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  • うの華4 29

    蝶よ花よとされて裕福に育った2人は世間知らず。これが彼女達の共通点だった。この点共に彼女達の心中に相通じる物が有った。勿論実家が裕福とはいっても、当然両家の間には雲泥の差が有った。その差がある事で、返って清の母の胸の内には智の母に対する敵対心が湧かずにいた。寧ろそこは彼女を素朴で微笑ましいと見る感情に包まれていた。智の母の方にしても、清の母が口にした親戚が裕福なのだ、それを真似ているのだの言葉に、内心では半信半疑に思いながらも、彼女自身が実際にそうなのだから、相手の羨望する気持ちが思い遣られて同病愛憐れむ事と感じ入っていた。彼女にするとじんわりと嬉しい共感の思いが湧き、話のピッタリ合う友人が出来たと離れ難く思っていた。2人は幸い子も同い年、親戚という話題以外にも話す事柄に共通点が多かった。また、智の母は清の母の...うの華429

  • うの華4 28

    お前がこんな所にいるから…。何て言おうかと彼女は思い迷った。この家の亭主と自分の子の両方を上下と見ながら、彼女は今後の方策を練った。彼女の腕は既に下ろされていたので、その拳も緩んで開いていたが、一旦緩み掛けた彼女の拳が再び握り締められた。『親の対面とご近所付き合いの板挟み。この奥さんとは袂を分かちたく無いから。ずうっと仲良くしていたいから…。』彼女は苦慮した。眉間に皺が寄った。変な顔だなと、彼女の子の智は母の顔を見上げて思っていた。子供の遊び仲間の内、この清の母親は彼女にとって特別だった。彼女の憧れる都、その上の手に住む上流の人々の雰囲気、そういう物をこの清の母親から嗅ぎ取っていた。もちろん、清の母とて表立ってそういう雰囲気を匂わせているのでは無い。が、隠してみても育ちというのは出る物らしい。さっきの電話もそう...うの華428

  • うの華4 27

    階下に降りて部屋の様子を窺うと、果たして、自分の夫と近所の若奥さんの間には険悪な空気が漂っていた。「子供が時間を間違えるのは当たり前でしょう。」憮然とした荒い声と表情で、奥さんは訪問先の主人を睨んだ。あーあ、やっちまったね、と、彼女は内心で舌打ちした。『家のは張子の虎だからね。』そう思うと、この家のお上は夫の加勢に入るタイミングを窺い始めた。そうでしょう。家の子の何処が悪いの、…。と早朝の訪問者はこの家の主人に詰め寄った。口から飛び出す言葉と共に、訪問者の顔は紅潮し、その掌を握り締め、拳となった彼女の手の先を主人の目の高さ迄に持ち上げた。「危ない!。」他所でこの場面の先を見た事のあるお上は思わず声を上げた。ハッとした感じで智の母は動きを止めた。一瞬誰の声かと考えた彼女は、それがこの家のお上、自分とは気心の合うご...うの華427

  • うの華4 26

    おやっ?。彼女は一瞬自分の目を疑った。息子が自分に怒るという事象に彼女は合点が行かなかったからだ。しかも、部屋の向こう隅にぽつんと有る小さな豆粒程の彼女の息子の小さ仁王顔である。その小さな形相、まるでお面の様なその顔の周縁には、チロチロと面を彩る炎さえ彼女は見える心地がした。勿論、彼女は子が何をそんなに憤慨しているのかと感じ取った。が、その子の母である彼女の気持ちの中には、息子の怒髪天の形相に大した恐れは湧かなかった。それでも、ちらりと彼女の心に畏怖の影が差した。が、それは違和感程度の物で済んだ。彼女は胸に湧いたほんの小さな蟠りにふっと吐息を吐いた。ふふふ、息子を嘲る様に清の母は笑声を洩らして清に言った。「あんた、この母親の私に何か不満でもあるの?。」母は笑顔を息子に向けたが、この笑顔はやはり先程の彼女の息子の...うの華426

  • うの華4 25

    なんて嫌な気分だろう。海泥の底どころか、ドブにでも沈んだ心地だよ。こんな嫌な気分になるなんて…。「子を持つんじゃ無かった。」彼女はこの言葉を飲み込んだ。と、思っていた。微かに母の口から零れた言葉。沈んだ自分の母の表情を目にしながら、清はハッと我に返った。思わずキョロキョロと辺りを見回した。何時もの自分の家の寝床である。部屋の隅に台所の流しが有り、母がいる。母の服装はこの地方の家にいる時のそれだ。『ここは家だな。』彼は思った。時折、両親の実家に旅して寝泊まりする。そんな数日の入れ替わり立ち替わりに、幼い清は対応出来ない時があった。今現在の自分がどの世界にいるのか把握出来無くなるのだ。差目覚めた時、友達と遊ぶ時、場面や言葉が重なる時、同じ様な状態に自分が置かれると、彼は過去の記憶が現在の意識と重なってしまうのだった...うの華425

  • うの華4 24

    無言の背を向ける母に、今は固まって動かない小さな山の連なりの様なその母の両肩を目にしながら、彼は意を決して口を開いた。「そんな癖の悪い電話、ほっとけばいいんだ。」それでも、清の母は極めて静かに、自分の子を拒絶する様に彼に背を見せた儘だった。「何かあったの?。」如何かしたのかい、と、清は自分の母に尋ねた。彼の母は依然変わらず彼に彼女の背中を見せて立っていた。が、その手は微かに動いた様だ。それから彼女の肩が小刻みに揺れ始めた。この時になって漸く、彼女のその背が彼を拒絶する壁の様に清の目に凛とした広がりを以て映り始めた。『何を怒ってるんだろう?。』彼は思った。母さんは何を怒ったのかな?。自分は彼女の機嫌を損ねるようなどんな事をしたかしらと、彼は今し方の自分の言動を振り返り始めた。機嫌を直そうとこうやって笑顔を作ってい...うの華424

  • うの華4 23

    「母さん、智ちゃんとこが来たみたいだよ。」一心不乱に電話と格闘する彼女は息子の声掛けに気付かない様子だ。彼はもう少し洒落た言い方をしようと言葉を変えた。お母さんと声を大きくして母を呼んだ。が、母の方はそれでも彼の呼び掛けに気付かなかった。はぁっと清は嘆息して、部屋の隅に身を寄せている彼の母の背に近付いた。小刻みに揺れている彼女の肘に手を伸ばすと、チョンチョンとその袖を引いた。母さん、母さんと数回声も掛けてみた。漸く息子の呼び掛けに気付いた母は、ハッとして自分の子の声に耳を傾け始めた。「何だい?。」、息子に問い掛けながら、やはり手元の黒い捻れが気になってしまう彼女だった。『もう少しなのだ。』、後一捻り。彼女は完璧に元通りの、整った綺麗な螺旋形の形にコードを戻したかった。『もう一寸なのに。』『五月蝿い子だ。』、何時...うの華423

  • 今日は立春

    長らく休んでいる内に、もう今年は立春です。この間体調不良だったのでは無く、別の事に興味を奪われていました。暦の春と共に、また、ブログ再開です。😊のんびりとですが。今日は立春

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Jun日記(さと さとみの世界)
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