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BL小説『いつか君に咲く色へ』連載中です。人の感情を色で把握できるDKとその色をもたない同級生のおはなし。ゆっくり恋になっていきます。

『ありえない設定』⇒『影遺失者』と『保護監視官』、『廃園設計士』や『対町対話士』(coming soon!)など。…ですが、現在は日常ものを書いております。ご足労いただけるとうれしいです。

風埜なぎさ
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2014/08/13

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  • あなたの声で息をする #27

    僕はといえばなんとか社会人という名の鎧を着こなせるようになって、ごくごく平凡な会社員の一員として、関東圏で暮らしている。遠木のいる場所とおなじ地球の上にいるとは到底思えない。彼方で闘う遠木のことはそっと忘れて、だれかとつきあったりしたらどうなるんだろうと思ったことは、正直、ある。瞬時にたたき出される答えは忘れられない、だった。誰といたって遠木のことを考えてしまうに違いない、比べてしまうに違いない、...

  • あなたの声で息をする #26

    《社会人》両手いっぱいに掬ったきれいな宝石のような遠木との時間が、指の隙間から落ちきってからもう4年が経つ。遠木は4年まえ、本人のたっての希望でアフリカ某国の紛争地域に赴いた。それから、なんどか一時帰国はしたものの、僕に会いに来る時間も余裕もないようだった。けれど、戦地からときどき手紙を送ってよこす。パソコンのメールが最初は届いたけれど、最近では通信網がどうやらうまく機能していないようだ。なんども...

  • あなたの声で息をする #25

    遠木が就きたがっている職業について調べ始めたことを本人には伝えていない。海外の、戦禍のなかで闘う医師。たくさんの理不尽と不条理を目の前にする、決して誰にでもできる仕事じゃないと思った。でも、僕はネットや本で調べていくうちに確信を深めた。遠木は、ほんとうに遠くへ、とても遠くへ行ってしまうだろう。彼が、そう願っているように。願いつづけてきたように。強く、とても強く、風は西から吹いている。「乃生くん」懐...

  • あなたの声で息をする #24

    《大学二年生》遠木は周囲の期待と予想通りに難関医学部にすんなり合格した。僕はといえば遠木を追って上京したい一心で、あれからかなりハードに勉強を続けてなんとか関東圏のそこそこ名の通った私立大に進学が決まった。遠木はちょこちょこアドバイスをよこし「まずは質より量だよ。量をこなせばうまいやり方がわかってくるし、自分の足りないところも見えてくるから」と口癖のように説いた。アドバイスの隙間を縫うみたいに、ち...

  • あなたの声で息をする #23

    「……やめてって、恥ずかしいから」「いまさらなにを言ってるんだか」「遠木にはわからないよ」言いながら、ふい、とまなざしを逸らした先にほんの小一時間前まで解いていた数学のプリントが見えて、ふっと奇妙な感覚にとらわれた。とても、遠くに来てしまったような。でもどこにも行けてはいないような。さみしさにとても近い感傷は、名を持たないままでふっと消えてしまった。きょうのことを決して忘れないだろうと思う。愛したこ...

  • あなたの声で息をする #22

    「遠木」「……なに?」「ありがとう」返事をするようにちいさく笑った遠木は、しばらくして動くよ、と言ってゆっくり腰を引いた。そのままゆるやかな抽挿がはじまって、快感になすすべもなく翻弄される。なかの苦しさもすっかり失せている。ただ、ひどく気持ちよかった。声を抑えきれずに奔放に喘ぐ。「あっ、あぁん……っ、遠木、いい、……あぁ」俺も、と遠木がかすれた声で言う。ずっとこうしたかった。でも、極もしたいかどうかがわ...

  • あなたの声で息をする #21

    「遠木、や、いや……そこ、どうして」「気持ちいいか?極、いいところ、ここか?」男でも後ろで感じるらしいというのは知識としてはあったけれど、実際自分の身に起きてしまうとおそろしい間違いのようだった。間違いは怖い。なのに、遠木はその間違いの地点をさいなむように弄ってくる。間違いは怖い、けれど遠木の施すことならば。たとえ引き返せない間違いでも。気持ちいい?と訊かれ、ちいさくうなずいた。「あっ、ああ……!やぁ...

  • あなたの声で息をする #20

    「俺のやりたいようにしていい?大丈夫、大丈夫だから」緊張した声に至近距離でささやかれ、あまりの幸福にめまいがしそうだった。いいよ、とうなずくと首筋や耳朶にそっと舌が這う。滑らせるように僕の肌をさぐっていた遠木の両手がささやかな乳首に触れる。指先でそっと先端に触れられると快感が走り、声が漏れた。慌てて遠木を止める。「遠木、どれかひとつにして。変な声、出るから」「ばかだなぁ。これからもっと、変な声が出...

  • あなたの声で息をする #19

    「極?」けれど遠木は僕の思いを知ってか知らずかペンを持つ手を止めて、じっと僕を見た。「どうした?解けないところでもあるか?」ううん、と力なく首を振る。でも、なんと続けていいかわからない。遠木に、自分の望むことを伝えるすべがわからない。ただ、触れてほしい、抱いてほしい、それだけなのに。だから、なんでもないよと告げるつもりであげた顔の頬に涙が伝ったとき、遠木より驚いた。どうして、泣いてしまう。どうして...

  • あなたの声で息をする #18

    《高校一年生》遠木は中学三年のとき、進路のことで担任教師や両親とかなり揉めたらしい。遠木の成績だったらもっとレベルの高い私立の進学校に行くのは容易だったのに、本人は進路希望で地元の公立高校を受けると頑として譲らなかったから。もちろん、遠木からそうと聞いたわけじゃないけれど。ともあれ、遠木が担任と両親を説得して、僕は僕でまたもやかなりがんばって、そろってそれなりの偏差値の公立高校への切符を手に入れた...

  • あなたの声で息をする #17

    「ごめんな、俺のわがままな夢のせいでこれから極は苦しむかもしれない」遠木が言う。そう口にする遠木自身がとても苦しそうだった。うつくしい声がゆがんで、かすかにふるえる。春の光にあわあわと揺れるやわらかい輪郭の頬、軽くかしげられた首、僕の手をつかんでいる細い指先。どこをとっても大好きな遠木で、遠く離れるなんて考えたくない。考えたくないけれど。「いいんだ、遠木のそういうところを僕は好きになったから。しゃ...

  • あなたの声で息をする #16

    特別、とおうむ返しにつぶやくと、「そうだよ」と遠木が言う。「極にとっての俺も、そうであれたらとてもうれしい」「特別だよ、遠木は僕の特別だよ。すこしもぶれないし、ずれてない。僕にとっての遠木は遠木にとっての僕だから」三歳のあの春の日。あのとき出会った瞬間、僕たちはお互いの魂をすこしずつ交換したのかもしれない、と思った。遠木は心底うれしそうに笑った。春先のあわあわとした光のなかの、その笑顔に触れたいと...

  • あなたの声で息をする #15

    遠木の部屋は入って右側が壁一面、作り付けの本棚になっていた。海外の、戦争や紛争地帯に関する本が多いように見える。僕の視線に気がついた遠木が「ああ」と短く言った。すこし笑ったあとに、きっぱりとした声がつづく。「あれが、俺の将来の夢」「……戦争をするの?」「ちがう、戦場や紛争地帯の病院で働く医者になりたい」突然の大きな別離の予感に、口のなかがからからに干上がっていく。どうしてそんなところに行ってしまうの...

  • あなたの声で息をする #14

    さすがに気がつかざるを得ない。僕は遠木のことが好きだ。恋をしている。それも、かなり昔から、特別な淡い熱を出しているように。遠木だけが僕の世界で色鮮やかだ。隣でうつくしい声を聞くだけで、胸の内が静謐な水で満たされていくのと同時に「もっと」と声がする。もっと誰にも見せない顔を見せて。もっと誰にも聞かせない声を聞かせて。厳重に蓋をしておかなければならない気持ちだということも知っていた。気配も香りも漏れな...

  • あなたの声で息をする #13

    《中学一年生》遠木とは中学入学とともにまたおなじクラスになった。僕はかなりがんばって、遠木は両手を下げてスキップするように、このあたりではレベルの高い私立中の特進クラスに進んだから。受験勉強はかなり過酷でしんどかったけれど、遠木のそばにいるためなら苦を苦とも思えなかった。その僕たちの通う中学校の校舎は異様に古い。トイレなんかには裸電球がぶら下がっている。「耐震強度、大丈夫なのかな」化学室への教室移...

  • あなたの声で息をする #12

    「極、ちょっときて」乃生くんに腕をとられるようにして、近くの児童公園に連れていかれる。強引で有無を言わせない感じが普段の乃生くんらしくない。でも、もう『らしくない』といえるほどに僕は乃生くんに近くないのかもしれない。だって、『俺』と自分を指すようになったのも知らなかったのに。ふたりで、日の落ちかけた公園でブランコに座った。燃え立つような夕日の最後の光が公園中を照らしている。ぎい、ぎい、と鎖をきしま...

  • あなたの声で息をする #11

    「そうじゃ、なかったんだね」ぽとりと落ちたひとりごとをちゃんと乃生くんが掬ってくれる。胸が痛くなった。「なにが?」「遠木くん、僕をはじめての友達だって言ったの、もう憶えてないよね」廊下で立ち止まった乃生くんは驚いたようにきれいな目を見開いた。僕もあわせて立ち止まる。乃生くんのうつくしい声が困ったようにぶれる。「憶えてる、ちゃんと憶えてるよ。いきなりどうしたんだよ、極。なにか変だよ」「でも、遠木くん...

  • あなたの声で息をする #10

    乃生くんのことを考えてぼうっとしたままで授業が終わり、チャイムが鳴る。多目的室を出て、ぼんやりと廊下を歩いていると乃生くんのたがえようもない声が背中をたたいた。「極!」「……遠木くん」乃生くんは一瞬、魚の小骨が喉につっかえた、みたいな顔をした。どうしよう。でもどうしようもない。僕の喉からは、心のなかでは呼べる『乃生くん』という呼びかけがどうしても出てこない。どうして。一瞬戸惑った乃生くんは、それでも...

  • あなたの声で息をする #9

    《小学校五年生》ふたクラス合同授業がありますと聞いていたから、乃生くんと久しぶりにおなじ教室で授業を受けることになるぞ、とわくわくしつつ五時間目を迎えた。乃生くんとは三年生でクラスがちがってから、廊下ですれ違うときに手を振りあうくらいの接触しかしていない。乃生くんの茄子色の髪を後ろの席からそっと見やりながら授業の開始を多目的室で待つ。すこし髪が伸びて、襟足のところでさらさら揺れている。隣の同級生と...

  • あなたの声で息をする #8

    乃生くんが不意におどろいた声をあげた。「わっ、わっ、なんで!?なんで極が泣くの?」どうやら僕はぽろぽろ泣いていたらしい。乃生くんのしっとりした温かい手のひらが伸びてきて僕の頬をごしごしぬぐった。ごめん、怖い話をして。そういうこともあるんだな、くらいに聞いてくれればいいのに。いつもの乃生くんの大人びた物言いに戻って、慌てたように僕の顔を手で拭う。乃生くんの手のひらが心地よくて優しくて、傷つけた大人を...

  • あなたの声で息をする #7

    広いリビングでテレビをつけた乃生くんが、丁寧にはさみでポテトチップスの封を切ってお皿の上にざらざら開けた。チーズ味のポテトチップスを食べながら(ハナが虎視眈々と狙っているのを乃生くんが止めているのがおかしかった)膝に顎を乗せて、テレビの昼下がりのワイドショーを見るともなしに流す。「九九、覚えられる気がしないよ、ほんとに」僕が嘆くと、乃生くんが笑った。「手拍子に合わせて覚えると、覚えやすいかもしれな...

  • あなたの声で息をする #6

    小走りで待ち合わせ場所に辿りつく。燦々と春の午後の日差しが降り注ぐコンビニの駐車場で、乃生くんは目を閉じて空を仰いで、じっと顔に光を受けていた。とても美しかった。穢してはいけないものを見た気がした。乃生くんの茄子色の髪が光にたなびき、白い頬が風に淡くにじんでいた。はっと息をのんだまま吐き出すすべを忘れた僕は、声をかけられずにその光景にじっと見入っていた。こちらの視線に気がついたのか、乃生くんがぱっ...

  • あなたの声で息をする #5

    「極、このあとどうする?」帰りの通学路を並んで歩きながら、乃生くんが僕の顔を覗き込んで尋ねた。珍しく、すこしだけはしゃいだような口調だった。「どうするって?」「なにして遊ぶ?」すこし考えてハナに会いたい、と答えた。ハナは乃生くんのところの灰色の猫で、短い耳が折れ曲がったまん丸い顔とふさふさのしっぽがとてもかわいい。「いいよ、でも、お母さんいないからお菓子がないなあ」と乃生くんが困ったように言う。「...

  • あなたの声で息をする #4

    始業式が終わり、あらためての自己紹介を含んでホームルームが終わり、ランドセルにめいめい新しい教科書を詰めて帰宅する。自己紹介で乃生くんは「遠木乃生です。最近では本を読むのが好きです」と真夜中に降る蒼い雪のような声で言った。だれも気がついていないことがふしぎだ。乃生くんの声がうつくしいこと、茄子色の髪や、声とおなじようにきれいな瞳のこと。どうしてだれも気がつかないんだろう、は、僕だけの秘密にしてしま...

  • あなたの声で息をする #3

    僕が、乃生くんのはじめての友達。「……ありがとう」友達という言葉に恥ずかしくなってしまい、うつむいてそう返すことしかできなかった。乃生くんはうかがうようにしばらくこちらを見つめて、はじけるように笑った。乃生くんのはつらつとしていながらも静かな海を湛えたような瞳にじっと見つめられると、心の一番深い、他人には見せてはいけない奥のところでなにかがうごめき、ざわめくのを感じた。不穏な感じはしたけれど、いやで...

  • あなたの声で息をする #2

    《小学校二年生》乃生くんとは幼稚園からおなじ小学校にあがった。一年生のクラスが一緒だったのでそのまま持ち上がりで二年生でもおなじクラスだ。乃生くんと4年間一緒にいて、そのぴんと背筋の伸びた感じ、はきはきした物言いがとても好ましいと感じていた。もちろん、青めいた色ガラスを光に透かすような、あの美しい声も。時計の読み方や、足し算の繰り上がりなどを先生よりもわかりやすく教えてくれたのは乃生くんだった。「...

  • あなたの声で息をする #1

    《三歳》幼馴染みは、とてもうつくしい声で話す少年だった。ほんの、まだほんの小さなころから。幼稚園の、入園式のあとだったと記憶している。乃生(のう)くんはなにをして遊んでいるのかな?と彼に尋ねた保育士に、疑問符が投げかけられた幼い少年は大人びた口調でこう答えた。「ぼく、石をあつめています」僕の目線はすい、と糸で引かれたようにそちらに引き寄せられた。手元の木製のおもちゃも、一緒に遊んでいた子どもも、す...

  • キシャツー! 《最終話》

    《そして、ふたたびの春》実秋先輩と離れてみて気がついたことはいくつもある。意外なことに僕は遠距離恋愛むきの性格だということ。逆に実秋先輩が寂しがりだということ。思い出のなかの自分がいつもひとりじゃないこと。離れれば強固になる糸もあるということ。そして。ひとりきりで乗る電車はこんなにも眠気を誘うものだということ。キシャツーと呼ぶのにはあまりにむなしい。帰り道、頭をかくこく揺らしながら、英単語帳の上を...

  • キシャツー! #37

    それでも卒業式の立て看板を校門に見た日には、それなりに気が沈んだ。ほんとうに、しばしの別れなんだ。実秋先輩の晴れ舞台なのだから、消えないように、褪せないように、しっかり目に焼きつけておこうと思いなおし、教室まで階段をのぼる。椅子はすっかりきのうのうちに体育館に運び出され、がらんとした教室でみんなが思い思いにしゃべっている。天井に反響するしゃべり声を海に、水底に沈むように思いにふけっていると「仲埜く...

  • キシャツー! #36

    「置いていくみたいになって、ごめんな、彩里」「それは、いいんだ。もともと、わかっていたことだから。けど、いまだに聞き分けのない子どもみたいにさみしいって思う自分がふがいない……」「俺も、さみしいよ」先輩の静かな声が僕のさみしさと同じ量のさみしさを含んでいていとおしくて切なくなった。先輩もさみしさを代償に、いままでのしあわせを過ごしていたんだと思えたから。高校生活いちばん最初のしあわせをくれた先輩に、...

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