式後の武蔵は、以前にも増して商売に精を出した。持てる財を使い果たしたということもあるが、それにも増して事業欲がムクムクとわき出していた。ひとり小夜子を残して会社に立ち戻った武蔵は、「新婚旅行に出かけられるんじゃ?」と言う五平に「そんなものは、いつでも行けるさ。猛烈に働きたいんだよ、今は。すかんぴんになっちまったことだしな」と、笑う。昨年早々のことだ。「社長。東北の名産品あたりを、売(ばい)してみませんか?細いながらもつてはありますが」と、進言する五平に対して「いや、まだいい」と、腰を上げない武蔵だった。「面白いと思うんですがね。もう安物ばかりのご時世でもないと思いますが」と、なおも食い下がる五平に「その内にな」と、にべもない。なぜ東北物を扱わないのか、いや東北地方の話そのものを嫌がるのか、武蔵の心底が分か...水たまりの中の青空~第二部~(二百六十二)