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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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岐阜市
出身
伊万里市
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2014/10/10

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  • [ブルーの住人]蒼い恋慕 ~ブルー・ふらぁめんこ~(二)洪水

    少年がとびらを押す。長身のボーイが、うやうやしく腰をかがめて迎えいれる。紅いビーロード地の幕をくぐりぬけると、まったくの別世界があらわれる。青・赤・橙・紫……と、いろの倒錯、交錯。そこでは、いろの洪水だった。天井といわず壁といわず、そのいろはあらゆる物にしみこんでいた。そして、爆裂音。あらゆるコミニュケーションを拒否するがごとくに、それぞれの楽器がその存在感を主張する。ホールへと歩をすすめると、数十人のわかい男女たちが焦点のあわない視線をおたがいにむけている。しかしその瞳にかれらはいない。その陶酔しきった目は、なにをみている?体をエビのように折り曲げて、みぎ手が上にいけばみぎ膝が上にあがる。そのときひだり手がだらしなく下に折れ曲がり、ひだり足が床につく。また体をエビのように折り曲げて、ひだり手が上にいって...[ブルーの住人]蒼い恋慕~ブルー・ふらぁめんこ~(二)洪水

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (十六)

    (修行六)ある日のことだ。鍛錬を終えて噴き出た汗を拭き取ろうとしていた折に、読経の時間であるはずにも関わらず辺りを見回しながら一人の小坊主近づいてきた。大きく盛り上がった肩の三角筋にうっとりとした表情を見せられては、さすがのごんすけも声を荒げるしかなかった。「読経の時間ではありませぬか」「いや、そうなのだ。用足しのついでに……」そそくさと立ち戻る小坊主の背を見ながら、居心地の良い生活に慣れることに違和感を感じるごんすけだった。「このままでいいさ」という思いに対して「いやだめだ」と霞がかった抗う気持ちがどうしても消えないでいた。ごんたに対する敬慕の念が消えぬのも、その一つの因かもしれない。久しぶりに立ち寄った沢庵和尚に「おとうはどうしてる」と問いかけても、答えは「お前が安穏な生活を送ることが、ごんたの喜びと...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(十六)

  • きのうの出来事 一大決心!

    プロ作家さんにはなしを聞くとですね、ほとんどの方が異口同音に同じことを言われます。「文学というのは、削りの美学です」。一旦書き上げた作品を、人によっては何度もなんども推敲を重ね、文章・文を削るらしいです。辛い行程だとおっしゃっていました。でも私のようなアマチュアの場合は、大抵が「加筆の美学」なんですよね。「あたしはちがうわよ!」ってお叱りのことばが飛んできそうですね。さきに謝っておきます。「ごめんなさい」。わたしは、としておきます。いいわけとして……同人誌の中に、ちらほらと「加筆…」と、お見受けするもんですから。でね、わたし、ホッとするんですよ。なにしろ、「これで完成」と納得の作品なのに、二三年後に読み直すと、加筆しているんですよね。いつまで経っても手を入れたくなるんです。分かってくださいな、わたし、アマ...きのうの出来事一大決心!

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (一)

    きょう7月26日に、35才の誕生日をむかえた栄子。しかしだれとて祝ってくれる人もいない。いまさら祝ってもらう歳でもあるまいしとうそぶくが、やはり心内では寂しくもある。ひとけのないスタジオにひとり残った栄子に、声をかけて退出した練習生はひとりもいない。この教室ではベテランになってしまった。同期生のすべてが家庭にはいり、子持ちになっている。子供の手がはなれたら戻りますから…と、みな退会してしまった。こんやは昔風にいえば花の金曜日だ。窓からみる通りには腕をくんで歩くカップルが目立つ。4、5人のグループが信号待ちをしていたが、まだ赤信号だというのにその内のひとりが車道に飛びだした。急ブレーキを掛けてタクシーが止まり事なきをえたが、相当に酔っているように見える。残りの若者が平身低頭して、その車にあやまった。しかし当...愛の横顔~100万本のバラ~(一)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百八十一)

    「婦長!教授がとうちゃくされました」薄暗い廊下の先から、タイミング良く声がかかった。「はい、いま行くわ。分かりました、とりあえずこれは、お預かりということで」と、手渡された封筒をポケットに入れて立ち去った。「お客さん、有名人なんですね」。うしろから運転手が声をかける。事のなりゆきに興味をもって、顛末をみとどけるまではと玄関先に車を置きっぱなしにしていた。「いや、そうじゃない。ま、金がきらいな人間はいないってことさ。お前さんだって、金は好きだろうが。金はな、貯めこんじゃだめだ。キチンと遣うべきときに、つかってやらなきゃ」“半端じゃない額をつかませたんだ。ぶじ出産を終えたら、あらためて相応の礼もとつたえてあるし。医者も必死だろうさ。しかしま、看護婦にも良い思いをさせなきゃな。片手落ちってもんだ。なんといっても...水たまりの中の青空~第二部~(三百八十一)

  • ポエム 正午編 (kill you=)

    そうさ、きみは。あまい口づけでぼくに春を呼んだその密のかほりでぼくのからだを包み歓喜の世界へとみちびいてくれた……でもぼくは知らなくても良かった無垢なままでも後悔はしなかったろうなによりもぼくは自由が欲しかったそうさ、きみは。ぼくの卑屈なこころを和らげ素直さをくれたぼくの幼いこころを開かせ大人のこころをくれたでも。ぼくのこころから自由を奪い取ってしまったぼくの心の全てを君は埋め尽くしてしまったなにをするにもまずきみのことを考えてしまうなによりもぼくはじゆうがほしかっただからいま。憎いほどに愛しているきみを、今、いま、殺したい!“killyou!”=背景と解説=なんともぶっそうなタイトルです。大切にしてきた自分というものを壊しはじめた相手に対する、憎悪と思慕の念とのせめぎ合いといったところでしょうか。家族の...ポエム正午編(killyou=)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (五)

    なん組かの親子づれが、子どもにせがまれて列にはいった。そしてアベックがふた組はいり、女子ふたり組もはいっていく。ぼくもまたつられるように友人とともにその列にならんだ。そまつな小屋で、台風が襲ってこようものならたちまちに吹き飛ばされるように見える。つっかい棒がされてはいるが、サーカス場のようなしっかりとしたテント作りではなかった。ちいさな男の子が列をはなれて横手にまわっていった。すぐに、「コラッ!」というがなり立てる声き聞こえた。むしろをめくって中にでも入ろうとしたのだろうか。小屋に入ってすぐに、『人魚姫』という看板に出くわした。すこし先になにやらあるようだったが、ぼくのところからはまだ見えない。ときおり間延びするテープの声がきこえるだけだ。「不老長寿のれい薬として珍重される人魚のきもでございます。数おおく...青春群像ごめんね……祭り(五)

  • お知らせ

    いつもご愛読、ありがとうございます。8月より、以下のように曜日ごとの発信作品を変更します。月)ポエム火)水たまりの中の青空水)中年を主人公木)よもやま話ときどき休み金)歴史異聞土)奇天烈な作品日)青春群像面白いものがたりをめざしますので、以後も来てくださいね。お知らせ

  • [ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕 ~ブルー・ふらぁめんこ~

    [1969年]1月18日東大安田講堂陥落3月30日パリにおける「ベトナム反戦」焼身自殺。[1970年]3月14日大阪万博の開幕。そして大盛況。前年の東大安田講堂陥落が与えた、学生間に漂う閉塞感。これらの衝撃に、突き動かされての作品です。━━・━━・━━・━━・━━・━━・━━・━━・━━(一)スモークガラス扉ひっそりとしずまりかえったこの舗道には、少年の足音のほかになにひとつ物音がなかった。灰色のコンクリートにはめこまれたガラスのなかには、手をかざして月を見あげるビキニ姿のマネキン人形がいる。みき手で帽子をおさえながら、にこやかにほほえみかけるハイウエストのバギーパンツ姿のマネキン人形がいる。ほのあかるく照らしだす街灯の下には、だれかを待っていたのだろうか、タバコの吸いがらが五、六本捨てられている。はたし...[ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕~ブルー・ふらぁめんこ~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (十五)

    (修行五)「これほどに気にとめられるごんすけという小童は、まことに果報者じゃ」夕餉を採り終わった後に、古参の僧侶だけを残しての場で住職が訥々と話し始めた。「年に一度立ち寄られるかどうかの沢庵和尚殿が、三月いや二月かの、足繁く通ってこられるとは。そしていつも目を細めてお帰りになられる」まことにその通りで、と白湯を口にしながら頷く僧侶にこうも続けた。「ここだけの話じゃが、いまの沢庵和尚殿のほうが、わしには良いわ。以前の沢庵和尚殿は、実に気難しいお方でな、他の寺でのことをネチネチとこぼされたのよ。心得違いをしておる、ご本山ばかりに目が行ってしもうては救える民も救えぬわ、とな。しかしいまの沢庵和尚は、厳しい言葉を吐かれはするが、なんというか、棘がなくなられた」お前たちに対する説法も変わったであろう、とも付け加えた...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(十五)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百八十)

    産婆に電話を代わると、すぐに小夜子の枕元にすわりこんだ。「痛いか?いたいよな?待ってろよ、病院に行くからな。さするのか?お腹をさするんだな?よしわかった。俺の力を、小夜子にやろうな。ちょっとお酒がはいっているけれどもな。なあに、男の子だ。酔っ払って生まれてくるのも、案外だぞ」普段ならば嫌みのひと言も口にする小夜子だが、いまばかりは頼もしさを感じる。正三との連絡がうまくいかずにいたときには、アナスターシアがあらわれた。そしてアナスターシアと離れてからは、武蔵というあしながおじさんにめぐりあえた。いつもそうだった。苦難におちいりそうになると必ず救いの主があらわれる。おのれの運の良さがどこからくるのか、母親の運をも吸いとってしまったのかと思える小夜子だった。「そうだ、名前を決めたぞ。タケシだ、武士と書いてタケシ...水たまりの中の青空~第二部~(三百八十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百七十九)

    「ああいたい!でもがまんする。あたしのあかちゃん、だもの。ああ、でもいたい!あかちゃん、あかちゃん、もうすこしおとなしくして。あ、あ、いたい!もういらない。このこでいい、このこだけでいい。あ、あ、いたい、いたい、いたい、いたーい!」「ほら、呪文をとなえてるから。すこしでも和らぐようにって、となえてるからね。がまんするんだよ。$->+?<]:^{<%*&;”}#?{*+=~)>(;」産婆のとなえる呪文は千勢の耳にもとどいているが、やはり意味不明だった。いや、そもそも日本語なのかすら疑わしい。“きっとありがたいものなんだわ。小夜子奥さま、がんばってください”。千勢もまた、小夜子のいたみが和らぐようにと、一心にいのりつづけた。じつのところ呪文とは名ばかりで、ただただ唸っているだけにすぎない。気持ちのよりどころを...水たまりの中の青空~第二部~(三百七十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百七十八)

    「大げさなのよ。こんなことでお医者さまの手をわずらわせたら、あたしゃもの笑いの種になっちまうよ。恥ずかしくて、表も歩けなくなっちまうよ。ほっときなさい。あたしが来るのだって、ほんとは早いくらいなんだから。これ、小夜子さん。そんなに大きな声で騒ぐもんじゃないわよ。ご近所にまる聞こえだよ。ご迷惑ですよ、ほんとに。こんなもの、あたりまえのことじゃないか。一時間以上の間隔でしょ?まったく情けないねえ、いい若い者が」まったく受け付けない。というより、辛抱の足りなさに腹が立ってくる思いだった。「だって、だって。お医者さまの言いつけ、キチンと守ったわよ。だからこんなに痛いのは、きっとどこか病気なのよ。急がないと、わたし死んじゃうかもよ。う、痛い!いたいぃぃ!また来たわ。あ、あ、なんとかして。こんなに痛いのは、きっとどこ...水たまりの中の青空~第二部~(三百七十八)

  • ポエム 正午編 (許してください)

    自然がはてしもなく長い糸を、無関心によじながら紡ぎに巻きつけているとき、万物の雑然たる群れが不快に入り乱れて響いているとき、この流れて変わらぬ単調な列に区切りをつけ、リズムをもって動くように活気づけたのはだれですか。紛れもない、きみなのです。きみがいざなう静寂の世界に微かに息づく……もの。タンタタタンタンタタタンタ~ンタタンタ~ンタタンその世界に足を入れたおかげでリズムを知ったのです。だれが嵐を情熱を滾らせ夕映えを厳粛なこころを持って燃えさせますか。霧が世界を包み蕾がまだ奇跡を約束した時代をまたしても慈悲のこころをもって壊すのですか。許してくださいわたしはもっと知るべきでした。もっと人間が持つ複雑で、微妙で、微かな、静かなこころを。=背景と解説=うーん……。これは、現在でも悩みの種です。バツイチのわたしで...ポエム正午編(許してください)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (四)

    そんな祭りの時期になると、決まって中学時代の友人をおもいだす。中学三年に進級してすぐのことだった。ある事件をその友人がひきおこした。うしろの黒板に、とつぜん五線譜を引き「クラスの歌」というタイトルのメロディを書きはじめた。ざわつくこえも気にせず、いっきに書きあげた。「みんな。これに、歌詞をつけてよ。みんなで歌おうよ。それで、卒業後も同窓会のときなんかにさ、校歌といっしょに…」「なんだよ、それ。許可、もらってんのかよ」友人のこえをさえぎって、とがめる声がそこかしこから飛んだ。「許可って、そんなの…。卒業したら、みんなわかれちゃうんだし。良い思い出になればと思ってるんだ。このメロディが気に入らなきゃ、替え歌でも良いと思うんだ」友人も引きさがらなかった。結局のところこの事件は、担任の「良いんじゃないか」のひと言...青春群像ごめんね……祭り(四)

  • きのうの出来事 Shock!

    昨日に病院へ定期検診に行ってきました。レントゲン室前で椅子に座って待っていたのですが、突然に胸の中に「ドン!(音ではなく感覚ですが)」と、ものすごい衝撃を受けました。体が浮き上がるほどの衝撃で、周りの患者さんもビックリされたようです。「大丈夫ですか?」と声かけをもらいました。はじめてのことで、外部からの(レントゲン室前でしたので電磁波?と思ったくらいです)何かかと身構えましたが、どうやらこれが「ペースメーカーが動いた」ということのようです。ドラマ等でお見かけかと思いますが、AEDによる電気Shockでは、体が台の上で跳ね上がりますよね?あれと同じことが、わたしの体内で起こったようです。過去にもペースメーカーが働いたたことはありますが、ここまでの大きさというのははじめてです。というより、無自覚だったんですよ...きのうの出来事Shock!

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~(二十)???

    ~~~・~~~・~~~・~~~「あのね。じゃり道というのは、平坦路よりも五割もはやくタイヤをすりへらすんだって。どうして、モーテルなんかでは、じゃり道にするのかな?やっぱり、客のではいりを知るため?……?」「ふふふ……こわいの?いいの、いいのよ。あたいだってはじめてのときは、へんなものがきになったから。いろんなこと、かんがえてたもの」「い、いや!違うよ、ぼくは。はじめてだなんて、失礼だ!」「いいって。いいわけなんかしちゃって、かわいいわ。キスしてあげる」「な、なんだよ、急に。いいよ、まだ、、、」[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~(二十)???

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (十四)

    (修行四)沢庵和尚と住職の間で交わされた「南蛮に戻してやろうかと思う」という言葉は知るよしもない。故国に戻ったとしても言葉を知らぬごんすけの苦労は目に見えている。「先ずは体をしっかりと作らせねば」ということから、武芸を習わせようとなってはいるが、その師が居ない。時折訪れる武芸者に師事させてはという住職の考えがあるだけだ。周囲から失笑が漏れても、沢庵和尚は静かにごんすけの答えを待った。腕組みをしたまま天を仰ぐだけのごんすけに、隣に座る小坊主がたまりかねて助け船を出した。耳打ちをされたごんすけの表情が和らぎ分かったとばかりに大きく頷くと、きらきらと輝く目を僧侶に向けた。小鼻を膨らませてすっくと立ち上がると「お経を読むことです」と、大声を張り上げた。大きく頷く住職や小坊主たちだったが、柔和な表情だった沢庵和尚が...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(十四)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百七十七)

    その後、奉公先での出産立ち会いの機会が多くあった。身内ではないということもあってか、それともなんどかの経験をえたことからか、おちついたこころもちで見ていられれた。たっぷりのお湯を用意したり、妊婦への声かけなどのてつだいを数多く経験している千勢だ。不安がる小夜子の気持ちが手にとるように分かり、「いまれんらくしました」「すぐおみえになります」と声をかけつづけた。「あ、いいわ。治まったから、もういいわ。ああ、びっくりした。なんなの、あれって。まさか、違うわよね。千勢、やっぱりタクシー呼んで。やっぱり病院に行くわ。どこか悪いのよ、わたし。そうよ、無理したからだわ。お医者さまに言われてから、がんばり過ぎたのよ。お散歩、するんじゃなかったわ。三十分のお散歩を、朝夕の二回もするなんて。それも毎日よ。お休みしたのは、雨の...水たまりの中の青空~第二部~(三百七十七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百七十六)

    まん丸になった顔に、せり出したお腹を支えるための足も、十分にふくらんだ。鏡台のまえにたってみて、はじめておのれの醜悪なすがたかたちに気付いた。「なに、これ!あたしじゃないわ。まるで別人じゃないの!こんなのいやよ。そうよ、武蔵よ、武蔵のせいよ。大人しくしてろ、おとなしくしてろって言うからよ。そうよ、お家の中でじっとしてたから、こんなになったのよ。武蔵のせいよ、みんな。あたしのこんなぶざまな姿を見て、どうせお腹の中で馬鹿にしてたのよ。許せないわ!」その夜、小夜子の好きなアイスクリームを大事そうに持ち帰った武蔵だったが、たっぷりと小夜子にとっちめられてしまった。そして出産予定日を五日ほどすぎてから、陣痛がはじまった。「武蔵をよぶですって?いいわよ、べつに。仕事中でしょ、いてま」と、余裕を見せていた。「でも、奥さ...水たまりの中の青空~第二部~(三百七十六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百七十五)

    「あらあら、鼻息のあらいこと。でもおしえるのは、商売のことだけにしてよ。浮気のしかたなんて、金輪際おしえないでよね!そうねえ、女の子がいいわね。そうよ、新しい女よ。女性経営者なんて、ちょっとしたものよね」小夜子自身、男の子だと思っている。おなかの張り具合やら元気のよさを考えると、病院での妊婦たちの会話をきいて確信していた。しかしそれを武蔵に伝えることはない。万が一に間違っていたら、そんな思いもありはするが、小夜子の思いとして女の子がほしいと考えている。気づいていないのだが、アナスターシアの生まれ変わりがほしいのだ。ともに世界を旅して、ともに幸せになりたいと切望していた夢をかなえたい、のだ。武蔵がきらいないのではない。どころか、好きですきでたまらない。出会いは最悪だった。小夜子のどん底とでもいうべきときにあ...水たまりの中の青空~第二部~(三百七十五)

  • ポエム 正午編 (love you)

    君とぼくの間にあるものはたゞの……空間何もない……空間その空しさが、淋しさが耐えられないきみに僕の愛を伝える方法はないものかもしそこに障害物があったら、証しとしてぶち壊して進む勇気も湧くだろうに。“愛しています”その言葉に空虚さを感じるほどに君をきみを愛している=背景と解説=なんなんでしょうね、この詩は。正直のところ、いまのわたしは、戸惑っています。空間。この言葉の意味が、問題です。シェイクスピア作の「ロミオとジュリエット」、名作です。敵対する名家同士の生まれが、二人を引き裂いてしまう。現代では考えられないことが、中世という時代があの二人に襲いかかる。光の速度を超えることができたら、タイムマシンの完成だと聞いたことがあります。アインシュタイン博士でしたっけ、相対理論において「光を越える速度はありえない」と...ポエム正午編(loveyou)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (三)

    「ああ、わるいんだ。ばちがあたるよ!」りんご飴を、さも愛おしそうになめながら、静子がもどってきた。口のまわりを毒どくしく真っ赤にして、同じく赤い舌でペロペロとなめている。えものを紙でまいて、愛おしげにみつめている。やっぱり吸血鬼に見えた。しかしこんなかわいい吸血鬼なら血をすわれてもかまわないなと、心うちでつぶやいた。「ねえ。あっちにね、おばけやしきがあるの。はいってみない?」「おばけやしきって、またか?このあいだはいったばかりじゃないか。こわいこわいってぼくにしがみついて、一歩もうごけなかったろうが。それなのに、またか?」「いじわる!でもまた、はいりたいんだもん。このあいだのは、西洋のおばけだったでしょ?ここのは、日本のおばけみたいなの。日本のおばけは知ってるからさ、そんなにこわくないんじゃない?ねえ、行...青春群像ごめんね……祭り(三)

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~(十九)資格

    救われることのない地獄へのみちをみた少年。きのうまでの毎日、そしてあしたからの毎日。もがいてみたきょうは、明日につながることがなかった。えたいの知れない魔物にみいられてしまい、そのまものからの脱出をこころみもがいてみた末に、またおなじ所にたちもどってしまった。このまま、この雨になれないだろうか。おおみずとなり川をくだり大海へながれこみたい、しんそこ考えた少年。天からくだる雨、地をわかつ川となり大海へとたびする。そしていつかまた天にのぼり、雨となってくだる。しょうねんの目が、雨空のうえにある太陽をとらえた。そして太陽のうえにあるなにかを睨みつけ、そしてなみだした。なにか、そのなにかが神ならば、しょうねんのきもちはらくになったろう。神に愛される資格のない少年だ。少年が生まれ出るとどうじに、失われたいのちがあっ...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~(十九)資格

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (十三)

    (修行三)小坊主たちの間からすすり泣きが漏れ始めた。それぞれに抱えている思いに耐えきれず、大声で親への詫びの言葉を発する者も出た。その中に恨み辛みを漏らす声も出はした。互いの肩を叩いたり抱き合ったりして、慰め合う姿があちこちで見られた。「沢庵和尚。ありがたいお話をありがとうございます。愚僧が同じ事を言うても馬耳東風でしたが、やはり沢庵さまの言葉ともなれば、この子たちの受け止めようも違うようでございます」と、住職が両手を合わせた。にこやかに微笑んだ沢庵和尚は、住職に合掌を返しながら「なんのなんの。ご住職は立派に勤められておられる。皆もまた、その姿をしっかりと目に焼きつけるようにな。これ、そこの小坊主。寺での修行の一番大切なことは、なにかな?」ごんすけを指さして問いかけた。思いも寄らぬ問いかけに「おれ?おれ?...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百七十四)

    やせ型だった小夜子が、みるみる太っていく。妊婦特有の体型に変わっていく。当たり前のことだと分かっているが、せり出してきたお腹をさすりながら、いら立つ気持ちが湧いてくるのを抑えることができないでいた。その反面、日々成長していくおなかの中の赤子への愛おしさもまた、ふくらんでいく。昼日中にひとりでやすんでいるときに、「よしよし、げんきだねえ、おまえは。そんなにいっぱいけらないでね。おとこのこかしらねえ、おとうさんににるのかねえ。どうだろうかねえ、あかちゃん」やさしいきもちでひとりごちる小夜子だったが、ふと母親の澄江とを思い浮かべた。「おかあさん。おかあさんもそうおもってくれたの?おとうさんに『あしげにされたんじゃ』って、じいちゃんはいうけど、ほんとだったの?ふこうだったの?あたしをうんでよかったとおもってくれる...水たまりの中の青空~第二部~(三百七十四)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百七十三)

    それが、つい先月のことだった。もうしないからと謝って、まだ二週間と経っていない。舌の根もかわかぬうちの所業では、いくらなんでもと武蔵自身が思ったのだ。そして今夜、竹田をつれてのご帰還となった。「小夜子奥さま、千勢さん。社長のおかえりです」玄関先で、竹田が大声で呼ぶ。千勢が台所から、あわてて飛んできた。「旦那さま、どうなさったので?お加減でもお悪いのですか?」竹田が同伴などとは、体調をくずしたおりぐらいのものだ。千勢があわてるのも無理はない。「なあに、どうしたの?武蔵、帰ってきたの?」小夜子が二階から声をかける。「奥さま、奥さま。旦那さまが、、」。千勢の悲痛な声がとぶと同時に「社長は大丈夫です。飲みすぎられただけですから」と、竹田が声をかぶせた。「いや、すまん。飲みすぎたみたいだ。今夜は、竹田ら若手と飲んだ...水たまりの中の青空~第二部~(三百七十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百七十二)

    妊娠後は、とくに匂いいが気になる。鼻にツンとくるにおいが、小夜子を苦しめた。武蔵の浮気癖のせいか、それともけばけばしい化粧女たちの世界に入っていたせいか、化粧品のにほいに鋭敏に反応した。それゆえに普段とは違うにほいが身についていれば、すぐに感じとった。「最近の殿方は、香水をつけられるのかしら?」。キャバレーとの女との浮気が発覚したおりの、小夜子のことばだ。「取引先の、ほらM工業の松田さんだ。あの人の接待だよ」全身に冷や汗をかきながらも、素知らぬ顔でこたえた。「どうもあの男、小夜子にホの字のようで。小夜子をチラリチラリと盗み見するのが、俺としては面白くない。といって、怒鳴りつけるわけにもいかんし。あの男の席には、もう小夜子をつれていかん。だからあの男の接待はのときは、同伴はしなくていいから」背広を脱がせた千...水たまりの中の青空~第二部~(三百七十二)

  • ポエム ~正午編~ (昇天)

    あふれる愛がとめどもなくほ丶を濡らすその夜明けあまねく注がれる日のひかりがあすになっても……海と朝日が溶けあってふたつの心をあわせいま昇天していく=背景と解説=これは、あくまで願望です。わたしの場合、意外と思われるでしょうが、実にオクテでしてねえ。ま、色々と理由はあるのですが。踏み込む、ということができなかったということですかね。自分の、何というか、自信が持てなかったというか……。少し前まで言われていたことですが、現在もそうなのでしょうかね。「ふられることが怖い……」といった風潮がありましたよね。声をかけて無視をされたら立ち直れないと、いったようなことです。わたしの場合は、声はかけるんですよね。いえ、声じゃなくて、手紙が主でしたが。何度も言いますが、携帯電話なんぞは影も形もない時代ですから。付き合いは始ま...ポエム~正午編~(昇天)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (二)

    ぼくにとっての祭りの一番は、なんといっても見世物小屋だ。しかし最近では、よほどのことがなければ見かけることがない。もう過去の遺物となってしまったのだろうか。静子とはほとんど毎日のように顔を合わせているというのに、休日に会うときはこころが浮いてくる。制服は体にぴったりフィットしているスーツ姿で、私服のときにはゆったりとしたワンピスやらブラウスにスカートが多い。制服姿は大人びて見えるけれども、私服は姿ではまだ田舎娘まるだしに見える。そういう意味では制服の方がと思えるのだが、なんというかにほいが違うように思う。コロンとか香水とか、そういったものは付けていないはずだから、内面からかもし出されるものだ。制服姿と私服すがたでは――こういうことをいうと「エッチなんだから」と、肩をたたかれるだろうが――色香のようなものを...青春群像ごめんね……祭り(二)

  • (7月2日)緊急! 午前3時47分

    あなたわあみましたかああなたわあみましたかああなたわあみましたかああなたわあみましたかあそこにころがってるあなたわあみましたかああなたわあみましたかああなたわあみましたかああなたわあみましたかあとつぜんに通りに面したガラス張りのサテライトスタジオに引っ張り出され「うたえ!」と告げられて、脅されて。訳も分からず、即興のことばと、そしてまた即興のメロディーと。うたい始めたものの、ど素人の人間にはどうつないでいけばいいのか分からず、永遠につづくかのようにうたい、どこかで「もういい、やめろやめろ!」と止められることを願って、歌つづけて。ほらあそこにころがってるほらあそこでもがきくるしんでいるあなたわあみましたかああなたわあみましたかああなたわあみましたかああなたわあみましたかあ終わりのないうたを、即興詩をうたいつ...(7月2日)緊急!午前3時47分

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (十八)パシリ雨の中で、ひとり泣き笑う少年。今夜のために、この十日のあいだに準備したこと。物理的なことではなく、シュミレートしたすべてがなんと虚しいことか。周到にくみたてたことが、ともすればうずくまってしまう弱い心をふるいたたせたことが、すくんでしまった足にめいじた脳からの指令が、それらすべてが……。いま、もろくも崩れさっていく。同世代から‘ニヒリスト’とやゆされても、苦笑いをかえしつづけた少年。同世代のわらいのうずに溶けこめない少年。パシリにすらされない拒絶、パシリにすら見られないむなしさ。十年後、二十年後、同窓会において透明人間化するおそれ。同世代とのつながりをもとめる少年、そのすべをもたない。雲ひとつないまっ青なそらを絵画にしようとするおりの、おのれの無力さを知ったこころー絶望、そしてうまれた虚無の...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

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