「――先に答えを言ってしまったら、興が削がれるでしょう?」 最愛の人の薄紅色の唇を祐樹の唇で封印した。そしてサマーセーターを着ていても先ほどピーチフィズを零したせいで可憐に尖った胸を指先で弾いた。愛の交歓の前奏曲としてはちょうどいいだろう。このエレベータ
創作BL小説を書いています。 ヤフーブログから引っ越して参りました。
ヤフーブログ終了でライブドア様に引越しました。今日の夜中更新分からはこちらがメインです!
「――先に答えを言ってしまったら、興が削がれるでしょう?」 最愛の人の薄紅色の唇を祐樹の唇で封印した。そしてサマーセーターを着ていても先ほどピーチフィズを零したせいで可憐に尖った胸を指先で弾いた。愛の交歓の前奏曲としてはちょうどいいだろう。このエレベータ
そういえば、最愛の人も祐樹も「心臓外科」の医師一覧に載っているが、同じような「理知的で誠実な、そして控え目な笑みを浮かべてください」と広報室の人に言われた記憶がある。だからきっと同じ指示が医師全員に行き渡っているのだろう。「私が特定不可能な以上、森技官
確かにその通りだろうなと思った。脳外科のアクアマリン姫こと岡田看護師と付き合ったことで、久米先生はゲームという二次元から普通の恋愛にシフトしていて、以前ほどのめり込んではいない。しかし、顔は清楚なのに胸が異様に大きい美少女のセーラー服を一枚一枚脱がして
「別に私はガンジーのような非暴力主義者ではない。祐樹が久米先生の頭を叩いているのを見た時、その行為を彼自身が喜んでいると判断したので、敢えて干渉しようとは思わなかった。医局員全員も、あれは『愛のあるイジり』だと理解していると柏木先生が言っていた」 柏木先
「ウチの病院のサイトに、精神科所属の医師の顔写真は載っていましたっけ?」 最愛の人が淡い笑みを浮かべて頷いている。誰が聞いているかも分からない職員用の食堂で呉先生を揶揄する医師二人は、たとえ親真殿派ではなくても呉「教授」に反対するはずだ。 二人で暮らして
うっかり布地越しとはいえ、胸の尖りを晒してしまった最愛の人のリアクションも非常に気になった。そういう情事に触れられると、普段の最愛の人は顔を紅色に染めて目を伏せていた。しかし今夜はそうではなかったので内心、意外だった。 祐樹と二人きりの時には、大輪の紅
特筆すべきは最愛の人の麗しい筆跡のみで、祐樹には縁のない名前の羅列に過ぎない。森技官が、あたかも国家機密のように大切に抱えていたその紙を、祐樹はテーブルに広げ、何の演出もなくスマホで撮影し、LINEで清水研修医に送信した。一応「極秘でお願いします」とだ
「また始まった」 呉先生がぼそりと漏らした。諦めと愛情が絶妙なバランスで同居した、乾いた呟きだった。しかし、それ以上何かを言うことなく、呉先生は無言で森技官に視線を向けていた。祐樹もつられて視線を向ける。 森技官が言う「備考欄」には、最愛の人の達筆が静か
最愛の人はどこか誇らしげなセピア色の口調とまなざしだった。杉田弁護士は極上の生クリームを心行くまで舐めたチェシャ猫のような表情だ。何しろ祐樹に「香川教授が今『グレイス』に来ていて、多数の男たちから奢られている」と知らせてくれたのは彼だった。「グレイス」
四個の洋菓子は既に食べてしまっている。呉先生は最愛の人よりも華奢な身体なのにどこに収まったのだろうか?まあ、洋菓子効果で呉先生の決意がさらに固まったなら祐樹としては喜ばしいのでスルーしよう。「――新しいかどうかまでは分からないですよ。ただ、その看護師が
最愛の人も男性器は見慣れているはずだ。といっても大学の講義の一環や医学部生の時にボランティアとして参加していた救急救命室での経験に限られていただろう。身体を重ねた相手は祐樹が二人目で祐樹のソレはともかく初めての相手のはそうまじまじと見ていないような気が
「教授教えて下さって有難うございます。あ!お前が軽躁の入り口に立っているかと思った。本気大道芸だったからな、あれはさ」 森技官は一瞬だけアルマーニがこよなく似合う肩を落とした。恋人の言葉は妙に効くらしい。祐樹に言われたなら、きっと三倍返しで皮肉を返してい
最愛の人の怜悧な声は相変わらず淡々としていて、まるで「地球は丸いのです」という自明すぎることを話しているようだった。その静謐な口調が胸の奥に染み入り、祐樹の心は、まるで水面に沈んでいく光の粒のように最愛の人の言葉に全て吸い込まれていく気がした。ただ、二
最愛の人は固まり、呉先生は呆れ果てたスミレの花といった感じで単に咲いている。祐樹は身体を動かすと笑いの発作が再発しそうで、身じろぎすら出来なかった。 精神的には一時間、実際には五分くらいだろうか?ナゾの空白の時間だけが、ただ過ぎていった。 最愛の人がし
ナツキは一瞬だけスマホに目を落とした。多分、両親の待つ家に帰ろうかと思ったのだろう。しかし、今の祐樹は「グレイス」の常連ではない。 今宵訪れたのは最愛の人とのデートの一環で、こんなに長居をするつもりもなかった。最愛の人も祐樹に誘われたから足を運んだだけ
祐樹が洗面所で顔を拭きながら深呼吸を一つ二つと行い、ようやく笑いの発作を収めてキッチンに戻った瞬間、祐樹は一瞬、時空が歪んだのかと思った。 テレビの中でしか見たことのないはずの――学生運動、アジ演説、安田講堂の熱狂。それなのにそこに居たのは、アルマーニ
「え?それってすごくないですか?莫大な資産って…」 ナツキの目に尊敬めいた光が宿っている。最愛の人は一瞬の躊躇もなく「グレイス」の間接照明に照らされた唇を開いた。「真摯に患者さんと向き合った結果です。ただ、私にとって副次的なものでしかないです。また全資産
キッチンを出てトイレではなく、最も遠い部屋である祐樹の個室へと避難(?)した。最愛の人にはとても見せられないほどの、まるで内臓がひっくり返るほどの爆笑に見舞われた。こんなに腹の底から笑ったのは、いったいいつが最後だっただろうか? 最愛の人との暮らしに不
「ん……っ、ゆう……き、来て……欲し……っ」 艶やかな声が、幾度となく押し寄せる波のような欲情と、これから祐樹が与える確かな熱の楔(くさび)が与える期待が滲んでいた。「あ……っ」 祐樹が花園から指を抜くと惜しむような声と、濃い紅に咲いた花壁が物欲しげに、朝
「梶原先生は医局に残すということでいいのですよね?」 何事にも臨機応変に対応し、研ぎ澄まされた言葉の刃を誇る森技官にしては凡庸な問いだった。律儀で真面目な最愛の人は頷いていたが、祐樹は必死で笑いをこらえていた。何しろ映画「タイタニック」に出てきてもおかし
「聡……胸の二つの尖りの次はどこを愛して欲しいですか?」 辛うじて残っている銀の理性のかけらは、風に揺れているようだった。とはいえ、どんな悦楽の深淵に沈んでも理性が完全に消滅せず極小になるだけという点が最高にそそられる。そして几帳面に切り揃えられた親指の
最愛の人の目元がわずかに和らぎ、口元に静謐な笑みが浮かんだ。「私の得意分野だ」 誇らしさを隠しきれない声が、嬉しさに弾んでいるようだった。「梶原先生を香川教授が相談のために呼び出すというのは駄目なのでしょうか?」 森技官はウチの大学病院まで知悉している
「私には、あのイラストよりも貴方の方(ほう)が魅惑的に見えます」 最愛の人の紺色の浴衣に包まれた肢体を手でリードし、正面から向き合った。その過程で肢体から立ち上る芳香がより一層の濃さを放っていて、これからの期待で体温がさらに上昇していることを知る。薄紅色の
「それも一次資料ではなくて、創作だな……。一次資料として残っているのは、『甲陽軍(こうようぐん)鑑(かん)』だ。それを書いたとされる、武田信玄の家臣の高坂(こうさか)昌(まさ)信(のぶ)が主君との親密さをかなり赤裸々に暴露している。とはいえ、具体的な描写は当然ない
「あ!田中先生ありがとうございます。といっても私は、すでに気付いていて――仮にA医師とB医師としますが、そのどちらの弱みが有効か、また、両者の性格を分析しておりました」 最愛の人は祐樹に肩を抱かれたまま「本当だろうか?」という不審の混じった薄紅色の眼差し
「大丈夫ですよ」 祐樹は最愛の人の若干華奢な肩に手を回した。大好きなケーキを食べていた時とは異なる紅い色が頬に刷かれたようで、それがとても綺麗だった。「私の恋人はこんなに魅力的です。そして片想いしていると思しき男女は病院内で十二人います。しかし、玉砕覚悟
やはり、そう疑うのは、最愛の人や祐樹だけではなくて、ゲームをしている日本人の一般的な考えなのだろう。その後、機関銃めいたものを弥助が拾ったかと思えば、海外から来た迷惑配信者を撃ちまくる、日本人には嬉しい展開だ。 最愛の人と京都で最も美味しいと評判のカウ
「豆腐……を、運ぶことが、ミッションなのですか?」 ひとしきり笑い合った後でやっと聞くことが出来た。祐樹の肩に頭を預けた最愛の人は二回目の視聴だろうが、それでも可笑しいらしく祐樹の肩にかかる重みが若干軽くなったり重くなったりしていた。とはいえ、首の筋肉を
呉先生の一人称や言葉は森技官に向けて言っている時と、最愛の人へと野のスミレのような顔に困惑めいた表情で見やっている時の差だ。「そうです。多くのブランドがロゴやイメージカラーを持っているでしょう?あれと同じです。貴方が今着ているのは香川教授から借りたエル
小児科の浜田教授と初めて接点を持ったのは小児科主催ハロウィンの、人気アニメのキャラのコスプレをしてほしいという依頼が最愛の人経由で来た時だ。小児科に入院中の患者さんを少しでも慰めたいという気持ちは分かったが、浜田教授は森技官の言う通り東京大学大学院に在
その理由を聞く前に、画面は新幹線の中に入った弥助の目前に二十個以上の真っ赤なダルマが出現した。構図的にも、そして赤いダルマが炎を連想させる点も「鬼退治アニメの劇場版」と思っていたら、配信者も「鬼退治アニメっぽくないか?そのアニメリスペクト、もしかして…
「このゲーム実況をしている配信者、手の動きなどが画面に映っていないので正確な判断はできないが、遠隔手術にも適しているのかも知れないな」 スマホに映し出されるゲームの画面を見る最愛の人の微笑は、先ほど見た春風に舞う桜の花弁以上にやわらかく、楽しげなのに、職
呉先生が突然の雨に打たれて驚いたスミレの風情だ。 また、森技官は、わざとらしく肩を竦めただけだったのに、祐樹の目にはまるで舞台の中心でスポットライトを一身に浴びている主演俳優のように映った。アルマーニのジャケットは、誂えたようにその肩に馴染み、わずかな
「あの人の作品は読みやすいので救急救命室の凪の時間にページを開く作家です。どの本の後書きだったかは忘れましたが『源氏物語は全く読んだことがないと。確か谷崎潤一郎や与謝野晶子が現代語に訳していましたよね?それすら読んだことがないので源氏物語を訳す自信がない
森技官が、「間(ま)」を含むとはいえ、話しながら考えたにしては脳の処理速度はすさまじく速いと思う。最愛の人も、事務処理能力にも優れており、手術をしない科の教授ですら定時上がりは難しいという現状にも関わらず、基本は定時上がりだ。目にもとまらぬ速さでパソコン
「――それと、トラウマ記憶と再構成だと思う」 最愛の人がミネラルウォーターを飲んだ後に静謐さをまとった声が和風と西洋風の程よい折衷の部屋に響いた。 トラウマ記憶は分かる。強いストレス下で体験した記憶という意味だろう。それはいわゆる社会の底辺に生まれ、親に
「具体的なシナリオは既に書きあがっています。ただ――」 意味ありげに言葉を切った森技官は、不器用な手つきでフォークを操り、いびつに切り分けたイチゴのケーキを呉先生の皿へとそっと移した。その潰れかけたケーキを、呉先生はまるで宝物のように嬉しそうに見つめてい
祐樹だって救急救命室では怒鳴ることもある。手際が悪いとか、優先順位を間違った医師に対してだが。しかし、その怒鳴るという感情には明確な理由がある。それは、救急救命室の鬼とも天使とも呼ばれている杉田師長も同様だ。彼女の場合は言葉がキツく感じられるが、患者さ
二人は「アルコールは外で呑むもの」と決めていた。久米先生や清水研修医といった若手が育っていない頃、「救急救命室の法律だ」と言い張る杉田師長の呼び出しに備え、自宅で寛いでいる時でさえ呑まない習慣が常態化していた。その名残りだ。いくらアルコールに強い祐樹と
「全く痛くはないですよ。安心してください」 森技官は優しい春風のような眼差しを浮かべ、薄い唇がまずは微かに弛んだ。恋人の謝罪に応えるように、春の陽だまりのようなぬくもりを宿したかと思えば、すぐにその弧は冷たい硝子のような輪郭に変わった。すべてが彼の描いた
最愛の人は記憶力こそ祐樹が知っている中で最も優れた人だが、総合したり想像したりする能力は祐樹が勝っている。そのことを知った上での最愛の人の笑みだろう。「遊郭に売られるのは、年端もいかない子供だったのですよね。今の私なら、親に捨てられても『だったらこっち
「呉先生、貴方は精神科医としての矜持がないのでしょうか?」 最愛の人は、名工が丹精込めて作り上げた氷の彫像のようだった。吐く息すら冷たい気がした。「はい。その通りです。物理的な力ではなくて、言葉を行使すべきでした。とても反省しています」 呉先生は、春の陽
…しかし、祐樹がコンビニ袋で作った即席氷嚢は、すでにその使命を終えかけて、中の氷が解けて水となって森技官の頭上にクラゲのようにぐにゃりとへばりついていた。また、頬の冷えピタは絶妙に曲がってしまっていて不機嫌な青いフジツボが一匹、そこに引っ付いているよう
浜田教授は外(と)様(ざま)、つまりウチの大学病院以外の出身の先生を指す歴史用語由来の言葉だが、他の大学でも使われているのだろうか?それともやけにウチの病院に詳しい森技官が病院のスラングを使ってくれているのかもしれない。 とにかく立て板に水といった感じで説
「――実のところ、かの准教授の『日本に奴隷がいた』という主張が真実として浸透してしまい、日本が『非人道的な国だった』と非難を受け、国連人権委員会が動きかねないと危惧していました」 スマホの画面に表示されたYouTubeの再生をタップする前に、頭の中で封印
「真殿教授のイエスマンばかりということは『精神科はパターナリズムで運営すべき』と考えている医師だと考えるのが妥当です。医局員は教授の影響を受けやすく、その思想や態度に染まりやすい傾向があります。現に、香川外科の医局員は全員、赫赫たる手技をお持ちの教授に尊
「それは凄いね!いや青年が生まれ変わった記念日だ!乾杯と行こうじゃないか」 杉田弁護士が飄々とした表情で言っている。ただ、これは何事にも動じない杉田弁護士の地顔だと祐樹は知っている。 喜びにわずかに弾みを帯びた、長く整った最愛の人の指先がそっとウイスキー
「香川教授や田中先生が、私の同席している今この時とばかりに、この話題をなさった理由が理解出来ました。要するに他国立大学の医局内クーデターの成功例が知りたいというお考えですね」 まさに目から鼻に抜けるというお手本のようだった。ただ恰好は、頭にかぶったコンビ
彼の長い睫毛が微かに揺れ、頬に一刷毛朱を加えたようになった。その唇は、押しとどめることなく微笑が咲いていた。祐樹の言葉を反芻するように目を伏せたその横顔には、誇らしさと愛おしさ、そして甘やかな驚きが入り混じっている。ああ、こんなにも素直に喜んでくれるの
「僕もさ、もうちょっと…ちゃんと腕、磨こうかなって…。あ、誤解しないで欲しいんだけどさ、別に張り合おうとかじゃないからね?」 言い訳めいた言葉にどこか照れがにじむ。けれどそれは真っすぐな気持ちの裏返しのような気がした。祐樹は、言葉にせず、ただ頷いた。祐樹
「本意のズレですか。私は何も明日教授のポストに就けとは言っていませんよね。実際問題としても不可能です」 怜悧で理知的な声が諭すような静けさがあった。「いっそのこと、真殿教授の常備薬にジゴキシンを混ぜるというのは如何でしょう?」 森技官が水を得た魚のような
ナツキの問いに、祐樹の胸が微かに疼いた。ナツキ自身もまた、この社会における少数派としての不安を抱えているはずなのに、そしてまだ専門学校に通っている年齢にも関わらず――彼はまず、最愛の人と祐樹を気遣ってくれた。 隣に座っている最愛の人はグラスを静かに置い
「弥助問題が顕在化した時に、ネット上では人々が細かい情報まで掘り起こしては、次々に共有し合っていたらしい。弥助の記述をしたのは『tottori tom』Facebookに『鳥取在住』と顔写真と共に載っていた。例の日大の准教授の名前はトーマス。Wikipediaの自己紹介欄
森技官は不格好な兜(かぶと)のような氷嚢(ひょうのう)も、頬に貼った冷えピタも何だか激戦場で怪我を負いながらも勝利した武将のように祐樹には見えるから不思議だ。 もしかしたら呉教授を最も待望していたのは祐樹たちではなく森技官かも知れない。「厚労省に言いたいこ
彼の言う通り例えば呉先生のような、血液や内臓が生理的に無理で、視覚・嗅覚でそれらを捉えると嘔吐してしまうような外科医は不要だ。尤も呉先生はそのことをきちんと自覚しているので、嘔吐を催すような場所には絶対足を踏み入れない。「男女の差は関係あるかね?」 杉
日大は大学の名前だろうし、タックルは見たままの行動だろうけれども、二つの単語が重なると意味が分からない。「『黒人侍が存在した』と主張したのは日本大学の准教授なのだ。歴史学ではなく法学が専攻分野で、しかもイギリス人だ。そして、彼は奴隷制度が日本でも一般的
「そうですね。少し話は逸れますが、私も救急救命室の凪の時間にスマホでYouTubeを見ることもあって。その広告に『東大病院の医師が勧めるぽっこりお腹をすっきりさせる薬を、この動画が流れている間に注文してください。なお、この動画は一回きりしか流れません』と
「医師や看護師などがストライキ権を行使――医師だって労働者なのでストライキをする権利はありますよ。しかし、監督省庁としてはあってはならないことです。病院だけでなく警察や消防もストライキを起こしたら、国民の不満が爆発しますよね。もしも、警察官のストライキは
救急救命室でトドのように横たわってスマホの画面を凝視している久米先生は「葵ちゃん、次はセーラー服を脱ごうか?」と、一人でほざきながらクレカの番号(?)だかを入力していた。「なんで、リボンだけなんだよ――!!??」大声を出して仮眠室ではなく休憩室で寝てい
「医師会長の陳情を厚労大臣や厚労省もむげに出来ないのですよね?」 医師会は開業医が所属する団体だ。最愛の人や祐樹は大学病院勤務なので入会資格はない。何しろ医師は影響力が大きいのでその団体の長となれば大臣を次の落選させることも理論上は可能だ。「それはもう。
「もともと『いろは歌』には不思議な点がたくさんあって、誰が作ったのかも分かっていない。空海が作ったとされていたが、空海の時代には使われていなかった文字も含まれている点から否定されている。しかし、空海は聖徳太子同様に神格化された人物だろう。真言宗の熱心な信
「そっか…僕の人を見る目が足りてなかったとばっかり思ってたんだけど、『密室ノワール』がそういう店だったんだ…。もう絶対に行かない!杉田先生有難う」 ナツキは忌まわしい思い出を頭から出そうとでも思ったのかぶんぶんと頭を振っている。「この店だったら、大体の客
「確かに不平等ですよね。社保や国保に加入している人にはジェネリック医薬品を強く勧めながら、生活保護受給者には無条件に先発医薬品を出しますよね?先発医薬品の方が値段も高いのは言うまでもないです。何しろ薬の開発にも莫大なお金が必要でしょうし、特許も保持してい
「ただ、誰もが本当のことを語るとは限らない」 最愛の人は、淡い灯を帯びたままの瞳をゆるやかに伏せた。「祐樹が言った通り江戸時代に幕府を批判するというのは、死を選ぶのに等しい行為だった。だからこそ、真実は物語の衣を幾重にも纏い、仮名や仮託という形式の陰に隠
「そうか、とても勉強になったよ」 杉田弁護士とナツキの話を聞いていた最愛の人が腕を上げた。会話に参加したいとの意思表示だろうが、羽のように軽やかで、静謐な意思だけがそこに宿っているようだった。「ナツキさんにお伺いしたいのですが、そのう…フツメン同士の同性
「いえ、俺が調子に乗りすぎたのがいけなかったのです。辞書通りに説明すれば、彼もこんな感情的にはならなかったと。姉にはこの人も手ひどい言葉を投げつけられたことがあって」 森技官が戸惑いを見せ、遠慮がちな口調になるのも初めてだった。いつもは腹の据わった確信を
「もちろんです。貴方との会話は脳を刺激して心地よくしてくださいます。聡との素肌の交わりとは異なった悦楽です。両方私にとってはなくてはならないものなのです」 陶器を彷彿とさせる肌に怜悧でいながらもどこか艶っぽい絵が描かれたような風情だった。「先ほど祐樹が寺
ナツキは最愛の人と祐樹を羨ましそうに見ている。いつの間にかナツキに貰った煙草は灰皿の上で火が進まず、燃え尽きることもなくその形のまま灰色に変わっていた。「さっきの天真爛漫な笑顔の女性とか、ラスボスとはいえあんなイケメンが活躍してこそオジサンはわくわくす
「小姑とは、結婚した相手の女の姉妹ですね。俺と貴方が結婚した場合、私の姉、いっ痛っ!!」 呉先生に頭を思いっきり叩かれた森技官は黒々とした頭髪の一部を押さえている。一応医師免許は持っているのに、「手当」は文字通り「手を当てる」ことと認識でもしているのだろ
最愛の人のように頭の中だけでカウント出来ないので、指を折って確認した。「『…ゑひもせず』で終わりますから四十七文字…赤穂浪士って四十七人あ!」 沈黙の中に最愛の人の視線だけが動いた、多分誘導したかった答えに祐樹が先回りしてしまったからだろうが、目の奥で
「このキャラクターですね」 彼がスマホの画面を杉田弁護士に翳している。「おお!スタイル抜群の可愛いキャラだね。この天真爛漫な笑顔が素敵だ。横に『恋柱』と書いてあるが、数年前流行った映画で活躍したのは『炎柱』だと記憶している。主人公が手も足も出ない強い鬼と
「祐樹、動画を止めていいか?」 リビングルームと呼ぶには大きすぎる部屋のソファーに隣り合って座っていた。テーブルに彼のスマホが置かれ、そこから動画が流れていた。浴衣に包まれた、カモシカのような足が裕樹にそっと触れていたので半ば無意識に距離を縮めた。最愛の
森技官も大乗り気のようで安心した。厚労省の調査や査察で森技官は日本全土が勤務地といっても過言ではない。呉先生と一緒の時間を作るには恋人を伴うのが最も効率的だ。精神科教授となった場合、今以上に京都を離れられないのだから反対する可能性を考えていたが杞憂のよ
「香川先生も田中先生、そして杉田弁護士や『グレイス』の常連はさ、僕がバカやっている時はスルーするけど、こうやって真面目に話してる時はキチンと話を聞いてくれるし親身なアドバイスもしてくれるでしょ?僕がこの店に来るのは僕に寄り添おうとしてくれる人がたくさんい
祐樹の言葉に、最愛の人の睫毛がわずかに震えた。まるで内側から灯(あか)りが灯(とも)るように、薄紅色の頬が更に色づいている。「多分日本の開発者だと思われるのだけれど、批判が殺到して炎上した内容を逆手に取って、思い切りふざけたゲームを開発して、同じ発売日に出
最愛の人の視線が裕樹の指先にたどり着いた。指先に宿る微かな緊張を見定めるように。次の瞬間、彼の瞳が裕樹の双眸へと戻った。彼が声を出す前の沈黙に専門的な知識と祐樹への深い愛情が滲んでいるようだった。「祐樹、知っての通り増(ぞう)悪(あく)というのは回復しつつ
「今はナツキさんの言葉もわかります。しかし、祐樹と出会う前の私は人間に興味がなかったのです。そして決して裕福でもなく、幸福でもありませんでした。だから他人との間に壁を作っていたと思います」 ナツキが意外そうな表情で、響のグラスを傾けつつ煙草を吸っていた。
鼓動が高鳴ったのは愛の交歓の時にしか呼ばない名前を囁かれたせいか、一度愛の交歓によりただでさえ敏感な彼の慎ましやかな尖りが更に感度を増しているからだろう。「ゆ…祐樹…っ。聞くけれども…っ、その前に…っ、裕樹が…っ作ってくれた…っ、コーンフレークが、食べ
「それは全く構わないが…もしかして私が置いた飲み物を零してしまったのか?」 仲直りのペッティングという発想に至らない点が彼らしくて愛おしい。「え?そのう…。わぁっ!とても美味しそうですね」 呉先生の声がキッチンに小さな花を散らせたように響いた。呉先生も最
先ほど感じたナツキへの違和感がさらに増大した。何故なら欲情したように唇を舌で湿らせて赤い舌を祐樹に見せつけるようにしていたからだ。それだけ見れば淫乱で奔放なありがちなタイプだ。祐樹の苦手なエキセントリックだが己の美貌に根拠のない自信を持っていて、相手が
「Amazonで買って自社の製品として売り出すのですよね?グッズはゲーム制作会社からすればおまけのような感じかも知れませんが、物を作りだすという点では刀もゲームも変わりません。製作者としてのプライドはないのかと思いますね」 祐樹の仕事は言うまでもなく患者
「つまりナツキさんのお友達もゲイカップルのキスやそれ以上の行為…実際にあるかどうかは知りませんが。それをゲームで見ざるを得なくなって嫌悪感を増したと。ちなみにそのお友達は普段からゲイに対して偏見をお持ちでしたか?」 アメリカはゲイが市民権を得ている反面、
冷徹、いや超現実主義者の森技官が客観的に知見したなら是非その件について聞きたかったので今回はスルーしよう。まさか二人がソファーをべたべたに汚すようなことはないだろう。「はい。少し待って頂けますか?」 森技官の声は何だかホテルのルームサービスの人に言う感
ナツキは先ほどの情欲の熱が冷めたような表情で、それなりに綺麗な顔を縦に振っている。「うん、ゲーマーはノーマルな人が多いよ。あ、そうだ僕だって専門学校ではカミングアウトしてないよ。親が全国チェーンというのかな?お店が日本に20個くらいあるんだけどさ。その
「それが『日本の専門家を雇ったし、日本のことも良く知っている』という公式発表の一点張りだった。それに鳥居をくぐるとそこには村が広がっていて…」 神社の鳥居を門と勘違いするのは外国人あるあるなのだけれども、専門家を雇ったならそんな馬鹿なことはしないだろう。
「精神科の教授候補として考えられているということについて呉先生は寝耳に水のことだと思いますし、私の精神科の伝手(つて)は清水研修医くらいしかいないです。ですから斎藤病院長が教授会の後の呑み会ででも口を滑らせたという形で貴方から話をするのが妥当だと思いますが
「『史実に忠実だ』というアナウンスがマズかったのでしょうか?織田信長の従者に黒人が居たのは確かでしょうから。侍という身分を持っていたという証拠はないのでしょう?」 それしか考えられない。灯篭の火に照らされた桜の花が一片(ひとひら)また一片と宙を彷徨(さまよ)
「祐樹に抱かれるなんて思ってもいない僥倖(ぎょうこう)で…夢ではないかと思った…。ずっと好きだったので、裕樹と結ばれると思っただけで嬉しくて嬉しくて、まるで天国にいるような感じだった、な。抱かれるのが待ち遠しくて、タクシーが事故にでも遭わないかと、いや万が
「いやぁ、今は何故女性をブスに描くのか全く分からないよ、オジさんは…だってさ、実際のお姫様は不細工な人もいるだろうが、ファンタジーのお姫様は綺麗だったがね。法学部時代に友達の家で遊んだゲームは少なくともそうだった」 杉田弁護士は呆れたような口調だった。鈴
「実はもう既に料理は出来ているのです。後は温めたり形よく盛り付けたりするだけです。つまり呉先生のご希望の料理を習うという段階ではないですね。ご存知のように私は救急救命室勤務の日は不在でして、森技官だって京都に居ないことも多いですよね。その合間を縫って習い
桜の花が降りしきる中を二人で歩いているとまるでこの世には二人きりしかいない錯覚を抱くのも天国にいるような至高の時間だ。「最近は間違った日本文化を『史実に忠実だ』と言い張っているゲームも出来ているみたいで…。日本人のゲーマーが怒っているという記事も読んだ
「もちろん構わないですよ。色々な知識が集まって問題が解決するかも知れないですし、ね?」 最愛の人の顔を確かめるように見ると彼も頷いている。「わー!ガチで仲が良いんだ!そりゃ、こんな綺麗な人を恋人にしてるんだから逃げられないように必死なのかな?田中先生は」
「下着は付けない方(ほう)がデートとしては(・)相応しいと思います。恥じらいが出てとても素敵だと思いますよ。それに二人きりで灯(とう)篭(ろう)の明かりで桜を見るという絶好の機会に更に特別感が増すのも良いですよね」 よこしまな下心というか最愛の人の最高に色っぽい
森技官だって腐っても鯛、いや天下の東京大学医学部卒だし、薬物関係の知識は豊富だ。しかも厚労省には麻薬取締も行っていて、裕樹も狂気の研修医の起こした「夏の事件」の時に森技官から麻薬取締官を紹介してもらった。 だから精神科系の薬の知識は祐樹などよりも持ち合
「それはそうなのだが、女性の性搾取を助長するのは絶対に駄目で、花魁(おいらん)に憧れて売春婦になった少女が居たらどうするのか?みたいなコラムを読んだ」 最愛の人は口調も明瞭だし、しっかり耳では聞こえていた。それなのに内容がすんなり頭に入って来ないのと、どこ
役に立つかどうかは分からないが今夜「グレイス」に来て良かったと思った。困ったことはお互い様だし。そしてノブレスオブリージュを体現している最愛の人は親身な笑みを浮かべていた。「お役にたつかどうかはわかりませんが」 彼らしい控えめな発言だった。「私も医者の
「そうなのです。私は所謂(いわゆる)バイセクシャルでして、まあ結婚して子供が居る時点でお分かりかも知れませんが。育て方を間違ったとは思っていませんでしたが、コトここに及んでは性教育の基礎の基礎だけでも先輩諸氏に相談すべきかと判断した次第です」 杉田弁護士は
内田教授のその元凶は医局の医師なのだから裏切られた気持ちなのだろう。「内田教授の方(ほう)こそ心労で倒れないでくださいね。私たちは予兆を感じ取って警戒していましたし心の準備もしていました。しかし、教授は寝耳に水といった状況でしたので…」 彼の口調も労わる
うわぁと思った。祐樹だって巨漢の黒人に口説かれたら「トイレに行きます」は、マズいか…。付き添って来られたら最悪トイレで行為に及ばれてしまう可能性もある。仮病を使ってさっさと退散するか、店のスタッフに助けを求めるしか方法が浮かばない。「屈辱と衝撃以外の何
「私もあの映画は大好きだ。それに祐樹と隣り合って劇場の座席に座っただろう。だからより一層楽しめた」 最愛の人の切れ長の目が楽しそうな光を放っている。「あの映画だって粗探ししようと思えば出来ますよね?ヒロインは0℃の水に複数回浸かっていて、救命ボートが来
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「――先に答えを言ってしまったら、興が削がれるでしょう?」 最愛の人の薄紅色の唇を祐樹の唇で封印した。そしてサマーセーターを着ていても先ほどピーチフィズを零したせいで可憐に尖った胸を指先で弾いた。愛の交歓の前奏曲としてはちょうどいいだろう。このエレベータ
そういえば、最愛の人も祐樹も「心臓外科」の医師一覧に載っているが、同じような「理知的で誠実な、そして控え目な笑みを浮かべてください」と広報室の人に言われた記憶がある。だからきっと同じ指示が医師全員に行き渡っているのだろう。「私が特定不可能な以上、森技官
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「別に私はガンジーのような非暴力主義者ではない。祐樹が久米先生の頭を叩いているのを見た時、その行為を彼自身が喜んでいると判断したので、敢えて干渉しようとは思わなかった。医局員全員も、あれは『愛のあるイジり』だと理解していると柏木先生が言っていた」 柏木先
「ウチの病院のサイトに、精神科所属の医師の顔写真は載っていましたっけ?」 最愛の人が淡い笑みを浮かべて頷いている。誰が聞いているかも分からない職員用の食堂で呉先生を揶揄する医師二人は、たとえ親真殿派ではなくても呉「教授」に反対するはずだ。 二人で暮らして
うっかり布地越しとはいえ、胸の尖りを晒してしまった最愛の人のリアクションも非常に気になった。そういう情事に触れられると、普段の最愛の人は顔を紅色に染めて目を伏せていた。しかし今夜はそうではなかったので内心、意外だった。 祐樹と二人きりの時には、大輪の紅
特筆すべきは最愛の人の麗しい筆跡のみで、祐樹には縁のない名前の羅列に過ぎない。森技官が、あたかも国家機密のように大切に抱えていたその紙を、祐樹はテーブルに広げ、何の演出もなくスマホで撮影し、LINEで清水研修医に送信した。一応「極秘でお願いします」とだ
「また始まった」 呉先生がぼそりと漏らした。諦めと愛情が絶妙なバランスで同居した、乾いた呟きだった。しかし、それ以上何かを言うことなく、呉先生は無言で森技官に視線を向けていた。祐樹もつられて視線を向ける。 森技官が言う「備考欄」には、最愛の人の達筆が静か
最愛の人はどこか誇らしげなセピア色の口調とまなざしだった。杉田弁護士は極上の生クリームを心行くまで舐めたチェシャ猫のような表情だ。何しろ祐樹に「香川教授が今『グレイス』に来ていて、多数の男たちから奢られている」と知らせてくれたのは彼だった。「グレイス」
四個の洋菓子は既に食べてしまっている。呉先生は最愛の人よりも華奢な身体なのにどこに収まったのだろうか?まあ、洋菓子効果で呉先生の決意がさらに固まったなら祐樹としては喜ばしいのでスルーしよう。「――新しいかどうかまでは分からないですよ。ただ、その看護師が
最愛の人も男性器は見慣れているはずだ。といっても大学の講義の一環や医学部生の時にボランティアとして参加していた救急救命室での経験に限られていただろう。身体を重ねた相手は祐樹が二人目で祐樹のソレはともかく初めての相手のはそうまじまじと見ていないような気が
「教授教えて下さって有難うございます。あ!お前が軽躁の入り口に立っているかと思った。本気大道芸だったからな、あれはさ」 森技官は一瞬だけアルマーニがこよなく似合う肩を落とした。恋人の言葉は妙に効くらしい。祐樹に言われたなら、きっと三倍返しで皮肉を返してい
最愛の人の怜悧な声は相変わらず淡々としていて、まるで「地球は丸いのです」という自明すぎることを話しているようだった。その静謐な口調が胸の奥に染み入り、祐樹の心は、まるで水面に沈んでいく光の粒のように最愛の人の言葉に全て吸い込まれていく気がした。ただ、二
最愛の人は固まり、呉先生は呆れ果てたスミレの花といった感じで単に咲いている。祐樹は身体を動かすと笑いの発作が再発しそうで、身じろぎすら出来なかった。 精神的には一時間、実際には五分くらいだろうか?ナゾの空白の時間だけが、ただ過ぎていった。 最愛の人がし
ナツキは一瞬だけスマホに目を落とした。多分、両親の待つ家に帰ろうかと思ったのだろう。しかし、今の祐樹は「グレイス」の常連ではない。 今宵訪れたのは最愛の人とのデートの一環で、こんなに長居をするつもりもなかった。最愛の人も祐樹に誘われたから足を運んだだけ
祐樹が洗面所で顔を拭きながら深呼吸を一つ二つと行い、ようやく笑いの発作を収めてキッチンに戻った瞬間、祐樹は一瞬、時空が歪んだのかと思った。 テレビの中でしか見たことのないはずの――学生運動、アジ演説、安田講堂の熱狂。それなのにそこに居たのは、アルマーニ
「え?それってすごくないですか?莫大な資産って…」 ナツキの目に尊敬めいた光が宿っている。最愛の人は一瞬の躊躇もなく「グレイス」の間接照明に照らされた唇を開いた。「真摯に患者さんと向き合った結果です。ただ、私にとって副次的なものでしかないです。また全資産
キッチンを出てトイレではなく、最も遠い部屋である祐樹の個室へと避難(?)した。最愛の人にはとても見せられないほどの、まるで内臓がひっくり返るほどの爆笑に見舞われた。こんなに腹の底から笑ったのは、いったいいつが最後だっただろうか? 最愛の人との暮らしに不
「ん……っ、ゆう……き、来て……欲し……っ」 艶やかな声が、幾度となく押し寄せる波のような欲情と、これから祐樹が与える確かな熱の楔(くさび)が与える期待が滲んでいた。「あ……っ」 祐樹が花園から指を抜くと惜しむような声と、濃い紅に咲いた花壁が物欲しげに、朝
「梶原先生は医局に残すということでいいのですよね?」 何事にも臨機応変に対応し、研ぎ澄まされた言葉の刃を誇る森技官にしては凡庸な問いだった。律儀で真面目な最愛の人は頷いていたが、祐樹は必死で笑いをこらえていた。何しろ映画「タイタニック」に出てきてもおかし
オレンジ色に煌めくマンゴーをナイフとフォークを優雅に動かして薄紅色の花のような唇に運んでいる最愛の人の煌めく微笑を浮かべている。「投資信託も売り出している会社によって異なるけれども一週間後くらいには現金で出金出来るシステムだ。株式も売却申し込みをして約
「そうだ。拾ったと嘘の吐(つ)けない主人公がさらっと言っている。百葉箱の中から取り出したならばそう言うだろう?確か百葉箱には鍵が付いていたと記憶している。私は鍵を壊すとかは考えられない行為だけれども、主人公の割と物(モノ)に捕(と)らわれない性格では鍵くらい壊
「外科医としても上司としても尊敬する香川教授さえ宜しければもう少し勝利の美酒を分かち合いたいです!!」 最愛の人に表向きの本音を口にしながら眼差しでは「愛する貴方と一緒に祝いたいです」とのサインを送った。そして、そのアイコンタクトが通じたのか彼も煌めく笑
ミラー先生が興味津々といった表情を浮かべている。何年前に建ったかなど祐樹は知らない。最愛の人は教授会の後に恒例となっている斎藤病院長主催の呑み会で一度行ったことがあるような気がする。いやもしかしたら他のお茶屋さんと混同しているのかも知れないが。具体的な
「え?不思議ですか……具体的にはどういったことでしょうか?」 アニメは休日の「自宅まったりデート」の時に一緒に観ている。テレビの画面に集中しているわけではなくて、最愛の人の髪の毛を梳いたり彼が用意してくれたお菓子や飲み物を口に運んだりしている。なんなら食
スタンリー先生は世界レベルで高名な麻酔医らしいので久闊を叙したい外科医もたくさんいるのだろう。もしくは「今度は私の手術(オペ)に参加して欲しい」という熱烈なオファーでも受けているのかも知れない。そのどちらかの理由でこの場を離れて会場のどこかで会話を楽しん
「あれは例のラグビー場ではないかな?」 白く長い指が月明かりに照らされてとても綺麗だ。腎臓内科の医師の豪胆な武勇伝を語っているうちに坂道になっていることは分かっていた。「ラグビー場って、夜中に呪霊がフェンスとかに居た場所ですよね?作中でも見えない人は全く
「夜の学校」……この時間ではなくてもっと時刻は遅いだろうが、オカルト研究会の先輩達が特級呪物の封印を好奇心で解いてしまって、呪いの具現化の化け物が主人公の先輩二人を襲っていた。その場を乗り切るために主人公が勢いで食べた特級呪物が主人公の身体の中で蘇って
「あ、グラスが空ですね。次は何を注文しますか?」 彼が立て板に水といった感じで説明してくれている間もグラスを薄紅色の唇を付けていた。何をオーダーするか一応聞いたが祐樹の推測は合っているハズだ。視線でスタッフを呼んだ。「私は同じモノで、貴方は?」 彼は間髪
このホテルの最も大きな宴会場だと聞いている場所はそれなりに広いが人口密度も高い。その上ワイングラスや料理の皿を持った人達が居る。その群衆の中を燕(つばめ)のような優雅かつ機敏な身のこなしで優雅に避けつつ歩みを進める最愛の人に付いて行くのは、運動神経に恵ま
森技官は丁重かつ慇懃に手を差し出して握手を交わしている。「コナーズ教授は日本の伝統的な衣装に大変興味がおありになると伺いました。イギリスの貴族の正装をなさっていますが、実際はアメリカ生まれのアメリカ育ちです」 成り行き上祐樹が紹介することにした。昨夜の
「柏木先生とか久米先生もアニメを観ていますよね?それに仙台出張は医局周知のことですから送った方(ほう)が良いかと思います、よ?」 多分アニメのせいなのだろう、店内に入って来た客は他の商品に目もくれず最愛の人が思案顔で見ているお菓子の箱だけがどんどん売れてい
「年金制度が問題なのだろう。あれは現役世代の出したお金が年金受給者に回っているという仕組みだから。昔は人口ピラミッドが正真正銘のピラミッド型になっていただろう?今は壺(つぼ)型になっていて、これは現役世代よりも年金受給者が多い典型的な少子高齢化社会だ」 少
「……田中先生、おめでとう!!」 何か沈思黙考した後にようやく結論を出したという感じだったけれども、最愛の人の満開の笑みを浮かべた顔が近づいて来たと同時に背中に腕が回された。いわゆるハグという動作だが、公衆の面前、しかも彼の知人が多い中のスキンシップは初
「このマンゴーは宮崎県産の『太陽のタマゴ』と呼ばれる物だそうです。その中でも全体の5%しかない最上級の『太陽のタマゴ赤秀品』しか使っていないと申しておりました」 最愛の人は怜悧な顔に更に興味を惹かれた表情を浮かべている。「それはこのホテルなどの特殊なルー
心臓バイパス術の世界的権威の彼が「自信がある」と言っているのは謙遜、いや控えめな性格の人だから案外本音かも知れない。ウチの大学病院に彼の手技を慕って国内外から患者さんが押し寄せて来るのも事実だ。他科はせいぜい日本国内だけなので「病院の看板教授」とか「稼
彼の言う通り、ずんだ生クリーム味よりも気になっているモノがあったのも事実だ。「どうしてそう思われたのですか?」 最愛の人は街路樹の葉っぱよりも綺麗な翡翠色の笑みを浮かべている。宴会を途中で抜け出して来ていて、乾杯その他でビールを呑んでいるのに、僅かに上
祐樹の目配せと腕の動きに呼応したのは呉先生の方(ほう)が早かった。というか最愛の人は何だか精緻な氷の彫像になっているかのように足が動かないという感じで……。最前列のベテランかつ常連と思しき外科医を丁寧だが有無を言わさずといった感じで森技官が肩を手に乗せる
「ラッフルズホテルでは木で完熟させたパイナップルを使っているので、鮮度が全く異なるらしいな」 そういえばそんなことを聞いた覚えがある。祐樹は脳の容量が美味しそうに苺のカクテルを呑んでいる人よりも格段に劣るので忘れても良いと判断したことは即座に脳の中のゴミ
「素晴らしい!久々に感動に価(あたい)する手技だった!!」「サムライボーイ、凄かった!」 そんな声が会場に響き渡っている。 紹介されて直ぐに喋りだすよりも数十秒間は待った方(ほう)が良いと判断した。理由は二つで熱狂してくれている外科医達の感情の発露をさせ、少