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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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住所
岐阜市
出身
伊万里市
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2014/10/10

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  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百五十八)

    「まあね。武蔵も、浮気ぐせがなくなれば、ほんとに良い夫なんだけど。でも、武蔵が浮気をやめたら、武蔵じゃなくなる気もするしね。面白いのよ、武蔵は。浮気したのかどうか、すぐに分かっちゃうの。笑っちゃうわ、ほんとに。自分からね、あたしは何も言わないのに、白状してるようなものなの。武蔵には内緒よ。くくく、武蔵ったら、かならず言うの。『こんどの休みに、買い物に行かないか?欲しいものはないか?取り引きがな、うまく行ったんだ』なーんて。ううーん、間違いないわ。だからね、こう考えることにしたの。武蔵の浮気は自分へのごほうびなんだ、って。ひとつ取り引きに成功したら、誰も褒めてくれないから、自分にごほうびを上げてるんだって。でも自分だけだと気がとがめるから、あたしにもごほうびをくれるんだって。おかしいでしょ?ほんとに」小夜子...水たまりの中の青空~第二部~(三百五十八)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百五十七)

    「お客って、どうせ女でしょ?あたしを呼ばずに接待するということは。で、どういう素性の女なの?」「温泉組合の理事さんです。とっくりやらさかずきやら陶器のとりひきがありまして、その仲立ちのお礼をかねての、」「ふん。その理事が怪しいのよね。旅館でしょ、女将だわね。で、どこの温泉なの?」「東北だと聞いておりますが」「東北ですって?そんな所にまで女を作ったの?あきれた」「いえ、ほんとうに取り引きがありまして。現にこのあいだも、」「いいのねいいのよ。武蔵が遊びだけで行くわけないもの。出張のついでの遊びなのか、遊ばんがための出張なのか、一体どっちでしょうねえ」竹田のことばをさえぎっては、小夜子がたたみかけてくる。小夜子の勘――女の勘はするどい。もう竹田のごまかしはまったく効かない。「小夜子奥さま、それはちょっと。社長は...水たまりの中の青空~第二部~(三百五十七)

  • ポエム・ポエム・ポエム 黎明編 (Oh God!)

    おお神よ!わたしはこれまで十七年間というもの――あなたにとっては短い時でありましょうが――あなたを毛ほどにも恨めしく思ったことはありませんが今日というきょうはどうしても恨みに思わずにはいられないのですとぼけないでください!この間のハガキといいこの手紙といい一体あなたは……ぼくをどうしたいのですか?ああ神よ!わたしは決して他人を恨みに思いつづけたことはありませんええこれまでいち度だって……すべて己の不徳のゆえにとおのれを責めつづけてきましたしかし今回の仕打ちはあんまりです……あなたの愛を期待してはいけないのですか?あなたの愛を欲してはいけないのですか?アダムとイヴは禁断の実を食したがために……あなたに見捨てられた?……そして、いま、楽園を追放されるのでしょうかこのぼくもああジュリエット!どうしてわたしはこの...ポエム・ポエム・ポエム黎明編(OhGod!)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 問屋街(六)

    「名古屋のコメ兵なら、中古品かもしれないけど安く買えただろうに」という同僚のことばもあとの祭りで、つい「定価で買うことが大事なんだ。うちだって値引きねびきで苦労しているだろうが。みんなが定価で買えば、こんな苦労はしないですむんだ」と、負け犬の遠吠えをしてしまった。その苦い思い出の時計をじっと見つめながらただ突っ立っているぼくに「静子ちゃんがね、あなたとお話をしたいんですって。でもふたりきりは恥ずかしいから、お姉さん代わりのあたしに同伴して欲しいというのよ」と、麗子さんがとびっきりの笑みを浮かべながら説明してくれた。異性との付き合いが苦手なぼくには、ある意味ありがたいことだった。しかも憎からず思っている相手だけに、小躍りせんばかりの気持ちだった。すぐにもOKの返事をせねばと思っている口から出たのは「はあ…」...青春群像ごめんね……問屋街(六)

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (十四)Coca_Cola少年のボックスからは、その女の横顔がしっかりと見えた。少しからだを傾ければ、すがた全体が見えた。赤いミニスカートにグリーンのロングベストを身に着けている。おかっぱ風に前髪をそろえて、横髪でみみを隠している。クレオパトラを思わせる、髪型だ。際立った美人でもなく、愛くるしさにあふれているわけでもない。なんの変哲もない、ふつうの女だった。その女の手を、少年の目がとらえる。すらりと伸びた細い指が、少年と同じくコーラを手にしていた。Coca_Colaという文字の入ったコップは、まさに少年が手にしているコップだった。大事そうに抱えるそのコップの文字が、少年の目にグングン迫ってくる。その服装にはとても似つかわぬコーラ、それが少年には妙に生なましく感じられた。異国の地で出会った同郷人に見えた。そ...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (五)

    なん組かの親子づれが、子どもにせがまれて列にはいった。そしてアベックがふた組はいり、女子ふたり組もはいっていく。ぼくもまたつられるように友人とともにその列にならんだ。そまつな小屋で、台風が襲ってこようものならたちまちに吹き飛ばされるように見える。つっかい棒がされてはいるが、サーカス場のようなしっかりとしたテント作りではなかった。ちいさな男の子が列をはなれて横手にまわっていった。すぐに、「コラッ!」というがなり立てる声き聞こえた。むしろをめくって中にでも入ろうとしたのだろうか。小屋に入ってすぐに、『人魚姫』という看板に出くわした。すこし先になにやらあるようだったが、ぼくのところからはまだ見えない。ときおり間延びするテープの声がきこえるだけだ。「不老長寿のれい薬として珍重される人魚のきもでございます。数おおく...青春群像ごめんね……祭り(五)

  • きのうの出来事 (Gone with the Wind)

    やっと、やっとですが、「風と共に去りぬ」を観ました。2017年1月16日に、○○円で購入したものです。レンタル落ちDVDでして、超激安の値段で売りに出されていました。楽天がレンタル事業からの撤退によって、大量のDVDがでたんですよ。下手にレンタルするよりも安いと言うことで、リタイア後の楽しみとして購入したわけです。5円~ということで、とにかく古い作品を買いあさったわけです。購入金額が3,000円以上だったかな、送料無料になるということでしたわ。で先日、目録をつくる意味もこめて数えたところ、なんとまあ120~130枚ありました。テレビ放送分(映画やらドラマやら、果てはドキュメンタリーも)での録画分も含めると、200枚は軽く超えちゃうでしょうって。でもって、見はじめたということです。「風と共に去りぬ」は、表裏...きのうの出来事(GonewiththeWind)

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (七)

    (僧侶二)「あたまだけはまもれ。てやあしをけがしてもしぬことはない」そんなごんたの声が、ごんすけの頭をよぎった。「ごんすけ、こんなところに居たか。よしよし、よく頑張った。さあ、一緒に来い」昨夜ごんたの家を訪れた僧侶が声をかけた。年に一度は立ち寄る僧侶だが、先月に来たばかりなのに、その折のごんたの沈みきった目の中に尋常ならぬ怒りの炎を見てとった。いつもなら本山での所用を終えた後に北へ東へと足を伸ばすのだが、今回ばかりはごんすけが気になりそのまま戻ってきた。「おねがいです。にしのほうに、なんばんじんたちがやってくるみなとがあるとか。ごんすけをなんばんのちにもどしてやりてえ」ごんたの、苦渋の決断だった。「ごんすけはおらのこじゃねえ。なんばんじんのこだ。かえしてやるのが、ほんとうだ。ここにいちゃ、いつまでもいじめ...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百五十六)

    「太平洋戦争はね、体力勝負で負けよ」「いえ、そんなことは。天子さまのおこころづかいで負けることにされましたが、さいごには大和魂で勝ったはずです。敗戦は、これいじょう民にぎせいをしいたくないからとの、天子さまのおぼしめしですから」「竹田は、沖縄戦を知らないの?勝負ありだったのに、大和魂なんて持ち出しちゃってさ。特攻機とか回天なんて、とんでもない兵器を開発して。だからアメリカも、とんでもないものを使ってくるのよ。原子爆弾やら水素爆弾やら。ていよく実験場にされちゃったのよ。男のくせにうじうじしちゃって。終戦の決断も、天子さまのご英断でしょ。それにね、アメリカ本土は無傷だったんでしょ?どうせ特攻なんて無謀なことをするのなら、アメリカ本土をやっつけなきゃ。そうすれば、こっちの言い分が通ったはずよ。ほんと、日本の男た...水たまりの中の青空~第二部~(三百五十六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百五十五)

    勝子だけでなく、自責の念にかられつづけていた母親。遊び感覚でかわした接吻を近所のおとなに見とがめられて、田舎を追いだされたふたりだった。ひと間の部屋に、生きていくためだけに同居をはじめたはずだった。駆け落ちのふたりには、世間の風はつめたい。早々に仕事を見つけなければならないし、落ち着く居所も決めなけなければならない。手持ちの金員が底をつきかけたときに、「住み込み可。夫婦者も可」という張り紙を見つけることができた。「身元引受人は……いないだろうねえ」。ふたりの姿を舐めまわすように、上から下まで見られた。縮こまりながら土下座せんばかりに腰をおるふたりに、「事情があるんだろうから」と、パチンコ店での仕事が見つかった。身ごもっていたことを知らなかったとはいえ、浴びるように酒を飲む生活がはじまった。“なんで姉さんだ...水たまりの中の青空~第二部~(三百五十五)

  • きのうの出来事 (睡眠時間:9時間)

    久しぶりに、たっぷり(9時間)と寝ました。といっても、だいたい8時間前後を毎日とってますけどね。土~日にかけては、6時間ほどでしたが。めずらしく午前2時の就寝となり、翌日は8時にめざめちゃったんです。でもまあ、そのぶん毎日の昼寝(30分ぐらいですか)をとり、さらに夜寝というか…。夕食途中でどうにも眠くなり、小一時間かほど眠ってしまいましたが。8時間と9時間。この1時間ほどの差がね、ちがうんですわ。むろん、一気に9時間を寝るのではなく、二度寝にはなっていますけど。7時半だったかにおしっこに起きました。このまま起きて昼寝をたっぷりとろうかとも思ったのですが、気がついてみると、しっかりと眠っていました。少なくとも、きのうよりは清々しい朝です。ああ、このまま世の中が一変していませんかねえ。例えば、わたしの貯金額が...きのうの出来事(睡眠時間:9時間)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百五十四)

    そんな小夜子だから、竹田のお守り役どきには精一杯の我がままを通す。武蔵からのお墨付きが出ているのをよいことに、五平の苦虫をつぶした顔をしりめにいそいそと出かけていく。「竹田。俺が出張のときは、小夜子の面倒はお前がみてやってくれ。社用でないことにも、お前を使おうとするかもしれんが。いや、使うな。とにかく、小夜子を優先してくれ。専務には、俺からいっておく。どうにも、小夜子は専務とはうまが合わんようだからな。ま、よろしく頼むぞ」「分かりました、小夜子奥さま優先でいきます」当初こそ小夜子を独占していとうらやましがれたものだが、小夜子のわがままぶりをみるにつれ、男性社員たちのやきもちの視線はきえた。「いいのよ、たまには。武蔵は出張でいないし、千勢には遅くなるからっていってあるから」「ですが、小夜子奥さま。もう陽がか...水たまりの中の青空~第二部~(三百五十四)

  • ポエム 黎明編 (独り)

    君と僕との間にあるものはただ……空間何もない空間その虚しさがその寂しさが僕には耐えられない君に僕の愛を伝える方法はないものかもしそこに障害物があったらぶち壊して進む勇気も生まれてくるだろうに=背景と解説=なんだか、焦っていますよね。いらついている状態ですよね。手をつないで歩きたいくせに、混み合う映画館の中で体を密着させたいくせに……。――当時の映画館では立ち見が当たり前だったのです。とに角、人人人でした。娯楽の少ない時代でしたからねえ。前にも書きましたが、rollingageなんですよね。蒼い青春時代なんですよね。ポエム黎明編(独り)

  • 青春群像 ご め ん ね…… (問屋街 五)

    所在なく待っていると「ごめんね、待たせちゃって」と、驚いたことに企画課長の麗子さんがやってきた。今日にかぎって、最近流行りだしたジーンズなるものをはいている。上半身はいつものようにふわっとしたブラウス姿だ。さすがに広告塔だと言われるだけあって、ジーンズの着こなしも様になっている。ストレートのロングヘアで、キラキラと輝く髪質だ。自慢のヘアらしく、しきりに掻き上げる。富士額だと聞かされたけれども、確かにきれいな生え際に感じられた。そんな麗子さんに「あなた、こんどの休みにデートしてくれない」と、思いもかけぬ言葉をかけられた。大人の女性からのデートの誘いだ。どう考えてもぼくでは不釣り合いだ。相手は有名女子大出身で、社長令嬢だ。それに比べて私は、工業高校になんとかすべり込んだものの、しょせんは落ちこぼれ生徒にすぎな...青春群像ごめんね……(問屋街五)

  • きのうのできごと ~読後感想~「あちらにいる鬼」

    井上荒野さんの作品です。ある方にすすめられて購読してみました。しばらく日本の作品から離れよう、読むとしても明治・大正の文豪たちの作品にしようと決意していたのに。あいかわらずのわたしです。惑わされやすいのは、いつまでたっても……さて。「あちらにいる鬼」です。詳細は述べませんが、映画化されたこともあり、ご存じの方も多いことでしょうから。これはねえ、男が読んでは――いえわたしが読むべきでは、すくなくとも気が小さい男の読んではいけない本でした。なんだかねえ、女性のこころのへやに土足でんで上がり込んでいくような気がするんですわ。「いやよ」とか「だめよ」とか、そうした拒絶のことばを浴びせられるでもなく、といって「いらっしゃい」と歓迎されるでもなく、「おきたの?」といった日常のことばを頂戴するような感覚におそわれてしま...きのうのできごと~読後感想~「あちらにいる鬼」

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (十三)キャハハハ少年の上げた手に気付いた黒服が、コーラの注文を受け付けた。ここには階下の光の洪水はない。音も階下に比べられば、抑えられている。この階上は踊り疲れた者たちの休憩場所としての役目を帯びているようだ。そしてもう一つ、メイクラブの場としての役目も。あちこちの席に、ひそひそ声がある。重なり合う頭もある。カウンターに陣取っていた彼を、なぜこの場に移したのか、少年は戸惑うばかりだ。キョロキョロと辺りを窺うわけにもいかないが、気になり始めると目が右に左にと激しく動き回る。そして、奇異な二人連れを発見した。ステージ近くのボックスに、女二人が陣取っている。時折黒服が近寄っては、話に興じている。時折“キャハハ!”と嬌声を上げたりしているが、そのうちのひとりが常連らしく、もう一人は俯いていることが多い。ときおり...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • きのうの出来事 (広島サミット)

    いよいよ始まりますね。「すべて佳し!」とはいかないかもしれませんが、課題がすこしでも良い方向にいけばいいですね。ウクライナにしろスーダンにしろ、残念なことです。破壊される町並みや、避難されている人々のことを思うと、こころが痛みます。昨日のことですが、広島サミット関連のニュースを見ていて、ちょっと違和感を感じたのでひと言。国際メディアセンターの一角に展示コーナーがあり、3枚の写真が飾られていて――原爆投下前の広島市、原爆投下後の広島市、そして現在の広島市――悲惨なものです、やっぱり。そして現在の破壊されたウクライナの町並みが流れました。この戦争が早く終わってほしいということは、レポートするアナウンサーのことばを待つまでもありません。その通りだと、わたしも思います。ただ、違和感を感じたのは、原爆の恐ろしさです...きのうの出来事(広島サミット)

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (六)

    (僧侶一)山中にて。その日は風のひどい日で波も高く、西の方から黒い雲が近づいてきている。浜から見る山は雨になっているのか、煙った状態になっていた。「やまにはぜったいにはいるな。とてつもないけものがいっぱいおる、おとなだってはいらんぞ」口酸っぱく言い聞かされたごんすけには、山中に逃げ込むのが助かる唯一の道だと思えて、うっそうと茂った樹木の間を―けもの道を走った。時折木の根やら草に足を取られそうになりながらも、走り続けた。ガサガサと音がする度に、生きた心地がしない。地面に伏してじっと辺りを伺い、風のいたずらだと分かるまで、じっと伏せた。そんなことを幾度か繰り返す内に、辺りが次第に暮れてきた。どこをどう歩けば隣村のある麓にたどり着けるのか、さっぱり見当が付かない。来た道を戻ろうにも、それすら分からなくなっていた...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百五十三)

    「世の妻帯者の三割が、十分な金を稼いでいるはずだ。そして家族にぜいたくをさせている。しかし俺のように、細君にたんまりの金をつかっている、つかわせている夫は一割にも満たんぞ。どうだ、残りの九割の中に入りたいのか?」「そんなの、嫌!」「だろう?心配するな、俺は浮気なんぞしていない。もう昔みたいな、女遊びはしていない。そうだ、梅子に聞いてみろ。こんど連れていってやるから聞いてみろ」映画館で観たチャップリンのように胸をそらせて言う。“また、ごまかされた。でも、いいか。たしかに、香水の匂いをさせて帰ってくることはなくなったし。出張先でといっても、そんな時間もないでしょうし”疑念の気持ちは残るものの、これ以上追求したところでいいことはない。そう考えて矛を収めることにした。「タケゾウ!」突然にすっとんきょうな声を上げて...水たまりの中の青空~第二部~(三百五十三)

  • 「信頼はするが、信用はしない」

    思い出しました。「信頼はするが、信用はしない」。そんなようなことばを、第一次長嶋監督時代で負けがつづいていたころに、記者団にたいしてお話しされたと記憶しています。当時は意味がわからずにいたが、いまはよくわかる――というより、自分がそうだと思えているのです。「ルールにこだわる男」。自分のことをそう思っていますし、まわりにもそう思われていることは疑いの余地がないと思います。フランスのパリ旅行(会社催行)でのことです。車が来ないからと信号無視をしてしまうフランス人の多いこと、でもわたしはじっと我慢の子でした。青にきり替わってからわたりました。世界共通のルールですが、添乗員さんによると、フランス人は合理的な考え方から、「車が来ないのであればわたってもよい」ということになるらしいです。「法は法なり」という、ソクラテ...「信頼はするが、信用はしない」

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百五十二)

    「冗談言うな!疲れなんかあるもんか!ひと晩寝れば、十分に回復してるさ。それに、ゆうべはたっぷりと、小夜子から力をもらったことだし。小夜子を抱くと、力がみなぎってくるんだ」耳元でささやく武蔵に、顔を真っ赤にしてうつむきながら「ばか!そんなこと。ひとに聞かれたら、どうするの」と反駁した。「聞かれても構わんさ。大声で言ってやろうか?恥ずかしがってどうする。新しい女は気にせんのじゃないか、そんなこと」ぐっと小夜子を引きよせて、道路の真ん中に立ちどまった。けげんそうに、ふたりをかわして行き交う人人人。聞こえよがしに、「こんなところでいちゃつくんじゃねえよ」と捨てぜりふを残すものもいた。それでも武蔵は小夜子をしっかりと抱きしめて、まるで見せびらかすように小夜子のくちびるに何度もなんども己の口をかさねた。「武蔵、どうし...水たまりの中の青空~第二部~(三百五十二)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百五十一)

    久しぶりの武蔵とのお出かけにもかかわらず、きょうの小夜子は不きげんだった。どうにも気ずつなさが取れないでいた。いつもならば武蔵の腕にしがみつく小夜子が、ひとりでさっさと前をいく。三歩下がって云々など、まるで気にもとめない小夜子だ。銀座をかっぽする多くの女性たちも、みな一様に視線をそそいだものだ。ひそひそと陰口をたたかれようとも、小夜子にとっては賛辞以外のなにものでもない。「小夜子。どうしたんだ、小夜子。きょうはえらく不きげんじゃないか。会社で、なにか、あったのか?専務にいや味でも言われたか?それとも、お腹でもいたいのか?」からかい半分に声をかけた武蔵に、みけんにしわを寄せて小夜子が答えた。「武蔵がゆっくり過ぎるのよ!男でしょ、早足で歩きなさいよ!」「おう、そいつは悪かった」。こいつはやぶ蛇だったと小夜子の...水たまりの中の青空~第二部~(三百五十一)

  • ポエム 黎明編 (少女)

    緑々とした草のしげる土手に独り少女がたたずむみなもに映える夕陽が少女を射す土手にひとりたたずむしょうじょの背に夕陽が宿るながく尾をひくだいちに根ざす少女のかげなにを語りかけるでもなく風の気ままにまかせながらおごそかに威厳をただよわせて大地にねを張る大木あるときはとし老いた鳥のかりの宿となりあるときは活き活きとした若い鳥のいこいの場となり或あときははたらきものの蟻の雨宿りをゆるすいましょうじょをてまねきしている……=背景と解説=多情でした。複数の女の子と、言葉のキャッチボール的に、恋愛ごっこをしていました。無論、女の子にはそういった思いはなかったでしょう。そう、信じていますし、信じたいです。ただ、ハイティーン(現在は使いませんかね?17から19才ぐらいでしょうか)です。重くない恋愛感情だったと思いますよ。ポエム黎明編(少女)

  • きのうの出来事 (あぶなかったあ!)

    いつもなら10時半から11時のあいだぐらいに来てくれている。ほんとうはそのころに出かけたいのだけれど、いままでが午前中の配達をきぼうしていたので、注文時の変更もしていないからとあきられました。というのも、12時前後に買い物先につくと駐車場がいっぱいになっているんです。広いんですよ、まあまあ。ですので、すき間はあるんです。いつもお話してますけど、ほら、すこし歩いただけで腰から背中がいたむでしょ?いたいのと辛いのはいやなんで、入り口からちかい身障者用の駐車スペースに止めたいんですよね。でもきょうはなかなかとどきません。いま、11時をまわっちゃいました。きょうだよな、予定は。夕べメールがとどいたよな、「13日、8:00から12:00にお届けします」って。ブツブツいいながら、YouTubeを開いてみたものの、とり...きのうの出来事(あぶなかったあ!)

  • 青春群像 ご め ん ね…… (問屋街 四)

    その二階には美少女がいる。静子という名前は、やっとの思いで聞き出した。いつも「あのお」と声かけをしているが「わたし、『あのお』じゃないです。静子と呼んでください」と、言われた。考えてみれば、聞き出したということじゃない。聞かされた?いやちがうな。教えてくれた?これもちがう。教えるということには、もうすこし相手に対する敬意の思いがはいってる気がするんだよな。彼女のばあいは、場合は、そう!命令だ。冷たく言い放されたって感じだった。でもでも、だ。名前で呼べとはどういうこと?ふつうは、姓じゃないか?彼女の姓をしらないから、仮に加藤だとすると、「加藤と呼んでください」となるのじゃないか。なんていろいろと考えていたら、彼女と同姓の女性がいるということだった。そうだったのか、と落胆の気持ちをいだきつつも、ひょっとしたら...青春群像ごめんね……(問屋街四)

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (十二)ミニスカート曲が変わった。ステージの上で、ボーカルが飛び上がっている。「それじゃ、リクエストにこたえていくぜ!Let'sgo,Twist&Shout!」思いもかけぬ曲名が告げられた。ステージに体を向けた少年の目に、ホール中央でひざを落として体を左右にフリフリする若者たちが目に入った。“あれが、Twistと呼ばれる踊りなんだ”“バンバン、ババババンバンバババ、バババジャーン!”“ヴィー、ヴィヴィヴィー、ティーピーヴィピーティーン!”“チャキチャキ、チャチャチャキー!”“ブンブン、ボンボンブンボンブンボン、ブブブ、ボボボン!”髪を振り乱しての女がいて、くわえタバコに目をしかめる男も。シャツの袖口が青白く光り、激しく左右に。落下傘スカートの裾をなびかせる女がいれば、皆がしゃがみこむ中で躊躇しているミニス...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 (神の御前に)

    神の御前にぬかずきわたしたちふたりは永遠の愛をかたく信じ合い誓い合います花と花の間をその甘美な蜜を求めて蜜蜂は飛び交う夕陽の射る光に花は背を向けてまでもその蜜を吸われんことを望む花……少女=背景と解説=よく言うよ、という感じですね。ただその時は、真剣だったと思います。正直言って、家族愛に飢えていましたから。そのくせ、自分から求めることはせずにいたわたしでしたよ。それがために、自分に対する鬱憤というか、いや赤裸々に言えば性的欲求不満ですね、相当に溜まっていましたね。なので、こんな詩を書き上げたと思います。*突然ですが、諸般の事情により、次回より5月15日(月)に変更します。ポエム黎明編(神の御前に)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百五十)

    「小夜子、小夜子。どうした、ボーっとして。気分でもわるいのか?久しぶりのキャバレーは、体に良くないか?空気がわるいからな」「気分がわるいですって!とんでもないわ。いま、あたし、猛烈に感動しているんだから」「そうか、感動しているか。それじゃ感動している中、悪いんだがな。課長さんに、ビールを注いでくれないか。小夜子が注ぐビールは格別だ、なんて口を滑らせてしまったんでな」武蔵に耳元でささやかれ、くすぐったさをこらえ切れない小夜子だ。吹き出しながら、「いやあよ、そんなの。あたし、お酌なんてししたことはないでしょ。武蔵だって、いつも手酌じゃないの」と、つっぱねる。「すまん、すまん。つい見栄を張っちまってな。たのむよ、小夜子。大事な取り引き先の課長なんだよ。ご機嫌をな、取っておきたいんだよ。その代わり、小夜子のたのみ...水たまりの中の青空~第二部~(三百五十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百四十九)

    小夜子にとって久々のキャバレーは、懐かしいものだった。知己の女給たちもそのまま残っていた。とくに梅子との再会が、小夜子にとってなによりだった。「小夜子ちゃん、久しぶりね。何年になるかしら?」「姉さんたち。そんなに経ってませんよ、まだ」かつては憎々しげに思っていた女給たちが、なつかしげに小夜子を取りかこんだ。「どう、元気してる?というのは、ぐもんかしらね」「ぐもんも、ぐもんよ。飛ぶ鳥を落とす勢いの富士商会の社長夫人なんだからさ」「お陰さまで。姉さんたちこそ、お元気そうでなによりです」「元気はいいんだけどさ、そろそろとうが立ってきたからね。早いところ誰か見つけて、家庭に入らなくちゃね。あんたもよ、鼻で笑ってなんかいるけどさ」「あらあら、おあいにくさま。あたしはね、そうね、一年のうちにはお店を持てそうなの」「え...水たまりの中の青空~第二部~(三百四十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百四十八)

    まだまだ粗悪品が混じりこんでしまうことがあるいま、メーカー側の恣意的な混入を嫌う武蔵だ。なんとしても、それは阻止しなくてはならぬ。価格決定権を死守したいメーカーサイドにとって、富士商会のように力のついてきた卸問屋は、ある意味脅威になっいくる。小売側とのあつれきにおいて富士商会に味方したメーカーではあったが、これ以上の富士商会の勢力増大はのぞまない。そんな中で、担当者やその上司との個人的な友好関係をたもとうとするのが、武蔵の戦略だった。そしてその中で、重要な役割を果たすのが小夜子だった。七人の女侍たちの女主人として世間の認知を得たいま、その小夜子に会いたいという思いは男たちの共通のものだった。そこで、小夜子同伴のあいさつ回りをする。しかも夜の接待ともなると、小躍りの男たちばかりだ。「社長。お酌なんぞ、しても...水たまりの中の青空~第二部~(三百四十八)

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (五)

    (ごんすけじゃ!二)ごんすけ七歳の折だった。頭から血を流して戻ったごんすけが、ごんたに詰め寄った。「おら、もうがまんできねえ。あいつらにしかえしする」聞き流そうとしたごんただったが、囲炉裏の灯りで浮かび上がるごんすけのぎらぎらとした目を見て「しんぼうだ、しんぼうしろ。そんなことをしたらこのむらにおられんようになる。なあに、そのうちにあいつらもやめるさ。おとうからもいってやる。それより、あすはりょうにでねえか。うみでおもいっきりさけべば、みいんなわすれちまうぞ」と、慰めにならないと知りつつ、声をかけた。水瓶からすくい上げた水を一気に飲み干したあと、ごんすけが吠えた。「こんやのめしはなんだ。さかなかなっぱじるか?はらいっぱいくってみてえもんだ」囲炉裏端で網の修理に精を出すごんたに噛みついた。「ぜいたくいうでね...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(五)

  • 青春群像 ご め ん ね……(問屋街 三)

    益田商店の店先には道路上にはみ出したステンレス製のハンガーラックが所せましとならべられている。ひとつのハンガーラックには二十枚ほどの洋服が種類別に整然と掛けられている。その一つひとつのハンガーラックに番号が割り振られている。店の中にあるハンガーラックにつり下げられたハンガーには、Yー72とあった。アルファベット26文字にそれぞれ二桁の数字が割り当てられているが、それで何種類になるのか、計算するのもいやになるぐらいの製品数ということになる。そしてその一枚いちまいにプラスチック製ハンガーとカバー袋が必要となるわけだ。それをぼくが配達をしている。そしてそれで給料をいただけるわけだ。「ありがたやありがたや」。念仏のように唱えながら配達しなくちゃな。間口が五間ほどの店に入ると、中央部にマネキン人形が三列に並べてあり...青春群像ごめんね……(問屋街三)

  • 毎日が日曜日? いえいえ……

    ことし(令和5年)3月31日をもって派遣契約完了とともに、完全リタイアすることとしました。というより「させられました」でかな?うーん。中学卒業とともに働きはじめましたから、ざっと58年ですかねえ。本音で言えば、あと2年がばって60年という区切りのいいところで、と考えていたのですが。誤解しないでくださいね。「させられました」というのは、会社都合ではなく自己都合――いやすこしちがうか。「自身の状況都合」とした方が正解でしょう。わかりにくいですよね。ことしの1月上旬に、76歳の兄を亡くしました。亡父の88歳を考えると早い気もしますが、まあねえ。「長い間、おつかれさまでした」。そう声をかけましたけど。昨年の暮れに最後の別れをしたのですが、いわゆる昏睡状態で、会話することはありませんでした。痩せ細っていまして、とい...毎日が日曜日?いえいえ……

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (十一)徒党ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、そしてジョージ・ハリスン。4人組だからだ。徒党をくんでいる、それが嫌う理由だった。そう、そうなのだ。うしろからあたまを小突く、少年を苦しめているのが、4人組だからだ。さらに、プレスリーとビートルズが会ったおりに、プレスリーの「君たちのレコードは全部もってるよ」と言うと、ジョンが「ぼくはあなたのレコードは1枚も持ってないけどね」と返したことに、礼儀知らずだと憤慨する少年だった。「エルヴィスがいなければ今の自分はいない」。そんな謝罪のことばを伝えていると聞いたけれども、少年の怒りはおさまらなかった。少年のお気に入りはプレスリーであり、アニマルズだった。“That'sAllRight”と連呼し、“監獄ロック”ではトイレの中で腰をくねらせたりした...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 (ゆきのふるよるに)

    ゆきのふるよるははやくねてしまうのがもったいなくてふるいけいとをひざにだいてなにかやさしいものをあみたくなるのです…………まどべでヒソヒソおしゃべりしてるのはだれ?しろいかさをさしてひがしのくにからやってきたコビトさんたち……みんなのふかいねむりのなかへそっとしのびこんではるのおとずれをつげてまわりますどんなにかたいこころのとびらもたやすくとかしてしまいますねえコビトさんたちいっしょうのおねがいよひとばんだけでいいのわたしにもそのしろいかさをかしてちょうだいなそしたらそしたら……あの人がねむるまどべにおともなくまいおりてひとばんぢゅうあのひとのゆめをもまってあげたいの……=背景と解説=らしくないですか?でしょうね。確かに、らしくないです。種明かしをしますと、二人の合作なんです。カコが作ったポエムに、わたし...ポエム黎明編(ゆきのふるよるに)

  • きのうの出来事 (毎日が日曜日? いえいえ……)

    ことし(令和5年)3月31日をもって派遣契約完了とともに、完全リタイアすることとしました。というより「させられました」でかな?うーん。中学卒業とともに働きはじめましたから、ざっと58年ですかねえ。本音で言えば、あと2年がばって60年という区切りのいいところで、と考えていたのですが。誤解しないでくださいね。「させられました」というのは、会社都合ではなく自己都合――いやすこしちがうか。「自身の状況都合」とした方が正解でしょう。わかりにくいですよね。ことしの1月上旬に、76歳の兄を亡くしました。亡父の88歳を考えると早い気もしますが、まあねえ。「長い間、おつかれさまでした」。そう声をかけましたけど。昨年の暮れに最後の別れをしたのですが、いわゆる昏睡状態で、会話することはありませんでした。痩せ細っていまして、とい...きのうの出来事(毎日が日曜日?いえいえ……)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百四十七)

    うんうん、と頷きあう増岡をfはじめとする配達人たち。「そうだよ、出掛けには『気をつけて』だし、帰ると『ごくろうさん』だし」「それに、差し入れもしてくれるじゃないか」「寒い日には、火鉢も用意してくれたし」口ぐちに竹田への感謝の言葉がつづいた。とつぜん、服部の声が食堂にひびいた。「増岡!いつもありがとうな。俺たちが気持ちよくお客の店に入っていけるのは、おまえたちの頑張りのおかげだよな」そして期せずして、営業そして事務職から拍手がなりひびいた。「最後にだ、事務の女性陣。君たちが、もっとも重要なんだ。電話の応対をかんがえてみろ。不愛想な応対をされたとしたら……おお、考えただけでも寒気がする。出張時にな、たまにあるぞ。宿をとるときは、俺はいつも予約なしの飛びこみだ、いつもな。『生憎ですが……』と、玄関先でひざをつい...水たまりの中の青空~第二部~(三百四十七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百四十六)

    「小夜子をかつぎ出すのは、相手の心証を良くするためだ。男というのは、とに角美人に弱い。しかも小夜子は、弁が立つ。そこらの男なんか、簡単に言いくるめられる。白いものを黒いとは言いくるめられんが、灰色だったら言いくるめちまう。俺も舌を巻くほどだ。ま、それはそれとしてだ。もうひとつ、大事なことがある。配達に専念している者たちだ。力仕事だけの男だと考えているかもしれんが、とんでもない間違いだ。服部たち営業は、増岡たち配達専門の人間にもっと感謝の念を持て。いいか、このことに気付いているのがひとりいる。誰か、分かるか?そう、竹田だ。理屈ではなく、直感的にだ」一斉に、竹田に視線が集まった。しかし当の竹田は、ただ戸惑うだけだ。武蔵が言うように、意識をしていないのだ。配達の人間が笑顔で配達ができるようにと、気遣っているだけ...水たまりの中の青空~第二部~(三百四十六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百四十五)

    それ以来、積極的に動きまわる小夜子だった。武蔵のエスコートよろしく、仕入れ関係の取り引き先を中心に丹念に訪れた。はじめのうちこそ気恥ずかしさにうつむきかげんな小夜子だったが、三社目あたりになると堂々としたものだった。しっかりと正面を見つめて、相手のあいさつを待つ余裕さえ見せた。武蔵が相手に頭を下げても、相手が「おすわりください」と手を差し出すまでは、傲慢とでもいうべき態度をとりつづけた。「華族のご出身なのか?」などという話が飛びかうほどだった。それについて、武蔵が肯定も否定もしないものだから、信憑性が高まるばかりだった。仕入れ関係の訪問にかたよる小夜子の動向に、営業から不平不満が出はじめた。「販売先には、社長、連れていってくれないのか?」「やいのやいのって、せっつかれてるんだよな」「連れてくるまで、取り引...水たまりの中の青空~第二部~(三百四十五)

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (四)

    (ごんすけじゃ!一)漁村にて。「帰ったか、ごんた。どうじゃ、こんどのえ物は。お前の好きななんたらとか言う、赤い酒は見つかったかの?ふおっ、ふおっ」しわくちゃの顔をした老婆のおうめが、五尺ほどの背丈でがっしりとした体つきのごんたに話しかけた。昨年の春に父親を亡くして身寄りのひとりもいない若者だった。「うんにゃ、なにもねえ。これからおきにでてみるさ。まえのときも、おきのほうでみつかったからよ」銀の皿を並べたようにキラキラと光る沖を眩しげに手をかざして見やりながら、ごんたが答えた。「そうじゃのお、そうじゃったわ。まあ、あすにでも出してみいや」「いやだめじゃ、おうめばば。あすじゃだめじゃて。ながされてしまうかもしれん。きょうじゃ、これからじゃ」じっと沖を見つめながら、力強くごんたが答えた。水平線から昇りきった太陽...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(四)

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