地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
ベッドの足元に大きな窓があり、そこから熱帯の木々が見える。中途半端に文明化された原住民が住んでいる。ラジカセで日本のフォークソングを聴く半裸の人たちだ。いちおう電化はしているのだ。 子供たちが窓から僕の部屋に入ってきて、ビールは要らないかと言う。ラジカセを抱えた大人たちもやってきて、日本語の歌詞の意味を教えてくれと僕に請う。僕は「政治的なメッセージだよ」と答えるに留めた。 タイミ...
青い錠剤の瓶を渡された。僕は病気なのだと女は言う。 「僕は何の病気なの?」 「それは言えない。でも重い病気よ」 青い錠剤は薬なのだ。 「これを飲めば治るの?」 「そう。でも気をつけて。飲み過ぎると死ぬから。少なすぎても死ぬ。病気が悪化して」 「何錠飲めばいいの?」 「それも教えられないわ。あなたが必要と思う分を飲みなさい」 病気が悪化するなんて耐え...
その間中ずっと列車はトンネルの中を走っていた。窓際の席に座った君にとっては気の毒だった。もうすぐ目的地だった。君はトイレに行くと言い席を立った。 君はトイレで着替えをしてきた。短パンをはいている。僕はその服と足を褒めた。真っ黒いフルフェースのヘルメットをかぶっていた。紫外線対策だと言った。僕が訊く前にそう答えた。列車はトンネルを抜けた。 ...
スーパーに、あのお年寄りが来ていた。よぼよぼの老人で、買い物中によく床で寝ている。小一時間寝て起きた後で、店員が呼ばれた。いちど横になってしまうと、自力では起き上がれないのである。何かの動物みたいだ。店員が二人掛かりで起こしている。 ...
制服を渡された。赤い半袖のシャツだ。それを着て仕事をするのだ。シャツの胸ポケには1万円札が何枚か入っていた。今日の給料だ。 一緒に入った新人のバイトがいた。彼は赤い制服を着ていない。彼の制服のシャツには胸ポケットがなかった。ただ働きなんだろう。悲しいことだ。 僕たちは改めて挨拶をした。よろしくお願いします。僕はアニメオタクです、と自己紹介した。それを聞くと彼は笑った。彼はゲーマー...
小さな男の子がいた。父が子供のときの姿になって夢に出てきたのだ。どうして僕はそんなことをしたのかわからない。男の子に「おじいちゃん」と声をかけた。何も反応がなくてよかった。彼の耳は聞こえないことを思い出した。でも僕がもういちど声をかけると、彼は走ってどこかに行ってしまった。 ...
待ち合わせ場所に着いた。大学の構内である。友人はそこでビラ配りをしていた。彼がその仕事を終えるのを待っている。 トイレに行った。そこには小さな子供しかいない。間違えて入ってしまったようだ。小便器がずいぶんと低い。大学に子供用のトイレがあるとは思わなかった。 ...
二階建てのバスは五階建てのビルくらいの高さ。僕以外の乗客はみんな「上」に上がった。乗車すること自体をためらっていた僕に運転手が声をかけた。 「料金は無料」 それでも僕は乗らなかった。何だか気味が悪い。15分後に出るはずの次のバスがもう来ていた。 ...
海には一隻の船も浮かんでなかった。そんな大海を見たのは初めてだった。僕は少し不安になった。港から船に乗ったはずだった。今日の正午に。船はどうしたんだろう。海はどうしたんだろう。僕の顔の周りでバブルが弾けた。 僕は浜辺にいた。浜辺の砂は極度に乾燥していた。波が何度押し寄せても濡れることがなかった。日差しは強かったが少し寒かった。僕は君が脱いだ服を拾って着た。長袖のシャツが1枚。それは浜辺...
空気中に泡が生まれた。まるで水中のようだった。そこかしこに大きな泡がある。それがゆっくりと上空へ昇っていく。 行く手にまた突然の泡が生まれた。僕は目を閉じて頭から泡に突っ込んだ。そこはまったくの無音の世界だった。目を開けると光に目が眩んだ。 ...
春を抱きしめる。春の匂いを嗅ぐ。いつもとは違う匂いがする。少し不快な匂い。それは服の匂い。春はその服を脱ぐ。そしてパジャマに着替える。そして「寒い」と言う。 ...
特急列車に乗るチケットを買った。列車はもうホームに来ている。長い長い列車だ。 僕と君は乗車せず、ずっとホームで話をしている。 手に持った荷物が重いので、足元に置いた。すると人がやってきて、その荷物を盗った。でも僕たちは気にしない。発車の時刻が過ぎた。 泥棒は列車に乗り込み、列車は出発した。僕たちはまだ立ち話をつづけている。ホームは、列車に乗らなかったカップルで溢れている。...
手品師が使うようなシルクハットを背負ったカタツムリが歩いていた。 ...
上空を飛ぶ旅客機の機首に一角獣のような竿が生えている。竿には旗が掲げられていて、それは飛行機よりも大きな旗だ。不思議なことに旗は風の流れに逆らうような形ではためいている。周囲に子供たちが集まってきた。 子供たちは飛行機に掲げられているのと同じ色の旗を片手に持ち、空いた方の手を空に向って振っている。 ...
ボウリングの球が重くて持てない僕に渡されたのは1円玉だった。それを虚心に転がしていると野球に誘われた。僕はピッチャーを任せられた。1円玉をフリスビーのように投げる。 ...
その女のコ、自動車に撥ねられた女のコは、僕の目の前で撥ねられたんだった。びっくりした。ショッキングである。心臓に悪い。できれば見なかったことにしたかった。記憶から消してしまいたかったけれど、そういうわけにもいかない。 僕は彼女の魂をおぶって、病院まで歩くことにした。ところがそれは重かった。体より魂の方が重い人はいるのだ。圧し潰されそうになりながら、四つん這いになって歩く僕を見て。立派だ...
その人から教わった。4月はもっとも奇妙な月だと。 「残酷ではなくて、奇妙なんですね?」 「なぜ残酷だと思うの?」 「有名な詩があるじゃないですか」と言いかけたところで 「これを丸めてちょうだい」 渡されたのは女の下着だった。 「さっきまで私がはいてたものよ。嬉しい?」 「丸めるって‥‥?」 「クルクルと」 「は」 僕は言われたとおりにした。 「...
駅まで歩いた、わざとゆっくり(わざと遅刻するつもりで)。 同じ学校の制服を着た人が何人かいた。みんな知らない顔だった。その内の1人が駅の手前で道を逸れた。電車には乗らず、歩くつもりなんだろう。 迷わず彼の後を追った(自分の遅刻を確実なものにするために)。 ついて行った(そうすると誰もいない工場の中だった‥‥)。 ガラス張りの天井を通して空の様子が見えた。 ...
ガンキャノンがノコギリでザクを切っていた。ザクは堅くてなかなか切れなかった。そこにガンタンクがやって来てこう言った。 「切れぬなら、燃やしてしまえ、ホトトギス」 ガンタンクは大砲から火を吐いてザクを燃やし始めた。 ...
彼女たちが何ていう名前なのか知らなかった。あだ名は知っていた。「ジェイ」と「ヒロ」っていうんだった。もう1人あだ名がないコがいて、そのコのことは結局何もわからなかった。目立たない感じのコだった。 おそらく10代だった。彼女たち3人と僕は自転車で町を走っていた。そのあだ名のないコは自転車を持ってなくて、ヒロの後ろに乗っていた。 すると彼女がその子供たちを見つけたんだった。子供たちが...
子猫が部屋に入ってきた。餌をあげようかと言うと、窓の外にいた母猫が言った。「私の娘を誘惑するつもりかい?」 「みすぼらしいニンゲンの分際で‥‥」 聞こえないふりをして僕は冷蔵庫を開けた。そこにはミニトマトのヘタが大量に保存してある。子猫と母親のところに持っていった。「これを食べるといいよ」 「何だいこれ? 私たちネコ族を馬鹿にしてるのかい?」 「1年かかって溜めたんだ。全部...
飛行機の私の席に男の人が座っていた。馬鹿そうな人だった。「そこ、私の席なんですが‥‥」と声をかけると「え、なに、俺にカマ掘ってほしいって言うの? はははは」と機内中に響き渡る大声で返された。 男は機外に叩き出された。その後で私を気の毒に思った若いCAさんが、私をビジネスにアップグレードしてくれた。でも私は女だった。だから気にしてないのと言うと、彼女は何かおもしろい冗談を聞いたかのように...
学生たちが立てこもっている教室に軍の兵士と踏み込んだが誰もいない。そこはテレビドラマに出てくるようなステレオタイプの理科室で、お約束の人体模型やホルマリン漬けの標本があった。 兵士が指差す標本の壜に僕は近づいた。それは人間の標本だった。立てこもっていた学生の1人だ。壜を割って中身を取り出し兵士には「逮捕しろ」と命じる。 「逮捕って‥‥これ『標本』ですよ‥‥」 教室の隅にはアラ...
少年の僕は白いワンピースを着て眠っている。隣に女が同じ服を着て寝ている。 なんで女の子の服を着せられているのだろうと不思議に思いながら、先に目を覚ましたのは僕だ。 隣で寝ている女の人を見る。彼女は僕の母親ではない。 ひどい寝汗をかいている。何度も寝返りをうつ。 やがて彼女は目を覚ます。起き上がり、汗で濡れたワンピースを脱ぐ。下着はつけていなかった。 僕をじろりと...
パーティー会場へ向うリムジンの僕の隣に、ジャージ姿の少女たちが乗りこんできた。 運転者の隣(助手席)にもスーツを着た大人の女性が座った。少女たちの引率の先生か、それとも母親だろうか。 少女たちは僕の目の前でドレスに着替え始めた。 ここは移動式の更衣室じゃないぞ、という建前の、憮然とした表情を保ちながら、僕は本音の部分でラッキースケベを満喫した。 ...
体育館で、講話があった。前の方にいた背の高い男性たちは、みんな起立して、その話を聞いていた。話の後で催される、コンサートを楽しみに、僕は来たのだ。やっと、講話は終った。 男たちが着席すると同時に、アバの「ダンシング・クイーン」がかかった。後ろの方に座っていた女のコたちは、ステージに上がり、踊り出した。男たちは座ったまま、その様子を見ていた。 ...
姿見を抱えて電車に乗った。その鏡を棚の上に。電車は50mくらい動いてまた停止した。駅だった。 ホームにはたくさんの人がいた。並んで電車が来るのを待っていた。だが電車の扉はなかなか開かない。10分、20分と時が過ぎた。まだ開かない。 ...
駅で僕は裸だった。みんな暖かそうな服を着ていたが、寒くはなかった。手に小さな鍵を握りしめていた。ロッカーの鍵だった。僕の服はその中にある。 走った。股間を片手で隠しながら。もう一方の手には鍵。誰かの声がした。「隠すことはないじゃないか」「何をだい? 鍵を?」 「そうさ、鍵だよ」誰もお前のキンタマなんて見ない。 ロッカーに到着。声の主が待ってた。「漏れそうだぜよ」持っていた鍵で...
ユニクロで服を買うと、1ヶ月後にプレゼントがもらえる。今日がその日だ。店員が家に来た。 プレゼントを持ってきた店員は変わった腕時計をしていた。針がない。腕時計の中にはグレーのスーツを着た男女がいた。スーツを着たままで激しく踊っている。僕へのプレゼントも腕時計だ。金色の文字盤、茶色い革バンド。同じく針がない。その時計の中には、赤い服を着た男がいた。「この人もダンサーですか?」と店の人に僕...
シーツは黄色だった。タオルも黄色だった。そしてホテルの部屋は狭かった。立て掛けた棺桶のようだ。立ったまま眠れるだろうか。入室をためらっていると、隣の棺桶から男が出てきた。彼は部屋の前の床に小便をした。ずいぶんと黄色い小便を。 ...
健康診断を受けた。A4サイズの問診票には名前を書く欄しかなかった。おそらくこれは心理テストなのだと思った。紙いっぱいに大きく名前を書くのが健康的でいいだろう。はみ出すくらいの勢いで名前を書く。余白には自分の似顔絵(福笑いを意識してわざと崩した笑顔、あざといまでに完璧だ)。 富士山と鷹と茄子のイラストも書いた。これで申し分なく健康と判定されるだろう。 ...
その場所は目で見るより先に感じでわかるのだ。ここがそうなんだなと。僕の独り言は漫画の吹き出しのように空中に浮き、君はそれを見て訊いた。なんて読むの? この日本語‥‥ でも読めなくてもちゃんと意味はわかってる。僕たちはやっと着いたのだ。テレビのワイドショーの時間だった。その黄色い蝶ネクタイの司会者が僕の体の中に入ってきて‥‥勝手に喋り出す‥‥ ...
地元の有力者たちのテーブルに豪華な食事が運ばれてきた。彼らより1時間も前に注文した僕たちの料理はまだ来ない。 僕たちが有力者たちのところへ「挨拶」に行くと、「君らは何を歌いに来たのか」と有力者の1人は訊いた。 「歌いに来たんじゃありません」 「じゃあ帰れ」 「わかりました」 有力者たちはイタリア語の歌を合唱し始める。 僕たちは元の席に戻るのに飛行機を使った‥‥...
椅子から10mほど離れた位置にテーブルがあった。その向こう、10m先にも椅子があり、君は座った。 カフェだ。遠距離恋愛の。 注文した飲み物が来た。中間地点にあるテーブルに置かれた飲み物を取りに立ち上がった。 君は滅多に穿かないミニスカートを穿いている。もう僕たちは座らず、テーブルの脇に立ったまま話をした。 ...
殺人をした。完全犯罪なので捕まることはない。壁に付着した血を雑巾で拭いた。拭かなくてもよかったのだが。ここは僕の部屋ではないのだし。いらぬことをしてしまった。おばあちゃんの形見の雑巾が汚れてしまったではないか。 テレビを点けた。ワイドショーの時間だった‥‥ ...
駅まで行ったけど、また家に帰ってきた。今は6時。オーディションは8時からだ。7時過ぎに家を出ればいいだろう。 『水』という劇だった。僕は水の役に応募した。面接では作品について何か意見を求められるだろうか。意見を述べていいのだろうか。 「この建物のどこかに、誰も入れない部屋があるよ」と面接官は言った。 「そうですか‥‥」 「その部屋の中に、すごくいいものがあるんだ」 「う〜...
満員の特急列車の中で座る席を探してさまよっていると(指定席を買えばよかった)、背中から声をかけられた。僕は振り向いたが、背後には誰もいなかった。車内はガラガラ、座る席はいくらでもあった。 僕はもういちど前を向いた。そこはやはり年末の混雑した列車だった。 ...
玄関のドアを開けて中に入った。細長い廊下がまっすぐにつづいていた。廊下の脇には棚があった。ごちゃごちゃといろいろなものが置いてある。古いレコードや本である。 話にはそこでよくわからない飛躍があって、僕は着ていたものを全部脱ぐ。驚いたことに僕の体は女だった。ドアにノックがあった。混乱していた僕は居留守を使うことにしたが、訪問者は鍵を開けて中に入ってきた。若い男で、彼がこの部屋に住んでいる...
新幹線に乗った。指定席の中にぽつん、ぽつんと自由席はあった。それを繋げていくと文字になることがわかった。1号車にはアルファベットのLが、2号車にはIが。自由席で書かれた言葉は LINE なのかも知れない。 ...
座席にはツマミがあった。「このツマミを回してはいけません」と注意書きがあったので回した。とくに何も起こらない。ツマミは消えていた。 ふっと予感がして財布を見た。あまりいい予感ではない。財布の中には千円札が6枚あったはずだ。しかしそれは1枚の六千円札になっていた。 ...
白い雨が降っている、と言うと笑われた。それは「雪」だ。 君が眠っている間こっそり家を抜け出した。朝までには帰るつもりで。裸足で町をうろついた。 ホームレスが眠っているのを見た。彼は老人だった。何年も剃ってないヒゲが白かった。それも雪なのか。 そう言うと君はやっぱり笑った。でも全部本当にあったことだ。 ...
「でもあなたは空を飛んできたじゃない」と彼女は言う。 「それは、僕が空に飛ばされたからだよ」と僕は答える。 僕の体重はとても軽いのだ、よく風に吹き飛ばされる。 しかし彼女は僕を疑っている。 もう僕の目を見ない。長い髪を手でいじっている。また風が吹く。 ...
20歳も年下の双子の妹たちが、引き出しを開け母親の金を盗んでいる。僕の目の前でそれを堂々とやる。妹たちの目には、僕は見えてないのだ。 僕は安心して、彼女たちの前で服を脱ぎ、小便をしてから、風呂に入った。 しばらくすると、母親が帰ってきた。母もまた、10代の小娘のような姿をしていた。風呂の扉を開け見ていると、彼女もまた、別の引き出しを開け、金を盗った。 ...
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地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
ディーラーの握り拳の中に4つの数字がある。サイコロを転がして出した数字とは一致しない。友人たちはまた全部外した。 「いつかこれで大金を手にするんだ」いつも言っている、ギャンブル好きの彼ら。 もう帰ろう‥‥ 車に戻った。友人の1人が私と2人だけで話したいと言った。異議を唱えるもう1人の友人を、彼は殴って黙らせた。殴られた方はなぜか楽しそうに笑って‥‥ ‥‥ 「話っ...
バスを降りるときに3200万円を支払うのだ。僕じゃない。僕の友達が。彼はそんな金は持ってない。支払いは待ってやってくれ、と僕も運転手に頼む。 運転手は何も言わず、ずっとバスは停車したまま。 ...
地下のそのスペースにたくさんの人が集まっている。みんな友人だがもう誰が誰だか思い出せない。ある音楽が演奏されたのだった。その音楽は僕たちの記憶を洗い流していった。‥‥帰ろうかと思うが足が動かない。ここがどこなのかすらわからない。何か重大な目的があって僕たちはそこに集まったのだった‥‥ 会場の出口では記憶が売りに出されている。それは1点ずつ違うCDだったり紙の本だったりする。映像データで...
知らぬ間に宝くじが当たったようだ。きっとオンラインで買ったやつだ。大金が口座に振り込まれている。僕はその金を全部引き出し、宝くじ売り場へ向かい、そこで売られている宝くじを全部買う。そこで気づいたことがあるのだが、1億円分の宝くじの束は、1億円の札束より軽い。 ...
町の上空に浮かぶ雲のベッドで僕は目覚めた。寝ているうちにまた巨大化してしまったようだ。ベッドから足を下ろすとき住宅を一棟踏み潰してしまった。 いつまで寝ぼけているんだ、と町の住人から怒りの声が上がる。 ベッド下に落したティッシュの箱を取ろうとして暴れ回り、町の一区画を更地にしてしまったところで、完全に目を覚ました。 ...
東大生とは、東京大学の学生ではなくて、東京大学に連れていってくれる人のことだと、その人は主張し、5月のある日、東大を案内してくれたのだ。 東大は東京の大学というより寺院のようで、建物の中に入るとき、靴を脱がなければならなかった。 その日は休みなのか、構内に学生や教員の姿はなく、静かだった。 犬小屋があって、そこで白い犬が寝ていた。 ...
右側通行の道路、右ハンドルの日本車とすれ違った。赤いスポーツカー。運転していた女性が歩道の僕に手を振った。僕も振り返すと、それを合図に人が集まってきた。日本語が通じるか挑戦したい、という人たちだ。日本語を学んでいる学生たちだった。 ...
その家の玄関の前には大猫がいて、カメラを構えた僕が近寄ると後ずさった。そうか写真に撮られるのが嫌いなんだ。家に入るのに大猫が邪魔だった。どうすればどいてくれるだろうと思っていた。無事追い払うことができた。 ...
夕日を浴びて電車が走っている。電車には人は乗ってない。ジャガイモが積まれている。収穫したばかりのジャガイモだ。 線路はあるところで直角に曲がっている。電車はそこを上手く曲がれず、脱線してまっすぐに行ってしまう。まっすぐ行った先には車庫がある。まだ車庫に入りたくない、と電車は思う。 ...
陰茎は固く絞られた雑巾のようだった。僕だけじゃなくみんなのがそうなっている。ニュースでやっていた。みんなそうなってしまったなら仕方ない。 小便をするときはそれをさらにきつく絞る。残尿感があるならまだ絞れるってことだ。 ...
この写真家を僕はアラーキーという仮名で呼ぶことにする。つまり僕が拾ったのは普通のエロ本・エロ写真集ではなかったのである。後で見てわかったが、それはあるストーカーの日記だった。彼(おそらく男だろう)は複数の女性を追いかけていて、隠し撮りした写真の他に、標的の女性の利用するバスの時刻表や、訪れるカフェのメニューなども参考資料としてあり、その本を持っているのが僕は怖くなった。 ...
アイマスクの代わりに黒いタオルを巻いて寝ていた。電車の中だ。電車が駅に着いた。慌てて飛び起き、降車した。目的の駅の、1つ前だった‥‥ やってしまった‥‥降りたホームで、次の電車を待った。それはすぐ来た。先行する電車に追いつき、しばらく平行して走る。向こうの乗客たちが、僕に手を振っている。 ...
高速道路を僕は歩いている。険しい山を削ってつくられた道だ。時速300キロで走る透明な車が、僕の体を通り抜ける(逆なのかも知れないが、透明なのは僕の方で)。 路肩に男の子がいる。1人で遊んでいる。危険だ。僕は声をかけた。 親に電話してやるよ、迎えに来いって言ってあげる。 おうちの電話番号、覚えてる? 迷子の男の子が教えてくれた番号にかけると、それは僕の実家だ。死んだはず...
足元に酒瓶があった。隣のテーブルの方に蹴飛ばした。赤い酒が入っていた。僕は酒を飲まない。 隣りのテーブルで飲み食いしていたグループが僕に手を振って挨拶したのを見て席を立った。 店の外に出ると明るかった。朝だ。カネを払わずに出たことを思い出した。 僕はいろんなことを忘れていた。椅子の背には上着をかけたままだった。上着の内ポケットには財布が入っていた。 ...
僕は窓際に追いつめられた。窓から外に逃げようと思った。 しかし窓には鉄格子が嵌めてあった。 そいつは僕の体の中から「13歳の心臓」を抜き取ろうとした。 取っても死にはしないとそいつは言うが‥‥そもそも「13歳の心臓」って何だ? ...
愛する女に初めてキスしようとしたとき、私は自分が女になっていることに気がついた。 私がキスをすればこの女は男になるのだろうか、と考えながらキスした。目は閉じなかった。女の変化を観察していたが、何も起こらなかった。相思相愛の私たちの未来が、少し不安になった。 ...
女が「レストラン」と言っている。それを聞いた男が「レンタカー?」と返す。「レストラン」大声。「何借りるの?」さらに大声。「レンタルビデオ?」日本人の観光客だ、地下鉄の中。僕は用もない次の駅で降りる。 ...
怪獣の背中に生えているような刺が、道路に生えていた。車は走れなくなった。ある日突然のことだった。僕は茫然と見つめた。 刺は完全な等間隔で生えていた。人工物には見えなかったが、自然の物とも思えなかった。僕はスマホを覗き込み、世界を裏で牛耳る悪の組織の陰謀ではないかという説が、狂人たちの口から、説得力をもって語られるのを待った。 ...
ポケットから取り出した紙片、4つに折られていたのを開いて、約3分間、お湯に浸すのだ。 書かれていた文字が、お湯に溶け出して、紙が真っ白になったら、取り出すのだ。 文字が溶けたお湯を、僕は飲むのだ。知識が僕のものになる。 ...
手に大きなキャベツの葉を持ち、ゆったりと扇ぐ。冷房はなかった。あるのは大きすぎるキャベツの葉だけだ。暑がりの君に風を送った。 「それキャベツでしょ? 食べるものでしょう?」 君は問うたが、僕は返事をしなかった。 気づくと朝だった。詰所の夜警さんが、僕たちに言う。「もう1人の夜警と話し合ったんだがね、俺たちは、もう眠らないことにしたよ、1日中起きてるんだ、ずっとね」 ...
学校なのか仕事なのかはっきりしないが、休みたくて、布団の中から電話をしている。体調は良いわけではないが、寝てなければならないほど悪くもない。むしろ精神的なストレスからくる何かが、僕にそうさせるのだ。 無意識の内に僕は、自分の頬を洗濯バサミでつまんでいた。痛くはない。ちょっと違和感を感じるくらいだ。頬に何個か洗濯バサミをつけている。2階のバルコニーに立っている。手に色落ちした白っぽいジー...
トイレには3人の若者がいて、鏡の前で、髪を梳かしていた。 1人、凝った髪型をした男の頭蓋骨には、紐がついていた。仲間が2人、その紐を引っ張っていた。コルセットの紐を引っ張るようにして。 ...
僕の首筋には、何かに噛まれた痕があった。「犬に噛まれたんだね」と大人が僕に言った。 「どうして犬だとわかるの?」僕は聞き返した。 「病院に連れて行った方がいいな」と別の大人が言った。 「誰を連れて行くんだ?」ここからは大人同士の会話だ。大人の話を聞いていると眠くなる。 ...
雨の中、傘もささず、若者が行列をつくっていた。何に並んでいるのだろう。僕も最後尾につこうとした途端、「中止です」とアナウンスがあった。「中止します」。すると、ずぶ濡れの若者たちは、急に雨が気になり始めたようだった。 ...
「久しぶり」「お久しぶりです」たくさんの人が、僕にそう挨拶してきた。 中には、本当に久しぶりの人もいたが、大抵は初めて会う人だ。 僕が、相手の顔をよく見ようとすると、彼らは帽子や手で、顔を隠す。 そして、なぜかよくわからないのだが、僕は突然、空が飛べるようになった。 雲の上では、また見知らぬ人々が、「久しぶり」「お久しぶりです」そう挨拶してきた。 ...
いつの間にかデパートは閉店していた。出入り口に鍵がかけられてしまった。外に出られない。 途方に暮れていると、1人の男がやってきた。黒いスーツを着た、無口な男だ。どこから入ってきたのだろう。ここで何をしているのだろう。どこへ行くのだろう。話しかけても反応がないが、男についていけば出られるかも知れない。 後ろを歩いていくと、男の背丈は、どんどんと伸びた。僕の2倍〜3倍の長身になった。...
僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 匂いも味もしない煙草を、一口だけ僕は吸い、そうか、僕は流行りの風邪に罹ったんだな、と気づいて、けど、それも夢だ。 鍋を火にかけて、沸騰した水が、消えてなくなるのを見ている。何を料理するつもりだったのか、思い出すために、もうい...
光が熱を失うのと、明るさを失うのはどっちが先だろうと思う。まず冷たくなって、それから消えていくんだろうか。それともまず暗くなって、そこから冷めていくんだろうか。 ...
音が近づいてくる。近づくにつれて音は小さくなる。音は僕は目の前にやってくる。もう何も聞こえない。 僕は音が君だと気づく。僕は音を抱きしめる。音は音を出そうとする。僕は音が目に見えるとでもいうように、君を見つめる。 僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 ...
僕は手に何かを持っている。自分の持っているものが見えない。何だろう? それは重くはない。だがずっと持っていると手首が痛くなる。 その痛くなったところに君はキスする。すると痛みは増す。君は何度も同じ場所にキスする。痛みに耐えられなくなって僕は持っていたものを手放す。 ...
テレビでロレックスを見せびらかしている若い女に対抗心を剥き出しにした。引き出しの中に白いロレックスが眠っていた。僕はそれを腕にはめた。そしてスーツを着て、ネクタイを締め、散歩に出かけた。並木道を1人で歩いた。誰ともすれ違わなかった。 暗くなってから家に戻り、もういちど引き出しを開けた。そこには別のロレックスがあった。家中の引き出しを開けていった。まだあるはずだった。 ...
雪の日、寒い朝、君の吐く白い息は千切れていくつかの幽霊のようになり、廊下へ出て、順に狭い階段を下りた。僕のその、いちばん最後の幽霊の後をついて行く。1階で、幽霊たちは僕のためのパーティを開いてくれた。そこでどんな歌が歌われるのか、君は知らないだろう。 ...
ある男性と一緒に、電車に乗っていた。彼は僕の父親だと言う。だがどう見ても僕より若いし、僕たちは全然似てない。 僕たちは、初めての駅で降りた。駅前にある、消費者金融に用事があった。僕は借りていた金を返すのだ。彼は金を借りるのだ。 駅前に、「お1人様専用のフランス料理店」があった。ひどく腹がへっていた。でも今は駄目だ。次回、1人のときに来よう。 ...
僕の夢の中で、彼は長身のイケメンに姿を変えていた。性格もすっかり明るくなっていたので、彼が誰だか、最初はわからなかった。画廊で絵を見せてもらったとき、やっと気づいた。画風は、昔と変わらなかった。 店は、閉店した。もう朝だった。最後まで残っていた僕は、店のスタッフと一緒に、掃除を始めた。女主人に、雑巾を渡された。あちこち拭いているいる内に気づいたのだが、鉢植えは造花だった。 ...
友人がバイトしている店で、無料のコンサートがある。それを聴きに行くと、店頭には、そのミュージャンの自伝が積まれていた。信じられないことに、日本語で書かれていたので、誰も読めない。誰も、手に取ろうとしない。 そういえば、僕は日本人だったっけ。だから日本語が、読めるんだっけ。夢中になって、頁をめくっている間に、自分が誰なのか、なぜパリに来てるのか、思い出した。 ...
韓国のどこか。「訓練」が始まった。僕は気分が悪そうにしていた妹を抱きかかえて隊長の前に整列した。ハングル語がプリントされたTシャツ(何て書いてあるのか読めなかった)を着ていた隊長は本当に韓国人だったのかと疑問に思う。いったい何の訓練だろう。僕たちは一言も韓国語を喋らなかった。 虹が子供を産んだ。そしてすぐに消えた。僕と妹。僕たちはその場所で空を見上げ、毎日虹を待った。大きくなったら虹に...
さっき降った雪が、もう溶けてる。車道は濡れて、凍っていた。スリップしたバスに、タクシーがぶつかった。次の瞬間には、パトカーが来ていた。やって来るのが、異常に早かった。サイレンも聞かなかった。 君の家の庭には、まだ雪が残っていた。ドアをノックすると、知らない人たちが出てきた。親と子供たち、家族のようだ。彼らは、町に出て行った。もう、夏だった。 ...
男2人と女1人、三角関係だった。1人の男が歌を歌った。歌詞は外国語でわからない。女はその歌を聴いて、2人のもとを去った。歌わなかった男が、彼女を追いかけた。歌った男は僕のところに来て、「どう思う?」と訊いた。 ...
寺で女の子が雑巾掛けをしながら僕に言う。「おならが出そうなの」 「出せば?」と僕は答える。そして僕も屁をこく。 ...