用した理性など吹っ飛んだ痛い苦い記憶思い出したくもないブレーキがはずれる氷の上を滑り出しそして裂け目に落ちる愚かだとしても生は溢れる余剰なのだからとても理性などに手に負えるものではない第748日濫用
全人性思考を鍛錬せよ感情を涵養せよ直観を研ぎ澄ませ感覚を精緻にせよ快楽と禁欲を楽しみ愛と孤高を悦び聖性を熱望し知恵を主人とせよ肉体をいとおしみ心を鍛錬し魂を見出せ人間の全体性を獲得するには長い長い道のりがあるわれらは皆それを辿らねばならぬ第747日全人性
塩塩が好き辛塩の焼き鮭とか葉唐辛子の佃煮とか新潟の味噌漬けとか体に悪いそりゃわかっているおまけに高血圧気味だから厳禁かもしれない塩がなかったら食べ物は台無しだけれど塩はそれだけでは食えない神の国の使徒もそうだとイエスは言った世の大半が塩になることはない塩は少しでいいけれど今の世は少しの塩気も嫌う第746日塩
イディオ・サヴァン床に散らばったマッチ棒の数を一瞬にして数え上げたり何桁にもなる素数を数秒のうちに探し出したりイディオ・サヴァンの数字能力はいったい何なのか彼らは数をわれらとは別の方法によって認知しているのかわれらの知的推理は完全に破綻する数というものについても脳と精神というものについても認識にしろ精神にしろ実はわれらは何も知らないそれがわれらが知り得ること第745日イディオ・サヴァン
自由多くの人にとって自由はさして価値はない自由よりも安心のほうがいい自由を活かせる人は少なく悪用する人は多い自由を前にすると恐怖する人も多い自由の益は少ないように見えるけれど自由を殺してしまったらその社会は死ぬしばらく安寧を得てもやがて死ぬしばらくの安寧のために今自由は殺されようとしている自由を失った人間は安寧によって死ぬ第744日自由
愛蝶蝶と蛾は厳密な区分はないらしいけれどわれら日本人には蝶は美で蛾は忌むべき敵不思議だね誰かがそんなふうにし向けたのか悪意をもって蛾を創ったやつがいるのかそして蛾は多く蝶は少ない誰か金と暇にあかせて蝶を大量飼育して東京の空を蝶だらけにしてくれないか蝶など要らん虫はすべからく排除したいというのが大方の意見だろうか第743日愛蝶
理性理性という言葉は好きではない己を省みて理性的などとは言えないけれどもあまりに理性に欠ける姿を見せられると理性を賞揚する側に回りたくなる現実はわれらに課せられた共通の土俵理性はそれへ繋ぎ留めてくれる土俵を降りるのなら自らも他者も危険に晒すそのことすら理性なしにはわからない第742日理性
セラピーの魔術故・河野良和先生に心のテーブルの上には九個くらいの思いが乗っているしょっちゅう入れ替わりながら少し減ったり増えたりしながらそのうちのいくつかが悪さをするあまり光の当たらないところでじゅくじゅくと毒を出すさあてこれをどうするかそう簡単には手当てできない少しずつ意識化して……そこから先は天才にしかわからない理屈で真似ても虚しいセラピストは幾分魔術師に似る第741日セラピーの魔術
手を差し伸べる人の言葉や働きかけが人を劇的に救うことがある熱い思いやりはもちろん小さな一言でさえもけれどそれがゆえに人は幻想を持ってしまう人に救われるのではないか人を救えるのではないかと人を変えるのは至難の業どんなことをしたところで持ち味や運命が変わることは少ないそれでも機縁があったなら手を差し伸べるのだたとえ間違いや無駄であったとしても第740日手を差し伸べる
世の終わりもうすぐ世界が終わるかもしれない世界ががらりと変わるかもしれないそれでもいいんだよわれらはわれらだ世界がよくなることはいいことだし世界が悪くなることは悪いことだけれどわれらはわれらそこでよくなるか悪くなるか世と心中するのも一興だけれどそればかりでは芸がないちょっとは頭をもたげてみるとか阿鼻叫喚は苦しいけれどそこでも何とか自分を保てるかそれがささやかな希望第739日世の終わり
音楽美同じ音の連続は曲にはならないけれど時に同音連続が至上の調べになるG線上のアリアの冒頭は恐ろしく長い同音連続低音部が彩るとはいえあの連続は不思議な至上の美音楽の美の神秘は不可解何が美しいのかどうして好みがばらばらなのか音楽はイデアに近いのか空気や香りのようなものなのか音楽の秘密をもっと知りたい第738日音楽美
氷の下南極の氷の下にはどんでもないものが埋まっているかもしれないそういう憶測がたくさんある古代文明の遺跡巨大火山宇宙人基地謎の支配組織(笑)手の届かないところにはきっと何か不思議なものがあるそういう想像は楽しいわれらの意識の下にもたぶんとんでもないものが埋まっているどうにかして手が届かないだろうか第737日氷の下
女好き女好きと言われると変態扱いされたようではなはだ面白くないけれど私は女が好きであるそりゃ男だもの柔らかいしいい匂いはするし時にはいいこともできる男同士はどうしてもつばぜり合い獣のさがだから仕方がないが勝った負けたと面倒くさい女の柔らかさに身と心を委ねるのはいいけれどしばしば柔らかくなかったり奥に恐ろしい刃を隠していたりするから困る第736日女好き
太陽この夏の酷暑は間違いなく太陽の怒りだわれらは皆土下座して謝罪しなければならない人間と人間社会など太陽の力にかかれば一捻りそう真摯に思っていた古代人のほうが現代人よりはるかに賢い太陽は核融合する火の玉ではないそのことをいつになったら人間は知るのかわれらにとって現実世界は太陽系だけだとやがて巨大な太陽フレアが地球を襲い文明が崩壊してもそれでも人間は太陽の真実を知らないだろう第735日太陽
熱射石を焼くほどの太陽の熱を植物は真っ正面から受け止め命のエネルギーにしている狂気の沙汰だあのか弱い葉や細い枝のどこにそんな強さがあるのか私には想像もできないどんなに科学的な説明をされても太陽の光は受け取る者によってその性質を変えるのか生きている者には力を死にゆく者には崩壊を人間とその文明はどちらか第734日熱射
待つ何かを待っているいつも何かが来るのを待っているそれが人生なのかもしれぬそしてたいてい待っているものは来ず待つのではない出掛けていってつかみ取るのだそう猛者は言うけれど人事を尽くしたら天命を待たねばならない私はもう何も待っていない人生の終わりは待つというものではないそれでも何とか生きている心のどこかでは何かを待っているのかもしれないいまだ見たことがないものが現れるのを第733日待つ
自戒低劣なごたごたから逃れるためには自らを高めるしかない背を向けて逃げるのではなく足を泥に浸けたまま身を天に伸ばすのだそんなことをしても無意味だと悪魔は囁くそれを聞いてはいけない楽になるわけではないが息をつくことはできる高層の冷気は澄み切っている第732日自戒
甘き泉の園その小さい庭園は川へと下る斜面に迷路のような小径を巡らし高さの違う二つの池を抱いている趣の異なる景色がいくつもその中に畳まれいつ歩いても初めてのような構図に出逢う幼い私が愛した庭そして今も最も愛する庭叶うなら骨を埋めてもらいたい庭この地上にはいくつか愛する場所があるそのことを厭いたくはない第731日甘き泉の園
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