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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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住所
岐阜市
出身
伊万里市
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2014/10/10

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  • ドール [お取り扱い注意!](十一)でね、山本さん。

    でね、山本さん。こんやは、このまま入院してもらいます。ご家族は…おひとり暮らしでしたね。とりあえず、検査入院ですから、着替えなんかはいらないでしょう。それじゃ病室の用意が出来…」「だめだめ!もう帰るから、もうなんともないから。おかげで、すごく気分が良くなりました。どうも、ありがとうね」かってに入院の手つづきに入ろうとする看護婦を制するように、声をあらげた。“冗談じゃない、まったく。つい先月にも入院させられたじゃないか。この3ヶ月の間に、2度も入院しているんだ。3度目なんて、冗談じゃない”1度目は会社の検診で、「大腸にポリープがあるようです。精密けんさをうけてください」と言われた。まあ1泊2日だからとOKをした。けっかは良性のもので、その検査中にせつじょしてもらった。2度目の入院がひどかった。とつぜん腹部に...ドール[お取り扱い注意!](十一)でね、山本さん。

  • ホームページのこと

    とりあえず、[メルヘン]の更新が終わりました。ポエム・童話・孫への贈りもの・らくがき・叙情ロマン・息抜き上記の部屋を、レイアウトも含めての更新です。以前よりも格段に読みやすくなったと思います。[メルヘン]←直接、メルヘン一覧に入れます。ものがたりについては、順次更新していきます。すでに更新済みの作品もありますが、とくに[水たまりの中の青空]第二部まで終えています。以前にもお伝えしましたが、誤字・脱字等々、内容的にも修正した箇所があります。[ものがたり]←直接、ものがたり一覧に入れます。よろしければ、ぜひにお出でください。ホームページのこと

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (四百七十八)

    直情型の服部、熱しやすく冷めやすい服部、生涯の伴侶にめぐりあえればそれに超したことはないのだが、いまのところ武蔵とおなじ道を歩いている。キャバレーのホステスと浮名をながし、いっぱしのプレイボーイとしてならしている。そして竹田には、女性に関してはまったく噂がでない。仕事ひと筋で、ただただ「武士を富士商会の社長に」がライフワークのごときかのように、日々を送っている。竹田の毎日は自宅と会社の往復だけで、けっして寄り道をしようとはしない。例外中の例外といえば、ひと月に1度の飲み会に、3度に1度出るくらいのものだ。そのときでもホステスたちとの会話はほとんどなく、ただしずかにひとりで飲んでいる。嬌声があがりっぱなしの服部の席とはちがい、ひっそりとしている。その竹田の席にひとりの新入り女給がついた。九州からでてきた19...水たまりの中の青空~第二部~(四百七十八)

  • ポエム ~夜陰編~ (涙をおくれよ)

    涙をおくれよ渇いたこころに涸れてしまったこの砂漠草も木も咲かないぼくのこころ花が咲けるはずもない涙をおくれよきみの涙を苦しみをおくれよ渇いたこころに去って行ったきみの心激しく傷ついたぼくのこころどうして君を忘れられる苦しみをおくれよ忘れるために悲しみをおくれよ渇いたこころにすべてが消えたこのこころ笑顔を失くした僕のこころぽっかりと空いた心の穴悲しみをおくれよ明日のために(背景と解説)うーん……この詩のキモは、こころと心でしょうか。柔なこころと鋼の心女性って、結構強いんですよね。でもって、男は、からきしだらしない。虚勢を張って平然としていますが、もうこころの中はぼろぼろで……。そんな気持ちを吐露したつもりなんですが。乾ききったこころに恵みの雨を……*次週からは、一旦、[五行歌]をお送りします。以前に、[三行...ポエム~夜陰編~(涙をおくれよ)

  • [青春群像]にあんちゃん ((通夜の席でのことだ。)) (五)

    知り合いの農家から穫れたてのサツマイモをいただいたシゲ子は、ほのかに食べさせてやろうと準備をした。ホクホクと湯気の立つサツマイモを、ほのかは気に入ってくれるだろうかと目を細めながら、水を入れた蒸し鍋の上に大小の芋を順序よくならべて火にかけた。そろそろほのかが立ち寄る時間になったときに、シュッシュッと蒸気があがった。さやばしで突き刺してみると、ちょうど良い柔らかさになっている。町内会に出かけた孝道から忘れ物を届けてくれという電話がかかり、いつものごとくにテーブルに用意して出かけた。誰もいなくなった家に、めったに立ち寄ることのない長男が、うちしずんだ表情で「ばあちゃん、ばあちゃん…」と裏口から声をかけた。なんど声かけをしても返事がないことから帰りかけたが、のぞきこんだ台所のテーブル上にあるサツマイモに目がとま...[青春群像]にあんちゃん((通夜の席でのことだ。))(五)

  • 奇天烈 ~蒼い殺意~ 哀しい事実(五)

    夜学の始業時間は、五時半である。そして、40分間ずつの授業である。6時10分が給食時間である。20分間という限られた時間で、食べ終えなければならない。6時半には片づけることになっている。正確には6時40分までが給食の時間なのだが、後片付けの時間がいるのだ。当番が調理場に食器類を持ち込まねばならないのだ。暗黙の了解で、20分しかないのだ。彼の町工場の終業時間は、五時である。工場から学校までは、バスで十分ほどかかる。残業を1時間行ったとして、バスの時間は6時20分しかない。お分かりいただけるであろうか、給食時間は終わっている。その為に3ヶ月の間、給食抜きであった。これは辛い。食べ盛りの17歳だ、猛烈にお腹が空く。しかもである、翌日の朝食用のパンの問題もある。クラスの中には必ずパンを残す者がいる。彼はそれら残り...奇天烈~蒼い殺意~哀しい事実(五)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港   (二十八)雨は上がっていた。

    雨は上がっていた。通りをおおいつくすようなネオンサインがかがやき、満点の星々のかがやきは弱かった。車の乗り入れを規制することにより、夕方ら深夜までのあいだ歓楽街は歩行者のみがかっぽしている。なのに人混みがはげしく、ときとして肩がぶつかりあうほどだ。あちこちで「いてえぞ!」とののしり合いがおきるほどだった。男はしっかりとミドリを抱き寄せて歩いた。しだいに、足取りもしっかりしてきた。ひとり歩きもできそうだった。しかしミドリ自身、男のうでから離れるようすはない。それどころか、ますます腕にしがみついてくる。ひと夜かぎりの恋人気分を、楽しんでいた。急にミドリの体が、男の腕からずり落ちそうになった。側溝板のあみめにヒールがひっかかってしまった。男はすぐにミドリのうしろにまわり、右手でミドリのからだを支えた。羽交いじめ...[淫(あふれる想い)]舟のない港 (二十八)雨は上がっていた。

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (三十九)どうしたと思います?

    どうしたと思います?そうなんです、そのまま脱兎のごとくに、だれにもなにもいわず、教室を飛びだしたわけです。そしてバスと汽車とを乗りついで、無事に持ってきました。バス停からは、猛ダッシュです。5分と違わないと思うのです。歩いて学校に戻ればよさそうなものなのに、猛ダッシュしたんです。ここらあたりは、真面目に超が付くゆえんでしょうか。(当時のわたしですから。いまは、真面目という意味がすこし変わってきている気がしますね)。汗だくです。たしか、夏休み明けの二学期のことだったと思いますが、残暑が厳しい時期ですからね。さあ、ここからです。教室の扉を引いたとたん、その場に倒れこんだのです。ドアのレールに引っかかったのか、ひざが笑ってくずれ落ちたのか、それとも恥ずかしさから自ら倒れたのか……。「家から走ってきたらしいぞ」。...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(三十九)どうしたと思います?

  • ドール [お取り扱い注意!](十)「おじいちゃん、○んじゃうの?

    「おじいちゃん、○んじゃうの?おじいちゃん、○んじゃうの?」幼稚園のモック姿の女児が、半泣きしながら叫んでいる。「大丈夫よ、大丈夫。ちょっとね、お熱が出ただから。きょうはこのまま病院に泊まるけど、あしたにはおうちに帰れるから」にこにこと笑みをうかべた老婆が、女の子の頭をなでている。うしろには、母親らしき女性が無表情で立っている。「でもでも、おじいちゃん、目をあけないよ。おくちにカップをかぶせてたら、いきができないよ」なおも女児が、なみだ声で叫んでいる。口にかぶせられたマスクを外そうかどうしようか、迷っているようにみえる。「これはね、おじいちゃんにね、いっぱいいっぱい酸素を送ってるの。おじいちゃんにね、息が楽にできるように、わざと付けてるんだよ」「ほんとに、ほんとに?あしたには、おうちにかえれるの?マーちゃ...ドール[お取り扱い注意!](十)「おじいちゃん、○んじゃうの?

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (四百七十七)

    小夜子の知らぬことではあったけれども、富士商会の株式の51%は小夜子名義となっている。ゆえに、富士商会のオーナーは御手洗小夜子であり、当人が議決をしないかぎり退職などということはありえないことだった。「やっぱりあの株の配分は正しかった」。五平の偽らざる心境だった。五平たちは武士の富士商会への入社をこころ待ちにしている。とくに五平と竹田は、成人式をすませてぶじ大学を出て、そして平社員という立場からのスタートをこころ待ちにしている。そしてゆくゆくは幹部となり、五平の跡を継いで社長となるのだ。服部もまたそうあってほしいと願ってははいるが、それはあくまで本人の精進次第だと思っている。ぼんくらの遊び人ではこまる、それでは後継者たりえない、と公言している。むろんそうなるように、指導をおこたらずサポートもしていきたいと...水たまりの中の青空~第二部~(四百七十七)

  • ポエム ~夜陰編~ (やけくそ)

    おめでとう!やっぱりもうひと言おめでとう!おめでとう!くどいけれどもおめでとう!おめでとう!たゞひたすらにおめでとう!おめでとう!おしあわせに!ふたりに乾杯!(背景と解説)まったく覚えのないことで、感謝というかお礼というか、報告を受けました。わたしが、このわたしが、恋のキューピッド役を務めたというのです。それも、元カノですよ。自然消滅してしまった彼女との交際なのですが、その何年後だったか、手紙だったかハガキだったかそれとも直接だったか、今となってはまったく記憶にないのですが(連絡方法がですよ)。「おかげさまで結婚することになりました。引き合わせていただいて感謝します」ということなんです。美人でしたよ、絶美人!以前にお話ししたことなのですが、高二になって文芸部の部長(といっても、実質わたし一人だけ残ったので...ポエム~夜陰編~(やけくそ)

  • [青春群像]にあんちゃん ((通夜の席でのことだ。)) (四)

    そしていま、にこやかに微笑むシゲ子が思いだされる。学校帰りにいつも立ち寄っては、祖母手作りのおやつを食した。ときに食べ過ぎてしい、夕食が進まぬこともあった。母の道子に「おやつはほどほどに」と言われているのだが、ついつい食べ過ぎてしまうほのかだった。ほのかが小学2年生のときだった。いつもの帰りなかまが風邪でお休みをしていて、ひとりで帰ることになってしまったほのかだったが、たまたまかえりが一緒になった次男とひさしぶりに道草をした。いつも横目でみるだけの公園にはいった。大通り沿いで、そこにはフェンスがはってある。あとの三方にはないものの、垣根代わりに椿が植えられている。濃い緑のなかに点在する赤い色がひときわ映える。その花で季節を知る住民たちだった。ブランコにシーソーそして鉄棒だけのある小さな公園だった。そうだっ...[青春群像]にあんちゃん((通夜の席でのことだ。))(四)

  • 奇天烈 ~蒼い殺意~ 哀しい事実(四)

    彼の給料は、手取りで17,600円である。同年代の平均は、新聞紙上によれば23,000円である。中卒の我々だ、たしかに安い。金の卵だと持てはやされてはいる。しかしそれは、安価な賃金で雇うことができるからだろう。まあたしかに、右も左も分からぬ子どもではある。社会常識など、まるで持ち合わせていない。ある意味、先行投資の面があるかもしれない。どんな先行投資かと問われると、返答のしようがないけれども。しかし彼は、社長が好きである。彼はいつもわたしに言う。高給取りだから幸せだとは限らない。毎日が充実していればそれでいい、と。やせ我慢かもしれない。しかし彼は、おのれの分を知っていると言う。彼の実家のある町にも、金持ちはいるらしい。いや、居て当たり前のことだ。そしてそこに子どもが居るとも。それも当たり前のことだろう。ど...奇天烈~蒼い殺意~哀しい事実(四)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港   (二十七)あたいも糖尿病なんだけど、

    「あたいも糖尿病なんだけど、支配人には内緒にしてるの。やまい持ちだとやとってくれないのよねえ。でもさあ、お店にはいる前にしっかりと食事をとってるのよ。それにお酒といっしょにフルーツなんかも、ね。そうすると大丈夫なのよね。あなた、あんまり食べずに飲んだでしょ。いくら彼氏といっしょだからって、えんりょしちゃだめよ」そう言い残してフロアに戻っていった。男の知りたいことを口にしていったホステスに「ありがとうございました」と、最敬礼をする男だった。そしてミドリに振り返ると、「今度はしっかり食べてからにしようね」と、病気のことは気にしていないよと、言外につたえた。横たわったままにハンカチをぎこちなく使うミドリが、野道に咲くかれんな花に見えた。麗子が人工的に育てられたバラとするならば、ミドリはまさしく野菊だった。けっし...[淫(あふれる想い)]舟のない港 (二十七)あたいも糖尿病なんだけど、

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (三十八)畑と言えば、麦も

    畑といえば、麦もうえられていました。ただ、その種類は分かりません。この記憶が事実かどうか判然としませんが、その麦のなかに黒い穂がありました。触れるとその「黒」が付いてしまうのです。のちに知ったのですが、これは黒穂病とかいう植物の病気によって発生するものらしいです。遊びまわっていたわたしへの罰だったということでしょうか。1本2本だったはずなのに、ひょっとして畑全体に?……(農家のみなさん、ごめんなさい。今さらですが、謝罪させてもらいます)。ズボンやらシャツやらに付いた状態で帰宅し、母親からこっぴどく叱られたものです。そうだ!叱られたといえば、こんな言葉を大声で叫びながら帰ったものです。近所の悪ガキとともに、畑のあぜ道を「はらへったあ、めしくわせえ!」と、連呼しつづけたものです。畑仕事の大人たちから「げんきが...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(三十八)畑と言えば、麦も

  • ドール [お取り扱い注意!](九)わかれた妻の、

    わかれた妻の、やさしい声、新婚どきの甘えた声……。。空耳かと、耳をうたがった。いつも冷たい手足。大学に通っていた頃のアルバイト。居酒屋の厨房で、ひたすら器を洗う。そこでの賄い。レシピを聞いてはノートに書きためた。「店でも持つのか?」「いえ。未来の旦那さまに美味しい料理を食べてもらいたいんです」なんてことだ!そんな料理を当たり前のように食べた。ひと言でも「おいしいよ、うまいよ」と……。「あとがつかえてますから、早くあがってくださいな」まちがいない、妻の声だ。しかしおかしい。妻にせなかを流してもらったことなど、いちどとしてない。新婚時は風呂場がせますぎて、入りたくても一緒というのは無理だった。子どもが生まれてから風呂場の大きいアパートに移ったが、そのときは子どもに妻をとられてしまった。いま思えば、風呂をともに...ドール[お取り扱い注意!](九)わかれた妻の、

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (四百七十六)

    問題は千勢の処遇だった。当然ながら小夜子としては、ともに田舎へひっこんでほしい。いまでは家族もどうぜんの千勢とはなれるなど、とうていのことに考えられない。そのことを伝えられたおりには、おいおいと千勢が号泣した。千勢もまた小夜子を姉とおもい、武士を甥とみていた。ときに我が子と錯覚をしたこともある千勢だった。もともとが田舎出の千勢のこと、田舎暮らしに不安を感じることはまるでない。しかし千勢には、ひとつのこころ残り、いや夢とでもいうか。無謀だということはわかっている。母親の反対があることも知っているし、なにより……。竹田が千勢を嫁の対象として、いやそうではなく、ひとりの女としてみてくれることなど天変地異がひっくり返ってもありえないことは、重重に分かっている。それでも、この地を離れたくはなかった。東京という同じ空...水たまりの中の青空~第二部~(四百七十六)

  • ポエム ~夜陰編~ (嘘を吐きました)

    うそを、つきましたうそを、つきました“なに、それって?”ごめんなさいご免なさい、です“うそ、だあ!”ほんとに、ごめんなさいほんとに、ほんとに、ごめんなさい“信じない、モン!”ほんと、なんですほんとの、ことなんです“いや、そんなのいや!”ごめんなさい、ですほんとに、ごめんなさい、です“うそ、うそ、よね?”だめなんですもう、だめなんです“うそつきいぃ!”いかなきゃいかなきゃ、いけないんです“逝っちゃ、やだあぁぁ”=背景と解説=どろどろどろ……えっと、あの方、誰でしたっけ?ほら、怪談話がお得意の方ですよ。確か、皆川じゃなくて、そうそう!稲川淳二さんだ!いえ、その方のお話ではなくて、ただ、「どろどろどろ……」の意味をお知らせしたくて、のことなんです。なんてタイトルにしたんだっけ?幽霊の話を描いたもの、覚えてみえま...ポエム~夜陰編~(嘘を吐きました)

  • [青春群像]にあんちゃん ((通夜の席でのことだ。)) (三)

    よくじつは朝から雨がしとしと降っていた。大勢の弔問客のおとずれるなか、ほのかは母親の背にぴったりとくっついて、かくれるようにすわっていた。どんなに「席にもどりなさい」と言っても聞かなかった。僧侶の読経がつづくなか、孝男かんけいの弔問客がつぎつぎに焼香をつづけていく。あいだを縫うようにして、故人の弔問客が孝道に「気を落とされないように」と声をかけていく。いよいよ出棺のときがきた。棺に花がたむれていくなか、ほのかの手に花がてわたされた。それがなにを意味するのか、ほのかには十分すぎるほど分かっている。そしてこのときが最後の別れとなることもわかっている。いまを逃せば、にどと祖母に会えぬことも。大好きな祖母を見送らなくては、そうは思う。おもいはするのだが、どうしてもほのかの足は前にすすまない。どころか、後ずさりして...[青春群像]にあんちゃん((通夜の席でのことだ。))(三)

  • 奇天烈 ~蒼い殺意~ 哀しい事実(三)

    彼は、銀行が嫌いだ。彼の勤める町工場の社長を悩ませる銀行に、良い感情を持ってはいなかった。本来ならば、腰を低くすべきは銀行なのである、と彼は言う。威圧的な銀行に対して嫌悪感を抱いている。裏を返せば、エリートに対するコンプレックスかもしれない。彼の言を紹介しよう。なるほど銀行にたいして預金を積めば、行員は腰を曲げるかもしれない。しかし少額の預金者に対して、心底からのそれをする行員がいるとは、どうしても思えないと言う。そしてまた、これが肝心なのだ。預金者は仕入れの業者であり、貸付先がお得意先になるはずだと、と言う。言われてみればなるほどとも思える。だから彼は、銀行を介するクレジットを嫌った。銀行に負い目を感じることを嫌ったのだ。しかしどうにも、胡散臭さを感じてしまう。質問をしかけると途端に不機嫌になったことを...奇天烈~蒼い殺意~哀しい事実(三)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港 (二十六)ダンスの途中に、

    ダンスの途中に、ミドリが男の胸のなかによろけた。異性との初デートという心理的要素にくわえ、ダンスというはじめての異性との接触が、ミドリにはげしい高揚感をあたえた。極度に心拍数が上がり酒の酔いも手伝って、ミドリはなかば意識を失った。体中が、火のように火照っていた。男は、すぐに傍らのボックスに横たわらせると、ボーイが届けてくれた冷たいおしぼりを額に乗せた。苦しそうな息づかいをしているミドリに、「大丈夫かい?苦しいの?」と、問いかけてみるが「ハー、ハー」と、荒い息づかいだけがもどってくるだけだった。支配人の手配により、ホステスたちの控え室が提供された。こまったことに、兄の道夫に連絡をとる方法がわからない。ミドリに声をかけても、返事のできる状態でもない。こうなっては酔いが醒めるのを待つしかなかった。すこしは楽にな...[淫(あふれる想い)]舟のない港(二十六)ダンスの途中に、

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (三十七)そんなある日のことです。

    そんなある日のことです。降車の段になって、定期券を忘れてきたことに気が付きました。もう、ドキドキですよ。「ていきけん、わすれました。ごめんなさい」。ひとことそう言えば、大目に見てくれると思います。でも、言えないんですね。そのまま顔パスしちゃったんです。ひょっとしたら、顔を真っ赤にしていたかもしれません。あんがい、車掌さんはお見通しだったかも?です。ところで不思議なのが、バスの顔パスは覚えているのですが、汽車はどうしたのか……。当然のことに、汽車も定期券です。どうやって降りたのでしょうか?だれか、教えて下さいな。問題は、帰りです。もう顔パスは通用しません。学校から駅まで、どのくらいの距離だったか。歩いて駅まで行ったと思います。駅まで行かなければ、家まで帰るルートが分からないのです。現代のようなスマホによる地...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(三十七)そんなある日のことです。

  • ドール [お取り扱い注意!]ドール (八)ま、自業自得よね。

    ま、自業自得よね。お兄ちゃんが言ってたよ。『もう少し、うまく立ちまわればいいものを』って。あたしに言わせれば、いちどでも許せないけどさ。でもお父さん、もてるんだね。ちょっと嬉しいかな」「そうか?やっぱり、もてた方がいいかな」「どんな不満があったの?そりゃまあ、気の強いところはあるけどさ。あたしだって、ときどき頭にくることがあるけど。でも、お母さんにしても一生懸命だったよ」「おまえは、お母さんの味方だからな。父さんだって、いろいろ頑張ってはみたんだ。それにだ、物流を馬鹿にしちゃいけない。第2の営業と言われてるんだから。まあ、しかし、懲罰的人事であることは間違いないがな」「ふっ、まけおしみを言っちゃって」娘には、ひと言もない。親のつごうで離婚をしたのだ。子どもにはなんの責任もない。これからの人生において、なに...ドール[お取り扱い注意!]ドール(八)ま、自業自得よね。

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (四百七十五)

    週に2度の出社もいつの間にか1度に減り、幼稚園に通い始めた武士がぜんそくという病魔に冒されたことと相まって、ついには小夜子もまた退社というふた文字があたまに浮かびはじめた。医師から「いったん実家にもどられて、武士くんを楽に」と、へき地療養をすすめられたことも、大きな因となった。東京を離れ、実家にもどる。考えはしていたが、まだまだ先の話という思いがあった。しかし毎日をつらそうに送る武士を見るにつけ、そしてまた徳子がいなくなるという現実が目の前にせまっていることから、小夜子のなかにはじめて弱気の虫がうまれた。田舎にもどってしまえば、ふたたびこの地にもどれるという保証はない。田舎での入学となれば、学力の差が如実にあらわれる。勉学をとるか、健康をとるか。しかし小夜子のなかに、迷いはなかった。「健全な肉体に、健全な...水たまりの中の青空~第二部~(四百七十五)

  • ポエム ~夜陰編~ (雲)

    ひとりぽっちのアパートの部屋。空気の入れ換えに、窓を開け放した。冷え冷えとした部屋に、雲の暖が入り込んでくる。そう思える、感じられるいまだ。連なる家々の屋根の向こうに、白い雲を背にした山々。白い帽子をかぶり、燃えさかる太陽の光を跳ね返している。雲もまた、夕日の強い光を受けて大空に泳いでいる。そう見える、感じられるいまだ。澄んだ-清みきった青い空に、ひつじ雲の大群。雲に心があるとしたら、強い絆で結ばれているのだろう。南の故郷で見た雲とは違うようで、しかし同じようで。そう分かる、感じられるいまだ。いつか見た雲、いま見る雲。同じ雲なのに、ひとつとして同じではない。信じていた━と思っていたことが、実は、思いこもうとしているに過ぎない、と知った。(背景と解説)春雲は綿の如く、夏雲は岩の如く、秋雲は砂の如く、冬雲は鉛...ポエム~夜陰編~(雲)

  • [青春群像]にあんちゃん ((通夜の席でのことだ。)) (二)

    ほのかの泣きごえが大きく家中にひびいた。ほのかはチラリと布団のなかの祖母を見るだけで、あとずさりしてしまう。道子が「あなたの大好きなおばあちゃんよ。お別れを言いましょうね。待ってるのよ、おばあちゃんは」と諭すのだが、いやいやと首をふる。道子に引きずられるようにとなりの部屋からはいってきたが、火のついた赤児のように泣きさけんでいる。「どうしたのかしら、この子は。おばあちゃんっ子だったのに」母親の道子が、あつまった親戚連の冷たいしせんをうけて、夫の孝男にこぼした。孝男は、ムッとした表情を見せつつ「ばあちゃんっ子だからこそ、ショックから立ちなおれないんだ。あす、さいごの別れをさせてやればいいじゃないか!」と、声をあらげた。不満のこえがいちぶあがりはしたが、孝道の「ま、そういうことだな。道子さん。ほのかには、あん...[青春群像]にあんちゃん((通夜の席でのことだ。))(二)

  • 奇天烈 ~蒼い殺意~ 哀しい事実(二)

    彼の娯楽は、休日ごとの喫茶店通いと毎夜のステレオ鑑賞だ。彼にしてみれば性能の良いラジオでも良かったのだが、ラジオからの押しつけの曲を聞かされることに辟易すると言う。それにも増して、独りよがりのDJの語りに反発を感じるらしい。聞きたい楽曲を聞きたいときに聞くという自由がいかに大事かと、わたしに陶々と語る。一理あると、思える。が、それでは視野が狭くなると思うのだが。それを告げれば、延々と屁理屈を並べられるのが落ちだ。だから、頷くだけにしている。言葉で肯定はしない。わたしにはわたしの理屈がある。だから、卑怯かもしれないが言葉にしない。彼のステレオは高価なものである。廉価な物もあるにはあったのだが、生涯唯一の贅沢として購入した。理由は、至ってシンプルだ。良い音で聞きたい、ということだ。もっとも、彼の耳がどれ程のも...奇天烈~蒼い殺意~哀しい事実(二)

  • ドール [お取り扱い注意!] (七)「お父さん、起きてよ。

    「お父さん、起きてよ。こたつのうたた寝は、風邪ひきのいちばんの元だよ」「ああ…なんだ、明美か。えっ?いつ来たんだ。というよりはじめてだな、アパートに来てくれたのは。どうだ、元気しているのか。仕事は、うまくいってるのか?教師だなんて、厳しいだろう、いまの学校は。お父さんたちのころの先生は、ほんとに尊敬されていたけれどもな。いまは、たじたじらしいな。ちょっと待てよ。えっと…さよ、いやだれか居なかったか?」饒舌なわたしに、目をまるくしている娘だ。以前のわたしは、たしかに寡黙な父親だった。どうしても妻の前では、口が重くなっていた。というより、わたしが話をしはじめると、すぐにかぶせられてしまう。ひがみかもしれないが、子どもたちを隔離しているような…。そういえば世のお父さんたちは、嬉々としてむすめを風呂に入れていると...ドール[お取り扱い注意!] (七)「お父さん、起きてよ。

  • 俺は、青年!(三)

    杉の大木はもう年だった。その皮は、年老いた老婆のそれのごとくに、ひからび、今にも崩れ落ちそうな……。日当たりのよい縁側に、深く背を曲げて、ひなたぼっこを楽しむ老婆。その背に漂う満足感。と共に、そこに悲しさを見る、この私。杉の大木を見上げる。私の背の何十倍もの高さ。今また、新たな感動で見上げる。「いつかきっと……」あすなろのこころをもってつぶやく。スポーツの価値は、その無償性にある。そして、芸術も無償である。シカゴシティの、シビックセンターにピカソの彫刻がある。その代償が30万$というから、驚かされる。そしてピカソの偉大さの評価は大だった。が、私の感じる偉大さは、己の邸に、その作品を持ち帰りたい!とダダをこねたというエピソードにある。決して、代償はに対する不服というのではなく、その作品のあまりのすばらしさに...俺は、青年!(三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (四百七十四)

    徳子と真理恵のみぞが深まり、徳子が去ることになった。というよりは、そう仕向けられたというほうが正確だ。総務課を総務部に格上げし、会計課を新設した。総務部長に真理恵がつき、徳子は総務課長のままとした。さらには会計事務所から、会計士の卵――国家試験受験前の人物――をあらたに入社させ、資格取得後には係長の職位を与えるという条件で引き抜いた。そして会計処理がまかされ、徳子の権限が大幅にしゅくしょうされた。これでは徳子の立つ瀬がない。もう用なしよ、と宣言されたにひとしい。辞表をもって社長にのりこんだ徳子だったが、五平と真理恵のあいだでは徳子の退職は既定路線となっており、形だけの慰留にとどまった。そして事務引きつぎのために、今月いっぱいでの辞職ということになった。惜しむ声があがりはしたが、積極的に引き留めようとする者...水たまりの中の青空~第二部~(四百七十四)

  • 昭和43年に書き留めた詩 (月のしずくの下)

    涙のような透きとおる月のしずくの下ひとり佇むきみよ「ぼくとワルツをおどりませんか?「おれとゴーゴーをおどろうや!「わたしと小唄をおけいこしません?(ステキなプリンスやプリンセスからの申し込みを(すべて断ってひたすらに待っているきみ(でもボクは……きみをダンスにさそうことすらできない(なぜならボクはこのとおりのビッコひき涙のように透きとおる月のしずくの下で待っていますのにどうしてあなたは誘ってくださらないの?あたくしはお待ちしてますのよいつでもあたくしはただあなたのおそばにいたいのですあなたのいのちの息吹を感じる……それだけで倖せです(だめだ、だめだ(ボクにはきみを不幸にする権利などないあたしはあなたとご一緒に不幸になりたいのですわ(きみは不幸というものが(どんなに苦しいものか知らないのだあなたとのつかのま...昭和43年に書き留めた詩(月のしずくの下)

  • 俺は、青年!(二)

    ーええ!そりゃもう。おそらく、ボーイフレンドは二、三人はいると思うんです。でも、そんなことは問題じゃない。あの子はあの子であり、俺は俺。ボーイフレンドの多いということはとりもなおさず、チャーミングということですからね。=なるほど、道理だ。うん、いいぞ!そんなおまえには、何ともいえない若者の美しさがあるよ。やっぱり、人間は恋してる時がいい。もっともっと恋をしろ!ーハイ。俺、とことんまで恋します。そして、とことん失恋します。=そうだ、その意気で頑張れ!ー先生。人間は、いや、俺は強い人間ですか?それとも弱い人間ですか?=うーん。おまえは……。俺の見たところ、残念ながら弱い人間だ。しかしな、弱いなりに強がっている。俺としては、そんなおまえに魅力を感じるな。ー俺、今まで、じゃない。高二の夏休みまで頃までは、弱い人間...俺は、青年!(二)

  • ポエム ~夜陰編~ (あの日の雨が…)

    あの日の雨が、今、生命ちの糧となる。口にしないサヨナラを、今、地獄の門で口にした。形の無い時間の世界へ旅立つ時背中の翼が呪わしい。あの日の雨が、今、哀しみの水となる。聞こえはしない夢を、今、地獄の門で聞いた。色の無い時間の世界へ旅立つ時涙の膜が呪わしい。あの日の雨が、今、希望の光となる。見えはしない愛を、今、地獄の門で見た。音の無い時間の世界へ旅立つ時足かせの鎖が呪わしい。(背景と解説)少し漢字が多くて、堅いですかね。ま、いつものことですか。最近は、漢字を使わずにひらがな表記が増えましたからね。どうして?と思わざるを得ないのですけど。この詩のキモは、難しいんです。いろいろとあり過ぎて、どう解釈すれば良いのか、ねえ。[地獄の門][時間の世界][呪わしい]それと[あの日の雨]が繰り返されています。[あの日の雨...ポエム~夜陰編~(あの日の雨が…)

  • [サイケデリック文学] 俺は、青年!

    押し入れを整理していたところ、箱が見つかりました。「何が入っている?」。ワクワクしながら開けてみると、スクラップブックやら原稿用紙類がいっぱい。「当時の自分がまた見つかった」。喜び半分、恐怖半分の思いで読みふけりました。わずか三人だけの小さなクラブでしたが、充実した一年になったものです。そんなころに囲新一というペンネームを使っていた高校時代に書き上げていたものです。当時のわたしは、どう分類していいかわからなかったようですが、エッセイですね。といってあまりに未熟ゆえに、そう分類することもためらわれるのですが。なにはさておき、原文のまま(誤字脱字だけは修正して)にしたいと思います。また句読点がむちゃくちゃで、少々どころか多々読みづらいとは思いますが、そのままにさせてもらいました。[サイケデリック]ということば...[サイケデリック文学]俺は、青年!

  • 昭和43年に書き留めた詩 (詩・二編)

    バランス「失恋しちゃった」――「そりゃおめでとう」「なぐさめてくれる?」――「キスしよっか!」相手があなたでなくて、ほんとに良かったわ。パープルレインいろが溶けあって昇華した雨のふるあさのこと冷たいかぜに吹かれて地上におちた木の葉のようにわたしの恋はやぶれてしまった水たまりに映ったわたしの影はとっても淋しいものになっちゃった昭和43年に書き留めた詩(詩・二編)

  • [青春群像]にあんちゃん ((通夜の席でのことだ。)) (一)

    通夜の席でのことだ。やすらかな表情で横たわるシゲ子の枕元で、憔悴しきった孝道がすわっている。そのよこに孝男が陣どり「西本さんだよ、福井さんだよ…」と、耳元でつげている。「うんうん」とうなずきながらも視線はシゲ子に注がれたままだ。孝男のよこには長男と次男がかしこまっている。長男がじょさいなくお辞儀をするのにたいし、次男はじっとうつむいたままでぐっと口を閉じている。反対側には縁者たちがじんどっている。80を過ぎてのことだから、大往生だろうさと、ささやきあっている。孝道もまた、そう思っている。思ってはいるが、ひとり取りのこされたという思いは消えない。そしてまたこれからのことを考えたとき、いちまつの不安を消せずにいる。「これからどうする。こっちに来るかい」、と孝男が声をかけた。あと2年もすれば80になる孝道だが、...[青春群像]にあんちゃん((通夜の席でのことだ。))(一)

  • 昭和43年に書き留めた詩 (レール)

    世の男どもが女にもとめるものはただひとつただひとつ優しさだ世の女どもが男にもとめるものはただひとつただひとつ服従だ為せば成る――為さねば成らぬそこに男がいれば男の世界そこに女かいれば女の世界誰もいなければ…それでも人の世赤さびたレール汽車が通って通って通るだから頭頂部がぎん色にひかる腹部も底部もただそこにあるだから赤さびてしまった「ゴットンゴットンゴットン」「イタイイタイイタイ」その叫びにだれも気づかない頭頂部だけが妙にぎん色にひかっているせんろの先にステーションがありその周りに家があってとなりに家があってそのとなりのとなりに家があってそして人がいる昭和43年に書き留めた詩(レール)

  • 奇天烈 ~蒼い殺意~ 悲しい事実(一)

    彼は、二階建てのアパートに住む。2階中央の部屋で、間取りは1Kである。ドアと言えるか分からぬような板戸を開けると台所となり、その奥が六畳間となっている。築30年いや40年だろうか、所どころ壁が剥げている。竹の編んだような物が露出してもいる。そこにわたしから奪い取っていったポスターを貼ってごまかしている。べつだん隠す必要を感じないけれども、やはり見た目に悪いと言っていた。それにしてもわたしのお気に入りのポスターであるプレスリーを持って行くとは。まったく油断のならぬ男だ。しかもその捨てゼリフが気に入らない。「なんでも良いが、大きさがピッタリだから」たしかに大判のポスターは、それしかない。いや待て、もう1枚ある。しかしあのポスターだけは、いかに親友といえども渡すわけにはいかない。谷ナオミの「花と蛇」だけは、だれ...奇天烈~蒼い殺意~悲しい事実(一)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港 (二十四)ナイトクラブで、ふたりして

    ナイトクラブで、ふたりしてグラスを傾けた。高い天井には無数の照明が設置してあり、おおきなシャンデリアが中央にひとつ、そして間隔をあけて左右にひとつずつが輝いている。それらのそばにはミラーボールがそれぞれ設置してある。ロマンスタイムという時間になると全体の明かりがおとされ、そのミラーボールが動き出す。柔らかい光でもって、全体に海の世界をつくりだす。ゆったりと光の色がかわり、波間のように上下してくる。異性との酒、ましてやダンスなどはじめてのことで、終始ほほを赤らめ、男の目を正視することができなかった。これまでミドリに対してアプローチしてくる男が、居ないわけではなかった。いやむしろ、多かった。しかし、そのことごとくを兄である道夫は許さなかった。ミドリの気持ちのなかに〝兄がいちばん〟という、強烈な印象がつよい。成...[淫(あふれる想い)]舟のない港(二十四)ナイトクラブで、ふたりして

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (三十五)初恋が甘酸っぱいものだとすれば

    初恋が甘酸っぱいものだとすれば、大人の恋はどうなんでしょう。マンゴーのように甘くあま~く、そしてやっぱりおおいに甘いものでしょうか。そんな恋を教えてくれたのは――みずから追い求めたものではなく与えられた恋のお相手は、やっぱりminakoさんでしょう。わたしよりも年上の女性でした。といっても、高校の同級生です。看護学校を卒業後に高校入学された方で、最終学年にしりあいました。きっかけがなんだったのか、いまとなっては思い出せません。在学中から交際がはじまったのか、それとも卒業後の同窓会かなにかがきっかけだったのか……。どうしても思い出せないのです。思いだすのは、……体がカッと熱くなることばかりで、外でのデートではなくわたしのアパートでのこと、そしてトラックの車内でのことなのです。ライトバンでのデートならばいざ知...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(三十五)初恋が甘酸っぱいものだとすれば

  • ドール  [お取り扱い注意!](六)「はじめての設定を

    「はじめての設定をしていただかなくてはいけません。男性・女性の選択ができます。年齢の設定ができます。赤児からお年寄りまで、ご自由な設定ができます」なるほど、家族というわけだ。「ご希望であれば、他人という設定もございます。恋人、という設定ができます」他人?これは気が付かなかった。なるほど、家人では重いと感じる人もいるといことか。なんとも、こまやかな配慮がしてあるものだ。答えに窮したわたしだったが、こころを見すかすように言った。「いまの小夜子は、年齢的には娘ということになるのでしょうか。それは、イヤです。幸いご主人さまは、お独り身でございます。恋人にしてください」「添い寝させていただきたいのですが、体温はいかほどが宜しいですか?35度から38度まで、いちぶ単位で設定できますが。それとも、お布団のなかで調整いた...ドール [お取り扱い注意!](六)「はじめての設定を

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (四百七十三)

    *三部としていましたが、二部に訂正します。所帯が膨れあがるにつれ、おれはおれ、あいつはあいつ、そんな風潮がでていた。武蔵の○後、組織経営という名のもとに、社員間の団結心がうすれていた。これこそが、小夜子の感じていた違和感だった。家族経営にこだわる小夜子の、強いねがいだった。皮肉なことに、小さな部品にすぎないネジが巻き起こしたことが、真理恵をして――じっさいは佐多だったとしても――為すことになった。そしていっきに真理恵にたいする信頼感が醸成され、徳子の存在感がうすれた。竹田が言った。「忘れてたよ、社長のことばを」なにごとかと竹田に視線があつまり、つぎのことばを待った。「情報はいのちだ。きょうの飯が、あすにはステーキに変わる」「ものごとは一面だけで決めつけるな。多面的にかんがえろ」服部がつづいた。「人は一面だ...水たまりの中の青空~第二部~(四百七十三)

  • ポエム ~夜陰編~ (Re.手紙:忘れられない!)

    小さな石を池に投げ、大きな波紋が広がった。良いにつけ悪いにつけ、それを投げたのは、君だ!男の子が蛙に向かって石を投げた。蛙は言った。「坊ちゃん!あなたにとっては遊びでも、わたしにとっては、生き死にの問題です」偽りの優しさよりも、心から憎んで欲しい。真実の言葉が、欲しい。そう願いつつもやはり心の底で、慰めの言葉を待つ。ぼくは一人で砂浜を歩いていた。太陽はもう沈み、月の光もうっすらとしていた。冷たい風が、沖から吹いてくる。もう帰らなくちゃ……そう思いつつ、いつまでも歩き続けた。砂浜の果てに、何があるか分からない。砂浜から、、、岩だらけに。それでも歩いた、何かがありそうだ。年をとるということは、大人になるということ。現実を見るということ。汚れていくこと。そう思った。しかし自分が汚れても、あの娘は汚すまい。そう思...ポエム~夜陰編~(Re.手紙:忘れられない!)

  • [青春群像]にあんちゃん ((20年前のことだ。)) (十一)

    シゲ子が息を引き取る前夜のことだ。つきそっている孝道にたいして、シゲ子が力ない弱々しい声でかたりはじめた。「ナガオはいっけん優等生に見えますけど、こころのなかにはどす黒いおりがうず巻いているんですよ。そのことを知っていたくせに、わたしときたら見てみぬふりをしてしまって。ナガオも可哀相な子です。じつの親に捨てられたのですから。孝男にしても、しぶしぶ引き取ったわけですし…」眉間にしわを寄せて苦渋のひょうじょうをみせながら、孝道もまた力なく答えた。「といって、実母を責めるわけにもいかん。両方の親に反対されては…。いちばん悪いのは定男だ。甘やかしすぎたようだ。孫のようなものだったから……。あかりさんは、まだ十七歳の娘さんなんだ。周囲に反対されればされるほど、燃えあがったんだろう。しかし、祝福されずに生まれ落ちた赤...[青春群像]にあんちゃん((20年前のことだ。))(十一)

  • 日本と西洋の文化について考えてみました。

    日本と西洋の文化について考えてみました。某テレビ番組で、聞いたことです。立教大学教授横山太郎氏の論です。日本文化の特徴は、「余白をつくる、残しておく」ことだそうです。例としてわかりやすいのが、絵画ですね。浮世絵しかり、水墨画しかり、ですね。室町文化の能楽において生まれたということです。「能面のような無表情」ということばがあります。余白、まさにそれですね。よけいなものをそぎ落として、一挙手一投足にて、表現しようとします。感情を表現するにはは、顔の表情が一番でしょう。ドラマなどで、「画面いっぱいの顔」って、迫力ありますもんね。NHKの演出家で、和田勉さんと言う方がおられました。あの方なんか、その手法を多く取り入れられていたとか。ある人によると、和田勉さんが「画面いっぱい」の元祖だとか。観客の想像力を、最大限に...日本と西洋の文化について考えてみました。

  • 奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (三十二)

    がっくりと肩を落とすわたしを、「だいじょうぶですか?山本さん」と、あのこころ優しき看護師がむかえてくれた。なのに、なのに、ああ、またしても……。まぶしさに耐えきれずに閉じていたまなこを、さぞかし愛くるしい娘さんだろうと、ひっしの思いでうす目を開けた。しかしその目に飛び込んできたのは…いや、なにも言うまい、なにも考えまい。魔物が恐ろしい姿をしていると、だれが言った。神が気高い姿だと、だれが教えた。そうだ。戦国の世に、信長が謡いながら舞ったではないか。「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。いちど生を得て、滅せぬ者のあるべきか」受け入れねば、うけいれねば。すべてを、あるがままに、と受け入れねば。この棟の住人たちとの付き合いも、恐ろしい男からの訳の分からぬ戯言も、そしてそして子どもたちの歓声も、すべ...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(三十二)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港 (二十三)男が飛び起きた。

    男が飛び起きた。いつの間にか寝入っていたようだ。「ああ、夢だったのか」。おもわず口に出た。なまめかしい夢だった。〝ドアを開けるとミドリさんが来て、びしょ濡れのままおれの胸に飛込んできた……〟「あれは、あの夜のことだ。しかし、どうしてミドリさんの顔に。そうか、立候補すると言ったからか。馬鹿な、こんな俺にそんな資格があるものか」男は、大きく伸びをするとベッドから飛び出した。気のおもい毎日がつづいた。辞表をだす勇気ももてず、悶々とした日々が繰りかえされた。相変わらず部長の嫌みなことばや、かつての同僚からの憐憫を受けていた。そんな煩わしい日々のある退社時に、雨宿りをしているミドリに出会った。あのときの事を思い出し、また平井道夫への傘のお礼もあって、「やあ!」と、声をかけた。肩を落とし暗く打ちしおれていた瞳が、男の...[淫(あふれる想い)]舟のない港(二十三)男が飛び起きた。

  • ((どうなんでしょうかねえ))

    どうなんでしょうかねえ。あれほどに、「夢で逢いましょう」と呼びかけていたのに。もう何年になるのか?[金魚の恋]という自伝小説(書き切れないこころのひだというものがありそうなんですがね)を書き上げてからというもの――。いや違うな。構想中からだから、1年ぐらいか?「まだそんなもの?」という感覚だけれども。その間、もう毎晩毎晩、いや日中ですら、お昼寝前にも「夢で逢いましょう」と願い続けていたというのに、まるで無視されていた。父親、兄貴、親友、先に逝ってしまった者たちは、願えば逢いに来てくれたというのに。かっての同僚たちやら上司との仕事を復活させたり、望まぬ黒歴史というべき過去の失敗した事業に悪戦苦闘してきた時期が現れて、苦しめてきたというのに。子どもたちにしても、存命中の友人にしても、望めば逢いに来てくれるとい...((どうなんでしょうかねえ))

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (三十四)さあ次なる場所に移動です。

    次なる場所に移動です。小学6年生の夏休み前までかよった、福岡県中間市の中間小学校に行きましょう。1級河川の遠賀川の堤防下に建てられている学校でした。ですがあまり記憶にありません、学校内は。6年生ですからねえ、覚えていてもおかしくはないのに。学校外でのことばかり思い出すんです。倉田くん、佐々木くん、ぼくのこと、覚えていてくれるかなあ。たがいの家が近かったこともあり、放課後によく遊びました。家のわきに国道と並行して線路があったのですが、その地がさっぱり分かりません。その線路わきに小山というか小高い丘というか、頂には神社があったと記憶しているのに、それらしき場所がさっぱりです。中間小学校にかよっていたということは、この近辺だということなんですがねえ。小川が流れていて、すこし離れたところにちいさな池があり、そうだ...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(三十四)さあ次なる場所に移動です。

  • ドール [お取り扱い注意!](五)おどろくほどに

    おどろくほどに気持ちの良い肩もみだった。じんわりと、あたたかかさが体に染みこんでくる。それにしても、肩をもまれるなど、なん年ぶり…いやなん10年ぶりのことだろう。幼かった娘の、たわむれ的なカタモミ以来ではないか?ときおり、柔らかいものが背中に当たる。心地よくはあるのだが。10秒ぐらいだろうか、その間隔であたってくる。「さよこちゃん、その…当たって…」そう言ったとたんに、思わず顔が赤くなった気がする。「おいやですか、ご主人さま。ふふ…純情なんですね」「これこれ、大人をからかうものじゃないよ」ざんねんなことに家事については、プログラムがなされていないという。たしかに複雑な動きをともなうことだし、なんといっても判断基準もむずかしい。たとえば掃除についていえば、ゴミを吸い取るだけなら問題ないだろう。拭き掃除となる...ドール[お取り扱い注意!](五)おどろくほどに

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百七十二)

    でね、工場なんかで余分にほしがるのは、明日は入らないんじゃないかという恐怖感があるからでしょ。ラインが止まることなど、けっしてゆるされることではないわ。逆にいえばその恐怖感をとり除いてあげれば、通常にもどるの。そのためには、富士商会に部品がキチンとはいってこなくちゃいけないわね。ではどうするか?富士商会だってやみくもに仕入れる必要はないのよ」まるで生徒と教師だった。絶対の信頼をよせている教師のことばには、迷うことなく従うものだ。いままさに、その関係におちいっていた。「実需ってわかる?ほんとの需要よね。じゃ仮需は?そう、恐怖感からうまれた、膨れ上がった需要。きっとあふれだすわ。あとひと月、ふた月?日本の町工場をなめないで。きっと徹夜してでも生産してるわよ。売れるんだもん、作ればつくるほど。国の政変もおちつく...水たまりの中の青空~第三部~(四百七十二)

  • ポエム ~夜陰編~ (手紙:振られたあ!)

    あなたって、どういう人なんでしょう?何かずっと見守ってあげたい。見守るという言葉が適切でなければ、見ていたい……。そういう気持ちを起こさせる人なの。そしてそれが、決してあなたの重荷にならないように遠くから、そっとと思う。だから、ずっとお友達でいたいの。他人は誰も皆、あなたやもう一人のあなたの作品を読んだ後、あたしをまじまじと見つめて、言う。『あなたはこの人に、一体どのような手紙を書くのですか?』あたしは、いつも、返答に困ってしまう。自分でも、不思議でたまらなくなるの。------そ、そんな、こと、、、いま、ことばを忘れてしまった…いま、なすすべを失った…ベッドに座わり、ぼんやりとテレビに見入っている。小説を書く気にもならない…あしたから、なにをしよう。なにを、すればいい……(背景と解説)送られてきた、詩と...ポエム~夜陰編~(手紙:振られたあ!)

  • [青春群像]にあんちゃん ((20年前のことだ。)) (十)

    シゲ子が夕食時にたおれたと連絡がはいったとき、真っさきに駆けつけたのは小学校3年生になったばかりのほのかだった。床のなかで苦しげな表情を見せるシゲ子に近づいたとき、弱々しい声で「ほのかちゃん…」と呼びかけられたが、思いもかけぬ反応をみせてその場に立ちすくんだ。「だれ、だれ…」小声で問いかけるほのかで、布団のなかの土色のはだをした老婆は、ほのかの知る祖母ではなかった。いつも身ぎれいにしているシゲ子とは、まるで似てもにつかぬ老婆だった。いや、醜悪な物体に見えてしまった。「シゲ子、シゲ子。ほのかが来てくれたぞ。良かったな、これでもう元気になれるぞ」孝道がシゲ子の耳元でささやく。かすかに口元に笑みがうかんだ。布団のなかからゆっくりとしわだらけの手が出て、明らかにほのかを呼んでいる。「いや、いや!」とさけんだなり、...[青春群像]にあんちゃん((20年前のことだ。))(十)

  • 奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (三十一)

    「はい、もうけっこうですよ」あの天女さまに促されて退出した。別室に移された。「それでは、説明をしますね」その甲高い声に、つい薄目を開けたのだが、見なければ良かったかもしれない。貫禄充分の看護師だった。まさか…。いやいや、声が違う。「あのですね。眩しいんですよ、普段でも。室内から外を見るとですね、目を開けていられないんです。それに、遠近感もおかしいようで。先日の視力検査では、二重どころか四重いや六重にも見えちゃいました」医師に話すべく整理していた文言を、いっきに吐き出した。「ええ、ええ。それらすべてが、白内障の症状なんですよ。ほかに、白くかすみがかかったようなことは、ありませんでした?程度の差はありますけれど、見にくくなったこととか」言われてみれば、白い霞かどうかは分からないけれども、たしかにテレビの画面が...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(三十一)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港 (二十二)「父には、『そんなふしだらな娘に

    「父には、『そんなふしだらな娘に育てた覚えはない!』と叱られて、母には泣かれるし・・・。それにはじめてよ。父に手をあげられたのは」と、泣き叫んだ。男は、カラカラの喉からしぼりだすように「すまない」と答えたが、かすれた声のせいか、麗子の耳にはとどかなかった。「なんとか言ってよ!『挨拶にこないとはなに事だ!麗子、お前遊ばれただけじゃないのか!』。父にそう言われて、どんな気持ちだったかわかる?ねえっ!」ひと言もなかった。麗子の言は、至極もっともなことだ。しかし、麗子との関係を知られたいま、麗子の家を訪れることがためらわれた。上司を立てて、正式に結婚を申し込む以外になかった。それでしか、いやそれでも八方まるくおさまることはないだろうと思えた。ひと悶着もふた悶着もあるかもしれない。となると、男の評価が下がる。だから...[淫(あふれる想い)]舟のない港(二十二)「父には、『そんなふしだらな娘に

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (三十三)花が咲いたよ

    花が咲いたよパッと赤い花が咲いたよ白い花も咲いたよぶあーっとお花畑いっぱい咲いたよ陽が照ってきたよサッと青い花が背伸びしたよ緑の花も背伸びしたよわあーっとお花畑いっぱい背伸びしたよ風が吹いてきたよドッと赤い花が踊ったよ白い花も踊ったよどあーっとお花畑いっぱい踊ったよ水が撒かれたよワッと青い花が喜んだよ緑の花も喜んだようわーっとお花畑いっぱい喜んだよお花たちが言ってるよありがとう!うれしいな!------それなのに、もう一枚のメモ用紙に書かれた……------なにひとつ不満のない生活━愛する妻がいて、愛する子どもがいて、絵に描いたような幸せな生活ベビーシッターとして現れた、娘妻との生活をエンジョイするための、娘、のはずが……男は、同時に複数の女性を愛せるものらしい女は、どうなんだ?……答えがかえってきた「冷...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(三十三)花が咲いたよ

  • ドール[お取り扱い注意!]ドール  (四)わたしの涙目に気づいたようで

    わたしの涙目に気づいたようで「ご主人さま、申し訳ありません。嫌な思いをさせましたでしようか。服を着るというプログラムがありませんので。苦情申した立てをなさいますか。連絡先は…」と、かなしげに聞く。「いや、いい」。手を振ると「苦情がかさなりますと、返品処理をされてしまいます」と、目を落としていう。どうにも、人形であることを忘れてしまう。どんな目的で作られたものなのか、うすうす察しがついてきたが、そうは考えたくない。「さよこちゃんだっけ、ひとつ聞きたいことがある。わからないなら、こたえなくて良い」「さよこの分かることでしら、どうぞ」「きみを頼んだ覚えがないんだけど、だれかからの贈りものなのかな」「そんな…淋しいです、さよこは。お忘れになられたのですか、もう。2011年8月に、懸賞サイトで応募していただいたのに...ドール[お取り扱い注意!]ドール (四)わたしの涙目に気づいたようで

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百七十一)

    いちど聞いたことがある。「お父さま、推理小説はお好きだった?それともストレス解消のため?」それにたいする佐多の返答は意外なものだった。「ストレスか、そりゃあもう。しかし推理小説は、人間の心理探索のバイブルだ。精神分析とおなじだ。どうすれば人は怖がるか、喜ぶか、そして畏敬の念をもってくれるか。これが意外にわかってくるんだ」このところしばらく、毎夜のように佐多から真理恵に声がかかる。むろん五平に否やはない。灯りの消えた家にもどるのにも、もう慣れた。そして昨日の夜も、現在の部品不足にたいする考え方の講義を受けた。「会社の大小じゃない。いやそれを考慮せねばならんことは当たり前か。それよりもだ、この現象だけをみるのではなく、そこに隠れた裏はないか、そもそもなぜこの事態になったのか。そしてこの部品不足がおきたことで、...水たまりの中の青空~第三部~(四百七十一)

  • ポエム ~夜陰編~ (人生)

    心に雲の広がりを持ち、湿った空気のために、澄んだ音でさえも、屈折しがちな心……広い空、白い雲の広がりなど、ものともしない。雲雲雲雲雲々々々々々それですら、一つの空としての美を創り出している。幼い頃、背丈の何十倍もの大木の下でそのあまりの高さに、唯ため息を洩らしつつあすなろを感じた。その純な心は、今どこに。れんげ草の咲き誇る、畑の中に寝転んでは花と花を飛び交う蝶に心を許し、共に蝶になり、その蜜の世界に浸った。純な心は、どこに置き忘れた。いつか、おほしき太陽も隠れ沈みゆく彼方の雲はオレンジに輝く。太陽の、青い海に落としたオレンジ色をオレンジ色に染まった雲に乗って、どこまでも、追い続けてみたい。そして、やはりいつかは、ここに戻る……(背景と解説)二十歳を少し超えた、多感な時期のRollingAgeのわたしです。...ポエム~夜陰編~(人生)

  • 奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (三十)

    「山本さんは、糖尿病もわずらってみえますね。糖尿病ののことは、ご存じですね?合併症がこわいですからね。はいそれでは、眼底検査をさせてもらいますよ。だいじょうぶですよ、なにもこわいことはありませんからね。光を当てて、なかの様子を見させてもらいます。まぶしいでしょうけれど、辛抱してください。まばたきしたくなっても、できるだけ我慢してくださいよ」じつに優しく低い声でささやききかけられると、目のなかをのぞき込まれるという恐怖感も薄らいでくる。いっそわたしのこころのなかも覗いてみてください。家族に見放されたあわれな、この老人です。ひとり住まいがこころ細い、独居老人です。どうぞ気にかけてやってくださいな、女神さま。あなたさまならば、多少の苦行にもたえられます。しかし実際は、そんな生易しいものではなかった。まぶしさを通...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(三十)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港 (二十一)部屋にはいるなり、

    部屋にはいるなり、「遅いじゃないの!恥をかいたわよ、あたし。時間どおりに来てよ!」と、ヒステリックに叫んだ。さすがに男もムッときた。「仕方ないだろう。今のプロジェクトがいよいよ大詰めなんだから。上から、プレゼン用の企画を急いで仕上げろと言われてるんだ」「だって、だって…」、とつぜんに麗子が泣きくずれた。はじめてのことだった。「おいおい、泣くなよ。悪かったよ、大声をあげて」男は背広を脱ぐ手をとめて、麗子を抱きしめた。あの夜のように、麗子のかたがふるえている。男はすこしうろたえた。なにか余程のことがあったのだろう。「どうしたんだい、今夜は。さあ機嫌をなおして。いっしょにシャワーを浴びよう」無言のまま、麗子は服をぬぎはじめた。〝やれやれ、やっと機嫌が直ったか〟と、安堵したものの、その後のご奉仕のことを思うと気が...[淫(あふれる想い)]舟のない港(二十一)部屋にはいるなり、

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (三十二)長いながい、少年の煩悶がつづいた。

    長いながい、少年の煩悶がつづいた。“どうして……”。“なぜ……”。“どうする……”。“どうやって……”。“どうして……”。“なぜ……”悲しいことに、なにをどう煩悶しているのか、少年には分かっていない。ことばだけが堂々巡りしている。少年の視線のさきにいる女は、食い入るようにバンドを見つめている。“ほら、ほら、待ってるんだぞ”、“ほら、ほら、まってるんだぞ”。煩悶が、いつしか逡巡に変わっていた。靴のかかとが、コトコトと音を立てている。よしっ!と、握りしめたこぶしも、すぐに力が抜ける。気を取り直しての力も、かかとが床に着くと同時に、立ち上がろうとするとゆるんでしまう。気づくと、バンドが交代している。身を乗り出さんばかりだった女も、ストローを口に運んでいる。バンドのボーカルが、マイクスタンドを蹴っては、がなりたて...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(三十二)長いながい、少年の煩悶がつづいた。

  • ドール[お取り扱い注意!] (三)「申しわけありません、

    「申しわけありません、重かったですね。体重は、いま37キロです。まだ成長途中です。身長は1メートル60センチで止まります。体重は、42キロで止まります。最近の平均値だそうです。ご安心ください、それ以上にはならないようにプログラムされています」神妙な顔つきでいう。眉間にしわをいれて、申しわけなさそうな表情を見せもした。「ご主人さまの体格からしますと、すこし大きいようですね」どんどん発声がきれいになっていく。まったく人間と遜色ない。現代の若者というよりも、昭和の女だ。なつかしさで胸がいっぱいになる。箱から引きずり出したときの感触が、体温しかりだがなによりその肌ざわりだ。すべすべとして張りもある。いや、瑞々しいというべきか。そして全体として丸みがある。しかも胸のふくらみがしっかりとあり、乳首さえついていたのには...ドール[お取り扱い注意!](三)「申しわけありません、

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百七十)

    「なにばかなことを言ってるの!競争社会だもの、あたりまえでしょ。人のいいことを言っていたら、相手にくわれちゃうわよ」真理恵がかみついた。お人好しの気があると五平に不満をもらしている真理恵だったが、今夜はことのほか機嫌が悪かった。普段ならばいないはずの小夜子が会社にいたため、不機嫌になってしまった。しかも皆がバタバタと動き回っているというのに、泰然自若と専務室に閉じこもっている。そしてそれを当たり前のこととして見ている社員たちに腹をたてているのだ。〝電話のひとつもとって、それこそ気に入られている課長なり部長にこびを売ってほしいわ。うちの社員たちをいじめないでくださいって。みんな頑張ってますからって。いいわ。そうやってボーッとしてなさい。みんなの目をあたしに向けさせるから〟五平がまず口を開いた。「よその業者に...水たまりの中の青空~第三部~(四百七十)

  • ポエム ~夜陰編~ (ピュッピュッ)

    クスリを5錠口に含み、水をひと口流し込む。さらに5錠、また5錠、そして5錠――いく粒になった?いっきに水と共に飲み込む。手首に充てられたナイフがすべる。血管から流れ出る血!ドクドク、と耳に大きく響く。台所のガス栓が緩められる。シューッ!という噴出し音の中、二人の会話が始まる。“ほらっ、血がこんなに流れて、綺麗でしよ!”“シューッだってさ。ピュッピュッって、なんないの?”(背景と解説)心中のシーンです。リアルではなく、バーチャルということです。むかしむかしのことですが、映画を観ました。タイトルも内容も、まるで覚えていません。ただ、あるシーンだけが残っています。拷問のシーンなんですが、バーチャル的にみてくださいよ。テーブルか机の上に、目隠しをされて縛り付けられています。手足は勿論、頭すら動けない状態です。そし...ポエム~夜陰編~(ピュッピュッ)

  • [青春群像]にあんちゃん ((20年前のことだ。))(八)

    孝男の初恋は、あいての父親の転勤で告白すらできない片おもいにおわった。高校の卒業を待たずに、転校してしまった。むろん引っ越し先がわかるわけもなく、机のなかには出すあてのない手紙がたまりつづけた。そのなかに、悲痛なおもいから書きこんだ3編の詩があった。――・――・――・――水たまりのなかの青空は小さかったポチャンと投げた石ころに水たまりのなかの青空は歪んだ。渇いた愛砂に吸われる水草木は枯れていた枯れ木に風が吹くきょうの愛あすには憎悪かわいた愛激しい雷雨外で遊ぶ子どもたち汗まみれ……時の流れはいま川となりました銀の皿は流れるのですその上に空を乗せたままその夜空は消えましたその朝(あした)には太陽が消えました吐く息の凍りし窓辺暖炉の火外には雪が音のするなり吐く息の凍えし手にぞ伝わりて恋しき想ひなぜに届かぬ身を縮...[青春群像]にあんちゃん((20年前のことだ。))(八)

  • 奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (二十九)

    「はい、山本さん。お入りください」うすぼんやりと辺りが見えはじめる。周りを見わたすと、たしかにあの忌々しい老婆だった。機械のまえにちょこんと座り、「しっかりあててね」という看護師の声に、こんどはすなおに従っている。「友だちのレンズを……」と、医師の指示をムシする小娘はとみれば、おう、こりゃかわいい娘さんだ。年の頃、16、7歳あたりか。箸が転がってもおかしいという年頃だろう。教室内では、キャッキャッと騒ぎたい年頃だろう。ならば、許してやろうかな、おとなに反抗する時期ではあるのだし。薄ぐらい部屋のなかから、お出でおいでと手招きする女医先生、まさしく女神さまだ。まぶしかろうと灯りを落としていてくださる。ありがたいご配慮だ。この部屋では、眩しさも感じない。はっきりと女医先生を目にすることができた。三十代後半だろう...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(二十九)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港  (二十)それから何回かのデートを

    それから何回かのデートを重ね、そのたびにホテルで情交をかさねた。そしてそれはもう、あの夜の麗子とのからみではなかった。相かわらずの麗子主導だった。男は、ただ振りまわされた。次第におざなりになり、奉仕活動のような性〇に、男はいらだちを感じていた。それ故ということもないのだが、両親への挨拶については話題にのぼらなかった。麗子にしても、身体を許したという安心感からか、口にすることはなかった。それよりも、男との性〇に没頭していた。美容院で、素知らぬ顔をしながらその類の記事を読みあさった。そして、男をなじることも、ままあった。〝エロ小説まがいのことができるか!〟と、反発しつつも、ヒステリックな麗子の剣幕に圧倒されるのがおちだ。結局は、麗子の言うがままだった。ますます、男の気持ちのなかに”早まったかナ”という思いが募...[淫(あふれる想い)]舟のない港 (二十)それから何回かのデートを

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (三十一)新年に入りました。

    新年に入りました。さあつづいては、初ナンパのことです。「清水の舞台からとびおりる」というのは、こういうことを指すのでしょうねえ。ナンパの経験はあるといえばありますし、ないといえばそれもありです。またまた禅問答のようになりました。お怒りになる前にわたしの心情らしきものをひとくさりお聞きください。対人恐怖症、それとも女人恐怖症?面とむかっての会話が苦手でして、だれかを間に入れてのことならばいくらでも話が出来るのですがねえ。いえいえ、なんどもいうようですが、昔々のことですから。ですので、わたしの場合は手紙という手段をとりました。まあねえ、いまでもその名残りというのでしょうか、携帯電話の常態化にある現代においても、直電がにがてでメールなりを多用しています。そういえば現代の若者たちもまた、ラインなる通信手段がおおい...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(三十一)新年に入りました。

  • ドール[お取り扱い注意!] (二)「生ものです、

    「生ものです、お早めにご開封ください。なお、くれぐれもお取り扱いにご注意を」おどろいたことに、そんな表示があった。受け取ったおりには、なんの表示もなかったはずだ。ということは、表示か浮かび上がってきた?恐るおそる封を開けてみると、エアパッキンがぎっしりと詰め込まれている。「なんて、梱包だ。このエコのご時世に、なんて無駄なこんぽうをしているんだ」製品の梱包作業にじゅうじしているわたしには、とてものことに容認できるような代物ではない。よほどに苦情を申し立てようかと思ったが、いかんせん送り主不明ときている。「ゴシュジンサマ、オハヨウゴザイマス」とつぜんに、中から人形が起き上がった。ゼンマイ仕掛けのような仕草で、ピョンと。「な、なんだ。人形がしゃべっ…。いや、珍しくもないか。いまどきの玩具なら、当たり前のことか。...ドール[お取り扱い注意!](二)「生ものです、

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百六十九)

    そしていま五平が応対しているのは、そのネジに関してのことなのだ。大手の家電メーカーの製造部の部長が、入荷予定の確認にきている。正味のところ、実需分だけでなく在庫分としての確保を狙っている。現状の発注分の半分ちかくが在庫分としてのものだ。しかしそのことは、おくびにも出さない。ただただラインが止まってしまうと、談判にきている。きょうの電話のほとんどがそのネジに関するもので、その他いちぶがこれから不足が予想されているボルトに関するものだ。たかがネジ、されどネジ、なのだ。たった1本のネジ・ボルトが不足しても、製品はしあがらないのだ。なんの情報も持たぬ事務員にしてみれば、駆けずり回っている営業に問い合わせてほしいとおもうのだが、その営業自体もじっさいの入荷予定がわからずにいる。唯一はっきりしているのは、今日の営業終...水たまりの中の青空~第三部~(四百六十九)

  • ポエム ~夜陰編~ (恋の終わり)

    月さえ凍れる蒼い夜星の光りが冴えわたる舗道に映す影のその冷たさに後ろ姿に刺す月の光りが恋の終わりを告げる枯れ葉が落ちるその季節が来た「お友だちでいましょう」「ぼくたちは戦友だね」(背景と解説)余計なことですが、大切ことなので。「月さえ凍れる」=「つきさえしばれる」しばれる=厳しく冷え込む。凍る。(東北・北海道の方言)この詩のキモは?と考えたときに、前回の[詩とは……]を考えました。なにもないんですね、ほんとに。ただ、詩の範疇を超えた「戦友だね」という文字だけが心を伝える言葉だと感じました。ポエム~夜陰編~(恋の終わり)

  • [青春群像]にあんちゃん ((20年前のことだ。)) (七)

    しかしそんな孝男が、女児が生まれたとたんに変貌した。こと娘にたいしては盲目的愛情をしめす孝男で、長男や次男に接するときとはまったくちがう表情や態度をみせる。長男にたいする接し方については、おのれの実子ではないからと思えないでもない。しかし次男は、まぎれもなく実子なのだ。名前にしてから、道子には納得ができない。はじめに長男と付けたから、第2子は次男でいい。いや、でなければおかしいだろうと、まるで他人ごとのように言う孝男だった。ほのかの折には、まさか三女と書いてミナ…不安になった道子だったが危惧におわった。道子がおそれた名前ではなく、ほのかと名付けてくれた。「どうだ、良い名前だろうが。ほのかに香る…だ」得意満面にかたる孝男は、新婚とうじの孝男そのものだった。あんどする半面、不安なおもいもよぎった。あまりにもの...[青春群像]にあんちゃん((20年前のことだ。))(七)

  • 奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (二十八)

    天女さまに手を引かれて移動した。「はい。それでは、ここで待ってて下さいね」たしか壁際に長椅子のある、広い部屋だったはずだ。長椅子には4、5人が腰掛けられるのだが、皆それぞれに互いのテリトリーを主張しあうので、座ることができるのはせいぜいが3人止まりだ。看護師たちもこころ得たもので、それ以上に呼びこもうとはしない。その部屋には、なにやら機械類が7台ほど並んでいる。順番に移動をしていけるように、横1列だ。そのうしろが通路として、余裕をもせてある。そしてその向こう側、フロアの中央あたりで、視力検査をやってくれる。こちらは3台ある。大体が、ほぼ満席だ。「お待たせ、お婆ちゃん」「はよしてもらわんと、どうにもならんぞ。みんなで夕ごはんを食べることになっちょるのに」なんという毒々しいことばを吐くハバアだ。ひょっとして、...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(二十八)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港 (十九)ひとつひとつの

    ひとつひとつの行動・感情のうごきにまで因果関係をもたせ、おのれを納得させている麗子が、男には不満だったのだ。気まぐれ・衝動、そういったものいっさいを否定するがのごとき麗子に、不満だったのだ。昨夜のあの行為にさえも、〝麗子なりの意義をもたせているのだろう〟男はそう思った。ただ、幸か不幸か麗子の打算にまでは気がつかなかった。ひとつひとつを完全なものにしない限り、麗子はいらだった。ちょっとしたことばの言い間違い・聞きちがいによって生じたトラブルを、男は「多分…」と済ませることを、麗子はとことん問いつめる。そういった小さなことの積み重ねが、男には我慢できないものだった。指定の場所に向かうおり、気まぐれにコースを変更することを麗子は嫌った。工事中等の不可抗力による変更すらも、きらった。当初の計画通りに事が運ばないと...[淫(あふれる想い)]舟のない港(十九)ひとつひとつの

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (三十)高校に入ってはじめての

    高校に入ってはじめての夏休みのことです。声をかけられたのは夏休みにはいるすこし前のことです。上級生の女子生徒に声をかけられました。純朴な青年じゃなくて、まだ少年ですね。「すこし話をしたいんだけど」だったか「楽しいところに行かない?」だったか、そんなようなことだったと思います。女子生徒との会話なんて、挨拶のことばすらまともにかわせない時期のことですから、はじめてのことでした。いや女子生徒だけではなく、同性とも話をした記憶がありません。学校に着いて1時間目の授業をうけて、給食を食べて2、3、4時間目の授業をうけて、ひと言も声を発することなく帰路についた日もありました。すみませんねえ、いつものくせで。なかなか本題に入ら、、、はいります、すぐに。そんなわたしですから、声を発することなく、ただただ頷くだけでした。ど...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(三十)高校に入ってはじめての

  • ドール [お取り扱い注意!](一)2012年、元旦のこと。

    2012年、元旦のこと。とつぜんに荷物がとどいた。「お荷物のおとどけでーす。お取り扱い注意ですので、よろしくお願いしまーす」「元旦早々、ご苦労さまです」ねぎらいのことばをかけたけれども、その配達員はニコリともせずに立ち去った。配達すべき荷物がとどこおっているのかもしれない。“愛想のない男だな”と思ったものの、よくよく考えると男だったかどうか判然としない。顔を見たような気もするし、みていないような気もする。どちらでも良いことなのだが、すこし気になった。まだ62歳なのだ、あれには早すぎるとおもった。とどいた物は、一辺が30センチほどの立方体で、なんの表示もない箱だ。会社名すらない。「なんだ、こりゃ。中身はなんだ?ちょっと待てよ、伝票ってあったっけ。判子を押してないぞ。ま、いいか」映画のつづきが気になったわたし...ドール [お取り扱い注意!](一)2012年、元旦のこと。

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百六十八)

    ソファに座ったり机に戻ったり、そして冊子をパラパラとめくっている。窓の外ではチンチンと電車が行き交っている。車の往来もはげしい。思えば復興がめざましい。階下ではひっきりなしに電話が鳴っている。呼び出し音が2回なるまえに、受話器を取るようにと命じられていて、みなそれをキチンと実行している。応対の声もいつにも増してあかるい。「おい、どうした?」しびれをきらした五平がドアから顔を出した。小夜子のへやの前で聞き耳を立てていた徳子に、「早くはやく」とせかせた。「どうもお待たせしまして。問い合わせがおおくて、手が足りませんで」「もうしわけありません、すぐに上がるつもりが……」頭を下げる徳子にたいし、「状況をおしえてください」と、相手先がいらだった様子をみせた。部品のひっ迫が、もう2ヶ月ほどつづいている。高級品でも特殊...水たまりの中の青空~第三部~(四百六十八)

  • ポエム ~夜陰編~ (詩は……

    詩は、素敵なものであるべし。詩は、美しいものであるべし。詩は、感動を与えるものであるべし。詩は、情感をこめるべし。詩は、叙情を謳い上げるべし。詩は、心を伝えるべし。(背景と解説)これには付け足すことがなにもありません。金科玉条の心情だったのでしょう。かくあらねばならぬ、と言い聞かせていたころでしたか。まともといえばまともな内容なのですが。まあ、こんな言葉を羅列している-せねばならない状況に自分を追い込んでいたということでしょうねえ。疲れるだけなんですがねえ、ほんとに。今の私が、そのおりのわたしにアドバイスすするとしたら「あるがままに、だよ」と声をかけるでしょうね。ポエム~夜陰編~(詩は……

  • [青春群像]にあんちゃん ((20年前のことだ。)) (六)

    不遇の三十代、孝男はそう思っている。同期の中田に後塵をはいしたのはおのれの才覚ぶそくではなく、恣意的人事だとおもっている。直属の上司にめぐまれなかったおのれが哀れだとおもっている。そして、上司に嫌われたからだとおもっている。担当させられた地区には目ぼしい企業はなく、資産家もいない。中田がたんとうした地区には資産家が複数人居住していたし、本店にいどうした鈴木はビジネス街を担当した。なんで俺だけ…というおもいが渦巻いた。愚痴をこぼしあう相手にはこと欠かない。孝男とどうように、他支店でも脱落者はいる。そんななかに、入行とうじには気があわずに口論が絶えなかった江藤がいた。本店での研修時にバッタリと顔を合わせたふたりは、たがいの愚痴をこぼし合うようになった。「息子なんて、要らないんだよ。考えてもみろよ、女房を取りあ...[青春群像]にあんちゃん((20年前のことだ。))(六)

  • 奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (二十七)

    4時半からの受付で、すでに5、6人の患者が待っていた。自動ドアの開くのももどかしく、せわしなげに入っていく老婆が、床に敷いてあったマットに足を取られてしまった。うしろに居たわたしは、思わず「危ない!」と声をあげて手をだした。しかしわたしが手をだすまでもなく、お迎えの看護師らしき中年女性が老婆を支えていた。ところが「うしろの人が押した!」と、とんでもないことを老婆が言いだした。周囲のつめたい視線がいっせいにわたしに注がれたが、受付の看護師が見ていてくれて疑惑が晴れた。「とんだ災難でしたね。ま、お年寄りのことですし、かんべんしてやってくださいね」中年女性の話がなかったら、いつまでもわたしの怒りは収まらなかっただろう。「もういちど、瞳孔をひらく目薬をさしますね」マスク姿の看護師が寄ってきた。愛くるしいその目に焦...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(二十七)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港 (十八)劇場にはいる前に、

    劇場にはいる前に、コーヒーだけの朝食では持たないと考え、軽く食事をとることにした。劇場からすこし先に、純喫茶・和がある。その店名どおりに、和の雰囲気をだいじにしている店だ。格子戸の引き戸を入ると、和服姿の女性がむかえてくれる。間口のせまい店内には両側の壁ぞいにテーブルが設置してあり、4人掛けと2人掛けだけの構成だ。店内はほとんどどがアベックだったが、ひと組の親子連れがいた。場にそぐわぬ客だと鼻白む思いの男にたいし、異常なほどに子どもに関心をいだく麗子を見て、男のこころは痛んだ。早く結婚してやりたいとは思うのだが、共稼ぎを嫌う男には、まだ経済的に無理がある。しかし、〝俺の思いは麗子もわかっているはずだ〟と考えてはいた。もっとも、麗子が親子づれに興味をもったのは、男の思いとはまったく別のことからだった。〝こん...[淫(あふれる想い)]舟のない港(十八)劇場にはいる前に、

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (二十九)尻切れトンボ的に、

    尻切れトンボ的に、地獄巡りからの退出です。遊びほうけていた20代前半ですが、どう位置づけすればよいのか。人生における華ととらえるべきか、禍と評すべきか。ただこの時代がなければ、老をむかえた現在を悠然と過ごせぬのも事実だと思えるのです。当時にしても現在にしても、わたしがわたしであることに変わりはありません。意味不明ですか?正直わたし自身もどう伝えたらいいのか、ことばが見つからないんです。「人間は変われる」。「人間は変われるものじゃない」。どちらもよく聞くことばです。わたし自身の経験から言えば「変われる」ですし、「でも変われない」なんです。思いだしてもらえませんか、はじめのころにお話しした、ある疑問を。矛盾してますよね、矛盾してます。哲学論を聞きたいんじゃない!お叱りはごもっともです。それではわたしの経験をお...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(二十九)尻切れトンボ的に、

  • 愛の横顔 ~RE:地獄変~ (三十三)あちこちから、女性の声が

    あちこちから、女性の声が飛びはじめました。こういってはなんですが、一般的に婦女子というのは……。いえ、これは失言でした。男もまた、うわさ話は好きです。とくに下ネタとなると。いやこれも失言です。で聡子さんは「いえね、さっきのご老人のお話でね、その、合宿先で……」と、ことばを濁されます。と、みなさん一様に口を手でおさえて、黙られました。「ああ、湖畔でのことですか?なにごともありませんでしたわ。ただ念のため、そういうことでございます」それまでは涼やかだった小夜子さんの表情が一変しました。苦痛に歪んだ表情で、ぐっと唇をかみしめられています。いかにも「余計なことを」と言わんばかりでした。みなさんは聡子さんに視線がいかれていましたので、おそらく気づいたのはわたしひとりだったろうと思います。しかしすぐに、すこしの口角を...愛の横顔~RE:地獄変~(三十三)あちこちから、女性の声が

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百六十七)

    五平から声がかかり、徳子が応接室にはいったときだった。小夜子がいるへやの前をとおったとき、扉がすこし開いていた。キチンと閉じることなく入ったせいか、窓からの風でドアがすこし開いたようだ。重厚に見えるそのとびらも、じつのところ合成板を使った安物だった。武蔵ならばすぐにも取り替えさせたであろう、代物だ。「お客に見られる最初のものだ、本物を使わなくてどうする。輸入の高額品でなくてもいい、たとえ安物の国産材でもいい。とにかく本物を使え。富士商会は本物しか扱いません、と宣伝するんだ」そういえば1階のカウンターも、名前は知らないが1枚板だときいている。業者に在庫がなく、また市場にも流通していないと言うことで、特注でつくらせたものだった。どうにも気になった徳子は、「書類の一部をわすれました」とことわって、そっと小夜子の...水たまりの中の青空~第三部~(四百六十七)

  • ポエム ~夜陰編~ (パープルレイン)

    それは紫色の雨のふる朝冷たい風に吹かれてさ迷う落ち葉のようにわたしの恋は破れたの水たまりに映ったわたしの影はとても淋しいものなのよ(背景と解説)正直に言うと、まだ書きかけ?と思えるんですよね。本来ならお届けするべきではないのかもしれません。というより、だめですよ。でも、現在(いま)のわたしには書けません。体裁は整えられると思います、形だけは。それは紫色の雨のふる朝冷たい雲に抱かれて彷徨う枯れ葉のようにわたしの愛は消えたの水たまりに落ちたわたしの闇はとても哀しいものなのよだめですね、やっぱり。この詩は、キモはパープル(紫色)でして、言葉に惹かれてのことだと思うんです。紫といえば高貴の代名詞でしょ?憧れみたいな気持ちを抱いていたんでしょう。今でもそうですけどね。あ、気がつかれましたか。嬉しいですねえ、「水たま...ポエム~夜陰編~(パープルレイン)

  • [青春群像]にあんちゃん ((20年前のことだ。))(五)

    道子は、実子とのわけへだてなくという思いから、泣きさけぶ赤児をしり目めに長男にたいする世話を優先した。そんな道子にシゲ子が苦言をていした。しかし道子は相手にしない。「大丈夫ですよ、お義母さん。いまはこういう育て方なんですから。泣いている赤ん坊をあとまわしにすることで、上の子は安心するんです。そして下の子に愛情を感じるようになるものなんですよ」「口出しはえんりょしろ。定男の子どもを面倒をみてくれているんだ。感謝こそすれ、だ」常々、孝道がシゲ子に言うことばだ。そんな孝道に、シゲ子は反論することができない。必然、気持ちのなかにうつうつとしたものが溜まっていった。そして火の点いたように泣きさけぶ次男をあやしながら「そんなものかねえ。あたしたち古いばあさんには分からないことなんだけどねえ」と言うのが精一杯だった。そ...[青春群像]にあんちゃん((20年前のことだ。))(五)

  • 奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (二十六)

    「行くよー!ボーヤ」わざと、大きな空振りをした。とたんに、ケタケタと大きな笑い声を上げながら、手を叩いている。「よーし。こんどこそ、行くよー!」かるく蹴りだしたボールは、うまく男の子の足下に転がっていった。満面の笑顔でボールを手にとった男の子は、うんうんと大きくなんども頷いてくれた。そして父親の「ありがとうございまーす!」の声が、さわやかに耳に届いた。どれほどの時間が経ったろうか。公園の木々の陰が、すこし長くなってきた。子どもたちはすでに家路についている。しかしわたしは、なかなか腰を上げる気にならなかった。もう不安や恐れの気持ちはない、いつのまにか消えていた。ただ、子どもたちの余韻に、もうすこし浸っていたかったのだ。入り口に設置してある時計が、四時を指していた。〝そうだ。きょうは、眼科検診だ。そのために会...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(二十六)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港   (十七)時計が11時をつげると

    時計が11時をつげると、男は麗子と共にあかるい外に出た。きのう日の雨がまるで嘘のようにカラリと晴れわたっていた。道路の所どころにある水たまりが、かろうじてきのうのはげしい雨のことを思い出させる。麗子は男の腕に自分のうでをからませて、もう離さないとでも言いたげだった。気恥ずかしさを感じはしたが、男は幸せだった。〝しかしどうしてだろう、なにがあったのだろう、麗子に。あれほど一線を越えることに躊躇していた麗子が……〟と、すこし不思議ではあった。じつのところ、麗子のこころのなかに打算が働いたのである。人事課の同僚からの情報で、男の評価が高くなったと聞かされた。現在男が手がけている戦略的商品の有望性がたかく、結果しだいではすぐの昇進もありうるかもよと聞かされたのである。そして、そのことで社内の女性社員のあいだで花丸...[淫(あふれる想い)]舟のない港 (十七)時計が11時をつげると

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (二十八)「聞いたことがない話だ」。

    「聞いたことがない話だ」。「この地でははじめて聞いた」。そんなことばが飛びかいます。そりゃそうでしょ。この話は、いま思いついた、わたしの創り物ですから。そんな怒らないでくださいな。はじめに申し上げたでしょ?わたし、嘘吐きだって。まだお怒りですか?なんだか旅行記みたいな風になっていたので、あくまで物語りなんですよと、いうことなんです。はいはい、お怒りがやわらいだところで。帰りはバスにしました。テクシーはもうイヤですし、タクシーはお金がかかりますしね。だいいち、目の前にバス停があるのですから。ちょっと休憩しながら待ちますよ。待ち時間は、15分ぐらいでしょうか。ところが、時間になってもなかなか来ません。電車は正確ですが、バスとなると交通事情が違いますからやむを得ませんかね。ああ、竜巻地獄のことをお話ししていませ...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(二十八)「聞いたことがない話だ」。

  • 愛の横顔 ~RE:地獄変~ (三十二)なにを期待していたのでしょうか

    なにを期待していたのでしょうか、わたくしは。正直のところ、いまでも判然としないのでございます。「ぼくの子どもを産んでほしい」。あの夜の情熱はなんだったのか、いったいどこに消えてしまったのでしょう。「ぼくはもう、娑婆には出てこられないだろう。牢屋のなかで朽ちはててしまう運命なんだ。しかし後悔はしていない。いまの日本国は、労働者を○している。一部のブルジョアたちを守るためだけにあるんだ。富国強兵なんて、権力者の言い訳さ。国が富んでも民が貧しければ……」涙ながらに語っていた、あの三郎は、足立三郎は、どこに行ったのでしょうか。三郎だけではございませんわ。岡田、白井に山本のご三人衆。そしてリーダー格の竹本は、どうしているのやら。それこそ、口角泡を飛ばして議論されていたあの方たちは、どうしていることやら。未だに刑務所...愛の横顔~RE:地獄変~(三十二)なにを期待していたのでしょうか

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~   (四百六十六)

    まず竹田に複式簿記のなんたるかを説明し、いかに会社経営において有用であるかを認識させた。そして竹田同席のもとで服部を夜の会席に呼び出し、さらには五平をも同席させて、あらためて複式簿記の有用性を説いた。いくら内容を聞いてもちんぷんかんぷんな表情を見せる服部への、竹田の「ぜったいに必要なことだ」とのことばが、真理恵の援護射撃となった。表に出したくない金員を佐多から頼まれることがある。民間会社では使途不明金として処理できるものが、銀行だと金融庁からの厳しい目が光っている。監査が入ろうものなら、出世はおろかその場に留まることすらできない。場合によっては、おのれの進退をも左右することになる。二の足をふむことの多いなか、佐多は積極的に受け入れてきた。そしてこの地位に就いたのだ。佐多の上司から「うまく処理してくれ」との...水たまりの中の青空~第三部~ (四百六十六)

  • ポエム ~夜陰編~ (ヒトリゴト)

    ナニモカタラズ、タゞモクモクトヒトリシズカニシゴトヲコナシダレニメイワクヲカケルコトナクシヤカイニヒタルコトモナクタゞヒタスラニオノレヲミガキオノレノミチヲツキススムツチニカエルソノヒマデ言い訳なんか、するな!分かり合える時が、きっとくるって。今はどんなに+を積み上げても0になりこそすれ、+にはならない。“嘘も方便”方便以上になっちゃった。沈黙を続けろ!沈黙の後、誤解か否かわかるさ。沈黙だ、ひたすらに沈黙だ。なんてこった!なんという欺瞞!すべてに、我慢できない。――できない?誰に?――分かってる、この俺にだ。――ならば、良し!バカヤロー!死んじまえ!くたばっちまえいぃ!本当に、人間嫌いになったのか?なんで、疑うんだ?嫉妬心?なのか猜疑心?と言うべきか……(背景と解説)最後通告を受けた者の、断末魔の叫びにも...ポエム~夜陰編~(ヒトリゴト)

  • [青春群像]にあんちゃん ((20年前のことだ。)) (四)

    孝道の懇意にする産婦人科医のはからいで、孝男・道子夫妻の実子としてとどけられた。そして孝男によって、長男と書いてナガオと呼ぶ名前がつけられた。いくらなんでもそんな字は、と周囲が反対したが、頑として孝男は「これでいい」と応じなかった。孝男にしても、弟の尻ぬぐいをさせられたという思いが強かった。皮肉なことに、その2年後に次男がさずかった。不妊治療にかようことをやめたあとの妊娠だった。道子のきもちに余裕ができたゆえのことなのか、治療が功を奏したのか、孝男とシゲ子に「あの金はなんだったんだ(の)」と、イヤミのことばを受ける道子だったが、道隆の祝福のこえが救いだった。そして名を、ツグオとつけられた。孝男の長男にたいする無関心さは、実子でないからという理由があった。しかし次男にたいしてもむかんしんな孝男の心底が分から...[青春群像]にあんちゃん((20年前のことだ。))(四)

  • 奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (二十五)

    「ほーら。タケくーん、行くよ!」やさしい声をかけながら、軽くボールを蹴った。愛情のこもった眼差し、そう観音さまが与えてくださる慈しみをもって、見つめている。男の子は、嬉々としてボールに向かっていく。そのひたいに光る汗が、わたしにはことさら眩しく見えた。“可哀相なことをしてしまった”おのれの父親としての自覚のなさを後悔した。子どもが嫌いだったのではない、可愛くなかったわけではない。ひと並みの愛情は、持っていたつもりだった。ただ、その表現の仕方がわからなかったのだ。どう接すればいいのか、わからなかったのだ。こころのゆとりのなさが、子どもとの時間を作らせなかったのかもしれない。なんと言うことはなかったのだ。いち日をかけてどこかに出かける必要も、1泊の旅行を計画する必要もなかったのだ。ほんの1時間でも30分でも、...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(二十五)

  • [淫(あふれる想い)] 舟のない港 (十六)翌朝、カーテンの隙間からの

    翌朝、カーテンの隙間からのつよい光に男は目がさめた。台所の方からハミングが聞こえる。男はベッドの中で腹ばいになると、タバコに火をつけた。〝こういうのも良いもんだな〟と、昨夜とはうって変わり〝幸せにしてやらなくては〟と思いはじめた。「あなた、起きてよ。朝食の用意できたわよ」あなた。名前ではなく、あなた。明るさの中にも、恥じらいのある声だった。きのうまでの傲慢な麗子ではなかった。新妻の色香がただよっているように思えた。「結局のところ、女は男しだいか……」。ひと晩のことで、これ程に違うものかと驚かされた。「えっ、なーに?」「いや、いま起きるよ」すこし薄目のコーヒーには、砂糖がなかった。「太るから、ね」と麗子が囁くように答えた。男は身ぶるいした。〝うーん、いい。いいなあ、この感じ〟と、まさに幸せ心地に酔った。「う...[淫(あふれる想い)]舟のない港(十六)翌朝、カーテンの隙間からの

  • [ライフ!] ボク、みつけたよ! (二十七)むかしむかしのこと。

    むかしむかしのこと。山口県下関市壇ノ浦、源氏と平家のさいごの戦いは、みなさんご存じのことでしょう。平家滅亡がこわだかに喧伝されましたが、じつのところは数人の落武者が豊後灘を泳ぎきっていたのです。いやこの地、敵見郷=あだみごうに、流れついたというのが至当でございましょう。ですが甲冑を身につけてのことでもあり、ただのひとりを残して息絶えてしまいました。この若者が、じつに眉目秀麗でして。名前は……、やんごとなきお立場のお方、とだけ申しておきましょう。やはり血筋という者は争えぬものでございますな。その顔立ちにしてもですが、立ち姿に致してもな、凜とされておりましたわ。ここいらの村人ときたら、顔全体がごつとごつとしておりますし、目ん玉はギョロリと飛び出しております。鼻はひくく平らげで口といえば大きく横にひろがっており...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(二十七)むかしむかしのこと。

  • 愛の横顔 ~RE:地獄変~ (三十一)それではお話しをつづけさせて

    それではお話しをつづけさせていただきます。まずは新宿方面に向かいました。お店から銀座の百貨店に向かったと思わせるためでございます。そして府中に向かったのでございます。なぜそんなまどろっこしいことを?そう思われますのが当たり前でございましょうね。正夫のことです、駅まで付けてこないともかぎりませんわ。若いツバメが、などと疑心暗鬼になっていたようでございましたから。とにかく、あの大木という官僚の奥方が、なにかやと吹き込んでいるようでございましたから。そんなに正夫の嫁にとつがせたかったのなら、はやく話を進めればいいものを。どうせ、のれん分けが本当のことなのか探りを入れていたのでしょう。そうこうしている内に戦争ということになりましたからねえ。グズなんですよ、大木という方は。わたくしが府中の刑務所前のバス停におり立っ...愛の横顔~RE:地獄変~(三十一)それではお話しをつづけさせて

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