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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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住所
岐阜市
出身
伊万里市
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2014/10/10

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  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十四)

    十時の開店と同時に、どっと流れ込む人ごみの中に、二人がいた。「すごいのね、小夜子さん。いつもこんな感じなの?」。かるい息切れを感じつつも、たかまる高揚感をおさえきれない勝子だった。小夜子にとっても、初めての経験だ。普段はお昼をすませてからであり、森田の出迎えがあった。しかし今日は、勝子の希望で開店と同時にした。「うわあ、素敵!おとぎの国に来たみたい。ねえねえ、小夜子さん。どこ、どこから見てまわるの?」。目を爛々とかがかせて店内を見まわす勝子は、まるで少女のようなはしゃぎ方だ。「そうねえ、お洋服からにしましょうか。勝子さんにぴったりのお洋服を、まず探しましょう。それからバッグでしょ、お靴でしょ。それに、お帽子もね」「そんなにたくさん?勝利に悪いわ、そんなぜいたくをして。勝利はあたしの病院代があるから、自分の...水たまりの中の青空~第二部~(三百十四)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (四)腰元

    それから三日後の、文政八年(1825年)二月二日の夜のことである。次郎吉は、某料理屋の二階で女と対座していた。土屋相模守家の腰元である。次郎吉はあぐらをかき、腰元は正座している。とても、大工の娘とは思えない。しかし土屋相模守の屋敷内では、どこをどう間違えたのか廻船問屋の娘となっているのである。というのも、行儀見習いとして奉公に上がるその日、廻船問屋の娘は店の手代と駆け落ちをした。慌てた廻船問屋は、女中として奉公に来ていた大工の娘ー年格好が似ているこの女を、屋敷に上がらせたのである。勿論、事の真相が知れれば、女の打ち首は必然である。廻船問屋も只ではすまない。二年間の屋敷奉公が無事終われば、大工の娘は多額の礼金をもらえる。その約束で、身代わりとなったのである。その事実をこともあろうに、次郎吉に知られてしまった...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(四)腰元

  • 青春群像 初恋物語り [レモンの夕立ち](四)

    シン公が、ラーメンを食べたいと言うと、バーガーにして!と言います。シン公が、公園でゆっくりしようと言うと、映画が観たい!と言います。ボーリングに行こうと誘うと、レコードを聴きたいと言います。シン公が、ストロベリー味のアイスクリームを買うと、チョコレートが良かったのに!と、言います。でも、どんなにやんちゃを言っても、いつでもシン公は、笑っています。ちっとも、怒ってくれないのです。いつまでも、子供扱いするのです。目を閉じてキスをせがむと、おでこに軽くチュッ!と、してくれるだけなのです。時折シン公は、ロマンチストになります。甘い恋の囁きを、口にすることがあります。でも決まって、ひと言付け足すのです。“アコには、早すぎるかな?”そしてそれは、照れ隠しとも取れるし、本心とも思えるのです。アコは、いつも焦っています。...青春群像初恋物語り[レモンの夕立ち](四)

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・ぼーん~

    (四)噂ではその噂とやらを、女性から聞いたその噂をお聞きいただきましょうか。老婆の先祖は平家一門の落ち武者で、壇ノ浦の戦いを免れた者だと言うのです。家系図なるものを見たという村人が現れてーところがこれも不思議なことに、名乗り出る村人はいません。ですが、子孫だということになってしまいました。お待たせしました、これからが本番です。その落ち武者が、平家復興の悲願を胸に、相当の軍資金を埋蔵したということです。そしてその番人たる落ち武者は平家に関わる者であることを隠して、記憶を失った一人の男として村に入りました。たまたま襲った嵐を利用して、遭難したかの如くに装ったのです。当初は敬遠していた村人たちも、洞窟で一人暮らしの男が気の毒になりました。といって痩せた土地柄では潤沢な収穫量があるわけでもなく、遠巻きに見ているこ...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・ぼーん~

  • ポエム 黎明編 =春の訪れ=

    シャンソンの流れるマロニエの並木道に春の訪れコーヒーの香が漂う時代遅れのカフェにロマンの花恋人たちは今エッフェル塔の陰で凍てついた太陽を見る=背景と解説=恋愛の歓喜を感じつつも、どこか冷めた自分がいた気がします。当時の言葉で言えば「世間が信じられない」ということに尽きます。世間=女性と置き換えてもいいかと思います。女性を蔑視しているのではなく、女性に受け入れられるような自分ではない、ということでした。憧れに近い気持ちを抱きつつも、いつか離れていく――捨てられる、そんな不安な気持ちを抱いていたのです。一行目、恋への憧憬二行目、濃いから与えられる歓び三行目、懐疑の気持ちポエム黎明編=春の訪れ=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十三)

    医師を長らく見てきた看護婦も、石部金吉のごとくに勤勉実直さを体現してきた医師の、あり得ないことばに信じられないといった表情をみせた。「いや、こりゃどうも。ぼくには似合わぬことばでしたね。いや、失敬失敬」当の本人にしても、どうしてこんなことばを口にしたのか、いやそもそもこんなことばが浮かんだのか判然としない。若い女性患者を受け持ったのは勝子がはじめてであり、上司である内科部長に、担当を変えてほしいと先日に申し入れをしたほどだった。どうにも勝子相手ではドギマギとしてしまい、聴診器を胸にあてるおりには横を向いてしまう。透きとおるほどに白い勝子の肌がまぶしく、いっそのこと色メガネをかけての診察をと考える自分が滑稽に感じられる医師でもあった。「女の柔肌にふれたこともないんだろう」。「年増ばかりを相手にしてちゃ男がみ...水たまりの中の青空~第二部~(三百十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十二)

    その翌々日。あいにくの曇り空の下、晴れ晴れとした表情をみせる勝子と、誇らしげに目をかがかせる小夜子。そしてそんな二人を眩しげにみあげる、しかし不安げな目をなげかける母親がいた。「小夜子奥さま。ほんとに宜しいのですか?社長さまのご了解をえていないというのに、お買いものをさせていただくなんて」「大丈夫ですって。武蔵にはあとで話しますから。あたしのやることに文句をいう武蔵じゃありませんから」「さあ、行きましょ。早く百貨店に行きましょ」小夜子の手を引く勝子、お祭りに出かける幼子のようにはしゃいでいる。にぎられた勝子の手は、相変わらずに熱が感じられる。先日よりも高くなっている気もするが、勝子の体調は変わらずいい。はしゃぎ回るその様からは、とても病をかかえているとは思えないほどだ。しかしその気の高ぶりが、小夜子には気...水たまりの中の青空~第二部~(三百十二)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十一)

    「そ、そんな。容態をわかっていらっしゃないから、そんなことが言えるんだ。冗談じゃない!医師として、そんなことはできない。いつ倒れるかもしれないんですよ、それでは。それに第一、死期をはやめることになってしまうことになる。医師としてね、そんなことは認められない。話になりません!」顔を真っ赤にして拒絶する医師。指先がわなわなと震えている。「先生。このまま、ベッドにしばり付けられたまま最期をむかえる患者の身にもなってください。白い天井を見つめたままで、なんの楽しみもなく過ごすなんて。あんまりです、残酷です」なおも食い下がる小夜子だが、医師は呆れかえった顔をみせている。だめだめ、と首をふるだけだ。「あなたねえ、病人に早く死ね!とでも言うの?信じられませんな、まったく。楽しみがない?そんなものは家族で楽しませてやりな...水たまりの中の青空~第二部~(三百十一)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~(三)誕生!

    そこかしこから拍手がわく。苦笑いを見せつつ、着物のすそをはしょった。「お兄さん、きっぷがいいじゃないか。男だねえ!」。小料理屋の二階から声がかかった。とたんに次郎吉が不機嫌になり、「まっぴらごめんでえい!」と駆けだした。真っ直ぐ進むと先ほどの子どもが盗みを働いた八百屋がある。次郎吉は、いかにもその八百屋の前を通りたくないと言いたげに、わざわざつばを吐き捨てて左へ折れた。どことて行く宛のない気の向くままの散歩、一見そう見えるように肩をいからせている。が、次郎吉の心の中では、先ほどの子どもの事を見ていた者には考えもつかぬ、恐ろしい計画が練られていた。この通りをもう少し歩くと町屋から外れ、大名屋敷の連なる一帯に出る。実は、そこが次郎吉の目的の場所だったのである。子どもの一件は、次郎吉にとって天の配剤とでも言うべ...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(三)誕生!

  • 青春群像 初恋物語り [レモンの夕立ち](三)

    「ほら、次だ!」シン公の大きな手が、アコの頭を包みます。暖かい、手でした。「ア・コ・ハ・オ・レ・ガ・ス・キ」「へぇー、そうかい?アコは、俺が好きなんだ。」「バカ!知らない!イーだ!」と、口を尖らせるアコでした。「それじゃ、これだ。」「オ・レ・ハ・ア・コ・ガ・キ・ラ・イ。えぇ、いじわるう!それじゃ、こんどはあたしのばんよ!」アコはすぐにシン公の後ろに回り、大きな背中に小さく書きました。「なに?そんな小さくちゃ、分かんないぞ!うん?キ・ス…キス?」シン公の素っ頓狂な声に、アコはプウー!とほほをふくらませました。「もお、シンちゃんの、えっちぃ!スキって、かいたのよ。それを、最初のスだけ、いわないんだから!」アコは不満げな声を出しながら、シン公の背中に耳を当てました。力強い心臓の鼓動が、アコの耳に心地よく響きます...青春群像初恋物語り[レモンの夕立ち](三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十三)

    医師を長らく見てきた看護婦も、石部金吉のごとくに勤勉実直さを体現してきた医師の、あり得ないことばに信じられないといった表情をみせた。「いや、こりゃどうも。ぼくには似合わぬことばでしたね。いや、失敬失敬」当の本人にしても、どうしてこんなことばを口にしたのか、いやそもそもこんなことばが浮かんだのか判然としない。若い女性患者を受け持ったのは勝子がはじめてであり、上司である内科部長に、担当を変えてほしいと先日に申し入れをしたほどだった。どうにも勝子相手ではドギマギとしてしまい、聴診器を胸にあてるおりには横を向いてしまう。透きとおるほどに白い勝子の肌がまぶしく、いっそのこと色メガネをかけての診察をと考える自分が滑稽に感じられる医師でもあった。「女の柔肌にふれたこともないんだろう」。「年増ばかりを相手にしてちゃ男がみ...水たまりの中の青空~第二部~(三百十三)

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・ぼーん~

    (二)老婆この老婆、実は帰る家を失くしています。あの大地震の折に、老婆だけでなく大半の家々が全半壊しています。しかしめげることなく、村人総出で互いの家の修復を行いました。そして老婆の家の修復に入ることになりました。その折でございます。「お婆さん一人では暮らしが成り立つまい。わしの所で面倒を見ようじゃないか」村の世話役が、申し出ました。世話役と申しますのは、もめ事の仲裁役でした。といって、裁判官の役ではありません。あくまで互いの話を聞いて、それを互いの相手に伝える役でした。当事者という者は興奮状態にあるから、己では冷静なつもりでも道理が通じないことがあるということです。それですんなりと話がまとまるかと思われたのですが、今回はどういうわけか……。と言いますのも、過去においてひどい伝染病が流行った折りに、やはり...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・ぼーん~

  • ポエム(黎明編)=春の訪れ=

    シャンソンの流れるマロニエの並木道に春の訪れコーヒーの香が漂う時代遅れのカフェにロマンの花恋人たちは今エッフェル塔の陰で凍てついた太陽を見る=背景と解説=恋愛の歓喜を感じつつも、どこか冷めた自分がいた気がします。当時の言葉で言えば「世間が信じられない」ということに尽きます。世間=女性と置き換えてもいいかと思います。女性を蔑視しているのではなく、女性に受け入れられるような自分ではない、ということでした。憧れに近い気持ちを抱きつつも、いつか離れていく――捨てられる、そんな不安な気持ちを抱いていたのです。一行目、恋への憧憬二行目、濃いから与えられる歓び三行目、懐疑の気持ちポエム(黎明編)=春の訪れ=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十)

    そして翌日のこと。「先生!どうなんですか、本当のところは。勝子さん、回復に向かっているんですか?退院できる目途は、本当にあるんですか?」と、医師につめよる小夜子がいた。身内ではない小夜子に、勝子の病状を話せるわけがないことは分かっている。「御手洗さん、家族以外の方に話すわけにはいかんのです。家族にでも聞きなさい」木で鼻をくくった態度を見せる医師だったが、それでも小夜子はつめよる。武蔵から多額の礼金がわたされていることを知る小夜子だ、むげな態度をとられることはないと考えていた。「誰です?竹田は知っていますか?聞いても、開放に向かっていますというだけですよ。わたしには、信じられません。わたしの母の最期とおなじに感じるんです。体調はいいのに、微熱がつづいて。回復にむかっているように思えたあと、とつぜんに逝きまし...水たまりの中の青空~第二部~(三百十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百九)

    「何てこと言うのよ、勝利は。お母さん。笑ってないで、何とか言ってよ。小夜子さん、あなたもよ」「さあさ、もうその辺にしなさい。勝子、支度なさい。ちょっと失礼して、体をふきましょ。銭湯にはまだ入れないからね」台所から、勝子の嬌声が洩れてくる。「背中だけでいいから。そこは自分でやれるって」「いいから。あたしにまかせなさいって」二人の会話に、竹田が顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。普段から聞いていることなのだが、その折には竹田もちゃちゃを入れて大笑いするのだが、いまは小夜子がいる。小夜子はだれかれなしに話すことはないだろうと思う。話すとしても武蔵だけだろうと思う。しかしその武蔵が五平に話し、五平は徳子に話すだろう。そうするとまたたく間に会社中に知られてしまうに決まっている。しかしそれがいやなのではない。母親の...水たまりの中の青空~第二部~(三百九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百八)

    「なんてこというんだ、姉さん。ぼくは姉さんがいてくれるから、変ないい方だけど、姉さんが病気だから、こんなにがんばれるんだ。なまけ者のぼくがこんなにがんばれるのは、姉さんのおかげなのに。姉さんが一日でもはやく元気になってくれれれば、ぼくはそれで満足だよ。だから、そんな哀しいことはいわないでくれよ」「勝利、ありがとう。ありがとう。こんなあたしでも、生きてて良いんだよね?わかったわ、もどる。あたし、病院にもどるわ。もどって、大人しくしてる。そして早く退院できるように、がんばるわ。そうよね。退院したら、楽しいことが一いっぱいってるのよね。小夜子さん、お約束したわよね。百貨店に行ってお買い物して、それから美味しいものを食べましょうって」「ええ、もちろんよ。だからはやく元気になって」涙、涙で、しっかりと抱き合う小夜子...水たまりの中の青空~第二部~(三百八)

  • 歴史異聞シリーズ 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (二)おきやがれ!

    七、八歳の子どもがかけてくる。手に、その手の平よりも大きいリンゴを、さも大事そうにかかえて。どろだらけの顔に、みょうに目だけをギョロつかせている。幼いころの次郎吉そのものだった。次郎吉の心に、ムクムクとわき上がるものがあった。「よしよし、ここまで来い。おじさんが助けてやる」次郎吉はそう言いながら、手招きした。子どもは一瞬たじろいだが、ニッコリと笑うと、目を輝かせて次郎吉のうしろにかくれた。その後から、八百屋のおやじらしい男が、フーフーと息をきらして走ってきた。「さあ、そのリンゴを返せ!」と、まず後ろの子どもをにらみ付け、つづいて次郎吉に「あんた、この小僧っ子の兄貴かね?こまるじゃないか、えーっ!」と、かみついてきた。「おきやがれ!としはのいかねえガキじゃねえか。リンゴのひとつやふたつのことで、おおぎょうな...歴史異聞シリーズ鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(二)おきやがれ!

  • 青春群像シリーズ 初恋物語り [レモンの夕立ち](二)

    「こりゃあ、ひと雨きそうだな。ああ、かさ、持ってやるよ」無造作に突き出されたその手――ようやく拳と解かれたその手に、アコはかさをわたします。そして、あれほどにつなぎたいと思ったシン公の手にふれることなく、アコは手を引っこめました。きょうの町並みは、少すこ色あせて見えます。お日さまがかくれているせいなのでしょうが、それだけではないようです。子どもあつかいをするシン公が、憎たらしく思えているせいなのです。三つ年上のシン公です。中学生になったばかりのアコと、高校に行ってしまったシン公。追いつけないのがくやしい、アコなのです。シン公がとつぜん立ち止まり、アコのうしろに回りました。そしてアコの背中に、人さし指で、なにやら書きはじめました。「イヤ~ン!くすぐったい!」アコは背中をそらして、シン公にやめて!と、言いたげ...青春群像シリーズ初恋物語り[レモンの夕立ち](二)

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・ぼーん~

    (序)このお話は、先日のこと、ある女性から聞いたものです。お年は、そう八十を越えられているはずです。ときおり認知症かと疑われるような言動がありますが、平生はしっかりと生活を営まれています、とのことでした。正直なところ、このお話の真偽のほどはわかりません。しかしながら、さもありなんと思えたので、みなさんにもお知らせしようと考えました。山あいのふるびた田舎に、一人の老婆がおりました。身寄りのない天涯孤独の身の上だったそうです。いえいえ、十年程前までは娘夫婦と孫が二人の五人家族だったそうです。そうです、覚えておいでのことと思います。あの大地震で、甚大な被害を被った地にお住まいでした。たまたま隣県での小学校の同窓会に出席中だったこの老婆だけが、その難をのがれられたとか。あ、べつにその災害に関してのお話ではありませ...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・ぼーん~

  • ポエム(黎明編)=愛・その起こり=

    水たまりの中の青空が凍るのは地上の全てが光を失うとき新しい世界の生誕の日ピサの斜塔は崩れ去る━落日その朝ナイルの川に水が溢れ砂漠の地に花が競い咲くことだろう*朝=あした---・---・---吉行理恵という詩人をご存じでしょうか。吉行淳之介(兄)吉行和子(姉)のお二人が有名ですよね。三行詩なるものを唱えられて(?)いたと思うのですけれども。その詩に共感を覚えまして、詩そのものというよりは、そのスタイルにと言った方が正確でしょう。難解だと思います。当時の日記やらメモ書きを読んでみると、恋する気持ちを表現したものでした。色々のことから、中学生のくせに厭世観に囚われていたのです。現在小説として発表中の「ごめんね……」と、時期が重なっています。一行目で、厭世観を。二行目で、恋心に気づいたことを。三行目で、恋の成就が...ポエム(黎明編)=愛・その起こり=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(三百七)

    「でもね、勝子。うちにいても、なにもできないよ。おとなしく寝てなきゃだめなのよ。そんなの、いやでしょ?だから、もうすこし辛抱してちょうだいな」「どうしてよ、どうして寝てなきゃいけないの?こんなに元気になってるのに。おかしいわよ、ぜったい。それとも、治ってきてないの?悪くなってるって言うの?お母さん、お母さん。先生に言われたの?『勝子さんはもうだめです。治りません。あとは死ぬだけです』って」「な、何て事を言うの、この子は。えんぎでもないこと、言うもんじゃないよ!」「そうだよ、姉さん。そういうことを言っちゃだめだよ。やまいは気からって言うんだから」「なによ、その言い草は。勝利!ほんとのことを言いなさい。お姉さん、長くないのね?やっぱり死ぬのね?」金切り声が大きくひびいた。勝子の切実な思いが、はげしく竹田をなじ...水たまりの中の青空~第二部~(三百七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(三百六)

    その日の夕方、勝子が駄々をこねた。もちろん今までにもありはしたが、今日は一段とはげしい。「もう元気になっているんだから、このまま退院してもいいじゃないの!病院暮らしは、もういや!だってこんなに体調が良いのよ。気分爽快よ、ほんとに。ねっ、小夜子さん。あなたもそう思うでしょ?あたし、元気よね?」「姉さん、無茶を言っちゃだめだよ。先生のお許しをもらわなくちゃ。とりあえず今日は戻ろうよ。明日にでも、先生に話せば良いじゃないか」「勝子。我がままを言っちゃいけません。もう少しでしょうに、もう少し辛抱すれば、ほんとに退院できるんだから」三人のやりとりがつづく。小夜子はただだまって聞いていた。口をはさみたい、勝子の味方をしたい、そんな気持ちをぐっとこらえて聞いていた。小夜子の母親である澄江もただ寝ているだけの状態ではあっ...水たまりの中の青空~第二部~(三百六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(三百五)

    「いえ、あの、それは、でもそれは、、」と、しどろもどろになってしまった。まさか小夜子に叱られるとは思ってもいなかった竹田だった。勝子にしてもそうだ。竹田の口が過ぎていると思いつつも、帰る度に聞かされる説教話には辟易していた。言い返したいとは思うものの、元をたどれば勝子の病の平癒祈願からはじまったことだ。どうにも母親には、逆らえなかった。そして母親といえば、複雑な思いでいた。味方をしてくれる小夜子に感謝をせねばと思いつつも、我が子を頭ごなしに叱りつける小夜子に複雑な思いも抱いている。“女ごときに!小娘こどきに!”という思いもわいてくる。「小夜子奥さま、小夜子奥さま。もう結構でございます。勝利も悪気があってのことではございません。大恩ある小夜子奥さまを見ましたから、怒ったのでございます。ささ、おはしを進めてく...水たまりの中の青空~第二部~(三百五)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (一)生い立ち

    「こらあ、このガキー!まてえー」こんな声を聞くたびに、次郎吉は幼い頃の自分を思い出すのが常だった。近頃そんな思いをすることが多々あると、次郎吉は感じていた。「不景気な話ばかりの、世間さまだ」と、誰にとはなく呟いている。当時、歌舞伎役者の社会的地位は低かった。ほんのvs握りの役者は、今で言うパトロンを持つことにより金回りは多少良かったものの、殆どの役者は汲々としていた。ましてその歌舞伎役者の下で働く出方を父に持った次郎吉は、極貧乏人という世間さまの偏見から抜け出られなかった。盗みを働くなどは、日常だった。育ち盛りの空腹を満たすには、八百屋からこっそりと大根などをかすめ盗らなければならない。そして、自分よりも幼い子ども達にも分け与えていた。そんな幼児たちから受ける尊敬の眼差し、次郎吉には誇らしく思えた。今もそ...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(一)生い立ち

  • 初恋物語り [レモンの夕立ち] (一)

    -シン君とアコちゃん、どうかしらねえ。-シン君、もう高校生でしょ。-アコちゃんも、中学生なのよね。井戸端会議の声が、胸に突き刺さる。せまい故郷に帰ってきて、わずか二日目のこと。夕立ちの雨が、激しく大地を叩きつける。---------西の空に、どんよりとした雲が浮かんでいます。どうやら、雨を呼びそうな気配です。今日は久しぶりのデートだというのに、なんとも意地悪な天気の神さまです。不安げに見上げるシン公の顔には、それでもどことなく歓びの色があります。しっかりと握りしめられたその拳には、どことなく大人が感じられます。いつも肩をいからせて歩く姿は、まだまだ子供だったのですが、今こうして握りしめられた拳からは、確かに大人が感じられるのです。シン公との身長差を、いつも気にしながら歩いているアコは、その握りしめられた拳...初恋物語り[レモンの夕立ち](一)

  • 姑息なことを、少しばかり……

    1月8日(日)から、新企画(?)を始めますわ。---・---・---日曜日:青春群像シリーズ月曜日:歴史異聞シリーズ火曜日~木曜日:長編シリーズ金曜日:ポエム土曜日:きわものシリーズ---・---・---過去に発信した作品群を、再度出します。14年前からの全作品となります。よろしかったら、お出でください。姑息なことを、少しばかり……

  • 謹賀新年

    あけましておめでとうございますひとりこたつでうたた寝……至福のとき2023年ははたしてどんな一年になるんでしょうか後期高齢者一歩手前の74歳になるのですが構想中の小説がどんどんはかどってくれればいいのですけれど「時間がとれるようになればガンガンかけるようになるさ」いつだったかの年初に考えたような気がします。でもシルバー労働態勢となり午後だけの勤務体系となっても結局ははかどりませんどころか昨年は2ヶ月の空白期間が生じてしまう始末でした「健全な肉体に健全な精神が宿る」昭和世代の私たちには金言でした「文武両道」が推奨された時代でもありました「滅私奉公」が叫ばれいわゆる会社人間が賞賛されたものです「24時間働けますか」そんなキャッチコピーがテレビコマーシャルでガンガン流れてきました高度経済成長の真っ只中でした現代...謹賀新年

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