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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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住所
岐阜市
出身
伊万里市
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2014/10/10

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  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~ブルー・まーだらー~

    (三)コメンテーターきのうの早朝、窓の中にどことなく白々としている街並びがあった。無機な世界がそこに存在している。がらにもなく早起きをしたわたしは、テレビにかじりついていた。現在をにぎわしているヒッピー族と称する若者のインタビューに耳をかたむけた。コメンテーター――文化人と称する、評論家に大学教授に医者――三人が、卑怯にもひとりのヒッピーに対して、矢つぎばやに質問をしている。平然とそして冷然と受け答えをしていた若者だが、ものの五分と経たないうちに態度が粗雑になりはじめた。若者のことばが荒くなり、刺とげしくなる。コメンテーターたちの質問も辛らつさを増していく。次第にいらだちはじめた若者。その光景は、見るも無残なものだった。一匹の子羊を、血に飢えた狼と腹を空かせた熊と猛り狂う猪とがいたぶっている。結局のところ...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~ブルー・まーだらー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (二十五)

    (京の地五)明け六つの鐘が鳴る中、吉岡又七郎が一乗寺下り松の地に着いた。季節が春を迎えたとはいえ、まだ夜明け前では冷気で辺りを包まれていた。「若、ここにお座りください」梶田は、決闘の場として指定した場を広く見渡せる大きな松の木の下に陣取ることにした。態勢は万全だった。東西南北のいずれからムサシが現れたとしても、それぞれの要所に門人を配置していた。「若。大丈夫ですぞ。このように、多数の門人たちがお守りいたします。ムサシも、ここまではたどり着けませぬゆえに」梶田がしきりに又七郎に声をかける。まだ幼い又七郎では、緊張がとれぬのも致し方のないことと考えていた。干からびた声で「たのむぞ」と、又七郎が答えた。梶田が「ムサシの姿は見えぬか。あ奴のことだ、此度も遅参するであろうがの」そう言った矢先に、ガサガサという音が頭...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(二十五)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (十)

    一旦は仲直りができたはずだった。スペイン村で諸々のアトラクションを楽しみ、ようやくいつものふたりに戻った。しかしジェットコースターでのことは、正男の意外な一面を見た思いで、一抹の不安をおぼえさせた。急降下する際に「ママ、ママ!」と絶叫する正男、笑いをとるためとはどうしても思えない沙織だった。さらに正男の不用意なひと言で、またしても反目しあうことになってしまった。チャペルウエディングが執り行われていたサンタクルス教会で「ステキ!ここでの挙式なんか、想い出にのこるでしょうね」と、目をキラキラさせて沙織が立ちどまった。沙織を喜ばせるつもりで漏らしたであろう正男の「あげちまうか、きょう」が、沙織には許せないことだった。あまりに軽くいう正男に、沙織との結婚というものが、現実問題としてとらえられていないと感じられたの...愛の横顔~100万本のバラ~(十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百九十)

    血のメーデー、警官隊が早稲田大学に突入した早大事件、そしてデモ隊と警官隊の衝突となった吹田事件に大須事件と世相が騒然とする中、富士商会の業績は順調に伸びた。しかしそれにつれて、五平の気力が萎えはじめた。開業以来やすみをとることなど一度としてなかった五平が、たびたびとるようになった。病気かしらと事務員のあいだでささやかれるが、当の本人は力なく「すまんな」と、首をふるだけだった。竹田が声をかけても、「ああ」と生返事をするだけだ。しかしそれで仕事が滞るということもないため、次第に「つかれてなさるんだ」と声をかける者がいなくなった。「どうした、専務。最近、元気がないじゃないか」生気のない表情をする五平を気にする武蔵に、から元気をだそうとする五平だったが声に張りがなかった。「社長。そろそろあたしも、しおどきかと思え...水たまりの中の青空~第二部~(三百九十)

  • ポエム ~焦燥編~ (ことば)

    今、ポエム~焦燥編~(ことば)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (十四)

    突拍子もないことを口にしはじめた。しかしそれはそれでいいと、わたしは思った。「そうなの?そうなんだ。うまく逃げられると良いね。だったら、ぼくらの役目はおわったんだ。帰ろうか、家に。誰かに見つかると、おおごとになっちゃうからさ」「なに言ってるんだ!見とどけなくちゃだめだよ。ほんとに逃げられたかどうかを。もし万がいち一捕まったりでもしたら……」「うん。捕まったりしたら…(助けるの?)」喉まで出かかったことばを飲み込んだ。「助けるんだ、たすけるんだ、なんとしてでも助けるんだ」恐ろしいことばが、やはり友人のくちから洩れた。言って欲しくなかったことばが、もれた。「そうだよね、助けなくちゃね」ぼくの口からも、信じられないことばが出てしまった。友人のことばにつられてということだけではない。「正義だよ、せいぎなんだよ」。...青春群像ごめんね……祭り(十四)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~ブルー・まーだらー~

    (二)友わたしはこころの命ずるがままに動いた。そのつもりであり、いまもそう確信している。が、友の新一に言わせれば、「踊らされている」となる。わたしとしては、思うがままにうごき、思うがままに言葉をはっし、そして結果をえている。しかし新一は、「踊らされている」と言う。わたしが新一といついかにして知り合ったのか、ふたりとも明確な記憶をもっていない。いつの間にかわたしの前に現れて、それがいつの間にかあたりまえのことになった。どこに行くにもいつの時も、ふたり一緒だ。そしてふたりは、家族よりも、その間柄は濃密だ。しかし新一のことは、家族の誰にも話していない。新一は、人生を否定的に考えるくせがある。人間は決して満足しない生き物だと考えている。それゆえに、人間は不幸でしかありえないと言う。わたしとは相容れない思考へきがあ...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~ブルー・まーだらー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり!(二十四)

    (京の地四)しかし用心棒として逗留するつもりならば、相応のことをと考えていた。食い詰めた浪人とは言っても、命の恩人であることに違いはない。まして凄腕の武芸者が逗留していると噂になっている、盗賊に狙われる心配はない。枕を高くして寝られるのだ。ムサシにしても、そろそろ腹を決めねばと考えていた。長崎の地に赴くか、それとも京の地に留まるか。どこぞの藩の剣術指南役に就ければと思うが、その術が皆目分からない。庄左衛門に尋ねようにも、あの夜以来ムサシを避けるが如くにしているように思えた。「早速にも見て参ろうか。相手の力量の分からぬままでは、いかにも……」「では、丁稚に案内させましょう」番頭の素早い返事に、ムサシ自身の力量をはかるためと感じて腹も立ちはしたが、さもあろうかと思い直して出かけた。碁盤の目状に作られた道が、ム...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(二十四)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (九)

    観光特急しまかぜの車内にいるふたり。沙織のこころないに焦りがうまれていた。「玉の輿だね」。うらやましがれるかつての学生仲間に、いまさら「別れたの」とはいえない。とにかく、ここのところの正男とのぎくしゃくとした関係を修復したいのだ。そのために、いやがる正男を無理矢理に引っ張りだした。最近の正男といえば、何かというとホテルに入りたがる。「それしかないの!」となじる沙織に、平然として「わかいんだ、おれたちは」とこたえる正男だ。「草食ばっかしなのに、うらやましいわよ。あんまり拒否してると、浮気されちゃうわよ」「浮気ならまだいいわよ。逃げられちゃうわよ、そのうち。玉の輿なんでしょ?」大学を卒業してからもつづいているふたりの友人との会話だ。たがいの彼氏を刺身のつまに週に一度は会っている、気の置けぬ二人からの忠告を聞い...愛の横顔~100万本のバラ~(九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百八十九)

    「竹田!武蔵は、なにしてるの!一度来てくれたきりじゃないの!まさか、もう浮気してるんじゃないでしようね。これ幸いって、遊びまわってなんかいないわよね」「まさか、社長は毎日をいそがしくされてます。おふたりのためにと、もう以前にもまして活動的です。浮気だなんて、とんでもないです。それはもう、あちこちに電話をかけられていますよ」多少の後ろめたさを感じつつも、“得意先の接待なんだから。以前よりも増して、仕事に熱を入れられているのは間違いないんだ”と、己に言い聞かせる竹田だった。「よし!こんやは、近辺の旦那衆だ。れんらくはいれてあるな?よしよし。で?どのくらいの人数があつまるんだ?十人か?二十人か?なに、なんだ?七人に声をかけて、三人だと?バカヤロー、なんだそれは」行ってきました、とかえってきた事務員の返答に、おも...水たまりの中の青空~第二部~(三百八十九)

  • ポエム ~焦燥編~ (敬虔)

    おれはなんとかしてケイケンな気持ちになろうと務めた神のまえでシュウキョウという観念の怪物のまえでしかしスベテがむだだった理知的、論理的ニンゲンのおれには許されるコトのない許されるハズのないことだった(背景と解説)なんとも傲慢な若者でした。今思うと、ある意味、唾棄すべき人間です。カタカナにしてしまうことで、己とは無縁な、いえそれらを超越した人間なのだと思い込んでいるー思い込もうとしている、まったく馬鹿な若者でした。彼女らに、次第に距離を置かれたとしても、自業自得というものでしょう。形の上では己を責めているようにしても、内面では、相手を責めているのです。そして最後には、自己擁護の言葉を羅列して……情けないです、みっともないです。人生も終盤にかかった現在になって、やっと気がつくとは……。これもまた、終活の一つな...ポエム~焦燥編~(敬虔)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (十三)

    むしろのすき間から中をのぞいてみるが、真っ暗でなにも見えない。ぼくのこころの中に((ついて来るんじゃなかった。そもそも無理だったんだ、この計画は。へび女がどこに眠っているのか調べもしないなんて。おりだって?そんなもの、どこにあるんだよ。そんな大事なことを調べてないなんて、ひどい話だよ))と、いかりの気持ちがわいてきた。((不良少年にされて少年院に入れられるなんて、だめだよ。あの賢治さんがどんな風に言われているか、されているか。そのことをいま話したら……友人はなんていうだろう?おく病者って、軽べつされるだろうか。人でなしと非難されるだろうか………))。逡巡する気持ちがおさまらない。((いっそこのまま、だまって帰ろうか。ひょっとして、誘拐とかなんとか、警察に追われることになるんじゃないか?いやだよ、そんなの。...青春群像ごめんね……祭り(十三)

  • [ブルーの住人]第四章:蒼い友情 ~ブルー・まーだらー~

    (一)朝これは、昭和の御代、40年代の話だということを、先ずもってお知らせしておきたい。令和という現代のみよとはそぐわぬ事例や、思考回路が出てくるやもしれぬことをお知らせしておきたい。それは、ここちよい朝の目ざめだった。きのうの朝のことが、まったく嘘のようにさえ思える。これほどにも土地柄のちがいというものが、人間に影響をあたえるのであろうか。いまにして街でのむなしさを知り、また街での処し方がいかにむずかしいかを知った。それは次に来るべきあすの予測をあやまった者が味わう、惨めすぎるほどの挫折――仮に想像の域をだっしないものだとしても――が、多大な不安をあたえる。真っ青な空に、二つ三つの白い雲。その間をぬって風は流れ、その風の流れにのって雀も飛び交う。いま、畑のあぜ道をくわをかついで歩く腰のまがった老人がいる...[ブルーの住人]第四章:蒼い友情~ブルー・まーだらー~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり!(二十三)

    (京の地三)「お名前をお聞かせ願えませんかな。失礼ですが、その出で立ちを見ますと、諸国を巡っての修行途中と思われますが、どちらをお回りで」道々問いかける相模屋に対して、素直に答えるムサシだった。警戒心が湧かないわけではなかったが、相模屋の温和な口調に気持ちが凪いでいった。難破した舟から助け出されて漁師に育てられたことやら、南蛮人だと大人たちに疎んじられてその子供たちとの諍いが絶えなかったことやらを語った。そして村を飛び出して寺の小坊主として生きる羽目になったものの、そこでも先輩小坊主の陰湿な行いに遭い飛び出してしまったことも。そして南蛮人の街だと聞いた長崎方面に向かう途中だと告げた。十日、二十日と過ぎて、ひと月を越えた後のこと。毎日を無為に過ごしているムサシに対して「ムサシさま。吉岡清十郎さまを倒せば、京...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(二十三)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (八)

    松下の居ない部屋で、ひとり取りのこされたユカリ、これからのことを考えると不安でいっぱいになる。自殺という文字があたまをかすめた。“あてつけにやってやろうかしら”しかしそれができない己であることは、ユカリ自身がよく知っている。感情的になりやすいが、それとてすぐに収まってしまう。そしてその因を分析しはじめる。相手に非があってのこともあるが、そのほとんどは己の我がまま、思い過ごし、そして予測ちがいによるものだ。そうなのだ、この分析ぐせが、ユカリをして突発的、衝動的行動をなかなか取らせないのだ。「お前ならナンバーワンになれなくても、オンリーワンになれるさ」なにかの折に、松下がもらしたことばだ。ユカリが「それって、歌でしょ」とつめよると「ばれたか。でも、ほんとだぞ」と、真顔でいう松下だった。“戻ろうかしら、また…”...愛の横顔~100万本のバラ~(八)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百八十八)

    「えっ!?」不意の小夜子のことばに、タキは驚いた。うっすらと涙をうかべる小夜子など、はじて見るすがただった。「ごめんなさい、へんなこと言って。迷惑ですよね」「とんでもない、小夜子奥さま。うれいですよ、あたしは。勝子におしえられなかったことをね、おっぱいの飲ませ方やらおしめの変え方やら。小夜子奥さまにおしえられて、あたしはいま、もうれつに感激しているんですよ。小夜子さんが迷惑でなかったら、母親としてのつとめをね、はたさせてもらいたいぐらいです」「じゃ、じゃあこれから、お母さんって呼んでもいい?」「もちろんですよ、小夜子おくさま。こちらからお願いしたいぐらいです。勝利なんか、ほんとに無口で。それにかえりもおそいですし、さびしくてね」はたから見ればなかむつまじい嫁姑に見えるふたりだった。たがいのこころがしっかり...水たまりの中の青空~第二部~(三百八十八)

  • ポエム ~焦燥編~ (溝)

    おれははじめて彼女が女であることを認識したそしてそのとき俺と彼女とのあいだにふかい溝ができた青春いやせいしゅんだったかもしれない夜の闇のなかで存在した彼女明るい陽のしたで会ったときかのじょは笑顔をみせたそこにはしらない女がいた(背景と解説)すみませんねえ、わけのわかんないことを書いてしまって。でも、分かってもらえますよね?分かるような分からんような、ですか。経験、ありませんか?男友だちだけだとワイワイやれるのに、女性が入ると変にかしこまるみたいな。わたしは合コンの経験がまるでありません。調べると1950年代に「コンパ」という名称のパプが流行したとありましたが、学生時代にまるでその記憶がないんですよね。それにしても、異性である彼女を交際中にどう思っていたのか。そして、異性だと確認したとき、なにを感じたのか。...ポエム~焦燥編~(溝)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (十二)

    境内の入りぐちの大きな木のしたで、街灯の光からかくれるようにしながら公園をのぞきこんだ。ずらりと並んでいた夜店だったが、テントと材木に分けられてきちんと整理されていた。なにも残っていない、空間だけのところもあった。足下を見てみると食べものの残りかすやら発泡スチロールの皿があり、そして割りばしとともに紙コップが散乱していた。ときおり吹く風にカサコソと音をたてる。あわてて人がいるのかと目をこらすが、人影はなかった。そういえば祭りが終わったあとに、小銭ひろいをする輩がいるといると聞いたことがある。先日の花火大会が終わったあとに、懐中電灯があちこちで光っている光景を思いだした。めざす小屋は、大通りに面したかどにある。向かい側は商店がたちならぶところで、人家はなかった。これなら誰かに見られることもなく連れだすとがで...青春群像ごめんね……祭り(十二)

  • [ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕 ~ブルー・ふらぁめんこ~

    (八)満月店をとびだした少年は「こんなはずじゃなかった!」と、自戒の念もこめてつぶやいた。あこがれにも似た感情だった。未知なる、大人の女性への好奇心もあった。おさなくして母親を亡くした少年には、異性が身近にいない。ましてや、ネクラといわれる性格の故に、女ともだちもいない。下卑たわらいい声をあげているクラスメートの輪にも、はいれない。遠目に見るだけの少年だ。しかし不良のたまり場とされるあの店に行けば、異性とでも話をできる、そう思いこんだ。話をーどんなはなしを…?逡巡していたときの、思いもかけぬ女からのことばに、ただただ混乱するだけだった。17歳――RollingAge。翌日の夕方、Go-Go-Snackの店先で、ひとりのフーテンむすめが焼身自殺をとげた。遺書のないこの事件は、世界各地でひんぱつしていた「ベト...[ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕~ブルー・ふらぁめんこ~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり!(二十二)

    (京の地二)しかし用心棒として逗留するつもりならば、相応のことをと考えていた。食い詰めた浪人とは言っても、命の恩人であることに違いはない。まして凄腕の武芸者が逗留していると噂になっている、盗賊に狙われる心配はない。枕を高くして寝られるのだ。ムサシにしても、そろそろ腹を決めねばと考えていた。長崎の地に赴くか、それとも京の地に留まるか。どこぞの藩の剣術指南役に就ければと思うが、その術が皆目分からない。庄左衛門に尋ねようにも、あの夜以来ムサシを避けるが如くにしているように思えた。「早速にも見て参ろうか。相手の力量の分からぬままでは、いかにも……」「では、丁稚に案内させましょう」番頭の素早い返事に、ムサシ自身の力量をはかるためと感じて腹も立ちはしたが、さもあろうかと思い直して出かけた。碁盤の目状に作られた道が、ム...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(二十二)

  • 愛の横顔 ~100万本のバラ~ (七)

    昨夜も口論となった。中食と称される総菜類をならべるユカリに対し「たまには料理ぐらいしたらどうだ!」と、松下がこぼしたことからの口論だった。家政婦じゃないんだから、と言いかえしたものの、おのれに非があることが分かっているユカリ、ただ泣き叫ぶしかなかった。「あたしがどれだけの犠牲をはらったと思っているのよ。ナンバーワンのあたしがおみせを辞めて、ここに来てあげたのよ」しかし松下の反応は冷たいものだった。「なにが来てやった、だ。頼んだおぼえもないのに勝手に住みついたんじゃないか。ナンバーワンだ?ほのかに追い抜かれて、KAYの三人娘にも追い上げられて、青息吐息だったろうが。ことみ・あかね、わかの三人だよ。おれの情報収集力をなめるなよ。投資というのは、情報が命なんだよ。そもそもあの店にかよったのは、なにもおまえが気に...愛の横顔~100万本のバラ~(七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百八十七)

    「いっそ、専属の看護婦をつけてほしいわ」うしろろから、悲痛なさけびにも似たこえがもれた。もちろんそんなことがまかりとおるなどとは、思っていない。しかし皆がみな、大きくうなずいた。「そうね、それもありかもね。婦長の権限でやれるかしらねえ。それに、誰がつくの?新米さんでは心もとないし。あなたたちベテランを付けるのもどうかと思うし」ざれ言に近い提案に婦長が反応するとは、だれも思っていなかった。婦長としては本気でとりあげるつもりはなく、ただのガス抜きとして口にしただけのことだった。婦長の真意をはかりかねて、たがいの顔を見あっている看護婦たちに、「あのお、ちょっとご相談があるのですけれど……」と、竹田の母であるタキがやってきた。「身内じゃないんですが、妊婦さんのつきそいなんぞをやらせていただけるものでしょうか?御手...水たまりの中の青空~第二部~(三百八十七)

  • ポエム ~焦燥編~ (てん・てん)

    焦燥編、スタートです。わがまま男の、愚痴みたいなものですから。どうぞ、聞き流してください。じゃなくて、読み流して……というのは変ですかね。----------“霊の世界は閉ざされてはいない。汝の官能が塞がり、汝の胸が死んでいるのだ”牧師のそんな言葉も、死刑囚には何の意味もなく、まして感動は与えない。否、安らぎを与えられるまでもなく、死刑囚の心は落ち着いていた。その落ちつきは、己以外の人間に対する軽蔑からくる、ある種の快感のようなものだった。“人生の紙くずを縮らして飾り立て、それでピカピカ光っている演説なんてものは、秋の枯葉の間をざわめく、湿っぽい風のように気持ちの悪いものだ”早くやめてくれと言わんばかりの死刑囚の顔には、牧師以上の何かが、神から授けられたようだ。或いは、死神のとり憑いた死刑囚への、最後の贈...ポエム~焦燥編~(てん・てん)

  • 青春群像 ご め ん ね…… 祭り (十一)

    不安な気持ちを共有していると思っていた友人があっけらかんと答えた。「そりゃそうさ。ぼくらの知ってる八百屋は、いつも道路にまで野菜をならべているもん。ついさっき、通り越したところだよ。ほら、看板があるだろ?巻き上げられたテントの上を見てごらんよ。八百善って書いてあるだろ」友人が言うとおりに通り過ぎたかどに、たしかに八百善という文字が書かれている二階建てがあった。目を伏せていたから見えなかった、ただそれだけのことなのだが、しっかりと前を見すえてあるく友人がいかにもおとなに思えた。「大通りを渡って、また路地に入るから。大通りはまだ人通りがあるだろうからさ」否やもなかった。友人の決断は、ぼくにとっては命令なのだ。街路灯のない道での頼りは、うす明るい月明かりだけだ。淡いひかりの下で道の端をそうように歩いた。友人は道...青春群像ごめんね……祭り(十一)

  • [ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕 ~ブルー・ふらぁめんこ~

    (七)ネンネ女が、目を落として言った。「こんや、あたいヒマなんだ。つきあってもいいよ」その声には、どことなく暖かいひびきが感じられる。いつもの投げやりなことば言葉ではなかった。そしてそう呟いた時の女の目は、一瞬間ではあったが恥じらいに輝いていた。が、少年の口からは、何も返らなかった。頬を赤らめ、空のコップを見つめているだけだ。女がそっと、指をからませた。そして、胸元に引きよせようとしたとき、蜂のひと刺しにも似たいたみを頬にかんじた。そしてその痛みに気付いたときには、少年はカウンターの席をたっていた。女には頬のいたみよりも、もの言わざる少年の目の光りのほうが、強くこたえた。「わざわざ女からさそってやったのに!なにさまのつもりよ!」「まだネンネの男の子なんだよ、かんべんしてやんな」バーテンの差しだした水を一気...[ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕~ブルー・ふらぁめんこ~

  • [宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり! (二十一)

    (京の地一)京の地にて。野宿には慣れているムサシだが、京の地勢特有の底冷えのする夜はこたえる。夜露をしのげる良い場所はないかとうろつくムサシの耳に、「だれぞ、お助けくださいましい!」と、悲鳴まじりの声が聞こえた。普段ならば気にも留めずに立ち去るムサシだが、今夜の宿にありつけるかもしれぬと、その声の方向に大声を張り上げながら駆けだした。その声に驚いた追いはぎは、一目散に逃げ出した。「おおきに。おかげさまで、助かりましてございます」主らしき男が頭を下げるも、月明かりの下で見るムサシのあまりの異形さにーぼさぼさ頭で顔は赤黒く、深くぼんだ眼の色は青い。わし鼻が険しげな顔に見せ、ひげも伸び放題だ。更には薄黒い中に赤やら藍やらの点模様がこびりつく羽織らしき衣の下は、茶色っぽい着物と膝下ほどまでしかない袴姿だった。そん...[宮本武蔵異聞]我が名は、ムサシなり!(二十一)

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