chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
arrow_drop_down
  • うの華4 38

    家の奥、台所に来ると父の姿は見え無かった。変だなぁ。子は思った。この子にすると父はてっきり台所にいるものだと思っていたのだ。しかし、台所にいると思っていた子の母でさえ玄関の方から姿を見せたのだ。『父も玄関にいるのもしれない。』子は思った。そこで、今迄自分がいた居間迄戻ろうかと子は考えたが、それでもと思い直すと、子は台所をもう一度隅から隅まで見回して自分の父の不在を確認してみた。『やっぱりいないや。』と子は思った。それでも、子は今一度と念を押して、台所に向かいお父さんと声を掛けた。「いないの?、お父さん」こう声を掛け掛け、子は台所の奥へと進んで行く。何処からも全く返事は無い。『やはり玄関だ。』父も母と同じく玄関に回ったのだ。子は思った。『母も最初はここにいたのだ。』子は納得し、母が玄関から姿を現した理由をこうこじ...うの華438

  • うの華4 37

    突然、ガラガラ…、ドン!っと、家の玄関上り口の方向で、小さな雷鳴が轟いた。『家の中で雷が鳴る?、なんて…。』私はその事を意外に思った。雷神に対する己が臍の喪失という恐怖よりも、屋内での雷発生という摩訶不思議な現象への不思議が私の内で勝った。『何だろうか?』私は祖父母と共に、居間の隣、階段の部屋に向けて開け放たれている居間の入り口を見守った。私達3人が見守る中、居間の開いた入り口から見える位置に、漸う姿を現した人物というと、それは私にとっては意外な人物、私の母であった。おやと私は思った。てっきり彼女は現在私の父と共に台所にいるものだとこの時迄私は思っていたからだ。隣の間にいる人物を、本当に母だろうかと私が目を凝らして見つめてみると、彼女は見るからにくたびれたぼろっとした感じの姿だった。そうしてそんな伏し目がちの母...うの華437

  • うの華4 36

    そうですか、そう祖母は言うと、それでも視線は祖父に向けた儘で、ゆうるりと彼女は私の方へと膝を向け始めた。彼女は飽く迄自分の夫の様子が気掛かりなのだ。その後も私の祖母はこちらに向き果せ無いでいた。私は祖母に声を掛けた。「お祖父ちゃん、怒ってるの?。」「そ、そうだね。その様だね。」祖母は声だけ私に向けて喋っていた。「何を怒ってるの?。」私は問い掛けた。これは祖母に向けての問い掛けだった。えっ?、さっ、さあ?。祖母は未だ祖父の方を向いて言い淀んでいたが、私が祖父の背に目を向けてみると、この頃には祖父の背中から角が取れて来ていた。夫の背が丸くなった様な気配に、もう良いと判断した私の祖母は、遂に彼女の顔を私の方へと向けた。「お前分かるかい。」祖母は私の顔を真面目な顔で見詰めながら問い掛けて来た。私は首を縦に振った。「お祖...うの華436

  • うの華4 35

    「そうだったのか。あの男、そんな男だったのか。」夫は顔を曇らせて唸った。「今まで騙されていたとは、私も迂闊だった。」夫は顳顬に青筋を立てて怒りの表情を浮かべた。が、彼は相変わらずしんみりと元気無い様子で正座した儘の妻の姿に気付くと、彼女を気遣ったのか、直ぐにうっすらとした笑みを彼の頬に浮かべ、彼女に優しく視線を送ると物言いたげに口を蠢かせた。彼はそのままで暫し妻の様子を見守っていた。静かに、彼は優しく彼の妻に言葉を掛けた。「お前、大丈夫なのかい。」彼の妻は物思いに耽っていた。過去の幾つかの出来事が彼女の瞼に走馬灯の様に過ぎると、思わず彼女は「大丈夫かしら。」とぽそりと呟いた。だが未だ瞳は伏せられた儘だった。夫の方は静かに妻を見守った儘だったが、その表情には明らかに不快な感情が浮かべられた。彼は妻から視線を外すと...うの華435

  • うの華4 34

    「いやぁ、修羅場だったね。」食卓にしている黒っぽいちゃぶ台を前に、そこに座した私の祖父が目を細くすると微笑を作り、その場に居た家族皆の寡黙に幕を引く為か至ってさり気ない口調で口火を切った。私は自分の茶碗の中、それ迄せっせと口に運び込んでいた白いお米の粒、見詰めていたその艶めいた粒の塊から思わず視線を上げた。そうして、私はそういえば今日の夕飯は皆静かだなと思った。それ迄はご飯を食べる事に夢中でいた私だったが、今になって気付いてみると、この食事時間は我が家の普段の食事中とは違う様子だった。食卓回りは妙な雰囲気を醸し出していた。平生の我が家の食卓の様に、家族の誰彼が発する陽気な声を今回私は聞いていなかったのだ。つまり、食事が始まってからそれ迄の間、皆が殆ど声を発してしていなかったのだ。私はちゃぶ台の側に座す人々を見回...うの華434

  • うの華4 33

    「智ちゃん、お父さんには朝ご飯が少し遅れますって、言っておいてね。」母は私に父への言付けをした。いいよと答えた私は、それも変だなと思った。ご飯の準備の話なら、『お祖母ちゃんにじゃないのかな?。』。聞き間違えかと思った私は、家に足を向けながらその旨を彼女の背向けて確認した。「お祖母ちゃんにじゃないの?、お父さんはご飯を作らない人、…だから。」すると、路地に戻り掛けて私に背を向けていた母が振り返った。その顔にふくれっ面をして、もうっと言うと彼女は渋い顔を作った。彼女は私の側までスイっと戻って来ると、腰を屈めて私の顔に彼女の顔を近付けると、まるで内輪の話をヒソヒソするように言った。「お祖母ちゃんに直接じゃ、通らないんだよ。」お父さんを通してじゃ無いとね。そう言うと、「お前と言う子は、何も判じられないんだからね。云々。...うの華433

  • うの華4 32

    危ない!妻の声だ。が、もう彼は振り返って背後にいる人物を見ていた。「おやっ!?。」彼は意外に思った。未だ幼い子供の姿が彼の目に入ったからだ。『子供じゃ無いか。』彼は内心呟いた。次に彼は、妻の言った言葉、「危ない」という言葉が妙に気に掛かってきた。何だろうか?、自分の傍に何か危険な物がいるんだろうか?。今自分の彼の目に映っている、あの子が危険なものだとは思えないが。『まさか、あの子が妖怪の類いとか…。』そんな事を思うと、ぶるる…。思わす武者震い、否、単なる震えだ、寒いからだ。そんな風に考えてみる彼だったが、やはり恐怖に襲われた彼だった。が、妻の手前、ここで逃げ出しては夫の沽券に関わと、漸くの事で彼は玄関に踏み留まっていた。そんな彼は、目の前の子供にやはり腑に落ちないものを感じていた。何故あんな幼い子がこんな所に?...うの華432

  • うの華4 31

    彼は自分の心臓に手を遣った。ドキンドキンと大きな鼓動が伝わって来る。そうしてそれは段々と音を増し、今や早鐘のようだ。カンカンカン…この時彼は故郷の村、過去にそこで聞いた半鐘の光景を思い出していた。彼の目の前に危険が迫っているのだ。彼の目の前の相手はその顔を渋面として彼ににじり寄って来る。彼はハッとして思わずその相手の顔を見た。額には古参の皺が刻まれている。両の頬には複数の皺が丸く弧を描いて盛り上がり、それは深い溝を刻んで顎に落ちていた。『熟練の兵、正に名うてのハンターの容貌そのものだ。』彼は思った。そうしてそのハンターの目は今やガッシリと自分の獲物を見据え、その獲物を仕留めるべく相手との距離を縮めているのだ。その見覚えのある狩人の表情。そうだ!、彼は狩人の狙う獲物が何かと興味を持ち、それを知ろうとして自分の後方...うの華431

  • うの華4 30

    「お母さん、痛いじゃ無いか。」屈み込んだ智は直ぐに顔を上げ、空かさず彼の母に抗議した。「何もしてい無いの打つなんて…。」如何いうつもりなんだ。という訳である。「したんだよ。」智の母は自分の子から顔と背を背けるとぽそっと言った。こんな時間に他所のお家を訪問したりするから…。そう彼女は口にしながら、「申し訳もございません。」と、取って付けたような大きな声と愛想良い笑顔を、共にこの屋の階段へと向けた。階段の方では物怖じしたような顔付きで、控え目ながらに玄関に立つ夫、彼女の横、自分の夫の方を気にする気配を彼女に見せる素振りをした。『えっ!、ええ。』と、彼女は階段の方の意向を直ぐに判じた。『全く、こんな取るに足ら無いような男に…。どこが良くって、彼女ともあろう人が結婚したのかしら。』彼女は内心不満を口にしながら、階段にい...うの華430

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、さとさんをフォローしませんか?

ハンドル名
さとさん
ブログタイトル
Jun日記(さと さとみの世界)
フォロー
Jun日記(さと さとみの世界)

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用