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セントの最新映画・小演劇120本 https://blog.goo.ne.jp/signnoot

映画館で新作をランダムに見ています。小演劇も好きですよ。

プロフィール 性別   男性 自己紹介 休みは大体映画館かその近くを闊歩しています。自然と繁華街というところを歩くことになります。心は大自然にあこがれながら、結局便利さに負けているような気もします。

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2010/01/07

  • あゆみ企画「螢の光」(作・角ひろみ 演出・高橋恵)at総合芸術館 85点

    何気ない日常が変質するその怖さたらものすごい衝撃。何でもない普通の夫婦がある日、妻が蒸発する。その日からありふれた日常が非日常に変わり、それはホラー感に迫ってくる。それを90分でしっかりまとめた力量感のある演出はさすが高橋恵氏。ずぶずぶと私の日常感さえ自信がなくなって来たぞ、のし。目の前に繰り広げられる非日常はいつか、夫の白昼夢のようにも思えてくるし、これはまさに不条理劇とも言えよう。とても面白いものを見た。演劇は見てみないとわからない、、。いい日である。あゆみ企画「螢の光」(作・角ひろみ演出・高橋恵)at総合芸術館85点

  • 青の帰り道 (2018/日)(藤井道人) 80点

    18歳から23歳に至る若者たちの青春群像。とはいえ、彼らは決して甘い人生をついばんではいなかった、、。現在の若者を鋭く見つめた作品です。それぞれの生きざまには苦悩以外の何物でもない人生模様がくっきりと陰影を与えている。なかには夢破れ、途上にして死を選ぶ若者もいる。その若者の死から彼らは苦しみ、もだえ、そして何かをつかんでゆく。そのためにゆうに5年を費やす。人生とは、を、若者のひたむきな視線から問った映画です。いやあ、若者のいたいけな声を確かに聴いたよ。7人の友人たち、この繋がりこそかれらの宝物だ。青の帰り道(2018/日)(藤井道人)80点

  • 劇団六風館「ある日、ぼくらは夢の中で出会う」(作・高橋いさお・演出・星美鈴)at阪大学生会館 75点

    ユニークな演劇だ。何気なく不条理だし、何となくおかしい。それでいて何だか悲しいし、変に楽しい。脚本がとても面白くできていて、観客はそれについていけないほど。何だか難しいかなと思い始めたら四阿後になって、超どんでん返し劇になりエンド。これはすごい。颯爽感さえある。ただ、六風館にしては、ちょっとセリフのゆとりがなく、珍しい。学生劇だと言わせない彼らの伝統があるからなあ、、。でもいい一日だった。劇団六風館「ある日、ぼくらは夢の中で出会う」(作・高橋いさお・演出・星美鈴)at阪大学生会館75点

  • ロストケア (2023/日)(前田哲) 65点

    高齢化社会における介護について、一考察を提言した作品であります。当然、老人ホーム殺害事件などを連想してしまうが、、。まず刑務所に入りたがる女性高齢者が執拗に検事に迫るシーンが印象的だ。それは現代社会の過酷さを訴えているのだが、身勝手な人間だと言い切っていいのだろうか、、。そして、42人もの高齢者を殺戮した松山と実の父親を見殺しにした検事(でも、孤独死のどこが悪いのだろうか?母親も体よく施設へ入所させているが)との対比がこの映画の大きな骨格となる。でも、だいたいが42人もの人間をニコチン注射で殺戮を繰り返していた男と、生きるために両親を粗末にする女(これは我々のこと)と同列に捉えていいのだろうか、とふと疑問が残る。映画では、松山は全く精神的にも問題のない人間として描かれる。だから検事と等しく同一に比較される...ロストケア(2023/日)(前田哲)65点

  • 名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件(白井智之 著)(新潮社 2022) 80点

    秀作との評判高い本格ミステリー。舞台が外国に移ってから、外国人の名前が出始めてから、スピードが止まる。でも、表紙の裏に登場人物の名が出ているので、何とか読み切る。りり子さんが素敵で、まさに断然主人公なのだが、まさかあんなことに。この辺りの白井の大胆ぶりに酔ってしまう。話は二転三転、面白いです。人民教会は当時、世界的に衝撃を与えた事件なので、僕自身気にはなっていました。まあ、詐欺の蘊蓄も興味があり、そこらのミステリーでないことはわかる。僕的にはあの衝撃的なラストはちょっとやりすぎかなとも思いました。少々鼻白む。でも最近のミステリーに活力をつけるさすがの秀作です。名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件(白井智之著)(新潮社2022)80点

  • 名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件(白井智之 著)(新潮社 2022) 80点

    秀作との評判高い本格ミステリー。舞台が外国に移ってから、外国人の名前が出始めてから、スピードが止まる。でも、表紙の裏に登場人物の名が出ているので、何とか読み切る。りり子さんが素敵で、まさに断然主人公なのだが、まさかあんなことに。この辺りの白井の大胆ぶりに酔ってしまう。話は二転三転、面白いです。人民教会は当時、世界的に衝撃を与えた事件なので、僕自身気にはなっていました。まあ、詐欺の蘊蓄も興味があり、そこらのミステリーでないことはわかる。僕的にはあの衝撃的なラストはちょっとやりすぎかなとも思いました。少々鼻白む。でも最近のミステリーに活力をつけるさすがの秀作です。名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件(白井智之著)(新潮社2022)80点

  • 審議官(今野 敏著)(新潮社 2023) 80点

    この竜崎シリーズは今まですべて読破している。とても面白く、いつもスカッとする。そんな本は意外と珍しいのだ。今回は、9編の短編スピンオフ集だ。長編ではないけれど、それでも面白さは変わらない。すぐ読破してしまった。身内の家族はすべて出し、前任の大森警察署のその後も描いている。小高刑事も出て来る。いやあ、ファンとしてはものすごくうれしい限り。もう読み終わり、次作を期待している。そんな書物はやはり僕にはこれぐらいかなあ。審議官(今野敏著)(新潮社2023)80点

  • トップガン マーヴェリック (2022/米)(ジョセフ・コシンスキー) 80点

    良くも悪くも伝統あるアメリカ映画のエンタメの粋です。これは長く続く映画の本流であり、今回はそれがしっかり流れています。古き良き映画を好きな人は見るべし。細かい何事ないところにも映画愛が満ち満ちてます。頭で考えることなく、体が覚えてるそのままを重視するところ、勉強になりました。こういう映画って、何か悩んでいるときに何かを教えてくれます。そう、それこそアメリカ映画の神髄です。トップガンマーヴェリック(2022/米)(ジョセフ・コシンスキー)80点

  • 栞と噓の季節(米澤 穂信著)(集英社 2022) 75点

    好きな米澤作品。でも今回のはなあ、、、。あの、青春ミステリーで、一気読み確実の描写力はさすがだが、何か足りないなあ。自分自身どこに不満があるのか分かりづらいけど。敢えて言えば、真犯人が最後の方で急に出没し(前半でちょっとは出てたが)、ハイ犯人でござい、ていわれてもなあ。米澤にしてはフェアではないと判断する。(勝手です)それとあの毒薬で犯罪を犯す、、、他にもっと有効なものだってあるよな、とか、ちょっと今回はダメ出しが多いです。でも、こういう青春ミステリー、好きです。許しちゃいます。加点。栞と噓の季節(米澤穂信著)(集英社2022)75点

  • ステージタイガー「ハンドポケット・カフェ」(作・演出 虎本 剛)at松原市文化会館 80点

    虎本さんの人間への愛に満ちた直球舞台です。こども食堂を通して、人と人とのつながりを深く考える。誰にもわかるテーマで感動しました。大阪のおばちゃんがカバンにいつも忍ばせているアメチャンも虎本を通すと素晴らしい愛のつながりに変身する。これこそ成就した愛のカタチです。虎本さんの生き方に拍手!この舞台、何と無料です。有難い。虎本さん、いやステージタイガーと松原市民と年一度の心の交流会です。ステージタイガー「ハンドポケット・カフェ」(作・演出虎本剛)at松原市文化会館80点

  • エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス (2022/米) (ダニエル・クワン / ダニエル・シャイナート) 70点

    アカデミー作品賞受賞ということで劇場へ。平日とはいえ、空いております。アジア映画が章獲得ということで動員が図られると思ったが、そうでもないのか。映画としては、これは全般的にアジアを全面的に出しており、しかしもちろんアメコミ系のアクションは期待できず、マルチバースといっても、それが特に生かされているとは思えない。映像のカット、これこそロングショットは一切なく、切り刻みの編集にモンタージュの面白さを感じる。中でも、あるマルチバースでの岩の親子表現はとても素晴らしく強く印象に残ったが、私にはそれだけの映画でした。結局、最初のシーンに戻り、親子、家族以外が最高な~~んだなんて、当たり前すぎて、それまで自分でもよく我慢して見てたと思うので、白々しい。これは観客を選ぶ映画か。エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022/米)(ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート)70点

  • 劇団1mg「狼なキミとエンドレスな魔女」(作・演出 伊達百式改)at in→dependent theatre 2nd 80点

    ウイルスとか研究所とか未来にあるだろうとの視点で描かれた人類いかに生きるべきかをテーマにした演劇です。と、こう書いてゆくと硬いものに思えますが、そこは1MG、オープニングACTを楽しんでいると、すぅーと魅入られてゆく。いつもの1MGだ。となると、あとはただ眺めていれば彼らの目指す世界に入ってゆける、、。閉鎖的な光景が目立つけれど、基底にあるのは人と人との関係、すなわち愛である。時間軸を多層的に構成し、ハッと気づくと終盤準主役の川田氏が父親でもあり、祖父でもある役柄に驚く。何と!ふむふむ、そうだったんだと思ったら、もうラスト。やはりいつも通りなかなか面白い劇でした。劇団1mg「狼なキミとエンドレスな魔女」(作・演出伊達百式改)atin→dependenttheatre2nd80点

  • 劇団壱劇屋「6人の悩める観客」(作・演出 大熊隆太郎)at in→dependent theatre 2nd 80点

    今年は15周年とかで演劇の回数が多い。それはこの劇団を愛するわたくしにはとてもいいことであります。スタイリッシュで面白く、しかもファンサービスがマジすごい。今回も大熊氏はほぼヌード状態で舞台を往来する。客席の6人。ここに焦点を置いたのが大熊の才能の素晴らしいところだ。我々ももちろん観客なので、観客たちの熱演はすなわち向き合っている我々を見ていることにもなるのかな。そんな大笑いコメディ劇です。ストーリーは特にない劇ですが、裸の王様だったり、シェイクスピア吾人が出て来る。僕的にはこのシェイクスピアさん、頑張りすぎて、ちょっとくどいように思えた。でも、相変わらずスタイリッシュであり、見てよかったと思う。関西きってのいい劇団である。劇団壱劇屋「6人の悩める観客」(作・演出大熊隆太郎)atin→dependenttheatre2nd80点

  • 逆転のトライアングル (2022/スウェーデン)(リューベン・オストルンド) 80点

    オストルンド、スウェーデンの若き映画作家だとは言っても、かのベルイマンを凌駕する作品をまだ提供しているわけではない。でも、才能は感じる。ブラックユーモア的な視点で見つめた人間模様。それはおかしい。それゆえ、卑近過ぎて自分が十分俗物なのを知ってしまう。まず、ディキンソンのファッションモデルオーディションシーン。くすくす笑いたくなる、今までこういう捉え方ってなかったよなあ。面白い。次に恋人との割り勘戦い。これは、さらに俗的で人間の本心というか、お二人は完全に戦争してると思う。そしてとても長くはあるが、豪華観光船に乗ったブルジョアたちと底辺労働者たち(アジア系が多い)とのヒエラルキー描写。ここに突然、マルクスが出没し、共産党宣言(能力に応じ働き、欲望により受け取る)が言い放たれる。人間、もうここまで腐り切ったら...逆転のトライアングル(2022/スウェーデン)(リューベン・オストルンド)80点

  • 突劇金魚「罪と罰」(脚本:サリngROCK&山田蟲男 演出:サリngROCK)at芸術創造館 80点

    ドストエフスキーの名作を3時間上演。セリフは膨大に多いし、テーマの難解さは予想を超える。こういう名作原作ものを演劇にするお二人、いやあ若い、スゴイの一言。まとめたところは感じられるが、それでもラスコ-リニコフを通して独白されるセリフはまさにドストエフスキーでした。演劇的には彼の苦悩を表現する悪魔的な集団アンサンブルなんかは、ぞっとさせられたし、警察署の前で拳銃自殺するスヴィドリガイロフは魅惑的で、一瞬ラスコーリニコフさえ超えるものがあると思った。いやあ面白かったです。途中、火災報知器がなってその音声と劇が同時進行という珍しい局面をサリngROCKさんがうまく切り抜けた。稀有な経験をした。突劇金魚「罪と罰」(脚本:サリngROCK&山田蟲男演出:サリngROCK)at芸術創造館80点

  • 創造Street「言い訳のカフネ」(作・演出 KENSUSAKI)at芸術創造館 75点

    かなりユニークな展開でストーリー的に魅せる。そして深まる謎もそのうちSF的モードに突入。1000年後の世界に移住する魅惑とは何か、個人的にも自問したりして、そしてラストへ。そこで僕たちが見たものは意外なもので、作者のストーリーテラーたるところを垣間見る。やはり演劇は自分の世界をはぐくみ、爆発させるもの。その王道は行ってます。面白かったです。創造Street「言い訳のカフネ」(作・演出KENSUSAKI)at芸術創造館75点

  • SHASEN × ハコボレ「森のクジラに食べられた!」(作・演出 前田隆成)at日本写真映像専門学校 80点

    ハコボレ。好きな劇団で、ずっと鑑賞しているが、前年の公演のみ見逃す。この劇団は演劇はもとよりいつも文庫本カバーのチラシがごっつう素敵。これをもらうだけがために演劇鑑賞続けてるというと、少々よくないかな。今回は前田氏直々の絵柄だが、実に素晴らしい。ところで、劇の方。舞台は超すばらしい美術。感心させられる。これならよく行く小劇場を超えてる。劇は寓話っぽいが、大人に聞かせるための童話集と言う感じ。セリフの一つ一つにエスプリが効いていて、特に20年もくじらの胃に住んでいる女性とのもの悲しさは絶品。引き込まれる。クジラの体内が舞台だが、前田独特のユニークで決して閉塞感を感じない世界観は相変わらず素晴らしい。大人へのポエムと言えよう。SHASEN×ハコボレ「森のクジラに食べられた!」(作・演出前田隆成)at日本写真映像専門学校80点

  • 方舟(夕木 春央 著) (2022 講談社) 80点

    いまどき珍しい本格ミステリーの本道を行く小説への意気込みはよくわかりました。特に最後の超どんでん返しでほとんどの読者が驚いたのは推察できます。また、登場人物の名前も分かりやすく、(最近のは名前があまりに粋過ぎて、覚えられないのが多い)展開も閉ざされた空間に一人づつ殺されてゆく、もうこたえられない小説です。さて誉め言葉はここまで。もうこの小説もか、と言いたいのは、殺戮してゆく動機がなんと薄く曖昧なことか。ちょっと、あんな自然事故があった際に、殺人事件を起こす理由がどうも甘いのだ。(でもこれも最近のミステリーがどれもこれも動機軽視なので言う方がおかしいと言われるかもしれません)文章も読みやすく、前半はダレルところもあるが、まあ及第点でしょう。次作にみんなの期待がかかります。方舟(夕木春央著)(2022講談社)80点

  • 劇団The Timeless Letter「記憶」(作・演出 川田恵三)at芸術創造館 80点

    受付に進むとなんとそこに劇団代表の前田氏がいる。気さくな人なんだろうなあと思い劇場に入ると、劇場案内として川田氏が頑張っている。考えたら、俳優でなく川田氏を見るのは初めてのこと。これはいつもと違うわい、、。劇は5つの悲劇をベースにこの世で一番必要な愛とその別れを描いている。かなり感傷的な演出方法なので少々驚くが、でも川田氏の今まで演じていたものからすると、当然の帰結という風にも思えてくる。この5つの悲劇を二転三転させ、あっと驚く仕掛けも呈している。そしてただのアンサンブルかなと思っていた人が神そのものの重要人物だったり、なるほどだからそうだったんだと納得させられる構成に彼の才能も感じる。川田氏、第1作にしてはとても素晴らしい演劇でした。でも、次は作・演出・俳優としても僕らの前に出てきてもらいたいなあ、、。劇団TheTimelessLetter「記憶」(作・演出川田恵三)at芸術創造館80点

  • 追劇グループ Something+「日本の大人」(作・柴幸男 演出・岡田沙羅(まる子))at布施PEベース 75点

    小6の時代と20年経た32歳の心にどう変化が?面白いテーマであります。大体12歳ごろには荷を考えていたか、私はもう忘却の彼方だが、この劇団の人たちはすべて覚えている。なぜなら彼らにとっては、ほんの少し前だからだ。その感覚がこの舞台の中枢を動かせ、大人になることとはどういうことか、すなわち人としてどう世の中に合わせていくのか、子供の素直な感覚で表してゆく。練り込まれた脚本と、パワフルで優しい演技力で、舞台は一段と広がり行く。素晴らしい演劇でした。追劇グループSomething+「日本の大人」(作・柴幸男演出・岡田沙羅(まる子))at布施PEベース75点

  • 青年団「日本文学盛衰史」(作・演出 平田オリザ)atアイホール 90点

    総勢24人登場。全員演技達者な俳優たち。2時間20分。4人の文豪の葬式を通して語られる会話。それはそれは文学とは何かを、下ネタも踏まえて語られるすごい作品でした。すなわちそれはそのまま明治以降の人間史ともなる。それにしても登場する文人たちとそのエピソード、意外とほとんど自分は知っており、そのことに我ながら驚く。文学に興味があったのだなあ。そういえば若い時、日本文学歴史帖などを長い白紙に延々と作っていたなあ。吾輩にもそんなまじめな時代もあった、、。自分的には戦中派というべき、坂口安吾、織田作之助、太宰治を3人組のひとくくりにして戦後の文学を語らせるには、太宰はちと他の二人とは異質ではなかろうかと思うのである。後世の若者に与えた影響度からは太宰は漱石と遜色ないのではないだろうか(ちょっとほめ過ぎか)。また、こ...青年団「日本文学盛衰史」(作・演出平田オリザ)atアイホール90点

  • イニシェリン島の精霊

    私のお気に入り映画だ。遠くから接近するカメラに中年の男が入る。すっかりもう若者ではなくなっているコリン・ファレルの姿がそこにある。彼もアイルランド出身だと思い出す。この映画は本土では内線の最中。ドンパチやっている。その音響が響き轟く島での話である。ある日、昨日まで仲良くしていた友人から急に無視され、絶縁を伝えられる男。そのことに執拗に問いただし、復縁しようと、甲斐なく努力しようとする男。我々はただ虚しく、イライラするだけだが、男はそれこそ胸糞悪くなるほど執拗に男につきまとう。そして、、、という話です。これはシンプル過ぎて寓話なんだろうな、裏に潜むニヤニヤ顔が見えるような気がする映画です。これはある男同士単なる喧嘩とも取れるし、喧嘩が大きく発展した形である戦争(すなわち対岸の火事→本国の内戦)を揶揄している...イニシェリン島の精霊

  • 風琴密室(村崎 友)(2022 KADOKAWA) 80点

    一応二つの密室解きがこの本のメインテーマであります。肝心の殺人が起こるまで延々と子供たちの話を読まなければいけなく、ちょっと投げそうにもなったが、成長してからの描写はなかなか読める。そして二つの密室の謎も心地よく読むことができた。ラスト近くの真犯人の行動にふと不信感もあるが、まあなかなか面白かった。ラストでの人物の取り違えもなぜか新鮮な驚きもあり、よかったと思う。評価では賛否両論らしいが、青春物としても意外と読める作品だと思います。風琴密室(村崎友)(2022KADOKAWA)80点

  • シャドウプレイ〔完全版〕 (2018/中国) 90点

    冒頭に大河に一人舟を漕ぐ姿。色はくすみ、たゆとう流れる。静かでしかし何かはらみそうな予感を感じさせるファーストシーン。でも静かなシーンはこれのみ。それからカップルのセックスシーンが森に。しかしここでカメラは、驚愕しそこを離れるカップルをほほえましく映す。そこから一転し、問題の団地解体闘争シーンとなり、カメラが主役の映画となり、唸り、吠える。2時間強、観客はカメラの蠢き、うねりをずっと感ずることになる。中国の政治的汚点は少々垣間見えるが、政府当局が目を見張らして規制するほどの代物ではないように思える。その中国という国の恐るべきバイタリティをミステリータッチでぼかし、一編の太い動脈に仕立て、映像にマグマを奔出させた作品である。映画とは、映像とは、国家とは、人間とは、それらがジェットコースターのごとく奔出する映...シャドウプレイ〔完全版〕(2018/中国)90点

  • クラウドの城 (大谷 睦 著)‎ (光文社 2022) 60点

    冒頭からの書き出しはなかなかこれはと思わせる快活な出だしだったが、セキュリティ等の説明が長く、饒舌。それはこの厄介な密室の謎を解くことになるはずだからと、真剣に読んでいたが、この謎はあまりにいい加減過ぎますよね、と言いたい。この小説の印象的な部分は、冒頭のイラクでのテロ行為シーンです。これがいいだけに少々残念。クラウドの城(大谷睦著)‎(光文社2022)60点

  • 関西芸術座「たこ焼きの岸本」(作・勇来佳加 演出・松本昇三)於ABCホール 80点

    大阪弁が飛び交う人情喜劇だ。一瞬松竹新喜劇かなと思うほど、みんな大阪のそのノリに徹してる。大阪住吉界隈のレトロ商店街のみんなと住民とのその心の通いがミソである。美味しいタコ焼きの店を守っている女性のもとに10年ぶりに息子が帰ってくる。そして孫まで連れて、、。と、話の芯はきっちりと通っているので、演劇的にも十分鑑賞に値する脚本である。こんな、気楽な感じで生きて生きていけたらいいなあと思うのは私だけであろうか。いい舞台でした。関西芸術座「たこ焼きの岸本」(作・勇来佳加演出・松本昇三)於ABCホール80点

  • 幽霊たちの不在証明 (宝島社文庫 2020)(朝永理人) 70点

    高校の文化祭。出し物のお化け屋敷の最中で行われた殺人。まあ、犯人を探し当てるまでのプロセスは結構面白かったが、全体の饒舌で吾輩のような年配にはついていけません。問題は犯人はこの人だと言われても、それまでの書き込みが少ないので果て誰だったかなあ、という程度。そして何より動機がいくらなんでも薄っぺらすぎて、とほほ状態です。とはいうものの、同級生二人の探偵ぶりはなかなか堂に入ってましたから、加点はしたいです。幽霊たちの不在証明(宝島社文庫2020)(朝永理人)70点

  • とべない風船(2022日 宮川博至) 70点

    この映画、ポスターが断然よく、気に入った。最近東出主演作品が続いているが、偶然だろうか、、。今回もいい役柄で、彼は役者修行を十分しているように思える。さてと、話は集中豪雨で車ごと土砂に埋まった妻子の衝撃から日常を取り戻せない男と、派遣切れで島に戻ってくる女、そしてその父親の物語である。3人はそれぞれ何か喪失感を持っている。男の家のベランダには黄色の飛べない風船が揺らいでおり、それはラストにはこうなるだろうと、観客はすぐ読み取れる思惑になっている。もうそれだけの話だといってもいい。100分の映画。時間はゆったりと過ぎる。島の漁師たちや6人しかいない子供たちが瀬戸内の明るい自然を見せつける。茫洋とした瀬戸の島を眺めているだけで、この映画は終わる。世の中には事故等で大切な人を亡くした人たちは、あの時なぜこう出来...とべない風船(2022日宮川博至)70点

  • 劇団光合聲「しゑん者」(作・演出 木村僚汰)at芸術創造館 80点

    劇場に入ると壮大な舞台装置。立派です。この劇場によく来るけど、これだけの大道具は稀有です。すごいですよ。俄然、鑑賞欲がもりもりです。内容は死刑囚を管理している閉鎖空間。そこでは国家に寄与する人々、国家のために死を運命づけられている死刑囚たちがいる。一人の死刑囚と、その他の同様運命者、死刑囚の両親、被害者たちが蠢き渡っている、、。ミソはその死刑囚が障害を持って生まれてきたという視点です。鋭いですね。両親から愛をはぐくまれ育った若者だが、殺人を犯してしまう。死刑制度や国家権力にテーマを置いているのではなく、この劇では普通とは何か、という普遍的なテーマが主眼なんです。これはかえって、安易そうで難解な問題ですね。人間って、普通でいる時は普通をあまり意識しないものです。だからこそ、その時間はハッピーなのかなと思いま...劇団光合聲「しゑん者」(作・演出木村僚汰)at芸術創造館80点

  • 入れ子細工の夜(阿津川 辰海 著)(光文社 2022) 90点

    ミステリーの方も新年早々超驚く秀作に出会う。これは4編の短編集。どれもミステリーオタクにはこの上ない至福を伴う内容となっている。僕は度肝を抜かれたかのようにページを繰る。私の顔はほころんでいる。この阿津川辰海っていう人はどう人なんでしょうかね。まだ30歳にもなっていないのにとんでもない読書量。そして何よりその卓越したミステリー的才能。他の作家とは群を抜いているようだ。この4編、どれも素晴らしく絶賛するしかないが、僕は映画「探偵(スルース)」が好きなので、この本の題名「入れ子細工の夜」がたまらないほどいい。映画通り、どんでん返し、さらにドンデン、また、、という風にミステリーファンをいたぶってくれる。ミステリーってやはり素敵だ。入れ子細工の夜(阿津川辰海著)(光文社2022)90点

  • かがみの孤城(2022日 原恵一) 85点

    原作が辻村深月でミステリーでも屈指のストーリーテラーですから、とても感動する忘れ得ない作品でした。予告編を見ただけの印象とは全く違う作品で、そこには現代に生きる人たちの避けては通れない問題点を中心に据えています。そこがまず立派です。7人の子供たちの心の闇はしかと分かるし、彼らのそれぞれの葛藤も丁寧に描かれているので共感します。こんな子供たちも実際悩み生きている、そのことに私ははっとさせられました。そしてラストで明かされるこの孤城の秘密、そしてオオカミさま・喜多嶋先生の真実。辻村作品の醍醐味がすべてこの作品にあります。素晴らしい。いや、この原作を見事開花させた原恵一監督に拍手を送ります。かがみの孤城(2022日原恵一)85点

  • 離ればなれになっても(2020伊 ガブリエレ・ムッチーノ) 85点

    何気なく見た映画が素晴らしい、こんな映画ファンにとって至極の作品です。幼馴染のやんちゃ男3人と一人の女の子との40年の人生を135分でまとめ上げている。私のように歳月をう~~んと経た人間にはどんな些細なこともすぐビビビンと響くし、青年期を過ぎた人たちには今豊穣の毎日が控えているでしょうから、過去にも将来にも幾層にも見える重層的な人生パノラマを思い描くことができるでしょう。なおさらに思春期の方々はこれから体験する人生を否が応でも垣間見ることになります。こんな人生教科書のような映画に正月早々巡り合うことができて、今年はいい映画生活を迎えられそうです。離ればなれになっても(2020伊ガブリエレ・ムッチーノ)85点

  • 近畿大学32期土橋組『終末卒業旅行』(作・演出 土橋淳志)atD館3階 ホール 80点

    女性がほとんどの演劇である。一人男性がいるが、女性である。女子大の演劇部で合宿しているある島の民宿での話である。何となくうららかな、女性同士の葛藤が見られるのかなあと思っていると、厳しいさめざめしたような女性の心象が全面を覆う。ある意味ホラーでさえある。人と人との関係を厳しくぶっつけたまさに生の女性たちの遠吠えが聞こえます。土橋さんって、怖い方ですねえ。人間を見るまなざしが厳しすぎます。それでも最後、ある程度の静けさが漂い舞台は終わる。観客はホッとする。途中でのシェイクスピアの劇中劇は絶品。この場面で空気感ががらりと変わる。土橋の脚本の生きている部分だ。素晴らしい。劇は大学生の卒業公演だが、想像を超える本物さで迫っている。学生たちよくやった!近畿大学32期土橋組『終末卒業旅行』(作・演出土橋淳志)atD館3階ホール80点

  • 捜査線上の夕映え(有栖川 有栖 著)(文藝春秋 2022) 75点

    久々の有栖川作品を読む。あまり肌が合わないというか、ずっと遠のいていた長編もの。評判作です。文章が結構い饒舌っぽく、やたら長い。あまり先に進まないなど、他のミステリーとはかなり差がありますね。450ページの長尺だが、殺人といっても1件だけで、これをどう読ませるか、、、がテクなんでしょうね。ラスト近く瀬戸内海の小島に真相を追って、二人が乗り込むシーンがやはりいい。肝心の究極的謎はちょっと噓ぽくってどうかな、と思ってしまいましたが、でも雰囲気は出している。捜査線上の夕映え(有栖川有栖著)(文藝春秋2022)75点

  • 2022年映画ベストテン

    2022年も鑑賞数少なく48本。演劇鑑賞数を合わせて86本だから、まあまあか、と勝手に思っている。大晦日に見た「柳川」が強烈。しばらくその余韻で生きてゆくだろう。日本映画はあのホン・サンス的タッチが映画を見る喜びを倍加させる。洋画1.柳川(チャン・リュル)2.三姉妹(イ・スンウォン)3.スパイダーマンノー・ウェイ・ホーム(ジョン・ワッツ)4.白い牛のバラッド(マリヤム・モガッダム)5.ブルー・バイユー(ジャスティン・チョン)次点あなたの顔の前に(ホン・サンス)日本映画1.窓辺にて(今泉力哉)2.ある男(石川慶)3.天上の花(片嶋一貴)4.花束みたいな恋をした(土井裕康)5.ハッピーアワー(濱口竜介)次点草の響き2022年映画ベストテン

  • 柳川(2021 中国)(チャン・リュル) 90点

    大晦日に見た映画、恐らく洋画の今年ベスト1。家でもめ事を抱えながら見た映画で、心は映像と自分の気持とがごっちゃになって混濁気味。でもそんな焦燥感が不治の病を抱えた主人公の心象と相重なり、この2時間映画は僕の彷徨い感をググッとえぐる。主人公と兄、そして民宿の主の男と一人の女の物語。女は北京から理由あってロンドンに移住し、そして柳川にやって来た。柳川は北京語でリウ・チュアンと呼び、女と同じ名前である。その柳川に兄を誘って余命いくばくもないドンがやってくる、、。もうそれだけで静かに人生が流れています。喪失感を抱えたまま、人は生きてゆく。登場人物で主人公の明日がないのを知っているのは主人公を除いてはわれわれ観客のみ。主人公のもれいづる言葉は彼の絶望感を感じさせるが、だからこそ透き通っているように聞こえる。登場人物...柳川(2021中国)(チャン・リュル)90点

  • もっとよろしくキャノンボール’22石原正一ショー(作・演出 石原正一)於common cafe 75点

    大の大人が子供に戻れるときのような素晴らしい時間を共有できる至福のひと時です。劇場というより狭い小さな空間なので、目の前に俳優たち13人が踊りセリフを吐き、1人それぞれ主役の時が絶対あるのでその時ばかりと自分を売り込む。俳優陣もみんなそれぞれの劇団の中心メンバーばかりの人でとても楽しめた。中身はほとんどギャグのような筋書きだが、老若限らずみんな(30人ばかり)一体感を持って観客をなす。それにしても坂口修一さん、今年何本この人の出演している演劇を見たことか。多作作家は聞いたことあるが、多作出演俳優は聞いたことがない。演劇が飯より好きなんだねえ。嬉しい限りだ。もっとよろしくキャノンボール’22石原正一ショー(作・演出石原正一)於commoncafe75点

  • 記憶の中の誘拐 赤い博物館 (文春文庫 2022)(大山誠一郎) 80点

    かなり好みの大山作品。この人の作品は他のミステリー作家とは一味も二味も違う。とにかく面白い。発想がユニーク。一番の欠点は寡作だということかなあ、、。本作は5点の短編集。時効を過ぎた犯罪の証拠品を集めた博物館から思いがけない犯人を探ってゆく。ミステリーファンにとってはこの上ない設定であります。なかにはちょっといくらなんでも、と思われる解決編もあるが、それはご愛敬。ミステリーファンにとっては至極の時であります。記憶の中の誘拐赤い博物館(文春文庫2022)(大山誠一郎)80点

  • ケツペキ『無差別』(作 中屋敷法仁、演出 斎藤寛泰) atアトリエスベース 75点

    神をも恐れぬというか、テーマ等、壮大な演劇です。神代の昔のような原始古代から現代にも通じる人間と神と自然との対立、調和を描いていたように思います。途中キノコ雲の原子爆弾投下の様子が赤裸々に語られるので、わたしたちは神と原爆とも対峙しなければならなくなる。何はともあれ、ランタイムは80分ほどでそれほど長くはないのだが、あまりに煎じ詰めた内容だけにずっと圧倒されたままの80分だった。できればもう少し大きな劇場で上演してもらいたかったが、それでも迫力のある演劇でした。この演劇に取り組んだ若者たちに拍手。ケツペキ『無差別』(作中屋敷法仁、演出斎藤寛泰)atアトリエスベース75点

  • よるべ「深呼吸」(脚本・演出:田宮ヨシノリ) atウイングフィールド 75点

    知らない劇団だと思っていたら、個人ユニットの旗揚げ公演だった。こういう旗揚げ公演は大好きだ。恐らくそこには作者の宇宙観が散らばっているはず。始まりはスコップで地面を掘っている男。焦っている。そんな焦燥感からこの劇は始まり、二人の対話が3対、交互に現れる。私にとって彼ら若者たちの語彙、リズムは驚異的である。日常の電車などの物音に近いものから、今日の劇の会話に至るまで、もうその語り口は驚異でしかない。それほどセリフは何気ない彼らの日常を占めているのだが、それを聞くことで十分現代に生きる彼らの懊悩が見えてくる。80分、閉塞感が続くがそれでもラストはさあ~と新鮮な空気が入り込んできたような気がする。青春を回顧することは生きる上で必定であります。この劇団がこれから大きく広く羽ばたきますよう、、。いい演劇でした。よるべ「深呼吸」(脚本・演出:田宮ヨシノリ)atウイングフィールド75点

  • ももちの世界「あと9秒で」(作・演出 ピンク地底人3号)at in→dependent2nd 70点

    テーマはあくまで人間平等、という崇高さが底辺に息づきます。それは劇だけでなく、我々観客にも強く感じさせる応対ぶりです。劇の俳優陣には手話をする人も多く、また字幕で聞こえない人にも配慮する。そんなアットホームの劇空間一色です。ただ、いつもこの劇団からは抽象的な命題を直球でもらってきたと思っていた僕は、今回のテーマのストレートさに少々おののく。ピンク氏、こんなに人道的だったのかなあ、、と。ラストはボクシングにおける差別をアピールする。それは正しいとは思うが、でも、人間の本来的な平等についてじっくり考え直すとまでは私は行かなかった。プロパガンダが感動を阻害していたように思えた。少数意見でしょうが、、。ももちの世界「あと9秒で」(作・演出ピンク地底人3号)atin→dependent2nd70点

  • 天上の花(2022 片嶋一貴) 85点

    これは力作です。現代劇を見慣れている我々からは、こういう時代に生きていた人々がいたことをしかと思い起こさせてくれる。それは現代にも繋がっていると思う。時代は昭和初期。嫌が応にも日本が暗闇に転がり行く時代であった。そんな時代でも、詩を書くことで生計を立てていた人たちがいたことに驚く。詩集が売れていた時代なのか、、。16年ずっと愛していた女の夫が亡くなる。男は妻子を捨て女と再婚する。そんな自己愛の強い男である。愛していると妻に言いつつ、実際は自分を一番愛している子供のような男である。さて、そんな男に関わってしまった人たちはまともな生活を送られるはずがなく、もがいている。でも彼が決して異常ではないことに我々現代人は知らなければならないであろう。この時代ではこういう男尊女卑の思想は根から沁みついている男も大勢いた...天上の花(2022片嶋一貴)85点

  • MEN 同じ顔の男たち(2022 アレックス・ガーランド) 60点

    あまりスリラーが好きでないわたくしがたまたま見てしまった映画です。出だしなんかはそこそこ面白いです。映像も凝ってて美しい。これは期待させるなあ、なんて思っていたら、、。あまり怖くないんです。ちょっとキモイ部分もあるけど、これを見せたかったのかなあ、、。だとすればそれに固執していればいいものを、なんて思ったりしてみていると、ハハン、これはこうだぞ、と、このミステリー部分のからくりがそのうち見えてきます。こういうスリラーって、もう30年も40年も前の映画の感覚ですね。最近他のこの手の作品をあまり見ておりませんが、スリラー映画はあまり進歩していないのでしょうか、、。MEN同じ顔の男たち(2022アレックス・ガーランド)60点

  • 夜、鳥たちが啼く(2022 城定秀夫) 75点

    映画化すれば不思議と秀作となる佐藤泰志原作もの。今回は舞台が函館ではなく、東京。これだけで随分違ってきます。東京ではあの函館の行き(生き)遅れ感が出て来ない気がする。女に捨てられた男とその女に夫を取られた女との不思議な関係です。ちょっと設定が自然ではないような気がします。①男の家に女が子供を連れて来て生活をするのだが、これが少し腑に落ちない。別にどこかのアパートでもいいわけだ。この時には二人には愛の片りんもまだない。②その女は夜の職業をしているらしいが、どうも売春をしているらしい。普通の主婦だった女が何故?唐突感があります。最後はまあある意味ハッピーエンドなんだが、でもどうも佐藤泰志らしくないタッチではある。とはいえ、通常の映画として鑑賞するには、なかなか水準以上のものを出しています。僕が佐藤泰志に拘り過...夜、鳥たちが啼く(2022城定秀夫)75点

  • 虚空旅団「フローレンスの庭」(作・演出 高橋恵) atアイホール 80点

    看護師学校で学ぶ若人の悩み、喜び、哀しみを描いたハートフルものです。人数がものすごく多く、けれどきっちりそれぞれの役割を描き、これはもう達人だ。高橋さんのいいところはまじめな内容であるけれど、きっちりと笑いを入れているところ。これは僕は演劇の基本だと思っているのでうれしい限り。若い人たちの話や展開に軽さも感じてしまうが、これは私のような年寄りがいうべきことではないでしょう。最後の方では感動で、涙してしまう始末でした。虚空旅団「フローレンスの庭」(作・演出高橋恵)atアイホール80点

  • 万絵巻新「倫敦に天使はいない」(作・演出 ナダル) at芸術創造館 70点

    2時間20分。洪水のような人数の俳優陣。話は切り裂きジャックあり、吸血鬼まで出没する派手な設定です。殺陣は実によく練習していたんだろう、さっそうと楽しめました。ストーリーは3グループに収束するんだけど、どうも集中できなくて、私の脳裏は散漫状態でした。脚本があらゆる方向を狙い過ぎたのではないかな、と勝手に思う。でも総勢20数名による演劇は実に豪勢で心地よい。若い人を見ているだけで実に楽しいものだ。万絵巻新「倫敦に天使はいない」(作・演出ナダル)at芸術創造館70点

  • 㐧2劇場「ボックスインザビート」(作・まっつー 演出・つだこ) 阪大懐徳堂 75点

    若い学生の方たち、卑近で身近な日常の悩み、それは私たち歳月を経て今いる人間からはちっぽけな悩みに思えるが、時を数十年過去に戻せば、いやあ思い出すこと然り。そうそうこんなものだったね、と懐かしくなる。とそんな拘りなく自由に彼らの悩みをストレートに描いているのが断然いい。若さの特権だ。最後の方、どこにいても同じ星を見つめることができる。そう、みんなで同じ方向を見ている経験、ありますよね。これこそまさに青春です。私もその感覚を今でも大事にして生きております。いい演劇でした。㐧2劇場「ボックスインザビート」(作・まっつー演出・つだこ)阪大懐徳堂75点

  • あのこと (2021/仏)(オドレイ・ディワン) 70点

    60年ほど前は堕胎が法律で禁止されていたフランス。男性である吾輩が見ているとちょっと距離を置いてしまうので、かなりきつい映画です。60年前とは言え、今でもこの問題がアメリカでも論議されてるように、女性にとっては生きるか死ぬかの必須のテーマです。誰もが身近な問題なのだと思います。あまりリアルなので、いたたまれない感を強く持つが、胎児を流した時に「ごめんなさい」と謝るシーンは感動的でした。でもそのあと、前を見て人生を泳ぎろうとしている主人公には女性の強さ、いや、人間の強靭さも感ず。やはり女性映画です。あのこと(2021/仏)(オドレイ・ディワン)70点

  • 和太鼓GIG「継ぐ者」(作・nemu 演出・橋本匡市) at芸術創造館 80点

    演劇に、和太鼓、バレエなど多彩なパーツをフルに駆使し作り上げた芸術品であります。ストーリーもファンタジック、ミステリーでもあり実に楽しい2時間でした。演劇の可能性を追求したその野心に拍手。2時間はあっという間でした。これだけ輻輳した構成の演劇なのに、練習たっぷりなのか、俳優陣の演技は無駄が全くなく、完成感も感じられ充実していました。いい演劇日和でした。和太鼓GIG「継ぐ者」(作・nemu演出・橋本匡市)at芸術創造館80点

  • ミセス・ハリス、パリへ行く (2022/英)(アンソニー・ファビアン) 70点

    映画の日、小さな劇場、満席の中に男性少々。この経験は「アメリ」以来。内容知らずに見たツケが回ったのかと思い、、、。ディオールが好きな人はたまらない映画でしょうな。ファッションショーなんかはその時間が長く、退屈。でも女性は恐らく目がぎらぎらでしょう。話は、出来過ぎの感もあり、ちと鼻白むが、イギリスの若い女優さんにとびきり美しい人が多いので、その分楽しめた。2時間、随分昔の古い映画を見ている感じがした。そのノスタルジーはいい。女性からは絶賛されるはずの映画です。ミセス・ハリス、パリへ行く(2022/英)(アンソニー・ファビアン)70点

  • 一人芝居フェスティバル INDEPENDENT:22 at:in→dependent theatre 2nd 80点

    毎年恒例11月に行われる一人芝居フェス。私が見るのは朝11時から夜7時前までの11本。途中2回休憩があるので、実際それほどきつくはない、と思って今年も参加した。全国からくる精鋭たちの一人芝居。随分と工夫されている。それぞれ個性があり、楽しい。通常の演劇と違い、より寄り添うことができる。でもその中でも、屈指の演技力を発揮する役者もいて、見てよかったと思う。来年は見られるだろうか、、。「名前のつかない有様に」、「ハッピーロスタイム」、「マイゴ」、「イシャ、オドル、オオサンショウウオ」が秀逸。一人芝居フェスティバルINDEPENDENT:22at:in→dependenttheatre2nd80点

  • 夜明けの詩 (2021/韓国)(キム・ジョングァン) 70点

    海の深い底から音に従って人々を思い出す、そんな詩的な小説を読んでいる感のある抒情的な映画です。主役はチャンソクなんだが、ずっと静かに音色を変え伝わってくる音響こそ主役のような気がしてくる。その音に導かれチャンソクは人々との会話を思い出してゆく。別れ、出会い、喜び、老い、死、哀しみそして住み慣れた街の光景、、。それはすなわちチャンソクの人生そのものであった。淡い水彩画のような作品で、少し凝っている。好き嫌いが分かれる作品だろうか、、。夜明けの詩(2021/韓国)(キム・ジョングァン)70点

  • いけないII(文藝春秋) (2022 道尾秀介) 85点

    3編のオムニバス作品と終章のあっと驚く真実に戦慄する。道尾の作品に出てくる登場人物はみんな影を帯び、人間が哀しい存在であることをうかがわせる。それは子供でも容赦なく陰影をつけ、描いてゆく。生きることは哀しいことなんだなあとつくづくと考えさせられる。この視点が道尾の魅力でもある。ミステリーの手法を取ってはいるが、まさに文学であると僕は思う。今、そういう意味で日本に数少ない作家だと思う。前作のこのシリーズも秀逸だったが、本作も絶品の出来。ミステリーファンは拝読させられよ。いけないII(文藝春秋)(2022道尾秀介)85点

  • 恋人はアンバー (2020/アイルランド)(デビッド・フレイン) 70点

    25年ほど前のアイルランドの話です。舞台は田舎の高校。そこで起こる若者たちのセクシアリティに悩む物語です。設定が偽装恋愛というのがみそかな、、?まあ、無理があるわな。そのおぼつかない進行に観客が気持ちが入ってしまい、こちらもそのうち脳裡で青春しちゃうという構造です。ラストはちょっと平板かなと思うけれども、こういう終わりでないと映画として成り立たないかな?盛り上がりはあるけれど、ちょっと嘘くさい。そこが全面的に喜べないところでしょうか、でもまあ、さわやか感はじっくり湧いてきます。少し前のアメリカ映画を見た感があります。恋人はアンバー(2020/アイルランド)(デビッド・フレイン)70点

  • 密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック(2022 鴨崎 暖炉)(宝島社文庫) 80点

    ミステリーファンなら一度は密室の謎解きに憑かれたことがみんなあるに違いない。この本は密室が好きな人にはたまらない本です。目がきりりと大きくなります。とにかくすごいです。でも肝心の密室のその謎解き訓話に吾輩は疲れ果ててしまいました。密室を解くその分量はこの本の大部分を占めています。でも真犯人が出てはまた出るこの趣向は斬新です。動機はあまりにつまらないものでしたが、、。でもミステリー好きには絶対読まなければならない本です。文庫本で、ページ数も少ない(でもないか、400ページ強)ので読みやすいです。今年の収穫作でしょう。密室黄金時代の殺人雪の館と六つのトリック(2022鴨崎暖炉)(宝島社文庫)80点

  • ある男 (2021/日)(石川慶) 80点

    なかなか面白い映画を見る。原作は未読だが、設定が秀逸。最初の安藤サクラの何気ない演技からこの映画に自然と入り込み、石川慶の魔術にかかり、そして映画鑑賞の喜びをしかと感じ取る。人間、誰かに変わって生きていこうなんて、そういえば子供時代にふと考えたこともあったけな、、。それでも本作に描かれるようなあらゆる差別社会を生き抜く主人公たちは過酷であり、しかし強い。差別をする方とされる方は人が生きている限り続くのは必定。認めるわけではないが、人間はどんな小さな範囲の世界でも差別を基にしたヒエラルキーを持続させて生きているのだと思う。映画的構成からは窪田の生い立ちを謎を追う展開、そのミステリアスな叙述は自然でよろしい。安藤も子持ち女性という負い目を抱えるマイナーな存在として描かれており、謎を解こうとする弁護士の妻夫木は...ある男(2021/日)(石川慶)80点

  • 一千億のif(斉藤詠一 著)(2022 祥伝社) 75点

    ワクワクさせるような歴史ミステリーで、前半はとても面白い展開でかなりいい。ところが活劇じみたサスペンスを入れる辺りから、普通の冒険小説っぽくなってきた。これはミステリーではなかったの?という不満が徐々に湧き出て、そのままエンドへ。まあ、前半がそこらの小説では味わえないわくわく感がすごく、最後まで持たなかったのが惜しいが、それでも誰も死ぬことなくまあこういう歴史ミステリーもたまにがいいか、と感じる。一千億のif(斉藤詠一著)(2022祥伝社)75点

  • あみゅーず・とらいあんぐる「女と男のしゃば・ダバ・だぁ~★Suki★のつづき~」atウイングフィールド 75点

    いつも大人の人生をしっかり見つめた劇団です。30周年だとか。最近そういう長寿劇団をよく見ています。今回は少しコメディタッチの清掃員を加え、明るい色彩もあるが最終編はまさにこの劇団のスター俳優であるお二人が老いのもがきを演じている。ある意味すごい挑戦です。まだまだお若くおきれいなお二人が死を意識した劇に向かうことで、僕たち観客ははっとする。それは満員の観客に日頃感じさせている老いというものを否が応でも思い起こさせるものでもあった。舞台と観客は一体となる。それぞれ自分に向き合いつつ観客は席を立つ、、。あみゅーず・とらいあんぐる「女と男のしゃば・ダバ・だぁ~★Suki★のつづき~」atウイングフィールド75点

  • 幻告(五十嵐 律人(講談社 2022) 75点

    かなり詳しい法廷叙述とタイムリープの咬合。そのタイムリープが2人もいるというトンデモ設定。斬新だ。最初は面白く読み続けていたが、そのうちこのタイムリープ自体に慣れて来て、そこにミステリーを入れるのはグッドアイデアなのだが、無理があるし、馬鹿馬鹿しいとも思えるようになる。ミステリーでは後半がどんどん面白くなるのが常道だが、僕の場合、だんだん垂れてきた。今まで五十嵐の作品はとても面白く読ませてもらったのに、何故かな。ちょっと分からないが、次作に期待したい。他の方の評価はかなり高いので、五十嵐作品をこれからもどんどん読んでください。幻告(五十嵐律人(講談社2022)75点

  • 窓辺にて (2022/日)(今泉力哉) 90点

    140分余りの長尺なのに全然それを感じない素敵な作品でした。まるで日本のホン・サンスとでもいうべきタッチと展開が絶妙で酔いしれました。人と人との関係は何なのか、ということがテーマだと思うのですが、題材が不倫などを堂々と出してきているのに、いやらしさがなくむしろ清潔感さえある。ところどころ聞こえる人生のエスプリもさもありなんとじっくり聴き耳を立てたくなるほど、納得させられる。そういえば、人を「好きになる」ことにみんな悩んでおられましたが、決して「愛する」と言わなかったですネ。ラブなんていう抽象的なモチーフにせず、「好き」という実直的な方法を持ってきたことがこの作品の成功の秘訣かなとも思う。ストレートで分かりやすい。中心人物である稲垣が「半世界」からそれまでを見直すほどのいい味を出せる俳優になっている。彼もも...窓辺にて(2022/日)(今泉力哉)90点

  • 壱劇屋「supermarket!!!」(作・サカイヒロト他8人 演出構成・大熊隆太郎)at independ2st 80点

    9人の作家による書かれた脚本を大熊が演出。9編の物語だが、大熊が構成しているので見た目は150分の長編劇ともいえる。配役はそれぞれ一貫して同じだが、ある激安スーパーに行き交う人々の群像劇だ。これが面白い。9編それぞれ主役が変わるが、脇役は使いたい放題に自由。作者の個性と演出家大熊の才能がぎらぎら光り、緊密な演劇を呈している。いつものダンスめいた様式美は影を潜めているが、演劇の原点をじっくりと見た気がする。楽しかった。ありがとう!壱劇屋「supermarket!!!」(作・サカイヒロト他8人演出構成・大熊隆太郎)atindepend2st80点

  • 劇団未来「パレードを待ちながら」(作・ジョン・マレル 演出・しまよしみち)at未来ワークスタジオ 80点

    珍しいカナダが舞台の演劇だ。時は第2次大戦末期。残された女たちの戦争の実態が鮮明に描かれる。今のウクライナ情勢を見るにつけ、どこの世界も戦争が起こっていたらあり得る話だ。女性だけの話だから、男性たる私が聞いていて、前半は少々退屈気味。それでもけっこう美人ぞろいの女優さんたちの演技がすごい。見ていて怖いぐらい。後半になって、それぞれ人の女性たちの苦悩が浮き彫りにされていく過程は圧巻であった。そしてラストの題名通りのパレード。今までの女たちの感情を吐露してもうすごい。喜び、悲しみがごった返している、、。劇団未来「パレードを待ちながら」(作・ジョン・マレル演出・しまよしみち)at未来ワークスタジオ80点

  • 南河内万歳一座「漂流記」(作・演出 内藤裕敬)at一心寺シアター 80点

    関西きっての人気及び実力劇団だ。今回の出し物は「漂流」。人生はそろそろ終わりに近づいている吾輩も今でも漂流していると言える。相変わらずドタバタ劇からの始まりであるが、時々どすんと居座ったような静かな人生への吐息が感じられる内藤ならではの演劇である。深い。舞台狭しと溢れている様々なガラクタさえいとおしくなってくるから不思議だ。出演者の演技の達者感も抜群だが、バックに流れる映画音楽ががぜんいい!確か10代後半の時に聞いた「さらばベルリンの灯」だと思うのだが、この曲は僕の好きな映画音楽ベストに近い。なるほど内藤は一生青春派であるのだと思う。ノスタルジーが蔓延。そう、この演劇は人間、死ぬまで漂流している。それは死ぬまで続くのだと言っている。時々流れる本音のセリフがはっとさせられる。秀逸な演劇である。南河内万歳一座「漂流記」(作・演出内藤裕敬)at一心寺シアター80点

  • 観覧車は謎を乗せて (2022 宝島社文庫)(朝永 理人) 85点

    題名からして、すぐ読もうと思いました。期待が多少あったんだけど、設定等それ以上の出来。ミステリー的にはそれほどでもないが、全体を包む詩的で小哲学的な内容もなかなかほれぼれする。僕の好みである。何と言っても、AからFまでの6つの観覧車に当然ながら6つの人生がうごめいている。構成が、観覧車で回っているように短い文章でぐるぐる回る。そしてラス前では、順序が破綻し6つの観覧車が後戻りする。そして文字数がなんと3行ほどになる。長い小説を読むより集中力を要求される小説だ。この作者只者ではない。観覧車は謎を乗せて(2022宝島社文庫)(朝永理人)85点

  • 沈黙のパレード(2022/日)(西谷弘) 75点

    冒頭からエキストラといい、登場人物の豪華さと言い、またセリフのない俳優もしっかり演技をしているなど、久々に大きな映画館でゴージャスな気分で映画を見ている感が素敵。いわゆるミニシアター映画のj鑑賞数が多いので、この傾向の娯楽作品はたまたま時間があるという条件でしか見れなくなっている自分。でもこれがよかった。映画はやはり見る自分もまずは自由でなければ、、。事件は、まあ大した証拠もなく犯人像が一転二転するが、そこは東野のミステリー度がなかなかのものなので、面白かった。しかし、あの髪留めが血液反応がないから云々というのはいかがなものだろう、とはいえ、まあミステリー的には許せる範囲かな。まあいろんな俳優を見ているだけで吾輩は満足しているので、映画料金は高いと思わなかったが、エンドクレジットで過去の福山の映像を見てい...沈黙のパレード(2022/日)(西谷弘)75点

  • 此の世の果ての殺人(荒木 あかね 著)(講談社 2022) 75点

    ユニークなSF的設定を題材にしたミステリーです。話の展開がよどみなく面白く、しかも根はシュールで、人は最後の時を迎える時にどう立ち向かえるか、といった本源的なところにまで及んでいる。その意味でも、数あるミステリーの中で注目すべき本であろう。ただこの本を本格ミステリーとして捉えたら、意外な犯人という条件は合格しているが、如何に終末とはいえ、殺害動機がいかにも浅すぎる。やはり、ミステリーにおいて、動機を重視したい最後のあがきを僕は持っている。江戸川乱歩賞、最年少23歳という若い才能は次作にも期待できる。此の世の果ての殺人(荒木あかね著)(講談社2022)75点

  • 関西大学劇団万絵巻「ラビリンス」)作・ナツメクニオ 演出・だりや)at芸術創造館 80点

    冒頭の出だしからとても期待させる展開で、2時間があっという間に過ぎる。間にダンスがあったり、殺陣さえあり、これがまたいい頃合の時間に出没し楽しませる。ストーリーがなんといっても面白く、不思議の国のアリスの新バージョンなんだが、秀逸だ。この劇は何と言っても、音響がものすごく優秀で、むしろ音響自体が主役といってもいいほど、この劇を盛り立てている。まるで、進行役の監督みたいだ。俳優陣は当たり前だが、みんな若く、美女美女でイケメンぞろい。そうでもない役者さんもいるが、そういう方は出て来るだけで笑いを取っている。何ともいい雰囲気のチーム編成であります。ということで、2時間の長丁場だが、思い切り楽しませてくれるいい休日演劇鑑賞となりました。ありがとう!関西大学劇団万絵巻「ラビリンス」)作・ナツメクニオ演出・だりや)at芸術創造館80点

  • 千夜、一夜 (2022/日)(久保田直) 75点

    愛する人を駅や港でひたすら待つ女をコン・リーの「妻への旅路」などで見てきた。本作もその類の映画かなと思ったが、2年間失踪した夫を待つ若い女(尾野)を田中と双極させ配置することで、田中自身の心の闇を分解させるという思い切ったストーリー観を提供した。そして1人の女性の「待つ」という行為の意味を鋭く追及することになる。尾野の夫を自分の夫とオブラートさせることで田中はやっと自分の人生にけじめをつけることができる。30年という時間は彼女にとっては一体全体何だったのだろうか、、。待つという無意味さと忍耐と途方もない無為の時間。でも、それさえ市井の人の過ごす時間とそう変わりはないのでは、とこの映画を見て僕は思い始める。白石も言っていたように、人を待つというのは途方もないつらさを伴う。でもそれは決して無駄な時間ではなかっ...千夜、一夜(2022/日)(久保田直)75点

  • その殺人、本格ミステリに仕立てます。(片岡 翔 著)(2022 光文社) 70点

    読む人の年齢を選ぶのでしょうか、あの文体が落ち着かず、登場人物の名前も覚えにくく、というか、主人公でさえ読めない名前で、これが延々と続くかのか、と思うと少々げんなりだったが、本格ミステリー通りにそのうちどんどん人が死んでいってくれる展開はなかなかのものでした。でもトリックが結構甘く、しかも殺害動機があれほど完璧だったら、探偵はいなくてもそのうち犯人にたどり着くのは必定と思うと、ちょっとミステリーとしては割り引かざるを得ないのではないか。でもこのミステリー、吾輩にとっての欠点がそのまま若い人には受けるかもしれないというのは認識しております。その殺人、本格ミステリに仕立てます。(片岡翔著)(2022光文社)70点

  • 劇団六風館「あゆみ」(作・柴幸男 演出・西垣陽菜)at阪大学生会館 80点

    8人による人生の走馬灯をスローにまた鮮やかに描いた秀作です。誰にでもある出来事をじっくり散発的に描いています。そのため、観客はふと自分の人生に戻ってしまうある意味怖い作品でもあります。8人が全員白装束。もちろんヤングだし、これが清楚でよかった。まだ無垢な彼らが人生80年を演じるんだから、きれいな方がいいのだ。そして彼らの演技はよく人生の果てにまで迫っていた。さすが、六風館だなあと思う。僕も100分、ところどころ自分の人生に戻ってしまう時間があった。最近会っていない子供たち。いろいろ考える、、。そんな広がりを持つスケールの大きな作品でした。若い人はこれを見てどう思うのかなあ、、。劇団六風館「あゆみ」(作・柴幸男演出・西垣陽菜)at阪大学生会館80点

  • 劇団1mg「クロノライセンス」(作・演出 伊達百式改)at in→dependent theatre 1st 80点

    死後の世界に興味のある劇団です。みんな美女揃い、またイケメンばっかりなのに目の周りが黒くやはり不気味です。あれだけ人相変えたら、その役になりきってしまうでしょう。きりりと決まったダンス然り、この劇団の持ち味はヤングっぽさが全面に出ているということかなあ。みんな素敵です。見るだけで彼らのことが好きになり、彼らそのものも分かる気もします。設定が死に向かう人間と、人間世界に戻りたい死神を配し、死んでも欲望が尽きない死神を面白おかしくさらりと演じた川田氏はこういう役も実にうまいです。さすがとうなりました。受付の方も劇以上に盛り上げてくれて、とても素敵な劇団でした。劇団1mg「クロノライセンス」(作・演出伊達百式改)atin→dependenttheatre1st80点

  • 夜の道標 (芦沢 央 著)(2022 中央公論新社)85点

    徐々に分かってくる真実をページを繰るごとに確かめる至福。この本は正直ミステリーとは言えないかもしれないが、それでもラスト近くに潜む思いがけない真実を知ると、読者は頭をガーンと殴られたような衝撃を受けるだろう。その問題提起は鋭い。立派にミステリたり得る。ラスト、みんなが日光に集まる設定は映画的で秀逸だ。珍しく本を読んで泣いてしまった自分に気づく。こういうことはあまりない。今年の収穫作品であり、誰にも読んでもらいたい本でもある。夜の道標(芦沢央著)(2022中央公論新社)85点

  • ポータブル・シアター「オーファンズ」(作・ライル・ケスラー 演出・枡井智英)at芸術創造館 80点

    過去、映画化されたこともある著名な演劇です。登場人物が3人。世間から隔絶され、疎外されたかのような兄弟二人の家に兄が誘拐した富豪がやってくる。しかし彼は闇の世界にも通じる人間だった、、。人にとって愛とは何か、文化とは何か、社会とは何か、、基本的で当たり前のことが、ぐさりと観客の胸に突き刺さる素晴らしい演劇でした。3人の役者はそれぞれこれ以上のない演技をされていました。最後の絞るような演劇の高まりを充分感じる。役者さんたちも達成感があるのではないか。ポータブル・シアター「オーファンズ」(作・ライル・ケスラー演出・枡井智英)at芸術創造館80点

  • アイ・アム まきもと (2022/日) 70点

    7,8年前に公開され、僕にとってその年のベスト1に選んだ映画のリメイクです。こんな地味で日本でもほとんどの人が見ていない作品に焦点を当てていることがまず嬉しいの一言。早速映画館へお出ましだ。話はほとんど変わらない。映像が何故か全編少々暗い。そのため俳優の表情が詳細に見えないところが歯がゆい。意図的なんだろうが、逆にもっと明るく撮った方が、このテーマには合うと思ったが、、。結局この映画の見どころは最後の5分なんだよね。まきもとが熱心に墓地まで譲った蕪木の野辺送りより、その蕪木を先頭にまきもとの霊に集まってくる人たちの純真な行動に圧倒的に人間の心の美しさを見る。心は通じてるんだ、、。このラストシーンが鮮烈でイギリス映画の鑑賞時は怒涛の涙を流したものだが、今回はほとんどなし。リメイクってそういうものなのかもしれ...アイ・アムまきもと(2022/日)70点

  • 敗者の告白 (角川文庫) ( 2017 深木 章子 著) 70点

    面白い作品を書くことで定評のある深木作品、証言だけで成り立っている構成もさることながら、ミステリーとしての持って行きどころが秀逸で、さすが素晴らしいと思う。ただ、わが子が殺人を計画しているという設定を警察までが信じ込むことはあり得なく、このことがこの作品の抜本的な失敗部分であります。動機等についてもかなり無理があり、ミステリーファンとしては鼻白みます。でも読んでいて面白いのだから仕方がないというのも事実。これは彼女の個性であり、称賛されるべきことです。まだまだ読みたい作家です。敗者の告白(角川文庫)(2017深木章子著)70点

  • オリゴ党「シンドバッドの渚」(作・演出 岩橋貞典) 75点

    コロナで随分と見ていないお気に入り劇団の公演です。本作は30周年公演ということで、出演者はこの劇団の常連の方ばかり19名。2時間、いわゆる岩橋節がどんより、そしてまた嵐のごとく吹き通る。話はアラビアンナイトをベースに少々わけのわからない会社組織でのそれぞれのつぶやきから物語は動き始める、、。アラビアンナイトと岩橋の脳裏に蠢くモゾモゾが粘着し,独特の世界観を創造している。時には観客を突き放し、時にはいやらしいほど寄り添う。いつもの世界である。今回19名の登場人物、それぞれ均等に役柄を与えている。誰もが主役、誰もが脇役である。それが見事。30周年の岩橋の思い、役者への愛が濃厚に漂っている。感動的だ。でも終わってみてあの会社、何の会社だったのだろうか、演劇集団を象徴しているように思ったが、そうでもないのかな?久...オリゴ党「シンドバッドの渚」(作・演出岩橋貞典)75点

  • LOVE LIFE (2022/日)(深田晃司) 70点

    ずっと追いかけてる深田作品。今回こそと、、。意外とシリアスな展開に期待持たせます。でもラスト近くの元旦那のあの嘘で、この作品の流れが変わる。音楽でいうところの転調だ。いかにも軽すぎるか。後は当然帰結、夫婦の話に戻る。もうそろそろ見限ろうか、、。そんな危険な声が僕の内部から聞こえてくる。LOVELIFE(2022/日)(深田晃司)70点

  • おわかれはモーツァルト (中山 七里 著)(宝島社 2021) 65点

    人気の中山の音楽ものミステリー。今回はモーツアルトだから絶対読まなきゃと思いページを開く。何か、イヤミスを読んでる感じがする展開とその原因を作る被害者。演奏中の描写にいつも通り心躍る部分はあれど、でも今回は殺人設定も、真犯人も、ご都合主義が見え見えで、ちょっと鼻白む。どうなのかな、中山も多作が作品の質に影響を与えてきているか、、。おわかれはモーツァルト(中山七里著)(宝島社2021)65点

  • 昭和の映画絵看板(岡田秀則)(2022 トウーバ ヴージョン) 80点

    珍しき昭和の映画絵看板集。みてるだけで、自分の人生の一コマを追っている気がする。作品は僕の生まれる前から始まっている。写真は大阪の難波あたりが多く、それもあって懐かしさが込み上がってくる、、。写真は名作もあれば、無名の見知らぬ娯楽映画もあり、また映画館前を歩く人たちの顔、身なりがその当時の時代を浮かび上がらせ感動する。あれっと思ったのが、名作映画でも女優を(特に太もも辺りを)扇情的に描いていることである。当時の文化を醸し出していて面白い。僕が思い入れの強い作品が出てくると思ったら、それはだいたい1961年頃から1969年までの映画である。僕の子供時代には家の近くに映画館が乱立しており、休みとなると一家総出で満席の映画館に行ったものである。そのときに見た映画は今でも眼に焼き付いている。「モスラ」、「太陽はひ...昭和の映画絵看板(岡田秀則)(2022トウーバヴージョン)80点

  • ルームメイトと謎解きを(2022 ポプラ社)( 楠谷 佑) 80点

    読みやすい青春ミステリー。しかも断然の本格物。なかなかの拾い物でした。やはり作者の方は若いんでしょうな。その青春の時しか見えない何かをあぶり出してます。でも吾輩のような老人でもしっかりそれについていけるわけだから、この方、人の優しさをしっかりと持っとりますネ。そこが素晴らしい!でもミステリーの中身なんだけど、肝心の殺人が中盤まで出現しない。いらちの私はそこが壁でした。でも、意外な犯人は多数のミステリーを読んでる吾輩でも気づきませんでした。大したものです。超面白かった。ルームメイトと謎解きを(2022ポプラ社)(楠谷佑)80点

  • 草の響き (2021/日)(斎藤久志) 80点

    佐藤泰志の原作の映画化をすべて見ていますが、監督がすべて違うんですね。でも創り出された作品はすべて1級品で質感もほぼ同じ。それだけ原作の力が強いということなのだろう。本作も函館のどんよりとした空気感と静かに漂う微光が感じられ、わが心を大いに揺さぶる。この映画の場合、生と死の割合が男の中でぐらぐら揺らぎ、かろうじて均衡を保っているのが、ただ治療として行っている走ること。友人もましてや妻でさえ生きる支えにならなくなっている現実の前に、男はただおののき、そして走る、、。東京に出て、両親と食事をするとき男は本音を語る。「特に何も望まない。家族を持ち、ごく普通に生きること。それだけだ。」でもそこから一番遠い位置にいるのも自分だということを男は知っている。東出昌大、想像以上に素晴らしい演技。驚き。やればできるんだ。や...草の響き(2021/日)(斎藤久志)80点

  • 草の響き (2021/日)(斎藤久志) 80点

    佐藤泰志の原作の映画化をすべて見ていますが、監督がすべて違うんですね。でも創り出された作品はすべて1級品で質感もほぼ同じ。それだけ原作の力が強いということなのだろう。本作も函館のどんよりとした空気感と静かに漂う微光が感じられ、わが心を大いに揺さぶる。書こうと思っていたことをぽんしゅう氏に書かれてしまい、慌てふためく。こんなことは10年に一度。この映画の場合、生と死の割合が男の中でぐらぐら揺らぎ、かろうじて均衡を保っているのが、ただ治療として行っている走ること。友人もましてや妻でさえ生きる支えにならなくなっている現実の前に、男はただおののき、そして走る、、。東京に出て、両親と食事をするとき男は本音を語る。「特に何も望まない。家族を持ち、ごく普通に生きること。それだけだ。」でもそこから一番遠い位置にいるのも自...草の響き(2021/日)(斎藤久志)80点

  • 六法推理(五十嵐 律人)(2022 ‎ KADOKAWA) 80点

    かなりユニークな法律ものミステリーです。今時の学生がこれほどのインテリ集団とは思えないのですが、まあそうなのでしょう、とても面白いです。5編の短編集ですが、最近の現代用語が多く、あまりSNSに詳しくない吾輩は苦しい展開ではありますが、でもついていくことはできました。5編全部いいけど、敢えて言うと最初の「六法推理」が面白かったかなあ、何となく犯人を当てちゃいましたネ。読者を選ぶ種類のミステリーではあると思うけれど、続編もあるようだしまだまだ楽しめます。何と言っても若い人の生の息遣いが聞こえてきます。一番の魅力です。次回も期待大。六法推理(五十嵐律人)(2022‎KADOKAWA)80点

  • 時計屋探偵の冒険―アリバイ崩し承ります〈2〉(大山 誠一郎 著)(2022 実業之日本社) 75点

    お気に入り大山の新作です。今回は気楽に読めるアリバイ崩しものです。刑事は相談する相手が若い美人時計屋というのもいいです。5編の短編なんだが、どれも楽しく読めます。特に新しいものもなければ、かと言って古臭いトリック物でもなし、そこが気鋭の大山のなせる業。次回も楽しめると思います。時計屋探偵の冒険―アリバイ崩し承ります〈2〉(大山誠一郎著)(2022実業之日本社)75点

  • 魂のまなざし (2020/フィンランド=エストニア)(アンティ・J・ヨキネン) 80点

    北欧フィンランド映画です。森が家と共にあり、いい環境ですね。一人の女性画家の一時期の姿を追っています。伝記映画なんだが、最後まで映像は彼女の絵画のような色彩を捉え、絶品です。映画は彼女の絵画に影響を与えた恋愛に焦点を絞っている。ところがこの映画、女は完全に恋愛モードなんだが、一回り以上年下のこの男は何と言っていいか、かまととだったり、優柔不断だったりするのか、彼女とのボタンの掛け違いが多すぎる。そのことで女は病気にまでなりはてるのであります。まあ、映画は女目線で描かれているので何とも言えないが、失意の彼女の前に女より30歳以上も若い婚約者を連れてきたり、女にあなたとはずっと友人ですと告げたり、不可解な行動を伴う。友人関係といってもセックスレスではないので悩ましいところではあるが、男の方は女を結婚対象とも思...魂のまなざし(2020/フィンランド=エストニア)(アンティ・J・ヨキネン)80点

  • 壱劇屋「code:cure」(作・演出 大熊隆太郎)於ABCホール 80点

    2年ぶりの公演です。とにかくこの劇団はスタイリッシュ、斬新、カッコよさ抜群。あまり内容を掘り下げる演劇でもないが、見ているだけでほれぼれさせる演劇集団で、最高だ。客演の山田蟲男のドスのきいたというか、おどろおどろしいセリフの言い回しがキーとなり、この演劇を引っ張る。でもこの演劇、セリフそのものは少ないんだよね。ほとんどが画面の字幕で伝わられるので、通常の演劇との相違感がある。観客は見て驚き見て考える。そう、視覚性が第一義的なんだ。そこがこの劇団の魅力だろうと思う。2時間弱あっという間に終わる。楽しい、魅惑的な実に魅惑的な演劇が終わる、、。壱劇屋「code:cure」(作・演出大熊隆太郎)於ABCホール80点

  • 新参者 (講談社文庫) (2013 東野圭吾) 85点

    秀作の名高い東野の短編集、と思いきや、一個の長編小説と考えてもいいと思う。それぞれの短編が相互につながり、ラストで一つの解決編を呈するという複雑な仕組みながら、それぞれの編に全く無駄がなく、ひょっとして東野のベストに近い小説ではないか、と思われるほどの出来である。やはり魅力的なのは、加賀刑事と人形町という東京の下町との関わり合いである。彼は大阪の出身であるのに、随分東京の下町に愛情が深い。というより、一生懸命生きている普通の人への営みへのまなざしが暖かく、それには大阪も東京もないということなのだろう。彼の人間性が強く感じられる部分である。ただ、ミステリー好きの吾輩からすれば、最後の真犯人とその動機はちょっと軽い気もしないではない。でもそれらを割り引いても、秀作であることには変わりはない。新参者(講談社文庫)(2013東野圭吾)85点

  • さよならに反する現象 ( 2022 角川書店)(乙 一 著) 70点

    ホント久々すぎるほど乙一を読む。かなり前、乙一の作品は全部読みふけった。それほど気に入った。僕の人生で、彼の書物がいつも僕のそばにある、そういう作家だと思っていた。いつごろかなあ、彼が本を描けなくなって、普通の人生を追いかけるようになってから、こちらも追うのをやめ、ほとんど忘れていた。本だけは買いそろえていた。そして最近この本を見つけた、、。5、6編の短編集。幽霊が常に出ている。なんか、でも乙一らしいところはあれど、でもやはり違う。それでも最初と最後の短編が印象的だ。でも乙一らしい愛のとどめなき奔流は感じられない。作ってるなあって感じ。もう彼は終わったのだろうか、、。さよならに反する現象(2022角川書店)(乙一著)70点

  • 白い牛のバラッド (2020/イラン=仏)(マリヤム・モガッダム / ベタシュ・サナイハ) 85点

    ドラマとしても、この上ない緊張感に満ちたストーリー。設定も宗教に挑戦的でとても面白い。これがイランの現状、すなわちイスラムの世界。この不幸は神の与えたもうなのか?冒頭からラストまでずっと食い入るように画面を見る。そんな時間の最近珍しいことよ。誰もが悪くないのにこの不条理さだけは突出して暗黒を包む。最後まで見ても明るさは見えぬ。けれど、ほうき星のような一瞬の輝きは見える。太宰治「右大臣実朝」「アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ」。白い牛のバラッド(2020/イラン=仏)(マリヤム・モガッダム/ベタシュ・サナイハ)85点

  • 王様企画 『ひとける』(作・ザビエル・ミサイル・ヒポポタマス 演出・菊地仁美) at難波シアター 75点

    異常な設定から始まる人類生存を託す未来はいかに、、でも最近はロシアによる侵略戦争が実際まだ続いており、この閉塞感のある一空間はまるで現代社会の生き写しのようにも思えるし、なかなか鋭いテーマを追求した秀作劇だと思います。俳優陣も多数で、しっかりセリフも勉強されており、小さな劇場ではあったが、臨場感にあふれ、忘れることのできない演劇になったと思う。この劇団、次作も期待します。王様企画『ひとける』(作・ザビエル・ミサイル・ヒポポタマス演出・菊地仁美)at難波シアター75点

  • 星空の16進数 (角川文庫)(2021 逸木 裕) 85点

    本格というほどではないけど、ミステリーとしてはとても人間感のある彩にあふれてて、ページを繰る手が早くなる秀作です。17歳の少女の周囲の環境が少女の自意識の成長によりきめ細かく描かれてるところが素晴らしいです。ミステリー部分ももちろん面白いが、彼女の人生観をきっちり描く手法はミステリーでは珍しいですね。もちろん、主人公である私立探偵のみどりも最高です。相棒の浅川も魅力的で思い切り一気読みでした。ルンルン気分です。星空の16進数(角川文庫)(2021逸木裕)85点

  • 青い雪 (麻加 朋 著)(光文社 2022) 75点

    文章・展開が読みやすく、また子供たちが主人公のミステリーなので、さわやかで読中感がよい。そして時間がたって事件は色彩が変わってゆくのだ。ミステリーといっても、まず本格物ではない。読者に伏線をあまり提供しておらず、何気なくぽつんと新事実が浮き彫りになる。これってなあ、推理する楽しみはほとんどなし。一応意外な犯人を浮かび上がらせるが、それは作者側のリードにおいてであり、本格もの愛好家からは、いろいろ非難もあろうとは思う。事件の謎もちょっと人工的で、後半はちょっとついていけない感もある。まあ、でも、最近のミステリーでは合格ラインかな。最後まで読ませる何かを作者は持っている。次作がとても気になる作家であります。青い雪(麻加朋著)(光文社2022)75点

  • 劇団星今宵「売り言葉」(作・野田秀樹 演出・古都)at阪大学生会館 80点

    久々の一人芝居です。100分。いつも思うが、セリフ覚えはどうやってんだろう、、。僕だったら2,3分でも無理です。出し物は題名から思いもつかない夫婦愛で有名な智恵子抄の裏話。この作者、野田はかなり野心家で不遜です。みんなが思っている夫婦愛を逆なでにしてしまいます。あの福島の美しい安達太良山も哀しい険しい山に変貌してしまいます。後半になると、千恵子から光太郎への強い恨みつらみに変わっていきます。何と、世間では愛にあふれた夫婦愛を売り物の高村光太郎、実際は知恵子に5か月も会いに行かなく、別の女性を文通をしていたとか、、そんな繰り言がラスト近く終始流れます。まあ、実際もそうなのかもしれませんね。はっと驚くある劇術家たちの愛の幻影光景でした。それにしても、一人芝居ってすごい。見ている方は通常とそれほど変わりません。劇団星今宵「売り言葉」(作・野田秀樹演出・古都)at阪大学生会館80点

  • リコリス・ピザ (2021/米) (ポール・トーマス・アンダーソン) 70点

    お気に入りPTAの新作だ。何と4,50年前の時代にムーブした青春グラフィティ。わんさか出て来る当時の時代及び俳優ネタとベタに徹したPTAの才能にほほえまされるも、やはりアメリカ風土に順応していない吾輩の乗り遅れは最後まで続く、、。リコリス・ピザ(2021/米)(ポール・トーマス・アンダーソン)70点

  • 蒼海館の殺人 ( 阿津川 辰海 ) (講談社タイガ) 文庫 2021) 80点

    いやあ、文庫本とはいえ630ページもの超長編もの。ふつうこういうものは避けるのであるが、最近では珍しい本格ミステリー&探偵ものと聞けば読まずにはいられない。ところが、読めども読めども160ページになってやっと殺人事件が始まるというスローテンポの展開。叙述自体はしっかりと登場人物を書き分けていて退屈はしないが、それにしてもミステリーで事件が発生しないことにはこちとら俄然読む気がなくなってくる。と、そんな怠慢を抑え頑張って読み進めるのであった。とにかくミステリーとしてはよく書けているので、文句はあまり言えないが、でもラストのあのあっと驚く真相は、600ページも読者を読ませておいて、ちょっと論理的にはどうなのか、といった感想を持ちました。我々昔からミステリーを楽しんでいる者からは少々の違和感もありまする。でもこ...蒼海館の殺人(阿津川辰海)(講談社タイガ)文庫2021)80点

  • あなたの顔の前に (2021/韓国)(ホン・サンス) 80点

    ホン・サンスの映画って、普通の映画のように「さあ今から映画が始まるよ」といったところが全然ない。あたかもそこらの小説を読むように自然に入り、そしてしかしラストで読者は思いがけない発見をして何それ?で終わるのだ。本作も全くそう。長くアメリカに移住していた元女優が突然韓国に帰ってくる。妹はなぜと疑問を抱えながら何気なく財産状況などを聞くが女はそんなのないとうそぶく。しかし女は昔住んでいた家を訪ねたり、どうも何やらあるらしい。ランチと称して会った男は映画監督らしいが、何か本心を出さず、それでもあなたと映画を撮りたいと女に言う。しかし、特に脚本を用意しているわけでもなく、すると女はあと5,6か月の寿命だからと出演を断る。監督は体を求めていると直球に話すと、女はいいわと返す。路地の傘を差しながらの二人でタバコをふか...あなたの顔の前に(2021/韓国)(ホン・サンス)80点

  • 地人会新社「二番街の囚人」(作・ニールサイモン 演出・シライケイタ) 75点

    ニールサイモンと言えば、わが青春時代に映画化されたものも多いブロードウェイの名脚本家であります。たまにはメジャーの演劇をも、また懐かしい時代に触れたいなあとも思い鑑賞しました。しかもこの演劇、好きな役者・村田雄浩&篠田三郎が出演していて、何とも興味津々だ。話は中年サラリーマンの挫折からくるニューヨークの生活が決して楽園でなく、むしろ牢獄に思えてくるという現代的な意味を秘めている。しかし葛藤を経て、夫婦のかすかな希望さえにじませるところで舞台は終わる。50年前だったら、斬新なテーマなんだろうけれど、我々はそれから50年を経て、さらに新たな現代の過酷な生に細々と生きているのが現状。私にはこのテーマは少々時代性を感じるものとなっていることに気づく。村田雄浩の演技は相変わらず水を得た魚のようにダイナミックでまた繊...地人会新社「二番街の囚人」(作・ニールサイモン演出・シライケイタ)75点

  • わたしは最悪。 (2021/ノルウェー=仏=スウェーデン=デンマーク) (ヨアキム・トリアー) 80点

    お気に入り監督の話題作である。なるほど全体を13章に分けており、小説を読んでいるかのようでもあるが、1人の女性の心象を表現するにはメリハリがあって、よろしい。男と女の生き方にはさまざまあれど、この映画のように2つの恋愛を見てると、随分有り体で分かりやすい。この作品は女性から見た人生への探求となっているので、男性への関わり合い、人間のそもそも自由とは何か、愛する人からも束縛されたくはない、などの人間本来の希求の問題が描かれている。特にこのようなテーマで現代人として生きることの意味を考えるに、誰をもが毎日向き合っていることなのだろうと思う。相手は好きだけどでも一つたりとも干渉されたくはない。愛する前に自分の立ち位置が揺るがされたくない、など基本的な気持ちは揺るぎはない。ではどうすればいいのか、、。自由を第一義...わたしは最悪。(2021/ノルウェー=仏=スウェーデン=デンマーク)(ヨアキム・トリアー)80点

  • 看守の流儀 (宝島社文庫 ) (2022 城山真一) 85点

    5編の短編集。一応時系列的にはつながっている。金沢の刑務所での囚人と刑務官の話である。人々の生活空間からぽつんと疎外されているこの空間に人間的なまなざしを深く感じることになる。まず視点がいい。刑務官、囚人たちの真実の心の慟哭、広がりを感じ取り、そういう世界とは関係ないと思っていた自分がはっとさせられる素晴らしい小説であった。ミステリーとしても秀逸だ。なかでも「ガラ受け」は不覚にも涙を流してしまった。作者の人間への深い思いが伝わってくる名編である。看守の流儀(宝島社文庫)(2022城山真一)85点

  • 新人作家・杉浦李奈の推論 (角川文庫) (2021 松岡 圭祐) 70点

    あまり読むことのない出版社の裏話満載、というほどでもないが、出版社の実名が出てきたりするので頑張ってるなあという期待感もある。そして盗作疑惑を捜査するのが新人作家という設定だが、編集者からこき使われたり、それなりの松岡の当時の思いが伝わってきたりして、それは面白い。作家と言えども、売れない間は編集者からぞんざいな扱いをされるのかと興味を引いた。さて、盗作事件の真相だが、これはそれほど面白くもなく、少々期待外れ。人工的ではある。でもまあミステリーって、そういうもんなんでしょ?と言われればそうです、と言ってしまおうか、そんなものです。読んでる間は退屈しない。新人作家・杉浦李奈の推論(角川文庫)(2021松岡圭祐)70点

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