愛の横顔 ~100万本のバラ~ (六)
激しい雷雨のなか、東京駅のとけいは夜の九時をさしている。ひさしぶりの外出をした松下だった。電車からの乗降客と雨宿りのためにとどまった乗客たちで、構内は大混雑だ。あきらめて雨のなかに走り出す若者たちが増えるなか、どこといって行くあてをもたぬ松下だった。外出といえば聞こえはいいが、実のところは自宅マンションから逃げ出してきた。一年近くの同居生活を送っているユカリからの逃避だ。今日も朝からパソコンにむかっていた。となりの居間には、これみよがしに大音量で映画に見いるユカリが居る。「あーあ、こんなことならお店を辞めるんじゃなかったわ」。松下に向かって大声で話しかける。しかし松下からはなんの反応もない。腹を立てたユカリが、大きく足を踏みならしながら部屋にはいった。チラリとユカリを一瞥した松下だが、なんのことばもなくモ...愛の横顔~100万本のバラ~(六)
2023/08/30 08:00