「記憶をそこに置いておく」温度感で続く文章が結ばれるとき、ある大きな記憶に置き換わる。1本の花を静かな手つきで選びとり、ひとつの花束に結ばれたときに、わあ、と美しさに嘆息する。あくまで静かに置いておける文才がたまらなく職人気質で、そこには「いいものを書いてやろう」とか「こんなメッセージを生み出そう」という野心を感じさせない。だからこそ、胸の奥底にある淋しさや後ろ暗さ、それでいて偶発的な哀しみを一層想うことになる。やり場がないが営みはそんなもの、取り出して独り味わう記憶。 人の死を語る折の淡々としたさまは、令和に生きている自分にはなかなか想像できないが、きっと戦前〜戦後にあって死と隣り合わせの時…