「香川教授や田中先生が、私の同席している今この時とばかりに、この話題をなさった理由が理解出来ました。要するに他国立大学の医局内クーデターの成功例が知りたいというお考えですね」 まさに目から鼻に抜けるというお手本のようだった。ただ恰好は、頭にかぶったコンビ
創作BL小説を書いています。 ヤフーブログから引っ越して参りました。
ヤフーブログ終了でライブドア様に引越しました。今日の夜中更新分からはこちらがメインです!
「はー!やっと終わりましたね、日本心臓医学会」 副会長が閉会の挨拶をしているのを聞き流して、ひそひそ話を交わそうと目論んだ。いつぞやリッツカールトン大阪の中華レストランでなし崩し的に決まった理事職は祐樹が囁きかけている最愛の人は条件を満たしているが香川外
同性から狙われたら最悪なのは祐樹も充分理解していた。若干華奢な身体とはいえ職業柄力も有る人だけれども男性に押し倒されるとか薬物を盛られるとかで抵抗不能になる事態もあり得る。病院ではそんな無体なコトを仕出かす大バカ者はいないだろう。教授職という大学病院の
最愛の人に向けたスピーチを今一度脳裏で再生していると、ドアが両方とも開かれた。そのホテルマンだかは肘を折ってコナーズ教授と祐樹をパーティ会場と思しき場所に誘(いざな)ってくれている。先に挨拶をするのはコナーズ教授なので後ろに続いた。 煌々と光り輝くレセプ
森技官の助太刀をするのも、国際公開手術の妬み混じりの質問に答えてくれた彼の恩は返さなければならないからだ。さほど酷く意地悪な質問が飛んで来なかったが、それは結果論に過ぎない。「レセプション会場では私などよりももっとお詳しい香川教授もいらっしゃいますし、
約九千万円をタンスの肥やしか書斎の机の中の抽斗(ひきだし)もしくは金庫の中くらいしか祐樹には推測出来ないが、何処(どこ)にせよ祐樹的には目の飛び出るような大金を忘れて放置しておくなんて信じられない。そもそも医局の同僚ではあるけれども家に行くほど親しくはない
お何故こんなにもコナーズ先生が皇室の正装に興味を持つのか全く分からない。祐樹が見た映画で植民地でのイギリス人の振る舞いはどこに行っても現地人のことを同じ人間と思っていないという権高(けんだか)さと横柄さだった。 アガサ・クリスティーのエジプトを舞台にした
一人腑に落ちた感じのコナーズ先生は話を続けている。「その尊敬する上司がベルリンのレセプション会場でそう言ってくれたから田中先生もいつか来るべき国際公開手術のために英会話もマスターしようと考えたのかね?」 コナーズ先生は興味津々といった感じだった。「全く
海外の銀行の場合通帳がないことも多いと最愛の人に聞いていた。 即座に既読が付いたかと思うと、世界一有名なネズミのキャラクターが飛び跳ねて喜んでいるスタンプが送られてきた。医師同士では文字だけでやり取りするのが不文律になっている。それがスタンプを送って来
頭を下げてもコナーズ先生がその価値を見出していなかった場合は徒労に終わる。けれども話の流れでそうはならない気がしていた。 海外の学会に講師として招待されるレベルに達しているのは救急救命室の北教授しか今の大学病院に存在しない。救急救命室の采配をしなければ
何だっただろう?危機(リスク)回避(ヘッジ)というからには資産運用関係だろうと思うのだけれども……。きっと脳が一時的に忘れてしまっているだけなので、この際、今日あったことを話していけば思い出すだろう。「そういえばウチの医局の三好看護師がNISAについて詳し
副会長のコナーズ先生に身元保証を頼んだのは最愛の人自身の判断だろうが、それなりに親しかったのだろう。 と言っても、祐樹は世界レベルの医師の世界をほとんど知らない。この国際公開手術に成功するまでは一介の大学病院勤務の医師だ。 最愛の人はアメリカ時代にその
「タワーマンションが好きな人を否定する積りはなかったのだけれども……。 私の場合、祐樹と明石海峡大橋が眼前に見えるホテルに泊まったりこのホテルのクラブラウンジや部屋から大阪城を見下ろしたりするのは好きだ……。ただ、そういう特別で格別な景色は特別な日だけで
コナーズ先生は暗い顔をしている。やはり含むところがあるのかも知れない。「田中先生ここだけの話なのだけれどもね……」 深刻そうな表情で祐樹を仮設っぽい応接室スペースに誘った。 ステッキを見て英国貴族のようだと思っていたが、コナーズ先生は途中の机に置いてあ
祐樹が内心を「ある意味」偽って、いや優しい嘘かもしれない表情を、煌めく眼差しで見つめている最愛の人は見透かせなかったようで安心した。 容姿端麗、しかも祐樹好みの大輪の花のような風情だ。そして祐樹の知る限り最高に頭脳明晰な人なのだけれども、想像力に欠ける
グリフォンさんやミズ・パラダイスだけでなくその場に居た皆が直立不動で立っているからには物凄く偉い人なのだろう。 そんなことを考えながら背筋を伸ばして立っていると何だか厳(いか)めしい顔に貴族的な感じの笑みを浮かべて祐樹を見ている。 この慌ただしく職員が動
「貴方の仰(おっしゃ)りたいことが分かりました。 海の近くというのはロマンティックで良いですし、レインボーブリッジも綺麗で……部屋からそういう眺めが見えるというのは何というか……、日本のお城だと天守閣みたいな特別な場所という印象です。 けれども、海が近いと
わざわざ最愛の人がイギリスにまで持って来てくれた祐樹にとって世界一美味しいコーヒー、きっとあのコーヒーを国際公開手術前に二人で飲んだからこそ祐樹は成功したのだろうとまで思ってしまう。 そして、最愛の人が桂離宮で教えてくれた茶道のようにお茶碗の良し悪しで
「それが……エレベーターの性能など色々あるのだけれども、相場は一基で一億円とも二億円とも言われている。 タワーマンションでも普通のマンションでも変わりはないのだけれども、25年から30年で耐用年数が切れてしまう。 その時に新しい物に替えるかどうかは建築の
「田中先生カッコ良いです!何だか撮影に向かう雑誌のモデルさんみたいです!」 呉先生も森技官との恒例の口喧嘩だか痴話ケンカの混じったものを休戦させて祐樹の方(ほう)へ軽やかに歩み寄ってしげしげと見ている。 そして祐樹最愛の人のスーツに包まれた肩を細い綺麗な人
最愛の人もバターに拘(こだわ)って選んでくれているが、多分このバターは空気に触れさせる時間が少ないのだろう。滋味豊かな芳醇な味だった。 パンは二個しか保温用の厚い布にくるまれて入っていない。そしてパンを食べすぎるとお腹がいっぱいになってしまい後の料理を味
胸中は薫風の8割くらいサッパリしたのだけれども、まだまだ森技官への怨念がカスミのように燻(くすぶ)っている。 もう昔のことだし、祐樹は過去のことは綺麗さっぱり忘れるようにしているのだが、最愛の人のこと絡みの件については別格だ。 というか最愛の人がそれこそ
「このお時間はお二人の貸し切りで御座います」 貸し切りでなくともテーブルとテーブルの間は充分な距離を取っているので恋人としての語らいには格好の場所なのに貸し切り状態とはとてもラッキーだ。 とはいえ、このレストランが閉店して貰っては困るので経営は大丈夫かと
今日届きました!教授大好き♡様しょうこ様ゆき様有難うございます!!薔薇のフィナンシェです!フィナンシェといってもスフレの優しい甘さがとても美味でした!こういう薔薇を再現したお菓子もあるのですね。和菓子なら割と目と口で二度楽しむ物はありますが、洋菓子は初め
夜間の高速道路も何だか独特の特別感がある。 それはともかく、思春期の頃に少数派の性的嗜好の持ち主だと自覚があったと聞いている彼は院長先生のバカ娘の「結婚して病院の跡継ぎになることと、これまで以上の自由で贅沢な生活を送らせて欲しい」という要望を呑んだ。
「ウチの医局は外国人の患者さんも多いです。ゆ……田中先生を」 森技官は物言いたそうにアルマーニがこよなく似合う肩を優雅に皮肉そうに竦めている。 最愛の人が「ゆ……田中先生」とつい口を滑らせたことに対する反応だろう。 祐樹が同じような間違いめいたことをすれ
「森技官と同じ大学だ。祐樹も知っている通り筆記試験しかないので。 その……彼女の場合あまりにも手先が不器用なので高校の先生から医学部への推薦は出来ないと言われたとか……。 推薦入学の場合は高校の校長先生が厳選した学生にお墨付きをつけて大学に送り込むという
「はい、一円です」 スーツのポケットから小銭と千円札はたくさん入っている財布を出して中を探った。 肝心な時に目当ての小銭がないという事態も危惧したが、幸いなことに発見出来た硬貨を出した。「しかし、このボールペンの相場は良く分かっていますので私が物凄く得を
「いつものイチゴのショートケーキほどではないのだけれども、これはこれでとても美味しい。 ベリー類だと思うのだけれども……。何だかクセになる味だな……」 彼が最も好む兵庫県の芦屋に本店のある洋菓子店は京都のデパートの食品売り場にも出店している。 ただ、本店
「『不動産投資の話』ですか……」 一読してから最愛の人を見た。遠藤先生に語ったことが骨子として読みやすく書かれていた。「内容は良いと思いますよ。 しかし、文書のタイトルは『悪質な営業マンの言いなりになって億単位のローンを背負うリスクを取りますか?』とかそ
「ああ、遠藤先生にとってとても重要なことだから……な。 最も良いのは一ドル170円になった時だろう。ただ、個人的な意見なので責任は持てないけれども?」 静謐な執務室にコーヒーの香ばしい薫りが揺蕩(たゆた)って定時を回った寛いだ時間に相応しい雰囲気だ。「ひゃ
「私たちは専門学校や短大稀に大学卒と様々ですけど、皆が看護師や助産師になっているので交友関係も知識も偏ってしまっています」 確かに看護学部に入ってしまえば友達は皆が看護師志望だ。 医学部もそうだったけれども他学部の友達を作るためには部活動をするしか方法は
ああそうだ……、きっと黒木准教授が案じていた医師のちっぽけなプライドが祐樹にも備わっているのだと身に沁みて思った。 そして博覧強記の最愛の人ですら知らないことは知らないとハッキリ言っている。 ここは強がったりせずに素直に言うべきだろう、最愛の人に倣って
「教授のお手を煩わすことになってしまいますが……。 営業マンの甘い言葉に乗せられてしまう病院関係者が一人でも減るように、そしてプライドの高さが災いして誰に相談して良いのか分からない人が救われるような積極的な情報発信を内田教授と共にお願いしたいと思います。
そういえばパーティの時間が遅れているのも手術(オペ)のリアルタイム動画を見た外科医が続々と集まって来ているからだと他人事(ひとごと)のように思いを馳せた。「そうですね、ただ挨拶を考えないといけないので、食べながら考えます」 ハムと胡瓜(きゅうり)だけが挟んで
「医師は高収入で社会的ステイタスも高いと言われていますよね。銀行の融資では『属性』も重要だと仄聞しています……」 医局内はガランとしていたが、黒木准教授は辺りを憚(はばか)る感じで話している。 この件(くだり)は聞いているかも知れない人間が皆医師なのでそれほ
「お待たせいたしました。他科の准教授からの電話が丁度掛かって来まして」 黒木准教授は香川外科の縁の下の力持ち的存在だが、他科の准教授からとても信頼されているらしいし、親身に相談にも乗ると聞いている。「いえいえ、わざわざご足労をお掛けして誠に申し訳ありませ
祐樹のスマホに声が入らないように配慮してくれたのか呉先生の素朴な疑問も森技官の回答もひそひそ声だった。『はい。セカンドフロアにいらして下されば直ぐにお分かりになると思います。 ご足労をお掛けしますが宜しくお願いします』 電話の向こうの喧噪とは裏腹に丁重
祐樹も本日の業務は全て終わっている。 後は黒木准教授を待つだけなので、オフィシャルな会話を医局で彼と通話していても誰も不自然に思わないだろう。 何せ「香川教授の懐刀」とか「香川外科の小姑(こじゅうと)」とか言われているし、「例の地震」やその後の共著や地震
「ご説明する前に教授に連絡しても宜しいでしょうか? 病院の看板教授、しかも手術(オペ)を一日二件も行うのに医局の総責任者としての教授職なのに定時で上がる稀有な教授として感心されていらっしゃいますよね? 勿論黒木准教授の強力なフォロー有ってのことだと医局中知
仲の良い喧嘩友達を果たして友人と言って良いのかに関しては熟慮を要すると思いつつ。『そうなのですか?では私からもそういう申し出が有ったことをお伝えします。本題に入りますが宜しいでしょうか?』 電話越しに数人の大声らしきものが聞こえてきた。きっと時間変更で
「タワマンですか……。流石は准教授ともなるとグレードがアップしますね」 きっと気になるお値段も比例して高くなっているのだろうなと思ったが。 遠藤先生はこれ見よがしといった感じで腕時計を見ている。「遠藤先生、黒木准教授に報告すべきことはありますか?」 助け
「丁度あと一時間後ですね」 呉先生のスミレの花のような笑みがこの国の貴族の私室を彷彿とさせる客室に彩りを添えている。「ああ!運営側からの電話ですので出ても構わないでしょうか?」 祐樹のスマホに万が一の場合にと登録した番号を表示した着信があった。 ダメだと
遠藤先生は納得したような表情で祐樹を見上げてくる。「そんなモノなのですね……。教授職ともなれば鹿威(ししおど)しがカポーンと鳴るような料亭が普通かと思っていました。 意外と庶民的なのですね」 ……祐樹はこの病院の医師としては庶民育ちだ、最愛の人もそうだけ
「どうぞ、荷解(にほど)きは済ませて有るので、そんなに見苦しいことはないかと思いますが」 祐樹がドアを開けてくれて、客室へと入った。祐樹も割と几帳面なタイプなので客室はキチンと整頓されていることは想定内だった。 けれども、本で読んだベルサイユ宮殿の「夫婦の
「田中先生、政府のインバウンド効果の底上げ策にナイスサポート有難う御座います。 スタンリー先生など錚々たるメンバーを先に呼んでおくことで『一見さんお断り』の『一力(いちりき)亭』の一見さんではなくなるという布石は見事なものだと思います。 ああいう格式の高い
「はい。小児科のハロウィンのイベントに駆り出されたのが切っ掛けでした。 その後『難しい話は抜きにしてアニメやマンガの話題だけ』という主旨の呑み会を行っていますね」 納得した感じで頷いている。「ああ、ハロウィンの催し物は『呪いが廻る戦い』の最強戦士が田中先
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「香川教授や田中先生が、私の同席している今この時とばかりに、この話題をなさった理由が理解出来ました。要するに他国立大学の医局内クーデターの成功例が知りたいというお考えですね」 まさに目から鼻に抜けるというお手本のようだった。ただ恰好は、頭にかぶったコンビ
彼の長い睫毛が微かに揺れ、頬に一刷毛朱を加えたようになった。その唇は、押しとどめることなく微笑が咲いていた。祐樹の言葉を反芻するように目を伏せたその横顔には、誇らしさと愛おしさ、そして甘やかな驚きが入り混じっている。ああ、こんなにも素直に喜んでくれるの
「僕もさ、もうちょっと…ちゃんと腕、磨こうかなって…。あ、誤解しないで欲しいんだけどさ、別に張り合おうとかじゃないからね?」 言い訳めいた言葉にどこか照れがにじむ。けれどそれは真っすぐな気持ちの裏返しのような気がした。祐樹は、言葉にせず、ただ頷いた。祐樹
「本意のズレですか。私は何も明日教授のポストに就けとは言っていませんよね。実際問題としても不可能です」 怜悧で理知的な声が諭すような静けさがあった。「いっそのこと、真殿教授の常備薬にジゴキシンを混ぜるというのは如何でしょう?」 森技官が水を得た魚のような
ナツキの問いに、祐樹の胸が微かに疼いた。ナツキ自身もまた、この社会における少数派としての不安を抱えているはずなのに、そしてまだ専門学校に通っている年齢にも関わらず――彼はまず、最愛の人と祐樹を気遣ってくれた。 隣に座っている最愛の人はグラスを静かに置い
「弥助問題が顕在化した時に、ネット上では人々が細かい情報まで掘り起こしては、次々に共有し合っていたらしい。弥助の記述をしたのは『tottori tom』Facebookに『鳥取在住』と顔写真と共に載っていた。例の日大の准教授の名前はトーマス。Wikipediaの自己紹介欄
森技官は不格好な兜(かぶと)のような氷嚢(ひょうのう)も、頬に貼った冷えピタも何だか激戦場で怪我を負いながらも勝利した武将のように祐樹には見えるから不思議だ。 もしかしたら呉教授を最も待望していたのは祐樹たちではなく森技官かも知れない。「厚労省に言いたいこ
彼の言う通り例えば呉先生のような、血液や内臓が生理的に無理で、視覚・嗅覚でそれらを捉えると嘔吐してしまうような外科医は不要だ。尤も呉先生はそのことをきちんと自覚しているので、嘔吐を催すような場所には絶対足を踏み入れない。「男女の差は関係あるかね?」 杉
日大は大学の名前だろうし、タックルは見たままの行動だろうけれども、二つの単語が重なると意味が分からない。「『黒人侍が存在した』と主張したのは日本大学の准教授なのだ。歴史学ではなく法学が専攻分野で、しかもイギリス人だ。そして、彼は奴隷制度が日本でも一般的
「そうですね。少し話は逸れますが、私も救急救命室の凪の時間にスマホでYouTubeを見ることもあって。その広告に『東大病院の医師が勧めるぽっこりお腹をすっきりさせる薬を、この動画が流れている間に注文してください。なお、この動画は一回きりしか流れません』と
「医師や看護師などがストライキ権を行使――医師だって労働者なのでストライキをする権利はありますよ。しかし、監督省庁としてはあってはならないことです。病院だけでなく警察や消防もストライキを起こしたら、国民の不満が爆発しますよね。もしも、警察官のストライキは
救急救命室でトドのように横たわってスマホの画面を凝視している久米先生は「葵ちゃん、次はセーラー服を脱ごうか?」と、一人でほざきながらクレカの番号(?)だかを入力していた。「なんで、リボンだけなんだよ――!!??」大声を出して仮眠室ではなく休憩室で寝てい
「医師会長の陳情を厚労大臣や厚労省もむげに出来ないのですよね?」 医師会は開業医が所属する団体だ。最愛の人や祐樹は大学病院勤務なので入会資格はない。何しろ医師は影響力が大きいのでその団体の長となれば大臣を次の落選させることも理論上は可能だ。「それはもう。
「もともと『いろは歌』には不思議な点がたくさんあって、誰が作ったのかも分かっていない。空海が作ったとされていたが、空海の時代には使われていなかった文字も含まれている点から否定されている。しかし、空海は聖徳太子同様に神格化された人物だろう。真言宗の熱心な信
「そっか…僕の人を見る目が足りてなかったとばっかり思ってたんだけど、『密室ノワール』がそういう店だったんだ…。もう絶対に行かない!杉田先生有難う」 ナツキは忌まわしい思い出を頭から出そうとでも思ったのかぶんぶんと頭を振っている。「この店だったら、大体の客
「確かに不平等ですよね。社保や国保に加入している人にはジェネリック医薬品を強く勧めながら、生活保護受給者には無条件に先発医薬品を出しますよね?先発医薬品の方が値段も高いのは言うまでもないです。何しろ薬の開発にも莫大なお金が必要でしょうし、特許も保持してい
「ただ、誰もが本当のことを語るとは限らない」 最愛の人は、淡い灯を帯びたままの瞳をゆるやかに伏せた。「祐樹が言った通り江戸時代に幕府を批判するというのは、死を選ぶのに等しい行為だった。だからこそ、真実は物語の衣を幾重にも纏い、仮名や仮託という形式の陰に隠
「そうか、とても勉強になったよ」 杉田弁護士とナツキの話を聞いていた最愛の人が腕を上げた。会話に参加したいとの意思表示だろうが、羽のように軽やかで、静謐な意思だけがそこに宿っているようだった。「ナツキさんにお伺いしたいのですが、そのう…フツメン同士の同性
「いえ、俺が調子に乗りすぎたのがいけなかったのです。辞書通りに説明すれば、彼もこんな感情的にはならなかったと。姉にはこの人も手ひどい言葉を投げつけられたことがあって」 森技官が戸惑いを見せ、遠慮がちな口調になるのも初めてだった。いつもは腹の据わった確信を
「もちろんです。貴方との会話は脳を刺激して心地よくしてくださいます。聡との素肌の交わりとは異なった悦楽です。両方私にとってはなくてはならないものなのです」 陶器を彷彿とさせる肌に怜悧でいながらもどこか艶っぽい絵が描かれたような風情だった。「先ほど祐樹が寺
頭を下げてもコナーズ先生がその価値を見出していなかった場合は徒労に終わる。けれども話の流れでそうはならない気がしていた。 海外の学会に講師として招待されるレベルに達しているのは救急救命室の北教授しか今の大学病院に存在しない。救急救命室の采配をしなければ
何だっただろう?危機(リスク)回避(ヘッジ)というからには資産運用関係だろうと思うのだけれども……。きっと脳が一時的に忘れてしまっているだけなので、この際、今日あったことを話していけば思い出すだろう。「そういえばウチの医局の三好看護師がNISAについて詳し
副会長のコナーズ先生に身元保証を頼んだのは最愛の人自身の判断だろうが、それなりに親しかったのだろう。 と言っても、祐樹は世界レベルの医師の世界をほとんど知らない。この国際公開手術に成功するまでは一介の大学病院勤務の医師だ。 最愛の人はアメリカ時代にその
「タワーマンションが好きな人を否定する積りはなかったのだけれども……。 私の場合、祐樹と明石海峡大橋が眼前に見えるホテルに泊まったりこのホテルのクラブラウンジや部屋から大阪城を見下ろしたりするのは好きだ……。ただ、そういう特別で格別な景色は特別な日だけで
コナーズ先生は暗い顔をしている。やはり含むところがあるのかも知れない。「田中先生ここだけの話なのだけれどもね……」 深刻そうな表情で祐樹を仮設っぽい応接室スペースに誘った。 ステッキを見て英国貴族のようだと思っていたが、コナーズ先生は途中の机に置いてあ
祐樹が内心を「ある意味」偽って、いや優しい嘘かもしれない表情を、煌めく眼差しで見つめている最愛の人は見透かせなかったようで安心した。 容姿端麗、しかも祐樹好みの大輪の花のような風情だ。そして祐樹の知る限り最高に頭脳明晰な人なのだけれども、想像力に欠ける
グリフォンさんやミズ・パラダイスだけでなくその場に居た皆が直立不動で立っているからには物凄く偉い人なのだろう。 そんなことを考えながら背筋を伸ばして立っていると何だか厳(いか)めしい顔に貴族的な感じの笑みを浮かべて祐樹を見ている。 この慌ただしく職員が動
「貴方の仰(おっしゃ)りたいことが分かりました。 海の近くというのはロマンティックで良いですし、レインボーブリッジも綺麗で……部屋からそういう眺めが見えるというのは何というか……、日本のお城だと天守閣みたいな特別な場所という印象です。 けれども、海が近いと
わざわざ最愛の人がイギリスにまで持って来てくれた祐樹にとって世界一美味しいコーヒー、きっとあのコーヒーを国際公開手術前に二人で飲んだからこそ祐樹は成功したのだろうとまで思ってしまう。 そして、最愛の人が桂離宮で教えてくれた茶道のようにお茶碗の良し悪しで
「それが……エレベーターの性能など色々あるのだけれども、相場は一基で一億円とも二億円とも言われている。 タワーマンションでも普通のマンションでも変わりはないのだけれども、25年から30年で耐用年数が切れてしまう。 その時に新しい物に替えるかどうかは建築の
「田中先生カッコ良いです!何だか撮影に向かう雑誌のモデルさんみたいです!」 呉先生も森技官との恒例の口喧嘩だか痴話ケンカの混じったものを休戦させて祐樹の方(ほう)へ軽やかに歩み寄ってしげしげと見ている。 そして祐樹最愛の人のスーツに包まれた肩を細い綺麗な人
最愛の人もバターに拘(こだわ)って選んでくれているが、多分このバターは空気に触れさせる時間が少ないのだろう。滋味豊かな芳醇な味だった。 パンは二個しか保温用の厚い布にくるまれて入っていない。そしてパンを食べすぎるとお腹がいっぱいになってしまい後の料理を味
胸中は薫風の8割くらいサッパリしたのだけれども、まだまだ森技官への怨念がカスミのように燻(くすぶ)っている。 もう昔のことだし、祐樹は過去のことは綺麗さっぱり忘れるようにしているのだが、最愛の人のこと絡みの件については別格だ。 というか最愛の人がそれこそ
「このお時間はお二人の貸し切りで御座います」 貸し切りでなくともテーブルとテーブルの間は充分な距離を取っているので恋人としての語らいには格好の場所なのに貸し切り状態とはとてもラッキーだ。 とはいえ、このレストランが閉店して貰っては困るので経営は大丈夫かと
今日届きました!教授大好き♡様しょうこ様ゆき様有難うございます!!薔薇のフィナンシェです!フィナンシェといってもスフレの優しい甘さがとても美味でした!こういう薔薇を再現したお菓子もあるのですね。和菓子なら割と目と口で二度楽しむ物はありますが、洋菓子は初め
夜間の高速道路も何だか独特の特別感がある。 それはともかく、思春期の頃に少数派の性的嗜好の持ち主だと自覚があったと聞いている彼は院長先生のバカ娘の「結婚して病院の跡継ぎになることと、これまで以上の自由で贅沢な生活を送らせて欲しい」という要望を呑んだ。
「ウチの医局は外国人の患者さんも多いです。ゆ……田中先生を」 森技官は物言いたそうにアルマーニがこよなく似合う肩を優雅に皮肉そうに竦めている。 最愛の人が「ゆ……田中先生」とつい口を滑らせたことに対する反応だろう。 祐樹が同じような間違いめいたことをすれ
「森技官と同じ大学だ。祐樹も知っている通り筆記試験しかないので。 その……彼女の場合あまりにも手先が不器用なので高校の先生から医学部への推薦は出来ないと言われたとか……。 推薦入学の場合は高校の校長先生が厳選した学生にお墨付きをつけて大学に送り込むという
「はい、一円です」 スーツのポケットから小銭と千円札はたくさん入っている財布を出して中を探った。 肝心な時に目当ての小銭がないという事態も危惧したが、幸いなことに発見出来た硬貨を出した。「しかし、このボールペンの相場は良く分かっていますので私が物凄く得を
「いつものイチゴのショートケーキほどではないのだけれども、これはこれでとても美味しい。 ベリー類だと思うのだけれども……。何だかクセになる味だな……」 彼が最も好む兵庫県の芦屋に本店のある洋菓子店は京都のデパートの食品売り場にも出店している。 ただ、本店