いやあ、参っちまいました。「6月に誕生日を迎えられたので、身体検査をしますなんて、月一回の定期検診でいわれました。「体重は……。あらあ、大台ですねえ、80.5kgです」「身長は……。あらあ、縮んじゃいましたねえ、171.3cmです」「あらあ」が、口ぐせの看護師さん。すこし、ショックが和らぎましたけど……。でもほんとに、「あらあ」でした、ものの見事に。じつは、もういっちよ!「あらあ……。お腹周り、81cmですねえ。メタボの更新ですねえ……」身体検査
[淫(あふれる想い)] 舟のない港 (十五)「いや、やめて…」
「いや!やめて…」男は、麗子の口からもれることばを塞いで強引にことをはこぼうとした。しかし麗子は、やはり「ダメ、まだ」と拒否った。そしてしばらくしっかりと抱き合っていた。「おねがい、まだだめ……」懇願する麗子の声だった。はじめて聞いたような、なみだ声だった。しかしいまの男には聞こえていない。見知らぬ男に……、という気持ちが消えなかった。「つぎには、ねっ?」。懇願する声がでた。そしてそれが引き金となり、ただただ己の欲情のままにつき進んだ。しばし静寂のときが流れた。男は満足感にひたりながら、腹ばいになってタバコに火をつけた。余韻にひたっている男、そして麗子は放心状態だった。じっと、天井を見つめている。どれほどの時が経ったろうか、麗子の口から出たことばは、男の予期せぬものであり、しかしまた予想のできることばだっ...[淫(あふれる想い)]舟のない港(十五)「いや、やめて…」
[ライフ!] ボク、みつけたよ! (二十六)観光バスが「そこのけ、そこのけ」
観光バスが「そこのけ、そこのけ」とばかりに、やってきました。あわてて、はじっこに寄りました。なのに、端っこによったはずのわたしの元に、またやってきます。さらにあわて横にずれましたが、プンプンです。なんでわたしを追いかけてくるんですかね。まあ真相はと言えば、どうやらわたしが逃げた場所が悪かったようです。駐車スペースなんですね。でも表示はなかった気がするんですが。歩き疲れているわたしに鞭をうつようなこんな仕打ち、恨んでやるう!なんてね。こんな年寄りをいじめてなにが楽しいか!ですよ。へへへ、こういうときだけ、年寄りあつかいして欲しいんですよ。さあそんなことより、中に入りますよ。良い天気です、ほんとに。汗ばむ陽気ですわ、ほんとに(「マジで」などと若者ことばは使いません)。でもですね、ほんとのところを言って、「マジ...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(二十六)観光バスが「そこのけ、そこのけ」
愛の横顔 ~RE:地獄変~ (三十)じろじろと舐めまわすように
じろじろと舐めまわすように善三さんは、小夜子さんを見られます。往事の、特高時代の善三さんを思わせる、恐ろしい様相でした。「もういいでしょう、そこらで。子どもたちもいることですし」と、なん人かが声をかけました。しかし射るような目つきの善三さんのことばはつづきました。「しかし念のいった小細工をしたものだ。若い娘たちが好んで着ていたワンピースまで用意していたのだからな。まあ、自ら訴え出ることはしまいと踏んではいたようだが。それにしても、美人に生まれたがゆえの災難だった。足立が思ったよりも早く帰ったことで、知られてしまったことだしな」なぜそこまで詳しいのかといった動揺が、はじめて小夜子さんの表情を変えました。目がつり上がり眉間にしわを寄せて、小声でしたが「おのれえ……」と漏れでたようにも。「真相は分からん。多分お...愛の横顔~RE:地獄変~(三十)じろじろと舐めまわすように
初夜のことを、五平が思いだしている。ひんやりとした空気のただようなか、五平と真理恵が対峙している。あからさまな政略結婚であることに、五平は忸怩たるおもいをもっている。真理恵への申し訳なさが、五平のこころに充満している。わかにたいする未練の情をすてきれない五平だ。武蔵の思いは痛いほどわかる。おのれが武蔵の立場にたったならば、やはりおなじように説得を試みたろうとおもっている。しかも10歳近い年の差と、五平の容貌だ。三友銀行という大看板をせおうう父親をもつ令嬢でもある。再婚とはいえ、望めばもっと将来有望な青年にとつげるはずだ。〝こんな風采のあがらぬ、女衒あがりの男なんぞに〟と思うきもちがつよい。せめてもこののち、しっかりと愛情をそそぎなに不自由のない生活はもちろん、真理恵の夢――それがなにかは知らぬ五平だけれど...水たまりの中の青空~第三部~(四百六十四)
分かっていますあなたの想いおねがい少しだけ待ってもう少しこのままで居させてあなたの胸はあたしのベッドなのあなたの腕はあたしの枕なのあなたの笑顔昨日まではあたしのものあなたの笑顔明日からはあの方のもの分かっていますあなたの希みあなたの止まり木はもうあたしじゃないあたしの寄る辺はあなたじゃないでもでも待ってて良いかしら?あなたのお帰りを待ってて良いかしら?あなたの笑顔を空に白い雲が急ぎ足で流れています海に白い波がさざ波立っていますあなたあなたあたしだけのあなた……=解説=キモは、「あなたの胸はあたしのベッドなの」「あなたの腕はあたしの枕なの」なんですが。まあねえ、「おいすがる女を……」なんてね。パラレルワールド、あるのか、ないのか……。わたしが、すがっていたのでしょうか。ポエム~黄昏編~(あなた……)
[青春群像]にあんちゃん ((20年前のことだ。)) (二)
家出中の定男など相手にする会社はない。1社だけが、「そんな事情なら…」と温情をみせたけれども、「ここはたこ部屋まがいだ、やめとけ」と、初老の男が貞夫に忠告した。その実は、定男が入社することによって追い出されるのではと危惧した男の、哀しいうそだった。しかし定男はその男の話を信じてしまった。その実、会社側からの仕事の内容を聞くにつけ、〝じぶんにできるか?〟と怖じ気ついてしまった。翌日に「べつに決まりました」と嘘をついて辞退した。つぎに人手不足だと聞き知って深夜営業の外食産業のバイトに応募してみたが、身元保証人を求められてしまった。親に頼むわけにもいかず、またはじめての町で友人知人もいるわけもない。1週間が過ぎて、そろそろ持ちだした所持金も、安宿の宿泊代にきえていく。食事もパンと飲みものだけにして節約するも、心...[青春群像]にあんちゃん((20年前のことだ。))(二)
昨日のあたたかさは、なんだったの?やっぱ、まだ2月だったか。9:30頃昨日、やくそくの予約時間をおくれてしまい、3時からの施術に。足腰の「運動リハビリ」をうけているけど、もうひどいもん。ビリビリビリビリの連続で、「イタイ」「痛い」とかの話じゃない。「カタサからですね」。むごいお言葉を医師から聞かされて。((情けない話))10mも歩くと、太ももの裏とふくらはぎがつっぱりはじめ、1歩1歩を進むごとに、ビリビリ感が。そして腰にいたみが走り、背中にもビリビリ感がおそってくる。5度ほど腰を曲げれば、イタミはおさまり、足のビリビリ感も消えて。昔々(ほんの四、五年前、コロナ禍以前のこと)は、しっかりとした足取りで、各地の美術館を闊歩していたというのに。背筋をピンと伸ばして、さっそうと歩いていたというのに。2018年年末...最後でしょうか?またまた、雪に。
郵便局の真向かいにはコンビニがある。わたしは利用しないけれども、隣人さんたちはふつかとあけずに通っているようだ。どうやらそこの店員に知り合いがいるらしく、ひとしきりおしゃべりをしてくるらしい。客商売とはいえ、その店員さんも大変だ。ふたりいるようだが、もうひとりがせわしなく会計をしていて、お客さんが後ろに並んでいてもお構いなしなのだから。ただこちらも会計はしていて、差し出される商品がゆっくりだということだ。そこからアパートにもどるのが、わたしのいつもの散歩コースになっている。車が通ることはめったになく、そのかわりに自転車が多い。おばさん連中なのだが、チリンチリンとベルを鳴らして通り過ぎていく。たしか歩行者優先で、ベルを鳴らすのは緊急時だけに制限されているはずだ。もっとも、歩行者に注意喚起をおこない、横にどか...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(二十三)
[淫(あふれる想い)] 舟のない港 (十四)こんやの麗子は、
こんやの麗子は、いつもの麗子ではなかった。紫がにあう女性だった。勝負服よ、という。白いブラウスに白いジャケット。もちろんスカートも明るい白だ。そしてアクセントにとうす紫のスカーフを巻いている。均整のとれたからだが、その白に包まれている。ふたり並んで歩くのが、彼にとってはステータスだった。かならずといっていいほど、すれ違う男どもが麗子をなめ回すように見ていく。ひょっとして今夜は、だれかにからまれたのかもしれない。となりの市まで出かけての、はじめての映画鑑賞だった。いつものことではあるが、男のエスコートがあっての安心感だったのかもしれない。いつもの香水に加えて、今夜はアルコールの香がつよい。誰かを呼び出してグチを言いあう酒盛りでもしたのだろうか、そんなことを男は考えた。そして思いっきりに、男の悪口を並べ立てた...[淫(あふれる想い)]舟のない港(十四)こんやの麗子は、
[ライフ!] ボク、みつけたよ! (二十五)充実感でいっぱいです。
充実感でいっぱいです。ついに、歩ききりました。血の池地獄につきました。意外なことに、低血糖の症状はおさまりました。たまたま飴玉をもっていたので、早速に口に放り込んで道路に地べた座りというんですか、コンビニの駐車場なんかで女子高生たちがお尻を、でんとばかりに座っているじゃないですか、そんな風にすわりました。そういえば、小学生の頃ですか、運動場でこんな格好ですわった記憶があります。朝礼で校長先生の話を聞きましたね。なにせ団塊の世代ですから、体育館なんかでは入りきれなかったんじゃないですかね。ひとクラス55人ほどで、6クラスありましたから。で6学年でしょ、2000人近い児童数なわけです。中学時代なんか、凄かったですよ。同じくひとクラス55人ほどで、しかも16クラスあるわけです。想像できます?机なんか小さなもので...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(二十五)充実感でいっぱいです。
都電を利用しての移動でした。朝、なん時でしたかしら。早くに出たことは覚えております。百貨店でのお買い物だと、正夫には告げておりましたが、実は……。はい、府中の刑務所です。きょう、三郎さまが出所をされます。一子さんから内々に連絡を受けまして。といいますのも、ご実家からは勘当をされておられます。まあ、無理もありませんわねえ、老舗の呉服屋から逮捕者が出たのですもの。しかも跡継ぎでいらっしゃいましたし。帰るあてのないお方です。行くあてもありませんでしょうし。とても恐縮されていらっしゃいましたが、とりあえず迎えだけでも頼めないかということです。今さらお会いしてもどうしようもないことなのですが、かつては恋い焦がれたお方でもございますし、少しではありますが金員を用意して出かけました。二、三日の宿賃になればと思いまして。...愛の横顔~RE:地獄変~(二十九)都電を利用しての
そして○の床についていたとき、武蔵が逡巡したこと。いまの家族経営は小規模の会社には通用する。しかし株式会社として体裁をととのえ、大きく成長していこうとすれば、どうしても人の好き嫌いが関与してくる。本人にその意識はなくとも、いや逆に「えこひいきはいかん」とした場合に、かえって優秀な社員をうしなうことになりかねない。〝俺の後は、小夜子だと五平はいうだろう。社員の誰しもが賛成するだろう。そして小夜子もまた、そう思っているだろう。しかし……。経営のなんたるかを、小夜子は知らない。うしろで五平が支えてくれるとはいえ〟その点五平ならば、と考えている。女衒というなりわいが、逆に功を奏するのではないかとかんがえるのだ。冷静な目でもって評価をし、しがらみとは無縁に物ごとの判断ができるのではないか、そう思っている。〝俺のもつ...水たまりの中の青空~第三部~(四百六十三)
「わたし、分かる?」「はいっ!わたしわかるさんですね?」「うん、もおう!」「うん県もおう市の方ですね?」「しらない!」「しらない町ですか」「プ・プ・プ・プ……」「プ・プ・プ・プ番地、と」“ガラガラ”「おう、お帰りい!」「フンッ!」=解説=お遊びで作った詩です。比較的最近の詩のようにも感じられるでしょうね。そう![オレオレ詐欺]でも、ブッブー!紛れもなく、五十年近く前に創った詩です。いえいえ、実際には、こんな会話はありませんから。独身時代の、ほんとに、お遊びの詩ですから。なんてしつこく否定すると、怪しい!となりそうですね。今回は、この辺で。ポエム~黄昏編~(帰省からの帰宅)
[青春群像:にあんちゃん] ((20年前のことだ。)) (一)
20年前のことだ。孝男と道子の結婚生活も7年をかぞえた。子宝にめぐまれぬふたりをよそに、高校3年の定男が、同級の女子生徒であるあかりをはらませてしまった。真剣な思いのふたりは、卒業とどうじに結婚すると宣言した。「土建業にいく。給料がいいらしいから。おれ、こいつらのためにいっしょうけんめい働くよ。おやじには迷惑かけないし。ただ、赤ん坊がうまれてしばらくは、面倒をみてやってください」真剣なまなざしで、孝道の目をまっすぐに見て宣言した。あかりもまた、両親のかおをまっすぐにみる。親同士の話しあいをもったが、すぐに結論が出るようなことではない。あかりの親の怒りは激しく、ただ定男をなじるだけだった。道孝にしても、ただただ頭を下げるしかない。二度目の話しあいのおりに「申し上げにくいことですが」と前置きをして、中絶という...[青春群像:にあんちゃん]((20年前のことだ。))(一)
街中で見かける店は、大きなガラス窓で中がよく見える。けれどもこの店はガラスの代わりに板材がつかわれていて、中をうかがい知ることができない。店内が見えないということは、おそらく置いてあるだろうショーケースも見えないわけだ。ということは、その品揃えもわからない。デコレーションケーキが好きなわたしで、クリスマス近くになると無性に食べたくなる。いちどこの店で買ってみたいものだと思うのだけれども、どうにも敷居がたかい。そう、値段がわからない。寿司店で見かける時価という文字があたまをよぎる。ケーキに時価があるわけがないとは思うのだけれども、スーパーで並んでいる大手パンメーカーのそれとは、比較にならない値段だろうということだ。店内にはいってショーケースをのぞき込み、値段にびっくりしてそのまま外へ。そんなことはできないだ...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(二十二)
[淫(あふれる想い)] 舟のない港 (十三)ふた月ほどまえの、
ふた月ほどまえの、雨の日だった。梅雨の時期もおわりにちかづき、はげしい降り方がつづいている。きょうは花金だった。普段なら早めに仕事を切り上げて、いつものように……。しかしやっとコンタクトのとれた会社から、昼過ぎに「あたらしい製品について説明を聞きたい」と連絡がはいった。すべての予定をキャンセルして、部長とともにはせ参じた。いっきに話がすすみ、そのまま接待の場へとうつった。〝今夜は映画だったな。すっぽかしになっちまうか……。しかたない、次にはなにかプレゼントでも用意してやるさ〟今となっては連絡のとりようがない。部長と会社をでたのが、午後の2時すぎ。プレゼン用の資料を取りそろえて、念のためにと複数回の確認をした。コピーを女子社員に頼んだときに、いったんは麗子へ連絡をと受話器をとったものの、取引先からの電話がは...[淫(あふれる想い)]舟のない港(十三)ふた月ほどまえの、
[ライフ!] ボク、みつけたよ! (二十四)向こうから帰りのタクシーでも
向こうから帰りのタクシーでも来てくれると助かるのですがねえ。そんな都合良くはいかないでしょうなあ。「物語りならば作者の思いどおりに出来るのでは?」ですか。まあたしかに、そうなんですけどね。そんなご都合主義は取りたくないですし……。「浮遊術は?」。あなたも嫌みな方ですねえ。ではでは、やってみましょうか。ああ、だめだ。きょうは荷物が多すぎる。現在75kgの体重です。そして荷物が、多分7~8kgはあるでしょう。ということは、80kgを超えているわけです。わたしの浮遊術では、80kgまでなんですよね。というのは冗談ですが。お分かりだと思うのですが、浮遊術というのは、純真な心持ちでなければ使えません。70歳のわたしです、世俗の垢に汚れによごれています。もう使えませんよ、SuperManじゃないんですから。ほんとのこ...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(二十四)向こうから帰りのタクシーでも
愛の横顔 ~RE:地獄変~ (二十八)それにしても、こうなりますと、
それにしても、こうなりますと、どちらの話を信じたら良いのか、それとも善三さんのことばが当を得ているのか……。ご婦人方の間でも、ご意見が分かれたようでして。「三郎さんのご実家に身をよせるということは、できなかったかしら」「お嬢さま育ちのむすめさんが農家の嫁というのは。やっぱり、無理があるでしょ」「若いむすめひとりが戦後をいきぬくなんて……。それに身ごもっているわけですし」「身をおとさずにすんだのよ、良しとしましょうよ」「でも、その後も使用人ふつかいではねえ」吐き捨てるように善三さんがおっしゃいます。「ふん。そらみろ!人をひととも思わぬ所業だ。すこしばかり美人だからと鼻にかけよって」善三さんのことばに、思わずわたしも頷いてしまいます。たしかにこれではご老人が哀れでございます。しかしこれで終わりではなかったので...愛の横顔~RE:地獄変~(二十八)それにしても、こうなりますと、
そしていま、五平のとなりに真打ち登場とばかりに真理恵が立っていた。えんじ色のブレザーに紺色の膝下20センチほどのスカート、そして靴はエナメル質の黒光りものだ。胸には大輪のバラをさし、化粧はすこし派手目にみえる。真っ赤な口紅をこれでもかというほどに塗りたくり、まさしく戦闘態勢に入っている。「加藤真理恵です。よろしくおねがいします」専務の妻、とは口に出さなかった。あくまで、ひとりの個人としての挨拶だった。30度ほどに腰をまげつつも、〝あなたたちへの礼ではなく、富士商会への礼なのです〟と言外にせんげんしているようなものだ。つめたく見下ろすような視線を、全社員にそそいでいた。横に立つ五平はまるで無頓着で、「わたしの嫁さんだからと身がまえる必要はない」と口にするものの目は笑っていない。これから起こるであろう幹部社員...水たまりの中の青空~第三部~(四百六十二)
とうとう来てくれなかったしょんぼり帰るぼくにいたずら?神さまの……零時をすぎてかえると、ドアの前にリボン付きのプレゼントだれ?ふたりして食べるつもりだったのだろうかチョコと、フライドチキンが、ふたつずつ置手紙のないプレゼントひとりぼっちのへやで灯りを消してきょうだけはこんやだけはゆるしてください涙が止まりません拭ってもぬぐっても溢れ出てきます勘弁してくださいもう許してください。こんやは明るい月ですでも歪んで見えます雨降りのように壁際に腰をおろして膝を抱えてみますきょうは、すこしずつですが冷えたこころが温まってきました求めはしなかった優しさを与えはしたの筈なのに……きょうは、セント・バレンタイン・デー=背景と解説=待ち合わせの場所に来てくれなかった彼女諦めて帰ったアパートのドアの前に置いてあるプレゼント誰?...ポエム~黄昏編~(セント・バレンタイン・デー)
5日連続とは行きませんでした。とはいっても、4時頃だったですか、寒くて目が覚めたときに窓からのぞいてみたら、うっすらとは車のフロントガラスに積もっていました。ちょっと遅起きとなってしまい、こんな状態でした。北陸・東北、そして北海道地区のみなさん。笑わないでくださいね。九州生まれのわたしには、4日連続なんて、ほんとに人生初の体験だったんですよ。5日連続とは行きませんでした。
はげしく首をふる孝男に、道子が冷然とつげた。「ツグオは、あなたにそっくり。好き嫌いがはげしくて、気に入った人間にはとことん入れあげるけど。嫌いだとなると徹底的に排除して。それを相手の人格のせいにするの」口をはさもうとする孝男を手で制しながら、なおもつづけた。「それに、清潔好きというより潔癖すぎるの。家族がさわった物でも、同じものは嫌がるし。髪の毛一本ですら目くじらを立てて責めあげるし」「それはだな。お前の掃除がいきとどいていないからであって、手抜きぐせだろうが」苛立つ孝男が道子のことばをさえぎった。ほら相手のせいにするとばかりに、大きくため息を吐いてみせながら「ツグオはね」とつづけた。「ツグオはね、知っているの。あなたに似ていることをしっているの。だからいつもあなたを避けてるの。そしてね、あなたはそのこと...[青春群像:にあんちゃん](六)
うわあ!人生初の、4日連続だあ!2月5日、6日、7日、そして今日は8日だもんね。2月8日(降ってまーす)2月8日2月7日9:152月6日11:102月5日11:30これまで日中が暖かったので、大地に積もることはなかったけれども。……って、今日は降り続いているよ!食糧は?3日分冷凍中。水は?水道が出る。火は?ストーブがある、灯油も一缶ある。ガスが万が一止まっても、大丈夫!2月8日8:30あれれれ?犬は?♪犬は外を走り回り、猫はこたつで丸くなる♪じゅなかった?元気なのは、ばあちゃんたちだけ。人生初の、4日連続だあ!
外に出てみると、ポカポカとした暖かい日差しがあった。ときおり吹いてくる風にはすこしの冷たさを感じたけれども、身をちぢこませる程でもない。うち沈んでいた気持ちが、すこし収まってきた。団地内の小さな公園に、なん本かの樹木が植えられている。そういえば春先に、桜の花びらが部屋のベランダに舞いこんでくる。といって、すべてがおなじ樹木のようには見えない。だいいち、高さがちがう。1本の木など、とびぬけている。中学高校において理科の授業がきらいだったわたしには、植物はさっぱりだ。草花にしても、せいぜいがチューリップと大輪の菊と、あとはバラぐらいだろうか答えられるのは。ああ、もうひとつあった。トイレの芳香剤によく使われている、紫色のラベンダーを知っている。頭にうかぶ花の名前といえば、ホウセンカ――これは島倉千代子さんだった...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(二十一)
[淫(あふれる想い)] 舟のない港 (十二)当時としては新しい
当時としては新しい間取りのワンルームマンションで、20畳ほどの広さがある。やや縦なになっていて、玄関のドアを開けるとすぐにシンクがある。その向かい側にトイレとバスルームが一体となっている。自炊をするだけの時間とその意欲もない男には、十分なキッチン――と呼べるかははなはなだ疑問だけれども十分なスペースだ。間仕切り用のカーテンがあるにはあるが、ほとんどが使われていない。なのでドアを開けるとすぐにベッドとハンガーラックが目に飛込んでくる。申し訳程度の小さなテーブルがありはするが、壁に立てかけられたままで、いままでいちども使われた形跡はない。ここに入居したおりにポータブルテレビを、他の洗濯機やらエアコンとともに注文したはずなのだが、店の手違いかそれともかれの注文ミスかで届かなかった。結局はそのままになってしまい、...[淫(あふれる想い)]舟のない港(十二)当時としては新しい
[ライフ!] ボク、みつけたよ! (二十三)血の池地獄ですね、
血の池地獄ですね、そうでした。ちょっと気をゆるすと、すぐに横道にそれちゃいます。性格が移り気というわけではないですよ。気が散りやすい、これは当てはまるかもしれませんが。どこが違うんだ!とお叱りを受けそうですが、集中するときは集中しますんでね。はい、これからは愚痴のオンパレードになります。覚悟して読んでくださいね。「いままでだって十分に愚痴だらけだったぞ」ですって?すみませんねえ、わたし自身はそんな風には考えていなかったものですから。googlemapで確認しますと、「距離は2.6kmで、歩いて34分」とあるんですよね。それで、地図上に貴船城があるのですが、右手に見ながらのルートになっています。が、が、です。わたしは左手に見ながら歩いたわけです。ということは、より海岸寄りに歩いたことになります。時間にしても...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(二十三)血の池地獄ですね、
恥ずかしいことながら、お昼近くに寝覚めてしまいました。昨夜はたしか、12時じゃないか、午前1時ごろだったか?それにしても、いちど5時頃に目覚めたとはいえ、さすがにそれ以降いちども起きずにお昼近くだとは……。「不適切にも……」じゃなくて、「自堕落にも、ほどがある!」ですわ。しかし5時頃には降っていたんですねえ。だって、ほんと閑かでしたもん。無音、と言っていってもいいぐらいですわ。そんな中で、録り置きしていた「とうきょうサラダボール」2本を見ました。静かなドラマなんですけど、観ちゃうんですよね。1時間半、閑かでゆったりとした時間を送りました。で、起きてみたら、この状態でした。遅起きしました。
恥ずかしいことながら、お昼近くに寝覚めてしまいました。昨夜はたしか、12時じゃないか、午前1時ごろだったか?それにしても、いちど5時頃に目覚めたとはいえ、さすがにそれ以降いちども起きずにお昼近くだとは……。「不適切にも……」じゃなくて、「自堕落にも、ほどがある!」ですわ。しかし5時頃には降っていたんですねえ。だって、ほんと閑かでしたもん。無音、と言っていってもいいぐらいですわ。そんな中で、録り置きしていた「とうきょうサラダボール」2本を見ました。静かなドラマなんですけど、観ちゃうんですよね。1時間半、閑かでゆったりとした時間を送りました。で、起きてみたら、この状態でした。遅起きしました!
愛の横顔 ~RE:地獄変~ (二十七)はっきり申しましょう。
はっきり申しましょう。家柄云々といったことでした。わたくしではございませんよ。正夫ですよ、正夫です。なにせ尋常小学校すら出ておりませんから。それにあの容貌でございますし。ご親戚に対してもねえ。おわかりでございましょう?縁を切ってくれ、そのように言われたようでございます。いえ、妙子はなにも申しません。健夫さんが教えてくださいました。「恥ずかしい両親です。未だに戦前の因習にとらわれて、家格がちがうだの、家柄がひどすぎるだのと。ぼくが縁を切ります」。そこまでおっしゃっていただけたのですが。そう言われましても、妙子の気持ちを考えますと……。まあわたくしとしましても、妙子はどこに出しても恥ずかしくない娘です。ただ、親は選ぶことができませんし。申しわけありません、わたくしが間違っておりました。いくら戦後のあの時代だっ...愛の横顔~RE:地獄変~(二十七)はっきり申しましょう。
小夜子の嘱託としての活動は、相変わらずの取引先へのあいさつまわりだった。ところがある取引先において、会社案内をさせてほしいという申し入れがあり、それをむげに断ることもできず、滞在時間が延びてしまった。同行していた竹田だけが先に帰ることになってしまった。そのことを聞きつけた他の会社が、うちの会社もと申し入れが重なり、けっきょく相手先の車が送り迎えをすることになった。当初こそ「そこまでの女なの?」と、ねたみそねみの思いを抱いて真理恵だったが、社内で采配をふるうことには好都合だとかんがえるようになり、よろこんで送り出していた。きようは金曜日であり、週の内で一番浮かれやすい日だ。明日の土曜日もしごとではあるのだが、半日だと言うこともあり、物流量が少なく、配達員たちもいつもよりはのんびりできる。普段はそれぞれの部で...水たまりの中の青空~第三部~(四百六十一)
エッフェル塔の下のため息を気まぐれな風はコンシェルジュリーへ運んだコートの衿を立てて急ぎ歩く旅人を冷たい風は囃し立てた今風は眠っている朝風はまた吹くだろう=解説=この作品のキモは「朝(あした)風はまた吹くだろう」です。根拠のない希望を持ちたいと、あがいています。「眠っている」だけなんだ、あしたには、朝の光とともに幸せがやってくるはずだ、と。エッフェル塔はパリの象徴です。希望の塔ですよね。コンシェルジュリーというのは、今でこそ司法宮の一部ですが、かつてマリー・アントワネット王妃が収容された牢獄なわけです。そこでわたしは、牢獄としてではなく、恋獄の象徴としたわけです。ポエム~黄昏編~(風・旅人)
自宅に戻るやいなや、孝男の怒声が飛んだ。「道子、ほのかはどこなんだ!そもそも、なんで介護士なんだ。ほのかにはどこでもあるんだぞ。銀行が良ければ入れてやるし、商社が良ければ話をつけてやれる。公務員はどうだったんだ。なんで、なんで、あんな老人のばかりのところに…」苦渋にゆがんだ顔を見せて、力なくソファにへたり込んだ。そんな孝男を勝ちほこったような表情で道子が見おろす。「あなたには分からないの、ほのかの気持ちが」と、詰るように言った。どういうことだと顔を上げる孝男に「お婆ちゃんよ、お婆ちゃんのこと。それが引っかかっているの、今でも。キチンとしたお別れをしていないでしょ」と冷たく言い放った。「お別れしていないって、あれは、父さんが…。しかしそれがどうして、介護士なんだ」「あなたから逃げ出したいという気持ちもあった...[青春群像:にあんちゃん](五)
“ああ、もうお昼を過ぎてるじゃないか”のっそりと立ち上がりはしたものの、なにをする気にもならず、先日に買い置きしておいた菓子パンに手をのばした。1本を食べ終えればいつもならお腹がふくれてくるのだが、きょうはまだ空腹感がおさまらない。極度の緊張感のせいだろうか。カロリーが相当に消費されたのだろう。“きょうはとくべつに、喫茶店で食べるかな”じつのところ、警察を疑うわけではないが、万がいちということもある。出ばると言っても、すぐにとは限るまい。どれ程の時間がかかるのか。その間、どう対処すればいいのか。“留守だとわかれば、相手もあきらめるだろう。いまは法律もあることだし、張り紙やらとなり近所への嫌がらせもしないだろう。とにかく部屋にいちゃだめだ”いても立ってもいられなくなったわたしは、戸締まりをしっかりとして外に...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(二十)
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いやあ、参っちまいました。「6月に誕生日を迎えられたので、身体検査をしますなんて、月一回の定期検診でいわれました。「体重は……。あらあ、大台ですねえ、80.5kgです」「身長は……。あらあ、縮んじゃいましたねえ、171.3cmです」「あらあ」が、口ぐせの看護師さん。すこし、ショックが和らぎましたけど……。でもほんとに、「あらあ」でした、ものの見事に。じつは、もういっちよ!「あらあ……。お腹周り、81cmですねえ。メタボの更新ですねえ……」身体検査
彼は、心のなかを見せない。たにんの侵入を極端にきらう。それゆえか、彼の部屋をおとずれる者はいない。そのくせ彼自身は、ひとの部屋にズカズカと入ってくる。仲間と友人。彼は、区切りをつけている。それが何故なのか?いままで考えもしなかった。が、学友との口論から、それを考えるに至った。町工場での俺は、労働の代価を受け取る。しかし夜学での俺は、支払う側のわけだ。とうぜん、時間の自由があってしかるべきだ。労働中の俺に、自由のないことは理解できる。しかし何故に、授業の選択が許されない?規則だからと、諦めにも似た気持ちになっている。入学時の誓約書は、強制であり交渉事ではなかった。町工場への就職時には、形だけであっても交渉があった。奇天烈~蒼い殺意~人間性(一)
それが9時近くになって、やっと帰ってきた。その時間が麗子には長く感じられ、不安だけが募った。裏通りにあるアパートである。人通りはまるでない。街頭にしても、アパートの階段に設置してある電灯だけだ。しかもまだ修理されていない。あとは、50mほど先にある。しかも、何時になるのかわからない。麗子の心は、恐怖感におそわれていた。いつなんどき暴漢が現れるかもしれない。そのときには誰かの部屋をノックすればいい。いやこのアパートの住人すらあぶない。〝どんな人が住んでいるのか、まるで分からないんだ。素性はもちろん、男か女かもわからない。というより、こんな場所だ。おとこだろうけどね〟男にきいた話だ。といって帰る気にもなれず、途方に暮れていた。そんなときの、男の帰宅だった。ムラムラと、怒りの気持ちと嫉妬心が渦巻いた。で、悪態を...[淫(あふれる想い)]舟のない港(三十四)それが9時近くになって、
話をもどします。まいどまいど、横道にそれてすみません。校舎のうら手に車をまわしたところで、思わず「ああ!」と叫んでしまいました。見覚えのある大木と、その横に土俵が見えました。あれえ……。でも土俵はあっちではなく、こっちの角のはずじゃ……。すみません。あっちやらこっちやらでは、どこなのかわかりませんよね。東西南北の観念がないので。(ナビで調べれば一発でしたね)。車の進行方向の向こうがあっちで、敷地にそって曲がってそしてまたまがってすぐの角で、停車した場所がこっちなんです。土俵のうえに屋根があるんですが、大木の枝がおおいかぶさっています。台風の進路によっては、屋根をおしつぶしませんかねえ。すこし心配です。たしか、相撲が体育の授業にはいっていると聞いた気がします。やせぎすだったわたしは、それがいやでいやでしてね...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(四十五)話を戻します。
「山本さん、5番におはいんなさい」当初は聞きまちがいかと思ったが、なんど思い返しても、「おはいんなさい」だった。わたしの前に数人が呼ばれていたが、たしかに「おはいんなさい」だった。なんとも、暖かさを感じさせる呼びかけで、嬉しさを感じたわたしだった。名医だ、瞬間的にそう思った。「良い先生ですよ」が頭で反すうされた。こころがある、なぜか直感的に思った。ドアを開けると背筋がピンと伸びた老医師が、にこやかに迎えてくれた。「はいはい、山本さん。きょうは気分が良さそうだね。うん、良かったよかった。さあさあ、お座んなさい」またしても、「り」ではなく「ん」だった。なんとも、人なつっこい話し方だ。やはりベテラン医師はちがう。なんというか、お医者さま、という雰囲気がある。患者に人気があるのもムリはないと感じた。「ほうほう。山...ドール [お取り扱い注意!](十六)山本さん、5番におはいんなさい
しかしふと不安になった。武蔵のいないいま、だれが「奥さま」と呼んでくれるだろう。「ミタライさん」と呼ばれるのだろうか。御手洗家の主はあるけれども、武蔵はいないけれども、それでもやはり「奥さん」と呼ばれたい。御手洗家の主は、やっぱり武蔵であってほしいと願う小夜子だった。「パッ、パッ、パアー!」。けたたましいクラクションが鳴った。「バカヤロー!」。だれ?だれへの叫び声なの?大勢が立ち止まっている交差点。なのに小夜子は足を止めなかった。赤になっていることに気づかなかった。「ごめんなさい」と、頭をさげる小夜子に「気をつけろ、この有閑マダムが!」と、捨てゼリフをのこして、商用車が行く。やめて、そのことばは。小夜子のもっとも忌み嫌う、有閑マダム。新しい女の対極ともいえる、蔑称ととらえている小夜子。夫の地位そして財力に...水たまりの中の青空~第二部~(四百八十三)
異端の天才ベートーベン「運命」その烈しさに魂が揺さぶられるああ佳きかな佳きかないにしえの旋律(背景と解説)好きなクラシック音楽家のひとりです。他にも好きな楽曲はあるのですが、まずはこの作品をえらんでみました。キモはですねえ、……ないです。強いて言えば、「畏怖」でしょうか。そうだ。初めて聞き入ったクラシックでしたよ。ジャジャジャーン!ジャジャジャーン!jajajajajaja,jajaja~n!CDで、パソコンやら車で聴いています。ポエム~五行歌~クラシック賛歌(ベートーベン)
シゲ子は、その日のうちに長男に問いただした。シゲ子のたしなめるような物言いに萎縮してしまった長男は、口をつぐんでしまった。幼いときから、人に甘えるということのできない長男で、とくに祖母であるシゲ子にたいしては身構えてしまう。シゲ子の長男にたいするぎこちなさが、そうさせてしまっていた。シゲ子のしつような追求にたえきれず「ごめんなさい」と、あやまる長男だった。孝道が「目くじらを立てるほどのことでもないだろうに」と、長男をかばうと「いいんです、食べたことは。でもね、翌日にでも『ありがとう、美味しかった』と、ひと言ぐらいあっても。ほんとに、卑しい子だよ」と、長男を叱りつけてしまった。美味しいサツマイモをほのかに食べさせてやれなかったということ、すこしだけでも残していれば…という、たしょうの罪悪感にもにた感情にとら...[青春群像]にあんちゃん((通夜の席でのことだ。))(十)
彼の頭のなかでは、数多の声がとびかっている。ひとつひとつの言葉は、断定的でしかも独善である。無道徳とはいったい何か?社会いっぱんの道徳は、常識なのか?幾多の矛盾を擁する道徳でもか?住みなれた町の地図は必要か?コンパスまでもか?俺は無道徳か?道徳はどうとく、常識はじょうしき?俺は反道徳だ!では、ニュー道徳を創るべきか?では、それに従えるか?違うぞ!単にスネているだけだ!ニュー道徳は、偽善の産物だ!ホワイトカラー族の目的は?教師とは、如何なる人種か?教える義務と、従わせる権利。学ぶ権利と、従う義務。そして反発する権利。殺す自由、生きる権利。人間を殺すことは罪であり、「家畜類の屠殺は許される」という現実。and,その是非は論外、という現実。食べる自由と権利。断食もまた然り。自然界の法則とは?地球の歴史、人間のれ...奇天烈~蒼い殺意~いち日の過ごし方(五)
「そう、あのむすめね…。あの娘のこと、好きなのね」と、小声で呟いた。いつもの男なら、そのまま聞きながしてしまう。しかし、今夜の男はちがった。このまま無言をとおせば、気性の激しい麗子のことだ。どんなしっぺ返しをくらうやもしれない。それこそ私立探偵をつかってでも、ミドリの特定をしてしまうかもしれない。そして……。考えるだけでもおそろしい。気色ばんで男は言った。「な、なにを言いだ出すんだ。あの人とは何でもない。友人の妹だ。3人での食事の約束だったんだ。友人の都合が悪くなってのことだ。だからふたりだけの食事になっただけだ」「あら、そう。お食事のできるナイトクラブがあるとは、知らなかったわ」服を着おわった麗子は、いつもの麗子に戻っていた。「時間が早かったからだ。ナイトクラブを知らないと言うから、連れて行ったんだ。だ...[淫(あふれる想い)]舟のない港(三十三)そう、あのむすめね…。
そうでした、学校です。当然ながら、まるで違います。当時は木造でしたが、いまはコンクリートの校舎です。正門まえに立ちますが、まるで思い出せません。車をうごかして、裏手にまわることにしました。運動場なんですが、意外にちいさいです。もっと広く大きかった記憶なんですが。敷地に沿ってまがると、せまい道路です。大型の車がきたらすれ違えないかもしれません。学校のフェンスをこするか、相手の車が畑に落ちてしまうか、どちらかでしょうね。いっそのこと一方通行にしてしまえばいいのに、なんて勝手なことを考えてしまいました。そういえば、こんなことがありました。いくつだったか、五十過ぎたころだったと記憶しています。両側が畑のせまい道で、ここではすれ違うことはできません。半分以上を過ぎたところで、中型の車がはいってきました。当然ながらわ...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(四十四)そうでした、学校です。
待合の席にすわろうとしたわたしに、通りがかった看護婦が声をかけてきた。この間の入院時に世話をしてくれた看護婦だった。じつに気立ての良い娘で、いつも明るく笑う娘だった。退院するときに「ありがとうね」と声をかけたかったのだが、シフトで会えずだった。「山本さん、ラッキーでしたね」「なんで?」。笑みを返しながら、尋ねてみた。「良い先生ですよ、岩井先生って。いつもは予約だけの先生なんですよ。ね、島田さん」「きょうはね、畑中先生が休みなものだから、急きょピンチヒッターでお願いしたの」「山本さん、ついてるわ」。うんうんと頷きながら、ひとり納得して去って行った。良い先生かどうかは、診察を受けてからだと、あまり期待もせずにいた。しかしこの医師に会ったことで、わたしの人生が一変したと言っても過言ではなかった。ほどなく看護婦に...ドール [お取り扱い注意!](十五)待合の席にすわろうとしたわたしに
感傷的になるかと思っていた小夜子だったが、意外にもサバサバとした気持ちになった。空はあいにくの曇り空なのに、ウキウキとした気分でビルを出た。全員がお見送りをしたいと申し出たが、五平と竹田のふたりが通りで見送った。最敬礼をするふたりに「やめてよ、そんな大げさなことを」と言いつつも、感慨ぶかいものがあった。はじめて会社におとずれたとき、水たまりがあるからと、武蔵にお姫さま抱っこで車からおろされた。大きな歓声と冷やかしの声、また近隣ビルの窓から、なにごとかと覗かれたこともなつかしい。なにからなにまで、なつかしい想い出だ。帰りの車をことわり、ひとり日本橋界隈をねりあるくことにした。そういえば通りをあるいた記憶がない。いつも契約ハイヤーで会社前まで乗りつけた。竹田の送迎もあったわね、と思いだす。〝大層なご身分だった...水たまりの中の青空~第二部~(四百八十二)
茶目っ気モーツァルト「25番ト短調」そのミステリアスな曲調にこころがうち震えるああ佳きかな佳きかないにしえの旋律(背景と解説)好きなクラシック音楽家のひとりです。他にも好きな楽曲はあるのですが、まずはこの作品をえらんでみました。CDで、パソコンやら車で聴いています。ポエム~五行歌~クラシック賛歌(モーツァルト)
翌日のこと。「きのうのお芋さんは美味しかったろう。ばあちゃんもね、おじいさんとおいしく食べたんだよ」ほのかかキョトンとした顔つきで、「きのうはよらずにかえったよ」と、こたえた。誰かが食べたはずなのだ。「ツグオちゃんだったかね」首をふりながら、つづけてこたえた。「にあんちゃんは、ほのかといっしょだったよ」思いもよらぬ返事がかえってきた。「それじゃだれだったんだろうね。ツグオでもないんだね。近所のだれかかしらね」そうことばにしつつも、だれもいない家にはいりこんで、ましてやなにかを食べていくなどありえない。“まさかナガオが…。いやいや、あの子は寄りはしない”と、否定してしまった。「あんちゃんだよ、きっと。夕食、めずらしくすこししか食べなかったから。それに、もしにあんちゃんだったら、きっとぜんぶ食べてたよ。にあん...[青春群像]にあんちゃん((通夜の席でのことだ。))(九)
実はこの1週間、彼は悩んでいる。学友との些細な口論のためだった。さっこん耳にする”フリーセックス”についてだ。まだ青い我々は、真面目に論じあった。勉学上の口論はまるでない我らだが、ことセックスに類するものは好んで論じあう。が、残念ながらお互い言いっ放しで終わってしまう。面白いのは、”革新”そして”保守”と、イデオロギーの立場をお互いに押しつける―なすりつけて終わることだ。革新にしろ保守にしろ、じつの所あまり分かっていないのに。『70年安保』の後遺症といっては失礼か。「アンポ、ハンタイ!」が流行語になっていた頃を、多感な中学時代に我々は過ごした。彼はいま窓際でひざを抱いている。そしてときにそのひざに接吻をしたりして、体のぬくもりを感じている。生きている実感があるという。ときおり、バサバサの髪をかき上げては、...奇天烈~蒼い殺意~いち日の過ごし方(四)
「舟のない港」というタイトルが気に入って書きはじめた作品です。気乗りのしないままにストーリーを重ねて、次第しだいに二人のヒロインたちの心情にとらわれだしました。なかなか女性心理がわからず、キーボードをたたいてはDeleteを押して、またたたいて、また消しての連続です。時間の移動がはげしいためご迷惑をおかけしていますが、一気読みをご希望の方には、4月の初めには[やせっぽちの愛]にてupする予定です。よろしければ、どうぞ。------------麗子が起きるころには、母親はすでに台所にいる。父親もまた、食卓に着いていた。気むずかしい顔つきで、新聞を読みふけっている父親だった。一日のはじまりに家族そろって食卓を囲む。なによりも大切にしている父親だった。夜の食事は父親の仕事しだいではそろうことが難しい。休日にして...[淫(あふれる想い)]舟のない港(三十二)麗子が起きるころには、
吉野ヶ里遺跡公園をあとにして、福岡県柳川市の昭代第一小学校へ向かいました。小学なん年生だったか、低学年には違いありませんが新入生ではなかったはずです。幼稚園児だった頃に伊万里市をはなれて、それからどこに移り住んだか。柳川市?いや待て、もう1ヶ所、どこかの……そうだ!大分県の佐伯市に入ったような……。そこで幼稚園に入る予定だったのが、いまでいう引きこもりになったのか、通ったという記憶がありませんね。それじゃ、佐伯市の小学校に入学した?うーん……。新入学したのはどこの小学校だったのか、まるで記憶がない……。昭代第一小学校まえでお店――駄菓子屋さんだと思っていたら、じっさいは酒屋さんでした。店の横にビールびんやら酒びんが山積みされていました。失礼ながら、小学校の真ん前なんですが。でも、すこしばかりの文具もありま...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(四十三)吉野ヶ里遺跡公園をあとにして、
“やれやれ今はやりの自己責任ですか。大丈夫、先生を訴えたりしませんよ”「はい、これで良いですか?」「ほんとにね、生命に危険があるんですよ。考え直しませんか?山本さん」「先生の言うことを聞いた方が良いですよ」なおもしつこく入院を迫ってくる。わたしのことを考えてくれているとは分かるが、イライラしてきた。「今夜ひと晩だけで良いんです。経過をね、観察したいんです」真剣な目で、せまってくる。「お気持ちだけいただいておきます。ほんとにね、もうずいぶんと楽になりましたから」意地の突っぱり合いの様相をていしてきた。しかし意地っ張りということに関しては、わたしの方にいち日の長がある。医師に書面をわたして、看護婦に会釈をして、意気軒昂にベッドをはなれた。あの老婆、わたしと目があったとたんに目をそらしてきた。聞いてはならぬこと...ドール [お取り扱い注意!](十四)やれやれ今はやりの自己責任ですか。
自宅でのこと、その毎日がなくなるのかと思うと、ここで感傷的になった。平日の朝9時、閑静な住宅街にある自宅を出る。日々の暮らしは、もうはじまっている。学童たちのげんきな声は、もう聞こえない。おはようございますと声をかけあう人々にあふれ、「あら、ごめんなさい」と、声をかけあいながら、ほこりっぽい道路に水をまいている。「小夜子おくさま、おはようございます。これからご出勤ですか?」ななめ向かいの佐藤家のよめである道子が声をかけてくる。「おはようございます」と返事をし、かるく会釈する。するととなりの家からあわてて、大西家の姑であるサトが出てくる。「もうこんな時間ですか、行ってらっしゃいませ」わざわざ外に出てこなくとも、と小夜子は思うのだが、女性たちは必ず声をかける。小夜子にあいさつをするが、じつは小夜子ではない。御...水たまりの中の青空~第二部~(四百八十一)
その日の昼すぎ、あの三郎が顔を腫れ上がらせて、明水館に転がり込んできた。背広の袖口が破れ、ズボンには泥がこびりついている。泥の乾き具合から見て、まだすこしの時間しか経っていないことが分かる。騒然とした中、光子の指示の元に昨夜三郎が泊まった部屋に運び込まれた。すぐに医者を、と光子の指示かあるものと思っていたが、聞こえたのは驚くものだった。場に居合わせた二人の仲居に対して「他には漏らさぬように」と、厳命してきたのだ。「お客さまのたっての希望です」ということばも付け加えられた。一時間ほど後に、上気した表情の光子が番頭に対して「近江さまをお医者さまに診てもらうことになりましたから」と言い残して、三郎と共に出かけていった。「行ってらっしゃいませ」と声をかけつつも、何かしら違和感のようなものを感じた。旅館に転がり込ん...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(十五)(光子の駆け落ち:三)
その女子は真面目派より一学年下だったが、幸か不幸かふたりと同じバレーボール部だ。ゆえに、放課後にふたりに帯同すれば、ひんぱんに会える。行動派が部活動に熱心なこともあり、ヒネクレ派も必然とがんばっている。そんなふたりを待つという口実のもとに居残りをきめこんでいた。三年ほど前の夏季大会ののちに、理由は分からないが部員ゼロとなってしまった。そして今年までの三年間、廃部となっていた。そんな男子バレーボール部を、行動派が復活させたのだ。気乗りのしないヒネクレ派をムリヤり入部させ、ほかに数人の幽霊部員を仕立て上げた。大会ごとに集合して、試合前のわずかな時間だけ練習をする。そして作戦も何もなく、むろんコーチもいない。どころか、役割すらあいまいだ。皆がみなアタッカーであり、やむなくレシーバーやらセッターにもなる。正直、勝...原木【Takeitfast!】(九)初恋
とうとう、結婚式の前夜がやって参りました。式の日が近づくにつれ平静さをとりもどしつつあったわたくしは、暖かく送りだしてやろうという気持ちになっていました。が、いざ前夜になりますと、どうしてもフッ切れないのでございます。いっそのこと、あの合宿時のいまわしい事件を相手につげて、破談にもちこもうかとも考えはじめました。いえ、考えるだけでなく、受話器を手に持ちもしました。ハハハ、勇気がございません。娘の悲しむ顔が浮かんで、どうにもなりません。そのまま、受話器を下ろしてしまいました。妻は、ひとりで張り切っております。ひとりっ子の娘でございます。最初でさいごのことでございます。一世一代の晴れ舞台にと、いそがしく動きまわっております。わたくしはといえば、何をするでもなく、ただただ家の中をグルグルと歩きまわっては、妻にた...愛の横顔~地獄変~(二十一)式前夜:前
「けどもこんどは、本場で聞こうな。アメリカに行って、アナスターシアだったか?お墓参りをすませてから、ラスベガスに寄ろう。な、なあ。それで機嫌を直してくれよ」涙があふれ出した。揺り起こそうかとも思った小夜子だったが、いまはこのまま夢のなかの小夜子でいいかと思いなおした。「小夜子。俺ほど小夜子を知っているものはいないぞ。頭の髪の毛一本から足のつま先でも、俺は小夜子を当てられる。はらわたの一つひとつまで知っている。肺も心臓も、胃袋だって知っている。きれいだぞ、とっても」ふーっと大きく息を吐いて、カッと目を見開いた。起きたのかと思いきや、またすぐに目を閉じてしまった。「おおおお、ステーキを食べたな?いま胃をとおって、腸にはいった。栄養素に分化されて、肝臓やら腎臓にとどけられるんだ。そしてそのカスが便となって外に出...水たまりの中の青空~第二部~(四百三十二)
時の流れは今川となりました銀の皿は流れるのですその上に空を乗せたままその夜空は消えましたその朝には太陽が消えました(背景と解説)女友だちとの間が冷え切っていたという時期ではないのです。二股交際という言葉がありますが、わたしの場合は殆ど重なりません。不思議なのですが、ある女性との付き合いが疎遠になると、新たな出会いがあるのです。浮気ぐせ、とも違います。そりゃ、血気盛んな青年時代ですから、色んな女性に目が動くことはあったと思います。でも、この年になって色々思い直して-己を見つめ直してみると、一番の原因は、自分に自信が持てなかったのだと思います。短期間ならば薄っぺらい自分を隠せますからね。当時の連絡手段と言えば、固定電話か手紙ぐらいのものでした。手紙は、正直言ってお手のものでしたから。話を戻します。この詩は、自...ポエム焦燥編(朝、太陽が消えた)
時計の針は、二時半をさしている。貴子の希望で、南麓の岩戸公園口におりることになった。こちらの道は彼にもはじめてだった。こちら側の眼下にはビル群はすくなく、二階建ての個人宅がおおく見うけられた。国道ぞいに車のディーラーやら銀行、そして飲食店がチラホラとあるだけだった。すこし行くと、小ぢんまりとした台地があった。貴子の提案で、時間も早いし腹ごなしもかねて散歩でもということになった。彼に異はなく、真理子もまたすぐに賛成した。外にでた貴子が大きく深呼吸すると、真理子もならんで、大きく空気を吸いこんだ。とその時、強い風がふき、ふたりの体が大きく揺らいだ。とっさに真理子の背を抱くようにし、片方の手で貴子の腕をしっかりとつかんだ。悲鳴にもちかい声を出した真理子だったが、強風に驚いた声だったのか、彼の対応におどろいての声...青春群像ごめんね……えそらごと(三十)
訝しげに見る目を気にしつつ、付け足した。「目が、痛いんだ!」言葉が空を横切った途端、“嘘だ!”と、心が叫んでいた。そう、心が叫ぶまでもなく脳は刺激され、サングラスのない世界の恐ろしさが瞼の裏に醸し出された。そこによぎる全てが眩しいものだった。“信じられないんです”ある時、目に見えぬ何ものかに向かってそう叫んだ時、また心は叫んでいた。“嘘だ!”決して言葉のせいではなく、といって“信じなさい、信じることが唯一の道です”という言葉をはねつけたせいでもない。[ブルーの住人]第七章:もう一つの「じゃあず」(二)
日一日と、光子への周りの視線が変わってきた。子をうしなった母親という憐憫の視線がしだいに、子を産まぬ女という蔑視さえ感じるようになった。そもそもが清子を産んだあとに、二子、三子を産もうとする気配のないことに疑念が持たれていた。そして清子の死という事態をむかえて、導火線に火がついた。光子の年齢からしてためらう必要などなにもないはずなのだから、もうそろそろおめでたの話が出ても……と、口の端にのりはじめた。折に触れてかばってくれた珠恵からも、ことばには出さないが「もうそろそろ」という声が聞こえてくる気がしている光子だった。合原家という家系を考えたとき、光子は言わずもがなで、清二もまた妾の息子ということで他所者として扱われている。ふたりの間にまた娘が産まれたとして、女将を継ぐだろう事は想像にかたくない。しかしそれ...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(十四)(光子の駆け落ち:二)
行動派にもヒネクレ派にも、ガールフレンドがいる。しかし、真面目派にはいない。ふたりに比べると、ハンサムである。成績にしても、当然ながらトップグループにいる。しかし、女子からも敬遠されている。モテていいはずなのだが、作者だけの思いこみだろうか?もっとも、その原因は性格にあるのだろう。なにせ、内向的だし、おとなしい。そんな真面目派のきょうのの発言は、わたしもまた驚かされた。はじめてのことだ。もっとも、当の本人がいちばんん驚いていはいるが。そんな真面目派が、最近だれかに恋をしたらしい。いや、いままでも“いいなあ”とも思える女子生徒がいるにはいた。ただ憧れに近い気分を抱いていることが多かったし、それよりなにより、彼氏がいた。が、今回は違うようだ。“恋している”という、実感があるらしい。夜、ひとりになると、その女子...原木【Takeitfast!】(八)“キュン!”
その翌日、もちろん娘をまともに見られるわけがありません。その翌日も、そしてまたその次の日も……、わたくしは娘を避けました。しかし、そんなわたくしの気持ちも知らず、娘はなにくれと世話をやいてくれます。そしてそうこうしている内に、結納もすみ、式のひどりも一ヶ月後と近づきました。娘としては、嫁ぐまえのさいごの親孝行のつもりの、世話やきなのでございましょう。私の布団の上げ下げやら、下着の洗濯やら、そして又、服の見立て迄もしてくれました。妻は、そういった娘を微笑ましく見ていたようでございます。なにも知らぬ妻も、哀れではあります。しかしわたくしにとっては、感謝のこころどころか苦痛なのでございます。耐えられない事でございました。いちじは、本気になって自殺も考えました。が、娘の「お父さん、長生きしてね!」のことばに、鈍っ...愛の横顔~地獄変~(二十)陵辱
「小夜子。おまえは、ヴァイオリンだ」突然に己のことをふられて、なんと答えれば良いのか窮してしまった。しかし武蔵はお構いなしにことばをつづけた。「おまえは、ビッグバンドの、いやオーケストラのといっても良い、ヴァイオリンなんだよ。そこにいるだけで、あるだけで、光を放っている。華やかな、存在だ。誰もがひれ伏す存在だ。いや、ヴァイオリンがなければ成り立たない」あまりの褒めことばは、小夜子には面はゆい。「やめてよ、もう。どうしたの、今日の武蔵は。熱でもあるんじゃない?」といって、熱に浮かされている節もない。心底からのことばに聞こえる。目を見ればわかる。しっかりとした瞳がそこにあり、そしてしっかりと小夜子を見ている。まるですぐにも居なくなってしまう小夜子を見忘れないようにと、しっかりとめにやきつけようとしているかのご...水たまりの中の青空~第二部~(四百三十一)
ある冬の街角で……、そう、少し雪の散らつく寒い夜のこと。ダウンジャケットのポケットに迄、冷たさが忍び込んできた。路面がうっすらと雪の化粧をし、街灯の灯りで眩しい。ひっそりとして、明かりの消えたビルの前を、ポケットの中の小銭をちゃらつかせながら歩いていた。とその時、後ろから恐ろしく気味の悪いーかすれた、腹からしぼり出すような声がする。”だめだ!左はだめだ。右に、行くんだ!”どぎまぎしながらも後ろを振り向いた。全身が血だらけで、片腕のちぎれかけた男が、呼び止める。生々しいタイヤの跡が、顔面に刻み込まれている。その男、確かにどこかで見たような気がする。が、あまりの形相に思わず目をそむけた。そのまま逃げ出し、左へ折れた。そう。男の言う、行ってはならない左へ行った。と、ふと思い出す。血だらけの男の居た場所は、雪が白...ポエム~焦燥編~(右に、行け!)
五月日ざしは肌に悪いからという貴子のことばで、山肌の木陰で食事をとることになった。「三角おにぎりのつもりなんですけど……」と、真理子がはじめて握ったというおにぎりが出された。「形が悪くてごめんなさい」というそれは、すこしいびつな丸っこい形をしていた。「お味はどう?」と問いかけられ、「うまい!」となんども叫ぶように言いながらぱくついた。満足げに頷く彼にうながされて、ふたりも頬ばった。とたん「塩辛い!」と、目を白黒させながら声をそろえて言った。「ちょうど良いって」という彼の必死のことばに、真理子の警戒心がとれてきた。会社ではぶっきらぼうな態度をとる彼だが、それが照れ隠しによるものなのだと知り、そんな彼に親近感を覚えた。(やっぱり、九州男児なのよね)再確認する真理子だった。そして彼を、故郷にいる兄にダブらせた。...青春群像ごめんね……えそらごと(二十九)
部屋の照明は落としたまま、ベッドぎわの灯りだけを点けた。上向きの灯りは、うす暗くはあったが落ち着いた雰囲気で、気持ちも和やかになってくる。ふとんの中に入れと、小夜子を迎え入れた。しわになりにくい素地の服だということで、小夜子も久しぶりに武蔵に触れられるとウキウキしてくる。しかし武蔵の体を感じたとたん、あまりの痩身ぶりに驚かされた。たしかに腕にしろ足にしろ、細くなっていることは見ていた。が、直接に小夜子の体全体で感じる物とは異質のものだった。“こんなに痩せ細ってるの?ううん、だいじょうぶ。退院したらしっかりと栄養を摂らせるから”小夜子のそんな思いを推し量ってか、「小夜子。病院食ってのは、精進料理そのものだな。まるで脂っ気がないぞ。ああ、中華そば食いたい、ステーキもがっつりといきたいぞ」と、両手を合わせてお願...水たまりの中の青空~第三部~(四百二十九)
海はいつか日暮れてぼくの胸に恋の剣を刺したままその波間に消えた追いかけてもきみは見えない白い闇が迫りくるだけ恋はいつか消えてぼくの胸に涙の粒を残したままその波間に消えていった追いかけてもきみは見えない白い闇が迫りくるだけ昨日も今日もそして明日も夏の渚に立ってきみを探してもあの日のきみはいないあの日のきみはもういない遥かな海………どこまでもどこまでも果てしなく……が、その海もまた…………限りない空……どこまでもどこまでも広がり続く……が、その空もまた…………水平線では、空と海が一つになるなのに………きみとぼくは追いかけても追いかけても水平線はどこまでも果てしなく広がり続ける……わからないわからない追いかけるほどわからない……(背景と解説)彼女が逃げていくわけではないのです。自分の想いと彼女の思惑がずれている...ポエム~焦燥編~(太陽の詩(うた))
(不良だって、俺が?)しかしつらつらと考えてみるに、そう思われるのが当たり前のような気がしてきた。ポマードをしっかり使って、エルビス・プレスリーばりのリーゼントスタイルに髪を整えている。普段は不良っぽさを意識した言葉遣いで話しているし、口ずさむ歌と言えばロックンロール系が多かった。「日ごろの行いって大事なんだよね」そうつぶやく岩田の顔が突如浮かんだ。「年寄りみたいなこと言うなよ」と反論したものの、確かに損をしていると感じる彼だった。同じようなミスをしても、岩田なら仕方ないさとかばわれ、彼のミスには「集中心が足りない」と、小言になる。(不良だと思っているんだ、やっぱり。仕方ないか。不良まがいの日ごろの態度では)と、じくじたる思いが湧いてきた。写真で見た断崖絶壁の縁に立たされたような思いに囚われている彼に、貴...青春群像ごめんね……えそらごと(二十七)
(五)視線その他には、ぐるりと見回しても、とりたてて言うほどのものはない。強いて言うなら、紺いろにいろどられた扉があることか。小さなのぞき窓があり、ときおり神のような冷たい視線がそこから投げつけられる。しかしそれが、どうだと言うのか。冷たい視線など、どれ程のものと言うのか。忘れたころに訪れる、女よ。いくらでも泣くが良い。たとえそれで体中がびしょ濡れになってとしても、それがなんだと言うのだ。ただ無視すれば良いだけのこと。そんなことに気を取られるほどに、暇人ではない。このこころは、深遠な世界にあるのだ。知りたければ、……。はいってくるが良い。そっと足音を忍ばせて、のぞき込めば良い。ごっちんこをすればいい、ドアはいつも開けてあるのだから。窓の外にはポプラがそびえ立ち、その葉をすける太陽の光、そして遙かかなたにか...[ブルーの住人]第六章:蒼い部屋~じゃあーず~
(十一)(周囲の目:二)無事出産を終えて明水館に戻ったとき、大女将の珠恵を始め、番頭に板長そして仲居頭の豊子たちの出迎えを受けた。然も、玄関口でだ。初めてのことだった、これほどの人に笑顔で出迎えられるのは。思わず後ずさりをした。娘だけを取り上げられて、光子はそのまま叩き出されるのではないか、そんな思いにとらえられていた。「お帰りなさい、若女将!」。「お帰り。さあさあ早く入りなさい、奥の部屋で休むと良いわ」。珠恵の優しい言葉は心底のもので、温かい慈愛が感じられるものだった。そしてそのことばで、やっと光子はこの合原家の一員となったことを実感した。それは突然のことだった。珠恵がお使いから帰ったところを見た清子が「おばあちゃま、おかえりなさい!」と、通りの向かい側に飛び出した。急ブレーキ音とともに、ドン!という音...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~
行動派が言う。「誰も反対しないようだ。委員長、やってくれ。時間が勿体ない」眼鏡をかけたやせっぽちの男が、渋々と立つ。と、あろうことか「待ってください。みんながそれでいいと言うのなら僕もそうしますが、僕としては、自習とした方がいいと思います。第一、先生も居ないことだし。それに、あと二十分足らずの時間です。討論の時間には少ないと思います。風紀については、重要なことですから、誰かが調査して、その結果を元に討論してはどうでしょうか」と、小声ながらも、はっきりと胸を張って、真面目派が言った。クラス内に、割れんばかりの拍手が起こった。真面目派は、“ドクン・ドクン”という心臓音を耳にしながら、真っ赤になっていた。さすがの行動派も、いつも連れ立っている仲間の一人に反対されては、反論のしようがなかった。「それでは、俺とあと...原木【Takeitfast!】(五)意外なこと
断じて許すことはできません。八つ裂きにしても足りない男どもでございます。しかしもうわたしには気力がございません。お話しする気力が、ございません。もう、このまま死にたい思いでございます。まさしく地獄でございます。……地獄?そう、地獄はこれからでございました。じつは不思議なことに、男どもには顔がなかったのでございます。もちろん、その男どもをわたくしは知りません。見たことがありません。だから顔がない、そうも思えるのではございます。しかし、……。そうですか、お気づきですか?ご聡明なあなたさまは、すべてお見通しでございますか。”申し訳ありません!申し訳ありません!!”わたしは、犬畜生にも劣る人間でございます。“殺してください、わたしをこの場で殺してください。この大罪人の、人非人を!”そうなんでございます、男どもは、...愛の横顔~地獄変~(十七)銀蝿などと!