**************** 「ふぅん……そうなんだ?」 伊吹が首を傾げて何か言った。「今でも好きなんだ」 自分の声もうまく聞こえない。「今でも伊吹さんは大石のことが好きなんだ」 悲しくて辛くて、
ツンデレ姫と美貌の付き人などの恋愛ファンタジー毎日連載。『アルファポリス』『小説家になろう』参加。
男勝り姫君ユーノと美貌の付き人アシャのハーレクインロマンス的なファンジー小説『ラズーン』毎日連載。『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』は出戻り姫シャルンと腹黒王レダンのラブコメディ、時々連載。
**************** 「…しかし、恐い女だな」 ジーフォ公邸の庭を忍び歩く小さな人影は、安全な場所に来るとしみじみした口調で呟いた。「ああ言うのが一番嫌だな。女であれば、男は誰でも跪くと
**************** 『泥土』での争いから離れ、ここ、アギャン公の屋敷はひっそりと静まり返っていた。 アギャン公の後継ぎとしてカルキュイが即位したのだから、もう少し活気があって良さそ
**************** 「ひ…」「答えろ、何者だ」 ぱふっ、と気の抜けた音を立てて、毛玉はアシャを射損ねて脇を過ぎ、泥土の上に落ちた。瞬間に細い撚り糸が解け、毛皮の包みが口を開く。黄色の鮮
**************** 気づかせるな、とラフィンニは忠告した。 ユーノは『誰か』を愛している。アシャが自分の想いを押し付けることは、ユーノを苦しませ傷つけこそすれ、決してユーノを救い得
**************** (ユーノ) 『泥土』の灰色の大地の上、仮の寝床を作って横になり、アシャはじっと満天の星の住処を眺めている。 幸いなことに、泥獣(ガルシオン)は昼間のみ獲物を狩る。
**************** ちりん。 風鈴が鳴って、美並は顔を上げる。 さっきまで見えなかったのに、風鈴の背後には晴れ渡った青空があった。 風が吹き抜ける。『よく晴れたね』 背後からやって
お試し版『DRAGON NET』1.『利き腕を傷つけるなかれ』(1)
**************** 夜の闇は『塔京』では深く重い。『斎京』とは違った生々しい人の気配の濃厚さを、ログ・オウライカは楽しんでそぞろ歩く。「そろそろ戻られませんか」「そうだな」「……かな
**************** あ、あ…っ。 甘く切ない喘ぎが聞こえて美並はぎょっとする。 目の前に浮かび上がる光景は、細い体を組み敷いて、背後から貫いている赤来の姿だ。 腰を上げ、足を開き、
**************** 有沢の通夜を終えて、真崎のマンションに戻って来たのは覚えている。鍋焼きうどんを買って、先に行っていいよと言われてシャワーを浴びて部屋着に着替え、真崎がシャワーに
**************** 世界が揺れている。数時間前の幸福で満ち足りた感覚が、薄汚いどす黒い何ものかに踏み荒らされていく気がした。 京介は初めて恵子という女性を理解した気がした。 恵子に
**************** 「朝早くからどこに行ってたの」 恵子は体を抱くようにして眉を潜めた。「寒いわ」「何の用?」「部屋を訪ねたのに居ないから」 恵子は髪の毛を掻き上げながら呟く。「部屋
**************** ずいぶんと深く長く眠ったと思ったのに、目が覚めたのは早朝だった。 薄く目を開け、習慣で枕元の時計を確認し、5:28の文字を眺めた京介は、小さく息を吐いて、もう一度伊
**************** 「ん…」 伊吹が甘く鼻を鳴らして、毛布の中へ潜り込む。 京介はパソコンを閉じた。 それぞれにメールを返信し、特に元子には感謝と月曜日まで休む旨を伝える。 思い立って
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**************** 「ふぅん……そうなんだ?」 伊吹が首を傾げて何か言った。「今でも好きなんだ」 自分の声もうまく聞こえない。「今でも伊吹さんは大石のことが好きなんだ」 悲しくて辛くて、
**************** どこまで頑張っても無駄なんだ。 京介はぼんやりと思った。 気持ちを話して、過去を打ち明けて、自分を晒してみたけれど、結局こうやって拒まれるんだ。 きっと大輔と同じよ
**************** 「あの、今なんて?」 まさか、でも、本当に? まさか、でも、ならどうして一体? すぐにそれにすがって喜ぼうとしている気持ちと、だって大石圭吾を知っているじゃないか
**************** 「すみません」 開口一番、伊吹は頭を下げた。「なんで謝るの」「いや、何かとんでもないミスしたのかなと」 本当に? 京介の胸の中で不安がどろどろと渦を巻く。 本当は
**************** 大石と別れていささか落ち込みながら部屋に戻った京介は、データ入力に勤しんでるはずの伊吹が、何度もぼうっと手を止めるのに気付いた。 さりげなく近寄って、見つけた名前
**************** 「……ということだと考えています」 大石は細田と京介を前に澱みなく説明を終えた。「もし、データが曖昧なら改めて説明させて頂きますが」 細田がちら、ちら、と神経質な視線
**************** 伊吹と実家に戻ったのが週末。「真崎君はいるかっ」「はぁい」 週明け一番に響き渡った聞き覚えのある声に、京介はやれやれと顔を上げる。「あれ、細田課長、おはようございま
**************** 「圭吾!」 走りながら、上がりそうな息で必死に叫ぶ。周囲を見回して、胸の底でずっと忘れなかった後ろ姿を探す。「圭吾!」 美並の声が響くのに、会社のホールを通る人々が
**************** 「ふぅん」 真崎が目を細めて振り向く。「そうなんだ?」「あの、ずっと前のことです、それに」「今でも好きなんだ」「はい…?」 もう一度繰り返されて、ようやく一連の会話
**************** 「あの、今なんて?」「……聞こえなかったならいいよ」 真崎はむつっとした顔で呟き、また窓の外をじっと見ている。「どうせ、僕とは違うタイプだし」「……はい……??」 またわ
**************** 「何…っ」 いつの間に戻ってきたのか、声に真崎が身を引いた。「す、すみません」「課長、おかしなことしないでくださいよ」 石塚が睨む。「おかしなことなんかしていないよ、
**************** 新年一週間たって、ようやく美並の気持ちが決まった。 大石となら頑張っていけるかもしれない、温かな笑顔を思い出しながら、そう思った。 年末から連絡はずっとなかったけれ
**************** それが、週末、のこと。「手、動いてないわよ」「あ、はい」 石塚に指摘されて、美並は慌てて資料を捲った。 真崎に耳元で囁かれてぼうっとしていたのかと思われるのは恥ずか
**************** 「やあ、おはよう」「……お、はようございます」 翌朝、大あくびをしていたところをまともに大輔に見られて、美並は引きつった。 夕べの衝撃的な真崎の告白がまだ頭に残っている
**************** 旅先で、夜中に入ってきた真崎はまっすぐ美並の枕元にやってきた。「……伊吹さん」 何かをしかけてくるようなら、力の限り抵抗してやる。 布団の中でこぶしを握り締めていた
**************** 夜中にまた夢を見た。 押し倒されて首を押さえられる。息ができなくてもがいたとたん、目が覚めた。「は…っ…はっ」 喘ぎながら汗に塗れて目を開けると、見上げたすぐ目の前
**************** 意外な応えが返って目を見開くと、生真面目な顔で尋ねられた。「イブキは誰の猫なんですか?」 いぶき、は誰のものなんですか。 一瞬そう聞こえて、ことばにならなかった。
**************** 近付いてくる唇を拒めなかった。 伸び上がって吸いついてくるべったり濡れたそれは強い化粧品の匂いがして、押し倒されてのしかかられて、ぼんやり見上げていたら繰り返し吸
**************** 一瞬伊吹が来てくれたのかな、と無邪気に思って苦笑する。「京ちゃん?」 ああ、あんたか。 なるほど、そういや来てくれとか言ってたよね、すっかり忘れてたよ。 一人ごち
**************** 苦しくて、眠れない。 京介は唇をきつく噛み締めて目を閉じる。 布団に必死に潜り込んで、大丈夫だ、大輔はいない、と言い聞かせるのに、身体が納得してくれない。 ずっと
**************** 何を考えているのか。「私が聞きたいところだ」 冷ややかに嗤いながら、リヒャルティを置き去りに、セシ公は自室から持ち出した紫の布包みを手に、パディスへ馬を走らせ