水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十四)
十時の開店と同時に、どっと流れ込む人ごみの中に、二人がいた。「すごいのね、小夜子さん。いつもこんな感じなの?」。かるい息切れを感じつつも、たかまる高揚感をおさえきれない勝子だった。小夜子にとっても、初めての経験だ。普段はお昼をすませてからであり、森田の出迎えがあった。しかし今日は、勝子の希望で開店と同時にした。「うわあ、素敵!おとぎの国に来たみたい。ねえねえ、小夜子さん。どこ、どこから見てまわるの?」。目を爛々とかがかせて店内を見まわす勝子は、まるで少女のようなはしゃぎ方だ。「そうねえ、お洋服からにしましょうか。勝子さんにぴったりのお洋服を、まず探しましょう。それからバッグでしょ、お靴でしょ。それに、お帽子もね」「そんなにたくさん?勝利に悪いわ、そんなぜいたくをして。勝利はあたしの病院代があるから、自分の...水たまりの中の青空~第二部~(三百十四)
2023/01/31 08:00