**************** 「ふぅん……そうなんだ?」 伊吹が首を傾げて何か言った。「今でも好きなんだ」 自分の声もうまく聞こえない。「今でも伊吹さんは大石のことが好きなんだ」 悲しくて辛くて、
ツンデレ姫と美貌の付き人などの恋愛ファンタジー毎日連載。『アルファポリス』『小説家になろう』参加。
男勝り姫君ユーノと美貌の付き人アシャのハーレクインロマンス的なファンジー小説『ラズーン』毎日連載。『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』は出戻り姫シャルンと腹黒王レダンのラブコメディ、時々連載。
**************** 結局伊吹は、有沢の葬儀には呼ばれず、通夜だけに参列した。「美並?」 通夜が終わって、とりあえず京介のマンションに2人で戻り、喪服で食事もなんだからと、帰りにコンビ
**************** 「それは違うぞ」「え……?」 有沢の声に濡れてしまった眼鏡を外し、片手で涙を拭うと、「お前は加護を得るんだ」「…は?」「この先何があっても、お前は死ぬことは選べない」
**************** 「…もう少し生き延びてはどうですか」 京介はコーヒーを覗き込んだ。「もう少し、僕と伊吹さんが仲良くするのを眺めていては?」「ふふ」「結婚式にも呼びますよ。僕の親族席
**************** 赤来を桜木通販第2会議室で確保した夜、疲れ切った伊吹は起きなかったが、京介は携帯のバイブレーションに気が付いた。 深夜2時。 番号を見るまでもなく、相手はわかって
**************** ふう、と珍しく疲れたような吐息を漏らして、もう一度祭壇の写真を眺めた。「…もういよいよってあたりまで、結構喋れてたんだ、あの人」「…」「俺はあんたを呼ぼうとした。
**************** 有沢が没した。 最後の瞬間に美並は呼ばれることはなかった。 通夜の日時を連絡して来た檜垣に、葬儀には来るなと念押しされたから、真崎に付き添ってもらって、向田市の
**************** 「…京介?」「…」「何か拗ねてます?」「…」 温かい湯船の中、美並の体を抱えながら、真崎はずっと無言だ。 今日はとにかく帰りなさい。 元子に促されて、2人真崎のマンシ
**************** 「美並…っ!」 檜垣に続いて部屋に飛び込み、座り込んでいる伊吹に駆け寄る。その首についた赤い痣に一気に血の気が引いた。息が止まる、視界が眩む、冗談じゃない、本当に危
**************** 「行かせて……美並」 歯を食いしばる。「今すぐ、側に」 動けない。 赤来も優位を確信したのだろう、困惑を消して椅子に坐り直す。微笑みが浮かぶ、京介の皮膚を粟立たせる
お礼が遅くなってしまいました。 皆様のおかげで、無事1810000ヒットとなりました。 『闇を闇から』もそろそろ第5章終わりとなります。 もう少しです、よろしくおつきあいくださいませ。
**************** 『ボイスレコーダー……無駄だよ……だって、僕に奪われるからね』 富崎の声に重なったことばにぞっとして、京介は画面を振り向く。 思い出したのは『ハイウィンド・リール』だ
**************** 「……大丈夫、伊吹さん」 京介は、ドアの向こうに檜垣と共に消え去っていく赤来を見つめていた伊吹に声をかける。「…大丈夫です」 答えは返ってきたものの、そのままふわりと
**************** 「っっ?!」 さすがに赤来が跳ね飛ぶように美並から離れた。いきなり解放された体に入ってきた空気に噎せて咳き込む美並の耳に、もう一度。『繰り返します、第2会議室におられ
**************** ゆっくり目を開いて世界を見た。 大丈夫だ。 『羽鳥』も『赤来』も十分元気だ、まだまだ平気で逃げ出そうとしている。もっとぎりぎりのところまで切り刻んでも大人しくす
**************** 「間違いだ」 ためらいは瞬時、すぐに切り返してくる。「難波孝さんは大輔さんの知り合いです。赤来課長は大輔さんと親しいのですか」「君は何か勘違いをしている」「緑川課
**************** 「なぜあなたはそれを調べたのですか」 美並の問いに赤来は薄く笑った。唇の片端を上げる皮肉な笑み、桜木通販の経理課長としては見せなかった冷ややかな微笑だった。「…わか
**************** 「……ああ、大丈夫そうだね」 赤城は美並に先んじて第2会議室に入り、窓を開け、明かりをつけた。椅子を引き、自分から座る。後から来る美並を待ち構える格好で、もし美並が不
**************** 月曜日はいつもの会議、真崎が席を外し、石塚が電話対応に追われている間、メールボックスの中身を確認に出かけた美並は、廊下の向こうから話しながらやってくる赤来に気づ
**************** 「……僕達の物語みたいだ」 美並を抱きかかえながら、真崎が呟く。「神様のちょい見せ…ですね」「え?」「昔、通りすがりに聞いたことばです」 美並は髪にキスしてくる真崎の
**************** 美並は土曜日曜を真崎と過ごした。 何をしていたわけでもない。甘い夜を過ごし、ゆっくりめに起きて休日の朝、さすがにいろいろと目立ってしまったから、サングラスを掛け
**************** 有沢を病院へ送り届けると、帰院時間を超えていたのだろう、少し窘められた。 病室へ運ばれ、血圧や脈拍を測られるマスクを外した有沢の顔は薄赤くなっていて、険しい顔の
**************** 「伊吹さん?」「あ、はい」「終わりました、行きましょうか」 有沢が振り仰ぎ微笑む。以前には見なかった気配の儚さにどきりとする。日差しのせいなのか、いまにも薄れて消
**************** 最終電車に飛び乗って、真崎のマンションへ向かいながら、携帯の充電が切れているのに気づいた。自分の余裕のなさに呆れたが、辿り着いたマンションで出迎えてくれた真崎は
**************** 昨夜、真崎は合気道を習いに行って不在だと知っていても、仕事が終わって会社を出た時に真崎のマンションへ向かっている自分に気づいた。慌てて引き返し、自分の部屋に戻っ
**************** 冬の風が穏やかに吹いていた。「あそこですか?」「そうです」 頷く有沢は車椅子に座った体をゆっくり振り返らせる。「重いでしょう?」「大丈夫ですよ」 美並は微笑む。
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**************** 「ふぅん……そうなんだ?」 伊吹が首を傾げて何か言った。「今でも好きなんだ」 自分の声もうまく聞こえない。「今でも伊吹さんは大石のことが好きなんだ」 悲しくて辛くて、
**************** どこまで頑張っても無駄なんだ。 京介はぼんやりと思った。 気持ちを話して、過去を打ち明けて、自分を晒してみたけれど、結局こうやって拒まれるんだ。 きっと大輔と同じよ
**************** 「あの、今なんて?」 まさか、でも、本当に? まさか、でも、ならどうして一体? すぐにそれにすがって喜ぼうとしている気持ちと、だって大石圭吾を知っているじゃないか
**************** 「すみません」 開口一番、伊吹は頭を下げた。「なんで謝るの」「いや、何かとんでもないミスしたのかなと」 本当に? 京介の胸の中で不安がどろどろと渦を巻く。 本当は
**************** 大石と別れていささか落ち込みながら部屋に戻った京介は、データ入力に勤しんでるはずの伊吹が、何度もぼうっと手を止めるのに気付いた。 さりげなく近寄って、見つけた名前
**************** 「……ということだと考えています」 大石は細田と京介を前に澱みなく説明を終えた。「もし、データが曖昧なら改めて説明させて頂きますが」 細田がちら、ちら、と神経質な視線
**************** 伊吹と実家に戻ったのが週末。「真崎君はいるかっ」「はぁい」 週明け一番に響き渡った聞き覚えのある声に、京介はやれやれと顔を上げる。「あれ、細田課長、おはようございま
**************** 「圭吾!」 走りながら、上がりそうな息で必死に叫ぶ。周囲を見回して、胸の底でずっと忘れなかった後ろ姿を探す。「圭吾!」 美並の声が響くのに、会社のホールを通る人々が
**************** 「ふぅん」 真崎が目を細めて振り向く。「そうなんだ?」「あの、ずっと前のことです、それに」「今でも好きなんだ」「はい…?」 もう一度繰り返されて、ようやく一連の会話
**************** 「あの、今なんて?」「……聞こえなかったならいいよ」 真崎はむつっとした顔で呟き、また窓の外をじっと見ている。「どうせ、僕とは違うタイプだし」「……はい……??」 またわ
**************** 「何…っ」 いつの間に戻ってきたのか、声に真崎が身を引いた。「す、すみません」「課長、おかしなことしないでくださいよ」 石塚が睨む。「おかしなことなんかしていないよ、
**************** 新年一週間たって、ようやく美並の気持ちが決まった。 大石となら頑張っていけるかもしれない、温かな笑顔を思い出しながら、そう思った。 年末から連絡はずっとなかったけれ
**************** それが、週末、のこと。「手、動いてないわよ」「あ、はい」 石塚に指摘されて、美並は慌てて資料を捲った。 真崎に耳元で囁かれてぼうっとしていたのかと思われるのは恥ずか
**************** 「やあ、おはよう」「……お、はようございます」 翌朝、大あくびをしていたところをまともに大輔に見られて、美並は引きつった。 夕べの衝撃的な真崎の告白がまだ頭に残っている
**************** 旅先で、夜中に入ってきた真崎はまっすぐ美並の枕元にやってきた。「……伊吹さん」 何かをしかけてくるようなら、力の限り抵抗してやる。 布団の中でこぶしを握り締めていた
**************** 夜中にまた夢を見た。 押し倒されて首を押さえられる。息ができなくてもがいたとたん、目が覚めた。「は…っ…はっ」 喘ぎながら汗に塗れて目を開けると、見上げたすぐ目の前
**************** 意外な応えが返って目を見開くと、生真面目な顔で尋ねられた。「イブキは誰の猫なんですか?」 いぶき、は誰のものなんですか。 一瞬そう聞こえて、ことばにならなかった。
**************** 近付いてくる唇を拒めなかった。 伸び上がって吸いついてくるべったり濡れたそれは強い化粧品の匂いがして、押し倒されてのしかかられて、ぼんやり見上げていたら繰り返し吸
**************** 一瞬伊吹が来てくれたのかな、と無邪気に思って苦笑する。「京ちゃん?」 ああ、あんたか。 なるほど、そういや来てくれとか言ってたよね、すっかり忘れてたよ。 一人ごち
**************** 苦しくて、眠れない。 京介は唇をきつく噛み締めて目を閉じる。 布団に必死に潜り込んで、大丈夫だ、大輔はいない、と言い聞かせるのに、身体が納得してくれない。 ずっと
**************** 何を考えているのか。「私が聞きたいところだ」 冷ややかに嗤いながら、リヒャルティを置き去りに、セシ公は自室から持ち出した紫の布包みを手に、パディスへ馬を走らせ