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2019/07/19

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  • ジャレド・ダイアモンド著、小川敏子・川上純子訳、『危機と人類 上・下』(日本経済新聞出版社)

    『危機と人類上・下』は上下巻合わせて1270ページを超える大作であるため、典型的な〈積読本〉となっていましたが、年末に手を付けて、1か月近く中断している期間の方が多かったですが、何とか読破しました。本書は一言で言えば、「危機の乗り越え方」についてのケーススタディです。まず、個人的危機とその克服のために必要となる要因と、国家的危機とその克服のために必要となる要因を明らかにし、両者の共通点・相違点を明確にします。その後に、著者がよく知る7か国の事例を詳細に見て、先に明らかにした要因にそれぞれ当てはめて分析・比較します。この類型化するのに必要な要素があれば、他の事例の分析にも応用でき、そこから学びを得ることも可能であろうと希望が持てる一方で、現在人類が直面している気候変動やそれによる資源枯渇・食糧不足やそれにま...ジャレド・ダイアモンド著、小川敏子・川上純子訳、『危機と人類上・下』(日本経済新聞出版社)

  • 五来重著、『山の宗教 修験道案内』(角川ソフィア文庫)2016/09/24

    『石の宗教』に続き、今度は『山の宗教』です。重なる部分もありますが、こちらは特に修験道に焦点を当て、世界遺産に登録された熊野や日光をはじめ、古来崇められてきた全国九箇所の代表的な霊地を巡って、それぞれの縁起や信仰・祭の他、各地に共通する信仰の根底にあるものについて考察します。平易な言葉で書き下ろされたものらしいですが、固有名詞だから仕方がないとはいえ、やはり漢字が多いですね。特殊な読みにはフリガナがふってありますが、それ以外にもちょっと私には読めないものがありました。目次第一講熊野信仰と熊野詣第二講羽黒修験の十界修行第三講日光修験の入峰修行第四講富士・箱根の修験道第五講越中立山の時刻と布橋第六講白山の泰澄と延年芸能第七講伯耆大山と地獄信仰と妙法経第八講四国の石鎚山と室戸岬第九講九州の彦山修験道と洞窟信仰ま...五来重著、『山の宗教修験道案内』(角川ソフィア文庫)2016/09/24

  • 書評:五来重著、『石の仏教』(講談社学術文庫)2017/03/03

    『石の仏教』は3年ちょっと積読本になっていましたが、ようやく手を付けて完読しました。賽の河原の積石やお地蔵さん、墓石に卒塔婆など仏教とは何の関係もないはずのものが日本では仏教の顔をして広く親しまれていますが、それがどこから来たのか、本書を読むことでその謎が解けます。目次謎の石—序にかえて第一章医師の崇拝第二章行道岩第三章積石信仰第四章列石信仰第五章道祖神信仰第六章庚申塔と青面金剛第七章馬頭観音石塔と庶民信仰第八章石造如意輪観音と女人講第九章地蔵石仏の諸信仰第十章磨崖仏と修験道全て、元は石に神霊が宿ると考えた古来からの庶民信仰に由来するのですね。辻に立つお地蔵さんは、実は元は道祖神で、その道祖神は元は祖霊が宿る石棒で、子孫を守ると信じられていたので、村の入り口などに立てて、悪いものが入って来ないように魔除け...書評:五来重著、『石の仏教』(講談社学術文庫)2017/03/03

  • 書評:横山和輝著、『日本史で学ぶ経済学』(東洋経済新報社)2018/09/21

    『日本史で学ぶ経済学』はタイトルから想像できるように日本の歴史上の経済現象を振り返り、今日のプラットフォーム経済や仮想通貨経済などの現象との本質的な共通点を探り、注意点や今後の展望のヒントを与えようとするものです。目次はじめに―経済学のレンズで歴史を学ぶとビジネスのヒントが見えてくる基礎編第1章貨幣の経済学(なぜ鎌倉・室町時代に中国千が流通したのか?他)第2章インセンティブの経済学(日光電気製銅所の「働き方改革」ー金銭的インセンティブ他)第3章株式会社の経済学(株主と経営者のインセンティブ関係ー所有と経営の分離他)応用編第4章銀行危機の経済学(なぜ銀行危機が起こるのか?ーゲーム理論による分析他)第5章取引コストの経済学(三井高利と荻生徂徠の共通点ー取引コストの正体他)第6章プラットフォームの経済学(商人と...書評:横山和輝著、『日本史で学ぶ経済学』(東洋経済新報社)2018/09/21

  • 武田晴人著、『日本人の経済観念 日本の50年 日本の200年』(岩波書店)1999/06/25

    この本は、十数年前、古本屋で買ったと記憶しています。ずいぶんと長いこと積読本のままでしたが、ついに手を付けて完読しました。本書の興味深いところは「日本人は勤勉」とか「日本型経済の特異性」だとか、そういったイメージを歴史的な資料を基に検証するところです。イメージはイメージに過ぎないことがよく分かります。江戸時代や明治時代初期の産業構造と明治時代後期ではすでに様相が違っているし、歴史的資料から明治初期の熟練職工たちは、たとえ工場で働いていても自立性を維持し、自分にとって十分な収入を得た後は出勤しないこともざらにあり、欠勤率が常時15パーセント前後だったというから驚きです。「おしん」などのドラマや文学作品で語られる女工たちの長時間労働は、勤勉だからというよりは、貧困ゆえにそうせざるを得なかったという外的要因によ...武田晴人著、『日本人の経済観念日本の50年日本の200年』(岩波書店)1999/06/25

  • 書評:高橋 敏著、『江戸の訴訟 御宿村一件顚末』 (岩波新書 新赤版)2010/01/20

    積読本の消化に当たり、民俗学の次は歴史かなと思い、本書を手に取りました。江戸時代の訴訟が実際にどう行われ、当事者たちにとって具体的にどういう意味があったのか、建前はともかく、実際にはどのようなことが行われたのか、そのようなことを「御宿村一件」を例にとって紐解くのが本書です。嘉永2年(1849)に御宿村で不法滞在していた無宿者が、同じく無宿者の集団二十二三人に襲われて殺されたことがことの発端で、この者を自宅に匿っていた農相兼業の村人源右衛門が本来なら検死の届出を出さなければいけないところ、無宿者を違法に泊めていたことを咎められたらまずいと思って、無住の寺の敷地に勝手に埋めてしまいます。しかし、隠しきれずに村全体で問題にされるものの、5人組の連帯責任や村長の管理責任に問われることを嫌って、内々に処理し、源右衛...書評:高橋敏著、『江戸の訴訟御宿村一件顚末』(岩波新書新赤版)2010/01/20

  • 読書メモ:岩下 宣子著、『図解 日本人なら知っておきたい しきたり大全』(講談社の実用BOOK)

    民俗学つながりで積読本を消化してきたので、内容的に近い本書『図解日本人なら知っておきたいしきたり大全』もついでに消化しようと手に取りました。ざっと全体に目を通し、興味を覚えた記事だけを読み込んだだけに留めました。というのは、本書はカラー図鑑百科事典のようなもので、通しで読めるような代物ではないからです。けれども一家に一冊置いておくべき本だと思います。挿絵もきれいで、レイアウトも見やすく、説明も分かりやすいです。まあ、昨今では誰でもスマートフォンを持ち、何か分からないことがあればググることで、冠婚葬祭等のやり方や作法、あらゆるものの金額の相場が調べられるので、一冊の本として本当に必要かというと、そこはちょっと自信を持って断言できないのですが、世の中にはネット検索が苦手な人もいるので、一定の需要はあるのかなと...読書メモ:岩下宣子著、『図解日本人なら知っておきたいしきたり大全』(講談社の実用BOOK)

  • 書評:常光 徹著、『魔除けの民俗学 家・道具・災害の俗信』(角川選書)

    積読本を消化しようと先月から民俗学関係の本を読み出しましたが、『魔除けの民俗学』はその4冊目となります。前回読んだ『しぐさの民俗学』と一部重複するところはありますが、〈魔除け〉や〈厄除け〉に焦点を当てているところが違います。個々のエピソードは非常に興味をそそられますが、やや事典的な羅列で、類似する各地の俗信の根底にある心意に関する考察が弱いような印象をぬぐえません。目次はじめに―俗信と魔除けI家屋敷と俗信第一章生死と境界の空間ー屋根と床下第二章植物と家の盛衰ー庭木の吉凶第三章他界への出入り口ー井戸II生活道具と俗信第一章人生の節目を象徴ー箒第二章祓う・拒む・鎮めるー蓑第三章禁忌と魔除けの呪具ー鍋第四章欺く・招く・乞うー柄杓III災害と俗信第一章地震と唱え言第二章幕末土佐の人と動物ー『真覚寺日記』より第II...書評:常光徹著、『魔除けの民俗学家・道具・災害の俗信』(角川選書)

  • 書評:常光 徹著、『しぐさの民俗学』(角川ソフィア文庫)

    積読本の消化にあたり、各分野バラバラではなくなるべく同じ分野の本を続けて読もうと思い、『おじぎの日本文化』に続いて本書『しぐさの民俗学』を手に取りました。ちょっとずつしか読み進められませんでしたが、なんとか完読しました。『しぐさの民俗学』とはいっても、前編しぐさについて考察しているわけではなく、日常的な忌事やお呪いの類もテーマごとに取り上げられ、それらの根底に横たわる論理や発想が何か考察されています。表紙になっている絵は《狐の窓》と呼ばれるしぐさで、特殊な指の組み方をして、その穴から覗くと狐狸妖怪などの異界のモノの正体を見破れるのだとか。これは他にも《股のぞき》や《袖の下覗き》のしぐさとも共通し、いずれも隙間から覗くことに呪的な意味があり、それによって怪異を見る、正体を見破ることで脅威を無効化するなどの働...書評:常光徹著、『しぐさの民俗学』(角川ソフィア文庫)

  • 書評:神崎 宣武著、『「おじぎ」の日本文化』(角川ソフィア文庫)

    たかが「おじぎ」、されど「おじぎ」。正直、「おじぎ」だけでここまで深掘りできるものとは思いませんでした。この「おじぎ」はどんな文化の脈絡ではじまり、いつどんな変容をとげてきたのか。著者・神崎宣武氏が「三三九度」をはじめ、日本人のしぐさに根付いている習俗儀礼や日本文化について、民俗学的な解明を行います。目次第一章外国人が見た日本の「おじぎ」第二章古典・絵巻物から「おじぎ」を探る第三章中世の武家礼法と「おじぎ」第四章畳と着物による近世の「おじぎ」変革第五章現代へと変転する「おじぎ」のかたち結論から言うと、現在、「道」のつく武芸や芸事の作法や学校教育などで知られる様々な礼は明治時代に完成・厳格化して普及し(始め)たものです。作法としての体系化への萌芽は室町期にあり、江戸時代の武家社会で発展していったようです。た...書評:神崎宣武著、『「おじぎ」の日本文化』(角川ソフィア文庫)

  • 書評:三橋健著、『カラー図解 イチから知りたい! 日本の神々と神社』(西東社)

    古事記・日本書紀の分かりやすい解説は数多くありますが、本書のように神話から始まって、ご神体や神社の分類、鳥居・本殿・拝殿などの建築様式の分類、神社の仕組みや神職の区分、お札・お守り・破魔矢・お神酒などの由来や意味、神社と人生との関わり、有名神社とその祭祀など包括的に図解してくれるものはあまりないのではないでしょうか。おそらく、細かいところでは正しいとは言い難い所が含まれているのでしょうが、門外漢または普段なんとなく関わっているけれど、そもそもの意味を知らないといった人にとっては非常に分かりやすい図解入門書です。目次【1章】日本神話と神々の系譜【2章】神社に祀られる神々【3章】全国展開した神社信仰の分布【4章】神社の仕組み【5章】全国の有名な神社【6章】暮らしの中の神々と神社【付録】全国の主な神社一覧Ama...書評:三橋健著、『カラー図解イチから知りたい!日本の神々と神社』(西東社)

  • 書評:下地 寛也著、『プレゼンの語彙力 おもしろいほど聞いてもらえる「言い回し」大全』(KADOKAWA)

    『プレゼンの語彙力おもしろいほど聞いてもらえる「言い回し」大全』は、2年ほど前に話し方や語彙力、プレゼン力関係の本を買いあさった際に購入したものですが、残念ながらそのまま今まで積読本リストの一角を占め続けていました。今月は、志を新たに、積読本を消化することにし、本書を手に取った次第です。読んでみて思いましたが、実は「積読」しとくほどのものではありませんでした。実に読みやすく、1つの言い回しに見開きを使い、左ページにイラストと標語などがあり、右ページに具体例と簡単な解説があります。目次第1章「自信を示す」言い回し第2章「興味を引く」言い回し第3章「驚きを与える」言い回し第4章「納得感を高める」言い回し第5章「信頼させる」言い回し第6章「共感を得る」言い回し第7章「決断を促す」言い回し他の類似書で取り上げられ...書評:下地寛也著、『プレゼンの語彙力おもしろいほど聞いてもらえる「言い回し」大全』(KADOKAWA)

  • 書評:アルベール・カミュ著、窪田啓作訳、『異邦人』(新潮文庫)2021/12/28

    『異邦人』(新潮文庫)は4か月ほど前に『ペスト』と一緒に安売りしていたので購入したのですが、そのまま積読本と化していました。しかし、2年前の積読本リストが思い出としてFacebookのフィードに上がって来て、「そうだ、積読本を消化しなくては」と思い立ち、手始めにカミュのデビュー作『異邦人』を片付けることにしました。1942年に刊行された本作は著者の出身地でもあるフランス領アルジェリアのアルジェを舞台としており、当時の「今時の若者」だったムルソーの母が養老院で亡くなったという知らせを受けるところから始まります。休みを取って養老院へ行き、母の埋葬を済ませ、翌日は日曜日ですることもなかったので海水浴に行き、そこで元同僚マリイに偶然再会する。二人とも同僚であった時は憎からず思っていたので、その再会を機に付き合いだ...書評:アルベール・カミュ著、窪田啓作訳、『異邦人』(新潮文庫)2021/12/28

  • 書評:川端康成著、『雪国』(角川文庫)

    「国境のトンネルを抜けると雪国だった」という出だしで有名な川端康成の『雪国』。正直、タイトルのこの出だししか知らなかったので、期間限定セールになっていたのを機に新仮名遣いの本書を購入し、読んでみました。情景描写や人物描写に力があり、描かれた状況がくっきりと立ち上がってくるような印象を受けるのはさすが著名な文学作品と感心するあまりですが、ストーリーはというと、ちょっとしたことで知り合った芸者に会いに新潟県の温泉街まで東京から通い、長逗留する無為徒食の男・島村の目線から描かれた芸者・駒子の自分に対する思いや、それにどうとも答えられない自身の情けなさや、雪国へ向かう列車の中で目を惹いた若い娘・葉子に対する曖昧な情など、あまり面白くない、というのが正直な感想です。島村に対する感想は、「なんだこのふらふらしたどうし...書評:川端康成著、『雪国』(角川文庫)

  • 書評:松岡圭祐著、『高校事変 14』(KADOKAWA)

    『高校事変13』(電子版)が発売されたのは3月22日。この14巻は5月23日に販売開始。わずか2か月しか経っていない、驚異的な執筆スピードは相変わらずのようですが、しばらく中山七里作品を立て続けに読んでいたため、松岡圭祐作品はずいぶんと久しぶりのような気がします。『高校事変XII』をもって、結衣編が終了し、彼女の妹・凜香と13から新登場したもう一人の妹・瑠那が都立日暮里高校に入学し、凜香・瑠那編がスタート。二人はその生い立ちの特殊さから人殺しと無縁でいられない生活を余儀なくされていますが、「普通の女子高生」としての生活を夢見ている。そんな彼女らが14巻で遭遇するのは「設問Z」としてメモリーカードが届けられることから始まるネットを介した国際闇賭博。そこではなぜか日暮里高校の体育祭で生徒たちの各競技での勝負が...書評:松岡圭祐著、『高校事変14』(KADOKAWA)

  • 書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。8』(ビーズログ文庫)

    商品説明まもなく十四歳の誕生日を迎える莉杏は、暁月から「叉羅国で開かれるムラッカ国とバシュルク国の停戦会談に、仲介役として出席する」という大役を任される。赤奏国の使節団の責任者になった莉杏は、暁月に教えられた『秘密の合言葉』をお守りに叉羅国へ。道中、ワケあり王子、少女傭兵と奇妙な同行仲間が増える中、叉羅国で内乱勃発の危機が迫り!?『茉莉花官吏伝十二歳歳年年、志同じからず』で茉莉花がバシュルク国に潜入し、ムラッカ国が攻め入って来た時に無事に停戦合意を取り付けることができ、バシュルク国潜入のために協力してくれた赤奏国と叉羅国のラーナシュ司祭にそれぞれ借りを返すために、バシュルク国とムラッカ国の停戦会談の場を叉羅国に、仲介を赤奏国に依頼することになりました。それを受けて、『十三歳の誕生日、皇后になりました。8』...書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。8』(ビーズログ文庫)

  • 書評:中山七里著、『人面瘡探偵』(小学館)

    商品説明名探偵は肩にいる!?不可解連続殺人の謎。三津木六兵には秘密がある。子供の頃に負った右肩の怪我、その傷痕がある日突然しゃべりだしたのだ。人面瘡という怪異であるそれを三津木は「ジンさん」と呼び、いつしか頼れる友人となっていった。そして現在、相続鑑定人となった三津木に調査依頼が入る。信州随一の山林王である本城家の当主・蔵之助の死に際し遺産分割協議を行うという。相続人は尊大な態度の長男・武一郎、享楽主義者の次男・孝次、本城家の良心と目される三男・悦三、知的障害のある息子と出戻ってきた長女・沙夜子の四人。さらに家政婦の久瑠実、料理人の沢崎、顧問弁護士の柊など一癖ある人々が待ち構える。家父長制度が色濃く残る本城家で分割協議がすんなり進むはずがない。財産の多くを占める山林に希少な鉱物資源が眠ることが判明した夜、...書評:中山七里著、『人面瘡探偵』(小学館)

  • 書評:中山七里著、『笑え、シャイロック』(角川文庫)

    商品説明新卒行員の結城が配属されたのは日陰部署の渉外部。しかも上司は伝説の不良債権回収屋・山賀。憂鬱な結城だったが、山賀と働くうち、彼の美学に触れ憧れを抱くように。そんな中、山賀が何者かに殺され――。シャイロックとは、言わずと知れたシェイクスピアの『ベニスの商人』の登場人物で、強欲な高利貸しのユダヤ人のことです。不良債権回収は銀行業務の中では融資と表裏一体である陰に隠れた業務で、なんとしても貸した金を取り戻そうとするシャイロックの姿に重なります。回収業務一筋の山賀はシャイロックと評されるやり手ですが、業務上のトラブルがこじれたらしく、殺されてしまう。回収業務ではまだ新米の結城は、山賀がこれまで一人で担当していた難しい案件を一手に引き受けることに。ひとつづつ案件に当たっていくうちに、過去のおかしな事実に行き...書評:中山七里著、『笑え、シャイロック』(角川文庫)

  • 書評:中山七里著、『さよならドビュッシー』 『さよならドビュッシー 前奏曲』 『おやすみラフマニノフ』(宝島社文庫)

    Amazonで購入する。Hontoで購入する。商品説明祖父と従姉妹とともに火事に遭い、全身大火傷の大怪我を負いながらも、ピアニストになることを誓う遥。コンクール優勝を目指して猛レッスンに励むが、不吉な出来事が次々と起こり、ついに殺人事件まで発生する……。ドビュッシーの調べも美しい、第8回『このミス』大賞・大賞受賞作。香月玄太郎は一代で莫大な資産を築き上げた立志伝中の人で、地元では名士ですが、脳梗塞の後遺症で車椅子生活を余儀なくされたため、自宅の敷地にバリアフリーの離れを作り、趣味のプラモデルを作りながら元気に生活しています。長女の娘・ルシアはインドネシア生まれで、毎年香月家に遊びに来ていましたが、その年に限り両親の仕事の都合で一人だけ日本に来ているときにスマトラ島沖地震が起こり、一度に両親を失くしてしまい...書評:中山七里著、『さよならドビュッシー』『さよならドビュッシー前奏曲』『おやすみラフマニノフ』(宝島社文庫)

  • 書評:中山七里著、『逃亡刑事』 (PHP文芸文庫)

    商品説明県警内部、全員敵⁉「どんでん返しの帝王」が贈る、息をもつかせぬノンストップ・ミステリー。単独で麻薬密売ルートを探っていた刑事が、銃で殺された。千葉県警刑事部捜査一課の高頭班が捜査にあたるが、事件の真相にたどり着いた警部・高頭冴子は真犯人に陥れられ、警官殺しの濡れ衣を着せられる。自分の無実を証明できるのは、事件の目撃者である八歳の少年のみ。少年ともども警察組織に追われることになった冴子が逃げ込んだ場所とは⁉そして彼女に反撃の手段はあるのか⁉施設で日常的に虐待を受けている8歳の少年・猛が、麻薬中毒の治療中である母の入院先の病院を目指して夜中に家出することで、警官殺しの現場を目撃してしまいます。高頭冴子警部は少年に事情を聴き、似顔絵を作成しようとしますがうまくいかず、少年が帰ろうとするときに警察署の廊下...書評:中山七里著、『逃亡刑事』(PHP文芸文庫)

  • 書評:中山七里著、『連続殺人鬼カエル男』&『連続殺人鬼カエル男ふたたび』 (宝島社文庫)

    Amazonで購入する。Hontoで購入する。商品説明マンションの13階からフックでぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。これが近隣住民を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の凶行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに……。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の正体とは?どんでん返しにつぐどんでん返し。最後の一行まで目が離せない。『さよならドビュッシー』と同時に新人賞予選に残り、入選は逃したものの評判が良かったために出版された作品が、猟奇連続殺人を描く『連続殺人鬼カエル男』です。埼玉県飯能市内の殺人現場に今日はカエルをどうしたかというひらがなで書かれた日記のようなものが残されていたことから〈カエル男〉と命名された...書評:中山七里著、『連続殺人鬼カエル男』&『連続殺人鬼カエル男ふたたび』(宝島社文庫)

  • 書評:中山七里著、『いまこそガーシュウィン』vol. 1~3 (宝島社)

    『いまこそガーシュウィン』はデジタル限定配信の4回連載であるため、一話が短く、少々物足りない感じがします。音楽モチーフのストーリーは、デビュー作『さよならドビュッシー』以来の岬洋介シリーズの系譜に連なる作品です。ショパン・コンクールで6位入賞という微妙な成績のピアニストのエドワードが、次のコンサートツアーにやる曲に悩みつつ、全米に広がる「Blacklivesmatter」運動と、それに対する差別主義的発言を繰り返すトランプ大統領候補という世情にも憂えています。差別が先鋭化する空気を音楽で吹き飛ばそうと、エドワードは文化融合的なガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」を演目に入れることを思いつきます。2台のピアノで弾く相手は、かつて戦場で5分間の演奏で人命を救ったという伝説の男・岬洋介。こちらが表のス...書評:中山七里著、『いまこそガーシュウィン』vol.1~3(宝島社)

  • 書評:中山七里著、『夜がどれほど暗くても』(ハルキ文庫)

    商品説明志賀倫成(しがみちなり)は、大手出版社の雑誌『週刊春潮』の副編集長で、その売上は会社の大黒柱だった。志賀は、スキャンダル記事こそが他の部門も支えているという自負を持ち、充実した編集者生活を送っていた。だが大学生の息子・健輔(けんすけ)が、ストーカー殺人を犯した上で自殺したという疑いがかかったことで、幸福だった生活は崩れ去る。スキャンダルを追う立場から追われる立場に転落、社の問題雑誌である『春潮48』へと左遷。取材対象のみならず同僚からも罵倒される日々に精神をすりつぶしていく。一人生き残った被害者の娘・奈々美から襲われ、妻も家出してしまった。奈々美と触れ合ううちに、新たな光が見え始めるのだが……。日本では、加害者家族はもちろんのこと、犯罪被害者の家族も正義の皮をかぶった匿名の誹謗中傷に晒され、野次馬...書評:中山七里著、『夜がどれほど暗くても』(ハルキ文庫)

  • 書評:中山七里著、『帝都地下迷宮』(PHP文芸文庫)

    商品説明鉄道マニアの公務員・小日向巧はある日、廃駅で立ち入り禁止となっている地下鉄銀座線萬世橋駅へと潜り込む。そこで出会ったのは、政府の“ある事情”により地下で生活する謎の集団「エクスプローラー」だった。その集団内で起こった殺人事件をきっかけに、小日向は捜査一課と公安の対立も絡む大事件に巻き込まれていき・・・・・・。エクスプローラーが抱える秘密とは?殺人犯は誰か?東京の地下で縦横に展開するノンストップミステリー!「ひょっとすると僕は死体愛好家なのかもしれない」という主人公・小日向巧の独白から始まる本作は、一体どんな偏執狂的殺人犯の話なのかと戸惑いますが、どうやらそれも著者の策略のひとつのようです。小日向は鉄道マニアの中でも珍しい廃駅マニアで、廃駅の寂れた侘しい様子が死体を連想させるため、「死体愛好家」とい...書評:中山七里著、『帝都地下迷宮』(PHP文芸文庫)

  • 書評:中山七里著、『月光のスティグマ』(新潮文庫)

    商品説明幼馴染の美人双子、優衣(ゆい)と麻衣(まい)。僕達は三人で一つだった。あの夜、どちらかが兄を殺すまでは――。十五年後、特捜検事となった淳平は優衣と再会を果たすが、蠱惑(こわく)的な政治家秘書へと羽化した彼女は幾多の疑惑に塗(まみ)れていた。騙し、傷つけ合いながらも愛欲に溺れる二人が熱砂の国に囚われるとき、あまりにも悲しい真実が明らかになる。運命の雪崩に窒息する!激愛サバイバル・サスペンス。1995年の阪神・淡路大震災以前の淳平と隣の双子姉妹・優衣と麻衣の三人の思い出語りから物語は始まります。双子に振り回されつつまんざらでもなかった淳平は、将来2人のうちのどちらかと結婚することを約束させられますが、思春期の頃になると、積極的な麻衣よりも少し控えめな優衣に惹かれ、お互いの思いを確認し合う。一方、淳平の...書評:中山七里著、『月光のスティグマ』(新潮文庫)

  • 書評:中山七里著、『総理にされた男』(NHK出版)

    商品説明人気作家・中山七里が描くポリティカル・エンターテインメント小説!売れない舞台役者・加納慎策は、内閣総理大臣・真垣統一郎に瓜二つの容姿とそ精緻なものまね芸で、ファンの間やネット上で密かに話題を集めていた。ある日、官房長官・樽見正純から秘密裏に呼び出された慎策は「国家の大事」を告げられ、総理の“替え玉”の密命を受ける。慎策は得意のものまね芸で欺きつつ、役者の才能を発揮して演説で周囲を圧倒・魅了する。だが、直面する現実は、政治や経済の重要課題とは別次元で繰り広げられる派閥抗争や野党との駆け引き、官僚との軋轢ばかり。政治に無関心だった慎策も、国民の切実な願いを置き去りにした不条理な状況にショックを受ける。義憤に駆られた慎策はその純粋で実直な思いを形にするため、国民の声を代弁すべく、演説で政治家たちの心を動...書評:中山七里著、『総理にされた男』(NHK出版)

  • 書評:中山七里著、『能面検事の奮迅』(光文社)

    商品説明学校法人荻山学園に対する大阪・岸和田の国有地払い下げに関し、近畿財務局職員の収賄疑惑が持ち上がり、大阪地検特捜部が捜査を開始。ところがその特捜部内の担当検事による決裁文書改竄疑惑が浮上。最高検から調査チームが派遣され、大阪地検一級検事の不破俊太郎は惣領美晴事務官と調査に乗り出し、信じがたいものを発見する……。「能面検事」再び!現実の事件を彷彿させる物語に、能面検事・不破の鋭いメスが冴えわたる!「能面検事」シリーズ第2弾。文庫化はされていないものの、続編となれば気になるので、単行本のまま購入しました。本作の事件のあらましは、財務省近畿財務局が、大阪府豊中市の国有地を大幅値引きして森友へ売るまでの一連の土地取引と、この取引をめぐる決裁文書を財務省が改ざんしたいわゆる「森友学園問題」に着想を得ています。...書評:中山七里著、『能面検事の奮迅』(光文社)

  • 書評:中山七里著、『嗤う淑女』『ふたたび嗤う淑女』(実業之日本社文庫)&『嗤う淑女 二人』(実業之日本社)

    この『嗤う淑女』シリーズは、不幸な生い立ちの美女・蒲生美智留が次々と人を不幸に陥れていく話で、〈傾国の美女〉もかくや、という感じです。自分を性的虐待し続けた父親を殺したことを除けば、自ら手を汚すことなく、巧みに犯罪を教唆するため、捜査の手も及ばず、たとえ捕まってもどんでん返しで無罪釈放。事件解明はされても、古典的な意味での解決、すなわち逮捕・起訴・有罪判決とはならず、「最後に笑うのは私」とばかりに美智留はまんまと逃げおおせるところが興味深いミステリーです。シリーズ3作目で笑う淑女が二人に増えますが、二人目の悪女・有働さゆりは、『連続殺人鬼カエル男』で登場するキャラクター。彼女のしたたかさは、蒲生美智留の悪知恵も結局及ばず、「共犯者は始末するもの」という美智留のポリシーをまんまと免れて逃走。こうして悪女が二...書評:中山七里著、『嗤う淑女』『ふたたび嗤う淑女』(実業之日本社文庫)&『嗤う淑女二人』(実業之日本社)

  • 書評:中山七里著、『闘う君の唄を』(朝日文庫)

    商品説明埼玉県の片田舎・神室町に幼稚園教諭として赴任した喜多嶋凛。あらゆることに口出しをしてくるモンスターペアレンツと対立しながらも、自らの理想を貫き、少しずつ周囲からも認められていくのだが……。どんでん返しの帝王が贈る驚愕のミステリ。〈驚愕のミステリー〉と何度も煽られるといささか興醒めなのですが、『闘う君の唄を』も安定の面白さです。先に第2弾の『騒がしい楽園』を読んでしまったので、幼稚園教諭が主人公となっていることに違和感はありませんが、本作品の前半は、お仕事小説?と思えるくらい喜多嶋凛の神室幼稚園での奮闘ぶりが描写されています。神室幼稚園では、異常に保護者会の力が強く、園側は唯々諾々とその要求を受け入れるばかり。そうなるきっかけとなったのが、15年前に起きた園児連続殺人事件。犯人が幼稚園の送迎バスの運...書評:中山七里著、『闘う君の唄を』(朝日文庫)

  • 読書メモ:村端五郎・村端良子著、『第2言語ユーザのことばと心 マルチコンピテンスからの提言』(開拓社 言語・文化選書57)

    『第2言語ユーザのことばと心マルチコンピテンスからの提言』を読み出したのは3月半ば。内容が小難しいために、なかなか読み通すことが叶わず、5月になってようやく完読できました。目次はしがき第1章マルチコンピテンス(複合的言語能力)とは?第2章第2言語ユーザの「ことば」第3章第2言語ユーザの「心」第4章マルチコンピテンスの研究課題と研究方法第5章マルチコンピテンスの英語教育への示唆あとがき参考文献索引マルチコンピテンスの考え方とは、従来の「母語」と「外国語」を独立した別存在として捉える考え方に異議を唱えるものです。現代において、純粋なモノリンガル(単言語使用者)はほとんど存在しておらず、程度の差こそあれ、母語以外の外国語に接し、その影響を受けているため、外国語学習において目指すべき理想の〈母語話者〉も空虚である...読書メモ:村端五郎・村端良子著、『第2言語ユーザのことばと心マルチコンピテンスからの提言』(開拓社言語・文化選書57)

  • 書評:中山七里著、刑事犬養隼人シリーズ1~5(角川文庫)

    刑事犬養隼人シリーズは、警視庁捜査一課の犬養隼人警部を主人公とした警察小説ですが、臓器移植や子宮頸がんワクチン、安楽死、臓器売買と貧困問題など、社会的・倫理的に非常に難しい問題を扱っており、様々な立場の人間の様々な言い分を浮き彫りにさせた上で、あえて結論を出さないままストーリーを締めくくるところが魅力です。犬養隼人はバツ2の1人暮らしですが、腎不全を患う娘がいるため、警察官として違法行為を取り締まるのは自明の理と考える一方で、常に、娘の場合だったら、自分は父親として遵法精神から娘の命を諦められるのか、娘の命を救うために脱法・違法行為もやむを得ないと考えるのか、そのたびに悩み惑います。非常にセンシティブな倫理問題を背景に、法の不備や文化による死生観の違いを浮き彫りにしていく中、犬養親子の関係の変化も物語の味...書評:中山七里著、刑事犬養隼人シリーズ1~5(角川文庫)

  • 書評:中山七里著、『騒がしい楽園』(朝日文庫)

    商品説明都内の幼稚園へ赴任してきた神尾舞子。騒音や待機児童など様々な問題への対応を迫られる中、園の生き物が何者かに惨殺される事件が立て続けに起き、やがて事態は最悪の方向へ──。『闘う君の唄を』に連なる、シリーズ第2弾。《解説・藤田香織》これが第2弾だとは知らずに読んでしまいましたが、特に違和感はありませんでした。主人公の幼稚園教諭・神尾舞子は理性的・論理的で、自らの就学前教育の技術に自信を持っている〈デジタルウーマン〉で、あまり「保母さん」のイメージに当てはまらないキャラクターです。都内の幼稚園に赴任早々、幼稚園の騒音が許せない町内会会長の苦情の相手をさせられ、幼稚園の見学日では待機児童を抱える母親から入園の便宜を図るよう賄賂を持ちかけられる。園児たちのお迎えの時間になると、母親たちの派閥争い。前途多難な...書評:中山七里著、『騒がしい楽園』(朝日文庫)

  • 書評:中山七里著、『能面検事』(光文社文庫)

    商品説明大阪地検一級検事の不破俊太郎はどんな圧力にも屈せず、微塵も表情を変えないことから、陰で〈能面〉と呼ばれている。新米事務官の総領美晴と西成ストーカー殺人事件の調べを進めるなかで、容疑者のアリバイを証明し、捜査資料が一部なくなっていることに気付いた。これが大阪府警を揺るがす一大スキャンダルに発展して――。一気読み必至の検察ミステリー!この作品で、著者は検察に切り込みます。能面検事と呼ばれる不破俊太郎。能面のように表情を変えない、誰にも破られないから〈不破〉という名前なのかと思えるような命名ですね。この不破氏は、誰に対しても、いついかなる時でも、無表情で、余計なことは一切口にしないという態度を貫きます。この徹底した態度に新米事務官の総領美晴は戸惑い、反発しますが、それでもその徹底ぶりに畏敬の念を抱き、で...書評:中山七里著、『能面検事』(光文社文庫)

  • 書評:中山七里著、『死にゆく者の祈り』(新潮文庫)

    商品説明死刑執行直前からの大どんでん返し!?絞首台へ向かう友の魂を救えるか――。究極のタイムリミット・サスペンス!!何故、お前が死刑囚に――。教誨師の高輪顕真が拘置所で出会った男、関根要一。それはかつて、雪山で遭難した彼を命懸けで救ってくれた友だった。本当に彼が殺人を犯したのか。若い男女二人を無残に刺殺したのか……。調べれば調べるほど浮かび上がる、不可解な謎。無実の罪で絞首台に向かう友が、護りたいものとは――。無情にも迫る死刑執行の刻、果たして教誨師の執念は友の魂を救えるのか。人気沸騰中の“どんでん返しの帝王"による、予測不能・急転直下のタイムリミット・サスペンス‼『死にゆく者の祈り』は、死刑囚のために説教をする教誨師が探偵役を務める一風変わったミステリーですが、上の商品説明にあるように、刻々と迫る死刑執...書評:中山七里著、『死にゆく者の祈り』(新潮文庫)

  • 書評:中山七里著、『テミスの剣』&『ネメシスの使者』(文春文庫)

    『テミスの剣』商品説明若手時代に逮捕した男は無実だったのか?鳴海刑事は孤独な捜査を始めたが…社会派ミステリーに驚愕の真実を仕掛けた傑作。豪雨の夜の不動産業者殺し。強引な取調べで自白した青年は死刑判決を受け、自殺を遂げた。だが5年後、刑事・渡瀬は真犯人がいたことを知る。隠蔽を図る警察組織の妨害の中、渡瀬はひとり事件を追うが、最後に待ち受ける真相は予想を超えるものだった!どんでん返しの帝王が司法の闇に挑む渾身のミステリ。ギリシャ神話の法と掟の女神テミスの振るう『テミスの剣』は、常に冷厳で公平なのか?裁く者が人間である以上、過ちは避けられない。裁判官とは、神の領域の任務を畏れ多くも請け負っている。しかし、現実は検察と警察が癒着し、警察が功を焦って容疑者の自白を取って送検すれば、検察はこれをほとんど検証することな...書評:中山七里著、『テミスの剣』&『ネメシスの使者』(文春文庫)

  • 書評:中山七里著、『魔女は甦る』&『ヒートアップ』(幻冬舎文庫)

    『魔女は甦る』商品説明元薬物研究員が勤務地の近くで肉と骨の姿で発見された。埼玉県警の槇畑は捜査を開始。だが会社は二ヶ月前に閉鎖され、社員も行方が知れない。同時に嬰児誘拐と、繁華街での日本刀による無差別殺人が起こった。真面目な研究員は何故、無惨な姿に成り果てたのか。それぞれの事件は繋がりを見せながら、恐怖と驚愕のラストへなだれ込んでいく……。『魔女は甦る』はヒッチコックの『鳥』を連想させるようなホラーっぽいストーリー展開です。文庫の表紙絵でもそのことが暗示されています。無残な死体を晒していた薬物研究員・桐生隆は、ドイツのスタンバーグ製薬会社の日本支社に勤めていたのですが、閉鎖後も研究所に行こうとしたらしく、その付近で絶命。渋谷の繁華街で起こった何件かの暴行・無差別殺人事件では、犯人たちの血中に『ヒート』が検...書評:中山七里著、『魔女は甦る』&『ヒートアップ』(幻冬舎文庫)

  • 書評:中山七里著、『ワルツを踊ろう』(幻冬舎文庫)

    商品説明容疑者は村人全員!?20年ぶりに帰郷した了衛を迎えたのは、閉鎖的な村人たちの好奇の目だった。愛するワルツの名曲〈美しく青きドナウ〉を通じ、荒廃した村を立て直そうとするが……。雄大な調べがもたらすのは、天啓か、厄災か!?都会で金融関係の仕事をしていた溝端了衛は、リーマンショックの煽りを受けて失職し、その上、父親も病死したため、七戸9人しか住民のいない限界集落・東京都西多摩郡依田村竜川地区にある実家に移住します。移住して1週間経った朝、隣の地区長に改めて引っ越しの挨拶に行き、そこで住民全員に挨拶がてら回覧板を回すように指示され、村人たちと初めてまともに話す機会を得ます。この主人公は30代も後半でありながら、人の機微というものが分からない不器用で、少々独り善がりな人物で、村を立て直そうという試みが悉く空...書評:中山七里著、『ワルツを踊ろう』(幻冬舎文庫)

  • 書評:中山七里著、『セイレーンの懺悔』(小学館文庫)

    商品説明マスコミは人の不幸を娯楽にする怪物なのか。葛飾区で女子高生誘拐事件が発生し、不祥事により番組存続の危機にさらされた帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」の里谷太一と朝倉多香美は、起死回生のスクープを狙って奔走する。しかし、多香美が廃工場で目撃したのは、暴行を受け、無惨にも顔を焼かれた被害者・東良綾香の遺体だった。綾香が“いじめられていた”という証言から浮かび上がる、少年少女のグループ。主犯格と思われる少女は、6年前の小学生連続レイプ事件の犠牲者だった……。マスコミは、被害者の哀しみを娯楽にし、不幸を拡大再生産する怪物なのか。多香美が辿り着く、警察が公表できない、法律が裁けない真実とは――「報道」のタブーに切り込む、怒濤のノンストップ・ミステリ。帝都テレビの「アフタヌーンJAPAN」というニュース番組...書評:中山七里著、『セイレーンの懺悔』(小学館文庫)

  • 書評:中山七里著、宮城県警シリーズ『護られなかった者たちへ』&『境界線』(NHK出版)

    東京や埼玉・千葉など、関東圏を舞台とすることが多い中山七里作品の中で、本シリーズは珍しく宮城県が舞台となっています。東日本大震災の爪痕がまだ生々しく残る特殊事情。誰もが家族や親族や友人を失い、震災前と同じではいられない。これが『護られなかった者たちへ』と『境界線』のドラマの素地となっています。宮城県警捜査一課警部・笘篠誠一郎は、震災の時も公務に出ており、その間に妻子が自宅と共に津波に流されてしまい、遺体はまだ発見されないまま7年の歳月が流れた。気持ちに区切りが付けられず、いまだに「行方不明」扱いのままにしてある。『護られなかった者たちへ』では、そんな笘篠が、仙台市の保健福祉事務所課長・三雲忠勝が手足や口の自由を奪われた状態で餓死させられた事件を負います。三雲は職場でも家庭でも善良で人格者と評判で、怨恨の線...書評:中山七里著、宮城県警シリーズ『護られなかった者たちへ』&『境界線』(NHK出版)

  • 書評:中山七里著、『鑑定人 氏家京太郎』(双葉社)

    商品説明民間の科学捜査鑑定所〈氏家鑑定センター〉。所長の氏家は、女子大生3人を惨殺したとされる猟奇殺人犯の弁護士から再鑑定の依頼を受ける。容疑者の男は、2人の殺害は認めるが、もう1人への犯行は否認している。相対する警視庁科捜研との火花が散る中、裁判の行く末は――驚愕の結末が待ち受ける、圧巻の鑑定サスペンス!氏家鑑定センターの所長・氏家京太郎は、中山七里の他シリーズ(『作家刑事毒島』や『御子柴礼司』など)にちょくちょく登場していますが、本作では題名の通り氏家鑑定センターを中心にドラマが繰り広げられます。氏家は以前、警視庁科捜研に所属していたが、同僚や上司とそりが合わず、ある事件をきっかけに辞職して、民間の鑑定センターを立ち上げます。すると、彼を慕う科捜研のスタッフがごっそり科捜研を抜けて、氏家鑑定センターに...書評:中山七里著、『鑑定人氏家京太郎』(双葉社)

  • 書評:中山七里著、『特殊清掃人』(朝日新聞出版)

    『特殊清掃人』は、特殊清掃業者〈エンドクリーナー〉に舞い込む清掃依頼案件を主人公・秋廣香澄の視点から描いた短編集で、『祈りと呪い』『腐蝕と還元』『絶望と希望』『正の遺産と負の遺産』の4編が収録されています。死者が出た家・アパート・マンションは、同居人が居なければ、特殊清掃業者に依頼して後処理をしてもらうことになります。死後どのくらいの時間が経過しているかによって、清掃内容が変わってきます。まず、ありとあらゆるゴミを出し、ウジ・ハエなどの害虫を駆除し、床や壁などを消毒。遺体から流れ出た体液の浸潤具合によって、床材や根太、大引きまで交換する必要が生じる。体液は感染症の温床であるため、消毒が済むまでは防護服を着て作業するため、気温が高い日は拷問に近い過酷な仕事になります。しかし、体力以上に精神力が奪われます。あ...書評:中山七里著、『特殊清掃人』(朝日新聞出版)

  • 書評:中山七里著、御子柴礼司シリーズ1~6(講談社文庫)

    『作家刑事毒島』シリーズですっかり中山七里に嵌まってしまい、次は御子柴礼司シリーズを一気読みしました。文庫化されているのは5巻までの『贖罪の奏鳴曲』『追憶の夜想曲』『恩讐の鎮魂曲』『悪徳の輪舞曲』『復讐の協奏曲』。3月末に発売されたばかりの最新刊『殺戮の狂詩曲』は単行本。本シリーズの主人公・御子柴礼司は、本名を園部信一郎といい、14歳のときに近所の5歳の少女を殺して切り刻み、切り取った頭や四肢をポストや賽銭箱の上などに置いたことから〈死体配達人〉として全国を震撼させ、関東医療少年院に入ります。そこで新しい名〈御子柴礼司〉を得て、そこでの出会いをきっかけに贖罪のために生きることを決意し、猛勉強をして司法試験に受かり、弁護士として活躍するようになります。ただし、法外な弁護士料を要求する〈悪徳弁護士〉として名を...書評:中山七里著、御子柴礼司シリーズ1~6(講談社文庫)

  • 書評:中山七里著、『作家刑事毒島』&『毒島刑事最後の事件』(幻冬舎文庫)&『作家刑事毒島の嘲笑』(幻冬舎)

    松岡圭祐と同じくらい多作で知られている中山七里の作品を始めて読んでみました。『作家刑事毒島(ぶすしま)』シリーズは、捜査一課の刑事でありながら作家を兼業する毒島真理の鋭い舌鋒と洞察力によって事件解決に至る短編から成ります。シリーズ第一作『作家刑事毒島』では、警視庁捜査一課の新人刑事・高千穂明日香が刑事技能指導員の毒島真理に事件についての相談を持ち掛け、彼の傍若無人ぶりに振り回されながら、着実に事件を解決していくというストーリー構成です。容疑者として登場するのは、新人賞受賞したばかりの作家や受賞後の二作目をなかなか出せない作家、あるいは作家になりたくて様々な賞に応募し、一時落ちし続けて、自分が落ちるのは陰謀だと思い込む人など、出版界の影に跋扈する大いに勘違いした人々。彼ら彼女らに対して毒島はまったく容赦がな...書評:中山七里著、『作家刑事毒島』&『毒島刑事最後の事件』(幻冬舎文庫)&『作家刑事毒島の嘲笑』(幻冬舎)

  • カミュ著、宮崎嶺雄訳、『ペスト』(新潮文庫)

    アルベール・カミュの『ペスト』は近代フランス文学の代表作の一つで、作者名と題名は知っているものの、実際に読んだことはないという方は少なくないのではないでしょうか。少なくとも私はその一人で、この度、電子書籍の安売りがあったので『異邦人』と共に購入し、ようやく実際に読んでみました。アルジェリアのオラン市で、医師のリウーが鼠の死体を発見するところから始まる本作品は、その題名の通りペストがいかにやって来て、またいかに去って行ったかを語ります。その語り口は淡々としており、非常に鋭い観察眼がいかんなく発揮されています。ペスト自体に対する恐怖もさることながら、街が封鎖されてしまうことで余儀なくされる別離やさまざまな不便さと、それによる人々の緊張・不安・焦燥、親しいものを失くす悲しみ、そして、時と共に諦めにも似た慣れなど...カミュ著、宮崎嶺雄訳、『ペスト』(新潮文庫)

  • 書評:松岡圭祐著、『高校事変 13』(角川文庫)

    『高校事変13』では、これまでのシリーズの主人公・優莉結衣が大学生となったため、その妹の凛香が高校生となって活躍します。常に姉を意識して自分の至らなさ・ふがいなさに悔しい思いをしながらも、以前に比べて世を拗ねて不貞腐れた感じが少なくなっています。ストーリーは、高校入学を控えた凛香が江東区の閑静な住宅街にある神社で同年代の少女・杠葉瑠那と会うことから始まります。瑠那は結衣や凛香同様、平成最大のテロ事件を起こし死刑となった男の娘。しかし、本人はそのことを知らずに養父母に育てられたらしい。凛香はただ、彼女に親切心(?)警告をするつもりだった。優莉家の異母兄弟たちは互いに連絡を取り合うことを制限されているのですが、凛香と瑠那は偶然(?)同じ高校に通うことになり、特例が認められます。一方、巷では女子高生が次々と失踪...書評:松岡圭祐著、『高校事変13』(角川文庫)

  • 書評:今野敏著、『署長シンドローム』(講談社)

    『隠蔽捜査』でおなじみ竜崎伸也が大森署を去った後、新署長となった藍本小百合の活躍を描くのが本作『署長シンドローム』です。藍本小百合は、誰もが見とれてしまうような美貌の持ち主で、ほんわりとした口調と笑顔で謎の説得力を発揮する面白いキャラです。美貌とほわっとした口調に隠れがちですが、実は楽観的なばかりでなく、物事の本質を鋭く見抜き、要所を抑えて、お偉いさんも含めた周囲の人たちを正しい方向へ導くやり手です。彼女のせいで、大森署は何かとお偉いさんの視察を受けることになり(彼女に会いに来る口実)、竜崎署長時代とは違う日常が繰り広げられます。署長のキャラの違いで、だいぶ違うストーリー展開になっていますが、普通に面白い今野小説でした。Amazonで購入する。Hontoで購入する。にほんブログ村安積班シリーズ書評:今野敏...書評:今野敏著、『署長シンドローム』(講談社)

  • 書評:今野敏著、『天を測る』(講談社)

    『天を測る』は今野敏初の幕末歴史小説です。彼の歴史小説と言えば、『サーベル警視庁』シリーズがありますが、警察小説の明治版という感じで、これまでの作品とかけ離れているわけではありませんでした。しかし、この『天を測る』は、描かれる時代が違うばかりでなく、主人公の職業が測量方というテクノクラートであるところが異色です。幕末というと、西郷隆盛や新選組など薩長側か新選組をはじめとする幕府側のいずれかの視点で描かれることが多い中で、『天を測る』は、算術と測量の腕を買われて幕臣にまで取り立てられ、2度も渡米し、明治維新後もテクノクラートとしてほぼ同じ仕事を続けた小野友五郎を主人公としているため、幕末の動乱が遠景に過ぎないところも異彩を放っています。この小野友五郎から見た福沢諭吉や勝麟太郎(勝海舟)像も非常に興味深いです...書評:今野敏著、『天を測る』(講談社)

  • 書評:今野敏著、『スクープ』他スクープシリーズ全5巻(集英社文庫)

    今野敏のスクープシリーズ全5巻を大人買いして、一気読みしました。TBNテレビ報道局社会部の看板番組『ニュース・イレブン』所属の遊軍記者、布施京一を主人公とするシリーズは、継続捜査を刑事ではなく記者の視点から描いています。シリーズ第1巻『スクープ』は短編集で、最初は布施がそもそも何者なのか全くわからない謎めいた存在として登場します。布施は数々のスクープを飛ばしてきた実績があり、『ニュース・イレブン』のキャスター鳥飼行雄と香山恵理子から頼りにされている一方で、上司である『ニュース・イレブン』のデスク、鳩山昭夫からは素行に問題があるとしてあまり認められていません。四角四面の真面目上司と自由かつ合理的に行動して実績を上げる部下、という典型的な相性悪い組み合わせですが、布施がいつでもどこでもリラックスまたは飄々とし...書評:今野敏著、『スクープ』他スクープシリーズ全5巻(集英社文庫)

  • 書評:藤𠮷 豊・小川真理子著、『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた』(日経BP)

    「文章術」のベストセラー100冊を1冊にまとめた本書は、とかく情報が溢れて取捨選択できずに途方に暮れることの多い現代人にとって、時間節約の福音書です。文章力や書く技術に関する本は大量にあり、選択肢が多くて選べない典型的な状況です。そんな中で、藤𠮷豊・小川真理子氏の『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた』は最初の一冊として優れています。メールや広告、プレゼン、ブログ、作文、論文、小説など。〈書く〉場面は多い。それぞれの目的に応じた書き方の定番があるものです。とはいえ、目的いかんにかかわらず、書く上で留意しなければならないことはあるものです。さまざまな分野のプロの書き手たちの多くが共通して推奨する事項を本書は分かりやすいランキング順で、ポイントを押さえて解説してくれます。目次Part...書評:藤𠮷豊・小川真理子著、『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた』(日経BP)

  • 書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十四 壺中の金影』(ビーズログ文庫)

    『茉莉花官吏伝』の最新刊『壺中の金影』では、茉莉花は大きな仕事もなく首都・宮廷で日常業務をこなしていま。ところが、上司の礼部尚書のくじ運の悪さがもとで、工部の行った運河建設予定地の視察の不備を補うため、再度視察に行くことになります。情報収集で視察先には『夜に通ると呪われる』という噂のある森があり、これに怯えた官吏のせいで視察が不備になったことが分かります。運河建設予定地の変更を求めている安州の州牧を訪ねると、「禁色」の御威光もあってやたらと豪華な接待を受けてしまい、その金遣いの荒さに茉莉花は不振を抱きます。切羽詰まった急ぎの仕事ではないので、官吏として困っている民の手助けをする余裕ができ、任務とは関係のない【骨董品盗難事件】【妓楼のねずみ捜し】【仮母の追い出し計画】などをついでに受けたりしているうちに、御...書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝十四壺中の金影』(ビーズログ文庫)

  • 読書メモ:中森誉之著、『外国語はどこに記憶されるのか 学びのための言語学応用論』(開拓社 言語・文化選書37)

    本書は言語学応用論・臨床言語学の視座から日本人にとっての外国語学習のあり方を論じるものです。「外国語学習」とは銘打っているものの、著者の視野にあるのは、近年低年齢化の進んでいる英語教育です。目次まえがき序章外国語学習への不思議第1章ことばの萌芽第2章記憶されていく外国語第3章記憶された外国語の活性化第4章記憶されている外国語の安定化と保持第5章記憶に沈殿していく外国語と消滅する外国語終章日本の外国語学習のすがた推奨文献あとがき索引第1章と2章で母語の習得と外国語の習得の仕組みや記憶のされ方について論じられており、第3章から終章までは、言語習得や記憶の仕組みを踏まえた上で、外国語の運用能力を身につけられるような教育とはどのようなものか、現在の日本の教育の現状を振り返りつつ論じられています。外国語教育に関わる...読書メモ:中森誉之著、『外国語はどこに記憶されるのか学びのための言語学応用論』(開拓社言語・文化選書37)

  • 書評:藤𠮷 豊・小川真理子著、『「勉強法のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた』(日経BP)

    本書は「ベストセラー100冊のポイントを1冊にまとめてみた」シリーズ第3弾です。シリーズ第1弾は「文章術」、第2弾は「話し方」。同じテーマに関する本100冊のうち、数十冊に共通して述べられていることはそれだけ重要・本質的である、という考えに基づいて、項目ごとに掲載されていた本の冊数をカウントして順位づけ、ベスト40までがまとめられています。そのベスト40はさらに次の3つに分割されています。1位~8位のルールで、「脳に合った学び」ができる。20位まで身につければ、「学ぶ楽しさ」を実感できる。40位まで身につければ、「望み通りの結果」が手に入る。トップ8は以下の通り。繰り返し復習する「目的」と「ゴール」を明確にする上手な「休憩」で学びの「質」が上がる「ごほうび」でドーパミンを活性化するゴールから「逆算」して計...書評:藤𠮷豊・小川真理子著、『「勉強法のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた』(日経BP)

  • 書評:今野敏著、『最後の戦慄 〈新装版〉』(徳間文庫)

    『最後の戦慄〈新装版〉』は『最後の封印』の続編で、「ミュウ・ハンター」だった日系人シド・アキヤマが再び特殊な戦いの中に身を投じる話です。21世紀後半、世界は相変らず血と硝煙に満ち、レッド・アメリカと呼ばれるキューバ、ニカラグア地帯で息を吹き返した左派勢力に対抗するアメリカ合衆国軍は苦戦を強いられて、ヨーロッパ共和国連合軍のコマンド部隊一個中隊が救出に向かいますが、彼らが発見したのは敵味方の区別なく築かれた死体の山だった。その後、イランで独裁体制を敷くアブドル・カッシマーが要塞のような私邸で「平和守備隊」と呼ばれる親衛隊の守りがあっという間に突破されて殺された。この2件の事件を起こしたのは〈サイバー・アーミー〉と呼ばれる四人組テロリストだった。その時、テヘランでカッシマーの使いに会う予定だったシド・アキヤマ...書評:今野敏著、『最後の戦慄〈新装版〉』(徳間文庫)

  • 書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VIII 太宰治にグッド・バイ』(角川文庫)

    『ecriture新人作家・杉浦李奈の推論』シリーズもついに8巻目。主人公の杉浦李奈も本屋大賞にノミネートされ、サイン会を催してもらえる立場になり、そろそろ「売れない新人作家」から脱却しつつある流れに乗っているようですが、彼女のもう一つの顔である文芸界の問題解決人としても、警察の覚えもめでたく、この巻でもまた呼び出しを受けることになります。(まあ、そうでないと話が進まないのですが)まずは、文芸界にセンセーショナルな事件が起こります。太宰治の5通目の遺書が75年ぶりに発見されたというのです。太宰本人の筆である可能性が高いことから筆跡鑑定が進められていたのですが、真贋判定の直前に仕事部屋で起きたボヤにより鑑定人が不審な死を遂げてしまいます。鑑定書の完成を記者5人が待ち構えていた邸宅内での出来事だった。遺書と見...書評:松岡圭祐著、『ecriture新人作家・杉浦李奈の推論VIII太宰治にグッド・バイ』(角川文庫)

  • 読書メモ:今井むつみ著、『ことばと思考』(岩波新書)

    ガイ・ドイチャーの『ThroughtheLanguageGlass』並びにStefanieSchrammとClaudiaWüstenhagenの『DasAlphabetdesDenkens-WieSpracheunsereGedankenundGefühleprägt(思考のアルファベット言語はどのように思考と感情に影響するのか)』を読んだ後に今井むつみの『ことばと思考』を読むと、色彩語に関する実験や前後左右などの相対的位置関係に関する言語の違い、数字の概念など、重複する部分が多くなります。しかしながら、今井むつみはとくに第一言語習得の分野で世界的な第一人者であることから、子どものことばの習得(第四章)から見えて来る言葉と思考の関係についても言及されており、そこから言語の普遍性や共通性と個別言語の相違性に...読書メモ:今井むつみ著、『ことばと思考』(岩波新書)

  • 書評:雪村花菜著、『紅霞後宮物語 第零幕 六、追憶の祝歌』(富士見L文庫)

    紅霞後宮物語第零幕の最終巻『六、追憶の祝歌』は、関小玉が将軍となってから後宮入りして皇后になるまでのエピソードで、本編の第一幕へ繋がります。信頼できる部下に恵まれ、女性初の将軍となり、しみじみ「嫁き遅れた」と感じていたところ、部下の文林とふたりとも結婚適齢期を過ぎて相手がいなかったら結婚しようか、という話になり、「きっと楽しいわよ」とのんきに笑い合ってましたが、文林がいきなり出勤してこなくなり、しばらくして世継ぎの告知の中に彼の名を発見することになります。本編でも回想として部分的には明かされていた前日譚が、ここですべて明らかになります。時系列の空白を埋めるようなものなので、なるほどと納得できるだけで、ストーリー自体の面白さはあまりないかもしれません。Amazonで購入する。Hontoで購入する。にほんブロ...書評:雪村花菜著、『紅霞後宮物語第零幕六、追憶の祝歌』(富士見L文庫)

  • 書評:今野敏著、『秋麗 東京湾臨海署安積班』(角川春樹事務所)

    東京湾臨海署安積班シリーズの最新刊『秋麗』は、青海三丁目付近の海上で遺体が発見されるところから始まります。身元は、かつて特殊詐欺の出し子として逮捕された戸沢守雄という七十代の男。安積たちが特殊詐欺事件との関連を追う中、遺体発見の前日に戸沢と一緒にいた釣り仲間の猪狩修造と和久田紀道に話を聞きに行くと、二人とも何かに怯えた様子。何らかの事情を知っていると踏んだ安積たちが再び彼らの自宅を訪れると、留守で、以降、消息が途絶えてしまいます。彼らが殺人犯なのか?それとも第三者が真犯人で、彼らは次の標的なのか?この最新作も安積班シリーズの安定した面白さがあります。犯人が稀に見る悪人であることも興味深いですし、高齢者たちが詐欺の犠牲者ではなく、特殊詐欺を働くのも変わった設定で面白いです。その動機がまた人間臭くていいですね...書評:今野敏著、『秋麗東京湾臨海署安積班』(角川春樹事務所)

  • 書評:Stefanie Schramm • Claudia Wüstenhagen, Das Alphabet des Denkens

    StefanieSchrammとClaudiaWüstenhagenという二人のジャーナリストが記した本書『DasAlphabetdesDenkens-WieSpracheunsereGedankenundGefühleprägt(思考のアルファベット言語はどのように思考と感情に影響するのか)』は、一般向けで読みやすく(もちろんドイツ語が読めることが前提ですが)、しかも言語学にとどまらず、哲学、認知科学、心理学、脳神経科学、社会学など今日の研究の学際的傾向を反映して幅広い分野を網羅しています。ことばは誰でも話しますし、思考も誰でもしているので、ことばと思考について誰でも思うところ、考えるところがあるものですが、素人考えは本人の経験と知識の範囲にとどまる感覚的なものなので、研究実験で証明されたことと矛盾して...書評:StefanieSchramm•ClaudiaWüstenhagen,DasAlphabetdesDenkens

  • 書評:吹井賢著、『犯罪社会学者・椥辻霖雨の憂鬱』1~2巻(メディアワークス文庫)

    『犯罪社会学者・椥辻霖雨の憂鬱』の主人公である椥辻霖雨は、『破滅の刑死者内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』の外部監察官としてトウヤと珠子の指揮をする椥辻未練のいとこ。椥辻家は警察官の家系で、エリート官僚となった未練は本家の人間で、霖雨は傍系、しかも両親はなく、叔父・石灘漱流の家に居候するR大学准教授。それでも、やはり家系の影響は受けており、警察官にはならずに犯罪を研究する学者になったということのようです。こちらのシリーズでは未練はもっぱら霖雨のための警察資料の提供者として登場しています。2作にまたがって登場するこのキャラは作者のお気に入りなのでしょうね。『犯罪社会学者・椥辻霖雨の憂鬱』のヒロインは、霖雨のはとこに当たる14歳の不登校児、椥辻姫子。石灘漱流のいとこの娘で、特殊な事情から石灘が引き取...書評:吹井賢著、『犯罪社会学者・椥辻霖雨の憂鬱』1~2巻(メディアワークス文庫)

  • 書評:吹井賢著、『破滅の刑死者 内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』1~4巻(メディアワークス文庫)

    吹井賢の作品は今回が初めてなのですが、松岡圭祐の最新作を購入する際に角川の本に仕える25%割引クーポンがあり、こういうクーポンに惹かれて何か買うと貯金ができなくなるとは思いつつ、角川コーナーにあったこの素敵な怪しさの表紙と電撃小説大賞受賞に惹かれて『破滅の刑死者内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』全4巻と『犯罪社会学者・椥辻霖雨の憂鬱』全2巻を大人買いしてしまいました。『破滅の刑死者内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』は、内閣情報調査室に極秘裏に設置された「特務捜査」部門、通称CIRO-S(サイロス)で扱う「普通ではない事件」、すなわち異能者がらみの事件の話です。とはいえ、1巻でヒロイン雙ヶ岡珠子が勤めていたCIRO-Sは本物ではなく、Cファイルという異能者となる可能性のある子どもたちのリ...書評:吹井賢著、『破滅の刑死者内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』1~4巻(メディアワークス文庫)

  • 書評:松岡圭祐著、『優莉結衣 高校事変 劃篇』(角川文庫)

    高校事変本編では書かれていなかった優莉結衣のホンジュラスでメキシコの過激派組織ゼッディウムと死闘を繰り広げた後の日本帰国までの足取りがこの劃篇に描かれています。なんと結衣は北朝鮮に連行されていた!日本の高校に編入するはずだった工作員と人違いされ、そのまま北朝鮮の工作員養成学校に特別に編入学することになります。しかし、しばらくして正体がバレてしまい、北朝鮮の上層部は、日本を陰で牛耳る架祷斗の妹を匿ったとして、教員・生徒全員を殲滅する作戦を実行する。北朝鮮版『高校事変』がここに展開します。長男・架祷斗との最終決戦を前にした優莉結衣の過酷な道筋。Amazonで購入する。Hontoで購入する。にほんブログ村歴史小説書評:松岡圭祐著、『黄砂の籠城 上・下』(講談社文庫)書評:松岡圭祐著、『シャーロック・ホームズ対伊...書評:松岡圭祐著、『優莉結衣高校事変劃篇』(角川文庫)

  • 読書メモ:Guy Deutscher, Through the Language Glass (Penguin Random House)

    GuyDeutscher(ガイ・ドイチャー)の『ThroughtheLanguageGlass:WhyTheWorldLooksDifferentInOtherLanguages,Arrow(2011/2/3)』を読み終えたのは2・3日前なのですが、なかなかメモを書く時間が取れず、今に至ってしまいました。本書は色や空間、(文法の)性の分野を例にした研究を紹介しつつ、言語と思考の関係について考察する非常に興味深い本です。目次PROLOGUE:Language,Culture,andThoughtPARTI:THELANGUAGEMIRROR1.NamingtheRainbow2.ALong-WaveHerring3.TheRudePopulationsInhabitingForeignLands4.Thos...読書メモ:GuyDeutscher,ThroughtheLanguageGlass(PenguinRandomHouse)

  • 読書メモ:Joachim Schaffer-Suchomel&Klaus Krebs著、『Du bist, was du sagst』

    言語と認知や思考の関係を扱った本の1つとして、教育学者JoachimSchaffer-Suchomelと経営者トレーナーKlausKrebsの『Dubist,wasdusagst-WasunsereSpracheüberunsereLebenseinstellungverrät(あなたが言うこと、それがあなたであるー言語がその人の人生観について明かすこと)』(2020,10.Aufl.,mvgVerlag)を読みました。心理学の知見とトレーニング受講者たちの経験などを交えて、言葉を意識的に捉え、かつ使用することで、ポジティブな人生観を得る道を示しており、どちらかというとハウツー本的な性格を持っています。第1部は、言葉の捉え方と具体的な語源や語呂合わせに基づく連想例の紹介で、第2部は日常的なネガティブキーワ...読書メモ:JoachimSchaffer-Suchomel&KlausKrebs著、『Dubist,wasdusagst』

  • 書評:今野敏著、『サーベル警視庁』&『帝都争乱 サーベル警視庁』(ハルキ文庫)

    今野敏はこれまで現代を舞台とした警察小説を世に出してきましたが、明治三十八年を舞台とした『サーベル警視庁』は異色です。時代設定の説明をする必要があるため、やや読みづらい箇所があり、話に入っていけるまでに少し時間がかかりましたが、明治の世情、特に薩長閥が幅を利かせ、東北人は冷遇されるような状況がストーリー展開にうまく活かされており、面白い歴史警察小説になっています。第1巻は明治三十八年七月、日露戦争の最中、上野の不忍池に死体が浮かんでいるところを発見されるところからストーリーが始まります。捜査に当たるのは警視庁第一部第一課。岡崎巡査の視点で語られます。殺された帝国大学講師・高島は急進派で日本古来の文化の排斥論者という。同日、陸軍大佐・本庄も高島と同じく、鋭い刃物で一突きに殺されたとの知らせが入り、手口から同...書評:今野敏著、『サーベル警視庁』&『帝都争乱サーベル警視庁』(ハルキ文庫)

  • 書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VII レッド・ヘリング』(角川文庫)

    相変わらず松岡圭祐の著作スピードは驚異的です。VIが出てから4か月ですでに続刊発売。ストーリーを忘れないでいられるので、多読者としてはありがたいです。さて、この巻では杉浦李奈が作家としての「有名税」とも言える嫌がらせ行為を受けることから始まります。Amazonの作品評価に唐突に星1つの投稿が並んだり、自分の名前で身に覚えのない官能小説が出版社に送られていたり、自宅の住所が公開されたり等々。しかし、警察に届けると作家のファンが離れてしまうリスクが大きいので李奈が有効な対抗策を取れないままでいると、いきなり出版社にいる李奈を呼び出す内線電話がかかってきて、会いに行くと、様々な嫌がらせをやらせた本人と思われる大企業の社長が現れ、明治に500部ほど発行されたという幻の丸善版新約聖書を探し、詳細な研究論文を執筆して...書評:松岡圭祐著、『ecriture新人作家・杉浦李奈の推論VIIレッド・ヘリング』(角川文庫)

  • 書評:しきみ彰著、『後宮妃の管理人 七 ~寵臣夫婦は出迎える』(富士見L文庫)

    今年の3月末に全6巻まとめ買いして一気読みし、物語がまだ完結していなかったことに悶絶した『後宮妃の管理人』。11月半ばに発売された7巻を読んだら、登場人物たちの背景情報をすでに若干忘れていたので、また最初から読み返してしまいました。ラノベだからできる芸当ですね。さて、黎暉大国は初夏。首都は耐えがたい暑さとなるため、優蘭たち健美省は、皇帝の勅命のもと、妃嬪たちの避暑地行きを催すことになり、後宮は朗報に湧きますが、ただ一人、普段は模範的で目立たない充媛の藍珠がなぜか避暑地行きを拒みます。どうしたものかと優蘭が夫の右丞相の皓月に相談しに行くと、そこではそれどころではない騒ぎになっていた。敵国とも言っていい杏津帝国の外交使節団がやって来るのだという。しかも、使節団代表は過激なタカ派の王弟とのことで、どんな意図があ...書評:しきみ彰著、『後宮妃の管理人七~寵臣夫婦は出迎える』(富士見L文庫)

  • 読書メモ:濱田英人著、『認知と言語 日本語の世界・英語の世界』(開拓社 言語・文化選書62)

    『認知と言語日本語の世界・英語の世界』(開拓社、2016/10/21)は、タイトルからも察せられるように、認知の仕方の違いがどのように言語に現れるのかについて、日本語と英語の例を元に説明するものです。「ことば」は言語話者のモノや出来事の捉え方を反映しています。日本語話者は出来事を「見え」のまま認識するのに対して、英語話者は出来事をメタ認知的に捉える認識であり、このために世界の切り取り方が異なっています。本書ではこの認識の違いが日英語の言語的特徴に表れていることを具体的な事例を挙げて述べ、認知的側面から『日本語の世界』「英語の世界」の本質を明らかにします。目次はじめに第1章認知文法からのアプローチ1.1認知文法の言語観1.2日英語話者の出来事認識の違いと言語表現1.3まとめ第2章空間認識と言語表現2.1英語...読書メモ:濱田英人著、『認知と言語日本語の世界・英語の世界』(開拓社言語・文化選書62)

  • 書評:松岡圭祐著、『探偵の探偵 桐嶋颯太の鍵』(角川文庫)

    紗崎玲奈を主人公とする『探偵の探偵』シリーズでは脇役だった桐嶋颯太を主人公とした本作品は、女子大生・曽篠璃香がガールズバーでバイトして、太客であるスギナミベアリング株式会社社長の漆久保宗治に気に入られて彼の専属スタッフのようになり、やがて大学や自宅にまでつきまとわれるようになるのが端緒となります。璃香はつきまといを阻止するために探偵を雇いますが、その探偵は返り討ちに遭ってしまい、自分の手には負えないので探偵の探偵に依頼を持ち込むことを璃香に勧めます。こうして璃香はスマ・リサーチを頼ることになるのですが、桐嶋颯太は璃香と日比谷公園のベンチで待ち合わせて話を聞き、すでに漆久保の愛人になってしまっている璃香をわざと怒らせ帰らせてしまいます。この策略によって桐嶋は璃香の行動を逐一漆久保に報告している悪徳探偵を突き...書評:松岡圭祐著、『探偵の探偵桐嶋颯太の鍵』(角川文庫)

  • 書評:今野敏著、『継続捜査ゼミ』全2巻(講談社文庫)

    『継続捜査ゼミ』は、長年の刑事生活の後、警察学校校長を最後に退官した小早川が幼馴染の運営する女子大に再就職し、教授として『刑事政策演習ゼミ』、別名『継続捜査ゼミ』を受け持ち、5人のゼミ生たちと公訴時効が廃止された未解決の殺人等重要事案を取り上げて、捜査演習をします。その傍ら身近な女子大内の事件の解決にも取り組むので、ちょっとした探偵団のような様相を呈しています。ゼミ生たちの着眼点や推理は鋭く、最初の事案である逃走経路すら不明の15年前の老夫婦殺人事件を実際に解決に導いてしまいます。2巻では、〈三女祭〉という大学祭で実施されるミスコンに対する反対運動のリーダーが襲撃され、彼女に最後に二人きりで会った小早川に容疑がかけられ、強引な捜査を受ける一方、ゼミでは冤罪を取り上げ、実際に一審で有罪判決を受け、二審で無罪...書評:今野敏著、『継続捜査ゼミ』全2巻(講談社文庫)

  • 書評:谷瑞恵著、『額装師の祈り 奥野夏樹のデザインノート』(新潮文庫)

    谷瑞恵はこれまでコバルト文庫などの少女向け小説家というイメージがありましたが、この作品は新潮文庫というだけあって、文学性が高いです。主人公は、婚約者を事故で亡くし、その婚約者の職業であった額装を自分で始めることで、亡くした人とのつながりを保とうとする奥野夏樹。彼女の元にくる変わった額装の依頼(宿り木の枝、小鳥の声、毛糸玉にカレーポット)のために依頼主の背景や動機など依頼の裏に隠されているものを探し、その心を祭壇のような額で包み込む。そうした額装は夏樹の祈りのようなもの。彼女の額装に興味を示し、何かと話しかけたり、手伝ったりする純。彼もまた子どもの頃に友だちと川でおぼれ、不思議な臨死体験をしたことがあり、後遺症や罪悪感にもがいています。登場人物たちは皆、心に傷を負っており、その思いを額装してもらうことで観賞...書評:谷瑞恵著、『額装師の祈り奥野夏樹のデザインノート』(新潮文庫)

  • 書評:谷瑞恵著、異人館画廊シリーズ全7巻

    『盗まれた絵と謎を読む少女』絵画から図像(イコン)的意味を読む取る才能に恵まれていた此花千景(18)は、誘拐事件を機に両親に見捨てられて、祖父母に養育されます。祖父は画家で、千景の特殊な才能を否定することなく伸ばそうと渡英します。祖父母は先に帰国し、千景はイギリスでスキップを繰り返し、図像学(イコノグラフィー)の研究で学位を取得。祖父の死を機に帰国します。千景は祖母の営む異人館画廊兼カフェのある家の中の祖父のアトリエを受け継ぎ、そこで「彼に千景をもらってくれるように頼んでおいた」という旨の遺言を見つけます。このいいなずけは誰なのか。祖母の画廊兼カフェ「Cube」は珍しい絵を入手して観賞するサークル「キューブ」の集会場になっており、若くして老舗画廊を継いだ幼馴染の西川透磨に千景は否応なく巻き込まれ、図像の鑑...書評:谷瑞恵著、異人館画廊シリーズ全7巻

  • 書評:今野敏著、『石礫 機捜235』(光文社)

    渋谷署に分駐所を置く警視庁第二機動捜査隊所属の高丸卓也を主人公とする短編集『機捜235』の続編である『石礫機捜235』は一本の長編です。高丸と縞長が密行中に指名手配の爆弾テロ犯・内田を発見し追跡したことで、内田が追跡に気付いてタクシー運転手を人質に取って建築現場に立てこもるという事件が発生します。一方、パトカーでパトロール中だった自ら隊の吾妻と森田も内田が誰かと会ってリュックサックを交換しているところを中目黒駅で目撃しており、その目撃情報を立てこもり現場に来た特殊班SITや所轄刑事に報告するものの相手にしてもらえなかったため、高丸・縞長と共に独自に内田が立てこもる前に何をしたのかを探り出します。立てこもりは成り行きとはいえ陽動作戦の可能性もある。内田が中目黒駅であって荷物を交換した相手こそが爆弾をどこかに...書評:今野敏著、『石礫機捜235』(光文社)

  • 書評:横山秀夫著、『ノースライト』(新潮文庫)

    横山秀夫作品は2年ちょっと前に読んだ『影踏み』以来です。警察小説、犯罪小説のイメージが強い作家ですが、この『ノースライト』は建築士が主人公で、警察とはほぼ全く関係のないストーリーで、ミステリーではあるものの、文学作品と言ってもよいのではないかと思えるようなじんわりとした味わいがあります。建築士・青瀬稔は、施主の吉野に「あなたが住みたいと思う家を建ててください」と言われ、信濃追分に主に北向きの窓から採光し、そのノースライトの柔らかな光を家全体に行き渡らせるこだわりの設計をして、その家を建てました。この家は「Y邸」として〈平成すまい200選〉に取り上げられ、そのおかげでこれと同じ家を建てて欲しいなどの依頼が来るようになります。クライアントの1人が実際に信濃追分に行って、可能ならば内覧させてもらおうと思ったとこ...書評:横山秀夫著、『ノースライト』(新潮文庫)

  • 書評:池井戸潤著、『半沢直樹 アルルカンと道化師』(講談社)

    『半沢直樹アルルカンと道化師』は『俺たちバブル入行組』を始めとする半沢直樹シリーズの最新刊ですが、時系列は第一作と同じころの2001年。第一作ではまだ合併改名前で産業中央銀行でしたが、本作品では東京中央銀行になっており、半沢直樹はその大阪西支店融資課長をしています。第一作では、事件解決後、半沢に本店営業第二部次長の辞令がでていますので、このアルルカンのエピソードはそれよりも前のことになるはずなのですが、今一つ整合性が取れません。こうした小さな矛盾点は単行本が文庫化する際にもしかすると改訂されるのかもしれませんが。ストーリーは、大手IT企業ジャッカルが、業績低迷中の美術系出版社・仙波工藝社を買収するという話を大阪営業本部が半沢のいる大阪西支店に持ち込むことから始まります。最初はジャッカルの名前も伏せられてお...書評:池井戸潤著、『半沢直樹アルルカンと道化師』(講談社)

  • 書評:池井戸潤著、『民王 シベリアの陰謀』(KADOKAWA)

    内閣総理大臣・武藤泰山とその息子・翔がテロに遭い、なぜか中身が入れ替わるというSFめいた政治コメディを描いた『民王』の続編である『民王シベリアの陰謀』は、発足したばかりの第二次内閣の「マドンナ」環境大臣・高西麗子が発症すると凶暴化する謎のウイルスに冒され、衆目の中で暴れて隔離保護されることに端を発した感染拡大の国家的危機の話です。武藤泰山の息子・翔も仕事で京成大学の並木又二郎ウイルス学教授に届け物をした際に、後に「マドンナ・ウイルス」と命名されるこのウイルスに感染した教授に襲われ、自信も感染してしまいます。幸い翔は発症せず、間もなく隔離から解放されます。武藤泰山は東京感染研究所長の根尻賢太を感染対策チームリーダーに任命し、その助言を受けて緊急事態宣言の発令を断行しますが、野党や国民の受けが悪く、政敵の東京...書評:池井戸潤著、『民王シベリアの陰謀』(KADOKAWA)

  • 書評:情報文化研究所著、高橋昌一郎監修『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』(フォレスト出版)

    『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』は論理学的アプローチ、認知科学的アプローチ、社会心理学的アプローチの3つのアプローチに分類され、それぞれ20個、合計60個のバイアスを定義・関連バイアス・具体例・対策・参考文献という一定の型式に従って紹介します。「吊り橋効果」や「サブリミナル効果」などの有名なものから一般にはさほど知られていないものまで、比較的わかりやすくイラストや図解を使って説明されています。60個全部を記憶して対策するのは無理ですが、一度通して読むことでいかに人間の感覚や思考があてにならないかを知ることは、様々な誤謬に知らずに陥ることを防ぎ、より客観的・論理的・批判的に思考するための一助となります。以前にロルフ・ドベリの『ThinkSmart間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考...書評:情報文化研究所著、高橋昌一郎監修『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』(フォレスト出版)

  • 書評:池井戸潤著、『ハヤブサ消防団』(集英社文芸単行本)

    池井戸潤作品は実に3年ぶりに読みました。足袋屋がランニングシューズを開発するストーリーの『陸王』を読んだのが最後でした。『ハヤブサ消防団』は、亡き父の故郷に東京から移住した売れないミステリ作家・三馬太郎が主人公のミステリーです。中国地方の田園地帯。田舎なので人々はよそ者には開放的ではないのですが、太郎は両親の離婚のせいで疎遠になっていたものの、祖父母が健在の時代は訪れることもあったので、「ああ、野々村さんとこの息子か」と出戻った村の子のようにすんなり受け入れられます。濃厚な人間関係も含めて田舎暮らしの醍醐味と心得、村人たちに誘われるまま自治会に入り、その会合の後の飲み会で、今度はハヤブサ地区の消防分団に勧誘を受け、それにも愛郷心を示そうとして引くに引けなくなって入団することになります。そして入団式の日、放...書評:池井戸潤著、『ハヤブサ消防団』(集英社文芸単行本)

  • 書評:今野敏著、『マティーニに懺悔を(新装版)』(ハルキ文庫)

    『マティーニに懺悔を(新装版)』は、富士見ヶ丘を舞台とし、「シノさん」と呼ばれるバーテンダーの経営する細長いカウンター・バーの常連の茶道の師匠が語る短編連作です。〈私〉より5歳年下の幼馴染でピアニストの三木董子(25)とアイルランド人のベンソン神父がこのバーでの飲み友達。元は『男たちのワイングラス』というタイトルでしたが、新装版で改題。「怒りのアイリッシュウイスキー」「ヘネシーと泡盛」「ブルゴーニュワインは聖なる血」「マティーニに懺悔を」「鬚とトニック・ウォーター」「ビールの泡」「チンザノで乾杯」「ヘネシーの微笑」の8話が収録されています。タイトルから察せられるように、この作品ではお酒が重要な役割を果たしています。〈私〉とベンソン神父が飲むのはブッシュミルズ、董子が飲むのは芳醇なヘネシー。主人公は、武道の...書評:今野敏著、『マティーニに懺悔を(新装版)』(ハルキ文庫)

  • 書評:今野敏著、倉島警部補シリーズ『曙光(しょこう)の街』他全6巻(文藝春秋)

    『ボディーガード工藤兵悟』シリーズの4巻『デッド・エンド』で日露混血の凄腕エージェント・ヴィクトルが登場していたので、『曙光(しょこう)の街』を始めとする倉島警部補シリーズを知り、こちらのシリーズも読んでみることにしました。これまで『曙光(しょこう)の街』、『白夜街道』、『凍土の密約』、『アクティブメジャーズ』、『防諜捜査』、『ロータスコンフィデンシャル』の6冊が出版されています。最新刊の『ロータスコンフィデンシャル』は単行本が2021年7月に発売されたばかりで、まだまだ続きそうな感じです。第1巻『曙光(しょこう)の街』の単行本が出たのは2001年のことで、冷戦終了からさほど時が経っていない頃、元KGBの特殊部隊員ヴィクトルが赤坂で勢力を伸ばすヤクザ組長を暗殺しようと日本に潜入。情報収集に単調な日々を送っ...書評:今野敏著、倉島警部補シリーズ『曙光(しょこう)の街』他全6巻(文藝春秋)

  • 書評:今野敏著、『潜入捜査 〈新装版〉』シリーズ全6巻(実業之日本社)

    今野敏の警察小説の原点とも言える『潜入捜査』シリーズは1991~1995年にアクションもののひとつとして書かれました。著者本人は警察小説を書きたかったものの、当時そのような需要があまりなかったのだとか。警視庁のマル暴刑事・佐伯涼は、情け容赦のない実力行使で裏世界の恨みを買っていたのですが、突然の異動命令が下り、警察手帖と拳銃を返上した上で「環境犯罪研究所」という環境庁の外郭団体へ出向せよという。同研究所は所長の内村と秘書の白石、そして佐伯を加えてたったの3人。環境犯罪を取り締まる法整備が整うまでの暫定措置だという。内村は省庁を跨いで異動した異例の経歴を持つキャリア官僚で、「官僚は国をよくするために働くべきだ」という理想を実践する食えない人物。後の隠蔽捜査の竜崎の原型キャラだそうです。一方、佐伯涼は大化の改...書評:今野敏著、『潜入捜査〈新装版〉』シリーズ全6巻(実業之日本社)

  • 今野敏著、萩尾警部補シリーズ『確証』『真贋』『黙示』(二葉文庫)

    このところずっと今野敏作品を読み続けていますが、多作な著者なので、なかなか制覇できません。今回読んだのは萩尾警部補シリーズの『確証』『真贋』『黙示』の3冊。このシリーズは警視庁捜査三課、盗犯係の萩尾警部補、通称「ハギさん」が相棒の女性刑事・武田秋穂と共に独特の目をもって活躍する物語です。その「独特の目」というのは、いわば「盗人の気持ちになってみる」という盗人視点の見方によって手口や目的を読み取ることです。「プロ」と呼べる窃盗常習犯には独特のこだわりや手口の特徴があるので、それを見抜く力を養う必要のある捜査三課の刑事は皆、職人の雰囲気を持つようになるのだとか。しかし、職人の勘だけでは犯人逮捕に至らず、どうしても「確証」が必要になります。最初は捜査が勘を頼りに進み、最終的に必要な確証を得るに至るというストーリ...今野敏著、萩尾警部補シリーズ『確証』『真贋』『黙示』(二葉文庫)

  • 書評:今野敏著、『最後の封印』(徳間文庫)

    飛騨山系の登山ルートを大きく外れた原生林の中で「ミュウ・ハンター」の日系人シド・アキヤマが苦戦しているシーンから始まる『最後の封印』は、レトロウイルス流行後の世界を舞台にしたSF系ハードボイルド小説です。「ミュウ」というのは謎めいた存在で、レトロウイルスの進化形、HIV-4に感染した母親から生まれた子供たちを指している。額の瘤が特徴で、生まれながらに「第三の目」と呼ばれる持つ特殊能力を備えているため、社会への適応力を欠き、悪魔が人間の腹を借りて生まれたと言われおり、そのミュウを狩るミュウハンターを雇う組織がいくつもある。そして、このミュウハンターたちを排除し、ミュウを保護する組織〈デビル特捜(スペシャル)〉。そのどちらもミュウたちが本当はどういった存在なのか知らない。そんな中アキヤマは遺伝子工学の研究者で...書評:今野敏著、『最後の封印』(徳間文庫)

  • 書評:今野敏著、『ボディーガード工藤兵悟』全4巻(ハルキ文庫)

    1993年~1995年にかけて書かれた『ボディーガード工藤兵悟』シリーズは『ナイトランナー』『チェイス・ゲーム』『バトル・ダーク』の3編で完結していたのですが、17年後の2012年に復活し、第4巻『デッド・エンド』が加わりました。商品説明世界の戦場で戦ってきた工藤兵悟は、その優れた格闘術と傭兵経験を活かしてボディーガードを生業としている。ある日、工藤の元に、水木亜希子と名乗る女が現れた。かつての仲間の紹介で、依頼を持ちかけられた工藤だったが、直後彼女を狙う男たちに襲撃されてしまう。依頼は、謎に包まれた機密文書と彼女自身を死守すること--期限は3日間。だが、彼女を追ってきた敵は、世界最大の諜報機関CIAだったのだ。警察とCIAを敵に回し、工藤は彼女を守り抜くことはできるのか。傑作冒険サスペンス。商品説明の通...書評:今野敏著、『ボディーガード工藤兵悟』全4巻(ハルキ文庫)

  • 書評:今野敏著、『時空の巫女 新装版』(ハルキ文庫)

    1998年の作品である『時空の巫女』は、核爆発と核の冬の予知夢を見る超能力者たちと彼らの研究並びに地球滅亡を防ぐ方法を探ろうとする研究者、親会社の社長直々の命令で現場に戻って新人アイドル発掘に奔走する原盤製作会社社長の飯島、そしてかつてネパールの生き神様「クマリ」だったチアキ・チェス、予知能力があると思われるAVに出演していた池沢ちあきの2人の「チアキ」たちが織りなす「SF風世紀末ミステリー」と呼べるような作品です。普通の人間は時間が一定方向にしか流れていないように認識していますが、人が何かを選択するたびに世界が分かれて行くというパラレル・ワールドを示唆する量子物理学の理論があり、4次元のいわば「神」の視点から見れば過去も現在も未来もたくさんのバージョンが同時に存在しているという時空の考え方に着想を得た作...書評:今野敏著、『時空の巫女新装版』(ハルキ文庫)

  • 書評:結城光流著、『少年陰陽師 現代編1-2巻』(角川ビーンズ文庫)

    『少年陰陽師』の現代版第1巻『近くば寄って目にも見よ』は、1000年の時を超えて本編で関わり合った人物たちと同じ名前を持つ子孫たちが前世の縁に手繰り寄せられるかのように関わり合っているという設定で進められる短編集です。安倍清明の式となった十二神将たちは相変わらず安倍家に仕えており、安倍家は相変わらず陰陽師を生業をしているのですが、現代は闇も薄くなり、妖もけた外れの強いものは少ないので、昌浩たちは比較的平穏な生活を送っています。元は特別企画の『パラレル現代版』だった世界は大量の書下ろしを加えて一冊の本になったそうです。Amazonで購入する。Hontoで購入する。第2巻の『遠の眠りのみな目覚め』では、本格的に長編で、女性を夢に誘い生命力を奪うという化け物が登場します。やがて見鬼の才のある藤原顕子もその化け物...書評:結城光流著、『少年陰陽師現代編1-2巻』(角川ビーンズ文庫)

  • 書評:松岡圭祐著、『優莉凛香 高校事変 劃篇』(KADOKAWA)

    『優莉凛香高校事変劃篇』は、つい最近完結した『高校事変』シリーズの主人公優莉結衣の妹凛香の物語です。本編では語られていなかった凛香の日常や思いなどが綴られています。時間軸は本編の田代勇次が大量の武器をもって日本に上陸作戦を行う手前(本編IX)の辺りです。彼女がどういう思いで姉の結衣を殺そうとしたり、それが叶わなかった後、どういう思いを姉に抱いていたのか、彼女の複雑な憧れや孤独感、期待と失望、どうせダメだという諦念と自己嫌悪。様々な思いを持て余して自棄になりつつも、純粋なものを自分のせいで汚したくないという良心や守りたいという正義感は結衣と通じるものがあります。激しい「中2」生活を送った凛香の幸せを願わずにはいられない、そんなスピンオフの物語でした。Amazonで購入する。Hontoで購入する。にほんブログ...書評:松岡圭祐著、『優莉凛香高校事変劃篇』(KADOKAWA)

  • 書評:澤村御影著、『准教授・高槻彰良の推察8 呪いの向こう側』(KADOKAWA)

    商品説明年末、憂鬱な気分で実家に帰省した尚哉。複雑な気持ちを抱えながらも、父と将来の話を交わす。翌日、散歩に出た先で、尚哉は小学校時代の友人の田崎涼と出会う。何気なく民俗学研究室や高槻の話をすると、後日高槻の元に涼の兄から相談が。勤務先の小学校で「モンモン」という正体不明のお化けの噂が立ち、不登校の児童も出ているという。怪異大好きな高槻は喜ぶが、その小学校は苦い思い出が残る尚哉の母校で――。(第一章押し入れに棲むモノ)「幸運の猫」がいるという旅館に、泊まりがけで出掛けた高槻、尚哉、佐々倉。何故かスキーをすることになり、大いに戸惑う尚哉だが、高槻と佐々倉に教えてもらい、何とか上手く滑れるように。休憩所で宿泊客たちと歓談していると、うち一人が「昔会った雪女を探しに来た」と言い――?(第三章雪の女)夢で死者に会...書評:澤村御影著、『准教授・高槻彰良の推察8呪いの向こう側』(KADOKAWA)

  • 書評:今野敏著、『新装版 -神々の遺品』& 『海に消えた神々』(双葉文庫)

    探偵・石神達彦シリーズは、どうやらオーパーツ(それらが発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる出土品や加工品などを指すOutofPlaceArtefacts)をテーマとしているようです。元警察官の探偵・石神達彦が、ピラミッドの謎などのブログを書いていた人物の行方を探す依頼を受け、調査を始めると、数日前に起こった日本では著名なUFOライター殺人事件と関連性がありそうなことが判明し、否応なしにオーパーツと呼ばれる摩訶不思議な太古の文明の足跡を辿ることになります。リサーチは主に助手の明智小五郎ならぬ大五郎にやらせ、自分は聞き込みに回りますが、突然ロシア系の男に襲われたりします。一方、アメリカで超常現象研究チーム『セクションO』に極秘の実働部隊をつけるよう国防長官に依頼されたジョーンズ少将は、彼の以...書評:今野敏著、『新装版-神々の遺品』&『海に消えた神々』(双葉文庫)

  • 書評:今野敏著、『新装版-膠着-スナマチ株式会社奮闘記』 (中公文庫)

    『新装版-膠着-スナマチ株式会社奮闘記』は、今野敏の作品としてはかなり異色なのではないでしょうか。刑事も探偵もオカルト的ミステリーも出てこない。接着剤専門会社で新製品開発に失敗して、接着力のない接着剤(それはもう「接着剤」とは言えない)ものができてしまい、これをどうつかえば開発費の回収が可能になるか、引いては株価暴落・乗っ取りを防げるかが課題となります。テーマからすると、まるで池井戸潤の小説と言っても違和感がないような気がします。主人公は就職難でスナマチしか受からなかったので入社したという新入社員で、彼の視点から、指導役のスーパー営業マンの活躍や、機密のプロジェクト会議の様子、社内の人間関係などが描写されます。焦点はあくまでも接着力のない接着剤のなりそこないをどうするかということなのですが、接着剤の原理な...書評:今野敏著、『新装版-膠着-スナマチ株式会社奮闘記』(中公文庫)

  • 書評:今野敏著、『機捜235』(光文社文庫)

    『機捜235』は渋谷署に分駐所を置く警視庁第二機動捜査隊所属の高丸を主人公とする短編集です。公務中に負傷した同僚にかわり、高丸の相棒として新たに着任した白髪頭で風采のあがらない定年間際の男・縞長と組まされるところから始まり、縞長が捜査共助課見当たり捜査班に属していた時に獲得した指名手配犯を一瞬で見分ける特殊能力を発揮して実績を上げて行くうちに、徐々に二人が本当の相棒になっていく過程が描かれます。刑事ものの小説ばかり読んでいると、機捜は事件の端緒に触れて、刑事が現着したときに報告をしたら姿を消してしまうので、実際の役割・業務内容が見えないものですが、この小説では刑事から下に見られがちの機捜に焦点が当てられ、隊員たちの仕事に対する誇りや葛藤など見えにくい部分が表現されています。Amazonで購入する。Hont...書評:今野敏著、『機捜235』(光文社文庫)

  • 書評:今野敏著、『わが名はオズヌ』(小学館文庫)&『ボーダーライト』

    警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズの『パラレル』で登場した修験道の開祖・役小角が降臨する高校生が気になって、オリジナルの『わが名はオズヌ』を読んでみました。荒れた神奈川県立南浜高校に通う賀茂晶が自殺未遂をして以来、役小角が降臨するようになり、その法力により人を操ってしまう。元暴走族リーダーで今は後鬼として小角に従う同級生・赤岩猛雄、美人担任教師・水越陽子たちとともに、建設推進派の自由民政党代議士・真鍋不二人と大手ゼネコン久保井建設社長の策謀に立ち向かっていくというのがメインストーリーです。警視庁から賀茂についての調査要請を受けた神奈川県警生活安全部少年一課の高尾勇と丸木正太は、調査要請が取り下げられた後も調査し続け、賀茂晶の謎に迫ります。役小角についての蘊蓄がやや冗長なきらいはありますが、『特殊防諜班』シリ...書評:今野敏著、『わが名はオズヌ』(小学館文庫)&『ボーダーライト』

  • 書評:もり著、『屋根裏部屋の公爵夫人』全3巻(KADOKAWA)

    おすすめとして上がってきて、面白そうなので3冊まとめ買いした上に、一気読みしてしまいました。政略結婚のすえ公爵夫人となったオパールは、社交界デビューしたばかりの時にやらかしてしまった失敗のため、いわれのない不名誉な噂が立ち、それを真に受けていた公爵およびその使用人たちに剥き出しの敵意を向けられ、邪魔者扱いされたため、拗ねて屋根裏部屋にこもってしまいます。そこからの逆転劇が語られます。オパールは伯爵令嬢で、持参金以外にも自分の資産を持っており、子どもの頃から領地の管理人に様々なことを教わっていたので、その知識を生かして、借金にあえぐ公爵家の領地の再建に乗り出そうとしますが、公爵に相手にしてもらえなかったので、法務官の叔父の手を借りて公爵家の領地を自分名義に書き換え、名ばかりの夫に宣戦布告し、公爵領に向かい領...書評:もり著、『屋根裏部屋の公爵夫人』全3巻(KADOKAWA)

  • 書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十三 十年飛ばず鳴かず』(B's‐LOG文庫)

    『茉莉花官吏伝』の最新刊が出ていたので早速読んでみました。絶対に失敗すると思われていた任務でとんでもない成功を収めた茉莉花は、足を引っ張ろうとする敵ではなく、味方につけようという魂胆を持ったお見合い攻勢を受けることになります。この巻は、そのお見合いの対処と、商工会主催の花祭の準備が描かれます。花娘の長女に指名された茉莉花は、街の人々との親交を深めつつ、犯罪者の視点を学んで街の治安対策を考える一方で、花娘の長女には本来必要のない舞と琵琶を真剣に練習します。さて、彼女は花娘の大役を成功させられるのか。そして、根本的なお見合い話対策とはどんなものなのか。この二つがこの巻の鍵です。ミッション自体はこれまでの外交ミッションに比べてかなりやさしいもの。そんな中で、皇帝・白陽との恋の甘味が増していき、なんとも微笑ましい...書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝十三十年飛ばず鳴かず』(B's‐LOG文庫)

  • 書評:今野敏著、『警視庁捜査一課・碓氷弘一』シリーズ全6巻(中公文庫)

    警視庁捜査一課の中年刑事・碓氷弘一を主人公とする本シリーズは、最初からシリーズとしてコンセプトが練られたわけではなさそうな印象を受けました。というのは、6冊全部一気に2日半かけて読んだせいで、作風や構成の違いを強く感じたからかもしれません。『触発』と『アキハバラ』は構成が明らかに似ています。両作品とも犯人を含めた関係者の視点で語られる断片的なエピソードがパズルのように折り重なっていく手法です。それぞれ無関係に思われる人物たちがそれぞれの考え、行動していき、そうした話の糸が何本も絡み合ってやがて一つの大きな事件・事案(爆発テロと秋葉原のとある大きなショップでの爆弾予告と立てこもり事件)に収斂していきます。このため、碓氷弘一は登場人物の1人に過ぎず、「主人公」というほどの比重がありません。事件解決にかなり決定...書評:今野敏著、『警視庁捜査一課・碓氷弘一』シリーズ全6巻(中公文庫)

  • 書評:今野敏著、任侠シリーズ1~6巻(中公文庫)

    最近読んだ『マル暴甘糟』シリーズの甘糟がちょい役で登場しているという任侠シリーズ既刊6巻を一気読みしました。語り手は日村誠二。30代半ばで、今時珍しい任侠道をわきまえたヤクザ・阿岐本組の代貸です。組は組長を含めて総勢6名ですが、阿岐本組長が異様に顔が広く、全国のヤクザの組長に収まっている人たちと若い時分に兄弟の盃を交わしているため、大きな指定暴力団の傘下に入らないまま独立で生き残っています。甘糟はこの阿岐本組の様子見に来ており、時には阿岐本組に対する警察側の理不尽な扱いがあった際に助けてくれたりするので、「ちょい役」というほど小さな役割ではありません。さて、甘糟刑事のことはともかく、この任侠シリーズの面白いところは、組長が損得ではなく人情で様々な面倒ごとの解決を引き受け、そのたびに振り回されている心配性の...書評:今野敏著、任侠シリーズ1~6巻(中公文庫)

  • 書評:岡本裕一朗著、『哲学と人類 ソクラテスからカント、21世紀の思想家まで』(文春e-book)

    タイトルからものすごく壮大な歴史的俯瞰的な考察を想像しますが、そこまで網羅的なものではなく、「技術」「メディア」という観点から見た人類の発展略史のような感じでした。中心となるのは3つの技術革新とそれに影響を受けた思想の発展です。一つ目は文字の発明。ここではギリシャ哲学者のソクラテスの「書き言葉」に対する否定的な見方と、それでもなお「対話」としてソクラテスの教えを書き留めたプラトンについて考察されます。しかし書き留めて書物にするトレンドは変わらず、ついに「聖書」がベストセラーに。キリスト教の広がりは「書物」というメディアなしにはあり得なかったという考察。二つ目は印刷技術の発明。手作業で書き写していた書籍がグーテンベルクの印刷技術によってある程度大衆化したこと。ここでの「大衆化」はラテン語・ギリシャ語ではなく...書評:岡本裕一朗著、『哲学と人類ソクラテスからカント、21世紀の思想家まで』(文春e-book)

  • 書評:今野敏著、『特殊防諜班』全7巻(講談社)

    『連続誘拐』に始まる『特殊防諜班』シリーズは1980年代の作品で、米ソ冷戦真っ最中の時代に始まり、最終巻でベルリンの壁崩壊に至り、ドイツ統一に対する恐怖が描かれているあたりにものすごく時代を感じさせますが、7巻一気に読み切ってしまうくらいには面白いです。大きなテーマは、ユダヤ人の「失われた十支族」の1つの系譜が出雲の山奥に質素な神社を構える芳賀家の家系に伝えられており、この支族こそが黙示録で記されているところの人類滅亡の危機を生き延びる「新人類」と目されていることです。そしてそれを何が何でも滅ぼしたい謎の団体「新人類委員会」がその財力・組織力を駆使して暗殺・テロ行為を仕掛けて来ます。それを迎え撃つために「特殊防諜班」が試験的に結成され、自衛官の真田武男が引き抜かれて、緊急事態に限り総理大臣直属の捜査官とな...書評:今野敏著、『特殊防諜班』全7巻(講談社)

  • 書評:今野敏著、『マル暴甘糟』&『マル暴総監』(実業之日本社)

    読書日から少々日にちが経ってしまいましたが、『マル暴ディーヴァ』を読んでからシリーズの1・2巻があることに気付いて読んだものです。『マル暴甘糟』がマル暴に全然似合わないあまりやる気のない今風の刑事・甘糟を主人公とする最初の作品ですが、脇役としてはすでに任侠シリーズで登場していたということをこのあとがきで知り、今度はそっちを読んでみようと思うくらいには面白かったです。多嘉原連合の構成員が撲殺された事件から始まる捜査で、反社会的勢力同士の抗争なのか、被害者の反グレ時代の怨恨なのかを巡って捜査一課と対立しつつ、マル暴独自の捜査をするというのが粗筋です。このシリーズの面白さは、甘糟刑事の「あーいやだなあ、面倒くさい」という心の中が駄々洩れで、全然熱血・仕事熱心でないわりには、刑事を辞めてしまうほど仕事が嫌いという...書評:今野敏著、『マル暴甘糟』&『マル暴総監』(実業之日本社)

  • 書評:堀元見著、『教養(インテリ)悪口本』(光文社)

    『教養(インテリ)悪口本』というタイトルを見て「なんだその意地の悪そうな本は⁉」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、インターネット(特にSNS)には何のひねりもない「ばか、死ね」的な書き込みが溢れていることを考えれば、悪口を一ひねりして、ユーモアをもって笑い飛ばそうという著者・堀元見は、むしろ心優しいと思えませんか?悪口は誰も幸せにしない。言われた方はもちろん、言う方も聞く方も皆気分を害してしまうものです。どうやら、脳は主語を区別せずに情報処理するらしく、言われた悪口を「自分のこと」として変換してしまうようで(どこかで読んだ心理学研究の結果)、それゆえに悪口を言うことで、自分が悪口を言われたのと同じくらい腹が立つようです。悪口を言えば言うほどどんどん腹が立って来るという経験をした方も少なくないので...書評:堀元見著、『教養(インテリ)悪口本』(光文社)

  • 書評:今野敏著、『マル暴ディーヴァ』(実業之日本社)

    「お気に入り作家の最新刊」ということで自動的にお勧めされたので、そのままほいほい買って読んでしまった後に、これが『マル暴甘糟』シリーズの第3作であることに気が付きました(笑)というわけで、次に読む本はシリーズの前作『マル暴甘糟』と『マル暴総監』に決定ですね。ストーリーは住宅街の一角にあるひっそりとしたジャズクラブ「セブンス」に薬物取引関係の家宅捜査をすることに始まります。実はそのジャズクラブは警察OBの経営する店で、現役の管理官が歌姫として週2回出演しており、警視総監もお忍びで通っているといういわくつき。家宅捜査の時も警視総監がお忍びで来ており、面識のある甘糟にそのジャズクラブに嫌がらせをしている者がいるらしいので捜査してほしいと依頼します。主人公の甘糟は若手刑事で、なんで刑事になったのか、しかもよりによ...書評:今野敏著、『マル暴ディーヴァ』(実業之日本社)

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