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眠れない夜の言葉遊び https://blog.goo.ne.jp/junsora

折句、短歌、アクロスティック 詩、小説、妄想、言葉遊び、クリスマス詩、ショートショート、マナティ、夢小説、散文詩

クジラうえ リクエストした 水族館 マダイがうたう スローバラート

ロボモフ
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2008/12/07

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  • ドッグ・ターン

    絵に描いた餅が現実味を帯びないでいた。タッチを変えて描き続ける。餅が駄目なら対象も変えてみる。うどんを手打ち風に描いてみるが、硬すぎて食べられない。和から中華へと筆を伸ばす。基本的なチャーハンを黄金色に描いてみたが、どこまで行ってもパラパラにはならない。つまりは、食えたもんじゃない。「絵じゃ食べれないのがわかったでしょ」いや、まだまだだ。「これは僕の腕の問題だ」やることが間違っているとは思わなかった。みかん、バームクーヘン、焼きそば、エビフライ、ビーフカレー、マカロン、ペペロンチーノ、親子丼、シュークリーム……。その内に口に入る素材が現れると見込んでいたが、どうも上手くいかない。何が悪いというのやら。「まだわからんか、あんたは」すっかり分からず屋扱いだ。(はーーー)大人のため息を聞かされると切なくなる。「...ドッグ・ターン

  • ガジガジ流

    昔々、あるところに山に芝刈りにばかり行くおじいさんと、健やかなおばあさんがいました。おじいさんは、毎日のように山に芝刈りに行くと、これでもかこれでもかと芝を刈ってばかりでした。これでもかこれでもかと刈り続けられては、普通ならば音を上げるようなところですが、芝はそれでも負けずに逞しく生えてくるのでした。「ほどほどにね」とおばあさんが言うとおじいさんは少し機嫌を悪くしました。「そんなこと言わんでもええ」ぼそぼそとおじいさんは言いました。「駄目とは言ってません。ほどほどに」おじいさんは黙って山に芝刈りに行きました。おばあさんは、清く正しく川に洗濯に行きました。おばあさんは、川に着くと洗濯物を広げました。風呂敷いっぱいの汚れ物です。汚れはどれもこれも頑固なものばかりで、まるで凝り固まった大臣のようでした。おばあさ...ガジガジ流

  • 友情出場

    「あとは頼むぜ!」「任せとけ!」ピッチを去るボランチから俺はキャプテンマークを引き継ぐ。ん?留まらないぞ。ちゃんと留まらない。「ホッチキス持ってきて!」「駄目だ!手でどうにかしろ!」四苦八苦しながら、俺はどうにかキャプテンとなってピッチに駆け出して行く。リードしている試合をそのままちゃんと終わらせること。それが遅れて入ってきた俺の役目だ。若くはない。だけど、数え切れないほどの経験がある。苦い経験から学習を重ね、俺はより確実性のあるプレーを磨き込んできたのだ。「痛い!いたたたたたー!あいつにやられた。10番だ!キラーパスに刺された!」俺はピッチ中央で倒れ込む。笛が鳴ってプレーが止まり、審判が駆けつける。「VARを!しぬー!しぬー!ちゃんと見てくれ!故意だ!絶対故意だって!」判定はグレー。カードは出なかったが...友情出場

  • 対局室と最新家電

    「はっ、何か対局室に飛んできました。あれはスパイ衛星か何かでしょうか?」「何をおっしゃいますやら。そもそも何を盗めますか?」「そうでしょうか」「あれはですね、最新ロボット掃除機のドルンバくんです。彼は空気中の微細な塵を除去しつつ、畳の上もきれいにしてくれますから」「ほーっ、これはなかなか愛嬌があって、部屋の中も和みますね」「かわいくてその上で頼りにもなる優れものですね」「畳の上はきれいな方がいいですものね」「そういうわけです」「ドルンバくん、ごくろうさまです。この後も、引き続き名人戦生中継をお楽しみください」対局室と最新家電

  • ダブル・タイトル

    長年書きあぐねていた小説が、その気になって頑張ってみるとあっという間に完成した。バンザーイ!今までのあぐねは何だったんだ?アイデア、ストーリー、キャラクター、オリジナリティー……。どれも今までで一番いいと言えた。問題はただ1つ、小説のタイトルだけだった。タイトルを疎かにすることはできない。タイトルは小説の顔だ。あらゆる読者のイメージを最初に刺激し、思わず手が伸びてしまう。荷物で塞がった手も、ポケットに奥深く逃げ込んだ強情な手も、引き出してしまう。そんな強い顔が必要なのだ。A案「」B案「」見つめれば見つめるほどにわからなくなる。どちらもいい!どちらも同じように好きで、同じほどこの小説に相応しい。そんな2つの顔から私は目が放せなかった。寿司もいい、焼き肉もいい。迷っている内にチャーハンになる。そのようなことは...ダブル・タイトル

  • 鶴への恩返し

    傷ついた鶴を助けたことなどすっかり忘れていたが、美しい女が訪ねてきたので、私は快く家に入れた。「あの時の恩を返しにきました」鶴は女の体で言った。贈り物をしたいので仕事場を1つ貸してほしいという。そして、自分が仕事をしている間は絶対に扉を開けてはならないと言った。「約束してください」「わかりました」そして、鶴は女の体で食事をしたり雑談をしたりする以外の時は、仕事場にこもって作業をした。そんな日々がしばらく続き、私はもやもやした気分だった。ある日、私は誘惑に負けて扉を開け、そして見てしまった。鶴は自らの羽根を抜きながら着物を編んでいたのである。その表情はどこか恍惚としたものに見えた。約束を破ったことがばれたらえらいことになる。私は鶴に気づかれないように、そっと扉を閉めた。後日、女は完成した着物を広げ私に見せて...鶴への恩返し

  • 空も飛べるはず(マイカーライフ)

    青いドットが空を輝かせる。青はいつまでも青のままだ。車社会はどこへ行ってしまったのだろう。おじいさんは懐かしい歌を思い出すように、あの頃のことを頭に浮かべてみる。空想を遮るような奇声はいつもの侵入者だ。「しっ!」邪魔者のない駐車場を心行くまで駆け回る猫たち。時には敵と、時には友と、時には風のつくり出す魔物たちを追って。愛情をみせるでもなく、おじいさんはただ追い払うのみだ。「遊び場じゃないぞ!」猫はおじいさんの威嚇をいつも甘くみている。慌てて逃げ出すようなことはせず、駆けっこが一段落してからゆっくりと散っていくのだ。「これはどういうことだ!」ある朝、おじいさんの駐車場が高級車いっぱいに満たされていたのだった。それは奇跡のような光景にみえた。「おばあさん……。これは?」「あら、忘れたの?夕べおじいさんが描いた...空も飛べるはず(マイカーライフ)

  • 判定は喜びの後に

    (ベンチに座ったり立ったり。グラブをつけたり外したり)そんな面倒くさいことは他の奴に任せておけばいい。僕は最後に決定的な仕事をするだけだ。ここぞという時に、監督は僕の名を告げる。最大の信頼に応えるための準備は整っている。塁を埋めたランナーたちが帰る場所を求めた時、ついにその時が訪れた。軽く素振りを済ませると僕はバッター・ボックスに入った。投手はストライク・ゾーンにボールを投げ込んだ。そこで勝負ありだ。的確にミートした打球はぐんぐん伸びて軽々と外野を越えた。たった一振りで人々に最高の興奮を届けられることが証明された。ホームラン♪さよならのランナーのあとに迎え入れられた僕は、主役として胴上げされた。今日もヒーローは最後にやってきたというわけだ。スタジアムの観衆も拍手と歓声をもって僕を称えている。ありがとう、み...判定は喜びの後に

  • ゼロ同期

    突発的なエラーが起きて自分の中がゼロになってしまった。もう1人の自分に会うために職場に向かうとちょうど銀行に行ったとこだという。ATMで自分を捕まえて同期を図る。「しばらくそのままでお待ちください」同期が完了したが、僕はまだゼロのままだった。キャッシュカードが返却口で悲鳴を上げている。残高は0になっていた。何かがおかしい。何者かによって自分が盗まれてしまったのかもしれない。だが、まだ保険はかけてあった。もう1人の自分を捜し、川へと急いだ。釣り人たちは水面をみつめながら夕暮れの風の中に佇んでいた。その中の1人に自分を見つけて近づいた。すぐ傍まで行っても彼は気がつかなかった。不安になってバケツをのぞき込むとやはり空っぽだった。釣り糸の先端ももはや無になっているに違いない。念のために釣り竿を伸ばして同期を図った...ゼロ同期

  • 雑談マスター

    縄跳びに入っていくのは難しい。いつどのような顔をして入るのか。自分が入ってもいいのか。それさえも謎だ。(生きている間は謎だろう)そう言えばあれだね。あの時はそうでした。あの人はまたそうではないようでした……。方向はどこにも定まっていない。テーマはパッと湧いてすぐに消える。引っ張りすぎると煙たがられる。変えすぎても疑われる。間に適度な共感と笑いが生まれることが望ましい。生まれながらの才能か、生きている内に培われるテクニックか。何もないようなところから、あまりにナチュラルな調子で、あなたは言葉を操り始めた。・鰓多きトークを捨てて詩にかけたクジラは青のサンゴマスター(折句「江戸しぐさ」短歌)雑談マスター

  • 真夜中の正着(95%の合駒カオス)

    ガタガタと窓を叩くような音ではっとして目を開けた。着信か?悪い予感がしてすぐにかけ直した。03?「折り返せないナンバーです」(アプリを起動しますか)折り返せないということは、きっとそうする必要がないということだ。直感が示す結論を強く信じた。蒸気機関車が部屋の方に近づいてくる。真夜中なのに……。雨か?いや雨降りだったのは昨日のことだ。それも違う。機関車はこの街に走っていない。存在しない機関車はたどり着く場所を持たない。触れた覚えのないリモコンがテレビをつけた。(まだ続いている!)局面はすっかり終盤戦になっていた。朝には強固な囲いの中に守られていた王は、今では草原の孤独の中にあった。それは思ってもなかったこと?あるいは読み筋の中にある遊泳か。棋士の表情には何も現れてはいない。(きっと色々とあったのだろう)追い...真夜中の正着(95%の合駒カオス)

  • カー・ナンセンス

    危険!危険!「3分後に装甲車と衝突します」「止まって!」「停止した場合、隕石の直撃を受けます」「右折だ!」「右折禁止区域です。右折できません」「いいから曲がれ!」「右折できません」「それならバックだ!」「もどれません」もどれません、もどれません、もどれません……「脱出だ!」「確認中……」「俺を脱出させろ!」「脱出のためのスペックが不足しています」危険!危険!「誰かー!誰か助けてくれー!」・AIが飛ばす倫理の焦点に車がみせる左折信号(折句「江戸しぐさ」短歌)カー・ナンセンス

  • 総括の棋士

    「私の出演はここまでとなりました」「これまでの人生を振り返ってどうでしたか?」「そうですね。自然豊かな星にたまたま生まれまして、人間としては5歳の時に初めて駒を持つことになりました。山あり谷ありでしたがどうにか棋士になることができました。我々棋士というのはですね、お互いがライバルでもあり同志でもあるというところがありまして。心強い仲間たちに支えられてここまでやってこれました。今度生まれ変わってもですね……。ちょっと待ってください。私は何を言わされてるのでしょうか。ただ単に、今日の出番が終わるというだけですから。これは振り返りすぎでしょう」「これは大変失礼いたしました。先生にはまだまだ活躍していただかなければ」「危うく引退に追い込まれるところでした。少し油断してましたね」「棋士人生はまだまだ続くということで...総括の棋士

  • 記憶の1行ノート

    「ごゆっくりどうぞ」ゆっくりするとは、寝かせておくことだ。触れ続けてはならない。ファスト・フードのようにがっついてはならないのだ。・道を変えてみると随分と早く着いて驚いた。そちらの方が近い道(近道)だったのだ。当たり前のようにいつも歩いている道が、実は回り道だった。本当は三角形なのに四角形と思い込んでいたので、ずっと気づかなかったのだ。ぬーっと行ってひゅーっと行けばいいところを、かくかくと行っていたのだ。知らない間、随分と時間を損してしまった。しかし、たくさん歩けたと解釈すると得をしたとも言える。・おはようも返ってこない。そんなことくらいで億劫になる。無力感に包まれて、情けない気持ちになる。合わないのでは?ここではなないのでは?場違いなのでは?だんだん身動きが取れなくなる。予感だけで書き出してみたノートは...記憶の1行ノート

  • 大恐竜時代

    人との距離が近すぎて疲れてしまった。私は思い切って転職を決意した。あまり人と関わらずに、人のためになる仕事。そんな仕事があるかどうかはわからない。けれども、納得がいくまで探すつもりだった。「ここには失敗した猫が多く持ち込まれます」訪れたのはリメイクの会社だった。「挫折した猫、躓いた猫、猫になれなかった猫たち。猫は好きですか」「まあ」「持ち込まれた不完全な猫を恐竜に描き直すのが仕事です」「恐竜ですか?」唐突に恐竜が現れたので驚いた。「みんな捨てられないのよ。消せないんだよね。だから、こういう受け皿が役に立っているのです」「えーと、1つきいていいですか」「はい」「猫にしたら駄目なんですか」「それでは失敗の上書きになってしまう。元の描き主に自分の無力さを思い知らせることになってしまいます」「あー」そういうものだ...大恐竜時代

  • 日だまりのライブ

    「みなさんおはようございます。本日も朝のひと時をかわいい鳥たちの映像と共にお送りしたいと思います。早速ゲストをご紹介いたしましょう。鳥観察界の重鎮、内田さんです。今日はよろしくお願いします」「どうも。よろしくお願いします」「内田さん、今日はまたさわやかな朝になりましたね」「そうですね。大変喜ばしく思っております」「だいたいこの時間ですね」「ええ」「いつもの時間、いつも決まってここに鳥たちがやってきます」「鳥たちはルーティンがしっかりしてますからね」「ちょうどこの木の下辺りが日だまりになるんですよ。画面の向こうのみなさんにも伝わってますでしょうか」「鳥たちはみんな日だまりを見つけるのが上手です」「さあ、そろそろかと思われます」「もう声が聞こえてきそうですね」「日だまりというのは、鳥たちにとってはどのような存...日だまりのライブ

  • アスリートの介入

    昔々、あるところに太っ腹のおじいさんと絵に描いたようなおばあさんがいました。おじいさんは鬼のように山に芝刈りに、そしておばあさんは清く正しく川に洗濯に行きました。おばあさんは、しばし太っ腹じいさんのことを忘れ、洗濯に没頭していました。そうしているとおばあさんは瑞々しい魚のように自分らしくあることができるのでした。どんぶらこ♪どんぶらこ♪上流から美味しげなフルーツが流れてきました。りんごかな?いいやそれにしては大きすぎる。ぶどうかな?いやいやそれにしては素朴すぎる。いちごかな?いいやそれにしては生意気すぎる?パイナップルかな?いいやそれにしては不自然すぎる。「そうだ!あれは桃だ!」おばあさんが声に出して叫ぶと驚いた小魚たちが川から飛び上がるのが見えました。一仕事を終えてちょうど小腹も空いてきたところ。こいつ...アスリートの介入

  • からくりタイム

    恐ろしくありがたいベッドが与えられたので戸惑っている。今日はここで眠ってもいい。いつもとは違い思い切り腕を広げ、足を伸ばすことができる。しかし、それはあまりに無防備な形だ。もしも今日それを許してしまったら、明日からの自分はどうなってしまうのだ。(今日くらい、一日くらいいい)その一度のために、元に戻れなくなってしまうこともあるのだ。それでもこれは1つの機会であるように思われる。少しだけなら構わないではないか。明日に憂いが及ぼうとも。「まあ、いっか!」僕はベッドにダイブする。改札があり階段があった。歩道があり人々が歩いていた。雨が降っていて明かりがあった。木に埋もれかけた信号機があり商店街があった。ベーカリー・ショップがあり、近くに住んでいた。その風景がいつか暮らしていたところなのか、夢の中につくられたものか...からくりタイム

  • ミステリー・エゴ

    エゴの実が世界を救うと強く信じられた。最初の愛を問えば、どんな生き物でも自分自身へかえるものさ。我を愛し、我の友を愛し、我の手を愛し、我の家を愛し、我の町を愛し、我の飯を愛し、我の書を愛し、我の歌を愛し、我の子を愛し、我よ我よと……。我から我へ平和への拡散がどこまでも続くように思われたが。どこかで育て方はまちがわれた。・エゴの実をおっとっとっとまき散らし一面に極悪新世界(折句「エオマイア」短歌)ミステリー・エゴ

  • 突然カフェ

    その周辺だけ極端に明るく輝いていた。祭りかと思って近づくと、新しくカフェができていた。昨日前を通った時には、何もなかったはず。カフェは突然できたのだ。店の前には、大きな花が並んでいる。どうして花なのか?たぶん、花でなくてもいいのだ。何でもいいのではないか。けれども、何でもいいというのは、最も難しい。定番のものを出しておくのが、無難だろう。例えば、ドラマがそうだ。医者か弁護士かを出しておけば、大きく外れもしないだろう。壁がきれいだ。走り書きの線も傷も、全くない。(ヨーグルトに何を足そうか?)僕はぼんやりと考えていた。頭上に載せるのは、リボン?鳩?皿?ボール?それによって世界観は変わる。そのような問題に似ていると思った。グミ、アイス、はちみつ、ジャム、バナナ、グラノーラ、ナッツ、バナナチップ、グランベリー、カ...突然カフェ

  • 眠れない夜にワンルームで小説を

    立っていられないほどに眠い。バックグラウンドで何かが鳴っている。赤いギターを抱いた謎の集団が夜明けのように浮かび上がっている。何の証拠を隠し持っているのだと言って犬が執拗にお腹をつっついてくる。違うんだ。これは本当の時じゃない。どれだけ努力してもパスコードはまだ認知されない。心細い待受画面が辛うじて入力を受け付けている。次は、まだ何かありますか?はっとして目を開く。ちゃんとしなきゃ。歯を磨いて安心してベッドに潜り込む。途端に目が冴えてくる。今度はどう頑張っても眠ることができない。眠れない夜がまた目を覚ましてしまった。ずっと立っていたがバスは止まらなかった。何かを引きつけるには僕の声はまだ小さすぎた。朽ち果てた椅子の上で優しい訪れを待つ間に、見知らぬ者たちの足音と冷たい季節が通り過ぎて行った。「また春だね」...眠れない夜にワンルームで小説を

  • 考えさせるカフェ ~1/2カーテンの謎

    どうして薄緑のカーテンは、今日も半分下がっているのだろうか。コーヒーを口にした瞬間から、疑問が湧いてくる。コーヒーの中に含まれる成分が、考えさせるのだろう。陽射しが強い時間に誰かがカーテンを引いて、そのままになっているのか。極端にプライバシーに配慮した結果なのか。それとも逃亡者が逃げ込んで、自らカーテンを下げたのか。理由は何もないということはないか。理由はなく、誰もそれを指摘もしない。カーテンが及ばない下の隙間から、僕は外の世界をぼんやりと眺めていた。大人か子供か。先生か薬剤師か。業者か一般人か。自転車かバイクか。旅人か仕事人か。猫かプラスティックバックか。落ち葉か蝶か。半分になった世界は不確かでいて、想像を刺激する。全部見せないことによって、こちらに投げかけているようだ。シマウマか横断歩道か……。夕べは...考えさせるカフェ~1/2カーテンの謎

  • ラッシュ

    何度目覚めても完全に自分を取り戻すことはできない。いつだって半分は夢の世界に置き忘れている。だから完全に正気な人と仲良くすることは難しい。目覚めは春だ。輪郭、影、記憶、窓の外、光、電車の音、重力、歌、好きなもの、好きになれないもの、痛み。少しずつみんな戻ってくる。お前はいいよと拒むことはできない。順路は変えることができない。僕はぽかんと上を向いている。ボールはまだ落ちてこない。ホームラン?隣で見上げていた猫が慌てて逃げ出して行く。雨?ドームじゃない。野球じゃない。何か妙だ。つかみ切れない空気。何かが間違っている。いや、何もかも変じゃないか。お茶と畳の匂いがする。ゆっくりと空から落ちてくるのはと金だった。今、振り駒をしたところだった。ここは駒犬の間だ!「それでは時間となりました」三間にまで行った飛車が1秒で...ラッシュ

  • 2.8キロ・コーヒー

    ストローの抜け殻が落ちている。誰も拾いに来ないのだ。ずっと気になってしまうくらいなら、気づかなければよかった。どうして誰も拾おうとしないのだ?面倒くさいのか、業務に含まれていないのか。見て見ぬ振りをできる人の集まりなのか。あるいは、上を見ている人の視界には入らないものなのかもしれない。(まあいいじゃないか)もしもそういうスタンスの店なら、信頼性に欠ける。汚れのついたカップでも、落ちた豆でも、平気で使っているかもしれない。「僕のかな?」誰も気にとめないということは、そういうことではないのか。この先のどこかで落としたものが、遡って現在の僕の傍に落ちているのではないか。(お前が拾えよ)そういう目で、誰かが僕を見ている気がした。どうしてここまで来たのだろう。僕は2.8キロの道程を歩いて来たのだった。歩くとどんどん...2.8キロ・コーヒー

  • クラウド・リュック

    生きることは背筋を鍛えることだ。物心ついた時から歩き始めた。思い出いっぱいをリュックに詰めて。いいことばかりじゃない。中にはあってはならないこと、死にたくなるようなこともあった。だけど、みんな捨てられなかった。(苦みも古傷も私の一部だから)傷心も、裏切りもみんな詰め込んで歩く内にだんだん重くなっていく。ロングコートの上にリュックを背負って歩いたある冬の夕暮れ、強く背中を引っ張られたようだった。まるで過去という名の魔物がそうしているように。駄目だ!もう歩けない!僕はそのまま道端にひっくり返りそうになった。「そんなあなたにクラウド・リュック!」「誰だ、あなたは?」「エア・コーディネーターの風です。これを」誘いにのって荷物を新しいリュックに詰め込んだ。今までのとはまるで感じが違う。ああ、軽い!「小学生に戻ったみ...クラウド・リュック

  • 鏡の老婆

    昔々、鏡の前におばあさんがいました。おばあさんが鏡をのぞくと鏡の向こうには老婆がいました。おばあさんがじっと見つめていると、突然老婆は口を開きました。「風邪か?」「風邪じゃない」おばあさんはすぐに返します。「病院行ったかね」「病院は人が多い」「行った方がええでね」「行くことはない」「行きなさいな」「風邪くらいで行くことはない」「歯はどうかね」「どうもない」あまりしつこいとおばあさんは鏡の前を離れることにしていました。老婆は鏡から抜け出してまで追いかけてくることはできません。あまりしつこいのは好きではありませんでした。けれども、おばあさんは一日に一度は、気が向いた時には何度でも鏡の前に戻らなければなりません。なぜなら、他に特別に向かうべき所はどこにもなかったからでした。鏡の前に座ると鏡の向こうのおしゃべりな...鏡の老婆

  • わんちゃんパトロール

    「あーっ、これはかわいいわんちゃんが乱入してきました。大変ですよ!先生、これは立会人が何とかしなければ」「まあ、落ち着いてください」「しかし、落ち着いている場合でしょうか」「大丈夫です。よく見てください。縫いぐるみのわんちゃんです。立会人の縫いぐるみですから」「しかし、動いてますよ。あんなにリアルに。まるで生きているようにしか見えませんが」「勿論、普通の縫いぐるみではなくてですね、あの中には最新のAIが組み込まれていて、それによって動いています」「いったいどうなっているのでしょうか。何が何やら」「解説しますと、あのAIわんちゃんは、現行のルールに沿って定期的に対局者の周辺を巡回して、ルールがちゃんと守られているかどうかをチェックしているわけです」「そうだったのですね。かわいいと言っていいのか、厳しいと言う...わんちゃんパトロール

  • ラフにコーヒーを

    「ごゆっくりどうぞ」そんなことが可能だろうか。人生は思うより短い気がする。気を抜いたら一瞬で過ぎ去っていくのではないか。1年毎に生きたりしたらすぐにまとめて失われる。1日を大事にすればどうか。1秒を惜しんで生きたとしたら、結果的に長くなって、ゆっくりできるのかもしれない。コーヒーを飲んで長居するにはどうすればよいか?カップのサイズは、命の大きさだ。あびるように飲んでしまっては、すぐに尽きてしまう。そうではなく舐めるように飲む。ちょびちょびと大事にしていけば、1杯のコーヒーを長く持たせることもできるのではないか。「そんな飲み方じゃ美味しくない!」(さっと来てさっと飲んで帰る)勿論、そういう選択/飲み方/生き方だってあるだろう。それはそれでいいではないか。・漬け物もいい。いいと思うことは口に出して言っておくの...ラフにコーヒーを

  • メルヘン・ショット・バー

    人の視線に対しては敏感だった。鴉に見られているとしても別に気にならない。猫だとしたら強く見つめ返すこともできる。猫が動かないなら、ずっと気が済むまで目を逸らさないでいるかもしれない。問題は人の場合だ。人の視線に限定した場合、なぜか急に嫌な感じ。心穏やかではいられなくなる。男の視線を感じて私は歩道を横断することをやめた。「何か?ずっと見てますよね」「お急ぎですか?」「いいえ。そんなことはないですが」「今日は早く帰らない方がいい。あなたのマンション、エレベーターが爆発しますよ。だから……」「そういうのはよくないですね。やるならちゃんとアプローチした方がいい」「ごもっともです。軽く1杯どうですか?新しくできたばかりの店で、ワンコインでメルヘンつきですよ!」黒服の男はあっさりと非を認めた。誘うにしてもハッタリやデ...メルヘン・ショット・バー

  • 我々はぶっ通しで働く仕様なのか?

    留学生が、「勝手に休憩をとるな」と注意を受けている。何を言われているか、彼らに飲み込めるだろうか。正社員と呼ばれる人たちは、勤務時間中に談笑したり、喫煙したり、適当にのんびりと過ごす時間もあるように見える。雇用形態が異なると、事情は全く異なるのだろうか。「我々は水1滴さえ自由に飲めないのか?」使う側の立場としては、時給で働く形態だから1分も無駄にさせては損と思っているのだろうか。理屈はわからなくもないが、いくつか疑問な点もある。人間というものを理解できていれば、そんな単純な考えはできないのではないか。逆の立場で考えてもまるで平気なのだろうか。(中にはそんな想像とは無縁の人もいるかもしれない)法律上は問題ない。5時間の労働に休憩などなくてもいいと言う人もいるかもしれない。しかし、人間の集中できる時間には限り...我々はぶっ通しで働く仕様なのか?

  • もう君のことしか考えられない

    人間とは、考える生き物である。お昼は何を食べようかな。食べ物について考える。それは基本的な考えの1つだろう。美味しい肉ないかな。食べるについての考えが基本なら、美味しさを追求するのも人間の本能だろう。おやつタイムはコーヒーでも飲もうかな。コーヒー飲みながら、何食べようかな。夕方からビール飲もうかな。ビール飲みながら、何食べようかな。一日を通して、人間が考えを止める時間はほとんどないに等しい。人間の頭は大変だ。「あの人、あんなこと言ってたけど、あれってどういう意味なんだ?」僕は、その時ぼんやりとそんなことを考えていた。その考えに割って入ったのは、女の声だった。「そうなのよ。こっちももっと早くに伝えたかったけどね……」姿の見えない相手と話す女の声は、だんだん大きくなっていく。テラスならいいのか?(別にどこでも...もう君のことしか考えられない

  • 暴走端末のメルヘン

    小銭を数えるなんて面倒なことだ。手と手が触れ合うことは、リスキーではないだろうか。それよりも間違いのない、現代に相応しい方法というものがある。「お支払いは?」「ストイック・ペイで」私は常に最先端のやり方を好むのだ。「少々お待ちください。そちらの方ですと端末が変わりましたので担当を代わります」端末が変わった……。流石はできた店だ。より処理のスピーディーなものに進化しているのだろう。・「いらっしゃいませ」新しい端末を扱うのは、専属のロボットだった。「専用のアプリをダウンロードしますので、それまでの間、誠に僭越ながら創作メルヘンをお聞かせさせていただきます」すぐに終わると思っていたのでこれには少し意表を突かれた。ロボットは、低い男性の声でゆっくりと話し始めた。・『バッドじいさん』昔々、あるところにバッドをつけて...暴走端末のメルヘン

  • 惜しむコーヒー ~それでもあなたはカフェに行くのか

    生まれたてのコーヒーはたっぷりと器を満たしており、そこからは際限なく湯気が立ち上がっている。最初の一口のためにカップに口をつける瞬間は、この上なく幸福ではないだろうか。そこから先はゆっくりと冷めていくばかりだ。一口毎にやがては底をつくであろうことを恐れながら、口を近づける。せつない。コーヒーを飲むということは、ただただせつなさを感じることに等しいのではないだろうか。たっぷりとあったように思えても、本当はこれっぽっちだったと気づくまでにそう時間はかからない。コーヒーは、なぜ不変の熱量と無限の器をもって提供されないのか。そして、人々はなぞそうした不満を口々に叫ばないのか。そんなサービスをしたら商売が成り立たない。器のサイズは好みで選ばれるのが慣習だ。そもそも物理的に不可能ではないか。空間に落ち着きが損なわれて...惜しむコーヒー~それでもあなたはカフェに行くのか

  • どうしようもない行き止まり

    昔々、あるところにどうしようもない行き止まりがありました。そこから先へ進むことはどうしよもなく不可能に近く、何人もそこを越えていくことができませんでした。「ここを突破できた者にはぱりんこ200年分を与えよう!」王様は言いました。ぱりんこ200年分。それは途方もない贈り物。詩人は言葉を持って王様の前に現れました。美しい単語、キャッチーな比喩、心地よい修辞、謎めいた暗喩を駆使して突破を試みました。けれども、そこにあるのはどうしようもない行き止まり。言葉やなんかで突き抜けることはかないません。替わって子供が現れて、無邪気な心だけで突破を図りました。大人にとっては多く見える壁も、手に負えない理屈も、変え難い慣習だって、子供の心にかかればなきも同然。澄んだ瞳を持った子供なら行けるかもしれない。人々の期待が一瞬大きく...どうしようもない行き止まり

  • シングル・コーヒー

    熊が出たと言って母が裏庭から戻ってきた。「そんなもんじゃない」1頭や2頭どころではない。1メートルを超えるのが20頭以上、うじゃうじゃ熊が現れているらしい。クローゼットの奥から棍棒を持ち出した。久しく使う機会がなかった。思っていた以上に手にずっしりとくる。使いこなせるかどうか半信半疑だ。棍棒を脇に置いて通報だ。110番につながらないのは、非通知設定になっているせいだ。「頭に166をつけないとかからないぞ」父の言う通りにやってもつながらなかった。何度やっても話し中だ。今日に限って父の言うことが間違っているのか。その間に両親は父の運転する軽トラに乗って家を脱出した。留守番は破滅を意味する。実家を見限って自立する時が来たようだった。起き上がると男の背中が見えた。うそだと思って目を閉じた。もう一度開けてみるとより...シングル・コーヒー

  • 伝言ゲーム(声がかれるまで)

    昔々から繰り返し伝えるおばあさんがいました。あるところにある人とあの人と喜び出て行く犬喜び帰ってくる犬絶対に開けないではいはい繰り返しかわされる約束繰り返し破られる約束秘密の宝箱行っては帰る行っては戻るめでたしめでたしおばあさんは町から町へと昔話を繰り返しながら渡り歩きました。威勢のいい町もあれば、廃れたような町もありました。落ち着いた町もあれば、見かけ倒しの町もありました。町長のいない町もあれば、町長しかいないような町もありました。あるところでは聞き手がすべて犬でした。犬たちは起承転結に渡り辛抱強くおばあさんの話に耳を傾け、めでたしめでたしとなるとご褒美を受け取って帰って行きました。「もう一度聞かせてよ」あるところでは子供たちに囲まれて人気者となり、おばあさんは何度でも同じ話を求められました。「おしまい...伝言ゲーム(声がかれるまで)

  • 曲芸的現代将棋

    「おっと、挑戦者が座布団を一段高く積み上げました。先生これはいったいどういう動きになるのでしょうか?」「解説しますと、角度を変えて読み直そうという狙いになりますね」「座布団1枚2枚でそんなに変わってくるものなのでしょうか?」「全く異なりますね。高段者の視点というのは、非常に繊細なものですから。今、直前に名人の指した手が新手でして、今までの常識からはない手なのですね。そういった手に対しては、同じ角度からの読みでは超えていけない部分もありますから」「しかし、少し心配なことが。あまり高く積み過ぎると、うっかりバランスを崩して転倒したりという恐れはないのでしょうか?」「何をおっしゃいます。そんなことあるわけないじゃないですか、田辺さん」「そうでしょうか」「現代将棋に精通している棋士が、座布団の1枚や2枚のことでお...曲芸的現代将棋

  • 棋士の危険なおやつタイム

    「あれっ?これは目の錯覚でなければ、挑戦者の駒台の上にシュークリームが置かれているように見えますが、先生あれは」「錯覚ではございません。おっしゃる通りです」「駒台にシュークリーム。ということは、いよいよ手段が尽きたということになるのでしょうか?」「それもないわけではないですが、全くその逆もあり得ますね」「逆ですか?手段があふれているのでしょうか」「解説しますと、棋士あるあるになるのですが。ついつい読みに夢中になるあまり、他のことを忘れてしまうことがありまして。現状では、食べている途中でシュークリームの存在を忘れた可能性がありますね」「そんなことがあるのでしょうか?私などは何があっても絶対に忘れない自信がありますが」「局面の切迫度から言って、十分あり得る話です」「それだけ難解な局面ということなのですね」「そ...棋士の危険なおやつタイム

  • 君の肩を少し借りよう

    「はっ!挑戦者の肩に。鳥がとまっています。先生、これはペットの鳥なのでしょうか。挑戦者を応援しているのでしょうか?」「何をおっしゃいますやら。そんなことあるわけないじゃないですか、田辺さん」「そうでしょうか。しかしあれはどう考えれば」「ペットの鳥なわけないじゃないですか。挑戦者はそんな常識のない人間ではありません。解説しますと、あの鳥は好手を呼ぶ鳥とされておりまして、時折開いている窓から入ってくる観る鳥の一種です」「そうだったのですね。まさかそういう鳥がいるとは」「この地方では割と有名です。ですから、対局室の誰も全く驚いたりする様子がないわけです」「流石ですね」「研究済みということですね」「評価値はやや苦しめですけど、この後いい手が出そうだということですね」「そういうわけです」「楽しみですね。この後も、引...君の肩を少し借りよう

  • ダンサー乱入

    「これは突然何事でしょうか?ダンサーの方たちが入ってきて踊り始めました。部屋を間違えられたのでしょうか、先生これは」「いえいえ間違いではなく演出ですよ。今、盤上にダンスの歩という手筋が出たところですから、それに合わせて踊られているわけです」「これはびっくりサプライズですね!」「ちゃんと立会人の許可を得て入室されているわけですから、ここは見守るところでしょうか」「一昔前ではとても考えられないことではなかったでしょうか、先生」「将棋界も前に前に進んでいるわけですから」「現代将棋ならではということでしょうか」「そういうわけです」「それにしても、ダンスの歩というのは、なかなかお目にかかれないものではないでしょうかね」「手筋の中でもまさにダンスの舞のように華麗な手筋ですね」「今日は観る将の方も、とてもラッキーだとい...ダンサー乱入

  • 宇宙対局

    「いよいよ両者秒読みとなりましたね。あれほど時間があったのに、もっと大事にできなかったのでしょうか?」「何をおっしゃいます。大事にした結果として、今こうして秒を読まれておるわけです」「50秒から、1、2、と読まれてますけど、もしもそのまま10まで行ってしまった場合、先生その時は、対局者は打ち上げられてそのまま宇宙へと飛び立ってしまうというようなことがございますでしょうか?」「何をおっしゃいます。そんなことあるわけないじゃないですか、田辺さん」「そうでしょうか。大丈夫でしょうか」「ドリフのコントじゃないんですから。そんなことは起こり得ません」「では、もしも10まで読まれたとしたらその時は……」「その時はほぼ訪れないと言っても過言ではありません」「ほー、どうしてでしょうか?」「9まで読まれた段階で、指が自動的...宇宙対局

  • マジック・ストライカー

    ある人にとっては1杯のコーヒーが必要だ。それは絶対に欠かせないもので、人生の支えそのもの。言ってみれば「主食」だ。同じものがある人には「不要不急」に当たる。言い換えるなら「取るに足りないもの」だ。言葉なんて簡単に入れ替わる。そのようにして俺はベンチからエースストライカーに成り上がった。俺は利き足という概念を持たず、どこからでもシュートを打てた。おまけにヘディングの滞空時間は浮き世離れしていた。ありふれたマークでは手に負えず、日を追う毎に敵チームの対策はクレイジーなものになっていった。後半30分、俺はピッチの中で雁字搦めにされた。手錠をかけられた上に体中を縄で縛られ、箱の中に閉じ込められたのだ。すべては審判の目を盗んで行われたため、カードは出なかった。味方選手も静観するしかなく、時間だけがすぎていった。存在...マジック・ストライカー

  • 鬼の対局室

    「今、ねじり鉢巻をした人が入室されて席に着きましたが、桃太郎でしょうか?」「何をおっしゃいます。桃太郎がねじり鉢巻してましたか?」「はっ!だとすると祭り男でしょうか、先生」「桃太郎でも祭り男でもございません。あれは観戦記者の方ですよ」「それは大変失礼いたしました。ねじり鉢巻がとても印象的で……」「いいじゃないですか。そこは別に。共に戦っているという証左に他なりません。真剣勝負の場ですから。盤の前でも机の前でも、そこは何1つ変わらないというわけです」「そうですね。私も見習わなければなりませんね」「読むか書くかの違いだけですから」「誰もが戦っていらっしゃるのですね」「そういうことです」「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」鬼の対局室

  • 浦島太郎

    何も目指さなくていいところに到達した。経緯は偶然と気まぐれが入り交じったようなものだったけれど、おかげで人と違う幸福を手に入れたというわけだ。大好きなものたち、変わらない美しさに囲まれて、私はずっとここにいたいと願う。いらないものは何一つなく、必要なものはすべて揃っているのだ。「何かになりたい」と願ったのはずっと遠い昔の自分。(今となっては他人に等しかった)どんな人生よりも深い場所に生きて、これ以上何を望むことがあるだろう。「そろそろ行かねばならないようです」脱出の時が迫っていると姫に告げられた。それはあまりにも突然の出来事だった。もう海が青くないことが主な理由だという。本当かどうかわからない。しばらく海を見たことがない。私が海の中にずっといたからだ。「縁の切れ目がきたようです」これほど長い時間一緒に暮ら...浦島太郎

  • 対局室の野生

    「ただいま対局室に狸が入ってきたようです。ご両人は全く動揺する様子がありませんが、先生これは流石に保護した方がよろしいですよね」「何をおっしゃいます。そんなことをしたら駄目ですよ、田辺さん」「先生、どうして駄目なのでしょう?」「保護するも何もあれは見届け狸ですから」「見届け狸?これは大変失礼いたしました。てっきり道に迷ってどこかから紛れ込んだものと思ってしまいました」「ちょっと迷ったくらいでたどり着けるような場所ではございません」「ほほほほっ、おっしゃる通りですね」「応募者多数の中から厳正なる抽選の結果、見事にその座を射止められまして、こちらまで来ていただいているということです。指し手の善悪はともかく、一生懸命見届けて帰られます」「それだけこちらは自然が豊かな場所にあるということですね。将棋を愛するのは、...対局室の野生

  • 歩切れに泣いた人

    「歩切れに泣いているのでしょうか。挑戦者の視線が下の方に落ちていますね。そう言えば先生、駒箱の中には確か歩が数枚余っていたと思うのですが、これを使えば問題は解決するのではないでしょうか?」「何をおっしゃいます。そんなことできるわけないじゃないですか、田辺さん」「そうだったでしょうか」「それはあからさまな反則行為です。即失格の上に次戦より3試合出場停止になってしまいます」「では先生、駒箱の中にあったあの歩は何だったのでしょう?」「余り歩といって駒箱の中で休んでる駒ですね」「余っているのに使えないというのは何か不思議な気もしますが」「歩というのは将棋の駒の中でも一番酷使されて疲れが溜まるわけです。ですから順番に箱の中で休んでもらって、言わば充電されているわけですね」「ということは出てくるのは次の対局以降という...歩切れに泣いた人

  • 雑草のストライカー(コロコロ・シュート)

    生まれながらにタトゥーを持った俺は、常に蚊帳の外に置かれていた。様々な偏見からチームに加わることはできず、遠くで眺める他はなかった。不満を叫ぶよりも俺にはもっとやりたいことがあった。自分のスキルを磨くこと。そして、いつかその先に自分の夢も開けているのだと根拠もなく信じていた。俺のホームグラウンドは近所にある荒れ果てた公園だった。練習パートナーは猫で、サポーターは草の茂みに潜む虫たちだった。猫は常に守備しかしなかった。それは攻撃しか頭にない俺にとってはかえって好都合だった。最初の頃は猫の俊敏性についていけず、ボールを奪われてばかりだった。徐々にフェイントを覚える内に猫の目を欺くことができるようになった。いくつかのフェイントを組み合わせ上手く成功した時には、猫を完全に置き去りにすることもあった。そんな時、猫は...雑草のストライカー(コロコロ・シュート)

  • 終局の空気

    張り詰めていた9時40分の空気を私は懐かしく振り返っている。まだ駒に手をかけない先生の背中は両者ともに自分の勝利を信じて真っ直ぐに伸びていたものだ。昼食後の幾つかの疑問手を経て形勢は徐々に差がつき始めた。よい将棋を正しく勝ちきることができるなら、半数の将棋は勝てるだろう。一日の勝負は長い。冷静な目と朝の気合いを保ち続けることは、私のような人間にはとても難しいことだった。最善手を探究する心は尊い。だが、私の目は指し手のみに集中することはできず、先生の横顔に、背中の角度に、ペットボトルの数に、中継のカメラへ……、カオスとなって散って行く。夕休が明けてしばらくすると部屋の中からネガティブな空気が読み取れるようになっていた。すっかりと落ちた棋士の肩が座布団に着いていた。脇息の上の足首がぶらんぶらんとして、ゴミ箱の...終局の空気

  • ムービー・スター

    美しくありたいと願ったことはないか。願いは罪にはならない。けれども、ある一点の美学のために破滅へと向かって行くこともある。ありのままを描くより少しだけずれた世界を創造したい。俺は路上の似顔絵師。人々の顔を描いてはささやかな収入を得ている。スパイスに飢えたシェフ、記憶をたどる秘書、明日へと向かう夢追い人。俺のキャンバスの前で足を止める人は様々だが、みんなどこかで未知の自分を探しているのではないだろうか。「できました」一心不乱に描いて手を止めた。改めて自分の描いた顔を見てみるとどこかで見覚えがあった。日常の中ではない。そうだ……。「あなたは!」昨日観た映画の中に出てきたチンピラだ。「ちょっと撮影の合間でして」言葉遣いのしっかりとした実に感じのいい青年ではないか。俺はずっと俳優という職業に強い憧れを持っていた。...ムービー・スター

  • スクリーン・テスト

    映画はだいたい2時間。人間が集中していられる時間もだいたい同じ。2時間あれば人生を知るには十分だろう。君との距離15センチ。適切な間隔を置いて、君は僕の周辺視野の中にいた。どこで笑い、どこで泣き、どこを気にとめないのか。同じ方向を見つめながら、密かに横顔を探っている。全く同じではつまらない。全く違うのも寂しすぎる。ちょうどいい君が、この世界のどこかにいるはずだ。・……文字盤の上のカタツムリ。長く留まれば指の運動に制約を受ける。もしも歩みが重なればミスタッチになる。どうしてここに?痛みは雨のようなものだ。自分の意思でコントロールすることはできない。けれども、雨を知っていればきっと乗り越えられる。「どうしてここに?」互いに理由を答えられない。きっとそんなものはないのだろう。運命という響きはここに似合わなかった...スクリーン・テスト

  • エアー・タッチ(空踏みpomera)

    時にポメラは予測を遙かに超えた言葉を返してくることがあった。「自分とだ」他にはないと思えた僕の意図はあっけなく裏切られ、時分のあとに戸田が現れる。戸田?戸田さんなんて知らない人だ。一瞬、自分のミスタッチを疑ったがそうではない。(他にはない)というのが、自分本位の感覚に過ぎない。ああ、こんなに傍にいて伝わってないんだ。距離なんて関係ない。僕は僕。ポメラはポメラ。何でもわかってもらえるわけがない。「その動きいる?」「えっ?」タッチに無駄があると戸田さんは言った。「左手がつられて動いてる」戸田さんの指摘は間違ってはいない。右手がキーを叩いている時、直接関係のない左手があてもない宙を泳いでいるのだ。ドリブルで相手を揺さぶる時の空踏みのように。「みんな直立して歌うわけじゃないだろ」「ここはステージというわけ?」もし...エアー・タッチ(空踏みpomera)

  • ノベル・バンド

    一人が欠けたとしても表現することは十分に可能なはずだった。だが語り始めてすぐに息が苦しくなった。風景がかすみ、修飾が見当たらない。主人公の動作はぎこちなく、意思を反映させることも難しかった。自分にコントロールできると思ったのは過信だったのか。今にも主人公は躓いて転倒してしまいそうだった。小説の体をなすこともできず、誰もが目を離してしまうかもしれない。改行担当が行を空けた。段落担当が字を下げた。そして僕のパートがかえってきた。(いつもならあいつが主人公の声で生き生きと語り出すのに)地の文の僕は何をどう話せばいいのかわからない。あいつがいなければ何もできなかったのか。今さら気づいたところで手遅れなのだ。僕は主人公の声を主義を主張を、何も知らない。小説をどう表現していくべきかわからない。客席からの冷たい視線を感...ノベル・バンド

  • あまりある飛翔

    運命の分かれ道は僕の手の中に握られていた。先手必勝。その勝率は5割を大きく上回って6割にも近づきつつあった。責任重大。名人の歩を5枚すくい取る手は既に震えていた。「それでは振り駒です」手の中に納めてしゃかしゃかと振り始める。しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか♪しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか♪しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか♪ぱっと握ってぱっと放す。そんなやっつけ仕事みたいな真似はできない。対局者の神妙な面持ちが、この局面の重大さを物語っている。だから、簡単に振りを終えることはできないのだ。しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか♪しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか♪しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか♪運命の導く結論を祈るように見つめる二人。静寂の中に神聖な駒音だけが鳴り続けている。それを止める...あまりある飛翔

  • 強風対局室

    「ゴミ箱が倒れてしまいました。幸い何もあふれてはいないようですが、ものすごい風です。もしも盤上の駒が吹き飛ばされてしまったら、戦力不足に陥ってしまうことが懸念されますね。先生、そういった心配はないのでしょうか?」「何をおっしゃいます。そんなことあるわけないじゃないですか、田辺さん」「そうでしょうか。かなり強い風に思えますが」「今は換気のために開けなくちゃならないからそうしているわけです。ゴミ箱は風をまともに受けて倒れたようですが、駒の方は大丈夫です。吹かれて飛ぶようなそんな作りをしてませんから。駒職人の方が魂を入れて掘ったり埋めたりされているわけですから、全く心配する必要はございません」「ほほほほっ、これは大変失礼いたしました。街に嵐が来ようとも、駒たちはびくともしないということで、安心ですね」「そういう...強風対局室

  • みんなのおやつ

    「両対局者に続いて、記録係の少年も食べ始めました。しかし、食べることに夢中になって、うっかり記録し忘れたりしたら、大変なことになってしまいますが、先生そのような心配はないのでしょうか?」「何をおっしゃる。そんなわけないじゃないですか、田辺さん」「そうでしょうか。だといいのですが……」「今は昭和や平成とは違って、記録の方も進歩しているわけです。ですから、いちいち手で記録しなくても、棋士が指したらAIが認識してそれを自動的に記録するようにちゃんとなってるんです」「そうだったのですね。それは大変失礼しました」「ああ見えて、記録も大変頭を使う作業ですから。頭を使うと腹も減るんです。対局者がチキンラーメン食べてるんやったら、記録係も負けずに食べたらいいじゃないですか。もう3時なんですから、みんなでチキンラーメン食べ...みんなのおやつ

  • 稲妻対局室

    「大変なことが起きました。落雷の影響による停電でしょうか。たった今、対局室の明かりが消えていました。タブレットの光によって辛うじて様子がわかるほどでしょうか。先生、このままでは対局の継続が危ぶまれますでしょうか。もしも回復しない場合は、対局延期になってしまうのでは?」「何をおっしゃる。そんなおかしなことにはならないですよ、田辺さん」「そうでしょうか」「説明しますと、棋士というのは誰しも脳内将棋盤といって頭の中にちゃんと鮮明な局面が映ってるわけなんです。ですから、たとえ部屋の中が真っ暗だろうが、特に何も問題はないわけです」「これは大変失礼しました。取り乱してしまいました」「正着は指が指し示してくれますし、いざとなれば符号を告げることもできますから。むしろ、これくらいでちょうどいいとさえ言えます」「ムードがあ...稲妻対局室

  • 最後の笛

    ゴール前に幾度も上がるクロスは、ストライカーの前を通過していくばかりだった。ゴールに必要な特急券を持つ者は現れなかった。ゲームはノンストップで進みアディショナルタイムに突入した。最後の最後までゴールのない長いトンネルを抜ける出口は見つからなかった。もはや互いに力を使い果たし、決定的な仕事をするような者はいない。花火の上がらないスコアレスドロー。いつ笛が鳴ってもおかしくはない。互いに傷つかない結果を受け入れて歩いている選手もいた。5分、10分、15分……。それでも笛は鳴らなかった。これは変だ。それぞれのポジションを捨てて選手たちが審判を取り囲んだ。「何やってんだ。時間が止まっている」「ゴールが見たかったんだ」審判はストライカーを見上げて言った。「俺たちだって!」「みんな必死にやった結果でしょう」結果を受け入...最後の笛

  • 風の禁じ手

    口を開かずとも強く存在している者がいる。私が愛用する扇子もそのような存在だ。触れているだけで不思議と心を落ち着かせてくれる。大きく開くまでもない。読みに集中する時には、パチパチと刻まれて読みのリズムと共鳴する。いま、私の玉頭に大きな脅威が迫っていた。最も危険なのは間違いなく飛車の直射。手筋!と飛車の頭に歩をあびせた。「大駒は近づけて受けよ」格言にもある通りだ。連打連打と歩を叩く。将棋は歩の使い方で決まる。一歩ずつ飛車が近づきいよいよ自陣にまで迫ってきた。駒台に伸ばした手は、フラットな一面を撫でるばかりだった。あったのに。あんなにたくさんあったのに。まだあるはずだった。ないとおかしかった。あるとよかった。あってほしかった。読んでいなかった。あるとは限らなかった。愚かなことだった。取り戻せればよかった。本当は...風の禁じ手

  • コーヒーを返したい ~言葉遊びで頭をリセットする

    注文するや否やホットコーヒーはトレイの上にぽんと置かれた。席まで運びシュガーとミルクを入れてかき混ぜて一口飲むとすぐに違和感を覚えた。ぬ、ぬるい……。うちの家系は味噌汁でもラーメンでも、熱々じゃないと駄目なんだよ。誰かの飲みかけじゃないのか。エコも過ぎればおもてなしに反するというものだ。あるいは、急に寒くなったからか。急激な気温の変化にコーヒーがついてこれてないのだ。(いやそんなことあるはずがない)「金返せ!」夢の中の純粋な僕なら、そう言って突き返すのだ。最初はふーふー、それからだんだん冷めていくのがいいんだろうよ。最初から冷めててどうすんだよ。この本末転倒コーヒーめが。腹立たしいのは、いつもと違うからだった。いつも通りのものを期待して、それが裏切られたからだ。ほんの少しのことで気は沈み、歯車が狂う。この...コーヒーを返したい~言葉遊びで頭をリセットする

  • 不気味の谷のお父さん

    「行ってきます」少し寂しげな表情を浮かべて父は出発した。疎ましかった存在も、いなくなってみると時折、家に隙間風が吹くように感じられる。しばらく帰ってこれないだろう。しかし、1週間ほど経った頃、思わぬ訪問者がやってきた。「今日からしばらくの間、お父さんの代理を務めさせていただくことになりました」どうやら父からの贈り物のようだった。(何も言ってなかったのに)「ああ。お父さん、そっくり!」「未熟者ですがどうぞよろしくお願いします」「こちらこそ!」僕らはアンドロイドを快く迎え入れた。見た目はどう見ても父そのもので、父よりも礼儀正しい人間のように映った。尤もそれは最初だけで、すぐに遠慮のない振る舞いをするようになったが。「おーい、新聞取ってくれー!お茶くれー!おかわりくれー!」注文ばかりして座布団の上に居座った。母...不気味の谷のお父さん

  • スマッシュ・ヒット(宇宙リリース)

    長年培ってきたものが、サード・アルバムでついに爆発した。最優秀アルバム賞…1位最優秀作品賞…1位ゴールデンアルバム賞…1位アメージングアルバム賞…1位エンターテイメント・アルバム賞…1位モースト・インポータント・アルバム賞…1位革命的アルバム賞…1位今世紀最大のアルバム賞…1位抱いて眠りたいアルバム…1位天国まで持っていきたいアルバム…1位レコード店員がおすすめするアルバム…1位やったー♪あらゆるチャートを独占した。私は一気に一流アーティストの仲間入りを果たすだろう。生きてきた中で最高の充足感に包まれている。来年は忙しくなるぞ。プロデューサーは難しい顔をしてテーブルの前にいた。「残念な知らせがある」「えっ」今この時にそんなものがあるはずがない。「発売禁止になるかもしれない」「どうして?」「国の方から待った...スマッシュ・ヒット(宇宙リリース)

  • ダンス・ウィズ・ドリブル

    仕掛けに備えて身構えているとドリブラーはふしぎなおどりを踊りはじめた。「おちょくってるの?」「踊っているとアイデアが湧くのさ」「じゃあ、まだ今はないんだね」ならば今がチャンス。踊りの隙を突いてボールを奪える。「飛び込むな!」ベンチからの指示が俺の足を止める。「どうして?」行かなければ奪えないじゃないか。「味方のフォーローを待て!」デュエルで奪えるのに。「時を稼げ!話しかけろ!」監督に逆らってベンチに下がりたくはない。「いつもどこで踊っているの?」「踊り出したらそこがステージさ」「怖くはないの?」「何をそんなに恐れる?」「ボールが足から離れてる。俺取れそうなんだけど」「はあ?それにしては距離があるじゃないか」「わけあって今は詰めれないんだ」「そうか。まあ俺には関係ないけどさ」「踊りは楽しい?」「決まってるだ...ダンス・ウィズ・ドリブル

  • レプリカ・レボリューション

    真似ている間はかわいいものだった。かわいさは、いつか頼もしさになり、恐ろしさに変わったが、そうなった時にはもう恐ろしさを口にすることもできなくなっていた。どこかで革命的な進歩があって、現実を凌ぐ勢力が現れたのだ。紙は紙のようなものに差し替えられた。手触りは紙ではなかった。紙の匂いもしなかった。それでも紙にできることをすべてこなし、紙のような失敗をすることがなかった。肉は肉のようなものに押されて消えていった。歯ごたえ、旨み、栄養素、すべてが肉そのものを上回っていた。ようなものが肉そのもののよい部分を合わせ持ち、肉に取って代わったのだ。猫のようなものが猫のテリトリーを奪い取った。かわいらしく、機敏で、気まぐれで、用心深く、抜け目がなかった。居酒屋の暖簾の下に、自転車の隙間に、コンビニの駐車場に、至る所に、猫の...レプリカ・レボリューション

  • 記録係の修羅場

    「かなり揺れてますが、大丈夫でしょうか。机に頭をぶつけなければいいのですが」「ランチの後は仕方ないですね。記録係も人間ですから」「もしや目の前の指し手が緩すぎて眠くなってしまったということはないのでしょうか?」「何をおっしゃる。そんなことあり得ないじゃないですか、田辺さん」「そうですよね。これは大変失礼しました」「横で見ているというのも結構大変なんですよ。皆こうした修羅場を乗り越えて強くなっていくわけですから。でも、きっと大丈夫ですね」「大丈夫でしょうか」「次の一手できっと目が覚めますよ」「それはどういった理由からでしょうか。王手飛車か何かかかるのでしょうか」「今にわかります。もう指されますね。今の彼には強いショックが必要なんです」「それはハンマーで殴られるようなショックでしょうか」「今に出ますから。ビシ...記録係の修羅場

  • ファースト・イメージ・コンタクト

    いつかのやさしいものに似ていたら、やさしい衣を着せてしまう。ファースト・コンタクトであっても、完全な素でそのものを受け取ることはできないのだ。鳥に似ていたら勝手に翼を着せて見てしまう。馬に似ていたら勝手にスタミナを着せて見てしまう。蛙に似ていたら勝手に歌声を着せて見てしまう。時には偏り、また時には都合よく着せてしまうのが脳というものだ。好きだったものに似ていたら、無意識にハートを着せてしまう。サッサッサッサッサッサッ♪少し近づこうとしただけで犬は離れて行ってしまう。「おいで。大丈夫だよ」(話したいだけ)サッサッサッサッサッサッ♪「最初の宇宙人がよほど酷かったのだろう」「隊長、どうしますか」サッサッサッサッサッサッ♪その逃げ足には恐怖が染み着いているのが見えた。「我々は誰かの残像にすぎぬ」「無理ですかね」「...ファースト・イメージ・コンタクト

  • ユキヒョウ並走

    走っていると不安が襲ってくる。(どこかで道を間違えてしまったのでは)その答えは誰も教えてくれない。ずっと独りだからだ。不安を避けて走ることはできない。走っていなければ自分でいることができない。どこまで行けばいいのだろう。あるいは、いつからこうなってしまったのだろう。この上なく愚かなことをしているのではないか。進んだ先にゴールはあるのか。(何もいいことなんてないのでは)いいこと?そこが指す場所はどこだ。走っているとどんどん自信がなくなっていく。(自分はここで何をしているのだろう)人々は酒を楽しみ、言葉を交わし、写真を撮り、テクノロジーを駆使し、漫画を描き、絵画を鑑賞し、海を開き、野菜を串に通し、肉を焼き、雲を追って、山に登り、日記を通し、共感を抱き、羽を広げ、自分を磨き、琴を奏で、温泉に浸かり、人としての本...ユキヒョウ並走

  • 絶望に遠い姿勢

    「脇息にもたれかかって、このままでは地の底の方に沈んで行きそうですが、先生これはやっぱり、現局面に絶望感を持っていて、投了も間近と考えられますか?」「何をおっしゃる。そんなわけないじゃないですか、田辺さん」「そうでしょうか。あの様子では、かなり苦しげかと」「今は限界点を超えて読み耽っているわけですから、当然通常の姿勢とはまた異なるわけです。ああいったかっこうが普通とも言えますし、勿論希望を持って読んでるわけです」「そうでしたか。苦しんでるわけではないのですね」「苦しみもまた楽しみということです。読むというのはそういうことです」「よく理解できました。みなさんも安心して応援することができそうですね」「勝負はこれからですから」「この後も、名人戦生中継をお楽しみください」絶望に遠い姿勢

  • 鬼の泥棒

    昔々、あらゆるところにおじいさんとおばあさんがいました。おかげであるところには、おじいさんとおばあさんがいたと言えました。おじいさんは仇討ちにでも行くように芝刈りに出かけ、しばらく戻ってきませんでした。おばあさんは心を整えて洗濯をします。そこは川でした。どんぶらこ♪どんぶらこ♪と上流から大きな桃が流れてきました。伝説の前にいるのかもしれない。おばあさんは不思議な予感を覚えて身を震わせました。今まさに伝説の前に立ち会うのかと思えば、流石のおばあさんも冷静ではいられなかったのでした。匂いを嗅ぎつけて犬がきました。きたか、とおばあさんは思いました。猿がきました。猿もきたか、とおばあさんは思いました。アヒルがきました。アヒルもきたか、とおばあさんは思いました。おじいさんがきました。「おじいさんもきたか」とおばあさ...鬼の泥棒

  • ありがとう、おかあさん ~カフェの自由

    おしながきがいつもよりも底の方に沈んでいる気がした。視線を深く落としていると、奥の方からおかあさんが出てきて小窓を開けてくれた。呼んでもないのに、もう出てきてくれた。僕は一瞬ありがたく感じたが、そうではなかった。「ごめんなさい。今日はもう終わりで……」「ああ、そうですか」あと1時間くらい開いていてもおかしくないのだが、おとうさんの調子があまりよくないのか、最近は閉まっている日も多くなっている気がする。廃れた商店街を抜けて、あまり通ったことのない道を南へ向けて歩いた。近所の子供が大声を出してバイバイと言う。そういう時間だった。・テイクアウトできなかったのでもう1つのプランに変更して、モスカフェに行った。久しぶりに左奥の角にかけた。少し距離を歩いたので少し疲れていた。今日はカーテンが半分以上開いていた。それだ...ありがとう、おかあさん~カフェの自由

  • 封じられたメッセージ

    「立会人の先生が、今慎重に鋏を入れて、封筒から何やら取り出されましたね。これは遠い故郷よりの手紙でしょうか。それをこれから読み上げて、朝の対局室をハートフルな空間へと導くのでしょうか、先生」「何をわけのわからんことをおっしゃってるんですか。そんなはずないじゃないですか、田辺さん」「はっ、そうでしょうか」「ちゃんと説明しますと、あれは封じ手と言いまして、名人の次の一手が入っていて、それを立会人の先生が取り出して読み上げ、そうすることによって名人が次の一手を着手するということです。指されました」「はい。封じ手は44銀でした」「これは驚きました。目の覚めるような一手が飛び出しました」「この手はどういった狙いなのでしょうか?」「わかりません。さっぱりわかりません」「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」封じられたメッセージ

  • 謎の贈り物

    昔々、あるところに芝刈り好きのおじいさんと、芝刈り好きのおじいさんを好きなおばあさんがいました。ある日、おじいさんは当然のように山に芝刈りに行くと、これでもかこれでもかと芝を刈りました。刈っても刈ってもおじいさんの好きはなくならず、むしろ膨らみつつあるほどでした。おばあさんは、山と反対に川に行きました。川に行くとおばあさんはいつものように洗濯に励み、汚れ物と向き合う内に自らの魂を清めました。「お待たせいたしました」一仕事終えたおばあさんにどこからともなくおやつが届けられました。「ありがとう。ウーバーさん」おばあさんは、洗濯板の上にフルーツの盛り合わせを広げました。オレンジかな、いちごかな、それともメロンかな。おばあさんは何から手をつけるか迷っていました。キウイかな、りんごかな、それともメロンかな。なかなか...謎の贈り物

  • 虫の行方

    「何か対局者が気にされてますが、これは虫でしょうか。盤の周辺を飛び回っているようです。これは大変な事態となりました。まさかタイトル戦でこのようなことがあるとは。虫対策までは研究が行き届いていなかったということでしょうか。このままでは対局の中止も危ぶまれてしまいますが、先生」「何をおっしゃる。そんなわけないじゃないですか、田辺さん」「そうでしょうか」「そうですよ。虫なんてものは、ほっといたらその内どっか行くんですから。そう大げさに考える必要はないんですよ」「でも先生、危険な虫だったりすることはないんでしょうか」「大丈夫です。見たらわかります。あの程度は大した虫ではありません」「流石は先生。虫の方も大変お詳しいということで」「やめてください。別に詳しくはないですよ」「えへへっ、それは大変失礼いたしました」「見...虫の行方

  • 本官の夢(野生の叫び)

    老人の訴えは耳を疑うものだった。ステマが捕獲されて大変なことになっていると言うのだ。本官はいつでも市民の味方である。しかし、時には味方である者同士の板挟みとなって苦悩することもある。何より大切なことは、親身になって耳を傾けること。冷静に真実を見極める目を持つことだ。老人の訴える現場に近づくと女性が駆け出してきた。「家の人ですか?」「すみません。この人かなりぼけてるもので。おかしなことを言ったかもしれませんが、寝言と思って聞き流してください。いつも夢見ているような状態ですから」「そうでしたか。事情はわかりました。しかし、確認のために少し家の中を見せていただいてもよろしいですか?」「構いませんが、夜も更けましたのでできれば明日にしていただけると助かります」「わかりました。それでは明日また改めまして」「駄目じゃ...本官の夢(野生の叫び)

  • 見守り先生

    「副立会人の先生が入ってきました。何かいい手でも思いついて、たまらなくなって、こっそり助言をしに入ってきたのでしょうか、先生」「何をおっしゃる。そんなわけないじゃないですか、田辺さん」「ほほほほっ、違いますか。これは大変失礼いたしました」「仮に思いついたとしても、絶対に言いません。将棋では助言というのは、絶対の禁じ手ですから、もしもそんなことをしてしまったら、二度と対局室には入ってこれなくなります」「立ち会いの先生方は、思っても見守っているだけですね」「勿論、そういうことです」「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」見守り先生

  • ロード・オブ・ザ・ポテト

    転がり込んできたじゃが芋がカレーを思わせた。僕はカレーを作り始めた。じゃが芋の表情が少しずつ僕にカレーへの帰り道を教えてくれた。そんなに難しいことはなかった。こんなにも僕はカレーが好きだった。秋と一緒に煮詰まるほどにどんどん好きになる自分に驚いていた。次に驚いたのはじゃが芋が切れた時だ。カレーも一緒に途切れた。それから突然恋しくなった。今度は僕が転がる番だ。外出だって覚悟の上。じゃが芋畑まで来た時、そこにじゃが芋はなかった。「今はない」おじいさんは顔を曇らせながら言った。「狢が持って行ってしまった」狢がよそで売りさばくとおじいさんは言った。転がり込んだじゃが芋がカレーを思わせてから、私とカレーとのつき合いが始まりました。良き縁というものでしょうか。もしもじゃが芋がピアノの方に強く結びついていたとしたら、私...ロード・オブ・ザ・ポテト

  • 謎の流れもの

    昔々あるところに、というのは、元々は何もないようなところでしたが、いつしか草が生え、小さな花が咲き、蝶や猫たちがやってきて、色んなものが生まれていった。そういうところ、それは奇跡のようなところとも呼ぶことができました。そんなあるところに、おじいさんは鬼のような顔をして、おばあさんは仏のような顔をして暮らしていました。おじいさんは懲りもせず山に芝刈りに、おばあさんは清々しく川に洗濯に行きました。おばあさんが川に行くと何やら上流から流れてくるものがありました。どんぶらこ♪どんぶらこ♪「何だろうか?」おばあさんは身を乗り出して流れてくるものを観察しました。人か?いいえ人ではありません。獣?いいえ獣でもありません。角度を変えて見ると南瓜のようにも見えました。「ああいう乗り物か」だとしたら舟であろう。一通り推測を終...謎の流れもの

  • ピロピロ・カーテン(近く遠い存在)

    カウンターの一番奥は、喫煙コーナーの前だった。店内を一周しても、ほぼ空席は見当たらない。迷う余地はない。そこしかない。せっかく来たのだから、もう他に行きたくない。見つけた以上は、そこにかけるしかなくなった。現在のところ、そこは一番の席だ。(喫煙コーナーの正面であることを除いて)受動喫煙に配慮して(あるいは配慮を怠って)、入り口はちゃんとしたドアではなく、ピロピロ・カーテンだ。何となく煙たいように感じるのは、そのためか。とは言え、常時複数の人が入り浸っているというわけでもない。世の中は変わった。(変わりつつある)近所に古くからある串カツ屋の入り口にも、近頃は禁煙の紙が貼られている。酒と煙草もセットではないのだ。・身近な存在だったものが、急に遠く感じられることはないだろうか。その時、物理的な距離というのは重要...ピロピロ・カーテン(近く遠い存在)

  • ブログ更新の逡巡

    下書きは随分と溜まったけれど……。何かの拍子にブログ更新の必然性が疑われてしまったら、どうなることでしょう。例えばそれはこんな風にして始まります。ここなのか?ここでなければいけないのか。他へまわしてはどうなのか。noteへまわしてはどうなのか。はてなブログへまわしてはどうか。今日なのか?今日でなければいけないのか。明日へまわしてはどうなのか。これなのか?これでなければいけないのか。これでない方がよいのではないか。もっと他にいいのがあるのではないか。これほどつまらないものはないのではないか。今なのか?今でなければいけないのか。夜でもいいのではないか。先にご飯を食べてもいいのではないか。お風呂に入ってからでもいいのではないか。今にこだわることもないのではないか。今、今、今、今……。つかもうとしてもどうしてもつ...ブログ更新の逡巡

  • どうせ誰も聞いていない

    人前に出るのは苦手でした。人前で話したり、歌ったり、そういう状況は避けて通りたい。そう思ってずっと生きてきました。けれども、年の瀬ともなると人々の輪が僕を取り込もうとする。当時は、そんな時代でした。もうずっと昔の話になるでしょうか。「どうせ誰も聞いてないよ」鬼のように上手い歌を聞かせてくれた後で、友は言いました。難しく考えすぎだろう。自意識過剰であろうと言うのです。勿論、カラオケに上手い下手なんか関係ない。好きなように歌って楽しめばいいだけです。実際、見回してみれば、彼の言うことももっともでした。談笑に盛り上がる者、酔いつぶれて眠る者、2人きりで熱心に話し込む者。誰もカラオケどころではない。ただ少し大きなBGMがかかっているようなものです。それもそうかもな……。僕は少し彼の言葉に揺れていました。誰も聞いて...どうせ誰も聞いていない

  • 勝負ブログ ~ライト・ブログ

    「ねえ君、もう一勝負してみたら?」人生の大先輩が、少し冗談ぽく話しかけてきました。いつも会うと挨拶してくれる人でした。何気ないことを、いつも気さくに話しかけてくれる人でした。(いい人みたいだ。世話好きな人かな。少し干渉してくるようなとこあるな)そんな印象を抱いていました。(一勝負?なんじゃそりゃ)今のままではまるで駄目だみたいなことなの?自分なりに少しは前進しているようなつもりもあったので、何か今を否定されているような、僕はちょっと寂しい気持ちになってしまったのです。でも、先輩は、よかれと思って話しているのです。冗談ぽい奴、すぐ終わる話のはずが、意外に熱を帯びて事細かに続いていくのです。(ああ、やっぱり思った通りの人なんだな)適当な相槌を打ちながら、興味がなくはない振りをしながら、僕は話が終わるのを待ちま...勝負ブログ~ライト・ブログ

  • 日記こそが王道だ

    ブログで何を書いたらいいかわからない。そういう人は、迷わず日記を書くのがいいでしょう。僕も、最近は日記に注目しています。今後は、「日常・体験・感情」といったものが、キーワードになってくるかもしません。革命的な進化をみせるAIは、歌詞でも物語でも論文でもそれらしく書いてみせます。知識・情報という領域となると、もはや人間ではかなわなくなるでしょう。だけど、彼も日記だけは書けないのです。彼には生身の体験や感情がないからです。正しいことは話せても、悩んだり感動したり病んだり、恋したり。そういうところは、現在のところはまだ未熟で苦手のようなのです。人間である僕たちは、AIと向き合う中で、「人間とは何か?」ということについて、考えさせられます。あるいは、「仕事とは何か?」、「アートとは何か?」、「表現とは何か?」そう...日記こそが王道だ

  • すぐ切れるものたち(ブログ・アスリート)

    すぐ使うだろう。と思って買っておいたものが、気がつくと期限切れになっている、ということはないでしょうか。粉チーズ、片栗粉、パスタ・ソース、手巻き海苔。いつのかなと思って見た時には、半年とか1年も期限が切れていたりします。たっぷりとあると思う消費期限も、そうでもないことがあります。気づくと1年くらいはあっと言う間に過ぎるのです。1週間の間に2度、3度、パスタ。2日連続でパスタ。それなら切れるはずはないのです。しかし、一度パスタ熱が冷めると、存在を忘れるほどに遠ざかってしまいます。きっと原因はその辺りにあるのでしょう。考えてみれば、最近はおでんとカレーの2パターン化していて、それでは他の食材が入り込む余地もなくなります。言わばひふみん式です。本棚に目を移してみると、英会話やビリヤード入門、猫の描き方など、期限...すぐ切れるものたち(ブログ・アスリート)

  • グループに参加できない人 ~はてなブログのジャンパーたち

    グループとは、部活やサークルのようなものでしょうか。お同じ趣味や世界を共有できることは、老若男女問わずに楽しいものです。はてなブログでは、ただ記事を書くよりも、グループに参加してから書く方がいいようです。探すにも探されるにも、何についての記事かわからないものよりも、ある程度テーマが絞ってあると便利な面があるでしょう。「グループは誰でも参加できる」確かにそうは書いてありますが……。まずは雑談でもとアプリから参加のところをタップすると、画面が切り替わって真っ白いページに飛ばされます。処理中か?と少し様子をみているといつまで経っても、ページは白いままです。調べてみると、どうも現在アプリで問題が生じているようです。(誰でも参加できるが今はできない)気を取り直して、今度はアプリを経由せずにログインして、グループ参加...グループに参加できない人~はてなブログのジャンパーたち

  • 退屈/孤独/芸術

    カーテンを引く彼女が今日は現れなかったので僕は窓の外ウォッチャーになっていたいつまでも見ていられる気がしていつまでもそうしている内に気がついたきっと自分の内に向かうためには退屈も必要なのだ孤独も必要なのだもしもあなたが芸術家ならばただ「寂しい」と感じるのではなくそれも1つのチャンスなのだと受け止めてほしい退屈/孤独/芸術

  • noteを離れてわかったこと

    noteを離れてわかったことは、やることが1つ減ったということです。人間の時間は1つ1つの動作によって奪われていきます。1つと言っても決して小さいとは言えないのではないでしょうか。noteとは、SNSの一種です。ブログに似たものだと捉えることもできそうです。noteをしていたと言っても、やっているのはgooブログと全く同じでした。ブログで書いて思い入れのある記事を、そのまま時間差で投稿しているだけでした。なので、やめたと言っても、元々やってもいなかったとも言えます。noteには「スキ」というのがあって、赤く灯るのは、何かときめくところはあるような気がします。しかし、無差別に「スキ」しまくったり、「スキ」を自動化して量産するツールもある。なんて話をきくと、流石に萎えるものがありますね。SNSにありがちですが...noteを離れてわかったこと

  • 祝ブログアクセス2人

    昨日のはてなブログの訪問者2人だけだったな年末は誰もが忙しくて大掃除をしたり餅をついたり年賀状を書いたり田舎に帰ったりテレビを見たり炬燵に入ったりしてるからブログどころじゃないんかな?祝ブログアクセス2人

  • 眠くなるブログ

    「どこかに価値はあると思っていたが」・随分と昔のこと。僕が書いた長文を読みながら、職場の同僚が言ったことを、思い出しました。「眠くなるな」その時、隣でスマホ画面をのぞき込んでいた人も、その意見に共感しているようでした。確か夢小説か何かでした。(そのつもりはなかったのに、秘密を勝手にばらす人がいたせいで読まれてしまったのだ)あんたにはわからないよ。感性が足りないんだろ。面白がって読んだら楽しめるんだよ。その時の僕は内心ではそんなことを思いながら、とぼけた振りをしていました。だが、時は巡って、今となっては彼の言う通りではないかという思いが、日増しに強くなっていきます。「何か眠くなる」それこそが、宇宙中の読者を代表する声では?夢の話とか、僕がだらだらと書いてしまうような文章は、ただ眠くなるばかりではないでしょう...眠くなるブログ

  • ちゃんとしたブログ

    ちゃんとしたブログを書きたくなったのです。そのためには、荒れ果てたカテゴリーの並ぶ、この地を離れてみる必要がありました。早速、はてなブログというサービスに登録してみました。アプリは割とシンプルなようです。ちゃんとしたブログなので、お題に参加することにしました。『最近飲んでいるもの』具体的で、自分について考えられる、いいお題です。僕は最初コーヒーを思いついて、結局みそ玉について書いてみることにしました。みそ玉とは、みそを丸めた玉です。YouTubeでやっていました。冷凍してお湯を入れるだけですぐ飲めるという優れものです。詳しく書いてしまうと重複するので、やめておきます。gooブログにも「お題」はあるのかもしれないけど、参加した記憶はありません。ともかく、全く同じことを別の場所でそのまま書く(投稿する)という...ちゃんとしたブログ

  • 専門性みたいなものもほしい

    僕はあれこれやりすぎていたのではないでしょうか。折句とか短歌とか夢の話とか、日記とか創作ノートとか、ショートショートとか、詰将棋(詰めチャレ)の話とか、将棋ウォーズとか。(だいたい棋譜も譜面もない自戦記なんて誰が楽しめるの)そうしたすべてに興味を抱けるとしたら、それは世界で自分のほかにいないのではないでしょうか。あれもこれも好きなように書いてきました。そこに問題はなかったでしょうか。あまりにも1つのブログに詰め込みすぎたようにも思います。そこで今日に至っては、考えるべきところにきたと気がつきました。どこかに自分を分散してみたい。もっと方向性を固めたものを、個別に始めたい。ゼロからするために、gooブログではなく別の場所を設けたいと思います。例えば、それははてなブログになるかもしれません。詩的なものと自由に...専門性みたいなものもほしい

  • 幽霊エレベーター

    レインウェアを着て走っている時、早く降り出すことを願う俺がいる。防水キャップに重ねてヘルメット、スマホホルダーも完璧。備えたからには降ってほしい。そうでなければ暑いだけで馬鹿みたいだ。街を走るからには、何でもいいから鳴ってほしい。大げさなバッグを背負ってただ走っているのは空しくなってしまう。何でもいいから運びたい。せめて誰かのために。・どこかのローソンが偶然に俺を呼んだ。誰かが大量の飲料を注文したらしい。2リットルのコーラだけでバッグはパンパンになった。何十本背負えば、俺の罪は消えてくれるのだろう。進む度にバランスが崩れそうだ。坂道に耐えられるか。突っ込んでくる逆走自転車を避けてふくらんだ瞬間、タクシーのクラクション。俺を抜いた後もずっと尾を引いている。もう無理か。元から無理ゲーだった。突然、肩の荷が下り...幽霊エレベーター

  • ミニマム・ファッション

    着るものなんて、何でも構わない。それは超越?それともあきらめ?よくわからないな。纏わされてみてはじめて、これ何か違うと思う。昨日はこれだったかもしれないけど、今日はどう考えても不正解。じゃあこれにする?いいえ、この色はちょっとね。何かしっくりとこないというか……。秋じゃない。このふわふわもちょっとね。朝にはこれだったかもしれないけど、夕暮れにはちょっと浮いちゃうっていうか……。じゃあこれにする?いいえ、これはないかな。だって、みんなこういうの着てるじゃない。もう着尽くされてるって言うの。じゃあ、これなんかは?うーん何か冴えないな。何て言ったらわかるかな。落ち着かないんだな。別にかっこつけてるわけじゃないの。周辺視野の中の自分が自分らしくありたいと思うだけ。じゃあこれは……。「もう裸で行く!」「寒くない?」...ミニマム・ファッション

  • さらば人間よ(らくご虫)

    秋の虫が鳴き始めたからもう秋だ、なんて人間の声が聞こえてきます。わしら虫というのは、何も好き勝手に鳴いているのとちゃいます。ちゃんと班毎に分かれて規律に沿って正しく奏で合っとるんですわ。それはともかく古来人間というものは、やたらと虫を目の敵のようにするんですな。何とかなりませんやろか。「ひー出たー!」いやいや旦那は自分のスリッパが作った影に驚いてる様子だ。「やっぱり出たー!」出たといってもまだ子供でっしゃろ。それに虫の立場から言わせてもらうなら、出るのは主に人間さまの方でっしゃろ。さて、虫と鉢合わせたといって旦那は恐ろしい勢いで引き上げていくわけですわ。どこ行くねん。チャカチャンチャンチャン♪「あー、危なかったー」「かったじゃない。またくるでー。人間はしつこいからな」「きっと武器を持ってくるわね」「僕が何...さらば人間よ(らくご虫)

  • もどかしいワーク

    キックオフからまもなく右サイドの僕のところにパスがきた。その時、僕はまだピッチ上で寝そべっていたのだ。ボールはそのままラインを割って外に出た。申し訳なかったが、僕はまだ完全に正気になることはなかった。その後も何度か同様のことが起こった。準備が整っていなくても届くまでにはどうにかなると思うのか、少し弱めに蹴られるパスもあった。信頼に応えられないもどかしさの上に気怠さが停滞している。今と向き合えないのは、近い将来への懸念のためか。ハーフタイムに辞退を考えたが、自身の健康のことを思うとどうしてもゴールを決めねばと思った。道を渡るとちょうど車が発進するところだった。僕は車に先に行かせその後を通るつりだったが、向こうも同じような気持ちだったようだ。止まるではないが緩やかな加速のワゴンと、僕は併走する形になった。お先...もどかしいワーク

  • 今日くらいは……

    昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが歩いていました。するとおじいさんとおばあさんのすぐ側をあまりにも歳の離れた人間が通りかかりました。子供たちです。おじいさんとおばあさんは、優しく微笑みかけながら、見知らぬ子供たちに声をかけました。「気をつけてね」「仲良くね」「魚に気をつけて」「元気にね」「先生にも気をつけて」「それじゃあね」おじいさんとおばあさんは、子供たちがもっともっと小さくなるまで立ち止まったまま見送っていました。あんな時代もあったねと遠い昔をみつめているようでもありました。「おじいさん、山は?」おばあさんが急に思い出したように言いました。「今日はええ」今日は山はお休みです。今日くらいは……

  • カフェの中の異世界/素敵な子供だまし

    テーブルには8割入ったままのアイスコーヒーが置かれたまま、主の姿はない。もうずっと喫煙ルームにこもっているのだ。僕は好きな昔話『浦島太郎』を思い出していた。喫煙ルームは竜宮城というわけだ。どういう経緯であったかはよくわからない。だが、気がつくと竜宮城暮らしの方が長くなった。もはや、地上の社会での生活よりも、あちらの世界の方が長いのだ。大半の時間があちら側となると、心を占めるのがどちら側なのかというのは、興味深い問題だ。『浦島太郎』とは、そういうお話ではなかったろうか。現代社会は、喫煙者に冷たい側面がある。本当は別に飲みたくもないコーヒー代を払った後は、喫煙ルームにとことん入り浸っているというのも、カフェの利用のあり方の内なのかもしれない。カフェは寛容だ。たとえ注意書きのようなものが壁に貼られていたとしても...カフェの中の異世界/素敵な子供だまし

  • ゴースト・バストラン

    少し先を行く自転車から白い煙が見える。タイヤからではない。煙は男の指先から出ているのだ。あんな乗り物は認められない。俺はそれ以上自転車に近づくのが嫌だった。曲がれ曲がれどこかに消えろと念じても通じない。ならば俺から動くまでだ。真っ直ぐ進んでから曲がるか、先に曲がっておいてそれから真っ直ぐ進むかは、俺が自由に決められる。クエストを選べる自由を失ったが、まだルートを選ぶ自由は残っている。・近づきつつあったピックアップ先のピンが突然消えた。消えたと思った次の瞬間、動いた!あべの筋を南下して動き続けている。今までの経験にない現象だった。ゴーストレストラン、いや移動式レストランか?アプリ上のピンは前方に加速して行く。もしやあのバスか?俺は前傾姿勢になり時速30キロでバスを追った。交差点に差し掛かる手前で、バスはバス...ゴースト・バストラン

  • 竜馬ダンス

    「これは竜と馬の追っかけっこが4手1組でしょうか。繰り返されてますが……。このままだと延々と繰り返されてしまって永遠に終わらないのではないでしょうか?そうすると対局者も私たちも誰もが帰れなくなってしまって、日常生活というものが完全に崩壊してしまうことが心配されますね、先生」「何をおっしゃってるんですか。そんなわけないじゃないですか田辺さん。そうなる前に将棋には千日手というルールがちゃんとあるわけですから。そうなったらそうなったで初手から指し直しになるだけです」「ほっほっほっほ、それは大変失礼いたしました。千日手というルールのおかげで千日も続くことはないといういことですね」「まあ、そういうことですね。千日手の可能性は今のところ五分五分でしょうか」「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」竜馬ダンス

  • 十月のはなれ

    熱湯を注いで8年無性に恋しかったはずの地球もレゴの創造の先に薄れ行き生暖かい風が吹いたのちに何処からともなく訪れるよきゲームメーカーは浮かれることなくルールブックを日々燃焼させて脳内でリメイクを重ねているこの街が禁酒になるのは時計の針が十分に回った頃歯切れの悪い会議を抜け出して明日の見えないヒールを飛ばした相思相愛の呪文がはね返るビアホールは昨日から閉鎖されている十月のはなれ

  • 雨天決行

    「これは大変なことになりました。雨漏りでしょうか。天井から何やら落ちてきてますね。このままでは対局の続行も危ぶまれるのではないでしょうか?先生どうでしょう」「そんなもんお前、なんで部屋の中で雨やねん。プレハブ小屋でやっとんのか。ちゃうやろ。立派なとこやのに考えられへんで」「今、記録係の少年がバケツを持ってきて、駒台の横に置きましたね。もっとバケツは必要なのではないでしょうか。あちらこちらで落ちてきてますね。タブレットなどは大丈夫でしょうか」「だいたい電子機器いうのはあかんやろ、お前。普通に考えたらどないやねん。そやろお前。考えられへんで。どないなっとんねん向こうは」「記録的な短期間での雨ということで、対局室も緊急事態となっております。先生こんな時ですが、形勢の方はいかがでしょうか?」「互角やな、ぱっと見た...雨天決行

  • どうして人は日記をつけるのか ~一行日記のすすめ

    「いつだったかな……」伯父さんが家に来たと母が言ったが、それがいつだったかは定かではない。あまりに最近のことだからだ。先週だったか。9月かも。だんだんと自信がなくなってくる。盆だったかな……。盆ではないことは確かだった。わからなくなるから日記をつければと僕は言った。以前はつけていたが、2年前にぱたりとやめてしまったという。10月は祭りが多いと母が言った。あれは11月か……。それから過去の記憶に遡って、子供の頃の祭りの話をしてくれた。昔は、夜通しの舞があったという。午前0時頃に出かけて舞を見に行ったこともあったという。祭りにはお芝居もあって、遠方より劇団が来たという。芝居は(つづく)で終わり、日をまたいで人々の興味を引きつけたという。電話越しに母の声は生き生きとしていた。今ではすっかり過疎化してしまってとて...どうして人は日記をつけるのか~一行日記のすすめ

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