chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
フォロー
住所
岐阜市
出身
伊万里市
ブログ村参加

2014/10/10

arrow_drop_down
  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (六)

    激しい雷雨のなか、東京駅のとけいは夜の九時をさしている。ひさしぶりの外出をした松下だった。電車からの乗降客と雨宿りのためにとどまった乗客たちで、構内は大混雑だ。あきらめて雨のなかに走り出す若者たちが増えるなか、どこといって行くあてをもたぬ松下だった。外出といえば聞こえはいいが、実のところは自宅マンションから逃げ出してきた。一年近くの同居生活を送っているユカリからの逃避だ。今日も朝からパソコンにむかっていた。となりの居間には、これみよがしに大音量で映画に見いるユカリが居る。「あーあ、こんなことならお店を辞めるんじゃなかったわ」。松下に向かって大声で話しかける。しかし松下からはなんの反応もない。腹を立てたユカリが、大きく足を踏みならしながら部屋にはいった。チラリとユカリを一瞥した松下だが、なんのことばもなくモ...愛の横顔~100万本のバラ~(六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百八十六)

    赤子の誕生は、小夜子を大きく変貌させるに十分なことだった。母親の愛情に飢えていた小夜子を不憫だとおもう茂作は、小夜子のわがままにつきあうことでしか愛情を注ぐことができなかった。「母親のぬくもりをしらぬ小夜子は、ほんにふびんな子じゃ」と、周囲にたいしてお念仏のようにいいつづけていた。そしてそれは周囲のだれもがおもうこととなり、最大公約数となってしまった。ふびんな子というお題目でもってわがままをおしとおす小夜子を、だれひとりとして叱り付けることはなかった。生まれもった美貌とあいまって、それが許されてしまったのは、小夜子にとって不幸なことだった。アナスターシア、そして勝子。そのふたりの死が小夜子にあたえた衝撃は大きかった。武蔵という存在がなかったら、小夜子自身の崩壊ということもありえたかもしれない。しかし小夜子...水たまりの中の青空~第二部~(三百八十六)

  • ポエム 黎明編 (stop the music!)

    恋に終わりがくる渚に陽がしずみ闇の訪れのこえ━stopthemusic!悲しみの森のなかひとり思い出とあそび影と語りあう━stoptheguitter!色のない夕焼けずてが色あせていく去りゆく足おと━stopthedrams!空に赤い雲鳥がふた羽飛び夜の訪れ━stopthebase!わたし、信じていたわたしあなた、裏切ったあなたすべてに、終わりがくる━stopthewords!(背景と解説)妄想です、これは。勝手に、思い込んでいただけのことですわ。相手が離れていくのではないかと、不安な思いが渦巻いているときです。ちょっとした仕草-わたしが相手を見たときに相手がよそ見をしていたとか、バニラのアイスが食べたい私なのにチョコが良いと言う相手-そんなことで、クヨクヨイジイジしたりして。そのくせ、一人でいても寂しさ...ポエム黎明編(stopthemusic!)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (十 )

    計画自体は、じつに大ざっぱなものだった。小屋から連れ出すことだけで、その後どこでどうするということまでは考え付かないものだった。ともあれその夜、友人宅ちかくの北野神社で、午前十二時におちあうことになった。“不良だぞ、これ。不良がやることだぞ”。恐れの心がわいていた。“だめだ、だめだ。やるべきじゃない”。戒めるこころがわいていた。家人に気づかれぬように足音をころして二階からおりた。階段のきしむ音にきづいた母親の「どうしたの、こんな時間に」となじる声が、きのうまではうっとおしく感じる声が、こんやに限っては恋しく感じられた。しかしこんやに限って階段のきむ音はちいさく、家人の誰もきづかなかった。“ドスドスとおりればよかったろうか……”。“わるいことをしにいくんじゃないんだから”。“なんでぼくは、いつも良い子ぶるん...青春群像ごめんね……祭り(十)

  • [ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕 ~ブルー・ふらぁめんこ~

    少年の目は、ふたりに移った。が、そこにはもうふたりの姿はなく、背の高いがっしりとした男がひとり、踊り狂っていた。慌てた少年は、キョロキョロと見回した。と、少年の肩をポン!と叩く者があり、と共にプーンと甘い香りが少年を包んだ。「また来たの?坊や」「あ、いえ。…あの、……いえ…」しどろもどろに答える少年だ。「フフフ……、いつまでも子供ね。コーラなんか飲んで、純情でかわいいわ」耳元でささやき、体をすりよせてくるその女に、少年ははじかれるように身を引いた。そして、しげしげと女を見つめた。うす茶色に染められた髪を中央でふたつに分け、後ろでいっぽんに束ねている。描かれた眉毛は細く、なめらかだった。その下の瞳には、ブルーのコンタクトレンズが入っている。つけまつ毛がとても長く、スラリと伸びた鼻と呼応して、エキゾチックさを...[ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕~ブルー・ふらぁめんこ~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (二十)

    (誕生三)しかしムサシはまるで動じない。不気味なほどに落ち着きはらっている。梅軒には初めての経験だ。梅軒の手には鎌がある。ムサシに近付いたところで、いつものように鎌を払えば良い。ムサシの腕なり体なりに傷を付ければ、それで勝負は決するのだ。――なぜこの男は動じないのだ。いや、内心は恐れおののいているはずだ。気取られぬように平静さを見せているだけだ。いつものように、このまま追い込めばいいのだ。気を取り直してじりじりと近付いていく。しかしそれでもムサシの表情は変わらない。いや、薄ら笑いさえ浮かべている。と、思いもかけずに、刀にからめた鎖をムサシにグイと引っ張られた。たまらず梅軒が大きくよろめいた。梅軒には、これ程に力の強い者との闘いの経験がない。ザワザワとすすきが揺らぎ一陣の風が二人を包んだ。ほんの一瞬のことで...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(二十)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (五)

    親戚一同からは「まっとうな職に就いたらどうだ!」となじられる。「知り合いの会社につとめて、しっかりと母親の面倒をみてやれ」と忠告もされる。しかし健二にしてみれば、姉が昼間に母親の介護をし、夜中を健二が介護しているのだ。認知症が発症してしまった母親は、昼夜関係なく自分の思いどおりに活動する。なので役割分担をしているのだ――健二はそう思っている。しかし周囲の目は冷たく、「認知症が出てしまっては、もう施設に入れるしかない。こうなっては聡子の体が心配だ。いつまでも道楽でもあるまい」と、健二のわがままと映っている。健二の栄子に対する愛情は本物だ、しかし漠然とした不安が健二を押しつぶそうとしてくる。いっそ周囲の言うとおりに母親を施設に入れて、安定したサラリーマン生活で栄子とともに、と考えたこともある。その一歩として栄...愛の横顔~100万本のバラ~(五)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百八十五)

    「ほんぎゃあ、ほんぎゃあ!」ひと際大きな泣きごえが分娩室にひびいたのは、入院翌日の夕方だった。分娩室に入ってから、二十時間を超えるときが流れていた。いくどとなく帝王切開の準備にはいったものの、踏みきれずにいた医師。大きくため息を吐いた。「ふーっ。みんな、ご苦労さん。よく頑張ってくれた、上出来だ。切らずに済んで、なによりだ。婦長、ありがとう。産婆さん、たすかったよ。あんたの声がけが、功を奏したようだ。ありがとう」いっとき分娩室から出て休息をとった医師だったが、看護婦に産婆たちは誰も部屋から出ず、というより休息などとんでもない状態だった。叫びつづけるかと思えば、意識をうしないかける状態におちいったりと、様態の安定しない小夜子だった。そしてやっと出産を終え、思いもかけぬプライドの高い医師からねぎらいのことばを受...水たまりの中の青空~第二部~(三百八十五)

  • ポエム ~焦燥編~ =いらだち=

    =いらだち=群れを離れた一匹狼のいらだち鉄工所の騒音から逃れ無音室の中に入り込んだ男のいらだち(背景と解説)当時のことを思い出そうとするのですが、当時の日記を読み返そうとしてみるのですがなんの記述もないんですわ。ぽっかりと、空白なんです。中途半端な状態なんですが、どうもここまで書いてみたものの、どうにもつづかなかったようで……。こらえ性がないといいますか、淡泊とでもいいましょうか。すぐに土俵を割っちゃうんですよね。時間がとれたら――って、いまはリタイア生活なんだから時間はあるんですけどね。前にもお話したと思いますが、あの頃の自分がわからなくて……。物語りなんかもですね、加筆するのが大変なんですよ。なにかがあったのか、それとも何もなかったのか……昨今言われる、いじめを受けていたのかいなかったのか……ただ、万...ポエム~焦燥編~=いらだち=

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (九)

    「分かるか。旧約聖書に書かれていることだけど、アブラハムという族長はだ、実の息子をころそうとしたわけだ。神の啓示でだ、天使をとおして伝えられたんだよ。それでその指示通りに、息子をころそうとした。しかし刃物をふりあげたその瞬間に、彼は、アブラハムは許された。『お前の信心は本物だ』と、神に認められたわけだよ。許されたんだよ」涙をはらはらと流しながら、なん度も「許されたんだ」と口にしていた。その話を友人にしたとき、「なんてひどい神さまなんだ。人をためすなんて、ほんとにひどい!ひょっとして天使のいたずらだったんじゃないか?」と憤慨した。そしてそのときのぼくは、賢治さんのことばにうなずき、そしてまた友人のことばにも「そうだね」とうなずいた。ある日、賢治さんが居なくなっていた。まことしやかに流れた噂では、ある団体に入...青春群像ごめんね……祭り(九)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (十四)

    突拍子もないことを口にしはじめた。しかしそれはそれでいいと、わたしは思った。「そうなの?そうなんだ。うまく逃げられると良いね。だったら、ぼくらの役目はおわったんだ。帰ろうか、家に。誰かに見つかると、おおごとになっちゃうからさ」「なに言ってるんだ!見とどけなくちゃだめだよ。ほんとに逃げられたかどうかを。もし万がいち一捕まったりでもしたら……」「うん。捕まったりしたら…(助けるの?)」喉まで出かかったことばを飲み込んだ。「助けるんだ、たすけるんだ、なんとしてでも助けるんだ」恐ろしいことばが、やはり友人のくちから洩れた。言って欲しくなかったことばが、もれた。「そうだよね、助けなくちゃね」ぼくの口からも、信じられないことばが出てしまった。友人のことばにつられてということだけではない。「正義だよ、せいぎなんだよ」。...青春群像ごめんね……祭り(十四)

  • [ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕 ~ブルー・ふらぁめんこ~

    (五)一途「おい!あのボーヤ、またきてるぜ!」「ああ、ホントだ。でもどうして?おどるわけでもなし……」「へッ。どうせ、おどれねえのさ」「あのぼーや、おとこか?それともおとこのかっこしたおんなか?」「さあね、……、わかった!ちゅーせいよ!」「こりゃいい、おかまか。そいつはいいや!」「あのぼうや、マキにまいってるって?」「へーえ、あのマキにか?」「そうなんだってね。でも、よりによって、マキにねえ」「なんだい、マキならだれでもOKじゃないか」「だめだめ。、あのぼうや、だめなのよ。じっとみてるだけなの」「ふーん。かわったやつう」「でもさ、ちょっといいじゃん。さびしそうでさ、まもってあげたいってかんじ」「ハン!おまえじゃだめさ!マキいちずって、はなしだ」「えぇえっ、もったいないなあ」「ネエ!マキにサ。このまえにおし...[ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕~ブルー・ふらぁめんこ~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (十九)

    (誕生二)夕陽に映えて黄金の色に染まったススキの群生する野原に、二人の武芸者が対峙している。「我、日ノ本一の剣士也」と書かれた幟を手にしたムサシに対して、宍戸梅軒と名乗る武芸者が、「ご指南いただきたい」と申し出ての決闘だった。「無益な殺生は好まぬけれど、身共が勝ち申した折りには、そこもとの懐中を探らせていただくが、それでもよろしいか」殺生とは、異な事を…と思いつつも、闘いを避けるがための脅し文句だろうと考えた梅軒は「相分かり申した」と、構えに入った。「それはまた珍しい道具でござるな。何という武器でござるか」さも珍しげに問いかけるムサシに対し、気をよくした梅軒は「これはでござるな」と、構えをといた。梅軒の隙を待っていたムサシが、いきなり刀を抜いて斬りかかった。あわてて後ろに飛び下がった梅軒は、すぐさま態勢を...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(十九)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (四)

    時計を見ると、八時半を指している。「いつものことよ、あいつが約束を守ったことなんて、ほんの数えるほどじゃないの」口に出してこぼしてみるが、だれも慰めてはくれない。気をとりなおしてCD機に手をのばした。「わりい、わりい。おそくなっちゃったな」健二のストレートなむしろ険をさえふくんだ声が背後からとどく。決して正面切っては顔をあわせない。どうせ、せせら笑いをしているのだろうと栄子は思う。ぐっとこみ上げてくる涙をこらえながら、「来てくれるとは思ってなかったわ。どういう風の吹き回しかしら?」と、せめてもと栄子もまた険のあることばで返した。「なあ、栄子。もういちど医者に診せないか。知り合いがな、大学病院の医師を紹介してくれるというんだけど。手術は、イヤか?歩けなくなるかも、なんてことは昔の話らしいぜ。いまはな、しっか...愛の横顔~100万本のバラ~(四)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百八十四)

    医師のこえが、分娩室にひびく。小夜子の声をかきけすように、大きな声をだしている。「もういや、先生。こんなに痛い思いをするなら、赤ちゃん、もう要らない。もう二度と産まないから。あっ、あっ、痛い!タケゾー、タケゾー、助けてええ!手を握ってえぇぇ!」あらんかぎりの声をしぼりだす、小夜子。その絶叫ぶりに、舌をかまれては大変だと、口のなかにガーゼが入れられた。「うぐっ!うぐっ!ふー、ふー!うぐっ、うぐっ!ふー、ふー!」「奥さん、おくさん、頑張って!気をしっかりもって!赤ちゃんもがんばってるのよ、奥さんもがんばらなきゃね。女の根性をみせなさい。男なんかに負けないんでしょ?」気を失いかける小夜子を、産婆が叱咤激励する。ときに頬をたたいて、小夜子の手をしっかりとにぎった。「ここで頑張らないで、どこで頑張るの?女の強さをみ...水たまりの中の青空~第二部~(三百八十四)

  • ポエム 正午編 (おのこ と めのこ)

    その昔、おとこは北の果てに生まれるその昔、おんなは南の果てに生まれるその昔、おとこは裸馬のたてがみを掴み疾風の如くに走ったその昔、おんなは慣れぬ自転車のハンドルを握りしめ走ったその昔、沖に浮かぶ舟より泳いで帰れ!と海に投げ込まれたおんなその昔、沖に流れた舟を必死の思いで追いかけて大波にもまれたおとこ海の水の流れはいつか、溶け合う前世よりの縁は深く太古よりの流れは強し=背景と解説=友人の結婚式用に書き上げた作品です。さすがに、読み上げることがためらわれました。はい、やめました。たしかですね。ご両親に対する感謝のことばを羅列して、なんとかポエムらしく仕上げて読み上げた気がします。実は司会を担当させられまして、もう冷や汗だらだらでしたよ。スケジュール表を手渡されただけでした。リハサールでもすれば良かったのですが...ポエム正午編(おのことめのこ)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (八)

    「あの赤ら顔の言うことなんて、みんなうそっぱちだ。ヘビしか食べさせてないんだ、きっと。だって、考えてもみろよ。もしもぼくらと同じごはんを食べるようになったらだぜ、ヘビなんか食べなくなるだろ?そうしたら、見世物にならないじゃないか!だれが好きこのんでヘビなんか食べるんだよ」口をとがらせて話しつづける友人の顔は、たしかに怒りの表情をみせていた。キッと一点をにらみつけながら、肩をいからせて歩いた。次つぎに人びとを押しのけるように追いぬき、肩が当たるたびに「チッ!」と舌打ちされることもしばしばだった。彼はぶつぶつとなにかつぶやきながら歩いていく。しだいに早足となり、ぼくはかけ足ぎみになった。長身の彼にたいして背のひくいぼくだ。やせ気味の彼にたいし、太っちょのぼくだ。クラスで一番の成績優秀の彼だ。いつも平均点すれす...青春群像ごめんね……祭り(八)

  • [ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕 ~ブルー・ふらぁめんこ~

    「あのナア!きのうヨオ、あいつんところにとまってヨオ、そんでヨオ―――!」「ええっ?聞こえなーい。もっとおおきくうぅ!」「ネエ、キミイ。のまないの?これ、アルコール、ほとんどはいってないよ。とってもあまくて、おいしいよ」「でもお……。あたし、すぐよっちゃうの……」「よお!なんかオモシロイことないか?毎日まいにち、タイクツでさ」「ケッ!ぜいたくいいなさんな、おどってりゃいいんだよ。ひとばんぢゅうおどりまくって、あさになったらおネンネさ」踊りくるう若者らそれぞれのカップルの、声の応酬を耳にしながら、コーラをチビリチビリと少年は飲んだ。未成年の少年なれば、アルコールは厳禁だ。治外法権とでも化していそうなこの場所においてもなお、「法は法なり!」とばかりに、ルールを守る。それが少年の少年たる所以だ。キョロキョロと落...[ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕~ブルー・ふらぁめんこ~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり!(十八)

    (誕生一)伊賀の国にて。まだ日は高いというのに、うっそうと茂る木々で辺りがうすぐらくなっている。獣道は低木の枝が折れていて足下の下草は短くなっている。一歩踏み出すたびに、枯れ葉でガサガサと音が出る。いつ獣と遭遇するかもしれない。小動物ならばごんすけも勝てる。しかし大型となると分からない。十五歳になって間もない時だ。村で、祭りの余興として相撲大会が行われた。背丈が五尺たらずののごんすけが出場し、六尺を超える大男との決勝戦となった。「がんばれ、がんばれ」の声援を受けて果敢にとびこんだが、あっという間に投げ飛ばされてしまった。近隣の村一番の男だと聞かされても、悔し涙を流すごんすけだった。「勝てぬ相手とは戦わぬことが、負けないということだ。君子危うきに近寄らず、ということだ」寺に長逗留していた武芸者の言葉を思い出...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(十八)

  • きのうの出来事 (リレーが始まるのか?)

    少ない量だというのに、買い物カートを使ってのこと。混み合ったスーパーの店内を「すいません、すいません」と声をかけつつ押していく。整然と立する棚の間から、突然に幼児が飛びだしてくる。あわててブレーキならぬバック体制に入って、事なきを得た。「あぶないでしょ!」幼児にか、はたまたわたしにか?母親のするどい視線がわたしを見る。「すみません」と声かけをされるが、突きささった視線は取り消されない。時間帯を変えればよかったと思いつつも、この炎天下のきつい日差しを避けてのこと。誰しも考えることは同じか……。普段ならばエアコンを効かせた車での買い物も、「運動不足解消しなくちゃ」と自転車に切り替えた。「三ヶ月間は運転を控えてくださいね」。先月14日に医師から告げられもしたし。おっと、まただ。また痛みがおそってきた。「ズキン」...きのうの出来事(リレーが始まるのか?)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (三)

    こんやは、健二がくる予定だ。インディーズバンドの、リードギターを担当している。メジャーデビューの話が持ち上がったことがあったが、現バンド全員ではなく健二だけの引き抜きだったがために断念した。――ということにしているが、仲間に言えない事情からのことだった。どうしてもこの地から離れることのできない健二なのだ。メジャーデビューともなれば、当然に全国での活動となる。栄子に対して主宰が、「親の死に目に……」と迫ったことが、形を変えて健二に襲ったのだ。覚悟を問う事態を迫られたのだ。「断るわ、おれ。みんなと離れたくない」。本心だった、もう十年を共にする戦友なのだ。しかしそれでも悩む健二がいた。もしもこのことがなかったら……、覚悟が決められない健二もいたのだ。「すまん、折角のデビューなのに…」。「俺たちの腕が良ければ…」...愛の横顔~100万本のバラ~(三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百八十三)

    「奥さん、おくさん。ぼくが、わかりますか?」その声に、小夜子の目が開く。上からのぞくようにして、医師がことばをかける。「大丈夫だからね。ぼくがついているから、大船にのった気でいなさい。でね、ぼくの言うとおりにしてくださいよ。『イキんでー』って言ったら、下っ腹に力を入れてよ。『休んでー』って言ったら、どうするかな?そう、力を抜くんだねえ。よくわかってるねえ、goodな妊婦さんだ。そうすればね、すこしでも楽なお産になるからね」ときおり看護婦への指示をまぜながら、小夜子に声をかけつづける。小夜子の視界から医師が消えても、おかげで不安な気持ちにならずにすんだ。「先生、まだ生まれないんですか?陣痛、ずいぶんと前からはじまったんですけど。あ、来た来た、また来た。先生、イキムんですか?まだ早いですか?」ちいさな声で、懇...水たまりの中の青空~第二部~(三百八十三)

  • ポエム ~正午編~ (きみ)

    灰色が雲に、われ見たり!背筋も凍るがごとくに白き太陽紫陽花の、雨にうたれしその後で、花は咲きにけり心変わり、移り気あゝ花がことばの、切なさよ飛びかう蜂にも、心はあらむ蜜を吸われし、花とてもやむごとなき愛するひとへの、想いぞ哀しき地に棲む虫も、数あれど中でも弱き、なんじは蛙なりや蛇に飲まるるそれがため短き生命ちを、花咲かす“いかばかり恋しくありけむ我が背子よ”口に出ししぞ、いとしかりけるわが倖せひとつなるとじし瞼の、その裏にうかびし君を、想いかたるとき=背景と解説=ダサいタイトルですね。そんな声が聞こえてきそうです。文語体に憧れた時期でした。当時付き合っていた女子が書く、文語体の詩に感動していました。なめらかなことばが、リズム感溢れる音楽のように、染みこんできました。ポエム~正午編~(きみ)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (七)

    口上がおわると同時に、へび女の手にしたへびが激しくあばれだした。観客の足もとをてらす灯りのほかには、奥にいるへび女を赤い色のライトがてらすだけだ。奇妙な音楽――ペルシャあたりで蛇つかいがかなでるような音楽がながれるなか、へび女がとつぜんに大きく口を開けて「シヤーッ!」と声をあげた。とたんに、最前列にいた幼児がおおきく泣きさけんで走りだした。あわてた母親が「なみちゃん、なみちゃん。すみません」と声をのこしてあとを追いかけた。「小さいどもをつれこむなんて、ひどい親だぜ」、となじる声が聞こえた。そうだよなと思うぼくに対し、友人がこごえで耳打ちしてきた。「人魚を見たかったんだよ、あの女の子は。こんな恐ろしいヘビ女を見たいんじゃない。そんなことも分からないとは、情けない大人だね」「そ、そうだよね。人魚を見たかったん...青春群像ごめんね……祭り(七)

  • [ブルーの住人]蒼い恋慕 ~ブルー・ふらぁめんこ~

    (三)崩壊少年には、奇異にうつった。テレビ画面では見ていたが、まぢかに見ると大迫力だ。二度目のこんやでも、やはり奇異にうつる。なんの変哲もない単調なくりかえしのなかに、若者たちがその膨大なエネルギーをついやしている。ほとんど無表情な顔のなかに、真っ赤にぬられたくちびる――うっすらと開かれてチラリチラリとのぞく無機質なしろい歯が、ある種の秩序さえかんじさせる。無軌道さのなかにひそむ、潜在的秩序――せいぜんと整理され、すべてがあるべき場所におさまっている。そう!少年のへやにひそむ、潜在的な崩壊。「よーお、坊や。また来ましたね!」カウンターのバーテンの声とともに、少年の耳にはエレキギターの炸裂する破壊音――ジェット機の発出音とともにやぶれかけた陣太鼓の音が――とどく……。おもわず耳をふさぎたくなるぶきみな――闇...[ブルーの住人]蒼い恋慕~ブルー・ふらぁめんこ~

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、敏ちゃんさんをフォローしませんか?

ハンドル名
敏ちゃんさん
ブログタイトル
敏洋 ’s 昭和の恋物語り
フォロー
敏洋  ’s 昭和の恋物語り

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用