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明治大正埋蔵本読渉記 https://ensourdine.hatenablog.jp/

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

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2022/01/13

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  • 『ある文藝編集者の一生』 大村彦次郎

    2002年9月、筑摩書房刊。昭和初期から戦中を経て戦後に至るまでの文芸雑誌の編集者であった楢崎勤の生涯を語るつもりで付けたタイトルだと思われるが、内容は雑誌出版業の側面から見た昭和前半の文壇史そのままだった。昭和初期にはプロレタリア文学思潮の台頭が見られたが、それに対抗するように新感覚派の川端康成、横光利一らのモダニズム表現が活発となり、若手作家たちによる十三人倶楽部とか新興芸術派倶楽部の集まりが出来た。それらは統一した主義主張を持たず、個性と多様性にあふれ、離合集散を繰り返して変容して行った。それに関わった新潮社や改造社、文藝春秋社などの活動はさながら群像劇を見るようだった。 また昭和10年…

  • 『誰が罪』 篠原嶺葉

    1915年(大4)湯浅春江堂刊。タイトルとしては当時評判を呼んでいた菊池幽芳の『己が罪』にあやかって付けられたと思われる。他にも『新己が罪』(多数)とか『人の罪』(小栗風葉)などもあった。 描かれる三つの家族のそれぞれが高利貸(あいすと呼ばれた)からの借金で苦しんでいる。娘を芸者に出したのも窮余の金策のためである。高利貸の商売は金利の高さの上に諸手数料で差し引くという極悪非道なもので、昭和末期に自殺者まで出した「サラ金」問題に通じる明治期の暗黒面だった。物語の筋の骨子は、青年が貧困から脱すべく、芸妓の支援を受けながら勉学に励み、見事司法官に合格するまでということになるが、平民の生活ぶりを含め、…

  • 『宙に浮く首』 大下宇陀児

    1948年(昭23)自由出版刊。表題作のほか、中篇の『火星美人』と3つの短篇を収める。『宙に浮く首』は信州の田舎の村の銭湯での殺人事件から端を発する。表紙に「スリラー小説集」と銘打って出版された通り、犯行の異常さや残虐さが強い印象を与えるが、ほとんどが行動描写で、事件に付随する事象に振り回される感じがする。この作家の特徴として真犯人が悔悟して事件の真相を語る場面が多い。読後感はいまひとつ。☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。 https://dl.ndl.go.jp/pid/1339216

  • 『魔女を探せ』 九鬼紫郎

    (くきしろう)1959年(昭34)川津書店刊。九鬼紫郎は戦後1950年代を中心に推理小説・時代小説の分野で旺盛な創作活動をした。タイトルの「魔女」の言葉は意味が重過ぎる。「消えた女を探せ」くらいの軽さが適当だった。語り口に特徴がある。彼の言い方をマネれば、ムズかしいカンジを書かずにカタカナ表記で言いトオす気軽さ。その軽いノリが一つの魅力でもある。和製ハードボイルドにミステリーを加味させた手法で、主人公白井青児の活躍が何作かシリーズ化されている。この作品で残念なのは「起承転結」の物語構成の「転」の途中あたりから話がもつれ始め、あまりスッキリした決着にならなかった点で、しかもその不完全感をうまく説…

  • 『匕首芸妓』 渡辺黙禅

    (あいくちげいしゃ)1911年(明44)樋口隆文館刊。前後2巻。前半は華族令嬢一行4名の旅行客と見せかけた詐欺窃盗の一味の鮮やかな犯行と逃避行を塩原・那須の風光明媚な景勝描写とともに描いている。しかし後半は秩父困民党事件での実在した人物たち(田代栄助、加藤織平、落合虎一/寅市)の動静を詳述している。二通りの物語の要素を結合させたのは作者黙禅の手腕でもあるが、騒乱の後日談も含めると主人公役の視点が浮動的なのが少々気になった。いつものように登場人物の多さとスケールの広さでは読み応えがあった。☆☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は長谷川小信。 https://dl.ndl.go.jp/…

  • 『角兵衛獅子』 大佛次郎

    1967年(昭42)講談社刊。大佛次郎少年少女のための作品集1所収。幕末の京都で謎の勤皇派の志士として活躍する「鞍馬天狗」シリーズの一冊。最初の出版は昭和2年、少年倶楽部掲載後、渾大防書房から刊行された。少年向けとして書かれたものだが、知名度が高く、ほぼ古典的とも言える人気の長さを保っている。 身寄りのない子供たちが寝食の世話を受ける代わりに角兵衛獅子を舞って稼ぎを強いられている境遇。その困窮を救ったのが鞍馬天狗。少年杉作の視点から描かれる「天狗のおじさん」の活躍は、筋立ては平凡ながら尊敬と憧れの感情移入にあふれている。☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。 htt…

  • 『女群行進』 浅原六朗

    1930年(昭5)新潮社刊。新興芸術派叢書10。表題作の他、短篇13篇所収。作者は大正から昭和初期にかけての新興芸術派の一人としてモダニスム(=都会における風俗習慣や生活様式の現代化)風景を斬新な感性で描いている。当時の唯物論思考の流行によるものか、即物的な感情に左右されて行動する男女は、自己方向性が見えず、かえって俗物的な心情が目立つ気がする。特に女たちの積極的な行動に対して男たちが衝動的に反応する場面が多いのに気づかされる。自伝的な要素として教会関係者の言動が各篇の所々に出てくる。また踏み込んだ愛情描写には多く伏字xxが用いられ、それが想像力を搔き立てる点ではむしろ大きな威力を感じる。全般…

  • 『史蹟甚九郎稲荷』 中村兵衛

    1914年(大3)樋口隆文館刊。前後終全3篇。表題は神社の縁起由来記のように思われるが、中身は江戸時代初期の史伝上の人物、佐久間甚九郎の半生記である。作者中村兵衛は神戸又新日報の文芸部記者である傍ら、「書き講談」の口調で読みやすい多くの小説を書いた。甚九郎は宇喜多家の家臣の子孫として主家の再興を画策したとあるが、史実とはやや異なるように思われる。美男で多才、かつ豪勇であるため、赤穂、鳥取、岡山と各地を流浪する先々で、娘たちに思慕される設定は、作者の他の作品でも見うけられる。稲荷神の化身である白狐が天変地異を起こして甚九郎を助ける場面が出てくるが、彼が特に信心深いためとは書いていない。しかし現代…

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