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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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住所
岐阜市
出身
伊万里市
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2014/10/10

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  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十六)

    真っ青な空に、ひとつふたつと雲がうかんでいる。太陽は正天にあり、ギラギラと輝いている。秋に入ったとはいえ、まだ汗ばむような陽気がつづいている。白い筋のように水平線があり、視線の先に貨物船がすすんでいる。砂浜でレースのフリルがついた白い水着姿に、ピンクの縁に黒いレンズのサングラスをかけた小夜子が、「おおおおーーい!」と、大声をはりあげた。数人のグループが、あちこちに点在していて、おどろきの目が小夜子にそそがれるが、まるで動じない。“あたしの幸せを、みんなにも分けてあげる”とばかりに、胸の前で合わせた両の手を、大きく空にむかって開放した。「なにをあげたんだ?神さま、よろこんで受け取ってくれたか?」「やっと起きた、武蔵が」いつもの膨れっ面を見せる小夜子。そしていつものように指で押して、武蔵がしぼませる。ぶふっと...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十六)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (八)再見参!

    屋敷からの帰り道、次郎吉は今夜の収穫の大きさに胸が高ぶっていた。なんと二日後の夜、茶会の為に主人が外出するというのである。本家筋にあたるため、お泊まりになるはずだとも。命の洗濯をするから、お前も来いというのである。次郎吉は、小躍りしたい気持ちである。主人の居ない大名屋敷ほど無防備な屋敷はない。みな、酒に溺れて寝てしまうのが常であった。次郎吉は、その日以外にないと決断した。その夜、薄曇りの天候で月明かりも弱かった。忍び込みには絶好である。屋敷内は、シンと静まり返り、木の葉の落ちる音さえ聞こえそうである。みな、鬼の居ぬ間にとばかりにどんちゃん騒ぎに興じた。そして、疲れ果てて眠り込んでしまった。次郎吉は音を立てぬよう、抜き足・差し足と、長局奥向に近づいた。半開きの障子から中をうかがうと、飲みつぶれた家臣たちが寝...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(八)再見参!

  • 青春群像 『断絶』ということ。 (1 辞書によると

    断絶=①絶えること。「家名ー」②断ち切ること。「国交ー」③精神的つながりが切れ絶えること。しかしこの僕にとって――人間社会との断絶状態のぼくにとっては、これらの解釈のなかに、つなわたりを感じる。そしてことば少ないその説明が、どれほど、より地獄的にひびくことか……。繋がり=①つながること。関係するもの。②ほだし。きずな。自分にとって、この世でいちばん縁遠いことばたと知ったときの、苦しみ・悶え、……あヽ。そして、なによりの歓喜!そしてことば少ないその説明が、どれほど、より愉悦的にひびくことか……。青春群像『断絶』ということ。(1辞書によると

  • [ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

    (一)腹立たしいもの見上げる空のどこにも星はなく、月もない。すき間なくおおいかぶさる、くもくもくも。なん層にもかさなる雲からは、今にもぽつりぽつりと雨が降りそうだ。少年の心内をうつしだしている空もようだ。一点の晴れ間もないそのやみぞら――一点の曇りもないその闇空のごとくに、少年のこころは沈みきっていた。どこからともなく、静かにひと筋の糸となって降るあめ、少年は好きだった。きっても切っても、それは糸としてつらなる。そして次には、ボトリボトリと水滴となっている。そしてまた、糸のいろだ。トウメイであるはずなのに、白となりあるいはぎん色にかがやく。赤になり青になることもある。あたりが発する光をからだ全体で受けとめ、それに浴されながらも、それ自体が美しいということが良い。そうおもう、少年だった。しかし今夜の少年には...[ブルーの住人]蒼い情熱~ブルー・れいでい~

  • ポエム 黎明編 =捧げる詩=

    白馬に乗って見た夢はパリの空の下そびえ立つエッフェル塔――見上げたっけいかめしい姿の凱旋門――見下ろしたっけ時代遅れのマロニエの並木道――見ていたっけ白馬に乗って見た夢はパリの空の下清く流れるセーヌ川恋人の語らう裏町やせこけたのら猫の声――ニャーオ!真っ黒の髪茶色の瞳――名付けて“ニケ”白馬に乗って見た夢は……目が覚めた少年の腕の中にミケ猫一匹――贈り物=背景と解説=幸せな時期でした。ただ、まだどこか、不安がる自分がいましたね。エッフェル塔=未来凱旋門=現在並木道=過去といった感じでしょうか。ニケというのら猫に、投射しています。コロコロと笑う少女で、気まぐれというか移り気というか、とに角振り回されたものです。ポエム黎明編=捧げる詩=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十五)

    「武蔵、武蔵。どうして、どうしてなの?あたしがお姉さんとよぶ人は、どうして死んじゃうの?あたし、ひょっとして死神なの?あたしが慕う人は、みんな死んじゃうの?武蔵、武蔵は大丈夫よね?あたしを残して死んじゃうなんて、そんなことしないよね?いやよ、いやよ、そんなの。あたし、もう、耐えられない!」激しく泣きじゃくる小夜子をしっかりと抱きしめながら「大丈夫、大丈夫だぞ。俺は大丈夫だ。小夜子を淋しがらせることはない。小夜子を幸せにするために、俺はこの世に生まれてきたんだから。前世からの約束ごとなんだよ。心配するな」と、そっと耳元でささやいた。“我ながら名文句じゃないか。恋する男は詩人になるというけれど、ほんとうかもな”己のことばに酔う武蔵だったが、小夜子もまたそのことばに酔った。「そうよね、そうよね。武蔵はあたしを幸...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十五)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十四)

    「お母さん、居るの?ああ良かった。急にくらくなって、誰もいなくなっちゃって。でね、ビーフステーキとかいうお肉を食べてみたいの。それでね、先生にお願いしてほしいの。ほんのすこしの時間でいいから、また外出させてくださいって。小夜子さんにもお願いしてくれる?さいごの我がままを聞いてくださいって。大丈夫よ、小夜子さんはおやさしいから。お母さん、いる?お願いね。あたしの心残りは、それだけなの。お母さん、お母さん。お願いね、お願いね。ごめんなさい、眠くなってきちゃった。すこし眠るわ、すこしねむ、、、」「勝子、勝子、勝子!」「勝子さん、勝子さん、先生が来てくれたから。元気にしてもらえるから。ほら、目を開けて!」「しっかりしなさい、勝子!お前は芯のつよい娘だろ?こんなことに負けちゃいけないよ!勝子!勝子!」母親の呼びかけ...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十四)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十三)

    それからわずか五日後のこと、小夜子との約束をはたさぬままに、勝子がこの世を去った。無念な思いをいだいたままの死であったはずだが、あの日のたった一日だけの外出が、無味乾燥な勝子のそれまでの一生に華を咲かせた。衰弱していく己の体を、愛おしく感じた勝子だった。きょうの空は快晴に近い。うすい雲らしきものが浮かんでいるだけだ。いまひと筋のひこうき雲があらわれた。左から右へとながれていくそれを見上げながら、勝子の口からゆっくりと言葉が発せられた。「ありがとう、小夜子さん。うれしかったわ、ほんとに。あの日いち日のことは、あたしにとって最良のいち日だったわ。ほんとよ、小夜子さん。死期が早まったのでしょう、お医者さまは反対されていたものね。でも、あたし、後悔していないから。ううん、逆ね。あの日がなかったら、それこそ死んでも...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十三)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (七)カモられる!

    次郎吉は、そんなこととはつゆ知らず、上方に移った後、名を次郎兵ェと改め、江戸の親元に戻った。その後、鳶の者金治郎をひよって、雲竜の入れ墨を二本線の上に彫り、わからなくしてしまった。そして、湯島六丁目に住み、小間物屋を始めた。しかし、そんな堅気の生活に安住できずに、また博打にのめり込み始めた。仕入れ商品の支払いに支障をきたしたのは勿論、日々の糧すら事欠くようになってしまった。当然の如く親元に駆け込んだが、歌舞伎役者の下で働く出方の親に蓄えがあるわけでもなく、冷たくあしらわれた。その結果、次郎吉はまた、武家屋敷をおそい始めた。しかし今度の次郎吉の手口は、より巧妙になった。前回の失敗を教訓に、単独行動をとることにした。手引きがあれば楽々と侵入はできるが、計画が漏れる恐れも増大する。当初は腰元の裏切りは露ほども考...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(七)カモられる!

  • 青春群像 初恋物語り [レモンの夕立ち](Last)

    まるみを帯びはじめたアコの肩を、力をこめて抱いています。ゆるめることなく、しっかりと抱きよせています。まだ中学一年生じゃないか、でも、もう中学一年生なのです。ふたりとも、むごんのままです。町のそうおん、雨のなかに消えています。ふたりの呼吸音だけが、耳にとどいています。ふたりとも、おしだまったままです。行きかう人たちも、雨のなかに消えています。もう、ふたりだけしか居ませんでした。夏の日の夕立ちです、レモンの夕立ちです。青春群像初恋物語り[レモンの夕立ち](Last)

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・ぼーん~ (最終回)

    少年が老婆をじっと見つめます。別段のこともなく見つめています。ただじっと見つめるだけなのです。「なんぞ、用かい?坊や。このばばに、聞きたいことでもあるのかい?」沈黙に耐えかねたように、老婆が少年に声をかけました。「どうせ、親に言われてきたんじゃろ。お宝のありかを聞き出してこいとでも、言われたんじゃろ。子どもになら口をすべらすかもしれんとな」老婆が少年の目をのぞき込みます。少年の目は、澄んでいました。どこまでも深く深く澄んでいました。老婆の強い視線をただ黙って受け止めます。そして、どんどんどんどんと吸い込んでいきます。いつの間にかその場に老婆が居ません。いえ老婆自身が、少年の目の中に吸い込まれてしまったような錯覚に囚われてしまったのです。以後、老婆の口が重くなりました。家々で歓待を受けても、無表情な老婆です...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・ぼーん~(最終回)

  • ポエム 黎明編 =春の訪れ=

    .シャンソンの流れるマロニエの並木道に春の訪れコーヒーの香が漂う時代遅れのカフェにロマンの花恋人たちは今エッフェル塔の陰で凍てついた太陽を見る=背景と解説=恋愛の歓喜を感じつつも、どこか冷めた自分がいた気がします。当時の言葉で言えば「世間が信じられない」ということに尽きます。世間=女性と置き換えてもいいかと思います。女性を蔑視しているのではなく、女性に受け入れられるような自分ではない、ということでした。憧れに近い気持ちを抱きつつも、いつか離れていく――捨てられる、そんな不安な気持ちを抱いていたのです。一行目、恋への憧憬二行目、恋から与えられる歓び三行目、懐疑の気持ちポエム黎明編=春の訪れ=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(三百二十二)

    「きょうね、勝利の会社に行ったの。ほんと、良かった。みなさんがね、すごく歓待してくれてね。うれしかった、あたし。ほんと、勝利の言うとおりだったわ。あたしね、母さん。みなさんに好かれてるの、びっくりした。でね、みなさんがね、あたしのこと美人だって。加藤専務さんなんてさ『いずれがアヤメかカキツバタか』だって。小夜子さんよ、小夜子さんとよ。びっくりよ、もう。奥からね、服部君がね、大きな声でね、くくく、ほんとに勝利の言うとおりだったわ。あたし、がんばるから。しっかりお薬のんで、きっと病気に勝ってみせるわ。ええ、負けてたまるもんですか。元気になって、退院して、小夜子さんとお食事して、それから、それから……」とつぜん勝子の声が小さくなった。あわてて看護婦を呼びに行きかける勝利に、勝子が快活にいった。「ごめん、ごめん。...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十二)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十一)

    医師から告げられたことば、常在戦場ということばが、小夜子に覚悟のこころを持たせていた。「そこのソファに横たえさせて。竹田!先生に連絡は取れたの?で、なんとおっしゃって?いいわ、電話を代わりなさい」要領を得ない竹田の返答にいらだつ小夜子が、竹田から電話をひったくった。「先生ですか?これからすぐに伺います。はい、意識はもどりました。一時的になくしましたが、声をかけたらもどりました。ええ、熱は少しあります。のどの渇きを訴えていますが、お水をいいですか?」小夜子が手で指示をする。勝子のまわりでおろおろとする竹田に対し、「竹田!お母さんを病院まで連れてきなさい。勝子さんにはあたしが付き添うから。四の五の言わずに、早く行きなさい」と、小夜子の叱責がとんだ。「分かりました、すぐに連れてきます。社長、車をお借りしていいで...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十一)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百二十)

    「おかえりなさいませ、小夜子さまあ!」タクシーが止まると同時に、どっと迎えにでてくる。そして「うわあ、この方が勝子さんですか?おきれいだわ」と、歓声があがった。「竹田さんのお姉さん、なんですね?はじめまして」。「竹田さんが自慢するだけのことはありますね」。みなが、口々にほめそやす。「おお、これはこれは。いずれがアヤメかカキツバタですな。実にお二人ともお美しい」と、押っ取りかだなで出てきた五平もまたほめことばを口にした。そのうしろに、頭をかきながら照れくさそうにしている竹田がいる。そしてそのまたうしろから、竹田の影にかくれるようにしている山田がちらりちらりと盗み見をしている。「おーい、ぬけがけは許さんぞ!」と大声を張りあげて、服部が出てきた。そのことばに、顔を真っ赤にしたまま、その場に立ちすくむ勝子だ。“ほ...水たまりの中の青空~第二部~(三百二十)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (六)捕縛!

    「コトッ」裏木戸は、やすやすと開いた。次郎吉は、ニヤリとほくそ笑みながら、足音を押さえて中に入った。勝手知ったる何とやらで、次郎吉は何の苦もなく長局奥向に続く廊下に足を乗せた。と、どこから見ていたのか。足を乗せた途端、隠れる間もなく武装した腰元らが、奥の部屋から並び出てきた。不意のことに次郎吉は一瞬たじろいだが、すぐさま気を取り直すと一目散に裏木戸から逃げ出した。「なんてこった!」と、口走りながら塀に沿って走りつづけた。成功するに決まっていたこの盗みが、なぜバレていたのか。次郎吉には、どうしてもあの腰元が裏切ったとは思えなかった。角を左に折れて、もう大丈夫だと思った途端、運悪く南町奉行所の見回り同心に見とがめられてしまった。逃げる間もなく召し捕らえれ、後ろから追いかけてきた腰元たちにより、悪事が露見してし...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(六)捕縛!

  • 青春群像 初恋物語り [レモンの夕立ち](六)

    シン公は、アコの肩に手をまわして抱きよせました。おんなものの傘は、ふたりで使うには、すこし小さいようです。シン公の胸に顔をうずめるアコに、シン公のあたたかい体温がつたわります。シン公の腕にも力が入っていきます。おもわず、ポッとほほを染めるアコです。そして、右手を、シン公の腰にまわします。しっかりと、寄りそいます。アコのハートが早鐘のように鳴っています。聞かれはしないかと、心配なアコです。「よく降るなあ……」シン公の吐息が、アコの髪にかかります。アコは顔を上げると、その吐息を思いっきり、すいこみました。あまずっぱい、レモンのような味です。アコは、シン公に寄りそいながら、思わず目をとじてしまいました。シン公の手が、アコの肩に、グッと食いこんできます。すこし痛いほどです。いつものアコなら、「いたいよ、シンちゃん...青春群像初恋物語り[レモンの夕立ち](六)

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・ぼーん~

    (八)一子相伝長患いで苦しんだおなかの父親が、とうとう亡くなりました。伏せってから十年の余でした。毎日のように「すまんのお、すまんのお」と男に手を合わせて、感謝の意を伝えます。その手をしっかりと握りながら「わたしの方こそ命を助けていただいたのです」と、応えます。その日は長く降り続いた雨が止み、久しぶりのお日さまが出たといいます。白装束に身を包んだ男を先頭に山の中腹を目指して、葬列がつづきます。時折鳴る鈴の音が山々に響き渡ると、すすりなく声が葬列の中から出ます。気丈にしていたおなかもまた、男に抱きかかえられながら何とか歩いて行きました。そしてその夜に、男の口から平家再興のための軍資金埋蔵の話が出ました。「このことは一子相伝とし、たとえ配偶者であっても漏らしてはならぬ」と厳命したのです。さらには、子に関しても...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・ぼーん~

  • ポエム 黎明編 =階段=

    花に飾られ人々に見守られお前は姿を現す長い階段のお前の心は誰もが知っているが誰も語らない浮浪者のボッペが道行く人に“ボン・ジョルノ!”と声をかけたお前には唯その臭い尻を乗せただけしかしそれでもお前の心は誰もがよく知っていただから花は咲き乱れ人々の心は明るいお前が居なくて幸せの階段が断たれたら若い恋人たちはどこで愛を語り合うというのかまったくお前は素敵な奴だ!=背景と解説=オードリー・ヘップバーン主演の「ローマの休日」という映画、ご存じですか?好きなんですよね、この映画。20世紀最高のラブ・ロマンス映画ではないでしょうかね。いえいえ、映画史上と言い換えても良いかも?そんな思いから創り上げたイメージです。ポエム黎明編=階段=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十九)

    「いかがでございますか、小夜子さま。勝子さま。お気にめされたお洋服はございましたでしょうか?」と、森田が声をかけてきた。「そうねぇ。このお洋服と、さっきのお洋服の二着を頂くわ。それとこのお帽子も。それから、合わせてお靴も欲しいわ。森田さん、見立ててくださる?」「ありがとうございます。それでは勝子さま、こちらの椅子に腰かけてお待ちください。なん足か、お持ちいたしますので。少々お時間をいただきます」森田が、深ゝとお辞儀をして辞した。「大丈夫?小夜子さん。あたしなんかの為に、こんなに高価なものを。社長さまに叱られない?」「大丈夫、大丈夫だって。武蔵は、大丈夫」“ちょっと奮発しすぎたかしら?『すっからかんだ!』なんて武蔵言ってたわね。『全財産を使い切ったぞ!』って。でも大丈夫よね、武蔵だもん。何とかしてくれるわよ...水たまりの中の青空~第二部~(三百十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十八)

    「誇りよ、自尊心よ。そうね、自分を信じる思いでもあるわね。よくいるでしょ、『あたしなんかどうせ・・』って愚痴をこぼす女が。自分で自分を卑下してどうするの!そう言いたいわ。『貧乏人だから、片親だから、学校を出ていないから……』。色々言い訳をするけれど、そんなの自分を信じていないからよ。『おかめみたいなあたしなんか』ですって?冗談じゃないわ!女を顔で評価する男って、最低よ。それを受け入れる女もまた最低よ!男に媚びてどうするの。しっかりしなさい!って、いいたいわ」舌鋒するどく語る小夜子に、勝子もたじろいでしまう。これ程に激しい小夜子を、勝子は知らない。毅然とした立ち居ふるまいをする小夜子ではあるが、今日のいまの小夜子は激しすぎる。「怒ってるの?小夜子さん。だったら謝るわ、あたし。ごめんなさいね、馴れ馴れしくし過...水たまりの中の青空~第二部~(三百十八)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十七)

    同性の目はきつい。すすけた娘が魔法にかかったように、輝くばかりの女性に変身したことに、激しい敵意をみせている。自尊心の強い女たちの視線が、はげしく勝子に突き刺さっている。「小夜子さん。痛いのよ、視線が。皆さんの視線が、あたしに『場違いだ!』って言ってるの」「大丈夫、勝子さん。殿方を見なさい。皆さんあなたに見とれてるわよ。ほら、直視はしないけれども、チラリチラリと勝子さんを見ているじゃない。女王様然としなさいって。ほかの女たちの嫉妬の視線なんか無視して、はねかえしなさい。大丈夫、自信をもって」ついこの間の小夜子が、いまの勝子だった。とつじょ現れた他所者に対し、排除のしせいをとる女性たち。男たちが諸手をあげて歓迎の姿勢をみせると、それはなお激しくなった。しかし女王さま然と振舞いつづけることで、しだいにその矛は...水たまりの中の青空~第二部~(三百十七)

  • 歴史異聞 鼠小僧次郎吉 ~猿と猿回し~ (五)逢瀬

    「俺がとっちめてやろうか?なぁに、手ぬぐいでほっかむりでもすりゃ、俺だって分かるはずもねえさ」「やめて、そんなこと。そんなことして万が一にもバレたりしたら…」「バレたって構わねえさ。お登勢ちゃんのことはだまってるから」「やっぱりだめ!次郎吉さんの気持ちだけで、十分。またぐちをきいてね」そしていま、次郎吉の豹変に、腰元は錯乱状態におちいった。これまでのことが、すべて腰元を手駒にするための方便だと思いしらされた。後悔の念、悔しさ、そして未練のこころが渦巻いている。“こんな性悪の男に……”そう思いつつも、呼び出されるたびに胸がおどることも事実であった。次郎吉は、そんな腰元をなめつくすように見すえると、薄笑いを浮かべた。「いいか。明晩、実行に移すからな。かならず裏木戸を開けておきな。時刻は午の刻だ、いいな。なんだ...歴史異聞鼠小僧次郎吉~猿と猿回し~(五)逢瀬

  • 青春群像 初恋物語り [レモンの夕立ち](五)

    (五)シン公が、その先輩と交際をしているかどうか、それすら分かりません。ほんとうのところは、シン公にとってのその先輩は、あこがれの女性であり、それ以上でもそれ以下でもないのです。学校ですれちがう時に、会釈をするだけなのです。じつはアコの杞憂にすぎないのです。シン公にとってのアコは、妹のような存在なのです。まだ恋愛の対象としては、考えられないのです。なにせ、アコが幼稚園児のころから、遊んでいるのです。おなじ町内にいることから、アコの両親が共働きをしていることから、ずっと遊び相手になっているのです。妹と見てしまうのも仕方のないことかもしれません。でもいま、シン公の心に葛藤がうまれはじめています。アコも、中学生になりました。少女に、なりました。少し、ニキビが出はじめています。あやしかった雲行きは、とうとう雨を呼...青春群像初恋物語り[レモンの夕立ち](五)

  • キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・ぼーん~

    (六)追放しかし結局のところ、男は村をおいだされてしまいました。修験者の威光はぜつだいであり、平家の落ち武者である男ではまったく分がわるかったのです。「汝が名はなんとや!正味の名をもうせい!しからば拙僧が、汝の正体をあばいてくれん!」「いやいや、それは……」と口ごもるばかりの男の代わりに、女房がさけびます。「この人は、あらしであたまをやられてる。むかしのことは、まるでおぼえてねえのさ!」「笑止千万!そのような戯れ言で、拙僧をたぶらかせるとでも思うてか!喝!『リン、ピョウ、トウ、シャ、カイ、ザイ、ゼツ、ゼン』」と印を切りました。と同時に、村人たちすべてがひざをつきました。おなかですらひざまずいたことは、男にとって思いもよらぬことでした。「わかった、おなか。わたしが身を引けばよいのだな。災いがなくなるよう、わ...キテレツ[ブルーの住人]蒼い瞳~ブルー・ぼーん~

  • ポエム 黎明編 =捧げる詩=

    白馬に乗って見た夢はパリの空の下そびえ立つエッフェル塔――見上げたっけいかめしい姿の凱旋門――見下ろしたっけ時代遅れのマロニエの並木道――見ていたっけ白馬に乗って見た夢はパリの空の下清く流れるセーヌ川恋人の語らう裏町やせこけたのら猫の声――ニャーオ!真っ黒の髪茶色の瞳――名付けて“ニケ”白馬に乗って見た夢は……目が覚めた少年の腕の中にミケ猫一匹――贈り物=背景と解説=幸せな時期でした。ただ、まだどこか、不安がる自分がいましたね。エッフェル塔=未来凱旋門=現在並木道=過去といった感じでしょうか。ニケというのら猫に、投射しています。コロコロと笑う少女で、気まぐれというか移り気というか、とにかく振り回されたものです。ポエム黎明編=捧げる詩=

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十六)

    「上得意さまなのね、小夜子さんは」まぶしげに見上げる勝子に、勝ち誇ったように応える小夜子だ。「まあね。色々と、お買い物をしてるから。婚礼の品も、ここで一式そろえたし。それに、これからも色々とね」「あゝ、羨ましいわ。あたしも、そんな生活をしてみたいわ。あたしも、社長さんみたいな素敵な殿方にみそめられたいわ」「大丈夫よ、大丈夫。ここで勝子さん、変身するの。最新モードで武装して、世のとのがたを悩殺してしまうのよ。勝子さんは美人なんだから、よりどりみどりよ」「ほんとお?なんだか、小夜子さんにそう言われるとそんな気になってくるわ。でも、あたしに似合うかしら?そんな最新モード」“馬子にも衣装って言葉、知らないの?それなりに、女性は変身できるものよ”小夜子のなかに、べつだん侮蔑の気持ちがあるわけではない。勝子が好きな小...水たまりの中の青空~第二部~(三百十六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十五)

    己が張り子の虎だとは分かっていた。けれどもきのうまでの卑屈な毎日から、きょうは解放されたのだ。白と黒というモノトーンの世界の住人が、極色彩のカラフルな世界に一瞬にして飛び込んだのだ。せまい路地を竹馬にのってよろよろと歩いていたものが、いきなり遊園地のメリーゴーランドに乗ったのだ。頭がクラクラしてくるのを感じても、体中の水分が沸騰しているような感覚におそわれても、このままこの場にたおれこんだとしても、勝子はこの世界から離れられない。地面に爪をくいこませてでもとどまろうとするに違いなかった。“ふふ、驚いてことばもないようね。当たり前よね、それは。あたしだって、初めてここに足を踏み入れたときは、ほんとに胸がおしつぶされそうになったもの。まるで別天地ですものね。わかるわよ、勝子さん”「あの、あの、小夜子さん。あた...水たまりの中の青空~第二部~(三百十五)

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