地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
バス停の横に、銭湯があった。バスを待つ間、風呂に入ろうと思った。僕の持ち物は、傘1つだった。今は、雨は降ってない。服を脱いで、ロッカーに入れた。傘は入らなかったので、持ったまま風呂に入った。 あぁ‥‥、しまった。次のバスは、何時だったか、時刻表を見るのを忘れた。僕は風呂を出て、裸のまま、バス停に戻った。体を隠すのには、タオルでなく、傘を使った。 ...
映画の中で、名前が呼ばれた。席に座って、鑑賞していた男性が、「はい」と返事して、立ち上がった。 また、違う名前が呼ばれた。1人、立ち上がった。次々に名前は呼ばれ、全員が立ち上がった。 そうすると、前で立っている人が邪魔で、スクリーンが、見えなくなった。早く、僕の名前も呼ばれないかな、と思った。 ...
泥の中を歩いていた。だが僕は汚れなかった。後ろからトラックが来て、泥を跳ねて行った。誰もが泥だらけになったが、僕の服はむしろ前よりも白くなった。 橋をつくろう、と言った。泥の海に橋を架けよう。僕は泥を捏ねて、橋をつくった。さっきのトラックが、その橋を渡って行った。 魚の呪いだ。中国人は非難された。オリンピックの観客は3人だけ。 ...
下りのエスカレーターに乗っている。もう24時間以上乗っているが、まだ下に着かない。後ろにいる女の人たちは、ずっとハワイの話をしている。24時間ずっとだ。振り返って顔を見てやろうか。何かがおかしいとは思わないのだろうか。 ...
205号室の前に立った。合鍵はもらっていた。自由に入っていいのだ。しかし僕は長い間ドアの前でためらっていた。 すると扉は開いた。若い娘たちがぞろぞろと出てきた。ばあさんの孫たちだろう。クラシックのコンサートに行くのだと言っている。 娘たちの母親らしき女性が、僕を招き入れた。お小遣いだと言って三万円を渡そうとする。 一万円札が2枚、残りの一万円は小銭で渡そうとする。ばあさんの...
椅子は小さすぎて座れなかった。体の小さい現地の人に合わせたものなののだろう。僕たちは巨人だ。そのバス停でバスを降りるとき、狭い降車口を破壊してしまった。 バスは走り去った。一緒にいた2人の友達は、左の道へ行った。僕は走り去ったバスの後を追いかけて、大股で歩いた。 ...
コンサートホールを出た。君と2人。僕たちが最後だった。ホールの照明が消えた。小さなホールだったが、暗がりで突然大きくなったように見える。 僕たちは駐車場に向った。車を停めたはずのところに、テーブルと椅子が「駐車」していた。向かい合って座る。インタビューが始まった。 ‥‥牛乳について君は語っている。小さいころ牛乳が嫌いだった。しかしある工夫をしたら飲めるようになった。何をしたのか...
何か一言発言するたびに、僕の顔は大きくなった。風船のように、膨らんだ。喋らないように気をつけた。しかし喋らなくてはならない場面もあった。決して広くはない会議室の中だった。僕の顔はみんなを圧迫した。 ...
クイズは早押しだった。イントロを聞いて曲を当てる。全部日本の歌謡曲とポップスだった。僕たちは全問正解して優勝した。他の出場者たちは1問も答えられなかった。 クイズ番組に回答者として出演した。若い韓国人の友達とチームを組んだ。これは出来レースだと彼は漏らした。事前に回答を教えてもらっているやつらがいる。そいつらが必ず勝つ。そうなのかなと僕は思う。 ...
宝くじで1兆円ほど当たった少女がいた。彼女は全額を出身国の政府に寄付した。貧しいアフリカの国だった。彼女は祖国の英雄になった。そのニュースをテレビで見た。 僕も実は1億円が当たったのだ。その知らせを聞いて死んだ父が生き返った。父はとりあえず5千万円をドル建てで預金しておけとアドバイスしてきた。そして残りの5千万円をおれによこせ。おれが10倍にしてやると言った。 ...
お手伝いロボットに入力した。「食事」「入浴」「洗濯」の順でボタンを押すと、ロボットは食パンをトーストしてくれた。それは僕が期待していた夕食ではなかった。 「お風呂が沸きました」とロボットが言った。僕が服を着たまま入ると、ロボットは褒めた。「いいアイディアです」 ...
荒地にピクニックに行く。弁当を広げる。プラスチックのスプーンを持って来た人がいる。私服の警官が、それを見つける。 「このプラスチックは、あと80億年は分解しない」彼は言う。 「そのへんに捨てちゃだめだぞ。必ず持ち帰るんだ」 帰り僕たちはコンビニに寄る。プラスチックのスプーンを全部返す。たくさんもらい過ぎた。 ...
なぜか女の子の格好をさせられて、小学生のバレリーナたちと一緒に、白鳥の湖を踊ることになった。 舞台に出る直前まで、僕はリュックを背負っていた。大きなリュックだ。「何が入っているの?」と小学生の保護者たちは訊いた。「何も入ってません」 僕がリュックを下ろすと、保護者たちが集まってきて、中を覗き込む。 バレエは、無事に終わった。舞台裏に戻って、リュックを見ると、男物の服が入って...
王国は歩いて行ける距離にあった。 僕は王国にその女を連れていった。女は逃げることもできたはずだった。しかし黙って僕についてきた。そして僕の5番目の妻になることを承諾した。 彼女は他の妻たちよりも10歳以上年上だった。そして10kg以上太っていた。地下牢のような新居に、僕は彼女と一緒に入った。ハーレムの4人の妻たちが、僕たちを見に来た。「一緒に入るかい?」と僕は檻の外の妻たちに訊い...
午後3時、妹と母が僕の部屋の掃除にやってくる。彼女たちが床を雑巾掛けしている間、僕は下に下りて、用意されていたご飯を食べる。 頃合いを見て部屋に戻る。妹たちはいない。部屋の床には綺麗に畳まれた服が置いてある。窓の外には洗濯物が干してある。どれも僕の服ではない。もう乾いたようだ。僕はそれを取り込み、畳んで床に置く。そしてしばらく何もせずに待つ。でも何も起こらない。 ...
高級レストランでお食事。終る。テーブルで会計。僕は床に落ちていた二つ折りの財布を拾い、その中から支払う。 財布にはまだ紙幣が残っている。僕はその財布を、隣のテーブルの下に投げる。 ...
窓の外に貧しい身なりの母娘が立って食事する僕を見ている。 食べ終わり歯を磨きに洗面所へ行くとそこにも貧しい娘は立っている。洗面台の中に頭を突っ込み、口を大きく開けてこちらを見上げた。僕が口を濯いだ水を飲むつもりなのだ。 彼女の母親が見ている前で、僕は先程の食事で歯に詰まった食べカスと共に、娘の口の中に吐き出す。 ...
七回表の攻撃の前、円陣を組んだ。ふつうの、丸い円陣だ。その回の裏、相手チームも円陣を組んだ。四角い円陣だった。そんなの見たことがない。 その次の回の裏、相手チームはまた円陣を組んだ。今度は星型の円陣だった。観客がざわめいた。 ...
連中の言うとおりだった。 地球は平らだった。全人類が端っこから落ちそうになっている。 僕は双子の妹の片割れを見つけた。引っ張り上げる。 彼女の夫もついでに助けた。もう1人の妹を探したが見つからない。 おまえの分身はどこにいるんだ? と訊いたが妹は何のことかわからない様子。 わざと僕の目の前でタバコを吸い始めた。僕を怒らせようとしているんだ。 ...
起きているときに見た、怖いぐらいはっきりとした夢だった。幻覚を見ているように感じられた。僕は飛行機に乗っていたのだが、突然その幻覚の中に落ちていった。君がエッセイ本を出版したのだ。その本の中に僕のことが書いてある。「彼は私にとっていちばん大切な友人だった」と。 「彼が生きている間に、そのことを充分に伝えられなかった」 どうやら僕は死んだらしい。いや死んだのは間違いない。もう僕は飛行...
その女性はエレプと名乗った。本名エレン・プなんとか。エレンと呼ぶことにする。 僕は訪ねていった。エレンのブースを。彼女は自分で書いた小説をそこで売っていた。「立ち読みしていい?」と僕は訊いた。 「立ち読みって言い方、あまり好きじゃなかったな‥‥ 」 エレンはいつも過去形で話した。私はエレプと呼ばれていたのよ。 彼女をエレプと呼ぶ人はなかった‥‥ ...
僕の右半身と左半身は別の夢を見ていた。それぞれ夜の間別の場所に行ってきたのだ。朝になって2人は帰ってきた。僕にはよくわからない言葉でお互いにどこで何をしてきたのか報告しあっている。「わかるように話してくれよ」と僕は請うた。しかし彼らは僕を無視していた。顕在意識というものを完全に見下しているようだった。「あんたの見たという夢をときどき聞かせてもらっているよ」と彼らの1人は言う。「オレらにはちと...
みんな「魔王がいる」と言った。そのとおり、さっきまではいた。でも今はもういない。 みんなは引き止めたけど僕は魔王がいた場所に歩いていく。そこは都会の一角だったが野生の動物がいた。 魔王がいなくなったので動物たちも戻ってきたのだ。 僕は動物たちに訊いてまわった。「魔王なんかいないよね?」答えはなかった。 大型のネコ科の肉食獣が僕を襲おうとした。そいつにも訊いた。「魔王な...
喫茶店でコーヒーを注文したが出された飲み物は水だった。水の入ったコップが2つ。僕が座る席を探していると同じく水の入ったコップを2つ持った女と目が合った。 女は自分にコーヒーを出さなかった店に傷つけられたふりをしていた‥‥ 店内にやけに細長いポスターが貼ってあった。小さい文字でびっしりと何か書いてある。僕は女と一緒に書いてある文章を読む。背の低い女は下から、僕はポスターの上の方から...
僕が赤い花を描きたいと言うとその白い花は血を流して自らを赤く染めた。逆だったかも知れない。白い花が突然血を流したりするので僕はそんな夢を見たのだ。 僕は赤い絵の具を持ってなかった。誰もその色の絵の具は持っていなかったので白い花の子供たちももう安心である。 ...
その黒い帽子をかぶると、人間でもフクロウのように首を360度回すことができる。帽子は世界中で流行している。着用率は8割を超えている。僕はかぶってない。 下りのエスカレーターである。後ろに立った人が悪戯で僕にその帽子をかぶせる。そして僕の頭をつかんでクルクルと何回転もさせる。 ...
昨日まであった店が、今日はなかった。すると何の店だったか、もう思い出せない。店のあった場所を通り過ぎて、振り返った。しかし、振り向いてはいけないのだった。 空気にまでモザイクがかけられている。モザイクをかけられた人たちが、お互いの中を出たり入ったりしていた。 ...
毒矢を持ち、地面に掘られた穴の中に身を潜めた。頭上を象が通りかかるのを待った。象の足の裏に矢を刺すのだ。しかし今日も象はやって来なかった。僕は穴から出た。 ...
大量の洗濯物が洗濯機の中で回っていた。これが本当に全部僕の洗濯物なのだろうか。白いシャツはまだ生きていたみたいで、洗濯槽から袖を出し僕に助けを求めた。手を伸ばすと、ゾンビになった他の洗濯物たちが僕を掴み、中に引きずり込もうとしてきた。 ...
東大出身者専用の入口から入った。そこから入ったのは僕1人だった。中でその他の大学出身者と一緒になり、彼らとは出口も同じだった。何だったのかよくわからない。 帰りはみんなと同じところから入って、1人東大出身者専用口に向った。すると行きはいなかった職員が立っている。彼は「留学先はどこですか?」と質問してきた。 ...
廊下にはステンレスの流し台があって温水が出た。そこで僕はポケットの中のものを洗った。それが何だったのかわからない。汚れは落ちたのか? タオルで拭いてまたポケットに戻した。 それから鏡を見た。美が映っていた。僕は美しかった。髪が長かった。目が黒かった。鏡に顔を近づけた。近づけば近づくほど僕は美しくなった。美しくないものは鏡から遠ざかっていった。 ...
黄色い犬。ライオンのように黄色い、僕の大好きな犬。大きさもライオンくらい。「おんぶしてあげるよ」と言った。「僕はお前が好きだから」 「ボクは重いよ」と犬は答えた。 「平気だよ、お前が好きなんだ」 犬は僕の背中に乗って、ウンコをした。 「どうしてウンコするの?」 「ボクは重たいから、体重を軽くしようと思った」 「こんなちっちゃいウンコ1つじゃ、変わらないよ」 「も...
ホテルの部屋で寝ているところに清掃の人が入ってきて枕カバーを交換した。僕は目を覚まさなかった。 清掃の人がしたのは「あなたは夢を見ているんですからね」と言いながら枕カバーを交換することだけだった。足をくすぐられたような気もするがわからない。ゴミは残ったままだ。 ...
扉が開いた。僕は降車した。背後で扉が閉まった瞬間、本を忘れたことに気づいた。本は座席の上にあった。 「焦ることないよ」と友達は言った。「また扉が開くのを待てばいいよ」 そのとおりだった。電車は出発せず、いつまでもホームに停まっている。僕は待った。 ...
そこは原宿のピテカンだった。もうなくなったはずなのにまだあった。しかし僕の目の前で店の明かりは消えていった。また入れなかったのだ。 僕は尻ポケットの、お札でパンパンに膨れた財布に触れた。 物置小屋のようなプレハブが僕の部屋だった。窓にはガラスも嵌まってなかった。電気も来てない。木の机の引き出しに財布を入れ、床で眠った。 そうすると夢の中で僕はピテカンの前に戻っていた...
学校の教室のようなところだった。夜も遅く次々と明かりは消えていった。僕はお札でパンパンに膨れた財布を尻ポケットに入れ、廊下を歩いた。 物置小屋のような一室が僕の部屋だった。窓にはガラスも嵌まってなかった。電気も来てない。 木の机の引き出しに財布を入れ、また教室に戻った。 しかしもう授業は終っていた。男が1人残って教室の掃除をしていた。 「手伝いましょうか?」と僕は声をか...
大きな水色の封筒を持って銀行の窓口に並んでいる。封筒の中には白い紙が1枚入っている。何か書いてあるはずだが僕には白紙にしか見えない。 窓口の人がその紙を見る。裏にも何か書いてあるみたいでじっくりと時間をかけて読んでいる(僕には裏と表の区別もつかないのだが)。彼は「わかりました」と一言。僕に札束を渡した。 ...
何もかもが石でできた部屋に大男が何人も泊まっていた。朝のシャワーを浴びながら歯を磨き柔軟体操をしている。部屋には扉がないので廊下から中の様子が見えた。僕は部屋の前をウロウロして男たちの様子を窺っている。早くチェックアウトしないかな。どうなってるのか部屋の中をじっくり見てみたい。 ...
君は僕に言った。お揃いの刺青を入れよう。痛そうだから厭。痛くなんかないよ。 君はもう入れていた。私を見て。 これと同じ刺青を入れてきて。 僕は袖を捲った。二の腕に入れようかな。あなた、何言ってるの? 私と同じ場所に入れてくるのよ。 ...
僕の隣にいる男性は業界の有名人だ。うどんを食べ終わって出て行く。立ち上がると天井に頭がつきそうなくらい背が高かった。驚異の座高の低さだ。 僕の注文していたうどんが来た。食べようとすると年配の女性が僕の向いに座った。彼女は仕事の依頼をしてきた。それは僕が昔していた仕事だった。今はもうしてない。だが断る前に話を聞いた。彼女はその業界にいた頃の僕をよく知っているようだった。 ...
君は自分のピアノの調律をして。それはすぐに終った。 僕の胸を開け、その中にも入っていたピアノを弾いた。調律のためというより、音楽のために、手は僕の中のヘンなところに入ってきた。 ...
アリスは歩きながら練習していた。学校まで歩いて行く練習だ。歩くことはできても「学校まで歩く」ことは難しいらしいのだ。 学校嫌いのアリス。いろんな建物を学校に見立てて練習している。 ...
何かで教室のみんなが笑った。1人だけ笑わなかった者がいた。彼はみんなが笑い終わった後で、1人笑った。するとそれを見て、先生が笑った。 ...
僕は地下で、スペースを借りていた。「さて」といった。スペース「さて」 地下に下りる前に、いろんなチラシをもらった。音楽や、アートのイベントのチラシ。チラシを「さて」に持ち込んで‥‥ どうもしなかった。 「さて」には段ボール箱が届いていた。 中身は絵の具のこびりついたままのパレット。たくさんのパレットだ。 ...
未来から来た男が少女に未来のニュースを語った。少女は黙って聞いていたがその内に泣き出した。涙が溢れ出る前に少女は逆立ちをした。少女の涙はオデコの上に流れた。 そこで少女は逆立ちをやめた。だが少女の流した涙は彼女の瞳には戻らず、空高く昇って、雲になった。黒雲は白く明るい雲になり、やがて空に溶けた。 ...
僕はその俳優からの依頼で絵を描いた。彼が出演した映画の様々な場面を1枚の絵にしてほしいというものだ。描き上がった絵を見て彼は文句を言った。なんで女優たちとのラブシーンがないんだ? おれに嫉妬しているのか? それはそうかも知れない、と僕は思った。彼とリムジンに乗っていた。リムジンにはコタツが設置してあった。すごくいい趣味だねと僕は褒める。絵は描き直すことも捨てることも可能だった。 ...
時間が逆に流れた。だが君の流した涙は君の瞳には帰らず、空高く昇って、雲になった。黒雲は白く明るい雲になり、やがて空に溶けた。その限りなく透明に近い何かの残りが、強く輝き出すまで、君は泣いていた。 ...
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地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
ディーラーの握り拳の中に4つの数字がある。サイコロを転がして出した数字とは一致しない。友人たちはまた全部外した。 「いつかこれで大金を手にするんだ」いつも言っている、ギャンブル好きの彼ら。 もう帰ろう‥‥ 車に戻った。友人の1人が私と2人だけで話したいと言った。異議を唱えるもう1人の友人を、彼は殴って黙らせた。殴られた方はなぜか楽しそうに笑って‥‥ ‥‥ 「話っ...
バスを降りるときに3200万円を支払うのだ。僕じゃない。僕の友達が。彼はそんな金は持ってない。支払いは待ってやってくれ、と僕も運転手に頼む。 運転手は何も言わず、ずっとバスは停車したまま。 ...
地下のそのスペースにたくさんの人が集まっている。みんな友人だがもう誰が誰だか思い出せない。ある音楽が演奏されたのだった。その音楽は僕たちの記憶を洗い流していった。‥‥帰ろうかと思うが足が動かない。ここがどこなのかすらわからない。何か重大な目的があって僕たちはそこに集まったのだった‥‥ 会場の出口では記憶が売りに出されている。それは1点ずつ違うCDだったり紙の本だったりする。映像データで...
知らぬ間に宝くじが当たったようだ。きっとオンラインで買ったやつだ。大金が口座に振り込まれている。僕はその金を全部引き出し、宝くじ売り場へ向かい、そこで売られている宝くじを全部買う。そこで気づいたことがあるのだが、1億円分の宝くじの束は、1億円の札束より軽い。 ...
町の上空に浮かぶ雲のベッドで僕は目覚めた。寝ているうちにまた巨大化してしまったようだ。ベッドから足を下ろすとき住宅を一棟踏み潰してしまった。 いつまで寝ぼけているんだ、と町の住人から怒りの声が上がる。 ベッド下に落したティッシュの箱を取ろうとして暴れ回り、町の一区画を更地にしてしまったところで、完全に目を覚ました。 ...
東大生とは、東京大学の学生ではなくて、東京大学に連れていってくれる人のことだと、その人は主張し、5月のある日、東大を案内してくれたのだ。 東大は東京の大学というより寺院のようで、建物の中に入るとき、靴を脱がなければならなかった。 その日は休みなのか、構内に学生や教員の姿はなく、静かだった。 犬小屋があって、そこで白い犬が寝ていた。 ...
右側通行の道路、右ハンドルの日本車とすれ違った。赤いスポーツカー。運転していた女性が歩道の僕に手を振った。僕も振り返すと、それを合図に人が集まってきた。日本語が通じるか挑戦したい、という人たちだ。日本語を学んでいる学生たちだった。 ...
その家の玄関の前には大猫がいて、カメラを構えた僕が近寄ると後ずさった。そうか写真に撮られるのが嫌いなんだ。家に入るのに大猫が邪魔だった。どうすればどいてくれるだろうと思っていた。無事追い払うことができた。 ...
夕日を浴びて電車が走っている。電車には人は乗ってない。ジャガイモが積まれている。収穫したばかりのジャガイモだ。 線路はあるところで直角に曲がっている。電車はそこを上手く曲がれず、脱線してまっすぐに行ってしまう。まっすぐ行った先には車庫がある。まだ車庫に入りたくない、と電車は思う。 ...
陰茎は固く絞られた雑巾のようだった。僕だけじゃなくみんなのがそうなっている。ニュースでやっていた。みんなそうなってしまったなら仕方ない。 小便をするときはそれをさらにきつく絞る。残尿感があるならまだ絞れるってことだ。 ...
この写真家を僕はアラーキーという仮名で呼ぶことにする。つまり僕が拾ったのは普通のエロ本・エロ写真集ではなかったのである。後で見てわかったが、それはあるストーカーの日記だった。彼(おそらく男だろう)は複数の女性を追いかけていて、隠し撮りした写真の他に、標的の女性の利用するバスの時刻表や、訪れるカフェのメニューなども参考資料としてあり、その本を持っているのが僕は怖くなった。 ...
アイマスクの代わりに黒いタオルを巻いて寝ていた。電車の中だ。電車が駅に着いた。慌てて飛び起き、降車した。目的の駅の、1つ前だった‥‥ やってしまった‥‥降りたホームで、次の電車を待った。それはすぐ来た。先行する電車に追いつき、しばらく平行して走る。向こうの乗客たちが、僕に手を振っている。 ...
高速道路を僕は歩いている。険しい山を削ってつくられた道だ。時速300キロで走る透明な車が、僕の体を通り抜ける(逆なのかも知れないが、透明なのは僕の方で)。 路肩に男の子がいる。1人で遊んでいる。危険だ。僕は声をかけた。 親に電話してやるよ、迎えに来いって言ってあげる。 おうちの電話番号、覚えてる? 迷子の男の子が教えてくれた番号にかけると、それは僕の実家だ。死んだはず...
足元に酒瓶があった。隣のテーブルの方に蹴飛ばした。赤い酒が入っていた。僕は酒を飲まない。 隣りのテーブルで飲み食いしていたグループが僕に手を振って挨拶したのを見て席を立った。 店の外に出ると明るかった。朝だ。カネを払わずに出たことを思い出した。 僕はいろんなことを忘れていた。椅子の背には上着をかけたままだった。上着の内ポケットには財布が入っていた。 ...
僕は窓際に追いつめられた。窓から外に逃げようと思った。 しかし窓には鉄格子が嵌めてあった。 そいつは僕の体の中から「13歳の心臓」を抜き取ろうとした。 取っても死にはしないとそいつは言うが‥‥そもそも「13歳の心臓」って何だ? ...
愛する女に初めてキスしようとしたとき、私は自分が女になっていることに気がついた。 私がキスをすればこの女は男になるのだろうか、と考えながらキスした。目は閉じなかった。女の変化を観察していたが、何も起こらなかった。相思相愛の私たちの未来が、少し不安になった。 ...
女が「レストラン」と言っている。それを聞いた男が「レンタカー?」と返す。「レストラン」大声。「何借りるの?」さらに大声。「レンタルビデオ?」日本人の観光客だ、地下鉄の中。僕は用もない次の駅で降りる。 ...
怪獣の背中に生えているような刺が、道路に生えていた。車は走れなくなった。ある日突然のことだった。僕は茫然と見つめた。 刺は完全な等間隔で生えていた。人工物には見えなかったが、自然の物とも思えなかった。僕はスマホを覗き込み、世界を裏で牛耳る悪の組織の陰謀ではないかという説が、狂人たちの口から、説得力をもって語られるのを待った。 ...
ポケットから取り出した紙片、4つに折られていたのを開いて、約3分間、お湯に浸すのだ。 書かれていた文字が、お湯に溶け出して、紙が真っ白になったら、取り出すのだ。 文字が溶けたお湯を、僕は飲むのだ。知識が僕のものになる。 ...
手に大きなキャベツの葉を持ち、ゆったりと扇ぐ。冷房はなかった。あるのは大きすぎるキャベツの葉だけだ。暑がりの君に風を送った。 「それキャベツでしょ? 食べるものでしょう?」 君は問うたが、僕は返事をしなかった。 気づくと朝だった。詰所の夜警さんが、僕たちに言う。「もう1人の夜警と話し合ったんだがね、俺たちは、もう眠らないことにしたよ、1日中起きてるんだ、ずっとね」 ...
学校なのか仕事なのかはっきりしないが、休みたくて、布団の中から電話をしている。体調は良いわけではないが、寝てなければならないほど悪くもない。むしろ精神的なストレスからくる何かが、僕にそうさせるのだ。 無意識の内に僕は、自分の頬を洗濯バサミでつまんでいた。痛くはない。ちょっと違和感を感じるくらいだ。頬に何個か洗濯バサミをつけている。2階のバルコニーに立っている。手に色落ちした白っぽいジー...
トイレには3人の若者がいて、鏡の前で、髪を梳かしていた。 1人、凝った髪型をした男の頭蓋骨には、紐がついていた。仲間が2人、その紐を引っ張っていた。コルセットの紐を引っ張るようにして。 ...
僕の首筋には、何かに噛まれた痕があった。「犬に噛まれたんだね」と大人が僕に言った。 「どうして犬だとわかるの?」僕は聞き返した。 「病院に連れて行った方がいいな」と別の大人が言った。 「誰を連れて行くんだ?」ここからは大人同士の会話だ。大人の話を聞いていると眠くなる。 ...
雨の中、傘もささず、若者が行列をつくっていた。何に並んでいるのだろう。僕も最後尾につこうとした途端、「中止です」とアナウンスがあった。「中止します」。すると、ずぶ濡れの若者たちは、急に雨が気になり始めたようだった。 ...
「久しぶり」「お久しぶりです」たくさんの人が、僕にそう挨拶してきた。 中には、本当に久しぶりの人もいたが、大抵は初めて会う人だ。 僕が、相手の顔をよく見ようとすると、彼らは帽子や手で、顔を隠す。 そして、なぜかよくわからないのだが、僕は突然、空が飛べるようになった。 雲の上では、また見知らぬ人々が、「久しぶり」「お久しぶりです」そう挨拶してきた。 ...
いつの間にかデパートは閉店していた。出入り口に鍵がかけられてしまった。外に出られない。 途方に暮れていると、1人の男がやってきた。黒いスーツを着た、無口な男だ。どこから入ってきたのだろう。ここで何をしているのだろう。どこへ行くのだろう。話しかけても反応がないが、男についていけば出られるかも知れない。 後ろを歩いていくと、男の背丈は、どんどんと伸びた。僕の2倍〜3倍の長身になった。...
僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 匂いも味もしない煙草を、一口だけ僕は吸い、そうか、僕は流行りの風邪に罹ったんだな、と気づいて、けど、それも夢だ。 鍋を火にかけて、沸騰した水が、消えてなくなるのを見ている。何を料理するつもりだったのか、思い出すために、もうい...
光が熱を失うのと、明るさを失うのはどっちが先だろうと思う。まず冷たくなって、それから消えていくんだろうか。それともまず暗くなって、そこから冷めていくんだろうか。 ...
音が近づいてくる。近づくにつれて音は小さくなる。音は僕は目の前にやってくる。もう何も聞こえない。 僕は音が君だと気づく。僕は音を抱きしめる。音は音を出そうとする。僕は音が目に見えるとでもいうように、君を見つめる。 僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 ...
僕は手に何かを持っている。自分の持っているものが見えない。何だろう? それは重くはない。だがずっと持っていると手首が痛くなる。 その痛くなったところに君はキスする。すると痛みは増す。君は何度も同じ場所にキスする。痛みに耐えられなくなって僕は持っていたものを手放す。 ...
テレビでロレックスを見せびらかしている若い女に対抗心を剥き出しにした。引き出しの中に白いロレックスが眠っていた。僕はそれを腕にはめた。そしてスーツを着て、ネクタイを締め、散歩に出かけた。並木道を1人で歩いた。誰ともすれ違わなかった。 暗くなってから家に戻り、もういちど引き出しを開けた。そこには別のロレックスがあった。家中の引き出しを開けていった。まだあるはずだった。 ...
雪の日、寒い朝、君の吐く白い息は千切れていくつかの幽霊のようになり、廊下へ出て、順に狭い階段を下りた。僕のその、いちばん最後の幽霊の後をついて行く。1階で、幽霊たちは僕のためのパーティを開いてくれた。そこでどんな歌が歌われるのか、君は知らないだろう。 ...
ある男性と一緒に、電車に乗っていた。彼は僕の父親だと言う。だがどう見ても僕より若いし、僕たちは全然似てない。 僕たちは、初めての駅で降りた。駅前にある、消費者金融に用事があった。僕は借りていた金を返すのだ。彼は金を借りるのだ。 駅前に、「お1人様専用のフランス料理店」があった。ひどく腹がへっていた。でも今は駄目だ。次回、1人のときに来よう。 ...
僕の夢の中で、彼は長身のイケメンに姿を変えていた。性格もすっかり明るくなっていたので、彼が誰だか、最初はわからなかった。画廊で絵を見せてもらったとき、やっと気づいた。画風は、昔と変わらなかった。 店は、閉店した。もう朝だった。最後まで残っていた僕は、店のスタッフと一緒に、掃除を始めた。女主人に、雑巾を渡された。あちこち拭いているいる内に気づいたのだが、鉢植えは造花だった。 ...
友人がバイトしている店で、無料のコンサートがある。それを聴きに行くと、店頭には、そのミュージャンの自伝が積まれていた。信じられないことに、日本語で書かれていたので、誰も読めない。誰も、手に取ろうとしない。 そういえば、僕は日本人だったっけ。だから日本語が、読めるんだっけ。夢中になって、頁をめくっている間に、自分が誰なのか、なぜパリに来てるのか、思い出した。 ...
韓国のどこか。「訓練」が始まった。僕は気分が悪そうにしていた妹を抱きかかえて隊長の前に整列した。ハングル語がプリントされたTシャツ(何て書いてあるのか読めなかった)を着ていた隊長は本当に韓国人だったのかと疑問に思う。いったい何の訓練だろう。僕たちは一言も韓国語を喋らなかった。 虹が子供を産んだ。そしてすぐに消えた。僕と妹。僕たちはその場所で空を見上げ、毎日虹を待った。大きくなったら虹に...
さっき降った雪が、もう溶けてる。車道は濡れて、凍っていた。スリップしたバスに、タクシーがぶつかった。次の瞬間には、パトカーが来ていた。やって来るのが、異常に早かった。サイレンも聞かなかった。 君の家の庭には、まだ雪が残っていた。ドアをノックすると、知らない人たちが出てきた。親と子供たち、家族のようだ。彼らは、町に出て行った。もう、夏だった。 ...
男2人と女1人、三角関係だった。1人の男が歌を歌った。歌詞は外国語でわからない。女はその歌を聴いて、2人のもとを去った。歌わなかった男が、彼女を追いかけた。歌った男は僕のところに来て、「どう思う?」と訊いた。 ...
寺で女の子が雑巾掛けをしながら僕に言う。「おならが出そうなの」 「出せば?」と僕は答える。そして僕も屁をこく。 ...