玄関のドアにもたれて、どのくらいそうやって泣いていただろう。あまりにもやりきれなくて、手からこぼれるその感情があふれるような涙だった。ほとほとと、遠慮がちに背中を接している扉をたたく音に気がついた。肩をびくりと揺らす。追いかけてきて、くれた?あんなにひどいやり方で突き放したのに、それでもまだ求めていてくれる?「陽詩くん」呼ぶ声がする。震える心を物理的に鎮めるように、両手で胸を押さえた。そうでもし...
BL小説『いつか君に咲く色へ』連載中です。人の感情を色で把握できるDKとその色をもたない同級生のおはなし。ゆっくり恋になっていきます。
『ありえない設定』⇒『影遺失者』と『保護監視官』、『廃園設計士』や『対町対話士』(coming soon!)など。…ですが、現在は日常ものを書いております。ご足労いただけるとうれしいです。
時間が、朝と夜のすきまに見せる色が好きだ。夜が明けきるまえの薄い青、陽が沈んで闇に覆われるまえのはかない橙。まぶしい朝、てらされる昼、真っ暗な夜、雨音(あまね)は地軸が揺らぐように自分の居場所を見失うから。ベッドのなかで青がだんだんと光に浸食される時間、雨音の肺はしだいに金属でできているかのように呼吸がむずかしくなる。このまま光に溶けてしまいたい、という物思いすら容赦なく照らされて消えてはくれな...
僕が「薄荷」と呼ぶものを、彼は「ミント」と呼ぶ。犬派の僕と愛猫家の彼。なにもかも相容れないのに、接点が恋心だというのはいったいどうしたことだろう。作哉が一億万回は考えたことをまた脳内でこねくりまわしていると、ミントで猫派の作哉の彼氏、学人が本屋の紙袋(いちばんサイズがでかいやつだ)を提げて休日昼間のごった返したフードコートに戻ってきた。「また本を増やす……」 作哉の視線に学人はうへへと笑った。「学...
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玄関のドアにもたれて、どのくらいそうやって泣いていただろう。あまりにもやりきれなくて、手からこぼれるその感情があふれるような涙だった。ほとほとと、遠慮がちに背中を接している扉をたたく音に気がついた。肩をびくりと揺らす。追いかけてきて、くれた?あんなにひどいやり方で突き放したのに、それでもまだ求めていてくれる?「陽詩くん」呼ぶ声がする。震える心を物理的に鎮めるように、両手で胸を押さえた。そうでもし...
ちゃぷちゃぷと揺れる波を眺めているうちに、眠たくなってきた。思えば、きのうの夕刻から急展開で、心を置き去りのまま現実が進んでいる。思いがけない再会、二回目のセックス、響生のときどき心に引っかかり波紋をもたらす言動。さっきの「……ごめんな」はいったいなんに対するどういう謝罪だったんだろう。気持ちにはこたえられないということ?おなじ気持ちにはなれないということ?かすかに落ち込みながらも、睡魔にどっぷり...
うそというのは、つきなれていないととっさに声にならないことを思い知る。酸素を求める魚よろしく口をあけたり閉じたりしていると、見かねた響生が助け舟を出した。「俺は、陽詩くんの親戚」 ……になるはずだった人。陽詩は心のなかで付け足す。相沢は感じのよい笑みで「あ、そうなんですね」と笑う。ミルクティー色の髪をした彼女は「仲良しでいいなぁー」と、邪気のない瞳で言った。陽詩は急いで頭の中からこの場を収めるのに...
昼まえに響生のアパートを出た。電車とバスを乗り継いで、水族館を目指す。思えばふたりだけで公共交通機関をつかうのははじめてで、デートみたいと思う。これを、どういう外出と位置づけたらいいのかわからない。「ひさしぶり。水族館に行くなんて」「俺、大学んとき年パス持ってた」「魚が好きなんですか?」 響生が「んー」とうなった。返答を選ぶときの癖らしい。ややあって、「海を知らない魚たちって、ちょっと考えちゃう...
一瞬、あまりにも大きすぎる言葉の意味をとらえきれなかった。おなじことを思うって?それはつまり、響生さんが、僕を。「いつから……」 あいまいな問いだけが、喉からあふれた。いったいいつから?あの四年前の夜、あたらしい扉に手を伸ばした。暗闇へと続く扉とわかっていてあけた、あのつめたいドア。のしかかる闇を覆す光など、ないと思っていたのに。響生が「んー」とうなった。「ぶっちゃけ、ああやって抱いてみてから。触...
交わりのあとの緩慢な充足のなかで、響生がシャワーを使う音を聞く。その音がドライヤーの音に変わったあたりで、ゆるやかに眠気が這い上ってきた。とぎれとぎれに、温風を吐きだす機械の音のむこうで響生の声がする。聞き取れないので、「なんですか?」とすこし声を張った。ぶおん、と音が止まる。寝室に、響生が戻ってくる。「あした、予定がなかったらいっしょに出かけないか」 寝巻きに着替えた響生に覗き込まれ、陽詩はゆ...
響生が指で陽詩の唇に触れた。優しくなぞる。自分の唇の輪郭というものを、とたんに意識した。「抱かせて、陽詩くん。いいだろ?」 問いかけの声がかすかにふるえて聞こえた。陽詩だってこの状況で拒めようはずもないのだが、なにかにとてもおびえているような声だった。陽詩は目を開けた。視線で響生をとらえる。またひとつ、と思う。またひとつ、この人を好きになってしまった。「……僕も、響生さんとしたいです」 響生がそっ...
照明を絞った部屋は暗みががったオレンジに沈んでいて、響生の表情はよくうかがえなかった。それでも、陽詩の身体を撫ぜる手がやさしいので怖くはない。肩から腰までをそっと撫でおろされるとあまい痺れが走る。性的な意図よりは慈しむような手のひらの温度に戸惑った。「響生さん?」 優しさを示されるはずはないのだ。愛されているわけではないのだから。こんなふうに触れられるのはつらい。もしかしたらと期待してしまうから...
アパートの最寄り駅の雑踏のなかで声を聞き取ったのはイヤホンの調子が悪かったからだった。耳から引っこ抜いて接続を確認していたら、義兄になるはずだった人の声が耳に滑り込んできた。「……陽詩くん?陽詩くんだろ」 のろのろと数回まばたきするあいだにも、声は名前をなぞる。軋む首を動かして見遣れば、コートを羽織った響生が立っていた。陽詩が取引を持ち掛けた夜から四年が経ち、獣医学部の三年目にさしかかっていたのに...
ひとけのない冬の海は鈍色に濁り、朝の陽の光を弱々しく跳ね返していた。波打ち際をあるく蒼羽はつよい風を避け、マフラーに首をうずめる。それでも舞い上がった砂粒がぴしぴしと頬を打つ。 かちん、とトングを鳴らした。金属音でリズムを取りながら、小学生のころにはやった男性ボーカルの曲を口ずさむ。足元と、手で鳴らすリズム、自分の声に意識を集中させる。だからだろうか、背後から声をかけられるまでひとの気配に気がつ...
ベージュの砂の上に、手のひらをすべらせた。ひとつかみ、ぎゅっと握って持ち上げる。ぱっと空で指をほどくと、さらりと散る。散り落ちた砂粒はもう他と見分けがつかなかった。人の心も。水銀灯だけが照らす夜の公園の砂場、通勤リュックを背負った佳尚(かなお)はしゃがみこんだまま思う。人の心も、細かく細かく砕いたのなら、こんなふうに扱ってもいいのだろうか。それとも、こんなふうになった心はもう心の機能を果たせない...
むかし、大好きだった人が死んだと聞いた。よくない死にかただったようなので、ようすを見に行ってみることにした。 てんてんと道をたどっていくと、遠くにそれらしき影が見える。うわあ、と声が洩れた。腰から下がほとんど液状になって、満足に歩くこともできないみたいだ。あれは相当ひどい。いったいぜんたい、彼の身になにがあって、なにがなくて、あんなふうにここにいるのだろう。 じゅうぶんに距離を保ったまま、彼の姿...
時間が、朝と夜のすきまに見せる色が好きだ。夜が明けきるまえの薄い青、陽が沈んで闇に覆われるまえのはかない橙。まぶしい朝、てらされる昼、真っ暗な夜、雨音(あまね)は地軸が揺らぐように自分の居場所を見失うから。ベッドのなかで青がだんだんと光に浸食される時間、雨音の肺はしだいに金属でできているかのように呼吸がむずかしくなる。このまま光に溶けてしまいたい、という物思いすら容赦なく照らされて消えてはくれな...
僕が「薄荷」と呼ぶものを、彼は「ミント」と呼ぶ。犬派の僕と愛猫家の彼。なにもかも相容れないのに、接点が恋心だというのはいったいどうしたことだろう。作哉が一億万回は考えたことをまた脳内でこねくりまわしていると、ミントで猫派の作哉の彼氏、学人が本屋の紙袋(いちばんサイズがでかいやつだ)を提げて休日昼間のごった返したフードコートに戻ってきた。「また本を増やす……」 作哉の視線に学人はうへへと笑った。「学...
目覚める直前、意識が浮上しきるその前に髪を撫ぜられているのを感じた。心地よい。このまままぶたを落としていよう、と決めるその一瞬前に目を開けてしまう。青に染まった部屋に、目覚ましはまだなっていないことを悟る。「かず」 啓仁に名前を呼ばれる。この人は自分の恋人だと和沙が思う前に、鼓膜が恋人の声だと認識してしまうような声音で。身じろぎすると「どうしたの」と落ち着いた声で問われた。「うなされてたし……泣い...
タクシーの後部座席におさまった恋人を眺めながら、助手席の夏生(なつき)はさっきから「ひとり多い」話を思い出している。 遠足の引率をしていた小学校教師が行きかえりの点呼で人数が違うことに気がつくとか、山で遭難した四人組が肩たたきゲームをしてからくも難を逃れるが、のちになってそのゲームが四人では成り立たないことに気がつくとか、そういった類の怪談話だ。小さなころに好きでよく読んでいた怖い話ばかりを集め...
とん、とかるく背中にだれかの肘がぶつかった。地下鉄の駅からじゃあじゃあと雨の降りしきる夜の地上に出ようと傘をひらいていた優帆はつんのめってとっさに前方に手を伸ばす。雨に容赦なく背中を打たれたのは、さっき駅のコンビニで買った傘が手から落ち、風に転がっていったからで。これがきっと、最高についていない一日の終わりだ。もうこの自然の不快極まりないシャワーで終わりにしてほしい。ついてなさを。「いいじゃない...
料理をしているときの横顔が好きだ。栄養と、食事と、人生を強く信じているようなぶれない横顔。調味料をはかるときにすこしだけ細められる目。でき上がりに満足したときのやわらかな笑顔。 いまは、カラメルソースを煮詰める匂いがせまいキッチンに充満している。 冷蔵庫で冷やされ出番を待っていた、卵と牛乳と砂糖を混ぜて蒸しあげたすこし硬めのプリンに香ばしいカラメルをかけながら、百々が僕の名を呼ぶ。「晴太、プリン...
いまでも、あの日抱いた感情の名前をさがしている。ずっと、ずっと、いまも。 大学受験を控えた夏休みだった。休みとは名ばかりの、夏期講習と模擬試験と判定に一喜一憂する日々に埋め尽くされた、スケジュールもメンタルもぎゅうぎゅうに追い詰められるような、あの夏。 講習から帰り、昼ご飯をかきこみながらリビングのバラエティを眺めていた。ひとときの休息の時間で、一時間くらい昼寝できるかななどと考える頭の表面にテ...
ひとりでいいから。ちいさなうそをつくたびに、すこしずつ孤独に鈍くなった。 だれでもいいから。これまたうそを口にすれば、すこしずつ夜を乗り越えるのがじょうずになった。 ほんとうは、たったひとりがほしい。ずっと。ずっと前から。 すこしずつ、それを声に出せなくなるのは、なぜ。 部屋を出ようとすると、夜のなかに雨が降りしきっていた。一瞬、ごくわずかに躊躇した椎菜の背中に声があたって、転がる。「傘持ってん...
「お疲れさま、ふたりとも。先にあがるね。あ、そうだ!透琉(とおる)くんに教えてもらったレシピ、このまえ試してみたの」「うわあ、ありがとうございます!どうでした?」「レンチンでぜんぶ作れちゃうのね、時短わざは透琉くんに聞けってね」 はじける笑い声を歩生(あゆむ)は背中で聴く。話題そのものに、ものすごい遠心力で弾き飛ばされたのを感じる。相容れない、水と油のように。 バイト仲間の透琉はモテる。主に、パー...
ルーティンというものは破られたときのほうが、守られたときより「そこにある」ことを主張しはじめる。 由糸(ゆいと)の場合、ウィークデーならこんな感じだ。決まった時間に起きて、毎朝飲むサプリメントを服用し、軽く胃に食べものをいれて出勤。帰ってきたら食事のまえに簡単に風呂をすませ、休日に作り置いた数品やスーパーの半額シールの貼られた惣菜で夕食をとって、本や新聞をめくり、だいたい日付が変わるころにベッド...
こんなことでもなければ、20代でふるさとの地をもう一度踏むことはなかっただろう。 視線をめぐらせ見あげる空から、気まぐれに三月の雪が降ってくる。そういえば、この地では死んでいく冬が最期の力を振り絞るように、こんな雪が降ることがあるのだった。襟足から容赦なく冷気が忍び込んでくる。薄手のコート一枚でやってきたことを後悔した。音もなく降る雪に、無沙汰を咎められている気がして、柚希(ゆずき)はちいさく肩を...
もうなにも出ないから、もういいから、と訴えても、やめてもらえなかった。なかの刺激がよくてよくて、無意識にまだ、とかもっと、と口走ってしまうたびになんども奥に射精された。なにも出ないままでいかされたとき、脳髄ごとけいれんを起こすような快感に絶叫した。溺れそうで苦しくて、苦しいことがしあわせだった。 果てのない交合が終わったのは、夜明けちかかった。あちこち痛む身体をなだめすかして起き上がると、響生が...
だから、何のためらいもなく響生の指が後孔をうかがってきたとき、興奮よりも恐怖を覚えた。肌はほてっているのに血の気の引くような、ふしぎな感覚。「ねぇ、ひびきさ……っ!あの、ねぇ、その、……ほんとにできる、の?」 響生が無言で陽詩の手を掴む。そのまま導かれた先の熱に反射的に指先がびくっとした。「陽詩にあれだけしといて、俺のが無反応とかそっちのほうが変態くさいだろ」 軽く笑った響生の指が体内にもぐりこんで...
「すごくいまさらなこと訊くけど」 ベッドサイドのあかりだけが生きた仄暗い部屋、ベッドの上で陽詩がせがむままのキスをしながら、響生が問う。「陽詩くんって、ゲイなの?」 陽詩は答えないまま、自分にのしかかっている男に口づけをねだる。スプリングをきしませながら、なかばもう自暴自棄なのか、響生が熱心にそれに応じた。「こういうキス、したことある?」 響生は舌先だけを陽詩の舌にからめ、誘い出した。ふたつの唇の...
数日後、響生が住むアパートの最寄り駅の改札で、陽詩は姉の恋人の帰りを待っていた。 ここで、姉といっしょに響生を待ったことがある。あの夜は、三人でたこやきパーティーをした。姉はとても楽しそうにはしゃいで、そんな姉を響生がやさしい目で見ていた。 そして今夜は。陽詩は、墨を流したように暗い空を見上げた。 ――……今夜は、後戻りのできない取り引きをする。「陽詩くん?」 背中に、聴きたがえようのない響生の声が...
「ドナーの適合検査……?あの、僕も?」 三日後の朝。ダイニングテーブルをはさんで向かいに座る父親の顔を陽詩が見上げると、父親は「すまないが、検査を受けてくれ。繭子のためだ」と憔悴しきった面持ちでうなずいた。「陽詩がいま、将来に向けて大事なときだっていうことはわかっている。できるだけ、おまえの心身の負担にならないようにはしたいんだが……巻きこんでしまって、ほんとうにすまない」 陽詩は居心地悪く、椅子の上...
ハイレベル模試を全教科受け終わり、家路を辿る途中の自販機で買ったスチール缶のココアを片手に自宅のドアをひらく。いちどきに、重く沈み、暗く淀み、つめたく凍りついた空気に全身を包まれた。家じゅうが閉じた冷蔵庫になってしまったかのような異様な雰囲気にかすかに身震いする。ふっと、このさきの人生には何一ついいことがないんじゃないかという予感がした。 空恐ろしい未来予想を振り払うように、陽詩(ひなた)は精い...
ぽた、と膝に落ちたのが溶けたアイスクリームの雫だったとき、やっと、別れ話をされているのだと理解した。夏の終わりの夜のはじまりはまだ明るく、一瞬でぬるくなった濃紺のうえのミックスミントアイスの色はいかにもすずしげだ。 人工色の緑を指先でふき取り、ふふ、と千緒(ちお)はちいさく笑う。アイスだって。涙じゃなくて。たぶん、650円くらいの値段の恋だったんだ。 涙さえ流す価値さえない恋だったのだと、だれかに...
ふっと、帰ってきている気がした。曇りガラスのむこうに、朝からしとしとと降っている雨の足跡を刻んで。麻杜(おと)は人参をさいの目に刻んでいた手を止め、じっと硝子戸の外の気配をうかがう。犬が甲高く鳴く声、バイクの走り抜ける音。昼下がりの休日の、なんということのない音の光景。きっと、聞いた通りの風景が硝子の引き戸越しには広がっているのだろう。「麻杜」聞こえない声が聞こえる。触れられない腕がそっと手の甲を...
彩葉の目を覗きこみ、清音が感じ入ったように言う。「菅原がちゃんと感じてくれて、すごく気持ちよさそうでよかった」「……気持ちよすぎて頭がへんになるかと思った……。いろいろ見苦しくてごめんね……」 さっきまでの交わりの名残はもう、身体の奥に残るあまい感覚と、シーツを汚しているもろもろの体液にしか残っておらず、彩葉はかすれた声で言うと咳きこんだ。その拍子に後孔からくぷりと清音の放ったものがあふれ、シーツに伝...
「ん、ああんっ、……あぁっ、いい、気持ちい……っ、あ、あっ、……いく、いっちゃう」 清音の歯が乳首をかすめた瞬間、目を閉じ、浮かせた腰をふるわせてさらさらと流れるような射精をする。存分に出したはずなのに強烈な快感は引かず、高止まりのままの性感に彩葉はもうどうしたらいいのかわからない。ただ、身体がそうしたいと思うがままにあられもなく乱れた。荒い息のあいだから、自分を抱く腕に訴える。「あぁぁ……ん、清音、まだ...
じわじわと、清音の性器に浸食されていく。ちっとも怖がらずに清音を受け入れたそこが気持ちよがって、ひくひくと飽きることなくあたらしい異物を啜るのがわかった。ゆるく彩葉を抱きしめ、腰を進める清音が、あっ、とちいさく掠れた声を洩らす。「ゃ……、待って、菅原、……なに、なにこれ」 彩葉の内腑の蠕動を予想していなかったのだろう。とはいえ、彩葉は彩葉で指とは較べるべくもない質量がなかに挿ってくるので、痛苦しいや...
後孔にそろりと最初の指が差し込まれてからどのくらい経つのか、彩葉には判然としない。はじまったころは違和感に清音の指を押し出そうとばかりしていた彩葉の粘膜は、いまや喜んでなかで蠢く指を三本も咥え、啜り、しゃぶっている。ぬちゃぬちゃという粘着質な水音は、清音が彩葉の後孔にたっぷり含ませたローションで。「……だいぶ慣れた?痛くない?」 清音の問いに、枕を抱えて脚をおおきくひらいたまま、声も出せない快楽に...
清音の声で彩葉に吹きこまれるのは慈しみなのに、はっきりと欲情をにじませている。清音が早く彩葉を自分のものにしてしまいたいと思っているのがわかる。だって、唇に優しく口づけながらも清音の手は。「あ、ぅ……ん、あぁ……、んっ、あ」 とうにしとどに濡れていた彩葉の性器に触れる清音の手には、いっさいの躊躇も遠慮もなかった。彩葉が分泌したぬめりを借りて、水音を立てて、反応をうかがいながら追い上げてくる。過ぎた性...
「菅原」「……どうしたの?」「ここ、こりこりになってきた。すごい、指で弄れそう」 したたるような声で言うや否や、清音が指先で彩葉のはっきりと赤みをまとったふたつの尖りをつまんだ。そこから注がれる快感に息を呑んだ彩葉の喉から、うわずった声が迸る。「あ、あぁ、……っ、や……!」 反射的にぎゅっと目をつぶってしまったので、否応なしに触覚と聴覚が研ぎ澄まされる。はっきりわかる。清音にどんなふうに触られているか。...
「菅原、こら、じっとしてて」「ごめん、想像以上に恥ずかしい、これ」「……こら、もう、強硬手段に出るよ」 そう言って、彩葉のパジャマのボタンをベッドの上でひとつずつ外しながら、真上から彩葉を押さえ込んでいる清音が器用に脚で彩葉の動きを封じた。直接、肌に触れる清音の指がくすぐったくて身をよじりたいのに思うように動けない。こんなときなのに笑いだしそうになる。 されるがままにパジャマをはだけられ、素肌に手の...
どうせまたすぐ脱ぐんだけどな、と思いながらも一応パジャマを着て、先に髪を乾かし終わった彩葉はキッチンでペットボトルの水をごくごく飲んだ。清音がドライヤーをつかう音がする。なんだか生活って感じ、と気分をよくして水を冷蔵庫に戻す。 リビングのソファにおさまり夜のニュースをつけると、清音が脱衣所から出てきた。紺のストライプのパジャマをだぼっと着た清音は彩葉のとなりに腰をおろすと、つけたばかりのテレビを...
「どうした、急に赤くなって」 からかう口調で清音が言う。赤くなった頬を隠す方法がない。だから、彩葉は清音をまっすぐに見た。「や……あの、これから清音とするんだなって、ほんとにセックスするんだなって……」 ばしゃんと湯が跳ねて、抱き寄せられる。ぴったりとすきまなく身体がくっついてしまうと、これ以上ないほど速まった鼓動を知られてしまいそうで恥ずかしい。それよりも。「やだ、ちょっ……と、清音、」 清音は器用に...