chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
明治大正埋蔵本読渉記 https://ensourdine.hatenablog.jp/

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

cogeleau
フォロー
住所
未設定
出身
未設定
ブログ村参加

2022/01/13

arrow_drop_down
  • 『電話を掛ける女』 甲賀三郎

    1930年(昭5)新潮社刊。新潮長篇文庫第3編。表題作の中篇の他、『地獄禍』の中篇と『笠井博士』の2つの短篇を収録。関東大震災後の復興期にあたる昭和初期の東京の風俗描写が新鮮に見えてくる。特に冒頭の渋谷の道玄坂の泥濘の道を歩く謎の女の姿は印象深い。(下記に引用)公衆電話ボックスも現在ではほとんど姿を消したが、当時は「自働電話の箱」という呼称で、交換手を経由して通話していた。ミステリーの初期らしく、登場人物も限られ、まるで演劇の舞台で少数が演技している中に謎解きが行われる簡素さが特徴的だ。やはり表題作が秀逸だと思えた。☆☆☆ 昭和初期の「新潮長篇文庫」の広告には、後年名を残す作家とともに、当時だ…

  • 『第二の接吻』 菊池寛

    1925年(大14)改造社刊。当時、内務省の検閲により発禁図書とされた。このデジタルコレクションではかつて発禁本として保管されていたものを公開している。数カ所で風俗紊乱的表現と指摘された個所には朱筆の跡が残っている。下記にも一部引用したが、当時としてはかなり踏み込んだ赤裸々な表現があり、煽情的と見なされ、版の改訂を余儀なくされたらしい。当初は朝日新聞に連載されていたが「接吻」というタイトルからしても非常に大きな評判を呼び、映画化や舞台化もされた。 代議士邸に居候する大卒の会社員村川は、ふとした事から邸内に寄寓する倭文子(しづこ)に恋情を抱く。しかし代議士令嬢の高慢で勝気な京子も村川を愛し、三つ…

  • 『縛られた女たち』 三角寛

    1939年(昭14)大日本雄弁会講談社刊。三角寛はライフワークの「山窩(サンカ)」に関する研究と著作に関わる以前は、朝日新聞の記者としてサツ回りの担当で刑事たちとの交遊が深かった。その折々に得られた刑事の体験談をもとに、得意の筆をふるった6つの短篇をまとめたのが本書である。昭和初期の風俗描写も生き生きとしている。様々な経緯によって道を外さざるを得なかった女たちの生きざまと共に、思わず生唾を飲みそうな美女の妖艶さも描き出す手腕は、派手な「飛ばし記事」で注目された三角の天性の構想力の賜物と思われる。刑事たちの間の功名争いや失策に対する上司の温情なども面白かった。☆☆☆☆ (注:飛ばし記事とは、確証…

  • 『日本ミステリー小説史』 堀啓子

    2014年、中央公論新社刊。中公新書2285。筆者は明治期の新聞小説の傑作「金色夜叉」が英国小説の翻案であることを解明したことでも知られる。本書はコンパクトな新書版という手軽な分量の中に、日本における明治から戦後に至るまでのミステリー小説の発展史を概説したものである。序章から第2章までは江戸期から明治初期までで、文学史的ではあっても現代のミステリーに直接結びつく要素は少ない。第3章以降の黒岩涙香の登場、そして円朝や多くの講談師たちの口演速記本の流布、果ては毒婦や凶賊の犯罪実録の人気などが入り交じって探偵小説の隆盛に至ったのだと思う。どうしても名の知られた明治の文豪たちとの関係、つまり名作へのミ…

  • 『魔の池』 中村兵衛

    1907年(明40)大学館刊。大学館という版元は冒険活劇から奇怪なミステリー風の読物に至るまで多数出版していた。これは東京の芝公園弁天池を巡る奇譚。日露戦争が勃発し、軍人たちには出征が目前に迫っていた。若い陸軍大尉は伯爵令嬢と結婚式を挙げる予定だったが、その当日、洋行帰りの謎の淑女の讒言によって突然延期となる。新郎新婦のいずれにも出生の秘密があり、嫡出子ではなかった点から混乱が起きる。 作者の中村兵衛は、生没年が不明ながら、関西中心に広く文筆活動をしており、その筆致も確かな作品が多い。しかしこの作品は彼の駆け出しの頃のものと思われ、筋の飛躍や構成の詰めの甘さが目立った。☆ 国会図書館デジタル・…

  • 『鉄鎖殺人事件』 浜尾四郎

    (てっさ)1933年(昭8)新潮社刊。「新作探偵小説全集」第6巻。検事出身の私立探偵藤枝真太郎の活躍する長篇推理小説の一篇。銀座の裏通りにある事務所に入り浸る語り手の「私」を含め、ホームズとワトソンの枠組みの居心地の良さがある。タイトルは、被害者が刺殺された上に鉄の鎖で縛られていたことから来ている。目次でもわかるように、立て続けに関係者が殺害される事件が発生し、対応しきれないほどになるが、後から考えると「なぜそこまで殺し続ける必然性があったのか?」という大きな疑問と、登場人物の中から容疑者となる可能性のある人物が消えて行く心細さがあった。ミステリーでは、犯人は登場していることが鉄則だからだ。語…

  • 『死骸館』 小原夢外(柳巷)

    1908年(明41)大学館刊。小原夢外という作家名についてはほとんど情報が見つからなかったが、下掲のブログ記事により小原柳巷 (1887-1940) と同一人物であったことがわかった。明治末期の20代に夢外、大正時代の30代に柳巷、そして昭和初期には流泉小史と称して「幕末剣豪秘話」で評判を得た。こうした「転名」の作家は少なくなかったように思う。版権契約のせいだったのかも知れない。 「死骸館」とは米欧で身元不明の死体を陳列する施設を言う。(下記参照)英国小説の翻訳と思われるが、原著名は不詳。珍しくも豪州メルボルンが舞台となっているが、人名だけは日本名に置き換わっている。河岸に流れ着いた櫃に金目の…

  • 『相川マユミといふ女』 楢崎勤

    1930年(昭5)新潮社刊。新興芸術派叢書第22編。楢崎勤は作家である傍ら雑誌「新潮」の編集長でもあった。この本は表題作の他23篇を収める。都会に生きる孤独な女性の生きざまの寸景の集合体と言える。昭和初期のダンス・ホールで来客の相手をする踊り子として働く女性が多く描かれる。現在からみればどうでもない単語を伏字にしている。何の事件が起きるわけでもないし、結末がある話でもないが、原稿用紙数枚の短さで、読みやすさと共に不思議な味わいをもたらしてくれる。☆☆☆ 当時、プロレタリア文学の流行に対抗するべく「新興芸術派」と呼ばれる自由なモダニズム表現を目指すグループの動きが見られたが、川端康成、井伏鱒二、…

  • 『美人殺』 島田美翠(柳川)

    (びじんごろし)1896年(明29)駸々堂刊。探偵小説第10集。明治中期の探偵小説ブームで続々と刊行されたシリーズ本の一冊。この一年後には島田美翠は柳川と名前を変えて、言文一致体に切り替えている。この作品ではまだ叙述部分は文語体になっている。(下記参照) 若い娘の水死体が発見されるが、最初は身投げかと思われた。しかしその口の中に人の手の小指の一部が嚙み切られて入っていたのがわかって、警察の偵吏による事件の捜査が始まる。片手の小指が失われた人物を探す中で、偶然目にした人物や謎の手紙や待合茶屋の隣室の会話の立ち聞きなど、幸運に恵まれる捜査の進展に「そんな甘いもんじゃないはず」とつい思ってしまう。ミ…

  • 『古塔の影』 江見水蔭

    1922年(大11)樋口隆文館刊。軽い筆致で小説を量産した江見水蔭の晩年の作品ということだが、なぜかこの作品だけはインターネットに公開されておらず、個人送信に限定していた。 物語の舞台は入間市近郊の丘陵一帯、昔朝鮮から渡来した高麗人たちが集落を構え、高麗郡と称したが、その秘宝を石塔の下に隠したという言い伝えがある。先祖からの関わりがあるそこの土地を買い占めようとする伯爵夫人と人気女優との確執、また無形倶楽部と称する有閑貴族たちの秘密結社の活動など、伝奇小説風の展開が興味を誘う。明治大正期の武蔵野鉄道(現西武線)沿線の風物描写もむしろ新鮮に思える。 心理描写の二重性、つまり自分が感じていることと…

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、cogeleauさんをフォローしませんか?

ハンドル名
cogeleauさん
ブログタイトル
明治大正埋蔵本読渉記
フォロー
明治大正埋蔵本読渉記

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用