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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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住所
岐阜市
出身
伊万里市
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2014/10/10

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  • 愛の横顔 ~地獄変~ (四)夢:後

    足もとに目をやりますと、なにやら蠢いております。トカゲのようなゴキブリのような、そんな気味の悪いものがわたしの足指やら、ええっ!手指の間やらをはいずり回っております。わたしの体を這っているのでございます。ナメクジのような、ウジ虫のような、……うわああぁ!お腹といわず、胸といわず、股間もでございました。お待ちください、それだけではないのです。じつは、おぞましいことに、口のなかからも出てくるのでございます。湧きでてくるのでございます。あ、あろうことか……。あ、ありえません。わたしの顔を持った、大便にたかる銀蝿が、口といわず鼻といわず、耳からも飛びだすのでございます。ああ、も、もうし訳ありません。もうこれ以上のことは、わたしには申し上げられません。失礼いたしました。ここでやめては、なんのことかおわかりにならない...愛の横顔~地獄変~(四)夢:後

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百十四)

    日本橋に会社をうつして三年目のことだ。武蔵が五平を、社員たちのまえで怒鳴りつけた。闇市での商売のおりには、目くばせを受けながらのことはあった。しかし今回は、いきなりだった。武蔵の真意をはかりかねて、といってそれを問いただす勇気もでずに、ただただいじけてしまった自分が情けなかった。「タケさん、すまない。慢心してたよ、オレッちは」二階の開け放たれている社長室にまで五平のどなり声が聞こえてきた。なにごとかと階下をのぞくが、受付に客らしき人物はいない。ただオロオロとしている、まだ入りたての若い娘が見えるだけだ。顔をおおって泣いている。五平が叱りつけたのかと階下におりてみると、五平は電話の相手に声を荒げていた。あきれ顔の徳子に、「専務があんなに怒鳴るとは。あいては筋もんか?」と、武蔵が聞く。徳子の説明によれば、忙し...水たまりの中の青空~第三部~(四百十四)

  • ポエム ~焦燥編~ (その死)

    病死というわけでもなく自然死というわけでもなく他殺死でも事故死でもないその死……ギラギラと灼けつく太陽その下の砂漠で水を失ってもひとが生き得る時間は?太陽も月もなく雨も風もないそんなときいつまで孤独に耐えられる?その死……無音の部屋のなかでの光が失われたなかでの飢えと渇水によるその死……(背景と解説)事象は理解してもらえると思いますが、心象は不可解ですよね。正直のところ、わたしにも分かりません。ただ単に言葉を羅列しただけのことなのか、それとも意図を持って配置したことなのか、分からないんです。罰?を意識しているのでしょうか。飢餓地獄?と考えても見たのですが、違和感がありますし。当時は、地獄に意識があったようなのです。無音と闇、地獄でもないみたいですし。二十歳前後というのは、自分のことなのに、さっぱり分かりま...ポエム~焦燥編~(その死)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十七)

    いっそ会社内でと見わたすと、格好のふたりがいた。ではどちらが……と考えたときに、岩田がまっ先に候補にあがったが、真面目すぎるのよねと打ちけす気持ちがわいた。つぎに彼では?と考えてみたが、あまりに違いすぎる性格に思えてしまった。考えあぐねた末に、真理子自身の気持ちを確かめることにした。「もしもよ。もし真理子ちゃんが誰かとデートするとしたら、どんな子がいいかな」特定の人物をさすのではなく、理想の男性像として聞いてみることにした。しかし真理子の口からは「あたしなんか、だめです。そんなこと、考えられません」と、真理子の策略に気づいているのか?と疑いたくなることばが返るだけだった。しつこく問いただしては貴子にたいする警戒心が生まれてしまうと考えて、しばらくは話題にしなかった。そんな折に、もうひとりの事務員が平日に休...青春群像ごめんね……えそらごと(十七)

  • [ブルーの住人]第五章[蒼い情愛]~はんたー~

    (三)絶叫その部屋は、閑とした部屋。つめたい空気だけがおともだち。潜在的な○に対する恐怖感を感じさせたが、ややもすると○への恐怖感を超越しがちでもあった。“地獄ってのは、あるのか?ふん、あるわけないか”“地獄がない、とは…言えないか…”“意識が遠のく…とだえる…それが、○か?”恐怖の究極…不安と絶望と、そしてやはり恐怖。そしてそのどれもに、絶叫をともないそうだ。絶叫――なんにんが○刑の宣告を受けて、こうやって執行の日を待った?なんにんが、落ち着いて○を待ったんだ?待った、のか!ほんとに、待ったのか!![ブルーの住人]第五章[蒼い情愛]~はんたー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (四十七)

    (闘い終えて二)口ごもりながらも納得のいかぬムサシに対し、「ムサシさま。あなたさまの剣技は、ムサシさまならではのものでございます。並みのお侍ではご無理でございましょう。さらに申し上げますれば、宍戸梅軒さまとの試合においては、お刀を投げ捨てられたとか。武士の魂であるお刀をです。これ一つ取りましても、『武士たる者の所行か』となりまする。そして吉岡一門との決闘における二刀流然り、更にはこのたびの櫂を削られての木剣然りでございます。戦国の世ならばいざ知らず、太平の世に向かいつつあるこのご時世でごさいます。どうぞお察しを」と、番頭が深々と頭を下げた。「いやしかし、佐々木小次郎を倒せば良いのではなかったのか。ならば、どうすれば……。まともに闘って勝てる相手でもなし」絞り出すような小声のムサシに、番頭は頭を下げるだけだ...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(四十七)

  • 原木

    来週より、中学時代にはじまった創作活動時の、作品を載せていきます。本来なら手直しをして、キチンとした作品に仕上げるべきなのですが、タイトルにもあるように、そのままの作品とします。タイトルの「原木」とは?、①製材される前の、伐採した状態の木材。(Wikipedia)②加工をする前の、もとの木。(国語辞典)③丸太や杣角(そまかく=材の縦面を斧などで粗く落とした木材のこと)を指す。(住宅用語)「源流」とすべきか?とも思ったのですが、大げさすぎる気もします。物事の始まりとか、水源とかいった意味ですよね。余談ですが、日本国(日本列島沿岸部)の水源は、沖縄県八重山郡与那国町と定められているようです。幼稚園時代から小学校卒業まで、短期間の引っ越しをくりかえしました(経緯を「ボク、みつけたよ!」に載せています)。そんな状...原木

  • 愛の横顔 ~地獄変~ (三)夢:前

    わたしはここに告白いたします。父と娘のあいだの愛の哀しさを、どうしても告白せずにはいられないのです。ここにおいでの殆どの方々が、おぞましさを感じられることでしょう。が、わたしにしてみれば恐ろしいことながらも、快楽でした。無上の歓びと申しましても過言ではありますまい。わたしは十有余年の間というもの、告白の機会をうかがいつつ、今日まで口をつぐんできたのでございます、はい。娘の命日であるきょうののこの日に、お集まりの皆さまがたに是非ともお聞きいただきたいと思いまして。わたしと致しましては、このことを決して罪悪だとは思っていないのでございます。が、この一週間というもの、いやなそしておぞましい夢を、毎晩のように見つづけたのでございます。その夢というのが、なんとも身の毛もよだつものでございまして。ゆめ━それは地獄の夢...愛の横顔~地獄変~(三)夢:前

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百十三)

    「タケさん。いっそ、」「いやだめだ、それは」五平に二の句をかたらせることなく、即座に否定した。「勘ちがいするなよ。あいつの資質云々じゃない。まだ早いってことだ。小夜子の準備がどうのというのじゃなく、世間さまが認めてくれない。小商いならいざしらず、富士商会はいっぱしの会社だ。それもこの業界では、いっちゃあなんだが、ナンバーワンだろうが。第一だ。次期社長の加藤五平だからの結婚話なんだ」「しかし社長……」と、五平には納得できない。わかとのことからではない。社内的にどうなんだ、と思ってしまう。「乗っ取った」。そのことばが頭からはなれない。〝いっそ、佐多を……〟と、頭をかすめた。しかしそれとて、社員たちの非難の声はあがるだろう。そう思ってしまう。武蔵も五平の危惧感はわかっている。五平が継ごうが、佐多をむかえいれよう...水たまりの中の青空~第三部~(四百十三)

  • ポエム ~焦燥編~ (ことば)

    いま、ことばを忘れてしまった。いま、為す術を失った。ただ、ベッドの上に座りボンヤリとテレビに見入る。……書く気が失せてる……最近、どうしてだか分からないが、女というものを単なるセフレとしか考えられなくなった。二十歳……大人への登竜門煙草を吸った酒も飲んだパチンコもしたなにかしら“大人”ということばの奥に恐ろしいものが隠されているようなそんな気がしてならない若さは悲しいけれど哀しみの心を捨てたくないことばで自分を飾りたくないことばで自分を守りたくない(背景と解説)前回の詩を思うと、まだ、己を美化しようとしている気がします。ですが、そこまで疑うと、自分を殺してしまいそうで……。本心だと、隠すことのない心情だと、思いたいです。確かにこの時期は、小説から離れていました。日記を読み返しても、ありませんし。どころか、...ポエム~焦燥編~(ことば)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十六)

    昨夜のことだ。ひと月以上も前に別れを切り出された相手から「やり直そうよ」と、貴子に電話が入った。なによ今さらと答えつつも、未練の気持ちがある貴子に異はない。「あの娘は連れてくるなよな」と詰問調に言われると、心内ではそうよねと納得しているのに「わたしの妹なのよ」と反発してしまう。キスもできないじゃないかと反駁されると、黙らざるを得なかった。激しい口論の末に、悲しみとも怒りともつかぬ思いが貴子の中に充満した。その思いが彼に向けられたものなのか己に向けられたものか、それすら分からぬままの朝を迎えた貴子だった。とにかく少し考えてみるからと電話を切ったものの、真理子をひとりにするわけにはいかないと考えてしまう。前の職場で受けた傷がまだ癒えていないのだ。二十代後半ばかりの女性社員の中にただひとり、十五歳の地方出身者の...青春群像ごめんね……えそらごと(十六)

  • [ブルーの住人]第五章[蒼い情愛]~はんたー~

    (二)繋がりその○刑囚は、冷たい銀のフォークの眼差しで、裁判官の胸を突き刺した。「あんたに、なにがわかる!」。こころのなかでつぶやいた。ひとり、○刑を宣告された現実をかみしめる○刑囚。うす暗い、四方を冷たいコンクリートで閉ざされた部屋。便器と文机と、そしてキチンと畳まれたせんべい布団一式。俗界につながる、唯一の楽しみの窓は、頭上高くにある。太陽がのぞきこむ少しの時間と、空の一部のみを見るという哀しみ。いっそ、なければいいのに。いやいやいまの○刑囚にはそのことよりも、その窓があるということが、忌いましい。その窓が、○刑囚の俗界に対する未練心を、郷愁をかきたてさせることが腹立たしい。いっそ、なければいいのに。もし…窓がふさがれたら…やはり腹立たしい。青空…雲…流れる…流浪…涯て…老い…○思い浮かぶことばが、○...[ブルーの住人]第五章[蒼い情愛]~はんたー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (四十六)

    (闘い終えて一)闘い終えて。佐々木小次郎との闘いにおいて勝利したムサシは、今度こその思いで小倉屋に戻った。賞賛の声で迎えられるものと信じていたムサシに対し、主の出迎えはなかった。表から入ろうとするムサシに対し、慌てて手代の一人が小声で「裏手にお回り下さい」と告げた。怪訝な面持ちのムサシを待っていたのは、あれこれと世話を焼いてくれた番頭だった。破顔一笑で近寄るムサシに対し、「ムサシさま。誠に残念ではございますが、御指南役のお話は流れてしまいました」と、苦渋の表情を見せつつ告げた。「話が違うではないか。佐々木小次郎を倒せば、今度こそ間違いなく剣術指南の道が…」呻くようなムサシの声を、番頭が冷たくさえぎムサシである。育ての親のごんた同様に、後ろで縛っているだけだった。長く伸びた折には、小刀でもってざっくりと切り...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(四十六)

  • 愛の横顔 ~地獄変~ (壱)法事:後

    「本日は、わたくしめの愛娘、妙子の法事でございます」キョロキョロと辺りを見回し、坂田かね三十三回忌法要の文字を見つけられると、満足そうに頷かれるのです。「三回忌、三回忌ですぞ。かくもにぎにぎしくお集まりいただいて、わたくし感極まる思いでございます」そこまでおっしゃられると、目頭をおさえられ声をひそめられました。「ご老人!たえこさんとか、言われましたか?ここは、坂田かねの法要の場ですが。なにか思い違いをなされているのではありませんかな?」大叔父の善三さんが、声を上げられました。みな一斉に、善三さんに視線を注ぎます。そして、大きく頷かれます。これでご老人が勘違いに気付かれることだろうと思いましたのですが、「だまらっしゃい!」と、一喝でございます。「わしの話を聞けぬと言う不らちな輩は、即刻この場を立ち去りませい...愛の横顔~地獄変~(壱)法事:後

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~(四百十二)

    しかし懸念材料がある。いま五平には、わかという内縁関係の女がいる。ふらりと立ちよったいっぱい飲み屋の女で、転がりこんでからもうそろそろ一年になるという。近々籍を入れるつもりだときかされている。こまかく聞こうとすると口をにごすところをみると、なにやら過去において関わりのあった女らしい。「じつはな……」と、佐多支店長の申し出を五平につたえた。「えっ!」。絶句する五平に、追いうちをかけた。「すまん、五平。俺のいたらなさからこんな結末を迎えてしまった。俺はどうしても、富士商会をのこしたい。それは五平もおなじだと思う。そして武士に継がせたい。まだ生まれたての赤子だけれども、その将来に富士商会という財産をのこしてやりたい。武士に花をさかせてほしいんだ」切々とうったえる武蔵に、五平も否はない。それが当然だと思っている。...水たまりの中の青空~第三部~(四百十二)

  • ポエム 焦燥編 (てん・てん)

    「霊の世界は閉ざされてはいない。汝の官能が塞がり、汝の胸が死んでいるのだ」牧師のそんな言葉も、死刑囚には何の意味もなく、まして感動は与えない。否、安らぎを与えられるまでもなく、死刑囚の心は落ち着いていた。その落ちつきは、己以外の人間に対する軽蔑からくる、ある種の快感のようなものだった。「人生の紙くずを縮らして飾り立て、それでピカピカ光っている演説なんてものは、秋の枯葉の間をざわめく、湿っぽい風のように気持ちの悪いものだ」早くやめてくれと言わんばかりの死刑囚の顔には、牧師以上の何かが、神から授けられたようだ。或いは、死神のとり憑いた死刑囚への、最後の贈り物かもしれない。そして今、ついぞ今まで信じなかった神の存在を、死刑囚は意識せざるを得なかった。間もなく訪れる十時十分。執行時間は、すぐそこに足を運んでいた。...ポエム焦燥編(てん・てん)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十五)

    「べつにそんなこと……」と、不機嫌に口を尖らせた。大きな音を立ててドアを閉めて車に乗りこむと、力まかせにギアを入れて発進させた。暖機運転はしっかりとしている筈なのに、今朝のエンジンは機嫌がわるい。ヨタヨタとした走りで少しもスピードが上がらない。不本意ながら、チョークを一杯にひいた。エンジンが急激に元気になり、スピードが乗った。ところがすこし走ってすぐにエンストしてしまった。駐車場から公道にでる直前だったことが不幸中のさいわいだった。平日ほどではないにしても、車の行き交いはあるのだ。いまも一台の車が通りすぎた。「なに、どうしたの?下手ねえ。もっとスムーズに運転してよ。点数、下がるわよ」眉間にしわを寄せて、貴子が注文をつける。(あんたの体重のせいだよ)と、こころの中で悪態を吐きながらも「はいはい、おことば通り...青春群像ごめんね……えそらごと(十五)

  • [ブルーの住人]第五章:[蒼い情愛]~はんたー~

    寝ぐるしい夜があけた朝、母が、おれの記憶から消えさっていた。そしてその日から、母にたいして怨嗟の念をだいていた。「親としての責務をはたせよ!」「ごめんね、ごめんね……」ときおりかかってくる詫びの電話。嗚咽とともにくり返される、詫びのことば。しかし日が経つにつれて、単なる雑音となった。なんの感慨もわかず、なんの感情も入ってこなくなった。そしてそれは、けっして自暴自棄のこころでは、ないはず筈だ。そう、思った。━━━━━━・━━━━━━(一)鼠その○刑囚は○への恐怖心がうすれるにつれ、生あるときを思いおこした。活きいきと生きた、そのときを思いおこした。己のつみを意識し、悔いた。しかしその悔いは事件にたいする悔いではなく、おのれの過去と未来への悔いだった。「○刑に処する」冷たく事務的なこのひと言は、○刑囚にはなん...[ブルーの住人]第五章:[蒼い情愛]~はんたー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (四十五)

    (舟島八)勝負は一瞬にして決まった。誰もが、己の目を疑った。血のりの渇かぬ木刀を持ったまま傲然と小次郎を見下ろすムサシに対して、「卑怯なり!ムサシ。約束の時刻を違えるとは、武士にあらざる行為なり」「卑怯なり!ムサシ。小次郎殿の口上途中においての、あの言動は」「不作法なり!真剣を望みしが、何ゆえにそのような棒きれなどを!」と、ムサシへの罵声が浴びせられた。定められた場に腰を下ろしたままに、声を枯らし続けた。誰一人として小次郎の元に駆け寄る武士はいなかった。仁王立ちするムサシの姿に、皆が気圧された。恐れをなした。「鬼神だ、あの者は…」誰かが小さく呟いた言葉が、武士たちの足を射すくめていた。そして城代家老沼田延元の言葉が、居並ぶ武士たちを納得させた。「ムサシなる者、兵法者なり。而して小次郎殿は、剣客よ。互いに、...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(四十五)

  • 愛の横顔 ~地獄変~ (壱)法事:前

    (一)法事:前その日はいつになく穏やかな日和で、この法事の席に集まられたみなさんの表情も穏やかなものでした。まあそんな中で、喪主の松夫さんだけは硬い表情をされていましたけれども。談笑されている方々から、ときおり声を掛けられるのですが、軽く頷かれるだけでございました。ご心配なことでもあるのかと、わたしと大叔父の善三さんとで話をしていたのです。「お疲れのご様子ですね、松夫さんは」「なあに緊張しているんでだろう、松夫の嫁が居ないものだから。まったく情けない、まったく。なにもかも嫁まかせにしておるんじゃから」「はあ、そういうことですか。で、いつごろの退院となるのですか?」「一週間もすれば、と聞いておるけれども」そのときでございました。突然に見知らぬご老人が、座敷に上がってこられたのです。「ごめん」。ずかずかと、上...愛の横顔~地獄変~(壱)法事:前

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百十一)

    武蔵の額に冷や汗が浮かんでいる。苦しげに顔をゆがめることもある。「ここまでにしますか。またあらためて伺いますよ」容態の変化に気づいた佐多は、おのれ因で悪化されては困るとばかりに申しでた。しかし武蔵は首をふり、「いや、もう大丈夫です」と精一杯の声をだした。「どうでしょうかな、五平で乗り切れますかな?」。核心を突いてきた。「えっ!……そうですなあ。正直のところ、五分五分といったところではないですかな。富士商会さんは、各社からねらわれている。すきあらば取って代わろうという会社は多いでしょう」「やはり……」。そう言うと目を閉じる武蔵だった。佐多は、五平では乗り切れない、と考えている。武蔵と一致した。武蔵のなかに、はやく会社に復帰せねば、と焦りのこころが生まれている。居ても立ってもいられぬ、はじめての経験だった。焦...水たまりの中の青空~第三部~(四百十一)

  • ポエム 焦燥編 (敬虔)

    俺はなんとかしてケイケンな気持ちになろうと務めたシュウキョウという観念の前でユルシを請おうとこころみた轟々とミズの流れおちる滝の下で修行者のマネゴトごとをしてみた白いユキの降りつもった山中で白装束いちまいでダイノジになってみたそしてそしてじりじりとヤケツク砂浜を素の足でハシリつづけてみたしかしそのスベテがむだだった理知的、論理的ニンゲンの俺には許されるコトのない許されるハズのないことだった(背景と解説)なんとも傲慢な若者でした。いま思うと、ある意味、唾棄すべき人間です。カタカナにしてしまうことで、己とは無縁な、いえそれらを超越した人間なのだと思い込んでいる――思いこもうとしている、まったく馬鹿な若者でした。彼女らに、次第に距離を置かれたとしても、自業自得というものでしょう。形の上では己を責めているようにし...ポエム焦燥編(敬虔)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十四)

    朝食もそこそこに、約束の十時より一時間もはやく会社の駐車場についた。毎日つかっているからと、週末にはかならず洗車をしワックスがけもしている車から「はやいね」という声が彼に聞こえてきた。にが笑いを見せる彼で「二度ぬりすると色が沈みこんできれいですよ」とガソリンスタンドでアドバイスされたことを思いだし、もう一度ワックスがけをすることにした。その後エンジンオイルの確認をして、車内の掃除も念入りにした。すこし離れた場所からあらためて車をながめると、たしかにグレーの色が沈みこんだ状態になっている。思わず「渋いぜ」と口にする彼だった。空はあいかわらず、快晴だ。十時すこし前を、最新型の腕時計が指している。彼の自慢の腕時計だ。どうせ買うならやはり良いものをと、セイコー社の高級品を購入した。「どうだい」と見せびらかす彼にた...青春群像ごめんね……えそらごと(十四)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (二十三)lastどういうことだ?病院をまちがえた?確かに、kashiwara総合病院のはずだ。親切な運転手さんが探しだしてくれたんだ。思いだした!手紙にそうあった。そうだった、手紙だ。手紙を見せれば良かったのに、失念していた。この内ポケットに入れて…、ない!ここにもない!そうだった。鞄の中だ、落とさないようにと入れ替えたんだ」「……ない!おかしいぞ、忘れてきたのか?新一くん、ヒンヒシフン…ヒミ、ヒラナヒカ…?(シンイチクン…キミ、シラナイカ…?)」「……」ソンナカオヲシナイデクレヨ。コエガ、コエガ、コワレテルナンテ……ウケツケノアナタ……ソンナカオヲシナイデ……ヨ……[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (四十四)

    (舟島七)―ヒューン!―小次郎の長剣は空を切った。それは、風の如くに軽やかだった。何の手応えもなく、空を切った。小次郎は違和感を感じた。何物かが、いや小次郎には分かっていた。藩主忠興より拝領の金糸で刺繍された陣羽織の袖が、小次郎の動きに僅かのずれをもたらせた。―ブォーン!―ムサシの木刀は、小次郎の長剣に遅れて振り下ろされた。小次郎の脳天に、真正天から振り下ろされた。小次郎の剣の鋭さに比べムサシの木刀には重さがあり、明らかに一撃必殺を意図していた。それが小次郎の体の一部にさえ触れさえすれば、撲殺できると踏んでの一撃であることは明白であった。正に戦国時代における、肉弾戦であった。様式美などは、微塵もなかった。小次郎の剣捌きとは異質のものであった。小次郎が追い求めた『能』に通ずる様式美とは、相容れないものであっ...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(四十四)

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百十)

    「このことは他言無用でお願いしたい」。再度、念を押す。これは相当なことだと身構える佐多に対して、時折ゼーゼーと息を切らしながら、それでも眼光するどく「これからのことを加藤専務にまかせよう、と思うんです」と告げた。順当な人事だとは思える。富士商会の序列からいって、専務がその任にあたるのは、至極当然なことだった。しかし、と佐多には思えた。加藤は社長としての器ではない。やはり所詮は番頭だ、そう思えた。〝わたしなら……〟。かくれていた野心が芽を出してきた。株式会社という組織の体をとってはいるが、やはり富士商会は、御手洗武蔵という個人の店だった。取引先のほとんどが、富士商会に対して好感をいだいているはずがない。取引条件の厳しさは群を抜いている。しかしそれに甘んじるだけの魅力が、富士商会いや武蔵にはある。どっしりとし...水たまりの中の青空~第三部~(四百十)

  • ポエム ~焦燥編~ (もがいて……)

    恋に終わりがくる渚に陽がしずみ闇の訪れのこえ━stopthemusic!悲しみの森のなかひとり思い出とあそび影と語りあう━stoptheguitter!色のない夕焼けずてが色あせていく去りゆく足おと━stopthedrams!空に赤い雲鳥がふた羽飛び夜の訪れ━stopthebase!わたし、信じていたわたしあなた、裏切ったあなたすべてに、終わりがくる━stopthewords!(背景と解説)妄想です、これは。勝手に、思い込んでいただけのことですわ。相手が離れていくのではないかと、不安な思いが渦巻いているときです。ちょっとした仕草-わたしが相手を見たときに相手がよそ見をしていたとか、バニラのアイスが食べたい私なのにチョコが良いと言う相手-そんなことで、クヨクヨイジイジしたりして。そのくせ、一人でいても寂しさ...ポエム~焦燥編~(もがいて……)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十三)

    日曜日、天気はカラリと晴れ渡った。いつもなら昼ちかくまで白河夜舟のくせに、すこし開けておいたカーテンの隙間からさし込んだ太陽のひかりで、平日よりもはやい七時に目がさめた。足下のかべに貼ってあるカレンダー写真のおおきな鉄砲百合がニッコリと微笑みかけている。「良かったね、楽しんでね」と呼びかけられた気がして、浮き浮きとした気分でベッドから飛びおきた。考えてみれば、昨夜は、いつもの土曜日とはまったくちがう時間で動いた。終業時間の五時半になっても、グズグズとロッカー前をはなれない。「どうした?」。先輩社員に声をかけられても「はあ、ちょっと」とはっきりしない。岩田がいつものようにすこし遅めに帰ってきて、「あれ?なに、待っててくれたの?」と嬉しそうに話しかけてくる。「いや、別に。……そうだった。あれ、どうした?いいや...青春群像ごめんね……えそらごと(十三)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (二十二)押し問答「申しわけありません。もういちど、名前をお聞かせください」「minakoさんです」「苗字は、なんと言いますでしょうか?」「最近、ひと月も経っていない最近に勤めはじめたはずです」押し問答をくりかえして、たぶん十分は経ったと思う。受付の女性もうんざり顔だが、ぼくだってうんざりだ。どう説明しても理解してくれない。ぼくに多少の非があることは分かる。うかつだった、確かに。おたがい名前を呼びあう仲だったので、苗字をきいていなかった。「ご実家の電話番号を…」と言われても、いつもminakoの方から連絡が来ていたから…。「何科勤務なのか、わかりますか?それと以前の勤め先病院名は、分かりますか?」立てつづけに質問される。それも意地悪な質問ばかりだ。ぼくの知らないことばかりを問い詰めてくる。どんな顔立ちかど...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (四十三)

    (舟島六)街の辻々で交わされているムサシ像だが、どこまでが真実の話なのか、実のところ誰も知らなかった。「あのムサシってのは、人間じゃねえんだってよ。なんでも、唐天竺から追い出された、羅刹天だって話だ」「とにかく、すごいのなんの。吉岡兄弟といい、幼い又七郎といい。まるで阿修羅だそうだ。二本の刀を自由自在に振り回して、バッタバッタと斬りまくったそうな」「それにしても、むごいことじゃないのさ。まだ年端もいかない子どもまでもねえ」目をぎょろつかせた男たちが噂をし、幼子を抱いた女が涙を流す。「そういや、あのムサシってお方は、米や麦の飯は喰わずに鳥やけものをくらうそうじゃねえか。草や木の根っこもかじっているそうな。まったく、恐ろしいこった」「とに角大男だってさ。まゆ毛が赤くって、目は青いそうだよ。鼻なんか上唇にくっつ...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(四十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百九)

    そこまで思いがいたったときに、「すみませんなあ、佐多支店長。まだ起きませんか?」と、五平が入ってきた。「またつぎの機会に、ということで……」。ソファから腰を上げて、中折帽を手に取った。どうしたものかと考えあぐねる五平だったが、意を決して「じつは……」と佐多を押しとどめた。「本来なら御手洗の口からお願いしなければならんのですが……」。ことばが続かない。じれる佐多の表情をみて、「これは他言無用でお願いしたいのですが、」と言いつつ、またことばが止まった。「なにか余ほどのことですかな?わたしも銀行員の端くれです。お客さまの秘密は、ぜったいに外にはもらしません。どうぞ心配なさらずにお話しください」「どうした、五平。自分の口からは言いにくいのか」弱々しいけれども明瞭な声が後ろから聞こえた。酸素マスクを外した武蔵が、声...水たまりの中の青空~第三部~(四百九)

  • ポエム ~焦燥編~ (いらだち)

    群れを離れた一匹狼のいらだち鉄工所の騒音から逃れ無音室の中に入り込んだ男のいらだち街頭の喧騒音から逃れ地下のバーに逃げ込んだ男のいらだちコンサートの狂騒から逃れトイレの中に隠れ込んだ男のいらだちとどのつまりが鉄工所に街頭にコンサートにそれぞれが戻っていった(背景と解説)当時のことを思い出そうとするのですが、当時の日記を読み返そうとしてみるのですがなんの記述もないんですわ。ぽっかりと、空白なんです。中途半端な状態なんですが、どうもここまで書いてみたものの、どうにもつづかなかったようで……。こらえ性がないといいますか、淡泊とでもいいましょうか。すぐに土俵を割っちゃうんですよね。時間がとれたら――って、いまはリタイア生活なんだから時間はあるんですけどね。前にもお話したと思いますが、あの頃の自分がわからなくて……...ポエム~焦燥編~(いらだち)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十二)

    突然のことになんと返事をしていいのかわからず、ただドギマギして口ごもってしまった。「じゃあ、あす十時に会社の駐車場ね。そういうことで、キマリ!」一方的に取り仕切られて終わった。自分の行動を他人に仕切られることを極端にきらう彼だが、今回はちがった。自分の決断ではなくても腹が立たない。すでに頭の中では、あしたの走るコースを色々と思いめぐらせていた。真理子という娘は、一週間ほど前にはいって定時制高校にかよっている。定時よりも早い五時に退社し、自転車をか駆ってつうがくしている。入社初日に自転車の都合がつかず、手のあいていた彼が車で送ることになった。むっつりとした表情を見せながらの、十分間ほどのデートになった。真理子は「すみません」とすこしかすれた声を出し、申し訳なさそうな顔つきを見せた。彼はといえば「仕事の内だか...青春群像ごめんね……えそらごと(十二)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (二十一)大っきい病院だね?病院の住所がわからないわたしは、奮発してタクシーに乗りこんだ。とても親切な運転手さんで、少ない情報しか持ち合わせていないわたしに、最大限の協力をしてくれた。無線機をつかって、ほかの運転手さんに呼びかけてくれたりもした。「kashiwara市の病院だね?大っきい病院だね?市民病院ではないんだね。となると、あそこだな。公立病院じゃないわけよね。kashiwara総合病院というのがあるんですよ、民間だけれども。了解!すぐですから、ほんの2、3分で着きますから」「お客さん、地元の人じゃないね」「観光かい?きょうは」「ここには……なんかあったっけ?」「ああ、そういえば、神社があるねえ」「お正月には、すごい人だよ」「そうそう、ずいぶん古いところでさ」「ことしは、なん年だっけ?」「うん。こと...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (四十二)

    (舟島五)「約束の刻限に遅れるとは、何ごとぞお!」愛用する長剣を右手に持ち、鞘を投げ捨てて、小次郎は走り寄った。波打ち際を走り続けるばかりのムサシは、その場に止まって決しようとする気配をまるで見せない。小次郎に罵声を浴びせながら、ただただ走る。次第に小次郎の体力が奪われていく、胆力が失われていく。野生児のムサシ、策士なり!「敗れたりい!小次郎。何ゆえに、納めるべき鞘を投げ捨てる。勝負を捨てたかあ!」突然の、思いもかけぬムサシの言葉に、激しく小次郎は動揺した。荒ぶるムサシの言葉に、翻弄された。三尺にも及ぶ長剣の鞘、邪魔になりこそすれ、打ち捨てても何の問題もない。しかし様式美にこだわりを持つ小次郎の心底に響いた。思えば、道場での立ち会いは礼に始まり礼に終わる。御前試合もまた、然り。御城内での御前試合に首を縦に...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(四十二)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (二十七)

    “わたしはほんとうに、トップに立ちたいの?ただ幼いころにいだいた憧れの気持ちに酔っているだけじゃないの?わたしの居場所は、あの教室の、一講師にすぎないのでは?”“わたしはトップに立てるの?そして上り詰めたその座は、本当にわたし居場所なの?それにいつかは、いまのわたしのように、だれかに追い落とされるんじゃないの?”疑念が渦巻いてる。松下という男を信じていいのか。しかし「結婚」ということばすら口にした、愛人ではなく、妻として迎えると言ってくれた。激しい高揚感につつまれる。“そうよ!自分の居場所はトップなのよ!”そしてそれは、いま、目の前にいる松下によって与えられるものなのだ。意を決して、栄子が二人を前にした。「決めました、あたし。松下さん、お世話になります。あなたの妻にして下さい。そして、トップスターにしてく...愛の横顔~100万本のバラ~(二十七)

  • ポエム ~焦燥編~ (朝、太陽が消えた)

    時の流れは今川となりました銀の皿は流れるのですその上に空を乗せたままその夜空は消えましたその朝には太陽が消えました(背景と解説)女友だちとの間が冷え切っていたという時期ではないのです。二股交際という言葉がありますが、わたしの場合は殆ど重なりません。不思議なのですが、ある女性との付き合いが疎遠になると、新たな出会いがあるのです。浮気ぐせ、とも違います。そりゃ、血気盛んな青年時代ですから、色んな女性に目が動くことはあったと思います。でも、この年になって色々思い直して-己を見つめ直してみると、一番の原因は、自分に自信が持てなかったのだと思います。短期間ならば薄っぺらい自分を隠せますからね。当時の連絡手段と言えば、固定電話か手紙ぐらいのものでした。手紙は、正直言ってお手のものでしたから。話を戻します。この詩は、自...ポエム~焦燥編~(朝、太陽が消えた)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十一)

    えそらごと(十一)店に戻ってダメ元だとばかりに、「いつもにくらべてエンジン音が違っているし、アヒルの鳴き声みたいなんです。それに、ブレーキの効きが悪くなってますし…」と主任に車の異常を報告した。「音だって?お前さんの運転ではうるさいわな。ブレーキ?そんなことは自分のジマンの腕でどうにかしろ。急ブレーキをかけなきゃいいことだし、サイドにしたってギアをローに入れておけば問題ない」と、予想通り相手にしてもらえなかった。(ケッ、なんとまあ調子のいいことを。自分の腕でカバーしろだって。いつも『人間の勘とか腕だとか、そんなものに頼ってはいかん。おかしいと思ったらすぐに報告するように』なんて、いつも言ってるじゃないか)。心内で愚痴りながら、うしろ向きの姿勢で思いっきり舌をだした。苦笑しながら話を聞いていた事務員のひとり...青春群像ごめんね……えそらごと(十一)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (二十)グデン・ぐでんそして書いてあった、詩。(グデン・ぐでん)というタイトルが。わたしはいま、とても酔っています。グデン、ぐでんの、泥酔状態です。わたしは今、とても淋しいのです。人恋しくて、人恋しくて、たまりません。わたしは今、とても泣きたいのです。ワアー、ワアーと、号泣したいのです。あのひとは今、どうしていますか。よっしゃ、よっしゃと、駆け上がってますか。あのひとは今、燃えていますか。ワッセイ、ワッセイと、囃し立てていますか。あの人は今、泣いていませんか。わたしを、わたしを、思い出してませんか。わたしは今、とても酔っています。グチャ、ぐちゃの、ハッピー状態です。[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (四十一)

    (舟島四)そんな小次郎をせせら笑うかの如くに小舟から飛び降りたのムサシの目に、島の外れにある神社が入った。寺を出て十年の余、神仏に対する畏敬の念を捨て去り、一度たりとも神仏に手を合わせることのなかったムサシが―いまさら神仏に加護を願うことなどできぬと煩悶してきたムサシが、「此度ばかりはご加護を。南無八幡大菩薩、吾に力を貸した給え」と、深々と一礼をした。気勢をそがれた小次郎だったが、これが噂に聞くムサシの戦法かと怪訝に思いつつも、神仏に対して無碍な態度をとるわけにもいかない。不意打ちを考えているのかとムサシの一挙手一投足に気を配りつつ、同様に深々と一礼をした。小次郎がムサシに目を移したとき、櫂を削って作った木刀を振りかざしながら、ムサシが波打ち際を走り始めた。木刀をブンブン振り回しながら小次郎に間合いを計ら...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(四十一)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (二十六)

    「坊や。与えられるものなんかで成長するわけがないんだよ。自分の手でつかみ取るものなんだよ。もっと言えば、他人から奪いとるものなんだよ」正男にではなく、己に言い聞かせるように言いはなつ松下だった。「栄子さん、あなたは悪い人だ。こんな純真な若者をたぶらかすとは。本心をそろそろ明かして下さい。いや、良いでしょう。ぼくが彼に説明をしてあげますよ。あなたも言いにくいだろうから」栄子にすがるような目を見せる正男と正対して「正男くん。世の道理というものが、君にはまだ分かっていないようだ」と話し始めた。「現実を見なさい。君は無職の若者で、ぼくは資産家だ。この差は大きい。百万本の薔薇だって?いいだろう、ぼくなら用意できる。でもな、そんなもの何になる?それよりも一億のお金の方がどれほど有益か」「今はまだあなたに負けているかも...愛の横顔~100万本のバラ~(二十六)

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百七)

    「竹田。祈祷師がいたでしょ。つれてきて」さすがにこれには竹田も反対した。小夜子の説得にと五平に連絡をとり、そして徳子までがかりだされた。竹田の母親が見舞いにきたときには、すこし気が動転してみえるからと話し、まともに請け合わないようにと念をおした。万が一にも勝子に処したような、民間療法的なことをいいだされてはこまるのだ。さすがにこりているのか、「ばかをお言いでない!」と一喝された。気丈にふるまう小夜子だったが、竹田の母親にだけは思いがあふれでた。ソファで落ち着かない母親のひざに泣き伏して、大声で「武蔵は、あたしを見捨てる気なのよ」と号泣した。やさしく背中をなでながら、「そんなことはありませんよ」と声をかけ、「たたかってらっしゃるんです、いま。小夜子さんの応援があれば、きっときっと、ね」と励ました。「そうね、...水たまりの中の青空~第三部~(四百七)

  • ポエム 焦燥編 (右に、行け!)

    ある冬の街角で……、そう、少し雪の散らつく寒い夜のこと。ダウンジャケットのポケットに迄、冷たさが忍び込んできた。路面がうっすらと雪の化粧をし、街灯の灯りで眩しい。ひっそりとして、明かりの消えたビルの前を、ポケットの中の小銭をちゃらつかせながら歩いていた。とその時、後ろから恐ろしく気味の悪いーかすれた、腹からしぼり出すような声がする。”だめだ!左はだめだ。右に、行くんだ!”どぎまぎしながらも後ろを振り向いた。全身が血だらけで、片腕のちぎれかけた男が、呼び止める。生々しいタイヤの跡が、顔面に刻み込まれている。その男、確かにどこかで見たような気がする。が、あまりの形相に思わず目をそむけた。そのまま逃げ出し、左へ折れた。そう。男の言う、行ってはならない左へ行った。と、ふと思い出す。血だらけの男の居た場所は、雪が白...ポエム焦燥編(右に、行け!)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十三)

    日曜日、天気はカラリと晴れ渡った。いつもなら昼ちかくまで白河夜舟のくせに、すこし開けておいたカーテンの隙間からさし込んだ太陽のひかりで、平日よりもはやい七時に目がさめた。足下のかべに貼ってあるカレンダー写真のおおきな鉄砲百合がニッコリと微笑みかけている。「良かったね、楽しんでね」と呼びかけられた気がして、浮き浮きとした気分でベッドから飛びおきた。考えてみれば、昨夜は、いつもの土曜日とはまったくちがう時間で動いた。終業時間の五時半になっても、グズグズとロッカー前をはなれない。「どうした?」。先輩社員に声をかけられても「はあ、ちょっと」とはっきりしない。岩田がいつものようにすこし遅めに帰ってきて、「あれ?なに、待っててくれたの?」と嬉しそうに話しかけてくる。「いや、別に。……そうだった。あれ、どうした?いいや...青春群像ごめんね……えそらごと(十三)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (十九)「よっ!」「元気してた?」そしてminakoから届いた手紙。toshiくん。あなたを呼ぶときには、いつも「くん」付けでしたね。年下だったから、ついつい「くん」と呼んじゃいました。あなたの、男としてのプライドも考えずに。ひょっとしてわたし、あなたをあなたのことを見下していた?ごめんね…ごめんね…ほんとにごめん。もうすぐ二十四になる、minakoです。我が家では、家訓としてね、二十四には嫁入りすることになってるの。お母さまもお婆さまも、そして大お婆さまも。あなたがあの日……。いいの、いいのよ、もう。あなたは、まだまだ子どもだったってこと。そのことに気づかなかったわたし、でした。楽しい想い出をいっぱいありがとう。でも、悲しい想い出もつくってくれたわね。いいのよ、それも含めていい想い出になっています。いま...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (四十)

    (舟島三)時折前髪を揺らす風を、小次郎は心地よく受け止めていた。いら立っていた気持ちも、少しずつ穏やかさを取り戻した。ギラギラと輝く太陽の下、海は凪いでいる。時折立つ白波の中に、一艘の小舟が見えた。船頭がゆっくりと櫓を漕いでいる。「大方、漁師であろう」と囁き合う武士たちに対して「この島を絵師に描いてもらうも一興よ。あの岩礁を背にして立つ我も良しか」と、声をかけた。さすがに小次郎殿だとうなずき合う武士たちに、薄ら笑いを見せる小次郎だった。今の小次郎には、ムサシとの試合が遠い異国での話のように感じられる。これから始まる死闘が、まるで他人事のように感じられた。焦点の合わぬ小次郎の目に、死の床に伏せった恩師鐘巻自齋が浮かび上がった。師である自齋を、大勢の門弟の前で、完膚なきまでに倒した小次郎だった。それが因で床に...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(四十)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (二十五)

    栄子の駆け引きかとも思う松下だが、ここは慎重にと「ママのおっぱいが恋しい年頃だろうに」と、正男に探りを入れた。顔を赤くして反論しようとする正男を制して「松下さん。今夜は紳士的に行きましょうよ」と、栄子が牽制した。「あなたのステイタスには相応ふさわしくないと思えたものでね。彼には、沙織とか言う女性がお似合いだ思うんですがね。たしかにご両親は立派だ。父上が経産省の官僚、母上は華道の先生ときている。ところがどうしたことか、彼は…」「ど、どうして、ぼくのことを」青ざめた顔色で正男が口をはさんだ。しかし松下は毅然として「別に君がどうこうと調べたわけじゃない。付録だよ、付録。栄子さんには失礼だが、調べさせてもらいました。パートナーになってもらう女性だ。分かって貰える思いますが」と告げた。「そうですか。で、合格しました...愛の横顔~100万本のバラ~(二十五)

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百六)

    しかし記者発表の場では、女を寝取られたことによる意趣返しの犯行だとされた。仕事関係のトラブルについては一切報道されず、世間的には愛憎問題として報じられた。さほどに盛り上がることもなくすむかと思われたが、業界新聞によって事の真相が暴露された。富士商会によって倒産させられた大杉商店の長女・次女が、ある金主の妾になることにより資金提供を受けて日本商会を立ち上げた。あくまで富士商会をターゲットにした商売だったが、それが失敗に終わり金主からの返済を求められた末の、苦肉の報復だったことが報じられた。あまりに詳細なその情報から、日の本商会からのリークだし断じられて、物笑いの種となった。一時期において動揺の走った取引先も、「御手洗社長のやりそうなことだ」として、一般紙の話を口にして騒動がおさまった。結局のところ、富士商会...水たまりの中の青空~第三部~(四百六)

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (三十九)

    (舟島二)小谷新左衛門の言葉が、小次郎に朱美を思い起こさせた。昨夜のことだ。初めて朱美が小次郎のために涙した。「あのムサシという男、鬼神とのうわさが。いかな小次郎さまにてもかなわぬと、巷間ではささやかれておりまする」頬を伝う涙を拭こうともせずに、朱美はひたすら小次郎にすがった。「ムサシという男、情け容赦のなき者とか。試合った相手は、ことごとくにこの世を去られていると聞き及びました。おねがいでございます、小次郎さま。この試合、おやめください。もしも小次郎さまがお敗れになられでもしたら…。朱美の一生のおねがいでございます。こたびだけは、どうぞ、朱美のねがいを、おききとどけくださいまし」ムサシとの試合は藩主細川忠興の知るところであり、小倉藩はもちろん隣藩でも大きな話題となっている。今さら取りやめることなど到底出...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(三十九)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (二十四)

    「わかりましたわ」とばかりに帽子に手をやる栄子の姿に、うんうんとうなずく松下だったが、栄子のうしろに立つ青年を見て愕然とした。“なんだ、あの男は。まさか調査員が報告してきたプータローか?”困惑顔を見せる松下に「お待たせしました」と笑顔を見せる。うしろにかしこまっている若者を従えての登場に、松下は不機嫌さを隠しもせずに「不愉快だ、ぼくは。どうしてこの若者がいるんですか」と、かみついた。「それについてはお詫びします。ただ彼もまた、わたしにプロポーズをしてくれています」“わたしのペースに持って行かなきゃ”と、涼しい顔でこたえる栄子だった。それに気をよくした正男も「そうだとも。ぼくにもここにいる権利があるはずだ」と、胸を張った。“なんだ、このおっさんは。資産家だときいていたけど、全然じゃないか!こんな場所もばしょ...愛の横顔~100万本のバラ~(二十四)

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百五)

    「竹田。席をはなれてくれ。奥さんが心配だ、そばにいてやってくれ」さっきのことを腹に入れて対処しろ、と目配せをした。「わかりました。自宅のほうにも連絡しておきます。お千勢さんが心配されているでしょうし」万が一にも五平の意図を知らされぬまま、警察の事情聴取をうけられてはならぬ。一秒でも早く、小夜子に伝えておかねばならない。しかし気の重い竹田ではあった。会社を守るためとはいえ、武蔵個人をいやしめるのだ。たしかに武蔵の浮気は多い、はげしかった。しかしそれとて、小夜子との結婚まえの話だ。最近では減っている、というより、以降はいちどもそんな兆候がない。たしかに酒宴の席はへってはいない。増えた感もある。しかしそれとて、小夜子の自慢のための酒宴がおおくなっていた。さらには武士が誕生してからの、お祝いだと浮かれる姿もある。...水たまりの中の青空~第三部~(四百五)

  • ポエム 焦燥編 (もがいて……)

    考えて悩んで……なにもしないなにもできない俺ただ不安がるだけ手足をもぎとられたわけでもないのに二十歳になったとき十五才の女の子と話をした七・八年先に結婚しょうかなあ…いくつの人がいいの?そうだな、二十二・三才の女性かなじゃあ、あたし、丁度いい年頃だねそうかあそうだねじゃあ予約しておこうかでも恋人いるんでしょ?恋人はいないけどデートの相手はいるようそ!いないんだあたしのお兄さんと一緒いないんだわ!いるよデートの相手ぐらいはうそ!いないのょそんなにモテナイ男に見えるかい?うーん!……じゃ今度デートしてくれるかい?うんいいよ!やめとこもう少し大きくなってからね(背景と解説)他愛もない会話でしたが、その中にも計算が働いていました。その子がわたしに興味を持っていることを知りつつ、、、純情な子を弄(もてあそ)ぶような...ポエム焦燥編(もがいて……)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(九)

    外に出ると、空はカラリと晴れわたっている。ジリジリと刺すように日差しがとどいている。とつぜんに、車に乗ることに嫌悪感を感じた。(仕事なんかやってられるか)という思いがわいてきた。このまま長良川に行き、パンツ一枚で泳ぎたいと思ってしまう。これまでにも仕事を投げ出してしまおうかと思ったことはあった。しかしそれをすれば会社をクビになることは自明の理であるし、それ以上に社会からの脱落を意味すると分かっていた。それより何より、なぜいま、そのような気持ちにおそわれたのか、言いようのない不安に胸が押しつぶされそうになっているのはなぜなのか、そのことのほうが彼を苦しめた。中学時代に愛読というより狂気に近い思いで読みあさった芥川龍之介が思いだされた。その作品群ではなく、その死に様が彼におそいかかってきた。「ぼんやりとした不...青春群像ごめんね……えそらごと(九)

  • 寒中見舞い

    寒中お見舞い申し上げます寒い日がつづいておりますお体をご自愛くださいムンク作「接吻」「最後に愛は勝つ!」世界に平和がもどりますように……寒中見舞い

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (十七)ベタ惚れ?「ばんごはん、なにたべた?」「いま、なにしてた?」「どんなテレビ、みてた?」「フリーターってたのしい?」「おふろ、はいった?」「どこから、あらうの?」「シャンプー、なにつかってる?」「トリートメントは、しゅうなんかい?」「-----?」「*****?」矢つぎ早の問いかけ。答えるまえに、次のしつもんが飛ぶ。右腕にしがみついて、しなだれかかるminako。ときおり拳をつき上げて、そして嬌声をはりあげるminako。どうした?こんやは。唯ただ、とまどうばかりだ……。のらりくらりと歩くふたりの目に、緑の木々が飛びこんでくる。チラホラと紅葉した葉っぱが、じつにきれいだ。が、立ち止まって見入ることはない。ぼくの急かす声に、動くminako。とどまりたげなminakoの気持ちに気づいてるくせに、わざと...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (三十八)

    (舟島一)そして、舟島にて。小倉の地からはさ程に離れていない小島だが、隣接している岩礁は難所として恐れられており、漁師ですら立ち寄らない。「見世物にしてはならぬ」という藩主の命により、見物人を立ち入らせぬためとして、この島が決められた。約束の刻限を過ぎても、ムサシの姿は見えなかった。照りつける日の下で、小次郎はかれこれ半刻近くを過ごしていた。「どうしたことだ、ムサシは。一向に現れぬではないか」扇子を激しく振りながら愚痴る武士たちだったが、小次郎は自他共に許す天才剣士の名の下に、泰然自若と臨んでいた。「小次郎殿、ムサシはまだ現れぬようじゃ。暫時、木陰で休まれるがよろしかろう」立会人の小谷新左衛門の二度目の声がかかり、ようやく小次郎は松の下に体を休めた。物見遊山で集まった武士たちの喧噪を他所に、小次郎はほくそ...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(三十八)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (二十三)

    約束のクリスマス・イヴの夜、朝からどんよりとしていた曇り空が、いまでは星々がまたたいている。栄子にとって一生を左右するときが、刻一刻と迫っている。“どうするの?どうしたいの?”。己に煩悶する栄子だった。だれかに背中を押してもらいたい気もするが、栄子のプライドとして他人の意見に惑わされることはできない。それに、分かっているのだ。主宰は「受けるべきよ」といい、健二は「やめろ」というはずだ。いや、口にしないかもしれない。栄子の気質をよく知るふたりだ。主宰はかおを輝かせ、健二はみけんにしわを寄せるだけのことだ。会社帰りのサラリーマンやウーマンでごった返す居酒屋に、若い男を引き連れた女性が入ってきた。話に興じていた中年男が、「おいおい。場ちがいな女がきたよ」と、相手のことばををさえぎった。振り返った20代後半の女性...愛の横顔~100万本のバラ~(二十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百四)

    五平の元に、警察から連絡がきた。小夜子には伝えないでほしいとという、五平の要望を理解した警察のはいりょだった。「自首してきましてね、本庁に。凶器のナイフも所持していました。おとなしく捕まりました。あの手の犯罪者というのはにげまわるもんなんですがね。犯人の名前は、太田和宏です。年令は、44歳です。心あたりがありますか?出身がはっきりしないのですが、本人の言によると山陰地方だというんですが。ただねえ、戸籍がねえ。本名かどうかも怪しいんですがねえ。どうも筋者ではないようです、いわゆる特攻帰りというやつですな。これだけははっきりとしています」戦後の混乱期に帰国した者の戸籍については、中には怪しげなものもありはした。外地で戦死した者の戸籍をかたる者がいたのは事実だったからだ。「で、ですな。動機なんですが。本人は『天...水たまりの中の青空~第三部~(四百四)

  • きのうの出来事 (へんな ゆめ)

    はじめてのこと。夢のなかでの地震なんて。大きな建物じゃなくて、でも大きな部屋にいて。突然に床が割れて、その床に必死にしがみついて。それでどんどん人が落ちていく。それで……、……、思い出せない。そう、前の日のこと。たくさんの人が捕らえられて――なにに?異星人?なにかのなかに閉じ込められてしまう。大きな揺れがあって、床が割れて、地下のような洞窟のなかに落ちていく。ゆめ、突拍子もない夢のはなしです。義勇兵の募集がはじまり、ひとりふたりと応じて、そしてわたしも手を上げて前に出る。塔のようなものの中に入り、暗いなかを一歩一歩下っていく。いや、登ってる。壁伝いのらせん階段を、ひとりひとり登っていく。幅のせまい階段を、大きな塔の端っこの階段をのぼっていく。突然のこと。田舎風の部屋があり、「トイレに行きたい人、どうぞいっ...きのうの出来事(へんなゆめ)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(八)

    生まれてこのかた、女と名のつく人種との会話といえば母親ぐらいの彼だった。幼児期は「人見しりのはげしい子でして」。小学生時代には「恥ずかしがり屋さんでこまりますわ」。中学に入ると「愛想のない子でして」。そして高校時代に、ゆいいつ訪れた機会をうしなってしまった。通学時にバスが同じになる女子生徒が声をかけてきた。ただ単に「おはよう!」という声かけだった。「おはよう」なり「ああ…」とかえすだけでも良かったのだが、とつぜんのことに頭が真っ白になり、返事をすることもなく横をむいてしまった。彼としては悪口雑言をあびせたわけでもなく、すこしの邪険な態度をとっただけじゃないかと思っていた。しかし女子生徒にとっては、衆人環視のなかで受けた屈辱でありいたたまれないものだった。わっと泣き出してその場にうずくまってしまった。以来、...青春群像ごめんね……えそらごと(八)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (十六)23歳の、minako。「ヒハハラアヒラヒノ、ヘヘホレル?(いまからあいたいの、でてこれる?)」異国語のように聞こえた、まるでロレツのまわっていない声。時計を見ると、十時半をまわっていた。休日前の夜は、普段ならばふたりして食事をしているはずなのに。「こんやだけはごめんね」と、手を合わせたminako。訳を聞くと、すまなさそうに苦しげな表情を見せたminako。minakoが指定した場所に行くと、強いライトによって暗闇のなかに浮かびあがっている、コンビニという異世界。その前で女子高生らしき娘どもが、地べた座りしている。「ああいうのって、いやね」なんて言ってるminakoが、タクシーから降りるやいなや飛びかかってきた。酒くさい息が、体の中にはいり込んできた。なんどか引き離そうとしたけれど、がっちりと首...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (三十七)

    (佐々木小次郎四)小倉屋に逗留のあいだも、毎朝に夜明け前から鍛錬にはげむムサシだった。庭にはおおきな池があり、悠然とおよぐ錦鯉が数十匹はいた。紅白の模様がそれぞれにおもむきがあり、当主ごじまんの錦鯉も数匹いると手代からきかされた。「おほめになられると、夕げにはひと品がふえますですよ」と耳打ちをしていく。しかしそれができるムサシならば、もうすでにどこかの藩に召し抱えられているはずだった。大声を発しながらの素振りで、重さが三貫はあろうかという太い木剣が上段から振りおろされるたびに「ブォン、ブォン」と空気を切りさくにぶい音がする。桜がいいというお内儀は「桜ははかない。商家にはむかない。長寿と繁栄をあらわす松の木にしましょう」と、おおきく枝がはった松の木が植えられている。「木を傷めませぬように」と釘をさす番頭には...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(三十七)

  • よもやま話 時間(その十)~「自分時間」の概念 ~

    よく言われることなんです、「いまは自由な寝起き時間で、いいですね」、と。たしかに、ありがたいです。たとえば、夏には起床が7時あたりが平均で、ときに6時ということも。前夜の夜ふかしがあれば別ですけれども、大体は早起きですよね。しかしこれが、秋、冬と季節が過ぎるにつれて、遅くなってきますよ。別段おそく起きようと意図しているわけではないですよ。考えてもみてくださいな。へやの温度がひくく、ふとんの中が暖かい……。ねえ、だれしも出たくないでしょ?起きたくないでしょ?でもそうもいかない。いつかは起きなくちゃならない。でもなんで?おなかが減っちゃうから?おしっこに行きたいから?「晴耕雨読」って、四字熟語がありますよね。晴れていたら畑仕事をして、雨ならば本を読む。昔の人は、ほんと働き者でした。太陽が出たら仕事に出かけて、...よもやま話時間(その十)~「自分時間」の概念~

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (二十二)

    突然に話しはじめたことは栄子には関係のないことだった。興味もない。それよりもこれからのふたりの関係についての話が、本音の話が聞きたいのだ。しかし松下はとうとうと話しつづける。「でですね、その愚痴の中に、大変な玉が隠れているんです。玉石混合ってやつです。当の本人たちは気付かない、ダイアモンドが混じっているんです…」あくびをかみ殺して聞き入る栄子だが、もううんざりといった表情を隠すことが出来なくなった。それでも松下は話をつづける。“このひとは自己チューなのね。人のことなんて、まるで気にしないんだわ”。ホテルの控え室で感じた冷たさが、いままた感じられた。「ぼくはね、栄子さん。情報の海のなかを泳ぎきって、新大陸を見つけたいんだ。で、その産物として大金が転がり込むというわけだ。金が欲しいわけじゃない。成し遂げたいん...愛の横顔~100万本のバラ~(二十二)

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百三)

    五平のいうとおりに、ここは軽傷だったと答えるべきだろう。時間かせぎだとしても、その間に対策を講じねばならない。だがしかし、小夜子はどうなるのだ。会社のことばかりを優先させてもいいものだろうか。それになにより、この事態をなんと伝えればいいのか、真実を話すのか、軽傷だと安心させるべきなのか。思案に暮れる竹田だった。「よし、決まった。とうめんは箝口令をしいてしのぐとして、長期にわたった場合には銀行との折衝だな。なんとしてもこの案をのませなくちゃ。竹田、これから言うことは、秘密中のひみつだ。俺とおまえだけの話だ。徳江にも言うな、絶対だぞ。会社の存亡に関わることだからな」気迫のこもった、ついぞ見たことのない五平の目だった。目の中でギラギラと炎が燃え上がり、体全体に熱いマグマのような血液がめぐり回りまわっている、そん...水たまりの中の青空~第三部~(四百三)

  • ポエム 焦燥編 (たばこ)

    タバコ……その煙、、、白?灰色?……光によって、その色が変わる。雨にも、似たもの。酔わせてくれる。肺に、グッと吸い込む。ガツ―ンと、脳を、マヒさせる、ボーとなる。景色―すべてがぼける。体から力が、抜ける。……昇天……?タバコで、これ。……酔う、ということ……己を失う?怖い……=(背景と解説)タバコ、そしてアルコール。正気を失って、感情コントロールを失って、側溝に反吐を吐き続ける……誰かが背中をさすってくれて、「無理してたんだね」と柔らかい言葉が聞こえた。誰?と問い返すことが怖くて、ただただ、吐き続けた。グループと別れてすぐのことだった。これ以上飲んだら、正体を失ってしまう。そう思って、黙って群れから離れた。なのに、なのに、一体誰が……?現実逃避を願いつつも、異世界に入り込んだときに、はたして戻れるのか……...ポエム焦燥編(たばこ)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(七)

    仕方なく、窓からそとの景色をながめた。相もかわらずはげしく渋滞しながら、車がいきかいしている。車の保有台数は、全国的にも多いと聞かされている。家内工業が多いせいだろうと、教えられた。だから運転には気をつけるようにと、毎日の朝礼で訓示される。(車が半分に減ったら、確実に事故が増えるぞ。減ることはないって。岩田は減ると言うけど、絶対に増える。、車が多いからこそスピードが出せないんだから)。そんなことを考えていると「ホント、車が多いわね。半分くらいに減ったら、事故も減るでしょうに」と、本田さんが近づいてきた。背筋に水がながれた直後のように背筋をのばして「そ、そうですね」と答えてしまった。なんと言うことだ。じつに情けない。裏腹のことを答えてしまったと、自分に腹がたった。しかも、卑屈にもうろたえてだ。昨日までは何も...青春群像ごめんね……えそらごと(七)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (十五)願う己と、阻止したいじぶん新一を抹殺する――それをねがう己と、それを阻止したいじぶん――とがいる。まるで神とあくまの代理戦争のごとくに思えていた。そしてそのことに、どれほどの時と労力をついやしたことか。それがいま、それらすべてが、こころの外側に位置している。この一瞬間の歓びをあらわしたい。踏みしめている大地にほおずりしたい。そのままひざまずき、イスラムの祈りのように、大地に接吻したい。ひんやりと湿った土から与えられるもの、そうだ。この匂いは、この香りは……お袋が毎朝作ってくれていた、みそしるの香りだ。大きな背におぶさわれた折の、親父のあせの匂いだ。先夜の、恋人とのいさかい。行きちがい。ねっとりとした熱い空気が体にまとわりついた夜のこと。不快指数100%だったあの夜のこと。minakoからの電話。[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (三十六)

    (佐々木小次郎三)ムサシがこの小倉に来てからというもの、佐々木小次郎という名を一日とて聞かぬ日はなかった。「あの素早いツバメを切り落としたそうな」「三尺もあろうかという長剣で、目にもとまらぬ早さできりおとしたんだと」「細川さまのごしなん役になられてからというもの、ただの一度も負けを知らずだ」「大きな声では言えねえが、さるご大藩がぢだんだをふんでいなさるそうな」「柳生家ですら、にげごしだと言うからねえ」どこを歩いても、小次郎の話で持ちきりだった。日の本一と自負するムサシには、なんとも面白くない。吉岡一門を、と進言した相模屋の番頭も「あのお方とだけは避けられませ。決して相まみえてはなりませぬ。天下一の剣士でございます」と、たしなめた。ムサシとしても、ためらいの気持ちが湧かないでもなかった。しかしこのままでは埒...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(三十六)

  • きのうの出来事 時間(その九)

    でもねえ、K医師は深刻な顔をしてましたねえ。「万が一感染症のばあいには、ペースメーカーを取り出さなければなりません。それ自体は簡単です。問題は、リード線です。心臓(中だっけ?外側だったっけ?どう言われたか忘れちゃいました)と一心同体化していると思われます。なにせ、12,3年経過していますからねえ。うまく取り出せるかどうか……」わたしが、「はあ、はあ、そうでしょうねえ」と、あまりにも軽い反応をしめすものですから、肩透かしをくらった感じ、なんでしょうね。拍子ぬけ、といった感じです。まあ、鳩が豆鉄砲……とまではいきませんが。「この間の、レントゲン室前でのようなことが起きると、心臓は動いてくれません。いや、もっと軽いものでも、これまで経験された体感できないくらいのものでも……」(すみませんなあ、先生。まったく実感...きのうの出来事時間(その九)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (二十一)

    八時の約束だったが、思いのほか電車の乗りつぎがスムーズにいき、15分ほど前に着いてしまった。“遊び人の男は、大体10分ほど前に着いている”。よくそんな話を耳にしている。ロビーの中央にある大きな観葉植物に目をうばわれながら、いくらなんでもこんなに早くは来ていないだろうと、ソファに腰をおろした。「栄子さん。おどろいた、こんなに早くおいでになるとは。電車の乗りつぎが、よほどにうまくいったようですね」。相好をくずして、つややかな紺のポロシャツとジーパン姿の松下が近寄ってきた。ごった返す店の奥まった場所を確保した松下、キョロキョロと周囲を見回す栄子に「こんな場所は、栄子さんは初めてですか」と声を掛けた。「はい……」。嘘ではなかった。教室に通ってくる練習生から誘われることもありはしたが、「きょうはちょっと。ごめんなさ...愛の横顔~100万本のバラ~(二十一)

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百二)

    長時間におよぶ手術がやっと終わった。昼の名残りののこる薄暮の時間から、漆黒の闇につつまれる午前二時過ぎに終わった。憔悴しきった三人の前で、手術中のランプが消え大きく息をつく音とともにドアが開いた。「プシューッ」三人の頭が上がった。まだ朦朧としたあたまではあったが、小夜子がまっさきに「あなた、武蔵!」と、しがみついた。つづいて、五平と竹田が、また同じく「しゃちょー!」と声を合わせた。竹田は思わず指を組んでいる。それを見とがめた小夜子が「祈りはだめって」とのことばを発し、また大粒の涙があふれでた。ガラガラと音を立てておされる中、引きずられるように「信じてたんだからしんじてたんだから」とお念仏のようにつぶやきつづけた。手術室まえで、五平と竹田が固唾をのむなか、静かに執刀医がせつめいをしはじめた。「難しい手術でし...水たまりの中の青空~第三部~(四百二)

  • 本日のできごと (なんちゅう寒さやあ!!)

    本日の起床時間9:30。起き抜けで、書いてります。なんという寒さでっか!昨夜の天気よほうでは1℃だと聞いていたけど、こんなに寒いとは……。冬がけふとんを二枚重ねです。さらには、湯たんぽです。「あっつう!」と横に蹴飛ばしていた湯たんぽが、今夜はすごく愛しいやんか。なのに、「寒う」と二回も三回も起きて。これ以上は毛布しかない。けど、重さに耐えかねて……圧迫○なんてことに……そうや、膝掛けがある。何かのおまけに付いてきた膝掛けが。何の足しにもナランかも?と思いつつ、AM4:30に足下に乗せた。よし、よし、よっしゃあ!効果あり。(柔道での、KOUKA!)。やっと安心して眠れました。で、起きたのが、ムニャムニヤ。お寝坊しちゃいました。そう、雪や、ユキや、初雪や。積もってない?降ってないやんか?溶けたん?いや、ちがう...本日のできごと(なんちゅう寒さやあ!!)

  • ポエム 焦燥編 (青 空)

    水たまりの中の青空は小さかったポチャンと投げた石ころに水たまりの中の青空は歪んだ。渇いた愛砂に吸われる水草木は枯れていた枯れ木に風が吹く今日の愛明日には憎悪そして渇いた愛激しい雷雨外で遊ぶ子どもたち汗まみれ……(背景と解説)「水たまりの中の青空」小説のタイトルにも使っています。このフレーズ、実は、若い頃(二十歳前後だったと思いますが)に見た夢のシーンから生まれたものです。夢の内容はさておいて、良くやりましたよね、特に幼稚園児のころ。水たまりを見つけると、ポチャン!と足で波紋を作ること。その波紋こそが、小説のテーマなんですけどね。そして、自分史も書き入れるつもりでした。というより、青春時代についてのベースは自分史です。ところがところが、その自分史を書き上げてしまいました。読まれた方もみえると思いますが、[ド...ポエム焦燥編(青空)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(六)

    いつもならば「ごくろうさま!」と返ってくるはずが、きょうに限ってなにもない。鎌首をもたげてのぞき込んだ。一望できる仕切りのない作業場には、だれもいない。誰かしらが必ずいるのだが、どうしたことかきょうは無人だった。部屋はだだっ広い空間で、壁にはもろもろの治具がかけられている。ステンレス製の定規が長短あわせて五種類があり、ハサミも大きな裁ちばさみから小ばつみまで七種類がある。製図用の横幅のある平机には三種類のアイロンが置いてあり、使い道の分からぬ小物治具が何種類かある。そして階段を上がりきった角に、彼の天敵であるパターンやらハトロン紙が置いてある。それらを車に積み込む折に、無造作に放り込んだところを主任に見とかめられた。破れやすい紙類の扱いについては、特にあつかいを注意するようにと、常々言われていた。それを怠...青春群像ごめんね……えそらごと(六)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (十四)まやかしのように柵から身をのりだして、自分の姿をその水面に映してみた。美しい空の絵のなかに自分の顔をみつけ、“うん、好い男だ”と、ほくそえむ。しかしどう考えても、余分だった。やっぱりわたしはいらない。空の美しさに感動している自分の興をそいでしまう。山々に見え隠れする太陽のひかりを受けて、明るい世界の住人になっていた。覚悟した。もうもどれない、きのうまでのくらい世界には。闇とは「光の欠如」であり闇という「なにか」が存在するわけではない。仏教用語にある無明とは「迷い」である。真如とは「あるがままに」あることである。すべてのことに対し、まったく素直な自分に気づいた。素直さのなかでは、なにもかもが肯定できた。なにもかもが素晴らしい!It’sbeautiful!こころに安らぎをえたいと、レコードに映画にそし...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり!(三十五)

    (佐々木小次郎二)小次郎元服の前年、道場内における門弟どうしの試合がおこなわれた。一度たりと負けたことのない相手と対した小次郎だったが、思いもよらぬ不覚をとってしまった。「まだまだ!まだまだ!」声を張り上げて臨む小次郎に対し、「それまで!」と師の声がかかった。「慢心じゃ、小次郎!毎日の鍛錬をおこたったが故のこと。いくど手合わせをしても、もう勝てぬ。未熟者めが!」師よりのきびしい叱責をききおよんだ父親によって、ひと月のあいだ、道場内に軟禁された。朝昼の鍛錬のあとも、ひとり小次郎だけが厳しい修練を課せられた。太平の世にうつりつつある昨今において、「勝てば良し!」とする剣技ではなく、美しく流れるような剣さばきが求められた。剣術にも、美しさと物語り性が求められていた。いちばん鶏が鳴くやいなや飛び起きる小次郎を、道...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(三十五)

  • きのうの出来事 時間(その八)

    まさかこんことになるとは、!!!です。9月4日(月)の退院の日にですね、肩からグルグル巻きにされていた包帯が外されて、、透明の傷カバーだけになったんですわ。ぶきみですねえ、やっぱり。血がねえ、にじみ出てきてたわけですよ。でね、ペースメーカーが鎮座されている所のそと側に、血液のたて筋が(内出血でしょうな)あるわけです。「うむ、うむ。これなら良いでしょう」そう仰るんですよね、執刀医が。ということは、この血のにじみ具合は想定内ということですか。止血状態になっているから、OKということになったんでしょう。ペースメーカーに沿っている内出血も、その内にとれるということでしょうね。そして、9月8日(金)です。術後、1週間に、診察です。透明のカバーが外されて、にじみ出ていた血をぬぐい去り、きれいな肌色がでてきました。完全...きのうの出来事時間(その八)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (二十)

    よどみなく話す松下に対し、栄子の中に警戒心のようなものが生まれた。確たる理由はないのだが、なにかしら松下の中にへびのような陰険さを見てとった。“なんでもいいの、だれでもいいの。とにかくパトロンをみつけなくちゃ”。フラメンコダンサーとして世界に打って出るには、賞味期限切れが近づいていることを知る栄子だ。しかし、ぜひにということばが出てこない。いぶかる主宰にひじで突つかれた。「いま、四時過ぎですから、そうだな、六時にロビーでの待ち合わせとしましょう」困惑顔の栄子をかばうように主宰が口をはさんだ。「松下さん。女は、いろいろと用意があるのですよ。自宅に一度は帰りたいでしょうし」「いや、これは失礼。気が付きませんでした。それじゃ、ここに部屋を取りましょう。そこでシャワーを浴びるなり、なさればいい」あくまでの己の主張...愛の横顔~100万本のバラ~(二十)

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百一)

    なにかを言わねば、慰めのことばをかけなければ。“勝子ねえさんだったらどういうだろう、どうお慰めするだろう”。思えばおもうほど、考えればかんがえるほど、ことばが逃げていってしまう。“社長、しゃちょう。お姫さまのところへ戻ってきてください。信じてらっしゃいますよ、小夜子奥さまは”。やはり祈るだけしかできない竹田だった。「社長はねえ、つねづね言ってらっしゃった。『小夜子に勝る宝物はねえよ。おれがこんなに女ごときに惚れちまうとは、思いもよらねえことだぜ』ってね。小夜子奥さまに会わずに逝かれることはありません、ぜったいにね。いや、あっちゃならねえことです。戻られますって、ねえ。今日だって、『武士坊ちゃんにおもちゃを買うんだ』って、そう言って出られたんですよ」五平のことばに意を強くした竹田もまた、「そうでした、おもち...水たまりの中の青空~第三部~(四百一)

  • ポエム 焦燥編 (白い紙と黒い鉛筆)

    白い紙は、机の上。わたしの手に、黒のエンピツ。そのまま下ろし、手を動かせばそこには、黒い線の誕生。もう一度、動かせば━双生児の誕生。紙はまだ白い。わたしの手のエンピツは早くなる。そして正確に、少しずつ白い紙は黒くなる。それでも、紙はまだ白い。エンピツの速度は上がる。次第に紙は黒くなる。いつの間にか、白い紙は黒い紙だった。そして、ちびたエンピツと共に、黒い紙が、捨てられた。ゴミとして、屑カゴの中に。(背景と解説)白い紙=○○黒い鉛筆=○○二十歳前ですからねえ、この頃は。こんな比喩の仕方しか思いつかなかったのも、やむを得ぬことでしょうか。それにしても、ゴミとして屑かごの中に捨てるなんて、それもちびたエンピツと共にでしょ?………………わたしの本質は、ニヒリスト…というより、サディスト、いやマゾヒスト…でしたかポエム焦燥編(白い紙と黒い鉛筆)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(五)

    増田商店に着くと「まいど!」と、大声で怒鳴るように叫んだ。間口は七、八メートルほどで奥行きがしっかりある店内で、入り口近くには誰もいないのが常だ。いつもは事務室でふんぞり返っている部長が、きょうは陳列してある商品の確認をしていた。彼の声に気付くといつもの仏頂面で、あごをしゃくり上げて二階へとの指示がでた。その二階には岩田が耳打ちした、あの本田という女性がいる。「失礼しまーす」と声をかけて、事務室横の階段を上がる。階段途中で少し耳たぶを赤くした彼が、また「まいど!」と声を張り上げた。二度も同じことばを発してなにをくだらぬことをと思いつつも、いつもそうだ。要するに、まいど以外の気の利いたことばが出てこないのだ。主任からは、お世辞のひとつも言ってこいと言われてはいるが、どうにも思いつかない。まいどと言うことばす...青春群像ごめんね……えそらごと(五)

  • きのうの出来事 夢占い (死の前兆……?)

    先日インターネットで「夢占い」という、記事を見つけました。その中に、「死の前兆」という項目があり、ちょっと気になったものですから、読み込んでみました。曰くに「故人が夢に出てきたら、死の前兆のひとつだ」とあります。わたしは、30年近い前に父を亡くしています。現在、ご存じの方も多いと思いますが、74歳、今年で75歳になります。あと何年?といった団塊の世代、最後です。今年の8月末に、ペースメーカーの2回目の電池交換をすませました。すこぶる快調です。今年の1月に3歳上の兄を亡くしましたが、そのときは落ちこみました。体調も絶不調となり、75歳まではと思っていた仕事を3月で辞めました。しばらく血糖値も高止まり(Hba1c:8点台)してしまうし、睡眠もブツブツ切れで目を覚ますし、最悪でした。追いかけることになるのかな?...きのうの出来事夢占い(死の前兆……?)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (十三)銀の皿新一と出会うまえのようなオドオドした暗さとはちがい、どこか慇懃無礼さがある、と思える。こころの中に内在している――でんと居すわっている新一を、消しさるためのひとり旅だ。別人格をそだてあげて苦痛からの逃げ場をつくったことが、ときに重荷となり障害となることに気づいた。おそかったかもしれない、あるいは気づかぬままの方が良いのかもしれない。「朝食のご用意、よろしいでしょうか?」鈴とまではいかないけれど、それでもすがすがしい声で尋ねられた。「そうですね、散歩をしてきます。三十分ほどで戻りますから、そのあいだにお願いします」国道づたいに歩いていると、トラック類が引っ切りなしに行き交う。その間を肩をすぼめるがごとくに、乗用車がはしる。それにしても、排気ガスの臭いには閉口させられる。“平日なんだ、きょうは”...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり!(三十四)

    (佐々木小次郎一)小倉の地にて。佐々木小次郎の妻女然として振ふるまう朱美だが、周囲の誰もが当然のこととして受けいれている。五尺七寸の長身小次郎に対して、朱美は並の男たちと変わらぬほどの五尺二寸ほどの背丈を持っている。しかもすらりとした体型は、小次郎の隣に立たせてもなんの遜色も感じさせない。実のところ小次郎の口からはひと言もない。朱美にしても、小次郎に対して恋いしたう素振りを見せてはいない。育ての親であるお婆に小次郎の世話を命じられて、渋々といった観の朱美なのだ。そして平素の朱美は、次々と悪態を吐いてくる。しかし朱美の辛辣な言葉は、小次郎には賞賛のことばとして響いている。「こたびのごぜん試合では、つばめしをご披露なさるとか。あのような小物相手に大人げないことで…」また時には、小次郎の忌み嫌うムサシを口の端に...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(三十四)

  • きのうの出来事 時間(その七)

    9月の中ごろに、睡眠テストを受けました。ひと晩の入院です。以前、もう二十年近く前に、赤十字病院で、「睡眠時無呼吸症候群」との診断を受け、鼻マスクを1年間着用しました。そののちに引っ越したこともあり、鼻腔テープを使うことで鼻マスク治療を終えました。再発したかと疑ってのことだったのですが、結果は軽度なものであり「心配するほどのこともないでしょう」との診断でした。以前から処方されている睡眠導入薬でOKということになりましたわ。当日は9時に起きると言いましたが、普段から9時には起きるようにしています。やはり明るくなっていますから、自然と目がさめますしね。よっぽど前夜に夜更かしをしない限りは、ですけど。いつだったか、夜中の2時頃にめがさめて(いつものことですが)、なかなか寝付けずに、朝方の5時近くまで起きていたこと...きのうの出来事時間(その七)

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百)

    それまでごった返していたのに、突然に男と武蔵のあいだに2ートルほどの直線ルートができた。そのときはじめて、男が武蔵と視線をあわせた。危険を感じた武蔵だったが、この至近距離ではいかんとしがたく、なされるままだった。なんのことばもなく、「ドン!」とぶつかり合い、男は去っていった。武蔵と男がぶつかった、ただそれだけのようにみえたが、武蔵の腹に、大型のサバイバルナイフが突き刺さっていた。挨拶をしているようにみえました、争うようすはありませんでしたという証言がほとんどだった。中年男がはなれたとき、武蔵がその場に崩れおちたが、なんのことばもなかった。静かにひざが折れて前のめりになり、両手で傷口をおさえていた。「男のお子さまでいらっしゃいますし、これからいろいろとご活発に、、、」。売り場主任が大量の玩具類を台車にのせて...水たまりの中の青空~第三部~(四百)

  • ポエム 焦燥編 (レモンの夕立ち)

    -トシ君とアコちゃん、どうかしらねえ。=トシ君、もう高校生でしょ。アコちゃんも、小学生とはいえ六年生だしねえ。井戸端会議の声が、胸につき刺さる。せまい故郷にかえってきてわずか、二日目のこと。夕立ちの雨が激しく大地を叩きつける。トシのほ々も又、濡れた。すっかり辺りを飲み込む闇。トシも又、消えて行く。「トシ兄ちゃん、また明日ネ!」アコの声が、空虚しくトシの耳に響く。(背景と解説)極短編小説の、原本詩です。詩とは言えないものですが、載せちゃいました。うーん、何年前になりますかねえ。九州は、福岡県の、中間市という所に住んでいた折のことです。このときのことは、[九州旅行~ルーツ探しの旅~]で詳しく書くつもりです。ポエム焦燥編(レモンの夕立ち)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(四)

    「伝票ができたぞ!」と声がかかり、ふたりして倉庫の二階にある事務室に入った。中二階の造りで事務をする人間には不評な一室だ。広さも八畳ほどで、そこには女子事務員が三人と課長が陣取っている。そして社長夫人が経理担当としてにらみをきかせている。主任の席もあるにはあるのだが、一階の入り口近くに机を置いて差配している。現場での仕事が多いからというのが主任の言い分なのだが、社長夫人が苦手だからさと噂されている。カウンター代わりの事務棚のうえに小箱がおいてあり、担当者別に伝票が仕分けされている。それぞれに伝票を受け取り、部屋を出たとたんに岩田が「増田商店の本田さんがさびしがっていたよ」と、彼に耳打ちした。きのう急な注文がはいり、彼の代わりに岩田がとどけた言う。にやついた表情でも見せれば冗談かと受けとめられるのだが、能面...青春群像ごめんね……えそらごと(四)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (十二)そのニヒルさが青春の真っただ中にいるわたしの夢といえば、小さなことだと笑われるかもしれないけれども、やっぱり異性との交際につきる。遠くからじっと見ているだけのわたしが、ゆめ見てはため息を吐いていたわたしが、当たって砕けろ!と。玉砕の憂き目にあったこともあるけれども、デートにこぎつけられたことも。二度三度とデートをかさねて、ゆっくりながらも階段を上がっていく。手をにぎることで、どぎまぎした初デート。二度目は相合傘で肩を抱き、そして三度目のデートで甘いキス。思いが達せられたと歓びに満ちあふれつつも、一瞬間過ぎるきょだつ感。温かいぬくもりに包まれながらも、とつじょ襲いくるくうきょ感。デートの間中、一瞬のかげりも見のがさない。そしてそのかげりに、どれ程にこころを痛めたことか。相手に見せる笑いの中に、どこか...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (三十三)

    (吉岡一門七)泥田のなかを逃げるムサシを「許すまじい!」「逃すなあ!」。叫びあいながら一斉に追いかけた。ある者はムサシ同様に泥田のなかを走り、またある者はあぜ道をかけた。決戦の場、洛外下り松に通ずる街道に身をふせていた他の門人たちも、その怒号を聞きつけて一斉にムサシに向かってかけよった。すぐに多数の門人たちに囲まれてしまった。四方八方から斬りかかられては、一本の刀では危うくなってしまう。とっさに小刀を抜いたムサシ、両手でもって襲いかかる門人たちの刀を振りはらった。強靱な腕力を持つムサシならではの戦法、二刀流がここに生まれた。風車のごとくに、ぶんぶんと大刀を振りまわしながら、門人たちを寄せつけない。一歩二歩と歩をすすめながら泥田から抜けでたムサシ、息を切らす門人たちをしりめに、脱兎のごとくに駆けだした。唖然...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(三十三)

  • きのうの出来事 時間(その六 )

    診察です。今日は、偉い立場の医師です。ずっと以前に救急車をお願いしたことがあり、ことなきを得たことがあります。今度の手術は、以前のW医師です。8月30日、AM9:00に入り、手続きをすませることに。9:00なんて、わたしには酷なんですけどね。自宅から病院まで少なくとも40分はかかるんですよ。しかも、平日でしょ?渋滞しますよね?ということは、1時間は、最低みなくちゃ。さらには「自分での運転はやめてください」とのこと。帰りがね、えっと、速ければ9月2日(土)おそくとも4日(日)ということで、運転禁止なわけです。ひとり者のわたしです、やむなくタクシーということに。予約ですが、8:00ぴったりに来てくれるかどうか分かりませんので、さらに10分もしくは20分前に……。想像しただけでぞっとします。毎日9:00前後の起...きのうの出来事時間(その六)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (十九)

    圧巻だったのは、ステージ最後の全員でのおどりだった。全員がうしろに控えるなか、栄子が軽快におどる。手拍子が高まるにつれて、栄子がうしろに下がり全員がそろう。大きな動きをしながらも互いを気遣うおどりは、壮観なものだった。会場のほとんどが総立ちとなり、手拍子で応える。「オーレ!」と会長がハレオを入れて、場を盛り上げた。一時間の予定を超えてのショーは興奮のるつぼと化して、女性たちの間から「あたしもやってみたい!」という声が飛びかった。互いをたたえあう声の中、控え室で帰り支度をしている栄子の元に会長が現れたことで、控え室が大騒ぎとなった。そこかしこで、パトロンの話ねとささやかれた。「よろしいかな、皆さん。今日はほんとにありがとう。みんな大喜びでした。ステージ上での素人相手のレッスン、実に良かった。入会希望者がたく...愛の横顔~100万本のバラ~(十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (三百九十九)

    きょうは来客の予定もなく、決済すべき案件もない。思案をめぐらさなければならないような取引先もいない。出張の予定も、いまのところなんの予定もない。五平も今夜は休肝日にしたいという。なにもかもが順調にすすみ、武蔵をどうしても百貨店へといざなおうとしている。「そうだ!アイスも買って帰ろうか。武士のおもちゃだけじゃ、へそを曲げかねんからな。小夜子も外出がへって、気分も晴れんだろうし」忙しげに行き交う人のあいだをヒョイヒョイとかわしながら、口笛でも吹きかねないご機嫌の武蔵だった。こんなに気分爽快な日というのは、年に数回ほどだ。「博打商売だと評される武蔵の勘がさえわたり、今年は大あたり品を生み出した。「こんなおもちゃが売れるんですかい?」と危惧する五平に対し、大丈夫、お坊ちゃんのご託宣だ!と強行した。それが当たりにあ...水たまりの中の青空~第三部~(三百九十九)

  • ポエム 焦燥編 (傘がない)

    雨が降ってきた!どしゃぶりの雨だ、傘をささなくちゃ。だけど傘がない……イタイ、痛いよお!突き刺すような雨だ、傘をささなくちゃ。だけど傘がない……サムイ、寒いよお!凍れるつめたい雨だ、傘をささなくちゃ。だけど傘がない……ゴメン、ごめんよお!きみを怒らせてしまった、きみを泣かせてしまった。けど、ぼくも泣いている……(背景と解説)平成30年(2018年)4月18日にスタートさせた[ポエム]です。黎明・白昼ときて、いま焦燥編です。中腹に辿りついたようです。まだまだ、終着駅までは長いです。こののち、黄昏そして夜陰編と続きます。ですがそこで終わりではなく、いえ流れとしては破滅に入ってしまうのですから終焉といって良いと思うのですが、諦めの悪いわたしは、グズぐずとつづけてしまいます。安心編(アンシンではなく、仏教語としの...ポエム焦燥編(傘がない)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(三)

    きのうのことだ。めずらしく岩田との車談義になった。性能云々ということではなく、無謀運転だと岩田にはうつっている彼の走り方についてだ。「罰金に、へたをすれば免停だよ。大損じゃないか」と諭すように言った。噛みあわない会話だとおもいつつも、なんとかへこましてやろうと、ムキになって反論する彼だ。「おまえのような模範生じゃダメだ。この気持ちが分かるはずがない。追い越しなんかで意地悪されるだろ」「そんなことはないさ。ちゃんと、交通法規通りに走っているんだ、大丈夫だよ」「分かってないな。そんなもん、破るためにあるんだぜ。ポリスという職業がある以上、だれかが違反しなきゃ。そうでなかったら、ポリスさんたちの存在意義がないだろうが。おれら青年はだ……やめた。おまえにこんなこと言っても始まらない」いつもこの調子で口論となる。朝...青春群像ごめんね……えそらごと(三)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~まーだー~

    (十一)分からずじまいの方がパタパタという軽やかなスリッパの音で、ようやく新一の呪縛からのがれられた。きのうの回想からぬけでた。新一とわかれてこの地に来て、おだやかな朝を迎えたわたしだ。空気の美味しさを、いくどとなく繰りかえす深呼吸で、たんのうした。まるで故郷にかえったかと錯覚させられる。ふと思った。気心の知れた者との、棘のある会話のなかにみいだす愛。そしてまた、他人との穏やかな会話のなかにみいだす冷たさ。新一に気づかされる、物事のうらおもて。知らずにいた方が、分からずじまいの方が良いことも多々あるだろうに。夢を見ることしかなかったわたしが、その夢を実現すべく立ちあがる。そのための勇気を、新一からもらった。そしてゆめが現実となったとき、たしかに快感をえる。満足感にひたっている。幸福感に満ちあふれてもいる。...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~まーだー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり!(三十二)

    (吉岡一門六)明け六つの鐘が鳴るなか、吉岡又七郎が一乗寺下り松の地に着いた。季節が春をむかえたとはいえ、まだ夜明け前では冷気が辺りをつつんでいた。「若、ここにお座りください」梶田は、決闘の場として指定した場を広く見渡せる大きな松の木の下に陣どることにした。態勢は万全だった。東西南北のいずれからムサシが現れたとしても、それぞれの要所に門人を配置していた。「若。大丈夫ですぞ。このように、多数の門人たちがお守りいたします。ムサシも、ここまではたどり着けませぬゆえに」梶田がしきりに又七郎に声をかける。まだ幼い又七郎では、緊張がとれぬのも致し方のないことと考えていた。干からびた声で「たのむぞ」と、又七郎が答えた。梶田が「ムサシの姿は見えぬか。あ奴のことだ、こたびも遅参するであろうがの」そう言った矢先に、ガサガサとい...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(三十二)

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