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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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住所
岐阜市
出身
伊万里市
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2014/10/10

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  • 愛の横顔 ~地獄変~ (二十三)静寂

    ここで、老人のことばは終わりました。出席者のだれも、ひと言も声を発しません。静寂がこの場をとりしきっております。きょうは重陽の節句である、九月九日です。まだまだ残暑のきつい日々がつづいております。ふた間のへやを使っての大部屋でございます。二台のエアコンがフル回転しているとは申しましても、なにせ集まった人数が多うございます。あらためて申しますが、本日は大婆さまの三十三回忌でごす。最後の年忌法要として盛大に執り行っております。妙齢のご婦人がお迎えにあがられました。お孫さんでしょうか、切れ長の目をされていて鼻筋も清々しく、清楚な感じの娘さんでございます。「お父さん、またよそさまのお宅に上がり込んで、だめですよ。申し訳ありません、みなさん。お通夜の席をお騒がせいたしまして、ほんとうにもうしわございません」「おお。...愛の横顔~地獄変~(二十三)静寂

  • 水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百三十四)

    翌朝、けたたましく電話が鳴った。その音に武士が敏感に反応して、大泣きしはじめた。小夜子の与えるおっぱいを、イヤイヤと拒否をする。おかしい、こんなことはいままでに一度もない。ひょっとして、武士には電話がどこからなのか、そしてなにを伝えようとしているのかわかるのか、千勢が出ようとする電話をひったくるようにして、武士を抱えたまま出た。病院からだった。容態の急変が告げられ、すぐに来るように告げられた。タクシーを飛ばして病室に入ると、五平が小夜子に深々と頭を下げた。「どうしてあなたが先にいるの!」妻である小夜子より先に連絡を入れるとはどういう病院かと、その場にいた婦長に怒鳴った。「いや、小夜子奥さま。そうじゃないんです、ちがうんです」あわてて五平が、いきり立つ小夜子を抑えるべく説明をはじめた。五平によると、武蔵から...水たまりの中の青空~第三部~(四百三十四)

  • ポエム 焦燥編 (stop! the music!)

    恋に終わりがくる渚に陽がしずみ闇の訪れのこえ━stopthemusic!悲しみの森のなかひとり思い出とあそび影と語りあう━stoptheguitter!色のない夕焼けずてが色あせていく去りゆく足おと━stopthedrams!空に赤い雲鳥がふた羽飛び夜の訪れ━stopthebase!わたし、信じていたわたしあなた、裏切ったあなたすべてに、終わりがくる━stopthewords!(背景と解説)妄想です、これは。勝手に、思い込んでいただけのことですわ。相手が離れていくのではないかと、不安な思いが渦巻いているときです。ちょっとした仕草-わたしが相手を見たときに相手がよそ見をしていたとか、バニラのアイスが食べたい私なのにチョコが良いと言う相手-そんなことで、クヨクヨイジイジしたりして。そのくせ、一人でいても寂しさ...ポエム焦燥編(stop!themusic!)

  • 小説・二十歳の日記 (序)

    「はたちの詩(うた)」という、詩から生まれた小説です。わたしが二十歳になったときを出発点に、しています。とは言っても、すみません、ほとんど事実ではありません。新聞記事やら、噂話やらを、元にしています。でも、当時の自分の思いはこめました。*古都清乃さんという歌手、ご存知ですか、覚えてみえますか?和歌山ブルース串本育ち長良川夜曲等の、ヒット曲がありましたが。その女性歌手をイメージしています。---------ぼくの青春は、決して灰色だとは思わない。しかし、バラ色だとも思わない。結局、青春といういまを、考えることがなかったわけだ。だけど、そんなぼくに「突然」ということばでさえ、のろさを感じるほどに突然、春がおとずれた。あの瞬間、ぼくは灰色の青春であったことを意識し、バラ色であろうと、いやあるべきだと考えたことは...小説・二十歳の日記(序)

  • [ブルーの住人]第七章:もう一つの 「じゃあず」(四)

    部屋の中はキチンと整理されていた。ベッド横の壁には、この別荘を建ててくれた愛すべき祖父のいかめしい姿の額があり、まるでこの狭い部屋の全てのものー空気でさえもーを、支配するかの如くにで妙に大きく感じられた。そのいかにも明治らしいー鹿鳴館時代にしばしば起きた、東洋と西洋の対立と調和をまざまざと感じさせる、ちょんまげにタキシード姿。まさに明治時代から今に至る道、この部屋の全てを支配した、主そのものであった。その反対側の壁には、埋め込み式の棚に豪華なステレオがある。そこより流れ出る現代の息吹きーそれへの反応は、しばしば額の中の支配者の顔を、さらにいかめしくさせた。[ブルーの住人]第七章:もう一つの「じゃあず」(四)

  • スピンオフ作品 ~ 名水館女将、光子! ~ (十六)(光子の言い分:一)

    あらあら、まあ。ずいぶんな言われようですこと。でもまあ、それは、女の勲章とでも思うことにいたしましょうか。けれども昔々の大昔ですのに、そんなにお気になりますの?ならば、わたくしのことですから、わたくし自身がおしゃべりしてもよろしいでしょうに。確かに、わたくしという、光子という女を創り上げてくださいましたお方のことばでしたら、確かなことで間違いはないと思います。でもでも、やはり殿方でいらっしゃいますから、女の細かなこと――こころのひだといったものはお分かりにならないでしょうから。「嘘は吐かないように」ですか?それはもちろんですわ。「自分をかばうな」ですか?そんなにお疑いなら、もしも嘘を言ったり自分に都合の良いことだけしか言わなかった折には、その旨仰ってくださいましな。それでは、わたくしからお話を。大阪と言い...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(十六)(光子の言い分:一)

  • 原木 Take it fast! (十)体力作り

    練習に参加する者はたいてい3・4人ほどで、対外試合直前に10人ほどが参加してくる。顧問の教師もいるにはいるが、経験のない名前だけのものだった。ゆえに、女子部員とともにの練習の日々である。といっても、女子部員たちの休憩時間中だけだが。なにせ女子は県大会の常連だ、この学校では運動部で、一、二を争う勢いのあるチームだから。わたしにたいする、ヒネクレ派の冗談混じりの“体力づくりにでも参加しろよ”という、誘いにすぐに乗ったのは、その女子生徒が部員だったせいだった。ひょっとするとヒネクレ派は、そんな真面目派の思いに気づいていたのかもしれない。もっとも、話をする機会もなく、話しかけることもできずにはいた。それでも、真面目派の男にとっては、同じくうきを吸っているだけで幸せな気分にひたっていた。ヒネクレ派の話から聞こえてく...原木Takeitfast!(十)体力作り

  • 愛の横顔 ~地獄変~ (二十二)式前夜:後

    失礼しました、お話をつづけましょう。しっかりと娘を抱きしめました。華奢なからだを両の手でしっかりと、抱きしめてやりました。そしてわたくしのこころに、またしても起きてはならないものがムクムクと頭をもたげてまいりました。思わず、手に力が入ります。娘も、負けじと力が入ります。もうだめでございました。止めることは出来ませなんだ。恐ろしいことでございます。そのおりのわたくし心境ときたら、おのれの都合のいいように考えていたのでございます。”娘は知っているのだ、血のつながりのないことを。そしてこの俺を愛しているのだ。父親としてではなく、男として欲しているのだ”などと。娘ですか?人形でございました。そのおりの娘の心情は、考えたくもありません。もっともわたくしとしては、考える余裕もございませんでしたがな。うす暗い洞窟のなか...愛の横顔~地獄変~(二十二)式前夜:後

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (四百三十三)

    時計を見ると、もうかれこれ二時間ちかくは経っている。廊下をゴロゴロと配膳車が通る音が聞こえてくる。いつ部屋が開けられるかもしれない。このままふとんの中にいるわけにはいかない。そっと体を起こして、ベッドから下りようとした。と、小夜子の手がしっかりと武蔵に握られている。無理にでも離そうかと思ったが、それでは気持ちよく眠っている武蔵を起こすことになってしまう。いや、それよりも、夢のなかにいる小夜子を消してしまうことになる。そしてまた、武蔵のことばをもっともっと聞いてみたいと思いもした。「脳だ、脳が一番だ。男、みたらいたけぞうは、脳のなかにいる。さよこ。おまえが俺を覚えていてくれる限り、俺を愛していてくれるかぎり、俺は、男、みたらいたけぞうだ」武蔵の、小夜子にたいする愛情があふれ出てくるようなことばだった。普段か...水たまりの中の青空~第二部~(四百三十三)

  • ポエム 焦燥編 (いらだち)

    群れを離れた一匹狼のいらだち鉄工所の騒音から逃れ無音室の中に入り込んだ男のいらだち街頭の喧騒音から逃れ地下のバーに逃げ込んだ男のいらだちコンサートの狂騒から逃れトイレの中に隠れ込んだ男のいらだちとどのつまりが鉄工所に街頭にコンサートにそれぞれが戻っていった(背景と解説)当時のことを思い出そうとするのですが、当時の日記を読み返そうとしてみるのですがなんの記述もないんですわ。ぽっかりと、空白なんです。中途半端な状態なんですが、どうもここまで書いてみたものの、どうにもつづかなかったようで……。こらえ性がないといいますか、淡泊とでもいいましょうか。すぐに土俵を割っちゃうんですよね。時間がとれたら――って、いまはリタイア生活なんだから時間はあるんですけどね。前にもお話したと思いますが、あの頃の自分がわからなくて……...ポエム焦燥編(いらだち)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(三十一)

    とつぜんに体が軽くなるのを感じた。なにかが抜けていった感覚に襲われた。足の踏ん張りがきかなくなり、危うくくずれおちそうになった。それでも中腰状態で両足に力をいれて、なんとか体勢を立て直した。とその時、頭上からの声を聞いた。「シンイチクン、アリガトウ」そしてその声にかぶさるように「新一さん、きょうはありがとうございました」という声が……。車から降りた真理子が満面に笑顔を称えて、手を振っている。ーーーーーーー彼からの新一への、懐かしみあふれる手紙が死後にとどいた。新一にとっても忘れられない夏休みの冒険談が、嬉々としてつづられていた。読みながら、頬をつたう涙と自然にほころぶ笑みとが混じり合った。最後に書かれてあった「休ませてもらうことにした」ということばが、新一のこころに突き刺さった。(ぼくのせいじゃない)。心...青春群像ごめんね……えそらごと(三十一)

  • [ブルーの住人]第七章:もう一つの 「じゃあず」(三)

    大きく深呼吸をし、ベッドの中から、もそもそと起き出した。カーテンの端からチラリチラリとのぞく、外の景色に目を見やった。その狭く、細長い世界には、ただ一つポプラの木がそびえ立っている。その大きな葉が風に揺れ、ときおり透ける太陽の光ーほんの一瞬だというのに惜しげもなくその光を投げる太陽の光でさえ、眩しく感じられた。「コーヒーとパン、ここに置いておきますので冷めないうちにお食べ下さい。食べ終わりましたら、ここに戻して下さい」言葉と共にドアから流れ出た空気も今では落ち着き払い、部屋は前にもまして深閑としていた。[ブルーの住人]第七章:もう一つの「じゃあず」(三)

  • スピンオフ作品 ~ 名水館女将、光子! ~ (十五)(光子の駆け落ち:三)

    その日の昼すぎ、あの三郎が顔を腫れ上がらせて、明水館に転がり込んできた。背広の袖口が破れ、ズボンには泥がこびりついている。泥の乾き具合から見て、まだすこしの時間しか経っていないことが分かる。騒然とした中、光子の指示の元に昨夜三郎が泊まった部屋に運び込まれた。すぐに医者を、と光子の指示かあるものと思っていたが、聞こえたのは驚くものだった。場に居合わせた二人の仲居に対して「他には漏らさぬように」と、厳命してきたのだ。「お客さまのたっての希望です」ということばも付け加えられた。一時間ほど後に、上気した表情の光子が番頭に対して「近江さまをお医者さまに診てもらうことになりましたから」と言い残して、三郎と共に出かけていった。「行ってらっしゃいませ」と声をかけつつも、何かしら違和感のようなものを感じた。旅館に転がり込ん...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(十五)(光子の駆け落ち:三)

  • 原木 【Take it fast !】(九)初恋

    その女子は真面目派より一学年下だったが、幸か不幸かふたりと同じバレーボール部だ。ゆえに、放課後にふたりに帯同すれば、ひんぱんに会える。行動派が部活動に熱心なこともあり、ヒネクレ派も必然とがんばっている。そんなふたりを待つという口実のもとに居残りをきめこんでいた。三年ほど前の夏季大会ののちに、理由は分からないが部員ゼロとなってしまった。そして今年までの三年間、廃部となっていた。そんな男子バレーボール部を、行動派が復活させたのだ。気乗りのしないヒネクレ派をムリヤり入部させ、ほかに数人の幽霊部員を仕立て上げた。大会ごとに集合して、試合前のわずかな時間だけ練習をする。そして作戦も何もなく、むろんコーチもいない。どころか、役割すらあいまいだ。皆がみなアタッカーであり、やむなくレシーバーやらセッターにもなる。正直、勝...原木【Takeitfast!】(九)初恋

  • 愛の横顔 ~地獄変~ (二十一)式前夜:前

    とうとう、結婚式の前夜がやって参りました。式の日が近づくにつれ平静さをとりもどしつつあったわたくしは、暖かく送りだしてやろうという気持ちになっていました。が、いざ前夜になりますと、どうしてもフッ切れないのでございます。いっそのこと、あの合宿時のいまわしい事件を相手につげて、破談にもちこもうかとも考えはじめました。いえ、考えるだけでなく、受話器を手に持ちもしました。ハハハ、勇気がございません。娘の悲しむ顔が浮かんで、どうにもなりません。そのまま、受話器を下ろしてしまいました。妻は、ひとりで張り切っております。ひとりっ子の娘でございます。最初でさいごのことでございます。一世一代の晴れ舞台にと、いそがしく動きまわっております。わたくしはといえば、何をするでもなく、ただただ家の中をグルグルと歩きまわっては、妻にた...愛の横顔~地獄変~(二十一)式前夜:前

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (四百三十二)

    「けどもこんどは、本場で聞こうな。アメリカに行って、アナスターシアだったか?お墓参りをすませてから、ラスベガスに寄ろう。な、なあ。それで機嫌を直してくれよ」涙があふれ出した。揺り起こそうかとも思った小夜子だったが、いまはこのまま夢のなかの小夜子でいいかと思いなおした。「小夜子。俺ほど小夜子を知っているものはいないぞ。頭の髪の毛一本から足のつま先でも、俺は小夜子を当てられる。はらわたの一つひとつまで知っている。肺も心臓も、胃袋だって知っている。きれいだぞ、とっても」ふーっと大きく息を吐いて、カッと目を見開いた。起きたのかと思いきや、またすぐに目を閉じてしまった。「おおおお、ステーキを食べたな?いま胃をとおって、腸にはいった。栄養素に分化されて、肝臓やら腎臓にとどけられるんだ。そしてそのカスが便となって外に出...水たまりの中の青空~第二部~(四百三十二)

  • ポエム 焦燥編 (朝、太陽が消えた)

    時の流れは今川となりました銀の皿は流れるのですその上に空を乗せたままその夜空は消えましたその朝には太陽が消えました(背景と解説)女友だちとの間が冷え切っていたという時期ではないのです。二股交際という言葉がありますが、わたしの場合は殆ど重なりません。不思議なのですが、ある女性との付き合いが疎遠になると、新たな出会いがあるのです。浮気ぐせ、とも違います。そりゃ、血気盛んな青年時代ですから、色んな女性に目が動くことはあったと思います。でも、この年になって色々思い直して-己を見つめ直してみると、一番の原因は、自分に自信が持てなかったのだと思います。短期間ならば薄っぺらい自分を隠せますからね。当時の連絡手段と言えば、固定電話か手紙ぐらいのものでした。手紙は、正直言ってお手のものでしたから。話を戻します。この詩は、自...ポエム焦燥編(朝、太陽が消えた)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(三十)

    時計の針は、二時半をさしている。貴子の希望で、南麓の岩戸公園口におりることになった。こちらの道は彼にもはじめてだった。こちら側の眼下にはビル群はすくなく、二階建ての個人宅がおおく見うけられた。国道ぞいに車のディーラーやら銀行、そして飲食店がチラホラとあるだけだった。すこし行くと、小ぢんまりとした台地があった。貴子の提案で、時間も早いし腹ごなしもかねて散歩でもということになった。彼に異はなく、真理子もまたすぐに賛成した。外にでた貴子が大きく深呼吸すると、真理子もならんで、大きく空気を吸いこんだ。とその時、強い風がふき、ふたりの体が大きく揺らいだ。とっさに真理子の背を抱くようにし、片方の手で貴子の腕をしっかりとつかんだ。悲鳴にもちかい声を出した真理子だったが、強風に驚いた声だったのか、彼の対応におどろいての声...青春群像ごめんね……えそらごと(三十)

  • [ブルーの住人]第七章:もう一つの 「じゃあず」(二)

    訝しげに見る目を気にしつつ、付け足した。「目が、痛いんだ!」言葉が空を横切った途端、“嘘だ!”と、心が叫んでいた。そう、心が叫ぶまでもなく脳は刺激され、サングラスのない世界の恐ろしさが瞼の裏に醸し出された。そこによぎる全てが眩しいものだった。“信じられないんです”ある時、目に見えぬ何ものかに向かってそう叫んだ時、また心は叫んでいた。“嘘だ!”決して言葉のせいではなく、といって“信じなさい、信じることが唯一の道です”という言葉をはねつけたせいでもない。[ブルーの住人]第七章:もう一つの「じゃあず」(二)

  • スピンオフ作品 ~ 名水館女将、光子! ~ (十四)(光子の駆け落ち:二)

    日一日と、光子への周りの視線が変わってきた。子をうしなった母親という憐憫の視線がしだいに、子を産まぬ女という蔑視さえ感じるようになった。そもそもが清子を産んだあとに、二子、三子を産もうとする気配のないことに疑念が持たれていた。そして清子の死という事態をむかえて、導火線に火がついた。光子の年齢からしてためらう必要などなにもないはずなのだから、もうそろそろおめでたの話が出ても……と、口の端にのりはじめた。折に触れてかばってくれた珠恵からも、ことばには出さないが「もうそろそろ」という声が聞こえてくる気がしている光子だった。合原家という家系を考えたとき、光子は言わずもがなで、清二もまた妾の息子ということで他所者として扱われている。ふたりの間にまた娘が産まれたとして、女将を継ぐだろう事は想像にかたくない。しかしそれ...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(十四)(光子の駆け落ち:二)

  • 原木 【Take it fast !】(八)“キュン!”

    行動派にもヒネクレ派にも、ガールフレンドがいる。しかし、真面目派にはいない。ふたりに比べると、ハンサムである。成績にしても、当然ながらトップグループにいる。しかし、女子からも敬遠されている。モテていいはずなのだが、作者だけの思いこみだろうか?もっとも、その原因は性格にあるのだろう。なにせ、内向的だし、おとなしい。そんな真面目派のきょうのの発言は、わたしもまた驚かされた。はじめてのことだ。もっとも、当の本人がいちばんん驚いていはいるが。そんな真面目派が、最近だれかに恋をしたらしい。いや、いままでも“いいなあ”とも思える女子生徒がいるにはいた。ただ憧れに近い気分を抱いていることが多かったし、それよりなにより、彼氏がいた。が、今回は違うようだ。“恋している”という、実感があるらしい。夜、ひとりになると、その女子...原木【Takeitfast!】(八)“キュン!”

  • 愛の横顔 ~地獄変~ (二十)陵辱

    その翌日、もちろん娘をまともに見られるわけがありません。その翌日も、そしてまたその次の日も……、わたくしは娘を避けました。しかし、そんなわたくしの気持ちも知らず、娘はなにくれと世話をやいてくれます。そしてそうこうしている内に、結納もすみ、式のひどりも一ヶ月後と近づきました。娘としては、嫁ぐまえのさいごの親孝行のつもりの、世話やきなのでございましょう。私の布団の上げ下げやら、下着の洗濯やら、そして又、服の見立て迄もしてくれました。妻は、そういった娘を微笑ましく見ていたようでございます。なにも知らぬ妻も、哀れではあります。しかしわたくしにとっては、感謝のこころどころか苦痛なのでございます。耐えられない事でございました。いちじは、本気になって自殺も考えました。が、娘の「お父さん、長生きしてね!」のことばに、鈍っ...愛の横顔~地獄変~(二十)陵辱

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (四百三十一)

    「小夜子。おまえは、ヴァイオリンだ」突然に己のことをふられて、なんと答えれば良いのか窮してしまった。しかし武蔵はお構いなしにことばをつづけた。「おまえは、ビッグバンドの、いやオーケストラのといっても良い、ヴァイオリンなんだよ。そこにいるだけで、あるだけで、光を放っている。華やかな、存在だ。誰もがひれ伏す存在だ。いや、ヴァイオリンがなければ成り立たない」あまりの褒めことばは、小夜子には面はゆい。「やめてよ、もう。どうしたの、今日の武蔵は。熱でもあるんじゃない?」といって、熱に浮かされている節もない。心底からのことばに聞こえる。目を見ればわかる。しっかりとした瞳がそこにあり、そしてしっかりと小夜子を見ている。まるですぐにも居なくなってしまう小夜子を見忘れないようにと、しっかりとめにやきつけようとしているかのご...水たまりの中の青空~第二部~(四百三十一)

  • ポエム ~焦燥編~(右に、行け!)

    ある冬の街角で……、そう、少し雪の散らつく寒い夜のこと。ダウンジャケットのポケットに迄、冷たさが忍び込んできた。路面がうっすらと雪の化粧をし、街灯の灯りで眩しい。ひっそりとして、明かりの消えたビルの前を、ポケットの中の小銭をちゃらつかせながら歩いていた。とその時、後ろから恐ろしく気味の悪いーかすれた、腹からしぼり出すような声がする。”だめだ!左はだめだ。右に、行くんだ!”どぎまぎしながらも後ろを振り向いた。全身が血だらけで、片腕のちぎれかけた男が、呼び止める。生々しいタイヤの跡が、顔面に刻み込まれている。その男、確かにどこかで見たような気がする。が、あまりの形相に思わず目をそむけた。そのまま逃げ出し、左へ折れた。そう。男の言う、行ってはならない左へ行った。と、ふと思い出す。血だらけの男の居た場所は、雪が白...ポエム~焦燥編~(右に、行け!)

  • 青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(二十九)

    五月日ざしは肌に悪いからという貴子のことばで、山肌の木陰で食事をとることになった。「三角おにぎりのつもりなんですけど……」と、真理子がはじめて握ったというおにぎりが出された。「形が悪くてごめんなさい」というそれは、すこしいびつな丸っこい形をしていた。「お味はどう?」と問いかけられ、「うまい!」となんども叫ぶように言いながらぱくついた。満足げに頷く彼にうながされて、ふたりも頬ばった。とたん「塩辛い!」と、目を白黒させながら声をそろえて言った。「ちょうど良いって」という彼の必死のことばに、真理子の警戒心がとれてきた。会社ではぶっきらぼうな態度をとる彼だが、それが照れ隠しによるものなのだと知り、そんな彼に親近感を覚えた。(やっぱり、九州男児なのよね)再確認する真理子だった。そして彼を、故郷にいる兄にダブらせた。...青春群像ごめんね……えそらごと(二十九)

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