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  • オヤジのあくび683

    草野友子「墨子」を読む 非攻。墨子は侵略戦争を大量殺人と位置付け、なぜこれが不義でないのかと主張します。そして実際に戦闘集団を組織して、大国から攻撃を受けている弱小国の救援にあたるのです。実際にどのようにして城を守ればよいのか、その具体的な方法が書かれています。 墨子は職人出身であると言われていますが、概して貴族に批判的な論調が目立ちます。その例が厚葬久喪と音楽。長い期間喪に服することを批判しています。今日本ではコロナ禍以来家族葬が増えていますが、まるでその時代を見通していたかのようですね。音楽についても、それがどうして民の利益に繋がるのかと批判的です。貴族が音楽に親しむ様子とその影で人々が生…

  • オヤジのあくび682

    田丸ようすけ 漫画「竜樹」をKindleで読む 仏教に取材した漫画と言えば、手塚治虫の「ブッダ」を読んで以来になります。手塚治虫は様々なエピソードを元に彼一流の脚色を施していますが、本書も架空の人物を恋人役や弟子として配置するなど、劇画としての演出を施しているようです。 さてキリスト教のアウグスティヌスが自身の履歴を振り返って、肉欲に支配されていた時期を告白していますが、竜樹も王家の女官に散々な悪行を働いている。このくだりは大いなる反省が次への進歩成長につながると言う暗示でしょうか。 最終章で故郷南インドの王様に戦争を止めるように諌めるのですが、現在戦争をけしかけている国の政治家に読んでほしい…

  • オヤジのあくび681

    色摩力夫「アメリゴ・ヴェスプッチ」を読む。 なぜ、彼についてちゃんと学んでいないのか、本書の冒頭で明らかにされている。彼の業績に関する資料が少ないのだ。けれど明らかなのは彼の親友であるコロンブスが野心に満ちた航海者であったのに比べ、ヴェスプッチは知的な好奇心から、船長や航海士ではなく天文地理学者として「新世界」を4回訪れているのです。 後年新しい大陸の名前が、アメリゴにちなんでアメリカと名付けられたが、すでになくなっていた彼はその事実を知らない。 コロンブスの新大陸発見の功績を横取りしたという説があるのですが、コロンブスは発見した島を西インド諸島と理解して地理的に大きな勘違いをしている。緯度経…

  • オヤジのあくび680

    F・ショットレンダー著、石橋長英訳「エルウィン フォン ベルツ」を読む 東京医学所(東大医学部)教授、医学博士としての業績という、いわゆる専門分野を踏み越えて、ベルツ博士はさまざまな文化に興味を示している。 休日は乗馬、江ノ島まで遠出することもあったという。音楽は四部合唱団でベースパートを歌っていた。さらには日本の伝統文化に造詣を深め、造形美術や工芸品の蒐集に止まらず口伝の神話や童話の形で残された伝説に強い関心を持ったという。この広い好奇心のあり方が、どこか鎖国下で来日していたドイツ人医師シーボルトの残像と重なる気がしてしまう。 抜き書き本書p220〜 1896年2月26日の記念講演より 西洋…

  • オヤジのあくび679

    原田恒弘編「群馬歴史散歩 173号」を読む。 飯尾宗祇 いのちあらばまたもきてみむ草津なる 神のいでゆはあやにかしこき 草津温泉は有名な観光地であるし、ボク自身もリピーターを自負しています。そこで本書からは、今までボクが知らなかったことのみを抜き書き的に拾い出してみます。 湯畑の下に落ちている湯滝のそばに燈篭が立っている。かつてはこの傍に不動堂があり文政十三年伊勢太々講中の人々によって寄進された。川端龍子の出世作「霊泉由来」はこの燈篭を元にしている。 戦国時代も傷ついた兵士たちに、草津温泉での効能は有名で、温泉で乱暴狼藉をはたらき、一般人が入れなくなったことがあった様です。武田信玄がそのような…

  • オヤジのあくび678

    エリック・ルーセル著、山口俊章・山口俊洋訳「ドゴール」を読む2 チャーチルにファシスト・独裁者的な雰囲気を指摘されているドゴールは、ソ連とも接触しつつ共産主義者が大勢いるレジスタンスを鼓舞しなければならなかった。戦後壊滅的な被害を受けたフランス国内の産業を国有化したのは、他ならぬドゴールであります。単なる保守主義者や共和主義者とは一線を画している独自の立ち位置が本書から見えてきます。 しかし、戦後のフランスの行方を託されたかに見えたドゴールは、突如政界から身を引いてしまうのです。その後政治のど真ん中に戻るまで実に12年! 大戦中も混乱の渦中に置かれた時、彼は一旦その場を離れて、孰考する環境を確…

  • オヤジのあくび677

    エリック・ルーセル著、山口俊章・山口俊洋訳「ドゴール」を読む1 愛国主義って何だろう。ドゴール伝を読み進めながらこの問いについてボクなりに考えてみたい。 ドゴールのゴールとはガリアの意味があると言う。カエサルの戦記にあるように現在のフランスはガリアだったのだ。彼にこの国土にずっと暮らしてきた一族としての意識はあっただろう。そしてそれがどうやってフランスの独立を守るかという軍人として政治家としての行動に結びついている気がします。 ドゴールが軍人として、第一次世界大戦でドイツ軍と戦った時、彼は捕虜となったのですが捕虜になるたびに収容所から脱走している。その後彼は戦車が戦力の中心になると考え、政府に…

  • オヤジのあくび676

    高遠弘美「物語 パリの歴史」を読む2 本書の中でも、かなりの分量を割いて書かれているのが、フランス革命とその後のナポレオン。思い出せばフランス革命を「やばい」と感じた周辺国がちょっかいを出そうとして、逆にナポレオンに攻められてしまったのでしたね。 第二共和制の後に登場したフランス最後の皇帝ナポレオン3世の生き様も波瀾万丈でおもしろい。本書は現在のパリがいかにしてできたのかについて語っているのですが、その中でナポレオン3世の指示によって造られたものがとても多いことがわかります。中央市場、道路、下水道、ガスなど、彼のパリ改造計画は失業者を減らすことに結びつきました。「国民主権を標榜する皇帝」という…

  • オヤジのあくび675

    高遠弘美「物語 パリの歴史」を読む1 オヤジのあくび674でシャルルマーニュの本を読んだのですが、彼はエクス・ラ・シャペル(アーヘン)を中心に活動していたので、パリの話があまり出てこない。はて? ヴァイキング(ノルマン人)による侵攻からパリを守った人として、西フランク王ロベール家のウードがいます。その後シャルルマーニュの系統であるカロリング家が途絶えるとカペー朝の時代となります。治めていた領土はバリ近郊のみでしたが、987年バリを中心としたカペー王朝がここで成立します。 シテ島にあった王宮が再建され、やがて王宮はルーブル宮(1190年〜城塞として建築がスタートした)へと移ります。しかしながら、…

  • オヤジのあくび674

    ロベール・フォルツ 大島誠編訳「シャルルマーニュの戴冠」を読む2 世界史のおさらいです。ローマにはカトリック教会の頂点に立つ教皇がいらっしゃる。一方ローマ帝国は、テオドシウス1世の時に皇帝がコンスタンティノープルに移り、ビザンツ帝国とか東ローマ帝国と呼ばれた国になる。西ヨーロッパへの影響力はどんどん弱まっていき、ローマ帝国が東西に分かれたと学習する。その後数百年が経ち、ガリア・ゲルマニア・イタリアを統治する王、シャルルマーニュが登場し、戴冠式を経て西側の皇帝になるわけですね。 最近日本でお札の肖像が新しくなりましたが、戴冠式後シャルルの顔も早速コインになります。波風が立つのはビザンツ帝国側のイ…

  • オヤジのあくび673

    ロベール・フォルツ 大島誠編訳「シャルルマーニュの戴冠」を読む1 初めて習うものにとって、ドイツ語とフランス語は大きく異なっている。ドイツ語が西ゲルマン祖語から長い時間をかけてドイツに浸透して知ったのに対して、フランス語は、ざっくり俗ラテン語→ロマンス語→フランス語という過程を辿っており、ローマ帝国の属州ガリアであった名残が感じられる。 古代から中世にかけて、周辺国へ攻め入り広大な版図を実現した王は何人もいる。シャルルマーニュもその一人で、現在のドイツ・フランス・北イタリアを含める広大なフランク王国を築いた。彼が建設した都はエックス・ラ・シャペル(アーヘン)で、大聖堂がユネスコの世界遺産に登録…

  • オヤジのあくび672

    安田祐輔「未来が変わる勉強法」を読む キズキ共育塾では、そのまま学校の先生を続けていたら、まず体験できなかったようなケースにいくつも出会いました。予定通りに生徒が現れないということもありまして、生徒が来ないのでその合間にこの本を読んでいるわけです。皆様、「けしからんじゃないか!」と眉を吊り上げてはいけません。ここはそのような子をサポートするための塾なのですから。 生徒に合った学習と口先で標榜することはやさしくても「言うは易し行うは難し」なわけです。 キズキ共育塾で教える内容は、もちろん予習が必要ですし、その他ボクには表現系の趣味(=合唱・琵琶)があって、両方とも予習復習が欠かせません。けれど上…

  • オヤジのあくび671

    鈴木康久「西ゴート王国の遺産」を読む2 外国に門を閉ざし、国内がほどほどに平和であると、国を防衛する力を衰えてしまうようだ。江戸時代のベリー来航時がそうだったし、イスラム勢力が入ってきた時の西ゴート王国もそうだった。711年滅亡。 イスラム勢力に負けて王国を失ってしまったので西ゴート王国の人々は人頭税を支払う義務を負った。しかしながら信じる宗教については寛容な政策がとられたので、キリスト教徒もユダヤ教徒も改宗を迫られたわけではなかった。 西ゴート王国滅亡から7年後、718年ペラーヨがアスティリア王国を興す、722年にペラーヨはイスラム勢力に勝利しており、この時からレコンキスタが開始されたとされ…

  • オヤジのあくび670

    鈴木康久「西ゴート王国の遺産」を読む1 ピレネー山脈より西、現在スペインやポルトガルがある地域の歴史は、イスラム勢力とカトリックが入れ替わったり、国の名前もコロコロ変わって、単線型ではない。本書はケルト(セルト)人と原住民のイベロ人の混血であるセルティベロ族の成立から始めている。その後地中海沿岸ではフェニキア人やローマ人、ギリシア人が植民都市を築いて、勢力争いを繰り広げていたので、有名なローマとカルタゴのポエニ戦争やハニンバル(アニバル)将軍のことが語られる。 私たちが普段慣れ親しんでいる発音が、本書ではスペイン語の発音で語られるため、文中のカタカナ表記を( )書きすることにしました。 最近世…

  • オヤジのあくび669

    高田康成「キケロ」を読む 「ローマの雄弁の最高の父」であり、同時に「軽佻浮薄な不幸な老人」でもある。いったいこの真反対な言われようから人々は、どのようなキケロ像を描けばよいのだろう。 まずは雄弁家としてのキケロ。スッラから逃れるようにギリシアへ留学に向かった20代の頃。その頃の彼は胃弱で痩せており、スピーチは粗く柔らかさに欠けており、激しい熱のこもった話し方になると調子が高くなり、周りがハラハラする程だったという。発声法が身についていなかったのだ。これは現代の日本の政治家にも言いたい。まずは基礎的な発声技術を身につけてほしい。 彼は「発想論」の始めでこのように書く。「雄弁なき英知は国政に有益で…

  • オヤジのあくび668

    橋場弦「古代ギリシアの民主政」を読む3 アテナイを細かく分割された単位が区。この区に区民会という会議があり、国家レベルで論じられる軍事・外交以外の生活上のほとんどの問題が論じられていました。国との関係は大きな歯車と小さな歯車の組み合わせで考えるとわかりやすいと筆者は言います。 中央集権制で国に決めたことがトップダウンで地方から各地域へと指示されている現代の国家とかなり様相が違います。 無頭性。リーダー・代表を置かずに「順ぐりに支配し、支配される」関係。市民一人一人が武装し、警備が必要な場面は異民族の国有奴隷である弓兵が担う。 ソクラテスは「国家の歳出歳入額、陸海軍の現有兵力、鉱山の採掘高、穀物…

  • オヤジのあくび667

    橋場弦「古代ギリシアの民主政」を読む2 陶片追放によって国外へ追放された人は13人。従来は僭主の出現を防ぐためと言われてきたが、本書では有力貴族同士の破滅的な対立を防ぐためという説を掲げています。なお国外追放は永久ではなく、再び戻ることができました。 また陶片に名前を書くためには、文字を書けることが前提だと感じますが、たぶん大部分の人は代筆を依頼していました。当時のアテナイの識字率は15%程度。公教育制度がまだ整っていない時代の話なのです。 さてアテナイは、程なくして厳しい状況に追い込まれます。そしてその引き金となったのは27年も続いたスパルタ・シラクサとのペロポネソス戦争でした。当初籠城のた…

  • オヤジのあくび666

    橋場弦「古代ギリシアの民主政」を読む1 始めに、成文法を定めて公正な裁判が可能になったクレタ島や声の大きさが採決に影響した(=ヤジ?)民主政とは言い難いスパルタの例が語られる。一つの制度を定めるとそこに安住し硬直化してしまうのは、現代もまったく同じであり、永久革命としての民主主義を掲げた丸山眞男の言葉が蘇ってくる。 その中でやはり語られるのが、アテナイの民主政です。アテナイそのものは他のポリスよりもかなり大きく日本で言えば神奈川県程度の面積があったと言います。政治に携わる者をアルコンと呼ぶのですが、互いの名誉欲や権益欲が絡んでなかなか決まらない。不在の状態は今のアナーキーの語源になっています。…

  • オヤジのあくび665

    ハイディ・グラント・ハルパーソン 児島修訳「やってのける」を読む 序章でラディッシュを使った実験で我慢を強いられ、苦いラディッシュを食べさせられた被験者は、自制心を消耗していたという記述が出てきます。ストレスが多い環境に居続けると人は自制心を消耗してしまう。これはさまざまなトラブルを引き起こしている環境がかなりストレスに満ちていることからも類推できます。けれど筆者は自制心は鍛えることができると言います。例えば、エクササイズをする、家計簿をつける、食事の内容を記録するなどの「鍛錬」が自制心を鍛えることに繋がると言います。 目標設定ついては、長短比較が有効。目標を達成した時に得られるもの(長)と、…

  • オヤジのあくび664

    大塚ひかり「くそじじいとくそばばあの日本史」を読む この本で取り上げられている人々は、ご長寿です。ほとんど神話の世界の住人はともかくとして、意外なほど昔の平均年齢が高かったことに驚いてしまう。現在定年を70歳に引き上げようという論議が出ているけれど、律令国家の官僚も定年は70歳だったのだ。それまで勤め上げた人が大勢いたのでしょう。 老いて歯止めが効かなくなった例として、朝鮮出兵を強行した豊臣秀吉が登場しますし、もはや性欲の塊と化した一休禅師などが登場します。 実はボクの親族が役所で総合案内をしているのですが、毎日高齢者が大勢訪れてくるらしい。なかなか個性的な方々が多いらしい。高齢者でちょいと扱…

  • オヤジのあくび663

    鈴木鶴子「江藤新平と明治維新」を読む4 西郷隆盛が政府から去ることに、大久保は、なぜ平然としていられたのだろう。お膝元の近衛兵を統括していた元帥は西郷隆盛その人で、実際西郷隆盛が鹿児島に帰ると同時にかなりの兵が帰郷してしまう。しかし、すでに政府は徴兵令を敷いており、戊辰戦争を戦った兵隊に頼らなくても大丈夫になりつつあったのだ。 いよいよ本書も最終盤となり佐賀戦争が語られる。戊辰戦争以前の動きで佐賀藩は薩長両藩に確かに遅れを取った。その挽回なのか、いざ征韓! と、はやり立ち憂国党や征韓党なる集団ができていた。新平が佐賀に赴いたのは、当初これらの集団を鎮撫するためであった。 しかし、これは罠で政府…

  • オヤジのあくび662

    鈴木鶴子「江藤新平と明治維新」を読む3 どの時代にも立場や人間関係を利用して、私腹を肥やす者がいて、最近も政党の不正会計を正す論議が立法府で行われている。江藤新平の時代には、それは薩長閥の要人でありそれにぶら下がる商人たちであった。江藤新平は、司法卿として軍会計と商人の癒着を追求していく。既得権に胡座をかいていた人々が、新平を煙たがったのも無理はない。 明治政府の幹部は、当時下級武士出身者が多かったが、法律をしっかり教育されていないルーズさが露呈している。法治国家とか三権分立とかを前提にした至極真っ当な論議が噛み合わなかったのだろう。 新平が参考にしていた制度は、革命後のフランス民法である。そ…

  • オヤジのあくび661

    鈴木鶴子「江藤新平と明治維新」を読む2 話は江戸城無血開城から。西郷隆盛と勝海舟の会談で決まった史実は有名ですが、その裏側で江藤新平が奔走していた話は、この本で初めて知りました。日本が内戦状態に入れば英仏の思うツボとなることを恐れて走り回ったのでしょう。やがて彰義隊が立て篭もる上野に向けて、本郷加賀藩邸から撃たれたのが佐賀藩のアームストロング砲。その合図で動いた長州兵とともに、勝敗を決する兵器となりました。 さて当時の江戸市民(新平はすでに市民という言葉を使っている)132万人に対して、どのような民政を行うか。いよいよ江藤新平の本領発揮です。官軍は占領軍のような存在ですから、政策が失敗すれば混…

  • オヤジのあくび660

    鈴木鶴子「江藤新平と明治維新」を読む1 江藤新平は著者の大伯父でして、逆賊扱いされてきた新平への思いが著作のエネルギーになったと思われます。 新平は、佐賀弘道館で大木喬任や副島種臣と知り合う。当時の弘道館では、水戸学を取り入れた国学を講じていて、先祖が南朝側であった新平は大いに共感したらしい。やがて新平は義祭同盟という尊王活動に加わる。この同盟の中からは、島義勇、副島種臣、大木喬任、大隈重信など明治政府で活躍する人材が出ているが、藩政に対しては藩主鍋島直正が藩政改革に爆進中でもあり、藩政を改革する勢力とはならなかったようであります。 教授の退任や長崎留学を断るなどして、大木喬任と共に新平は弘道…

  • オヤジのあくび659

    片野ゆか「動物翻訳」を読む2 宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」でアオサギが話題になったが、本職に登場する動物は、アフリカハゲコウ。知らない鳥だったので少し調べると、腐肉を食べる大型鳥らしい。 担当者のミッションは、フリーフライト。つまり大空を自由に飛翔させることだ。鳥が大空を飛ぶのは当たり前の話だけど、それを動物園で実現するとなると、だいぶ勝手が違う。ちゃんと飼育員のところへ戻って来られるようにしなければならないのだ。 恐れていたことは、起きてしまった。動物園のある山口県秋吉台から飛び立った雌鶏のキンが和歌山県の御坊市まで飛んだのだ。これを人間=動物園側の視点ではロストと言うべきだろうが、…

  • オヤジのあくび658

    片野ゆか「動物翻訳」を読む1 プロローグを読むと、変化のない単調な生活を送っていると飽き飽きしてしまうのは、人間も動物園の飼育動物も同じこと。環境エンリッチメントという飼育動物の幸福な暮らしを実現するための方策が模索されるようになったとあります。 はじめに登場するのはお馴染みのペンギン。日本は世界で最も多くペンギンを飼育している国なのだそうだ。ペンギンと言えば南極の氷の世界を思い浮かべるが、フンボルトペンギンは自然豊かな島に営巣している。動物園の中に島の自然を再現しよう=緑のペンギン島!と言う世界初の試みが紹介される。 可愛らしいのは、長野から埼玉へ移送されてきた卵が孵ったエピソード。ヒナの名…

  • オヤジのあくび657

    伊藤亜紗「目の見えない人は世界をどう見ているのか」を読む 本書の始めの方に、ゾウとアリでは時間の感じ方が違う話が出てきます。また客観的な情報が個人によって異なる意味に捉えられることがある話。視覚障害の皆様には、晴眼者には感じられない感覚があるのだとも。第一章空間では、目が見えないからこそ脳にスペースができて、視覚情報への対応に追われている晴眼者とは違う空間把握ができる。例えば見える人が二次元的に、例えば富士山を絵に描いたように認識するのに対して、目が見えない人は三次元的に立体的に捉えると。 実は学校教員をしていた頃、視覚障害の疑似体験としてアイマスクを使ったことがありました。けれど筆者はそれは…

  • オヤジのあくび656

    栗山英樹「栗山ノート2」を読む 「栗山ノートを読んだら、古典を読まなくてもいいね」と先輩から言われたエピソードが登場します。この本の目次には名言・格言が並んでいます。野球監督としての判断が何に支えられていたのか? が垣間見える趣向なのです。少々説法臭いのですが、元々栗山監督は教員養成のための大学出身でして、その辺りも繋がっているのかもしれません。 彼の信条が伺える言葉が刮目相待。栗山流解釈は「選手たちの成長や進歩を信じて前へ進んでいく」です。ボク自身、学校を辞めた後も、別の教室で生徒と接する機会を持ち続けているのですが、肝に銘じたい言葉と感じました。 WBC日本代表監督として、どんな場面で自分…

  • オヤジのあくび655

    養老孟司「ものがわかるということ」を読む 養老先生が大学生の頃、家庭教師で中学生に数学を教えていた経験から「なぜやらなきゃならないのか、よくわからないけれど、なにしろやるしか仕方がない。」ことがあると本書は始まる。 情報社会とは、言葉や記号が変わらないのに人間は変化すると言うギャップに課題がある。生身の人間の生の感覚、言葉や記号では伝えられない変化していく感覚の大切さを養老さんは説いています。しかし人間そのものが情報化してしまった状態を養老さんは情報化社会と呼んでいます。 その延長で、個性とは身体にあると。心は共通性を基盤にしているが、身体こそが唯一無二なのだと。学んだことが「身につく」とは身…

  • オヤジのあくび654

    橘玲「テクノ・リバタリアン」をkindleで読む 序章において、著者は、保守とリベラル・共同体主義とリベラリズム・功利主義と市場原理の否定・・様々な対立軸を提示しながら、タイトルにもなっているテクノ・リバタリアンの輪郭を浮かび上がらせている。保守とリベラルは政治的な立ち位置を表すためによく使われるが、現時点で自分が共感できる思想は何か? 振り返る作業にも有効な気がします。 続いてシステム化された脳と共感脳の比較が出てくる。シリコンバレーの成功者たちは、システム化された脳によって、高度な数理処理能力を発揮しているが、他者に共感する力が弱いと、その典型をイーロン・マスクを例にして語っている。 ピー…

  • オヤジのあくび653

    藤岡換太郎「フォッサマグナ」を読む2 フォッサマグナと言えば、糸魚川〜静岡ラインと思っていたのですが、これはあくまでも西側のラインらしい。しかもフォッサマグナの北側と南側では地質が違っていて、北側(大雑把に言って諏訪湖より北)は、日本海のできかたと関係があり、南側は伊豆半島や丹沢山塊のできかた=フィリピン海プレートの動きと関係している。さらに西日本から伸びてきた中央構造線がフォッサマグナのところで一旦姿を消して、関東山地の東側=下仁田あたりでまた現れる。さらに地下6000mより深いところはわからず、フォッサマグナの深さも現時点ではよくわかっていないと言う。 何だ、わかっていないことだらけじゃん…

  • オヤジのあくび652

    藤岡換太郎「フォッサマグナ」を読む1 本書は地質学の本なのですが、最初に登場するのは若きドイツ人ナウマンです。あのナウマンゾウに名前を残している科学者は地質学者だったのですね。ミュンヘン大学で学び20歳で博士号を取得したナウマンは、お雇い外国人教師として来日し21歳で新設間もない東京大学理学部の教授となります。 彼が打ち込んだ仕事は、日本の地質図作成でした。来日直後から調査旅行に出かけています。野辺山近くの平沢という集落で、嵐の翌朝ナウマンは見たこともない風景を目にします。細長い土地の両側に2000m以上の山が壁のように聳えているのです。後年彼はこの地溝帯をフォッサマグナ(ラテン語で巨大な溝)…

  • オヤジのあくび651

    坂本龍一「音楽は自由にする」を読む2 坂本龍一さんは自由劇場繋がりで、やがて鈴木茂に会うのですが、それまで「はっぴいえんど」を聴いたことががなかったと告白しています。正直クラシックバリバリ芸大作曲科卒業の坂本とポップミュージックどっぷりの仲間との間に辿ってきた音楽履歴の溝を感じます。だって「はっぴいえんど」は、すでに新しいポップスの開拓者として広く知られる存在だったわけですから。続いて山下達郎に会い、大瀧詠一に会い、ようやく本書に細野晴臣さんが登場するのですね。クラシックとポップスの溝と書きましたが、それをラクに跨ぎ越えて行ったのが坂本龍一その人なのだと思います。 YMOで登場する直前に「千の…

  • オヤジのあくび650

    坂本龍一「音楽は自由にする」を読む1 坂本龍一の愛称は「教授」。芸大大学院の作曲科を出ていることと無縁ではないでしょう! 高一の時に新宿高校の先輩である池辺晋一郎さんに「今受けても受かるよ。」と言われて、あとは学園運動まっしぐら! 制服制帽、なんと試験がない高校が実現してしまったそうです。 芸大に入って、所属する音楽学部より美術学部の方に入り浸っていたのは、なんとなくわかります。当時の音楽学部内でロックの話題などで盛り上がる友だちなどいなかったでしょうしねぇ。それでも小泉文夫さんや野口体操の野口三千三さんの授業には熱心に出ていたそうです。やがて美術学部の仲間繋がりでアングラ演劇に気持ちが動き、…

  • オヤジのあくび649

    森林貴彦「Thinking Baceball」を読む 序章で「最後はデータよりも感性を優先しよう」という言葉が出てくる。相手投手のストレートを想像以上に速いと感じたら、データではなくストレート待ちであっても変化球待ちに変えてよいと言うのです。「データにおいて必要なのは、翻弄されず人間が使う側であり続けること」と。なるほど。 昨年甲子園を沸かせていた話題の中で、慶應高校野球部のテーマ「エンジョイ・ベースボール」が話題になりました。森林さんは自身が高校二年生の時に当時の監督から「セカンドへの牽制球のサインを考えなさい。」と言われた経験を紹介しています。意図を聞くと「自分たちで決めた方が楽しいだろう…

  • オヤジのあくび648

    藤子・F・不二雄「大人になるのび太たちへ」を斜め読みする プロのゲーマー梅原さんがこんなことを言っています。「僕は不器用だから、特にぼくと同じような子には、『諦めることにメリットなんかない。自分がやりたいんだったら、周りが何か言おうと、やり続けると、結構人そこで踏ん張ったなりの見返りってあるよ』って伝えたい。他の人が諦めたところからが自分の時間だぞって」 プロのゲーマー! ボクらオヤジ世代にとってはまさに前人未到、諦めたという友だちの気持ちも想像できます。けれど本物のパイオニアって、彼のような人が新しい地平を切り拓いていくのだろうなぁ・・とも感じます。 仮面ライダーだった菅田将暉のところまで読…

  • オヤジのあくび647

    網野善彦「歴史を考えるヒント」を読む 冒頭に日本という国名がいつ決まったのか? という話が登場します。ボクは手塚治虫の火の鳥で天武天皇が国名を決めた描写が出てくることを当てにしていたので、その頃かな? と漠然と考えていたのですが、689年の飛鳥浄美原令が定説のようでドンピシャですね。ちなみにこの時から天皇という言葉が使われ始めます。 私たちが日常考えなしに使い、知らないうちに偏った見方にとらわれている状況を解きほぐしてくれるのは、網野さんの本のありがたさだと思います。例えば「人民」。中華人民共和国とか朝鮮民主主義人民共和国とか、ものものしいイメージがある。学生の頃食堂周辺で「ピープル」というジ…

  • オヤジのあくび646

    井上ひさし「四千万歩の男 忠敬の生き方」を読む 商家に養子に入り、傾いた店の経営を立て直し、村の政治にも力を発揮した50歳までの前半生。忠敬が江戸に出て天文学を学び、さらには日本全国の地図作成という大事業に挑むのは後半生のこと。定年を迎えたサラリーマン諸氏にとって、これからどう生きるか? お手本を示してくれるようであります。 しかしこの本の面白さは、伊能忠敬の偉さよりもむしろ井上ひさしのオタクっぷりにありそうです。遅筆で有名な著者は、脚本の設定をイメージするために手書きの現地地図を書いていたという。オクラホマ州アナダルコの地図、小林一茶が生活していた頃の江戸市中・・手書きの地図には国境や保護地…

  • オヤジのあくび645

    会津人群像2022no.43より鶴賀イチ「会津藩校日新館」読む 会津藩の教育と言えば、大河ドラマ「八重のの桜」で紹介されていた「ならぬことはならぬものです」の什の掟が有名だ。6歳から9歳までが、什の組織による基礎教育期間で10歳から日新館入学となる。 学習内容が漢書の素読と講釈中心は、時代背景からして合点がいくところですが、天文方では会津暦があり暦学の先端を学んでいた。会津には海がないが池の周囲が153mの水練場を備えていて、日本初のプールと言われている。学習内容ではないが、窮乏時に藩が費用を負担して昼食が提供されたことがある。これまた給食の始まりだろうか? 家老田中玄宰の「教育は百年の計にし…

  • オヤジのあくび644

    佐藤智恵「ハーバードでいちばん人気の国・日本」を斜め読みする。 ボクは本書で金剛組という世界最古の会社を知った。578年に聖徳太子が招聘した宮大工が創業したと言う。何と1446年も続いている! 株価の激しい値動きを眺めていると、その時代時代でニーズや成功のあり方は変化するものと思いがちだが、どっこい飛鳥の世から続いている企業があったのだ。 日本を代表する経営者の名前が、ハーバードで議論の対象になっていることが紹介されているが、会社経営とは少し離れた印象があるアベノミクスの話が登場する。全く予想外の死を迎えた安倍晋三さんの経済政策が歴史に名を刻むことになるのかもしれない。 東日本大震災から13年…

  • オヤジのあくび643

    岡村道雄「縄文の列島文化」を読む 今も昔も日本独自の文化がある。何と三万年も前に日本独自の石器が使われていた。刃部を研磨した石器でナイフのように動物を狩る際に用いたらしい。 ところで私たちが資料で学んだ竪穴式住居のイメージは屋根が茅でふかれている。しかし、それは先入観であって本書を読むと縄文時代の住居の屋根は土でふかれていたらしい。それなら火災にも強いだろう。研究者は知っていても一般の人は誤解したままのことは他にもありそうだ。 遺跡というと、まずは建物群や土器に注目するが、本書はまず松島湾宮戸島の調査を元に、季節ごとにどのような食べ物をどのようにして食べていたのかを、詳しく解説している。今のよ…

  • オヤジのあくび642

    村井康彦「出雲と大和ー古代国家と原像をたずねて」を読む2 本書に吉備国の桃太郎伝説が登場する。桃太郎は大和朝廷から派遣された吉備津彦命のことであり、鬼は吉備国で鉄生産に従事していた百済の人々だというのだ。何とかして吉備国の経済力を弱めたい朝廷側は実力行使に出たのかもしれない。この本には他にも丹波・尾張など大和朝廷にとって目の上のたんこぶ的な豪族を如何にして支配下に収めていったのか、書かれている。 さて出雲国。出雲大社の他に熊野大社という大きなお宮があります。筆者はそれを伊勢神宮の下宮と内宮の関係に例えています。しかるべき内宮造営の前段階として、下宮の役割を果たす熊野大社が必要だったと。出雲大社…

  • オヤジのあくび641

    村井康彦「出雲と大和ー古代国家と原像をたずねて」を読む1 奈良盆地に三輪山という山があり、麓に大神神社がある。御神体が山そのものという古代の自然崇拝を受け継いでいる。ところが祀られている神様は大国主命なのです。なぜ出雲大社の神様が奈良盆地の真ん中に祀られているのか? どうやら日本の統一過程で、初めてまとまった国造りに成功したのは、大国主命らしいのです。大国主命とは、あの因幡の白兎に登場する意地悪なお兄さんたちと好対照のやさしい神様です。本書は、その後どのようにヤマト王権へ移譲されていくか? を推論している。 著者は出雲国の名残を磐座と四方突出墓を頼りに訪ねていく。(四方突出墓とは四隅がヒトデの…

  • オヤジのあくび640

    関裕二「縄文の新常識を知れば日本の謎が解ける」を読む 一般に社会で学ぶ対象を「人・もの・こと」と言うけれど、その中でも歴史は、文書・記録を元にした過去を学ぶことだから、縄文を始め文字を持たなかった文化は、その様子を手繰り寄せることが難しい。 しかし「日本人はいつ頃どこからやって来たのか」という問いについては、ヒトゲノムの解析がヒントを与えてくれている。答えになってないが「北、西、南・・いろいろなところからやって来て、長い期間を経て混じり合った」ということになるだろうか? 元々の文化に積み重なるように新しく移入された文化が取り入れられていく過程は、文字言語の輸入過程に似ている。元々土着の発音=や…

  • オヤジのあくび639

    椎名誠「漂流者は何を食べていたか」を読む この本のネタは、生きて戻った人による漂流記。残念だが帰還を果たせなかった漂流者のことはわからない。それを生きて戻れたのは知恵や技術があったからだと、またはクルーのチームワークがよかったからだと決めつけてはいけないと思う。理由の大半は、やはり幸運だったのだと思う。遭難の理由が不運であるとほぼ同じ割合で。 椎名誠の特徴は、実体験に基づいた文章がデフォルメを軽薄体などと揶揄されながらも、体験と文章のギャップが大きく、その面白さが共感を呼んできたことでしょう。この本においても、漂流記の抜書き的な部分より実体験を踏まえて書いている(本書で言うとアリューシャン列島…

  • オヤジのあくび638

    高野秀行「間違う力」を読む2 「ラクをするためには努力を惜しまない」で、早大探検部の幹事長になった話が出てくる。(早稲田ではサークルの部長やリーダーのことを幹事長とと呼ぶらしい。ただの幹事だっていいのに)。リーダーを経験することは、メリットがあると思われるが、著者は自分勝手ができることを挙げている。集団行動の目的地や日程・ベースなどを自分に合わせて組めるというのだ。 ふとボクがグリークラブの学生指揮者だった時のことを思い出した。同期のメンバーに比べて少しばかり鍵盤ハーモニカが弾けるというのが、就任理由だった。なった当初は部員がバート練習に勤しんでいる間、ひまを持て余していた。みんなが集まって、…

  • オヤジのあくび637

    高野秀行「間違う力」を読む1 ジョン万次郎と著者が違うのは、万次郎は漂流の末、アメリカの船に救助され、そこから運命を切り拓いていくのですが、著者は初めから人が訪れないような地域に自ら進んで出向いているのです。当然危険なわけですが、行ってみなければ実際のところどうなっているのかわからないわけで、著者の勇気にはある意味感心します。 もう一つ、気持ちが拡散し取り止めもなくなってしまう人にありがちなのでしょうか、自分自身の行動原理をお約束ごととして十ヶ条にまとめています。本書もその構成になっているのですが、それはマニュアル本のように読者を説得するというよりは、自分を納得させようとしているように感じます…

  • オヤジのあくび636

    永国淳哉編「ジョン万次郎」を読む2 万次郎が捕鯨船で世界中の海を巡っていた頃、アメリカ西海岸ではゴールドラッシュのブームに湧き立っていた。そして一攫千金を目論む男どもの中に何と万次郎も身を投じていたのである。そしてここで稼いだ金が日本に戻るための渡航資金となるのだ。万次郎はホノルルに渡り現地にいた仲間二人と合流すると「アドベンチャー」号で沖縄に向かう。(アドベンチャー号は小舟だから途中までは上海行きの大きな船の甲板に乗せてもらっていた)沖縄→薩摩→長崎というルートを経て、万次郎はようやく故郷土佐へと戻った。そこから先が目まぐるしい。土佐藩から武士の身分に取り立てられるかと思えば、次には幕府から…

  • オヤジのあくび635

    永国淳哉編「ジョン万次郎」を読む1 ジョン万次郎が日本に戻った幕末、彼のアメリカ体験談が、坂本龍馬を含む土佐の志士たちやその後の自由民権運動に影響を与えたという説がある。偶然にも漂流民の万次郎が到着したのがニューイングランドのフェアヘブンであり、現在に至るまで自由を標榜し続けているアメリカという国のもっともルーツである土地(メイフラワー号が到着したすぐ近く)であったことは、とてもラッキーであった。NHKの朝ドラ「らんまん」の中で牧野冨太郎がジョン万次郎と出会う場面が描かれていたが、明治という時代の幕開けの中で土佐がどんな熱気に満ちた地域であったかを伝えたいたと思う。 さて漂流の末。救助された四…

  • オヤジのあくび634

    パトリック・ハンフリーズ著、野間けい子訳「ボール・サイモン」を読む2 サイモン&ガーファンクルが有名になったのは「サウンドオブサイレンス」から。それまでポール・サイモンはどこで何をしていたのか?その疑問に本書は答えてくれる。イギリスでフォーククラブを巡っていたのでした。ボクが大好きな「早く家に帰りたい」を書いたのもこの頃の話。この時期の成果は「ポール・サイモン ソングブック」としてレコード化されている。 ファンは憧れる歌手や作曲家を偶像化する。けれどそれは人間性までも尊敬に値するかどうかは別物なのだ。ベートーヴェンやモーツァルトがそうだったように、若かりしポール・サイモンのエピソードにもかなり…

  • オヤジのあくび633

    パトリック・ハンフリーズ著、野間けい子訳「ボール・サイモン」を読む1 トム・グラフとジェリー・ランディス。コンビ名は二人合わせて「トムとジェリー」。ネコとネズミが駆け回るアニメーションではない。16歳のサイモンとガーファンクルが「Hey School girl」という曲を出した時のコンビ名なのだ。ちなみにビルボード最高位54位、売り上げは10万枚だったという。やがてコンビは学校に戻って行き、曲も忘れ去られていく。何よりもサイモン自身が当時の状況をほとんど語っていない。 サイモンのアルバムを聴いて、課題レポートのようだと評している人がいたけれど、サイモンのアルバムにはその都度彼が関心を抱いた音楽…

  • オヤジのあくび632

    萩本欽一「欽ちゃんの、ボクはボケない大学生。」を読む2 後期が始まって大学に戻った欽ちゃんは、要領よく立ち回っている学生に、平均点はズルい感じがすると言う。人生は怒られるか褒められるか、将来社会に出てから役立つ武器は、そのどちらかの体験からこそ得られる流ものなのだから・・と。0点を取るにはズルをしない素直さと開き直る度胸が必要だとも言う。 関根勤や小堺一機、見栄晴を例に、短所が長所に変わったときこそ、人が最も力を発揮するとも言っている。 ある日大学キャンパスで就職がきまらなくて浮かない顔をしている4年生と話す。どんな仕事でも自分が面白くしてしまえば、いずれはそれを好きになれる。そう考えるだけで…

  • オヤジのあくび631

    萩本欽一「欽ちゃんの、ボクはボケない大学生。」を読む1 ボケないために大学進学を決めた欽ちゃん。老人と言われるより、年寄りでいたいと言う。年が寄って来るなら避けようもあると言うことらしい。元々幕府幹部に若年寄がいたように行政の重役の意味もあるしね。 さて授業。欽ちゃんはコメディアンだから笑いが取れると確信して失敗を演技する。だから自分が失敗しているのかどうかがよくわからない状態がとても不安だと言う。それが授業中の英語の指名読みだったのですね。失敗したくないから予習する。時には復習する。学校教育では「教室は失敗する所だ!」などと体裁のいいことを掲げながら、実は個々人の失敗回避の本能を利用して来た…

  • オヤジのあくび630

    ちばてつやが語る「ちばてつや」を読む2 この本は年代別にちばさんが作品にまつわる思い出を振り返っていく形で構成されている。私にとって初期の貸本漫画時代や週刊誌に漫画を連載し始めた当時の漫画は、タイトルでしか知らない作品も多く、とても興味をもって読み進めることができた。 ところで不思議な話だが、来るべき大作を準備していたかのような作品がある。ベートーヴェンが第九交響曲を完成させる前に「合唱幻想曲」を書いているような例は、ちばさんにもある。「あしたのジョー」の前に「魚屋のチャンピオン」というボクシング漫画があるのだ。さらに「ハリスの旋風」に出てくる拳闘部。すでにイメージができていたのだろう。原作者…

  • オヤジのあくび629

    ちばてつやが語る「ちばてつや」を読む1 ちばさんは高校3年生で貸本漫画家としてデビューしている。いろいろなアルバイトを始めてみたもののどれも上手くいかない。そんなちばさんが訪ねたのが、貸本漫画の日昭館書店。社長さんの名前は石橋国松。のちに一文字変えて「ハリスの旋風」主人公の名前になる。 ちばてつやさんに限らず、若い頃少女漫画を描いていた作家は多い。「ユカを呼ぶ海」という作品で、お転婆で男の子なんかに負けない少女を登場させる。今となっては当たり前だが、それまでは主人公=薄幸のちょっと病気がちな女の子が定番だったので、これは大きな改革であった(編集者はハラハラしていただろうけど) また少女漫画と言…

  • オヤジのあくび628

    谷川俊太郎「風穴をあける」を読む2 谷川さんが初めて読んだ本は野上弥生子さんの「小さき生きもの」だったと言う。「・・この本を幼い私が好きだったかというとそんなことはなくて、退屈で退屈で死にそうだったのを覚えている。それなのに捨てなかったのはどうしてだろうか。理由はただひとつ、読んだ本がその人間の人生の一部になってしまうからである。」 本書前半の読む・書くに続く、後半のテーマは人。そのトップバッターに写真家荒木経惟さんが登場する。彼の写真が無意識に依拠していて、言葉を介在させない表現であることを書いている。おそらくは無意義から発する表現を大切にしてきた詩人との共通項を感じたのであろう。 また大岡…

  • オヤジのあくび627

    谷川俊太郎「風穴をあける」を読む1 この後エッセイ集は、ワープロが世に出回り始めた1985年当時の文章から始まる。氏曰く「ワープロで詩を書くことは、ちょっと試みただけであきらめた。詩には散文にもまして意識下のうねりのようなものが必要だからだ。」 また別の箇所で「詩の場合には意識してさまざまな文体で書き分けることを試みているけれど、そういうやり方で散文を書くことは不可能だ。散文は書き分けることができない。散文はただひとりの自分という個にその根をおろしていて、書き分けようとすれば個は分裂してしまう。書いたものに生身の人間として責任を負わなければならないのが散文というものだろうと私は考えているが、そ…

  • オヤジのあくび626

    やなせたかし他「みんなの夢まもるため」を読む2 やなせたかしさんに「ノスタル爺さん」という歌がある。その一節から 人生は 短い 昨日の少年少女も 明日は 爺さん婆さん またたく間に 過ぎてゆく それなら 楽しく生きよう すべての人に やさしくして やがて煙になって 消えていくのさ 何とこの歌の作曲者および歌手は、やなせたかしさんご自身なのです。CD発売当時オン年84歳! 本人曰くオイドル(老いたアイドル)だそうです。素晴らしい。 これだけ精力的に仕事をされているのだから、さぞや健康と思いきや、ご本人は「ぼくの体は病気の詰め合わせセット」と言う。ちなみにご趣味は新宿のデパ地下巡りだそうな。 それ…

  • オヤジのあくび625

    やなせたかし他「みんなの夢まもるため」を読む1 なんのために 生まれて・・という歌詞の背景には、やなせさんの辛い戦争体験があるようだ。やなせさん自身も招集されて中国戦線を転々とするが、弟さんは特攻隊員だったという。アンパンマンは助けたい人のために自分の顔の一部であるアンパンを差し出す。人のためなら自己犠牲も厭わない。それがやなせさんにとっての正義なのだ。それはただ悪人をやっつけるだけの正義ではない。 ところで、やなせたかしさんの作詞で子どもの頃から口ずさんでいた曲が「手のひらを太陽に」。今でも小学生に人気の曲です。作曲家いずみたくとは、ミュージカル「見上げてごらん夜の星を」で出会うのですね。や…

  • オヤジのあくび624

    竹内道敬「日本音楽のなぜ?」を読む2 第十章は「なぜ語尾を震わせるのか」。オペラ歌手のビブラートではなく、邦楽発声でフレーズの最後を震わせて歌う話です。日本語なのに何をのんびり間延びした歌い方をしているのか? ボクも筆者と同じく日本には残響を利用できる演奏環境がなかったためだと考えます。石造りの聖堂の中で得られるエコーが、日本の寺院にはなかったのです。そこで語尾を震わせて「擬似エコー」を楽しんだのでしょう。また筆者が言うように同じ一門のおさらい会であれば「互いにうたっている内容はわかっているので、演者は自分の声を自己陶酔的に味わってよかった」のかもしれません。 声。日本音楽はあくまでも声による…

  • オヤジのあくび623

    竹内道敬「日本音楽のなぜ?」を読む1 「第三章 なぜノリが悪いのか」の中で拍子感について書かれています。昔、小泉文夫先生が農耕民族と騎馬民族のリズムが違うことを指摘されていたことが思い出されますが、音楽の中からほとんど感じられないのが三拍子。例えば琵琶の語りは無拍ですが、弾法にはリズムがあります。私が教えていただいた弾法の中で、崩れ3・崩れ4・春風の中には明らかに三拍子の部分が含まれていて、音楽に変化をつける働きをしています。弾法は一つの曲の中で全く同じ音型のものを二度弾くことはありません。常に聴き手を飽きさせない工夫をしてきたのですね。 続いて作曲や稽古について話が出てきますが、そもそもある…

  • オヤジのあくび622

    蛭子能収「ひとりぼっちを笑うな」を読む2 本は何でも正直に口に出してしまう蛭子さんが、苦手だと言う食レポの話に続く。そっと一人にしておいてよ! の蛭子さんも自身の漫画を褒められると当たり前だが嬉しいらしい。漫画は読んだ感想が「面白いか、つまらない」に分けやすいのでコメントを伝えやすいのだろう。 ボクが琵琶演奏者が集う会の後に感じることは、とにかくコメントが少ない。どうやら他の師匠のお弟子さんに何かアドバイスめいたことを告げるのが御法度のようだ。批評批判がないところには進歩なしと考えると厳しい。お客様も初めて聴く方は、鑑賞の視点なんてあまりないわけで、せめて聴き方をレクチャーする人がいてもいいん…

  • オヤジのあくび621

    蛭子能収「ひとりぼっちを笑うな」を読む1 この本は蛭子さんが67歳の時に書かれた本で、私も今67歳。振り返ればそれなりの足跡は見える年頃です。 第一章は「群れずに生きる」。蛭子さんが、他人とどのように距離を取っているかを語っている。旅番組で他のメンバーが旅先の名物に舌鼓を打っている時に、傍らに少し離れたところで一人でカレーライスやトンカツを食べている蛭子さんがいる。「ボクのことは構わずに放っておいてね。」というスタンスなのだ。人と同じ時間同じ場所で同じことをすることが、元々得意ではないのかもしれない。かと言って群れる人を否定しているわけではなく、自分は今はこうしたいだけ・・と。 第二章は「自己…

  • オヤジのあくび620

    大野一雄「舞踏譜」を読む 何だかよくわからないから読み始めたのに、読むほどに余計わからなくなってしまうようだ。例えれば音楽を言葉で言い換えることが結局は不可能なように、舞踏も言葉に置き換えることが困難なようだ。生命、宇宙、胎児、様々な言葉で「感じていたい根幹」を書いている。しかし、日常が具体表現の世界に浸かっている身としては、なかなか理解が進まない。 思うに、この書は大野一雄氏の舞踏表現に接した方に対して「いったい、あの動きは何をイメージして表現していたのか?」を本人が語ったものなのだ。だから実際に舞台を鑑賞する方が先立たないと解説だけ読んでも分かりにくい。 一般に演劇なら脚本を、音楽なら楽譜…

  • オヤジのあくび619

    森直実「大道芸人」を読む 凡人の予想をはるかに上回る凄い芸人、野毛大道芸で活躍したパフォーマーが次から次へと登場する。しかも彼らの紹介文を執筆しているのは、名のある作家たちなのだ。一人ひとりの列伝の中に命を張った芸に賭ける生き様が見て取れる。綱渡りをしながらの火吹きなど、一歩間違えば即救急車なのだ。 どんな芸人さんが出ているかって? 三味線の伊藤多喜雄さん。中学生に「南中ソーラン」の歌手と言えば、どこでも通じる人だ。帽子芸の早野凡平さん。秒刻みで仕切られているテレビより大道芸の空気感ががお好きらしい。「落ちぶれて大道芸に出ている」と呟いていた観客がいたそうだが、それは違うだろう。大道芸のライブ…

  • オヤジのあくび618

    畑中圭一「紙芝居の歴史を生きる人たち」を読む2 画家の佐藤正士良氏の聞き書きでは、氏が戦前東宝映画で働いていた話が出てきて、遠近法やモンタージュなど映画から影響を受けた技法が紙芝居の絵にも活かされていると語る。話の中には武部本一郎の名前も出てきて、錚々たるメンバーが紙芝居に関わっていた時代があったことがわかる。映画になぞらえるなら、演者は一人で演出と俳優をこなしているわけで、こんなに演じる甲斐があり、独自の劇空間をアドリブも含めて創造できる表現が今や風前の灯なのは実にもったいない。 しかしながら、仕事として生活を支えるとなると様々な課題がありそう。子どもが学校から帰ってくるのが、午後3時。その…

  • オヤジのあくび617

    畑中圭一「紙芝居の歴史を生きる人たち」を読む1 ボクは20代の頃、児童演劇評論家 富田博之氏のところで児童劇用の脚本を勉強していた時代があるのですが、その頃紙芝居について富田氏が「戦争中の活動について、戦後きちんとした総括がなされていない」と発言されていたことを覚えています。 まず紙芝居と一口に言っても、色々ござんす。この本で取り上げているのは、路上や広場で子どもたちに水飴を売りながら演じた街頭紙芝居。もはや朧げな記憶しかないけれど、ボクより少し上の世代であれば覚えていらっしゃる方もいるでしょう。 紙芝居用のケースに入れて子どもたちの目を集中させて演じる紙芝居の前は、立ち絵。今のペープサート劇…

  • オヤジのあくび616

    菊池清麿「評伝 服部良一」を読む3 朝ドラのタイトルにもなっている「ブギウギ」のリズムは、戦中上海に渡っていた服部良一が李香蘭のステージですでに使っていた。まるで戦後の音楽を預言するかのように。 そして笠置シヅ子がステージ狭しと踊り歌った「東京ブギウギ」。ボクはいわゆる「鉄」なのだけど、最近の電車は音が静かで揺れが少ないことに感心しています。特に車内で合唱団の楽譜を見たい時は、モーター音がないサハに乗る。東京ブギウギの楽想が思いついたのは、中央線の電車内で吊り革につかまっていた時だそうだ。車輪が線路の継ぎ目で奏でるリズムが名曲に変化していくのだから、いやはや大したものであります。ちなみに作詞者…

  • オヤジのあくび615

    菊池清麿「評伝 服部良一」を読む2 戦前の良一作品を代表する曲が、昭和12年淡谷のり子による「別れのブルース」。低いGから歌い出すため、本来コロラトゥーラソプラノの淡谷のりこは一晩中タバコを吹かして低く魂がこもった声が出るしたという。ボクサーの減量を思わせるような凄まじいエピソードです。 本書は副題が「日本のジャズ&ポップス史」とされていて、服部良一さんの人生を追いかけた文章の中に往年の名プレーヤーが登場する。その一人がトランペッターの南里文夫さん。横浜元町商店街から代官坂を上がると南里文夫さんが活躍していたダンスホール「クリフサイド」がそびえている。ボクはこの坂の先にある元街小学校に勤めてい…

  • オヤジのあくび614

    菊池清麿「評伝 服部良一」を読む1 朝ドラで「梅丸少女歌劇団」が華麗なダンスを披露していたように、大阪は今も昔とエンターテイメントの街だと思います。日本初のジャズバンドは、井田一郎さんによるラフィングスターズで、大阪・神戸にジャズの音色が響きます。服部良一さんの音楽人生の振り出しは、大正後期に活動していた出雲屋少年音楽隊。ここでサクソフォンファミリーのリーダーとして活躍します。やがてロシアから招かれたメッテルに大阪フィルで出会う。管楽器の技量を見込まれてクラシックのオーケストラでも演奏していたのだ。メッテルにはリムスキー・コルサコフの音楽理論を学ぶ。好対照に見えるけど、同門に指揮者の朝比奈隆さ…

  • オヤジのあくび613

    石濱匡雄「インド音楽とカレーで過ごす日々」2 カレー好きの方には、当たり前のことなのでしょうが、インドのカレーと言っても地方毎に味の特徴が違う。コルカタはアッサム茶やダージリン茶の本場だから、チャイを飲みながら人と語らう場面がたくさん登場する。本書にはシタールと同じくらい飲食の話が出てくる。 石濱さんはシタールを学ぶためにコルカタに留学していたはずだが、寝ても覚めても音楽一辺倒でないところが、生き方としてとても素敵だ。もちろん楽器練習に膨大な時間は必要なのだけど、興味関心が幅広い方向に散らばっているのだ。 留学当時の体験として、インドとパキスタンが一触即発の有事になった時のことを語っている。核…

  • オヤジのあくび612

    石濱匡雄「インド音楽とカレーで過ごす日々」1 楽器や音楽との出会い方は、人さまざまでしょう。ボクは琵琶という今の日本ではマイナーな楽器に関わっているので、なぜ琵琶をやっているのか? 尋ねられることがあります。石濱少年の場合は、中学の頃からギターを始めたものの、母親から「お師匠さん」に付いて教わりなさいとの一言。楽器教室を探しているうちに見つけたのが「シタール教室を始めます」のチラシ。ギターとシタールはだいぶ違う気がしますが、石濱少年のシタール教室通いが始まります。 一応小学校で音楽を教えていた経験があるので思うのですが、楽器や音楽は理屈で教えようとするからつまらなくなるのです。理屈? の代表選…

  • オヤジのあくび611

    柳家花緑「落語家はなぜ噺を忘れないのか」を読む タイトル通り、噺の覚え方・練り上げ方が書かれています。花緑さんのスタートはノートへの丸写し。18歳の頃志ん朝師匠に教わった「愛宕山」は語り口をそのままノートに写して読んでいたといいます。20歳になり小三治師匠に「船徳」を教わるのですが「俺は噺に小三治という装飾を施している」と言われます。自分なりに咀嚼して自分なりの演出をしてこそ、本当にその噺を身につけたことになる。 もともと噺は面白く作られている。古典落語であれば何百年も同じ噺が演じられ、今に残されてきたのですから。クラシック音楽やボクが教わった琵琶歌にも似たようなことは当てはまると思います。ウ…

  • オヤジのあくび610

    米山文明「声の呼吸法」を読む 以前米山先生の「声と日本人」を読んで、オヤジのあくびに投稿した気がします。(何だか記憶がごちゃごちゃしていますが・・)あとがきでは、その延長線上に本書を書きましたとおっしゃる。より実践的な方向に進展させて・・とのこと。ところが序章では、ヤツメウナギやピラルクが登場して、まず脊椎動物の呼吸の進化について、続いてヒトの話になっても胎児から新生児の呼吸に紙面を割いている。ちょっとまどろっこしい語り口な気がするのですが、呼吸や声に関する諸器官は、元々は何であったのか? 生まれてからどのように動き始めるのか? まずそのことを知っておくべきでしょう! という米山先生独特の論法…

  • オヤジのあくび609

    茂木健一郎・羽生善治「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本を読む。 脳はその人がチャレンジできるギリギリのものに挑戦している時が、楽しいのです。 確かにボクのことで言えば、仕事を辞めてボーッと毎日を過ごしていると、つまらなくなってしまい、また何か始めてしまう。妻曰く「泳いでいないと死んでしまうマグロ状態」だそうだ。少し似ているのかも? 新たなチャレンジが脳を刺激すると言っても、不安が踏み出そうとしたはじめの一歩を足止めさせます。その時に不安を乗り越えるユーモアが人を後押しすると言います。テレビではお笑い芸人が大活躍中ですね。昔だって日本人はとんち話や古典落語に接してきたのですから、ユーモアと無縁…

  • オヤジのあくび608

    なだいなだ「とりあえず今日を生き、明日もまた今日を生きよう」を読む くねくね道のように、長い時間かけて移動していた距離が、飛行機や新幹線の利用によりすごく短縮されている。調べ物だってだいたいのことでよければ、パソコンやスマホでわかってしまう。ではその余っているはずの時間を何に使っているのか? 人生そのものも寿命が延びて、その分を何に活かしているのか? なださんの問いに自分自身の答えが用意できているのか? こういう問題提起の仕方がボクは若い頃から好きだった。 直接なださんの講演を拝聴したのは、2003年1月奈良で開かれた日教組の全国教研基調講演。この集会が開かれると市内に黒塗りの車が増え自治体か…

  • オヤジのあくび607

    有田秀穂「脳からストレスを消す技術」を読む 涙の数だけ強くなれるよ〜🎵という歌があった。この本の中身を言い当てているような歌詞なのです。 筆者によると二大ストレスとは、まず「依存症」=快楽が途切れることから抜け出せない状態。アルコールで考えれば分かりやすいですね。もう一つは「逆恨み」。これは良かれとして行った行為が正しく評価されない。相手から想定していた反応が返ってこない状態だと言います。 人をストレスから解き放つのは、涙と坐禅だと筆者は言う。坐禅については、6年間も自分を追い込み(修行).ストレスには勝てないことを悟ったお釈迦様の話が出てくる。確かにお釈迦様は坐禅を組んでいらっしゃる。結果腹…

  • オヤジのあくび606

    宮本延春「オール1のおちこぼれ、教師になる」を読む オール1。相対評価だった時代の5・4・3・2・1は、全体の数%の子に1が自動的に付けられる仕組みになっていて、人の可能性を引き出す方法とは言えなかった。ボクも相対評価の時代に仕方なく数人の子に1を付けたことがあったし、自分が生徒の時に1を付けられたこともあった。 筆者は執筆現在高校教師をしているが、「信頼」を前提にしたタブー破りの「特別扱いの補習」。いいじゃないですか! 極論を言えば、全ての生徒が特別扱いされるべきだと思うのです。 ところで、学力不振で九九や分数がわかっていなかった筆者が、勉強に目覚めて、なぜ高校教師になったのか? それは彼女…

  • オヤジのあくび605

    「君たちはどう生きるか」を観て 戦争の最中、入院していた母親を亡くしてしまう主人公。燃える街の映像は高畑監督の「火垂るの墓」を思い出す。宮崎監督は、おばあちゃんキャラがお好きなようで、今回もすごい声優陣が屋敷で働くおばあちゃんたちの声をアテている。ストーリー終盤の重要人物大叔父の衣装には、王蟲の目のようなデザインが施されている。 さて、そんな中で出演時間が長いのは、菅田将暉が好演しているアオサギ。千と千尋のカオナシのような存在で、真人を異世界に誘なう。ボク的には異世界の海で真人を助けてくれる人が、建物の入り口付近で別れたキリコおばあちゃんと同一人物であることが、最初わからなかった。今回はトトロ…

  • オヤジのあくび604

    鎌田實「○に近い△を生きる」〜「正論」や「正解」にだまされるな を読む この本の冒頭はかなり衝撃的で、18歳の著者が大学進学を巡って父親の首を絞める場面から始まる。別に殺人は至らず、進学は親の支援なしではあるが果たされて、著者は自由を獲得したと書いている。 第一章では、様々な別解的な生き方が紹介されるが、一番頁数を割いているのが、ベースキャンプだと言う結婚(=パートナーとの生活)について。武田鉄矢さんの奥様が「私はあなたのおしめを洗うために結婚した」と言えば、鉄矢さんは「世界中で俺だけが、お前が一番美しかった20歳のころを覚えている」と答える。何だか微笑ましい。 続いて石井光太さんとの対談の中…

  • オヤジのあくび603

    千葉雅也「勉強の哲学 来たるべきバカのために」を読む 本書のはじめに「来たるべきバカとは、新たな意味でのノリを獲得する段階である」と書いています。道具的な言語使用から玩具的な言語使用へ。漫才のツッコミとボケがアイロニーとユーモアに対応していることを例に引きながら、浮いた語りの分析が勉強の本質につながると言う。そしてコードの転覆を図る。 ぼくなりにこんなことかな? と考えてみた。例えばテレビから食レポが流れてくると「美味しい!」が決まり文句=コードになる。しかし、学校教育の現場を離れたので書いてしまうが、給食はおいしい日もあれば、・・・な日もある。何校が転勤するとわかるが学校差もある。材料とレシ…

  • オヤジのあくび602

    布施克彦・大賀敏子「なぜ世界の隅々で日本人がこんなに感謝されているのか」を読む 本書に初めに登場する国は、マーシャル諸島。アメリカによる核実験の影響を受け、日本の第五福竜丸が被爆したことで知られる。最近では温暖化による海面上昇の影響が深刻だ。そこで金物屋を営む、元日本人で現マーシャル人から話が始まる。 タイトルから想像できるが、本書にはG7に代表される先進国は登場しない。最近あるニュースで知ったのだけど、G7合計のGDPより非G7である国々の上位7ヵ国のGDPの方が大きいという。世界はGDPを中心に動いていると勘違いしてはいけないのだ。 南アフリカで現地の識字率を上げるために活躍しているハスヌ…

  • オヤジのあくび601

    隈研吾「なぜぼくが新国立競技場をつくるのか」を読む 隈さんは、ボクより二歳年上で東京オリンピックを二回経験している。だから丹下健三さんの設計による代々木の第一第二体育館のデザインから強い衝撃を受けた世代なのだ。 新国立競技場を始めとして、隈さんが手がけた建築物には木材がたくさん使われている。隈さんは木の面白さはどこでも手に入る小さくて安い材料をベースにしてどんなものでも作ってしまう「平凡さ」「民主性」にこそあると言う。対極にあるコンクリートは、どんな巨大なものでも自由に作れる「偉大なる特注」で限界をわきまえない無知が宿ってしまうと述べます。 コロンビア大学留学時代、徹底的なディベートで鍛えるロ…

  • オヤジのあくび600

    養老孟司・久石譲「耳で考えるー脳は名曲を欲する」を読む 環境と音楽について語り合っている箇所があり、日本で組み立てたパイプオルガンの調整が大変な話が出てくる。西洋音楽の響きは、乾ききった石造ホールで育まれたものだ。アカペラだって合唱だって、残響が巨大空間に響く環境で生まれた。翻って木造寺院から生まれた日本の声楽=声明は、残響を前提としていない。むしろ母音の語尾を引き延ばすことで、残響がない環境を補っているかのようだ。 話題はどんどんジャンプして、情報化と情報処理の違いについて養老さんが言及する。作曲家久石譲さんがやっていること、音楽をつくって人に伝え演奏できるようにすることは情報化で、発信され…

  • オヤジのあくび599

    立川志の輔・玄侑宗久「風流らくご問答」を読む 落語と琵琶は昔寄席に掛かっていた芸能として共通点があります。一席がおよそ15分であること。この15分がビミョーでして、長すぎてひたすら我慢を強いられる時間になるか? 耐えられずに席を立ってしまうか? あっという間に過ぎ去るか? それが芸の質なのでしょう。 お坊さんが講話の中に、笑いを巧みに取り入れているエピソードが出てくる。中身が退屈ならせめてどこかに笑いを誘う場面がないと聞き手は寝てしまうだけだろう。 我が身に引き寄せて考えてみれば、琵琶はもとよりコーラスの練習にも当てはまるような気がしますね。 「あくび指南」に話題が及ぶ。対談の片割れ宗久さんに…

  • オヤジのあくび598

    「思い出のアルバム草軽電鉄」を読む 草軽電鉄。現在草軽交通としてバス事業を展開している会社の前身です。軽井沢〜草津温泉間を結んでいた高原列車があったのです。55kmの距離を3時間かけて走っていたといいますから、吹き抜ける風を身体に浴びながらのんびりと観光を楽しんでいたお客さんも多かったのでしょう。今は草津温泉バスターミナル近くに駅跡の碑、北軽井沢駅の駅舎、そしてカブトムシと言われた電気機関車が展示されています。走っていた頃は映画のロケ地に使われたり、岸田衿子さんの詩にも登場したりします。 ところが国鉄が吾妻線長野原まで旅客輸送を始めるとお客さんは国鉄に流れていきます。さらに台風の影響による橋梁…

  • オヤジのあくび597

    植西聰「折れない心をつくるたった一つの習慣」 「それができていれば、初めからこの本読んでいないよ」と感じさせるようなアドバイスがこの本にも多く出てきます。でも、本というメディアは200ページ以上あるので、手を替え品を替え、いろいろな角度や場面を畳み掛けてくるわけです。その中に試してみようかな? と感じたことが一つでも見つかれば大正解じゃないですか! 怒りの感情との向き合い方に、映像が映し出されたスクリーンをイメージする方法が出てきます。その映像をモノクロに変えて、小さくしていくと良いと書かれています。怒りをパワーに変えて人生逆噴射的に生きている人もいると思いますが、怒りという感情に長い時間支配…

  • オヤジのあくび596

    坂口恭平「自分の薬をつくる」を読む この本は、さまざまな悩みを抱えた患者さんを診察するような形で進行する。もちろんその全てが演技であり、周りからも丸見えなのだ。 何人目かに、1ヶ月に一度死にたくなる患者さんが来て、生歌をつくることを薦める場面がある。トンネルの中で自分の内側を見つめている自分を「つくる」ことでアウトプットしてみよう促すのだ。 ミュージシャンとしてアルバムをつくってみたい人に「企画書」を書いてみるという提案がなされる。突然ボク自身の話になるけど、港南台アカペラシンガーズでは、今までメンバーにいろいろな提案を受け入れていただき、それなりの活動を展開してきたが、企画書を書いたことはな…

  • オヤジのあくび595

    名作を読む96 ケストナー「飛ぶ教室」 描写や話の展開が楽しいわけは、作者自身が登場人物といっしょになって、自ら創る物語世界を面白がっているからだという気がする。前書きとあとがきに作者が登場する仕掛けも物語の一部に入りたい願望のような気がします。 自分が何者であるか? という説明が未だ十分にできない、不規則で枠をはみ出してしまう衝動が抑えられない、大きな不安と葛藤の渦中にいる、そんな時代が自分にもあったことを懐かしみながら読みました。 タイトルは寄宿学校の仲間がクリスマスに演じる劇の題名。個性的な5人の仲間が引き起こす事件を中心に、彼らを見守る舎監先生、彼らが大好きな禁煙先生の人柄にふれながら…

  • オヤジのあくび594

    武田友紀「『繊細さん』の本」を読む 早速28ページの診断テストをやってみると、案の定ボクは当てはまらないが、いっしょにテストをした妻はHSP傾向のようだ。 この種類の本によく出てくる魔法の言葉が登場する。考え過ぎやベストを求めて身動きが取れなくなっている人への言葉は「とりあえず」。拙速は巧遅にまさるではありませんが、とりあえず何か動いてみるでいいじゃないですか。長いスパンで捉えれば、人生とりあえず生きているのかもしれないのですから。 繊細さんの悩みのキモに、人間関係がありそうです。相手が感じてくれないこと、気づいてくれないことに繊細さんは悩みます。でもボク自身「非繊細さん」なので、繊細さんの感…

  • オヤジのあくび593

    村上和雄・.棚次正和「人は何のために祈るのか」 祈りは病気を癒し、心身の健康を保つ大きな力を秘めている。少しでもよりよく生きようとする遺伝子の働き、それが祈りであると筆者は言います。 祈り。宗教に近く科学から遠い行為だと多くの人は感じるでしょう。でも筆者は言います。「祈りの効果と宗教とは関係がない」と。つまりどの宗教であるかは関係ないと言うのです。また科学者アインシュタインの言葉を引用しています。「神秘的な感性こそが、人間が体験できるもっともうつくしく、もっとも深遠な感情だ。すべての真の科学の源はそこにある」 祈りにはふた通りあって、一つは「自分の思いを叶えてもらいたい祈り」、もう一つは「心を…

  • オヤジのあくび592

    養老静江「ひとりでは生きられない」を読む 著者は明治生まれ。横浜平沼高校がまだ神奈川県立第一高女だったり、東京女子医大が女子医専であったりした時代の学生生活を語っている。その後、帝大病院(今の東大病院)に小児科医として勤めるが、筆者は横浜本牧の友人宅で関東大震災を経験している。デマによる朝鮮人殺しや焼け野原になった横浜の様子を綴っている。 筆者のモットーは「好きなことをするー生きて行くとはそういうことだ」。事実よく言えば自由奔放、角度を変えれば「ただのわがまま」としか思えないような履歴を重ねていきます。しかし、女性の生き方や権利について偏見が蔓延していた時代に大したものだという気もします。 続…

  • オヤジのあくび591

    西郷孝彦「校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール」を読む たったひとつの校長ルールとは「子どもたちが幸せな3年間を送ること」 心に壁を造って拒否しない。一人ひとりに安心できる居場所を提供する。何よりも教師であることをかさにした上から目線の管理的な指導を排する。本書には兎角偏見まみれになりがちな教育現場への処方箋が書かれています。 教壇を去った私ですが、子どもたちへの声かけは野球のバッティングに似ていると思っています。3割打てれば一流打者ですが、裏を返せば10打席のうち7打席は凡退しているのです。子どもたちの心に響く言葉を探す作業も似ています。なかなか本人の琴線に触れる声掛けは難しい。唯一…

  • オヤジのあくび590

    梓澤要「方丈の孤月」を読む 前半は、煩わしいとさえ感じる中世貴族社会の人間模様の中で、若い鴨長明が要領よく立ち回れない様子が描かれている。由緒ある下鴨神社の御曹司としてのブライドや両親を亡くした哀しみが、主人公のコンプレックスの背景にあるのかもしれない。 「方丈記」の作者という私たちが知っている長明像を超えて、歌人、琵琶奏者としても活躍した様子を語っていく。この小説の中では和歌や琵琶を通して自分を認めさせたい長明の自我を描いている。ところが屈折した心情から湧き出る衝動が長明を突き動かし、結果的に天涯孤独の身となっていく。 もう一つ伝説として広まっているのが「平家物語」の作者は「実は鴨長明ではな…

  • オヤジのあくび 589

    ピーノ・アプリーレ「愚か者ほど出世する」 本書は動物行動学者のローレンツ教授にインタビューした経験から始まる。「人間の知恵は必要があれば、いつでも解決の出口を見つけ出す。しかし、ひとたび解決法を見つけてしまうともう知能を使う必要はなくなる。ただまねだけしていればいいわけだ。反復は創意工夫とは違う。そこで知的資質は衰えてしまう。刺激がなくなるからだ。」さて、生成AIという解決法を手にした私たちはこの先どのように知能を使いこなせばよいのだろうか? 大げさに言うなら本書の問題提起は「人類はこの先も知的な進化を継続できる」「人類はとうの昔に知的な進化を止めて、この先はますます愚かになっていく」のどちら…

  • オヤジのあくび588

    山崎慶子「グランマの本棚から」を読む 読み聞かせの予定表が送られてきて、第一回目は2年生。「そうか、低学年なら絵がある本がいいかなぁ。紙芝居にチャレンジしてみるのもいいかもしれない。」などと、例によって取らぬ狸の皮算用を始めてしまう。 読書について、自分自身が子ども〜学校教員時代を通して一貫して上手くできないジレンマを抱えていたのが、読書感想文という代物。屁理屈少年のボクは感想らしい感想を書けなかったし、教員になってからも夏休みの宿題とかに平気な顔して出しておきながら、満足な事前指導事後指導が出来なかった。教え子の皆様ごめんなさい。そもそも指定図書の感想文を「やらせ」ていること自体が未だにどこ…

  • オヤジのあくび587

    中島義道「カイン」を読む タイトルの「カイン」は、旧約聖書で弟アベルを殺した兄であります。主によって殺されぬ「しるし」が付けられたカインは、苦しみ悩み続ける日々を送る。本書では青年Tに寄り添いながら、彼が立ち向かい排除していくべき相手は何なのか? を説いていく。 60代も半ばを過ぎてから、この本を読んでいる。もしボクが青年期にこの本と出会っていたらどうだったのか? そんなifが頭を掠めます。 親を捨てて期待に背くことを語るのは、著者の半生を重ねているのだろう。額面通りに受け止めると逃げ場のない袋小路へ追い込まれることになるが、それこそがおそらくは本書のねらいと思われる。 結局、この本は、世間様…

  • オヤジのあくび586

    野口五郎「芸能人はなぜ老けない」を読む 本書の最初に役職と威厳の話が出てくる。威厳を保とうとすることは自ら進んで老けようとすることだと、野口五郎さんは言うのだ。エンターテイナーに役職はないし威厳も必要ない。なるほど郷ひろみさんの若々しさには驚かされるばかりだけど、納得できるなぁ。現在の自分の姿がどう見えているのか? 定期的に写真を撮ってもらうことを勧めています。その話に篠山紀信さんとの撮影エピソードが出てきて、シャッターを切るタイミングが予測できないとか、撮影場所が墓地や精神病院の裏庭だったとか語られています。自分の知らない自分が自然に出たと野口さんは語っています。 精神年齢を一定の年齢で止め…

  • オヤジのあくび585

    伊東乾「笑う脳の秘密!」を読む 初めに音楽の話が出て、呼吸をしていない表現=うたっていない音の課題を指摘している。テンパる→呼吸が浅くなる→表現が不自由になっていく感覚は、ボクも日頃合唱や琵琶歌で音を出しているので身につまされてしまう、 自分の話。「最近若い頃に比べて暗譜が苦手になってきたなぁ」と感じるようになった。耳の暗譜、手(身体)の暗譜、目の暗譜を筆者は説いている。そして目の記憶はイメージの記憶だと言う。自分が通った道の風景を細かく思い出せるように記憶をトレーニングできるのだ。耳の暗譜・手の暗譜については動物的な快感と結びつく。音楽担当の教師をしていた頃「この曲の好きなところはどこ?」と…

  • オヤジのあくび584

    相田一人「父 相田みつを」を読む。 頸椎症のせいか? 肩や首周りが痛い。本の初めに筆者が「姿勢をよくしろ!」と父から言われた話が出てくるが、身に染みてその通りだと思う。姿勢の話に限らず、相田みつをさんが書かれることはいちいちごもっともであります。けれどそれらの言葉がどのような状況から発せられたのか? その一端がいっしょに生活していた息子から語られる。 相田みつをは、書家・詩人として認められている人であります。(名刺に書家と印刷したことはない)定職に就かず、ろうけつ染めで生計を維持していて五十代前半まで極めて貧しい生活を送っていたことがわかります。8畳間借りの生活でありながら、別の場所に25畳の…

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