「あ!それは私も少し考えた…。職業病みたいなものだろうな。主人公が所属する『鬼狩り』のトップが病(やまい)で瀕死の所に鬼のボスがやって来るシーンがあっただろう?」 最新作の最終話の話だ。「ありましたね。なまじビジュアルが良い鬼がドライアイスを纏って現れた時
創作BL小説を書いています。 ヤフーブログから引っ越して参りました。
ヤフーブログ終了でライブドア様に引越しました。今日の夜中更新分からはこちらがメインです!
「あ!それは私も少し考えた…。職業病みたいなものだろうな。主人公が所属する『鬼狩り』のトップが病(やまい)で瀕死の所に鬼のボスがやって来るシーンがあっただろう?」 最新作の最終話の話だ。「ありましたね。なまじビジュアルが良い鬼がドライアイスを纏って現れた時
「おはようご…。え!?って、お前来てたのか?」 いかにも寝起きといったぼんやりとした声が一気に喧嘩腰に変わっている。とはいえ、呉先生の、最愛の人よりも更に細い髪の毛には寝ぐせがついていたのはご愛敬(あいきょう)だと思わず観察してしまった。ただ、そんな呑気な
「ストレスの原因が配偶者の不倫だからな。呉先生がレベル分けをして画像を見せたとはいえ、配偶者の不貞行為そのものがショックだろう。それに杉田弁護士がいるとはいえ、離婚訴訟は最も精神的なダメージがあるというのが法曹界で通説になっている。一生を共にしようと一度
「山氏のカウンセリングを精神科医である呉先生にお任せしましたよね?心臓外科医の私達…いや貴方は精神科にも精通してらっしゃるので、私だけかも知れないですが、とにかく専門医が付き添っていたなら診察代金が発生するのが当たり前だと」 病院では冷静沈着な彼も驚いた
「ご無沙汰だったのでついつい気が逸(はや)ってしまって…痛みを与えたのでしょうか?やはり抱いて運んだ方が良いような気がしますけれど」 すぐ傍(そば)の最愛の人の表情を窺いながら聞いてみた。「いや、痛いわけでは全くなくて…祐樹がせっかく注いでくれた真珠の放埓(ほ
「しかし、恋人同士のというのは当事者でない人に対して情報を開示する必要性もないと個人的には思いますけれども…森技官もそうお思いになりませんか?出来れば二人きりで話したいのではないでしょうか?」 辛うじて援護射撃をすると氷のような表情と熱い火花が散っている
「祐樹、桜餅が食べたいな…。ほら、裕樹と私の時間が合わなかったせいで、こういう行為はとてもご無沙汰だっただろう?ずっと焦がれて待ち望んできて…そして少し(・・)は(・)満たされたら食欲が…」 やはり「少しは」なのだろう。祐樹も一回では足りないと思っていたので
呉先生の精神科復帰待望論について話しておくべきだろう。清水研修医に送るハズのメールの文面にも関わることなのだから。「内田教授は随分とお疲れだったようなので今日は自粛しましたけれど、どうやら精神科の真殿教授は手に負えない患者さんを他の精神病院に送っている
森技官は苦み走った男らしい顔に必死といった表情を浮かべている。アルマーニが良く似合う大人の男という風情の森技官に対してどちらかと言えば童顔の祐樹はコンプレックスを持っていたが、今の森技官は何だか気の毒な感じだ。しかもリアルな(?)救急救命室の処置を聞か
熱く荒い息が収まった後に取り敢えずのピリオドという意味のキスを交わした。そして最愛の人の紅色の肢体を祐樹の楔から解放することにして、裕樹の身体に凭れ掛かっている彼の腰を両手で掴んで持ち上げた。若干細いが男性らしい長方形のウエストという点も最高にそそる。
「いえ、お詫びの席などは…困った時はお互い様ですよ。それよりもまた小児科の浜田教授も誘ってアニメや漫画の話をしたいです」 最愛の人が力づけるように言葉を添えている。「そうですね。浜田教授も招いて気に滅入る話ではなく楽しい話題で盛り上がりましょう」 疲れて
何しろ血と内臓が生理的に無理な人だ。こんな人が天下の東京大学の医学部を良く卒業出来たなとある意味感心してしまう。聞くところによると、聞いたことのないような私立大学医学部では臨床や解剖などのいわゆる実技系がなくて、ペーパーテストで行われる医師国家試験対策
ただ、彼との間接キスは祐樹にも覚えがない。「間接キスは交わしたことはないと思いますよ。こういう空気の良い場所に限ってたくさんしましょうね…」 最愛の人の呼吸がやっと鎮まったので、裕樹は愛の行為を再開させようとした矢先に鳥の声が桜の舞い散る庭園をより一層
森技官がどういう態度を取られてもそれは自業自得だが、裕樹に対してこういう態度に出られたらメンタルがもたないだろう。「それはこちらの配慮不足でした。申し訳ございませんでした」 リビングルームに入った森技官は深々とお辞儀をしている。彼はお辞儀をされたら自分
清水研修医は流石、京都一の私立病院の跡継ぎ候補として特別な教育を受けただけのことはあるなと感心した。久米先生を筆頭に実家がクリニック経営という医師は多いが、いわゆる町の開業医と大病院の御曹司だと心構えが異なるのだろう。大学付属病院も今では破綻する可能性
彼の弱い場所に祐樹の指が更に当たるようにと腰を小刻みに上下させている濃い紅色の肢体は滴るような色香に満ちている。しかも先ほどから風に煽(あお)られて乱舞する桜の花が紅色の肢体に宿っているのも蠱惑に富んでいる。「聡の極上の花園のココ」 指全体で擦(こす)ると
「無理に起こすと意識がぼんやりする可能性がある薬だ、な」 祐樹の横を歩む最愛の人は何故か両手で自分の頬を叩いている。そういう仕草は見たことがなかったが、容赦なく追及するという役柄(?)を演じるための心の準備のような気がする。 出勤時などでは指を付け根まで
一度海外に出た最愛の人が教授職として凱旋帰国出来たのは、国立病院が独立行政法人に変わったせいだ。もしその変化がなければ京大を卒業していたとしてもアメリカに行ってしまった時点で病院との縁は切れるのが「国立病院」の考え方だ。祐樹のように大学卒業後に同じ大学
「ゆ…っ、裕樹…っ」 彼は祐樹の手を縋るように握った後にしなやかな動きで祐樹の身体から離れた。いったん指が裕樹から外されて、もどかしそうな震える手がシャツの袖口のボタンを微かに震える紅色の長い指で自ら外している様子も絶品だった。そして強く握った指を付け根
『私のような研修医が生意気を申し上げることをお許しください』 スマホの向こうでは深々と頭を下げているような感じがする。祐樹のような根っからの庶民ではなくて清水研修医は京都一の私立病院の御曹司として産まれた。そして清水病院長は斎藤病院長のこの大学の医学部の
「大丈夫、裕樹は心変わりなどしないと根気よく教えてくれただろう。付き合い始めの頃は客観的なデータがないと不安だったし、信じていなかった。それに気持ちなど移ろうものだと思っていた私の頑なな心を溶かしてくれたのは祐樹だから」 健気な言葉を紡ぐ薄紅色の唇に約束
「親権はお子さんが状況判断の出来る年齢、具体的には小学校の高学年とか中学生ならお子さんの意見で父親に与えられることもある」 山看護師は不倫の確信犯といった感じで、山氏は善良な社会人かつ家庭人といった雰囲気だった。お子さんがプラス五歳以上だったらお父さんを
「普段は料理する時…いや買い物とかの日常生活だけでなくて病院内でも手術(オペ)や患者さんと向き合っている時以外というのが正確だな。そのような時間には特に何も考えずにいたり祐樹は今何をしているのだろうとか祐樹の好きな点を思いつくまま並べたりしている。教授執務
「結構なお点前でした。熱(あつ)からず温(ぬる)からずというのが抹茶の基本だけれども、まさにこんな温度なのだろう、な。とても美味しかった。それに味はしなかったが、桜の花びらが浮いているのを飲み干すというのはいかにもお花見に相応しいお点前だ」 薄紅色の唇が触れ
緋(ひ)毛氈(もうせん)の敷かれた一畳程度の床の奥に祐樹でも分かる高価そうな漆の箱が鎮座しているのを指で示した。「これは多分野点(のだて)の道具だろうな。確かめてみよう」 彼は靴を脱いで床に上がりしなやかな指を動かしている。「やはりそうだな」 彼の薄紅色の長
数十秒の沈黙の後に最愛の人の白皙の顔に笑みが浮かんだ。病院長との通話は相手の地位を憚ってスピーカー機能を使っていなかったので前後の会話から類推するしかなかったのだが。「お聞き届け頂いて誠に有難うございます。では全職員に周知徹底するように致します。お忙し
「その方(ほう)が熱の通りも良いし、何より色の変化も分かりやすいので」 既に灰汁(あく)を取ったシメジがほかほかと湯気を上げている。こちらも何だか兵隊さんのように整然と並べてあるのが彼らしい。祐樹も手先は器用だと自認しているが、職場ではともかく自宅ではいい加
「温泉は有馬温泉のお湯を引いているみたいですね。このお湯の色は『金泉(きんせん)』と呼ばれているようですが、お湯が赤くて、せっかくの貴方の素肌が見えないのがとても残念です。せっかく温泉の中でもスキンシップ…いや、それ以上でも構わないのですが、視覚では愉しめ
何せダイヤモンドを「ちょっとした好奇心」で砕いてしまう女性なので何をしても驚かない。最愛の人は混んだレジの列に並びながら少し困ったような笑顔を浮かべている。休日にはたまに彼に付き合って百貨店に赴くことはあったのだけれども地下の食料品売り場は店ごとに清算
もしかすると小児科はその事件(・・)のせいでウチの大学病院出身者ではなく他の大学病院から教授職を招聘(しょうへい)するという暗黙のルールが出来たのかも知れない。 現在の教授は看護師にも気さくに接することで院内でも有名な浜田教授だが、彼は生粋の病院育ちではな
「『我が拙宅にようこそ香川教授・田中先生。ご自分の家とお思いになって自由に寛いでください。夕食は午後七時に運ばせます。その他は台所、特に冷蔵庫に有る物をお使いくださればと思います。感謝を込めて』か。岩松氏の厚意は大変有難いのだけれども、なかなかお返しが出
内田教授は文字通り腹を抱えて笑っている。年齢のせいか腹部に厚い脂肪が付いているので何だか本当に狸(たぬき)の大爆笑といった感じだった。精神的なプレッシャーが笑うことによって少しでも軽減出来るのは喜ばしいことだと好意的に解釈しよう。 最愛の人も内田教授に釣
「桜の花、宝物にして下さって有難うございます。私も庭に出た時に貴方が取って下さる桜の花を同じように扱います。『鬼退治アニメ』の遊郭編でお嫁さんが三人も居る『柱』がお墓参りを家族四人でした時にも桜が満開でしたよね。そしてお嫁さんの一人の髪の毛に桜の花びらが
「二人に野菜をたくさん食べて貰うというのが今回の趣旨だろう?白菜とホタテ貝のミルクスープを作ろうかと思っている」 そういえば彼が作ってくれたミルクスープは口に入れると心まで温かくなるような気がする逸品だった。「あの美味しいスープですか。良いですね。身体も
最愛の人の眼差しが裕樹に「どう思う?」と言いたげな光を放っている。柏木看護師の言う通り看護師はパソコンに向かう時間が少ないのも事実だと聞いていたので「その方(ほう)が良いかと思います」とアイサインを送った。「内田教授、今の電話はとても有益な意見だと思うの
「もちろんです!何なら車の中で出来るかどうか確かめてみますか?」 車のロックを外すボタンを押しながら「だめだ」と言うだろうと思っていたら、バターの油分で艶やかさが増した唇が「分かった」と呟いた。 お日様が昇っている間にこんな大胆なことを紡ぐとは思ってもい
「卵掛けご飯を毎日食べるわけでもないですよね?卵はパック売りが基本です。余らせたり彼女らしく重複して買ってしまったりして持て余すことはないのですか?それに卵は傷みますよね、確か」 最愛の人と祐樹は彼女の婚約者の岩松氏の許可を貰ってマンションに出入りする仲
「はい、香川です。ああ、柏木さんですか」 口調から察するに柏木先生の奥さんからの電話らしい。手術室所属の看護師なので手術(オペ)が終われば帰宅可能な人だ。だから今は帰宅途中か家から掛けているに違いない。 祐樹最愛の人に仄かな恋心を持っている人だが、周りに悟
「祐樹、本当にこのドレスシャツで良いのか?」 純白のシルクが艶やかな光をトロリと放っている。怜悧で端整な顔やしなやかな肢体には良く似合う。 彼御用達の老舗ブランドはスタンダードなモノも多いが遊び心が加わった服も売っていて、裕樹が店で選んで購入したのは後者
最愛の人が作ってくれる最高に美味しいエビチリは同じ海老を使ってもさほど美味しいとは思えない出来だった。それが残念でコツを聞いたところ原因は背ワタを取るかどうかだった。「カレーといえばサラダも必要ですよね?リクエストしても良いですか?この際、貴方の絶妙な
「取り乱す」というのは婉曲表現で、実際には嘔吐や失神などだ。どの科に属していようとも医師は医師なので救急救命室の血や内臓を見て嘔吐をしてしまっては物笑いの種(たね)になることは必至だ。救急救命室は病院内の治外法権的な空間だが、ウワサは遅まきながら出入りす
「祐樹、この土日に岩松氏の別荘に行かないか?桜が綺麗だそうだ」 最愛の人はスマホをしげしげと見ながら薄紅色の唇を笑みの形に花開かせている。彼は一瞬でも見たモノは脳に蓄積して好きな時にアウトプット出来る特技を持っている。それにも関わらずスマホに目を落として
「つまり大切なことは恥ずかしくて言えないタイプでしょうかね?」 立て板に水のように話したり息をするように毒舌を吐いたりするというのが裕樹の森技官への認識だった。それは確かに一面の真理だと思っているが、毒舌のターゲットにされるのは祐樹だけだ。 最愛の人は森
この際、精神科に在籍していながら修業と称して救急救命室でも戦力となっている清水先生が適任だろう。救急救命室では、当たり前のことだが休憩室でしかスマホは弄れない。清水先生が休憩室や気晴らしに外の空気を吸いにスマホに反応してくれるのを祈るしかない。『もしも
「それは是非ともお願い致します」 内田教授は革命の闘士に相応しい鋭い目つきだったが若干の逡巡(しゅんじゅん)を感じた。祐樹は自分のスマホをタップして最愛の人にLINEを送った。「値段を聞いてください」祐樹が「知り合いでもない」杉田弁護士と直接話すわけにはい
祐樹の時はもれなく嫌味がついてくるが。お育ちが良いので感謝の言葉は必ず告げるのが森技官だが、こんなに心の籠った「有難うございました」は聞いたことがないような気がする。「一応呉先生の様子を見てから夕食の買い物に出かけよう」 通話終了のボタンを細く白い指が
細く長い指が優雅な所作で動いて画面を見ている。「ああ、やっぱり森技官だ」 常識的に考えて呉先生の家出先はこのマンションだと推測するだろう。「祐樹、何か言うべきことを思いついたら教えて欲しい」 最愛の人に頼りにされるほど嬉しいことはない。「今は呉先生が私
「当職」というのは弁護士の仕事上の一人称で、裕樹は受け取ったことはないものの弁護士からの内容証明郵便に必ず書いてあるとゲイバー「グレイス」で杉田弁護士から聞いたことがある。多分だけれども、弁護士として強く勧めるという意志を表現したのだろう。 最愛の人は
しかも、その三種類のシートは丁寧に手で切って空になったプラスチックだかの薬包はポケットに入れている。呉先生は繊細そうな見かけとは異なってかなり大雑把な性格をしていることは知っている。祐樹も人のことは言えないが。ただ、普段の呉先生なら飲み終わった空のシー
「呉先生にも相談して動いた方(ほう)が良いと思います。現状維持で充分だと考えていらっしゃるみたいですし、嫌々ポストに就くのも……」 呉先生待望論は精神科で根強いと清水研修医に聞いている。また何時(いつ)になるかも分からないが次期病院長選挙で真殿教授は絶対に最
最高に美味なコーヒーを飲んでいた祐樹は立ち上がって救急箱を取りに行った。「昨夜、お風呂から上がった時…確か午前一時頃に帰宅したんです。その時間に帰宅するのは珍しくないのですが、珍しいことに泥酔していまして、そして抱き着いてきたというか倒れこむようにオレ
「救急救命室(・)の北教授が教授のポストに就いたのは地震大国の日本が発生時にどういった医療体制を想定しているかなどの講演依頼が山のように来たせいで教授でなければ恥ずかしいとの病院長判断です。まあ、杉田師長という救急救命室の鬼とも天使とも言うべき名物師長の存
「いえ、作り置きしていたものです。お口に合えば良いのですが…」 呉先生に向かって「頑張って普段通りです」といった微笑を浮かべているのが愛おしい。次期病院長選挙に備えて病院にいる間は如才ない会話と笑みを浮かべることが出来たようになった最愛の人だがマンション
内田教授は何だか不本意そうな表情だった。「私は救急救命室に行ったことはありませんが、プライバシーが担保されない場所だということは知っています。普段はそれで良いと思いますし、某教授が水商売の女性に貢いでいる程度のウワサの域を出ない会話なら雑談を交わすのも
「その具体的な内容は望まないプレイを強要されたとかですか?例えばSMプレイとか?」 最愛の人にはまるっきり理解出来ないというか知らない愛の行為の形なのでそういうことは耳に入れたくなかった。呉先生は顔どころか耳まで真っ赤になっている。「そんなんじゃないです
「私が出来ることは救急救命室で清水研修医に真殿教授に反発を抱いている医師の名前を聞いてリストアップすることです。これは急務ですね。清水研修医は京都一の私立病院の御曹司だけあって、人を見る目が確かです。今、真殿教授に追従(ついしょう)している医師でも、次期教
呉先生と森技官は「表向き」には広すぎる屋敷や土地を余らせておくのが勿体(もったい)ないために同居人を探して一緒に住んでいることになっている。呉先生の薔薇屋敷がある町は昔から住んでいる人が多い地域のためにご近所付き合いも密接だ。最愛の人と祐樹が住んでいるマ
「教授、わざわざ作って頂き誠に有難うございます。心して頂きますね」 内田教授はカフェオレのカップを恭しい感じで口に運んで一口飲んだ。「どこの店よりも美味しいです!教授があの見事な手技をお持ちでかなったら喫茶店経営を勧めるレベルです!きっと行列が出来る喫茶
「最も芝居っけがあってノリも良い友達五人を誘って『先生の部屋ご馳走パクり計画』を作成しましたよ」 最愛の人は祐樹の横顔を感嘆めいた眼差しで見つめているし、呉先生は後部座席から身を乗り出している。「要するにそれはお刺身とかのお皿をパクって来るという作戦です
「ちなみに真殿教授には愛人が居て、どこかのマンションに囲っているらしいです。だからこそ『男の甲斐性』発言ですが看過する積もりはないです。あれだけ派手に喧嘩を売って来られたのですからきっちり買って差し上げないと無作法というものです」 先ほどの疲労(ひろう)困
「そういえば、救急救命室は忙しい時は息つく暇がないほどですが、暇な時は休憩室でテレビやスマホを見たり、ひたすらゴロゴロしたりしています。そういう時は高校の修学旅行のノリに似ています。ウチの医局の研修医の久米先生が『じゃがりこ』に『とろけるチーズ』を入れて
内田教授にも秘密にしている最愛の人と祐樹の真実の関係は、凱旋帰国を快く思わない人間たちによって斉藤病院長に漏れている。その時、斎藤病院長が出した結論は「誰にも露見しないようにすること」だった。「胸の内にしまっておく」とも言っていた。祐樹も細心の注意を払
「ファミリーレストランも行ってみたいような気が…。ミラノ風ドリアも食べてみたい」 祐樹の記憶が正しければミラノ風ドリアはサイゼリヤだと思う。後で調べておこうと心にメモした。 最愛の人は心臓病のお母様の容態を気にして遊びに行くということもなかったと聞いて
「どうか入室して下さいね。心も身体もお疲れでしょうから」 最愛の人も内田教授と真殿教授の舌戦を聞いていたに違いないが淡々とした声だった。「失礼します。田中先生、お手数をお掛けして申し訳ないですが、私も梅昆布茶をお願いします」 憤然とした表情の余韻を即座
「どうかしましたか?」 高い場所に置いてある本を取るために準備されている脚立に寄りかかって、まあまあ美味しいコーヒーを飲む。最愛の人はカフェオレを唇に運んで満更でもない感じの笑みの小さい花を咲かせていたのできっと彼の中の合格点には達していたのだろう。「そ
「文字通りの粗茶ですので、心の準備をして飲んでくださいね」 一応缶に貼ってある分量とお湯の温度は守ったが、お湯呑みに何cc入るのかが裕樹には分からない。彼ならきっと目分量で正確に計ることが出来るだろうが、あいにく裕樹にそこまでの高等技術はない。祐樹の真剣
「その通りです。ごゆっくりお過ごしください」 二人してカウンターを離れると最愛の人が無垢で無邪気な表情を祐樹に向けてくれた。「ポテトチップスとかのお菓子類や文房具とか爪切りなんかも置いてあった。あれは別料金を支払って買うのだろうな……」 何だか祐樹が学生
教授大好き♡様・しょうこ様・ゆき様いつもいつも、何か有るたびに送って頂いて本当にありがとうございます!!今日届きました。読みに来てくださっているだけでも嬉しいのに差し入れしていただけると作者冥利に尽きます!!また、身内の入院でリアル生活がバタバタしていま
先程の医局の適度の親密さに満ちた雰囲気はとても良い「打ち上げ」だったと思いつつ最愛の人の若干華奢な肩から腰のラインを見詰めた。教授職と一介の医局員という立場なので他人の目のある場所では三歩下がって歩くのが病院内での習慣だ。そのせいで理想的なパランスの肢
「森技官と喧嘩をしたということだけれども……今回は呉先生が家出をしたという点が以前とは異なるので気掛かりだ」 走行する車の助手席に座った最愛の人が憂いを帯びた表情をしているのを横目で見た。「私も同じことを考えていました。一人で悶々(もんもん)と考えてネガテ
「そういえば思い出したのですが、大学の同級生で卒業後は実家の病院を継いだ知り合いが不倫の末に離婚したと噂で聞いたんです。慰謝料は何と驚きの三千万円だそうですよ。養育費は月に二十万円をお子さんが大学、もしくは院を卒業するまで支払うという条件で……」 ……養
「もちろんです。困った時に助け合うのが友達ですから。呉先生は今どこにいらっしゃるのですか?」 どうせ犬も食わない夫婦(?)喧嘩をしただけだろうが、森技官が薔薇屋敷を叩き出されるのがいつものパターンだと聞いているが、その逆は初めてなのが気になった。彼がスマ
祐樹最愛の人は祐樹がゲイバー「グレイス」で男性に口説かれているのを偶然見てしまって、そのショックの余り渡米して外科医としての名声を得た過去がある。その後大学病院から招聘を受けて凱旋帰国したのは医局の皆も知っている事実だ。しかし、実際は職員名簿で祐樹が病
「祐樹、お早う。今日も気持ちの良い朝だな」 朝の身支度を済ませてキッチンに入ると生れたての朝日を浴びた薄紅色の薔薇のような笑みで迎えられた。休日の朝は一際健康な魅惑に富んでいる彼に自然と笑顔になった。「お早うございます。相変わらず美味しそうですね」 テー
「駄目……か?」 細く長い指で輪を作って祐樹の根元から先端部分までを柔らかく締めながら動いている。「いえ、とても嬉しいですし、とても悦(い)いです。聡の花園の中も極上ですけれども、手で愛されるのも、大好きです、よ?」 右手の指の付け根だけ祐樹の舌と唇で愛し
三好看護師がおずおずといった感じで長岡先生と視線を合わせている。先ほどから看護師が入って来ては、主治医の元に行って一言二言言葉を交わした後にそそくさと医局を後にしているのも見て来たが。いくら打ち上げ会の最中(さいちゅう)とはいえ、病棟は普段通りに動いてい
「祐樹の熱い迸りを載せた頬……何だか愛の交歓の余韻という感じで良いな……。それに、二人で夢中で愛し合ったせいか、身体が熱い……。かまくら(・・・・)の外に顔を出して風に当たっても良いか?」 愛の交歓の後の彼の肢体は甘く香っている。しかも行為の痕がそこかしこ
ただ、医局の懇親とそして不倫は駄目だということに釘を刺そうというのが祐樹の密かな目的だった。黒木准教授に限って主題とは異なる話をしないだろうけれども、乾杯の音頭を取ってもらわないと困る。尤も乾杯といってもコーヒーなのは院内禁酒だから仕方ない。「黒木准教
「黒木准教授お疲れ様です」 最愛の人が会釈した後に挨拶をしている。旧態依然のヒエラルキーがまかり通っている大学病院では、いかに年上だったとしても教授職が准教授に「ご苦労様」と言うのが「常識」だと聞いているが、祐樹最愛の人は丁寧な口調で「お疲れ様」と言って
薄紅色の双丘の間を広げると紅く熟れた花園の門が、咲かせてもらうのを待っている花のように期待に震えているのも最高の眺めだった。祐樹の熱く滾った切っ先でツンツンと突く。待ち構えていたとしてもやはり準備は必要だろうから。「あ……っ、ゆ……祐樹……っ欲し……っ
何となく言いたいことは分かった。雄弁な眼差しが期待に煌めいていたし。「この中で愛の交歓をお望みですか?」 澄んだ瞳の光も紅色に艶めいている。「駄目、か?充分暖かいし、行為をすれば肌の温かみも加わるので凍傷にはならないだろう?」 艶めいた眼差しが揺れてい
きっと責任者の内田教授か長尾准教授が指示しているだろう。今回は協力者の立場で内田教授と同席したが、大学病院の不文律である内政不干渉が基本だ。だから責任者である教授が「これはウチの医局のことですから」と言い張った場合、嘴(くちばし)を突っ込むことは出来ない
彼は心の底から驚いた感じで切れ長の目を瞠っている。「祐樹に嫉妬されるなんてとても嬉しいな。愛されているのは充分に分かっているけれども、嫉妬の感情と祐樹が結びつかないので……」 それは最愛の人が一途(いちず)に祐樹を愛してくれて、他の男性に一切の、そして微
スマホの画面を細く長い指でスクロールしていた彼は自室ではなくてエレベーターホールへと優雅に歩みを進めている。責任説明、いや彼が当事者でもないし、上司でもないので説明は不要のような気もする。香川外科の医局員が不倫の当事者でもなかったので説明責任は内田教授
「それはおじ(・・)や(・)だな。雑炊は水洗いしたお米を使うので」 器用かつ慣れた仕草で卵を割り入れながら最愛の人が教えてくれる。「そうなのですね。また雑学(トリビア)が増えました。有難うございます」 薄紅色の指でお鍋に蓋をしている人に笑いかけた。「そうそう、
「そうです。それ以降は……ウワサとしてご存知でしょうが……アメリカ時代に貯めたお金のことで弁護士視点に立って……アドバイスを頂いています。顧問料と言いましても……対企業だと莫大なお金が必要らしいのですが、個人の場合それほど必要はないのです」 少しぎこちな
「そうですね。香川教授の仰る通りです。後の祭りにしないための方針として、先に院内LANでのお詫びの文書を載せてしまえば、病院長の隠蔽(いんぺい)も効果がなくなります。柳田先生と山看護師の仕出かしたことはW不倫で言い訳の余地はないです。そして杉田弁護士とその
「専門家ではないので、貴方が気に病むことではないと思いますよ?」 滑らかな肌に眉を寄せて考えている彼にフォローした。「そうだな……ただ、レシピをざっと思い返してみたのだけれども、干した椎茸(しいたけ)を出汁にする件については多数有った。しかし生の方(ほう)は
「これは昔の銭湯で入浴後に飲む定番だったみたいですよ」 フルーツ牛乳を二つ買って一つを最愛の人に手渡した。「そうなのか?私は見慣れないが……」 最愛の人は何の変哲もないオレンジ色と乳白色の混ざった瓶を興味深そうに眺めている。「私もこうして実物を見るのは初
思わぜぶりに咳払いをしてから口を開いた。「柳田さんが杉田弁護士で、山さんは杉田弁護士が紹介する弁護士ということになりました」 きっと杉田弁護士も内心「優良顧客ゲット」とか思っているだろう、横顔はごくごく誠実な表情だが。「分かりました。謝罪とある程度の経
「私も離婚します!!もう、女の影に怯える結婚生活にはウンザリですから!!しかし、弁護士の知り合いはあいにく居ないのです!!杉田先生に依頼することは可能でしょうか?」 必死な声と表情だった。「そんな!私も是非先生にお願いしたいです!!丸投げに最も適した先生
「ただ、東日本大震災の時の急落は、被災者の方(かた)が当座の現金欲しさに保有していた株式を売却して生活資金とか避難先を確保するために使ったという側面もある。しかし、その当時の日経平均株価は幾らだったと思う?」 そんなことを聞かれても祐樹は全く分からない。今
「山さんはトラウマになりそうな画像は直視しないことを強くお勧めします。鬱状態になって不眠や食欲減退などの症状が出る可能性はかなり高そうです。そうなった場合にはお仕事に障りますよ?もちろん私が責任を持ってカウンセリングや投薬をしますが、そうならない方(ほう)
しかも、外国人に「The温泉」とでもアピールしたいのだろう。雪の程よく積もった岩々で露天風呂を分断しているし面積も広いのでグループ毎に固まっていて二人に注意を払っている人はいなかった。国際公開手術のせいで親しくなった外国の人はお湯に肩まで漬かるという風
「お水を飲めば少しはご気分も良くなります。胃の辺りを押さえていらっしゃいましたが痛みなどの異常は有りますか?」 蓋を優雅な仕草で取って彼女に渡している。「香川教授にまでこのような取り乱した姿を見せてしまい誠に申し訳ありません。一瞬ズキっとした痛みは有りま
きっと「健全」路線に軌道修正したいのだろう。祐樹にとってもその方(ほう)が有難いが。「大正時代の入浴事情は良く知りませんが、あの妹は鬼にされて以降精神年齢が低くなっていますよね。『無限列車』では鬼の血(けっ)鬼術(きじゅつ)で主人公達の意識全体が己(おのれ)の
「更に生々しいモノがあるのですよね?そのう……不貞行為の現場がはっきりと映っている物が?」 柳田夫人は卓上に置かれている飲み物を一口飲んだ後に覚悟を決めたという表情で言い募っている。「有りますが……。ご覧になるのは、かなり勇気が必要かと……」 内田教授の
元旦を特別な場所で過ごそうという人たちも多いのか他の客も20人は居る露天風呂だったが、広さがかなりあるのでグループごとに点々としている。そういえば最愛の人が祐樹のためにピアノを演奏してくれたホテルも「ホテルで迎えるハッピーニューイヤー」と銘打ったイベン
「『鬼退治アニメ』では原作漫画と異なって主人公の妹が太陽を克服するまで歌が挿入されたり回想シーンが挟まったりしたので、日光に焼けて塵(ちり)になって消滅してしまうのかとドキドキしたな。兄妹も両親もいない私としてはあの漫画でそういう愛情を学んでいる、な」 祐
「精神科助手の呉と申します。今から内田・香川両教授から詳しい説明をお受けになると思いますが、精神的なダメージを伴う危険性を考えて香川教授の要請を受けて同席致します。精神やお身体に変調を来(きた)した時には遠慮なく仰って下さい」 親身な笑みと言葉だったが柳田
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「あ!それは私も少し考えた…。職業病みたいなものだろうな。主人公が所属する『鬼狩り』のトップが病(やまい)で瀕死の所に鬼のボスがやって来るシーンがあっただろう?」 最新作の最終話の話だ。「ありましたね。なまじビジュアルが良い鬼がドライアイスを纏って現れた時
「おはようご…。え!?って、お前来てたのか?」 いかにも寝起きといったぼんやりとした声が一気に喧嘩腰に変わっている。とはいえ、呉先生の、最愛の人よりも更に細い髪の毛には寝ぐせがついていたのはご愛敬(あいきょう)だと思わず観察してしまった。ただ、そんな呑気な
「ストレスの原因が配偶者の不倫だからな。呉先生がレベル分けをして画像を見せたとはいえ、配偶者の不貞行為そのものがショックだろう。それに杉田弁護士がいるとはいえ、離婚訴訟は最も精神的なダメージがあるというのが法曹界で通説になっている。一生を共にしようと一度
「山氏のカウンセリングを精神科医である呉先生にお任せしましたよね?心臓外科医の私達…いや貴方は精神科にも精通してらっしゃるので、私だけかも知れないですが、とにかく専門医が付き添っていたなら診察代金が発生するのが当たり前だと」 病院では冷静沈着な彼も驚いた
「ご無沙汰だったのでついつい気が逸(はや)ってしまって…痛みを与えたのでしょうか?やはり抱いて運んだ方が良いような気がしますけれど」 すぐ傍(そば)の最愛の人の表情を窺いながら聞いてみた。「いや、痛いわけでは全くなくて…祐樹がせっかく注いでくれた真珠の放埓(ほ
「しかし、恋人同士のというのは当事者でない人に対して情報を開示する必要性もないと個人的には思いますけれども…森技官もそうお思いになりませんか?出来れば二人きりで話したいのではないでしょうか?」 辛うじて援護射撃をすると氷のような表情と熱い火花が散っている
「祐樹、桜餅が食べたいな…。ほら、裕樹と私の時間が合わなかったせいで、こういう行為はとてもご無沙汰だっただろう?ずっと焦がれて待ち望んできて…そして少し(・・)は(・)満たされたら食欲が…」 やはり「少しは」なのだろう。祐樹も一回では足りないと思っていたので
呉先生の精神科復帰待望論について話しておくべきだろう。清水研修医に送るハズのメールの文面にも関わることなのだから。「内田教授は随分とお疲れだったようなので今日は自粛しましたけれど、どうやら精神科の真殿教授は手に負えない患者さんを他の精神病院に送っている
森技官は苦み走った男らしい顔に必死といった表情を浮かべている。アルマーニが良く似合う大人の男という風情の森技官に対してどちらかと言えば童顔の祐樹はコンプレックスを持っていたが、今の森技官は何だか気の毒な感じだ。しかもリアルな(?)救急救命室の処置を聞か
熱く荒い息が収まった後に取り敢えずのピリオドという意味のキスを交わした。そして最愛の人の紅色の肢体を祐樹の楔から解放することにして、裕樹の身体に凭れ掛かっている彼の腰を両手で掴んで持ち上げた。若干細いが男性らしい長方形のウエストという点も最高にそそる。
「いえ、お詫びの席などは…困った時はお互い様ですよ。それよりもまた小児科の浜田教授も誘ってアニメや漫画の話をしたいです」 最愛の人が力づけるように言葉を添えている。「そうですね。浜田教授も招いて気に滅入る話ではなく楽しい話題で盛り上がりましょう」 疲れて
何しろ血と内臓が生理的に無理な人だ。こんな人が天下の東京大学の医学部を良く卒業出来たなとある意味感心してしまう。聞くところによると、聞いたことのないような私立大学医学部では臨床や解剖などのいわゆる実技系がなくて、ペーパーテストで行われる医師国家試験対策
ただ、彼との間接キスは祐樹にも覚えがない。「間接キスは交わしたことはないと思いますよ。こういう空気の良い場所に限ってたくさんしましょうね…」 最愛の人の呼吸がやっと鎮まったので、裕樹は愛の行為を再開させようとした矢先に鳥の声が桜の舞い散る庭園をより一層
森技官がどういう態度を取られてもそれは自業自得だが、裕樹に対してこういう態度に出られたらメンタルがもたないだろう。「それはこちらの配慮不足でした。申し訳ございませんでした」 リビングルームに入った森技官は深々とお辞儀をしている。彼はお辞儀をされたら自分
清水研修医は流石、京都一の私立病院の跡継ぎ候補として特別な教育を受けただけのことはあるなと感心した。久米先生を筆頭に実家がクリニック経営という医師は多いが、いわゆる町の開業医と大病院の御曹司だと心構えが異なるのだろう。大学付属病院も今では破綻する可能性
彼の弱い場所に祐樹の指が更に当たるようにと腰を小刻みに上下させている濃い紅色の肢体は滴るような色香に満ちている。しかも先ほどから風に煽(あお)られて乱舞する桜の花が紅色の肢体に宿っているのも蠱惑に富んでいる。「聡の極上の花園のココ」 指全体で擦(こす)ると
「無理に起こすと意識がぼんやりする可能性がある薬だ、な」 祐樹の横を歩む最愛の人は何故か両手で自分の頬を叩いている。そういう仕草は見たことがなかったが、容赦なく追及するという役柄(?)を演じるための心の準備のような気がする。 出勤時などでは指を付け根まで
一度海外に出た最愛の人が教授職として凱旋帰国出来たのは、国立病院が独立行政法人に変わったせいだ。もしその変化がなければ京大を卒業していたとしてもアメリカに行ってしまった時点で病院との縁は切れるのが「国立病院」の考え方だ。祐樹のように大学卒業後に同じ大学
「ゆ…っ、裕樹…っ」 彼は祐樹の手を縋るように握った後にしなやかな動きで祐樹の身体から離れた。いったん指が裕樹から外されて、もどかしそうな震える手がシャツの袖口のボタンを微かに震える紅色の長い指で自ら外している様子も絶品だった。そして強く握った指を付け根
『私のような研修医が生意気を申し上げることをお許しください』 スマホの向こうでは深々と頭を下げているような感じがする。祐樹のような根っからの庶民ではなくて清水研修医は京都一の私立病院の御曹司として産まれた。そして清水病院長は斎藤病院長のこの大学の医学部の
「有難う御座います。 後でも良いですから、田中先生、私に一円を下さいね」 遠藤先生は天井を仰ぐことを止めて不思議そうに最愛の人と祐樹の顔を交互に見ている。「法律上は、これで契約成立です。 ちなみにこのボールペンはネットショップで5万円程度が相場ですが、お
「薬剤科を通すと上層部に知られるというリスクも確かに有りますが……、内科で処方した眠剤や精神安定剤を山のように貯めている患者さんも多数いらっしゃるので……。 服薬コントロールをどの程度しているかも兼ねて科の現状を、いわば抜き打ち調査するという目的の一石二
「私の手術の成否を心中深く案じた最愛の恋人は、呉先生に薬の処方をお願いしたのではありませんか?」 その一言で豪奢かつ居心地の良い客室の空気が凍り付いた。 最愛の人は端整な顔が青褪めていて、右の手を左手に重ねて白くしなやかな指がプラチナの指輪を御守りのよう
「似たような物件は二億五千万円で購入出来るようですよ?この物件とか、後はこちらとか……」 黒いマウスに載せた白く長い指が動く仕草は祐樹の視線の吸引力を根こそぎ持って行ってしまう魅惑に溢れていた。 しかし、遠藤先生が三億五千万円という祐樹にとっては天文学的
「はい、拡張……、それはともかく術式は……」 具体的な説明をしようとしたら、個人的には悔しいが苦み走った整った顔にドロドロと青色の簾(すだれ)が下りていくようだった。 普段の祐樹ならもっと具体的かつ生々しく説明するところだ。 しかし、かの「一力(いちりき)亭
祐樹行きつけの、つまり救急救命室から最も近いコンビニは店員さんがバーコードだかを読み取る仕組みだった。 ちなみに、高校生まで過ごした実家だったら未だに値段を書いた小さなシールという店もある。 実家に帰る時は実の息子の祐樹よりも母に気に入られている最愛の
「その言葉は単なる営業トークでしょうね。 マンションをローンで購入した場合、銀行は抵当権を付けるのが普通です。 要は担保でして、万が一、ローンの返済が滞って返済不可になった場合はその部屋を売却してローンの残債に充てることが出来ます。 仮想通貨は詳しくは存
アメリカには借金が返せなくなった人の代わりに肩代わりする連帯保証人という制度はない。 自分の知る限り日本独自の慣習のようで、生粋のアメリカ人のコナーズ教授が良く知っているなと逆に感心した。「借金を肩代わりして下さるなら、そうですね。 ハロッズを一棟丸ご
「ローン返済中に遠藤先生に万が一のことが有ったり、三大疾病(しっぺい)に罹ってしまったりした場合には保険の契約形態にも因りますが、それ以降のローンは保険が利いて支払いは免除されます。 つまりそのマンションは相続される方(かたの財産になるということになります。
クロテッドクリームの油分が付いた薄い唇がより艶めきを放っている。 その唇が瑞々しい花のように大輪の笑みを浮かべている、華やかに。「美味しいですよね」 最愛の人と笑い合って同じ物を食べる時は常に最高の味だけれども、手術の達成感のせいかより一層美味だ。「ク
「ローンを完済した時には私の固定資産になって、その後の収益はまるまる手に残るという話でしたが?」 最愛の人は切れ長の目に澄んだ光を宿して遠藤先生と祐樹を交互に見ている。 祐樹も最愛の人をずっと見ているので視線が絡まるのは心が弾む出来事だ。 教授執務室に来
支配人が何だか探るような視線を向けているのは気のせいだろうか? 不審者を見る警察官のような眼差しのような気がする。尤もそんな場面はテレビの中だけでしか知らないのだけれども。 嘘を吐(つ)くという心に疚しいことをしているせいで疑心暗鬼を生じているだけだと信
「はい、それでお願いします。 ところで空腹ではありませんか?ルイス君から分けて貰ったスコーンはとても美味でした。 そして、食べ方も私達とは異なるようで……。 本場だからかそれともオックスフォード大学独自なのかは生憎存じませんが?」 最愛の人は切れ長の目を
祐樹を魅了してやまない端整で理知的な顔が曇っている。 もし仮に二人きりでこんな表情を浮かべられたら、あたふたと原因を探すだろう。そして大輪の花のような笑みを浮かべて貰うために何だってする。 祐樹は最初こそ彼の見た目に強く惹かれていたが、付き合いが長くな
最愛の人は白く長い指で繊細なロイヤルコペンハーゲンのコーヒーカップを持っているだけで絵になる。白と濃いブルーの模様がしなやかな指を精緻に彩ってくれているので。「済みません、説明不足でしたね」 コーヒーの湯気が頬を薄紅色に染めていくような気がした。 遠藤
その手が有ったかと刮目してしまった。 特に舞妓さんや芸子さんの料金、確か「花代(はなだい)」と言ったような気がするが定かではない。 ともかく彼女達を呼ぶには莫大なお金が掛かりそうで、あの時はチームとして機能するようにと必死にテンションを上げていて、その場
「医学部生は国際公開手術のスタッフとして動員されていたみたいです。正装でもあるアカデミックガウン着用という命令が出ていたみたいですね。 そう言えばオックスフォード大学に格別の思い入れがある黒木准教授に手術成功の報と共にアカデミックガウン姿のルイス君と撮っ
ただ、彼女の部屋で同棲を始めて引っ越していって家賃を浮かそうとした人がいたり、極端な例では生きた化石のようなマルクス主義を標榜する共産党員にいつの間にか傾倒してしまって共産党員と共同生活をするために部屋を引き払ったりしたと聞いた、あくまでもウワサだった
「なるほど……。景気があまり宜しくない日本経済を回すための外貨獲得のために頑張って耐えたということなのですね。 レセプション会場で協会長などに顔を売るために森技官は鋼(はがね)の精神力で耐えたというわけですか……。そして手術が終わって気が抜けてトイレに駆け
「教授執務室に参りましょう。長くお待たせするのは失礼ですから。 その封筒やパンフレットなど参考になりそうなモノは全て持って行かれることを強くお勧めします」 いくら手技がイマイチだと言ってもそれは香川外科に所属しているからで、公立病院なら執刀医になれるポテ