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セントの最新映画・小演劇120本 https://blog.goo.ne.jp/signnoot

映画館で新作をランダムに見ています。小演劇も好きですよ。

プロフィール 性別   男性 自己紹介 休みは大体映画館かその近くを闊歩しています。自然と繁華街というところを歩くことになります。心は大自然にあこがれながら、結局便利さに負けているような気もします。

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2010/01/07

1件〜100件

  • 魂のまなざし (2020/フィンランド=エストニア)(アンティ・J・ヨキネン) 80点

    北欧フィンランド映画です。森が家と共にあり、いい環境ですね。一人の女性画家の一時期の姿を追っています。伝記映画なんだが、最後まで映像は彼女の絵画のような色彩を捉え、絶品です。映画は彼女の絵画に影響を与えた恋愛に焦点を絞っている。ところがこの映画、女は完全に恋愛モードなんだが、一回り以上年下のこの男は何と言っていいか、かまととだったり、優柔不断だったりするのか、彼女とのボタンの掛け違いが多すぎる。そのことで女は病気にまでなりはてるのであります。まあ、映画は女目線で描かれているので何とも言えないが、失意の彼女の前に女より30歳以上も若い婚約者を連れてきたり、女にあなたとはずっと友人ですと告げたり、不可解な行動を伴う。友人関係といってもセックスレスではないので悩ましいところではあるが、男の方は女を結婚対象とも思...魂のまなざし(2020/フィンランド=エストニア)(アンティ・J・ヨキネン)80点

  • 壱劇屋「code:cure」(作・演出 大熊隆太郎)於ABCホール 80点

    2年ぶりの公演です。とにかくこの劇団はスタイリッシュ、斬新、カッコよさ抜群。あまり内容を掘り下げる演劇でもないが、見ているだけでほれぼれさせる演劇集団で、最高だ。客演の山田蟲男のドスのきいたというか、おどろおどろしいセリフの言い回しがキーとなり、この演劇を引っ張る。でもこの演劇、セリフそのものは少ないんだよね。ほとんどが画面の字幕で伝わられるので、通常の演劇との相違感がある。観客は見て驚き見て考える。そう、視覚性が第一義的なんだ。そこがこの劇団の魅力だろうと思う。2時間弱あっという間に終わる。楽しい、魅惑的な実に魅惑的な演劇が終わる、、。壱劇屋「code:cure」(作・演出大熊隆太郎)於ABCホール80点

  • 新参者 (講談社文庫) (2013 東野圭吾) 85点

    秀作の名高い東野の短編集、と思いきや、一個の長編小説と考えてもいいと思う。それぞれの短編が相互につながり、ラストで一つの解決編を呈するという複雑な仕組みながら、それぞれの編に全く無駄がなく、ひょっとして東野のベストに近い小説ではないか、と思われるほどの出来である。やはり魅力的なのは、加賀刑事と人形町という東京の下町との関わり合いである。彼は大阪の出身であるのに、随分東京の下町に愛情が深い。というより、一生懸命生きている普通の人への営みへのまなざしが暖かく、それには大阪も東京もないということなのだろう。彼の人間性が強く感じられる部分である。ただ、ミステリー好きの吾輩からすれば、最後の真犯人とその動機はちょっと軽い気もしないではない。でもそれらを割り引いても、秀作であることには変わりはない。新参者(講談社文庫)(2013東野圭吾)85点

  • さよならに反する現象 ( 2022 角川書店)(乙 一  著)  70点

    ホント久々すぎるほど乙一を読む。かなり前、乙一の作品は全部読みふけった。それほど気に入った。僕の人生で、彼の書物がいつも僕のそばにある、そういう作家だと思っていた。いつごろかなあ、彼が本を描けなくなって、普通の人生を追いかけるようになってから、こちらも追うのをやめ、ほとんど忘れていた。本だけは買いそろえていた。そして最近この本を見つけた、、。5、6編の短編集。幽霊が常に出ている。なんか、でも乙一らしいところはあれど、でもやはり違う。それでも最初と最後の短編が印象的だ。でも乙一らしい愛のとどめなき奔流は感じられない。作ってるなあって感じ。もう彼は終わったのだろうか、、。さよならに反する現象(2022角川書店)(乙一著)70点

  • 白い牛のバラッド (2020/イラン=仏)(マリヤム・モガッダム / ベタシュ・サナイハ) 85点

    ドラマとしても、この上ない緊張感に満ちたストーリー。設定も宗教に挑戦的でとても面白い。これがイランの現状、すなわちイスラムの世界。この不幸は神の与えたもうなのか?冒頭からラストまでずっと食い入るように画面を見る。そんな時間の最近珍しいことよ。誰もが悪くないのにこの不条理さだけは突出して暗黒を包む。最後まで見ても明るさは見えぬ。けれど、ほうき星のような一瞬の輝きは見える。太宰治「右大臣実朝」「アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ」。白い牛のバラッド(2020/イラン=仏)(マリヤム・モガッダム/ベタシュ・サナイハ)85点

  • 王様企画 『ひとける』(作・ザビエル・ミサイル・ヒポポタマス 演出・菊地仁美) at難波シアター 75点

    異常な設定から始まる人類生存を託す未来はいかに、、でも最近はロシアによる侵略戦争が実際まだ続いており、この閉塞感のある一空間はまるで現代社会の生き写しのようにも思えるし、なかなか鋭いテーマを追求した秀作劇だと思います。俳優陣も多数で、しっかりセリフも勉強されており、小さな劇場ではあったが、臨場感にあふれ、忘れることのできない演劇になったと思う。この劇団、次作も期待します。王様企画『ひとける』(作・ザビエル・ミサイル・ヒポポタマス演出・菊地仁美)at難波シアター75点

  • 星空の16進数 (角川文庫)(2021 逸木 裕) 85点

    本格というほどではないけど、ミステリーとしてはとても人間感のある彩にあふれてて、ページを繰る手が早くなる秀作です。17歳の少女の周囲の環境が少女の自意識の成長によりきめ細かく描かれてるところが素晴らしいです。ミステリー部分ももちろん面白いが、彼女の人生観をきっちり描く手法はミステリーでは珍しいですね。もちろん、主人公である私立探偵のみどりも最高です。相棒の浅川も魅力的で思い切り一気読みでした。ルンルン気分です。星空の16進数(角川文庫)(2021逸木裕)85点

  • 青い雪 (麻加 朋 著)(光文社 2022)  75点

    文章・展開が読みやすく、また子供たちが主人公のミステリーなので、さわやかで読中感がよい。そして時間がたって事件は色彩が変わってゆくのだ。ミステリーといっても、まず本格物ではない。読者に伏線をあまり提供しておらず、何気なくぽつんと新事実が浮き彫りになる。これってなあ、推理する楽しみはほとんどなし。一応意外な犯人を浮かび上がらせるが、それは作者側のリードにおいてであり、本格もの愛好家からは、いろいろ非難もあろうとは思う。事件の謎もちょっと人工的で、後半はちょっとついていけない感もある。まあ、でも、最近のミステリーでは合格ラインかな。最後まで読ませる何かを作者は持っている。次作がとても気になる作家であります。青い雪(麻加朋著)(光文社2022)75点

  • 劇団星今宵「売り言葉」(作・野田秀樹 演出・古都)at阪大学生会館 80点

    久々の一人芝居です。100分。いつも思うが、セリフ覚えはどうやってんだろう、、。僕だったら2,3分でも無理です。出し物は題名から思いもつかない夫婦愛で有名な智恵子抄の裏話。この作者、野田はかなり野心家で不遜です。みんなが思っている夫婦愛を逆なでにしてしまいます。あの福島の美しい安達太良山も哀しい険しい山に変貌してしまいます。後半になると、千恵子から光太郎への強い恨みつらみに変わっていきます。何と、世間では愛にあふれた夫婦愛を売り物の高村光太郎、実際は知恵子に5か月も会いに行かなく、別の女性を文通をしていたとか、、そんな繰り言がラスト近く終始流れます。まあ、実際もそうなのかもしれませんね。はっと驚くある劇術家たちの愛の幻影光景でした。それにしても、一人芝居ってすごい。見ている方は通常とそれほど変わりません。劇団星今宵「売り言葉」(作・野田秀樹演出・古都)at阪大学生会館80点

  • リコリス・ピザ (2021/米) (ポール・トーマス・アンダーソン) 70点

    お気に入りPTAの新作だ。何と4,50年前の時代にムーブした青春グラフィティ。わんさか出て来る当時の時代及び俳優ネタとベタに徹したPTAの才能にほほえまされるも、やはりアメリカ風土に順応していない吾輩の乗り遅れは最後まで続く、、。リコリス・ピザ(2021/米)(ポール・トーマス・アンダーソン)70点

  • 蒼海館の殺人 ( 阿津川 辰海 ) (講談社タイガ) 文庫   2021) 80点

    いやあ、文庫本とはいえ630ページもの超長編もの。ふつうこういうものは避けるのであるが、最近では珍しい本格ミステリー&探偵ものと聞けば読まずにはいられない。ところが、読めども読めども160ページになってやっと殺人事件が始まるというスローテンポの展開。叙述自体はしっかりと登場人物を書き分けていて退屈はしないが、それにしてもミステリーで事件が発生しないことにはこちとら俄然読む気がなくなってくる。と、そんな怠慢を抑え頑張って読み進めるのであった。とにかくミステリーとしてはよく書けているので、文句はあまり言えないが、でもラストのあのあっと驚く真相は、600ページも読者を読ませておいて、ちょっと論理的にはどうなのか、といった感想を持ちました。我々昔からミステリーを楽しんでいる者からは少々の違和感もありまする。でもこ...蒼海館の殺人(阿津川辰海)(講談社タイガ)文庫2021)80点

  • あなたの顔の前に (2021/韓国)(ホン・サンス) 80点

    ホン・サンスの映画って、普通の映画のように「さあ今から映画が始まるよ」といったところが全然ない。あたかもそこらの小説を読むように自然に入り、そしてしかしラストで読者は思いがけない発見をして何それ?で終わるのだ。本作も全くそう。長くアメリカに移住していた元女優が突然韓国に帰ってくる。妹はなぜと疑問を抱えながら何気なく財産状況などを聞くが女はそんなのないとうそぶく。しかし女は昔住んでいた家を訪ねたり、どうも何やらあるらしい。ランチと称して会った男は映画監督らしいが、何か本心を出さず、それでもあなたと映画を撮りたいと女に言う。しかし、特に脚本を用意しているわけでもなく、すると女はあと5,6か月の寿命だからと出演を断る。監督は体を求めていると直球に話すと、女はいいわと返す。路地の傘を差しながらの二人でタバコをふか...あなたの顔の前に(2021/韓国)(ホン・サンス)80点

  • 地人会新社「二番街の囚人」(作・ニールサイモン 演出・シライケイタ) 75点

    ニールサイモンと言えば、わが青春時代に映画化されたものも多いブロードウェイの名脚本家であります。たまにはメジャーの演劇をも、また懐かしい時代に触れたいなあとも思い鑑賞しました。しかもこの演劇、好きな役者・村田雄浩&篠田三郎が出演していて、何とも興味津々だ。話は中年サラリーマンの挫折からくるニューヨークの生活が決して楽園でなく、むしろ牢獄に思えてくるという現代的な意味を秘めている。しかし葛藤を経て、夫婦のかすかな希望さえにじませるところで舞台は終わる。50年前だったら、斬新なテーマなんだろうけれど、我々はそれから50年を経て、さらに新たな現代の過酷な生に細々と生きているのが現状。私にはこのテーマは少々時代性を感じるものとなっていることに気づく。村田雄浩の演技は相変わらず水を得た魚のようにダイナミックでまた繊...地人会新社「二番街の囚人」(作・ニールサイモン演出・シライケイタ)75点

  • わたしは最悪。 (2021/ノルウェー=仏=スウェーデン=デンマーク) (ヨアキム・トリアー) 80点

    お気に入り監督の話題作である。なるほど全体を13章に分けており、小説を読んでいるかのようでもあるが、1人の女性の心象を表現するにはメリハリがあって、よろしい。男と女の生き方にはさまざまあれど、この映画のように2つの恋愛を見てると、随分有り体で分かりやすい。この作品は女性から見た人生への探求となっているので、男性への関わり合い、人間のそもそも自由とは何か、愛する人からも束縛されたくはない、などの人間本来の希求の問題が描かれている。特にこのようなテーマで現代人として生きることの意味を考えるに、誰をもが毎日向き合っていることなのだろうと思う。相手は好きだけどでも一つたりとも干渉されたくはない。愛する前に自分の立ち位置が揺るがされたくない、など基本的な気持ちは揺るぎはない。ではどうすればいいのか、、。自由を第一義...わたしは最悪。(2021/ノルウェー=仏=スウェーデン=デンマーク)(ヨアキム・トリアー)80点

  • 看守の流儀 (宝島社文庫 ) (2022 城山真一) 85点

    5編の短編集。一応時系列的にはつながっている。金沢の刑務所での囚人と刑務官の話である。人々の生活空間からぽつんと疎外されているこの空間に人間的なまなざしを深く感じることになる。まず視点がいい。刑務官、囚人たちの真実の心の慟哭、広がりを感じ取り、そういう世界とは関係ないと思っていた自分がはっとさせられる素晴らしい小説であった。ミステリーとしても秀逸だ。なかでも「ガラ受け」は不覚にも涙を流してしまった。作者の人間への深い思いが伝わってくる名編である。看守の流儀(宝島社文庫)(2022城山真一)85点

  • 新人作家・杉浦李奈の推論 (角川文庫) (2021 松岡 圭祐) 70点

    あまり読むことのない出版社の裏話満載、というほどでもないが、出版社の実名が出てきたりするので頑張ってるなあという期待感もある。そして盗作疑惑を捜査するのが新人作家という設定だが、編集者からこき使われたり、それなりの松岡の当時の思いが伝わってきたりして、それは面白い。作家と言えども、売れない間は編集者からぞんざいな扱いをされるのかと興味を引いた。さて、盗作事件の真相だが、これはそれほど面白くもなく、少々期待外れ。人工的ではある。でもまあミステリーって、そういうもんなんでしょ?と言われればそうです、と言ってしまおうか、そんなものです。読んでる間は退屈しない。新人作家・杉浦李奈の推論(角川文庫)(2021松岡圭祐)70点

  • 三姉妹 (2020/韓国)(イ・スンウォン) 85点

    いまどきこういう映画は珍しい。何故って一昔前のように、人間を斜めから、真上から、真下から、真横からそして内臓からえぐり倒し解剖していく映画の何と、またすごいことか。3姉妹の話です。3人とも醜悪である。誰もまともに見ておれないほどなのだが、でもそのうち次女が半端でないほど強烈である。子連れの夫と再婚している。料理も作っているとは思えない。アル中である。この次女が暇だと姉に電話を絶え間なくかける。対する姉は切りもせず電話を聴いている。そのイライラが観客に伝染する。不快な映画である。人生のドツボをそのまま伝えているようでもある。我々の住む世界にも内容は変われどこういう代物は毎日のように現れる。そう、それが日常である。生きるってホント耐え難い。この映画を見ていてそう思う。捉え方が、昔見たベルイマン映画のようだと思...三姉妹(2020/韓国)(イ・スンウォン)85点

  • げきだんかえる「モナリザの左目」(作 高橋いさを・演出 否カるキ)at布施PEベース  85点

    ミステリー劇なのだが、まるで芥川の「藪の中」ごとく、真相が二転三転し皆目見当がつかない。こんな面白い劇を最近見たことがないので驚く。脚本が命と演劇ではよく言われるが、これはまさにそのもの。演出も小気味よく、俳優陣も実にセリフをしっかり語る。練習もしっかりと時間をかけているのが分かる。そういう舞台と観客の緊張が2時間近く続くのだ。演劇の醍醐味である。ラストでどんでん返しまであり、幕は下りる。いやあ、いい演劇空間であった。こういう日は会場を出てからもずっと余韻が続く。いやなことも多い最近であったが、実に気分爽快。ありがとう!げきだんかえる「モナリザの左目」(作高橋いさを・演出否カるキ)at布施PEベース85点

  • ベイビー・ブローカー (2022/韓国)

    是枝の韓国版「万引き家族」と言っていいか、、。この疑似家族については正直テーマは理解できるが、一ファンとしては新たな感動は浮かばない。しかし相変わらず映画としては秀逸。次作に期待します。ベイビー・ブローカー(2022/韓国)

  • 冬薔薇(ふゆそうび) (2022/日)(阪本順治) 60点

    好みの監督、阪本の新作だ。俳優陣は恐ろしいほどぎゅうぎゅう締め付けるように主役伊藤の周りにいる。伊藤青年はどこに自分を見つけることができるのか、、。じっくり見させいただきましたが、最後までこの青年に感情移入するところがなく、弱り切りました。映画の主役でこんな性格付けというのも僕はあまり見たことがなく、かなり戸惑いました。それがあの大好きな阪本の作品だから余計困惑しました。父親の周りの人間光景は、そりゃああの方たちだから抜け目はありませんよ。彼らの演技はそれはそれで光ってたし、見どころがあったと思う。でもそれだけ。息子が父親に何も言ってくれないからって詰問するシーンがあるけれど、何言ってんの?普通そんな息子はいません。逆バージョンの父親は息子から毛嫌いされるでしょうし、、。甘えるなよ。とか、勘違いして倉敷に...冬薔薇(ふゆそうび)(2022/日)(阪本順治)60点

  • 流浪の月 (2022/日)(李相日) 75点

    日本映画にしては題材といい、野心的な取り組みと感じられる映画です。この種の映画は映画館にいる人だけが、彼らを理解できるが、その他大勢の一般人は既成事実だけで判断してしまう題材と言えます。昔観たフランス映画の「シベールの日曜日」を思い出す。元戦闘員と天涯孤独の少女との純愛。これを世間は犯罪としか思えず、男は銃撃を受けてしまう。この映画、二人だけの極限の状況での孤高の愛の成就なんでしょうね。純粋な愛の世界に二人は入っていたんだと思う。あくまでその愛が強すぎたので、それぞれ二人は収束点に戻ることなく、彷徨うことになってしまったのだと思う。で、映画はかすかな希望を匂わせて終わるが、実際上の俗世間は容赦ない圧力を二人にかけるであろうと思われる。そもそも世の中ってそんなもんでしょう?この愛の世界に没頭できる人はこの映...流浪の月(2022/日)(李相日)75点

  • 儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)(2011 米澤穂信) 85点

    米澤の大ファンなのに読み残していた著名な短編集をいまさらながら読み解く。これは面白い。まさにホラーと言えます。5編あるがすべて秀作。これほどわくわくさせるミステリーもまた珍しいであろう。米澤の才能をまざまざと見せつける。私のように見逃されている方はぜひ拝読を。儚い羊たちの祝宴(新潮文庫)(2011米澤穂信)85点

  • オフィサー・アンド・スパイ (2019/仏=伊)(ロマン・ポランスキー) 80点

    ポランスキーの新作。相変わらず映像はどこを切り取っても一流の絵画。もう感嘆するばかり。俳優陣も完璧の演技。お金もかけている。もう現代においてはこういう映画を撮る作家はいないのではないか、と思われる作品です。けれど彼はこの映画で何を言いたかったのか。またはなぜこの映画を作ったか?ユダヤ狩りの悪夢を脳裏に焼き付かせる子供時代。映画監督時代のシャロン・テート事件。そしてアメリカでの少女への淫行疑惑による身柄引き渡し要求など、彼は常に何かから逃げて来た、、。この映画の核たる部分、すなわち反ユダヤ、体制への欺瞞、人間不信、人民の軽薄さ、それらすべてを彼の怨念の総色で覆いつくしたかのような映像でした。力作です。オフィサー・アンド・スパイ(2019/仏=伊)(ロマン・ポランスキー)80点

  • 劇団未来『橋の下のガタロ』『川向う』(脚本・和田澄子 演出・しまよしみち) 80点

    まず60周年おめでとうございます。ものすごい数字だと思います。皆様の日頃の積み重ねがそうさせたと思います。まず「ガタロ」。日本昔話のような素朴でしかし河童をモチーフに何やら人間関係の複雑さ・深さを揶揄させる内容だと思いました。そしてそれが2幕目の「川向かう」に生きてくる。かなり昔の話なのだが、もろ差別のことだとは思えないやり取りの中、この話の基底に流れているのが部落差別の話だと分かってくる。もうなくなっているはずのこのことが現代にもまだ影響を与えていることを我々は忘れてはならない。ラスト近くの母親の心の叫びはもう演劇を超えていたと思われる。壮絶でした。劇団未来『橋の下のガタロ』『川向う』(脚本・和田澄子演出・しまよしみち)80点

  • 看守の信念(城山真一)(2022 宝島社) 85点

    作者の弱者への目線が素晴らしい。刑務所の中ってわからないが、看守がこういう人たちばかりであれば、どれだけ報われることであろうか、、。ミステリーの形式を取ってるが、それは一部であり、普通の小説といってもいいような気もする。人へのまなざしが深く、澄み切っている。5編の短編すべてが感動ものである。僕は4編目のジャズシンガーのお話しが好きだ。小説ではあまり泣くことがないが、不覚にも涙を流してしまった。実にいい話だ。何か、長岡弘樹の教場シリーズのようなイメージもあるが、双方とも秀作である。人間がきちんと書けているところが素晴らしい。久々の拾い物の書物である。看守の信念(城山真一)(2022宝島社)85点

  • 息子の面影 (2020/メキシコ=スペイン)(フェルナンダ・バラデス) 80点

    映像がガチっと決まってる。静かだ。けれどその映像からは人間の蠢きが絶え間なく聞こえてくる、、。これは何と言っていいのか、ラストの衝撃にしばらく席を立つことができなかった。映画では悪魔と言っていたが、人間が生み出す最も残酷で極悪なものと言えるだろう。まるでこの世の地獄だ。これが小説などではなく現実だということに私はおののいてしまう。形を変えれば今起こっているロシアによる侵略も同種のものだということに気づく。しばらく人間不信が続きそうな秀作です。息子の面影(2020/メキシコ=スペイン)(フェルナンダ・バラデス)80点

  • 劇団1mg【Strong Punch】(作・演出 伊達シノヒコ)at  in→dependent theatre 2nd  80点

    久々の本公演。コロナ長かったもんな、、。そしてその2年間の鬱積をたたみ下ろすように若者たちは舞台狭しと羽ばたいている。最初は小6のワンパクヒーロー仲良し組から始まるが、これがみんな意外と無理してない風情で、自然です。驚きます。川田氏も全然違和感ないから不思議です。もとも童顔だけど、でもそれだけではないね、ワンパク少年組に完全に溶けてます。演技力でしょう。これが、中3、そして高3,それから歳月を経て社会人になっても彼らの、年一度、桜の咲くころの定期的な出会いがあるのだ。しかし、それぞれ彼ら、人生の悩みは尽きない。そして一人の女の子が事故で死んでしまう、、。5レンジャー、だったら色は5色です。どんな色にでも意味はあるし、それぞれの思いもあるのです。一番元気でハイだったレッドが女の子の死から全く元気をなくしてしまう、...劇団1mg【StrongPunch】(作・演出伊達シノヒコ)atin→dependenttheatre2nd80点

  • 南河内万歳一座「改訂版 二十世紀の退屈男」(作・演出 内藤裕敬)at一心寺シアター倶楽  85点 

    一時代の演劇の基本柱を守りながら、なおかつ劇の面白さを追求し続ける劇団です。今回は客演の若手を含めると20人弱の出演数。とにかく舞台狭し、年関係ないやと全員が躍動する。その根本的な役者の営みに観客は元気をもらう。ある安アパートの一部屋にいろんな人生が蓄積されている。そこに迷い込む一通の手紙。そこはかと人生の機微を醸しながらも運動会のような波乱に満ちた激動が蠢いてゆく、、。それでも窓から降り続く雨音がすがすがしいシーンもあり、内藤は文学的である。銭湯での男性陣の奮闘劇と言い、観客へのサービス精神はすこぶる高い。まっとうなものでは済まさない内藤のチャレンジ精神がすごいなあ。70歳までは劇を続けると仰ってるから、劇団員も大変ですなあ。とにかくもう次作が待たれるわい!南河内万歳一座「改訂版二十世紀の退屈男」(作・演出内藤裕敬)at一心寺シアター倶楽85点

  • ビブリア古書堂の事件手帖III ~扉子と虚ろな夢~ (2022 三上 延)(メディアワークス文庫) 75点

    古書をめぐるミステリー。とにかく古書の世界とその作家に浸ることのできる素晴らしい時間を共有できるのがいい。もうこのシリーズ全部読んだけど、いつも面白く、また登場人物も親から子供の時代へと、それも思春期なのでみずみずしい感性がこちらに伝わってくる。今回は珍しい樋口一葉と夢野久作のドグラ・マグラ。本好きにはたまらない書です。いつも一気読みです。ビブリア古書堂の事件手帖III~扉子と虚ろな夢~(2022三上延)(メディアワークス文庫)75点

  • 死刑にいたる病 (2022/日)(白石和彌) 75点

    白石、阿部サダと言えば「彼女がその名を知らない鳥たち」を思い出す。結構、メチャ面白映画と思ったが、意外と不評でしたね。でも僕は当時買っていた。で、多少期待しつつ見る。原作がちゃんとあるのだから、内容についてはいちゃもん付けてはいけないのかな?でも、一番の謎、死刑囚が訴える立件のうち、最後の事件だけは俺がやってない、という解答編について、きちんと見てもやはりそうだねと頷けないものが残る。ここが肝心なんだが(ミステリー的には)まあ、原作がそうなら何も言いませんがネ。(確かめてませんが、、)この作品は、そうですね、映画でホラーミステリーを読んでいる感じというのでしょうか、映像と、ミステリーを読んでいるぺージの送りが全く同じテンポのようなイメージです。変なところで感心しました。一冊のミステリーを2時間で読み切った達成感...死刑にいたる病(2022/日)(白石和彌)75点

  • マイ・ニューヨーク・ダイアリー (2020/カナダ=アイルランド) (フィリップ・ファラルドー) 75点

    みずみずしい、人生のなかでも浮き立つような色めくときの切り取られたトキを見せつけられるいい映画です。少し目を離すとつじつまが合わなくなるようなあまり説明がない映像の連続なので、目をくぎ付けにしておく必要があるが、それでも通常の映画ではないことがすぐ分かる。ジョアンナの脳裏と観客は一体化し、流れは流麗である。それだけでも才能のある監督だということが窺える。でも如何せん、私はこのような仕事というものをテーマにした現実からずうっと遠ざかっている。20歳前後の若者だったら、この映画が随分と身に染みるだろう。と、思う。私にはそんな距離感がある。作品自体は秀逸である。途中で不意に現出する廊下全体のダンスシーン、ラストとサリンジャーが不意に現れるストップモーションなど、随分映画ファンを喜ばせてくれる。マイ・ニューヨーク・ダイアリー(2020/カナダ=アイルランド)(フィリップ・ファラルドー)75点

  • フキョウワ『SANC・SANC・SANC』(作・演出 下野佑樹)at神戸アートビレッジセンター  75点

    冒頭からこの劇に集中できず、どうしようかと思ってはいたが、それでも彼らの意図が徐々に分かっ断片を繋いだかのような構成に慣れて来た。衣装は多少変えても、大道具等が何もないので気持ちが舞台に入って行かないのである。これがコントだったらそれでもいいのだが、、。とはいえ、道具がなくとも立派に劇を紡いでゆくのが彼らの使命である。後半は彼らの気持ちが見事客席に強く鳴り響いてきて、劇場全体が一体となった雰囲気になったように思えます。あの、Uber配達員の悲劇、渾身の演技でしたね。さて、次回はどんな劇を見せてくれるでしょうか、、。フキョウワ『SANC・SANC・SANC』(作・演出下野佑樹)at神戸アートビレッジセンター75点

  • オパンポン創造社「贅沢と幸福」(作・演出 野村有志)at芸術創造館 85点

    噂に違わぬオパンポンの実力をまざまざと見せつけてくれた怪作です。あの小さな芸術創造館を3場面に設えて、人間の狂気と弱さを描き尽くした感があります。とても秀逸で演劇の在り方まで問う方法まで強く感じ取りました。あらゆる運命と呪縛を一身に受け止めていたかのような長男の生きざま、次男は普通の人なんだが、だんだんと呪われた運命を受け入れていくその緊張感と緩さ、たまりませんでした。三男だけが僕には少々理解不能で、もう少し肉付けしていただいたら立派な現代のカラマーゾフになった気もします。とはいえ、あれだけの地獄模様から一転してカラッとしたハッピーエンド、こういうところが野村有志の才あるところ。さすがです。久々に胸がドキドキする演劇を見せていただきました。これが10年ぶりの新作だったとは。こういう演劇を発表できるスタッフは幸せ...オパンポン創造社「贅沢と幸福」(作・演出野村有志)at芸術創造館85点

  • 探花―隠蔽捜査9(2022 新潮社)(今野 敏) 75点

    このシリーズ全部読破しているが、竜崎もいまや神奈川県の刑事部長。だんだん自由度が少なくなっており、その分今までのような破天荒ではないので魅力薄になるのは仕方のないところ。今回は横須賀ということもあり、米軍が関係してくるが、まあそれほどでもない。本庁の伊丹刑事部長などのやり取りなどはさすが面白く、あっという間に読破してしまった。今回の事件そのものがあまりミステリーっぽくなく、また息子の逮捕騒動も何となく軽いもので、今までのシリーズから比べると少々手抜き感もあるが、それでも行間からにじむ竜崎魂は至極健在。これだからやめられない。もう次作を待っとります。探花―隠蔽捜査9(2022新潮社)(今野敏)75点

  • 五つの季節に探偵は(2022 KADOKAWA)(逸木 裕 著) 80点

    なかなか凝った探偵ものです。主人公みどりが高校生から結婚して子供を産む年齢になるまでの5編の短編集です。この小説には人間へのまなざしがやわらかで厳しくそれでいて読後感が素晴らしいものが残ります。最近、人が何度も死んだり生き返ったりする何でもありミステリーも多い中、こういうまともなミステリーに心惹かれます。読書の春にもってこいの小説です。何と言っても凛とした強さを持っているみどりとその同僚がいいです。五つの季節に探偵は(2022KADOKAWA)(逸木裕著)80点

  • MABUI(1999 日)(松本泰生) 75点

    珍しい、沖縄戦争終結後の民衆の生活を描いた作品です。終戦前の7月までに住民の1/3が犠牲になった沖縄戦。その数は兵士より多いというから本当に特殊な戦争だったと言えます。映画はこの戦争後の住民たちの生活を描いていきます。たまたま知り合った少年二人、そして父母を亡くした女の子との哀しいしかし貪欲な生活です。あまりにむごい生活の連続なので映画は少々虚構に向かいつつ、しかし辛酸舐めた彼らの人生を執拗に追い続けます。僕はこの映画であれっと思うシーンを観ます。①北部で逃亡しているとき、沖縄人が内地から来た日本兵に殺されたと言ってること。②少ししか出てこないが、沖縄に多数の朝鮮人が連れられていて、女性は内地でのパンパンのような仕事をさせられていたこと。③この映画では8/15の日本終戦の日が全く触れられず、むしろ朝鮮戦争勃発の...MABUI(1999日)(松本泰生)75点

  • ハッピーアワー(2015 日)(濱口竜介) 85点

    気になっていた濱口の長編もの(317分)を見る。映画館では3部作に分かれており、しかし映画自体がとても面白く、全然苦痛ではなかった。30代後半4人の仲良し女性たちの生き方を掘り下げた作品です。冒頭はどこにでもいるような女性4人組の談笑から始まっている。ところが一人一人彼女たちの人生が掘り下げられてゆくその行き先は、、。たっぷりそれぞれの人生を描いているので、いつもの2時間映画では味わえない充実感を覚える。そしてどこまでが脚本の領域か分からない演出方法なので、そのドキュメンタリー実験風の展開が強く観客においかぶさる。先に見た「偶然と想像」はこの作品の一部焼き直しであるともいえるし、彼の原点がかなり網羅されて広がりを見せている作品だと思う。4人の切り取られた時間はすなわち僕の人生の時間でもあった。あとでこの作品に出...ハッピーアワー(2015日)(濱口竜介)85点

  • The Timeless Letter「ハルナに浮かぶ月」(作・高橋 智也 演出・前田 アキヒロ)at芸術創造館 80点

    題名からロマンティックな、またはファンタジーものかなと思っていたが、全然違っていて連合赤軍のリンチ事件を基に置いた人間劇でした。この劇団でこういう出し物は珍しいので少々驚くが、前田氏作でないと知り、やはりそうなんだと納得。TimelessLetterでは珍しいが、こういうものは他劇団では結構上演している。ただ、連合赤軍がらみというのは珍しい。現代の若者からすれば、ある意味この時代へのあこがれのようなものを感じている空気感もあるけれど、吾輩の世代にとっては青春の墓碑銘のようなもので、無理やり目の前に引きずらされた感もある。でもそういうのは吾輩の勝手な繰り言ですなあ、、。で、舞台の方は、円形で両面から見られる設定で、いつも思うがこの劇団の美術は最高水準を言っている。見るだけ、それだけでも楽しい。他にも照明。冷蔵庫を...TheTimelessLetter「ハルナに浮かぶ月」(作・高橋智也演出・前田アキヒロ)at芸術創造館80点

  • にちようび企画「いきなり!エンプティ!」’作・演出 タムラショウ)(於in→dependent theatre 1st) 80点

    新幹線に乗り込む二人の若い男女。何か不毛な会話をしている。少し不条理な入り方である。話は展開して、映画的な手法を見せてくれ、4人の物語が語られていく、、。少し難解な方法が好きらしく、少しばかり登場人角の関係が分からなくなり、しかしセリフに無駄がなく、またセリフの洪水とも取れるシーンも多く、僕には鑑賞力を鍛えられる舞台となった。人生の弱者へのまなざしが暖かく、感動的な作品となった。題名からは考えられないシリアスな物語です。まさに映画的です。ラストも冒頭の新幹線シーンがよみがえり、あ、なるほどと思わせる。この作者は映画をよく見ていると思った。GWに予期せぬ秀作を観させてもらう。館内は泣いている人も多かった。にちようび企画「いきなり!エンプティ!」’作・演出タムラショウ)(於in→dependenttheatre1st)80点

  • ツユクサ (2022/日)(平山秀幸) 70点

    伊豆でなく北欧でこの人物設定だったらまさにカウリスマキの映画なんだが、日本ではどうしてかやはりその域には達しないですね。不思議です。小さなただ小さな生き方をしようとしているだけの人間に降りかかる悲劇を持つ二人。その出会いは他愛ないものだったが、自然とほのかに膨らんでゆく。あまりに不幸な二人だったが、愛のカタチが二人に方向性をもたらす。いい話ではないか!それでも少々人工的なスパイスが目に付きます。かえって、女友達二人の方が素直に入り込める。江口のり子はさらりときらりと光る演技。さすがうまい。小林聡美はちと暗さが足りないかな。年齢的に少々きつくなってる。でもぼくもこんな小田舎に住んでみたい!ツユクサ(2022/日)(平山秀幸)70点

  • その可能性はすでに考えた (講談社文庫) (2018 井上 真偽) 85点

    本格ということでしたら、やはり超本格でしょうな。何しろ結婚式での3人の毒殺に絡む解決ロジックがなんと数えたわけではないが、10種以上も、、。これにはたまげました。まだまだミステリーの世界でこんな珍書も出て来るんですな。スゴイです。人間が書けてないとかいう人が続出でしょうが、別に本格エンタメだと思えば、面白ければいいのではないか、と考える。この手の緻密な名推理はかなり頭のいい人だけが許される分野でしょう。そこを買いたい。感心いたしました。一粒で二度おいしい、そんなミステリーです。その可能性はすでに考えた(講談社文庫)(2018井上真偽)85点

  • 第2劇場「電鉄」(作・演出 楠瀬百合)(at阪大・懐徳堂) 75点

    この劇団は実力がある。結構魅力的な劇を見てきた。今回は新人生歓迎公演らしいが、、。さて出し物は、題名からはうかがい知れないマトモもの。というのも、題名からもっととぼけたコメディかなと思っていたのである。宮沢賢治に強く影響を受けた銀河鉄道ものだと見ている内にわかる。車掌を入れて4人の自己探求の物語だが、そのうち一人ずつ途中下車してゆく。自分自身で納得してから自分の行く道を歩み出す。銀河鉄道ではサザンクロスで大勢の人たちが天上に行くように一斉に降り始めたが、この劇の3人は自分の存在を確かめた時点で、さっそうと降りてゆく。まるでカンパネルナがそうしたように、、。少し哲学的で(デカルトの「我思うゆえに我あり」)シニカルで真摯に自分の生き方を見つめた良質の作品でした。第2劇場「電鉄」(作・演出楠瀬百合)(at阪大・懐徳堂)75点

  • コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎(2021 東京創元社)(笛吹太郎) 75点

    7編の日常的謎を解く安楽椅子探偵ものと言えるだろう、ミステリー好きの4人が集うあるカフェ。そこのカフェの店主が見事みんなの話を聞きながら、名推理をするという仕掛け。これで面白いわけがないだろう、、。それぞれが短い短編なので、読みやすい文章とともにすいすい小説の中に入ってしまう読者たち。面白いが、設定他愛ないお話しなので、ミステリー好きの若者がこれを読んでくれるかどうかがキーだろう。そして私は若者ではないので、これをじっくりにやにやしながら読み進める。好きな小説です。一番印象に残るのは最初の「あるいは消えた居酒屋の謎」かな。ここからネタバレです。3軒目で飲んだ店が一番最初に飲んだ店だったなんて言うのが面白かったね。発想のトリックです。でも、真犯人が偶然皆が集うカフェにたまたまいたというのがどうもね。というのも、殺...コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎(2021東京創元社)(笛吹太郎)75点

  • 断罪のネバーモア著者 (KADOKAWA  2022)(市川 憂人著) 75点

    もうミステリーに新味はほとんどなく、、なんて思ってはいるが、こういう一応本格物もたまには出版される。読んでて面白いけれども、殺人のための殺人を繰り返すというのも、どんなものだろう、現実味がなさ過ぎで、少々やりすぎでないかい?やはり本格ミステリーではないのではないかい?とか、揶揄する気持ちがどこかにある。と言って面白くなかったわけではなく、(僕も歯切れが悪いなあ)この発想にはあっと驚いたのであります。しかし、今までやってこなかったミステリーのすきまを狙った感がして、ちょっと鼻白むのだ。でも面白かったのだ。不思議な気持ちであります。断罪のネバーモア著者(KADOKAWA2022)(市川憂人著)75点

  • 探偵は教室にいない(2018 東京創元社)(川澄 浩平著) 80点

    思春期のどこにでもある謎、これって米澤の古典部シリーズに感化された?でも素敵だね。歳を重ねてもこの時代は人生上でも白眉。うんと評価は甘くなる。肝心のミステリー的には前半の2作はすぐ真相がわかった。僕が分かったということは80%の人たちが分かっているということに他ならない。これが鮎川哲也賞受賞作とは到底思えないが、これが現実。受け止めよう。引きこもり探偵歩くんが絶品。ユニークで楽しい。一人この甘美な小説を盛り上げてる、、。ミステリーとしても米澤にとても及ばないが、それでもこのジャンルに挑戦はうれしい限り。探偵は教室にいない(2018東京創元社)(川澄浩平著)80点

  • ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密 (2022/米) (デビッド・イェーツ) 70点

    ついいつも見てしまうファンタスティック・ビースト、今回も見る前はワクワクしっぱなし。やはりどこかでハリポタを追ってるのか、、、。今回は両巨頭対決が冒頭に仕組まれている。そしてなんとこの二人が若い時に恋愛をしていたことを観客に(?)カミングアウトするのだ。そのことが本作の底流に流れるキーポイントになっているが、、。二人が戦っているのに、どこかでほんわり柔らかさが残っている。映像はそうでもないのに、どうしても観客たる吾輩はそこに愛という概念を感じる。だから、本気でこの作品の面白さに浸りきれない。ハリポタだったら、あの学校の建物、音楽を聴いただけで、映画の世界に即入り、どっぷりつかってしまうのに、そんなところが今回は少ない。映画本来の醍醐味に触れられない、、。まあ、最後に至るまでほとんど同じ感覚だった。これはグリンデ...ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密(2022/米)(デビッド・イェーツ)70点

  • 花束みたいな恋をした (2020/日)(土井裕泰) 90点

    この映画を見て、特に前半面白く、彼らのセリフを理解するのに苦労するも、まあ少し分かると知るや、にやにやしながらこの映画を見続ける。そしてそのうち現実が二人をうちのめしてゆく。この現実とは何か。それはお金と生活だ。二人はそのため就職して自分を売る。労働力を売る。これに耐えかねて自殺する青年もいるが、人生は朝起きたら金が要る。仕方なく金を稼ぐ生業を得なければならなくなる。二人のすれ違いはここから始まる。いや、すれ違いではない。彼らが瞬時楽しかったのは、青春してたからだ。そこには夢があったから。相手を知ることの喜びがあったから。この映画、最後まで見ると一つ分かったことがあった。それは「僕も花束みたいな恋をしてたんだ」ということ。最後の友人の結婚式後の彼らの5年間の総括は、ひょっとして僕もこの映画の二人と全く一緒だと気...花束みたいな恋をした(2020/日)(土井裕泰)90点

  • パワー・オブ・ザ・ドッグ (2021/米=英=ニュージーランド=カナダ=豪)(ジェーン・カンピオン) 80点

    あまり相性の良くないカンピオン作品だが、これは合格内。2時間、映像が最近の映画では抜きん出て美しく、また音楽にも力を入れて冴えわたっている。映画ファン、狂喜するところである。でも主要俳優4人が一切内面を語らず、観客は彼ら、映像から取り入れるものを読み解くという作業を強いられるのである。この時点でお休みタイマーに入ると、何もない空っぽの映画になってしまうでしょう。何か、訳ありなダンストが映像をよぎり意味を探ろうとしたが、実はたいしたことではないと見切った時から、カンバーパッチとマクフィーの関係性が実に大きくクローズアップされる仕組みである。(この時点で、ダンストの夫はすでに消滅している)100年前、アメリカの西部でのジェンダー観はこんなものだろう。冒頭のペイパーフラワーを男性が作成しただけでゲイ的扱いされるのだか...パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021/米=英=ニュージーランド=カナダ=豪)(ジェーン・カンピオン)80点

  • やがて海へと届く (2022/日)(中川龍太郎) 75点

    静かな映画だ。親友が行方不明で、気持がそれを受け付けない。誰にもわかる感情だ。女性は5年もたっていて、まだその空白感は続いている、、。東京での高級バーラウンジが素敵だ。客の一人一人を見て音楽を流す店主。心のつながりを常に考えているバーだ。しかし、驚くことにその店主は急に自殺してしまう。人の命のはかなさよ。死はかくして我々のすぐそばに駐留している。周波数を合わせることで日常生活を営んでいた親友から、彼女こそが実際は強いのだと告げられる。確かに、人に合わせて生きるということは自分をなくすということだ。その時間が大きければ大きいほど、自分を消耗させる。他人と波長を合わせることの苦手な彼女はその実、強いのだと親友に告げられる。僕もそうだと思う。若い時は人に合わせるのがうまく、どんな会話でも入ることができた。でも、ここ2...やがて海へと届く(2022/日)(中川龍太郎)75点

  • 朝と夕の犯罪(降田 天)(2021 ‎ KADOKAWA) 80点

    文章に読みごたえがあるからミステリーではなく普通の小説を読んでいる感もあり。疑似家族の描写も優れており、人の心をきちんとあがく作家だなあと思われる。単なる誘拐事件だけでなく、ちょっと複雑にしているが、それでも家族の絆をテーマにしているのであれば、やはり彼女が子供を置き去りにした理由が弱い。これだけが後々印象に残る。ミステリーとしても、あっと驚く仕掛けで、これはなかなか見破れないのではないか。そこを買う。文章力のある作家はやはり安心して読めるのでこれからも期待できそう。朝と夕の犯罪(降田天)(2021‎KADOKAWA)80点

  • 英雄の証明 (2021/イラン=仏)(アスガー・ファルハディ) 80点

    つい見てしまうイランの巨匠と呼ばれるファルハディ作品。今回は随分と通俗的な事象をテーマに、人間の行動の闇を探っている。いつも思うのだが、彼の作品はイヤミス系がたっぷりで、切取り部分にそれほど恣意的テーマを持たず、人間の卑近な営みをこれでもかと描いている。とても映画作りがうまく、観客は気づくともう彼のペースにはまって映像を眺めていることに気づく。いわゆる映画の魔術師である。それでも今回は刑務所から2日間の休暇をもらい娑婆に出てきた男の物語である。彼は何としても刑務所に戻りたくないのである。そんな彼に社会一般の津波が押し寄せては消え、さらに押し寄せる。映画は、一人の男のあがきを見せつけて、結局は元の木阿弥に戻るところで終わっている。ラストの映像、日常と非日常との映像対比の見事さ。日差しは娑婆の方が随分と多い。見事な...英雄の証明(2021/イラン=仏)(アスガー・ファルハディ)80点

  • ニトラム NITRAM (2021/豪)(ジャスティン・カーゼル) 80点

    オーストラリア観光島でおきた銃乱射事件の犯人の日常を辿った作品です。大人になっても花火が好きで近所からも嫌われているそんなシーンから始まっている。大きな子供なのである。けれど社会はそんな子供を受け入れてはくれない、、。常に音楽が鳴っている。クラシックであるが、少々不快に聞こえる。レコード盤が古いのか雑音さえ聞こえる。恐らくニトラムの心象の音色なのだろう、それがラストで彼が凶行に走るときにすっと音が消滅する。気にしていた凶行は遠隔的距離からのカメラショット、少し銃声が聞こえてエンド。見事である。実の母親と第2の母親ともいえる二人の女性の比喩的な女性像の造形も秀逸だ。所詮、男は女に育てられる。主演したジョーンズはカンヌ映画祭男優賞を受賞したが、同じく20年ほど前作品賞を受賞したガス・ヴァン・サントの「エレファント」...ニトラムNITRAM(2021/豪)(ジャスティン・カーゼル)80点

  • ナイトメア・アリー (2021/米)(ギレルモ・デル・トロ)  70点

    前半の見世物移動屋台シーンは、デル・トロの強い思いがあったのだろう秀逸で面白かったが、、読唇術がメインになってくると、意外や単調でもっさりしてくる。あの話で、現代において上映する意味は何なのかなんて考えちゃうほど、僕にとっては退屈な作品となってまいりました。ケイトが出て来るところはさすが、人肌違うほどの妖気を漂よわせているが、それもそれほど続かない。肝心のルーニーは別に彼女でなくともいう役柄で可哀想。デル・トロは最近の作品は私にとって、少々魅力薄になっておりますネ。ナイトメア・アリー(2021/米)(ギレルモ・デル・トロ)70点

  • N (道尾秀介)(集英社 2021) 85点

    体裁から何通りも読めるという話題の書だが、どの編からも入っていけるというのは、読み終えた後でも、何回も後で再読できるといった今までにない取り組みを考えたからではないでしょうか。ほんと、そっとまた読んでみたい本です。私の蔵書になるべき本です。6編、どの小説も弱者が登場する。この世を、この人生を混じりけなく見つめることができるのは彼らだけであるとでも言いたげな、底流に透明な人生観が流れている。このフォーカス感が素晴らしい。そして、道尾秀介がこの位置にとどまっていてくれていることが実にうれしい。それぞれの6編は道尾からいただいた宝石箱のような淡い色彩を伴って透明感が底流に充満している。素晴らしい出来である。N(道尾秀介)(集英社2021)85点

  • 猫は逃げた (2021/日)(今泉力哉) 70点

    こういう夫婦の捉え方もあるのかなと見ていたが、やはり嘘くさいかな?夫婦がそれぞれ男女関係で破綻していて、それぞれ浮気をしており、また元のさやに戻るなんて、通常は考えられない。ましてや女は夫婦の生活する部屋でセックスしていても何も思わなくなっているのだ、、。で、まともに愛の姿を見るのではなく、、ある愛のカタチにおいて、図式的に、いや数学的に因数分解するとこういう結果になりますね、といった頭で考えた愛のカタチを見ているようだった。それはそれで、構わないと思うよ。でも、題名の猫が逃げた、は違うね。僕はこの題名につられてこの映画を見た。それは猫が自主的に家を出たと思ったからだ。昔の、「吾輩は猫である」と同じく、猫が人間を観察して、そして飼い主の夫婦から逃げるってどういうことなのかな、と思ったわけです。猫は逃げてはいない...猫は逃げた(2021/日)(今泉力哉)70点

  • THE BATMAN ザ・バットマン (2022/米)(マット・リーヴス) 85点

    現代の映画の技術、スタッフの思いを凝縮した快作です。映画でまだ何ができるかに挑戦したと十分感じ取れた。テクニカル面、人物像の掘り下げにいたるまで実に見事の一言!中盤でブルースの家系の謎が解明され、えっ早過ぎない?とは思ったけれど、そこからきっちり緊張が続く展開はさすが、全編目が離せませんでした。RPGのようなクイズ感覚で犯人との格闘が続く。この辺りが若者を取り込もうとしているのか、新鮮味が出ているのか分かりませんが、僕には面白かった。ポール・ダノが敢えて捕まった感じだったけど、意味が分からんね。脱獄するのかな?最後の最後の真犯人は有名俳優じゃなかったけど、ちょっともったいない気もする。パティンソンはドラキュラシリーズのイメージが残るも、あの低音の声域は画面に迫力を持たせている。マスク部分が多いこの編でも十分内面...THEBATMANザ・バットマン(2022/米)(マット・リーヴス)85点

  • 愛なのに (2022/日)(城定秀夫) 75点

    愛という、人間が出現して以来の古い観念を現代に持ち上げて見つめた作品だと言えるか、、プラトニックなのに愛を貫かせる強い愛、肉欲に変身するある愛の姿、との対比は面白いが、結局見えてくるのは愛とは当人たちだけが認識しはぐくむべきものだといったところか。第三者的から眺めると、女子高生との愛の経過は母親が言ってたようにキモイのだが、当人たちの純粋な気持ちからはただ愛だけが存在するのだ。そのためラストで衝撃的で痛快な「愛を否定するな」の出現となる。そしてこれがこの映画のテーマとなる。対して、結婚を決めた二人からは、プラトニックな愛は消え失せて、性愛だけが残滓と残っている。今話題の濱口竜介作品のように(というか、村上春樹だが)性愛が人生を決定する、という論理も不確かではあるが、まあ認めると、この話も笑いでは済まされない人生...愛なのに(2022/日)(城定秀夫)75点

  • 休みなくおやすみ「1」(作・演出:早川夢) at阪大21世紀懐徳堂 80点

    3人劇だ。仲良しの3人だが、そのうちの一人の女の子が死ぬ。そしてそれぞれ彼らの関係、内面を語り始める、、。何故女の子が死んだのか最後まで言わないのが「みそ」かなあ。理由にかかわらず、それぞれの内面をすべて吐き出させるのがこの劇のテーマとも言える。今時流行らない純愛だから、逆に新鮮な風を感じた。いいと思うよ。帰りは阪大の長い坂を歩きながら春のそよ風を浴び、遠い日のことを思い出している、、。休みなくおやすみ「1」(作・演出:早川夢)at阪大21世紀懐徳堂80点

  • 劇団「在りが欲し」「クラブ・ハルシネイト」(作・演出 津島ヨモツ)at阪大学生会館 75点

    集団自殺事件に潜む真相とは、、。と、ミステリー劇です。脚本が自由奔放で、どんでん返しのようなものが二転三転し、かなり面白さを狙っているのが分かる。出演者スタッフみんなが楽しんでいるのが分かるし、セリフのトチリもほぼない。練習万全だ。本屋で売っている新書版ミステリーを読んでいるみたいで、実に楽しかった。学生演劇の持っている魅力を存分に出し切っていると思う。素晴らしい。劇団「在りが欲し」「クラブ・ハルシネイト」(作・演出津島ヨモツ)at阪大学生会館75点

  • コズミックシアター「ザ・空気ver3 そして彼は去った… 」(作・永井愛 演出・金子順子) 75点

    まるでテレビドラマを見ているような臨場感が濃厚で迫力がありました。ただ私はver1,2を見ていないので、時折流れる桜木の自殺のことが明瞭でない。この不審が続くが、しかし、報道の自由、実際の堅牢さについて強く考えさせる演劇ではある。パンフから60年代の政治闘争と思った私が浅はかでしたなあ。テレビ報道番組での番組作りに係る人々真の思いを吐露した劇でした。面白い取り組みをしていて、テレビの録画場面を舞台に設営してみたり、あれっと新鮮な感動さえ感じた。この話の時代はごく1,2年前なのでしょうが、今は政権も変わりちょっとしたズレ感も漂います。そういう意味では旬ではないですね。俳優陣はみな熱演。あの狭い舞台を十分に使用してのびのびと演技する。ただ思うのだが、彼らが思うほど、大衆は政治の真実を知りたがっているのだろうか、とい...コズミックシアター「ザ・空気ver3そして彼は去った…」(作・永井愛演出・金子順子)75点

  • 教場X 刑事指導官・風間公親(2021 小学館)(長岡 弘樹  著) 80点

    このシリーズも随分読ませてもらったが、今回は厚さといい、内容といい初心忘れべからずを地で行くように何とも素晴らしい出来栄えだ。6編の短編だが、冒頭からラストまでまるで無駄が全くない。しかもラストの俳句の結句のようなシンプルで鮮やかなまとめ方は鋭い。もうページを繰るのがもったいないほどだ。そろそろマンネリもあるのかなといった危惧は見事消し去った。ずっと続いてほしい小説である。教場X刑事指導官・風間公親(2021小学館)(長岡弘樹著)80点

  • ブルー・バイユー (2020/米)(ジャスティン・チョン)  80点

    何気なく見た映画だったが、これは力作。映画に一つの芯が貫かれている。アメリカンドリームを幻想に追いやる哀しき現実がそこにある。韓国からアメリカへと養子縁組が盛んだとは聞いていたが、ここまでその中身がいい加減で、過酷だとは思わなかった。主人公の青年は3歳で捨てられアメリカに渡るのだが、ただただ苦しき人生を背負い込まなければならなかった人生が、重く我々観客にのしかかる。チョンの視点はまっすぐだ。彼の視点はすなわち観客の視点に重なるのだが、まぶしいぐらい直球だ。彼の生い立ちは母親から殺害されそうになるという暗い記憶を宿してはいるが、それが解消されるのも、自分と同じ立場の義理の娘の心情を思うからであろう。養子縁組と並行して、難民としてアメリカに生きるベトナムの父娘の生き方も、シンメトリーとして描かられるが、この親子の泰...ブルー・バイユー(2020/米)(ジャスティン・チョン)80点

  • 演劇 劇団The Timeless Letter「MARIONNETTE」(作・演出 前田アキヒロ)at芸術創造館  80点

    劇場に入ると何と凄い舞台美術が。喧々囂々光り輝いている。前田氏の演劇は翻訳劇が多いが、今回もそうだと思いきや、なんと前田氏の自作だという。これが何ともミステリーが好きなんだろうなあと分かるストーリーだ。ラストもどんでん返しの繰り返しで、ファンを喜ばせる。僕も結構演劇を見てるが、カーテンコール後、最後の劇シーンがあるという劇を初めて見る。映画では最近エンドクレジット後に再度映像が入る作品も多いが、演劇では初めてだ。驚いた。面白い。前田氏ならではの観客へのサービスだろう。さて、お気に入りの川田氏は、珍しく冷めた悪役。シャーロック・ホームズに出てくるモリアーティ教授をなぞらえてる。彼の雰囲気からはなかなか難しい役柄だが、まあ何とかこなしていた。役の幅を広げた感があり、で本人も喜んでいるのでは。ということで、ストーリー...演劇劇団TheTimelessLetter「MARIONNETTE」(作・演出前田アキヒロ)at芸術創造館80点

  • さがす(2022 片山慎三) 80点

    うーん、これは思ったよりすごい映画だ。何をって?力がある。現代に潜む不気味なブラックを詰め込んでる。一つ手を付けたら後はムーブメント全開で人は狂気の沙汰を悠然と走り抜ける、、。ただ怖いところは、死にたがっている人たちが抱えている難病に対しての配慮が少々欠けるところかなあ。妻の死に立ち向かう男の描写は秀逸だ。けれども、単純すぎたその過程はやはり賛否両論だろう。けれど片山はそこのところを分かっていて疾走する。多少目をつぶって、激走しなければこの映画のエネルギーが絶えてしまうからだ。映画は思わぬラストへ向かう。この娘との対峙は少々出来すぎかなあ。ちょっと私は違和感が。でも、この疾走する2時間、観客も、息も絶え絶え目を覆いつつも、一緒に激走しました。日本映画、久々に見る秀作です。まだまだ行けるぞ、こういう映画を見た日に...さがす(2022片山慎三)80点

  • 空の驛舎『コクゴのジカン』(作・演出/ 中村ケンシ)atアイホール 85点

    うーん、これは素晴らしい。あと3年で閉館となるデパートで従事する清掃作業者とガードマン。そこに経営者とか社員とか不思議な女性が現れてくる、、。時代は現代、そこはパンデミック。そして東北大地震による行方不明の人たちが今でも3000人近くおり、最近はその数字は不変だという。故郷の母親の介護等のために職を去るものたち、中には恋愛の成就にたどり着く男女もいる。人それぞれだ。小6の息子の考えていることが分からないと嘆く母親。でもその息子はいじめに対してきちんと正しい方向に導く理想的な正義感の強い男の子だった。それでも現代の母親は、喜ぶどころか、落ち込んでいる。そこに死んだはずの母親がやってくる、、。ガードマンと不思議な女。女は東北大地震で今でも海底を彷徨っている女性だった。ガードマンは彼女にとって、当時の生徒だ。名詞と名...空の驛舎『コクゴのジカン』(作・演出/中村ケンシ)atアイホール85点

  • 声もなく (2020/韓国)(ホン・ウィジョン) 80点

    是枝の「万引き家族」的ムードに韓国お得意のクライムで味付けした風味の映画ですかね。ユ・アインのセリフなし演技がこの映画の語り部となっているところが新鮮ですごいところ。でもみんな切ないね。ユ・アインのぶっちぎりの最底辺の青年を演じさせたその気持ちにまず拍手したい。演技だけでできるものではないから、そこに彼の深い人間性を見る。ユ・ジェミンの幼少の年齢でありながら、既に大人びている女性を感じるところに彼女の哀れも感じさせます。韓国映画はこういう濃淡のある心の襞をじっくり見せる作品が多いです。私が韓国映画を好きなのはこういうところでしょうか、、。観た後の残滓感もすこぶる濃く、後々残る映画となった。こういう作品をどんどん排出する韓国映画、まだまだ健在です。声もなく(2020/韓国)(ホン・ウィジョン)80点

  • MONSOON モンスーン (2019/英=香港)(ホン・カウ) 80点

    6歳当時、ボート難民だった男性が父母の遺骨を散骨するためにサイゴンに戻ってくる。さて、男は祖国というべきか、このベトナムというものすごい繁栄を遂げた国に何を思うべきか、、。冒頭の5分間の俯瞰から道路ターミナルを写した映像が見事です。バイク、バイク、車もあるがものすごいバイクが、交差点いっぱいに、それぞれをよけながら走る。これが今のベトナムの繁栄の姿だ。その有様は、まるで昆虫のようでした。難民脱出を諦めた従弟との会話もそうだが、彼はほとんど聞き役に徹している。出会い系で邂逅した男との会話もどちらかというと聞き役だ。自分がどうしたいのか、何を悩んでいるのか、だれに告げることなくこの映画は終わってゆく。サイゴンでも、ハノイでも当たり前のように男性と交友する男は、生きていることをセックスだけで感得しているかのようだ。そ...MONSOONモンスーン(2019/英=香港)(ホン・カウ)80点

  • スティルウォーター (2021/米)(トム・マッカーシー) 80点

    これはマットの演技を見る映画ですね。(相変わらず何も知らずにこの映画を見た)冒頭からの5分間はマットであることが分からなかった。中年のオッサンが主役の映画か、、。どんな映画なんだ。仕事探しにも苦労してそうだ。あまり頭良さそうな感じには見えない、、。底辺に生きている人の話なのか、、。でも、マットに似てるけどね。だいぶ太り気味でマッチョだね。とか思ってると、顔がよく映ってきて、ホントよく似てるわ。いや、マットかも。そしてフランス行く頃から、完全マットの映画だと認識する。俺はアホか!それほど、ある程度人生への前進を諦め、力仕事をものともしない、ごく普通の肉体労働者の人物像をマットが演技しているのである。そこには、ハーバード出身という彼の履歴も何もない。あるのは粗野で、ただ娘を助けようと動き始める普通の父親像である。そ...スティルウォーター(2021/米)(トム・マッカーシー)80点

  • ニットキャップシアター 『チェーホフも鳥の名前』(作・演出/ごまのはえ)  atアイホール  85点

    3時間近くの長丁場を感じさせないゆったりと歴史に翻弄された人々を見る。そういえば、満州からの引き上げに対して樺太はあまり聞くことがない。実は40万人いた日本人のうち、10万人しか引き上げていないそうだ。ということは、30万人もの日本人がソヴィエトに吸収されることになった、、。前半終戦までを春ののどかな季節に例えると、後半の終戦前後はまさに冬の時代だ。その対比があまりに凄すぎる。3家族の100年の歴史は現代の我々にもガツンと響く。人間とは、それでも生きてゆく。その強さも感じるとともに、悲劇の神髄を知る。そんな、人間の叙事詩を3時間で描くごまのはえ氏、見直しました。脱帽です。生演奏の音楽が実に美しい。不覚にも涙してしまった。ニットキャップシアター『チェーホフも鳥の名前』(作・演出/ごまのはえ)atアイホール85点

  • 怒りの日 (1943/デンマーク)(カール・テオドール・ドライヤー) 80点

    やっと見ることのできたドライヤー作品。なるほど、静謐で緻密な映像。動きもスローで、人物の奥底を舐め尽くすようだ。神秘性も大。話は男女のドロドロ感を秘めてはいるのだが、登場人物へのドライヤーの思い入れが等しく、また審美的で、ある程度の距離感を感じる。そのため、劇的にならず、抑えられている。恐らく当時の検閲を意識していたのだろう、人権への強い思いはかなり薄れている。そのためか、不思議な作品となった。屋内の撮影がすこぶる多く、閉塞感が強く漂うが、それは敢えてドライヤーが意識したものなのだろう。対照的に若い二人が自然に触れるシーンは明るく輝いている。この解放感を言いたかったのだろう、、。話としては女性陣があの時代にしては3人とも強く、対して男性陣はふにゃふにゃ状態である。これもドライヤーの隠された意図があるのだろう。お...怒りの日(1943/デンマーク)(カール・テオドール・ドライヤー)80点

  • 劇団光合聲「あゐ ばさみ」(作・演出 木村僚汰)at芸術創造館 75点

    珍しく、マンションでの二人の死体から始まるミステリーを加味した愛憎劇。楽しめました。開場すると舞台に二人の死体が。それを観客は眺める。そして劇は始まる、、。二人の親子と時計屋の男性との三角関係をテーマに、重苦しいけれど複雑で繊細な愛の姿が醸し出される。それと並行してこの事件をスクープして、真の人生の姿を知ろうとする記者の懊悩が描写される。私としてはこの三角関係はよく理解できた。そういうこともあるわいと、彼らの心情のさざなみを想う。よくできた脚本だ。ただ、一方、記者の苦悩がそれほど伝わってこない。愛の分析だけでは物語としては不足していると思ったのかもしれないが、どうなんだろう、、。途中、母親の別の恋人との諍いで冒頭の殺人光景を勘違いさせる取り組みなど、ミステリー的にもはっとさせるなかなか秀逸な脚本に拍手をしたい。...劇団光合聲「あゐばさみ」(作・演出木村僚汰)at芸術創造館75点

  • スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム (2021/米)(ジョン・ワッツ) 85点

    スパイダーマン3世代、20年の歴史の集大成ともいえる面白さ、完成度、何よりファンへの暖かいまなざしと過去へのオマージュに感謝したい。ラストは涙しました。こんなすごいものが新年早々から見られるなんて、映画ファン冥利に尽きます。この1作で、20年間のスパイダーマンが走馬灯のように巡りめぐりました。マルチバースなんて、宇宙物理学テーマを映像にうまく取り入れましたネ。もうその映像にくぎ付けになり、酔いました。ここからホントにネタバレ。ラスト、カンパーパッチと約束するあれ、すなわち自分の存在そのものを忘却させるってことは、通常の「死」を意味する。むしろ肉体的な死よりずっと過酷な現象であると思われる。しかし、スパイダーマンはそれを選択した。そしてその後、確かに愛する人たちも彼のことをすっかり忘れてはいたが、リセットしたかの...スパイダーマンノー・ウェイ・ホーム(2021/米)(ジョン・ワッツ)85点

  • 君が護りたい人は ‎ (石持浅海 著) (祥伝社 2021) 65点

    石持、久々の碓氷優佳シリーズの最新刊。プロットが殺人を計画している人間とそれを押しとどめようとする心理倒叙ものなんでしょうが、いかにもシンプル過ぎるかなあ。ページ数も新書で200ページ足らず。短いけれど、途中で最後が読めてくる。肝心の碓氷の推理がラストになってから。これも今までと違い、それほど冴えた叙述ではありません。石持、忙しいのは分かるけど、もっと丁寧にきちんと小説として提供してくれないかなあ、、。次作に期待。君が護りたい人は‎(石持浅海著)(祥伝社2021)65点

  • 明け方の若者たち (2021/日)(松本花奈) 50点

    正月早々つまらない映画を見てしまった。こんな映画を見て多少の人生を理解したなんて誤解する観客はいないだろうとは思うけれど、何もない映画です。時間を返して!明け方の若者たち(2021/日)(松本花奈)50点

  • 雨とあなたの物語 (2021/韓国)(チョ・ジンモ)  70点

    素敵な題名。書簡による純愛ラブストーリーと聞けば韓国映画はお手の物。僕が見逃すわけがない。ということで正月に街に繰り出し見てきました。この映画のポイントは初恋と言えど、なんと子供と言える小学生の運動会のできごとがきっかけということ。それがその後に影響をもたらす恋愛になるとは、、。脚本はいろんな今までの映画をかき集めてうまく作ってあります。2番煎じになっていないところが秀逸。よく練られているしね。ラスト近くの、ある意味ドンデン返しと、それに続く予想される正真正銘のラストが何しろいい。これを描きたくて作った感もあります。でも、全体に流れ過ぎているというか、メリハリがないかなあ、、。2時間、観客はドキドキすることもなく、ただ映像を眺めている感じです。高揚感が不足。この手の韓国映画だったら絶対あるべしの映像に入り込む深...雨とあなたの物語(2021/韓国)(チョ・ジンモ)70点

  • あと十五秒で死ぬ (2021 東京創元社) (榊林 銘  著) 80点

    ミステリーにもこの手があったか、と微笑まされる死ぬまでで15秒。4章に分かれるが、第1章と第4章が特に優れている。読みやすく、一気に読めるし、ユニークで、ミステリーファンにはこたえられない面白さだ。今年のミステリーの掘り出し物である。(20021年から2022年にかけて読んだのでこういう表現)恐らくこういうミステリーは反論もあるだろうが、敢えて「新しきものに挑戦するは物書きとしては最良の義務なり」と言いたい。次作がますます楽しみである。あと十五秒で死ぬ(2021東京創元社)(榊林銘著)80点

  • 2021年映画ベスト3

    2021年、コロナ禍を理由にしたくはないが、映画本数40本未満。ひどい時には大阪市内で映画館がほとんど閉鎖。日本映画の古き良き時代の映画をシネヌーヴォーまで見に行った。結構、館内はにぎわってはいたが、、。今年は濱口イヤーだ。久々に現れた日本映画屈指の大物。日本映画1位偶然と想像(濱口竜介)2位ドライブマイカー(濱口竜介)3位心の傷を癒すということ(安達もじり)洋画では1位1秒先の彼女(チェン・ユーシュン)2位ノマドランド(クロエ・ジャオ)3位逃げた女(ホン・サンス)2021年映画ベスト3

  • ドント・ルック・アップ (2021/米)(アダム・マッケイ) 60点

    超豪華メンバー出演と言うことで、映画ファンはそれだけで見た人もいるに違いない。まず、ファーストクレジットで、ジェニファー・ローレンスがレオナルド・ディカプリオより先というのに少々驚き。マネー配給では彼女の方が優れているということか。ジェニファーはちょっと容色衰え気味。いつもより薄化粧だからか。まだ若いはずなのになあ。ディカプリオは若い時からそれほどスマートではなかったが、貫禄が体につき過ぎ。立派にオジンになっている。そのストレートさは好感が持てる。メリル・ストリープやケイト・ブランシェットもカメオ出演ではなく、しっかりと重要な役柄で、この作品への意気込みを感じる。でも、冒頭の彗星発見からの2時間が長すぎます。というか、話としてはこれしかないから仕方がない、芸がないと言われても製作陣からすると仕方ないのかもしれな...ドント・ルック・アップ(2021/米)(アダム・マッケイ)60点

  • 偶然と想像 (2021/日)(濱口竜介) 90点

    これは面白い。キェシロフスキにも「偶然」というすごく似たテーマの映画もあったけど、こちらは3編それぞれ複雑に込み入ってる。観客を意識した映画づくりに濱口の素朴なサービス精神さえ感じる。第一話。タクシー内での、女性同士の饒舌なノロケ話から一転、逆方向へとタクシーを変換し、単なるノロケでなくなる男女3人の泥沼愛憎劇へと変質する映画的ダイナミズム。カメラが素晴らしい。眼を見張る。映画的高揚感。第二話。どんな状況になっても表情を変えない大学教授と、セフレの話に乗り教授を追い詰める主婦学生との、開け放された部屋ではあるが、二人にとっては密室化された空間を共有してしまったがために、思わぬスキャンダルに巻き込まれる二人。芥川受賞作を女が朗読するエロ的空間は絶品。小説部分の文学的構成も優れている。濱口、かなりインテリだね。第三...偶然と想像(2021/日)(濱口竜介)90点

  • 僕のワンダフル・ライフ (2017/米)(ラッセ・ハルストレム) 75点

    犬好きにはたまらない映画でしょう。何と言っても犬から見た人間の世界観、映像がすごい!大好きな人のために輪廻して、そして、、素晴らしいラストが待っている。僕も今日から犬を見る目が変わってくる。ハルストレムの真心が不変だということを示した映画です。でもどうやってあんな撮影ができたのでしょう、、。スゴイです。僕のワンダフル・ライフ(2017/米)(ラッセ・ハルストレム)75点

  • ただ悪より救いたまえ (2020/韓国)(ホン・ウォンチャン) 70点

    韓国映画人気俳優お二人によるファンのための映画です。のため、東京・仁川・バンコクと世界をまたにかけドンパチ始めます。興味深い東京も意外とあっさり目。ジョンミンの片言日本語がたまらない、、。ジョンジェの超悪役。ご本人自身が最も乗っていたような感あり。ジョンミンは殺し屋という役なのにいつも通りの人間味豊富な主役風情。ジョンミン風を吹きさらす。問題というほどでもないが、他人に迷惑をかけすぎる殺戮アクションがちと過ぎているかなあ、、。あまりに簡単に人が殺され過ぎてる。そのパワーに伴う心的動機付けが足りない感もある。まあ、でも、何も考えずに、韓国アクションを見ていればいい映画かもしれません。ラストはヨーロッパ映画風ですし、余韻もいい。ただ悪より救いたまえ(2020/韓国)(ホン・ウォンチャン)70点

  • アイネクライネナハトムジーク (2019/日)(今泉力哉)65点

    原作未読。目の前に流れるは、どこか嘘気で人生を上ずってる姿のように思える。もっと素直に我ら市井の人間を描いてほしいと強く実感す。多少伊坂らしい部分もあれど、これは伊坂でないと思いたい、、。今泉にはもっと成瀬を見てもらいたい。アイネクライネナハトムジーク(2019/日)(今泉力哉)65点

  • マトリックス レザレクションズ (2021/米)(ラナ・ウォシャウスキー) 75点

    18年ぶりのマトリックス、そりゃあ期待しますわなあ。一番気になったのはキアヌとキャリーの初老のロマンスがどこまで画面を持たせるかでしたが、、。所々出てくる回想場面のお二人の若々しい様子を見るにつけて、多少むごいとは思ったものの、まあそれほど違和感はない。さあ、これで2時間40分、マトリックス世界にのめり込むぞ、、!話は行きつ戻りつ相変わらず説明は長く、まあファンだから許そう、アクションは絶え間なく続きサービス精神は徹底している模様。悪くない、悪くないぞ、、。でも、お二人のアクションシーンは寄る年波か、キアヌなんか手の念力ガードでおさぼり感あり。とか何とか言いつつ、私はマトリックスを崇拝しておりますので、作品の成就だけでうれしゅうございます。キアヌ60近しと言えど、トム・クルーズ、ブラッド・ピッドなどまだまだ超現...マトリックスレザレクションズ(2021/米)(ラナ・ウォシャウスキー)75点

  • 空晴「向こうの景色」(作・演出 岡部尚子)於in→dependent theatre 2nd 85点

    もうかれこれ空晴の前の劇団ランニングシアターダッシュから計算すると、25年ほど見続けている劇団だ。この劇団によって演劇の面白さ、楽しさを教えてもらったのだから、ファンとしてきちんとお礼も兼ねて、しっかり見なければならないと思っている。今回は20作品目というひとつのターニングポイントにあると思う。いつもより勘違いもまろやかとなり、題名通り(岡部はまさしく詩人だ)人生の濃淡を人との掛け合いでさらりと見せてくれる。大きな笑いより、ちょっとしたセリフで、「あれ、それって深くない?」と瞬時に思わせてしまう。そのセリフを頭で抱えているうちに次のセリフが舞い込む仕掛け。絶妙である。25年ともなれば、劇団員の不幸も私は知ることとなった。二人は若くして道途上にして倒れた。その一人H氏の過去の劇のセリフを今回使用したと岡部は言う。...空晴「向こうの景色」(作・演出岡部尚子)於in→dependenttheatre2nd85点

  • 関西大学劇団万絵巻「鬼武者」(作・岡田祥吾 演出・ずか)at芸術創造館 75点

    学生演劇だが、練習量が豊富らしく、また出演者も20人ほどの多数なのだが、それぞれ人物がしっかり書き込まれており、楽しめた演劇でした。題材はいつの時代か分からないが、鬼武者。こういうゲームを買って、昔やっていたことを思い出す。ストーリーも2時間しっかりとしているので最後まで退屈しない。何より学生たちの熱量がこちらにガンガン伝わる。主要となる、4,5人の演技も迫力あり、声量も十分。彼らは4回生らしいから、演劇を離れる人もいるのだろう。いい青春を過ごしていたのではないか、そんなことまで感じられる素敵な演劇でした。関西大学劇団万絵巻「鬼武者」(作・岡田祥吾演出・ずか)at芸術創造館75点

  • 花束は毒 ( 織守 きょうや  著)(文藝春秋  2021) 75点

    読みやすい文章。というより、あまりになだらかな文体、またストーリーが卑近過ぎてそのうちにまともに読む気がしなくなるほど通俗的なのだが、でも、だんだんと面白くなる。まあ、ミステリーとしては平凡かなあと思っていたのであるが、この小説はプロットが斬新である。なるほどこういう書き方もあるのか、とミステリー好きの僕はにんまりとする。俄然、喜ぶ。なかなかのものです。最後の意味深な終わりはホラー小説とさえ思えるほど、不気味でした。2021年、印象に残るミステリ-です。花束は毒(織守きょうや著)(文藝春秋2021)75点

  • 劇団五期会「The Merchant of ZIPANG」(作・イシワキキヨシ 演出・井之上淳)at・ABCホール 80点

    関西の名劇団。劇団員数も多く、いつも力作を届けてくれる。そして今回は、、。シェイクスピアのあの有名な「ベニスの商人」の日本版。といっても、そこは五期会、かなりアレンジしたコメディ劇にしつらえた。何といっても、中世の時代に物部氏と蘇我氏の葛藤が設定されているのでユニーク。脚本も超長場だが最後まで丁寧な進み方で飽きない。本当に面白かった!俳優陣もみんなカッコよく、舞台で見栄えする。今回は特に衣装が素晴らしく、見ているだけで楽しい。こういう演劇の基本を土台に、常に演劇を追及している劇団は大阪でも稀有な存在である。次回も期待する。劇団五期会「TheMerchantofZIPANG」(作・イシワキキヨシ演出・井之上淳)at・ABCホール80点

  • 茲山魚譜-チャサンオボ- (2021/韓国)(イ・ジュニク) 75点

    韓国で評判の質の高い映画だ。映像がモノクロなので、映像美が十分楽しめる。特に冒頭の海上からの俯瞰撮影は息をのむほど美しい。で、その後、異教を取り締まることによる流刑となる上級官吏の3兄弟。映画はその一人の物語である。ソル・ギョングが残りの生きる人生を学問への究明から実務上の魚辞書作成に転向し、一方漁夫のピョン・ヨハン(好演)は学問を目指すことで人間への究明を図ろうと思う。この二人の立ち位置がまず良し。そして、いつの世でもそうだが、腐敗した現実を知ることにより、漁夫は幻影を捨て、生まれ育った郷里へと帰る。この帰結は少々甘く、この作品をファンタジー化している。人生への思いに対する切実さ、真剣さが薄くなる。もっと世の中への切込みがあってもよかったのではなかったか、と思うのである。けれどこの作品を一種の寓話にするのであ...茲山魚譜-チャサンオボ-(2021/韓国)(イ・ジュニク)75点

  • 最強の一人芝居フェスティバル「INDEPENDENT:21」at・in→dependent theatre 2nd 80点

    年末近くになると催される一人芝居フェス。全国から精鋭がやってくる。でも今年は地方色の方言があまり聞けなかった感がするなあ、、。上演時間が午前11時から終わりが午後5時半。その間、3ブロックで9人の一人芝居が繰り広げられる。いつもこれを見ているときはまだ吾輩も健康なんだと思い起している。だから、健康パラメーター代わりに鑑賞しているのである。冒頭の「黒川の宴」のかっこよさから始まり、最後は真打突撃金魚の山田蟲男の壮絶さで締めくくる。9人のうち、実力もかなり高低差もあるように思われるが、みんな誰ひとりセリフのトチリもなく、100%以上の出来で臨んでいるのが分かる。だから、客席も満席なのだ。今回はやはりオオトリ山田の乱歩再現に拍手を送ろう。愛とは究極的にはここまで辿り着くのだ。我々凡人でもその凄惨なまでの愛の考察にはぞ...最強の一人芝居フェスティバル「INDEPENDENT:21」at・in→dependenttheatre2nd80点

  • 雷神(道尾 秀介 著)(新潮社 2021) 70点

    道尾作品、結構読み続けている。最近はミステリーをまた書き始めており、期待大であった。全体に、でも、ちょっと冗長かな。そして、うまく偶然が続き、これはミステリーとしてはいただけない、と思う。またミステリーで定番の、冒頭のエピソード。これが重要なのはいうまでもないのだけれど、こういう使い方をされると、ちょっと裏切られた感も漂ってくる。しかし、道尾作品のミステリーはどこか魅力があり、やはり切り捨てられないなあ、、。次作に期待するところ大である。雷神(道尾秀介著)(新潮社2021)70点

  • 劇団六風館「無差別」(脚本・中屋敷法仁 演出・中山自然)at阪大学生会館 80点

    脚本は柿喰う客の骨太作品。これを六風館がどう調理するのか、とても興味があったが、さすがでした。7人いる俳優陣、誰一人セリフのトチリもなく、相変わらず大学演劇での能力の高さを証明した形となった。ただ、内容がとてつもない深い作品なので、美術等学生会館の舞台では少々物足りなく、演劇の中枢に行くにはとっつきにくい気がした。これだけは彼らのせいではないだろう。全体的にも六風館の体は十分成していた。神とは、人間とは、生きることは何かという本源的なテーマが重いので、会館を出ると阪大のイチョウ並木の紅葉が私を慰めてくれる。風も心地よい。劇団六風館「無差別」(脚本・中屋敷法仁演出・中山自然)at阪大学生会館80点

  • はちどり (2018/韓国=米)(キム・ボラ) 85点

    14歳、中2。もうずいぶん前なので覚えていず。けれど、この映画に出てくる心象風景はなぜか微妙に痛くしかも柔らかい感触へといざなう。自己から家族と言えど第三者として意識する放射角。家族よりむしろ心を寄せる友達たちにも感じる疎外感。そんな濁流の中でただ一人自分を受け止めてくれた塾講師。彼女はこの俗世間の中でただ一人心を遊離させてくれた心の旅人であった。けれど人生は彼女に姉の代わりに死を与えるというむごいことを彼女に経験させる。誰にでもある思春期のあるひとときを切り取った秀作です。少々文学的だけど、実に鋭い空気感の漂う作品でした。パク・ジフは浅田真央に何か似てるね。好感の持てる女優です。はちどり(2018/韓国=米)(キム・ボラ)85点

  • ニューヨーク 親切なロシア料理店(ロネ・シェルフィグ) 80点

    題名からは想像できないニューヨークの底辺にたたずむ市井の人々を追うカメラの優しく暖かいことこの上ない。このタッチ、そうか「ワン・デイ~」のロネ・シェルフィグだ。バックに流れる音楽もいい。現代のニューヨークにこんな一面もあるという実に誠実な映画だ。こんないい映画を見ると、まだまだ人間に愛着を持っていいんだ、と明日への希望も感じる。俳優陣がみな脇役のような風情を持った俳優で占めているのも好感が持てる。一人マーク役のタハール・ラヒムだけが一人イケメン面をしているが、まあ、許そう。彼は秀作監督の作品によく出てるなあ、、。ニューヨーク親切なロシア料理店(ロネ・シェルフィグ)80点

  • アルプススタンドのはしの方 (2020/日)(城定秀夫) 80点

    久しぶりに青春のかけらを思い出す。徹底的にグラウンドを見せない舞台劇。その舞台の臨場感が冴えわたる秀作映画だ。そのメリットがよく出てる。舞台で見てみたい!この映画見ているとき、見終わったとき、そう言えば忘れかけていたこんなこともあったとか、ホント次から次から出てくる。もう半世紀も前のできごとばかりなのに何故?不思議な映画です。ラストはちょっと甘いけれど、でも、でも許しちゃおう!誰もが辿ったあの透き通る春の日差しを受けながら、、。「しょうがない」が堂々と言えるこの年になった俺に、よくぞパンチを浴びせてくれました。大好きな映画です。アルプススタンドのはしの方(2020/日)(城定秀夫)80点

  • 幻月と探偵(伊吹亜門 著)(2021 KADOKAWA) 70点

    お気に入り作家です。幕末の時代物ミステリーから今回は5,60経って昭和初期へ。舞台は満州。岸信彦なんかも実名で出てくるから面白い。彼は戦犯で死刑寸前までの経験をした日本の首相である。わが子供時代には第一次安保闘争で、子供ながらにも岸首相の名前は刻み込まれている。だが、主役というわけでもなく、実にうまい使い分けを作者は試みている。展開は連続殺人事件ではあるが、それほど綿密なミステリーではなく、読み物として読む必要があるのかもしれない。犯人らしき人があまり出てこないので、吾輩はこの人しかいないかな、と思っていたらまさにそうでありました。まあ、犯罪動機もユニークというか、ちょっとノーマルではないので、作り物めいて唖然としたが、3作目で、ちょっと気を抜いたかな。漢字の読みがなのないのも多く、当時の満州の地名だったり、少...幻月と探偵(伊吹亜門著)(2021KADOKAWA)70点

  • 南河内万歳一座「ギャンブルの犬」(作・演出 内藤裕敬)(at一心寺シアター倶楽) 75点

    関西の雄、演劇集団。今回はそれほど凝ってなく、あるところにたまたま集まるコミカルな人たちの日常話。それぞれ悩みは尽きないが、まず明日というものがあるのなら、それを目指して生きていこうやないか、というコメディです。現状のコロナ禍、不景気等、我々を取り巻く身近な状況がこの物語の奥を秘めていると思うが、人々は悩み、わめき、考え、それでも生きてゆく。観客はそれぞれ何らかの接点を見出だし、帰ってゆくのではないか、そんな内藤の心情を窺える、過渡期の作品と言えます。特に大きなテーマはありません。次作がもう楽しみである。南河内万歳一座「ギャンブルの犬」(作・演出内藤裕敬)(at一心寺シアター倶楽)75点

  • 劇団ちゃうかちゃわん「創生とアポトーシス」(脚本・演出 津島ヨモツ)(at阪大学生会館) 75点

    阪大の学園祭の一環としての演劇公演なので、恐ろしく大変な公演手続きを踏む。まあ、ネットでQRコードを獲得できるまでは何とか進んだが、当日演劇の受付の前に入場受付という厄介なものが控えていることに気づく。何と、あの阪大の坂道の入門管理が待っていた。40分も並ばされて、若い人は慣れているのだろうけど、僕は全然ダメ。とは言いながら、石橋の高台にやっと来てのこのこ帰られない、、。やっとのこと学生会館に着き、上演。間に合ったわい。劇は何度か見たことのあるような、アンドロイドの悲哀。ロボットに擬してはいるが、人間の本質的な存在論ともいえる脚本。若い人の脚本らしく、漫画チックでもあるが、その心底に流れる暖かい悲哀に感動す。これを書いた人は人の心の襞を知っている。いい演劇だった。さて、久しぶりに大学の食堂で昼食をと思ったら、学...劇団ちゃうかちゃわん「創生とアポトーシス」(脚本・演出津島ヨモツ)(at阪大学生会館)75点

  • 楽園のアダム (2021 周木 律 著) (‎ 講談社) 70点

    ミステリーとして読むと、通常の連続殺人事件として読むと、とんでもない真相に突き当たります。最後にあっと驚かされる真相はさすが度肝を抜かされますが、そういう意味ではこれも立派なミステリーというべきなんでしょう。空白も多く、読みやすく、読むのにそれほど苦労は要りません。もうミステリーも周辺が壁だらけで、書くべきもの自体がミステリーの材料になってしまうのでしょうか、、。僕らの身の回りにはいくらでもミステリーは存在します。やはりまだミステリーに期待するところです。楽園のアダム(2021周木律著)(‎講談社)70点

  • 黒牢城(KADOKAWA  2021)(米澤 穂信  著) 80点

    米澤穂信、あっと驚く戦国ミステリー。440ページで結構長いが、4つのミステリーに分かれているので、読みやすい。あの、高校生の甘い清廉な心情を書いてきた米澤がジャンルの全く違う戦国ものへの挑戦はかなり驚いた。登場人物が話す言葉の美しいこと。映画等でしか聞けない言葉だが、とてもいい。現代の言葉との差異に唖然とするばかり。ミステリーとしては、少々強引な気もするが、まあこれはいつものこと。面白い。真犯人も気づけるようになっている。600年ほど前の時代を現代によみがえらせ、しかも歴史の勉強もさせてもらい、有意義な書物である。黒牢城(KADOKAWA2021)(米澤穂信著)80点

  • 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ (2021/英=米)(キャリー・ジョージ・フクナガ) 70点

    クレイグシリーズは全部見ている。ラストという触れ込みなので、見落とすことのないように背筋を伸ばしてみる(大げさか)。冒頭からの入りは007シリーズでも出色の出来。ワクワクさせる。これは筋金入りだぜ!ところがその後気づいたら、なんとジェームズ・ボンドのファミリー映画・哀切ものに辿ってゆく。え、こんなの、007か、とこちとら、とても心おののく。クレイグへのオマージュは分かるが、007愛好家としてはこれは困る。今までと波長がまるで違っている。しかし、まあ、最後の要塞も一応伝統の007を踏襲しているので、全く否定はできない出来ではある。ボンドガールのレア・セドィーは愛くるしくよろしい。女007のラシャーナ・リンチは鋼鉄で魅力的だ。そしてあの、斬新な黒ドレスのアナ・デ・アルマスも強く美しく妖艶でよろしい。エンドクレジット...007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(2021/英=米)(キャリー・ジョージ・フクナガ)70点

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