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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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岐阜市
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伊万里市
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2014/10/10

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  • ポエム 黎明編 =出せなかったラヴレター=

    好きですびんせんの中央にちいさくひと文字つくえの上で埃をかぶってるいくどか封をしてそして開いてあなたの知らぬところでしゅんじゅんしていたぼくそしてあすには嫁ぐあなたきょうという今また封をする出すことのないラブレター=背景と解説=少女趣味に思われるかもしれませんが、よく言われる「恋にこいしてる」状態かな、と思うことがありました。醒めてる、という思いがぬぐえないでいました。どうもね、悲劇のしゅじんこうになりたがる自分がいるんですよね。というか、ひげきの主人公になってしまう自分が見えてしまう?いや、そこに至るのではないのかと不安になってしまう。ナルシスト……そういうことなのでしょうか。とにかく、自分が好きですきでたまらないのです。いや、好きでいなければ生きていけなかった?…………ポエム黎明編=出せなかったラヴレター=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百四十)

    小夜子にしても、武蔵のいない自宅にもどったところで、千勢をあいてに料理談義ぐらいがせきのやまなのだ。正直のところ、もう料理については興味が失せている。いや、おさんどんは千勢に、と決めてしまった。どころか家事全般をまかせる――というより、投げ出してしまった。なにをどうあがこうと、千勢には勝てぬと思いしらされた。「勝ち負けじゃないぞ、気持ちだ、きもちだよ」。武蔵がいう。慰められた。そう思ってしまう小夜子で、ならばいっそそれには手を出さぬほうが、小夜子の精神状態にはいい。なまじ張り合おうとするから、また千勢を追い出したくなるのだ。武蔵にほめられるのは己だけでいい、いや、そうでなければならない、気が済まないのだ。「もう。竹田ったら、そればっかり。いいのよ、きょうは。そうだわ、竹田。お食事していきましょう。あたしの...水たまりの中の青空~第二部~(三百四十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十九)

    「いいのよ、たまには。武蔵は出張でいないし、千勢には遅くなるからっていってあるから」「ですが、小夜子奥さま。もう陽がかげっています。ご自宅に着くころには、それこそ……」あわてて、小夜子を制止しようと必死になる竹田だが、そんなことをきく小夜子ではない。鼻であしらって、おわりだ。「いいのよ、竹田は帰っても」。それで終わりだ。むろん、そんなことで竹田が帰ってしまうことはないことは、小夜子にはよく分かっている。竹田にしても、社命とうことだけで従っているわけではない。小夜子には恩義がある。なんといっても、姉である勝子の恩人なのだ。「なんのために生まれたの?家族を苦しめるだけだなんて……」。「ただただ病気をせおってだけの、こんなつまらない人生なのね」。厭世主義にでもとらわれてしまったような愚痴を、毎日のようにもらして...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十八)

    「タケゾウ!」突然にすっとんきょうな声を上げて、小夜子が立ち止まった。「どうした?なにか、欲しいものを見つけたか?約束だから、なんでも買ってやるぞ。小夜子のおかげで商売も順調なことだし」「ここ、ここ、ここに入ってみたい。歌声喫茶、カチューシャですって。カチューシャって、ロシアよ。アーシアの国よ」目をかがやかせて、武蔵の手を引っぱる。昭和30年に、歌声喫茶「カチューシャ」と「灯」の二店が誕生した。店内のお客全員でうたうということが、連帯感を生まれさせてくれる。集団集職で上京してきた若ものたちにとって、さびしさを紛らわせる心のよりどころ的な存在になっていった。「ああ、楽しかった。みんなで歌うって、素敵ね。それに大きく口をあけるのも、こころが開放されるわ。竹田も、そう思わない?」うっすらと汗をかいている小夜子、...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十八)

  • 半端ない読後感:トルストイ作「アンナ・カレーニナ」その参

    はじめて読んだ折には好きになれなかったリョーヴィンが、いや反感すら抱いてたのに、いまでは涙を流さんばかりに読んでいます。というのもですね、彼のこころからの吐露を知るたびに、キチイに対する思いの丈を知るたびに、どんどんわたしの中に入りこんできます。こんなにも純真な青年だったのか、こんなにも純朴な青年だったのか、こんなにもわたしと似ている青年だったのか――ちょっと脱線気味ですかね。いやもうですね、アンナの章を読むのが辛いんです。なのに、ああそれなのに、リョーヴィンとキチイとのままごと遊びのような恋に触れていると、しあわせ~~なんです。ふわふわとした雲の上をごろごろと寝転がるような、そんな温かい気持ちになるんですわ。に対して、アンナとブロンスキー。許せないです、アンナの家出が。お読みになられていない方のために、...半端ない読後感:トルストイ作「アンナ・カレーニナ」その参

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (十二)捕縛

    松平周防守邸では、一年のうちの三月・五月とたてつづけに二度おし入った。それまでの禁を破ったのだ。どうにもそれまでの次郎吉とはおもえない、まるで自暴自棄な所業がどこからきたのか、次郎吉もまるでわかっていない。ちまちました小商いに飽きたともいえるし、己をいつわっていることへのうっくつ感もあるだろうし。これまでの己とはちがうということを示したかった――だれに?世間?おなじ長屋に住むおせいちゃん?――のだが、けっきょくのところ、次郎吉にもわからないでいた。松平周防守邸では、長局の障子紙に、わざとのぞき見の穴を開けてまわった。ご乱行ぶりを知っているぞとばかりに、だ。また、他の大名屋敷ではそれぞれの名器らしき陶器を、片っぱしから壊してまわった。盗み出しても、その売買によって足がつくことを知っているからだった。しかし食...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(十二)捕縛

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (5 人間蒸発

    こんにち、人間蒸発が頻発している。もしかすると、この人間蒸発も、人間のきずなを取りもどすための一方法かもしれない。ある人が言った。「理由のない、気まぐれの行動があってもいいじゃないですか」そんなことを言えるのは、断絶感にとらわれていない人間のことばにすぎない!孤独という地獄ではなく、断絶という地獄の中でもがいているのは、この俺だ!俺のすべての言動は、この断絶感からにげだすために他ならない。人間とのつながりを求めるものだ。こうして、すべての言動を解析しようとするのは、理由づけするのも、断絶感からの逃避のためだ。しかし、あくまでとうひであり、解決ではない。いつまでもつきまとう。青春群像『断絶』ということ。(5人間蒸発

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (五)コークハイドギマギしながらも、「失礼します」と女に声を掛けて座る少年だ。しかし女からは、何の反応もない。壁に寄りかかりながら、目を閉じている。眠っているわけではないようだ。かすかに指が動いている。「何にします?」「コークハイ、ください」「はいよ!コークハイ、ね」突然、女の目が開いた。そして、軽蔑のまなざしを少年に向けた。“コークハイですって!ふん、お子ちゃまね”少年の耳に、女の声が聞こえたような気がした。しかし少年は無視する。差し出されたコークハイを半分ほど飲み込むと、ジンと快い刺激が喉を襲う。ゆっくりとグラスをカウンターに置くと、耳に入り込んでくるバンド演奏に聞き入る。そしてそのジャズ演奏に、身を委ねる。少年の体に染み入ってくる生のジャズに、次第に陶酔していく。[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 =はつこい=

    淋しいよるが訪れて心にきりがかかる時いつも思うあのひとを初めてであったなつの午後あの日から心にすみついた人何も云えずにいたけれどあなたを想うだけで倖せだったことばを交わすこともできずにただ見つめあうだけのいちねんでしたであったときとおなじなつの日にあの人から封ひとつ“好きよ”ひと言ありました夏がすぎこのはが散るさびしい秋の黄昏にとおい町に行ったと風のたよりに聞きましたほんの少しのゆうきが持てずに一歩をふみ出せなかったぼく年上のあなた……大人のあなた……子どものぼくほろにがい初恋でした=背景と解説=文芸部に所属していた定時制高校時代のことです。一年生のわたし、そして四年生の先輩。(定時制高校=夜間の勉学で4年間通います)平安美人を思わせる、清楚な女性でした。でも、とても芯の強い女性でした。わたしが書き上げた...ポエム黎明編=はつこい=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十七)

    「冗談いうな!疲れなんかあるもんか!ひと晩寝れば、十分に回復してるさ。それに、昨夜はたっぷりと、小夜子から力をもらったことだし。小夜子を抱くと、力がみなぎってくるんだ」耳元でささやく武蔵に、顔を真っ赤にしてうつむきながら「ばか!そんなこと。ひとに聞かれたら、どうするの」と反駁した。「聞かれても構わんさ。大声で言ってやろうか?恥ずかしがってどうする。新しい女は気にせんのじゃないか、そんなこと」ぐっと小夜子を引きよせて、道路の真ん中に立ちどまった。けげそうに、ふたりをかわして行き交う人人人。「武蔵、どうしたの。みんな、びっくりしてるわよ」「小夜子をだれかに取られんように、しっかりと捕まえているのさ。俺の大事なだいじな、小夜子をな」「もう、武蔵ったら」嬉し恥ずかしの小夜子。顔を赤らめつつも、くちを尖らせる。「ほ...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十六)

    久しぶりの武蔵とのお出かけにもかかわらず、きょうの小夜子は不きげんだった。どうにも気ずつなさが取れないでいた。いつもならば武蔵の腕にしがみつく小夜子が、ひとりでさっさと前をいく。三歩下がって云々など、まるで気にもとめない小夜子だ。銀座をかっぽする多くの女性たちも、みな一様に視線をそそいだものだ。ひそひそと陰口をたたかれようとも、小夜子にとっては賛辞以外のなにものでもない。「小夜子。どうしたんだ、小夜子。きょう今日はえらく不きげんじゃないか。会社で、なにか、あったのか?専務にいや味でも言われたか?それとも、お腹でもいたいのか?」からかい半分に声をかけた武蔵に、みけんにしわを寄せて小夜子が答えた。「武蔵がゆっくり過ぎるのよ!男でしょ、早足で歩きなさいよ!」「おう、そいつは悪かった」。こいつはやぶ蛇だったと小夜...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十五)

    「それで期限は、とりあえず社長の終了宣言がでるまでだ。といっても、二三ヶ月のことだろうさ。相手がばんざいするよ、売上ゼロになっちまうんだから。それに、ほかもいろいろと手を打つことだし」顔の前で手をふりながら、五平がいう。自信たっぷりなその口ぶりに、安堵感がただよった。しかしひとり竹田だけが納得せずに、なおも聞いた。「どんな手ですか?」。場を去りかけた社員たちが、ふたたび視線を五平にむけた。「なんだ、竹田。気になることでもあるのか?」質問に答えることなく、語気をすこし強めた。「はい。たぶんみんなもそうだと思いますが、そんなむちゃな攻勢をかけて、富士商会自体は大丈夫なのでしょうか?専務、覚えてみえますよね。あの、給料の遅配にはじまって、その、一部の社員がやめていった……、あのときのようにもまた、なるんじゃない...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十五)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (十一)乱心!

    しかし実の所、次郎吉も、町家に一度だけ入り込んだことがある。七十両を盗んだまでは良かったが、その後「店を閉めてしまった」と聞き、わざわざ再度忍び込んで、金子を返したのである。ある意味、お人好しの盗人ではある。もっとも、町家を敬遠するのには、大きな理由があった。大店では生命よりもお金を大事にする習慣から戸締まりも厳重で、入ることはおろか出ることすら難しいゆえでもあった。次郎吉の普段の生活は、おとなしいものであった。好きな博打にしても、決して大勝負はしなかった。そして、殆ど負けている。たまに勝てた時に、吉原で遊ぶくらいのものだ。それにしても大勝負や、豪遊することをためらうのは、何故か?表稼業として、細々と小間物屋を営んでいる次郎吉である。ふんだんに一両小判を使うわけにはいかない。急に金回りが良くなったと思われ...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(十一)乱心!

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (4 断絶感

    断絶感の、想像を絶するぼくへの圧迫は、他人にうったえることのできないものだ。理解してもらえるはずがない。「他人の顔」という小説において、安倍公房氏は実験的に、社会との断絶を余儀なくされた男に、社会復帰いや人間のつながりを持たせようと、ある方法を考えだした。顔をやけどによって失った男が、ふたたび他人の顔をつかって(整形手術)、社会復帰をはかろうとするものだ。そして、そのもっとも効果のある方法として、夫婦間のあいじょうの再燃をきたいした。大多数の人間が別人として認識したが、ゆいいつ誤算がしょうじじた。男女間のあいじょうという、この世で最高の人間のきずなを見わすれていた、ということだ。[あなたでしょ。はじめから分かってたわ]そんなことばを、あびせられたのだ。ゆかい、愉快!青春群像『断絶』ということ。(4断絶感

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (四)陶酔する入場料を支払ってそれからはじめて、幻想の世界へと入ることができる。そして二重合わせのまくの間を抜けて、ミラーボールから発せられる色とりどりの光線の洗礼を受ける。ここでたじろぐことなく、少年は歩を進める。黒服の男は幕の外からは中に入らない。ここには二度目となる少年は、迷うことなくカウンターへと向かう。「いらっしゃい!」バーテンの声が、少年の耳に心地良い。常連客を迎えるが如きの声掛けが嬉しい少年だ。といって、初めての時にも同じように声掛けがあったけれども。「どうも」カウンターの隅に進む。いかにも常連客が座る席の筈だと、少年は考えている。しかし今夜は先客がいる。ブランデーらしき、大きなグラスを傾けている女がいる。ひとつふたつ席を空けてと考えた少年に、バーテンが言う。「すみませんね、お客さん。女性の...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 =壊れた玩具=

    うみの夕陽かわに映える夕陽やまをあかく焦がす夕陽-おれの好きなものあめに打たれる紫陽花七色に輝くにじ雲をあなたに運ぶかぜ-おれの好きなもの昇りくるたいようを背の少女朝のうみべの少女流れ着いたかいがらを見つめる少女-おれの大好きなものはたちの女の子くるくると動くひとみの女の子鼻に小じわを作ってイーする女の子-おれの嫌いなものkakoって呼んでとむちゃを言うカコ声に出さないで呼んでと口をとがらすカコ昨日も今日も会っているのに明日は?となみだぐむカコ-おれの大嫌いなもの=背景と解説=RollingAgeという言葉をご存じでしょうか。今じゃ、死語でしょうか。中村あゆみさんのシングルCDではなく、1960~70年代に流行った言葉のはずなんですが。「転がる(揺れ動く)年代」ということに、直訳だとなりますよね。そうなん...ポエム黎明編=壊れた玩具=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十四)

    「いや。竹田の心配、あんがい当たってるかもよ。じつは、おれも少し気になってることがあるんだ。実害は出ていないけれども。日の本商会という名前さ、きいた気がするんだ。木村商店でなんだけど、あそこの大将は、うちの社長に恩義があるから教えてくれたんだ。けど、価格交渉はうけそうな気がする。奥さんと、こそこそ話してるんだ。で、おれがちかづくと話をやめちゃうんだ」と、山田が声をあげた。「気のまわしすぎじゃないのか?おれの地区と山田の地区とでは、相当にはなれているぞ。ほかの奴、どうなんだ?なんか変なことに、気づかないか?」山田をけん制しつつも、不安げな顔でみなに問いたたしてみる。するとあちこちから「そういえば、見慣れない車をみかけたような。ぼくが着くと、荷物のつみおろしを止めちゃうこともあったです」。「ああ、ぼくも経験あ...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十四)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十三)

    かたい決意を示すがごとくに、ぐっと拳をにぎりしめて力説した。「服部、半値で仕切れ。いや待て、値引きはいかんな。元の値に戻すのがむずかしくなる。うん、そうだ。おまけを付けてやれ。同数の商品をおまけすると言え。実質半値だ。いいか、半値で仕切れと言われても、絶対だめだ。あとあとの商売がやりにくくなる。いまの売掛分についてもな、同数の商品をおまけするとな。ただしだ、条件をつけろ。一品目でも、わずか一個でも、他社の商品を見つけたら、そく品物を引き上げるとな。で、取引停止だと」ざわつく声を、強い口調で抑え付ける。「いいか、徹底しろよ。一品目ぐらいとか、一個だけならとか、ぜったい見逃すな。それから、富士商会で取り扱っていない商品だからなんてふざけたことは言わせるな。同じ物をかならず納入すると言ってやれ。赤字になってもか...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十二)

    小麦色にやけた小夜子に、富士商会の面々がいちようにおどろいた。「小夜子さま、大変身ですね」「すごく健康的で、いちだんと美人に見えますです、はい」「小夜子さまなら、ミスユニバースに、あ、だめか。ミセスなんだ、もう」口々に褒めそやす。その一人ひとりに「ありがとう、お世辞でもうれしいわ」と、応える小夜子。武蔵はうんうんと頷いている。「みんな聞いてくれ。小夜子を、社長づき営業部員とすることに決めた。かんたんに言えばだ、接待役だな。交渉事はしないけれども、場に同席させる。どんどん取引先を、会社に引っ張って来い」「やったあ!」「うわあ、すてきい!」「よおし、これでもう!だぜ」ばんざいをする者、こぶしを突きあげる者、拍手をする者。そして、泣きだす者さえでた。「おいおい、どうした。泣くことはないだろうが」「だって、だって...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十二)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (十)知恵

    次郎吉に、盗みにかけてそれ程の才能があったわけではない。ただ、建具職・鳶職のてつだいが、いまになって幸いしているのである。それに付け加え、稲葉小僧なる盗賊のことをしらべたにすぎない。稲葉小僧は、天明の初年(1780年)頃より、大名屋敷をおそう盗賊として有名になった。警備の手うすさを調べあげての犯行であった。盗むものは、金子はもちろんのこと着物・小間物、はては大名屋敷のたいせつな道具類も盗み出した。目利きができたのである。というのも、稲葉小僧は武家の出であった。淀藩稲葉家につかえる武士の次男として生まれた。が、幼少の頃よりの盗癖のため、ついには入れ墨の上、「たたき」の刑にしょせられた。親元にいることができず、勘当同然にとびだした。食べていくためには働かねばならぬものの、武士の出身ゆえに丁稚奉公をきらった。そ...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(十)知恵

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (3 或先輩

    或先輩は、このぼくに「あなたには夢がないのね!」と、痛烈なる批判をされた。そしてまた、作品=地獄への招待(後の、愛・地獄変)・夏の日のデート等について、「上手だけど、嫌いだわ」。強く、きびく批判された。「学生として書くべきものではなく、また、文集に載せるべき作品ではない」。叱られた、なじられた。そのとき、その先輩は恋愛中だった。だからこのぼくの、断絶という世界より発せられた、文章や作品のテーマを、極端にきらわれたのだろう。そして学生という観念でもってぼくを見られ、“ませた男”と感じられたのだろう。しかし、ぼくは学生である前に人間だ。個人的な宿命にも、さいなまれている。ぼくの作品に、芥川龍之介の傾向が多分にみられると言われるのも、この断絶感ゆえだろう。青春群像『断絶』ということ。(3或先輩

  • [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・れいでぃ~

    (三)滑稽だった意固地なまでに、かたくなな表情でとおり過ぎる。それはいかにも滑稽だった。少年をお子ちゃまとよぶ級友たちに見られたならば、「お子ちゃま、お子ちゃま」と、また囃したてられるだろう。よっぱらいが少年をからかいつつ、すれ違っていく。「おにいさん、こんやはだれをなかせるつもりだい?」しかし少年はそれを、遊び人とみられている証拠だとほくそえむ。少年の足が、おお通りからうら通りへと向く。細長いビルがたちならび、バーやらスナックやらの看板が目に入る。そしてその中のひとつのビルで止まった。濃茶のガラス戸で、取っ手がにぶい銀色に光っている。そしてアクセント的に右の上部に、小さくかがみのように反射する銀文字で[パブ・深海魚]とある。少年の心が、期待に大きくふくらむ。少年の手がドアをおす。そこは、光と音が調和よく...[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・れいでぃ~

  • ポエム 黎明編 =流れ星=

    夜空に星がひとつ浮かぶひと筋ながれつつ消えるその間いち秒“わたし以外のだれも見ていなかった”いやいやわたしの気付かぬだれかがまたわたしのように“だれも見ていなかった”とつぶやいているだろうそして“願いをかけていたら”とつぶやいたことだろう=背景と解説=自分だけの……自分だけが……若者にありがちな、独占欲です。それとも……年老いたいまでも、でしょうか?ポエム黎明編=流れ星=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十一)

    よくじつのこと。久しぶりの武蔵の訓示だ。全社員が、直立不動でたっている。「きょうは、みんなを褒めようと思う。みんなだ、全員だ。俺以外の全員をだ。そしてみんなして、社長であるこの俺を、御手洗武蔵をしかってくれ」何事かとざわつく面々に、「みんなの頑張りのおかげで、富士商会の業績はのびている。ひと頃ほどではないにしろ、同業他社よりはるかにいい業績だ。しかし気になることが出てきた」と、切りだした。「本来なら、社長である俺が、もっと早く気づくべきだった。かるく考えすぎた。富士商会は、仕入れ値をおさえることには長けている。そのことに胡坐をかきすぎたかもしれん。一部とはいえ、集金時に値引き要求をする店がある。小額だったゆえに、俺もやむ得ぬかと決済してきた。しかし、よくよく調べてみると、かたよった地域に限定されていること...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十一)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十)

    「おおい、そろそろかえるぞお」。遊びたりないわと、不満げなかおをみせるかと思った小夜子が「はあい!」とあかるく返事をしてきた。どうやら砂浜をはしることに疲れたらしく、宿にもどりたがっていることがみえた。もともと体力のあるほうでは小夜子では、海で毎日を過ごす娘の体力にかてるはずもない。盆地育ちの小夜子の毎日といえば、本を読むかコーラスに興じるか、そこらあたりが関の山だ。しかも女王然とふるまってきた小夜子にはかしずく者がおおく、正三を筆頭にして武蔵もまたそれを楽しんでいる。そしてその鼻っ柱をおったのが、小夜子が敬愛してやまぬアナスターシアだった。彼女の亡きあとのこころのすき間を埋めたのが武蔵だった。小夜子のどんなわがままもむちゃぶりもすべて受け止めている。当初こそあしながおじさんとみていた小夜子だったが、いま...水たまりの中の青空~第二部~(三百三十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十九)

    焼きものに興味をいだいている父親が、とつぜんに割りこんできた。己の自慢ばなしのごとくに、有田焼の起源やらを東陶と話しはじめた。「明治以降なんですなあ、有田焼という名称がうまれたのは。江戸時代には、三川内焼、波佐見焼、鍋島焼などとともに、伊万里焼と呼ばれていました。秀吉の朝鮮出兵にさかのぼるんですよ。鍋島藩の藩祖である鍋島直茂が、朝鮮の陶工たちを日本に連れ帰ったんですなあ」商売になるかと話にききいる武蔵だが、同好の士だと勘ちがいをして、ますます話に熱がはいってきた。また始まったとばかりに、ほかの家人たちはそそくさとその場を立ち去っていく。「あまり遅くならないうちに帰りなさいよ」と祖母がいい、そして、老人が苦言を残していった。「甘やかしすぎだ、れいを」「大丈夫ですよ、お義父さん」と立ち上がって、父親が最敬礼を...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十九)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (九)盗み歴

    次の襖を開け、廊下をわたり、蔵の扉を前にした。大きな南京錠にへきえきしながらも、鋸で切りにかかった。錠前師の仲間を、と考えないではなかったが、次郎吉はひとり仕事と決めていた。「ニャーオ!」突然の猫の声に、すぐさま床下に駆け込んだ。暫く身を潜めていたが、そっと錠の切断を開始した。幾度か身を潜めつつも、小半刻ほどで、やっと切れた。しかしすぐには入らず、見回る人間のいないことを確認したのち、油を垂らしてから戸を引いた。が、容易に開こうとはしない。力を入れる。「ゴトッ、ギー」。鈍い音を立てて、動いた。少しの間身を潜めていたが、誰も気付かないことを確認して中に入った。天窓から差しこむ月明かりを頼りに、壁づたいに歩いた。奥に、目指す千両箱らしきものが五箱、山積みになっている。蓋を開ける。山吹色の小判がザックザック、と...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(九)盗み歴

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (2 ある後輩

    ある後輩は、このぼくを「恐い」と言う。そしてその理由の多くを語ろうとしない。が、その少ないことばから推察するに、その後輩のことばを引用すれば、“人間として書いてはいけないことを書きすぎる”のは、「神をおそれていない証拠」と、なりそうだ。そして神=社会をおそれぬぼくは、ときに傲慢となり、時にエゴイストとなり、ときに、英雄とのさっかくを起こしたりする、ということらしい。ぼく自身、その傾向があることには気がついている。〔岐路〕という作品=自己不信というテーマのさいに、自分を徹底解剖して真実をつかみえたと思っていた。が、それは頭の中でのことであり、実体にはむすびつかぬものだった。青春群像『断絶』ということ。(2ある後輩

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・れいでぃ~

    (二)不安だった川のなかに投げ込まれた石でもって波紋をよんだとしても、そのあとにくる平穏な水面をかんがえるとき、不安だった。このかいらくの巣である街にたった独りでいることが、そこに溶けこめないことが、なによりも不安だった。そしてそのふあんは、うろうろとうろつく野良犬が出現すれば、少年の独歩のいみが跡形もなくきえさるかと思える不安だった。しかし幸か不幸か、この街には、はらをすかせた狼はいても残飯をあさる豚はいても、野良犬はいない。まして少年はいない。同世代の少年たちに、お子ちゃまとやゆされる少年はいない。どんなに大人を演じても、けっして認めてはくれない。どんなに大人の型――タバコ・さけとすすでも、お子ちゃまと揶揄されてしまう。濃茶のストレッチズボンにのうちゃのコール天のスポーツシャツ、そしてうす茶のコール天...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・れいでぃ~

  • ポエム 黎明編 =階段=

    花にかざられ人々にみまもられお前はすがたをあらわすながい階段のおまえのこころはだれもが知っているが誰もかたらない浮浪者のボッペが道ゆくひとに“ボン・ジョルノ!”と声をかけたなのにおまえにはただそのくさいしりをのせただけしかしそれでもおまえのこころはだれもがよくしっていただからはなは咲きみだれひとびとの心はあかるいおまえがいなくてしあわせの階段がたたれたらわかいこいびとたちはどこでアイをかたりあうというのかまったくおまえはすてきなやつだ!=背景と解説=オードリー・ヘップバーン主演の「ローマの休日」という映画、ご存じですか?好きなんですよね、この映画。20世紀最高のラブ・ロマンス映画ではないでしょうかね。いえいえ、映画史上と言い換えても良いかも?そんな思いから創り上げたイメージです。ポエム黎明編=階段=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(三百二十八)

    かなりの距離があり、小夜子も目をほそめてみるのだが、なかなかにだれもみえない。「武蔵、武蔵。あそこの木のかげに、だれかいる?」娘の父親に聞こえぬようにと、耳打ちをする。「うん?どれどれ。ああ、あの木か?うーん、遠くてわからんなあ」「こうさんだわ、れいちゃん。お友だちなのよね、ちっちゃい子なの?おとしは?」娘は、くくっと声をあげながら笑っている。そして指さした手のひらを、まるでおいでおいでと呼ぶように上下に動かした。「まさか、しっぽをふるってことは、犬かな?」「せいかい!大っきな、柴犬なの。でも、のら犬なの。あたしは飼いたいんだけど、お父さんがだめだって。どうして?って聞いたら、弟が怖がるからだって。弟がいけないのよ。石なんか投げるもんだから、犬が吠えたの。体が大きいでしょ?声もね、大きいの。それで、弟のや...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十八)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十七)

    「なんて女だ。自慢をするなんて、聞いたことがない」「まったくです、まったくです。男も男です。女の言いなりになっております」聞こえよがしにささやきあう、男ふたり二人。隣にすわる女が、あわててわき腹をつついてる。「やめなさいって、あなた。ほら、あれっていれずみじゃないの?二の腕のところに。命とかなんとか……」「そ、そんなことは……」汗で浮き出ている朱色の文字が、麦わら帽子とサングラスとに相まって、暴力団の風体をかもしだしていた。「ハハハ、これですか?」サングラスを外しシャツをまくりあげて「妻の名前です。流行っているんです、愛のあかしというわけですよ。どうです、あなたも」と、武蔵が声をかえした。小夜子に恥をかかせたくないという思いと、屈託のない娘によけいな警戒心をいだかせたくないと考えた武蔵だった。「あ、そりゃ...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十七)

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