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セントの最新映画・小演劇120本 https://blog.goo.ne.jp/signnoot

映画館で新作をランダムに見ています。小演劇も好きですよ。

プロフィール 性別   男性 自己紹介 休みは大体映画館かその近くを闊歩しています。自然と繁華街というところを歩くことになります。心は大自然にあこがれながら、結局便利さに負けているような気もします。

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2010/01/07

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  • 一夜:隠蔽捜査10(今野 敏 著)(2024 新潮社) 80点

    このシリーズも10巻。スピンオフも加えると13巻らしい。今回は、あっという間に読み切ったが、それでもいつものさわやかさは残る。でも、ちょっと当たり前すぎたかなあ、、。深さが不足気味。これだけシリーズ化しているともう書くことにも窮するのかなあ。そんなことを考えてしまう本作だったが、でも骨格の竜崎本人の姿はまごうことなきほんものを持っている。ファンはずっと読み続けることだろう、、。一夜:隠蔽捜査10(今野敏著)(2024新潮社)80点

  • エゴイスト (2022/日)(松永大司(80点)

    秀作。人を愛するっていう本質的なことの意味を問う純粋培養映画です。前半は通常の、とは言えないか若い二人の恋愛を。後半は愛する人を失った後にその母親を世話する過程で、我々が無償の愛に気づかせられる話。全体を見渡して浩輔の世界観が透いてくるのが美しく、大きなものであることに気づく。鈴木亨平の演技も大いに驚くが、後半の重要どころ役阿川佐和子がすべてさらっていった感もある。こういう透明感のする世界は現実を考えるととても心地よくさえある。いい映画だと思う。エゴイスト(2022/日)(松永大司(80点)

  • 血縁 (集英社文庫)(2019 長岡 弘樹 著) 80点

    短編の名手、長岡による今までの短編をまとめた作品だ。設定が警察関係の学校や刑務所でなくてもまさに同じく面白さが堪能できる秀作ぞろい。最近、ミステリーを読むと名前だけで違和感があり、どうも人物に入っていけない小説が多い。そんな苦痛もこの作家には全くない。どうやら私も世の中から遠く置き捨てられた人間であるらしい。この小説を読んでそんなことを考えた。血縁(集英社文庫)(2019長岡弘樹著)80点

  • 劇団ちゃうかちゃわん「夢にまで魅せられて」(作・唯端楽生 演出・近未来ミイラ)at阪大学生会館 80点

    春たけなわ。春眠暁を覚えず、という理もあり、春はどうも眠い。そしてこの劇はまさに夢の中のお話。シンプルな話なんだけど、はちゃけて楽しい。さすがヤングの勢いもあり、青春真っただ中といった感じ。うらやましいのう、、というわけで文句なしのハジケタ青春感が愛しいぐらいよかった舞台でした。ダンスもよし。セリフもよし。もちろん役者たちみんな素晴らしい。青春ってこんなに良かったか?劇団ちゃうかちゃわん「夢にまで魅せられて」(作・唯端楽生演出・近未来ミイラ)at阪大学生会館80点

  • ピッコロ劇団オフシアター「パレードを待ちながら」(作・ジョン・マレル 演出・中島深志) atピッコロシアター中ホール 80点

    昨年、他劇団ではあるが、上演され名高い賞を受賞した今話題の演劇であります。ストーリーはわかっていたが、劇団と演出が変わるとこれほど変化するものなのか、と驚いた演劇でした。現代の戦争に見立てることは我々観客のなすべき姿勢であろう。最近続いている戦争の気運がどうしても気になり、この劇の時代である第2次世界大戦とは思えぬ背景と彼女たちの心根がずしんと我々の心に引っ掛かり、重くのしかかる。ラストのパレードは彼女たちにとっては戦争の終わりを告げる明るいものでないことが、さらに我々に戦争のむなしさを訴えてくる。素晴らしいラストであった。しずかに感動の涙が頬を伝い、席を立てなくなった次第。私も老い来たかなあと思う。ピッコロ劇団オフシアター「パレードを待ちながら」(作・ジョン・マレル演出・中島深志)atピッコロシアター中ホール80点

  • HAYASHI「流れゆく雲を、空はただ見つめている」(作・演出 林龍吾) 於CUBE03 80点

    ほの暗い女性の物語である。母親、妹はもうこの世にいないが、妹はときどき姉と会話をしに来る。子供時代からの姉のうら寂しい人生の記録である。その姉をごひいきことねさんが演じている。コロナ時代に見ていないので、ずいぶん久しぶりの対面。もうそれだけで実はうれしい。その主人公、ちょっとした会話からずいぶん精神をやられているかな、と思う。普通の人とは感情面の起伏が激しい。見ていていたたまれない。琴音さんを見るのはうれしいが、ファンとしては少々きついものがある。もう一人のご贔屓役者、川田恵三氏は今回は、珍しや、脇役に徹している。これは珍しい。相変わらずうまいが、それほど難役でもない。と思いながら見つめていると、終局に来て、ずいぶんと寂しい終わりに、、。この物語にしては、希望が見えない、ある意味不思議な演劇である。なんだ...HAYASHI「流れゆく雲を、空はただ見つめている」(作・演出林龍吾)於CUBE0380点

  • ニワトリ☆フェニックス(かなた狼) 80点

    何か思いつめたものがある二人のロードムービー。幼馴染、そばにいてくれるだけでいい友、さあ火の鳥を探して当てもない旅に出る、、。最初なんだかなと思ったが、慣れてくると、気にならなくなる。それが映画というものさ。ところどころ人生の真実がまばゆく見えてきて、素晴らしい人生賛歌に静かに感動してしまった、、。ラストは思い切り、ハッピーにしちゃって、でもこの時代、許すよ。いい映画だ。ニワトリ☆フェニックス(かなた狼)80点

  • Winny (2022/日)(松本優作) 80点

    WINNY開発者とWINNYによる警察内部資料流出とを対比させ、ソフト開発者の自由、すなわち人間の自己解放の自由さをテーマにした作品だと思われるが、ちょっと長いかな。テーマはもう途中で十分観客に伝わるので、その他の発展があればもっと重圧で深みが増したかなと思う。2時間ずっと裁判劇に終始している。観客はそんなものを見たいのだろうか、と。とはいえ、東出はさておき、この映画、三浦貴大が最初顔を見ただけではわからなかったが、本人確認の後、今までにない演技をしていることに気づく。関西弁もそこそこうまく、何より、この退屈な映画を引っ張っている唯一の人であります。うまくなったなあ、、。それだけでこの映画は加点対象です。Winny(2022/日)(松本優作)80点

  • ある閉ざされた雪の山荘で (2023/日) (飯塚健) 55点

    原作はずいぶん前だが、読んだことがある。結構ミステリーとして面白かった記憶があった。そして映画を見ていると、、、。あまり知らい俳優たち(けれど一般の人たちからはそこそこ有名らしいが、、)、映像の稚拙さ、展開の妙がないことなどから、ありきたりのB級映画かなと思う。なにより、ミステリーなのに怖さが欠如しているのが痛い。突っ込みどころの多いのも難点。ある閉ざされた雪の山荘で(2023/日)(飯塚健)55点

  • 密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック (宝島社文庫) (2022 鴨崎暖炉 (著) 75点

    密室に関するトリック解説指南のような小説です。てんてこもりすぎて読むのがしんどくなってしまったきらいも、、。面白いけれども、実現の可能性はどうなんだろうと思ってしまうて手合いが多いかなあ。でも確かに力作です。通常の密室物の3倍は手がかかっています。密室黄金時代の殺人雪の館と六つのトリック(宝島社文庫)(2022鴨崎暖炉(著)75点

  • パスト ライブス 再会 (2023/米=韓国)(セリーヌ・ソン) 80点

    予告編がよかったので行って来ました。なるほど今どき珍しい男女の心のひだを鮮明に映し出した秀作でした。今どき珍しいと言ったのは、この映画、男女のプラトニックラブを描いていて、それを男女の人生の核にしているからです。昔懐かしい名作映画「終着駅」に妻の夫を加えたトリプルの男女トライアングルにしている感じで、そこがとても新鮮でした。3人で会っていて、旦那が横にいるにかかわらず、愛する男と会話を交わすというスリリングなシーンが続き、しかし一方ではそれがジレンマにもなります。あんなところに旦那がいたら、私だったら心筋梗塞を起こします。韓国語で会話をしているのですが、韓国語を勉強しているという旦那は会話の内容が多少はわかっているはずです。この映画の題名になっているように、二人の愛は前世から続いていると彼らは思っている。...パストライブス再会(2023/米=韓国)(セリーヌ・ソン)80点

  • RHEINGOLD ラインゴールド(2022 ファティ・アキン) 60点

    アキンの映画、期待したんだけどなあ。前半は人種差別の悲哀さ、たくましさを描いて秀逸。けど、後半はなんだか、ただのグレ映画だなあ。何を描きかったのか分からん。ドイツでヒットしたのいうが、主人公を知っているかどうかで、違うのか。よく分からん映画でした。RHEINGOLDラインゴールド(2022ファティ・アキン)60点

  • デューン 砂の惑星 PART2 (2024 ドゥニ・ビルヌーブ) 80点

    うーん、噂に違わぬ映画作り。3時間、画面にくぎづけだ。話は、何かどこかにあったようで、シンプルだが、だからこそ映像のダイナミズムが冴える。美術が圧倒的。俳優陣も豪華絢爛。S・ランプリングなんて表情をヴェールで隠しているのに、目力がすごい。さすがだねえ。映画料金、お得な感じがするほど堪能できました。デューン砂の惑星PART2(2024ドゥニ・ビルヌーブ)80点

  • オッペンハイマー(2023 米)(クリストファー・ノーラン) 80点

    評価しづらい映画ですね。感想は書けるけど、今までのようなノーランの流麗な画調があまり見られず、ずっと鳴り響いている音響だけがノーランだと知らしめています。映画構成としてはオッペンハイマーとストローズの善悪の対比が見事ではある。色彩もカラーとモノクロ。ストローズを悪者に強調することでオッペンの罪深さを薄める効果はあるのかなあ。ほんとアメリカ的でもあります。私が一番この映画を見てて、劇場全体が急に水に浮いてしまっているのではないかと錯覚したシーンが、アメリカ国民が狂喜するのが、原爆実験に成功した時ではなくて、ヒロシマ原爆投下の日であることだ。これは日本人にとってはきつい。現在のウクライナ侵攻といいイスラエルのハマス攻撃といい、まったく人間の取る行動は同じ。愚か。人間そのものの真実の姿を真正面から描写するに恐ろ...オッペンハイマー(2023米)(クリストファー・ノーラン)80点

  • 審判 (2018/日)(ジョン・ウィリアムズ) 60点

    カフカ原作の迷宮作である。演劇、映画でも結構制作されているが、これは珍しく日本映画。さて、どう料理するか、、。かなり予想していたものとは違っているなあというのがまず感想。カフカの片鱗が見えず、あの底深く見えない不条理というか不気味さがない。これでは審判が泣いている。この作品を日本で制作するという事だけでも意欲作ではあるが、、。審判(2018/日)(ジョン・ウィリアムズ)60点

  • 生きる LIVING (2022/英=日)(オリヴァー・ハーマナス) 85点

    クロサワ作品のリメイクだが、思ったよりクサくなかった。この作品のテーマがストレートに伝わっている。さすが、カズオ・イシグロの脚本がいい。やはりこのテーマはほのぼの「絵に描いた餅」なんだが、それでも我々、人間である限りポジティブに捉えたい。秀作です。感動しました。生きるLIVING(2022/英=日)(オリヴァー・ハーマナス)85点

  • 金の糸 (2019/グルジア=仏)(ラナ・ゴゴベリーゼ) 70点

    日本人にはわからないソ連圏の圧政時代を生き抜いてきた人たちの絶え絶えの息遣いがそこに聞こえる。もう老齢に達してしまった彼らこそまだ未来はあると考える。一つの国の過去と未来を覚めた感覚で見据えた遺言とでもいえようか、そこには苦渋とかすかな喜びが見える。金の糸(2019/グルジア=仏)(ラナ・ゴゴベリーゼ)70点

  • 遺灰は語る (2021/伊)(パオロ・タヴィアーニ) 60点

    遺灰を故郷のシチリア島に埋葬してほしいという偉大な作家らしい男の遺言通りに運ぶ風景詩とでもいおうか。それぞれ映るエピソードはちと冗漫。時間感覚がタヴィアーニとは違うのか、長い。遺灰は語る(2021/伊)(パオロ・タヴィアーニ)60点

  • #マンホール(2023 日)(熊切和嘉) 80点

    マンホールの入ってから、脱出する手立てにかなり苛立つが、慣れてくると面白くなる。そして中盤以降思いがけない仕掛けが用意してあるので、なんだか二重におやつをもらった感のある秀作エンタメでした。粗い所があるのは許せます。さすが、熊切!#マンホール(2023日)(熊切和嘉)80点

  • 少女は卒業しない (2023/日) (中川駿) 80点

    人生でも一番淡くいや一番強く人を愛することを想っている瞬時、それは青春のひと時だ。でもそれはあの桜の花吹雪のようにふわっと舞い散ってしまい、かすかにあとさきだけが残る。青春の美しさと強さと哀しみ、それを知りえるものだけが分かり得る珠玉の映画だと思います。少女は卒業しない(2023/日)(中川駿)80点

  • 坂本企画21「抱きれない わたしを抱いて」(作・演出 坂本涼平) at in→dependent theatre 1st 90点

    3人劇で、舞台装置も簡素、何気なくただ時間が空いていただけで前日に予約して見た演劇でした。テーマから観客は少ないだろうとは思っていたが、その通り、しかし思わぬ拾い物といえば失礼か、脚本が面白い。テーマもわが胸をえぐるか感じで物凄い感動編。ラスト、あの平和な感じで終わるのかなあと思ったら、物凄い一撃。参りました。坂本氏は芝居の面白さを徹底的に追及しているお方とみる。まれにみる才能のお方だ。しばらくじんじんしびれ、席を立てない。こんな芝居を見られるなんて、僕は幸せ。それにしても演劇って見てみるまでホント分かりませんな、、。坂本企画21「抱きれないわたしを抱いて」(作・演出坂本涼平)atin→dependenttheatre1st90点

  • ステージタイガー「SWITCH」(作・演出 虎本 剛) at松原市民会館 80点

    外は雨。春の雨である。この雨がなければ本当の春は来ない。今日の演劇は雨の物語である。学校の出来事を中心に親たち、子供たち、そして先生たち。不安定な時代に生きる我々の今どうあるべきか、を考える随分ストレートでまじめな作品です。いかにも、虎本がこうあってくれたらいいなあという本音がビンビン伝わってくる。もどかしいがそれでも人は生きてゆく。そんな切なさも感じながら、舞台の方は雨が続く。演劇を終えて、外に出ると、あれほど降っていた雨がやみかけている。そう、雨の後は晴れ。ステージタイガー「SWITCH」(作・演出虎本剛)at松原市民会館80点

  • 関西芸術座 「未来へのハーモニー」(作・上田あかり 演出・森本隆一) at芸術座 80点

    直球気味の現代青春劇だ。高校生とその教員、そして家族との関係の中から若い息吹を青空に放出させようと、一つのドラマが始まる。同性愛をどうとらえるかでこの演劇はかなり違ったものになる。この劇の解釈のように周囲の温かいまなざしで青春を送られる若者もいれば、そのまま倦怠感に包まれ埋もれ落ちる人もいるだろう。劇は前者を描いている。颯爽として、未来も輝いている。おそらく現実はもっと醜いことが待ち受けているだろうが、劇はそこまでは追及しない。若者たちに未来あれ、だ。それは正しい選択だろうと思う。爽快な劇となった。でも、一方、言葉の暴力に苦しむ若妻が悩んで、出産してなおかつ離婚するストーリーというのは、ちと無理があろうと思った。あんな夫婦はざらにいる。でも、若い人たちだけの劇はやはりいい。まだまだ未来があるよ。そう思った...関西芸術座「未来へのハーモニー」(作・上田あかり演出・森本隆一)at芸術座80点

  • 伽羅倶梨ボイスシアター「この話、したっけ? ~約束の夕焼け~」(作・演出 徳田ナオミ) 80点

    この劇団では初めてでしょうか、何と朗読劇です。でもいつもの安心出来る出演者がそのままその役を演じられるので、とても情感あふれるハートフルな演劇となりました。ほとんどがあの世とこの世とのつながりを描く演劇なのですが、あの世もこんなのであったらみんな現世で悩むことはあるまいと思い始める。でも徳田さんはほんと、キレイな方なんですね。(心ももちろん見た目も)純な気持ちをお持ちでなければこういう感動劇は作れません。朗読劇で涙を浮かべたのは久しぶりで、いい芝居でした。今日もいい休日になるぞ!伽羅倶梨ボイスシアター「この話、したっけ?~約束の夕焼け~」(作・演出徳田ナオミ)80点

  • 大阪芸術大学 舞台芸術学科 「十一ぴきのネコ」(作・井上ひさし 演出・内藤裕敬) at森ノ宮TTホール 80点

    大きな立派な舞台。総勢30数人の出演俳優たち。あの井上の名作を若い人たちで上演するその心の息吹を広い舞台いっぱいからビシビシ感じる。これは童話まいた形式にしているが、立派に社会構成劇であると思う。例えば、企業をする若者たちの物語だと思ってもいいし、政治活動を伴う行動を起こす集団のはなしだと感じてもいい。あまりに楽しくて迫力のある舞台なので、気づかないがストーリー的には切ない悲しみさえ漂うものがあるのを感じ取ることだろう。みんなが素晴らしい演技を見せている。セリフのとちりはまったくなし。それぞれの人物の陰影さえ感じられる十分な演技だ。かなり練習したのだと思う。彼らはそれを達成した。素晴らしい公演だった。拍手は鳴りやまなかった、、。大阪芸術大学舞台芸術学科「十一ぴきのネコ」(作・井上ひさし演出・内藤裕敬)at森ノ宮TTホール80点

  • 市子 (2023/日)(戸田彬弘) 90点

    「私とは何か」という永遠の謎を解くために哲学はあるとも言それを堂々と真正面からに映画でやってのけた骨太の傑作であります。若葉以外は根っからの大阪弁をみんなものすごくひりひりするほど鋭くしゃべっている。これがまずド迫力を見せつけた。リアルでこの作品には欠かせない設定である。自分がこの世に存在しているのに、なぜいるべき私がいないのか。紙一枚で私の存在がなくなることの強烈な事実。おぞましい事実。だけど私はここに存在している。この私とは何なのか?市子の心からの叫び。この悲鳴が市子の冷えた心象を通して俺に怒涛のように押し寄せる。日本映画でまれにみる傑作の誕生の瞬間を俺はしかと見た。市子(2023/日)(戸田彬弘)90点

  • ヴェルクマイスター・ハーモニー (2000/ハンガリー=独=仏)(タル・ベーラ) 90点

    わが敬愛する映画作家タル・ベーラ作品。前回の「サタン・タンゴ」が7時間の作品だったから、今回は2時間半、随分と短くなったと思った。そして相変わらずのカット数の少なさ。その分カメラは長回しになるが、俳優たち、そして多数のエキストラたちは一寸の乱れもなく、カメラに映りこむ。すごい。これが20年ほど前に制作された映画だとは思わず、見ている間は最近のウクライナ侵攻を見立てているなあと思っていたら、もっと広くこの映画は捉えていて、どこの国でも、つまり人類の歴史に及ぶ繰り返し行われている出来事を丹念に積み上げて、映像化していることに我々は気づく。動乱というか、革命に狂気はつきもの。そんなものすごい迫力が2時間半映像を覆っている。でもそれは我々人間たちが性懲りもなく行って来た歴史の一コマなのだ。そんな大きな視点から見た...ヴェルクマイスター・ハーモニー(2000/ハンガリー=独=仏)(タル・ベーラ)90点

  • 破・天荒 「愛す」(脚本・演出 長門凜太郎) at D館 80点

    人類永遠のテーマ、愛とは何か?このただ唯一のテーマを100分、ああでもないこうでもない、いろんなパターンを辿ってゆく、ホント破天荒な演劇です。若い人たちがこんなに純粋に「愛」というある意味哲学的な意味不明なものをしつこく追及してゆくその姿勢は大いに褒められていい。しかも完全自作だ。これはすごい。愛という人間だけが感じている幻想とでもいうべき概念を若い俳優たちはセリフのとちりもなくこなしている。若いということは何でもできるんだという可能異性を感じた劇だった。近代演劇部すごい!破・天荒「愛す」(脚本・演出長門凜太郎)atD館80点

  • The Timeless Letter「RUN FOR YOUR WIFE」(作・レイ・クーニー 演出・前田アキヒロ) 於CUBE1 85点

    お気に入り「タイムレスレター」の公演。随分前に確か十三で見た演劇だと思ったが、その時の面白感は覚えていたが、随分違った作品のように思えた。なぜかなと考えたら、主役の川田氏の役柄が全く違っていて、主役の夫になっていたのが大きいと思う。考えたら、タイムレスで川田氏が主役をしていないのは珍しいことなんだ。だからかなあと思った。劇の方は、とても面白い、というより艶笑&大爆笑劇で、これは再演だからか、演出もスケールが大きくなり、見ごたえがあった。タイムレスはこんな大きな劇場でも十分迫力があることに気づく。それにしてもタイムレスの女優陣の充実したこと。しかもみんな美人で、演技も達者。頼もしい限りだ。いい役者を取りそろえたね。劇の方は艶笑劇だ。とはいうものの、夫の言うウソにみんなが勘違いを起こす爆笑劇です。でもそれが凝...TheTimelessLetter「RUNFORYOURWIFE」(作・レイ・クーニー演出・前田アキヒロ)於CUBE185点

  • 夜明けのすべて (2023/日)(三宅唱) 80点

    映像はいたってフィルム画質。自然体を目指しているかのよう。息苦しい世の中、通常の市井の人たちでもそうなんだから、ましてや企業で煙たがられる持病を持っている人たちに見えてくるものは何だったのか、、。劇的な展開があるわけでもなく、静かな職場で時間をかけてようやく自分の居場所を見つける二人。それには一緒に働く人たちのごく自然な気持ちが必要なのだと知る。彼らが慕う上司は自死した親族を持ち、人の気持ちを否が応でもヴィヴィットに感じる人たちだ。彼らの集う場面はドキュメンタリー風であり、唯一この静かで平坦なリズムにさざ波を立ているシーンでもある。彼らは普通に職場になじみ、そして恋愛に発展することもなく、淡々とそれぞれの生活を始めてゆく。3年後、女は故郷に戻り、新たな働き場所を見つけ親を介護する人生を始める。男は、なじん...夜明けのすべて(2023/日)(三宅唱)80点

  • ぷちっとWOW!!誠の証明(作・関下怜 演出・上田一軒) at聖天通劇場 80点

    これは面白い!ある少女の自殺未遂から教師たち、母親がお互いを責めたり、そして自ら解決に向かうテーゼを発想するまでのいきさつがユニークで爽快だ。舞台劇となっている「12人の怒れる男」に展開が似ているので、とても見ごたえがある。どんでん返しというわけでもないが、真相を発見するに至り、登場人物、そして観客が納得して劇を後にするという展開は舞台冥利に尽きる設定なのである。劇場は新たにできた福島の小さな小屋。50人ぐらいしか入れないが、これが一体感を生み、新たな豊穣感さえ生み出した。ぷちっとWOW!!誠の証明(作・関下怜演出・上田一軒)at聖天通劇場80点

  • 天気の子 (2019/日) (新海誠) 80点

    大胆な着想と愛をはぐくむ強さに心地よい息吹を感じる。たまにこんなにストレートな愛を感じるのもいいではないか。日本の警察があんなに間抜けとも思えないが、でもあれがないと天に突き抜けられないから許す。前半の生きづらさといい、新海誠は現代人の目を持っている。それだけで十分だ。天気の子(2019/日)(新海誠)80点

  • 落下の解剖学 (2023/仏) (ジュスティーヌ・トリエ) 80点

    話題作で、即劇場へ。メジャー映画館にかかってはいるが、小さな館内に押し込められ、ふむふむ映画通らしき風貌の人たちがわんさいる。冒頭の夫の部屋でガンガン鳴らす音楽がめちゃセンスが悪い曲で、もう完全に私には暴挙の挑戦です。これじゃあ、あのインタビュアーどころか、映画ファンも席を立ちたくなる。その音楽暴力がなくなると、ふむふむなるほど面白い設定で、ミステリー的にはどうかとは思うが、謎解きが控えており、むんむん見せつける。でもなあ、これはベルイマンの「ある結婚の風景」の現代版ですな。体裁は裁判劇で、あっと驚くどんでん返しが控えているとも思ったが、どう考えても有罪にならない夫婦の葛藤を第三者に生中継で見せて何の意味があろうというもの。これでは若い人には結婚観にブレーキがかかり、もう人生半ばのお二人にはふむふむ感が漂...落下の解剖学(2023/仏)(ジュスティーヌ・トリエ)80点

  • ピッコロ劇団「ロボット‐RUR‐」(作・カレル・チャペック 演出・高橋正徳) at県立芸術文化センター 85点

    久々に大きな劇場へ。そして題名からはうかがい知れぬ秀作劇を見る。今、世界で使用されているロボットという名のもとになった劇である。チラシもコミカルで分かりやすい劇かなと思っていた。実際分かりやすかった。シンプルなテーマである。ロボットとは何か、すなわち自分とは何か、人間とは何か?が、見ていて自分の脳裏を駆け巡る。もうぐんぐん掘り下げてくるような哲学っぽい重鎮が目の前に垂れ下がる。ストーリーは単純で、仕事を楽にしようと労働力を補強するする為にどんどんロボットを増産する。敢えて、心をロボットに埋め込まなかった人間たちが、そのロボットに逆に反乱され息絶えてゆく、、。そしてそのロボットの中から、、。もうこの世は人間も絶え、ロボットも絶え、どうなるのか、と思ったが、素晴らしい前向きのラストが用意されていた。原作はこん...ピッコロ劇団「ロボット‐RUR‐」(作・カレル・チャペック演出・高橋正徳)at県立芸術文化センター85点

  • ポータブル・シアター「プレゼント・ラフター」(作・ノエル・カワード 演出・枡井智英) 於ABCホール 80点

    関西では珍しい翻訳物コメディ。登場人物も多く、女優はみな美しく、衣装も凝っていて、見て楽しいまさに本格のイギリス演劇の粋をなしている。これが休憩を挟んで3時間。贅沢な時間である。長丁場感はまったくないほど、話が次へ次へと追いかけてくる。こんな楽しい艶笑喜劇は日本ではあまり上演しなかった気もする。日本とイギリスでは男女間、特に夫婦の絆感はかなり温度差があるのだろうが、さらりと仕上げているので劇としての高揚感が強い。俳優陣はこの長いセリフ、合間のあうんの呼吸をうまく演じていた。特に女優さんたちが皆驚くほどきれいで映えている。要のところを秘書役の山本がしっかり受け止める。ジョアンナのぞっとするほどの艶めかしさ。別居中の妻中井の凛とした美しさ。この演劇は女優を見る劇なのだろうか、、。アッと気づくと3時間が過ぎる。...ポータブル・シアター「プレゼント・ラフター」(作・ノエル・カワード演出・枡井智英)於ABCホール80点

  • 夜明けまでバス停で (2022/日)(高橋伴明) 80点

    高橋にしては平明な映画作りにびっくり。でもその平明さがゆえに、社会の底辺に棲む市井の人間たちの生き方が生々しくまぶしく浮かぶ。板谷がバクダンと意気投合するまでの過程は秀逸。一瞬の夢。でも元バクダン魔はもはや機能せず、夢破れしのノスタルジー男に変貌していた。板谷は人間の原点に戻り、今まで一度も社会に逆らわなかったことを改め、本来すべきことを目指そうとするラストに突入。爽快である、。一方、普通の人々がコロナ社会、すなわち社会の底がすとんと抜けるかのように、二度と這い上がれない現代の社会構造に正直おののきもする。家にすっこみ、テレビ等で映画の公園シーンも何度も見てきたのに、見て見ぬふりをしていた自分自身にはいこびる恥辱感。その自分を責めながら、ラスト、板谷の強いまなざしに共感を感じるとともに、自分が忘れていた若...夜明けまでバス停で(2022/日)(高橋伴明)80点

  • ばぶれるりぐる「川にはとうぜんはしがある(作・演出 竹田モモコ) 於indepenndennt 2nd 80点

    舞台は左右に土間の設定。左側は1段、右側の方が2段で高さの違いがある。土間をつなぐものはないが、スニーカーやらすのこで渡ることができる。題名といい、もうこの演劇のテーマはすぐに見えてくる。村社会での出来事の積み重ね。都会から帰ってきた次女(といっても随分大人)。長女と娘、入り婿でおとなしくさせられている夫、闖入青年の話である。日常の積み重ねのような展開が続くが、どこの家庭でも起こっていることが再現される。母親と娘、姉妹この関係が執拗に描かれるが、不思議とこの演劇では男の香りが無風である。作者が女性だからか、かなりウェットな繊細なセリフが飛び交う。娘がフィリピンのコールセンターに働きに行くというところで、はっととこれは寓話なんだと気づく。そうすると全体の構成も明確にわかってくる。いい芝居だね。観客はそれぞれ...ばぶれるりぐる「川にはとうぜんはしがある(作・演出竹田モモコ)於indepenndennt2nd80点

  • 対峙 (2021/米)(フラン・クランツ) 80点

    加害者と被害者、その双方の両親がある教会の仲立ちで対峙する。せめぎあうそして心の安定へと経る過程をどっぷり四つ、4人の重厚な演技で見せつける室内劇。昔こんな映画をどこかで見たような記憶もあるが、、、。途中これではどうしようもないなあと思いつつ、もつれ、崩れ、そして静謐が訪れる終盤になって急に、被害者の母親のつぶやき。「このままでは自分の息子の存在を忘れてしまいそう、あなたたちを赦す、あなたたちの息子を赦す」のセリフ。気高く、シンプルだ。感動の極致とはこのこと。対峙(2021/米)(フラン・クランツ)80点

  • 群山 (2018/韓国)(チャン・リュル) 80点

    お気に入り、チャン・リュル作品です。映像で生きていることの意味を辛口の湿度で綴ってゆくという文体が好きで、またその感覚的な静謐感も好きです。さて、本作は僕の知らない町、群山をふと尋ねる二人の男女の話です。群山の案内図を前に何かしら漂流感を見せる二人のたたずまいがもう素敵です。そこからはもう映像でどんどん見せてくるタッチの応酬。日本という統治国家だった時代にさかのぼろうとするリュルの鮮明な意思が見えますね。朝鮮族の歴史も見えてくる。そう、歴史を見ない人間は人生を知らないまま過ぎ去るなんてこと言ってましたが、その通りだと思います。意外と今回は、結構ホン・サンスふうの展開で、とても楽しめました。やはりこういうグダグダ感は今や、韓国でしか出来得ないのでしょうか、ね、、。まだ見ていない作品が多いので、これからも楽し...群山(2018/韓国)(チャン・リュル)80点

  • TAR/ター (2022/米)(トッド・フィールド) 80点

    ターの発する言葉の翻訳が男言葉なのがまず気になったが、英語でもそういうニュアンスがあるのだろうか。この映画の違和感ははまずそこから始まる。設定が今までの映画ではなかった華やかなクラシック界の裏の世界である。冒頭から高尚なクラシックのお話がターと司会者との公開討論で語られる。私も結構クラシック好きだが、それでもかなりの高度で語られているのが分かる。それは通常の人はもういい加減にしてと言わんばかりの内容の濃さである。世界的音楽学校の秀才学生とのバトルも続いて描かれる。学生の馬鹿さ加減も極めて面白いが、しかし彼女の高度な芸術性と人間的嫌みが痛烈に伝わる部分でもある。そんな緊張感もターの日常に入ると、ことあるごとに同性の女性に性をターゲットにしている本能も見せつけている。彼女は家族を持っていて、家ではパパである。...TAR/ター(2022/米)(トッド・フィールド)80点

  • 瞳をとじて (2023/スペイン)(ビクトル・エリセ) 80点

    あの『みつばちのささやき』のビクトル・エリセの新作が31年ぶりに戻って来た。こんなことってあるだろうか、、。早速、映画館にお出ましだ。冒頭の「悲しみの王」の館。一人の男が館主に出向かれて娘の捜索を頼まれるシーン。もうそれは緊密感もさることながら、出色のエリセ感覚ほとばしる絵巻物のよう。こんもシーンだけでこの映画を見た甲斐があるというもの。この作品、31年ぶりということに意味があるようです。映画も20年間突如失踪した男優を追い求め続ける映画監督。そしてそこに自分自身の人生を想うゆったりとした時のかなたを放浪する波間。二人が愛した女、男優の娘、そして未完成の「悲しみの王」の娘が映像にクローズアップされる。それはエリセの過去作品をたどる旅でもあった。繰り返し出現するアナの名前に、我々観客は「みつばちのささやき」...瞳をとじて(2023/スペイン)(ビクトル・エリセ)80点

  • 密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック (2022 宝島社宝島社文庫) (鴨崎 暖炉) 80点

    文庫本とはいえ、500ページ近くになる長丁場。ありとあらゆる最新の密室トリックが現れる。そりゃあ面白いわけないと言ったら嘘になる。よく、これだけ考えられるなあと思われるほど、もう現代では密室物のネタ切れといわれているのが嘘のよう。読者と一緒に楽しませてくれる。まあ、こうこういう種のものは楽しむことが一番だ。どんどん人が死んでゆくので、新犯人は限られてくるが、その方面についてはかなりあっけらかんとしていて、通常のどんでん返しはない。そこまで書き尽くせないのだろう、でもとにかく500ページ近くミステリーをとことん楽しめた。ほめるのが当然だと思う。いろんな密室トリックが出現するが、現実感はそれほどない。それがまた面白いのだ。密室狂乱時代の殺人絶海の孤島と七つのトリック(2022宝島社宝島社文庫)(鴨崎暖炉)80点

  • ノッティングヒルの洋菓子店 (2020/英) (エリザ・シュローダー) 70点

    交際中の彼女と食事前に見る映画ですね。画面には見てるだけで楽しいおいしそうなお菓子がどっさり出てきます。もうそれだけで幸せになれそうと思ってしまうデート映画です。まず、この話の核になる女性の自転車爽快シーンから始まり、あれよという間に彼女の死が告げられる。残された4人が一堂集まってくる物語です。この出だしは面白いが、あとはスムーズに時は流れ、みんなハッピーになってゆくすこぶる現状満喫する映画です。たまにはこういう映画もいいかも、。。ノッティングヒルの洋菓子店(2020/英)(エリザ・シュローダー)70点

  • みじかくも美しく燃え (1967/スウェーデン) (ボー・ヴィデルベリ) 85点

    耽溺的な美しさをゾクゾクとみる喜び。男と女の生の美しさ。ロングショットからの冒頭の草の萌ゆる色合いの見事さ。モーツアルトのたゆとう死のような白眉の高まり。人間は一つの到達点を見極めるとその先は光のみ、、。この作品の延長がヴァルダの「幸福」の、あのけだるい映像にたどり着いたのは言うまでもない、とは今のところ私だけの指摘だが、、。55年前でこの映像の筆舌出来ぬ美しさはたとえようもなく、衝撃的だ。みじかくも美しく燃え(1967/スウェーデン)(ボー・ヴィデルベリ)85点

  • 舞台芸術専攻35期 舞台芸術特別実習Ⅰ『オイディプスとコンプレックス』(監修 盛加代子) 於近大D館 75点

    ソフォクレスの有名劇「オイディプス王」の断片を紡ぎながら、交互に現代若者の生態を描くという大胆な演劇であるが、通常の演劇からかなり遊離しているので、吾輩のようなお年寄りにはついていけず、かなり苦労しましたぞや。2時間、38名もの役者が出演する。場面は10を超えるが、それでも若者たちの熱気は観客に十分伝わってくる。彼らの、彼らの言葉で考えた演劇。それは第三者からはわからぬ言うに言われる思いがあるのだろう。出口を出ると、出演者全員の彼らの明るい解放感が僕にも伝わってきた。若さって素晴らしい!舞台芸術専攻35期舞台芸術特別実習Ⅰ『オイディプスとコンプレックス』(監修盛加代子)於近大D館75点

  • 丘の上の本屋さん(2021 クラウディオクラウディオ・ロッシ・マッシミ) 75点

    本好きの人のための、人が大好きな人のための、真実を探してやまない人のための、いつまでも自分探しの没頭している人のための、愛すべき映画だと思います。あまりにフラットに描き過ぎているので、映画的盛り上がりにはいまいちだが、敢えてそうすることによって誰をもこの映画に参加できるよう、この映画の本質をつかみ取れるようににしている気もします。たまにはこんな素朴な映画もあっていいですなあ、、。いい時間帯でした。丘の上の本屋さん(2021クラウディオクラウディオ・ロッシ・マッシミ)75点

  • 哀れなるものたち (2023/英)(ヨルゴス・ランティモス) 90点

    もう冒頭から食い入るように見てしまった。それは見てはいけないものを見るようなどこか邪悪の漂う内容だが、立派に一つの骨太の女性映画といっていいほどの力量を持つ、あるいは古書から大哲学に導き出されるようなトンデモナイ秀作でした。まだ、余韻に浸っております。早いけれど今年のベスト1ではないか!哀れなるものたち(2023/英)(ヨルゴス・ランティモス)90点

  • クローズドサスペンスヘブン (2023 新潮文庫)(五条 紀夫 著) 80点

    設定がこの世でないあの世の世界、というのがとてもユニーク。登場人物は6人。そして誰が犯人なのか、試行錯誤してゆく、、。ミステリーって、もうSFを超えて、何でもありだね。これは読まさせられます。面白いです。でも、本格ものではないから、読者に伏線も与えられず、当然真犯人の手がかりもないまま、勝手に謎ときをさせられた感もありますね。こういうところはアンフェアなんだろうけど、まあ面白ければ何でもありの今の時代だから、これは許しましょう。でもよくこんなことまで考えましたですね。クローズドサスペンスヘブン(2023新潮文庫)(五条紀夫著)80点

  • オマージュ (2021/韓国)(シン・スウォン) 80点

    検閲によって欠落したフィルムを追う映画人の日々に映画への熱いオマージュが感じられた。彼女は女であることから、そのフィルムの作者に自分を同一化する、、。こういう話って好きだなあ。少しミステリーっぽい手法も見せているし、何より人生って、ただ生活してゆくのが人生ではないはず。自分の何かをその人生に投影させるのが生きることなのではないか、とさえ思える。主人公の映画へのオマージュが、自分自身の生活、家族へと混濁してゆく中でも、それでもただ一つの「芯」を追いかけてゆくその心情はすがすがしく、立派だ。あまり派手さのない主人公役の女優だが、とてもうまい。いい俳優であります。オマージュ(2021/韓国)(シン・スウォン)80点

  • 化石少女と七つの冒険(麻耶雄嵩 著)(徳間書店 2023) 85点

    7つの短編集。とは言いながら、それぞれ殺人事件が起こるが、ちゃんと解決しないまま、もう忘れ去られたように次の章に向かう設定。高校生たちが繰り広げられる展開で、いかにも大人のヤングたちで、年齢だけは超大人の吾輩も驚く始末。みんな大人だね。いや、そんなことを言いたいわけではない。何かいつものミステリーとは違うなあと感じつつ、最後の7章へ。ここで、度肝を抜かれるというか、え、こんなのあり、みたいな終わりで、7章をゆっくりと再読する。うーん、これはすごいわ。題名、本の表紙イラストからは考えられない本格(でもないか?)ミステリーの秀作、ここに極まり。麻耶雄嵩氏はとことんミステリーを追いかけておられます。化石少女と七つの冒険(麻耶雄嵩著)(徳間書店2023)85点

  • ちぎれた鎖と光の切れ端(荒木あかね 著) ( 講談社 2023) 75点

    460Pもの長丁場。孤島の連続殺人。そして二人きりになった後、、。250P迄読み進むと、食っていくページ数が気になり、あれ、あと200Pも残して、後どうするんだろうと思いきや、急に第一部が終わり、第二部へ。がらりと雰囲気が変わり、珍しきや、清掃人の生活が描かれる。これは面白かった。そしてまたもや、第一発見者が殺されるというこの小説の歌いどころに読者をいざなってゆく、、。結局460Pものページを繰ることになったが、この小説は本格ミステリーとは言えないのではないか、なんて思い始めてきたり、後半の兄、妹の設定が、いかにも作りすぎてる。においます。全然解決片は意外でもなんでもなく、ばったり終わる。まあ、前半はミステリー的に読ませたり、後半は、少し妹の心情が嬉しく、読み進めたが、終わったら、460Pも読ませたられた...ちぎれた鎖と光の切れ端(荒木あかね著)(講談社2023)75点

  • 君たちはどう生きるか (2023/日)(宮崎駿) 80点

    この題名のせいで、しばらく見る気がしなかった作品です。どう生きるかなんて、道徳的です。、、でも、見ている間は、普通に宮崎映画です。導入部なんてさすがだと思います。人物の風貌、色、動き、描写力、やはりジブリだと思います。安心感が漂います。相変わらずわくわくもします。7人の老女、不気味なイキモノの描写が体を這うようになると、ああ、、。悪くはないけど、みんなが言ってるような集大成映画ではないと思います。まだまだ粗く、むしろ習作っぽく感じました。そこそこ楽しませていただいたのは事実ですが。これなら、この前見た新海の「すずめの戸締り」の方がずっとスケールが大きい。ラストがあまりにあっけらかんとして、この話をすべて「夢の中」としてしまう観客もいるのではないか、、。とは言いながら、それなりに楽しんだのも事実ですが、、。...君たちはどう生きるか(2023/日)(宮崎駿)80点

  • 真紅「おしてるや ~君を想ふ~」(作・阿部遼子 演出・諏訪誠) at ZAZA 80点

    珍しや近世になる直前、豊臣氏の滅亡後の大坂のエネルギッシュな人々を描いた痛快および人情芝居です。登場人物が多く、しかもそれぞれ性格付けがきっちりしているのでわかりやすい。ど~~ンと、舞台の目の前に堀があり、それが最後まで隠したキーワードになります。俳優陣は老いも若きもみんなセリフもトチリがなく、練習十分。狭い舞台だが、全員飛び跳ねている。観客へのサービス絶大の演劇集団と見た。素晴らしい!真紅「おしてるや~君を想ふ~」(作・阿部遼子演出・諏訪誠)atZAZA80点

  • 「ヤスキチ・ムラカミ – 遠いレンズを通して」(作・金森マユ 演出・山口浩章) at仲野進化芸術センター 75点

    明治時代にオーストラリアに移住し、写真家、企業家として成功したムラカミが、太平洋戦争勃発により敵国民として収容所入りし、亡くなる。劇はそのかれの空白を埋めるかのように、彼が取り続けた写真を集め、彼の思い、夢を蘇らせてゆく、、。3人劇ですが、実に落ち着いた淡々とした描写でした。劇的な高揚を敢えて避け彼の生涯を淡々と描いてゆくそれはドキュメンタリー手法といえる。通常の演劇とは少々味わいが違うが、この作品の良さを十分生かしている。戦争の残酷さと彼の生きる思いを残像に残し、劇は終わる。いい時間でした。「ヤスキチ・ムラカミ–遠いレンズを通して」(作・金森マユ演出・山口浩章)at仲野進化芸術センター75点

  • 真夜中法律事務所(五十嵐 律人 著)(2023 講談社) 85点

    これはスゴイ、、。こんなの初めて読んだ。真相は言えないけれど、吾輩もミステリーは何十年読んでるけど、またこのような空想的なトリッキー殺人はかなり読まされておるけれど、幽霊の存在をここまで真相にくっきりとはめ込んだというのは、ス、すごいです。五十嵐は天才か?いや神か?普通の人間ならこういうトリックを考えることができようか、、。感想になってないですね。とにかく度肝を抜かれました。真夜中法律事務所(五十嵐律人著)(2023講談社)85点

  • しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人(早坂 吝 著)(2023 光文社) 80点

    冒頭の殺人光景が残虐で、この作家の精神までも疑ってしまったほど、強烈だった。そしてそれから不思議な迷宮殺人事件勃発となったのだが、、。うーん、そんな解決編だったのね。どこかで読んだ気もするが、でもやはり新鮮ではありまする。引っかかってしまったのは事実だし、この際きちんと騙されましたと白状しよう。でも、あのわけの分からない左右識別障害って、なんだ?ほとんど知られていないこの病気をこのミステリーのトリックに使うなんて、ちょっと性格悪くない?と思うのだが、、、。負け惜しみではございません。しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人(早坂吝著)(2023光文社)80点

  • 近大演劇創作演習公園「柔らかく揺れる」(作・福名理穂・ 演出・土橋淳志) at大学構内D館 80点

    広い舞台。そこらの小劇場よりは随分と立派な舞台。。演劇を勉強している学生にはとてもいい環境だなあと思う。ところで、劇の方。どこの方言かなあと思ったら、広島だろうなあと分かる。ある家族中心の話なのだが、登場人物はみなエキセントリックな感じ。見た目は普通でも話すこと感じていること、佇まいはどこか変わってる。家の家長が水死したのは昨年。その一周忌にやってくる人々。異様な雰囲気。近くを流れる川はまるで彼らの妄想の集合体のようでもある。この世とあの世をつないでいる、又は分断している川であるかのように、、。俳優陣はとても的確でまったくとちりのない完ぺきな演技。演出もあの土橋だからこれも完璧を目指しているかのよう。演劇的には欠点がないのです。でも、何か設定が人工的過ぎるような気がしないでもない。話はラストまでそれほど救...近大演劇創作演習公園「柔らかく揺れる」(作・福名理穂・演出・土橋淳志)at大学構内D館80点

  • 愛する人に伝える言葉 (2021/仏=ベルギー)(エマニュエル・ベルコ) 80点

    末期がんにおかされた一人の男の残された人生。それはすなわち我々自身のこととして映画と共に向きあう熾烈な時間でもあった、、。ストレートに残された時間を見つめ、病室から見える窓にくっきり浮かぶ美しい雲と空。それは死後に自分を見つめる天上からとして見て取ることも可能だ。その同じ空を20年近く会っていない見捨てられたという息子も見ていた。誰もが訪れる死というものをじっくり描いていることに好感が持てた。存在するという意味を主人公が理解したという言葉に人間の重みを感じ取る。フランス映画らしい暖かく鋭い秀作です。愛する人に伝える言葉(2021/仏=ベルギー)(エマニュエル・ベルコ)80点

  • 2023年 映画ベストテン

    2023年。映画本数76本。何かあまり見ていない感じがする。本当はベストテンをする資格がない気もするがあえて、、。1位のロウ・イエはとにかく映像の大胆さ、シャープさに目を見張る。日本映画は本数少なく、三浦大輔が浮上。洋画①「シャドウプレイ(完全版)」(ロウ・イエ)②イニシェリン島の精霊(マーティン・マクドナー)③「PERFECTDAYS」(ヴィム・ヴェンダース)④「ポトフ美食家と料理人」(トラン・アン・ユン)⑤「枯葉」(アリ・カウリスマキ)⑥「火祭り」(アスガー・ファルハディ)⑦美しい都市(アスガー・ファルハディ)⑧「砂塵にさまよう}(アスガー・ファルハディ)⑨「かもめ」(マイケル・メイヤー)⑩異端の島(ヴァーツラフ・マルホウル)日本映画①「そして僕は途方に暮れる」(三浦大輔)②正欲(岸善幸)③「怪物」(...2023年映画ベストテン

  • 銀平町シネマブルース (2022/日)(城定秀夫) 80点

    何気なく見た映画だったが、出だしから映画愛に包まれ、とてもいい展開へ。こんな映画は好きだなあ。最後までじっくり見る。久々の小出がいい。彼もいろいろあったから、この役どころは自分自身100%発揮できたのではないか。映画に戻ってきてよかったなあと思う。さすが、いい演技をしてくれている。重要どころ、吹越もいいね。もちろん宇野も素晴らしい。亡くなった渡辺裕之も出てるなあ。彼もいい演技してる。その他、劇場の女性たちも光ってたなあ。まさに城定ファミリーだ。しばらく余韻が残る素晴らしい映画でした。映画好きにはたまらん。銀平町シネマブルース(2022/日)(城定秀夫)80点

  • 法廷遊戯 (2023/日)(深川栄洋) 75点

    原作は読んだ。かなりユニークな発想、展開で本格ミステリーをお好きな方にはとてもお勧めできる小説でした。映画は、やはりそれらをもとに詰め込んだ感じがしましたが、、。分かりやすい実際の殺人事件を紐解く展開に、ちょっと原作からは違うかなといった感じもしたが、それでもなかなか面白いミステリー映画にはでき得たと思います。実際は証拠申請であのSDカードが認められるかとは思えないけれど、ここがミソだからね、あの展開は仕方がない。随分と多彩な俳優陣が出演し、その割にはみんなそれほど印象はないけど、やはり3人の主演に焦点を置いたからでしょうね、で、その3人ですが、杉咲は怪演だけど少々やりすぎのきらいがしました。ほかのふたりも抑えたいい演技。でも、通常にミステリー映画にすれば上出来の映画だと思います。決してアイドル映画ではな...法廷遊戯(2023/日)(深川栄洋)75点

  • マネーボーイズ (2021/オーストリア=仏=台湾=ベルギー)(C.B. / Yi) 80点

    中国映画なんだけど、内容的に外国資本で制作された映画なのだろうなかなか切ないいい映画でした。中国の農村地域の相変わらずの因習めいたもの、家族関係もよく出ている。出会いからそれぞれ環境が変わってもぐちゃぐちゃの愛の火が消えないのは、これは男と女の話だと思えば、随分古く昔から語られた物語ではある。でもこの映画には雰囲気があるので、十分見られますね。いい映画でした。マネーボーイズ(2021/オーストリア=仏=台湾=ベルギー)(C.B./Yi)80点

  • 鮮やかなる映画作家たち(カウリスマキ、ユン、ヴェンダース)

    年末にかけて3本の映画を見る。まずカウリスマキ。僕の大好きな映画作家だ。映画作りをやめたと聞いていたから、また活動し始めたと聞いてとても喜ぶ。「枯葉」。フィンランドの市井の人々。蓄えがあるわけでもなく、仕事も最下層といえる重労働の毎日。男も女も分け隔てない。狭い小さな部屋でラジオを聴く女。いつも聞こえるのはウクライナへのロシア侵攻。チャンネルを変えると音楽が言語は不明だが、日本の懐かしい曲が流れる。貧乏だが、なけなしの金で友人と行くカラオケバー。そこで女は男と出会う。二人がただ見つめるだけ、、。二人の最初のデートはゾンビ映画。楽しんだ後、二人は次回の出会いを約束する。だが男はそのメモ書きをなくす、、。もうなにも書く必要はない。カウリスマキの世界がそこにあふれている。レトロな音楽がずっと流れている。ささやか...鮮やかなる映画作家たち(カウリスマキ、ユン、ヴェンダース)

  • その日のまえに (文春文庫) (2008 重松清) 90点

    重松の作品は久しぶり。この作品はずっと気になっていたけど、何故か読まないでいた。そして今年もいろいろあった暮れにじっくりこの作品を読む。短編集で、それぞれがいずれもどこかでつながっている。底流に流れているのは人は死んでいくということだ。これは私たち人間から、いや動物、生きとし生けるものすべてから逃げることのできない設問である。あまり本を読んで泣かない私だが、この本はじんわり泣いた。人が死んでいくこと。そのことの答えは「考えることだ」と重松は言う。考えることが、その日に死ぬことと、あと、残されたものが生きてゆくことの答えになるという。若い時からずっと、生きることと死ぬことを考えつづけてきた私にとって、この本を読んだときに、今までの文学書だの、哲学書だの、ましてや最近読み続けている宇宙関係の物理学の本さえ、単...その日のまえに(文春文庫)(2008重松清)90点

  • ぼくの歌が聴こえたら (2021/韓国)(ヤン・ジョンウン) 75点

    出だしからいい音楽がかかる。そうだこの映画は音楽映画なんだ。でもいい人間ばかり出てくる。人間が殻を抜け出すのにどれだけ人の助けと愛が必要なのか、というテーマが全編に音楽とともに流れている。一人で見るには最適の映画。心が洗われる。ぼくの歌が聴こえたら(2021/韓国)(ヤン・ジョンウン)75点

  • 覇王樹座「天邪鬼」(脚本・中屋敷法仁 演出・横山イッタ) at芸術創造館 85点

    年末になるにつれて秀作を見続けるこの気持ちはどんなものか。今日も学生演劇だと高を括っていれば、とんでもない優れものに出会う。昨日も阪大の学生演劇に大いに感心したところである。この演劇、かなり難しく、まともにセリフを聞いていても何が何だかわからない。おそらく作者の脳裏の想念がそのまま舞台に飛び出したような、ある意味厄介な演劇なのだが、これがまた若い俳優たちにやらせれば、とんでもなく面白くなる見本ではないか、と思う。2時間弱の劇でセリフ量も多い。俳優たちは1回のとちりもなく、しかも水を得た魚のようにすいすいとこの難しい観念劇を泳いでいる。この若さでこの劇が理解できるというのも大した才能を持っていると言えるだろう。いやあ、面白かった。おそらく僕には2回見ても決して理解できないだろう難解劇なので、その舞台の雰囲気...覇王樹座「天邪鬼」(脚本・中屋敷法仁演出・横山イッタ)at芸術創造館85点

  • ちゃうかちゃわん「某人間」(作・唯端楽生 演出・近未来ミイラ) at 阪大学生会館 80点

    10人以上出演する楽しい演劇です。ちょっとfantasyで、みずみずしい感覚が素敵だ。いつも気になる学生間の年齢差もこの劇ではそれほど気にならず、劇に没頭できる。結局人間たちの白昼夢だったんだろうけど、でもこういう劇は終わってからの読後感がすこぶるよろしい。若い人たちの自由な演劇を見るのはとても楽しく、これは学生演劇の醍醐味だろうと思う。ちゃうかちゃわん「某人間」(作・唯端楽生演出・近未来ミイラ)at阪大学生会館80点

  • 六風館「人の気も知らないで」(作・横山拓也 演出・古井栞音) at懐徳堂 85点

    50分の短い劇だが、3人の女優がしゃべるセリフの早いこと、合い間もないぐらい機関銃のように喋りまくる50分であります。これは通常の劇の90分を畳み込むような劇の作りであります。なんといってもこれは脚本の力かなあ。すごいわ。もうそれに尽きる。それとこれを書いたのが男性だということ。どうやって女性の心理を深く、また散漫に膨れ上げさせたのだろう。女優たちは、一寸の余裕もなくとにかくしゃべり続ける。そこに彼女たちのある女性への思いが見つかってくる、、。秀作。超秀作だ。六風館「人の気も知らないで」(作・横山拓也演出・古井栞音)at懐徳堂85点

  • VORTEX ヴォルテックス (2023/仏)(ギャスパー・ノエ) 80点

    「カルネ」「アレックス」など数々のセンセーショナルな映画作りで話題性十分なノエの新作だ。今回はところが意外とおとなしい、、。目立つのは言うまでもない延々と続く2画面分割。そのうち慣れるが最初はそのテリトリーをじっと深く見てしまう。老夫妻、特に妻の認知症は急激に進み、そのやりきれなさ、おぞましさは観客をも道連れにする。ノエは60歳ぐらいだから、まだまだ傍観者の視点を保つことができているようだ。だからこそ、実に老残の混濁模様がクリアに描かれている。息子もその妻も現代病クスリに侵されている。そのうちこの老夫も心臓病を病んでいることがわかる。そして、、。救いは妻が薬を廃棄し、そして人間でなくなる前に自ら命を絶つところぐらいでしょうか。これがこの映画の唯一の灯だとすれば、やはりいつものノエ作品のおぞましさは十分発揮...VORTEXヴォルテックス(2023/仏)(ギャスパー・ノエ)80点

  • 劇団万絵巻「鴉翼」(作・演出 ジキル) at 芸術創造館 85点

    大学演劇でも阪大の演劇部と並ぶ勢いの万絵巻。今回は2時間半の超歴史ロマン劇を熱演してくれた。登場人物が多彩でそれぞれ主役級の性格付けをされているので、観客はどのシーンを見ても見飽きない。それはおそらく俳優陣も演じることへの追及、発表感にも表れるはずで、途中とちることもほとんどなく、流れはラストへと感動を誘う。同じ人間でありながら、差異を生じることへの根本的な問いが究極的に底流を流れている。これは今、中東で勃発しているある戦争にも同じことが言えるだろう。この演劇はそこまで幅広に人間を見つめているので、実に大きなスケールを持つこととなった。学生演劇で、脚本まで自ら作っている演劇集団で、これほどの深みを持たせるのは実に稀有である。何回も演舞される殺陣も女性であることもいとわぬ頑張りようで、見事だと感服する。実に...劇団万絵巻「鴉翼」(作・演出ジキル)at芸術創造館85点

  • 劇団1mg「 Much UP」(作・演出 伊達百式改) 於 in→dependent 2nd 80点

    1mgにしては珍しく、いたってシンプルな、また身の丈十分な青春の輝き十分な、みんなが一つの方向を見つめているその時を切り取り、人生を感じ始める素晴らしいひと時を舞台に輝かせてくれた。それぞれ人生を経ても、いつでも人間はその輝ける時に戻る時ができる。いい演劇だったなあ、、。劇団1mg「MuchUP」(作・演出伊達百式改)於in→dependent2nd80点

  • ゴジラ-1.0 (2023/日)(山崎貴) 70点

    膨大な数のエキストラの表情が日本映画ではどうもリアルが感じられず、嘘っぽいのが難点。とはいえ、これはどうしようもないことなのかもしれない、、。まあ、古臭い美談を基調に純愛ものしているが、それでもやはりあの展開は分かっていてもうれしい。でもラスト、感動のご対面シーンで、あの女の子は父親な顔を見ていて、母親を見ていなかったなあ。せめて3人で抱き合ってほしかった。とはいえ、ゴジラが神出鬼没輩出してくれるので、あの音楽とともに心は高揚する。でも、今回はビキニ島の放射能が原因で生成されたものではなく、それ以前にゴジラは出現していたんですね。うーん、これは何を意味する?ゴジラ-1.0(2023/日)(山崎貴)70点

  • 焔【ほむら】と雪 京都探偵物語 (伊吹 亜門 著) (早川書房 2023) 85点

    いかにミステリーを読んでいる吾輩でも、この4編目の「いとしい人へ」には強烈に驚かされた。伊吹にしては、この1~3編目まで少々甘いかなあと思っていたのだ。それが、4年目の途中で、また1編の最初から読み始める羽目になってしまった。これは僕の長いミステリー人生においても初めてのこと。すごいからくり、どんでん返しにかなり懊悩する。いや、嬉しい。面白すぎる。でも、読んでいるのは、ラストの編ではないんだよねえ、、。不思議だ、と思いながら、5編に進む。うーん、なんと、これは純粋無垢恋愛小説ではないか!これこそ本格ミステリーであることよ。焔【ほむら】と雪京都探偵物語(伊吹亜門著)(早川書房2023)85点

  • 青年団「馬留徳三郎の一日」(作・髙山さなえ 演出・平田オリザ) at ピッコロシアター 80点

    老いを見つめるある村の一日の出来事。そこには老人目当ての詐欺師が訪れたり、平和に見えるのんびりした日々にもほころびが見え隠れしている。静の生活にも老いとともに認知症の病気もはびこってくる。彼らの生活。いやあ、日本人の老後の縮図でもあります。でも、通常それを醜悪とか嫌悪感とか感じる流れなのだが、この演劇不思議とそんな空気感が生まれず、むしろ彼らの世界が透明感まで感じるほど美しい。これは何だろう。現実とはまるで違う。演劇ならではの理想郷でもある。素晴らしい演劇でした。青年団「馬留徳三郎の一日」(作・髙山さなえ演出・平田オリザ)atピッコロシアター80点

  • ももちの世界#9「皇帝X」(作・演出 ピンク地底人3号) at in→dependent 2nd 80点

    ユニークで才気煥発、関西でも常に注目を集める劇団の新作です。今回はなんと日本の戦後政治史を辿る一応コメディです。一応というのは、あまり笑いが取れなかったからなんですが、でもこの現在の政治状況までを俯瞰し、思い切りひねくれさせ、かなり現実を揶揄させた描き様はやはりシリアスとは言えず、コメディなんでしょうな。その吹っ切れた感覚が全編を多い、いかにも面白い。映画もかなりお好きなんでしょうか、その造詣ぶりにも好感が持てます。まあ、あのラストはかなり吹っ切れすぎて、ちょっと唖然ともしますが、打っちゃりといった感じでしょうか、でもとても2時間強、楽しめましたよ。いかにもいつも何かをテーゼして見せてくれる演劇です。ももちの世界#9「皇帝X」(作・演出ピンク地底人3号)atin→dependent2nd80点

  • 父は憶えている (2022/キルギス=オランダ=日=仏)(2022 アクタン・アリム・クバト) 80点

    めずらしいキルギス映画。イスラムの国でありながら、離婚についても女性の地位がある程度認められている国。シンプルなテーマであるからこそ我々の胸にも動揺が走る。このテーマ、23年ぶりに帰還した夫の家族はすでに妻が再婚し家を出て、帰った夫は国の乱れである象徴のゴミ拾いに没頭する。そして村社会でもそれが徐々に波紋を上げていくことになる。昔イタリアの名匠デ・シーカに「ひまわり」という佳作があった。戦争で帰ってこない夫を探しにロシアに出向いた妻はそこに新たな家族を設けている夫の姿を見かける。または、古くは日本でも、終戦後復員した夫の妻が弟の妻になっているとか、長時間の失踪に伴うこういう事件は特に目新しくはない。けれど、この映画はそれにとどまらず、23年間の空白をその当人の家族だけでなく、政治状況、環境問題にまで言及し...父は憶えている(2022/キルギス=オランダ=日=仏)(2022アクタン・アリム・クバト)80点

  • 片羽蝶「50は(未完)」(作・村上G氏、西島輝 演出・西島輝) at ウイングフィールド 80点

    久しぶりのウイングフィールド。毎週来てた時もあったほど、あの時はよく見てたなあ。あのコロナの影響で足が遠のいたけど、やはりいい劇場だ。手作りの演劇がどんな形にも応用し、料理できる。今回も、舞台を観客エリアまで広げ、俳優が何回も通路を通る面白い試みをしている。さて、俳優はまるで大学生と思えるようなヤングたち。でもセリフはしっかり言えてるし、発声も豊か。いい劇団である。話は少々難解そうな仕組みを取っているので、入りづらい所もあるが、そのうちこれは演劇の「8・1/2」(フェリーニの永遠の名作映画)であることに気づく。(作者が気付いているかどうかは別として)すなわち創作に関する演劇論である。フィクションを生み出すエネルギー、創作することの苦しみ、喜び、そのようなものを若者の映画創作を通して、描いているのだろうと私...片羽蝶「50は(未完)」(作・村上G氏、西島輝演出・西島輝)atウイングフィールド80点

  • あなたには、殺せません(石持 浅海 著) (東京創元社 2023) 85点

    石持の新作。彼の作品は誰も持ってないユニークさとスマートさが売り。それが存分に発揮された作品であります。5編の短編集です。それぞれは設定が違い、ラストもそれぞれ違ってくる。よく考えている。ミステリーとしてもとてもまとまっており、しかも読みやすい。250ページの短さなので、あっという間に読んでしまう。それはもったいないぐらいです。ずっと石持を呼んでいるが、ますます孤高の位置にたどり着こうとしている。頼もしい限りだ。あなたには、殺せません(石持浅海著)(東京創元社2023)85点

  • 最強の一人芝居フェスティバル「INDEPENDENT:23」 at in→dependent theatre 2nd 80点

    1年に一度、いつも11月に行われる一人芝居フェス。4組、3組、4組の3回に分かれて総時間5時間半の演劇だ。もう今年は体力的に無理かなあと思いつつ、気持ちを振り絞り観劇した。11組もあれば、自分に合わないものも当然出てくる。でも、みんな一所懸命。そんな甘えは許されない。30分の彼らの主張を無視はできぬ。俳優勢としては女性が多かったが、比較するわけではないが、やはり男性の発声の確かさ、余裕、テーマの極め方、かなり楽しめた。30分の演劇だけど、それぞれ彼らの人生の歩み、諦観、愛おしみが十分出ていたように思う。これだから演劇はやめられない。いいものをもらったなあ、、。最強の一人芝居フェスティバル「INDEPENDENT:23」atin→dependenttheatre2nd80点

  • 近畿大学芸術専攻34期「罪と罰」(作・演出 島守辰明)at D館3階ホール 80点

    言わずと知れたドストエフスキーの名作。今年はこの作品2本目。春頃見た突撃金魚のそれはまあすごい物でした。登場人物の掘り下げが深く、人間の陰影が色濃く描かれていました。それに比べると、といったら失礼ですが、かなりドストエフスキーをスマートに凝縮した感があります。俳優の年齢がみんなほぼ一緒なので、例えば親子関係などは少々白々しい。でも、2時間半鳴り響く音楽の洗練されたそよぎ。大道具へのこだわりの面白さ。それでもやはりドストエフスキーでした。演劇って面白いね。拍手を送りたい。近畿大学芸術専攻34期「罪と罰」(作・演出島守辰明)atD館3階ホール80点

  • 空気殺人 TOXIC (2022/韓国)(チョ・ヨンサン) 75点

    題名からは全く異質な、社会的医療を指摘した問題作です。ただの提示映画かなと思っていたら、裁判に至るまで、裁判経過、審判と分かりやすくエンタメ風なので見やすい。しかも、大きなひねりが終盤に2回も控えており、さすが韓国映画だなあと感心する。なかなか楽しめました。この事件で2万人も死者が出たと言ってるが、まったく我々が知らないのは不思議です。空気殺人TOXIC(2022/韓国)(チョ・ヨンサン)75点

  • 殺戮の狂詩曲(中山 七里 著)(2023 講談社) 80点

    実際に起こった惨劇からヒントを得た作品ですね。上流国民が多く入っているとされるホームでの9人もの殺戮。39条以外で無罪にできるかなど、読者をワクワクさせる内容でした。構成からは、肝心の裁判まで非常に多くのページ数を重ね、ふといつものミステリーではないなあと思いつつ、被害者遺族を訪ね歩くその証言にこそ真実を突き詰めていく過程は実に迫力がありました。これほど多作な中山氏の著書ですが、質が落ちないのは立派です。ミステリーとしても面白かったです。殺戮の狂詩曲(中山七里著)(2023講談社)80点

  • 地図のない町 (1960/日) (中平康) 70点

    意外とこの時期の日活は思想的に硬派の映画作品ですネ。冒頭とラストで市井の人間・基本説を唱える。まるで「生きる」の日活バージョンだ。取り巻きの俳優陣は最初のクレジットでも5人ほどの羅列でも著名人が多く、もうそれだけでわくわくさせる。葉山良二の主演作品は初めて見たように思うが、彼なりに頑張っている。でもその他の俳優がものすごくきらきら光っているので、幾分損したかなあ。吉行和子はこんな演技っぷりだったんだ、とほくそ笑む。とにかく、今は亡き俳優たちを見るだけで、また古き日本の町風景を見るだけでもゾクゾクとした思いで見てしまう。地図のない町(1960/日)(中平康)70点

  • 正欲 (2023/日)(岸善幸) 85点

    評判作という触れ込みで映画館に行く。なるほど、表現は普遍的そして誰にでもわかりやすい手法を採っている。5人ほどの群像劇をラストで一気に収束させている。好感が持てます。主題はマイノリティーの存在そのものである。大部分の生きている人は明日には自分が消えたいなどいうことは決して思わないだろう。でも、マイノリティとしてそういう人間は確かにいる。存在的に虚無だから、自死もできない。本当につらい毎日を生きているんだろうなあと思う。大部分の観客は彼らを理解するのにやはり映画時間の半分近くは要するだろう。館内から席を立とうと思った人も何人かいるだろう。それは本人がマジョリティだと認識しているからなのかどうかわからないが、とにかく楽しい映画ではない。館内では躊躇する自分もいる。けれど、新垣と磯村が同居しだしてから、この映画...正欲(2023/日)(岸善幸)85点

  • 食われる家族 (2021/韓国)(ソン・ウォンピョン) 70点

    25年ぶりに帰ってきた妹。果たして本当の妹なのかどうか、、。それから家族に起こる様々な異様。韓国お得意のホラーです。B級だから細かいところは練っておりません。でも最後まで見せてくれるのが、韓国ホラーの伝統かな。そこそこです。食われる家族(2021/韓国)(ソン・ウォンピョン)70点

  • メグレと若い女の死 (2022/仏)(パトリス・ルコント) 80点

    ルコントのお出まし。シムノン原作なので、雰囲気のあるミステリーのはず。そして映画はやはりそういう方向へとなびいていく。ミステリーとしてかなり面白い趣向の作品であることは間違いない。ところがこの作品、やはりルコント映画だ。ミステリーの仕掛けなんかを完全に無視し、メグレ警視(ドパルデュー実に好演)の私生活をある殺人と混濁させ、娘の若き死を眺める。映像に浮かぶはメグレの心に投影する死と生の残滓のみ。なぜ事故を殺人に見せかけようとしたのかなど、ミステリーの根幹を完全無視。違和感はあるものの、でもそれがルコント映画であることを観客は気づいている。ラストの小さな映画館での収束映像はルコントの今の心象風景なのであろう、ドパルデューという俳優の大きさまで考えさせられるシーンとなっている。だからやはりルコントは面白い。メグレと若い女の死(2022/仏)(パトリス・ルコント)80点

  • Dr.コトー診療所 (2022/日)(中江功) 70点

    良くも悪くも現代エンタメ映画の模範映画でもあるが、主題はそこそこみんなの共有とするところ。オールスターがいいね。俳優の年輪を見られて、そこが一番かな。若い観客は誰を知っているのだろう、、。Dr.コトー診療所(2022/日)(中江功)70点

  • そして僕は途方に暮れる (2022/日)(三浦大輔) 85点

    よくできた映画です。一番いいところは誰にでもこの映画を見て自分に思い当たる部分が少なからずあるということではないでしょうか。いつも逃げてる人間たち。逃げてない人間なんていない。逃げるのはでもエネルギーも伴う。その場で終わりというわけにもいかない。逃げてもどこか責任の落ちこぼれを残す。この映画、30前ぐらいの若者が主人公だが、吾輩のような老人にさえ、主人公の等身大の描き方がそうさせるのか、随分と考えさせられることが多かった。三浦の策略にはまってしまった感もある。「こんな最低の人間、自分には片鱗もないから、つまらないと思い、ずっと見ていたよ」、といえるほどの強い人間になりたい、とそう思う、、。そして僕は途方に暮れる(2022/日)(三浦大輔)85点

  • エイチエムピー・シアターカンパニー「ハムレット 例外と禁忌」(作・くるみざわしん 演出・笠井友仁) at 扇町ミュージアムキューブ 85点

    3時間半、休憩2回。というように随分と俳優、観客に配慮した時間設定。おなじみハムレットとはいえ、後半部分には随分と作家魂が込められている。シェイクスピアの死生観がくるみざわと合体して、何やら不思議、死を超え、世界平和まで行きたつという大胆な演出光景に、演劇の見ごたえを十分感じる。俳優陣が宝塚ごとき全員女性なんだが、そのうち違和感すら感じなくなるほど、すごい練習量なんだろうなあ、それは純粋な人間劇を損なうものではない。ラストで感激し涙が流れる。素晴らしいの一言、感動の嵐!エイチエムピー・シアターカンパニー「ハムレット例外と禁忌」(作・くるみざわしん演出・笠井友仁)at扇町ミュージアムキューブ85点

  • スピリットウォーカー (2021/韓国)(ユン・ジェグン) 70点

    韓国映画って発想にユニークなものが多く、今回は12時間ごとに違う人間に代わるという主人公が登場、しかも記憶喪失状態で、、というように出だしから面白く好調。謎がだんだん解けてくると、そのうち冗漫になってくるのはこの種のアクション映画では仕方のないところか。でもまあ最後まで見せてくれました。韓国映画のあくなき映画への追及観に拍手。スピリットウォーカー(2021/韓国)(ユン・ジェグン)70点

  • マザーレス・ブルックリン (2019/米)(エドワード・ノートン) 70点

    監督・脚本・主演・制作とノートンががぜん頑張った作品です。ひょっとして初監督作品かなあ。突然寄声を上げる病気を持った私立探偵役どころをなかなか魅力的に好演している。冒頭に出てくるブルース・ウイルスがとてもかっこよく、この映画はストーリーもウイルスの残像に酔わせられる映画でもあるのだが、ジャズに漂いながらニューヨークのハーレムを舞台に真相を求めていくストーリーは実に面白い。A・ボールドウインとかW・デフォーとか大物も出ているが、普通の演技。でも、この映画、ここまでノートン頑張って、何を言いたかったのかなあ、、。テーマ性が少々不明瞭でしょうかねえ。ただの娯楽映画とも思えないし。マザーレス・ブルックリン(2019/米)(エドワード・ノートン)70点

  • ルーム・フォー・レント (2019/米) 65点

    ホラー映画というか、ちょっと気味の悪い、趣味の悪い映画人が作っている感がある。途中、見づらくて下を見てしまうシーンも多々あれど、これはこういうホラー映画では常道なのだろう、主人公に引き込まれる演出・演技はやはり大したものだ。ルーム・フォー・レント(2019/米)65点

  • 虚空旅団「四T ~桜梅桃李~」(作・演出 高橋恵) at芸術創造館 90点

    いつも思うが、高橋恵さんの演劇で今までつまらないと思ったことが一度もない。それどころか、いつも演劇の深部に触れた感を持ち、また演劇に通うことになるのだ。今回は、その中でも完成度の高い演劇をこれぞと見せつけてくれた。2時間の劇だが、冒頭から俳優陣が役を100%理解できているかのように、はまっている。自信がみなぎっているからなのだろう。それが観客席に伝わっている。4人の女流俳人のそれぞれの人生、それを俳句に託し、彼女たちの生きざまを投影させている。彼女たちの俳句を映像で見せてくれたのがとてもよかった。瞬時に文学観賞をした感じになって、いつもと違う演劇感が出てくる。途中では、下働きに扮する女中たちの本音の話も、とても楽しく、笑いあり、泣きもある人生賛歌ととなった。今年最大の収穫作だ。今のところ2023年の演劇ベ...虚空旅団「四T~桜梅桃李~」(作・演出高橋恵)at芸術創造館90点

  • 劇団伽羅俱梨「あっぱれ!コトブキ写真館」(作・演出 徳田ナオミ) at KARAKURIスタジオ 85点

    いつ見ても心の涙腺にぞぞぞっと触れる演劇集団。今回、特によかったデス!冒頭、初老の男が旧写真館に入る。出演者が、一人ずつ暖かく微笑みながら写真を壁に掛けたり、備品を動かして写真館を創造する。そのたたずまいだけでもう泣けてくる。これはいかんなあと、気を引き締めながら劇を見る。話は祖祖父、祖父、父親、息子の4代にわたって紡がれる家族史。家族といえば、やはり家族写真だろう。写真を撮ることの意味からこの劇は始まって行く、、。祖父が父親の古本を売って、それを現代人が古き良き時代の香りを知り、その写真館を訪ねるなど、いつもとは大幅に話も横に組み込まれ、また深みも出ている。この作品は徳田作品としても完成度も高く、ずっと見とれておりました。すごいです。大好きな俳優たち。また春に会おうぜ!劇団伽羅俱梨「あっぱれ!コトブキ写真館」(作・演出徳田ナオミ)atKARAKURIスタジオ85点

  • キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン (2023/米)(マーティン・スコセッシ) 80点

    スコセッシ&ディカプリオ&デ・ニーロという組み合わせで200分という長丁場だが、見に行かない映画ファンは皆無であろうと吾輩は思う。え、そうでもないって?200分確かに老体にはこたえる時間。しかし、今日は頑張ったのだ。というか、さすが手慣れたスコセッシの映像、編集、がっぷり四つの二人の演技を前に、時間はすぐ気にならなくなった。まるで、インディアン世界にはびこるマフィアのような地獄絵図。こういう歴史を齟齬して、あるいは淘汰してアメリカは生き延びていったんだなあと実感としてわかる展開にニンマリする。特にディカプリオの演技には、もうあの昔の面影はない。彼にとっても100点満点ではなかろうか。対してこれを受けるデ・ニーロも、ある意味受けの演技で十分こたえる。素晴らしいの一言。歴史を勉強するというよりも、二人の熱く且...キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン(2023/米)(マーティン・スコセッシ)80点

  • 下鴨車窓「旅行者」(作・演出 田辺剛)(at 扇町ミュージアムキューブ) 85点

    試演会という設定だが、ほとんど本番と変わらない出で立ちで、本格芝居の重量感、豊穣感を十分味わうことができた。エトランゼ、国を追われ、家族と離散する人々、その生の心情等をまるで阿部公房の戯曲がごとく紡いでゆくその演出はすごみさえ感じる。聞いてはいたがここまで完成度の高い作品とは、と驚きの一言である。悲しみの中にもその人々のふてぶてしさ、明るさまで感じ人間の大きさを知る。拾いものの秀作。下鴨車窓「旅行者」(作・演出田辺剛)(at扇町ミュージアムキューブ)85点

  • 嘘をつく男(1968 仏・伊・チェコ)(アラン・ロブ=グリエ) 75点

    映像映画ですね。耽美的で、夢とも現実ともつかぬカメラのフラッシュバックのような挿入は当時としてはとても斬新だっただろうと思われます。モノクロで、美人たちが潜む館のたたずまいは耽美的で恐ろしいほど美しい。ストーリーより、こういう方法で映画を語るというヌーヴォー・ロマン方式は映画史に輝く存在だ。一見の価値あり。嘘をつく男(1968仏・伊・チェコ)(アラン・ロブ=グリエ)75点

  • 可燃物(文藝春秋 2023)(米澤 穂信) 80点

    5編の短編もの。葛警部の推理の基づく群馬県刑事ものなのだが、すべてが鋭くとても面白い小説に仕上がっている。最初の山岳遭難事件はそんなこともあるかね、という感想だったが、2編目からは私の眼の色が変わるほど、最近のミステリーでもこれほどの秀逸なものは読んでおらず、感心するばかり。さすが米澤ミステリー、300ページ足らずの本ではあるが、あっと驚く仕掛けがすべてに用意してあり、ミステリーファンは狂喜するだろう、、。可燃物(文藝春秋2023)(米澤穂信)80点

  • 白鍵と黒鍵の間に (2023/日)(冨永昌敬) 70点

    池松がピアノレッスンかなり頑張ったと聞いていたので、行きゃなきゃと思い映画館へ。映画としては外国映画でよくある、俳優が玄人なみに演奏している光景とかは見られなかったが、それなりに雰囲気は出していた模様。けれど、この映画における魂というものがそれほど感じられず約30分程度で、少々退屈感を持つようになる。クリスタル・ケイが「客が私の歌を聴いてくれない」なんて言うボヤキはキャバレーの歌手なんてそんなの当たり前で、それが最初から最後まで変わらないものだから辟易する。大体、昭和末期の時代性は映像を通してよく出ていたように思う。けれど、どうもそれがストレートにこちらに伝わってこないのはなぜか。最後の最後は面白い挿話を用意してくれ、これだけが見ものではあるが、でもだからって、今までのすべてを覆すものにはなり切れない。仲...白鍵と黒鍵の間に(2023/日)(冨永昌敬)70点

  • 火祭り (2006/イラン)(アスガー・ファルハディ) 85点

    大人の、怖い映画ですね。結婚まじかで夢開く若い家政婦から見た現実の夫婦生活。男と女のやるせなさ、人生の真実を鋭く切り取った筆致は荒い。それらが爆発するのが、大みそかの車運転に危ない炎が燃え狂う街並み。タッチはキェシロフスキかと見まがうほど。ファルハディの独特の世界がほぼ完成す。映画の喜びをつくづく感ず。火祭り(2006/イラン)(アスガー・ファルハディ)85点

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