平易だが深くて勁い~濫読日記 「清冽 詩人茨木のり子の肖像」(後藤正治著) 末尾の解説で、梯久美子があるエピソードを紹介している。広島で被爆した女性の遺品に、お洒落な洋服が何枚もあった。昭和20年8月6日の朝、彼女たちはなぜこんな衣服を身…
平易だが深くて勁い~濫読日記 「清冽 詩人茨木のり子の肖像」(後藤正治著) 末尾の解説で、梯久美子があるエピソードを紹介している。広島で被爆した女性の遺品に、お洒落な洋服が何枚もあった。昭和20年8月6日の朝、彼女たちはなぜこんな衣服を身…
逃走者の恐怖と孤独~映画「死の天使 ヨーゼフ・メンゲレ」 メンゲレ。1911年生まれの医師、人類学者。1940年にナチ武装親衛隊志願、入隊した。アウシュヴィッツで21か月勤務、残虐な人体実験を行った。収…
人生の踊り場をさまよう~映画「四月の余白」 西健吾(一ノ瀬ワタル)は全寮制の更生施設「みらいの里」を運営している。元半グレで反社ともつながり、手の付けられないワルだった。背中の刺青がそんな過去を物語る。道を踏み外したどうしようもない10代の…
揺らぐ少女のアイデンティティ~映画「トロフィー」 朝鮮学校に通う14歳のソヒ(恒那)は、親友の未来(梨里花)とK―POPに夢中だ。チケットを手に入れるため、家の中の不用品と思われるものをフリマで売っ…
母子の姿に一抹の希望~映画「済州島4.3事件 ハラン」 4.3事件は1948年、朝鮮半島の沖合にある済州島で起きた韓国軍による住民虐殺のことである。この年、半島では南北両国家が成立、分断統治が確…
「戦争」を語り継ぐとは~濫読日記「作文」(小山田浩子著) 戦争体験を語り継がねばならない、という。あのような悲惨を、二度と起こしてはならないからだ。この理屈は自明のこととして受け止められている。しかし、…
隠ぺいされた軍・警の住民虐殺~濫読日記「済州島 4.3事件「島(タムナ)のくにの死と再生の物語」(文京洙著) 第二次大戦が終わった直後、朝鮮半島は国連信託統治案の挫折を受け、米…
映画というより純文学~「急に具合が悪くなる」 映画というより小説的な世界だ。それも、純文学。それにしても、あまり起伏のないストーリーで3時間余り、長いと思うか、そうでもないと思うか。 パリ郊外の介護施設で施設長を…
異能・異形の司令官を描く~濫読日記「ブラック・スノウ 東京大空襲と原爆投下への道」(ジェームス・M・スコット著、染田屋茂訳) ライト兄弟の成功(1903年)以後、飛行…
結末をどう読むか~映画「オールド・オーク」 2016年のイングランド北部、海を臨む小さな町(具体名は記されていない)。かつて炭鉱で活気づいたが、今は寂れる一方だ。…とくると、日本でいえば佐藤泰志の「海炭市叙景」を思わせる。架空の町、登場人物が…
人間のエゴが生み出したものたちの叛乱~映画「箱の中の羊」 2年前、事故か事件かわからないまま息子・翔(かける=桒木里夢)を亡くした甲本夫婦は、ヒューマノイドを迎えた。喜ぶ妻・音々(おとね=綾瀬はるか)と対照的に戸惑う夫…
国境・性差を超えて~映画「CROSSING 心の交差点」 イスタンブールは、ヨーロッパとアジアの文明の交差点だ。この街でたまたま交差し、別れていくひと模様を描いた。 最初の舞台はジョージアのバトゥーミ。カフカス山脈の南、トルコ国境に…
恥辱の歴史への応答責任~濫読日記「戦後責任論」(高橋哲哉著) 「戦争責任論」ではなく「戦後責任論」である。戦後生まれの中に「戦争は我々が起こしたのではないから、責任の負いようがない」とする声がある。そうだろうか。世代は代わ…
主役は足音~映画「シンプルアクシデント」 トランプ大統領の「斬首作戦」と、その後のイランによるホルムズ海峡封鎖で影が薄くなったが、宗教的保守主義と経済失政を原因とするイラン体制派と反体制派の対立も深刻なもので、街頭デモの死者数はイ…
3人の漫画家の「戦後」を見る視線~濫読日記「残されたものたちの戦後日本表現史」(山本昭宏著) 戦争を巡る表現について、再解釈を試みた一冊。その意味について、著者は「はじめに」で橋川文三、竹内好の言葉をあげる。カギは「歴史意識」と…
飢餓地獄で死んでいった兵士~濫読日記「餓死(うえじに)した英霊たち」(藤原彰著) アジア・太平洋戦争で亡くなった兵士の6割は餓死か病死だった。衝撃の事実を突きつけたのが、標記の一冊である。無…
常人にはかれぬ内面~映画「金子文子 何が私をこうさせたか」 日露戦争(1904-05)に勝利した日本は帝国主義への欲望をあらわにし1910年、朝鮮半島を併合した。国内では大逆事件があり、幸徳秋水ら12人の死刑が執行され…
無数の無名の民が描けなかった大江~濫読日記「大江健三郎とその時代 『戦後』に選ばれた小説家」(山本昭宏著) ザ・フォーク・クルセダーズの歌に「戦争は知らない」があった。こんな一節がある。 戦争の日を何も知らない/…
ショーン・ペンが存在感~映画「ワン・バトル・アフター・アナザー」
ショーン・ペンが存在感~映画「ワン・バトル・アフター・アナザー」 長いタイトルを日本語に訳せば「戦闘、次から次へ」。冒頭、米移民局の収容施設が映し出され、そっち系(社会派)か…
飽きさせない100分のセリフ劇~映画「ブルームーン」 名曲「Blue Moon」をヒットさせた作詞家ロレンツ・ハート(イーサン・ホーク)の最期と、直前のあるパーティーを描いた。といっても、事実に基づいたものではないらしい。作家ロバ…
人命が限りなく軽かった時代~濫読日記「陸戦隊と暁部隊 ヒロシマの秘史を追う」(佐田尾信作著) 著者は、以前から気になっていた戦争末期の父の足跡を追った。見えてきたのは意外な事実だった。隠されていた大隊の存在。生きのびた大和の乗組員や新兵らで…
音楽映画と思いきや~映画「罪人たち」 米国南部を舞台にした、ブルースがテーマの映画と思ったら、途中からヴァンパイアとの死闘が繰り広げられKKKも登場と、米国の闇があちこちに展開される。ヘビーな内容である。
中国山地の桜物語~四季・歳時記 快晴の3月28日、桜を求めて中国山地を巡った。やや早いか、との懸念を吹き飛ばすように、山々は薄桃色に微笑んでいた。冒頭は広島市佐伯区湯来町・湯の山温泉のしだれ桜(通称竹下桜)、…
「無謀な戦争」の背景と結末~濫読日記「続・日本軍兵士―帝国陸海軍の現実」(吉田裕著) 「日本軍兵士」の続編。副題が変わった。「日本軍兵士」は戦場ごとに惨状を追ったが「続・日本軍兵士」は、日清戦争からアジア・…
それぞれの山と小屋に物語がある~山の映画館「小屋番 KOYABAN 八ヶ岳に生きる 劇場版」 八ヶ岳。北八つ、南八つと2回に分けて縦走したことがある。いくつかの山小屋に泊まった。どこも、特にトイレは驚くほどきれいだった。首都圏に近く宿…
中国山地幻視行~大峰山・うらうらと3月11日、大峰山。 山道を登っていると、ぱさり、パサリと肩に何か落ちてくる。見ると雪片だった。降りだしたのか、と一瞬思ったが違った。夜か朝方、急速な冷え込みで舞った雪が杉の葉に積もり、枝が風に揺れて落ちてきたらしい。山道…
記憶がもたらす愛憎~映画「センチメンタル・バリュー」 観終わって「センチメンタル・バリュー」って何だった? と思った。直訳すれば感傷的な価値。あるいは少し意訳して思い入れのある品々…。 菊池寛の小説に「父帰る」があったが、そのヨーロッパ版ともいえ…
現代中国に通じる批判~映画「長安のライチ」 ライチ(茘枝)。中国南部が原産地で鮮度が落ちやすい。楊貴妃が好んだことで知られる。唐の都・長安の下級官吏・李善徳(ダー・ポン)に皇帝から下命があった。「楊貴妃の誕生日祝いに、嶺南の新鮮なライチを届けよ」。長安…
対極にあった二人の晩年~濫読日記 「松本清張と水上勉」(藤井淑禎著) 帯に「昭和の2大作家の意外な共通性を鮮やかに読み解く」とある。この惹句に引き寄せられた。私の頭の中では、この二人の作家は全く別の地点に立つ。さて、どんな「共通性」があるのだろうか。
武士を捨てた者たちの人間道~映画「木挽町のあだ討ち」 木挽町には森田座という芝居小屋があり「芝居町」と呼ばれた。 ――まあ、芝居町なんて、江戸においては悪所と呼ばれるところですからね。品行方正な御武家様なんぞはそうそう足を踏…
国策の過ちに怒りを秘めて~濫読日記「百年の挽歌 原発、戦争、美しい村」(青木理著) 立憲民主と公明は衆院選(2月8日投開票)へ向けて中道を結成するにあたり、公約から原発と安保を外した。その結果(といって…
CEOはエイリアン?~映画「ブゴニア」 ある製薬会社のカリスマCEOミシェル(エマ・ストーン)が誘拐された。目的は金銭ではなかった。彼女をエイリアンと信じるテディ(ジェシー・プレモンス)と従弟ドン(エイダン・デルビス)は自宅…
中国山地幻視行~鈴が峰・鬼ヶ城 春を待ちかねて からりと晴れた2月13日、近くの山を歩いた。いつもの駐車場へ車を入れる。先行車がいた。後に1台。こんな日は珍しい。晴れ間を待ちかねたのだろう。小さな…
衆院選結果に思う~三酔人風流奇譚◆「316」の中身松太郎 衆院選が終わった。随分荒っぽい動きだった。竹次郎 自民が465議席中3分の2を上回る316議席をとった。松太郎 歴史的勝利といわれている。その中身を見てみ…
流浪の歴史が今日の姿をつくった~濫読日記「ユダヤ人の歴史 古代の攻防から離散、ホロコースト、シオニズムまで」(鶴見太郎著) 山上徹也被告の控訴(2月4日)によって安倍元首相銃撃…
戦車が蹂躙した「自由」~映画「プラハの春 不屈のラジオ報道」
戦車が蹂躙した「自由」~映画「プラハの春 不屈のラジオ報道」 1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊すると東欧各国では雪崩を打つように政変が起きた。チェコスロバキアも例外ではなく、2週…
反戦宗教者の足跡~映画「ボンフェッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師」
反戦宗教者の足跡~映画「ボンフェッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師」 ヒトラーは1933年、首相の座に就いた。大衆を煽って戦争へ向かわせる姿勢に、当然ながら反対…
いかに生き、いかに死ぬか~映画「安楽死特区」 安楽死は、容認されるのか―。 この、極めて現代的なテーマに挑んだ。原作は医師で作家の長尾和弘。監督は「夜明けまでバス停で」(2022)や「桐島です」(2025)…
戦争のリアルを追求~映画「WARFARE 戦地最前線」 ネイビーシールズは1962年、ベトナム戦争最中につくられた米海軍特殊部隊である。その誇り高い部隊の戦場を描いた。貫かれたのは戦争のリアルである。 2006年、…
現代人の心を持つ「怪物」~映画「フランケンシュタイン」 18歳の少女が19世紀初めに書いた小説が、歴史に残るモンスターを生み出した。死体を集めてつなぎ合わせ、何らかの方法で命を吹き込めば人造人間が生まれる―。…
アジア舞台の追跡劇だが…~映画「グランドツアー」 見終わっての一言は「うーむ…」。つまり、分からん。 プロットはシンプルそのものだ。婚約して7年、ようやく結婚することになった二人。ところが、男エドワード・アボット(ゴンサロ・ワディント…
古今東西の「落ちていく」物語~濫読日記「零落の賦」(四方田犬彦著) 魅惑的なタイトルだ。この書名に引き寄せられて読んだ、といっていい。「零落」とは簡単に言えば落ちぶれること。賦はさまざまな意味があるが、ここでは与えられたもの…
「核」をめぐる狂気~映画「ハウス・オブ・ダイナマイト」 キャスリン・ビグロー監督が、またも問題作を世に問うた。2008年、バグダッドで爆発物処理にあたる米兵のひりひりする日常と精神の崩壊を描いた「ハート・ロッカー」、…
中国山地幻視行~厳島・弥山 栄枯盛衰は世の習い1月7日、厳島・弥山 今年も、年初の山登りは弥山とした。麓の海上神社は、権力の頂点に立った平清盛が、力に任せて造った。栄枯盛衰という。奢れるものは久しからず。わが身を「奢っている」とは思わないが、「盛…
「引き」で撮った家族の崩壊~映画「見はらし世代」 不思議な魅力の映画だ。まずカメラアングル。正面からの構図にこだわっている。垂直と水平線で区切られた都市の遠景が頻繁に出る。その中で、ある家族の崩壊の物語が進行する。その表情は、あく…
男女の心理分析がリアル~映画「星と月は天の穴」 監督は「火口のふたり」で、ひたすら性に溺れる男女を描いた荒井晴彦。吉行淳之介の原作は1966年初出。吉行作品は好きで、全集(講談社、1971、初版)が本棚の片隅に今…
一貫して「近代」に異議~濫読日記「渡辺京二論 隠れた小径を行く」(三浦小太郎著) 「苦海浄土」を書いた石牟礼道子に、影のように寄り添った男がいた。渡辺京二。例えば「魂の邂逅 石牟礼道子と渡辺京二」(米本…
権力の腐敗が招くもの~映画「ネタニヤフ調書 汚職と戦争」 ネタニヤフ。通算17年間、首相の座にいる(汚職疑惑で政界から一時身を引いた)。権力は長ければ長いほど腐敗する、というが、この男も例外ではない。権力に群がり、甘い汁…
ラスト近く、やや不鮮明~映画「ナイトフラワー」 子供2人を抱え懸命に生きるシングルマザー夏希(北川景子)と、格闘技の頂点を目指す多摩恵(森田望智)がタッグを組んで生きる。夏希は、当初はスナックやホテルの清掃だったが、より実入りのいい合成麻薬MDMA
「縄文」をめぐる言説の吸引力~濫読日記「縄文 革命とナショナリズム」(中島岳志著) 「縄文」がテーマだが、考古学ではない。いまだ謎が多い縄文時代の土器や土偶、岩偶が現代に投影するもの―それは時に思想でさ…
閉じられた悲恋の物語~映画「平場の月」 「平場」は、もともとは芸能の言葉のようだが、一般社会でも使われる。お互いの立場や思惑抜きで、言い換えれば裃をぬいで本音で話し合いましょう、というときに使う。では、この映画ではどんな意味がある…
少年と元ヤクザの交流、重厚な映像で~映画「港のひかり」 昔観た「夜叉」(降旗康男監督)を思い出した。夜叉の彫り物を背負った男が、若狭…
主役は風景~映画「旅と日々」 タイトルは「旅と日々」。「旅の日々」ではない。「の」でつながれば垂直の関係になるが「と」でつながるので並立になる。では「旅」と「日々」の意味するものは。「日々」を「日常」とすれば旅は対極の概念、即ち「…
「巨悪」とみなされた男の実像~濫読日記「東條英機と天皇の時代」(保阪正康著)◇処刑日をめぐって 猪瀬直樹著「昭和16年夏の敗戦」の続編「昭和23年…
天才棋士が背負った暗い宿命~映画「盤上の向日葵」 将棋界に突如現れた天才棋士・上条桂介(坂口健太郎)。奨励会を経由してプロになるという通常コースをとらなかった。そこには出自を巡る宿命的な闇があった―。 埼玉の山中で見つかった…
佐藤二朗の怪演が9割~映画「爆弾」 警察に逮捕された酔っ払いの中年男が「私は霊感が働きます」といって爆破事件を予告する。秋葉原、東京ドーム、九段下の新聞配達バイク。自称スズキタゴサク(佐藤二朗)は重要参考人になる。所轄から警視庁捜査…
描いたのは、若者の悲惨?~「愚か者の身分」 タクヤ(北村匠海)はSNSで女性名を使い、カモを探している。個人情報を手に入れ、戸籍売買で一儲けしようとしている。弟分のマモル(林裕太)は、見よう見まねでその手口を実行しようと…
民主化直前の暗夜を描く~「大統領暗殺裁判 16日間の真実」 韓国の現代史を見ると、1980年前後に大きな転機が訪れている。1961年、クーデターで権力を掌握した朴正熙が18年にわたって政治的頂点に立った。…
ただの風変わりな二人~映画「おーい、応為」 葛飾北斎は自ら「画狂人」と名乗り、生活を顧みない瘋癲老人だった。引っ越し魔でもあり、生涯に90回転居したともいわれる。北斎の三女はお栄といい、父親譲りの画才があった。南沢等明と…
二つの正義の間で~映画「揺さぶられる正義」 SBS(Shaken Baby Syndrome=揺さぶられっ子症候群)をめぐる長編ドキュメンタリー。 揺さぶりによる幼児死亡が相次いだ時期があった。しば…
「空っぽ」と闘うカエル君?~映画「アフター・ザ・クエイク」 NHKが放映した「地震のあとで」を再編集した。したがって「映画」と表記するのは多少抵抗があるが、ほかに言いようがないのでここでは「映画」とした。原作は村上春樹。…
インド社会の影の部分を見つめる ~映画「私たちが光と想うすべて」
インド社会の影の部分を見つめる~映画「私たちが光と想うすべて」 インド映画の実力をみる思いがする。 舞台はムンバイ。かつてボンベイと呼ばれた街の光と影を描いた。3人の女性が登場する。看護婦のブラバ(カニ・クスルティ)と年下の…
「ガザ」を知らぬイスラエル国民~映画「壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記」
「ガザ」を知らぬイスラエル国民~映画「壁の外側と内側パレスチナ・イスラエル取材記」 イスラエル建国から77年。その間、戦火は絶えなかったが、今日のガザほど非人間的な状況はなかったのではないか…
シンメトリーと不条理~映画「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」
シンメトリーと不条理~映画「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」 これまでに観たウェス・アンダーソン監督作品は「グランド・ブダペスト・ホテル」と「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊」。ストーリーより、…
戦後80年夏の敗戦~社会時評 2025年8月にNHKスペシャルで二夜連続ドラマが放映された。「シミュレーション 昭和16年夏の敗戦」。猪瀬直樹のノンフィクションに材をとり、太平洋戦争直前につ…
圧政の島、今も変わらず~映画「宝島」 1952年から72年まで、独立日本の例外として沖縄は米国の施政権下に置かれた。そのころの沖縄民衆の怒りを、史実を盛り込み活劇風に描いた。3時間を超す長編だが、熱量の高…
コスモポリタンの孤独~映画「Dear Stranger」 「災害は、見舞われた社会の断面を一瞬にして浮上させる」。東日本大震災の直後、経済評論家・内橋克人の言葉だ。この原理は個人の生活レベルにも当てはまるようだ。「Dear Stranger」も…
悔恨と悲しみに彩られた記憶~映画「遠い山なみの光」 カズオ・イシグロの長編デビュー作を映画化した。気になるのは邦題。何かを示唆しているのは分かるが、それが何かは映画を観終わってもつかめない。原題「A PALE VIEW OF HILLS」を直訳すると「丘の薄暮の光景」。遠い丘…
なかったことにできない~映画「黒川の女たち」 1945年8月9日未明、極東ソ連軍の満州侵攻が開始された。実際にどの程度の兵力が投入されたかは不明だが、この時の陸海空軍総力は174万人である…
「昭和」を生き、体現した作家~濫読日記「評伝 開高健―生きた、書いた、ぶつかった!」(小玉武著)◇出会い 開高健との最初の接点は「ベトナム戦争」だった。大学に入ったころ…
彼はなぜ設計図を渡したのか~映画「原爆スパイ」 第二次大戦末期、オッペンハイマー率いる米マンハッタン計画に18歳で参加したテッド(セオドア)・ホールは、天才物理学者と呼ばれた。計画では、プルトニウム原爆の開発に力を尽くし…
際立つ内面のドラマ~映画「木の上の軍隊」 戦地からの帰還が遅れた人たちがいた。五十嵐惠邦著「敗戦と戦後のあいだで 遅れて帰りし者たち」(2012年、筑摩書房)はそうした人たち、横井庄一、小野田寛郎、シベリア抑留者と石原吉郎…
今も謎多い行動形態~濫読日記「スキタイと匈奴 遊牧の文明」(林俊雄著) 「スキタイ」が目に留まったのは「物語 ウクライナの歴史」(黒田祐次著、中公新書)によってだった。紀元前、黒海北岸に現れたという。こ…
薄幸の記憶が彼女を作った~映画「マリリン・モンロー 私の愛し方」
薄幸の記憶が彼女を作った~映画「マリリン・モンロー 私の愛し方」 女の子は、父親の名を知らぬまま里子に出され施設に入れられた。母の精神的不安定が理由だった。8歳で再び母に引き取られ、自宅を間借りしていた英国人俳優から性的虐待を受け…
アイデンティティの在り方を問う~映画「顔を捨てた男」 平野啓一郎の原作を映画化した「ある男」(2022年、監督・石川慶)。さまざまな事情から人生を変えたいと思い、戸籍を交換した男のその後を描いた。では、戸籍でなく顔を変えれ…
ひと夏の出会いと別れ~映画「夏の砂の上」 ひと夏の長崎を舞台に、出会いと別れを描いた。それぞれの心は乾いていて、いつも何かを渇望している。何かを待っている。そうした心情が、タイトルにつながっている。こんなシチュエーションのドラマ、…
逃亡犯の平凡な日々~映画「桐島です」 1960年代末期、全国に広がった大学闘争は東大安田講堂攻防戦の後、収束に向かった。70年安保闘争もさほど広がらず、71~72年の連合赤軍事件、あさま山…
半世紀の交流で見えたもの~濫読日記「小林秀雄」(大岡昇平著) 加藤陽子・東大教授の講演を聞いたことがある。テーマは忘れたが帰途、知人と飲みに行った際の会話。教授は冒頭、大岡の「レイテ戦記」に触れた。その…
理不尽な疑惑に苦しみ10年~映画「でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男」
理不尽な疑惑に苦しみ10年~映画「でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男」 真面目で口下手な教師が突然、児童への体罰の疑惑を持たれ、苦しみの日々を送る。救いの手を伸ばしたのは一人の老いた弁護士だった。大弁護団を相手に、法廷で9…
戦時下ドイツを壮大な背景画としたミステリー~濫読日記 「ベルリンは晴れているか」(深緑野分著) 善の基準であった神なきあと、絶対悪としてヒトラーが登場、そこからの距離によって行為の価値が決まる時代になった。つまり、ヒトラーは逆説的な意味で人間的な価値の審…
少女の瞳に映った大人社会~映画「ルノワール」 「PLAN75」で長編デビューした早川千絵監督の2作目。前作は、高齢化社会に対応するため、75歳で安楽死を選択できるという究極の物語だった。問題意識をそのままプロットに反映…
血の呪縛か芸の才能か~映画「国宝」 歌舞伎役者が、10歳になるかならない我が子を舞台に上げる。たどたどしいセリフに、ひいき筋が拍手する。テレビでそうした光景が流れると、苦い思いがする。まだ人生に思いをいたすことのない幼子…
長い悔恨と悲しみの果て~映画「秋が来るとき」 ブルゴーニュの田舎町に一人暮らす80歳のミシェル(エレーヌ・バンサン)。パリから時々娘のヴァレリー(リュディビーヌ・サニエ)と孫のルカ(ガーラン・エルロス)が訪れるのが楽しみだ。…
美への執念と大衆の欲望~映画「サブスタンス」 落ち目の女優エリザベス(デミ・ムーア)が、得体のしれない再生医療「サブスタンス」に手を出す。接種すると背中が割れ、若いスー(マーガレット・クアリー)が分身として現れる。テレビ局のオーデ…
塀の外と内が織りなすドラマ~映画「金子差入店」 政治家は、塀の上を歩くといわれた。落ちた場所が刑務所の塀の外側か内側かは全くの偶然、というわけだ。この塀の外と内が織りなすドラマを映画にしたのが「愛について、ある土曜日の面会室」(
名声や富でなく~映画「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」<br /><br />
名声や富でなく~映画「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」 リー・ミラー。「ヴォーグ」のモデルとして出発、シュールレアリズム写真家マン・レイの弟子兼愛人を経て写真家。商業、芸術から従軍報道写真に分野を広げた。第二次大戦末期の写真は歴…
破滅型写真家の「ミューズ」~映画「レイブンズ」 写真家・深瀬昌久の半生を映画化した。冒頭で「現実にヒントを得た物語」とコメントが入るとおり、大胆に深瀬の生きざまを再編集している。その象徴的キャラクターが「ヨミチャン」と呼ばれる大き…
語り合う人生の真実~映画「ドライブ・イン・マンハッタン」 真夜中のJ・F・ケネディ空港。一人の女性がタクシーに乗り込んだ。目的地はマンハッタン44丁目。はじめはぎこちなかった運転手との会話が、やがて熱を帯びる―。 ほぼワンシチュエーショ…
心境小説の名手~濫読日記「文品 藤沢周平への旅」(後藤正治著) 藤沢周平の時代小説は何冊か読んだが、いずれも文庫本である。全集の刊行は知っており、そのうち…と思い書店で問い合わせると、廃刊寸前だという。諦めずトラ…
意味深なラスト、どう読む?~映画「アノーラ」<br /><br />意味深なラスト、どう読む?~映画「アノーラ」
意味深なラスト、どう読む?~映画「アノーラ」 久しぶりに面白い映画を観た。「プリティウーマン」を思わせる前半からリアルな現実が引き起こすドタバタ劇、そして突然の意味深なラスト―。 アニー(マイキー・マディソン)はNYで性的サービス…
恐怖の記憶と向き合った建築家~映画「ブルータリスト」 ナチによるホロコーストから逃れ米国に移住した建築家が、恐怖の記憶と向き合い、自らの思想を体現した建築物を遺した、という話。フィクションだが、計200分と長い。そのため、インターミッションが…
再び動乱の地に向かった作戦の鬼~濫読日記「辻政信の真実 失跡60年―伝説の作戦参謀の謎を追う」(前田啓介著) 日本の近代史の中で、気になる人物が何人かいる。辻政信もその一人だ。副題の通り、日本軍の作戦参謀として知られた…
飼育された自我の行方は~映画「籠の中の乙女」 「憐れみの3章」や「哀れなるものたち」が公開され、いまや鬼才といっていいヨルゴス・ランティモス監督の初期の作品。期待にたがわず奇妙で怖くて戦慄の走る作品だった。 プール付きの豪邸に住む家族が主人公。全権を握る父親は、なぜか徹底的に…
背景に国家と宗教の確執~映画「ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻」
背景に国家と宗教の確執~映画「ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻」 イングランド・テューダー王朝第2代国王ヘンリー8世(在位期間1491-1547)。初期は文筆家、作曲家として知られ教養人と目されたが、晩年は横暴で偏狭な権力者だった。6度の結…
日本社会のいびつさを告発~濫読日記「対馬の海に沈む」(窪田新之助著) 対馬のJA(農協)職員が2019年、自殺と思われる死を遂げた。ただの職員であれば、日常の一コマとして、…
少し喜劇的に少し悲しげに~映画「蝶の渡り」 ジョージア。昔はグルジアといった。スターリンの生まれた地。1991年、ソ連崩壊とともに独立した。直後にアブハジア独立を巡り紛争が起きた。ロシアがアブハジアを承認、背後についたため…
降伏後に流された血~濫読日記「日ソ戦争 帝国日本最後の戦い」(麻田雅文著) アジア・太平洋戦争の末期、降伏寸前だった日本に、ソ連は宣戦布告し攻勢をかけた。満州、朝鮮半島北部、南樺太、そしていわ…
生活保護最前線を舞台に~映画「悪い夏」 隠語で「ナマポ」。生活保護の攻防最前線が舞台。原作は「正体」の染井為人。 ある市役所の生活福祉課に勤める佐々木守(北村匠海)は、実直に仕事をこなしていた。そんな折り、同僚の宮田有子(伊…
転機迎えた欧州の戦後体制~濫読日記「西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか」(エマニュエル・トッド著) IMFが発表した2024年の世界各国のGDP(国内総生産)を見ると、ロシアは1…
新教皇に重大な秘密~映画「教皇選挙」 世界に14億人の信徒を持つカトリック教会。そのトップが急死した。3日後、後継を決める選挙が始まった。コンクラーベ(教皇選挙)である。日本語の「根競べ」に例えられるほど、延々と続く手続き。 バチカン…
平易だが深くて勁い~濫読日記 「清冽 詩人茨木のり子の肖像」(後藤正治著) 末尾の解説で、梯久美子があるエピソードを紹介している。広島で被爆した女性の遺品に、お洒落な洋服が何枚もあった。昭和20年8月6日の朝、彼女たちはなぜこんな衣服を身…
逃走者の恐怖と孤独~映画「死の天使 ヨーゼフ・メンゲレ」 メンゲレ。1911年生まれの医師、人類学者。1940年にナチ武装親衛隊志願、入隊した。アウシュヴィッツで21か月勤務、残虐な人体実験を行った。収…
人生の踊り場をさまよう~映画「四月の余白」 西健吾(一ノ瀬ワタル)は全寮制の更生施設「みらいの里」を運営している。元半グレで反社ともつながり、手の付けられないワルだった。背中の刺青がそんな過去を物語る。道を踏み外したどうしようもない10代の…
揺らぐ少女のアイデンティティ~映画「トロフィー」 朝鮮学校に通う14歳のソヒ(恒那)は、親友の未来(梨里花)とK―POPに夢中だ。チケットを手に入れるため、家の中の不用品と思われるものをフリマで売っ…
母子の姿に一抹の希望~映画「済州島4.3事件 ハラン」 4.3事件は1948年、朝鮮半島の沖合にある済州島で起きた韓国軍による住民虐殺のことである。この年、半島では南北両国家が成立、分断統治が確…
「戦争」を語り継ぐとは~濫読日記「作文」(小山田浩子著) 戦争体験を語り継がねばならない、という。あのような悲惨を、二度と起こしてはならないからだ。この理屈は自明のこととして受け止められている。しかし、…
隠ぺいされた軍・警の住民虐殺~濫読日記「済州島 4.3事件「島(タムナ)のくにの死と再生の物語」(文京洙著) 第二次大戦が終わった直後、朝鮮半島は国連信託統治案の挫折を受け、米…
映画というより純文学~「急に具合が悪くなる」 映画というより小説的な世界だ。それも、純文学。それにしても、あまり起伏のないストーリーで3時間余り、長いと思うか、そうでもないと思うか。 パリ郊外の介護施設で施設長を…
異能・異形の司令官を描く~濫読日記「ブラック・スノウ 東京大空襲と原爆投下への道」(ジェームス・M・スコット著、染田屋茂訳) ライト兄弟の成功(1903年)以後、飛行…
結末をどう読むか~映画「オールド・オーク」 2016年のイングランド北部、海を臨む小さな町(具体名は記されていない)。かつて炭鉱で活気づいたが、今は寂れる一方だ。…とくると、日本でいえば佐藤泰志の「海炭市叙景」を思わせる。架空の町、登場人物が…
人間のエゴが生み出したものたちの叛乱~映画「箱の中の羊」 2年前、事故か事件かわからないまま息子・翔(かける=桒木里夢)を亡くした甲本夫婦は、ヒューマノイドを迎えた。喜ぶ妻・音々(おとね=綾瀬はるか)と対照的に戸惑う夫…
国境・性差を超えて~映画「CROSSING 心の交差点」 イスタンブールは、ヨーロッパとアジアの文明の交差点だ。この街でたまたま交差し、別れていくひと模様を描いた。 最初の舞台はジョージアのバトゥーミ。カフカス山脈の南、トルコ国境に…
恥辱の歴史への応答責任~濫読日記「戦後責任論」(高橋哲哉著) 「戦争責任論」ではなく「戦後責任論」である。戦後生まれの中に「戦争は我々が起こしたのではないから、責任の負いようがない」とする声がある。そうだろうか。世代は代わ…
主役は足音~映画「シンプルアクシデント」 トランプ大統領の「斬首作戦」と、その後のイランによるホルムズ海峡封鎖で影が薄くなったが、宗教的保守主義と経済失政を原因とするイラン体制派と反体制派の対立も深刻なもので、街頭デモの死者数はイ…
3人の漫画家の「戦後」を見る視線~濫読日記「残されたものたちの戦後日本表現史」(山本昭宏著) 戦争を巡る表現について、再解釈を試みた一冊。その意味について、著者は「はじめに」で橋川文三、竹内好の言葉をあげる。カギは「歴史意識」と…
飢餓地獄で死んでいった兵士~濫読日記「餓死(うえじに)した英霊たち」(藤原彰著) アジア・太平洋戦争で亡くなった兵士の6割は餓死か病死だった。衝撃の事実を突きつけたのが、標記の一冊である。無…
常人にはかれぬ内面~映画「金子文子 何が私をこうさせたか」 日露戦争(1904-05)に勝利した日本は帝国主義への欲望をあらわにし1910年、朝鮮半島を併合した。国内では大逆事件があり、幸徳秋水ら12人の死刑が執行され…
無数の無名の民が描けなかった大江~濫読日記「大江健三郎とその時代 『戦後』に選ばれた小説家」(山本昭宏著) ザ・フォーク・クルセダーズの歌に「戦争は知らない」があった。こんな一節がある。 戦争の日を何も知らない/…
ショーン・ペンが存在感~映画「ワン・バトル・アフター・アナザー」 長いタイトルを日本語に訳せば「戦闘、次から次へ」。冒頭、米移民局の収容施設が映し出され、そっち系(社会派)か…
飽きさせない100分のセリフ劇~映画「ブルームーン」 名曲「Blue Moon」をヒットさせた作詞家ロレンツ・ハート(イーサン・ホーク)の最期と、直前のあるパーティーを描いた。といっても、事実に基づいたものではないらしい。作家ロバ…
薄幸の記憶が彼女を作った~映画「マリリン・モンロー 私の愛し方」 女の子は、父親の名を知らぬまま里子に出され施設に入れられた。母の精神的不安定が理由だった。8歳で再び母に引き取られ、自宅を間借りしていた英国人俳優から性的虐待を受け…
アイデンティティの在り方を問う~映画「顔を捨てた男」 平野啓一郎の原作を映画化した「ある男」(2022年、監督・石川慶)。さまざまな事情から人生を変えたいと思い、戸籍を交換した男のその後を描いた。では、戸籍でなく顔を変えれ…
ひと夏の出会いと別れ~映画「夏の砂の上」 ひと夏の長崎を舞台に、出会いと別れを描いた。それぞれの心は乾いていて、いつも何かを渇望している。何かを待っている。そうした心情が、タイトルにつながっている。こんなシチュエーションのドラマ、…
逃亡犯の平凡な日々~映画「桐島です」 1960年代末期、全国に広がった大学闘争は東大安田講堂攻防戦の後、収束に向かった。70年安保闘争もさほど広がらず、71~72年の連合赤軍事件、あさま山…
半世紀の交流で見えたもの~濫読日記「小林秀雄」(大岡昇平著) 加藤陽子・東大教授の講演を聞いたことがある。テーマは忘れたが帰途、知人と飲みに行った際の会話。教授は冒頭、大岡の「レイテ戦記」に触れた。その…
理不尽な疑惑に苦しみ10年~映画「でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男」 真面目で口下手な教師が突然、児童への体罰の疑惑を持たれ、苦しみの日々を送る。救いの手を伸ばしたのは一人の老いた弁護士だった。大弁護団を相手に、法廷で9…
戦時下ドイツを壮大な背景画としたミステリー~濫読日記 「ベルリンは晴れているか」(深緑野分著) 善の基準であった神なきあと、絶対悪としてヒトラーが登場、そこからの距離によって行為の価値が決まる時代になった。つまり、ヒトラーは逆説的な意味で人間的な価値の審…
少女の瞳に映った大人社会~映画「ルノワール」 「PLAN75」で長編デビューした早川千絵監督の2作目。前作は、高齢化社会に対応するため、75歳で安楽死を選択できるという究極の物語だった。問題意識をそのままプロットに反映…
血の呪縛か芸の才能か~映画「国宝」 歌舞伎役者が、10歳になるかならない我が子を舞台に上げる。たどたどしいセリフに、ひいき筋が拍手する。テレビでそうした光景が流れると、苦い思いがする。まだ人生に思いをいたすことのない幼子…
長い悔恨と悲しみの果て~映画「秋が来るとき」 ブルゴーニュの田舎町に一人暮らす80歳のミシェル(エレーヌ・バンサン)。パリから時々娘のヴァレリー(リュディビーヌ・サニエ)と孫のルカ(ガーラン・エルロス)が訪れるのが楽しみだ。…
美への執念と大衆の欲望~映画「サブスタンス」 落ち目の女優エリザベス(デミ・ムーア)が、得体のしれない再生医療「サブスタンス」に手を出す。接種すると背中が割れ、若いスー(マーガレット・クアリー)が分身として現れる。テレビ局のオーデ…
塀の外と内が織りなすドラマ~映画「金子差入店」 政治家は、塀の上を歩くといわれた。落ちた場所が刑務所の塀の外側か内側かは全くの偶然、というわけだ。この塀の外と内が織りなすドラマを映画にしたのが「愛について、ある土曜日の面会室」(
名声や富でなく~映画「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」 リー・ミラー。「ヴォーグ」のモデルとして出発、シュールレアリズム写真家マン・レイの弟子兼愛人を経て写真家。商業、芸術から従軍報道写真に分野を広げた。第二次大戦末期の写真は歴…
破滅型写真家の「ミューズ」~映画「レイブンズ」 写真家・深瀬昌久の半生を映画化した。冒頭で「現実にヒントを得た物語」とコメントが入るとおり、大胆に深瀬の生きざまを再編集している。その象徴的キャラクターが「ヨミチャン」と呼ばれる大き…
語り合う人生の真実~映画「ドライブ・イン・マンハッタン」 真夜中のJ・F・ケネディ空港。一人の女性がタクシーに乗り込んだ。目的地はマンハッタン44丁目。はじめはぎこちなかった運転手との会話が、やがて熱を帯びる―。 ほぼワンシチュエーショ…
心境小説の名手~濫読日記「文品 藤沢周平への旅」(後藤正治著) 藤沢周平の時代小説は何冊か読んだが、いずれも文庫本である。全集の刊行は知っており、そのうち…と思い書店で問い合わせると、廃刊寸前だという。諦めずトラ…
意味深なラスト、どう読む?~映画「アノーラ」 久しぶりに面白い映画を観た。「プリティウーマン」を思わせる前半からリアルな現実が引き起こすドタバタ劇、そして突然の意味深なラスト―。 アニー(マイキー・マディソン)はNYで性的サービス…
恐怖の記憶と向き合った建築家~映画「ブルータリスト」 ナチによるホロコーストから逃れ米国に移住した建築家が、恐怖の記憶と向き合い、自らの思想を体現した建築物を遺した、という話。フィクションだが、計200分と長い。そのため、インターミッションが…
再び動乱の地に向かった作戦の鬼~濫読日記「辻政信の真実 失跡60年―伝説の作戦参謀の謎を追う」(前田啓介著) 日本の近代史の中で、気になる人物が何人かいる。辻政信もその一人だ。副題の通り、日本軍の作戦参謀として知られた…
飼育された自我の行方は~映画「籠の中の乙女」 「憐れみの3章」や「哀れなるものたち」が公開され、いまや鬼才といっていいヨルゴス・ランティモス監督の初期の作品。期待にたがわず奇妙で怖くて戦慄の走る作品だった。 プール付きの豪邸に住む家族が主人公。全権を握る父親は、なぜか徹底的に…