※こちらの作品はおちゃめママ様へ献上した作品となります。つくしは苺を洗うとヘタを取り一口大に切る。そして数個の苺は更に小さく切りお子様スプーンも添え皆の待つリビングへ向かった。そこには今か今かと苺の到着を待っている娘の愛がいる。愛は類とつくしの長女で3歳になる。「お待たせ。」「ママ!あたちが恭にあげる。」「分かった。」「ちょっと待って。恭を座らせるから。」恭とは類とつくしの長男で1歳だ。最近すっかり...
つくしの住むマンションに到着し、つくしは車から降りる。すると類も降りて来た。「俺もお爺さんに挨拶しておこうと思って。ついでに神奈川のお寺巡りを一緒にする事の了承も貰っておいた方が良いだろ?」「確かにそうですね。 ありがとうございます。本当は一人で行こうと思っていたんですけど、類さんがいてくれると心強いです。」「俺も。」こうしてつくしは類を伴いマンション内へ入った。そして玄関の鍵を開けると大きい声で...
つくしと類はジッと中庭を見る。苔の生えた石の上に光の筋が当たりキラキラしている。類は何度も見てきた庭だが、確かに魅了されても無理は無いと分かる。それにここの庭はなんとなく楓弥がいた時代を思い出させる。「あのさ。 あれから何か発見した事ある?」「まだその段階まで行っていないんです。小田原城は北条系なので北条系の城やお寺をピックアップしているんですけど、小さな城は載っていなくて。」小さな城、、、蒔乃と...
つくしは図書館へ通い続けている。日本史コーナーの本が借りられているのを見ては、もしかして類さんでは?と思いながら、まだ借りていない本を手に取った。今日は初めての茶道の稽古へ行く日の為、図書館でゆっくり出来ない。サッとその本を借りる手続きを済ませると駐車場へと向かった。つくしは電車通学の為、駐車場へ足を運ぶことは無い。初めて見る駐車場は遊園地並みに広かった。「広い、、、」思わず声に出すほど呆けてしま...
月曜日、、、総二郎は盛大に後悔していた。元気のない総二郎を見て、F3はすぐに土曜日に行われた先代の知り合いの孫の茶道に関して何かあったと分かる。司と類はあきらに視線を送り、あきらが代表して総二郎に声をかけた。「何かあったのか? もしかしてお前のお茶が不味いと言われたのか?」「いや、、、とりあえず美味しいとは言われたけど。」「けど?」「はぁ、、、」総二郎は深い溜息を吐いた後、ゆっくりと話し始めた。「...
つくしは手にしていたお椀を下に置くと、ゆっくりと後ろを向く。そこには見事な中庭が見える。苔の生えた灯篭を見ると何時からそこに置かれていたのか分からないほどだ。「見事な中庭ですね。」「まあな。」「近くで見ても良いですか?」「あぁ。」つくしはすぐに中庭へ近づき座って眺める。それを見て総二郎は自分のお茶は中庭に負けたと分かる。もちろん全然別物で比べられる物ではないのだが、それでも茶器を見るでもなく、お茶...
土曜日。つくしは祖父と共にお茶を頂きに出かけた。どこかの茶房だと思っていたつくしは、到着した家を見て驚く。茅葺屋根の門がありその奥に歴史ある家が見え隠れしている。ぐるりと木の塀で覆われた場所はかなりの広さの敷地だと分かる。「誰かの家? 凄く古風な家だけど。」「ここは茶道家の家なんだ。」「茶道家? 茶道を職業にしている人の家って事?」「そうだ。 西門流で古くからある名門だ。 ここでお茶を頂こうと思っ...
学校が始まり、つくしは定期的に図書館へ足を運んでいた。あれだけ混雑していた図書館も当初の人数に戻っていた。あれ以降、類を見かけなくなったからだろう。そんなある日の夜、祖父が話しかけてきた。「つくし。 今週の土曜日は空けておいてくれ。」「良いよ。 どこか行くの?」「あぁ。 つくしが喜ぶ場所だ。」「あたしが? どこだろ?」「美味しい抹茶が飲めるところだ。」「へぇ。 おじいちゃんが太鼓判を押すぐらいだか...
海岸の散歩を終えた類が別荘に戻ると直ぐに夕食となった。それを食べながらも三人はやはり今日のウインドサーフィンの話になる。「風もねぇのにジッとボードの上に立つのは難しいだろ?」「風があった方が難しいんじゃね?」「まあ明日の勝負はあきらと類で良い勝負なんじゃね?」「だろうな。」あきらは決して運動神経が悪い訳では無い。サーフィンもそうだが波が無いとボードの上には乗れない。それと同じ原理だろう。「まっ、俺...
円覚寺の後その周辺の寺を巡り16時には鎌倉のホテルまで送ってもらった。「今日はありがとうございました。」「いや。」「ではこれで失礼します。」「ん。」二人は連絡先も交換することなく分かれる。それは呆気ないほどに。同じ様に小田原攻めに関して調べているし今後も何か情報があれば教えて欲しい所だが、調べているのは北条家の事ではなく夢でみた楓弥と蒔乃の事だ。何か得られる物はないと互いに感じていた。それ以外に類...
東慶寺についた二人は早速中へ入る。「鎌倉はお寺とか一歩中に入るとタイムスリップしたような景色が広がっていますね。」「あぁ、それは俺も感じた。」二人は入り口から奥に続く景色を見て感嘆の息を吐く。奥へ進んでいくと山門があり茅葺の屋根だ。「昨日から訪れている場所も全て茅葺の屋根でした。」「趣があるし、ここを昔の人が訪れていたと思うと凄いよな。」「ここは戦国時代は尼寺だったんですが知っていますか?」「ん。...
つくしは鎌倉歴史文化博物館を出た後、近くにある北条雅子が祭られているという浄福寺へ向かった。小田原城は北条家の城だ。という事は楓弥と蒔乃も北条家ゆかりの墓に埋葬されていても不思議ではないと考えたからだ。そこは徒歩で行ける近さだ。そして墓を一つ一つ見て回る。かなりの年月が経っている為、お墓に苔が付いている物ばかり。北条雅子の墓は案内板のようなものが立っているが、他の墓には何一つ書かれていない。もちろ...
「じゃあ行ってくる。」「気を付けてね。」「本当に大丈夫か? ひとりで電車に乗れるのか?」「当たり前じゃない。 それよりも久しぶりのゴルフで無理しないでね?日中は暑くなりそうだから水分補給も忘れないでね。」「あぁ。 じゃあ何かあれば連絡するように。」「分かった。 じゃあね。」つくしはホテル前で祖父を見送ると、すぐに駅へ向かって歩く。まずは鎌倉歴史文化博物館だ。類は何時になく早く起きた。それにはF3も驚...
つくしは祖父と報国寺の竹林を感慨深く見ていた。鎌倉時代からあったと言われている為、もしかして楓弥も来た事があるのでは?と思いを馳せる。その為、竹林の隙間に楓弥の面影を探してしまう。そんな自分に思わず笑いが漏れる。どれだけ楓弥を恋しがっているのかが分かるからだ。すると、茶席と書かれた案内板が見えた。「つくし。 抹茶が飲めるぞ。」「もう要らない。」祖父が笑いながら尋ねてくる為、つくしも笑いながら返事を...
類は司の車で逗子へ向かっていた。車内ではトランプゲームに興じていたのだが、ふと総二郎が呟いた。「そう言えば逗子に行く前に一条恵観山荘へ行ってみねぇか?」「どんなところだ?」「国の重要文化財に指定されててな。江戸時代に京都にあった皇族の茶室なんだが鎌倉に移転されたんだ。すっげぇ趣のある場所でさ。」総二郎は熱く語るが三人はそれほど興味が湧かない。「今から逗子へ行ってもウインドサーフィンだろ?明日もだろ...
類は自宅で借りた本に目を通していた。もちろん既に小田原攻め付近は読んでいる。ただその後に生き残った可能性のある小姓三人の名前がないか調べていた。楓弥は森沢楓弥のはずだ。だが幼名の為、城主の名前は違っている。その名前が分からない。楓弥は『父上』と呼んでいたし、周囲は『城主様』『殿』など敬称で呼んでいた。すると扉がノックされ、幼馴染の三人が入ってきた。「よぉ。」突然の訪問に類はあからさまにムスッとした...
つくしは真剣に本を読んでいた。それで分かった事だが、記憶の中では楓弥達は豊臣軍が攻めてくるため武士たちは小田原城へ向かい、城は無人にすると言っていた。という事は城に勤めていた武士は全員小田原城へ行ったはずだ。だが本によると小田原城に籠城した物は五万六千ほどとある。つまり楓弥達の城には一体どれくらいの武士がいたのか?更に蒔乃が生まれ育った城は、楓弥の城よりも更に規模が小さかったはず。それを考えると、...
類は初めて図書館に足を運んだ。すると控えめな驚喜の声がする。流石図書館を利用する人たちだけあり弁えている、、と思いながら目的の場所を探す。周囲をぐるりと沢山の本や蔵書などで埋め尽くされ、しかも専門分野まである。それは漫画本以外なら全て揃っているほどの量だ。利用している人は大学生が多いが、高校生の姿もチラホラみられる。中央には数多くのテーブルも有り、そこに本を手に取り勉強している者、専門分野を調べて...
トイレを済ませ手を洗いながらも、先ほどの愛子の言葉が頭から離れない。母を亡くした後も、父との会話は乏しかった。ずっと泣いているあたしを慰める事すらなかった。そして少し落ち着いた頃に義母と愛子を連れて来た。それはまだ四十九日も終わっていなかったと記憶している。突然の紹介だった。『父さんはこの人と再婚するから。 そして愛子はつくしの妹となる。同学年だけどつくしの方がひと月早く生まれたからね。 これから...
つくしは祖父と共に日本に帰国した。以前住んでいた家は息子夫婦が使っている為、六本木の賃貸マンションに移り住んだ。二人は翌日には祖母と母のお墓参りに行った。そこで偶然父である晴男に会った。「ご無沙汰しています。」「あぁ。 仕事の方は順調らしいな。」「はい。」「これからも息子のサポートを頼む。」「もちろんです。」晴男は祖父の元秘書、そして息子の康が社長に昇格した時から社長秘書として傍にいる。その晴男は...
城へ戻ると、出立の準備を終えたしずがやってきた。「若君。 どちらへ行かれていたのですか?」「蒔乃が誰かに殺されたと聞いたから確かめに行ってきたのだ。」「まあ、蒔乃の方が?」しずの演技とも思える驚き方に楓弥は眉をあげる。「今は城下もかなり荒れています。 金目の物でもあると思ったのでしょうか? 山越えは賊が多いと聞きますし。」山越え?なぜ蒔乃が山越えの途中で襲われたと知っているのだ?「凄く残念ではあり...
頼んでいた短刀が出来上がったのはそれから約二か月後だった。少し小ぶりな短刀は柄と鞘に綺麗な牡丹が描かれとても美しい仕上がりになっていた。それを手に夕食後蒔乃の寝所へ向かった。先ぶれも無く突然向かったのだが、蒔乃は笑顔で向かてくれた。その笑顔にドキンと音を立てた。「これを。」蒔乃は不思議そうに短刀を手に取り大切に胸に抱きしめた。もし、、、ここに刺客が来たらこれで少しでも応戦し時間を稼いでほしい。必ず...
部屋に戻るとすぐに床に入り布団を頭からかぶった。今見た蒔乃の姿が信じられなかった。あれほど大切にしたいと思っていたのに、自分が壊してしまった。だがやっと自分の物になったという優越感も湧く。少なくともあのような綺麗な体を隆正殿に渡さなくて良かった。蒔乃は私の妻だ。私だけの妻だ。ただ初めての閨事だったのに明りの灯った中でしてしまった事は申し訳なかった。それでもこれで蒔乃の事をお飾りの正室と呼ぶものはい...
それからさらに一か月後。城下に出た私は突然何者かに切りかかられた。それを傍にいた者が返り討ちにしたのだが、袖口を切られ切り傷のような軽い怪我を負った。その為、すぐに城内へ戻り治療を行い、その日はそのまま部屋で休む事になった。こうして自分の命を狙う輩は今までも数多くいた。それは城内に居ても同じだった。弟を城主にしようという勢力が私を亡き者にしようと虎視眈々と狙っている。どこにいても気が抜けない日々だ...
蒔乃の部屋から出て自室に戻ると直ぐに布団に入った。おかしいぐらい体が火照っている。目を閉じると蒔乃の白い肌と赤い小さな唇が思い出される。旅の疲れで疲労の色を濃くしながら、熱がありながら、、、それでも初夜を迎えよう頑張る健気な姿。普通は初夜を迎える前に女中によって体を慣らすらしいが、それを拒んだのは私自身だ。蒔乃の体に女であろうとも触れさせたくなかった。しかも私と交わる部分なら尚更だ。既に押さえきれ...
類は15歳を迎えた翌朝、飛び起きた。あまりにも衝撃な夢を見たからだ。しかも今もはっきり覚えている。それはまるで自分が夢の中の楓弥になったような心情で、辛く悲しく後悔溢れる物だった。だがあくまでも夢の中の物語。すぐに忘れるだろうと気にも留めていなかったのだが、翌日になっても忘れられなかった。こんな事は初めてだった。そんな時、やってきた総二郎に尋ねてみた。「あのさ。 総二郎は夢を見る?」「あぁ。 見るぜ...
初めての閨事の翌日、蒔乃は高熱を出し床から起き上がれなかった。その蒔乃に対し、体調を窺いに来たしずは相変わらずネチネチと小言を言った。「たった一度の閨事で熱を出されては、万が一赤子を身籠られたときにはどうなるのでしょうか?これでは若君も怖くて二度と触れられません。それを考え、今後は先に体調確認をされて寝所にお越しくださいとか、そもそもお体に障るので寝所には来ないでくださいと言った内容の文を書かれて...
蒔乃が嫁いで10か月が過ぎた。その日、突然蒔乃に訪問客が来た。相手はハトコにあたる同じ小田原藩に属する城主の中森隆正だ。楓弥は既に城下へ出ており、対応できるのは蒔乃しかいない。しかも中森の目的も嫁いだ蒔乃の様子伺いだと言う。寝ていた蒔乃は急いで身支度を整え、謁見場所へ向かう。「おぉ、蒔乃。 元気にしていたか?」「はい。 隆正殿もお元気そうで何よりです。」「あぁ。 私は元気だ。 今から小田原城へ向か...
再び部屋に戻った蒔乃は自然に瞳から涙が零れ落ちる。「申し訳ありません。」古参の侍女は頭を下げるが彼女が悪い訳では無いことぐらい分かっている。それにあの内容が本当の事なのだろう。小姓の三人と気楽に雑談をしていた。その小姓の一人の姉がしずだ。自分の専属侍女として付くぐらい楓弥様との関係も良好。どちらかと言えば自分を見張るためにつけたのかもしれない。間者ではないかと疑うのは当たり前の行為だ。だからこそ妻...
蒔乃はそれから文を書いた。体調が悪い事をしずから聞いているのか全く会いに来てはくれない。もちろん日々忙しい公務を行っているのは分かっている。でも体調が少しでも良い事を知らせる事で、伸びている閨事が行えるかもしれないという気持ちだ。文は体調を考慮し短い物にした。季節の挨拶と楓弥の事を思う気持ちと自分の体調の事などだ。同じ城にいると言うのにこうして文を送ると言う事に寂しさも感じるが、それでも初めて楓弥...
父上からの突然の結婚命令。しかも相手は楓弥様。驚きはしたものの嬉しさの方が勝ったのは否めない。だがそれを顔に出す前に説明があった。「突然で驚いたと思うが世情が緊迫してきてな。相手の楓弥殿はまだ元服も済まされておられないが、共に同盟を強化しておこうとなった。もちろんお前も体が弱いという事もありすぐに側室を娶られるだろうが、出来るだけ楓弥殿に応えなさい。」「はい。」それぐらいは分かっていた。自分は一応...
つくしは14歳を迎えた日の夜、悲しい夢を見た。それはテレビかネットで見たドラマか何かのように鮮明に映し出された。普通は目が覚めると忘れている事が多いが、その夢だけは色鮮やかに覚えており時間が経っても消える事は無かった。「どういう事?」つくしは上半身を起こしたまま呆然とする。心に灯った恋心やその後の悲しみなどが自分の胸に突き刺さり、起きた時には涙を流す程に姫に感情移入している。「有名人なら日本史の中...
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※こちらの作品はおちゃめママ様へ献上した作品となります。つくしは苺を洗うとヘタを取り一口大に切る。そして数個の苺は更に小さく切りお子様スプーンも添え皆の待つリビングへ向かった。そこには今か今かと苺の到着を待っている娘の愛がいる。愛は類とつくしの長女で3歳になる。「お待たせ。」「ママ!あたちが恭にあげる。」「分かった。」「ちょっと待って。恭を座らせるから。」恭とは類とつくしの長男で1歳だ。最近すっかり...
我が家のブログにお越しいただきありがとうございました。類君とつくしちゃんを幸せにするお話を、、、と思い、書き始めて約12年になります。まさかこれほど続くとは思いませんでした。皆様の温かなコメントに支えながら何とかやってきたのですが、今は全く妄想が浮かびません。沢山の作品が生まれネタが尽きました。もちろん12年という月日は老いていく事にも繋がり、ここ数年は浮かんだ妄想がなかなか文字として書けなくて(...
一年後の夏。陽向も心陽も、しっかりと歩くようになっていた。最近は10か月ごろから歩く子供もいるというが、未熟児で生まれ3か月も保育器に入っていた為、そこを0か月として発育状況を見るらしく成長に問題はなさそうだ。「順調だね。」「ん。 首も秋ごろには座ったし、そこからすぐに寝がえりを始め、気づいたらズリズリと動き出し、ハイハイを初めてつかまり立ち?」「誕生日を迎えた頃にはしっかりつかまり立ちが出来てた...
4月になり、つくしは入院することにした。というのもこれから何があるか分からないため、万が一の時はすぐ対応できるようにだ。それに28週を過ぎた為、運動は極力避けた方が良いと言われた事も有り、家でジッとしているなら入院した方が安心という事になった。もちろん日中は麗が、仕事終わりに類が毎日来る。「どう? 変わりはない?」「うん。 元気すぎてお腹の中で暴れ回ってる。 二人がそれぞれ動くからお腹が張り裂けそ...
シリウスの元にデイジー村のギルド長から手紙が届いた。 定期的にリチャードに関する報告を貰っている。再びリチャードを王位に据えようとする貴族が接触していないか、本人にその意志がみられないか、リチャードが困っていることは無いかといった物だ。だがシリウスの思惑に反し兄はリカルドとして不便な生活を受け入れ、平民として働いている。せめて少しでも生活がしやすいようにと、魔道具の普及も急いだ。半年ほど前には村娘...
三日後、メアリーから電話があった。予想通り、あの世界へ戻るという返事だった。その為、週末に類と共にアレッタの店へ向かった。「お忙しい中、すみません。」「いいえ。」「いろいろ考えたのですが、アレッタさんにメアリーの姿を見せたくて戻る事を決断しました。」「ご主人はもうこの世界に戻れなくなりますが、それで良いんですね?」「はい。 私はメアリーと共にあの世界に骨を埋めます。 それとお言葉に甘えてこの店と自...
週末、類とつくしは子供服売り場へ向かった。小さな服はとても可愛いが、今はまだどちらが生まれるか分からない。その為、産着のみを数着買った。「男の子二人とか女の子二人なら、お揃いの服も良いな。」「形は同じで色違いとかも良いね。」「男女の双子でも一歳ぐらいまではそれで良いんじゃない?」「うん。 でも可愛いね。」「だな。」それから少し早いがアレッタの店へ向かった。小さな店で看板には漢字とカタカナで『異国料...
翌、月曜日。類の元にあきらがやってきた。「あのよぉ。 牧野さんなんだが美作が経営しているレストランのアルバイトに24歳の牧野さんがいるんだ。 だが髪の毛は茶髪なんだが、髪の色ぐらい変わる物だし会ってみるか?」あの後も裾野を広げて調べてくれていた親友に、嬉しさと申し訳なさが同時に込み上げてくる。そして再会後、バタバタしすぎて親友に報告していなかったことに気づいた。「ごめん。 見つかったんだ。」「えっ...
土曜日、類とつくしは長崎へ向かった。つくしは結婚したい相手を連れて行くと電話で連絡していた。「初めまして。 花沢類と申します。 つくしさんとの結婚をお許しください。」類はつくしの両親を前にすぐに頭を下げる。両親は俳優のような容姿の類に驚きつつも、娘のつくしに自然に目が向かう。どう見ても出産間近だ。「えっと。 つくし? あなた妊娠してるの?」「うん。 順番が逆でごめん。」結婚したい人がいるから会って...
二人っきりになり、類は改めてつくしに向き合うとポケットから小袋を取り出す。異世界で肌身離さず身に着けてた小袋だ。その中身を取り出しながら話す。「無事こうして戻ってきたんだけど、服装はあの時のままだった。 ただ傷は一切なかった。 もちろん服には大きな穴が開いていたし血も付着していた。 そして小袋には魔法陣の消えた紙切れとドラゴンの鱗、シリウスから貰った銀のプレートが入ってた。 枕の下に敷いていた紙も...
佳代は類の声に急いで玄関へ向かう。しかも珍しく「ただいま」という声まで聞こえた。どういう心境の変化だろうか?という気持ちが湧く。すると玄関に類が女性と手を繋いでいる姿が目に飛び込む。類がこうして女性と手を繋いでいる姿を見るのが初めてで動揺が走るが、努めて冷静を装い出迎えた。「お帰りなさいませ。」「佳代。 こちら俺の妻。」「妻!!?」動揺を隠していたが『妻』という言葉に、冷静さを失い驚きの声が出てい...
レストランを出ると類はすぐに花沢の車を呼んだ。「ちょっと待ってて。 20分程で車が来るから。」「うん。 あっ、だったら私の職場に来てくれない?」「あんたどこで働いていたの?」「フリーペーパーの編集部。 と言っても来月号で廃刊で会社は倒産。 あたしは今日付で倒産に伴う解雇になったんだけどね。」(類:フリーペーパー編集部? 確かに俺達のどこにも関連がない会社だよな。 だから見つからなかったんだ。)「社長...
つくしは駅に隣接しているショッピングモールに入った。バレンタインが近づいているという事で、店内は至る所にバレンタインを意識したものとなっており、一部コーナーはチョコ売り場となっている。(つ:社長に最後にチョコを渡せば良かったなぁ。 妊娠が分かってからの社長は物凄く優しくていろいろな物を差し入れしてくれたし。 まあ私が辞めたら社長一人で紙面づくりをしないといけないからってところもあったんだろうけど、...
クリスマス。この日もつくしは仕事をしていた。社内には社長もいる。身重でありながらこのような日にも仕事をしているし、土曜日も出勤しているのを見て察しているがなかなか事情を聞けないでいる。「牧野。 そろそろ帰ったらどうだ?」「はい。 これが終われば帰ります。」「年末年始はどうするんだ?」「家に居ますよ。 実家は九州なので混み合う時期に移動は避けたいので。」「まあそうだよなぁ。 きちんと親には話している...
12月つくしは土曜日も出勤し紙面づくりを行っている。その代わり平日は18時ごろには帰るようにした。そして社長が何かと気を遣ってくれるようになった。取材帰りに果物やジュースなどを買って帰ってくる。「あまり食欲がないだろ? でも何か口に入れろよ。」「ありがとうございます。」街はいつの間にかクリスマス仕様になっている。(つ:類もどこかでこの雰囲気を味わっていると良いなぁ。)そう思いながら自宅へと急いだ。...
つくしは忙しい仕事の合間にコッソリ産婦人科へ行った。休日は無いし、サービス残業の日々なのだからこれぐらい許されるだろうという気持ちだ。検査薬で陽性反応が出ているため間違いは無いだろうが、出産予定日など今後の事を決めたかった。「おめでとうございます。 双子ですね。 8週目で三か月に入ったところです。 予定日は5月25日ごろですね。」「双子?」まさか双子とは思わなかったつくしは、呆けた顔で確認した。その...
類は、ハッと目を開け飛び起きると腹を押さえる。だが、、、血は出ていない。痛みもない。どういう事?そう思いながら周囲を見渡す。「俺の部屋?」自分のベッドの上だ。しかも一人だ。「牧野? 牧野は?」周囲を見るがつくしの姿はない。「夢?」そう思いながらベッドから起き上がり自分の服を見る。それは乗合馬車に乗った時の服で、切られた箇所には穴が開き血が付着している。靴も履いている。だが、、腹に傷はない。もちろん...
それは一瞬の出来事だった。馬上の騎士達、そして乗合馬車から降りた男も崖を覗き込む。確かに二人が落ちていく姿が確認できたが、突然まばゆい光が現れ目を閉じた為、二人の行方が分からなくなった。「まさか、飛び降りるとは。」「聖女様はどうします? 森へ入りますか?」「いや。 この高さから落ちたら生きてはいないだろう。 万が一、生きていたとしても魔物が住む森ではさすがの聖女様でもどうすることも出来ない。」「あ...
翌朝、宿の人にクルクマへ行く乗合馬車を確認しチェックアウトした。時間まで村を散策する。昨日の商人の店の前に来た時に、たまたま店内に居た商人が二人を見て店から出てきた。「今から行かれるんですか?」「はい。」「この先の山を越えるんですけど、片側は断崖絶壁なんですが景色は凄く良いですよ。 半日はかかりますが、途中トイレ休憩しかないので何か食べる物を持っていかれた方が、、、あっ、是非このピーアを持って行っ...
類とつくしは王都内のギルド商会を訊ねた。類の姿を見たギルド商会長は直ぐに奥の部屋へ二人を通す。「いやぁ。 この方がマキノ殿かぁ。 本当に連れ出せたんだなぁ。」「その節はお世話になりました。 こうして無事、妻を連れ出すことが出来ました。」「いやぁ。 それにしても話に聞いてはいたが、こんなに綺麗な女性とは。 画家を呼んで姿絵を一枚作らせたいほどですよ。」「困りますね。 たとえ姿絵だとしても妻は俺だけの...
その夜、あきらと総二郎から電話があり報告は1月5日の初出の後でとなった。初出は忙しいと拒んだが二人が納得するはずもなく、類はこの経緯をどこまで話すべきか悩み数日を過ごした。まずは父親に牧野つくしという人物の事を確認してからだと思いながら。そして1月5日を迎えた。類は少し早めに出社し社長室へ向かった。すると父親に満面の笑みで迎えられた。「さっそく報告に来てくれたのか?」「そんなに良い報告ではないのです...
運転手は類が女性を伴い乗り込んだことに内心ビックリした。だが表情には出さずそのまま類の自宅へと車を発進させる。そうしながらも後ろの二人の会話を漏らさぬよう聞いていた。「一応東京都だけど周囲を山に囲まれてる場所だけど。」「はい。」揺るがないな。「駅まで徒歩30分だけど。」「自転車に乗れるので大丈夫です。」お嬢様が自転車で駅まで?「車は?」「免許はあるんですけど車は持ってないです。」免許は持っているんだ...
類は過去の失恋により恋愛が恐くなり、それを見かねた父親が見合いの席を用意したと判断する。「恋愛に否定的って事?失恋したとか?」「いいえ。恋愛をした事がありません。ただ家庭を持ちたくないだけです。」「なんでそこまで?でも恋愛ではなく政略結婚させられるかもしれないけどそれで良いの?」「いえ。きっと政略結婚も無いと思います。今回は父の気まぐれだと思っていますから。」きまぐれ?俺との見合いが?そんなにハー...
つくしは診断書を手に取る。そこにはED(勃起障害)と書かれている。「大学を出てからこの状態。だから誰とも付き合っていないし付き合おうとも思わない。何も知らない父親は色んな女性との会食の場を設けてくれるけど、そもそもこんな体では結婚は出来ない。相手にも失礼だからね。だからこの話は、、、」「ずっと一人で悩まれていたんですか?」つくしは類の続く言葉を遮り尋ねる。これはすごく大変なことだ。確か御曹司はまだ2...
1月3日。つくしは11時20分にメープルへ到着した。そしてフランス料理店へと向かうと入り口のボーイに告げた。「花沢様で予約している者ですが。」「伺っております。こちらへどうぞ。」つくしは緊張しながら歩く。メープルは父親の仕事の関係で何度か訪れた事はあるがそのどれも会議室だった。その為、高級レストランに緊張している。というのもドレスコードがあるからだ。そこまで厳しい物ではないが女性はワンピースやスー...
あきらは初めて他人に自分の気持ちを打ち明け、照れた表情を見せながら話す。「母親のマナー教室へ通っている女性なんだけど、いつの間にか妹達と仲良くなっててさ。俺に色々聞かせるから一度見てみようかと教室を覗いた時に妹に紹介されたんだけど、俺に取り入ろうとはしないし自分をアピールもしねぇ。単なるお兄さんという扱いでさ。マナー教室は美作の名前は一切出していねぇし、そこのオーナーが美作商事の社長夫人とも書いて...
類とつくしの会食の日取りが決まった。それは年明けの1月3日だ。聡はすぐに類に社内電話をかける。『類。1月3日にメープルで会食をするように。』「この前、話していた人?」『そうだ。』やっぱり、、と類は思う。あの時は相手が断る可能性があると示唆していたが、やはり断る事は無かった。つまり相手の女性も会食の相手が俺だと聞いて乗り気になったんだろう。「食事をするだけで良いんだよな?」『もちろんその後に気が合うな...
聡は本村と別れた後、すぐに類の執務室へ向かった。「何?」「まだ日程は決まっていないが会食へ行ってもらうことになるからそのつもりで。」「また?」類はあからさまに嫌そうな顔を見せる。「もちろん会食の場すら断られる可能性もあるがな。」「断られる?」類にしてみれば考えられない事だ。花沢物産御曹司との会食を断る女性がいるとは思えない。何時も俺が嫌がっているからそう言えば乗り気になると考えているとしたらお粗末...
12月末。花沢物産本社ビルに政治家の本村が秘書二人を引き連れやってきた。そして会議室で社長の聡と面会した。「こんにちは。いつもお世話になっています。」「こちらこそお世話になっています。」二人は固い握手を交わす。「今回の選挙も無事当選できました。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」「いえ、こちらは大したことはしておりません。」二人はどっしりとソファーに腰を下ろす。「かねてより伺っていました道路拡張工事...
結婚式類は緊張の面持ちでつくしが入ってくるのを待っていた。参列席には類とつくしの家族その後ろにあきら、総二郎、桜子夫妻、滋が座っている。するとドアがバンッと開き、司が入ってきた。皆はつくしが入ってくると思っていた為、驚く。「お前なぁ。来るならもう少し早く来いよ。」「悪りぃ。さっき着いたばかりで、これでも車を飛ばしてきたんだぜ。」「こっち来いよ。」あきらと総二郎は司を自分たちの真ん中に座らせると、類...
類とつくしは結婚式の為、東京へ向かった。そして挙式前日には、花沢家の好意でつくしは家族水入らずでホテルで一泊することになった。久しぶりの再会に、つくしは晴男、千恵子、そして進と順にハグをする。「つくし、おめでとう。」「元気そうで良かったわ。」「まさか姉ちゃんが花沢さんと結婚するとは思わなかった。」「それはあたし自身が思ってること。人生何があるか分からないね。」三人はつくしが一段と綺麗になり笑顔でい...
夕食は楽しい物となった。久しぶりの豪華なディナーにつくしは舌鼓を打つ。「美味しい。それにやっと生野菜が食べられます。」「そういえば向こうでの食事はどういう物だったの?」「ヤム芋を蒸した物を潰してマッシュポテトにしたり、おかずは缶詰が多かったです。でも類さんがカップ麺を持ってきてくれてそれはそれは凄く美味しくて。」「日本では塩分が高いとか良いイメージを持たれないカップ麺も、ナイジェリアでは貴重な物だ...
『今、幸せ?』の作品に沢山のコメントありがとうございました。期間が短く最後まで読めなかった方からもう一度公開を望む声がありました。また最後まで読まれた方からも、もう一度読み返したいというお声も多数ありました。一度きりの公開と決めていましたが少し考えますね。今日も石川県で大きな地震があり、何時どこで起きるか分からない状況。物価が上がり、食材も信じられない価格になり、今月から電気代も上がるとか。「やっ...
司と楓の会談から一週間後、キャサリンの陣痛が始まった。司は仕事中だったが急いで病院へ駆けつける。そこにはキャサリンの母親もいた。『そろそろですね。』『司さんも待ち遠しいでしょう?』『はい。どちらが生まれるか楽しみです。』司はドキドキしていた。子供が生まれる事でやっと白黒つけられると思っているからだ。《どちらが生まれるか楽しみ》というのは、自分の子供かそうでないかという意味で言っている。もちろん母親...
類は仕事を終えると直ぐつくしの病院へ向かった。コンコン『はい。』つくしの声が聞こえ類はそっとドアを開ける。「俺。」「いらっしゃい。仕事はどうだった?」「順調。社員もやる気満々で発売を待つばかり。」「何とか成功させたいね。」「是が非にでもね。」類は近くの椅子に座るとつくしの手を握る。「ご飯は食べた?」「うん。」「言葉はどう?」「全く分からない。医師は英語で話してくれる人もいるけど看護師はほとんどフラ...
翌日、類は会社へ向かった。ブラックソープの商品は既に完成している。それをどう販売するかの最終確認だ。一部は桜子の会社のパッケージで作り、それは既に日本へ送っている。販売方法はそれぞれ好きな方法で売り込む事になったが、発売日だけは合わせる事にした。『販売日は今日から二週間後。日本に送ったSAKURAKOと発売日は同じ。中の商品も全く同じ。パッケージだけが違う事は承知の通り。つまり、、負けるわけにはいかない。...
フランスに着き、救急車に乗って病院へ運ぶ。スムーズに移動が出来るのは両親が根回しをしてくれたおかげだ。その最中も、つくしはしきりに申し訳ないと謝っていた。だがどこかホッとした表情にも見える。それは類も同じだ。病院内の個室に運ばれ、簡単な検査が行われた後やっと二人っきりになった。「痛い所はない?」「大丈夫。痛み止めが点滴に入っているから。」「あんたの事だから中途半端で仕事を放りだしたとか思うなよ?あ...
我が家のブログにお越しいただきありがとうございます。以前少し連載しました『あんた、誰?』という作品ですが、似たような作品があると指摘を受け取り下げました。そこから指摘部分を修正していたのですが、このまま公開するのもどうかと悩んでいました。ですがこの作品に費やした時間があまりにも長く(修正も含め)、このまま埋もれさせるのもどうかと思い期間限定で公開させていただきます。全部で182話あります。期間は3...
オヨ州に着いた類は、その足で作業場へ向かう。そこには一生懸命働いているサニ達がいた。『あっ、類!恋人はどうなった?』『昨日は突然キャンセルしてごめん。牧野が勤務していた診療所が窃盗団に襲われ左肩と右脇腹を銃で撃たれたけどなんとか命は取り留めた。』『良かった。』サニ達はホッと安堵し喜び合う。『それで本当は後三日はここに居る予定だったんだけど、病院についていたんだ。だから俺は今日までとなる。何か聞いて...
類とアドが待つ廊下に、以前つくしの診療所で見た男性がやってきた。医薬品などを運び、ラゴスやアブジャの病院へ行くときには連れて行ってもらっていると言っていた男性だ。『牧野先生が撃たれたと聞いたんですが?』『はい。診療所が襲われ、この子供は腕を切られ、牧野は撃たれて手術中です。』男性は心配そうに手術中のドアを見る。『もしかして薬が原因ですか?』『そのようです。診療所はもぬけの殻でした。それとパソコンも...