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BL小説『いつか君に咲く色へ』連載中です。人の感情を色で把握できるDKとその色をもたない同級生のおはなし。ゆっくり恋になっていきます。

『ありえない設定』⇒『影遺失者』と『保護監視官』、『廃園設計士』や『対町対話士』(coming soon!)など。…ですが、現在は日常ものを書いております。ご足労いただけるとうれしいです。

風埜なぎさ
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2014/08/13

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  • 【SS】:おとなになっても

    記憶のなかから立ちのぼってきた、なつかしい声を聞く。自分の、保育園に通っていたころの声だろうか。あどけなくてふわふわとした、高い声。「あいりせんせい、けっこんしたの?」「そうだよー、ひろくん」「ええとねえ、ええっと……でめとー?おでめとー?」「わあ、ありがとう」 応じる保育士の声がふっといたずらっぽく揺れた。「ひろくんはだれとけっこんしたいかなぁ?」「だれと?」「けっこんは、すきなひととずうっとい...

  • 【SS】:Love Letter

    煙草の煙が漂ってくると、パブロフの犬もあきれ返る勢いの反射で彼のことを思い出す。僕を抱いた後は煙草が吸いたくなるといった彼。ゆうらりとくゆる一本きりの煙の時間をひっそりとベッドのなかから見守っていた。眼鏡をかけるほどではない軽い近視だった目が、遠くを見るように眇められる、それが色っぽくて好きだった。あの視線が、なにを映していたのかを僕が知るすべはもう、どこにもない。 よく晴れた冬の日曜日の昼下が...

  • 【SS】:やわらかい距離

    「お疲れさま、ふたりとも。先にあがるね。あ、そうだ!透琉(とおる)くんに教えてもらったレシピ、このまえ試してみたの」「うわあ、ありがとうございます!どうでした?」「レンチンでぜんぶ作れちゃうのね、時短わざは透琉くんに聞けってね」 はじける笑い声を歩生(あゆむ)は背中で聴く。話題そのものに、ものすごい遠心力で弾き飛ばされたのを感じる。相容れない、水と油のように。 バイト仲間の透琉はモテる。主に、パー...

  • 【SS】:宝石ルーティン

    ルーティンというものは破られたときのほうが、守られたときより「そこにある」ことを主張しはじめる。 由糸(ゆいと)の場合、ウィークデーならこんな感じだ。決まった時間に起きて、毎朝飲むサプリメントを服用し、軽く胃に食べものをいれて出勤。帰ってきたら食事のまえに簡単に風呂をすませ、休日に作り置いた数品やスーパーの半額シールの貼られた惣菜で夕食をとって、本や新聞をめくり、だいたい日付が変わるころにベッド...

  • 【SS】:三月の雪の夜

    こんなことでもなければ、20代でふるさとの地をもう一度踏むことはなかっただろう。 視線をめぐらせ見あげる空から、気まぐれに三月の雪が降ってくる。そういえば、この地では死んでいく冬が最期の力を振り絞るように、こんな雪が降ることがあるのだった。襟足から容赦なく冷気が忍び込んでくる。薄手のコート一枚でやってきたことを後悔した。音もなく降る雪に、無沙汰を咎められている気がして、柚希(ゆずき)はちいさく肩を...

  • 【SS】:神さまをさがしている 《最終話》

    もうなにも出ないから、もういいから、と訴えても、やめてもらえなかった。なかの刺激がよくてよくて、無意識にまだ、とかもっと、と口走ってしまうたびになんども奥に射精された。なにも出ないままでいかされたとき、脳髄ごとけいれんを起こすような快感に絶叫した。溺れそうで苦しくて、苦しいことがしあわせだった。 果てのない交合が終わったのは、夜明けちかかった。あちこち痛む身体をなだめすかして起き上がると、響生が...

  • 【SS】:神さまをさがしている #5

    だから、何のためらいもなく響生の指が後孔をうかがってきたとき、興奮よりも恐怖を覚えた。肌はほてっているのに血の気の引くような、ふしぎな感覚。「ねぇ、ひびきさ……っ!あの、ねぇ、その、……ほんとにできる、の?」 響生が無言で陽詩の手を掴む。そのまま導かれた先の熱に反射的に指先がびくっとした。「陽詩にあれだけしといて、俺のが無反応とかそっちのほうが変態くさいだろ」 軽く笑った響生の指が体内にもぐりこんで...

  • 【SS】:神さまをさがしている #4

    「すごくいまさらなこと訊くけど」 ベッドサイドのあかりだけが生きた仄暗い部屋、ベッドの上で陽詩がせがむままのキスをしながら、響生が問う。「陽詩くんって、ゲイなの?」 陽詩は答えないまま、自分にのしかかっている男に口づけをねだる。スプリングをきしませながら、なかばもう自暴自棄なのか、響生が熱心にそれに応じた。「こういうキス、したことある?」 響生は舌先だけを陽詩の舌にからめ、誘い出した。ふたつの唇の...

  • 【SS】:神さまをさがしている #3

    数日後、響生が住むアパートの最寄り駅の改札で、陽詩は姉の恋人の帰りを待っていた。 ここで、姉といっしょに響生を待ったことがある。あの夜は、三人でたこやきパーティーをした。姉はとても楽しそうにはしゃいで、そんな姉を響生がやさしい目で見ていた。 そして今夜は。陽詩は、墨を流したように暗い空を見上げた。 ――……今夜は、後戻りのできない取り引きをする。「陽詩くん?」 背中に、聴きたがえようのない響生の声が...

  • 【SS】:神さまをさがしている #2

    「ドナーの適合検査……?あの、僕も?」 三日後の朝。ダイニングテーブルをはさんで向かいに座る父親の顔を陽詩が見上げると、父親は「すまないが、検査を受けてくれ。繭子のためだ」と憔悴しきった面持ちでうなずいた。「陽詩がいま、将来に向けて大事なときだっていうことはわかっている。できるだけ、おまえの心身の負担にならないようにはしたいんだが……巻きこんでしまって、ほんとうにすまない」 陽詩は居心地悪く、椅子の上...

  • 【SS】:神さまをさがしている #1

    ハイレベル模試を全教科受け終わり、家路を辿る途中の自販機で買ったスチール缶のココアを片手に自宅のドアをひらく。いちどきに、重く沈み、暗く淀み、つめたく凍りついた空気に全身を包まれた。家じゅうが閉じた冷蔵庫になってしまったかのような異様な雰囲気にかすかに身震いする。ふっと、このさきの人生には何一ついいことがないんじゃないかという予感がした。 空恐ろしい未来予想を振り払うように、陽詩(ひなた)は精い...

  • 【SS】:ネオンライトのように

    ぽた、と膝に落ちたのが溶けたアイスクリームの雫だったとき、やっと、別れ話をされているのだと理解した。夏の終わりの夜のはじまりはまだ明るく、一瞬でぬるくなった濃紺のうえのミックスミントアイスの色はいかにもすずしげだ。 人工色の緑を指先でふき取り、ふふ、と千緒(ちお)はちいさく笑う。アイスだって。涙じゃなくて。たぶん、650円くらいの値段の恋だったんだ。 涙さえ流す価値さえない恋だったのだと、だれかに...

  • 【SS】:氷砂糖はゆらゆらひかる

    ふっと、帰ってきている気がした。曇りガラスのむこうに、朝からしとしとと降っている雨の足跡を刻んで。麻杜(おと)は人参をさいの目に刻んでいた手を止め、じっと硝子戸の外の気配をうかがう。犬が甲高く鳴く声、バイクの走り抜ける音。昼下がりの休日の、なんということのない音の光景。きっと、聞いた通りの風景が硝子の引き戸越しには広がっているのだろう。「麻杜」聞こえない声が聞こえる。触れられない腕がそっと手の甲を...

  • いつか君に咲く色へ after days 《最終話》

    彩葉の目を覗きこみ、清音が感じ入ったように言う。「菅原がちゃんと感じてくれて、すごく気持ちよさそうでよかった」「……気持ちよすぎて頭がへんになるかと思った……。いろいろ見苦しくてごめんね……」 さっきまでの交わりの名残はもう、身体の奥に残るあまい感覚と、シーツを汚しているもろもろの体液にしか残っておらず、彩葉はかすれた声で言うと咳きこんだ。その拍子に後孔からくぷりと清音の放ったものがあふれ、シーツに伝...

  • いつか君に咲く色へ after days #12

    「ん、ああんっ、……あぁっ、いい、気持ちい……っ、あ、あっ、……いく、いっちゃう」 清音の歯が乳首をかすめた瞬間、目を閉じ、浮かせた腰をふるわせてさらさらと流れるような射精をする。存分に出したはずなのに強烈な快感は引かず、高止まりのままの性感に彩葉はもうどうしたらいいのかわからない。ただ、身体がそうしたいと思うがままにあられもなく乱れた。荒い息のあいだから、自分を抱く腕に訴える。「あぁぁ……ん、清音、まだ...

  • いつか君に咲く色へ after days #11

    じわじわと、清音の性器に浸食されていく。ちっとも怖がらずに清音を受け入れたそこが気持ちよがって、ひくひくと飽きることなくあたらしい異物を啜るのがわかった。ゆるく彩葉を抱きしめ、腰を進める清音が、あっ、とちいさく掠れた声を洩らす。「ゃ……、待って、菅原、……なに、なにこれ」 彩葉の内腑の蠕動を予想していなかったのだろう。とはいえ、彩葉は彩葉で指とは較べるべくもない質量がなかに挿ってくるので、痛苦しいや...

  • いつか君に咲く色へ after days #10

    後孔にそろりと最初の指が差し込まれてからどのくらい経つのか、彩葉には判然としない。はじまったころは違和感に清音の指を押し出そうとばかりしていた彩葉の粘膜は、いまや喜んでなかで蠢く指を三本も咥え、啜り、しゃぶっている。ぬちゃぬちゃという粘着質な水音は、清音が彩葉の後孔にたっぷり含ませたローションで。「……だいぶ慣れた?痛くない?」 清音の問いに、枕を抱えて脚をおおきくひらいたまま、声も出せない快楽に...

  • いつか君に咲く色へ after days #9

    清音の声で彩葉に吹きこまれるのは慈しみなのに、はっきりと欲情をにじませている。清音が早く彩葉を自分のものにしてしまいたいと思っているのがわかる。だって、唇に優しく口づけながらも清音の手は。「あ、ぅ……ん、あぁ……、んっ、あ」 とうにしとどに濡れていた彩葉の性器に触れる清音の手には、いっさいの躊躇も遠慮もなかった。彩葉が分泌したぬめりを借りて、水音を立てて、反応をうかがいながら追い上げてくる。過ぎた性...

  • いつか君に咲く色へ after days #8

    「菅原」「……どうしたの?」「ここ、こりこりになってきた。すごい、指で弄れそう」 したたるような声で言うや否や、清音が指先で彩葉のはっきりと赤みをまとったふたつの尖りをつまんだ。そこから注がれる快感に息を呑んだ彩葉の喉から、うわずった声が迸る。「あ、あぁ、……っ、や……!」 反射的にぎゅっと目をつぶってしまったので、否応なしに触覚と聴覚が研ぎ澄まされる。はっきりわかる。清音にどんなふうに触られているか。...

  • いつか君に咲く色へ after days #8

    「菅原、こら、じっとしてて」「ごめん、想像以上に恥ずかしい、これ」「……こら、もう、強硬手段に出るよ」 そう言って、彩葉のパジャマのボタンをベッドの上でひとつずつ外しながら、真上から彩葉を押さえ込んでいる清音が器用に脚で彩葉の動きを封じた。直接、肌に触れる清音の指がくすぐったくて身をよじりたいのに思うように動けない。こんなときなのに笑いだしそうになる。 されるがままにパジャマをはだけられ、素肌に手の...

  • いつか君に咲く色へ after days #7

    どうせまたすぐ脱ぐんだけどな、と思いながらも一応パジャマを着て、先に髪を乾かし終わった彩葉はキッチンでペットボトルの水をごくごく飲んだ。清音がドライヤーをつかう音がする。なんだか生活って感じ、と気分をよくして水を冷蔵庫に戻す。 リビングのソファにおさまり夜のニュースをつけると、清音が脱衣所から出てきた。紺のストライプのパジャマをだぼっと着た清音は彩葉のとなりに腰をおろすと、つけたばかりのテレビを...

  • いつか君に咲く色へ after days #6

    「どうした、急に赤くなって」 からかう口調で清音が言う。赤くなった頬を隠す方法がない。だから、彩葉は清音をまっすぐに見た。「や……あの、これから清音とするんだなって、ほんとにセックスするんだなって……」 ばしゃんと湯が跳ねて、抱き寄せられる。ぴったりとすきまなく身体がくっついてしまうと、これ以上ないほど速まった鼓動を知られてしまいそうで恥ずかしい。それよりも。「やだ、ちょっ……と、清音、」 清音は器用に...

  • いつか君に咲く色へ after days #5

    パジャマを抱えてふたりで脱衣所に入ってしまうと、彩葉はもうなんでもいいような気分になり厚手の長袖Tシャツとジーンズをぽいぽい脱いで洗濯かごに放り込んだ。下着に手をかけたところで清音がうろたえたような声を出す。思わず振り返ると、ボタンダウンのシャツを半分脱いだところで動きが止まっている。「菅原、待って、ちょっと待って」「どうしたの?」「……その、あまりの色気のなさに驚いた」「ここまできたらあってもな...

  • いつか君に咲く色へ after days #4

    「風呂、どうする?いっしょに入るか?」 食事をすませ、シンクに水の落ちる音を聞きながら、皿洗いをする恋人を眺めていたところに唐突に聞かれた。空耳かと思った彩葉は「え?」と問いかえす。だから、と言って清音がゆっくり目を伏せた。「いっしょに入るか、別々に入るか」 まさかそこから選択のカードが切られると思ってもみなかった。内心の動揺を気取られないように気をつけつつ、彩葉はしばらく考え込んだ。「いっしょに...

  • いつか君に咲く色へ after days #3

    「ごめんな、菅原。自分がこんなに下手だとは思いもよらず」「しょうがないよ。はじめてに、失敗はつきものだから」 ほぼ完璧なできばえの南蛮漬けと豚汁、そしてなんだかべちゃっとした状態に仕上がったおひたしを食べながらふたりでくすくす笑う。「さっき、つい台所で盛りそうになったばちが当たったかな」「……はじめてセックスするのがキッチンというシチュエーションが好きなのかと思った」 彩葉が開けっぱなしにした冷蔵庫...

  • いつか君に咲く色へ after days #2

    菜の花紀行に出かけて行った両親と入れ違いにやってきた清音は、手土産のショートケーキを彩葉に渡すと「きょう、俺も夕飯づくりを手伝っていいか?」とわくわくした表情でキッチンを眺めた。「もちろん、ありがとう。今晩は白身魚の南蛮漬けと青菜のおひたし、豚汁にするつもりなんだけど」「……俺、おひたしの係にしてくれ」「だよね」 ケーキを冷蔵庫にしまいつつ彩葉がこたえると、「笑ったな」とうしろから腕が伸びてきて抱...

  • いつか君に咲く色へ after days #1

    母親が朝の情報番組の懸賞で『春の房総半島~おふたりで巡る一泊二日菜の花紀行~』に当選したのは、彩葉が清音との交際をはじめて2か月ほど経った、冬のしっぽをようやく春が掴んだ頃合いだった。「どうしよう、彩葉~。お母さん、このさきの幸運をぜんぶこれにつかっちゃったかも……」 テレビ局からの当選案内をダイニングの照明に透かしながら、オレンジ色をまとった横顔が言う。「だいじょうぶ、だいじょうぶ。このさきも母...

  • いつか君に咲く色へ #74

    「彩葉ちゃんの初恋の相手って、速水くんだったの?」「そう、だけど……」「お似合いと言えばお似合いなんだよねぇ。彩葉ちゃんかわいいし、速水くんはかっこいいし……」 ぶつぶつと思考の海に沈んでいくと思われたふたばが、突然「あぁ!やっぱ無理!」と発するので彩葉の胸は冷えた。「瀬戸さん、やっぱり男どうしでつきあってる……って嫌悪感があるよね。ごめん、へんなところ見せちゃって」 うなだれる彩葉に「ちがうの!」と慌...

  • いつか君に咲く色へ #73

    「ねぇ、ちょっとちょっと彩葉ちゃん!」 瀬戸ふたばがにぎにぎしく彩葉の席まで小走りでやってきたのは、冬休みがあけた日、全校集会を終え、きょうはこれで帰るだけ、という放課後だった。がらんとした教室で、色を読むまでもなく興奮した表情を浮かべたふたばは、椅子から立ちあがろうとしていた彩葉の肩に手を置いて「まぁまぁ落ち着いて」などと言う。「どうしたの?落ち着いたほうがいいのは瀬戸さんのような……」「落ち着い...

  • いつか君に咲く色へ #72

    清音の頬に手を伸ばして、彩葉は言う。「清音、ちゃんと心の色が見えるよ」「よかった……」「もうだいじょうぶ。清音はなくさない、もう、なにも」「ありがとうな。ぜんぶ、菅原のおかげだ」 彩葉を抱きしめている腕に力がこもる。まるで、懸命に身体のかたちを憶えようとしているかのようだった。 憶えていて。刻んでおいて。なくさないように。清音の心がいまを刻みはじめたのを感じながら、彩葉は胸を躍らせてその抱擁を受け...

  • いつか君に咲く色へ #71

    「気持ちはうまく隠し通すつもりだったんだ。でも、おとといの夜に菅原のパジャマ姿を見て、欲情を我慢できなくなった。……まぁ、つまり、要するに、むらむらしたわけだな。怒鳴られても、殴られてもいいから、告白しようと思ってキスしたら泣かれてしまってびっくりした。あぁ、そんなに嫌なのかって。だから、全力でごまかした」 彩葉はそっと清音の背中を抱きしめかえした。こんなにかわいい人を、僕はほかに知らない。「それな...

  • いつか君に咲く色へ #70

    清音がなぁ、と言う。ちいさな猫がそっと鳴くときのような、なぁ、だった。「菅原、顔あげて」「……やだ」「なんで」「絶対、赤くなってるから」 清音がゆっくりと息をつく。そして、身動きする気配のあとで彩葉の身体に腕が回った。そのまま、抱きしめられる。彩葉が願っていたような、強く熱っぽい抱擁だった。 パジャマのままでぜんぜんさまにならないのが悔しい、と清音がちいさな声でつぶやいた。そして、こたつ布団に顔を...

  • いつか君に咲く色へ #69

    「映画館の帰り、僕にマフラーを貸してくれたせいで清音が風邪を引いたんじゃないかって思ったら、なんだか申し訳なくて……」「そんなはずないだろ。俺が映画の途中で眠っちゃって、体温高いまま外に出たからだよ」 言下に否定するかすれた清音の声を聞きながらりんごの入った茶碗を片手に居間に行くと、水色の半纏を着た清音はこたつに入ってゆるく背を丸めていた。やっぱりだるいのかな、迷惑じゃなかったかな、と思いつつ清音の...

  • いつか君に咲く色へ #68

    教えてもらった住所をスマホに打ち込んで、清音の家へとむかった。駅の反対側はコインパーキングを抜けるとすぐに住宅街だ。 左手に提げた袋のなかの鮮やかなりんごの赤に彩葉は目を細める。清音の熱がひどいようなら、すりおろしりんごを作るつもりだった。 しばらくスマートフォンのガイドにしたがって歩くと、やわらかな声が目的地についたことを知らせる。彩葉は目のまえの家を眺めて、まばたきを繰りかえした。「……ここ、...

  • いつか君に咲く色へ #67

    翌日、胸をはやらせながら登校したところ、いつまでたっても清音が教室に現れない。清音の席のほうばかりをふりかえっている彩葉のところに、瀬戸ふたばがやってきた。「彩葉ちゃん、どうしたの?きょろきょろしたって百円玉は落ちてないよ」「……うん、あの、清音がこないから」 ほんとに仲がいいよね、というふたばの言葉に胸が大きく跳ね、視線を戻した。目のまえの席に腰かけているふたばは「速水くん、風邪だって」と言う。...

  • いつか君に咲く色へ #66

    両親が帰宅したのは夕方だった。彩葉の手に「はい、お土産」と温泉まんじゅうの箱を乗せ、荷解きをしている母親の背中を眺める。そういえば、母さんは清音がお気に入りだ。包装紙をはがしながら、なんとなくそんなことを思った。「彩葉?どうしたの、ぽーっとして」 こちらをうかがう母親の声に、リビングの椅子におさまって温泉まんじゅうをかじりながら、彩葉は「ん-ん」と生返事をする。 頭のなかは清音に対する恥ずかしさ...

  • いつか君に咲く色へ #65

    昼食のあと、名残惜しい気持ちで清音を駅まで送っていった。清音はいちどだけ振りかえると、反対側の出口への階段を下りていく。 ひとりになった帰り道、肩を並べる相手がいないのがさびしい。冷えた空気によそよそしいほど白い息を吐きながら、やっぱり寒いな、清音が持っているようなマフラーを買おうかな、などと思考があてどなく流れる。ずっと話していた気がするので、考えたことを言葉にしない感覚が新鮮だった。 自室に...

  • いつか君に咲く色へ #64

    映画のできばえはまあまあそこそこだったかな、というのが原作を読破している彩葉の見解だった。エンドロールと主題歌が流れるなか、清音に話しかけようと隣を見るとぐっすり眠りこんでいる。「清音?寝落ちしちゃった?」 呼びかけるとうっすら目を開けた。その、眠りと現のあいだにある、完全にはここにない視線は彩葉がはじめて目にする清音のまなざしだった。とろりと半分溶けたような、はじめて世界を映す赤子のような、甘...

  • いつか君に咲く色へ #63

    互いに悶々とした夜を過ごすのでは、と危ぶんだものの、彩葉は軽く泣いたせいもあってかごく普通に眠れてしまった。 清音がどうだったのかはわからないけれど、朝食を食べているいま、とくに眠そうなようすもない。食欲も旺盛で、丁寧ながら盛んな箸づかいで彩葉がグリルで焼いた魚の身をほぐしている。「きょう、これからどうしようか?」 清音の問いかけに、しばらく考えた。どうしよう。なにをしよう。朝から清音といっしょ...

  • いつか君に咲く色へ #62

    そうっと髪を撫ぜられて、もう一度、唇が重なって離れる。心臓がせわしなく動いているのか、静まり返って止まってしまったのかさえ彩葉にはわからない。ぎゅっと抱きしめられる。「……清音」 かすれた声で呼ぶと、応じるように彩葉を抱きしめている腕にさらに力がこめられる。こんなふうにだれかに抱きしめられたことはない。こんな、とても壊れやすい大切なものをどうしようもない気持ちで扱うときみたいに。 頬に、清音の頬の...

  • いつか君に咲く色へ #61

    軽く風呂を洗って換気扇をまわし、すこし緊張しながら自室の扉を開けると、清音がふとんの端で読んでいた本から目をあげた。「なんだかすっかりくつろいでしまった」などと言いながら本を閉じる。「お泊まり会って、もっと緊張するかと思っていたのにな」 清音の言葉にうっすらとした寂しさを覚えながらも、「ゆっくりしてもらえてよかった」と返した。ベッドに腰かけると、ふとんに座った清音が彩葉を見上げてくる。まつげが長...

  • いつか君に咲く色へ #60

    皿をまとめて運んだ清音がシンクで水を使う音を聞きながら、彩葉は口をひらいた。「清音、将来のことはなにか決まった?奨学金とか、目指す学部とか」「奨学金はたぶん大丈夫。学部は就職率とかも勘案しなきゃいけないから、ゆっくり決めるよ」「そうかぁ。就職率、重要事項だよねぇ」「菅原はいい図書館司書になれるよ。俺はそう信じてるから」 テーブルをはさんで、キッチンカウンターのむこうで皿を洗いながら清音はなんのて...

  • いつか君に咲く色へ #59

    「清音、ハンバーグつくるのってそんなにすごいことじゃないから。やってみれば簡単にできちゃうし」「もうそのせりふがすごいよ……菅原って料理好きだったんだな、知らなかった」「うーん、好きっていうか、中学生のころから家事が分担制になったせいでできるようになっただけだよ」 ふうん、とうなりながら清音はカウンターキッチン越しに彩葉の手もとを凝視している。子どものようなまなざしに小判型に種を整える手が恥ずかしが...

  • いつか君に咲く色へ #58

    なんで?と湯船につかりながら彩葉は何度目かもわからないまま疑問を心に浮かべた。 あのとき、『清音は僕の特別だから』とたしかそう言った。あの言葉にどうしてあんなに清音は驚いたのだろう。わからない。 自分の身に置き換えて考えてみた。もしも清音が『菅原は俺の特別だから』って言ったら?あの声で、そんなふうに言われたらどう思う?彩葉は鼻まで湯に浸りながら、うれしい、という単純な結論を即座に導いた。どんなか...

  • いつか君に咲く色へ #57

    清音の問いが、耳に滑り込んできた。どこかぼんやりとした、幼い口調だった。「菅原、いままで友達を泊めたことないのか?」「実はね。お泊まり会、はじめてなんだ」 みじかく答えて、清音を見る。目があうと、すうっと的を絞るように彩葉だけを清音の視線がとらえた。 そのときの清音の表情の変化の意味を彩葉は読み取れなかった。たとえて言うなら、暗い闇に沈んだ地面をさっと強く鮮やかな光が掃いていくような、そんなふう...

  • いつか君に咲く色へ #56

    ……気にするなって、どういうこと? 清音の言葉の意味を掴めずに、彩葉は心に浮かんだまま「どういうこと?」と返した。清音はうつむいて、首筋をかりかりと引っかきながら困ったように言葉をさがしている。「俺の好きな相手のことなら、菅原は気にしないでくれ」 まだよくわからないけれど、自分はいま告白もしていないのにふられたのだとそれだけはわかる。彩葉は精いっぱいに振り絞った笑顔を浮かべて「承知しました!」と言...

  • いつか君に咲く色へ #55

    その日の帰り、冬の夕方の白くて弱い光が差し込む昇降口で清音と鉢合わせた。制服のブレザーの上から厚手のコートとぐるぐる巻きのマフラーを身につけていて、ちょっとした越冬隊のかっこうだ。少なくとも、学年内のだれよりも厚着しているにちがいないと彩葉はちょっと笑ってしまう。「清音、寒いの苦手?」 告白事件の顛末を聞いてなにを話せばいいのかわからなくなっていたはずなのに、おかげでそんな軽口を叩くことができた...

  • いつか君に咲く色へ #54

    呆然と見上げる彩葉の視線の先で、相変わらず花のような香りのするふたばが楽しげに話している。 清音とはちがう香り。清音を抱きしめたときは、どこか香ばしい、牧草みたいなのんびりした匂いがした。あの瞬間、たしかに清音のいちばん近くにいたのは彩葉だったはずなのに。「彩葉ちゃんが仲良くなってから、速水くんもまわりと打ち解けてきてたしね。好きな女子のひとりくらいいてもおかしくないんだけど」 なにをやっていた...

  • いつか君に咲く色へ #53

    「ねぇねぇねぇ、彩葉ちゃん!」 瀬戸ふたばがばたばたと上履きを鳴らして定位置、つまり彩葉の机の前にやってきたのは、月があけ、いよいよ週末には清音が泊まりにやってこようとしている火曜日の朝のことだった。 その興奮した口調に若干気圧されつつ「どうしたの?」と彩葉の机に両手をついているふたばを見る。「速水くんの好きな子って、だれ?」「……は?」 双方きょとんと顔を見合わせた彩葉とふたばだったが、ややあって...

  • いつか君に咲く色へ #52

    両手でスマートフォンにしがみつくようにして、清音の声に神経を集中させる。『どうした、菅原。怖い夢でも見てたか?』 あたたかく甘く耳に流れ込んできたのは、清音にしてはとても珍しい、軽やかにからかうような口調だった。「見てないし!それより清音、来月のことは」『俺、人んち泊まるのはじめてなんだけど、それでもいいか?なにか不作法があるかもしれない』「いいよ、ぜんぜん気にしないでそんなの。清音がきてくれる...

  • いつか君に咲く色へ #51

    自室へ引っ込み、どきどきしながらベッドに寝転んで天井を眺める。 だれかが泊まりにくるなんてはじめてだ。彩葉にとって四六時中他者といっしょにいることは、つねに機嫌をうかがいつづけることになってしまうので、無意識のうちに回避してしまっていたのかもしれない。 その点だけでいえば、清音には感情の色がないぶんすこしだけ気楽だ。おなじ部屋で過ごし、となりで眠る。きっといつになく清音を近くに感じられるにちがい...

  • いつか君に咲く色へ #50

    正直なところ、はじめてのことに戸惑いを覚えつつも、清音に対してうっすらと性的な欲求のようなものを覚えることはある。あの唇に触れてみたら。あの腕に抱かれてみたら。 まだそれはいい。しかたがない、健全な男子高校生たるもの、好きな人相手に性の色をまとう衝動を覚えるのは至極まっとうなことだろう。 でも手料理というのはどうなんだろう。彩葉は内心で首をかしげる。一通りの料理はできる自信がある。でも、清音にと...

  • いつか君に咲く色へ #49

    彩葉の成績が突然よくなったことに、常日頃「我が子はばかでも元気がいちばん」などと言っている母親も喜びを隠せないようすだった。あかるい黄色をまとって、「大学のこと、ほんとうにいいの?」となんども彩葉に尋ねる。ちょっと肩身が狭い。やっぱり、子どもの成績っていいほうがよかったんだね、と。「お父さんだって言っているの。彩葉がもしももっと偏差値の高い大学を目指すなら、うちから通えるところに絞らなくても、い...

  • いつか君に咲く色へ #48

    考査前が思い出される。彩葉は清音に声をかけ、毎日のようにふたりで試験勉強を重ねた。勉強を教えてもらいたいのが半分、なんでもいいから清音といっしょにいたかったのが残りの半分だった。 彩葉の部屋や図書室でむかいあって黙々と問題集を解きながら、ときどきわからない箇所を清音に尋ねた。「ねぇ、清音。ちょっとここ見て」とノートを差し出すと、清音は彩葉のつまづいているところや解答の導きかたをすこしも疎んじるよ...

  • いつか君に咲く色へ #47

    清音にすべて打ち明けた、これでイーブンだ、秘密もなくなった。 いつものように清音を駅まで送ってきたあと、貸していた本を自室でしまいながら、彩葉はそう思いかけた。一瞬、胸のつかえがとれたような気がしたけれど、いまだ清音に想いを伝えていないことを思い出す。思わず、喉元に手をあてる。 彩葉のなかで、もう揺るぎようがないもの。清音のいちばん近くにいたいということ、清音が好きだということ。 いままでだっ...

  • いつか君に咲く色へ #46

    彩葉の涙と呼吸がゆっくりゆっくり落ち着いたころ、清音がそっと問う。かすかに緊張を帯びた声だった。「菅原、じゃあ、俺の感情とか気持ちもずっと見えてるわけ?」 首を横に振ると、清音が「……え?」と戸惑った声を出した。思わぬ肩透かしを食らったように。「清音のは、見えない。いままで出会ってきた人のなかで、清音ひとりだけ、色がない。見えない。入学式のときに気がついて、気になってた」「どうしてだろう。なんで俺...

  • いつか君に咲く色へ #45

    「それでね。色のあふれた世界に疲れたとき、いつも本の世界が助けてくれたんだ。読書しているあいだだけ、だれの色も気にしないでいられた。これが、僕が本を好きになったきっかけと理由」 彩葉が話しているあいだ、清音はしずかな目で彩葉をただ見ていたけれど、このときそっと口をはさんだ。「前に言ってたよな。読書が好きな原因があるって。だけどいまは話せないって。それが、いま菅原が言ったこと?」 ぽとりと落とすよう...

  • いつか君に咲く色へ #44

    「水曜だったかな、三枝のなんだかややこしそうな話を聞いていたけど、だいじょうぶか?」 いたわるような清音の声に、彩葉は顔をあげた。じわっと心の奥底にやわらかい水がわく。 三枝光莉が相談ごとを持ちかけてきたのは、たしかに水曜の放課後のことだ。年の離れた光莉の弟が、どうしても小学校に行きたがらないらしい。だれがどれだけ理由を尋ねても、頑としてなにも言わないのだそうだ。困ったよねぇ、と言う光莉の声がよみ...

  • いつか君に咲く色へ #43

    清音をふたたび自室へ招いたのは、10月のはじめのよく晴れた土曜日だった。こんどは彩葉から思い切って連絡し、会う約束を取りつけた。清音に読んでほしい本がある、というのはなかば(というか完全に)口実だ。清音に会いたかった。学校ではなく、その外で清音の姿やまなざしを独占したかった。 いずれにしろ、ふしぎと学校で本の貸し借りをする気持ちには互いになれないようで、清音も彩葉の貸した本を教室に持ってくることは...

  • いつか君に咲く色へ #42

    雨音のリズムにあわせるように会話しているうちに、雨脚が弱くなる。互いの話し声がくっきりと輪郭を持つ。霧雨のなかに踏み出すと、雲の切れ間から光が差した。「菅原、虹が出てる」 清音の指さすほうを見る。濃い灰色の雲を背景に、見事なアーチを描いてくっきりと虹がかかっていた。けれど。「僕、虹ってあんまり好きじゃなくて。なんだか、見てるときれいなのに掴めなくて、気持ちがひんやりするから」 彩葉の言葉に、清音...

  • いつか君に咲く色へ #41

    木曜の朝はよく晴れていたのに、夕方から雲行きが怪しくなってきた。鈍い灰色の雲が息苦しいほど重く垂れこめ、いまにも降り出しそうだ。図書当番のカウンターに立ちながら彩葉と三枝光莉は「彩葉ちゃん、折り畳み傘持ってきた?」「持ってない、降るかな?」と小声でささやきあう。 五時に図書室の入り口を施錠し、職員室に鍵を返しに行くころには、本降りの雨になった。 光莉はバレー部の友人から折り畳み傘を借りたらしく「...

  • いつか君に咲く色へ #40

    興味津々といった様子のふたばに、どうして女子ってこうも恋の話が好きなのかなぁと思う。それらしき『進展』についてぼんやり回想していた彩葉は「抱きしめてみたけど、みたいな……?」とうっかり事実を話してしまう。目を見開いたふたばは、わざとらしく甲高い悲鳴をあげた。「ほんと!?やるじゃん、彩葉ちゃん。それでそれで?お返事は?」「いや、告白したとかじゃぜんぜんなくって、たまたま抱きしめちゃっただけで……」 尻...

  • いつか君に咲く色へ #39

    瀬戸ふたばが彩葉の前の席にいそいそと「彩葉ちゃーん」と陣取ったのは、それからしばらく経った水曜日の朝だった。 古い椅子に脚を組んで腰かけ、うきうきとしたオレンジ色の感情を帯びたふたばは、「彩葉ちゃんのアドバイスにしたがって、彼氏とよりを戻しましたー!」と両手をあげて報告してくる。そういえば、そんなこともあったっけ。自分の身に起きたはじめてのおぼつかない色恋沙汰で手いっぱいの彩葉はぼんやりと思い出...

  • いつか君に咲く色へ #38

    清音にまた本を貸し、駅まで送っていった。別れ際、彩葉の目を真剣に見て、清音が紡いだ言葉が胸のうちをあざやかにめぐっている。「図書館司書の話、真面目に考えてみろよ。すごくいいと思う」 帰り路をひとりでほたほた歩きながら、図書館のカウンターに座っている未来の自分を彩葉は想像してみる。読みたい本や資料を探している人にアドバイスをする、図書資料を選んで発注をかける。悪くない、やってみたい。どうやって資格...

  • いつか君に咲く色へ #37

    「……菅原」 清音が彩葉の肩に額を乗せたまましゃべるので、音と振動でその声を聞いた。やわらかで、優しくて、ひりひりするような切なさのにじむ声だった。「俺、そんなふうに言ってもらったの、はじめてだ」「うん」 彩葉はしずかにこたえる。なにか聞きたがっている清音の問いに、ひびを入れないように。 迷い迷いといったふうに、清音が言う。「そんなふうに言ってもらって、俺、どうすればいい?」 彩葉は迷いなく答えた。...

  • いつか君に咲く色へ #36

    話ははずんだ。小説のことに関する小箱のような引き出しなら彩葉のお手のものだ。貸した本の執筆の裏話的エピソード、ちいさいころに読んで印象的だったSF小説の衝撃的なオチ、そんなあれやこれやを清音に話した。清音はちいさく笑ったり、すこしうなずいたりしながら、ときに的確な質問を繰りだしてくる。「清音、ちいさいころに読んで好きだった本ってある?」 だから、そんな会話の応酬のなかで生まれた彩葉の問いは、ごくな...

  • いつか君に咲く色へ #35

    「清音、待って」 清音に並ぶため、彩葉は足を踏み出す。さっきまではっきりと感じていた靴底の感覚があいまいになっている。雲の上を歩いているみたいに頼りない。いつもの家路をたどっているだけなのに、妙にふわふわしている。 頭のなかにもかすみがかかっているようで、清音になにを言えばいいのかわからず、「ありがとう」と声にできたのは自宅の門扉のまえで足を止めたときだった。清音が少し首をかしげたので、補足した。...

  • いつか君に咲く色へ #34

    こんどの待ち合わせには、清音のほうが先にきていた。姿を見るなり、彩葉の心臓が小走りになる。ぱたぱたとせわしない鼓動をなだめすかしながら、清音に手を振った。ざわざわと色が跳ねる駅の改札前で、ひとり背筋をしゃんと伸ばして、ひっそりと静謐をまとっている。いいな、となんの脈絡もなく思った。なにがどういいのかはわからない。「ごめんね、待たせたね」 清音は「だいじょうぶ」とすこし笑う。彩葉と話しているときの...

  • いつか君に咲く色へ #33

    彩葉があれこれと思い悩んでいるあいだにもせわしなく一週間はすぎ、清音と約束した日曜日がやってくる。 前日の土曜日、彩葉はショッピングモールまで出かけ、シャツとデニムを新調してしまった。ふたたび清音を部屋に招くと考えるとそわそわ落ち着かず、なにも手につかないので自分を落ち着けるために出かけてみたのだ。 帰宅し、紙袋から取り出した真新しい服を眺める。彩葉がいつも身につけているものより、大人びてしゃれ...

  • 出会ってしまいました(❤️´艸`❤️)

    ええと、まだものすごく動揺しているので、うまくお伝えできるかどうかわからないのですが……。わたし、出会ってしまいました(❤️´艸`❤️)……そう、何度目かももうわからない、突然の恋に(無駄に倒置法)話はきょうの夕方遅く、退勤電車を降りてアパートにむかおうと国道を渡ろうとしていたときにさかのぼります。お盆休みがトップシーズンのひとつな業種で稼いでいるため、わたしに盆はないです。お正月も。コミケに行ってみたいの...

  • いつか君に咲く色へ #32

    いかにも、というように瀬戸ふたばが重々しくうなずいた。「そうだよ、彩葉ちゃん!恋だよ。いいなぁ……」 どこか淡く言うと、彩葉に顔を近づけ、ぐっとひそめた声でふたばが訊ねる。「もしかして、初恋?」 彩葉がやや迷いながらもうなずくと、ふたばが軽やかに笑った。風を閉じ込めたような笑いかただった。「初々しくてかわいいわ、彩葉ちゃん」と言いながら、彩葉の髪をぐしゃぐしゃかきまぜる。 ふたばの名を呼ぶ声がした...

  • いつか君に咲く色へ #31

    「あのさ、彩葉ちゃーん……、それは恋だよ!」 彩葉の目のまえに座った瀬戸ふたばが、にやにやしながら実に楽しそうに言う。翌日のホームルームまえの教室で、いつものように話しかけにきたふたばに、自分の身に起きている不可解な心の動きについてざっくりと相談したところだった。 「恋」。彩葉にとっては、なぜか「天国」とか「奇跡」とかとおなじくらいに縁遠い、自分とはかけ離れた言葉だと思っていたのに。それなのに、まさ...

  • いつか君に咲く色へ #30

    すごく好きで。 食い入るようにその文字列を眺める。すごく好きで。 その言葉を見ていると、さっきから身体じゅうを走り回っているちいさな生きものがなにかやわらかな歓声をあげるのが聞こえる気がした。なんと返信すればいいのか液晶の上を指がうろうろさまよっているうちに、軽い音とともにつぎのメッセージが届く。『おやすみ。日曜、楽しみにしているな』 なんとか頭と指を動かし、『僕も。おやすみ』と返信する。するり...

  • いつか君に咲く色へ #29

    清音からメッセージが届いたのは、それから3日後の夜のことだった。まだ昼は暑いけれど、開け放った彩葉の部屋の小窓からはすずしい夜風が心地よく吹きこんでいた。 かろやかな着信の音に液晶を確認すると、清音の名が表示されている。おおきく、心臓が跳ねた。ロック解除ももどかしく、メッセージアプリをひらく。『借りていた本、そろそろ返さなくちゃな。今度の日曜日あたり、都合はどうだろう?』 ……これは、清音が僕に会...

  • いつか君に咲く色へ #28

    意図しなかった彩葉の言葉に、清音がかすかに目を見開いた。迷うような声がつづく。「……俺、連絡しても迷惑じゃなかった?会って、本の感想を話したかったんだけど、どういうふうにメッセージを送ればいいのかわからなくて、ずっと迷ってしまって。結局、夏休みがあけてしまったな」 ごめんな、対人関係スキルが低すぎるよな。そう言って困ったように笑う顔を見た。 清音もおなじだったのか。彩葉とおなじく、会いたくて、でも...

  • いつか君に咲く色へ #27

    どうにかこうにか宿題を終えた夏休み明け初日、まだまだ暑さ厳しい朝の昇降口で清音と顔をあわせた。めずらしく、清音のほうから声をかけてくる。「菅原、おはよう。ひさしぶりだな」 彩葉も挨拶を返し、教室までの廊下で肩を並べる。夏期講習のあいだにずいぶんと清音のとなりにいるのも慣れた。 それでも「長期予報だと残暑が厳しいんだって、いやだなぁ」「でも毎年そうだから今年もテレビが言ってるなって思うだけだな」な...

  • いつか君に咲く色へ #26

    本のお礼に宿題のわからない箇所を教えてくれると言うので、ローテーブルに教科書と参考書、ノートをひろげて化学の応用問題の解きかたを教わる。化学はこてこての文系である彩葉の苦手科目だ。 彩葉の脳内でからまっている箇所を的確にほどきながらルーズリーフの上をすべるシャープペンシル。机の上から目をあげて、彩葉は清音の横顔に目をやった。そのままぼうっと眺める。伏せた目のまつげが長く、すっきりとした鼻筋やすこ...

  • いつか君に咲く色へ #25

    しばらくかけて、3冊の本を見つくろい振り向くと、清音は凪いだ瞳で彩葉を見ている。しずかに問われた。「どうして、こんなに読書が好きなんだ、菅原?」 彩葉は本を抱えたまま、足がすくむのを感じた。つまさきから、つめたい感覚が這い上ってくる。 ――……気持ち悪いんだよ! かつて、投げつけられた言葉が脳裏をよぎる。清音には、清音にだけはそんなふうに思われたくない。だけど、うそもつきたくない。どうしよう、どうす...

  • いつか君に咲く色へ #24

    彩葉の、背中を撫ぜる手に、凝り固まっていたなにかがほぐれていくのか、清音は静かに語りつづける。「それからなんだ。人とかかわるのが怖くなった。とてもとても、怖く。どんなに大事な相手でも、どれだけ大切にしても、あっという間にいなくなってしまうことがある。とても理不尽に奪われることがある。怖くて怖くて仕方なくて、失うくらいなら最初から手にしなければいいって言いきかせて遠ざかっているうちに、どんどん怖く...

  • いつか君に咲く色へ #23

    「……え?」 清音の声がかすかに掠れる。瞳が揺らぐ。「おじいちゃんと暮らしているって言うからさ」 それに、読みたいと言う本の内容がふだん見ている清音の雰囲気からはほど遠い、という言葉は胸の内側だけに落とした。落とした言葉が、胃に重く響く。「中学生のころだよ、1年のとき、インフルエンザに罹ったんだ」 清音はゆっくりと話し出した。ときどき、声がふるえる。 清音が高熱を出したタイミングは最悪だった。ちょう...

  • いつか君に咲く色へ #22

    「ここだよ。ご遠慮なくどうぞー」 冗談めかして言うとカーポートの日陰を通って、玄関を開ける。清音は「お邪魔します」とちいさな声で言い、屋内に足を踏み入れた。冷房の空気がふたりの身体を包む。清音がちいさく「涼しい」と言った。「部屋、二階にあがってすぐのとこだから先に行ってて。なにか飲みもの持っていく」 彩葉が階上を示すと、清音の足音がゆっくりと二階にあがっていく。彩葉はキッチンで冷やしておいたペット...

  • いつか君に咲く色へ #21

    駅の改札で待ち合わせた。先に着いたのは彩葉だった。しばらく行き交う人を眺めていると、涼しげな細いストライプのシャツとくるぶし丈の紺色のスリムなズボンで現れた清音は、彩葉を見つけると片手を挙げる。「悪い。待たせたか?」 彩葉は「ちょっとだけ」と答えて、清音に笑いかけた。控えめな笑顔が返ってくる。 じゃわじゃわと蝉がかしましく騒ぎ立てるなかを彩葉の家まで並んで歩きながら、清音に疑問を投げかけた。「卒...

  • いつか君に咲く色へ #20

    彩葉の声が沈黙をやぶる。あした、清音の都合はどうだろうか。秀才は夏休みも忙しいのだろうか。「清音、塾とか行ってる?予備校とか、そういうの」「いや、行ってない。じいちゃんに金銭面で迷惑かけらんないから」 えっ、と彩葉は首をかしげた。「おじいちゃん?」 清音はうつむくと、首筋をかりかりとかく。「俺、両親いなくて。じいちゃんの家でふたり暮らししてるんだ」「そっか、そうなんだ」 その理由に踏み込んだほう...

  • いつか君に咲く色へ #19

    夏期講習の締めくくりの模試が終わるころには、清音は2冊とも本を読み終わったようだった。読むペースははやいほうだ。 肝心の模試で、力を入れて対策をしていたはずの英語のリスニングがまったくのちんぷんかんぷんだったのですこししょげていた彩葉は、視聴覚室で席を並べた帰り道の「小説っておもしろいんだな」という清音の言葉に、ぱっと顔をあげた。夏の午後の短い影がふたりの足元にわだかまっている。自転車のグリップ...

  • いつか君に咲く色へ #18

    清音が身じろぎひとつしないので、彩葉は行動を補足するように言った。清音といっしょにいると、ときどきこういうことがある。行動や言葉で、自分がとてつもなくややこしいルービックキューブを渡してしまったような。そのたびに彩葉は、自分の面を合わせて示さなければならない。めんどうくさいな、とおもしろいな、がはんぶんこずつの気持ちで。彩葉が「あのね」と言うと、清音がちいさく瞬いた。「いやじゃないよ、ぜんぜん。...

  • いつか君に咲く色へ #17

    自転車をからから押しながら、清音と肩を並べて駅前に最近できた本屋にむかう。 清音は彩葉より頭ひとつぶんくらい背が高い。真っ黒な影が目のまえに落ちている。 この暑さのなか、徒歩で行ける距離とはいえ本屋などに誘ってしまって申し訳なかったなぁとちらりと思った。「菅原、読書好きなのか?」 清音が訊ねる。個人的な好き嫌いに関しての質問をされたことに内心で驚きながら「うん、図書委員になれてよかったなって思う...

  • いつか君に咲く色へ #16

    「さっき、正直に言うと緊張した」 清音の言葉にウインナーをかじりつつ彩葉が「さっき?」と返すと、「朝、ほら、空席がどうか聞いたとき。席が決まってないから、どこに座ればいいのかわからなくて」と補足される。彩葉は「そっか」と頷くと、ちょっと考えた。「じゃあ、清音、夏期講習のあいだはずっと僕のとなりに座ればいいんじゃないかなぁ?」 彩葉の提案に、清音は目をみはる。「いいのか?」とおそるおそるというふうに...

  • いつか君に咲く色へ #15

    「数学といえばさぁー」 ぱたぱたと下敷きで顔に風を送りながら、ふたばがなにげなく口をはさんだ。「前々から疑問だったんだけど、動く点Pって、あれなんでPなんだろうね」「ポイントの、Pなんじゃないか?」 清音が間髪入れず、ふたばの疑問に解を示す。彩葉とふたばは顔を見合わせ、目を丸くした。「清音、すごい」「さっすが、速水くん。そっかぁ、そういうことだったのか。積年の疑問が晴れたよ」 ふたばが感動したよう...

  • いつか君に咲く色へ #14

    清音に朝、声をかけるようになって2週間が過ぎた。瀬戸ふたばが「彩葉ちゃん、どうして速水くんに毎朝、挨拶するようになったの?」と心底不思議そうに訊ねてきたのは夏期講習の初日だ。この期間は自由に席についていいようになっているので、昇降口でいっしょになったふたばと視聴覚室で席を並べている。「夏のはじめごろ、図書委員の仕事を手伝ってもらったんだよね。それで、すこし話して」「手伝った?速水くんが、彩葉ちゃ...

  • いつか君に咲く色へ #13

    その晩、彩葉は眠れないままに思考の海に沈んでいた。清音の言葉の意味を考えつづけていたせいだ。他者とかかわることが怖いという清音。感情の色はやはり読み取れなかったけれど、底のしれない深い苦悩の気配がした。 寝返りを打ち、堂々巡りをつづけている疑問をもう一度心に浮かべる。手を差し伸べてもいいのだろうか。あれはSOSだったのだろうか。清音の発した、彩葉にしか受け取れない救難信号。いくら考えてもわからない...

  • いつか君に咲く色へ #12

    驚きつつもなんとか「……どうして?」と問う。フルネームで呼ばれたこと、話がしたかったと言われたこと。ちいさな爆弾がつぎつぎに胸のなかで爆ぜる。清音はそんな彩葉を見て、ゆっくりまばたきした。まるで、彩葉を落ち着かせるように。「大人っぽいから」 こんどこそ、なんと返していいのかわからない。 大人っぽくなんかない。教室で低くてざらざらした声を出して彩葉にはついていけなさそうな話題で笑いあう、半分大人のよ...

  • いつか君に咲く色へ #11

    けれど彩葉の返事に、そうか、とそれ以上縮めようもなさそうな相槌を打つと、清音はカウンター越しに図書室を眺めている。 なんとなく拍子抜けした彩葉も見慣れた室内に視線をめぐらせる。貼られっぱなしの読書週間のポスターや去年の10月のままめくられていないカレンダー、額縁に入れられたちいさな絵。 自分のテリトリーにいるはずなのに、彩葉は急にうろたえた。落ち着かない気持ちが右往左往し、脈絡もない言葉が脳裏をめ...

  • いつか君に咲く色へ #10

    毎週木曜日の放課後、くじ引きで図書委員になった彩葉は古い貸出カウンターに立つ。 図書室はなかば自習室で、賑わいのわりに本を借りていく生徒はごく少ない。だから、彩葉ともうひとりの木曜の貸し出し係になっているおなじクラスの三枝光莉(ひかり)という女子は、小声で会話しながら時間を過ごすのが常だった。「遅くなった。すまない」 背後で男子生徒の声がしたとき、だから新着図書を読んでいた彩葉はそれが自分にむけ...

  • いつか君に咲く色へ #9

    自分以外にはどうやら感情の色が見えないようだと知ってから、しばらく彩葉はひどくふさぎこんだ。 小学校にあがったばかりのおさない頭なりに、自分は異常なのだろうかとか病気なのだろうかとか、あれこれ思い悩んだ。おさなさは、秘密を抱え込むので精いっぱいで、じょうずにしゃべることさえままならなくなった。 彩葉の口数が急に少なくなったので、父親も母親も「学校の授業がわからない?」「いじめっ子がいるの?」など...

  • いつか君に咲く色へ #8

    部活動のたぐいに青春を見出せそうにもなかった彩葉は帰宅部だ。 グラウンドへサッカー部の練習にむかう慎に手を振って、放課後の駐輪場へ向かった。ぎゅうぎゅうに並んだ自転車のなかから、高校入学とともに買ってもらった自分の愛車を引っ張りだす。 じきに暑い季節になるなぁ、などと考えながら片道20分ほど、自転車を走らせた。よく晴れた午後の日差しが背中を照らし、襟元を風が抜けていく。 自宅に着くころには陽光に照...

  • いつか君に咲く色へ #7

    速水清音。ずば抜けて成績がよく、全国模試では30位以内をキープしている模範的な生徒。 医大を目指しているだの、いやアメリカに留学するつもりらしいだのとあれやこれやと噂されているがどれもこれも憶測の域を出ず、真偽のほどは定かではない。清音がめったに口をきかないとても非社交的な性格をしているせいだ。 涼しげな一重の目や通った鼻筋のとても整った顔立ちをしているので、入学当初は女子たちからなんやかんや話し...

  • いつか君に咲く色へ #6

    弁当を飲むようにかきこみながら(以前『弁当は飲みもの』と言っていただけあってすがすがしいほどの食欲だ)、慎がさらになにやら話題を振ってきた。彩葉がちょっと顔をしかめて「食べながらしゃべらないで」と言うと、ほおばっていた唐揚げをごくんと飲む。慎は「ごめんな」と言ってから、改めて切り出した。「公務員になりたいってことは、彩葉ちゃんはこのへんの大学に行くの?」「そうだねぇ。慎みたいにとくにこれといって...

  • いつか君に咲く色へ #5

    「彩葉ちゃん、占い師になりなよ。ぜったい、将来的にいけると思う。彩葉ちゃん相手だと、なんでだか、するする話せるってみんな言ってるよ。相談するなら、みんなの彩葉ちゃんだって」 ふたばは彩葉に親指を立ててみせる。 あかるい笑顔のよく似合う女子は、ふたたび花のような香りをさせて立ちあがる。彩葉にちいさく「またね」と手を振って友人たちに呼ばれてちいさな弁当箱を片手ににぎやかな昼食グループの輪に入っていった...

  • いつか君に咲く色へ #4

    語調も荒く、ふたばがこたえた。ふてくされている。「彼氏に浮気されてたんだけど!しかも、そのことで問い詰めたら、あいつ最悪でさー、逆切れするわするわで、きのう大げんか!」 穏便な相槌を彩葉は脳内から引き出す。さして難儀なことではない。「色恋沙汰のけんかって疲れそうだよね」「そうそう、もうぼろぼろ。アイアムソータイアード。だから、みんなの彩葉ちゃんに癒してもらいにきたの」 ぜったい別れる、浮気とか無...

  • いつか君に咲く色へ #3

    現代文の授業は、濃い灰色の時間だ。淡々と読み上げられる『山月記』は子守歌でしかない。 内職をする頭やら、うつらうつらと船を漕いでいる背中、机の下でこっそりスマートフォンを操作する手やらを眺めつつ、彩葉は頬杖をついたままあくびを噛み殺す。 教壇の上に立つ初老と言って差し支えない年齢の教師は、すべてを把握したうえでいつものように諦めの色を示している。やっぱり諦めって水色なんだな、潔いくらいきれいだな...

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