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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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住所
岐阜市
出身
伊万里市
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2014/10/10

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ 新(三百四十三)

    きょうは〆後の、月はじめだ。どっと注文が殺到して、あいにく男たちはみな、出払っている。普段はいるはずの五平やら竹田ですら、配達へとかりだされていた。ひとり居るには居るが、齢六十を過ぎた老人だ。しかも激しくふり出した雨のため、裏の倉庫内での作業に精を出している。余ほどの大声でも、この雨音では聞こえるはずもない。「どうしたの?」。二階から小夜子が声をかける。手すりから体半分を乗り出して、階下の様子をのぞきこむ。「おう!あんたが、女主人かい?」。待ってましたとばかりに、男が怒鳴る。「あんたんとこは、困ってる人間に対して、まるで情というものがないんだねえ!世間さまの評判どおりだぜ」半ば禿げ上がった頭が、ぴかりと光る。凄みのある目つきで、階上の小夜子を睨みつけた。いまにもその二階へ上がらんかとするような動きに、大女...水たまりの中の青空~第二部~新(三百四十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ 新(三百四十二)

    「百貨店にたてついた男」として、富士商会の名とともに御手洗武蔵の名が全国に知れわたった。賞賛の声もありはしたが、売名行為と受け取られた面が多々あった。出かけた先々でのコソコソ話が、武蔵の勘にさわることも多かった。「俺の目を見て、言えねえのか!」と、怒鳴りつけたこともある。「余所者に冷たい所だな!」と、吐き捨てたこともある。しかし思いもかけぬ吉事となったこともある。「成り上がり者が!」と、なかば公然と軽蔑の眼差しを向けていた老舗の店主たちが、こぞって富士商会へと足をはこびはじめた。取り引き云々ではなく、富士商会の七人の女侍たちを観るためではあったが。といって手ぶらで帰るわけにもいかず、なにがしかの商品を手にして帰っていった。そしてその内の大半は以後も取り引きがつづいた。富士商会の七人の女侍たち、という風評は...水たまりの中の青空~第二部~新(三百四十二)

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (三)

    ((ムサシなり!三)大きく頷きながら、げんたが大男の目をじっとにらみつけた。離れていたいた子どもたちが近寄ってきて、口々に「そんなのできっこねえ」「すきがねえし、くわだってねえ」「おやにみつかったらとりあげられてしまう」と、大男に叫んだ。にやりと笑みを浮かべながら大男の言葉が続いた。「お前たちも手伝ってやれ。田畑を耕せ。山の中でもどこでもいい。お天道さまが見えるところなら、何とかなるもんだ。道具だと?手があるだろうが」俺の手を見ろとばかりに突き出された大男の節くれだった手に、げんたがそっと触った。「かてえ!すっげえかてえぞ。いしみたいだぞ」憎悪に近い光を帯びていた目が、みるみる憧れの色に変わった。「おめえら、みんなではたをたがやすぞ。どうぐはおらがつくる。で、それからどうするんだ。からだがでかくなったらつ...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(三)

  • 青春群像 ごめんね…… (問屋街の 一 )

    戦国の武将織田信長の居城だった岐阜城のある金華山をあおぎみる岐阜市は、戦後に繊維の街として発展をとげた。国鉄岐阜(現JR岐阜)駅前で、北満州からの引きあげ者たちが中心となって古着や軍服などの衣料を集めて売りはじめた。当時ハルピン街と呼ばれたこの一帯が、岐阜問屋街のはじまりとなった。日本全国の洋品店からの仕入れ客が引きも切らない、日本でも有数の一大繊維街だ。駅前に南北を走る大通りがあり、問屋街が東と西にわかれている。東側に位置する問屋街は、通称(東)問屋町と称されている。いまでこそ多くのビルが建ちならぶけれども、昭和五十年当時はいくつものまるでハチの巣状態に小さな店があった。二坪ほどに板塀で仕きられた場所で、家内工業的な縫製業者が商売を営んでいた。全体数でいうと、正確な数字は分からないものの数百軒もの店がひ...青春群像ごめんね……(問屋街の一)

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (九)グリーンのロングベストホールは、若者たちで一杯だった。対になって、踊りに興じている。しかしその誰もが、視線を合わせようとはしていない。互いの斜め先に視線を置いて、踊りに興じている。これも又、少年の思い描くものではなかった。少年の観たアメリカ映画では、じっと互いの目を見詰め合っている。時に微笑みを貰い、そして微笑みを返す。しかしこの場では、苦痛に歪んだ表情を見せ合っている。羨望、軽蔑、そして憎悪が睨みを利かせている。それも又、愛の起源ではあろう。バンドは、一段高いステージの上にいる。激しく体をくねらせながらプレイしている。そのステージの下段に、何のためのものか判然としない鏡が貼られている。その中で若者たちが、やはり体をくねらせている。その鏡から視線を外して壁に移る。そこには、種々のグループサウンズのポ...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 (川と少女)

    川は生きている単なる流れではなく、生命を持ったものの集合体だ幾百万、幾千万、幾千億、いやそれ以上……人間のもつ数では現しきれないほどの集合体で川は流れている川は生きているひとつひとつのうねりの中に人間の知らぬ異次元の喜怒哀楽を充満させて川は流れ続け生きている=背景と解説=川=愛と考えてもらえればありがたいです。この場合の愛とは、恋愛感情の愛ではなく、普遍的にとらえた愛ということですね。これまでとは創作時期がちがっています。言うなれば、黎明期前ということでしょうか。ポエム黎明編(川と少女)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ 新(三百四十一)

    「もちろんのことです。あたしの独断で動けるものじゃありません。第一、この話は山勘さんから出たことじゃありませんか。お忘れですか、あの夜のこと。あたしが愚痴ってしまったことを。ほら、あの百貨店の部長に、接待の場、そう、ここですよ。どんな悪態をつかれたか、女将だって知ってますから。で、ですね。副組合長には、田口商事さんと内海商店さんにお願しようかと考えているんです。もちろん、山勘さんのご承諾を得られたらのはなしですが。わたし、わたしですか?わたしは一兵卒で結構ですよ。とにかく、あの部長に一泡ふかせたいだけですから」「いいのかい、それで?」半信半疑の表情を見せつつも、武蔵を睨みつける眼光はするどかった。“若造には、荷が重かろうさ”。そんな思いが、ありありと顔にあらわれていた。しかしながらこの計画も、結局は頓挫し...水たまりの中の青空~第二部~新(三百四十一)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ 新(三百四十)

    しばらくして、百貨店に対抗するための組合作りに奔走しはじめた武蔵だったが、その反応はにぶいものだった。「その趣旨や良し」と賛同はするのだが、設立の段になると二の足をふみはじめた。富士商会の独壇場になるのではないか、との危惧が消えさらないでいた。富士商会が日の本商会との商い戦に勝利して以来、だれも物いえぬ状態になってしまっていた。「富士商会のやつ、調子にのりやがって」「みんな、殿さまの家来になっちまったよ」「百貨店にも腹がたつが、富士商会の意のままにってのも業腹なことだし」と、愚痴のこぼし合いがつづいた。同業者たちの組合の件でお会いしたい、と料亭に呼び出された。根回しだろうとは思ったものの、正面切って反発するわけにもいかない。なにせ取引先としての富士商会は重宝だ。第一に取りあつかう品揃えが格段に多い。また在...水たまりの中の青空~第二部~新(三百四十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ 新(三百三十九)

    武蔵の訓事後、いっせいに営業が飛びだした。事務職たちも、すぐに電話攻勢にでた。営業それぞれが今日にはまわりきれない取引先に対して、おまけ作戦をにおわせた。「こちら、富士商会でございます。じつは、耳よりの情報がございまして。順次営業がおうかがいしまして、ご説明をさせていただいております。きょうにもご入用でない商品でございましたら、ご発注の方はお待ちいただけますでしょうか。ご不信はごもっともでございますが、お客さまにたいする感謝の気持ちをこめたことでございます」五平と竹田のふたりは別室に入り、仕入先にたいする値引き交渉の段取りにはいった。血をながす覚悟をしたとはいえ、傷はちいさいに越したことはない。即金支払いとの条件で、二ヶ月間のみの限定値引きを持ちかけることにした。資金繰りを危ぶむ五平に対し「銀行から引き出...水たまりの中の青空~第二部~新(三百三十九)

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり!(二)

    (ムサシなり!二)かすれ声が続けて出た。大男を見上げる目には強い光が宿っていて、ぷっくりと膨らんだ鼻や一文字に結ばれた口から意志の強さが感じられた。「はまべのれんちゅうにおいかけられるおはなをまもってやりたい」絞り出された声に大男がゆっくりと頷いた。街道筋の田畑の右手には、山々が連なっている。たなびく雲の下、視線を下げると瓦葺き屋根の庄屋の家が見え、少し離れた場所に藁葺き屋根の小さな家が点在している。「偉そうに大きな構えをしているのが庄屋の家か。どこも同じだな」かすれ声が続けて出た。大男を見上げる目には強い光が宿っていて、ぷっくりと膨らんだ鼻や一文字に結ばれた口から意志の強さが感じられた。「はまべのれんちゅうにおいかけられるおはなをまもってやりたい」絞り出された声に大男がゆっくりと頷いた。街道筋の田畑の右...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(二)

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (8 いま

    いま、当時の自分の思いが薄れています。色々の事柄から人間不信におちいっていましたが、誤解が誤解を呼んでいたこともありました。「なぜわかってくれないんだ」と、甘えていたような気がします。「俺のせいじゃない」。「社会が悪い」と。逃げていては解決しない、と思います。思いますが、現実はそんな簡単に片づけられない事柄ばかりです。ただひとついえることは、やはり『愛』につきると思います。〔自己愛〕も大事ですが、もっと大きな『愛』を、昨今は、どこかに置き忘れているような気がします。♪さがしものはなんですか?みつけにくいものですか?♪いえ、きっと身近な所にあるような気がするのですが。青春群像『断絶』ということ。(8いま

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (八)黒服すこしの間、己の夢想とのあまりの落差に立ちすくんでしまった。戸惑いの中でも、容赦なく現実がおそいくる。「お客さん。ここでチケットをお求めください。一杯の飲料代も含まれています。追加の場合は、黒服にその旨お伝えください」「えぇっと、それじゃ…。コーラをひとつ……」「ご注文はお席に着かれてからお願いします」常連客をよそおおうとした少年。顔を真っ赤にして、チケットを手にして、キョロキョロと見まわす。少年の心が告げる。“カウンターだ、カウンターの隅っこに行け!”。しかし、少年の足は動かない。黒服が少年の前に現れた。「お客さん、こちらにどうぞ。お連れさまはいらっしゃいますか?」「い、いえ。こんやは一人です。この間は……」以前に友人に連れられて来たのだと言いかけて、ことばが詰まってしまった。初見の客だと見抜...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 =ふたりのために=

    ふたりの海にお舟を浮かべかがやく波間を見つめましょうやさしい月の光がふたりのために照らしてるあまい恋のささやきが風に乗って流れてくるふたりの海にお舟を浮かべとおい島を見つめましょう沖をはしる大きなあふねがふたりのために波を踊らすあまい恋のささやきが風に乗って流れてくるふたりの海におふねを浮かべ恋するこころを歌いましょうキラキラ星のかがやきがふたりのために増しているあまい恋のささやきが風に乗って流れてくる=背景と解説=自分で言うのもなんですが。わたし、ラブレターを書くのが得意でした。Windows95が、華々しく世の中に登場した翌年です。1996年ですね、春頃だったかな?みらくるワールド上記のホームページを開設しました。(現在も開いていますけれど)。そこで、ラブレター論を載せたことがあるんです。ラブレターは...ポエム黎明編=ふたりのために=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ 新(三百三十八)

    翌日からの富士商会の攻撃はすばやかった。早朝に倉庫横にある食堂に全員をあつめて、湯気の立つそばを食べながらの訓示となった。「そうだな。取りあえずは、向こう二ヶ月間としろ。それで、様子見だ。相手のうごきを見て、あとは考える。いいか、どんなささいなことでもいいから、ちくいち報告しろ。疑問符のつく情報でもかまわん。その真偽は、俺がしらべるから。営業たちは、とにかく情報を集めろ。しばらくは、新規開拓はなしだ。どんなに大口でもだめだ。うわさを聞きつけて声をかけてくるはずだ。そのときは『現取引先さまだけの特典ですので』と、丁重にことわれ」一人ひとりの目をとらえて、ゆっくりとぐるりと見回す。訓示のさいに、武蔵がかならずおこなう所作だ。見ているわけではない、しかし武蔵が個々人に話しかけている、そう思わせるための所作だった...水たまりの中の青空~第二部~新(三百三十八)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ 新(三百三十七)

    「店に着いてからが、面白かった。もう、腰を抜かさんばかりだったじゃないか」「ところがさ、その日は持ち合わせがなくってさ」「そうそう。明日の朝一番に来るから、これとこれとあれを残しておけって、うるさくてさ」「他の客が手を出したら、怒ること怒ること」「明日も入ってくるから心配ないって、何度言っても納得しなくてさ。社長が『商売の邪魔だ!金のない奴なんか客じゃねえ!』って切った啖呵に『よおし!それじゃ、明日八時に来るからな。その時物がなかったら、承知しねえぞ!』って」「そうしたら、社長が切り返して。『へっ。もし無かったら、この俺の命でもなんでもやるよ!』」「おおさ。こっちはもう、ハラハラだよ」互いの肩をつつきあいながら、三人の思い出話はつきない。「翌日が大変だったじゃないか。まだ店を開けてないのに、大声を出してさ...水たまりの中の青空~第二部~新(三百三十七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ 新(三百三十六)

    その夜、五平と竹田・服部・山田の面々が、そろって社長室に集まった。直立不動の姿勢をとる三人組に、「そんなに固くなるな。ほら、すわれ」と、苦笑いの武蔵だ。「実はな、日の本商会ってのは、まえに夜逃げした店の娘が起ちあげた店だった。ほら、四人姉妹と末っ子の男を抱えた親父が、泣きついてきたじゃないか。覚えてないか?」みなが首をかしげる中、竹田がすっとんきょうな声を上げた。「あっ!あの、頭の禿げあがった、小太りの……。たしか、瀬田商店とか……」「瀬田商店かあ……。そういえば、子供をひき連れて。そうそう、土下座したんですよね」と、山田が思い出す。そしてみなが、「うん、うん」と頷きあう。「それだよ、それだ。その時の、娘さ。長女が、社長だ」「でも、社長。まだ二年ぐらい前じゃないですか?よくそれで、、、」「資金か?そんなも...水たまりの中の青空~第二部~新(三百三十六)

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり!(一)

    (ムサシなり!一)中山道にて。「我が名は、ムサシなり!」「わがなはむさしなり」「日本一の、武芸者なり!」「ひのもといちのぶげいしゃなり」野太い声に続いて甲高い声が響き渡る。何ごとかと足を止める旅人の前に、身の丈六尺はあろうかという大男があらわれた。赤茶色の髪の毛を乱雑に細めの荒縄でしばり、太い眉の端は上向いている。大きな目の瞳は青く輝き、鷲鼻と相まって、ひと目で南蛮人とわかる顔立ちをしている。いかり肩を揺らしながら歩く様は、あきらかに街道を行きかう者やら田畑で農作業にいそしむ農民たちをいかくしていた。その後ろに連れ立つ子どもたちもまた、同じように肩をいからせて歩いている。子どもたちに離れるようにと大仰な手振りを示す大人たちに対して、子どもたちは素知らぬ顔で腕を天に突き上げたりぐるぐると回したりとはしゃぎ続...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(一)

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (7 〔無音〕

    〔無音〕という状態の恐ろしさに気づかなかった。しかしいま、〔音〕という論文で、音のすばらしさを再認識させられている。なにげなく日常生活における〔音〕を、ごく自然のこととして受け入れている。いま、自然のおとに興味をよせ、海・川・山での音をみみをすませて聞いている。青春群像『断絶』ということ。(7〔無音〕

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (七)シャウト、シャウト!“バババ、ドンドドドドン!”“チキチョン、チキチキチキチョン、チョン!”“ブンバンバンブンブンブンバン!”“ティーヴイィィ、ディーー、チューン、ティティーー!”“あの娘が、あのこが、云ったのさー!”とびら扉を開けたとたんに、少年の耳に飛び込んできた。少年には、騒音としか聞こえない。ロック音楽と称されて、同年代の少年たちが狂喜している。しかし少年には、どうしても異質な音楽だった。シャウト、シャウト!と歌うが、大声で叫ぶことになんの意味があるというのか。バズトーンと称される重低音が、お腹にズンズンと響く、そしてひびく。ピックで弾くはずのギターで、“チューン、ティティーー!”という音を出すのが理解できない。「大人のジョーシキは俺たちのヒジョーシキ!俺たちのノーマルは大人のアブノーマル!...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 =好き、好き、好き=

    好き、好き、好き、、、、、なんどでも言うよ好き、好き、好き、、、、、星あかり月あかりそれを失ったとしてもすき、すき、すき、、、、、君のこころから恋の炎がきえたとしても好き、好き、好き、、、、、=背景と解説=まったくもって、いま読み返してみると、汗顔のいたりですわ。当時の思いをおもい巡らしてみると、なにをアホなことを考えているのやら。当時、ナルシストだと指摘されたことに腹を立てていましたがこれを読むとねえ。まさに、その通りですわ。ポエム黎明編=好き、好き、好き=

  • ごめんなさい! (ぺこり)

    すみませえん!やっちゃいましたあ、またまた。[水たまりの中の青空]抜かしちゃいました、大事な大事な節を。この部分がないと、ある事件の背景があるいみ見えないんですよね。これからしばらく、時間を巻き戻させてもらいます。4月11日に、[3月22日(336)~4月6日(343)]の前に、(新・336)としてタイムスリップします。ややこしくなってすみません。ごめんなさい!(ぺこり)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百四十三)

    「まあね。武蔵も、浮気ぐせがなくなれば、ほんとに良い夫なんだけど。でも、武蔵が浮気をやめたら、武蔵じゃなくなる気もするしね。面白いのよ、武蔵は。浮気したのかどうか、すぐに分かっちゃうの。笑っちゃうわ、ほんとに。自分からね、あたしは何も言わないのに、白状してるようなものなの。武蔵には内緒よ。くくく、武蔵ったら、かならず言うの。『こんどの休みに、買い物に行かないか?欲しいものはないか?取り引きがな、うまく行ったんだ』なーんて。ううーん、間違いないわ。だからね、こう考えることにしたの。武蔵の浮気は自分へのごほうびなんだ、って。ひとつ取り引きに成功したら、誰も褒めてくれないから、自分にごほうびを上げてるんだって。でも自分だけだと気がとがめるから、あたしにもごほうびをくれるんだって。おかしいでしょ?ほんとに」小夜子...水たまりの中の青空~第二部~(三百四十三)

  • お墓のことを考えてみました。

    (毎日が日曜日)2022-04-18お墓のことを考えてみました。3月31日で退職をして、実質4月3日から無職状態です。まさに「毎日が日曜日」ですわ。2022年4月18日に、こんなことをお話しています。-------(毎日が日曜日)2022-04-18若い頃は寿命なんて考えたこともなかったんです。いつまでも未来があると考えていた気がします。(中略)昨日までは寿命というものに恐怖感はなかったんです。それが今日、日曜日の今朝目覚めたとき、「仕事を辞めて、毎日が日曜日になったら……」と、そんな思いが頭をかすめたとき、急に怖くなっちゃって。(中略)襲いかかる現実に、実のところはおののいている自分を知りました。(後略)-------良かったら、1年前にタイムスリップしちゃってくださいな。でね、タイトルのように、お墓に...お墓のことを考えてみました。

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百四十二)

    「お客って、どうせ女でしょ?あたしを呼ばずに接待するということは。で、どういう素性の女なの?」「温泉組合の理事さんです。とっくりやらさかずきやら陶器のとりひきがありまして、その仲立ちのお礼をかねての、」「ふん。その理事が怪しいのよね。旅館でしょ、女将だわね。で、どこの温泉なの?」「東北だと聞いておりますが」「東北ですって?そんな所にまで女を作ったの?あきれた」「いえ、ほんとうに取り引きがありまして。現にこのあいだも、」「いいのねいいのよ。武蔵が遊びだけで行くわけないもの。出張のついでの遊びなのか、遊ばんがための出張なのか、一体どっちでしょうねえ」竹田のことばをさえぎっては、小夜子がたたみかけてくる。小夜子の勘――女の勘はするどい。もう竹田のごまかしはまったく効かない。「小夜子奥さま、それはちょっと。社長は...水たまりの中の青空~第二部~(三百四十二)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百四十一)

    「太平洋戦争はね、体力勝負で負けよ」「いえ、そんなことは。天子さまのおこころづかいで負けることにされましたが、さいごには大和魂で勝ったはずです。敗戦は、これいじょう民にぎせいをしいたくないからとの、天子さまのおぼしめしですから」「竹田は、沖縄戦を知らないの?勝負ありだったのに、大和魂なんて持ち出しちゃってさ。特攻機とか回天なんて、とんでもない兵器を開発して。だからアメリカも、とんでもないものを使ってくるのよ。原子爆弾やら水素爆弾やら。ていよく実験場にされちゃったのよ。男のくせにうじうじしちゃって。終戦の決断も、天子さまのご英断でしょ。それにね、アメリカ本土は無傷だったんでしょ?どうせ特攻なんて無謀なことをするのなら、アメリカ本土をやっつけなきゃ。そうすれば、こっちの言い分が通ったはずよ。ほんと、日本の男た...水たまりの中の青空~第二部~(三百四十一)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (終わり)懲罰

    その吟味の最中に、何を思ったのか「俺が、ねずみ小僧だ!」と、自白してしまった。大盗人だと聞かされた松平宮内家では、地団駄をふんでくやしがったというが、あとの祭りであった。そのまま牢屋敷お預けとなり、翌六月十六日に入牢となった。当時の調書に、こう記されている。十年以前未年(ひつじどし=文政六年)以来、所々、武家屋敷二十八ヶ所、度数三十三度、塀を乗り越え、又は、通用門口より紛れ入り、長局等へ忍び入り、錠前をこじあけ、或いは土蔵の戸を鋸にて挽き切り、……(中略)……、引き回しの上獄門。更に再吟味の結果、その度数は重なり、次のように記されている。=罪状=武家屋敷百三十三ヶ所列記盗みの総金額三千四百十三両ほど。そして、天保三年(1832年)八月十九日に、江戸中引き回しの上、鈴ヶ森で磔に処せられた。世間では、何と二万...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(終わり)懲罰

  • 芥川龍之介作[ 妙な話 ]読後観

    4/2(日)早朝04:00頃、空腹感で目が覚めました。4/1(土)の午後のオイル交換時に芥川龍之介作[妙な話]を読んだのですが、その読後観をお話しすることに。-----日本の推理小説研究家である山前譲編[文豪たちの妙な話]に収められています。他には、夏目漱石・森鴎外の両巨頭と、太宰治・谷崎潤一郎、そして正宗白鳥・横光利一、解説などでよく名前を見る佐藤春夫・久米正雄、最後になりますが、失礼ながら存じ上げない梶井基次郎の十人の作品がありますよ。興味のある方は――河出書房新社出版の文庫本です――是非にも。-----[わたし]の旧友の妹の話です。その妹の旦那が軍人で、結婚後半年で欧州戦役中の地中海方面に派遣された「A――」の乗組将校という設定です。週に一通届いていた手紙がパッタリと届かなくなり、次第に追い詰められ...芥川龍之介作[妙な話]読後観

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (6 脱却

    断絶感からの脱却の方法は、ただひとつ。人間とのつながりを作ることだ。しかし、いちど断絶感にとらわれた者が、ふたたび絆をとりもどすのは容易なことではない。画家のゴーリキーは、アルメリヤ民族としての宿命と、神に呪われての出生という個人的宿命とにさいまれていたという。そのけっか断絶感にとら囚われ、その森をさまよった。しかしその途中オアシスで休息をとり、自然のなかに安住したという。妻のあたたかい愛情をえられて。が、残念なことに自殺という悲しい結末になってしまった……青春群像『断絶』ということ。(6脱却

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (六)ジャズあるいはズージャそしてそのジャズが、少年の手足を動かしはじめる。演奏に合わせて、ちいさな動きからしだいに大きく体が波打ちはじめる。その様はまさしく、猿回しの太鼓に踊らされる猿のようにぎこちない。それでも、目を閉じて聞き入る少年は、大人の少年がそこにいると思っている。正直、少年はジャズを知らない。聞く機会もなかった。年上の、大人たちの会話の中で飛び交うズージャということば。カタカナ文字の名前。少年を取り囲むのは、大人の歌う歌謡曲だ。しかしジャズが黒人の心の歌であるかぎり、おなじく虐げられた者にひびくなにかがある筈と、少年の期待は大きかった。隣の女が少年に声をかける。少年は、さもジャズへの陶酔の妨げだと言わぬばかりに不機嫌にこたえる。媚びるような目線で、少年に話しかける女。少年がタバコを口にすると...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 =出せなかったラヴレター=

    好きですびんせんの中央にちいさくひと文字つくえの上で埃をかぶってるいくどか封をしてそして開いてあなたの知らぬところでしゅんじゅんしていたぼくそしてあすには嫁ぐあなたきょうという今また封をする出すことのないラブレター=背景と解説=少女趣味に思われるかもしれませんが、よく言われる「恋にこいしてる」状態かな、と思うことがありました。醒めてる、という思いがぬぐえないでいました。どうもね、悲劇のしゅじんこうになりたがる自分がいるんですよね。というか、ひげきの主人公になってしまう自分が見えてしまう?いや、そこに至るのではないのかと不安になってしまう。ナルシスト……そういうことなのでしょうか。とにかく、自分が好きですきでたまらないのです。いや、好きでいなければ生きていけなかった?…………ポエム黎明編=出せなかったラヴレター=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百四十)

    小夜子にしても、武蔵のいない自宅にもどったところで、千勢をあいてに料理談義ぐらいがせきのやまなのだ。正直のところ、もう料理については興味が失せている。いや、おさんどんは千勢に、と決めてしまった。どころか家事全般をまかせる――というより、投げ出してしまった。なにをどうあがこうと、千勢には勝てぬと思いしらされた。「勝ち負けじゃないぞ、気持ちだ、きもちだよ」。武蔵がいう。慰められた。そう思ってしまう小夜子で、ならばいっそそれには手を出さぬほうが、小夜子の精神状態にはいい。なまじ張り合おうとするから、また千勢を追い出したくなるのだ。武蔵にほめられるのは己だけでいい、いや、そうでなければならない、気が済まないのだ。「もう。竹田ったら、そればっかり。いいのよ、きょうは。そうだわ、竹田。お食事していきましょう。あたしの...水たまりの中の青空~第二部~(三百四十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十九)

    「いいのよ、たまには。武蔵は出張でいないし、千勢には遅くなるからっていってあるから」「ですが、小夜子奥さま。もう陽がかげっています。ご自宅に着くころには、それこそ……」あわてて、小夜子を制止しようと必死になる竹田だが、そんなことをきく小夜子ではない。鼻であしらって、おわりだ。「いいのよ、竹田は帰っても」。それで終わりだ。むろん、そんなことで竹田が帰ってしまうことはないことは、小夜子にはよく分かっている。竹田にしても、社命とうことだけで従っているわけではない。小夜子には恩義がある。なんといっても、姉である勝子の恩人なのだ。「なんのために生まれたの?家族を苦しめるだけだなんて……」。「ただただ病気をせおってだけの、こんなつまらない人生なのね」。厭世主義にでもとらわれてしまったような愚痴を、毎日のようにもらして...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十八)

    「タケゾウ!」突然にすっとんきょうな声を上げて、小夜子が立ち止まった。「どうした?なにか、欲しいものを見つけたか?約束だから、なんでも買ってやるぞ。小夜子のおかげで商売も順調なことだし」「ここ、ここ、ここに入ってみたい。歌声喫茶、カチューシャですって。カチューシャって、ロシアよ。アーシアの国よ」目をかがやかせて、武蔵の手を引っぱる。昭和30年に、歌声喫茶「カチューシャ」と「灯」の二店が誕生した。店内のお客全員でうたうということが、連帯感を生まれさせてくれる。集団集職で上京してきた若ものたちにとって、さびしさを紛らわせる心のよりどころ的な存在になっていった。「ああ、楽しかった。みんなで歌うって、素敵ね。それに大きく口をあけるのも、こころが開放されるわ。竹田も、そう思わない?」うっすらと汗をかいている小夜子、...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十八)

  • 半端ない読後感:トルストイ作「アンナ・カレーニナ」その参

    はじめて読んだ折には好きになれなかったリョーヴィンが、いや反感すら抱いてたのに、いまでは涙を流さんばかりに読んでいます。というのもですね、彼のこころからの吐露を知るたびに、キチイに対する思いの丈を知るたびに、どんどんわたしの中に入りこんできます。こんなにも純真な青年だったのか、こんなにも純朴な青年だったのか、こんなにもわたしと似ている青年だったのか――ちょっと脱線気味ですかね。いやもうですね、アンナの章を読むのが辛いんです。なのに、ああそれなのに、リョーヴィンとキチイとのままごと遊びのような恋に触れていると、しあわせ~~なんです。ふわふわとした雲の上をごろごろと寝転がるような、そんな温かい気持ちになるんですわ。に対して、アンナとブロンスキー。許せないです、アンナの家出が。お読みになられていない方のために、...半端ない読後感:トルストイ作「アンナ・カレーニナ」その参

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (十二)捕縛

    松平周防守邸では、一年のうちの三月・五月とたてつづけに二度おし入った。それまでの禁を破ったのだ。どうにもそれまでの次郎吉とはおもえない、まるで自暴自棄な所業がどこからきたのか、次郎吉もまるでわかっていない。ちまちました小商いに飽きたともいえるし、己をいつわっていることへのうっくつ感もあるだろうし。これまでの己とはちがうということを示したかった――だれに?世間?おなじ長屋に住むおせいちゃん?――のだが、けっきょくのところ、次郎吉にもわからないでいた。松平周防守邸では、長局の障子紙に、わざとのぞき見の穴を開けてまわった。ご乱行ぶりを知っているぞとばかりに、だ。また、他の大名屋敷ではそれぞれの名器らしき陶器を、片っぱしから壊してまわった。盗み出しても、その売買によって足がつくことを知っているからだった。しかし食...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(十二)捕縛

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (5 人間蒸発

    こんにち、人間蒸発が頻発している。もしかすると、この人間蒸発も、人間のきずなを取りもどすための一方法かもしれない。ある人が言った。「理由のない、気まぐれの行動があってもいいじゃないですか」そんなことを言えるのは、断絶感にとらわれていない人間のことばにすぎない!孤独という地獄ではなく、断絶という地獄の中でもがいているのは、この俺だ!俺のすべての言動は、この断絶感からにげだすために他ならない。人間とのつながりを求めるものだ。こうして、すべての言動を解析しようとするのは、理由づけするのも、断絶感からの逃避のためだ。しかし、あくまでとうひであり、解決ではない。いつまでもつきまとう。青春群像『断絶』ということ。(5人間蒸発

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (五)コークハイドギマギしながらも、「失礼します」と女に声を掛けて座る少年だ。しかし女からは、何の反応もない。壁に寄りかかりながら、目を閉じている。眠っているわけではないようだ。かすかに指が動いている。「何にします?」「コークハイ、ください」「はいよ!コークハイ、ね」突然、女の目が開いた。そして、軽蔑のまなざしを少年に向けた。“コークハイですって!ふん、お子ちゃまね”少年の耳に、女の声が聞こえたような気がした。しかし少年は無視する。差し出されたコークハイを半分ほど飲み込むと、ジンと快い刺激が喉を襲う。ゆっくりとグラスをカウンターに置くと、耳に入り込んでくるバンド演奏に聞き入る。そしてそのジャズ演奏に、身を委ねる。少年の体に染み入ってくる生のジャズに、次第に陶酔していく。[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 =はつこい=

    淋しいよるが訪れて心にきりがかかる時いつも思うあのひとを初めてであったなつの午後あの日から心にすみついた人何も云えずにいたけれどあなたを想うだけで倖せだったことばを交わすこともできずにただ見つめあうだけのいちねんでしたであったときとおなじなつの日にあの人から封ひとつ“好きよ”ひと言ありました夏がすぎこのはが散るさびしい秋の黄昏にとおい町に行ったと風のたよりに聞きましたほんの少しのゆうきが持てずに一歩をふみ出せなかったぼく年上のあなた……大人のあなた……子どものぼくほろにがい初恋でした=背景と解説=文芸部に所属していた定時制高校時代のことです。一年生のわたし、そして四年生の先輩。(定時制高校=夜間の勉学で4年間通います)平安美人を思わせる、清楚な女性でした。でも、とても芯の強い女性でした。わたしが書き上げた...ポエム黎明編=はつこい=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十七)

    「冗談いうな!疲れなんかあるもんか!ひと晩寝れば、十分に回復してるさ。それに、昨夜はたっぷりと、小夜子から力をもらったことだし。小夜子を抱くと、力がみなぎってくるんだ」耳元でささやく武蔵に、顔を真っ赤にしてうつむきながら「ばか!そんなこと。ひとに聞かれたら、どうするの」と反駁した。「聞かれても構わんさ。大声で言ってやろうか?恥ずかしがってどうする。新しい女は気にせんのじゃないか、そんなこと」ぐっと小夜子を引きよせて、道路の真ん中に立ちどまった。けげそうに、ふたりをかわして行き交う人人人。「武蔵、どうしたの。みんな、びっくりしてるわよ」「小夜子をだれかに取られんように、しっかりと捕まえているのさ。俺の大事なだいじな、小夜子をな」「もう、武蔵ったら」嬉し恥ずかしの小夜子。顔を赤らめつつも、くちを尖らせる。「ほ...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十六)

    久しぶりの武蔵とのお出かけにもかかわらず、きょうの小夜子は不きげんだった。どうにも気ずつなさが取れないでいた。いつもならば武蔵の腕にしがみつく小夜子が、ひとりでさっさと前をいく。三歩下がって云々など、まるで気にもとめない小夜子だ。銀座をかっぽする多くの女性たちも、みな一様に視線をそそいだものだ。ひそひそと陰口をたたかれようとも、小夜子にとっては賛辞以外のなにものでもない。「小夜子。どうしたんだ、小夜子。きょう今日はえらく不きげんじゃないか。会社で、なにか、あったのか?専務にいや味でも言われたか?それとも、お腹でもいたいのか?」からかい半分に声をかけた武蔵に、みけんにしわを寄せて小夜子が答えた。「武蔵がゆっくり過ぎるのよ!男でしょ、早足で歩きなさいよ!」「おう、そいつは悪かった」。こいつはやぶ蛇だったと小夜...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十五)

    「それで期限は、とりあえず社長の終了宣言がでるまでだ。といっても、二三ヶ月のことだろうさ。相手がばんざいするよ、売上ゼロになっちまうんだから。それに、ほかもいろいろと手を打つことだし」顔の前で手をふりながら、五平がいう。自信たっぷりなその口ぶりに、安堵感がただよった。しかしひとり竹田だけが納得せずに、なおも聞いた。「どんな手ですか?」。場を去りかけた社員たちが、ふたたび視線を五平にむけた。「なんだ、竹田。気になることでもあるのか?」質問に答えることなく、語気をすこし強めた。「はい。たぶんみんなもそうだと思いますが、そんなむちゃな攻勢をかけて、富士商会自体は大丈夫なのでしょうか?専務、覚えてみえますよね。あの、給料の遅配にはじまって、その、一部の社員がやめていった……、あのときのようにもまた、なるんじゃない...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十五)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (十一)乱心!

    しかし実の所、次郎吉も、町家に一度だけ入り込んだことがある。七十両を盗んだまでは良かったが、その後「店を閉めてしまった」と聞き、わざわざ再度忍び込んで、金子を返したのである。ある意味、お人好しの盗人ではある。もっとも、町家を敬遠するのには、大きな理由があった。大店では生命よりもお金を大事にする習慣から戸締まりも厳重で、入ることはおろか出ることすら難しいゆえでもあった。次郎吉の普段の生活は、おとなしいものであった。好きな博打にしても、決して大勝負はしなかった。そして、殆ど負けている。たまに勝てた時に、吉原で遊ぶくらいのものだ。それにしても大勝負や、豪遊することをためらうのは、何故か?表稼業として、細々と小間物屋を営んでいる次郎吉である。ふんだんに一両小判を使うわけにはいかない。急に金回りが良くなったと思われ...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(十一)乱心!

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (4 断絶感

    断絶感の、想像を絶するぼくへの圧迫は、他人にうったえることのできないものだ。理解してもらえるはずがない。「他人の顔」という小説において、安倍公房氏は実験的に、社会との断絶を余儀なくされた男に、社会復帰いや人間のつながりを持たせようと、ある方法を考えだした。顔をやけどによって失った男が、ふたたび他人の顔をつかって(整形手術)、社会復帰をはかろうとするものだ。そして、そのもっとも効果のある方法として、夫婦間のあいじょうの再燃をきたいした。大多数の人間が別人として認識したが、ゆいいつ誤算がしょうじじた。男女間のあいじょうという、この世で最高の人間のきずなを見わすれていた、ということだ。[あなたでしょ。はじめから分かってたわ]そんなことばを、あびせられたのだ。ゆかい、愉快!青春群像『断絶』ということ。(4断絶感

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (四)陶酔する入場料を支払ってそれからはじめて、幻想の世界へと入ることができる。そして二重合わせのまくの間を抜けて、ミラーボールから発せられる色とりどりの光線の洗礼を受ける。ここでたじろぐことなく、少年は歩を進める。黒服の男は幕の外からは中に入らない。ここには二度目となる少年は、迷うことなくカウンターへと向かう。「いらっしゃい!」バーテンの声が、少年の耳に心地良い。常連客を迎えるが如きの声掛けが嬉しい少年だ。といって、初めての時にも同じように声掛けがあったけれども。「どうも」カウンターの隅に進む。いかにも常連客が座る席の筈だと、少年は考えている。しかし今夜は先客がいる。ブランデーらしき、大きなグラスを傾けている女がいる。ひとつふたつ席を空けてと考えた少年に、バーテンが言う。「すみませんね、お客さん。女性の...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 =壊れた玩具=

    うみの夕陽かわに映える夕陽やまをあかく焦がす夕陽-おれの好きなものあめに打たれる紫陽花七色に輝くにじ雲をあなたに運ぶかぜ-おれの好きなもの昇りくるたいようを背の少女朝のうみべの少女流れ着いたかいがらを見つめる少女-おれの大好きなものはたちの女の子くるくると動くひとみの女の子鼻に小じわを作ってイーする女の子-おれの嫌いなものkakoって呼んでとむちゃを言うカコ声に出さないで呼んでと口をとがらすカコ昨日も今日も会っているのに明日は?となみだぐむカコ-おれの大嫌いなもの=背景と解説=RollingAgeという言葉をご存じでしょうか。今じゃ、死語でしょうか。中村あゆみさんのシングルCDではなく、1960~70年代に流行った言葉のはずなんですが。「転がる(揺れ動く)年代」ということに、直訳だとなりますよね。そうなん...ポエム黎明編=壊れた玩具=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十四)

    「いや。竹田の心配、あんがい当たってるかもよ。じつは、おれも少し気になってることがあるんだ。実害は出ていないけれども。日の本商会という名前さ、きいた気がするんだ。木村商店でなんだけど、あそこの大将は、うちの社長に恩義があるから教えてくれたんだ。けど、価格交渉はうけそうな気がする。奥さんと、こそこそ話してるんだ。で、おれがちかづくと話をやめちゃうんだ」と、山田が声をあげた。「気のまわしすぎじゃないのか?おれの地区と山田の地区とでは、相当にはなれているぞ。ほかの奴、どうなんだ?なんか変なことに、気づかないか?」山田をけん制しつつも、不安げな顔でみなに問いたたしてみる。するとあちこちから「そういえば、見慣れない車をみかけたような。ぼくが着くと、荷物のつみおろしを止めちゃうこともあったです」。「ああ、ぼくも経験あ...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十四)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十三)

    かたい決意を示すがごとくに、ぐっと拳をにぎりしめて力説した。「服部、半値で仕切れ。いや待て、値引きはいかんな。元の値に戻すのがむずかしくなる。うん、そうだ。おまけを付けてやれ。同数の商品をおまけすると言え。実質半値だ。いいか、半値で仕切れと言われても、絶対だめだ。あとあとの商売がやりにくくなる。いまの売掛分についてもな、同数の商品をおまけするとな。ただしだ、条件をつけろ。一品目でも、わずか一個でも、他社の商品を見つけたら、そく品物を引き上げるとな。で、取引停止だと」ざわつく声を、強い口調で抑え付ける。「いいか、徹底しろよ。一品目ぐらいとか、一個だけならとか、ぜったい見逃すな。それから、富士商会で取り扱っていない商品だからなんてふざけたことは言わせるな。同じ物をかならず納入すると言ってやれ。赤字になってもか...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十二)

    小麦色にやけた小夜子に、富士商会の面々がいちようにおどろいた。「小夜子さま、大変身ですね」「すごく健康的で、いちだんと美人に見えますです、はい」「小夜子さまなら、ミスユニバースに、あ、だめか。ミセスなんだ、もう」口々に褒めそやす。その一人ひとりに「ありがとう、お世辞でもうれしいわ」と、応える小夜子。武蔵はうんうんと頷いている。「みんな聞いてくれ。小夜子を、社長づき営業部員とすることに決めた。かんたんに言えばだ、接待役だな。交渉事はしないけれども、場に同席させる。どんどん取引先を、会社に引っ張って来い」「やったあ!」「うわあ、すてきい!」「よおし、これでもう!だぜ」ばんざいをする者、こぶしを突きあげる者、拍手をする者。そして、泣きだす者さえでた。「おいおい、どうした。泣くことはないだろうが」「だって、だって...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十二)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (十)知恵

    次郎吉に、盗みにかけてそれ程の才能があったわけではない。ただ、建具職・鳶職のてつだいが、いまになって幸いしているのである。それに付け加え、稲葉小僧なる盗賊のことをしらべたにすぎない。稲葉小僧は、天明の初年(1780年)頃より、大名屋敷をおそう盗賊として有名になった。警備の手うすさを調べあげての犯行であった。盗むものは、金子はもちろんのこと着物・小間物、はては大名屋敷のたいせつな道具類も盗み出した。目利きができたのである。というのも、稲葉小僧は武家の出であった。淀藩稲葉家につかえる武士の次男として生まれた。が、幼少の頃よりの盗癖のため、ついには入れ墨の上、「たたき」の刑にしょせられた。親元にいることができず、勘当同然にとびだした。食べていくためには働かねばならぬものの、武士の出身ゆえに丁稚奉公をきらった。そ...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(十)知恵

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (3 或先輩

    或先輩は、このぼくに「あなたには夢がないのね!」と、痛烈なる批判をされた。そしてまた、作品=地獄への招待(後の、愛・地獄変)・夏の日のデート等について、「上手だけど、嫌いだわ」。強く、きびく批判された。「学生として書くべきものではなく、また、文集に載せるべき作品ではない」。叱られた、なじられた。そのとき、その先輩は恋愛中だった。だからこのぼくの、断絶という世界より発せられた、文章や作品のテーマを、極端にきらわれたのだろう。そして学生という観念でもってぼくを見られ、“ませた男”と感じられたのだろう。しかし、ぼくは学生である前に人間だ。個人的な宿命にも、さいなまれている。ぼくの作品に、芥川龍之介の傾向が多分にみられると言われるのも、この断絶感ゆえだろう。青春群像『断絶』ということ。(3或先輩

  • [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・れいでぃ~

    (三)滑稽だった意固地なまでに、かたくなな表情でとおり過ぎる。それはいかにも滑稽だった。少年をお子ちゃまとよぶ級友たちに見られたならば、「お子ちゃま、お子ちゃま」と、また囃したてられるだろう。よっぱらいが少年をからかいつつ、すれ違っていく。「おにいさん、こんやはだれをなかせるつもりだい?」しかし少年はそれを、遊び人とみられている証拠だとほくそえむ。少年の足が、おお通りからうら通りへと向く。細長いビルがたちならび、バーやらスナックやらの看板が目に入る。そしてその中のひとつのビルで止まった。濃茶のガラス戸で、取っ手がにぶい銀色に光っている。そしてアクセント的に右の上部に、小さくかがみのように反射する銀文字で[パブ・深海魚]とある。少年の心が、期待に大きくふくらむ。少年の手がドアをおす。そこは、光と音が調和よく...[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・れいでぃ~

  • ポエム 黎明編 =流れ星=

    夜空に星がひとつ浮かぶひと筋ながれつつ消えるその間いち秒“わたし以外のだれも見ていなかった”いやいやわたしの気付かぬだれかがまたわたしのように“だれも見ていなかった”とつぶやいているだろうそして“願いをかけていたら”とつぶやいたことだろう=背景と解説=自分だけの……自分だけが……若者にありがちな、独占欲です。それとも……年老いたいまでも、でしょうか?ポエム黎明編=流れ星=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十一)

    よくじつのこと。久しぶりの武蔵の訓示だ。全社員が、直立不動でたっている。「きょうは、みんなを褒めようと思う。みんなだ、全員だ。俺以外の全員をだ。そしてみんなして、社長であるこの俺を、御手洗武蔵をしかってくれ」何事かとざわつく面々に、「みんなの頑張りのおかげで、富士商会の業績はのびている。ひと頃ほどではないにしろ、同業他社よりはるかにいい業績だ。しかし気になることが出てきた」と、切りだした。「本来なら、社長である俺が、もっと早く気づくべきだった。かるく考えすぎた。富士商会は、仕入れ値をおさえることには長けている。そのことに胡坐をかきすぎたかもしれん。一部とはいえ、集金時に値引き要求をする店がある。小額だったゆえに、俺もやむ得ぬかと決済してきた。しかし、よくよく調べてみると、かたよった地域に限定されていること...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十一)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十)

    「おおい、そろそろかえるぞお」。遊びたりないわと、不満げなかおをみせるかと思った小夜子が「はあい!」とあかるく返事をしてきた。どうやら砂浜をはしることに疲れたらしく、宿にもどりたがっていることがみえた。もともと体力のあるほうでは小夜子では、海で毎日を過ごす娘の体力にかてるはずもない。盆地育ちの小夜子の毎日といえば、本を読むかコーラスに興じるか、そこらあたりが関の山だ。しかも女王然とふるまってきた小夜子にはかしずく者がおおく、正三を筆頭にして武蔵もまたそれを楽しんでいる。そしてその鼻っ柱をおったのが、小夜子が敬愛してやまぬアナスターシアだった。彼女の亡きあとのこころのすき間を埋めたのが武蔵だった。小夜子のどんなわがままもむちゃぶりもすべて受け止めている。当初こそあしながおじさんとみていた小夜子だったが、いま...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十九)

    焼きものに興味をいだいている父親が、とつぜんに割りこんできた。己の自慢ばなしのごとくに、有田焼の起源やらを東陶と話しはじめた。「明治以降なんですなあ、有田焼という名称がうまれたのは。江戸時代には、三川内焼、波佐見焼、鍋島焼などとともに、伊万里焼と呼ばれていました。秀吉の朝鮮出兵にさかのぼるんですよ。鍋島藩の藩祖である鍋島直茂が、朝鮮の陶工たちを日本に連れ帰ったんですなあ」商売になるかと話にききいる武蔵だが、同好の士だと勘ちがいをして、ますます話に熱がはいってきた。また始まったとばかりに、ほかの家人たちはそそくさとその場を立ち去っていく。「あまり遅くならないうちに帰りなさいよ」と祖母がいい、そして、老人が苦言を残していった。「甘やかしすぎだ、れいを」「大丈夫ですよ、お義父さん」と立ち上がって、父親が最敬礼を...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十九)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (九)盗み歴

    次の襖を開け、廊下をわたり、蔵の扉を前にした。大きな南京錠にへきえきしながらも、鋸で切りにかかった。錠前師の仲間を、と考えないではなかったが、次郎吉はひとり仕事と決めていた。「ニャーオ!」突然の猫の声に、すぐさま床下に駆け込んだ。暫く身を潜めていたが、そっと錠の切断を開始した。幾度か身を潜めつつも、小半刻ほどで、やっと切れた。しかしすぐには入らず、見回る人間のいないことを確認したのち、油を垂らしてから戸を引いた。が、容易に開こうとはしない。力を入れる。「ゴトッ、ギー」。鈍い音を立てて、動いた。少しの間身を潜めていたが、誰も気付かないことを確認して中に入った。天窓から差しこむ月明かりを頼りに、壁づたいに歩いた。奥に、目指す千両箱らしきものが五箱、山積みになっている。蓋を開ける。山吹色の小判がザックザック、と...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(九)盗み歴

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (2 ある後輩

    ある後輩は、このぼくを「恐い」と言う。そしてその理由の多くを語ろうとしない。が、その少ないことばから推察するに、その後輩のことばを引用すれば、“人間として書いてはいけないことを書きすぎる”のは、「神をおそれていない証拠」と、なりそうだ。そして神=社会をおそれぬぼくは、ときに傲慢となり、時にエゴイストとなり、ときに、英雄とのさっかくを起こしたりする、ということらしい。ぼく自身、その傾向があることには気がついている。〔岐路〕という作品=自己不信というテーマのさいに、自分を徹底解剖して真実をつかみえたと思っていた。が、それは頭の中でのことであり、実体にはむすびつかぬものだった。青春群像『断絶』ということ。(2ある後輩

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・れいでぃ~

    (二)不安だった川のなかに投げ込まれた石でもって波紋をよんだとしても、そのあとにくる平穏な水面をかんがえるとき、不安だった。このかいらくの巣である街にたった独りでいることが、そこに溶けこめないことが、なによりも不安だった。そしてそのふあんは、うろうろとうろつく野良犬が出現すれば、少年の独歩のいみが跡形もなくきえさるかと思える不安だった。しかし幸か不幸か、この街には、はらをすかせた狼はいても残飯をあさる豚はいても、野良犬はいない。まして少年はいない。同世代の少年たちに、お子ちゃまとやゆされる少年はいない。どんなに大人を演じても、けっして認めてはくれない。どんなに大人の型――タバコ・さけとすすでも、お子ちゃまと揶揄されてしまう。濃茶のストレッチズボンにのうちゃのコール天のスポーツシャツ、そしてうす茶のコール天...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・れいでぃ~

  • ポエム 黎明編 =階段=

    花にかざられ人々にみまもられお前はすがたをあらわすながい階段のおまえのこころはだれもが知っているが誰もかたらない浮浪者のボッペが道ゆくひとに“ボン・ジョルノ!”と声をかけたなのにおまえにはただそのくさいしりをのせただけしかしそれでもおまえのこころはだれもがよくしっていただからはなは咲きみだれひとびとの心はあかるいおまえがいなくてしあわせの階段がたたれたらわかいこいびとたちはどこでアイをかたりあうというのかまったくおまえはすてきなやつだ!=背景と解説=オードリー・ヘップバーン主演の「ローマの休日」という映画、ご存じですか?好きなんですよね、この映画。20世紀最高のラブ・ロマンス映画ではないでしょうかね。いえいえ、映画史上と言い換えても良いかも?そんな思いから創り上げたイメージです。ポエム黎明編=階段=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(三百二十八)

    かなりの距離があり、小夜子も目をほそめてみるのだが、なかなかにだれもみえない。「武蔵、武蔵。あそこの木のかげに、だれかいる?」娘の父親に聞こえぬようにと、耳打ちをする。「うん?どれどれ。ああ、あの木か?うーん、遠くてわからんなあ」「こうさんだわ、れいちゃん。お友だちなのよね、ちっちゃい子なの?おとしは?」娘は、くくっと声をあげながら笑っている。そして指さした手のひらを、まるでおいでおいでと呼ぶように上下に動かした。「まさか、しっぽをふるってことは、犬かな?」「せいかい!大っきな、柴犬なの。でも、のら犬なの。あたしは飼いたいんだけど、お父さんがだめだって。どうして?って聞いたら、弟が怖がるからだって。弟がいけないのよ。石なんか投げるもんだから、犬が吠えたの。体が大きいでしょ?声もね、大きいの。それで、弟のや...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十八)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十七)

    「なんて女だ。自慢をするなんて、聞いたことがない」「まったくです、まったくです。男も男です。女の言いなりになっております」聞こえよがしにささやきあう、男ふたり二人。隣にすわる女が、あわててわき腹をつついてる。「やめなさいって、あなた。ほら、あれっていれずみじゃないの?二の腕のところに。命とかなんとか……」「そ、そんなことは……」汗で浮き出ている朱色の文字が、麦わら帽子とサングラスとに相まって、暴力団の風体をかもしだしていた。「ハハハ、これですか?」サングラスを外しシャツをまくりあげて「妻の名前です。流行っているんです、愛のあかしというわけですよ。どうです、あなたも」と、武蔵が声をかえした。小夜子に恥をかかせたくないという思いと、屈託のない娘によけいな警戒心をいだかせたくないと考えた武蔵だった。「あ、そりゃ...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十六)

    真っ青な空に、ひとつふたつと雲がうかんでいる。太陽は正天にあり、ギラギラと輝いている。秋に入ったとはいえ、まだ汗ばむような陽気がつづいている。白い筋のように水平線があり、視線の先に貨物船がすすんでいる。砂浜でレースのフリルがついた白い水着姿に、ピンクの縁に黒いレンズのサングラスをかけた小夜子が、「おおおおーーい!」と、大声をはりあげた。数人のグループが、あちこちに点在していて、おどろきの目が小夜子にそそがれるが、まるで動じない。“あたしの幸せを、みんなにも分けてあげる”とばかりに、胸の前で合わせた両の手を、大きく空にむかって開放した。「なにをあげたんだ?神さま、よろこんで受け取ってくれたか?」「やっと起きた、武蔵が」いつもの膨れっ面を見せる小夜子。そしていつものように指で押して、武蔵がしぼませる。ぶふっと...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十六)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (八)再見参!

    屋敷からの帰り道、次郎吉は今夜の収穫の大きさに胸が高ぶっていた。なんと二日後の夜、茶会の為に主人が外出するというのである。本家筋にあたるため、お泊まりになるはずだとも。命の洗濯をするから、お前も来いというのである。次郎吉は、小躍りしたい気持ちである。主人の居ない大名屋敷ほど無防備な屋敷はない。みな、酒に溺れて寝てしまうのが常であった。次郎吉は、その日以外にないと決断した。その夜、薄曇りの天候で月明かりも弱かった。忍び込みには絶好である。屋敷内は、シンと静まり返り、木の葉の落ちる音さえ聞こえそうである。みな、鬼の居ぬ間にとばかりにどんちゃん騒ぎに興じた。そして、疲れ果てて眠り込んでしまった。次郎吉は音を立てぬよう、抜き足・差し足と、長局奥向に近づいた。半開きの障子から中をうかがうと、飲みつぶれた家臣たちが寝...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(八)再見参!

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (1 辞書によると

    断絶=①絶えること。「家名ー」②断ち切ること。「国交ー」③精神的つながりが切れ絶えること。しかしこの僕にとって――人間社会との断絶状態のぼくにとっては、これらの解釈のなかに、つなわたりを感じる。そしてことば少ないその説明が、どれほど、より地獄的にひびくことか……。繋がり=①つながること。関係するもの。②ほだし。きずな。自分にとって、この世でいちばん縁遠いことばたと知ったときの、苦しみ・悶え、……あヽ。そして、なによりの歓喜!そしてことば少ないその説明が、どれほど、より愉悦的にひびくことか……。青春群像『断絶』ということ。(1辞書によると

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (一)腹立たしいもの見上げる空のどこにも星はなく、月もない。すき間なくおおいかぶさる、くもくもくも。なん層にもかさなる雲からは、今にもぽつりぽつりと雨が降りそうだ。少年の心内をうつしだしている空もようだ。一点の晴れ間もないそのやみぞら――一点の曇りもないその闇空のごとくに、少年のこころは沈みきっていた。どこからともなく、静かにひと筋の糸となって降るあめ、少年は好きだった。きっても切っても、それは糸としてつらなる。そして次には、ボトリボトリと水滴となっている。そしてまた、糸のいろだ。トウメイであるはずなのに、白となりあるいはぎん色にかがやく。赤になり青になることもある。あたりが発する光をからだ全体で受けとめ、それに浴されながらも、それ自体が美しいということが良い。そうおもう、少年だった。しかし今夜の少年には...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 =捧げる詩=

    白馬に乗って見た夢はパリの空の下そびえ立つエッフェル塔――見上げたっけいかめしい姿の凱旋門――見下ろしたっけ時代遅れのマロニエの並木道――見ていたっけ白馬に乗って見た夢はパリの空の下清く流れるセーヌ川恋人の語らう裏町やせこけたのら猫の声――ニャーオ!真っ黒の髪茶色の瞳――名付けて“ニケ”白馬に乗って見た夢は……目が覚めた少年の腕の中にミケ猫一匹――贈り物=背景と解説=幸せな時期でした。ただ、まだどこか、不安がる自分がいましたね。エッフェル塔=未来凱旋門=現在並木道=過去といった感じでしょうか。ニケというのら猫に、投射しています。コロコロと笑う少女で、気まぐれというか移り気というか、とに角振り回されたものです。ポエム黎明編=捧げる詩=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十五)

    「武蔵、武蔵。どうして、どうしてなの?あたしがお姉さんとよぶ人は、どうして死んじゃうの?あたし、ひょっとして死神なの?あたしが慕う人は、みんな死んじゃうの?武蔵、武蔵は大丈夫よね?あたしを残して死んじゃうなんて、そんなことしないよね?いやよ、いやよ、そんなの。あたし、もう、耐えられない!」激しく泣きじゃくる小夜子をしっかりと抱きしめながら「大丈夫、大丈夫だぞ。俺は大丈夫だ。小夜子を淋しがらせることはない。小夜子を幸せにするために、俺はこの世に生まれてきたんだから。前世からの約束ごとなんだよ。心配するな」と、そっと耳元でささやいた。“我ながら名文句じゃないか。恋する男は詩人になるというけれど、ほんとうかもな”己のことばに酔う武蔵だったが、小夜子もまたそのことばに酔った。「そうよね、そうよね。武蔵はあたしを幸...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十五)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十四)

    「お母さん、居るの?ああ良かった。急にくらくなって、誰もいなくなっちゃって。でね、ビーフステーキとかいうお肉を食べてみたいの。それでね、先生にお願いしてほしいの。ほんのすこしの時間でいいから、また外出させてくださいって。小夜子さんにもお願いしてくれる?さいごの我がままを聞いてくださいって。大丈夫よ、小夜子さんはおやさしいから。お母さん、いる?お願いね。あたしの心残りは、それだけなの。お母さん、お母さん。お願いね、お願いね。ごめんなさい、眠くなってきちゃった。すこし眠るわ、すこしねむ、、、」「勝子、勝子、勝子!」「勝子さん、勝子さん、先生が来てくれたから。元気にしてもらえるから。ほら、目を開けて!」「しっかりしなさい、勝子!お前は芯のつよい娘だろ?こんなことに負けちゃいけないよ!勝子!勝子!」母親の呼びかけ...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十四)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十三)

    それからわずか五日後のこと、小夜子との約束をはたさぬままに、勝子がこの世を去った。無念な思いをいだいたままの死であったはずだが、あの日のたった一日だけの外出が、無味乾燥な勝子のそれまでの一生に華を咲かせた。衰弱していく己の体を、愛おしく感じた勝子だった。きょうの空は快晴に近い。うすい雲らしきものが浮かんでいるだけだ。いまひと筋のひこうき雲があらわれた。左から右へとながれていくそれを見上げながら、勝子の口からゆっくりと言葉が発せられた。「ありがとう、小夜子さん。うれしかったわ、ほんとに。あの日いち日のことは、あたしにとって最良のいち日だったわ。ほんとよ、小夜子さん。死期が早まったのでしょう、お医者さまは反対されていたものね。でも、あたし、後悔していないから。ううん、逆ね。あの日がなかったら、それこそ死んでも...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十三)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (七)カモられる!

    次郎吉は、そんなこととはつゆ知らず、上方に移った後、名を次郎兵ェと改め、江戸の親元に戻った。その後、鳶の者金治郎をひよって、雲竜の入れ墨を二本線の上に彫り、わからなくしてしまった。そして、湯島六丁目に住み、小間物屋を始めた。しかし、そんな堅気の生活に安住できずに、また博打にのめり込み始めた。仕入れ商品の支払いに支障をきたしたのは勿論、日々の糧すら事欠くようになってしまった。当然の如く親元に駆け込んだが、歌舞伎役者の下で働く出方の親に蓄えがあるわけでもなく、冷たくあしらわれた。その結果、次郎吉はまた、武家屋敷をおそい始めた。しかし今度の次郎吉の手口は、より巧妙になった。前回の失敗を教訓に、単独行動をとることにした。手引きがあれば楽々と侵入はできるが、計画が漏れる恐れも増大する。当初は腰元の裏切りは露ほども考...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(七)カモられる!

  • 青春群像 初恋物語り [レモンの夕立ち](Last)

    まるみを帯びはじめたアコの肩を、力をこめて抱いています。ゆるめることなく、しっかりと抱きよせています。まだ中学一年生じゃないか、でも、もう中学一年生なのです。ふたりとも、むごんのままです。町のそうおん、雨のなかに消えています。ふたりの呼吸音だけが、耳にとどいています。ふたりとも、おしだまったままです。行きかう人たちも、雨のなかに消えています。もう、ふたりだけしか居ませんでした。夏の日の夕立ちです、レモンの夕立ちです。青春群像初恋物語り[レモンの夕立ち](Last)

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・ぼーん~ (最終回)

    少年が老婆をじっと見つめます。別段のこともなく見つめています。ただじっと見つめるだけなのです。「なんぞ、用かい?坊や。このばばに、聞きたいことでもあるのかい?」沈黙に耐えかねたように、老婆が少年に声をかけました。「どうせ、親に言われてきたんじゃろ。お宝のありかを聞き出してこいとでも、言われたんじゃろ。子どもになら口をすべらすかもしれんとな」老婆が少年の目をのぞき込みます。少年の目は、澄んでいました。どこまでも深く深く澄んでいました。老婆の強い視線をただ黙って受け止めます。そして、どんどんどんどんと吸い込んでいきます。いつの間にかその場に老婆が居ません。いえ老婆自身が、少年の目の中に吸い込まれてしまったような錯覚に囚われてしまったのです。以後、老婆の口が重くなりました。家々で歓待を受けても、無表情な老婆です...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・ぼーん~(最終回)

  • ポエム 黎明編 =春の訪れ=

    .シャンソンの流れるマロニエの並木道に春の訪れコーヒーの香が漂う時代遅れのカフェにロマンの花恋人たちは今エッフェル塔の陰で凍てついた太陽を見る=背景と解説=恋愛の歓喜を感じつつも、どこか冷めた自分がいた気がします。当時の言葉で言えば「世間が信じられない」ということに尽きます。世間=女性と置き換えてもいいかと思います。女性を蔑視しているのではなく、女性に受け入れられるような自分ではない、ということでした。憧れに近い気持ちを抱きつつも、いつか離れていく――捨てられる、そんな不安な気持ちを抱いていたのです。一行目、恋への憧憬二行目、恋から与えられる歓び三行目、懐疑の気持ちポエム黎明編=春の訪れ=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(三百二十二)

    「きょうね、勝利の会社に行ったの。ほんと、良かった。みなさんがね、すごく歓待してくれてね。うれしかった、あたし。ほんと、勝利の言うとおりだったわ。あたしね、母さん。みなさんに好かれてるの、びっくりした。でね、みなさんがね、あたしのこと美人だって。加藤専務さんなんてさ『いずれがアヤメかカキツバタか』だって。小夜子さんよ、小夜子さんとよ。びっくりよ、もう。奥からね、服部君がね、大きな声でね、くくく、ほんとに勝利の言うとおりだったわ。あたし、がんばるから。しっかりお薬のんで、きっと病気に勝ってみせるわ。ええ、負けてたまるもんですか。元気になって、退院して、小夜子さんとお食事して、それから、それから……」とつぜん勝子の声が小さくなった。あわてて看護婦を呼びに行きかける勝利に、勝子が快活にいった。「ごめん、ごめん。...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十二)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十一)

    医師から告げられたことば、常在戦場ということばが、小夜子に覚悟のこころを持たせていた。「そこのソファに横たえさせて。竹田!先生に連絡は取れたの?で、なんとおっしゃって?いいわ、電話を代わりなさい」要領を得ない竹田の返答にいらだつ小夜子が、竹田から電話をひったくった。「先生ですか?これからすぐに伺います。はい、意識はもどりました。一時的になくしましたが、声をかけたらもどりました。ええ、熱は少しあります。のどの渇きを訴えていますが、お水をいいですか?」小夜子が手で指示をする。勝子のまわりでおろおろとする竹田に対し、「竹田!お母さんを病院まで連れてきなさい。勝子さんにはあたしが付き添うから。四の五の言わずに、早く行きなさい」と、小夜子の叱責がとんだ。「分かりました、すぐに連れてきます。社長、車をお借りしていいで...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十一)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十)

    「おかえりなさいませ、小夜子さまあ!」タクシーが止まると同時に、どっと迎えにでてくる。そして「うわあ、この方が勝子さんですか?おきれいだわ」と、歓声があがった。「竹田さんのお姉さん、なんですね?はじめまして」。「竹田さんが自慢するだけのことはありますね」。みなが、口々にほめそやす。「おお、これはこれは。いずれがアヤメかカキツバタですな。実にお二人ともお美しい」と、押っ取りかだなで出てきた五平もまたほめことばを口にした。そのうしろに、頭をかきながら照れくさそうにしている竹田がいる。そしてそのまたうしろから、竹田の影にかくれるようにしている山田がちらりちらりと盗み見をしている。「おーい、ぬけがけは許さんぞ!」と大声を張りあげて、服部が出てきた。そのことばに、顔を真っ赤にしたまま、その場に立ちすくむ勝子だ。“ほ...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (六)捕縛!

    「コトッ」裏木戸は、やすやすと開いた。次郎吉は、ニヤリとほくそ笑みながら、足音を押さえて中に入った。勝手知ったる何とやらで、次郎吉は何の苦もなく長局奥向に続く廊下に足を乗せた。と、どこから見ていたのか。足を乗せた途端、隠れる間もなく武装した腰元らが、奥の部屋から並び出てきた。不意のことに次郎吉は一瞬たじろいだが、すぐさま気を取り直すと一目散に裏木戸から逃げ出した。「なんてこった!」と、口走りながら塀に沿って走りつづけた。成功するに決まっていたこの盗みが、なぜバレていたのか。次郎吉には、どうしてもあの腰元が裏切ったとは思えなかった。角を左に折れて、もう大丈夫だと思った途端、運悪く南町奉行所の見回り同心に見とがめられてしまった。逃げる間もなく召し捕らえれ、後ろから追いかけてきた腰元たちにより、悪事が露見してし...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(六)捕縛!

  • 青春群像 初恋物語り [レモンの夕立ち](六)

    シン公は、アコの肩に手をまわして抱きよせました。おんなものの傘は、ふたりで使うには、すこし小さいようです。シン公の胸に顔をうずめるアコに、シン公のあたたかい体温がつたわります。シン公の腕にも力が入っていきます。おもわず、ポッとほほを染めるアコです。そして、右手を、シン公の腰にまわします。しっかりと、寄りそいます。アコのハートが早鐘のように鳴っています。聞かれはしないかと、心配なアコです。「よく降るなあ……」シン公の吐息が、アコの髪にかかります。アコは顔を上げると、その吐息を思いっきり、すいこみました。あまずっぱい、レモンのような味です。アコは、シン公に寄りそいながら、思わず目をとじてしまいました。シン公の手が、アコの肩に、グッと食いこんできます。すこし痛いほどです。いつものアコなら、「いたいよ、シンちゃん...青春群像初恋物語り[レモンの夕立ち](六)

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・ぼーん~

    (八)一子相伝長患いで苦しんだおなかの父親が、とうとう亡くなりました。伏せってから十年の余でした。毎日のように「すまんのお、すまんのお」と男に手を合わせて、感謝の意を伝えます。その手をしっかりと握りながら「わたしの方こそ命を助けていただいたのです」と、応えます。その日は長く降り続いた雨が止み、久しぶりのお日さまが出たといいます。白装束に身を包んだ男を先頭に山の中腹を目指して、葬列がつづきます。時折鳴る鈴の音が山々に響き渡ると、すすりなく声が葬列の中から出ます。気丈にしていたおなかもまた、男に抱きかかえられながら何とか歩いて行きました。そしてその夜に、男の口から平家再興のための軍資金埋蔵の話が出ました。「このことは一子相伝とし、たとえ配偶者であっても漏らしてはならぬ」と厳命したのです。さらには、子に関しても...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・ぼーん~

  • ポエム 黎明編 =階段=

    花に飾られ人々に見守られお前は姿を現す長い階段のお前の心は誰もが知っているが誰も語らない浮浪者のボッペが道行く人に“ボン・ジョルノ!”と声をかけたお前には唯その臭い尻を乗せただけしかしそれでもお前の心は誰もがよく知っていただから花は咲き乱れ人々の心は明るいお前が居なくて幸せの階段が断たれたら若い恋人たちはどこで愛を語り合うというのかまったくお前は素敵な奴だ!=背景と解説=オードリー・ヘップバーン主演の「ローマの休日」という映画、ご存じですか?好きなんですよね、この映画。20世紀最高のラブ・ロマンス映画ではないでしょうかね。いえいえ、映画史上と言い換えても良いかも?そんな思いから創り上げたイメージです。ポエム黎明編=階段=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十九)

    「いかがでございますか、小夜子さま。勝子さま。お気にめされたお洋服はございましたでしょうか?」と、森田が声をかけてきた。「そうねぇ。このお洋服と、さっきのお洋服の二着を頂くわ。それとこのお帽子も。それから、合わせてお靴も欲しいわ。森田さん、見立ててくださる?」「ありがとうございます。それでは勝子さま、こちらの椅子に腰かけてお待ちください。なん足か、お持ちいたしますので。少々お時間をいただきます」森田が、深ゝとお辞儀をして辞した。「大丈夫?小夜子さん。あたしなんかの為に、こんなに高価なものを。社長さまに叱られない?」「大丈夫、大丈夫だって。武蔵は、大丈夫」“ちょっと奮発しすぎたかしら?『すっからかんだ!』なんて武蔵言ってたわね。『全財産を使い切ったぞ!』って。でも大丈夫よね、武蔵だもん。何とかしてくれるわよ...水たまりの中の青空~第二部~(三百十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十八)

    「誇りよ、自尊心よ。そうね、自分を信じる思いでもあるわね。よくいるでしょ、『あたしなんかどうせ・・』って愚痴をこぼす女が。自分で自分を卑下してどうするの!そう言いたいわ。『貧乏人だから、片親だから、学校を出ていないから……』。色々言い訳をするけれど、そんなの自分を信じていないからよ。『おかめみたいなあたしなんか』ですって?冗談じゃないわ!女を顔で評価する男って、最低よ。それを受け入れる女もまた最低よ!男に媚びてどうするの。しっかりしなさい!って、いいたいわ」舌鋒するどく語る小夜子に、勝子もたじろいでしまう。これ程に激しい小夜子を、勝子は知らない。毅然とした立ち居ふるまいをする小夜子ではあるが、今日のいまの小夜子は激しすぎる。「怒ってるの?小夜子さん。だったら謝るわ、あたし。ごめんなさいね、馴れ馴れしくし過...水たまりの中の青空~第二部~(三百十八)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十七)

    同性の目はきつい。すすけた娘が魔法にかかったように、輝くばかりの女性に変身したことに、激しい敵意をみせている。自尊心の強い女たちの視線が、はげしく勝子に突き刺さっている。「小夜子さん。痛いのよ、視線が。皆さんの視線が、あたしに『場違いだ!』って言ってるの」「大丈夫、勝子さん。殿方を見なさい。皆さんあなたに見とれてるわよ。ほら、直視はしないけれども、チラリチラリと勝子さんを見ているじゃない。女王様然としなさいって。ほかの女たちの嫉妬の視線なんか無視して、はねかえしなさい。大丈夫、自信をもって」ついこの間の小夜子が、いまの勝子だった。とつじょ現れた他所者に対し、排除のしせいをとる女性たち。男たちが諸手をあげて歓迎の姿勢をみせると、それはなお激しくなった。しかし女王さま然と振舞いつづけることで、しだいにその矛は...水たまりの中の青空~第二部~(三百十七)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (五)逢瀬

    「俺がとっちめてやろうか?なぁに、手ぬぐいでほっかむりでもすりゃ、俺だって分かるはずもねえさ」「やめて、そんなこと。そんなことして万が一にもバレたりしたら…」「バレたって構わねえさ。お登勢ちゃんのことはだまってるから」「やっぱりだめ!次郎吉さんの気持ちだけで、十分。またぐちをきいてね」そしていま、次郎吉の豹変に、腰元は錯乱状態におちいった。これまでのことが、すべて腰元を手駒にするための方便だと思いしらされた。後悔の念、悔しさ、そして未練のこころが渦巻いている。“こんな性悪の男に……”そう思いつつも、呼び出されるたびに胸がおどることも事実であった。次郎吉は、そんな腰元をなめつくすように見すえると、薄笑いを浮かべた。「いいか。明晩、実行に移すからな。かならず裏木戸を開けておきな。時刻は午の刻だ、いいな。なんだ...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(五)逢瀬

  • 青春群像 初恋物語り [レモンの夕立ち](五)

    (五)シン公が、その先輩と交際をしているかどうか、それすら分かりません。ほんとうのところは、シン公にとってのその先輩は、あこがれの女性であり、それ以上でもそれ以下でもないのです。学校ですれちがう時に、会釈をするだけなのです。じつはアコの杞憂にすぎないのです。シン公にとってのアコは、妹のような存在なのです。まだ恋愛の対象としては、考えられないのです。なにせ、アコが幼稚園児のころから、遊んでいるのです。おなじ町内にいることから、アコの両親が共働きをしていることから、ずっと遊び相手になっているのです。妹と見てしまうのも仕方のないことかもしれません。でもいま、シン公の心に葛藤がうまれはじめています。アコも、中学生になりました。少女に、なりました。少し、ニキビが出はじめています。あやしかった雲行きは、とうとう雨を呼...青春群像初恋物語り[レモンの夕立ち](五)

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・ぼーん~

    (六)追放しかし結局のところ、男は村をおいだされてしまいました。修験者の威光はぜつだいであり、平家の落ち武者である男ではまったく分がわるかったのです。「汝が名はなんとや!正味の名をもうせい!しからば拙僧が、汝の正体をあばいてくれん!」「いやいや、それは……」と口ごもるばかりの男の代わりに、女房がさけびます。「この人は、あらしであたまをやられてる。むかしのことは、まるでおぼえてねえのさ!」「笑止千万!そのような戯れ言で、拙僧をたぶらかせるとでも思うてか!喝!『リン、ピョウ、トウ、シャ、カイ、ザイ、ゼツ、ゼン』」と印を切りました。と同時に、村人たちすべてがひざをつきました。おなかですらひざまずいたことは、男にとって思いもよらぬことでした。「わかった、おなか。わたしが身を引けばよいのだな。災いがなくなるよう、わ...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・ぼーん~

  • ポエム 黎明編 =捧げる詩=

    白馬に乗って見た夢はパリの空の下そびえ立つエッフェル塔――見上げたっけいかめしい姿の凱旋門――見下ろしたっけ時代遅れのマロニエの並木道――見ていたっけ白馬に乗って見た夢はパリの空の下清く流れるセーヌ川恋人の語らう裏町やせこけたのら猫の声――ニャーオ!真っ黒の髪茶色の瞳――名付けて“ニケ”白馬に乗って見た夢は……目が覚めた少年の腕の中にミケ猫一匹――贈り物=背景と解説=幸せな時期でした。ただ、まだどこか、不安がる自分がいましたね。エッフェル塔=未来凱旋門=現在並木道=過去といった感じでしょうか。ニケというのら猫に、投射しています。コロコロと笑う少女で、気まぐれというか移り気というか、とにかく振り回されたものです。ポエム黎明編=捧げる詩=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十六)

    「上得意さまなのね、小夜子さんは」まぶしげに見上げる勝子に、勝ち誇ったように応える小夜子だ。「まあね。色々と、お買い物をしてるから。婚礼の品も、ここで一式そろえたし。それに、これからも色々とね」「あゝ、羨ましいわ。あたしも、そんな生活をしてみたいわ。あたしも、社長さんみたいな素敵な殿方にみそめられたいわ」「大丈夫よ、大丈夫。ここで勝子さん、変身するの。最新モードで武装して、世のとのがたを悩殺してしまうのよ。勝子さんは美人なんだから、よりどりみどりよ」「ほんとお?なんだか、小夜子さんにそう言われるとそんな気になってくるわ。でも、あたしに似合うかしら?そんな最新モード」“馬子にも衣装って言葉、知らないの?それなりに、女性は変身できるものよ”小夜子のなかに、べつだん侮蔑の気持ちがあるわけではない。勝子が好きな小...水たまりの中の青空~第二部~(三百十六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十五)

    己が張り子の虎だとは分かっていた。けれどもきのうまでの卑屈な毎日から、きょうは解放されたのだ。白と黒というモノトーンの世界の住人が、極色彩のカラフルな世界に一瞬にして飛び込んだのだ。せまい路地を竹馬にのってよろよろと歩いていたものが、いきなり遊園地のメリーゴーランドに乗ったのだ。頭がクラクラしてくるのを感じても、体中の水分が沸騰しているような感覚におそわれても、このままこの場にたおれこんだとしても、勝子はこの世界から離れられない。地面に爪をくいこませてでもとどまろうとするに違いなかった。“ふふ、驚いてことばもないようね。当たり前よね、それは。あたしだって、初めてここに足を踏み入れたときは、ほんとに胸がおしつぶされそうになったもの。まるで別天地ですものね。わかるわよ、勝子さん”「あの、あの、小夜子さん。あた...水たまりの中の青空~第二部~(三百十五)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十四)

    十時の開店と同時に、どっと流れ込む人ごみの中に、二人がいた。「すごいのね、小夜子さん。いつもこんな感じなの?」。かるい息切れを感じつつも、たかまる高揚感をおさえきれない勝子だった。小夜子にとっても、初めての経験だ。普段はお昼をすませてからであり、森田の出迎えがあった。しかし今日は、勝子の希望で開店と同時にした。「うわあ、素敵!おとぎの国に来たみたい。ねえねえ、小夜子さん。どこ、どこから見てまわるの?」。目を爛々とかがかせて店内を見まわす勝子は、まるで少女のようなはしゃぎ方だ。「そうねえ、お洋服からにしましょうか。勝子さんにぴったりのお洋服を、まず探しましょう。それからバッグでしょ、お靴でしょ。それに、お帽子もね」「そんなにたくさん?勝利に悪いわ、そんなぜいたくをして。勝利はあたしの病院代があるから、自分の...水たまりの中の青空~第二部~(三百十四)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (四)腰元

    それから三日後の、文政八年(1825年)二月二日の夜のことである。次郎吉は、某料理屋の二階で女と対座していた。土屋相模守家の腰元である。次郎吉はあぐらをかき、腰元は正座している。とても、大工の娘とは思えない。しかし土屋相模守の屋敷内では、どこをどう間違えたのか廻船問屋の娘となっているのである。というのも、行儀見習いとして奉公に上がるその日、廻船問屋の娘は店の手代と駆け落ちをした。慌てた廻船問屋は、女中として奉公に来ていた大工の娘ー年格好が似ているこの女を、屋敷に上がらせたのである。勿論、事の真相が知れれば、女の打ち首は必然である。廻船問屋も只ではすまない。二年間の屋敷奉公が無事終われば、大工の娘は多額の礼金をもらえる。その約束で、身代わりとなったのである。その事実をこともあろうに、次郎吉に知られてしまった...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(四)腰元

  • 青春群像 初恋物語り [レモンの夕立ち](四)

    シン公が、ラーメンを食べたいと言うと、バーガーにして!と言います。シン公が、公園でゆっくりしようと言うと、映画が観たい!と言います。ボーリングに行こうと誘うと、レコードを聴きたいと言います。シン公が、ストロベリー味のアイスクリームを買うと、チョコレートが良かったのに!と、言います。でも、どんなにやんちゃを言っても、いつでもシン公は、笑っています。ちっとも、怒ってくれないのです。いつまでも、子供扱いするのです。目を閉じてキスをせがむと、おでこに軽くチュッ!と、してくれるだけなのです。時折シン公は、ロマンチストになります。甘い恋の囁きを、口にすることがあります。でも決まって、ひと言付け足すのです。“アコには、早すぎるかな?”そしてそれは、照れ隠しとも取れるし、本心とも思えるのです。アコは、いつも焦っています。...青春群像初恋物語り[レモンの夕立ち](四)

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・ぼーん~

    (四)噂ではその噂とやらを、女性から聞いたその噂をお聞きいただきましょうか。老婆の先祖は平家一門の落ち武者で、壇ノ浦の戦いを免れた者だと言うのです。家系図なるものを見たという村人が現れてーところがこれも不思議なことに、名乗り出る村人はいません。ですが、子孫だということになってしまいました。お待たせしました、これからが本番です。その落ち武者が、平家復興の悲願を胸に、相当の軍資金を埋蔵したということです。そしてその番人たる落ち武者は平家に関わる者であることを隠して、記憶を失った一人の男として村に入りました。たまたま襲った嵐を利用して、遭難したかの如くに装ったのです。当初は敬遠していた村人たちも、洞窟で一人暮らしの男が気の毒になりました。といって痩せた土地柄では潤沢な収穫量があるわけでもなく、遠巻きに見ているこ...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・ぼーん~

  • ポエム 黎明編 =春の訪れ=

    シャンソンの流れるマロニエの並木道に春の訪れコーヒーの香が漂う時代遅れのカフェにロマンの花恋人たちは今エッフェル塔の陰で凍てついた太陽を見る=背景と解説=恋愛の歓喜を感じつつも、どこか冷めた自分がいた気がします。当時の言葉で言えば「世間が信じられない」ということに尽きます。世間=女性と置き換えてもいいかと思います。女性を蔑視しているのではなく、女性に受け入れられるような自分ではない、ということでした。憧れに近い気持ちを抱きつつも、いつか離れていく――捨てられる、そんな不安な気持ちを抱いていたのです。一行目、恋への憧憬二行目、濃いから与えられる歓び三行目、懐疑の気持ちポエム黎明編=春の訪れ=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十三)

    医師を長らく見てきた看護婦も、石部金吉のごとくに勤勉実直さを体現してきた医師の、あり得ないことばに信じられないといった表情をみせた。「いや、こりゃどうも。ぼくには似合わぬことばでしたね。いや、失敬失敬」当の本人にしても、どうしてこんなことばを口にしたのか、いやそもそもこんなことばが浮かんだのか判然としない。若い女性患者を受け持ったのは勝子がはじめてであり、上司である内科部長に、担当を変えてほしいと先日に申し入れをしたほどだった。どうにも勝子相手ではドギマギとしてしまい、聴診器を胸にあてるおりには横を向いてしまう。透きとおるほどに白い勝子の肌がまぶしく、いっそのこと色メガネをかけての診察をと考える自分が滑稽に感じられる医師でもあった。「女の柔肌にふれたこともないんだろう」。「年増ばかりを相手にしてちゃ男がみ...水たまりの中の青空~第二部~(三百十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十二)

    その翌々日。あいにくの曇り空の下、晴れ晴れとした表情をみせる勝子と、誇らしげに目をかがかせる小夜子。そしてそんな二人を眩しげにみあげる、しかし不安げな目をなげかける母親がいた。「小夜子奥さま。ほんとに宜しいのですか?社長さまのご了解をえていないというのに、お買いものをさせていただくなんて」「大丈夫ですって。武蔵にはあとで話しますから。あたしのやることに文句をいう武蔵じゃありませんから」「さあ、行きましょ。早く百貨店に行きましょ」小夜子の手を引く勝子、お祭りに出かける幼子のようにはしゃいでいる。にぎられた勝子の手は、相変わらずに熱が感じられる。先日よりも高くなっている気もするが、勝子の体調は変わらずいい。はしゃぎ回るその様からは、とても病をかかえているとは思えないほどだ。しかしその気の高ぶりが、小夜子には気...水たまりの中の青空~第二部~(三百十二)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十一)

    「そ、そんな。容態をわかっていらっしゃないから、そんなことが言えるんだ。冗談じゃない!医師として、そんなことはできない。いつ倒れるかもしれないんですよ、それでは。それに第一、死期をはやめることになってしまうことになる。医師としてね、そんなことは認められない。話になりません!」顔を真っ赤にして拒絶する医師。指先がわなわなと震えている。「先生。このまま、ベッドにしばり付けられたまま最期をむかえる患者の身にもなってください。白い天井を見つめたままで、なんの楽しみもなく過ごすなんて。あんまりです、残酷です」なおも食い下がる小夜子だが、医師は呆れかえった顔をみせている。だめだめ、と首をふるだけだ。「あなたねえ、病人に早く死ね!とでも言うの?信じられませんな、まったく。楽しみがない?そんなものは家族で楽しませてやりな...水たまりの中の青空~第二部~(三百十一)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~(三)誕生!

    そこかしこから拍手がわく。苦笑いを見せつつ、着物のすそをはしょった。「お兄さん、きっぷがいいじゃないか。男だねえ!」。小料理屋の二階から声がかかった。とたんに次郎吉が不機嫌になり、「まっぴらごめんでえい!」と駆けだした。真っ直ぐ進むと先ほどの子どもが盗みを働いた八百屋がある。次郎吉は、いかにもその八百屋の前を通りたくないと言いたげに、わざわざつばを吐き捨てて左へ折れた。どことて行く宛のない気の向くままの散歩、一見そう見えるように肩をいからせている。が、次郎吉の心の中では、先ほどの子どもの事を見ていた者には考えもつかぬ、恐ろしい計画が練られていた。この通りをもう少し歩くと町屋から外れ、大名屋敷の連なる一帯に出る。実は、そこが次郎吉の目的の場所だったのである。子どもの一件は、次郎吉にとって天の配剤とでも言うべ...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(三)誕生!

  • 青春群像 初恋物語り [レモンの夕立ち](三)

    「ほら、次だ!」シン公の大きな手が、アコの頭を包みます。暖かい、手でした。「ア・コ・ハ・オ・レ・ガ・ス・キ」「へぇー、そうかい?アコは、俺が好きなんだ。」「バカ!知らない!イーだ!」と、口を尖らせるアコでした。「それじゃ、これだ。」「オ・レ・ハ・ア・コ・ガ・キ・ラ・イ。えぇ、いじわるう!それじゃ、こんどはあたしのばんよ!」アコはすぐにシン公の後ろに回り、大きな背中に小さく書きました。「なに?そんな小さくちゃ、分かんないぞ!うん?キ・ス…キス?」シン公の素っ頓狂な声に、アコはプウー!とほほをふくらませました。「もお、シンちゃんの、えっちぃ!スキって、かいたのよ。それを、最初のスだけ、いわないんだから!」アコは不満げな声を出しながら、シン公の背中に耳を当てました。力強い心臓の鼓動が、アコの耳に心地よく響きます...青春群像初恋物語り[レモンの夕立ち](三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十三)

    医師を長らく見てきた看護婦も、石部金吉のごとくに勤勉実直さを体現してきた医師の、あり得ないことばに信じられないといった表情をみせた。「いや、こりゃどうも。ぼくには似合わぬことばでしたね。いや、失敬失敬」当の本人にしても、どうしてこんなことばを口にしたのか、いやそもそもこんなことばが浮かんだのか判然としない。若い女性患者を受け持ったのは勝子がはじめてであり、上司である内科部長に、担当を変えてほしいと先日に申し入れをしたほどだった。どうにも勝子相手ではドギマギとしてしまい、聴診器を胸にあてるおりには横を向いてしまう。透きとおるほどに白い勝子の肌がまぶしく、いっそのこと色メガネをかけての診察をと考える自分が滑稽に感じられる医師でもあった。「女の柔肌にふれたこともないんだろう」。「年増ばかりを相手にしてちゃ男がみ...水たまりの中の青空~第二部~(三百十三)

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