黒板の前に立っている先生に直接現金を持っていった。授業料だ。すると黒板がパカッと開いて、事務員のような人が顔を出した。「お金はこちらにいただきます」と言う。信用できるのだろうか。先生もびっくりしているが。 ...
ベッドの足元に大きな窓があり、そこから熱帯の木々が見える。中途半端に文明化された原住民が住んでいる。ラジカセで日本のフォークソングを聴く半裸の人たちだ。いちおう電化はしているのだ。 子供たちが窓から僕の部屋に入ってきて、ビールは要らないかと言う。ラジカセを抱えた大人たちもやってきて、日本語の歌詞の意味を教えてくれと僕に請う。僕は「政治的なメッセージだよ」と答えるに留めた。 タイミ...
青い錠剤の瓶を渡された。僕は病気なのだと女は言う。 「僕は何の病気なの?」 「それは言えない。でも重い病気よ」 青い錠剤は薬なのだ。 「これを飲めば治るの?」 「そう。でも気をつけて。飲み過ぎると死ぬから。少なすぎても死ぬ。病気が悪化して」 「何錠飲めばいいの?」 「それも教えられないわ。あなたが必要と思う分を飲みなさい」 病気が悪化するなんて耐え...
その間中ずっと列車はトンネルの中を走っていた。窓際の席に座った君にとっては気の毒だった。もうすぐ目的地だった。君はトイレに行くと言い席を立った。 君はトイレで着替えをしてきた。短パンをはいている。僕はその服と足を褒めた。真っ黒いフルフェースのヘルメットをかぶっていた。紫外線対策だと言った。僕が訊く前にそう答えた。列車はトンネルを抜けた。 ...
スーパーに、あのお年寄りが来ていた。よぼよぼの老人で、買い物中によく床で寝ている。小一時間寝て起きた後で、店員が呼ばれた。いちど横になってしまうと、自力では起き上がれないのである。何かの動物みたいだ。店員が二人掛かりで起こしている。 ...
制服を渡された。赤い半袖のシャツだ。それを着て仕事をするのだ。シャツの胸ポケには1万円札が何枚か入っていた。今日の給料だ。 一緒に入った新人のバイトがいた。彼は赤い制服を着ていない。彼の制服のシャツには胸ポケットがなかった。ただ働きなんだろう。悲しいことだ。 僕たちは改めて挨拶をした。よろしくお願いします。僕はアニメオタクです、と自己紹介した。それを聞くと彼は笑った。彼はゲーマー...
小さな男の子がいた。父が子供のときの姿になって夢に出てきたのだ。どうして僕はそんなことをしたのかわからない。男の子に「おじいちゃん」と声をかけた。何も反応がなくてよかった。彼の耳は聞こえないことを思い出した。でも僕がもういちど声をかけると、彼は走ってどこかに行ってしまった。 ...
待ち合わせ場所に着いた。大学の構内である。友人はそこでビラ配りをしていた。彼がその仕事を終えるのを待っている。 トイレに行った。そこには小さな子供しかいない。間違えて入ってしまったようだ。小便器がずいぶんと低い。大学に子供用のトイレがあるとは思わなかった。 ...
二階建てのバスは五階建てのビルくらいの高さ。僕以外の乗客はみんな「上」に上がった。乗車すること自体をためらっていた僕に運転手が声をかけた。 「料金は無料」 それでも僕は乗らなかった。何だか気味が悪い。15分後に出るはずの次のバスがもう来ていた。 ...
海には一隻の船も浮かんでなかった。そんな大海を見たのは初めてだった。僕は少し不安になった。港から船に乗ったはずだった。今日の正午に。船はどうしたんだろう。海はどうしたんだろう。僕の顔の周りでバブルが弾けた。 僕は浜辺にいた。浜辺の砂は極度に乾燥していた。波が何度押し寄せても濡れることがなかった。日差しは強かったが少し寒かった。僕は君が脱いだ服を拾って着た。長袖のシャツが1枚。それは浜辺...
空気中に泡が生まれた。まるで水中のようだった。そこかしこに大きな泡がある。それがゆっくりと上空へ昇っていく。 行く手にまた突然の泡が生まれた。僕は目を閉じて頭から泡に突っ込んだ。そこはまったくの無音の世界だった。目を開けると光に目が眩んだ。 ...
春を抱きしめる。春の匂いを嗅ぐ。いつもとは違う匂いがする。少し不快な匂い。それは服の匂い。春はその服を脱ぐ。そしてパジャマに着替える。そして「寒い」と言う。 ...
特急列車に乗るチケットを買った。列車はもうホームに来ている。長い長い列車だ。 僕と君は乗車せず、ずっとホームで話をしている。 手に持った荷物が重いので、足元に置いた。すると人がやってきて、その荷物を盗った。でも僕たちは気にしない。発車の時刻が過ぎた。 泥棒は列車に乗り込み、列車は出発した。僕たちはまだ立ち話をつづけている。ホームは、列車に乗らなかったカップルで溢れている。...
手品師が使うようなシルクハットを背負ったカタツムリが歩いていた。 ...
上空を飛ぶ旅客機の機首に一角獣のような竿が生えている。竿には旗が掲げられていて、それは飛行機よりも大きな旗だ。不思議なことに旗は風の流れに逆らうような形ではためいている。周囲に子供たちが集まってきた。 子供たちは飛行機に掲げられているのと同じ色の旗を片手に持ち、空いた方の手を空に向って振っている。 ...
ボウリングの球が重くて持てない僕に渡されたのは1円玉だった。それを虚心に転がしていると野球に誘われた。僕はピッチャーを任せられた。1円玉をフリスビーのように投げる。 ...
その女のコ、自動車に撥ねられた女のコは、僕の目の前で撥ねられたんだった。びっくりした。ショッキングである。心臓に悪い。できれば見なかったことにしたかった。記憶から消してしまいたかったけれど、そういうわけにもいかない。 僕は彼女の魂をおぶって、病院まで歩くことにした。ところがそれは重かった。体より魂の方が重い人はいるのだ。圧し潰されそうになりながら、四つん這いになって歩く僕を見て。立派だ...
その人から教わった。4月はもっとも奇妙な月だと。 「残酷ではなくて、奇妙なんですね?」 「なぜ残酷だと思うの?」 「有名な詩があるじゃないですか」と言いかけたところで 「これを丸めてちょうだい」 渡されたのは女の下着だった。 「さっきまで私がはいてたものよ。嬉しい?」 「丸めるって‥‥?」 「クルクルと」 「は」 僕は言われたとおりにした。 「...
駅まで歩いた、わざとゆっくり(わざと遅刻するつもりで)。 同じ学校の制服を着た人が何人かいた。みんな知らない顔だった。その内の1人が駅の手前で道を逸れた。電車には乗らず、歩くつもりなんだろう。 迷わず彼の後を追った(自分の遅刻を確実なものにするために)。 ついて行った(そうすると誰もいない工場の中だった‥‥)。 ガラス張りの天井を通して空の様子が見えた。 ...
ガンキャノンがノコギリでザクを切っていた。ザクは堅くてなかなか切れなかった。そこにガンタンクがやって来てこう言った。 「切れぬなら、燃やしてしまえ、ホトトギス」 ガンタンクは大砲から火を吐いてザクを燃やし始めた。 ...
彼女たちが何ていう名前なのか知らなかった。あだ名は知っていた。「ジェイ」と「ヒロ」っていうんだった。もう1人あだ名がないコがいて、そのコのことは結局何もわからなかった。目立たない感じのコだった。 おそらく10代だった。彼女たち3人と僕は自転車で町を走っていた。そのあだ名のないコは自転車を持ってなくて、ヒロの後ろに乗っていた。 すると彼女がその子供たちを見つけたんだった。子供たちが...
子猫が部屋に入ってきた。餌をあげようかと言うと、窓の外にいた母猫が言った。「私の娘を誘惑するつもりかい?」 「みすぼらしいニンゲンの分際で‥‥」 聞こえないふりをして僕は冷蔵庫を開けた。そこにはミニトマトのヘタが大量に保存してある。子猫と母親のところに持っていった。「これを食べるといいよ」 「何だいこれ? 私たちネコ族を馬鹿にしてるのかい?」 「1年かかって溜めたんだ。全部...
飛行機の私の席に男の人が座っていた。馬鹿そうな人だった。「そこ、私の席なんですが‥‥」と声をかけると「え、なに、俺にカマ掘ってほしいって言うの? はははは」と機内中に響き渡る大声で返された。 男は機外に叩き出された。その後で私を気の毒に思った若いCAさんが、私をビジネスにアップグレードしてくれた。でも私は女だった。だから気にしてないのと言うと、彼女は何かおもしろい冗談を聞いたかのように...
学生たちが立てこもっている教室に軍の兵士と踏み込んだが誰もいない。そこはテレビドラマに出てくるようなステレオタイプの理科室で、お約束の人体模型やホルマリン漬けの標本があった。 兵士が指差す標本の壜に僕は近づいた。それは人間の標本だった。立てこもっていた学生の1人だ。壜を割って中身を取り出し兵士には「逮捕しろ」と命じる。 「逮捕って‥‥これ『標本』ですよ‥‥」 教室の隅にはアラ...
少年の僕は白いワンピースを着て眠っている。隣に女が同じ服を着て寝ている。 なんで女の子の服を着せられているのだろうと不思議に思いながら、先に目を覚ましたのは僕だ。 隣で寝ている女の人を見る。彼女は僕の母親ではない。 ひどい寝汗をかいている。何度も寝返りをうつ。 やがて彼女は目を覚ます。起き上がり、汗で濡れたワンピースを脱ぐ。下着はつけていなかった。 僕をじろりと...
パーティー会場へ向うリムジンの僕の隣に、ジャージ姿の少女たちが乗りこんできた。 運転者の隣(助手席)にもスーツを着た大人の女性が座った。少女たちの引率の先生か、それとも母親だろうか。 少女たちは僕の目の前でドレスに着替え始めた。 ここは移動式の更衣室じゃないぞ、という建前の、憮然とした表情を保ちながら、僕は本音の部分でラッキースケベを満喫した。 ...
体育館で、講話があった。前の方にいた背の高い男性たちは、みんな起立して、その話を聞いていた。話の後で催される、コンサートを楽しみに、僕は来たのだ。やっと、講話は終った。 男たちが着席すると同時に、アバの「ダンシング・クイーン」がかかった。後ろの方に座っていた女のコたちは、ステージに上がり、踊り出した。男たちは座ったまま、その様子を見ていた。 ...
姿見を抱えて電車に乗った。その鏡を棚の上に。電車は50mくらい動いてまた停止した。駅だった。 ホームにはたくさんの人がいた。並んで電車が来るのを待っていた。だが電車の扉はなかなか開かない。10分、20分と時が過ぎた。まだ開かない。 ...
駅で僕は裸だった。みんな暖かそうな服を着ていたが、寒くはなかった。手に小さな鍵を握りしめていた。ロッカーの鍵だった。僕の服はその中にある。 走った。股間を片手で隠しながら。もう一方の手には鍵。誰かの声がした。「隠すことはないじゃないか」「何をだい? 鍵を?」 「そうさ、鍵だよ」誰もお前のキンタマなんて見ない。 ロッカーに到着。声の主が待ってた。「漏れそうだぜよ」持っていた鍵で...
ユニクロで服を買うと、1ヶ月後にプレゼントがもらえる。今日がその日だ。店員が家に来た。 プレゼントを持ってきた店員は変わった腕時計をしていた。針がない。腕時計の中にはグレーのスーツを着た男女がいた。スーツを着たままで激しく踊っている。僕へのプレゼントも腕時計だ。金色の文字盤、茶色い革バンド。同じく針がない。その時計の中には、赤い服を着た男がいた。「この人もダンサーですか?」と店の人に僕...
シーツは黄色だった。タオルも黄色だった。そしてホテルの部屋は狭かった。立て掛けた棺桶のようだ。立ったまま眠れるだろうか。入室をためらっていると、隣の棺桶から男が出てきた。彼は部屋の前の床に小便をした。ずいぶんと黄色い小便を。 ...
健康診断を受けた。A4サイズの問診票には名前を書く欄しかなかった。おそらくこれは心理テストなのだと思った。紙いっぱいに大きく名前を書くのが健康的でいいだろう。はみ出すくらいの勢いで名前を書く。余白には自分の似顔絵(福笑いを意識してわざと崩した笑顔、あざといまでに完璧だ)。 富士山と鷹と茄子のイラストも書いた。これで申し分なく健康と判定されるだろう。 ...
その場所は目で見るより先に感じでわかるのだ。ここがそうなんだなと。僕の独り言は漫画の吹き出しのように空中に浮き、君はそれを見て訊いた。なんて読むの? この日本語‥‥ でも読めなくてもちゃんと意味はわかってる。僕たちはやっと着いたのだ。テレビのワイドショーの時間だった。その黄色い蝶ネクタイの司会者が僕の体の中に入ってきて‥‥勝手に喋り出す‥‥ ...
地元の有力者たちのテーブルに豪華な食事が運ばれてきた。彼らより1時間も前に注文した僕たちの料理はまだ来ない。 僕たちが有力者たちのところへ「挨拶」に行くと、「君らは何を歌いに来たのか」と有力者の1人は訊いた。 「歌いに来たんじゃありません」 「じゃあ帰れ」 「わかりました」 有力者たちはイタリア語の歌を合唱し始める。 僕たちは元の席に戻るのに飛行機を使った‥‥...
椅子から10mほど離れた位置にテーブルがあった。その向こう、10m先にも椅子があり、君は座った。 カフェだ。遠距離恋愛の。 注文した飲み物が来た。中間地点にあるテーブルに置かれた飲み物を取りに立ち上がった。 君は滅多に穿かないミニスカートを穿いている。もう僕たちは座らず、テーブルの脇に立ったまま話をした。 ...
殺人をした。完全犯罪なので捕まることはない。壁に付着した血を雑巾で拭いた。拭かなくてもよかったのだが。ここは僕の部屋ではないのだし。いらぬことをしてしまった。おばあちゃんの形見の雑巾が汚れてしまったではないか。 テレビを点けた。ワイドショーの時間だった‥‥ ...
駅まで行ったけど、また家に帰ってきた。今は6時。オーディションは8時からだ。7時過ぎに家を出ればいいだろう。 『水』という劇だった。僕は水の役に応募した。面接では作品について何か意見を求められるだろうか。意見を述べていいのだろうか。 「この建物のどこかに、誰も入れない部屋があるよ」と面接官は言った。 「そうですか‥‥」 「その部屋の中に、すごくいいものがあるんだ」 「う〜...
満員の特急列車の中で座る席を探してさまよっていると(指定席を買えばよかった)、背中から声をかけられた。僕は振り向いたが、背後には誰もいなかった。車内はガラガラ、座る席はいくらでもあった。 僕はもういちど前を向いた。そこはやはり年末の混雑した列車だった。 ...
玄関のドアを開けて中に入った。細長い廊下がまっすぐにつづいていた。廊下の脇には棚があった。ごちゃごちゃといろいろなものが置いてある。古いレコードや本である。 話にはそこでよくわからない飛躍があって、僕は着ていたものを全部脱ぐ。驚いたことに僕の体は女だった。ドアにノックがあった。混乱していた僕は居留守を使うことにしたが、訪問者は鍵を開けて中に入ってきた。若い男で、彼がこの部屋に住んでいる...
新幹線に乗った。指定席の中にぽつん、ぽつんと自由席はあった。それを繋げていくと文字になることがわかった。1号車にはアルファベットのLが、2号車にはIが。自由席で書かれた言葉は LINE なのかも知れない。 ...
座席にはツマミがあった。「このツマミを回してはいけません」と注意書きがあったので回した。とくに何も起こらない。ツマミは消えていた。 ふっと予感がして財布を見た。あまりいい予感ではない。財布の中には千円札が6枚あったはずだ。しかしそれは1枚の六千円札になっていた。 ...
白い雨が降っている、と言うと笑われた。それは「雪」だ。 君が眠っている間こっそり家を抜け出した。朝までには帰るつもりで。裸足で町をうろついた。 ホームレスが眠っているのを見た。彼は老人だった。何年も剃ってないヒゲが白かった。それも雪なのか。 そう言うと君はやっぱり笑った。でも全部本当にあったことだ。 ...
「でもあなたは空を飛んできたじゃない」と彼女は言う。 「それは、僕が空に飛ばされたからだよ」と僕は答える。 僕の体重はとても軽いのだ、よく風に吹き飛ばされる。 しかし彼女は僕を疑っている。 もう僕の目を見ない。長い髪を手でいじっている。また風が吹く。 ...
20歳も年下の双子の妹たちが、引き出しを開け母親の金を盗んでいる。僕の目の前でそれを堂々とやる。妹たちの目には、僕は見えてないのだ。 僕は安心して、彼女たちの前で服を脱ぎ、小便をしてから、風呂に入った。 しばらくすると、母親が帰ってきた。母もまた、10代の小娘のような姿をしていた。風呂の扉を開け見ていると、彼女もまた、別の引き出しを開け、金を盗った。 ...
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黒板の前に立っている先生に直接現金を持っていった。授業料だ。すると黒板がパカッと開いて、事務員のような人が顔を出した。「お金はこちらにいただきます」と言う。信用できるのだろうか。先生もびっくりしているが。 ...
「白身や黄身に感情移入してはいけない」その料理人は言った。 「感情移入ですって?」何を言ってるんだろ。 見知らぬ女が突然家にやって来て、関係を迫った。僕が応じて手を出そうとすると、「何でいきなりそんなことするの?」と声を上げた。「じゃあ帰ってください」と僕は言った。 「やるまで帰らない」と女。吐息が熱い。 ところがよく見ると女だと思っていたのは水色のカゴの中に多数入...
猛スピードでバックしてくる車が僕を跳ねた。全身を激しく打った。すると時間の進み方が突然ゆっくりになった。頭の中を過去の記憶が走馬灯のように駆け巡った。 その記憶は、実際に体験したものばかりではなかった。夢のような空想も多く混じっていた。現実より空想の方が多かったかも知れない。 ある空想の中では、僕は美女と結婚したことになっていた。 現実には存在しない、空想の結婚相手に向って...
告白罪ができた。男が女に愛の告白をすると、逮捕されてしまう。人生詰む。女から男への告白はいいのか。いいらしい。僕は待った。僕はハンサムだから。知らないたくさんの女がやってきた。彼女らは僕の知らない外国の言葉で、一言か二言何か告白し、去った。 ...
僕は町(ちょう)から来た。そこは小さな村(そん)だった。村長が僕を出迎えた。 広場にロケットが用意されていた。僕はロケットでちょうに帰される。宇宙服に着替えて乗り込むと、すぐにカウントダウンが始まった。カウントダウンはいきなり「2」から開始されたので、僕は焦った。 ...
みんなで1枚の大きな紙に絵を描いている。もう遅いからと言って2人が家に帰る。1人で好きなように描きたい僕は最後まで残ることにするが、絵の具は既に青と黄色しか残っていない。 後ろを振り返る。半開きになったままのドアの向こうから入りこんできた熱い風に吹かれる。風は絵のところへ行く。それは絵を乾かそうとしているのだ。 ...
ラジオをつける。待っていたかのようにDJが喋りだす。「○○君においらの先生を紹介するよ‥‥」どうして僕の名前を知っているのだろう。 「先生はすごいんだ‥‥」 「先生はバレーボールの選手だった‥‥」 僕の背後に背の高い女性が出現する。彼女は僕の隣にやってくる。11時になった。DJはお喋りをやめる。 ...
その宇宙船には刑事だけが乗っていた。何百年も人工冬眠して大宇宙を旅する‥‥。目的地に到着する前に1人目覚めた刑事は不思議に思う。「犯人」はどこにいるんだろうか。 ...
ホテルのロビーのテレビのニュースに映っているのはこの人たちだ‥‥オリンピックで大活躍した選手たち。スキャンダルの渦中にある彼女らと同じホテルに泊まっていた。僕はテレビを消すか、チャンネルを変えようと思ってリモコンを探した。背の高い彼女らの間を、スキー板を持ってウロウロした。‥‥僕はスキーは初めてだということを彼女らにまだ言ってない。 ...
オフィスで働いている僕たち4人のもとに料理が運ばれてきた。仕事を中断して集まった。何なんだろう。注文した覚えはない。後から請求が来るのだろうか。料理を運んできた女性は何も言わずに帰った。 同僚の男性が一口食べた。目を伏せ、何も言わずに仕事に戻った。それを見た僕らは働く気をなくしたのだ。 ...
カンフーのような、護身術の訓練を受けていた、僕の隣では、別の訓練生が、銃の扱いをレクチャーされている。 狙い、構えた。彼は、何発か撃った。弾は、ゆっくり飛んだ。人型の標的に向って、まっすぐ進む、弾丸、彼は自分の撃った弾丸を追い越し、倒錯的な喜びを感じながら、笑顔で標的の前に立った。 ...
最初に人の名前、そして「これは演習ではない」と、放送があった。僕に向けられた言葉ではないのだろう、か。僕は自分の名前が、思い出せない。 容疑者が、非常階段を下りてきた。赤い靴と、スカート。部屋で、着替えてきたようだ。僕は、拳銃を構えた。「これは‥‥拳銃ではない」。そして、僕は、先程の名前を叫ぶ。 ...
「傘貸して」 「やだよ」 雨の季節が来た。地面から緑色の茎が生えている。1本だけ。ネギのように見えるが違う。それは傘だ。それはあちこちに生えている。強い風が吹いて斜めになる。 ...
整形外科医になった妹に手術してもらうことになった。お兄ちゃんは口をもっと大きくした方がいいと言う。横に広げるのだ。洗濯バサミのような器具で僕の唇の両端は引っ張られた。その状態で笛を咥えさせられた。何か吹いてと妹はリクエストした。 ...
無人のゴール前でパスを受けたバスケの選手が、丸出しにした尻をペンペンしたりして、相手チームをからかうが、 どうすることもできない。 彼はシュートを決めた後、ゴール裏にあった平屋の住宅に駆け込み、奇声を上げ、中にあったテレビやソファーを窓から投げ捨てる。 ゴール周辺が、粗大ゴミ置き場のようになる。ボランティアによる片づけが始まる。試合は一時中断する。 ...
宝くじを買う。そこには僕の顔が、紙幣のように印刷されている。手に取り、ずっと眺めている。5億円。当たったのだ。 1日中、ニヤけている。 「お兄ちゃん、もしかして」妹が声をかけてくる。僕は当たりくじを妹に見せる。 「この顔はお兄ちゃんの顔だ、間違いない!」 「これで大金持ちだな」 「金持ち兄ちゃん(笑)、私にいくらくれるの?」 「お前さ、これからバイトだっけ?...
日本の大富豪がモナリザを買ったという。ニュースを見た。世界的名画だ。 例の謎の微笑がテレビに大写しになる。 だがその顔は、どう見ても僕の顔だった。モナリザは、僕だった。 大富豪がインタビューで答えている。 「今日から私がモナリザ」 いつ入れ替わったのだろう。モナリザと大富豪と僕と。 ...
その女性は、バスの中で歌い出す。「あのカーブを左に曲がると、町は外国気取りよ」 僕は初めて聞くが、よく知られた歌らしい。乗客のみんなが、合唱し始める。実際にはバスは、右折する。急停車する。 みんなが降りるので、僕もつられて降りた。しかしそこは、僕の行きたい場所ではない。 みんなは改めて、左に行った。僕はまっすぐ行くことにする。僕の行く道にだけ、雨が降っている。 ...
バスを待っていると知らない女性が話しかけてきた。僕の親しい友人だというふりをしたがっているようだ。東洋人にしては異様に彫りが深く、きれいな人だったし、話もおもしろかったので、僕も演技してあげることにした。 愛想笑いをしたり、「そうだね」などと相槌を打ったみたりである。そのうちにバスが来た。 バスの中では、僕たちは少し離れて座った。すると彼女の隣に座った男性が、彼女に話しかけた。彼...
そこは砂漠だった。歩いていくと雪原になった。足元の雪は固く凍りついている。 何度も滑って転びそうになる僕の、ポケットの中の電話が鳴った。安全な「小屋」にいる友人たちからだ。 「今夜の巨人・中日は、どっちが勝ったんだ?」 知るか、と思ったがテキトーに答える「巨人」 「何対何で?」 雪原の中に、黒いセダンが1台停まっているのを見かける。何なんだろう? 僕は乗せてもらおう...
そのとき僕は時間よ止まれと思った。お前は美しい。実際に口に出して言った。でも悪魔はやってこなかった。 そういう契約をしていなかったから‥‥「どこへ行こうとしてたの?」 悪魔の家に行こうと思って支度しているところに悪魔がやって来て訊いた。「わかんなくなっちゃった」、と僕は答えた。「君は何しにうちへ来たの?」「私もわからなくなった」 ...
僕は裸足だった。靴はいつの間にか脱げていた。靴の中に入れておいたはずの僕の足の指はなくなっていた。 靴を探した。指か。指はいらないだろう。だが指だけが見つかった。指はとても黒かった。人体の一部のようには見えなかったが、これは僕のものなのだろうか。 ...
庭のサボテンが成長して普通の木になった。高さは数十メートル、もうトゲはない。上の方はどうなっているんだろう? 見に行くと天辺にちょこんとサボテンは乗っかっていた。 ...
住宅街の道の真ん中に僕の便器はいた。 だが本当に僕の便器なのかはわからない。彼はその場に固定され動けなくなっているようだ。 「みんなに見られるのが恥ずかしいです」彼は訴えるので、周りを薄い木の板で囲った。そうすると簡易トイレのようになった。 用を足して扉を開けると、外にはたくさんの人が並んでいる。僕は全員に意味もなく謝った。 ...
広間にいた僕たちの頭上でベトナムの国旗が振られた。僕たちは立ったまま君の演奏を聴いているところ。次の公演はベトナムなんだな。アンコールはベトナムの民謡だ。 電気機関車と線路と山が描かれた大きな皿を僕は手に持っている。今日のコンサートの記念にと渡された皿だ。ベトナムにはこんな汽車は走っていないかも知れないが。 ...
極度乾燥した果物。ただしドライフルーツではない、ただ乾燥した果物。食べ残すべきではない、とその人は言う。口の周りに、子供のように、食べカスをつけて喋る。口の中は、カラカラだった。 ...
恐ろしいヒヨテリ菌(実在しません)に感染した患者が床に直接寝かされていた。治療と称して僕たちは彼の顔を足で踏んだ。すると患者の鼻の穴から茎が伸びてきて紫色の花が咲いた。 ...
木星の衛星にいました。君と木星を見に来たのです。空に浮かぶ木星。太陽系最大の惑星。 そして足元の水槽の中にも、「木星」はありました‥‥ 水槽に手を入れ、木星をまさぐる僕に、君は訊きます、「木星に生物はいる?」 「探してみるよ」 木星の大きな渦を、ぐるぐるとかき混ぜていたのは僕です。 ...
みんな小走りでした。1人として歩く者はなかったです。僕も小走りしました。疲れると停止して、体力が回復するのを待ち、そしてまた小走りし始めます。決して歩きません。みんなで誓ったのです。 ...
バルコニーに出ました。僕の目の前を蝶が高速で過ぎていきました。あんなに速く飛ぶ蝶を初めて見ました。 次から次と蝶は飛んできます。ここは蝶たちのハイウェイになっていたのです。僕は蝶に撥ね飛ばされそうになりました。 クラクションは鳴らされませんでした。蝶たちは上手に僕を避けていきます。 バルコニーの先でさらにスピードを上げた蝶たちが、空の彼方で虹と一体化するのが見えました。 ...
突然寝室の明かりがつき、人の気配がして僕は目を覚ました。起き上がって確かめようとしたが体が動かなかった。黒い布で目隠しがされていて、目を開けても何も見えなかった。 耳には栓がしてあって、何も聞こえなかった。 誰かがゆっくりと近づいてきて、僕の胸に手を当てた。その手が僕の体内に入ってくる。手は僕の心臓の位置を、正しい場所に置き直しているのだ。 だが心臓の位置がちょっと動くたび...
気づいてみれば、僕が話しかけていたのは、レタスの葉っぱだった。何か、とても大事な話をしていたのだが、相手がレタスだとわかった途端、醒めてしまった。話の内容も、一瞬で忘れてしまった。「今からおまえを食べる」と僕は宣言した。「ドレッシングもつけずにな」 そいつからは、何の反応も返ってこなかった。午後7時のレタスは、午後の5時からレタスだったが、誰も気づかなかっただけなのだ。 ...
ルビー色の蜘蛛の糸のような、レーザー光線の上を、小人が渡ってきた。まっすぐ僕のところにやってきた。 次はオマエの番、と小人は言った。 誰の番だって? じゃ、もういちどオレの番。エヘエヘヘ。 小人がレーザー光線の上に足を乗せ、体重をかけると、レーザーの光は消えた。。 ...
女たちは1人ずつ順番に、まったく同じ質問を僕にした。「私はどうすればいいの?」 僕は全員に、まったく同じ答えを返した。「横になるといいです」 「どうして横になるといいの?」 「あなたはもう死んでいるからです」 ふ〜ん、という顔をして全員が床に横になった。 だが彼女たちは眠るどころか、目を大きく見開いて僕を見つめている。 そして「あなたはもう少し起きていた方がい...
女ばかりだった。またそういう場所に僕は迷い込んでしまった。若い女がいて、若くない女もいた。ほとんど服を着ていないのもいたが、僕を気にする者は誰もいなかった。女たちはみんなとてもリラックスしているように見えた。そして同時に、とても疲れているようにも見えた。 ...
1人の訓練兵と、1つのウンコ、1台の便器がセットになっています。完成させなさい、というのです。すでに完成しているじゃないか、と思いました。それとも脱構築しろというのでしょうか。徴兵され、軍隊に入る夢を見ました。ポストモダンな軍隊です。1週間ほどの訓練の、最初の朝でした。 ...
朝、起きると僕は、知らない場所にいた。床に直接、たくさんの布団が敷いてあり、さっきまで誰かが寝ていたのだろうが、今は全部空だ。部屋の扉は開いていて、外に人の気配がある。気配は感じるのだが、誰もいない。 トイレに行った。便器が異常に小さい。人形の家のトイレみたいに。なぜだろう。僕の体が大きくなったのかも知れないが、よくわからない。あちこちから、水を流す音が聞こえてくる。シャワーを浴びる音...
猫が僕にカードを渡した。どうしろというのだろう。僕はそのカードにポイントを付与して返した。猫は僕の顔をパンチして鳴いた。 ...
手のひらで水をすくって、弱った猫に飲ませた。歯磨きのチューブから少し出して、水に溶かす。水はミルクのように白っぽくなり、薄荷の味がついて、猫は喜んだ。 その猫は、人間の言葉が喋れた。その猫は、銀行に口座を持っていた。大金を僕にくれると言った。ATMについて行った。列に並んだ。 僕たちの後ろに、体長4メートルのキリンが立った。キリンはスーツを着ている。その威圧感が半端なかっ...
「私の瞳、どこにある?」 「どこって‥‥そこに‥‥」 君が笑みを浮かべ、大きくまばたきをすると、君の瞳の中の輝く星は、100個にも200個にもなった。 「えっ‥‥」 君はもういちど、ゆっくりと目を閉じた。僕たちのいた部屋全体が、それに合わせて収縮した。僕たちの距離が縮まった。 君がまた目を開けても、何も元には戻らなかった。君の瞳の中に生まれた、すべての星が一カ所に集ま...